「メディア・インフルエンス」 作 ガース

            

○ 立体駐車場・5F(夜)

  女の激しい息遣いと、足音が響いている。

  しきりに背後を振り向きながら駆けてい

  る女。

  悲鳴を上げる女の背後を駆ける男の足元

  が映る。

          

○ 同・屋上階

  女が坂を駆け登ってくる。

  男、コートからナイフを握った左手を出

  し女に振り向ける。

  背中を切られる女。その場に倒れ込む。

              

○ 立体駐車場・遠景

  女が勢い良く地上へ落ちていく。

  体を強く打ち付ける生々しい音が聞こえ

  る。

            

○ 郷子の部屋

  テレビ画面にワイドショー番組が映って

  いる。二人のコメンテーターが会話を繰

  り広げている。

コメンテーターA「最近ストーカー事件が多発してま

 すよね。犯人の性格は、いずれも短絡的で、 

 衝動的に殺人を犯している・・・」

コメンテーターB「悲劇的な事件が繰り返されている

 状況を憂いますよ、私は。このまま行けば

 日本は必ずや・・・」

  テレビが切れる。

  ソファに座り、ファッション雑誌を読ん

  でいる高沢郷子(18)。

  携帯のアラームが鳴り出す。

  郷子、ボタンを押し、ディスプレイを見

  つめる。

  「檜山公園に5時に待ってるね」と言う

  文字が映る。

           

○ ブティック

  辺りに並べられた洋服を見回る郷子と、

  紫峨野未希(18)。

           

○ ファーストフードショップ

  ホットドックを食べながら、携帯のメー

  ルを打つ未希。

  郷子もメールを打っている。

郷子「ねぇ」

未希「何?」

郷子「昨日、安江が3組の原田君と一緒にデー

 トしたんだって」

未希「嘘!マジで」

郷子「マジマジ!二人で檜山通り歩いてたら、

そこに前につきあってた彼氏と鉢合わせに

 なって・・・」

未希「それで?」

郷子「より戻したらしいよ」

未希「なんで?」

郷子「原田君、その彼氏と喧嘩してボコボコ

 にされたんだって」

未希「あの原田君が喧嘩負けたの?体大きい

 のに以外と弱いんだ・・・」

郷子「それで安江が前の彼氏を見直したって

 わけ」

未希「それって、安江から直接聞いたの?」

郷子「(首を振り)真由美から聞いたの、メー

 ルで」

未希「そう言えば真由美今日学校に来なかっ

 たね・・・」

郷子「たぶん風邪じゃない。昨日メールでそ

 う書いてたし」

未希「ふ〜ん」

           

○ 郷子の家・リビング

  テーブルで食事をしている郷子。手元に

  置いていた携帯が鳴る。

  携帯を持ちディスプレイを見つめる郷子。

  「安江、明日変な男に襲われるよ。やば

  いよ 真由美」とメッセージが表示され

  ている。

  郷子、憮然とした様子でまた食事を始め

  る。

            

○ 高校・3−A教室(翌朝)

  数学の授業。教師が教科書を読みながら、

  黒板に数式を書き始めている。

  ノートをとっている郷子。背後の真由美

  の座席を見つめている。座席に真由美の

  姿はない。

  スカートのポケットに入れていた携帯が

  震え出す。携帯を出し、ディスプレイを

  見つめる郷子。

  「16時ジャスト、安江がやばい 真由

  美」のメッセージが書かれている。

   郷子、前の席に座る安江を見つめる。

  安江、授業に集中している。

  郷子、微笑むと、携帯をポケットにしま

  う。

  

○ 同・門前(夕方)

  生徒達が下校している。

  万遍と辺りを歩く生徒達の中を、郷子と

  未希が歩いている。

  遠くから車の急ブレーキ音が鳴り響く。

             

○ 門前・横断歩道

  軽トラが、猛スピードでバックし、逃げ

  去っていく。路上で女生徒が頭から血を

  流し倒れている。

  生徒達が女生徒の周りを取り囲んでいる。

  生徒を押し退け、郷子と未希が円陣の中

  に入ってくる。

  驚愕する郷子。女生徒は安江である。

  郷子、慌てて携帯を出し、真由美のメッ

  セージを見る。

  時間は16時を表示している。

未希「(郷子の様子を見て)どうしたの?」

  微動だにしない郷子。

            

