「銃声の囁き」 作 ガース

 

○ 鉄道橋(夜)

  けたたましい滑車音をたて、急行列車が

  橋の上を走っている。

○ 橋脚下・河川敷

  列車の音が静かに止むと、野太い男の声

  が響き渡る。

男の声「動くな!」

  両手で銃を構える男の手。

  橋脚に身を這わせ、怯えている金髪の少

  年二村 供輝(17)。

  男のシルエット。銃を構えながらゆっく

  りと二村に近づいている。

二村「勘弁してくれよ、ジジィ!」

  男、二村の前で立ち止まる。無気味に笑

  みを浮かべる口元がうっすらと映る。

男「一週間前、ここで祭りがあったことおま

 えも知ってるな」

二村「知るか!」

  男、撃鉄を起こし、

二村「(笑みを浮かべ)撃ってみろよ」

  橋の上を走る急行列車の轟音と同時に引

  き金を引く男。銃弾は二村の右頬をかす

  り、橋脚に弾く。

  硝煙が男の周りに立ち込めている。

二村「(体を震わせ)いました!」

男「仲間は何人いた?」

二村「七人・・・」

男「友達か?」

二村「ネットの掲示板で知り合ったんだ。あ

 ん時初めて会った奴らだからもう顔も名前

 も覚えてねぇよ」

男「嘘つくな!」

  男、二村の額に銃口を当て、

二村「(顔を引きつらせ)中学の時のダチが

 二人いた・・・」

  男、おもむろに二村の体をまさぐり、ズ

  ボンのポケットから携帯を取り出す。

男「そいつらここに呼び出せ!」

  二村の胸元に携帯を押しつける男。

  二村、怪訝に男を見つめながら、素早く

  携帯を掴み取ると、ボタンを押し始める。

    ×  ×  ×

  暗がりの中を轟音が鳴り響く。2つの丸

  いライトが少しずつこちらに近づいてい

  る。

  立ち止まる2台の原付きバイク。バイク

  から下りる茶髪の香川 竜(17)と赤い髪の

  夏見 孝之(17)。

香川「(大声で)二村!」

  辺りは静けさに包まれている。

夏見「おもしろいことやるって言ったから来

 たのによ」

  少年達の背後に近づく影。

  足音が少しずつ大きく鳴り響いている。

  振り返る香川、夏見。

  腕を後ろに回し、口と手首をロープで縛

  られた二村と髪をオールバックにしサン

グラス、髭、黒のつなぎを身に付けた中

年ふうの男が立っている。

香川「二村!」

  二村の蟀谷に銃口を当てる男。

  香川、おもむろにジージャンのポケット

  に手を入れている。

夏見「おっさん、誰?」

男「一週間前、ここで何があったか、覚えて

 るな」

香川「頭悪いから、もう忘れたよ」

男「カップルが襲われたんだ。男は金鎚やパ

 イプ、スタンガンで体中の骨が砕けるまで

 ボコボコに殴られた挙げ句、川に放り込ま

 れた。女の方は強姦され、その後ガソリン

 を巻かれ火を付けられた。今も意識不明の

 重体だ」

香川「だから」

夏見「何が言いてぇんだよ」

男「おまえら、人間の姿した悪魔だろ・・・」

  香川、夏見、同時に失笑し、

香川「(腹を抱え大笑いしながら)こいつ、

 俺達が犯人だって決めつけてるぜ」

夏見「バカだよ、バ〜カ」

  男、無表情に銃を二人に向け撃つ。

  香川のバイクに銃弾が当たる。

香川「俺のバイクに何しやがんだ、クソジジィ

 !」

夏見「ブッ殺すぞ」

  男、ズボンのポケットから一枚の写真を

  取り出し、香川達の前に投げ飛ばす。

  香川の足元に写真が落ちる。

  写真は、5人の男達が女を押し倒してい

  る現場が写し出されている。

  橋の上を走る電車の明かりで二村の顔だ

  けがくっきりと写し出されている。

男「少年が死ぬ前に撮った最後の写真だ。事

 件の日に彼女と一緒にプールに行ったフィ

 ルムネガとお前らがここで何かしらしてた

 のが写ってる」

  香川、写真を拾い上げ、見つめると無気

  味に笑い声を上げ、

香川「写ってんのは(二村を指差し)そいつ

 だけじゃん」

夏見「これじゃあ、証拠にもなんねぇよ」

  香川、写真を粉々に破り、川に投げ捨て

  る。

香川「(ふざけながら)そんなにまでして俺

 達を犯人扱いしたいなら、勝手にしろ」

  男、寡黙に二人を見つめている。

  香川のバイクからガソリンが漏れている。

  男、二村を連れゆっくりと二人の少年に

  近づいていく。

  夏見、男を睨み付けながら、背中に隠し

  ているパイプを取るタイミングを狙って

  いる。

男「お前らは死んで同然の人間だ。この世に

 生きてちゃいけない存在なんだ」

夏見「わけわかんねぇよ、こいつ」

香川「舐めんなよ、おっさん!」

  夏見、パイプを素早く取り出し、男の拳

  銃を叩き落とす。

  香川、素早く男にスタンガンを押し当て

  る。男、悲鳴を上げ、ショックで地面に

  倒れる。夏見、男に向かっておもいきり

  パイプを振り回す。

