『BELIEVE IN KNIGHT』 作 ガース「ガースのお部屋」

ACT4→ACT5<クライマックス/ラスト編>


―ACT4―
○ カリフォルニア州内オズロー国際空港・管制室
  静かに管制作業を続ける管制官達。
  目の前で正座している警備員の男に後頭部に銃口を当てているウィル。
管制官達を見回している。
  右側の列の管制卓に座る管制官の男に声をかけるウィル。
ウィル「おい!」
  ウィルのほうに顔を向ける男。
ウィル「ちょっと来い」
  ウィルの前に向かう管制官の男。
男「なんでしょう?」
ウィル「4時35分到着予定のアトランタ発737型機は、今どの辺を飛んでいる?」
男「すぐに調べます…」
  立ち去る男。ウィル、少し疲れた表情を浮かべ、項垂れる。

○ 解体ビル前
  入口の前に止まっているナイト2000。
  ナイト2000の後部バンパー部にもたれ、座っているプレスコット。息切れし、
  へたばっている。
キットの声「どうしたんです?マッチョマン。絵を見たくないんですか?」
  立ち上がるプレスコット。
プレスコット「もうどうにでもしやがれ…」
  力なく、立ち去っていくプレスコット。
  マイケルとマーニーが走って表に出てくる。
  車に乗り込むマイケルとマーニー。
  エンジンがかかる。
  勢い良くバックするナイト2000。
  切り返し、前進。土煙を上げながら、敷地を出て行く。

○ 丘の上
  うねる道を加速するナイト2000。

○ ナイト2000車内
  ハンドルを握るマイケル。助手席に座るマーニー。
キット「フィービーの居場所は、わかったんですか?」
マイケル「サーベイ・マックスの建設中の工場だ」
  マーニー、不思議そうな顔でマイケルを見つめ、
マーニー「あなた、変わったお友達を持ってるわね」
マイケル「ああ、紹介するのを忘れてた。こいつは…」
キット「もう紹介済みです」
マイケル「そうか。なら話は、早い」
マーニー「さっきからおかしなことばかり言うのよ。覗きが趣味のようね」
キット「変人扱いは、やめてください」
マイケル「マーニー、この車には、特別な装置が組み込まれていてね…」
  通信のアラームが鳴り響く。
キット「マイケル、デボンさんからです」
  モニターに移動本部のコンピューターの前に立つデボンが映し出される。
  マーニー、怪訝な表情でデボンを見ている。
デボンの声「フィービーは、見つかったか?」
マイケル「今彼女がいる場所に向かっているところだ。今度の事件には、
 警察関係者も噛んでる」
デボンの声「誰だ?」
マイケル「名前は、わからないけど、そいつがウィルを監視し、彼を殺人犯に仕立てたんだ」
デボンの声「その事だが、ウィルと一緒に消えたマーニー・シャリフ保安官がその殺人の
 共犯として指名手配されたぞ」
マーニー「私が共犯ですって?」
  唖然とするデボン。
デボンの声「なんだ?今の声は?」
マイケル「その保安官殿は、今、俺の隣に座っているよ」
デボンの声「そりゃあ、どう言う事だ?」
マイケル「詳しい事は、後で話す」
デボンの声「それから、もう一つ、ウィルが、君と直接話しをしたいと言っている」
マイケル「でも、フィービーは?」
デボンの声「とにかく、先にウィルと会うんだ。いいな」
マイケル「わかったよ…」
  モニターが消える。
マーニー「フィービーは、私に任せて」
マイケル「1人で助け出すなんて無理だ」
マーニー「あなたを助けたのは、誰?」
マイケル「それとこれとは、わけが違う」
キット「私がつきそいます、マイケル」
  困惑するマイケル。
マイケル「…仕方ない。キット、オズロー国際空港までの最短コースだ」
  マイケル、コンソールのパネルの『SUPER PURSUIT MODE』のボタンを押す。

○ スーパー追跡モードに変形するナイト2000
  高鳴るジェットエンジン。
  
○ ナイト2000車内
  デジタル表示のスピードメーターが「100」から「160」へ、みるみる上がって行く。
  悲鳴を上げるマーニー。

○ 砂漠の道
  一直線の道を瞬く間に走り去って行くナイト2000。
 
○ カリフォルニア州内・オズロー国際空港・管制塔
  緊急ブレーキシステムを作動させるナイト2000。敷地の門前に勢い良く立ち止まる。
  車から降りるマイケルとマーニー。
  マーニー、顔面蒼白。
マイケル「少し飛ばし過ぎたみたいだな…」
マーニー「朝から何も食べてないのよ。ちょっと気分が悪くなったけど平気」
マイケル「何かあったらすぐに連絡をくれ」
マーニー「ええ。ウィルのことよろしくね」
  マイケル、門を潜り、管制搭に向かって走り出す。
  ナイト2000の運転席に乗り込むマーニー。
  Uターンすると、また勢い良く加速し、走り去って行くナイト2000。

