「ハイウェイ・ヒート」 byガース 『ガースのお部屋』

登場人物紹介
山口 友一(21)・・・大学生。
桜井 陽子(21)・・・大学生。友一の友人。
朝永 裕太(28)・・・?
内海 スズ(20)・・・裕太の恋人。
川元 和男(29)・・・?
成田 守 (26)・・・和男の弟。
菊地 洋一(47)・・・?
江口 レイ(18)・・・女子高生。
滝田 篤 (18)・・・高校生。
佐々木孝之(46)・・・警部補。 

 

○ 高速・トンネル出口(朝)
   緩やかなカーブを軽快に走行している赤いレビン

○ 様々な標識・電光掲示板に映る渋滞情報のインサート。

○ 竜賀サービスエリア・駐車場
   トラック、トレーラー、観光バスなどが次々と進入してきて、駐車エリアに止まっている。
   入口の勾配をゆっくりと走行し駐車エリアにやってくるレビン。
   駐車エリアに停車する。
   シフトレバーをニュートラルに入れる音と、サイドブレーキを引く音が聞こえる。
   運転席のドアから山口 友一(21)が降りてくる。細身で茶髪をしている。
   右前輪のタイヤの前にしゃがみこむ友一。タイヤがパンクしている。
   助手席のドアから桜井 陽子(21)が出てくる。ロングヘアー、面長な顔つき。
   友一の隣でしゃがみこむ。
陽子「どう?」
友一「やっぱ、パンクだ」
陽子「スペア積んでるんでしょ?」
友一「でも、これ以上走れないな。高速降りて、カーショップ探すか・・・」
   陽子、辺りを見回し、ある方角を指差す。
陽子「あそこにスタンドあるじゃない」
   友一、陽子の指差した方角を見つめ、
友一「ラッキー」
陽子「じゃあ、私そこのショップで待ってる」
   陽子、ショップに向かって歩いていく。
   友一、車に乗り込み、エンジンをかける。

○ サービスショップ店内
   インターネットカフェ、カラオケ、ビリヤード場などがあり、人々が賑わっている。

○ クレジットタイトル。サービスショップの建物を背景に『HIGHWAY HEAT』の
  オレンジ色の炎の文字が静かに画面に浮かぶ。

○ 展望台(カメラのファインダー画面)
   鉄柵に腕を置き、漫然と景色を眺めているカップル達。
   景色を背景に写真を撮る家族。
   しばらくしてそこに陽子がやってくる。新鮮な空気をおもいきり吸い込み、
   すがすがしい表情を浮かべる陽子。
   ポケットカメラのシャッター音が聞こえる。
   陽子、音のほうに顔を向ける。
   目の前に友一が立っている。
陽子「またそんなの持ってきてたの?」
友一「まぁね」
陽子「どこでもすぐ撮りたがるんだから」
   友一、景色にカメラを向け、シャッターを押す。
陽子「車は?」
友一「今スタンドの人に見てもらってる」
陽子「出る前にちゃんと整備しといてよ」
友一「昨日、山で派手にスピンしたから、痛んでたんだな、きっと・・・」
陽子「・・・たまぁに遠くまでドライブするのもいいね」
友一「中で蕎麦でも食うか?」
陽子「えっ?街降りて、レストランでご馳走してくれるんじゃないの?」
友一「財政事情厳しいんだよ」
陽子「車の部品ばっかり買ってるからよ」
   友一、突然、寡黙になる。
陽子「あっ、ごめん、言い過ぎた?」
友一「いや・・・」
陽子「疲れたの?」
友一「明後日か・・・」
陽子「何が?」
友一「アメリカ行っちゃうんだな・・・」
陽子「そうだ、乾電池買っとかなきゃ。向こうじゃ高いらしいんだよね」
友一「向こうで永住するつもりかよ?」
陽子「そんなこと考えてないよ。自分の将来のために役立てたいだけ・・・」
友一「偉いな、おまえは・・・」
陽子「それより、あんた最近大学出てないでしょ?」
友一「・・・」
陽子「ちゃんとでないと単位落としちゃうよ」
友一「こんなところで学校の話しはいいじゃん、もう・・・」

○ 女子トイレ前
   一台のパトカーが友一の前をゆっくりと横切っていく。
   同じくして一台のBMWが友一の前の駐車エリアに止まる。
   運転席からフォーマルなスーツを身に付け、オールバックにサングラスをかけた
   男・菊池洋一(47)が表われる。助手席の扉から制服を来た少女・江口ケイ(18)が出て、
   はしゃぎながら菊池に近寄り、腕を組む。
   二人、ショップに向かって進んでいく。
   友一、足元でぐるぐると動き回っているペルシャ猫に気づき、両手で抱き上げる。
友一「こんなところで捨てられるなんてついてねぇな(首輪を見つめ)」
   どこからともなく、男の低い声。
男「ペリー!」
   振り返る友一。
   猫、友一から飛び出していき、男の方に駆けていく。
   男、茶髪にランニングシャツ姿で右手に洗面器を持っている。
   友一の前を立ち去っていく男。振り返り男を呼び止める友一。
友一「あの・・・」
   踵を返す男。
友一「・・・なんで洗面器なんか持ってるんですか?」
男「・・・(ショップを指差し)この中温泉あるんや。ここ、高速公団と民間企業の共同出資で
 新しく建てられた複合施設場の実験モデルやからな」
友一「・・・」
男「あんたも入ってきいや。ちょっとした行楽気分が味わえるわ。気持ちええで!」
   二人の前をパトカーが通り過ぎている。
   砂利を積んだダンプの扉を開け、猫をシートに乗せる男。友一を見つめ、
男「最近この辺も物騒やからな・・・」
友一「なんかあったんですか?」
男「隣町の郵便局が若いカップルの強盗が入ったらしいわ」
友一「強盗・・・」
男「あんた大阪から来てるんか?」
友一「なんでわかるんです?」
男「さっきあんたの車のナンバー見たんや」
   男、車に乗り込むと手を振り、
男「ほんじゃあな!」
友一「(一礼しながら呟き)あの人もこてこての大阪人やん・・・」
   爆音を上げ友一のそばを離れていくダンプ。
   女子トイレから陽子が出てくる。
   陽子、友一の背中をポンと押す。
   友一、振り返り、
陽子「どうかした?」
友一「いや・・・」
陽子「行こう」
   二人、ショップに向かって歩き出す。

○ 高速・トンネル出口
   緩やかなカーブを車が流れている。
   追い越し車線を猛スピードで走る黒いトランザム。

○ 竜賀サービスエリア・駐車場
   トランザムがある駐車エリアに止まる。

○ トランザム車内
   ヘヴィなロックのリズムが巨大なスピーカーから流れている。
   助手席に座る女・内海スズ(20)。グレーのシャツにジーパンを身に付けている。
   運転席には、ニット帽に黄色いサングラスをした恰幅のいい男・朝永裕太(28)。
   シートを倒し、煙草を吸っている。
スズ「今日はここで時間潰すの?」
裕太「そうだな。車も替えたし、しばらくは、大丈夫だろ」
スズ「何か買ってきてあげようか?」
裕太「俺はいい・・・」
スズ「甘いもの食べたくなってきたな・・・」
   スズ、後ろの席かアタッシュケースを取り出し、開けようとする。
   裕太、スズからアタッシュケースを奪い取り、
裕太「触るな!」
スズ「・・・いいじゃん。ユウだけの物じゃないんだから」
   裕太からアタッシュケースを奪い取るスズ。
   ケースを開けるスズ。中には、ぎっしり詰まった百万円札の束が見える。
   スズ、札束を一つ取り、ポシェットに入れる。
裕太「なんでそんなに持っていく?」
   裕太、かったるそうに首を横に振り、スズを睨み付けている。
裕太「裏切ったら、(ジャケットの中からホルダーにささった短銃が見える)ただじゃ
 済まないからな」
スズ「わかってるって・・・」

○ 駐車場
   トランザムからスズが降り、ショップのほうに向かって歩き始める。
   スズの目の前を高速バスが横切っていく。
   停留所で立ち止まるバス。前の扉が開き、中から乗客が降り始める。
   その中に黒い野球帽と銀縁の眼鏡をかけたなで肩の少年・滝田 篤志(18)が降りてくる。
   篤志、辺りをジロジロと見回しながらショップの前を歩いていく。

○ トランザム車内
   シートを倒し眠っている裕太。
   暫くして、車が大きく揺れる。
   裕太、咄嗟に起き上がり、後ろを見つめる。
   トランザムの後ろのバンパーにセダンが突っ込んでいる。
   裕太、眉間に皺を寄せ、トランザムから降りる。

○ 高速
   黒い雲が広がる空。今にも雨が降りだしそう。
   走行する車両をジグザグに避けながら猛スピードで疾走するシルバーのスカイライン。
   その後をサイレンを鳴らした一台のパトカーが追っている。

○ スカイライン車内
   運転席に座る川元 和男(29)。細身で黒い皮ジャンを身に付けている。
   しきりにバックミラーを見つめている。
   苛立ち、ハンドルを何度も叩き付けている和男。
和男「うっとしいマッポだぜ、クソ!」
   バックシートに座る成田守(26)。MDウォークマンのイヤホンをつけ頭を振りながら
   リズムをとっている。

○ サービスショップ・インターネットカフェ
   テーブルに座り、ジュースを飲みながら談笑している友一と陽子。
   暫くして二人のそばをアイスクリームを持ったスズが通り過ぎる。
   スズ、しきりに二人の様子を窺っている。
友一「そろそろ車取ってくる」
陽子「わかった」
   友一、立ち上がり、スズのほうに向いて歩き出す。
   スズ、友一の顔をジロジロと見つめている。
   友一、スズの視線に気づき、顔を逸らすと、スズのそばを横切っていく。
   スズ、振り返り、友一の背中を見つめている。

