『CODENAME:H NYAO』 「導く爪」 作ガース『ガースのお部屋』

 

○ 農道(夜)
  広大な田園風景。
  舗装されていない道を土埃を上げながら突っ走る黒い大型バイク。紫と青の縞模様のコスチュームに、蝶のアイマスクをつけた女が乗っている。
  スロットルを回し、スピードを上げる。
  バイクの後ろにかけられているチェーン。
  そのチェーンに腕を絡ませ、砂利道を引きずられている赤いコスチューム姿の女。
  蝶のマスクの女、振り返り、後ろの様子を窺う。
  引きずられていた女が消えている。
  バイクの後ろの席に座っている女。女は、暗号名・H(木崎メイナ・25歳)。
  H、蝶のマスクの女の首をスリーパーホールドする。
H「まだ殺る気?」
  蝶のマスクの女は、暗号名・QN【キュン】(須田聖美・28歳)。
QN「私の殺しのリストに加わりたいのH」
  H、QNのベルトの横についているホルダーケースに目を向ける。
  急ブレーキをかけ、立ち止まるバイク。
  H、その瞬間にQNのホルダーをもぎりとる。
  QN、Hをそのまま前方に投げ飛ばす。
  砂利道に転がるH。
  バイクのヘッドライドの両側にセットされているガトリングガンが高速回転し、銃弾を発射する。
  H、銃弾をかわし、砂利道の上をすばやく転がる。
  QN、メーターパネルのディスプレイのボタンを押す。
  バイクのフロント部に収納されていたミサイル砲が伸び、小型ミサイルが発射される。
  起き上がるH。
  迫ってくるミサイル。
  身動きが取れないH。
  爆発するミサイル。オレンジ色の炎が夜空に広がる。
  冷たい表情のQN。ターンし、逆方向に走り去って行く。
  農道脇に身を隠していたH。
  立ち上がり、QNのホルダーケースを開ける。
  中のものを取り出すH。
  Hの掌に人の足の親指の爪が乗っている。
  
○ 駅前・宝くじ売り場
  行き交う人々。
  雑踏の中を立ち止まるスーツ姿の男。
  男は、高部 峻(23)。
  店の看板を見つめながらニヤニヤしている峻。
峻「次もいける。絶対いける・・・」
  峻の背後からけたたましく聞こえてくるバイクの轟音。
  黒いハーレーが峻の前に廻り込み、立ち止まる。
  驚く峻。
  男、フルフェイスのメットをはずす。
  短髪の男・田畑博義(23)。
田畑「おう」
峻「お、おう」

○ レストラン
  窓際のテーブルの椅子に向き合って座っている峻と田畑。
峻「えっ、会社辞めたの?」
田畑「一昨日辞表出してきた」
  峻、外の景色を見つめ、田畑のハーレーを見つめ、
峻「どうしたんだよ、あのバイク?」
田畑「買ったんだよ。キャッシュでな」
峻「金持ちー」
田畑「おまえほどじゃないよ」
  峻、一瞬ギクッとする。
峻「俺は金持ちじゃないし」
田畑「顔に書いてあるぞ」
  峻、慌てて顔を調べる。
  苦笑する田畑。
田畑「何焦ってんの?」
峻「いや、別に・・・」
田畑「短い間だったけど、おまえには世話になったから最後の挨拶に来たってわけ」
峻「夢に向かって羽ばたくってか」
田畑「一瞬にかじりつくことなんだよな夢ってのはさ。若いうちにな」
  コーヒーをすする田畑。
田畑「ところでさ、おまえ会社に復帰するまでの半年間どこで何やってたの?」
峻「えっ、またその話か」
田畑「沢上部長の天の一声がなかったら職場復帰できなかったんだぜ。ラッキーだったな」
峻「部長には、感謝してるよ。自宅が燃えちゃったから同情もありありだったけど・・・」
田畑「俺の新たな旅の餞にさ、教えろよ」
峻「教えてもいいけど、漫画みたいな話だぜ」
田畑「さっさと言えよ」
  峻、深呼吸し、語り始める。

○ 同・バイク置き場
  エンジンがかかるハーレーにまたがっている田畑。
峻「こっちにはいつ戻ってくるの?」
田畑「さあな。追い風に聞いてくれ」
峻「旅の後、どうするんだよ」
田畑「心配しなくてもツテはあるから平気さ」
峻「気をつけてな」
田畑「最後に面白い作り話が聞けて良かったよ。ありがとな」
峻「作り話・・・じゃないんだけど」
  苦笑いする峻。
  田畑、ヘルメットをかぶると、ターンして、駐車場を出て行く。峻に軽く手を振り、走り去る。

○ 歩道橋(夜)
  歩いている峻。
  地面にに落ちていたガムを踏みつける。
峻「クッソ」
  橋の柵に寄りかかり、下の幹線道路を眺めている。
  道路を流れる車のテールランプの光を眺める峻。
峻(M)「生きてるとたまには、いいこともあるもんだ・・・」
  ニンマリする峻。だが、一瞬で表情が凍りつく。
  幹線道路を走るバスの屋根に、赤いスーツ姿の女がはりついている。
  目をこする峻。もう一度バスを見る。
  バスの屋根には誰もいない。
峻「またあの幻覚か。ここに来るといつもこうなんだ・・・やだやだ」
  ぽつぽつと歩き出す峻。

○ マンション202号室
  部屋の電灯のスイッチをつける峻。
  2LDKの整然とした部屋。
  
○ 同・キッチン
  冷蔵庫を明け、紅茶の入ったペットボトルを飲み干す峻。
  ふと、冷蔵庫の中に入っているカスタードプリンを見つめる。
峻「別に好きでもないのに。毎日買っちゃう・・・」
  峻、プリンを取り出し、蓋を開けて食べ始める。
峻「それもこれも全部・・・」
女の声「私のせい?」
峻「そう。おまえが・・・」
  食べるのを止め、驚愕する峻。
  辺りを見回す。
  部屋の片隅の壁にもたれているH。
  赤いコスチューム姿。
  腕組みして峻を見つめている。
峻「俺がここにいること、どうやって?」
H「あなたのそのスマホ、ハックした」
  テーブルに置いているスマホを持つ峻。
峻「これ、先月買ったばかりなんだけど・・・」
H「電話番号ぐらい変えれば?」
峻「覚えてたのかよ。(小声で)忘れろよ・・・」
H、歩き出し、冷蔵庫を開ける。
  プリンを発見するが、すぐに扉を閉める。
  唖然とする峻。
峻「食わないの?」
H「・・・」
峻「プリン・・・」
H「今、アイスにはまってるの」
峻「マジで?」
H「プリン以外のもの好きになって悪い?」
峻「お好きに・・・」
H、ジッと峻を見ている。
峻「その格好をしているってことは・・・まだやめてなかったのか」
H「やめるなんていったっけ?」
峻「お断りだ」
H「・・・」
峻「ようやく元の平和な生活に戻ったし、もう変な仕事はコリゴリだ」
H「そう」
  H、ベランダに向かって歩いて行く。
  立ち上がる峻。
峻「もう帰るの?」
  立ち止まるH。
H「何か?」
峻「コーヒー飲めるようになったんだっけ。飲んでいく?」
  無視して歩き出すH。
峻「勝手なんだよ」
  立ち止まるH。
峻「急に現れたり、消えたり。そういうのってフェアじゃないだろう」
H「フェアって何?」
峻「もうちょっとこう人間的に振舞う時間があってもいいんじゃないのか?」
  テーブルの前に座るH。
H「コーヒーを飲めば、人間的になれるの?」
  峻、深いため息をつく。
   ×  ×  ×
  テーブルの前で向かい合って座っているHと峻。
  10分経過。無言で座っている二人。
  コーヒーを飲み干すH。
峻「お父さん・・・元気?」
H「消えたの。一ヶ月前に」
峻「消えたって・・・何で?」
H「一緒に暮らすつもりだったのに、そんな生活は俺には合わないって言って」
峻「もしてかしてお父さんも元の職場に?」
H「私の知らないところでまた何かを始めているかもしれない」
峻「俺だったら追っかけて殴ってやるよ。いい加減にしろって」
H「殴って言うこと聞く相手ならとっくにそうしてる。もういい?」
峻「いいって?ああ・・・コーヒーも飲んだことだし」
H「楽しかった?」
峻「まあまあね」
  立ち上がるH。
峻「ああ・・・あのさ、また暇になったら遊びに来てもいいよ」
H「二度と来ない」
  ベランダに向かって歩くH。
峻「わかったよ。話を聞くよ」
  立ち止まるH。
峻「墓荒らしは、勘弁な」

