『CODENAME:H NYAO2』 「集めるへそ」 作ガース『ガースのお部屋』

 

○ 暗闇の路上
  暗い夜道を横一列になって歩いている4人組の男女のシルエット。
  
○ 橋の上から河川敷に落ちる黒い人影
  鈍い衝撃音が轟く。

○ 河川敷
  草むらに仰向けに倒れている女子高生。
  腹を出して息絶えている。
  光るカメラのフラッシュ。
  へそから流れている血。
  へその中に埋め込まれているダイヤモンド。
  緑の髪でショートカット、黒いランニングシャツを着た若い女・冬柴洋子(22)。
  ガムを噛みながら、不敵な笑みを浮かべている。
  デジタルカメラで女子高生のへその写真を撮り続ける洋子。
  その様子を遠くから見ている一匹の黒猫。
  洋子、写真を撮り終えると、へそにはめ込んだダイヤモンドを掴み取る。
  シクラメンの花を女子高生のへその上に置いた後、闇の中に消える洋子・・・。
  不気味に泣き声を上げる黒猫。
  
○ 警察署・面会室
  ガラス板を挟んで向かい合って座っている二高辰雄(24)と高部 峻(23)。
  辰雄の後ろにいる警官。隅のデスクの座席に座っている。
辰雄「まさかなあ、おまえが来てくれるなんて俺、ついてるわ」
峻「どこで聞いたんだよ俺の電話番号」
辰雄「ママだよ。おまえのママ」
峻「ママ言うな」
辰雄「ガキの頃、よくおまえん家で遊んだから覚えてくれててさ」
  仏頂面の峻。
峻「高3の時にゲーセンで遊んだっけ。お互い別々の学校だったし、確かその時も中学の時以来、何年かぶりに会ったんだよな」
辰雄「子供の頃、無茶苦茶仲良かったよな俺達?」
  首を傾げる峻。
峻「そうでもなかったような・・・」
辰雄「毎日おまえん家でゲームしたし、週末には、おまえの親父さんと一緒にカラオケに行ったじゃないか」
峻「かれこれ4年ぐらい、会ってなかったような・・・」
辰雄「就職で北海道のほうに行ったからさ。東京に戻ってきたら、おまえのところに挨拶しに行こうと思ってたんだけど、こんなことになってしまって・・・」
峻「それで、何があったんだよ?」
辰雄「おまえは信じてくれるよな?」
峻「・・・」

○ 辰雄の回想
  動物園。キリンの檻の前に立っている辰雄。
辰雄(N)「二日前、動物園に行ったんだ。俺の動物好きは知ってるだろ?久しぶりに東京に戻ってきたから、子供の時によく通ったところへ一人で行ったんだ」
  キリンをジッと見ている辰雄。
  そばに2人の女子高生達がいる。かなり騒がしい。
  アイフォンを自撮り棒に取りつける飯田秋奈(17)。少しずつ棒を伸ばしている。
  秋奈の隣にいる武山真純(17)。秋奈に声をかける。
真純「もっと上、そうそう、それぐらい」
  自撮り棒からアイフォンがはずれ、辰雄の肩に落ちる。
辰雄「いて!」
  アイフォンを拾う秋奈。
秋奈「もう、買ったばかりなのに」
真純「しっかり挟まってなかったのよ」
辰雄「謝れよ」
  一斉に辰雄のほうに振り向く秋奈達。
辰雄「それ、肩に当たったんだけど・・・」
  秋奈、文句言いたげに顔を顰める。
秋奈「なんですか?」
真純「ごめんなさい」
  真純、秋奈を腕を引っ張り、逃げるように立ち去っていく。
  しかめっ面を浮かべる辰雄。
辰雄(N)「確かにその時は謝らなかったJK達に腹を立てたけど、別に何にも気にしちゃいなかった」

○ 警察署・面会室
辰雄「昨日、俺の肩に携帯を落とした女の子が殺されたんだ。その子の携帯には、なぜか俺の指紋がついてた」
峻「それでここにいるわけ?」
辰雄「しかも、殺され方が不思議なんだ。女の子の死因は、へその穴からの大量出血。電動ドライバーのようなものを押し込まれたらしい。
  へそに何かをはめこんだ痕が残っていて、シクラメンの花が腹の上に置かれていたって・・・」
峻「キザなことするなよ」
  ギロッと峻を睨みつける辰雄。
辰雄「信じてくれてるよな?俺のこと・・・」
峻「で・・・俺にどうしろと?」
辰雄「探してくれ真犯人を。協力よろ」
峻、困惑した様子。

○ 駅前
  国道沿いの歩道を歩く峻。
峻「やっかいなこと引き受けちゃったなあ・・・」
  ため息をつく峻。
  目の前にあるコンビニを見つめ、立ち止まる。
峻「アイスでも食って、頭冷やすか」

○ コンビニ内
  アイス売り場の前に立つ峻。ケースからアイスを掴み出す。
  セミロングの茶髪、眼鏡をかけ、タイトな黒いスーツに身を包んだ女・横井貴美子(28)が冷凍食品の棚の前に立っている。
  籠の中に、あるだけのプリンを入れている貴美子。
  峻、貴美子の様子をまじまじと見ている。
峻の声(N)「綺麗な人だなあ。何やってる人だろ。芸能プロダクションのマネージャーっぽいな。あんなにプリン買い込んで一人で食べる気か。
 誰かさんじゃあるまいし、それはないよな・・・」
  峻と目が合う貴美子。
  気まずそうに顔を背ける貴美子。峻の前を通り過ぎる。
  不思議そうな顔で貴美子を見ている峻。

○ マンション202号室・キッチン
  テーブル前の丸椅子に座る峻。
  アイスをペロペロ舐めている。
  テーブルの上に置いてある四角い目覚まし時計。「16:04」を表示している。
  冷蔵庫のドアを開ける峻。
  中には、買い置きのプリンが全棚にずらりと並んでいる。
峻「たくさん餌を用意した時に限ってこないんだよなあ・・・」
  冷蔵庫のドアを閉める峻。

○ ゲームセンター(翌日)
  電子音が鳴り響き、騒がしい店内。
  UFOキャッチーの前にいる真純と近藤恵理(17)。
  クレーンが白い熊のぬいぐるみを掴みかけるが、掴まらない。
  悔しがる二人。100円を投入し、もう一度始める。
  二人の背後で男の声が聞こえる。
峻「あの・・・」
  慌てて振り返る二人。怪訝に峻を見つめる。
峻「武山真純さんでしょ?」
真純「なんで私の名前知ってんの?」