○ サービス・エリア駐車場
   駐車エリアに止まるレビン。

○ レビン車内
   ラジオから天気予報が流れている。
気象予報士の声「・・・お昼からは梅雨前線の影響で1時間に50から60mmの
 雨が降る模様です。降水確率80%・・・」
   友一、ダッシュボードを開く。その瞬間、中からアルバムシートが落ちる。
   友一、アルバムを取り、中を開けてみる。
   中学時代に遊園地や自宅で撮った陽子とのツーショット写真が並んでいる。
   友一、ジャケットのポケットからケースを取り出す。中を開け、指輪を取り出す。
   空ろ気に眺めている。
   暫くして、ダッシュボードにそれらをしまうと、運転席のドアを開け、
   車から降りようとする。その時、突然助手席のドアが開き、何者かが乗り込んでくる。
   友一、助手席を見つめ、唖然とする。
友一「君・・・誰?」
スズ「助けて」
友一「えっ?」
   スズ、奥のほうに止まるトランザムを指差す。
   友一、スズの指差した方向を見つめる。
   トランザムの前で裕太と男がもめているのが見える。
スズ「あの男に無理矢理車に連れ込まれて・・・」
   友一、スズの指差すほうを見つめる。
友一「警察呼ぼうか?」
スズ「早くここから逃げたいの」
友一「でも・・・」
   友一、漫然とフロントガラス越しの景色を見ている。
   ショップ入口から陽子が表れ、こちらのほうに向かって来る。
   スズ、いきなり友一を抱き締める。
   友一、慌ててスズの体を押し離そうとする。スズ、しっかりしがみついて離れようとしない。
   車に近づいてくる陽子。運転席を覗き込んでいる。
友一「ちょっと、離せよ」
   更に車に近づく陽子。
   車の中の様子に気づき、立ち止まる。
   友一、陽子と目を合わす。
   眉間に皺を止せ、憮然とした表情を浮かべている陽子。
   陽子、踵を返し、ショップの方に戻っていく。
   友一、困惑する。
   スズ、してやったりと言う表情。

○ スカイライン車内
   ミラーに映るパトカー。サイレンを唸らし、後ろにぴったりと張り付いて走行している。
   車の時計を見つめる和男。デジタル時計が10時16分を表示している。
   ノートパソコンのキーボードを打ち込んでる守。
   ディスプレイにシューティングゲームの画面が映っている。
   守、イヤホンから流れるリズムに合わせて首を振っている。

○ レビン車内
   友一、スズを引き離し、外に出ていこうとする。スズ、透かさず友一の腕を
   掴み・・・。
スズ「一人にしないで!」
友一「とにかくこの手を離して」
スズ「殺される・・・」
友一「えっ?」
スズ「あの男、拳銃持ってるの。見つかったら絶対殺される・・・」
   困惑する友一。
   リアガラス越しの景色を見つめるスズ。
   こちらに向かって、裕太が歩いて来るのが見える。
   すかさずシートに身を伏せるスズ。
スズ「ほら、来た・・・」
   
○ 駐車場
   漫然と当たりを見回している裕太。
   裕太、にやりと笑みを浮かべると、歩き始め、レビンのほうに突き進んでいく。
  
○ レビン車内
   運転席の窓越しに裕太の姿が見える。
   裕太、窓を拳でやや強めに叩く。振り向く友一。
スズ「開けちゃ駄目!」
   友一、一瞬怯むが、済ました表情を装う。
   スズ、顔を背ける。
   つぼらな瞳で友一を睨み付ける裕太。
   友一。恐る恐る窓を開ける。
裕太「・・・スズ」
   スズ、裕太のほうを向き、
スズ「どうして、ここにいることわかったの?」
裕太「お前、黒よりも赤い車のほうが好きだって言ってたよな、前に・・・」
友一「あの・・・彼女はあんたに誘拐されたって言ってるけど・・・」
裕太「(威圧的に)はぁ?」
友一「・・・」
裕太「何訳のわからんこと言ってんだよ!」
   友一、裕太のジャケットの内側を見つめる。中からホルダーが見え、
   銃が収まっている。
   吃驚する友一。暫くして、アクセルをおもいきり踏み込む。
   
○ 駐車場
   タイヤをうならせながら走り始めるレビン。
   裕太、レビンを追いかけるが、暫くして立ち止まる。慌てて自分の車に戻ろうと後ろを
   振り返ると、また立ち止まりあるほうを見つめる。
   陽子が裕太を見つめている。陽子、咄嗟にショップの方に向かって走り去っていく。
   陽子の姿を見つめ、ほくそ笑む裕太。

○ サービスエリア・出口
   スロープをスピード上げ降りていき、高速道に進入するレビン。

○ レビン車内
友一「・・・殺されるかと思った・・・」
スズ「逃げてくれてありがとう」
友一「参ったな・・・」
   友一、焦った様子でアクセルを踏み込む。

○ サービスショップ・インターネットカフェ
   テーブルに陽子が腰掛けている。
   陽子、落ち着かない様子で外の景色を見つめ、そわそわしている。
   暫くして、陽子の目の前の席に男が腰掛ける。陽子、男の顔を見、驚愕する。
   男は裕太である。
   陽子、周囲を見回す。空席のテーブルがいくつも見える・・・。
陽子「あの・・・他空いてますけど・・・」
裕太「・・・」
   陽子、咄嗟に立ち上がろうとする、
裕太「待てよ。話がある」
陽子「話って?・・・」
裕太「いいから座れよ」
   陽子、不安気な表情を浮かべ、ゆっくりと腰掛ける。  
裕太「さっき走って行った赤いレビンに用があるんだ」
   陽子、怪訝に裕太を見つめている。

○ 同・ビリヤード場
   手玉がキューに突かれる。激しくクッションに跳ね返る。ポケット前にあったボールを
   次々と落としていく。
   キューを構える男は菊池である。
   ナインボールを睨み付ける菊池。ボールを突く。
   ナインボールがポケットに落ちる。
   ガッツポーズ。
   ケイと両手を突き合わせる菊池。
ケイ「先生、上手!」
菊池「これでも若い時は、日本のポール・ニューマンって呼ばれてたんだ」
ケイ「ポール・ニューマンって誰?」
   菊池、ケイのお尻を鷲掴みする。
ケイ「セクハラ!」
   ケイ、菊池から逃げるように離れていくと壁にかけてある案内板の前に立つ。
ケイ「この隣にお風呂あるんだ」
菊池「・・・一緒に入るか?」
   菊池、やらしい目つきでケイを見つめている。

○ 同・インターネットカフェ
裕太「喧嘩したんだ」
陽子「・・・」
裕太「あいつとは、どうもそりが合わなくてさ。いつも心配してやってるのに」
陽子「じゃあ、友一は、彼女に騙されて連れ出されたってこと?」
裕太「簡単に言やぁな」
陽子「彼女、携帯とか持ってないの?」
裕太「残念ながら・・・」
陽子「困ったな。あいつの携帯もつながらないし・・・」
裕太「彼氏携帯持ってないの?」
陽子「先月から止められてるの・・・」
   裕太、目の前にある看板を見つめ、
裕太「・・・なっ、向こうにカラオケボックスがあるけど、歌いに行かない?」
陽子「えっ?」
裕太「どうせそのうち戻ってくる。向こうも二人でいるんだ。俺達が一緒にいたって
 文句は言えないし」
陽子「でも、私・・・」
裕太「いいから」
   裕太、陽子の手を掴むと、強引に引き連れていく。

○ 高速・出口のスロープ
   坂を駆け降りているレビン。
   料金所で立ち止まり、係員にチケットを手渡す友一。財布を取り出し、探っている。
友一「ごめん、細かいの、ある?」
   スズ、ポケットから無造作に札束を出し、膝の上に置く。
   友一、札束を見て、仰天する。
   スズ、中からコインを取り出し、友一に手渡す。
   唖然とする友一の表情を見つめるスズ。
スズ「どうかした?」
友一「(呆然と)全然・・・」

○ サービス・ショップ・温泉
   清楚な岩風呂作り。周りは、一面ガラス張りで、ガラス越しには青々と広がる山々と
   湖面が見渡せる。
   中年や老人が満遍なく湯に漬かっている。
   菊池、天井を見つめ、両手で顔を拭う。

○ インターネットカフェ
   壁際のテーブルの椅子に座り、コーラを飲んでいるレイ。
   足を組みながら携帯をいじっている。
   その数メートル手前の柱の影に佇む篤志。
   篤志、憮然とした表情でレイをジロジロと見つめている。

○ サービスエリア・入口
   スカイラインがスロープを駆け登り、駐車場に進入してくる。車は、サービスショップの
   真ん前で立ち止まる。

○ 同・カラオケボックス
   シートに座り、マイクを握る裕太。言葉が羅列する激しいロックをハスキーな声で
   シャウトしながら歌っている。
   陽子、裕太の勇ましい声に圧倒されている。
   曲が鳴り止み、マイクを陽子に手渡すとクッションに座り込む裕太。
陽子「歌、すごくうまいね・・・」
   裕太、漫然とニット帽を脱ぐ。スキンヘッドを露にする。
   陽子、少し驚く。
裕太「学生の時、バンドのボーカルやってた」
   裕太、おもむろに腕時計を覗き、
陽子「プロテスト受けてみたら?」
裕太「何度か受けたけど、駄目だった」
陽子「ごめん、余計なこと聞いて・・・」
裕太「・・・そんなことより早く歌えよ」
   陽子、マイクを持ったまま呆然と・・・
陽子「私下手糞だから・・・」
裕太「いいから」
陽子「曲もあんまりわからないし・・・」
裕太「彼氏とカラオケとか行かないの?」
陽子「(頷き)あいつも私も歌あまり得意じゃないから・・・」
裕太「・・・」
陽子「ねぇ、彼女とは、いつ知り合ったの?」
裕太「・・・」
陽子「あっ、ごめんなさい。私、余計なこと聞いちゃう癖があって・・・」
裕太「スーパーのレジで出会った」
陽子「・・・もしかして、一目惚れ?」
裕太「いや、気づいたら自然につきあってた」
陽子「・・・」
裕太「あんたは?」
陽子「私達は、腐れ縁。小中と同じ学校出て、高校は違ったけど、大学でまた同じになって・・・」
裕太「彼氏じゃないんだ・・・」
陽子「そう」
裕太「でも好きなんだろ?」
陽子「そうでもないよ。なんて言うか、向上心がないんだよね、あいつには・・・」
裕太「じゃあ、どんな男がタイプなの?」
陽子「そうね、どっちかって言うと・・・」
   陽子、裕太のほうを見つめ・・・。