○ バス・停留所(翌日)
  一台のバスが止まる。
  扉が開き、中から降りて来る峻。
  高層マンションが立ち並ぶ地区。
  辺りを見回す峻。
  スーツのポケットから一枚の写真を取り出す。
  写真には、6年前の須田聖美の正面姿が映っている。
H(N)「その女の名前は、コードネームQN。都内で立て続けに爆破事件を起こしている女。二年前、P―BLACKから逃げ出して姿を消した」
  手前のマンションを見上げる峻。
H(N)「その写真は、昔のもの。今は、整形して顔を変えている」
  峻、ポケットからもう一枚の写真を出す。
  真面目そうな若い男が歩道で信号待ちをしている姿を撮られた写真。
H(N)「QNに狙われてる男の一人・引田正志。QNが起こした爆破事件で死んだ二人の男の死体から、手の人差し指の爪がはがされていた。
  私は、もう一人の男を探すから、あなたは、引田を探して、私の元に連れて来て欲しいの」
  苦い表情を浮かべる峻。
峻「爪剥ぎ女か。悪趣味もいいところだな。ったく・・・」
  突然、マンションの高層階で大きな爆音が轟く。
  マンションを見上げる峻。
  9階のある部屋のベランダから炎が噴出し、空に広がっている。
峻「ええ・・・?」
  峻、ポケットからスマホを出す。
  カメラレンズをマンションに向け、映像を録画する。
  一旦、録画を止める峻。
  どこからともなく聞こえる猫の鳴き声・・・。
  振り返る峻。
  峻の目の前をバイクが通り過ぎて行く。
  峻、バイクにスマホのカメラレンズを向け、録画する。
  颯爽と走り去っていくバイク。
  運転しているのはQN。
  蝶のアイマスクをした顔が微かに見える。
  スマホのディスプレイに映るQN。

○ コンビニ・駐車場
  奥のスペースに止まっている赤い車・カスタード2号。

○ カスタード2号・車内
  運転席に座るH。
  峻のスマホを持ち、爆破されたマンションの映像を見ている。
  見終わると、すぐに電源を切り、峻に手渡す。
  助手席に座っている峻。スマホを受け取る。
峻「・・・ということなんだ」
H「それで引田は?」
峻「ああ、近所の人に聞いたけど、昨夜から自宅に戻ってないんだって。誰もいないのに爆破だけするなんて。大したことないよなQNってやつ」
H「引田はマンションにいた」
峻「は?」
H「遺体が見つかったの。DNA検査の結果を聞いた」
峻「じゃあ・・・」
H「人差し指の爪がはがされてた」
  がっくりする峻。
  H、峻の様子を見つめ、
H「アイス、いる?」
峻「えっ?」
H「買ってきて。私抹茶」
峻(M)「またパシリかよ・・・」
H「眠いの?」
峻「別に・・・」
  車から降り、コンビニに駆け込んでゆく峻。
  助手席のシートに峻のスマホが落ちている。
  スマホを持ち、電源を入れるH。映像ファイルがもう一つあることに気づく。
  その映像を見て、唖然とする。
  
○ 同・中
  冷蔵ケースの中に積まれているアイスを見ている峻。そばを歩く店員に声をかける。
峻「あの・・・抹茶アイスは?」
店員「すいません。今、在庫切らしていまして・・・」

○ 同・表
  店から出てくる峻。
  辺りを見回す。カスタード2号がいない。
  ため息をつく峻。
峻「・・・一言くらい声かけろよな」
  買い物袋。中にチョコアイスが二つ入っている。

○ 公園
  ベンチに座る峻。
  ヤケクソ気味にチョコアイスをなめている。
峻「やってらんないよ。赤メス、クソ!」
  峻、食べ終わったアイスの棒を放り投げる。
  目の前を横切ろうとした女のスカートにアイスの棒が当たる。
  立ち止まる女。鞄からハンカチを出し、
  鞄を拭く。
  峻、申し訳なさそうな顔で立ち上がる。
  丸眼鏡にスーツを身につけた女性が立っている。
峻「・・・ごめんなさい」
  女、笑顔になり、
女「大丈夫です」
  女のかわいい顔に見惚れる峻。

○ 公園
  ベンチに座る峻と女性。
  峻に名刺を手渡す女性。名詞に目を通す峻。
  名詞には、「(株)天美化粧品 営業部 町田里香」の文字が書かれている。
  峻も慌てて、名刺を差し出す。
里香「お仕事中ですか?」
峻「今日は、休みで。この地区の担当?」
里香「ええ。入社してから間もないし、まだ仕事にも慣れてなくて・・・」
峻「俺も営業やってるからこの辺の地理には詳しいの。わからないことがあるならわかる範囲で答えるけど」
里香「これから得意先を回るんですけど、私、軽い方向音痴で。歩いていると時々方角がわからなくなってしまって・・・」
  峻、突然立ち上がり、歩き出す。
里香「あの・・・」
  立ち止まる峻。
峻「ナビしますよ」
里香「いいんです。今日回るところは、一度行った事があるから」
峻「そう・・・」
  立ち上がる里香。
里香「では」
  里香、一礼し、立ち去って行く。
  呆然と突っ立つ峻。
峻「かんわいい・・・」
  峻、ふとベンチのほうを見る。
  ベンチに里香のハンカチがある。
  ハンカチを拾う峻。
  辺りを見回す。里香はもういない。
峻「足早いな・・・」
  峻、スーツのポケットをまさぐる。スマホがないことに気づく。