○ 同・店前
  対峙して立っている峻と真純。
真純「嘘!秋奈が?」
峻「そう。もしかして知らなかったの?」
真純「ここ二日学校休んでるのは知ってたけど・・・まさか殺されたなんて・・・」
峻「最近さ、飯田さんに変わった様子なかった?」
真純「あんた、刑事?」
峻「実は、俺の友達が飯田さん殺しの犯人にされてて。三日前、飯田さんと一緒に動物園に行っただろ?キリンの檻の前で会った男の人・・・」
真純「ああ・・・秋奈が携帯を落とした時の・・・」
峻「そう。その人」
真純「じゃあ、その人が秋奈を?」
峻「そうじゃなくて。そいつは彼女を殺していないって言うんだ」
真純「だから、あんたが真犯人を探してるってわけ?」
峻「まあ、そういうこと・・・」
  ニヤリとする真純。
真純「どうしようかな・・・」
峻「えっ?」
真純「秋奈とは、はっきりいってそれほど仲が良かったわけじゃないんだ」
峻「じゃ、何で一緒に動物園行ったの?」
真純「一緒に行く予定だった子がさ、たまたま当日欠席して、代わりに私が行くことになったの。私も久しぶりに観に行きたかったら。
 いつもアカの他人みたいに口聞かなかったのに、あの日は意見が噛み合っちゃってさ」
峻「仲良さそうにキリンの写真撮ってたって聞いたけど」
真純「あの子自撮り棒使うの初めてだったから、教えてあげてたのよ。でも、ちゃんとはさまってなくて、隣にいた男の人の肩に携帯おっことしちゃって」
峻「そうだったのか・・・」
真純「良いこと思いついちゃった」
峻「はあ?」

○ 同・中
  UFOキャッチャーの前。
  クレーンが動いている。白いぬいぐるみの頭上に止まる。
  操作しているのは峻。
  峻の後ろに真純と恵理が立っている。
  峻、狙いを定め、ボタンを押す。
  下がるクレーン。白い熊のぬいぐるみに掴みかかるが、取れず。
  どよめく真純達。
真純「やる気あんの?」
峻「ウォーミングアップ終わり。これから本番」
  操作盤の上に積み上げられた100円玉がみるみる減って行く。

○ マンション202号室・キッチン
  ドアが閉まる音。
  峻がくたびれた顔をして部屋に入ってくる。
  椅子に座り、ため息をつく峻。
峻「くそっ。情報取るのに5200円も使っちまった。どこに請求すりゃいいんだ」
峻の背後で女の声が聞こえる。
女の声「相変わらずね」
  振り返る峻。
  赤いスーツ姿のH。壁にもたれ腕組みしながら立っている。
峻「いたのかよ」
H「お腹空いたから、ちょっと寄っただけ」
  峻、慌てて立ち上がり、冷蔵庫の扉を開ける。
  中に入っていたプリンが全てなくなっている。
峻「食堂じゃねーんだからここ」
H「何か調べてるの?」
峻「また・・・俺を監視してたのか」
H「そんな暇はない。人をサナダムシみたいに言わないで」
  大きな音を立てて冷蔵庫を閉める峻。
  物凄い剣幕で大声を張り上げる峻。
峻「誰がサナダムシじゃあああ!」
  圧倒されるH。
  正気に戻る峻。
峻「ご、ごめん。俺、小学生の時、サナダムシってあだ名つけられていじめられたことがあってさ。それ言われると、
 あの頃のことが頭をよぎって・・・それより、困ったことになっててさ・・・」
   ×  ×  ×
H「殺人犯に仕立てられた?」
峻「被害者の秋奈って子は、数週間前ら誰かに尾行されていたらしいんだ」
H「誰かって?」
峻「顔を見たわけではないらしいんたけど、本人がそう言ってたらしい」
  コップに入れた牛乳を飲む峻。
H「信用できるの?その話」
峻「この情報取るのに五千円・・・あっ、いや、俺が保証する」
  怪訝な表情のH。
H「それで?」
峻「暇なら、手伝ってくれてもいいんだぜ・・・」
  部屋から出て行くH。
峻「プリンのただ食いは・・・よくないと思うな・・・」
  立ち止まるH。
H「つまり、食べた分だけ働いて返せってこと?」
  頭を掻いている峻。
H「いいわ。何をすればいいの?」
峻「武山真純を尾行して欲しいんだ」
  歩き出すH。
H「明日ね・・・」
  飲んでいた牛乳を吐き出す峻。
  扉が閉まる音。空しく響く。
峻「これだよ・・・」

○ 飯田家・邸宅前
  コンクリートの打ち立てのモダンな家。
  家から少し離れた道路に立っている峻。
  入念に辺りを見回す。
  門前に設置されている監視カメラに気づく。
  峻、深呼吸し、足を進める。

○ 同・裏
  コンクリートの高い壁の前に立つ峻。
  ロープを投げ、壁の上に引っ掛ける。
  ゆっくりと壁をよじ登って行く。

○ 同・1階リビング
  広々とした空間が広がる部屋。人の気配はない。
  忍び足で静かに歩く峻。
峻「ラッキー。本当に誰もいないみたい」
  階段を登って行く。
  暫くして、階段の前にパーマ頭の男・白沢卓夫(33)がやってくる。
  革ジャンに黒のグローブ、サングラスをかけている。
  峻の様子を窺う白沢。

○ 同・2階秋菜の部屋
  おしゃれなピンク色の部屋。
  中に入ってくる峻。
  デスクの引き出し、箪笥、押入れなどを次々調べる。
  ベッドの下を覗き込む峻。ベッドのマットの下に手を突っ込む。
  何かを発見する峻。それを掴み、さっと取り出す。
  新品のアイフォン。電源を入れる峻。
  メール、ツイッター、SNSを確認するが、何も登録されてない。
  カメラのアプリを立ち上げる。
  数十枚の写真のデータが残されている。
  画面に写真を表示させ、一枚ずつスライドさせていく峻。
  ある写真を見て、指を止める。
  制服姿の女子高生とイケメンの男子学生が寄り添い合って映るツーショット写真。
  峻、アイフォンの電源を切り、足早に部屋を出て行く。

○ 東王女子学園・校門前
  制服姿の女子高生達が門を潜り、下校している。
  門前の歩道を歩いている真純。
  後ろから峻が近づいてくる。
峻「やあ」
  立ち止まり、峻を見つめる真純。
真純「なんだ。昨日の人か・・・」
峻「歩きながらでいいんだ。ちょっと話したいことがあって」
  歩き出す二人。
  峻、スーツのポケットから写真を取り出し、真純に見せる。
峻「この写真に写ってる子知ってる?」
  写真を掴む真純。
真純「これ・・・ええ、嘘!」
  驚いた表情を浮かべる真純。
峻「なになに?」
真純「この写真、どこで手に入れたの?」
峻「ちょっとしたツテがあってね」
真純「この男の子は、隣町の高校に通ってる高橋って子・・・」
峻「女の子は?」
真純「知らない。多分のこの子も他所の学校の生徒よ」
峻「この写真さ、飯田さんが持ってたものなんだ」
真純「高橋君と秋奈、つきあってたのよ」
峻「マジで?」
真純「二股かけられてたんた・・・」
峻「高橋君、どこにいるか知ってる?」
真純「カラオケかも」
峻「カラオケ?」
真純「何度か高橋君といったって、秋菜が話してた。高橋君、将来歌手になるのが夢で、一人カラオケすることもあるって言ってたわ」
  峻、内ポケットから名刺を出し、真純に手渡す。
峻「ありがとう。また何か思い出したら、俺に連絡して」
  走り去る峻。
  呆然と佇む真純。

○ カラオケ・ルーム
  ゼブラ模様の壁の部屋。
  黒いソファに寄り添って座る高橋直和(17)と園貴空美。
  二人でマイクを握り締めあいながら、デュエットしている。
  歌い終わる二人。
  立ち上がる直和。
空美「どこ行くの?」
直和「ちょっとトイレ」
  直和、空美の前を通り、部屋を出て行  く。
  テーブルに置いてあったメロンジュースを持ち、ストローで啜る空美。