○ 同・インターネットカフェ
   大きなスポーツバックを抱えた和男と守が駆け込んでくる。
   窓越しに一台のパトカーが止まる。
   中から二人の警官が降り、こちらのほうに向かって走ってくる。
   和男、スポーツバックからマシンガンを取り出し、マガジンを装填すると
   いきなり辺りを撃ち始める。
   入口から入ってきた警官達の全身に風穴が開く。
   呻き声を上げながら前のめりに倒れる警官達。
   周囲で一斉に悲鳴が上がる。
   
○ 同・管理事務所
   職員達が横一列に並び腕を高く上げている。
   守が職員達にマシンガンを向けている。

○ パソコンのディスプレイ画面
   画面上に点滅する「POWER OFF」の文字にポインタが合い、ボタンがクリックされる。

○ ショップの周りシャッターが一斉に下り始める。

○ インターネットカフェ、ビリヤード場、事務所の天井の照明が消える。

○ カラオケボックス
   部屋の電気類が一斉に消える。
陽子「何・・・どうしたの?・・・」
   陽子を横切り、部屋の扉を開け外に出ていく裕太。
   陽子も後を追う。
   
○ ビリヤード場
   銃声が鳴り響き、天井に激しく火花が上がる。
   悲鳴を上げ、騒然とする客達。
   照明が点灯。
   地面にしゃがみこみ戦慄する客達。
   子供が無邪気に戯れ、奇声を発して喜んでいる。
和男「その場にしゃがんで静かにしてろ!」
   客達、身震いし、床に埋もれ微動だにしない。
   
○ 同・温泉
   菊池の後ろにゆっくりと近づく男の足下。
   和男が菊池の頭にマシンガンの銃口を向ける。
   菊池、人影に気づき、ゆっくりと振り返る。
   目を見開き、驚愕する菊池。
   和男、引き金を引き、菊池を威嚇。
   菊池、吃驚する。
和男「そのまま外に出ろ!」
   菊池、うんうんと頷き、風呂から上がる。

○ 同・ビリヤード場
   店内スタッフや従業員達がカウンターの前に一列に並び、頭に両手をつけて正座している。
   その前を守がマシンガンを振り向けながら歩いている。

○ サービスショップ前
   客達がシャッターの前で群がり、騒然としている。

○ 農道を走るレビン
   棚田の広がるのどかな田園風景。
   工事中の舗装されてない砂利道を通り抜ける。

○ レビン車内
   激しい振動で助手席のダッシュケースが開く。
   スズ、ケースの中にあったアルバムを何気に手に取り開く。
友一「あっ、それ・・・」
   スズ、ジッとアルバムを見ている。
スズ「これ、あなたの小さい頃の写真?」
友一「・・・」
スズ「隣に写ってる女の子・・・誰?」
友一「関係ないだろ」
スズ「教えてくれたっていいじゃん」
   困惑気味の友一。
   スズ、片手で小さなケースを取り、
スズ「これは?」
   友一、急ブレーキをかけ、車を止める。
   スズ、その反動でダッシュボードに頭を打つ。
   友一、スズからケースを奪い取り、
友一「勝手にさわんなよ!」
スズ「(頭を押さえながら)それ、指輪入ってるんでしょ?」
友一「・・・」
スズ「彼女と結婚するの?」
友一「なぁ、降りてくれないか?もうここまで来たら、あいつも追ってこないだろ?」
スズ「・・・じゃあ、ほんとの事教えてあげる。実は私、強盗なの・・・」
友一「(驚愕し)えっ?」
スズ「昨日、隣町の郵便局襲ったの。さっきの奴と一緒に・・・」
   友一、怪訝にスズを見つめる。

○ サービスエリア・インターネットカフェ
   壁際に横一列になって座らされている客達。その中にケイと隣に真っ裸の菊池がいる。
ケイ「(小声で)先生・・・」
菊池「俺の服どこだ・・・」
ケイ「風邪引くよ・・・」
   客達に銃を振り回している和男。
   和男の目の前に篤志が憮然と座っている。篤志、レイ達の座っているほうを
   しきりに気にしている。
   その場に正座になり、頭に上に両手を乗せた客、従業員達が憂いの表情を浮かべている。

○ 同・管理事務所
   守、パソコンの前に座り、キーボードを早打ちすると、点滅する『WARNING』画面を
   呼び出す。画面が切り替わると、ウィンドウのディスプレイ画面と敷きつめられたボタンの
   オブジェクト画面が現れる。
   ディスプレイウィンドウのマルチ画面にカフェ、ビリヤード場、カラオケ、温泉など、
   様々なアングルの映像が映っている。

○ 同・インターネットカフェ
   和男、パソコンの画面に映る駐車場の様子を見つめている。

○ サービスエリア・駐車場
   サイレン音が鳴り響く。
   入口から数十台のパトカー、覆面車、護送車、救急車などの車両が一列に並んで突進してくる。
   当たりに散らばって立っている客達が呆然とエリアに停車する車両を見つめている。
   サービスショップを囲むように警察車両が立ち止まり、数十人の捜査員と警官達が
   一斉に車から降り、パトカーの前に集結している。
   警察車両の背後に野次馬が集まり、騒然としながら事態を見つめている。

○ サービスショップ・インターネットカフェ
   物々しい緊張感が漂う空気。
   一列に立たされた客達と従業員達にマシンガンを振り向けながら声を上げる和男。
和男「逃げようなんて考えんなよ。表のポリが変なことしたら、一人ずつ殺すからな」
 
○ サービスショップ前
   スーツを着た数人の刑事達。その中心に佐々木孝之警部補(46)が立っている。
   長身でがっしりした体格の強面の紳士。
   ズボンのポケットに両手を突っ込み、偉そうにしている。
佐々木「よりにもよって、こんなところに籠城しやがって、アホが!」
   入口前のシャッターが開き、男の足元が見える。やがて、和男の姿が露になる。
   和男、シャッターが開き切ると同時に、構えていたマシンガンを佐々木達に向け撃ち放つ。
   咄嗟に地面に突っ伏す佐々木達。
   並んで止まっていたパトカーのフロントガラスに次々と弾が当たり、
   粉々になったガラス片が散らばっている。
   パトランプが弾け飛ぶ。身を躱す警官達。
   エリアに止まっていた乗用車のタンクに弾丸が辺り、大爆破する。
   横並びに駐車されていた車が連鎖的に破壊され無惨に残骸が飛び散る。
   燃え盛る炎を呆然と見つめている警官達。
   伏せていた顔をゆっくりと上げる佐々木達。
   和男、更にマシンガンの銃口を警官に向け、連射する。
   パトカーのボディに風穴が開く。扉を盾に身を潜める警官達。
和男「余計な手出しすんなよ。入口の前にお前らの武器全部集めて持ってこい」
   
○ サービスエリア・上空
   羽音が湿った空気に鳴り響く。
   小雨の中飛んでいる小型ヘリ。
  
○ レビン車内
   山間のトンネルを抜け、またトンネルに入る。
   友一、スズを一瞥する。
スズ「ユウとはね、三年前に知り合ったの。楽にお金を儲ける方法がないかなとかふざけて
 話ししてたら、じゃあ、強盗でもやろうかってユウに言われて。気づいたら、一緒に強盗やってた」
友一「・・・」
スズ「あいつ昔刑事だったんだ。でも、なぜか三年前に辞めちゃって・・・」
友一「刑事が・・・強盗に?」
スズ「珍しい?」
友一「君も拳銃持って従業員脅したりするの? 」
スズ「私は運転係」
友一「今までいくら盗んだの?」
スズ「よく覚えてないけど・・・五千万くらいにはなってたのかな・・・結構色々と使っちゃった
 けど・・・」
友一「・・・」
スズ「昨日が5度目・・・いや、6度目だったっけ?」
友一「そんなに・・・」
スズ「私達が狙っている銀行や郵便局って、以前に強盗事件が起きた場所なの。ユウが刑事だった
 時に捜査に関わったことがある場所ばっかりだからから、現金の輸送ルートや時間までその手の
 情報が簡単にわかっちゃって、結構楽勝だった」
友一「彼は、どうして刑事辞めたの?」
スズ「知らない。聞いてもあまり話してくれないから」
   友一、呆気に取られている。
スズ「ねぇ、さっきの彼女?」
友一「えっ?」
スズ「とぼけないでよ。SAにいた彼女の事」
友一「あいつとは・・・腐れ縁だけど・・・」
スズ「腐れ縁?」
友一「ああ・・・」
スズ「でも、さっきの指輪・・・」
友一「・・・」
スズ「・・・」

○ サービスショップ入口前
   シャッターの下に山積みされた銃器類。和男がそれを中に蹴り入れている。

○ サービスエリア・駐車場(夕方)
   和男を睨み付けている佐々木。
   佐々木を囲んで、数人の捜査員が円陣を作り話し込んでいる。
佐々木「あいつらなぜここに逃げ込んできたんだ?」
捜査員A「三時間前、路側帯に不審車両が止まっているのを高機隊のパトカーが見つけて、
 職務質問しに行ったそうですが、奴らいきなり発砲してきて隊員一人の左膝を撃って逃亡した
 そうです」
佐々木「じゃあ、犯人は、例の指名手配の兄弟か?」
捜査員A「警官を売った弾丸の種類と、奴らが所持している拳銃のタイプが大倉海岸で発見された
 例の密航船に積まれていた銃のものと断定されています・・・」
   捜査Bが円陣に入ってくる。
捜査員B「人数の確認はまだできてませんがかなりの観光客が中にいるみたいですね」
佐々木「(しかめっ面になり)今晩久しぶりに飲みに行けると思ったのになぁ、クソ」
   佐々木のスーツのポケットから携帯の呼び出し音。おもむろに携帯に出る佐々木。
佐々木「もしもし・・・本部長・・・はい、犯人は武装しており、エリア内の建物に籠城中です
 ・・・えっ、なんですって?」
   突然、顔色を変え、サービスショップを睨み付ける佐々木。

