「クリミナル・ホーク」 作 ガース

 

○ 森の中(深夜)

  木の枝に一匹のハイタカが止まっている。

  黄色く光る険しい目に、都会のイルミネー

  ションが映っている。

 

○ 輝男の部屋

  デスクのパソコンと対峙している竹沢輝

  男  。『経済学の穴場』のHPから、ブッ

  クマークに入れていたUSJのHPへ画

  面を切り替える。

  バナー広告に目をやる輝男。黒い背景の

  上で赤い鷹の絵が点滅している。

  その上に「鷹は死なずに、穂を摘む」と

  黄色い文字が書かれている。

  輝男、漫然とバナーをクリックする。

  サムネイル表示で、数百人の人の顔が映

  し出されていく。首を傾げる輝男。

  ある男の写真をクリックする。男の拡大

  写真が映し出され、その右横に「痴漢行

  為  32犯」と書かれている。

輝男「なにこれ・・・」

  輝男、次々と写真をクリックしていく。

  いろんな男女の写真と共に、それぞれ「

  万引き」「置き引き」「傷害」「レイプ」

  「偽造」「誘拐」「強盗」「殺人」など

  の文字が映し出される。

  ある写真を見つめ、顔色を変える輝男。

輝男「なんで藤井が・・・」

  写真をクリックする。拡大写真と共に「

  恐喝 10犯」の文字が映る。

  苦笑を浮かべる輝男。

 

○ 竹沢家の家の庭の木に止まる鷹の後ろ姿

 

○ 国道を走るグリーンのワゴンR(翌朝)

 

○ ワゴンR・車内

  ハンドルを握る輝男。助手席にに真部瑠

  璃  が座っている。

  瑠璃、輝男の赤い目を見つめている。

瑠璃「もしかして、寝不足?」

輝男「昨夜、経済学のレポートまとめてて」

瑠璃「だから30分も遅刻したんだ」

輝男「わるい。その後ネットで変なサイト見

 つけてさ、2時間ずっとそれに夢中」

瑠璃「(疑念の眼差し)変なってどんな?」

輝男「普通の人の画像が一ページずつにリス

 トアップされてて、その右横に犯罪名が書

 かれてるの」

瑠璃「それって前科者のリスト?」

輝男「誰かのいたずらじゃないかな。俺の高

 校時代の友達の写真もあってさ。そいつの

 リストに「恐喝 10犯」なんて書かれて

 たから、爆笑しちゃって・・・」

瑠璃「・・・」

 

○ USJ

  ジェラシックパーク、バックドラフトな

  ど様々なアトラクションを楽しむ輝男と

  瑠璃。

 

○ 天保山・展望台(夕方)

  地平線に沈む夕陽を見つめている輝男と

  瑠璃。

輝男「人、多すぎだ」

瑠璃「3カ所回れただけでも、結構楽しかっ

 たよ」

輝男「メールで知り合って早一年。あっと言

 う間だったな」

瑠璃「・・・輝男と知り合えて良かったよ。

 だってそれまでどこにも連れてってくれる

 人、いなかったし・・・」

輝男「嘘つけ」

瑠璃「本当だって!」

 

○ 団地(夜)

  白い建物の前にワゴンRが止まる。

瑠璃「私の家。入りたい?」

輝男「いいよ、嫌なんだろ?」

瑠璃「つきあって一年目の記念日だし、今日

 から解禁にするよ・・・」

  ワゴンRのそばを男が横切っていく。輝

  男、男の顔をジッと見つめている。

 

○ 真部家

  台所に食べ残しのカップ麺とビールの空

  缶が山済みになっている。

瑠璃「輝男の家みたいに立派じゃないけど・・

 ・」

  輝男、怪訝に辺りを見回している。

瑠璃「(冷蔵庫を探り)何か飲む?」

 

○ 瑠璃の部屋

  テレビ以外は何も置かれていない。

  畳の上に吸殻が盛り上がった灰皿が置か

  れているのをジッと見つめる輝男。

瑠璃「うちの兄貴が吸うんだ」

  輝男の背後に立つ瑠璃。お盆に乗せたウー

  ロン茶の入ったコップを輝男に渡す。

瑠璃「十年前に両親が死んでからずっと兄貴

 と二人で暮らしてるの」

  瑠璃、畳に座り、ウーロン茶を飲んでい

  る。輝男も座り、飲み始める。

輝男「そうだったんだ。初めて知った」

瑠璃「ごめん、今まで隠してて」

輝男「別に。気にしてない」

  瑠璃、輝男と目を合わし、キスをする。

瑠璃「輝男に・・・知っといてもらいたいこ

 とあるんだけど・・・」

輝男「(瑠璃を優しく見つめ)何を?」

  輝男、瑠璃の背後に立つ男を見、驚愕す

  る。

  小太りで髭を生やした男が、入り口の前

  に立っている。右手にナイフを持ってい

  る。瑠璃、男の前に立ち塞がり、

瑠璃「私が誘ったの、だからこの人に何も

 しないで、お願い!」

男「(低い声で)俺の瑠璃に手出ししやがっ

 て!」

  男、輝男にナイフを振り下ろす。

  輝男、咄嗟に体をはねのける。畳にナイ

  フが突き刺さる。

  輝男、男の顔を見て、パソコンの中のH

  Pのリストに映っていた男の顔を思い出

  す。その男のリストには、「殺人 2犯」

  と書かれている。

  輝男、愕然とし、二人の合間を縫って外

  へ飛び出していく。

 