○ 同・男性用トイレ
  中に入ってくる直和。小便器の前に立つ。
  その隣の小便器の前に立っている峻。
  峻、直和をチラチラ見つめる。
  訝しげに峻を見る直和。
峻「君、もしかして、高橋くん?」
直和「誰だよあんた」
峻「俺・・・飯田秋菜さんの知り合い」
  直和、気まずそうに顔を俯ける。
峻「知ってるだろ。彼女、3日前に殺されたんだ」
直和「だから何?」
峻「ストレートに聞いちゃうと、付き合ってたんだろ?彼女と」
  用を足し終わり、そそくさとその場を立ち去る直和。
峻「なぜ逃げるんだ?」
  立ち止まる直和。
直和「別に。あんた警察?」
  ズボンのチャックを上げ、直和の背後に近づく峻。
峻「知り合いだって言っただろ。もう彼女はいないんだからさ。正直に答えなよ」
  踵を返し、峻と顔合わせる直和。
直和「つきあってたよ遊び程度に。でも知り合ってからまだ半年も経ってない」
峻「カラオケルームに待たせている女の子が本命ってこと?」
直和「そんなのあんたに関係ないだろ」
峻「俺の友達が秋奈さん殺しの容疑者にされてるんだ。その疑いを晴らさないといけないんだよ」
直和「俺を疑ってるのか?」
  峻、スーツのポケットから写真を出し、直和に見せる。
  写真を見つめ、愕然とする直和。
  公園の遊具の前でキスしている直和と空美が映っている。
峻「秋菜さんの携帯に入ってた写真だ。アングルから察して、彼女は君の事を尾行してたみたいだぞ」
直和「・・・」
峻「他にも君とこの女の子が写った写真が一杯あった」
直和「こんなの何の証拠にもなるかよ」
峻「別に君を犯人だと決め付けてるわけじゃない」
直和「なら、なんであんた俺の前にいるんだよ」
峻「君がここにいるって聞いたからそれで・・・」
直和「ふざけんな」
  突然、走り出し、店を出て行く直和。
峻「おい、ちょ・・・」

○ 同・ルーム
  メロンジュースを啜っている空美。
  待ちくたびれた様子。
  ドアが開く。
空美「遅いよ。何してたの・・・」
  唖然とする空美。
  入口に立っている峻。
峻「高橋君なら、もう帰ったよ」
空美「あんた誰?」

○ 繁華街
  人通りの激しい遊歩道を歩く空美と峻。
  不貞腐れた顔をしている空美。
峻「何でもいいから話を聞かせてくれない?」
空美「・・・」
峻「おわびにカラオケ代払ったじゃん」
空美「直和呼んで来て」
峻「えっ?」
空美「私のことほったらかして先に帰るなんて、許せない」
峻「気持ちはわかるよ」
空美「あんたもあんたよ。直和を犯人扱いして。私達の関係おかしくなったら、どう責任取ってくれるの?」
峻「彼にはあとで謝るからさ。そうだ。アイスクリーム奢るよ」

○ コンビニ内
  アイスクリーム売り場の前に立っている峻と空美。
  空美、メロン味のカップのアイスを手に取る。
峻「それでいい?」
  空美、もう一つ違うアイスを手に取る。
  呆れた表情を浮かべる峻。
  冷凍食品売り場の前に立っている貴美子。峻達の様子をジッと見ている。
  
○ 噴水広場
  噴水そばの階段に座っている峻と空美。アイスを食べている空美。
峻「嫌がらせメール?」
空美「そう。二ヵ月前から毎日しつこく私の携帯に送ってきてたわ」
峻「じゃ、君は秋奈さんのこと知ってたの?」
空美「直和から聞いてた。遊び程度に付き合ってる女がいるって」
峻「それで君は、何も言わなかったの?」
空美「うん。だって直和のこと信じてたし」
峻「秋奈さんと直接会ったことは?」
空美「一度もない」
峻「彼女はどうやって君のメールアドレスを知ったんだ?」
空美「たぶん、勝手に直和の携帯を覗いたんじゃない?」
  食べ終わったアイスの棒を峻に渡す空美。
空美「そろそろ帰ってもいい?」
峻「ああ・・・送ろうか」
空美「車あるの?」
峻「ないけど・・・」
空美「じゃあいい」
  歩き出す空美。暫くして立ち止まり、峻のほうに振り向く。
空美「そうだ。直和にはもう近づかないで」
峻「どうして?」
空美「直和の代わりに私が全部あんたの質問に答えてあげたでしょ?だから絶対近づかないでね」
  歩き去る空美。
  ため息をつくる峻。

○ マンション202号室・キッチン
  冷蔵庫の扉を開ける峻。
  牛乳を取り出す。
  牛乳をパックのまま飲み干す峻。
  テーブルの前の椅子に腰掛ける。
峻「これ以上調査続けたら、キングボンビーだぜ」
女の声「なにそれ」
  振り返る峻。
  壁にもたれ、腕組みしながら立っているH。
峻「玄関から入って来いよたまには・・・」
H「買い置きのプリンは?」
峻「只今品切れ中。それより例の件調べてくれた?」
H「やめたほうがいい」
峻「えっ?」
H「下手したらあなたも狙われる」
峻「俺の友達の将来がかかってるんだぞ」
H「さっきあなたが連れていた女の子、代議士の娘よ」
峻「政治家の娘だから引き下がれって言うのかよ。てか、なんで俺が女の子と一緒にいたこと知ってるんだ?」
H「想像に任せる」
峻「教えろよ!」
  H、寡黙に部屋を出て行く。
峻「プリン屋じゃねーんだぞ俺んちは」
  着信音が鳴る。携帯に出る峻。
峻「はい・・・」
  唖然とする峻。

○ 歩道橋
  橋の真ん中に立ち話している峻と真純。
峻「万引き?」
  頷く真純。
真純「秋菜、盗み癖があったの。100円ショップとかコンビニとか、雑貨店で服を盗んだこともあるって言ってた」
峻「まさか、君も?」
真純「しないわよ。前に秋奈と親しくしていた同級生の子が万引きで捕まって、警察に補導された後に自殺してしまったの」
峻「何で自殺したの?」
真純「靖美は、秋菜の身代わりになったのよ」
峻「身代わり?」
真純「靖美、秋菜が万引きするところを見ていただけなの。秋菜が店の物を鞄に入れている時に警備員がきちゃって、
 秋菜がその鞄を靖美に強引に持たせて、彼女を犯人に仕立てたの」
峻「何でその子は、警察に事情を説明しなかったんだ?」
真純「おとなしい子だったのよ。昔はあまり喋る子じゃなかったから。友達も少なかったけど、秋菜と付き合うようになってからは、
 雰囲気が変わって以前よりも明るい子になった。たぶんだけど、秋菜に嫌われたくなかったんだと思う」
峻「気の毒に・・・」
真純「今学校で噂になってることがあるの。『シクラメンクロス』って聞いたことある?」
峻「なにそれ?」
真純「人を殺める集団。殺意を持った相手を完全に消してくれるの」
峻「かなりやばい集団だな・・・」
真純「何ヵ月か前にアイドルの窪添陽一が自殺したでしょ?あれも、その集団が関わっていたって話よ。
 死体のそばに必ずシクラメンの花が添えられるらしいわ」
峻「そう言えば・・・秋菜さんの遺体のそばにもシクラメンの花が置いてあったらしいけど・・・」
真純「シクラメンは死と苦の意味をあらわすそうよ・・・」
峻「じゃあ、そいつらに・・・」
  突然、大笑いする真純。
真純「都市伝説。単なる噂。本気にしたの?」
  苦笑いする峻。