○ 同・インターネットカフェ
   周囲の床に正座をし、身震いしている客達。
   和男の背後に裕太の姿。
   和男、入口に向かって歩き出す。
   和男が横切ったテーブルの前に座っている守。
   菊池、ケイ、小声で話をしている。
ケイ「先生・・・私達、殺されるの?」
菊池「私に任せろ、心配ない」
   守、テーブルに置いていたハンバーガーを取り出し、食べている。
   守の視線にケイの姿が映る。
   ケイ、守と目が合うが、すぐに逸らす。
   守、ケイを凝視している。
   
○ サービスショップ・入口前
   和男、マシンガンを左右に振り回し、暫くしてトリガーを引く。
   逃げ惑う警官達。
   
○ 駐車場
   猛烈な勢いで広がる爆発するパトカー。ボンネットが吹っ飛び爆裂するパトカー。
   護送車に身を寄せ避難する佐々木達。佐々木のそばで弾丸が弾く。
 
○ 山道のカーブを走行するレビン
   雨がポツポツと降り頻る。
   ヘリの羽音が上空から響き始め、レビンの上空を飛び去っていく。

○ レビン車内
友一「この辺に知り合いでもいるの?」
スズ「・・・いない」
友一「両親は?」
スズ「母親が去年死んだ」
友一「お父さんは?」
スズ「顔も知らない。住んでた家も借金の肩代わりに差し押さえられてなくなっちゃったし・・・」
友一「・・・」
スズ「あんたはいるんでしょ?両親」
友一「ああ」
スズ「今何してんの?」
友一「一応大学生だけど・・・」
スズ「・・・大学か、楽しい?」
友一「・・・辞めるんだ」
スズ「どうして?」
友一「なんか退屈でさ・・・」
スズ「じゃあ、これからどうするの?」
友一「短期のアルバイトはやってるけど、特に就きたい仕事なんてないし、今は、がむしゃらに
 こいつで走り回りたいんだ・・・」
スズ「カーレーサーとかなれば?」
友一「別にそういうのになりたくて走ってるわけじゃないし・・・」
スズ「・・・私も昔色々と悩んだな。このままコンビニでバイトしながら、誰かと恋して、
 結婚して、子供生んで、それでただなんとなく平凡な一生を生きて人生終わっちゃうのかな・・・って」
友一「だから強盗なんか始めたの?」
スズ「最初はとてもスリリングだったけどね。でも何度もやり続けるうち、だんだんブルーに
 なってきて・・・」
   スズ、シートにもたれ、漫然とフロントガラス越しに見える空を眺めている。

○ サービスエリア・駐車場
   機動隊ヘリがゆっくりと地面に着地し、中から数十人の隊員達が銃と盾を持ち、降りている。
   ショップ前に横一列に並び銃を構えている。
   放水車が隊員達の前を横切り、銃を構える隊員達の背後に立ち止まる。

○ サービスショップ・インターネットカフェ
   陽子、通路奥の壁際に身を寄せ、辺りを見回している。
   パソコンと対峙する守。ディスプレイに機動隊員達が映っているのを見ている。
守「こんな事になるんだったら、無理に高速なんて乗るんじゃなかった」
和男「お前が乗れって言ったんだぜ。あんなとこでエンストこくなんて・・・」
守「でも、おかげで兄貴の好きなスカイラインパクれたじゃん」
和男「関係ねぇよ、そんなもん」
   裕太、和男達の様子を見守っている。菊池、レイも和男を見つめている。
   
○ 高速入口前のスロープ
   道路脇にレビンが止まる。

○ レビン車内
友一「今からでも遅くないから、警察に行ったほうがいいんじゃないか?」
スズ「やだ、捕まりたくない」
友一「正直に白状したら、ちょっとは罪は軽くなるかも・・・」
スズ「絶対イヤ。束縛されるの大嫌いだもん。捕まるくらいなら死んだほうがマシよ・・・」
友一「じゃあ、どうするんだよ?」
スズ「・・・ねぇ、一緒に逃げてくれない?」
友一「・・・」
スズ「お金ならあるし・・・」
   友一に札束を見せつけるスズ。
友一「強盗するの・・・イヤになったの?」
   スズ、悲しげに俯いている。
スズ「かもね・・・」
友一「でも彼のこと・・・好きなんだろ?」
スズ「・・・」

○ サービスショップ・インターネットカフェ
   裕太、突然立ち上がる。守、マシンガンの銃口を裕太に向け、
守「誰が立てって言った!」
   裕太、憮然とした表情をしている。
   通路の片隅でしゃがみ込み、様子を見守っている陽子。
   様子を見つめている。
守「何シカトしてんだ?」
   守、裕太に近づいていく。
   菊池、守の動きを見守っている。
   守、裕太の額にマシンガンの銃口を押し当てる。
裕太「イキがんなよ、チビ」
   守、マシンガンの銃口を裕太の口に押し込み、
守「喋れないようにしてやろうか?」
   菊池、咄嗟に守に飛びかかる。
   裕太、透かさずマシンガンの銃身を両手で握り、守からマシンガンを奪い取る。
   菊池、守を押し倒し、守の上にのしかかると、股間を守の顔に押しつけている。
   裕太、守にマシンガンの銃口を向ける。
   レイ、菊池に近寄り、
レイ「やったね!先生」
菊池「ちょろいもんだ」
   入口のほうから弾く弾丸の音が鳴り響く。
   裕太、菊池、レイ、一斉に入口のほうに向く。
   和男が三人を睨み付け、マシンガンを向けている。

○ レビン車内
   フロントガラス越しに設置された電光掲示板が見えてくる。
   電光掲示板には、『竜賀SA閉鎖中』の文字が光っている。
友一「あれ?」
スズ「どうかしたの?」
   友一、ラジオをつけ、交通情報を聞く。
友一「やっぱりさっきのサービスエリアで何かあったみたいだ」
スズ「何かって?」
   サービスエリアの入口が近づいている。
   入口前は、レッドコーンが並べられ、封鎖されている。そばの路側帯にパトカーと
   数人の警官が立ち塞がっている。
   スズ、エリアのほうを見つめている。

○ サービスエリア・入口前
   立ち止まるレビン。
   警官が車に近づいてくる。

○ レビン車内
   運転席の窓を警官がこつく。
   スズ、思わず顔を背ける。
   窓を開ける友一。
友一「どうかしたんですか?」
警官「ちょっとこのエリア内で今事件が起きててね。悪いけど、次のサービスエリアまで
 行ってくれないか?」
   スズ、慌てて警官の顔を見る。
友一「あの・・・中に友達がいるんですよ」
スズ「私も・・・」
警官「弱ったな、ちょっとここで待ってて」
   警官、慌てた様子で駐車場に向かって走っていく。
スズ「いったい何が起きてるの?」
友一「わからない・・・」
スズ「私様子見てくる」
   スズ、車から降り、駐車場に向かって走っていく。

○ サービスエリア駐車場
   辺りを見回すスズ。
   大勢の野次馬とその向こうにパトカーがサービスショップを取り囲むように止まっている。
   警官達や機動隊員が慌ただしくパトカーの前に群がっている。
   警察車両に囲まれるように、トランザムがポツッと止まっているのが見える。
   スズ、隣にいた女性に声をかける。
スズ「あの・・・何があったんですか?」

○ レビン車内
   車の助手席に乗り込んでくるスズ。
スズ「大変、エリアジャックだって」
友一「えっ?」
スズ「ユウもあの建物の中にいるんだ・・・」
友一「じゃあ、陽子も・・・」
スズ「助けに行こうよ」
友一「助けるったって、どうやって?」
   スズ、サービスショップを指差し、
スズ「あの建物の裏口に車をつけるの」
友一「でも警察がいるんだぞ」
スズ「このままジッと見守ってるの?」
友一「元はと言えば、君が俺に嘘つくからこんな事になったんだぞ!」
スズ「運転変わってよ。私が行くから」
友一「駄目だって・・・」
スズ「意気地無し・・・」
友一「えっ?」
スズ「意気地無しって言ったの」
   友一の手がぶるぶると震えている。
   友一、やがて怒りに満ちた表情を浮かべ、声を荒げ、
友一「そう言うこと言われると妙にムカつくんだよな、俺!」
   友一、アクセルをおもいきり踏み込む。
○ レッドコーンを蹴散らしスロープを上り始めるレビン
   警官、突進してくるレビンを躱し、地面に転がる。

○ 駐車場
   クラクションを鳴り響かせ、パトカーの列に擦り抜け進んでいくレビン。
   逃げ惑う警官と機動隊。
   仰天する佐々木達。
佐々木「仲間の車か?」
捜査員A「わかりません・・・」
   