○ 団地前通り

  車道脇に止めていたワゴンRが見当たら

  ない。輝男の脳裏に、瑠璃の家に入る前

  に、車の前を横切った男の顔がよぎる。

  パソコンのHPのリストに男の写真。右

  横に「連続車窃盗 25犯」と書かれて

  いる。

 

○ 電車・車内

  客で混雑している。輝男、吊革を持ち、

  顔を顰めている。漫然と、隣にいたOL

  の背後にいる若い男の顔を見つめる輝男。

  輝男の顔が強ばる。

   ×  ×  ×

  リストに映る男と、その右横に「痴漢行

  為  23犯」の文字。

   ×  ×  ×

  男の手が、OLの腰に忍び寄る。輝男、

  思わず男の手を掴む。男、輝男を睨み付

  ける。

 

○ とある駅のホーム

  男に殴り飛ばされ、地面に倒れる輝男。

  男、輝男の腹を一蹴りし、立ち去ってい

  く。輝男、苦痛に顔を歪ませる。

  

○ 繁華街

  足取りが重く、ふらふらと体を揺らしな

  がら歩いている輝男。

  携帯が鳴り響く。立ち止まり、携帯に耳

  を傾ける輝男。

瑠璃の声「私・・・さっきはごめん・・・」

輝男「あいつ殺人犯だろ?」

瑠璃の声「・・・どうして・・知ってるの?」

輝男「ネットのリストで、あいつの写真を見

 たんだ・・・」

瑠璃の声「私の兄貴なの。十年前、私達の両

 親を殺したの・・・」

  吃驚する輝男。

瑠璃の声「病院から抜け出して来たみたい・・

 ・このままだと私、また兄貴にとりつかれ

 る・・・輝男、助けて・・お願い・・・」

  輝男、辺りを見回している。通りすがる

  人々の顔をまじまじと見つめる。

  リストで見た写真の顔と、街を徘徊する

  人々の顔が次々と一致していく。

輝男「この街は、犯罪者だらけだ・・・」

  輝男の背後に何ものかが急接近し、肩を

  叩く。慌てて振り返る輝男。

  皮ジャンに髭を生やした長身の男が輝男

  を見つめている。

輝男「藤井・・・」

藤井「こんなところで何してんだよ?」

輝男「驚かすなよ。高校以来だな」

  笑みを浮かべる輝男。だが、脳裏に藤井

  のリストがよぎる。「恐喝 10犯」の

  文字が浮かぶ。

輝男「(強面になり)・・・」

藤井「何恐い顔してんだよ?」

輝男「いや、べつに。ちょっと今から野暮用

 だから・・・またな」

藤井「携帯の電話番号教えろよ。またどっか

 で会おうぜ」

輝男「(困惑気味に)ああ・・・」

      

○ 住宅街

  辺りを怪訝に見回しながら歩いている輝

  男。前方にスーツ着の男が近づいて来る

  のに気づき、慌てて顔を見るが、リスト

  で見た顔ではなく、安堵する。

  輝男の家の隣の門前に二人組の男が佇ん

  でいる。

  輝男、顔を見ずその場を横切る。

  輝男の家の門前に、瑠璃が座り込んでい

  る。

  瑠璃、輝男に気づき、立ち上がる。

  輝男のそばに近寄り、強く抱き締める。

  体を震わせ、輝男の肩に顔を埋める。

瑠璃「兄貴のこと知った友達は、皆私から離

 れていった・・・輝男もそうなの?」

輝男「・・・俺は、逃げないよ。兄貴は殺人

 者だとしても、おまえは、そうじゃない

 んだし・・・」

  輝男、瑠璃の右手の甲に赤い筋状の血が

  ついていることに気づき、驚愕する。

輝男「(声を震わせ)兄貴殺したのか?・・・

 」

  瑠璃、涙を浮かべながら頷く。

  輝男、驚愕する。

  電柱に止まる鷹が二人の様子を見つめて

  いる。漫然と空を向く輝男。鷹と目を合

  わせる。鷹、羽根を広げると、満月に向

  かって羽ばたいていく。

  鷹を呆然と見守る輝男。

 

○ 国道を走るトランザム(数日後)

 

○ トランザム車内

  ハンドルを握る男。緑色の髪に、サング

  ラスをかけ、顔は見えない。助手席に座

  る赤毛の女もサングラスをかけている。

  スピーカからラジオのニュースが流れて

  いる。

アナウンサーの声「今朝、大阪市大東区の郵

 便局に二人組の男女の強盗が押し入り、現

 金230万円を奪い、現在も逃走中です」

  女、ラジオを消し、サングラスを外す。

  女は、瑠璃である。男もサングラスを外

  す。男は、輝男である。

  瑠璃、鞄の中の札束を持ち、

瑠璃「これからどうする?」

輝男「とりあえず、USJのアトラクション

 に雲隠れだ」

  笑みを浮かべる二人。

  

○ パソコンのディスプレイに輝男と瑠璃の

  写真が映し出される

  その右横には、「車・現金強盗・殺人

  3犯」の文字が書かれている。

  鷹のマークが無気味に点滅している。

                                     

                       −終わり−

 

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