○ 歩道橋下
  道路脇に止まっている黒いセダン。

○ セダン車内
  左側の運転席に座っている女・寺島高美(26)。ボブカットの髪に、サングラスをかけ、紫のワンピースを着ている。
  峻達の様子を窺っている。

○ 天川吉行 事務所
  立派な机の前に座っている天川吉行(47)。
  電話の受話器を持ち、話している。
天川「わかりました。はい、失礼します・・・」
  受話器を置く天川。
天川「横井さん」
  眼鏡をかけている貴美子。天川の前にやってくる。
貴美子「はい」
天川「来月の12日の昼から僕の地元で古里再生についての合同懇談会があるんだけど、スケジュールはどうなってる?」
  手帳を出し、確認する貴美子。
貴美子「12日は・・・本会議と重なりますね」
天川「じゃ悪いけど、代わりに君が出席してくれないか」
貴美子「わかりました」
  立ち上がり、トイレに向かう天川。
  手帳に記入している貴美子。
 怪しい目つきで天川の背中を見つめる。

○ 同・トイレの中
  便器に座る天川。
  ある写真を見ながら携帯で話をしている。
  写真には、車の中で密談するある政治家の男とその愛人の姿が写っている。
天川「ああ、あの男な。どこの記者だったかな。君にもしつこくつきまとってただろ。この間、事故に遭ったらしいよ。
 いや、事情は僕にもよくわからないけど、まあ良かったじゃない。これで堂々と胸を張れるだろ君も」
  高笑いする天川。

○ 同・トイレ前
  トイレの前に立つ貴美子。扉に耳を当て、天川の話を聞いている。

○ 国道沿い・歩道
  歩いている峻と真純。
峻「その噂っていつから出始めたの?」
真純「三ヵ月ぐらい前・・・」
峻「本当にいるなら会ってみたいな」
真純「会ってどうするつもりなの?」
峻「俺も殺したい相手がいるからさ、その人達に何とかしてもらおうかなって・・・」
真純「じゃあ、頼んでみれば・・・」
峻「えっ?」
  突然、後方から荒々しいエンジンが聞こえてくる。
  振り返る二人。
  黒いセダンが猛スピードでこちらに迫ってくる。
  二人の真横に立ち止まるセダン。
  運転席の窓がゆっくりと開く。サングラスをかけた高美が二人を見ている。
  高美を見て、愕然とする真純。
真純「おばさん・・・」
峻「なんだ、知り合い?」
  高美、突然、左手に持っていた銃で峻を撃つ。
  峻の右腕に小さい矢が刺さる。
  その場に崩れる峻。
  車から降りる高美。峻のそばに行き、脈を調べる。
真純「殺したの?」
  首を横に振る高美。
高美「軽い睡眠剤よ。あなたも手伝って」
  高美、峻の体を持ち上げる。手を貸す真純。
  車の後部席に乗せられる峻。扉が閉まる。

○ とあるオフィスビル5階
  空きフロア。
  物が置かれていないだだっ広いスペースの真ん中に、回転椅子に縛られた峻がいる。
  峻、ガムテープで目と口を塞がれている。後ろ手にされ、胴体と椅子にも何重にもぐるぐると張られている
  峻の後ろの壁一面に貼られた写真。ダイヤをはめ込んだへそのアップ写真が何枚も貼り付けられている。
  足音が迫ってくる。
  少し身震いする峻。
  峻の前で立ち止まる高美。
高美「大声を出したら、わかるわね」
  頷く峻。
  高美、峻の口のガムテープを素早くはがす。
  その痛みでおもわず声を上げそうになるが堪えている峻。
峻「もっとゆっくり・・・」
高美「二日前死んだ女子高生のこと調べていたそうね」
峻「もしかしてあんた、シクラメン何とかの人?」
高美「あなたを・・・クローズする」
峻「クローズ?」
高美「この世から締め出すの」
峻「ダチをはめやがって」
高美「あなたのその友達ね。2年前に車で子供を当て逃げしてるのよ」
峻「えっ?」
高美「幸い子供の命は無事だったけど、左足に軽い後遺症が残った。私にも昔子供がいたの。でも夫が目を離した隙に路上に飛び出して・・・死んだわ」
峻「だからって、なんであいつを警察に?」
高美「許せなかったの。本当は殺すつもりだったけど、ラッキーだったわね」
  足元を見つめる高美。
高美「ちなみに、あなたが今座っている場所の下には、男の遺体が埋まってる」
峻「遺体って、誰の?」
高美「どこかの記者だっていってたかな。ある人に依頼されて、仲間がここで男をクローズして遺体を隠した。あなたもいずれそうなるわ」
峻「お願いがある・・・いや、あります。僕も・・・入れて下さい。シクラメン何とかに・・・」
高美「名前もしっかり覚えてないのに、ふざけないで」
峻「友達のことは諦める。秋菜さんのことも誰にも口外しない。だから・・・」
  複数の足音が聞こえてくる。
  峻の前に薄い髪の七三分け、グレイのスーツを身に着けた初老の男・野間仁史(58)と、洋子がやってくる。
野間「何やってる。さっさと始末しろ」
高美「仲間になりたいって言うの」
洋子「定員オーバーよ。役に立つようにも見えないし」
峻「お仲間の人?」
野間「兄ちゃん。俺達はな、そこいらのサラリーマンとはわけが違うんだ。あんまり気安く喋りかけるな」
洋子「ねえ、この人のお腹見たいんだけど、ちょっといい?」
高美「ガムテはずさないといけないじゃない。面倒臭い」
  洋子、ポシェットからユーティリティライターを取り出す。
  峻の腹部に、ライターの火を当てる。
  腹部のガムテが燃える。
  悲鳴を上げる峻。
峻「あつ・・・あつ!」
洋子「あ、やばい」
  洋子、慌てて火を消す。
  峻の服が焦げて穴が空き、へそが露出している。
  とろんとした眼でへそを見ている洋子。不気味に微笑む。
洋子「かわいい」
峻「何だおまえ?」
  洋子、峻の椅子を180度回転させる。
  壁一面に貼られたへその写真を見る峻。
峻「へそ・・・」
野間「洋子ちゃんの趣味だ。へそフェチなんだこの子」
高美「遺体のへそにダイヤをはめたへそアートなんだって」
峻「やっぱり、秋菜さんを殺したのは、おまえらか」
洋子「後は私に任せてくれる?」
高美「また写真撮るの?」
洋子「ぴろりん」
野間「そんなことばっかやってるから看護士クビになっちまうんだ。変態趣味も程々にしろ」
洋子「あんただって電機屋リストラされた癖に。このヌカじじい」
野間「このアマ!」
高美「喧嘩はやめなさい。じゃあ頼むわよ」
  頷く洋子。
  立ち去る野間と高美。
峻「ちょっと・・・どこいくんだよ」
洋子「安心して。まだ殺さないし」
  洋子、峻のへそを指で触る。
峻「やろめよ・・・」
洋子「勘違いしないで。私はここが好きなだけ・・・」
  洋子、峻のへそを指で弄り回しいる。
洋子「みんなこうなるの。私の患者さんは・・・」
  洋子、右手に持つ電動ドリルを回す。
  悲鳴を上げる峻。