○ サービスショップ裏口
   スピンターンしレビンが止まる。

○ レビン車内
   友一、心配気に当たりを見回している。   

○ サービスショップ・インターネットカフェ
   守の口の中にマシンガンの銃口を押し入れる裕太。和男に向かって声を上げる。
裕太「その銃下ろせ」
和男「状況考えてもの言え、バ〜カ」
   裕太、目の前に置かれているパソコンのディスプレイを見つめる。
   佐々木が他の捜査員達と輪を作り話している姿が映っている。
   裕太、眉を顰め、
裕太「なっ、俺と組まないか?」
和男「はぁ?」
裕太「俺、強盗なんだ」
和男「つまんねぇ、嘘つくな」
裕太「ここを抜け出す良いアイデアがある」
和男「・・・マジで言ってんのか?」
裕太「俺もまだサツには捕まりたくねぇからな」
   守、言葉にならない声で悲鳴を上げている。
裕太「あいつらから現金かっぱらうんだ」
和男「金は間に合ってる。盗んだ銃を高値で業者に買い取ってもらう予定だ」
裕太「サツにはお互い苦労してるだろ?たまには奴らがのたうち回る姿拝みたくねぇか?」
   裕太、正面に見えるパソコンの下に置いてあるスポーツバックを一瞥する。
   と、突然菊池が声を上げる。
菊池「おい、君達もうこれぐらいでいいんじゃないか?周りを見てみろ、お年寄りもいるんだぞ。
 そろそろお遊びはやめにして・・・ 」
   裕太、菊池の腹を蹴る。菊池、のけ反るように床に倒れる。
裕太「先公みたいに説教足れんてんじゃねぇよ・・・」
   レイ、慌てて菊池の体を起き上がらせる。
菊池「わかった、金なら私が都合つける。だから他の人達を開放しなさい」
裕太「お前何者なんだよ」
レイ「この人、国会議員なのよ。あんた達後でとんでもないことになるから・・・」
菊池「こらっ、余計なこと言うな!」
   裕太、レイを見つめ、
裕太「国会議員ね・・・女子高生と援交中か?」
菊池「・・・罪を重ねるな。両親が悲しむぞ」
裕太「生憎両親はいないんだ。それに、そんな格好で言われても、全然説得力ないんだけど・・・」
   和男、険しい目つきで裕太を見つめている。
   陽子、その様子を息を飲んで見守っている。

○ レビン車内
友一「シャッター閉まってるし、中入れそうにないな・・・」
スズ「こじ開けるしかないわ」
友一「やばいよ、そんな事したら・・・」
スズ「ここまできて何もやらないつもり?」

○ サービスショップ裏口
   シャッターに近寄る友一とスズ。二人、一斉に踏ん張ってシャッターを持ち上げる。
   下のほうに少しの隙間ができる。
   
○ 同・インターネットカフェ
   中の様子を見守っている陽子。奥の方から光が差し込み、陽子の足元に当たっている。
   陽子、光のほうに振り向く。
   開いたシャッターの隙間から顔を出している友一。
   陽子、友一に気づき・・・。
友一「(小声で)陽子!」
   陽子、慌てた様子で友一に静かにしろの合図を送る。
   友一、シャッターを潜り、四つん這いになって陽子のそばまではっていく。
友一「(小声で)早く逃げよう・・・」
   陽子、怯える客達の様子を見つめ・・・
陽子「(小声で)私だけ逃げるの・・・なんか悪い気がする・・・」
友一「(小声で)そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
   和男、パソコンのディスプレイを見つめる。
   ショップ裏口の画面にしゃがみこむスズが映っている。
   和男、正面の通路の角に少しだけ食み出ているスカートに気づく。
和男「おい、そこにいる女、出て来い!」
   陽子、渋い表情を浮かべている。
陽子「友一逃げて!」
友一「俺も残るって」
陽子「(友一を突き放し)いいから早く!」
   友一、陽子を見つめながら慌ててシャッターのほうに向かってはっていく。
   陽子、両手を上げ、インターネットカフェの方へ歩いていく。

○ 同・裏口
   シャッターの隙間から友一が出てくる。
   友一、まずそうな表情を浮かべ、
スズ「どうかしたの?」
友一「陽子が犯人に見つかった・・・」
   暫くして、機動隊員の男達が友一達に近づいてくる。
スズ「逃げよう」
友一「・・・クソ!」
   友一、スズ、車のほうに戻っていく。

○ 同・インターネットカフェ
   陽子、手を上げながら裕太達の前に姿を表わす。
   和男、陽子にマシンガンを向けている。裕太、陽子を見つめている。
   裕太、マシンガンの銃口を守の口から取り出す。守の背中に足を乗せると、
   マシンガンを和男に向ける。
   和男も裕太にマシンガンを向ける。
裕太「おい、俺と組む気はあるのか?」
和男「ない」
   裕太、マシンガンを下ろし、ズボンのポケットから車のキーを取り出すと、
   それを和男のほうに放り投げる。
和男「何のマネだ?」
裕太「俺の車のキーだ。中に2千万ほどの現金が積んである。それで、俺のこと
 ちょっとは信用できるだろ」
和男「で?」
裕太「俺が刑事と直接交渉する。お前は俺の車に乗って先に待ち合わせ場所に行けよ」
和男「待ち合わせ場所って?」
裕太「この先はトンネル地帯だ。第四トンネルと第五トンネルの間にある高架橋で、
 サツと金の取り引きをする」
和男「・・・」
裕太「こう言う時は、ワル同士力を合わせて 修羅場を潜ったほうが懸命だ」
和男「弟を離せよ」
   裕太、守の背中から足をのける。
和男「(陽子を見つめ)そこの女、こっち来い」
   陽子、恐怖に怯えながらゆっくりと歩き出し、裕太のそばを横切っていく。
   裕太、複雑な表情で陽子を見つめている。
   和男、近づいてきた陽子の腕を掴み、
和男「この女、連れていく」
守「兄貴、本当にこいつの言うこと聞くのかよ?」
   守、裕太を睨み付けている。
和男「本当は、こんなめんどくせぇことしたくないけど、サツには、欝憤たまってるからな。
 派手な祭りをあげてやる」
   和男、裕太のそばに近づいていき、意味深な薄ら笑いを浮かべると、パソコンの下に
   置かれていたスポーツバックを肩に抱え、陽子を連れその場を立ち去ろうとする。
裕太「待てよ。お前の車のキーは?」
   振り返る和男。
和男「弟が持ってる」
   陽子、救いを求めるように裕太を見つめている。

○ レビン車内
   友一、スターターを回しているがエンジンがかからない。
   助手席に座るスズ。
スズ「どうしたの?」
友一「おかしいな・・・・」
   数人の機動隊員がこちらに近づいてくる。スズ、それを見ている。

○ 和男、陽子にマシンガンをつきつけながら、佐々木達の前に姿を表わす
   和男、佐々木に目をつけ、
和男「おい、そこのおっさん!直接交渉してやるから、中に入れ!」
   舌打ちしながら和男を見つめる佐々木。
   和男、陽子の手を掴み、強引に佐々木達のほうへ歩いていく。
和男「ほら、道を空けろ!」
   二人、警官達の狭間を潜り、トランザムに乗り込む。
   様子を窺っている佐々木達。
佐々木「至急、あの車のナンバーを照合しろ」
捜査員A「わかりました・・・」
   捜査員A、その場を離れていく。
   
○ トランザム車内
   後部シートに置かれていた鞄を覗く和男。
   中の現金を見つめ、
   和男、不適な笑みを浮かべる。
   陽子、信じられない様子で現金を見つめている・・・。
  
○ 駐車場
   トランザム、エンジンがかかり、バックすると、そのまま出口のスロープに向かって
   走行していく。

○ レビン車内
   エンジンがかかる。安堵の表情を浮かべる友一。
友一「かかった」
スズ「早く逃げて」
友一「陽子・・・」
   友一、サービスショップの方を見つめる。

○ タイヤを軋ませ走り去っていくレビン

○ 駐車場
   機動隊員の列とパトカーを擦り抜けていくレビン。
   佐々木、横切っていくレビンを見つめている。
   佐々木のそばに捜査員Aが近づいてくる。
捜査員A「わかりました。あの黒いトランザムは、昨夜、隣町の武井町で盗まれた
 盗難車です。昨日その付近の郵便局で強盗事件があったそうで、乗り捨てられた犯人の車と、
 トランザムが盗まれた場所がほぼ一致しています・・・」
   佐々木、唇噛み締め、険しい目つき。

○ レビン車内
スズ「あれ?」
友一「どうかしたの?」
スズ「(前を指差し)あれ、ユウの車・・・」
   フロントガラス越しに出口のスロープを駆け下りているトランザムが見える。

○ 高速道・出口付近(夕暮れ)
   サービスエリア出口から高速道へ進入するトランザム。その後をレビンが追   う。

○ レビン車内
スズ「ユウの奴外にいたんだ・・・」
友一「呼び止めようか?」
スズ「・・・うん」
友一「・・・」
スズ「怒ってる?・・こんなことになって」
友一「・・・」
スズ「無理ないよね・・・全部私のせいだもんね・・・」
   友一、寡黙に前を見つめている。
   スピードメーターが100kmを超え、グングン伸びている。
   フロントガラスに当たる雨音がだんだんと強くなる。

○ サービスショップ・ビリヤード場
   扉がゆっくりと開き、佐々木が入ってくる。
   テーブルの前でキューのタップにチョークを塗る裕太。
   裕太、キューを構え、目を細める。煙草を加え、火を付ける。
   佐々木を見つめる裕太。
佐々木「(驚愕し)おまえ・・・」
   無気味にほくそ笑む裕太。
裕太「人質を傷つけるつもりはない。あんた達が機動隊やSATを使って汚い手段を
 とらない限りはな」
   手玉を突く裕太。ブレイクショット、コーナーポケットに2番と8番のボールが
   吸い込まれるように落ちる。後のボールはきれいに散らばる。
佐々木「要求は何だ?」
裕太「まず、観光バスに人質を移す。店の前にバスをつけさせろ」

○ サービスエリア・駐車場
   観光バスのエンジンがかかりゆっくりと動き始める。
   バスは、警察車両の間をゆっくりと潜けている。その様子を見守る佐々木と他の警官達。
   サービスショップの前に横付けされるバス。

○ サービスショップの入口から一列に並んで観光客達が出ている
   バスに乗り込んでいる観光客達。
   守がその後ろでマシンガンを向けている。
   菊池とレイもその列に沿って歩いてい   る。

○ サービスショップ・ビリヤード場
佐々木「次は何だ?」
裕太「一ゲームしようぜ」
   佐々木、和男を険しい表情で見つめる。
佐々木「遊んでる暇はないんだ」
裕太「負けたら100億円の金を用意してもらう。それで人質と取り引きだ」
   佐々木、驚愕し、呆然とする。
佐々木「いくらなんでも、その数字は法外だ」
裕太「ボール一つ一つが人質の命だと思って、精魂込めて打つんだな」
佐々木「私が勝ったら?」
裕太「人質は解放してやるよ。たぶん、無理だろうけどな」
佐々木「結構な自信じゃないか。元警官」
   裕太、笑みを浮かべ、
裕太「俺のこと知ってたのか?」
佐々木「確か親父さんは、有賀署の交通課課長だったかな?」
裕太「・・・やり方知ってるか?」
   裕太、キューを佐々木に投げ渡す。
佐々木「(舌打ち)バカにすんなよ」
   佐々木、額に汗を浮かべ、キューを握り、球を突く。
   手玉がクッションを跳返り3番に当たり、コーナー前で止まる。手前の6番ボールに阻まれる。
裕太「(爆笑し)ドヘタ、それじゃあ、やばいぜ」
   怪訝に和男を見つめる佐々木。
   和男、キューを構える。