○ とある住宅・地下室
  コンクリートの冷たい部屋。
  ソファの上で眠っている真壁光一(29)。
  階段を下りてくる足音が響く。
  光一、起き上がり、階段のほうを見る。
  光一の前にやってくるH。
光一「君か・・・」
H「どう?居心地は?」
光一「テレビもネットもあるけど、なんだか退屈で窮屈」
H「・・・」
光一「贅沢言うなって?わかってるけど、一歩も表に出られないから気が狂いそうで」
H「QNは、この辺りを探ってる。少しずつあなたに近づいてる」
光一「兄さんの仲間はともかく、弟の俺の命まで狙うなんて、酷いよな」
H「お兄さんの居所・・・本当に知らないの?」
光一「知ってたら真っ先に君に言うよ。兄さんは、優秀な研究者だった。僕も一端の研究者だし、本当は何か一つぐらい、兄さんから技術を受け継ぎたかったよ」
怪訝な光一を見つめるH。
光一「でも、ネオシンプロジェクトなんて、君から話を聞くまで全く知らなかったし、QNて女には一度も会ったことがない」
H「・・・」
光一「まだ疑ってる?」
  首を横に振るH。
  冷凍庫のドアを開ける。中には、何も入っていない。
H「私の抹茶アイス・・・」
光一「あれ、君のだったの。ごめん。さっき食べちゃった・・・」

○ 繁華街(数日後)
  スクランブル交差点の雑踏。
  斜め横断している峻と里香。
  楽しそうに歩いている。

○ 映画館
  ラブストーリーものの映画。
  ジッとスクリーンを見ている里香。
  里香の表情を窺う峻。

○ 猫カフェ
  開放感のあるおしゃれな店内。
  窓際の座敷に向かい合って座る峻と里香。
  足元にいる白い猫をなでる里香。
里香「むっちゃかわいい」
峻「猫好きなんだね」
里香「子供の頃、飼ってたの」
峻「今は飼ってないの?」
  壁の棚の上にいる茶色の猫を指差す里香。
里香「ほらほらほら、あの茶色もかわいい」
  峻、興味なさ気に。
峻「あーほんとだ」
里香「ああ、あっちのもこもこもかわいい」
峻「そ、そうね」
里香「うわあああ、あの棚のところにいる黒いの、もっとかわゆい」
峻「大体かわいいよね・・・」
  白い猫の足の爪を見つめ、おいしそうな表情をする里香。
里香「ハンカチ返してもらうだけだったのに、映画見せてもらった上に、こんな素敵な店にまで。どうもありがとうございます」
峻「いいのいいの。当たった・・・じゃなくて、臨時ボーナスも出たし、気にしない気にしない」
  白い猫におやつをやる里香。
里香「この時期にボーナスですか?」
  テーブルに置いてあるカルピスマンゴを一口飲む峻。
峻「副業でちょっとね」
  スマホで棚にいる猫の写真を撮る里香。
里香「副業?」
峻「あ、俺、探偵の真似事みたいなことやってて」
里香「じゃあ、人探しとかやるんですか?」
峻「たまにね」
  急に神妙になる里香。
里香「・・・見つけて欲しい人がいるんです」
峻「見つけて欲しいって誰を?」
里香「逃げられたんです。つきあってた人に・・・」
  愕然とする峻。
峻「・・・彼氏・・・いるの?」
里香「IT系の会社を立ち上げるからって、その資金の100万円を私が立て替えたんです」
峻「で、そのままとんずらされたとか?」
里香「世の中の男って、そんな奴ばかりなのかな・・・」
  涙を浮かべる里香。
峻「たまたま・・・運が悪かっただけじゃない?」
  峻を見つめる里香。
里香「あなたは、良い人そう・・・」
峻「人は見かけによらないかも・・・」
里香「そうですよね・・・」
  複雑な表情を浮かべる峻。
峻「冗談。この辺に住んでるの?その男・・・」
  里香、鞄の中から一枚の写真を取り出し、峻に見せる。
  真壁光一が写っている。びしっとスーツできめて、今時のイケメン風。。
里香「前に友達がこの辺で彼を見たって言うんです。でも、住んでる場所まではわからなくて・・・」
峻「なるほどね・・・わかった」
里香「わかったって・・・?」
峻「任せといて」
  
○ 住宅前(数日後)
  住人の女性と話す峻。男の写真を見せている。

○ 商店街筋
  店を一軒ずつ回る峻。
  ハンカチで汗を拭いながら、またもう一軒回る。

○ コンビニ前
  歩道を歩く峻。
  くたびれた表情。
  店を見つめ、
峻「休憩すっか・・・」
  店の自動ドアが開く。
  コンビニの袋を持って表に出てくるH。
  ジーパンにフード姿。
  唖然とする峻。

○ カスタード2号・車内
  コンビニの駐車場に止まっている。
  運転席に座り、抹茶アイスを食べるH。
  その様子を見ている峻。スポーツドリンクを一口飲む。
  H、食べるのを止め、
H「何?」
峻「いや・・・マジでアイス食べてるから」
  H、また食べ出す。
峻「それより、俺のスマホ返せよ。この3日間会社に連絡するのに公衆電話探しまくって大変だったんだぞ」
  H、フードのポケットから峻のスマホを出し、投げ渡す。
H「その中のもう一つのファイルに重要なものが映ってた」
峻「もう一つのファイルって?」
H「バイクの女の映像」
峻「ああ、あれか・・・。蝶のマスクつけてたからさ珍しいなって思って」
ドリンクを飲む峻。
H「その女がQNよ」
  思わずドリンクを噴き出す峻。
H「これ・・・新車なんだけど」
峻「・・・じゃあ、爆発現場から立ち去った直後だったんだ」
H「QNが狙っているのは、あと一人」
峻「その一人って、誰?」
  ドリンクを飲む峻。
  H、フードの内ポケットから一枚の写真を出し、峻に渡す。
  峻、写真に写る男(真壁光一)を見て、またドリンクを噴き出す。
H「いやがらせ?」
峻「ご、ごめん・・・昔の友達に似てたもんで」
H「似てるからって何で吐くの?」
峻「・・・この男の名前は?」
H「真壁光一。北王エレクトロニクス研究所の研究員」
峻「何の研究をしてるの?」
H「自動認識システムの研究」
峻「QNは、なんでこいつを・・・」
H「じゃ」
峻「えっ?」
H「もういいわよ。帰って」
峻「ちょっと待てよ。またそんなこと・・・」
H「普通の生活に戻るんでしょ?」
峻「昔の感覚が戻って来たっていうか・・・今もの凄くモチベーション高いの」
H「へえ」
峻「へえじゃなくて・・・」
H「目隠しして」
峻「なんで?」
H「察しろ」
峻「はい・・・」
  黙ってネクタイをはずし、ネクタイで目を覆う。

○ コンビニ・駐車場
  駐車場から出て行くカスタード2号。

○ とある住宅・地下室
  暗闇の階段を下りるHと峻。
峻「なんなのここ?」
H「臨時に借りてる部屋よ」
峻「もしかしてHの部屋?」
H「想像に任せる」
峻「なついの、きたああああ」
H「・・・」
  部屋の中を歩く二人。
  H、光一の姿が消えていることに気づく。
峻「どうした?」
  奥の扉のドアを開ける。
  電子制御ロックが解除され、表へ通じるドアが開いたままになっている。
峻「もしかして・・・」
H「仕事ができた。一緒に来て」
  走って、部屋の外に出て行くH。
峻「へいへい」
  峻も後を追う。