○ 国道
  二車線の見通しの良い道路。
  右側のレーンを走る黒い高級車。

○ 高級車・車内
  後部席に座っている天川。
  ハンドルを握っている貴美子。
天川「次の講演会は、何時だ?」
貴美子「16時からです」
  腕時計を確認する天川。
  時間は、15時18分を表示している。
天川「腹減ったな」
  前方に見えるショッピングモールを見つめる天川。
天川「あそこのフードコートに行って、曙屋のクレープ買ってきてくれ」
貴美子「わかりました」

○ ショッピングモール・立体駐車場1F
  店の入口前の駐車スペースに止まる高級車。
  運転席から降りる貴美子。入口に向かって早足で歩き始める。
  暫くして、別の方向から高級車に近づいてくる高美。
  後部席の扉を開け、車に乗り込む高美。

○ 高級車・車内
  後部席に座っている天川と高美。
天川「あの記者の遺体は?」
高美「例の場所に隠しました。絶対にばれません」
天川「当たり前だ。君らには高い金注ぎ込んでるんだぞ。失敗は許されない」
高美「申し訳ございません」
天川「例の女子高生の件を嗅ぎ回ってた奴は?」
高美「身柄を押さえています。そのことで相談が」
天川「相談?」
高美「その男が我々の仲間に入りたいっていうんです」
天川「利用価値はあるのか?」
高美「個人で探偵業のようなものをやっているみたいですが、まだ若いのに腕はそこそこ立つみたいです」
天川「まあ、君が言うなら間違いないんだろうな」
  突然、車の扉が開く。野間が車に乗り込んでくる。
  口に指を当てて「シー」のポーズをする野間。黙る二人。
  助手席のシートの下に仕掛けられている盗聴器を指差す野間。
  野間、OKの合図を出し、そのまま車から立ち去る。
  喋り出す天川。
天川「暑いな。ちょっと風に当たろうか」
  車から降りる二人。

○ ショッピングモール内・女子トイレ・ブース
  便座の前に立つ貴美子。
  イヤホンをつけ、天川と高美の話を盗聴している。
  二人の話し声が止む。
  怪訝な表情を浮かべる貴美子。

○ 赤いセダン車内
  後部席に座っている天川と高美。
  運転席に野間が座っている。
野間「何か心当たりでも?」
天川「・・・あの女か」
高美「誰ですか?」
天川「今クレープを買いに行ってる女だ。横井貴美子。二週間前に第2秘書として雇ったばかりだ」
野間「早く手を打たないと、火傷しますよ。もうしてるか」
  やらしい目つきで天川を見る野間。
天川「何だその目は?」
  
○ 天川吉行 事務所前(深夜)
  戸締りをし、歩道に向かって歩き出す貴美子。

○ 地下・階段
  地下鉄へ続く人気のない階段を下りている貴美子。
  後ろから聞こえる足音に気づき、立ち止まる。
  振り返る貴美子。誰もいない。
  また、階段を下り始める。

○ 地下街
  全ての店のシャッターが閉まり、寂びれた風景。
  まばらに人が行き交う。
  歩いている貴美子。

○ 地下鉄・車内
  座席の片隅に座っている貴美子。
  落ちつかない様子で辺りを凝視している。

○ 住宅街
  街灯の少ない暗がりの細い路地を歩く貴美子。
  時々、後ろを見ている。
  ハイビームの光が貴美子に当たる。
  猛スピードで貴美子の前に迫る車。
  後ろからも車が接近。
  慌てふためく貴美子。
  二台の車のヘッドライトの光を浴びる貴美子。
  二台の車に挟まれる。
  両方の車の運転席から男が降りてくる。
  一人は野間。もう一人は、白沢。
白沢「横井貴美子だな?」
貴美子「何?あなた達・・・」
  野間、貴美子のショルダーバックを奪い取る。バックの中の物をばら撒く。
  録音機能付の受信機が出てくる。
  受信機を拾う白沢。
白沢「天川さんの車を盗聴してたのか?」
貴美子「ちょっと興味があって・・・どんなものなのか試してみたかったんです」
  白沢、右手に持ったシクラメンの花を貴美子の顔に近づける。
  シクラメンの花から紫色の煙が噴き出す。
  煙を吸い、意識を失う貴美子。
  貴美子を抱き止める白沢。
  貴美子の匂いを嗅ぐ。
白沢「良い匂いだ。それにいい女だ」
野間「おいおい、発情するなよ」
白沢「車に乗せるぞ」

○ 森の中
  薄暗い茂み。スコップで土を掘る白沢と野間。
野間「江戸時代じゃあるまいし。もっと良い方法なかったのか?」
白沢「汗水流すのは、労働者の義務だろ」
野間「池か海に捨てりゃ良かっただろ。わざわざこんな虫臭いところに生き埋めにしなくても」
白沢「水場じゃ遺体が浮いてくる可能性があるだろ。ここなら誰も近寄らないし、土穿ったりしねえしな」
野間「元自衛隊のエキスパートとは思えないざついやり方だな。作戦練らずに穴ばっか掘ってたのか?」
白沢「年取るとぶつぶつ文句ばかり垂れるからやだね。こんな年寄りにはなりたくない」
野間「年寄りだと?俺はまだ58だぞ。失礼な」
白沢「黙って仕事しろよじいさん」
  野間、怒りを堪えながら土を掘り起こし続ける。
    ×  ×  ×
  二人で気絶している貴美子の体を持ち上げ、穴の中に放り投げる。
  暗い穴の中に落ちる貴美子。
野間「念のためトドメを刺しとけよ」
白沢「弾の無駄遣いだろ」
  白沢、スコップを持ち、貴美子に土をかける。
野間「ケチなこと言ってたら、化けて出てくるぞ」
白沢「ゾンビじゃあるまいし。さっさと埋めろよじじい」
  野間、渋々作業を始める。
  土に埋もれて行く貴美子の体。

○ ホテル一室・リビング
  ソファに座っている高美。
  携帯が鳴る。電話に出る。
高美「終わった?」
  白沢の声が聞こえる。
白沢の声「汗くせえ。今からそっちにシャワーを浴びに行くからな」
高美「銭湯にでも行けば」
  冷たく電話を切る高美。

○ とあるマンション202号室・キッチン
  暗い部屋。
  玄関から扉が開く音がする。
  中に入ってくるH。
  スイッチを押し、灯りを点ける。
  峻がいないことを知り、神妙な面持ちのH。