○ ディーゼルエンジン音が地響きを立て、バスが走り始める。
   止まっていたパトカーが退避し、バスの進路を空ける。
   警察無線の声が響いてくる。
無線の声「人質を乗せたバスが進み始めました・・・」

○ 高速道
   トランザム、追い越し車線に侵入する。レビン。トランザムと横並びに走行している。

○ レビン車内
   トランザムの運転席を見つめる友一とスズ。
   トランザムの運転席に座る和男がこちらを向いている。
スズ「(唖然とし)違う、運転してるのユウじゃない」
   友一、助手席の奥に陽子がいるのを見つめ、叫び声を上げる。
友一「陽子!」
   陽子、友一を見つめ、必死の形相で声を上げている。
   和男、無気味な笑みを浮かべると、突然、車に体当たりしてくる。
   衝撃で体を揺さぶられる友一とスズ。
友一「これ、どういうことだよ?」
スズ「わかんない、私にも・・・」

○ 高速道
   トランザム、更に体当たりし、レビンと擦れ合う。トランザムと側壁に挟まれながら
   走行しているレビン。激しく火花を散らしながらも、なお加速している。

○ ビリヤード場
   裕太が球を勢い良く突く。激しくクッションに跳ね返る。   

○ 高速道
   レビン、トランザムに体当たり。激しく擦れ合う二台の車。

○ ビリヤード場
   クッション際にあった7番ボールに手玉が当たる。7番ボール激しくスピンし、
   テーブルを駆け回る。

○ 高速道
   トランザム、おもいきりレビンに体当たり。両方の車はボディが大きく歪み、
   原形をとどめない。
   レビン、側壁に前輪を擦り付け、バーストする。

○ レビン車内
   友一、恐怖を堪えながら必死の形相。
   スピードメーターがゆっくりと下がっている。
友一「(叫び声を上げ)ベルト締めて!」
   スズ、すぐにシートベルトをつけようとするが、友一のシートベルトをつけようと、
   友一の前に腕を伸ばすスズ。
友一「(焦った様子で)俺はいいって!」
   その瞬間、トランザムがレビンにぶつかる。
   その衝撃で友一とスズの顔が重なり、唇が触れ合う。

○ トランザム車内
   陽子、レビンの中の様子を見つめ、唖然とする。
   
○ レビン車内
   ダッシュボードが開き、ケースが飛び出してくる。ケースの中から指輪が落ち、
   スズの足下に転がり落ちる。
   スズ、無意識にリングを踏みつける。
   スズ、恥ずかしそうな表情で友一のシートベルトつける。
   呆然と前を見つめる友一。
   スズ、ベルトをつける。
   寡黙にスズを一瞥する友一。
   前方にトンネルが近づいてくる。
   
○ ビリヤード場
   球を突く裕太。9番ボールを睨み付けて、キューを押す。
   手玉が9番に勢い良くぶつかる。

○ 高速道
   トランザム、勢い良くレビンに体当たりする。コントロールを失い、
   車体を激しく振りながら、遮音壁にぶつかると、横転、大クラッシュし、転がるレビン。

○ ビリヤード場
   9番ボールがクッションを跳ね返り、コーナーポケットへ突き進む。

○ 高速道
   逆さまになったレビンが、激しく火花を散らしながら、トンネルに向かって滑っている。

○ ビリヤード場
   9番ボール、きれいにポケットに入る。
   含み笑いを浮かべる裕太。
裕太「一時間だ。それまでに金が集まらなかったら五分遅れるごとにバスの中の人質を殺す」
佐々木「おまえ、あいつらとグルなのか?」
裕太「だったら?」
佐々木「奴らは、密航船からマシンガンと大型のプラスチック爆弾を奪って逃げ回っている
 ヤクザ崩れだぞ」
裕太「ふ〜ん」
佐々木「お前の親父さんは、優秀だったのに、息子はこの為体か・・・」
裕太「その親父を殺したのは、あんただ」
佐々木「(嘲笑を浮かべ)いきなり何をいい出すかと思えば・・・」
裕太「・・・親父が捕まえたスピード違反者がある政治家の秘書だった。その違反が
 警察内部でいつの間にかに揉み消しにされたんだ。納得いかなかった親父は、そのことを
 マスコミに公表しようとしたが、ある政治家がマスコミに圧力をかけた」
佐々木「ほぉう・・・」
   佐々木、失笑しているが、しだいに険しい目つきになり・・・。
裕太「親父は、警察内部の汚職を明るみにするため、自分の部下と同僚達に協力を求めたが、
 誰一人親父に協力する奴はいなかった。そいつらは皆ある刑事に毒されてたんだ。その数日後、
 親父は、バイクの集団に襲われて、事故死に見せかけられて殺された」
   佐々木、さらに険しい目つきになる。
裕太「親父は、死ぬ一日前に黒い癒着の証拠を掴んだんだ。あんたとスピード違反をした秘書と
 政治家、そして、県警OBの県議会議員が一緒にいる所をな」
佐々木「証拠はあるのか?」
裕太「・・・たった一枚写真が残ってる。でも肝心の政治家さんの顔が暗くて見えないんだ。
 親父はそいつらの名前を言わずに死んでいった。あんた、その政治家の名前知ってるよな?」
   佐々木、憮然と俯いている。
裕太「人質殺すぞ」
佐々木「待て、わかった・・・ 」 

○ バス内
   怯える乗客達。
   一番後ろの座席に菊池とケイが座っている。
   菊池、くしゃみをする。
ケイ「先生、風邪引いたんじゃない?」
菊池「風呂上がってからずいぶん経ってるからな・・・」
   前のほうの席に座る篤志。レイをジッと見つめている。
   菊池とケイの前に立ちはだかる守。
   ケイ、守のほうを向き、
ケイ「何か着せてあげてよ」
守「お前の制服でも着せてやれよ」
   守、いきなり菊池を足蹴りする。
   腹を蹴られ、その場に突っ伏す菊池。
守「裸一貫で、丸裸の政治を目差しますってか?わかりやすいパフォーマンスだな」
   ケイ、心配気に菊池の体を抱き上げる。
守「おまえら、どういう関係なんだよ?」
ケイ「あんたに関係ないじゃん」
守「お金持ちのパパが欲しかったのか?」
ケイ「同世代の男には飽き飽きしてるの。あんたみたいな」
守「むかつくメス豚だぜ!」
   守、ケイにマシンガンの銃口を向ける。
   守の背後に近づく一人の男の影。
   男、ショルダーバックで守の頭をおもいきり殴りつける。
   守、振り返り男を睨む。男は、篤志である。篤志、さらに守の頭を殴りつける。
   守、その場に崩れるように倒れる。
   レイ、篤志を見て、仰天する。
レイ「あんた、なんでここにいるの?」
   篤志、レイの前に行くと、いきなりレイの腕を握り、
レイ「ちょっと、なんのつもり?」
篤志「僕・・・僕・・・」
菊池「誰だ、こいつは?・・・」
レイ「前に一緒のクラスになった子・・・もう、つきまとわないでよ・・・」
   篤志、レイの腕を引っ張り強引に前のほうへ連れていく。
   激しく抵抗しているレイ。
   暫くして、マシンガンの銃声が鳴り響き、バスの天井に風穴が空く。
   篤志とレイ、振り返る。守が二人にマシンガンを向け、撃ち放つ。
   騒然とする乗客。悲鳴を上げる。

○ バスが第2トンネルに進入
   側道に逆さまになりボロボロに潰れて止まっているレビンを横切っていく。
   同様に数台のパトカーが次々とレビンを横切っていく。

○ バス車内
   座席に膝を置き、リアガラスにかかるカーテンを開く守。
   赤色灯を光らせたパトカーが列をなしバスを追っている。
   守、窓から身を乗り出し、パトカーに向けマシンガンを撃ち込んでいる。
   走行するパトカーのボンネットが吹っ飛び、蛇行して中央分離帯に激突する。
   後方のパトカーが激突したパトカーに突っ込み、ハイジャンプ。後続のパトカーも
    避け切れず無様に車体を転がし立ち往生している。
   菊池、放心状態で一点を見つめている。
   通路に重なるように倒れている篤志とレイ。
   菊池、暫くして目を見開く。
   レイ、顔を歪ませながら起き上がる。
   篤志の体を押し退け、起き上がる。篤志、背中を何発も銃弾を食らい、息耐えている。
   菊池、思わず、顔を綻ばせる。

○ サービスショップ
   入口に向かって走っている裕太。

○ サービスショップ入口
   スカイラインに乗り込む裕太。
   エンジンをかけ、走り始める。

○ 駐車場
   エリアの隅のほうに集まり、列を作り止まっているパトカー車両。
   スカイラインが悠々と出口に向かって走り過ぎる。
   パトカー車両の前に突っ立つ警官達と捜査員達。その中心に佐々木が立っている。
   憮然と去っていくスカイラインを睨み付けている佐々木。
   捜査員A、佐々木の険しい表情見つめ、恐縮する。
 
○ 上空を羽音を立て飛んでいる輸送ヘリ
   ヘリからの俯瞰。トンネルを出て山間の高速道を走っているバスの姿が見える。
機動隊員の声「バスは、第4トンネルを通過、目的地の高架橋に到着しました」
   バス、路側帯に車体を寄せ立ち止まる。
   バスの数十メートル前にトランザムが立ち止まっている。
   