  二村、男の体を何回も蹴りつけている。

  香川もパイプを持ち、男の顔や腹を何回

  も殴りつける。

香川「(大きくパイプを振りかぶり)ふざけ

 んなよ、おら!」

夏見「俺達犯人扱いしやがって」

  苦悶の表情を浮かべている男。

  男を殴るのをやめると、二村の口元のロー

  プをほどいてやる香川。

二村「サンキュー!」

香川「誰だ、こいつ?」

二村「街歩いてたらいきなり銃突きつけられ

 てよ」

香川「ポリか?」

二村「知るか」

香川「あっさり捕まってんじゃねぇよ」

  香川、突然二村にスタンガンを当てる。

  悲鳴を上げ倒れる二村。

  顔面血だらけの男。

香川「(スタンガンを近づけ)こいつでケリ

 つけて川へ投げ込むぞ」

  男の目の前に近づいてくる香川。男、す

  かさず香川の右手を片手で掴み、スタン

  ガンを奪い取ると、投げ捨てる。

  地面に落ちたスタンガンの電流が零れて

  いたガソリンに引火。三人の周りを炎が

  包む。

  慌てて後ろを振り返る香川と夏見。

  その瞬間、男が背後から夏見の両足を両

  手で突く。夏見、舞い上がる炎の中に倒

  れ、体中に火が燃え広がる。

  香川、夏見の姿に唖然としている。

  夏見、呻き声をあげながら川に飛び込む。

  男、立ち上がり、地面に落ちた拳銃を取

  ろうと手を伸ばすが、すかさず香川が銃

  を拾い上げ男に向ける。

男「なぜあんなことした」

香川「別に・・・暑くてむしゃくしゃしてた

 だけさ・・・」

男「獣が」

香川「人のこと言えるのか?あんたが今やっ

 てることも獣じゃねぇか」

男「被害にあったカップルと同じ苦痛を味わ

 え、おまえらも」

香川「っるせぇ、死ね!」

  引き金を引く香川。しかし弾がでない。

  男、香川の腹を突くように殴り、拳銃を

  奪い取る。

男「お前らに人の命と自由を奪う権利はない」

  男、ポケットをまさぐり、掌に乗せた弾

  を見せつける。

香川「あんたはどうなんだよ!」

  シリンダーを取り出し、弾を込め始める

  男。

男「俺が弾を込めてる間にここから逃げろ。

 それまでに逃げ切れなかったらお前は死ぬ」

香川「子供相手に何考えてんだよ」

男「大人顔負けの犯罪者が、今更子供ぶるな」

香川「大人が少年殺していいのかよ?」

男「時には、法律を破る必要がある。これ以

 上腐った人間を増やさないために・・・」

香川「ヒーローきどってんじゃねぇよ、クソ

 ジジィ!」

  五発目の弾をシリンダーに詰め、閉じる。

  男。銃を構え、香川に向けている。

香川「おまえら大人が、俺達みたいなのを作っ

 たんだ、おまえらのせいだろ!」

  香川、怯えた表情で後ずさると、そのま

  ま男に背を向け走り始める。

  時折、振り返り走り続ける香川。

  橋の上を急行列車が轟音を立て通ってい

  る。

  男、引き金を引く。銃声は電車の轟音に

  掻き消される。香川、走り続けている。

  男、香川を睨み付け、的確に照準を合わ

  せると引き金を引く。

  走っていた香川が崩れるように倒れる。

  しかし暫くしてまた立ち上がり、左腕を

  押さえながら歩き始めている。

  男、引き金を引く。

  弾は香川の背中を貫通する。香川、膝ま

  づき、前のめりに倒れると息絶える。

  全身の力を抜き、力ない表情を浮かべる

  男・・・。

 

○ 電車の中(翌朝)

  満員の中、吊革を持ち立っているスーツ

  姿の中年の男。

 

○ ビジネス街

  寡黙に歩いている男の隣に、若いスーツ

  着の男が近づく。

若い男「萩原さん」

  男は萩原 武雄(48)。

萩原「松井か」

  若い男は松井 和則(28)。

松井「宇田川の河川敷で若い男達の他殺体が

 発見されたそうです。一人は全身に火傷を

 おって重体だそうです」

萩原「そうか」

松井「先週の事件と何か関連ありそうですね。

 被害状況も似てますし・・・」

 

○ ビジネス街通りを走るパトカー。

  騒々しくサイレンが鳴り響いている。

  

○ パトカーの中

  後部座席に座る萩原と松井。

松井「息子さんの彼女の容体どうなんですか?

 」

萩原「まだ意識を取り戻してない。小康状態

 だ」

  松井、萩原の寡黙な表情を怪訝に見つめ、

萩原「松井、おまえが俺の立場になったとき、

 おまえなら犯人をどうする?」

松井「もし僕の子供がそんな目にあったら確

 実に犯人達を殺しますよ」

萩原「刑事の立場を捨ててでもか?」

  松井、萩原の悲しげな目を見つめ、

松井「・・・おそらく・・・」

   ×  ×  ×

  サイレンを唸らせ、車道を走り去るパト

  カー。

  −終わり−

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