○ 同・管制室前
  階段や壁沿いに並んでいる警官達とSWATチーム。
  素早く階段を駆け上がってくるマイケル。
  入口前に立つパクとオウブの前に立ち止まる。
マイケル「マイケル・ナイトだ」
  パク、腕時計を見つめ、
パク「時間がない。すぐに中に入ってくれ」

○ 同・中
  ウィルの前の管制卓。小さなモニターが置かれている。
  管制搭の真下を取り囲むパトカーと警官達の様子が映っている。
  警備員の背中に銃口を向けたままのウィル。
  電話が鳴る。受話器を取るウィル。
ウィル「何だ?」
オウブの声「マイケル・ナイトが到着した。今から中に入れる」
ウィル「マイケル1人だぞ。余計な事をしたらわかってるだろうな」
オウブの声「心配するな。何もしない」
  受話器を戻すウィル。
  扉が開き、マイケルが入ってくる。
  ウィル、マイケルを見ると、緊張が解け、柔和な表情を浮かべる。
ウィル「マイケル…もっと早く君に相談すれば良かった…」
マイケル「マーニーって言う保安官から事情は、聞いた。証拠の資料も手に入れた」
ウィル「何で君があの保安官の事を知ってるんだ?」
マイケル「偶然出会ったんだ。君の潔白を証明しようと1人で躍起になっていた。
 もうすぐ彼女がフィービーを連れてくるはずだ」
ウィル「僕を殺そうとした女から聞いたんだ。僕らを狙っているのは、
 現職の刑事だって事を…」
マイケル「そうみたいだな。今それについても調べているところだ」
ウィル「…そうか。サーベイ・マックスが新しく建設しようとしている工場の
 地下には、新開発のプルトニウム抽出装置がセッティングされる計画になっている。
 そのプルトニウムを誰かが横流ししようとしている…大量の核弾頭にも転用できるんだ」
  ウィル、入口を見つめる。扉口で慌しい物音がしている。
ウィル「…このクソ野郎!」
  ウィル、扉に向け、拳銃を発射する。
  扉に風穴が開く。
マイケル「落ち着け、ウィル!」
ウィル「あいつら、強行突入する気でいるんだ」
  ウィル、大声を張り上げ、
ウィル「おい、737は、今、どこだ?」
  右側の管制卓に座っている男がウィルのほうを向き、話し出す。
男「…あと5分で到着します」
ウィル「その飛行機を着陸させるな」
  唖然とするマイケル。
マイケル「ウィル、一体何を考え…」
  ウィル、マイケルに銃を向け、
ウィル「僕の邪魔をしないでくれ。君を撃ちたくないんだ」
  険しい表情を浮かべるマイケル。

○ とある地下部屋
  暗闇の中、壁隅にもたれ座っている茶髪のセミロングの女性・フィービー・ステア。
  錠が開く音。部屋に光が差し込む。
  入口前に立っているブローリー。
  怯えた表情のフィービー。
ブローリー「立て」
フィービー「どこに行くの?」
ブローリー「宇宙よりも遠い場所だ。ウィルと一緒に送ってやる」
  フィービーに銃を向けるブローリー。
  呆然とするフィービー。

○ 郊外
  丘の上にポツンと立つ建設中の3階建ての工場。まだ骨組だけの階層もある。
  スーパー追跡モードのナイト2000。一瞬で丘を駆け上がり、建物に接近する。

○ サーベイ・マックス新工場施設前
  一階の入口。表に出てくるブローリーとフィービー。
  ブローリー、フィービーの右腕を掴んでいる。
  ローバー車の後部席に乗せられるフィービー。
  勢い良く敷地に入り込んでくるナイト2000。元の形に戻っている。
  ブローリー、ナイト2000を見つめ、
ブローリー「来たな…」
  緊急ブレーキシステムを使い、急停止するナイト2000。
  運転席から降りるマーニー。
マーニー「あなたは…ブローリー警部!」
  唖然とするブローリー。
ブローリー「こんなところで会うとは、奇遇だな、マーニー保安官、いや、容疑者か」
マーニー「なぜ、あなたがこんなことを?」
ブローリー、マーニーに拳銃を向ける。
ブローリー「君は、逃走中に私と撃ち合いになり、死んだ事にしといてやる。
 コニー・フィールドで大人しく交通事故の処理だけをやっていれば、寿命を縮める事も
 なかったのにな」
  マーニー、右手に持っている封筒をブローリーに見せる。
マーニー「これが欲しいんでしょ?フィービーと交換よ」
  引き金を引くブローリー。
  マーニー、屈んで、ナイト2000のドアを開け、身を隠す。
キットの声「マーニー、早く乗って」
  ナイト2000の運転席に乗り込むマーニー。
  敷地の奥から走ってくるダンプ。
  敷地の出入り口からもう一台のダンプがやってくる。
  スピードを上げ、ナイト2000を挟み撃ちにしようと迫る2台のダンプ。
ブローリー「仕事に熱心過ぎると、こうなるんだ」
  ナイト2000の前と後ろから一直線に突進してくる二台のダンプ。
  ナイト2000のスキャナーが唸る。