○ 高架橋の路側帯に止まるトランザム
   
○ トランザム車内
   和男、バックミラーに映るバスを見つめている。
和男「約束通り来やがった。あいつ、なかなかやるぜ」
   陽子、寡黙に項垂れたまま。
   
○ 第2トンネルに向かって走行するスカイライン
   逆さまに倒れたレビンのそばを素早く横切っていく。
   
○ ひしゃげたボディの中から友一が這いずり出てくる。
   ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと車道に向かって歩き出す。
   ハイスピードで横切る車をおぼろげに見つめる友一。

○ ある車の運転席からの主観
   友一が手をふらふらと上げながら前に出てくる。
   咄嗟にブレーキを踏み込む男の足。

○ 友一の数cm手前で立ち止まるダンプ
   ダンプの背後を次から次に車が寸止めし、立ち往生。クラクションが山のように鳴り響く。
   扉を開ける男。
男「オエ、お前こんなところで何しとんねん!」
   友一、その場にへたり込み、
友一「助けてください・・・」
   友一のそばに近づく男。友一の顔を見つめ、見覚えがあることに気づき、
男「おまえ・・・」  × ×  ×
   友一と男、歪んだ窓枠からスズを引っ張り出している。
   スズ、額から血を流している。
   友一、スズの体を揺さぶり、
友一「しっかりしろ!」
   スズ、うっすらと目を開け、
スズ「どこ・・・ここ・・・」
   スズ、ジッと友一を見つめ、暫くして
   きつく抱き締める。
スズ「うちに帰りたいよ・・・」

○ 上空・時間経過
   輸送ヘリが山間の高架橋の真上を低空飛行している。
   
○ 高速道・橋上
   車の前に立ち、上空を見上げる和男と裕太。
   ヘリの車輪が路面に着地し、現金を運び出す機動隊員達。
   マシンガンを構える二人。
  
○ 高速道・橋上
裕太「開けろ!」
   アルミケースを開ける捜査員達。ぎっしりつまった現金を見つめ、笑みを零す裕太。
   ケースを持ち、幌付きのトラックに向かう捜査員。ケースを荷台に次々と積み込んでいる。
   裕太の前に佐々木が対峙する。
佐々木「人質を解放しろ!」
   バスの入り口の前に立っている守。
   指示し、人質を一人ずつ降ろしている。
   
○ バス車内
   観光客が列を作り、前の席に座る人から順に降りて行く。

○ トランザム車内
   様子を見守る和男。ドアを開け、バスのほうに向かって歩いていく。
   助手席のシートにロープで体を縛り付けられている陽子。口にもテーピングされている。
   
○ 高架橋
   バスから裸の菊池とレイが降りてくる。
   佐々木、菊池を気遣うような眼差しを浮かべている。
   裕太、何かを悟り、菊池にマシンガンを向け、
裕太「おい、待て、そこの政治家!」
   菊池、ジッと裕太を見つめる。
   佐々木、一瞬、顔を歪める。
裕太「おまえ、名前なんて言うんだ?」
菊池「・・・菊池だ」
   裕太、それを聞いた途端にマシンガンを菊池に向け撃ち放つ。菊池、その場にへたり込む。
裕太「(佐々木を指差し)お前、あの刑事知ってるよな?」
   菊池、佐々木を凝視し、
   佐々木、動揺している。
菊池「(頷き)ああ・・・」
   裕太、菊池を睨み付け、マシンガンのトリガーに指を当てる。
裕太「お前ら皆殺してやる」
佐々木「(絶叫し)やめろ!」
   裕太、菊池を撃つと見せかけて、透かさず佐々木に銃口を向け、トリガーを引く。
   佐々木、左足を撃ち抜かれ、その場に突っ伏す。
   そこへ突然、猛スピードでダンプが突っ込んでくる。
   逃げ惑う機動隊員、警官達。
   ダンプ、輸送ヘリとバスの狭間を擦り抜ける。佐々木と裕太の間をダンプが擦り抜け、
   二人の間を遮る。
   和男、守、ダンプに向かってマシンガンを打ち込んでいる。
   ダンプの車体のあちらこちらに火花が飛び散る。
   ダンプ、通り過ぎた後、菊池達と佐々木達の姿が消えている。
   パトカーの前にいる機動隊員達の後ろに隠れている菊池と佐々木。
   裕太、その様子を見つめ、
裕太「(舌打ち)クソッ!」
   ダンプ、トランザムの前で立ち止まる。
   助手席のドアから友一が表われ、トランザムの助手席のドアを開ける。
   和男、友一にマシンガンを向けるが、裕太が銃身を握り、それを阻止する。
和男「何しやがる?」
裕太「現金受け取ったんだ、そろそろ逃げる準備するぞ!」
   裕太、トランザムのほうを見つめている。
   陽子、外に出て、友一と顔を合わすと、泣き崩れ友一の体にしがみつく。
   ダンプの助手席のドアからスズが降りてくる。
   唖然とする裕太。
裕太「(和男に)次のインターで必ず降りろよ」
和男「わかった。大したもんだぜ、おまえは」
   裕太、トランザムのほうに向かって走っていく。
   裕太の背中を見つめ、不適な笑みを浮かべる和男と守。
     ×  ×  ×
   友一、陽子をダンプに乗せている
   友一も車に乗り込もうとするが、足を止め、スズを見つめる。
友一「乗らないのか?」
   スズ、振り返り友一を見ている。
   スズ、首を振り、
スズ「私はいい。行って・・・」
   スズ、哀しげな目で友一を見ている。
スズ「早く行ってよ・・・」
     ×  ×  ×
   友一、陽子の乗ったダンプがスズのそばを走り去って行く。
   裕太がスズの前に近づいてくる。
   スズの前に立つ裕太。マスクを外す。
裕太「お前、なんでここに?・・・」
スズ「あんたって、最低ね」
裕太「お前はどうなんだよ」
スズ「(和男の方を指差し)私、あいつに殺されかけたんだよ」
   裕太、トランザムを見つめる。
   左側のボディがボコボコに歪んでいる。
   裕太、振り返りスカイラインを見つめる。
   和男、スカイラインの運転席に乗り込み、佐々木達にマシンガンを向けている。
和男「あんたらに、プレゼントやるよ」
   和男、膝元に置いていたスポーツバックを佐々木達の前に放り投げる。
   路上に落ちるバック。
和男「じゃあな」
   和男、不適な笑みを浮かべると、アクセルを踏み、その場を立ち去る。
   その後に続いて幌付きのトラックも走り出す。
   機動隊員がバックの中を確認する。
機動隊員「プラスチック爆弾です。三十秒後に爆発します」
   佐々木、署員や警官達の方を振り向き、
佐々木「避難しろ!早く!」
     ×  ×  ×
   裕太とスズの前を猛スピードでスカイラインが走り去っていく。
裕太「スズ、早く車に乗れ!」

○ 輸送ヘリ・キャビン
   ヘリに乗り込んでいる隊員が走っている裕太にライフルを向け照準を合わしている。

○ 高速道
   裕太の左肩から血飛沫が上がる。
   その場に倒れ込む裕太。
   スズ、裕太に駆け寄り、トランザムの車体のそばまで裕太を引き摺り、身を隠す。
スズ「大丈夫?」
   裕太、痛みを堪え、頷く。
   スズ、裕太を立ち上がらせる。

○ タイヤを軋ませながら走り去るトランザム

○ 高架橋
   パトカー車両や護送車に乗り込む警官達や機動隊員達。
   佐々木、降りてきた輸送ヘリに慌てて乗り込んでいる。

○ ダンプ車内
   助手席で寄り添うように座る友一と陽子。
陽子「やっぱり、私アメリカ行くのやめる」
友一「どうして?」
陽子「もうどこにも行きたくない・・・」
友一「・・・」
   友一、ジャケットのポケットから小さなケースを取り出し、中を開ける。
   鮮やかに光るリングが表われる。
友一「・・・これ、アメリカから戻ってきたら、渡そうと思ってたんだけど・・・もう、いいや」
   友一、陽子の薬指にリングをはめる。
   陽子、リングを見つめ、
陽子「・・・こんなの買うお金・・・どこにあったの?」
友一「この間の競馬で・・・」
陽子「ロマンチックなムード打ち壊しね・・・」
   陽子、指輪を見つめ、笑みを浮かべる。   

○ トランザム車内
   ハンドルを握る裕太。
   助手席に座るスズ。
スズ「運転しようか?」
裕太「気にすんな」
スズ「一体何したの?」
   裕太、漫然とミラーを見つめ、驚愕する。

○ トンネルを走行していたトランザムの背後で巨大な爆裂音がこだまする
   猛烈な勢いで炎がトンネル内に広がり、トランザムに迫ってくる。

○ 高架橋
   上空を舞い始めるヘリ。中にいる佐々木が爆風を浴びる。
   バックするバス、パトカーに乗り込もうとしている捜査員や警官達が炎に飲み込まれる。
   木端微塵に吹き飛ばされる高架橋。橋桁が真っ二つに割れ、脆くも崩れ落ちていく。
   炎を上げ、落ちて行くバスやパトカーの車体。そして警官や捜査員達も数十メートル
   下の川に落ちていく。
   空を舞うヘリの羽音が空しく響き渡る。

○ ヘリ・キャビン
   佐々木、高架橋の無惨な惨状を見つめ、怒りと戦慄の雄叫びを上げる。

○ スカイライン・車内
   ハンドルを握る和男。バックミラーに微かに映る炎を見つめ、ほくそ笑む。

○ 幌付きトラック・車内
   ハンドルを握る守。ドアミラーを見つめ、
守「派手な祭りだ・・・」
   
○ ダンプ車内
   ドアミラーを見つめている男。
   猛烈な勢いで走行してくるスカイラインの姿が映っている。
   スカイライン、ダンプを追い抜いていく。暫くして、幌付きトラックもそばを通り過ぎていく。
男「(前を走るトランザムを見つめながら)あれ、さっきの車ちゃうんか?」
   陽子、友一にしがみつき、顔を伏せている。