○ 天川吉行 事務所前(翌日・朝)
  秘書の女と話している天川。
  天川の携帯が鳴る。
  携帯のディスプレイを見ると、すかさずトイレに駆け込んで行く天川。

○ 同・トイレ内
  携帯で話す天川。
高美の声「クローズしました」
天川「遺体は?」
高美の声「山の中に埋めたそうです」
天川「そうか。次の仕事に取り掛かれ」
  電話を切る天川。水を流し、トイレから出る。
  外に出た瞬間、思わず声を上げる天川。
  目の前に貴美子が立っている。
  頭を下げる貴美子。
貴美子「おはようございます」
  動揺を隠し、平然を装う天川。
天川「お、おはよう・・・遅かったね・・・」
貴美子「寝坊しました。久しぶりにタクシーを使ったら、道が混んでいまして・・・」
天川「そう・・・」
貴美子「9時からの講演会は江戸川市民ホールです。車の準備できています」
  立ち去る貴美子。
  天川、慌ててまた扉を閉める。

○ とあるオフィスビル5階
  縛られたままの峻。眠っている。
  峻の前に立っている洋子。黒猫を抱いている。
  かわいい泣き声をあげる猫。
  洋子、突然、黒猫のへそを探し始める。
  白いぽっちりしたへそを見つけ、ニンマリする洋子。
峻「今度は、その猫のへそにダイヤをはめる気か」
洋子「猫のコレクションはたくさんあるの。今欲しいのは、若い男の写真」
  洋子、猫を下ろし、峻の前に座り込む。
  峻のへそを見ながら、舌なめずり。
峻「やめろよ、おい・・・」
白沢の声「まだ手出しちゃ駄目、洋子ちゃん」
  振り返る洋子。
  白沢、野間、高美の三人が中に入ってくる。
洋子「もう我慢できない」
野間「一思いに、電気仕掛けでやっちまうか」
白沢、革ジャンのポケットからプラスド ライバーを出す。
白沢「それじゃあ洋子ちゃんが納得しないだろ」
  頷く洋子。
  峻、白沢が持っているドライバーを見つめる。
峻「やるなら別の方法にしてくれない?」
  高美の携帯が鳴る。
  携帯に出る高美。
野間「友達なんて下手に作るもんじゃないよな。こうやって自分が痛い目に遭うんだから」
峻「そうですね。ホントもうこりごり・・・」
白沢「闇の仕置人に関わった天罰だ。悪く思うなよ」
峻「絶対化けて出てやる・・・」
  白沢、峻のへそにドライバーを突き刺そうとする。
  大きな悲鳴を上げる峻。
  その様子をジッと見ている黒猫。
高美「待って!」
  峻のへそにドライバーが刺さる寸前、白沢が動きを止める。
高美「あんた達、あの女どうしたの?」
野間「3時間かけて山に埋めたぞ」
高美「天川さんの事務所に来たって」
野間「誰が?」
高美「あの女よ。いつものように普通に出勤してきたらしいわよ」
  愕然とする白沢と野間。
野間「だからトドメを刺せって言ったのに・・・」
白沢「5m下の土の中に埋めたんだぞ。モグラかよ」
高美「もう警察に垂れ込んだかも・・・」
洋子「どうなんの私達?」
白沢「落ち着け。今度は確実にやらんとな」
  高美、峻を見つめ、
高美「良い方法がある。ラッキーね、あんた」
  呆然としている峻。

○ 国道
  三車線の大通り。
  真ん中のレーンを走る黒い高級車。

○ 高級車・車内
  後部席に座っている天川。
  助手席に座っている貴美子をジロジロ見ている。

○ 江戸川市民ホール・出入口
  『天川吉行 講演会』の案内板が立っている。
天川の声「・・・国の最終の決定権は、国民にあります。国民一人一人が自立して、判断しなければなりません」

○ 同・多目的ホール内
  千人の客席が埋まっている。
  ステージ中央の壇上に立っている天川。
天川「民主主義には、自立が大事なことではありますが、欧米と全く同じようなものを目指すのではなく、
 日本の、日本人の生き方に沿ったものを目指すべきなのです」
  拍手喝采が上がる。

○ 同・小楽屋
  天川の秘書達がソファに座り、談笑している。
  鏡の前に立ち、手帳に記入している貴美子。
  書き終わると、手帳をスーツのポケットにしまい、部屋を出て行く。

○ 同・通路
  歩いている貴美子。
  貴美子の携帯が鳴る。
  貴美子、携帯を出し、ディスプレイを見つめる。「番号非通知」の文字が表示されている。
  立ち止まり、携帯に出る貴美子。
貴美子「もしもし」
  低い男(峻)の声が聞こえる。
峻の声「あなたに・・・いや、あんたに・・・違うか・・・おまえに話があります・・・」
貴美子「はあ?」
峻の声「来なければ、天川さんの危険が命だ・・・ステージに、スパナ・・・スパイナ・・・スナイパーがいて、おまえを殺す・・・
 じゃなくて天川さんを狙っているのです・・・」
貴美子「何をおっしゃられているのですか?」
峻の声「今すぐホール裏の駐車場にきやがれ・・・」
  電話が切れる。
  怪訝な表情を浮かべる貴美子。

○ 同・裏・駐車場
  駐車スペースに止まっている車の間を歩いている貴美子。
  車の陰から飛び出してくる男。
  男は、峻。貴美子の前に立ちはだかる。
  峻、貴美子の顔を見て、ハッとする。
峻「あんたコンビニで・・・」
貴美子「あなたなの?私を呼び出したのは」

○ 黒いセダン車内
  駐車スペースに止まっている。
  運転席に座っている高美。
  峻と貴美子が車の前に立っている。
  二人の様子を見ている高美。
  峻、スーツのポケットから、リボルバー式の拳銃を出し、貴美子に向ける。

○ 江戸川市民ホール裏・駐車場
峻「あんたには恨みはないけど、あんたを殺さないと、俺の命が・・・」
  震えた手で銃を握り締める峻。
  貴美子、平然とした様子。
貴美子「早く撃ちなさい」
峻「えっ?」
貴美子「私を撃たないとやばいんでしょ?」
峻「でも・・・」
貴美子「意気地なし」
峻「だって・・・」
貴美子「いつまでたっても成長しない。まるでサナダムシね」
峻「今なんて言った?」
貴美子「サ・ナ・ダ・ム・シ」
  怒りに震える峻。
峻「それだけは・・・それだけは言うなあああ!」
  引き金を引く峻。
  貴美子の右胸に銃弾が当たる。
  その場に倒れ込む貴美子。
  呆然と立ち竦む峻。
峻「・・・終わった・・・俺の人生終わった・・・」
  クラクションが鳴る。
  黒いセダンを見つめる峻。
  高美、車から降り、峻の前に近づく。
高美「トランクに入れるから、手伝って」
  頷く峻。
    ×  ×  ×
  車のトランクの中に乗せられている貴美子。
  トランクを閉める高美。
  車のエンジンが始動する。
  急発進する黒いセダン。
  駐車場を出て、一般道を走り去って行く。