○ 公園(翌日)
  銀杏並木の通りを歩く峻と里香。
峻「休憩中なのに呼び出してごめんね」
里香「今日も休みなんですか?」
峻「ああ・・・そう有休なの」
里香「ギャラの話ですか?」
峻「見つかったよ」
里香「本当に?」
峻「ただ・・・監禁・・・じゃなくて、待たせていた場所からいなくなってしまって」
里香「そんな・・・」
峻「今、部下に調査させてるから心配ないよ」
  里香のスマホの着信音が鳴る。
里香「ちょっとごめんなさい・・・」
  峻から離れ、銀杏の木の方に駆けて行く里香。
  銀杏の木の陰に隠れ、電話に出る里香。
  電話から発信される怪電波。
  里香、電話に出た途端に、力のない表情になる。

○ 里香の視点
  周りのものが全て二重に映る。赤や緑の色が抜け、色褪せた風に見えている。

○ 公園
  銀杏の木の前にいた里香の姿が消えている。
  峻、何も知らずに待ち続けている。

○ 国道
  三車線の大通り。車が激しく行き交う。
  その中を走る一台の黒いタクシー。

○ タクシー・車内
  後部席に乗っている光一。
  スマホで電話中。
光一「今から戻るよ。そう。しつこい女でさ。違う。前の女じゃなくて、赤いコスプレが大好きな女でね・・・」
  リアガラス越しに、タクシーの後ろを走っているカスタード2号の姿が見える。

○ 北王エレクトロニクス研究所
  正門前に止まるタクシー。
  後部席から光一が降りてくる。
  光一、警備員に証明パスを見せる。
  警備員、敬礼し、門を開ける。
  中に入って行く光一。

○ 同・研究所内・廊下
  歩く光一。
  白衣を着た研究員達の女とすれ違う光一。
  頭を下げる研究員の女。
  振り返り、光一の後ろ姿を見つめる女。女は、H。

○ 同・研究室
  ドアを開け、中に入ってくる光一。
  自分のデスクの椅子に座り、一息つく。
光一「やっぱここが一番落ち着くわ・・・」
女の声「落ち着かない場所に閉じ込めて、ごめんなさい」
  唖然とする光一。振り返る。
  ドアの前にHが立っている。
光一「なんでここが?」
H「かなり初歩的な細工だけど。ベルトを見て」
  光一、ベルトを確認する。ベルトの裏に発信機が埋め込まれている。
光一「ほんと、こんなありきたりの仕掛けに気づかないなんて。終わってるな」
H「ここにいたら危険よ。早く戻りましょう」
光一「遣り残していることがあるんだ。二、三時間待ってくれないか?」
H「・・・わかった」
光一「そこのソファに座っててよ。君の部屋のソファよりも座り心地悪いと思うけど」
  Hの携帯の着信音が鳴る。
  ディスプレイを確認するH。
  
○ 公園
  木陰に立っている峻。
  スマホを持ち、応答待ち中。
峻「さっさと出ろ・・・」

○ 北王エレクトロニクス研究所・研究室
  しぶしぶ電話に出るH。
H「何?」
峻の声「おお、どう?見つか・・」
  すぐに電話を切るH。

○ 公園
  猿のように怒る峻。
峻「赤女!!」

○ 北王エレクトロニクス研究所
  机の一番下の引き出しからある封筒を取り出す光一。
  一番上の引き出しからタブレットのようなものを取り出し、鞄の中に入れる。
光一「もしかして、彼氏?」
H「馬鹿なこと言わないで」
光一「数年ぶりに再会した恋人に幻滅した・・・ってな感じの顔だね」
  顔を背けるH。
  また、携帯が鳴る。番号非通知になっている。
  電話に出るH。
女の声「やっぱり生きてたのねH」
  驚愕するH。
  光一、Hが目を離した隙に、机の上に置いてあるエーテル瓶(250ml)を持ち、スーツのポケットに入れる。
H「どうして私の番号を知ってるの?」
  女の声は、QN。
QNの声「馬鹿にしないで。私、現役のスパイよ。あなたもP―BLACKで電話番号の抜き方習ったでしょ。そこに真壁の弟がいるわね。ちょっと出して」
H「ことわる」
QNの声「じゃあ直接話するわ」
  突然、ガラスが破られ、QNが部屋の中に飛び込んでくる。
  椅子ごと倒れる光一。
  QN、刃のついたムチをHに振りかざす。
  H、素早くそれをかわしながら、光一の前に移動する。
  QN、Hの首にムチを巻きつける。
  ムチの刃が食い込み、Hの首から血が流れ出す。
QN「私のホルダーケース、返して」
  Hの全身が赤く発光する。赤いコスチューム姿になるH。左腕に装着しているア ームシェイドの翼を開き、翼の刃でムチを切り落とす。
  QN、両手にはめているフィンガーレスグローブから猫の爪のような長く鋭い爪を伸ばし、Hに襲い掛かる。
  QNの振りかざす爪を鮮やかにかわし続けるH。
  H、隙を見つけて、QNの腹に蹴りを入れる。悶絶するQN。
  H、アームシェイドの銃口から煙幕弾を発射する。
  紫色の煙が一気に部屋の中に広がる。
  暫くして煙が消え、QNの姿が露になる。
  辺りを見回すQN。
  Hと光一の姿が消えている。

○ 市道
  猛スピードで走るカスタード2号。
  QNのバイクが後を追っている。

○ カスタード2号・車内
  運転するH。助手席に光一が座っている。
  光一、大事そうに鞄を膝に置いている。
  バックミラーを見つめるH。
H「激しくなるわよ」
光一「えっ?」

○ 市道
  カスタード2号、180度ターンし、急発進する。
  QNのバイクに向かって突進するカスタード2号。
  衝突寸前で、QNのバイクがジャンプし、
  カスタード2号の上を飛び越える。
  着地してターンするQNのバイク。
  バイクのフロント部に収納されていた砲身が伸びる。ガトリングガン発射。
  何発もの銃弾を浴びるカスタード。しかし、弾を跳ね返し、無傷。
  QN、再び、バイクを発進させるが、急ブレーキをかけて立ち止まる。
  茶色の子猫がバイクの前に座っている。
  QN、悔しげな表情を浮かべながら、スマホで猫の写真を撮る。

○ カスタード2号・車内
  加速し、うなるエンジン。
光一「僕は守ってくれるのはいいけど、正直言うと、気味が悪いんだよ。君もさっきの女も」
H「あの女がQNよ。私の先輩」
光一「君の仲間か。ただのテロリストじゃなかったんだ。こんなことになるなら、もっと前に海外に移住しておくべきだったな」
H「どこに行こうと、必ず追ってくるわ」
  ため息をつく光一。