○ 高速道
   ダンプの後ろからトランザムが近づいてくる。
   トランザム、ダンプを追い抜き、そのまま走り去っていく。

○ ダンプ車内
   フロントガラスに映るトランザムを見つめている友一と陽子。
友一「あの車・・・」
   陽子、複雑な表情で車を見つめている。

○ スカイラインの右隣にぴったりとつき、並走しているトランザム
   トランザム、ハンドルを左に切り、スカイラインに体当たりする。
   その弾みで遮音壁に車体をぶつけるスカイライン。激しく火花を散らしている。

○ トランザム・車内
   思い切りハンドルを切り、アクセルを踏み込んでいる裕太。歯を食いしばっている。
   そこへ、突然後ろから激しい衝撃。裕太、スズ、反動で身体が前に浮き上がる。

○ トランザムの後ろにピッタリとつく幌つきトラック
   トランザムの後部に何度も体当たりしているトラック。

○ トランザム車内
   裕太、構わずハンドルを左に切り、スカイラインとぶつかる。
   
○ 遮音壁とトランザムに挟まれ徐々にスピードを落とすスカイライン
   やがて完全に立ち止まる。
   和男、トランザムに向け銃を撃ち込む。
   裕太、スズ、慌ててしゃがみこんでいる。
   トランザムの左ドアのウィンドゥが割れる。
   和男、車から降りると、トランザムのボンネットに飛び乗り、裕太に銃を向ける。
   二台の車の後ろに止まる幌付きトラック。
   守、トラックから降り、マシンガンを向けながらトランザムに近づいている。

○ トランザム車内
裕太「アイデア出したの俺なのに、礼も言わずにトンずらかよ」
   助手席のスズ。神妙な面持ち。
スズ「ユウ、それどう言うこと?」
   裕太に拳銃を向ける和男。
   フロントガラス越しで、互いに銃を向け合う二人。
和男「降りろ!」
スズ「(裕太を見つめ)どうするの?」
裕太「お前、先に降りて車から離れろ」
   スズ、バックミラーを見つめる。マシンガンをこちらに向けた守が近づいてくる。
スズ「駄目みたい・・・」
   裕太、バックミラーを見つめる。
裕太「クソ!」
和男「俺達を信用したのが、間違いだ」
裕太「信用なんかしてるかよ。俺も後からお前ら殺して独り占めする気だったんだ」
和男「そんなマネできんのかよ、おまえに」
   裕太、ほくそ笑む。
裕太「俺は元刑事だぜ」
和男「何?」
裕太「お前らみたいな悪党見ると、身体がうずうずしてくる」
和男「どうりで手際が良かったわけだ。今日は、お互い、厄日だな・・・」
裕太「おまえらと会ったのがな・・・」
   暫くして、上空からヘリの羽音が木精する。
   和男、音のほうに振り向く。
   輸送ヘリが和男達の上空に近づいてくる。
   裕太、咄嗟に和男に銃を向け、撃つ。
   素早く振り返り、守にも銃を向け、撃つ。
   弾丸は、和男の右腕を撃ち抜く。
   守、額を撃ち抜かれ、マシンガンを撃ち放ちながらその場に崩れる。
   和男、持っていた銃を落とし、ボンネットから滑り落ちる。
   スズ、戦慄し、思わず扉を開け、外に出る。
裕太「おまえ、何してんだよ?」
   スズ、首を横に振り、
スズ「私・・・もういい・・・」
裕太「いいって、何が?」
スズ「ついてけない・・・」
   スズ、その場から走り去っていく。
   裕太、スズの名を叫ぶが、スズは足を止めない。
   路面に倒れている和男、突っ伏した状態でマシンガンを拾うと、スズに向け撃つ。
   弾丸は、走っていたスズのそばに近づいてきたダンプの左前輪に当たる。

○ ダンプ車内
   コントロールを失い、必死にハンドルを制御している男。ブレーキをおもいきり踏み込む。
   その衝撃で前のめりの体制になる友一と陽子。

○ 高速道
   道の真中で立ち止まるダンプ
   友一、窓枠から身を乗り出し、走り去るスズの背中を見つめる。

○ ダンプ車内
   友一、ドアを開け、車から降りるとスズの後を追いかけていく。
   陽子、友一を見つめ、
陽子「どこ行くの!」

○ 高速道
   和男、起き上がるとトランザムの真ん前に立ち運転席にマシンガンを向ける。
   裕太ほくそ笑むと、アクセルをおもいきり踏み込む。
   和男、トランザムに轢き飛ばされ、屋根からトランクの上を転がりながら地面に落ちる。

○ 輸送ヘリ
   特殊部隊の隊員が和男にライフルを向けている。隊員の隣に佐々木がいる。
   佐々木、険しい目つきで和男を見つめている。

○ 高速道・トンネル出口付近
   スズに追いつく友一。スズの肩を掴む。
友一「待てよ」
   スズ、友一の手を振り払い、
友一「自首するのか?」
スズ「・・・束縛されるのは、嫌だって言ったでしょ・・・」
友一「・・・じゃあ、逃げ続けるのか?」
   スズ、哀しみに暮れた目で友一を見つめ、
スズ「一緒に逃げてくれる気になったの?」
   友一、寡黙に俯く。
友一「・・・ごめん」
スズ「何で謝るの?」
友一「力になれなくて・・・」
   スズ、笑みを浮かべ、
スズ「彼女、大切にね・・・」
友一「・・・」
スズ「・・・じゃあ」
   スズ、トンネルに向かって走り去っていく。
   友一、追いかけようとするが、足がすくんで動けない。

○ 高速道
   ライフルの銃弾がトランザムに弾く。

○ トランザム車内
   裕太、アクセルを踏み込む。
   
○ 輸送ヘリからの主観
   ヘリ、スピードを上げ、飛行していく。
   高速道を突っ走るトランザムを追いかけている。

○ 高速道
   疾走するトランザム。
   
○ トランザム車内
   歯を食いしばりながらハンドルを握る裕太。
   目前からサイレン音が鳴らしたパトカーの大群がゆっくりと近づいてくる。
   裕太、発狂じみた笑みを浮かべ、
裕太「おら、かかってこい!」

○ 輸送ヘリからの主観
   スピードを上げ暴走するトランザム
   パトカーとの距離が狭まっていく。
   佐々木、隊員からライフルを奪い取り、トランザムに目掛けて乱射する。

○ トランザム車内
   目前に並列に並んだパトカーが近づいてくる。
   裕太、雄叫びを上げながら、アクセルを一層踏み込む。

○ 高速道
   前列にいた二台のパトカーが突進してきたトランザムを避け、二手に分かれる。

○ トランザム車内
   首を横に向け、逃げ惑うパトカーを見ている裕太。
裕太「ざまぁ、見ろ、おらぁ!」

○ 輸送ヘリ
   佐々木、トランザムに照準を合わせ、撃つ!

○ トランザムの左後輪タイヤに弾丸が当たり、バーストする。

○ トランザム車内
   ハンドルを取られる裕太。
   裕太、正面を見つめた瞬間、目前に護送車が迫ってきているのに気づき、唖然とする。
   
○ 護送車に猛スピードで突っ込むトランザム
   両方の車両の前面のパーツが粉々に弾け飛ぶ。
   護送車、右横にボディを倒し、横転する。
   反動でボディを激しく回転させているトランザム。ボンネットが吹っ飛び、
   運転席は大きくえぐられている。

○ 夕陽が差し掛かる空を飛行するヘリ羽音が鳴り響いている。

○ ヘリ・キャビンからの主観
   高速道の無惨な惨状が見えている。
   倒れた護送車と原形をとどめない状態で煙を噴きながら止まっているトランザムの周りに
   何十台ものパトカーが取り囲み群がっている。
   佐々木、悲壮な表情を浮かべているが、どこか爽快感に満ちた表情も垣間見える。
佐々木「・・・アホが」

○ 高速道のそばを離れ夕陽に向かって飛び去っていくヘリ

○ ダンプのパンクしたタイヤを見つめ、頭を抱えている男

○ 中央分離帯に寄り添いながら座る友一と陽子
   陽子、複雑に表情を歪め、
陽子「彼女、どこに行ったの?」
   陽子の前に近づく友一。
友一「さぁ・・・」
陽子「あんたもしかして、彼女の事好きになったんじゃ・・・?」
   友一、苦笑いを浮かべ、
友一「・・・んなわけねぇよ」
   陽子、指につけた指輪を見つめ、
陽子「ねぇ、これどうしてくれたの?」
友一「誕生日だろ?」
陽子「覚えてたんだ」
友一「当然だろ」
陽子「だって去年は、何もくれなかったじゃん」
友一「・・・俺さ、実は大学辞めるつもりだったんだ」
陽子「えっ、なんで?」
友一「学校通ってることに何だか意味が見出せなくなってさ・・・」
陽子「・・・」
友一「後一年、何が自分に向いてるかちゃんと考えるよ」
陽子「・・・そう」
友一「俺ってさ、やっぱいざと言うとき、頼りない人間なのかな?」
陽子「なんでいきなりそんなこと聞くの?」
友一「ちょっとな・・・」
陽子「友一は、それでいいと思うよ」
友一「それでいいってどういう意味?」
   友一、顔を上げ、陽子の顔を見つめると、驚愕する。
   陽子の顔にスズの面影が映る。
スズ「助けて・・・お願い・・・」
   友一、呆然と陽子を見つめている。
陽子「どうしたの?」
友一「いや・・・何もない」
陽子「普通が一番って意味。友一は、強盗なんかにならないでよ」
友一「なるかよ。でも、これからの人生、何が起こるかわからないしな・・・」
   友一の足元にペルシャ猫が近づいてくる。友一、猫を抱き上げ、頭を撫でる。
   パトカーのほうに振り向く友一。
   男が警官の前に立ち事情徴収されている。
   ダンプのそばに牽引車が止まっている。
   友一、陽子立ち上がり、ダンプのほうに向かって歩き出す。
   友一、ふと足を止め、感慨深げにスズが走り去った方向を見つめている。
   
                     − 完 − 

【2002.3/4 『ガースのお部屋』シナリオ『ハイウェイヒート』】  

 

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