○ ナイト2000車内
  前を見つめるマーニー。
マーニー「このままだとスクラップにされるわ」
  インジケータの『AUTO CRUISE』のランプが光る。

○ 発進するナイト2000
  前から来るダンプに突進するナイト2000。

○ ナイト2000車内
キット「おもいきり、踏ん張ってください」
マーニー「どうして?」
キット「説明している暇は、ありません」
  スイッチパネルの『TURBO BOOST』のボタンが光る。

○ 激しいジェット噴射音を唸らせるナイト2000
  きわどい角度でジャンプするナイト2000。
  放物線を描きながら、ダンプの上を飛び越え、着地する。
  正面衝突する二台のダンプ。
  着地した途端、前からクレーン車が現れる。
  クレーン車のアームが高く伸び、先端に大量の野太い鉄骨がぶら下がっている。
  急ブレーキで立ち止まるナイト2000。フックにかけられていたワイヤーが外れる。
  勢い良く落ちて行く鉄骨。ナイト2000の上に山積みになって落ちる鉄骨。
  その様子を見つめ、笑みを浮かべるブローリー。ローバー車の運転席に乗り込む。
  敷地を勢い良く走り出て行くローバー。

○ ナイト2000車内
  鉄骨で光が遮られ、車内は、真っ暗になっている。マーニー、両手で耳を押さえ、
  頭を下げている。手を下ろし、辺りを見回す。
マーニー「何が落ちてきたの?」
キット「鉄骨です」
マーニー「…全然びくともしないわね。やわい鉄骨で良かったわ…
 それより、さっきのジャンプは、何?」
キット「私の得意技です」
マーニー「ブローリーは?」
キット「どうやら逃走したようです」
マーニー「逃がさないわよ」

○ 工場
  走り出すナイト2000。鉄骨を振り落とし、鮮やかに180度ターンを決める。
  そのまま、逆方向へ走り、敷地から出て行く。

○ 丘の上
  少しきつめの傾斜の坂道を一直線に下りているローバー。
  その後方から猛スピードで追いかけてくるナイト2000。
  瞬く間にローバーの真後ろにぴったりと張りつく。

○ ローバー車内
  ハンドルを握るブローリー。
  バック・ミラーに映るナイト2000を見つめ、愕然とする。

○ ナイト2000車内
  険しい眼差しでローバーを見つめるマーニー。
マーニー「安全に車を止める良い方法は、ないかしら?」
キット「いくらでもあります」
マーニー「ジャンプは、駄目よ。吐きそうになったわ」
キット「では、もっと確実な方法を…」
  スイッチパネルの『MICRO ROCK』のボタンが光る。
  モニターにセダンの3Dイメージが表示される。4つの車輪がロックされる。

○ ローバーの車輪が突然止まる
  白い煙を吐きながら、道の真ん中で急停止するセダン。
  ローバーの後ろに止まるナイト2000。
  車から降りるブローリー。後部席に座っているフィービーに銃を向ける。
  ナイト2000から降り、ブローリーに銃口を向けるマーニー。
マーニー「銃を下ろしなさい!」
ブローリー「そんなに仕事に燃えて何になる?もっと頭を使え」
マーニー「どこまで落ちぶれれば気が済むの?あなたには、プライドはないの?」
ブローリー「そのプライドのために、随分損な生き方をしてしまったんだ。残りの時間は、
 自由に人生を楽しむ」
マーニー「なら、今すぐ警察バッジをはずしなさい」
ブローリー「言われなくてもそうするつもりだ。どうだ、君も私の下で働いてみないか?
 サーベイ・マックスの裏家業だが、給料は、今の仕事よりも高いぞ。くだらない正義感など、
 今すぐ捨ててしまえ」
  マーニー、引き金を引く。
  轟く銃声。
  右腕を撃たれるブローリー。銃を落とす。
  マーニー、ブローリーに銃を向けながらセダンに近づく。車からフィービーを降ろす。
マーニー「腐るにも程がある」