○ マンション2F・峻の部屋・リビング(夕方)
  壁隅に立っているH。抹茶アイスを食べている。
  怒鳴り声を上げる峻。
峻「その態度が原因なんだよ」
  H、そ知らぬ素振りで抹茶アイスを食べている。
  その様子を見て、さらにイラつく峻。
峻「犬とか猫とか小鳥とかロボットとかカブトムシとか、モルモットじゃないんだ俺は」
  H、フードのポケットから銀のケースを出し、テーブルの上に置く。
H「開けて」
  峻、ケースを開ける。
  中に人間の爪が入っている。
峻「なんだネイルチップか・・・」
  爪の裏側を確認する峻。
  小型のスティックのようなものがついている。
峻「爪の後ろについてるものは何?」
H「何かの起動スイッチみたい。ちなみに、それ、本物の爪よ」
  峻、驚いて、思わず爪を放り投げる。
  爪をキャッチするH。
H「P―BLACKで激しい拷問を受けた時にはがれてしまったラオの足の親指の爪。QNが大事に持っていたの」
峻「ラオって何者?」
H「コードネーム、「RAO」。実名は、真壁秀二。元P‐BLACKの研究員。リゲコンと手を組んで数多くのテロ事件に関与した男」
峻「ゲリコン?」
H「リゲラコンボム。国際テロ組織のこと」
峻「Hの仲間がなんでテロリストなんかに?」
H「ラオは、P‐BLACKの研究データを組織に売り渡して、莫大の資金を得ていた。それがばれて、独房に監禁されて激しい拷問を受けた。
  その数ヵ月後、彼は、ある女の力を借りて、独房から脱走した」
峻「その女がQNってわけか」
H「P‐BLACKの法則では、諜報員同士の恋愛は、禁止条項になってる。でも、二人は、それを破った」
峻「じゃあ、QNに殺された人達は、秀二の仲間のテロリスト?」
  頷くH。
峻「なんだ。QNは、殺されて当然の奴らを始末していただけなのか。でも、どうして、秀二の弟の命まで狙ってるんだ?」
  抹茶アイスのカップをゴミ箱に捨てるH。
  部屋を出て行く。
峻「どこ行くんだよ」
H「光一のところに戻る」
峻「俺にも場所を教えろよ」
  立ち止まるH。
  H、一枚のチップを投げる。
  キャッチする峻。
H「それに住所が書いてある。ついでに鍵のある場所も。30分経ったらそのデータ、消えるから」
峻「サンクス」
  
○ 公園(翌日)
  噴水の前。
  ベンチに座る里香。腕時計を見つめ、時間を気にしている。
  ベンチの前にやってくる峻。両手にアイスを持っている。
  峻からアイスを受け取る里香。
  ベンチに腰掛ける峻。
峻「この前、急にいなくなっちゃったけど、なんかあったの?」
里香「えっ・・・私が?」
峻「えっ?覚えてないの?」
  里香、突然、ゲラゲラ笑い出し、
里香「何言ってるんですか?面白い人」
峻「いや、本当なんだけどな・・・」
里香「探偵みたいな仕事が副業っていいなあ。私もやってみたい」
峻「面白そうに見えるけど、楽じゃないんだよ。グロいものもたくさん見なきゃいけないし」
里香「わりと平気かも・・・」
峻「へー。ホラー映画とか好き?」
里香「結構いける。一人で映画館で行くし。高部さんは?」
峻「俺は・・・うん、まあレンタルかなあ・・・なんかさ、すんごいもの集めてそうだよね。怪物のマスクとかさ、魔法の杖とか・・・」
  里香、突然、峻の右手を掴む。
  峻の手の爪をまじまじと見つめる。
里香「綺麗な爪・・・ナチュラルなラウンド。男の人もこんな爪の人いるんだ・・・」
  峻、少しびくつきながらも、平然を装い、
峻「自分では、気にしたことないんだけど・・・そんなに綺麗?」
  峻の爪においしそうに見ている里香。
里香「凄くいいかも・・・」
  峻、強引に右手を引き離し、後ろに隠す。
峻「あのさ、ついに突き止めたよ。居場所」
里香「本当ですか?」
峻「ただ、今、真壁さんは、何者かに狙われていて、表に出られないんだ」
里香「じゃあ、姿を隠したのは、私から逃げるためじゃなかったんですか?」
峻「たぶんね。夜空いてる?」
里香「8時以降なら」
峻「じゃあ。8時半にここに来て。案内するよ」
里香「ありがとうございます」
  頭を下げる里香。

○ トランクルーム施設前(夜)
  立ち止まるタクシー。
  後部席から、峻と里香が降りてくる。
  コの字型に横一列に並んでいるコンテナ倉庫。
里香「ここ・・・なんですか?」
峻「うん。間違いないよ」
  峻、スーツのポケットから鍵を出す。
  A―3の札がつけられたコンテナの前に立ち止まる二人。
  シャッターに鍵を差し込む峻。
  鍵が回る。
  ホッとする峻。
峻「開けるよ」
  峻、勢い良くシャッターを開ける。
  中は暗闇。

○ 同・A―3ルーム
  スイッチを押す峻。電灯が点く。
  中には、何も置かれていない。
  倉庫の真ん中に立つ二人。
  呆然とする峻。
里香「どういうことですか・・・高部さん」
峻「住所は、あってるんだけど・・・」
  突然、里香の体にロープが何重にも巻きつく。
  手枷、足枷が同時に里香の手足にかけられる。
  事態が飲み込めない峻。
  突然、シャッターが閉まる。
  振り返る峻。
  シャッターの前にHが立っている。
峻「なんだよこれ?この人は・・・真壁の恋人なんだぞ」
H「真壁光一には、妻子がいるの」
峻「えっ?」
  峻、里香を見つめ、
峻「じゃあ、君は・・・」
  不敵な笑みを浮かべる里香。
  里香の前に立つH。
  里香のマスクをはがす。
  QNの素顔が露になる。
  驚愕する峻。
  高笑いするQN。
QN「この人あなたの部下?」
H「のようなもの」
QN「まるでなってないわね」
H「まだ見習い期間なの」
QN「でもあなたにとっては使いやすそうね」
H「ここでしばらく大人しくしてもらうから」
  H、QNの口にガムテープを貼り付ける。
  QNを仰向けに寝かせる。
  アームシェイドでコンクリートの床に杭を打ち込み、QNの両手足の枷を床に固定するH。床の上で磔にされるQN。
  峻、いつになく真剣な表情。
峻「H!ちょっと来いよ」
  立ち上がり、峻と顔を合わすH。

○ カスタード2号・車内
  運転席にH。助手席に峻が座る。
峻「いつから知ってたんだ・・・」
H「あなたが真壁のことしつこく聞いてきた時から」
峻「ずっと俺を監視してたのか。ほんと鬼だな・・・」
H「テロリストを何人も殺した女よ。一歩間違えばあなたも引田みたいになってた」
峻「実は、俺も薄々そうじゃないかって思ってたんだ・・・」
H「なのにどうしてここに連れて来たの?」
峻「自分で確かめようと思って」
H「・・・」
峻「光一の本当の居場所は?」
H「・・・」
峻「答えろよH!」
H、仕方なくメモを峻に手渡す。
  メモを確認する峻。