○ 郷子の部屋

  携帯のディスプレイの画面

  「どうして安江の事、わかったの? 郷

  子」のメッセージが映る。

       ×  ×  ×

  「だから言ったでしょ。予知能力がある

   のかも・・・私。真由美」のメッセージ。

    ×  ×  ×

  「だったら明日何が起こるか、当てて見

  てよ」のメッセージ。

       ×  ×  ×

  「いいよ。じゃあ明日はね、未希がやば

   いよ 真由美」のメッセージ。

        ×  ×  ×

  未希に電話している郷子。

郷子「今日の安江の事故さ、真由美が当てた

 んだよ・・・マジだって。それで明日はあ

 んたがやばいって真由美が言ってた・・・

 えっ、だって電話に出たがらないんだもん

 真由美。声でも潰してるんじゃないかな・・

 ・」

          

○ 大通り・歩道(翌朝)

  郷子と未希が肩を並べて歩いている。

未希「どうして私が自殺しなきゃいけないの

 よ!」

郷子「だって真由美がそう言ったんだもん」

未希「何が予知能力よ。真由美風邪引いて頭

 がおかしくなったんじゃない?」

郷子「・・・」

               

○ 高校・食堂

  販売店の前に立ちパンを買っている郷子。

   ×  ×    ×

  携帯の時計を見る・時間は、12時31

  分を差している。

  

○ 食堂前

  辺りを見回している郷子。校舎の屋上を

  見つめ、驚愕する。

  屋上のフェンス越しに未希が立っている。

         

○ 校舎・屋上

  入口の扉を開き、郷子が現れる。

  未希がフェンスの向こう側に立っている。

郷子「未希!」

  振り向き、郷子を見つめる未希。涙を浮

  かべている。

郷子「どうしたのよ!」

未希「あんたどうして真由美に私の彼氏のこ

 と喋ったのよ!」

郷子「・・・彼氏が、どうかしたの?」

未希「惚けないでよ、真由美が私の彼氏とつ

 きあってること、知ってたんでしょ」

郷子「知らないわよ、私・・・」

未希「真由美がメールで書いてきたのよ。私

 3年間、ずっと騙され続けたんだ・・・」

郷子「彼氏に直接聞いたの?」

未希「聞けるわけないじゃない。ドイツに行っ

 てるのよ。携帯持ってないし・・・」

郷子「落ち着いてよ。真由美に会ってちゃん

 と話ししようよ」

未希「真由美が作ってるHPに写真があった

 の・・・私の彼氏と一緒にベッドにいる

 写真・・・」

  未希、飛び降りる。郷子、悲鳴を上げる。

              

○ 真由美の家

  インターホンを鳴らす郷子。怒りに満ち

  た表情を浮かべている。

  鳴り出した携帯をポケットから取り出す。

  ディスプレイのメッセージが映る。

  「うちに来ても無駄だよ 真由美」

  郷子、メールを打ち始める。

  「未希が飛び降りたのは、あんたのせい

  よ。何考えてるの?」

   ×  ×    ×

  「やっぱり当たった。私の予知能力ずば

  抜けてるよね。 真由美」

     ×  ×   ×

  「うちにいるんでしょ?さっさと開けて

  よ」

    ×  ×    ×

  「実はうちにはいないの。そろそろニュー

  ス始まる頃ね。私が映ってるかも・・・」

                   

○ 郷子の家・リビング

  ニュース番組。アナウンサーの男が映っ

  ている。

アナウンサー「檜山町にある崎川高校の裏山

 で若い女性の遺体が発見され、被害者は、 

 崎川高校に通う戸田真由美さんと断定され

 ました。警察では、真由美さんがなんらか

 の事件に巻き込まれたものと見て・・・」

  愕然とひざまづく郷子。

  テーブルに置かれていた携帯が鳴り出す。

  身震いする郷子。

  ゆっくりと携帯に近づき、メッセージを

  見つめる。

   「ねぇ、私映ってたでしょ。    真由美」

  鼓動を高鳴らせながら、メールを打ち始

  める郷子。

  ディスプレイに映るメッセージ。

  「あんた・・・誰?」

   ×  ×    ×

  「私の予知能力によると、次にやばいの

  は、郷子だよ。それも今晩。男に襲われ

  るの。 真由美」

   ×  ×    ×

   郷子、慌て出し、

郷子「(声を震わせ大声で)お母さん、お母さん!」

  リビングから離れようとした郷子の前を、

  軽トラがガラスを突き破り姿を現す。

  運転席から、男が現れ、郷子の前に立ち

  塞がる。

  左手に携帯を持つ男。キティのストラッ

  プがついている。

郷子「・・・それ・・・真由美の・・・」

  男、携帯を床に投げつけ、ナイフを手に

  持つ。

  携帯を踏みつけ、郷子に近寄る男・・・。

                 

○ テレビ画面

  アナウンサーが新機種の携帯の紹介をし

  ている。

アナウンサー「今度の携帯は、アリバイ機能

 というのがついているのがあったり、また

 ここを押すと様々なアニメのキャラクター

 がカラーで表示されるんですね・・・」

                           −終わり−

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