○ 黒いセダン車内
  ハンドルを握る高美。
  助手席に座る峻。放心状態。
高美「よくやったわ」
峻「・・・」
高美「勇気を称えて、あなたをシクラメンクロスの正式メンバーにしてあげる」
峻「・・・」
高美「どうしたのよ。私達の仲間にになれたのよ。嬉しくないの?」
  突然、狂ったようにけたたましく笑い出す峻。
高美「きもい・・・」
峻「ギャラはいくらだ?」
高美「もうお金の話?そうね。仕事一件につき300万ぐらい」
峻「人殺しにたったそれだけ?」
高美「仕事はいくらでもあるわ。世の中には、醜い殺意が満ち溢れてる。私達は、それを見つけ出して、願望を叶えてあげればいいだけ」
峻「今まで何人殺したんだ?」
高美「42人。あなたは、43人目になるはずだった」
峻「秋菜って子、なぜ殺した?」
高美「今更なぜそんなこと聞くの?」
峻「あんたらの仲間になったんだ。それぐらいのこと教えてくれても良いじゃん」
高美「・・・あれは、ヘッドの娘さんに頼まれてやったの」
峻「ヘッドって?」
高美「天川。私達の元締め」
峻「娘ってもしかして・・・園貴空美のこと?」
高美「そうよ。あの子は、天川の隠し子なの。彼氏につきまとう女がいるから、クローズしてくれって頼まれて。私はあまり乗る気じゃなかったのに」
  困惑している峻。

○ テナントビル・地下駐車場
  勢い良く走ってくる黒いセダン。
  隅の駐車スペースに止まる。
  車から降りる高美と峻。
  トランクを開ける。
  貴美子の遺体が消えている。
  驚愕する高美と峻。
  後ろから女の声が聞こえる。
女の声「そういうことだったのね」
  振り返る二人。
  二人の前に立っている貴美子。
高美「あんた・・・ええええ?」
峻「確かに撃ったぞ、俺・・・」
貴美子「あなたには、必ず罪を償ってもらう・・・」
  高美、峻に目をやり、
高美「撃って」
峻「えっ?」
高美「銃持ってるでしょ。早く」
峻「でも・・・撃っても無駄なような・・・」
  高美、峻のスーツのポケットに手を突っ込み、銃を取り出す。
  すかさず、貴美子に銃を撃つ高美。
  瞬間的に高美の後ろに回り込む貴美子。
  高美の銃を取り上げ、銃のグリップ部で高美の首元を殴りつける。
  その場に倒れる高美。
  峻の前に立つ貴美子。
  両腕を高く上げる峻。
峻「怒って・・・ますよね?」
  不気味に微笑む貴美子。
貴美子「馬鹿」
峻「えっ?」
貴美子「私じゃなかったら、今頃刑務所行きよ」
峻「・・・その喋り方・・・その雰囲気・・・もしかして・・・」
  貴美子に変装しているHに気づく峻。
峻「ちゃんと説明しろよ」
貴美子「一週間前に死んだ新聞記者のことを調べてたの」
峻「なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ」
貴美子「偶然、あなたが調べていた事件とつながった」
峻「危うく俺まで殺人犯になるところだった・・・ふー」
貴美子「早く自宅に戻りなさい」
峻「馬鹿言うなよ。真犯人が見つかったんだ。この女を警察に連れて行って友達を自由にしてやらないと・・・」
貴美子「仕方ない・・・」
  貴美子、高美の服を脱がし始める。
峻「どうする気だよ?」

○ とあるオフィスビル5階
  高美(に変装したH)と峻が並んで入ってくる。
  窓辺で煙草を吸っている野間と洋子。
高美「終わったわ」
  振り返る二人。
野間「今度こそしっかり殺ったんだろうな」
高美「誰のせいでこうなったのよ」
  やらしい目つきで峻を見ている洋子。
洋子「その人、どうするの?」
高美「今日からシクラメンクロスの新メンバーよ」
野間「はあ?正気か?」
高美「あんた達の尻拭いをしてくれたのよ。当然でしょ」
峻「そうだよ。よろしくな」
  野間、高美の前で煙草の煙を吐き出す。
野間「おもしろくねえ」
洋子「せっかく良い写真が撮れると思ってたのになあ」
  高美、踵を返し、部屋を出て行く。
野間「おい、どこに行くんだ?」
高美「天川さんに報告してくる」
  扉口に立っている白沢。高美の進路を妨げる。
高美「どいて」
  不適な笑みを浮かべる白沢。
白沢「貴美子の遺体、どこにやった?」
高美「車の中よ」
白沢「見せてもらおうか」
高美「私を疑ってるの?」
白沢「野間の爺さんが煙草の煙を吐いた時、おまえ平気な顔をしてたよな。以前のおまえなら、あんなマネしたら
 半殺ししそうな目で俺たちに文句を言いまくってたはずだ」
  高美、気まずそうに顔を背ける。
白沢「高美じゃねえな?おまえ」
  不気味に微笑む高美。一瞬で姿を消す。
  慌てふためく野間と洋子。
野間「どこいきやがった?」
  野間の延髄に蹴りを入れるH。さらに、
  洋子の腹に肘を打つ。
  一瞬で倒れる野間と洋子。
  二人の前に立っている赤いスーツ姿のH。
  白沢、峻の首に腕を回し、峻のこめかみに銃口を突き立てる。
白沢「動くな。こいつの頭がちくわになるぜ」
H「どうぞ」
峻「おい!」
H「さっき私を撃ったでしょ」
峻「あの時は、あの時だろ・・・」
H「地獄に落ちれば。サナダムシ」
  峻、鬼の形相になり、
峻「なにいいいい!」
  峻、白沢の手を振り払い、白沢の銃を蹴り飛ばす。
  すかさず、白沢の腹に両手でパンチを連打。
  崩れ落ちる白沢。
  呆気に取られているH。
  Hを睨みつける峻。
峻「おい、この野郎!」
  Hに襲い掛かる峻。
  峻を払い除けるH。豪快に床に倒れる峻。
  正気を取り戻し、起き上がる峻。
  倒れている白沢を見つめ、
峻「具合悪いのか?」

○ 繁華街
  人通りの激しい通り。
  腕を組み、楽しそうに歩いている直和と空美。
  二人の前に止まる黒い高級車。
  後部席の窓が開く。
  顔を出す天川。
  唖然とする空美。

○ 黒い高級車・車内
  市道を走行中。
  後部席の右側に天川、左に空美が座っている。
  不貞腐れている空美。
空美「また私に尾行つけてるの?」
天川「あの時間帯ならあの通りを歩いているだろうと思ってね」
空美「どうして直和も一緒に乗せてくれなかったのよ」
天川「そのことで話がしたかったんだ」
空美「どうして?」
天川「おまえ、私の裏の組織の事、知ってたのか」
空美「前にパパの事務所に女の人が来てた時、話を聞いちゃったんだ」
天川「あの女を脅して、別の学校の女生徒をクローズさせたのか」
空美「パパがやってるなら、私もいいかなって思ったの」
天川「おまえの勝手な行動のせいで、パパ達は迷惑してるんだぞ」
空美「あの女が悪いのよ。人の彼氏奪うようなことするから」
天川「あの少年とは別れなさい」
空美「はあ?」
天川「あんな男と付き合うから、人殺しなんてくだらないことを思いつくんだ」
空美「パパがそう言うなら私にも考えがある。事件のこと、全部警察に話すから」
天川「そんなことしたら、パパは捕まるし、おまえも少年院送りになるぞ」
空美「じゃあ二度とそんな事言わないで。今度言ったら本気で・・・」
  急ブレーキがかかる。反動で前のシートに顔をぶつけそうになる二人。
  運転手に向かって叫ぶ天川。
天川「何してるんだ、馬鹿!」
  運転手の男、前を指差し、
運転手の男「あそこに人が・・・」
  前を見つめ、驚愕する天川。
  車の前に貴美子(に変装したH)が立っている。
天川「かまわん。轢け」
運転手の男「えっ?」
天川「いいから早く」
  ドライバーの男、目を瞑りながら、アクセルを踏み込む。