○ トランクルーム施設・A―3ルーム
  中に入ってくる峻とH。
  Hの携帯が鳴る。
H「ちょっと見張ってて」
  外に出て行くH。
  QNの前に立つ峻。
  ジッと峻を見ているQN。
  QN、うんうんと唸り声を上げている。
  複雑な面持ちでQNを見つめる峻、
  QN、峻に救いの眼を向ける。
  峻、目を閉じ、QNに背を向ける。
  諦めて静かに天井を見つめるQN。
  しばらくして、突然、峻がQNの口のガムテープをはぎとる。
QN「痛い!」
峻「ごめん。引っ張りすぎた?」
QN「どうして?」
峻「・・・なんで光一の命を狙ってるんだ」
QN「なんでそんなこと聞くの?」
峻「一応、俺もスパイの端くれだから」
QN「光一はね、秀二の研究を横取りしたのよ」
峻「横取り?」
QN「秀二は、自分の研究所を開くために、資金を集めようとしたけど、P―BLACKは、彼が組織から離れることを許さなかった。
  だから、秀二は、自らテロリストと接触し、自分が作った研究データを売り渡して、資金を稼ごうとしたの」
峻「彼の脱走に力を貸したのに、どうして秀二は、君の前から姿を消したんだ」
QN「その理由を聞きたいから探してるのよ。彼は、何も言わずに、ある日突然いなくなった。隠れ家を見つけて、三ヶ月間、二人で暮らした。
 本当に普通の夫婦みたいに、その時は、幸せだった」
峻「俺がHの下で働いていること、いつから知ってた?」
QN「引田正志のマンションの前であなたを見たわ。スマホで私を映していたから、捕まえようと思って尾行したら、あなたとHが会ってるところを・・・」
峻「それで俺を利用しようって考えたわけか」
QN「Hが帰ってきたら、私、P―BLACKに収監室に送られてしまう。お願い。ここから出して」
峻「騙されるかよ」
QN「正直に話したでしょ。聞きたいことがあるならもっと喋るわ」
  峻、QNの口にガムテープを張る。
峻「俺、光一の居場所知らないし、力になれそうにない・・・」
  QNのそばを離れる峻。
  必死に声を上げるQN。
  表に出て、シャッターを閉める峻。
  部屋は、真っ暗になる。
    ×  ×  ×
  数分後。
  慌てて中に入ってくる峻。
  QNのガムテープを取る。
QN「何よ」
峻「Hが拉致された」
QN「誰に?」
峻「ゲリコンの奴らにさ」
QN「リゲコンに・・・?」
峻「そ、そうリゲコンに。明日のお昼までにあんたを約束の場所に連れていかないとHが処刑される」
  峻、キーホルダーの鍵をQNの左足の枷に差し込む。
  QNの手足の枷を全て取り外す峻。
  起き上がるQN。
峻「さあ早く」
QN「誰が一緒に行くって言った?」
  立ち上がるQN。
QN「今ここであなたを殺して逃げ出すこともできるのよ」
峻「やれるもんならやれよ」
  QN、右手のフィンガーレスグローブから長い爪を伸ばす。
QN「本当にいいのね?」
峻「光一の居場所がわからなくなるけど、それでもいいのか?」
QN「・・・知ってるの?」
峻「協力してくれるなら、今すぐそこに連れて行ってやる」
  QN、爪を収める。
QN「いいわ」
峻「それからもう一つ」
QN「・・・」
峻「光一に絶対手を出すな」

○ 国道(深夜)
  猛スピードで走行するカスタード2号。

○ カスタード2号・車内
  運転する峻。助手席にQNが座っている。
QN「楽しかった?私とのデート」
峻「奢った分全部請求してやりたいけど、許してやるよ」
QN「意外に太っ腹ね。それともプライドが高いの?」
峻「どちらでもない。ただの馬鹿なんだよ」
QN「Hとデートしたことある?」
峻「それはありえない」
QN「やっぱりね。あの子も昔から奥手だから」
峻「いつから知ってるんだ。Hのこと」
QN「あの子がP―BLACKに入ってきて、間もない頃。3ヶ月間私があの子を指導した。その後すぐ、K―3の特別訓練生になったから、
  それ以来一度も顔を合わすことはなかった」
峻「どんな子だった?」
QN「普通の子。ただ、普通の子より、冷徹な感じだった。誰とも口を利こうとしなかったけど、一度だけ休憩室で一緒にお茶を飲んだことがあるの」
峻「お茶?」
QN「あの子、猫舌でお茶が飲めなくて、代わりにプリンをあげた。そしたら喜んで、それから会話も弾んで・・・」
峻「そうか・・・Hがプリン嫌いになった理由がわかった・・・」
QN「何?」
峻「なんでもない」

○ とある住宅・地下室
  暗がりの階段を下りる峻とQN。
  QN、里香の姿になっている。
  ドアの前に立ち止まる。
  鍵を開ける峻。
  パソコン前に座り、キーボードを売っている光一。
  鋭い目つきになるQN。
  振り返り、二人を見る。
光一「君は?」
峻「Hの仲間だ」
光一「そのお隣の女性も?」
峻「そう。君が逃げ出していないか確認しに来た」
  立ち上がる光一。
光一「ご覧の通り。どら猫みたいに大人しくしてたよ」
QN「聞きたいことがあるの」
光一「まあ、冷蔵庫においしいみかんの缶詰があるから持ってくるよ」
QN「秀二をどこに隠したの?」
光一「何を唐突に・・・」
QN「いいから答えて」
光一「兄貴と最後に話したのは、3年前だってHにも言ったはずだ」
  QN、光一の首を鷲掴みする。
峻「キュン!手を離せ」
  手を離すQN。
光一「君は・・・もしかして」
QN「P―BLACKから秀二さんを逃がしたのは、私」
  焦る光一。峻を睨みつける。
光一「お前馬鹿か。何のためにHが僕を匿ってきたのか、わかってないのか?」
峻「そのHがゲリコンに捕まったんだよ」
QN「リゲコン」
峻「そう。それ」
  QN、右手のフィンガーレスグローブの爪を伸ばし、光一に近づく。
QN「答えないなら、いますぐあなたのその爪を一枚ずつ剥いでやる」
光一「ちょっと待て。俺は本当に何も・・・」
  爪を振りかざすQN。
  光一、観念し、
光一「田口岬だ。兄貴はそこに居る」
  愕然とするQN。
QN「岬って・・・どういうことよ?」
光一「遺体を埋めた場所だ。七ヶ月前、兄貴は、密かに実家に戻ってきた。癌を患ってた。進行が早くて、見つかった時は、余命半年だった。
  その時、僕は、兄貴の研究を受け継いだ。死んだのは、一ヶ月前だ」
  QN、光一の喉元に爪を突き立てる。
峻「QN!」
QN「嘘よ。あの人が死ぬわけない」
  光一、デスクの上にあった鞄から、死亡証明書を出し、QNに見せる。
  愕然とするQN。

○ 田口岬
  杭の刺さった場所の前に立つQNと峻。
  QN、力なく膝を落とす。
QN「嘘よ・・・絶対、嘘・・・」
  峻、かける言葉もなく沈黙。
QN「手伝って」
峻「えっ?」
QN「墓を掘り起こすの」
   ×  ×  ×
  スコップで土を掘り起こす峻。
  ため息をつく。
峻「なんでこうなるの・・・」
  QN、土の中から出てきた頭蓋骨を持つ。土の上に落ちている髪の毛を拾う。
QN「まだ、髪も残ってる・・・」
峻「ねえ、それどこで調べる気?」
QN「どこかの研究所に忍び込む」
  峻のスマホの着信音が鳴る。
  手を止め、電話に出る峻。
峻「はい・・・今忙しくて。じゃあ」
  電話を切る峻。
QN「誰?」
峻「ああ・・・友達。昔から空気読めない奴でさ」
  QN、必死に骨を拾う。
峻「あのさ・・・その骨、手っ取り早く調べられる場所があるんだけど・・・」
QN「えっ?」