○ カリフォルニア州内・オズロー国際空港・管制室
  ウィル、銃口を警備員の後頭部に当てている。
マイケル「これ以上無駄な抵抗をしても自分に不利になるだけだぞ」
ウィル「黙っててくれ」
  腕時計を見つめるウィル。
  ウィル、管制官達に声を上げる。
ウィル「よし、時間だ。737に高度を保つように言え。そして、737の近くを飛んでいる
 航空機に指示を与えろ。737と同じ高度にして、近づけろ」
マイケル「冷静になれ、1人で何百人もの乗客の命を奪う気なのか?」
  マイケルに銃を向けるウィル。
ウィル「警察への見せしめのためにやるんだ」
  その時、電話が鳴り響く。
ウィル「すまないが、出てくれ…」
  受話器を持つマイケル。
マイケル「…そうか…わかった」
  受話器を置くマイケル。
マイケル「フィービーは、無事だ。今空港に着いた」
  肩落とすウィル。マイケル、すかさずウィルの銃を掴み取る。
  電子ロックが解除される。入口からフィービーとマーニーが入ってくる。
ウィル「フィービー…」
フィービー「ウィルさん」
  フィービー、ウィルに駆け寄る。抱き締め合う二人。
  マイケルの前にやってくるマーニー。
マーニー「何とか間に合ったみたいね…」
  マーニー、資料の入った封筒をウィルに手渡す。
  ウィルから離れるフィービー。
ウィル「疑って悪かった。あなたは、立派な保安官だ」
マーニー「当然よ」
  SWATチームと警官たちが一斉に駆け込み、ウィルを囲む。
  手錠をかけられるウィル。マイケルを見つめる。
マイケル「後は、俺達に任せろ」
  静かに頷くウィル。
  連行されるウィル。その姿を寡黙に見つめるマイケル達。
―ACT4 END―

―ACT5―
○ ナイト2000車内(数日後)
  モニターの映像。サーベイ・マックス社のロビー。マスコミや野次馬に囲まれながら、
  連行されているレスティアの様子が映し出されている。
アナウンサーの男の声「サーベイ・マックス社は、新しく建設予定の工場内において、
 自社が開発した装置を使って核廃棄物からプルトニウムを抽出し、それを核兵器に利用して
 転売しようとしていたのです。社長のレスティアは、警察に連行され、現在取り調べが
 行われています」
  ハンドルを握るマイケル。
  助手席に座るマーニー。
マイケル「これで、ウィルの潔白は、証明された」
マーニー「でも、管制室に立てこもった罪は、消えないわ」
マイケル「その件については、しばらく鉄格子の中で 反省してもらわないとな…」
キット「一つわからない事があるのですが。ウィルは、なぜあの空港の
 管制室にたてこもったんです?」
マイケル「社長の旦那で、会長のジミーもあの工場の一件に絡んでいたからさ。
 ウィルが狙っていた航空機にジミーが乗っていたってわけ」
キット「それじゃあ、最初から彼の乗る飛行機を墜落させようとしていたのですか?」
マイケル「本当は、そこまでは、考えていなかったようだが、結果的にサーべイ・マックスの
 悪行を世間に知らしめる事ができた」
マーニー「見かけによらず、無茶な人だったわね」
マイケル「あなたもね、マーニー保安官」
マーニー「私は、自分の職務を果たしただけ」
キット「ブローリーを捕まえた時のマーニーには、オーラが漂っていました」
マーニー「お世辞がお上手ですわね」
マイケル「着いたぞ」

○ コニー・フィールド群・保安官事務所
  建物の前に立ち止まるナイト2000。
  車から降りるマイケルとマーニー。
マーニー「またここへ来る事があったら、私の家に寄って。特大のピザを焼いてあげるわ」
マイケル「ああ」
マーニー「それじゃあ、キットさん。あなたも健康には、くれぐれも注意してくださいね」
  ナイト2000のスキャナーが唸る。
キットの声「私は、いつも健康そのものですが…」
  敬礼し、立ち去って行くマーニー。
  ナイト2000の前に立つマイケル。
マイケル「どうやら、マーニーは、お前の正体がデボンだと思い込んでいるようだぞ」
キットの声「なんですって?と言う事は、まだ、私の事を理解していなかったのですか?」
マイケル「そう言う事」
キットの声「もう一度マーニーに説明してください。私は、この車のコンピュータだと」
マイケル「コンピュータを全く信じていない人間に、何を説明しても時間の無駄さ」
キットの声「私も人間不信に陥りそうです」
マイケル「おまえの理解者は、目の前にいるだろ?」
                                               ―THE END―

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