○ 市道
  急発進する黒い高級車。
  振り返り、高くジャンプする貴美子。
  バク宙して、車を避ける。
  黒い高級車、そのまま暴走し、正面に立っている古い家屋に突っ込む。

○ 古い家屋の中
  瓦礫に埋もれている黒い高級車。
  車から降りる天川と空美。
空美「ああ、もう最悪・・・パパのせいよ」
  気絶している運転手の男に吠える天川。
天川「おまえはクビだ。下手糞!」
  天川、人の気配を感じ振り返る。
  目の前に貴美子が立っている。
  思わず声を上げる天川。
天川「なんなんだ、おまえは?」
貴美子「シクラメン・クロスは、消滅しましたよ」
天川「何を言ってるんだ?」
貴美子「自分に都合の悪い人間を事故死に見せかけてクローズしていたんでしょ。何人も。私は、何番目になる予定だったんですか?」
空美「この人、全部知ってるみたい」
天川「余計なこと言うな」
貴美子「罪を償う気があるなら、そこに大人しく立ってなさい。もうすぐ警察が来るわ」
  空美、瓦礫の中にあった木材を掴み出す。
天川「何してるんだ」
空美「逃げてパパ」
天川「空美!」
空美「いつまでも子供じゃないのよ私・・・」
  空美を木材を振り上げ、貴美子に向かって行く。
  貴美子に殴りかかる空美。
  木材を軽くキャッチする貴美子。
  木材を奪い返そうと力強く引っ張る空美。
  木材から手を離す貴美子。
  仰け反る空美。勢い良く倒れる。
  落ちていた瓦礫で頭を打つ空美。
  慌てて空美の元にかけつける天川。
天川「空美・・・しっかりしろ、おい!」
  気絶したまま、微動だにしない空美。
  物凄い形相で貴美子を睨みつける天川。
天川「絶対に許さんぞ、貴様!」
  天川、スーツの内ポケットから短銃を出し、貴美子に向ける。
  貴美子の衣装を脱ぎ捨てるH。
  驚愕する天川。
天川「誰だおまえ・・・」
  H、ゆっくりと歩き出す。
  天川、銃の引き金を引く。
  H、右腕のアームシェイドの翼を広げ、弾を跳ね返す。
  引き金を引き続ける天川。
  翼に次々と当たり、跳ね返っている弾 丸。
  弾切れになり、銃を捨てる天川。
  Hに襲い掛かる天川。
  H、すかさず左ストレートのパンチを天川の腹にぶちこむ。
  その場に崩れ落ちる天川。
  冷たい眼差しで天川を見ているH。

○ 東王女子学園・校門前(翌日)
  友達と喋りながら門を潜る真純。
  二人の前を遮るように立つ男の後ろ姿。
  立ち止まる真純。男を見つめる愕然とする。
  男は、峻。
  峻、黒猫を抱いている。
峻「やあ」

○ 歩道橋
  歩いている峻と真純。
  峻、黒猫を抱いている。
真純「怒ってる?」
峻「別に・・・」
真純「シクラメン・クロスに秋菜の殺人を依頼したのは私なの・・・」
峻「えっ?」
真純「あの子、私にも万引きの罪をなすりつけようとしたことがあるの。なんとかうまく逃げたけど、その時のことが許せなくて」
峻「飯田さんの殺人を依頼したのは、天川の娘の空美のはずだけど・・・」
真純「私も頼んだの。でも、依頼料が払えなかったから、断ったの」
峻「なんだ・・・びっくりさせるなよ。その時、寺島高美と知り合ったのか?」
真純「そう」
峻「どうして、シクラメン・クロスの噂をばらまいた?高美に脅されてたのか?」
真純「脅迫はされてない。やりたくてやってたの」
峻「えっ?」
真純「世の中にどれぐらいの人が殺意を持っているのか知りたかったの。噂を広めたら、私に殺人を依頼してきた人達が何十人もいたわ。
 こんなにいるんだってわかったらだんだん面白くなってきて・・・」
峻「殺意なら俺だって沸くさ。今まで何度も。でも、それと本当に殺人を犯すことは、わけが違う」
真純「私にも他にたくさんいる。でも、死ねって思ってた子が本当に死んだら怖くなってきて・・・」
峻「シクラメン・クロスは消滅したよ。寺島高美はもう君の前にはあらわれない」
真純「・・・」
峻「都市伝説になったのさ」
  立ち止まる真純。
真純「ごめんなさい・・・」
  峻も立ち止まり、
峻「へそがかなりやばいことになりそうだったけど、何とか助かったし」
真純「許してくれるの?」
峻「その代わり、この猫の面倒見てやってくれない?」
  真純に黒猫を渡す峻。
  黒猫の頭をなでる真純。
真純「かわいい」
峻「近くの川原で拾ったんだ。首輪がついてるから多分捨て猫じゃないかな」
真純「うちの住んでるマンション、動物飼うの原則禁止なんたけど、管理人に掛け合ってみるよ」
  黒猫の頭を撫でる真純。
  黒猫の瞳に、ダイヤつきのへそが一瞬映る・・・。

○ 警察署前
  玄関から出てくる辰雄と峻。
辰雄「俺ってほんと良い友達持ったわ」
  辰雄、峻の手を握り締める。
辰雄「ありがとう、ほんま、ありがとう」
峻「久しぶりに俺の家で昔みたいにゲーム三昧する?」
辰雄「それがその・・・彼女待たしてるから・・・」
峻「彼女?」
辰雄「言うの忘れてたか」
  辰雄、突然、右の方向に向かって手を振る。
  歩道に立っている小柄な女性。手を振っている
  女性を見つめる峻。
峻「もしかして・・・」
辰雄「北海道で知り合った丸子ちゃん。心配して来てくれたんだ。芋っ子だけど面倒見が良くてさ」
峻「そうか。じゃあ邪魔はできないな」
辰雄「邪魔なんて思ってねえよ。今度改めておまえんちに挨拶行くから」
峻「ああ、車を運転する時は、気をつけろよな。絶対当て逃げなんかするんじゃねーぞ」
  苦笑いする辰雄、
辰雄「そんなこと・・・するわけねえだろ」
峻「そうだよな。じゃあ」
  辰雄、手を振りながら、丸子の元へ走って行く。
  一気に疲れた表情を浮かべる峻。

○ マンション202号室・キッチン(数日後)
  テーブルの上に山積みにされているプリンのケース。
  椅子に座っているH。
H「なんなの」
峻「だから、この間のお礼って言ってるじゃん」
H「これがお礼?」
峻「一週間はもつと思うけど」
H、箱からブリンを出し、一気に食べ始める。
  あっという間に3ケース分のプリンを空にする。
H「一日分しかないじゃない」
峻「どんな腹してんのよ・・・」
H「せめて、一月分ぐらいは欲しいわね」
  立ち上がるH。
峻「飲み物ですか、プリンは?」
H「プリンパフェ買ってきて」
峻「あのね・・・」

                                             ―THE END―


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