○ 清掃工場
  現在は、使用されていない古びた工場。
  敷地内に入ってくるカスタード2号。
  停車し、車から降りる峻とQN。
  建物に向かって歩いて行く。
  怪訝な表情で辺りを見回すQN。
QN「ゴミ処理場じゃない」
峻「昔、Hが隠れ家として使ってた場所なんだ。そこに最新式のDNA解析装置が置いてある」
QN「こんな臭いところに、よく隠れてたわね」

○ 同・中央制御室
  暗がりの部屋。
  操作卓の下の板を外し、中から小型のDNA解析装置を取り出す峻。
  サンプルの髪の入ったケースを装置の中にセットする。
   ×  ×  ×
  5分後。
  デスクの上に置かれたDNA解析装置が起動中。
  その様子を見守る峻とQN。
峻「20分くらいで完了する」
QN、祈るように装置を見つめている。
峻「残酷なこと聞くけど。もし、この骨がラオものだったらどうする?」
QN「P―BLACKを潰す。Hもね」
峻「新しい生き方を見つけたほうがいいよ。バイク旅行とかしてさ」
QN「あんたに言われてもね・・・」
峻「なんだよ」
  不貞腐れる峻。
   ×  ×  ×
  1時間経過。
  ノートPCの前に座る峻。
  DNA照合ソフトの画面。
  解析した塩基配列のデータを表示させる。
  秀二のDNAデータと照合。
  結果、「一致せず」。
  呆然とするQN。
QN「じゃあ、この骨は、誰の・・・」
女の声「光一よ」
  振り返るQN。
  入口付近を歩く赤いスーツ姿のH。Hに背中を押され床に倒れる光一。
QN「H・・・」
H「あなたを利用させてもらった。この男の正体を知るために」
QN「さっき光一って言ったわね」
H「そう。その骨は、光一のもの。光一は、この男に殺されてあの岬に埋められた」
QN「じゃあ、そこにいる男は誰?」
H「真壁秀二」
  愕然とするQN。
  不敵な笑みを浮かべる秀二。
H「弟の顔に整形していたのよ」
QN「馬鹿なこと言わないで」
  H、光一の右足の靴と靴下を脱がす。
  親指の爪を確認する。爪がない。
H「これでもまだ疑う?」
QN「ほんとなの秀二」
光一「・・・」
QN「返事して!」
  光一、突然けたたましく笑い出す。
光一「光一は、僕の研究中の電磁波誘導システムの情報を知りたがっていた。この研究だけは、誰の手にも触れさせたくなかった。
  でもあいつは、僕の目を盗んで情報を盗み出そうとした。だから殺した」
  光一は、真壁秀二(33)。
QN「どうして私から逃げたの?」
秀二「遣り残したことがあったから。君を巻き込みたくなかったのさ」
QN「二年間、ずっと探し続けたのよ。一度ぐらい連絡をくれても・・・」
秀二「じゃあはっきり言うと、君が邪魔だった」
  凍りつくQN。
秀二「僕の爪、返してくれないかな?」
QN「君に感謝してる。これからは、君の幸せのために時間を使う。あの言葉は、全部嘘なの?」
秀二「一瞬の気の迷いさ。所詮、僕達はスパイ。人並みの幸せを求めるなんて馬鹿げたことだったのさ」
  峻、我慢できず声を上げる。
峻「おい。おまえそれじゃ、あんまりだろ。この人の気持ち、なんでわかってやらないんだ」
秀二「スパイに感情は必要ない。利用するか利用されるか。あそこでそう教わっただろ?聖美」
  跪くQN。悲しみに暮れる。
秀二「僕の爪はどこだ」
  H、右手にケースを持ち、
H「ここよ」
  ケースを見つめる秀二。
秀二「お前が持っていたのか。それは、僕が開発した電磁波誘導システムを起動させるキーになっているんだ。返してもらおうか」
H「強力な電磁波で人間の脳を操って洗脳するシステム「RO―R(ローアール)」。やはり完成していたのね」
秀二「おまえの目的は、やっぱりこれだったのか。実験の途中でP―BLACKを離れてしまったが、
  実用可能なシステムであることは、最初のシミュレーションで実証済みだ」
峻「シミュレーションって?」
  秀二、QNを指差し、不気味に笑う。
秀二「そこにサンプルがいるだろ」
  唖然とする峻とH。
  QN、突然、立ち上がる。冷たい眼差し。
秀二「二年前、聖美の頭にRO―Rの電波を受信するチップを埋め込んだ。僕の声に反応して、命令通りに動いてくれる」
峻「おまえがQNを操って仲間のテロリストを殺していたのか」
秀二「リゲコンの奴らも俺からRO―Rを奪い取ろうと策略を練っていやがった。だから、QNを使って国内にいるメンバーを片付けたのさ。
  電話一本で後腐れなく殺ってくれる。余計な費用もかからない。コストパフォーマンスも抜群。電波暗殺者『ネオシン1号』の誕生さ」
  峻、怒りに満ちた表情。
秀二「Hから俺の爪を奪い取れQN」
  QN、Hを睨みつけ、右手のフィンガーレスグローブから長い爪を伸ばす。
  高くジャンプし、Hに爪を振りかざすQN。
  H、素早く床を転がり、アームシェイドの翼を開く。
  秀二、鞄の中から、タブレット型のの誘導システムを出す。
  画面のタッチパネルを操作する秀二。
  秀二の前に立つ峻。
峻「QNにテロリスト達の爪を剥がさせたのもおまえか?」
秀二「それはあいつの癖さ。爪フェチだからなあいつ。変な女だろ?」
峻「あの人に全部罪をなすりつけやがって。クソっ。ムカッ腹立ってきた」
秀二「ふーん」
峻、秀二に殴りかかる。
秀二、右足を高く上げ、峻の頭に踵を落とす。
  峻、その場に倒れ、気絶する。
  失笑し、首を傾げる秀二。
秀二「激弱・・・なんだこいつ」
  QN、刃つきのムチを大きく振り、Hに向かって何度も叩きつける。
  H、ムチをかわしながら、後退し、部屋を出る。

○ 同・屋上
  激しくムチを打ち続けるQN。
  H、アームシェイドの翼を楯にし、ムチを避ける。
  QN、ムチの持ち手の先についているボタンを押す。
  ムチに強い電撃がほとばしる。
  ムチをさらに長く伸ばし、Hの左肩にヒットさせる。
  Hの左肩から激しい火花が上がる。電撃の衝撃で、その場に転がり倒れるH。
  スーツの左肩の部分が破れ、血が滲み出ている。
  QN、さらにムチを打ち続ける。
  H、地面を転がりながらムチをかわし、一瞬の隙をついて、立ち上がり、瞬間的に消える。
  辺りを見回すQN。
QN「ずるいわよH。出てきなさい」
  QNの背後に立っているH。
  QNの右手に持っているムチを蹴り飛ばす。
  後ろからQNを羽交い絞めにし、右腕でネックを絞めるH。
H「できれば、こんな手使いたくないけど」
  H、アームシェイドのボタンを押そうとする。
  QN、Hを引きずりながら前進。柵の前に立ち、そのまま、Hを屋上から地上へ放り投げる。
  地上のコンクリート面に叩きつけられるH。
  QNも柵を越え、屋上から飛び降りる。

○ 同・ホッパーステージ
  コンクリートの巨大なごみピットの前で蹴り合うHとQN。
  QN、猫の爪でHのスーツの腹の部分を切り裂く。
  H、ジャンプし、ソバットを決める。
  吹き飛ばされるQN。
  QN、素早く立ち上がり、猛烈な勢いでHに襲い掛かる。
  爪攻撃の猛威に耐えれず、後退し続けるH。
  どんどんごみピットのほうへ追い込まれて行く。
  後がないH。高く飛んで、灰クレーンの上に着地する。
  H、アームシェイドの銃口をQNに向け、カプセルを発射。
  カプセルから網が現れ、QNの体を包み込む。
  しかし、QN、猫の爪で網を破り、ハイジャンプ。
  爪を振りかざし、Hの頬に傷をつける。
  クレーンから落ちるH。ごみピットの前に転がり込む。
  Hと対峙するQN。
QN「爪を返せ!」
  立ち上がるH。
  QN、ダッシュし、Hに爪を振りかざす。
  H、一瞬でQNの前から消える。
  宙返りしながら、QNの後ろに回り込み、
  QNの背中に蹴りを入れる。
  Hに押されて、そのままごみピットに転落するQN。
  コンクリートに頭をぶつけ、意識を失うQN。
  その様子を見ているH。
  突然、Hの頭上から灰クレーンが落下してくる。
  クレーンに当たり、吹き飛ばされるH。
  仰向けに倒れ、気絶する。
  入口から聞こえてくる足音。人影が近づいてくる。
  人影は、秀二。誘導システムを持ちながら歩いている。Hの前で立ち止まる。
  秀二、Hのベルトにかかっているホルダーケースを開け、中から爪のキーを出す。
秀二「これがあれば、俺一人でこの国を操れる」
  誘導システムにキーを差し込む秀二。
  不敵な笑みを浮かべる秀二。
  鞄からエーテル瓶を取り出す秀二。
  蓋を開け、Hの体にエーテルをかける。
  スーツのポケットからジッポを出し、火をつける秀二。
秀二「匿ってくれてありがとうH。バイバイ」
  その時、秀二の背後に現れる峻。
  勢い良く走り、秀二の背中にジャンピングキックを決める。
  地面に転がる秀二。
  誘導システムが地面に落ちる。
  持っていたエーテル瓶が割れ、秀二の左腕にかかる。
  地面に垂れたエーテルにジッポの火がつく。そして、その火は、秀二の左腕に燃え移る。
  大きな喚き声を上げる秀二。
  その声を聞き、目を覚ますH。
  峻がHを抱き起こす。
  H、地面の上でもんどり打っている秀二を哀しい目で見ている。
峻「QNは?」
  H、ごみピットを見つめ、
H「あの下よ」
  ごみピットの前に行き、確認する峻。
  QNの姿が消えている。
峻「いないぞ」
  峻の横に立つH。
  振り返り、地面に落ちている誘導システムが壊れているのを確認するH。
H「洗脳が解けたのね」
峻「じゃあ、QNは・・・」
  H、寡黙にその場を立ち去っていく。
峻「探さないのか?」
H「もういないわ」
  納得いかない表情の峻。
峻「ほっとくのかよ」
  H、アームシェイドのボタンを押す。銃口から「CO2(二酸化炭素)」を噴出させ、秀二の腕についた火を消す。
  喚き声が止む。気絶する秀二。
  ホッパーステージの上層部に止まっている救助用のゴンドラに乗るQN。
  跪いて身を隠し、様子を窺っている。
  秀二を見ているQN。
  怒りと哀れみが入れ混じった複雑な表情を浮かべている。

○ マンション2F・峻の部屋・リビング(夜)
  PCデスクに座っている峻。
  PCで宝くじの当選番号をチェックしている。
峻「そんなに甘くないか世の中・・・」
  やけ気味にカーペットの上に寝転ぶ峻。
  キッチンの壁にもたれているH。フードにジーパン姿。
  驚愕し、起き上がる峻。
峻「来てるなら、合図ぐらいしろよ。ああ、もしかして照れてんの?あの時やばかったもんね。俺がいてほんと良かったよね」
  ムスッとしているH。
峻「ちょっとは俺のこと見直した?」
  H、冷蔵庫を開け、中からプリンを取り出す。
  蓋を開けると、一瞬でプリンを食べてしまう。
  唖然とする峻。
峻「また好きになったのかプリン・・・」
H「嫌いになったなんて言ったっけ?」
峻「QNがいなくなったから。また食べ始めたんだ」
H「QNから何か聞いたの?」
峻「そ、想像に任せる・・・」
H「答えなさ・・」
  Hの携帯が鳴る。電話に出るH。
QNの声「久しぶりね」
  神妙な面持ちのH。

○ 繁華街(夜)
  若者達やカップルが闊歩する通り。
  街灯の下に立ち、スマホで電話をするQN。ワンピース姿。丸い眼鏡をかけている。
Hの声「ラオは、P―BLACKの収監室に送り返したわ」
QN「もういいの。未熟だったわね私。後輩のあなたにこんなこと言うのもあれだけど。
 あなたが優秀なスパイになっていて正直驚いた。私は引退するわ。自分の時間を取り戻したいの」
  QNの足元に灰色の猫が近づいてくる。
  猫を抱き上げるQN。
QN「これから遠くへ行くけど・・・」

○ マンション2F・峻の部屋・リビング
  電話の相手が気になる峻。
QNの声「・・・捕まえる気があるなら、早く見つけたほうがいいわよ」
H「・・・任務は終わった」
QNの声「また会う日が来るかもね」
H「かもね」

○ 繁華街
QN「ああ、あの人にもメッセージがあるの・・・宝くじが当たったら、またデートしましょ」
  電話を切る。
  猫の頭をなでるQN。
QN「信じられるのは・・・」
  QN、猫に頬擦りしながら、歩き去って行く。

○ マンション2F・峻の部屋・リビング
峻「QNか?」
  頷くH。
H「またデートしましょって言ってたわ」
  苦笑いする峻。
峻「あら、もてちゃったのかな・・・?」
  H、寡黙に冷蔵庫を開け、またプリンを食べ始める。
峻「なんで焼け食い?焼け食いだけに、妬いてんの?」
  峻をにらみつけるH。
峻「焼きプリンっていったんだよ・・・」
  アームシェイドの銃口を峻に向ける。
峻「おい、馬鹿、殺す気か・・・」
H「いくら当たったの。宝くじ」
峻「何で当たったこと知ってんだよ・・・」
H「想像に任せる」
峻「もういや・・・」
H「QNには、羽振りが良かったみたいね」
峻「プリン1ケース買ってくるから・・・」
H「いくら当たったの?」
峻「じゅ・・・十万だよ、十万」
H「じゃあ、10ケース」
峻「無茶苦茶な・・・って、また居座る気?」
  H、アームシェイドのボタンを押す。
峻「えええ、うそおおおお」
  アームシェイドから真っ黒い煙のようなものが発射される。
  そのまま画面は、ブラックアウト。

 
                                                   ―THE END―

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