『KNIGHT ANNIHILATION』 作 ガース「ガースのお部屋」



○ テキサス・陸軍基地付近・丘陵地上空
  広大に広がる草原。
  澄み切った青空の中を飛行する一台のヘリコプター(UH―60・ブラックホーク)。
  機体下に取り付けられたカメラポッドが左右に動いている。

○ ブラックホーク・コクピット
  操縦桿を握る操縦士の男。その隣で、地上の様子を映し出しているモニターを監視する副操縦士。
  モニターに、地上でうつ伏せで倒れている男の姿が小さく映っている。
  副操縦士、モニターをまじまじと見つめる。
副操縦士「1200メートル前方で人が倒れています」
操縦士「どんな様子だ?」
副操縦士「男性のようです。微かに動いているように見えます」
操縦士「救助しよう。着陸態勢に入る」

○ 丘陵地
  ホバリングしながら、ゆっくりと地上に降りてくるブラックホーク。
  着陸すると、副操縦士がヘリから降り、救護用の器具が入ったケースを持って、
  倒れている男に駆け寄って行く。
  男(トビー)は、スキンヘッドで、黒いシャツとズボンを身につけている。
  屈んで、トビーに声をかける副操縦士。
副操縦士「おい、しっかりしろ!」
  副操縦士、トビーの首に手を当て、頚動脈の拍動を確認する。トビーの体を起こし、
  仰向けの状態にする。
  すると、突然、トビーが大きく目を開け、副操縦士に掴みかかる。
  トビー、皮ジャンの中に隠していた銃を出し、副操縦士の腹を撃ち抜く。
  トビーに掴みかかり、そのまま力尽きて倒れる副操縦士。

○ ブラックホーク・コクピット
  外の様子を窺う操縦士。異変に気づく。
  何者かが副操縦席に乗り込んでくる。
  操縦士に銃を向ける白髪の華奢な男・ガイ。
ガイ「両手を頭につけて後ろを向け!」
  操縦士、なくなく指示に従う。
  ガイ、操縦士の首に腕を回し、首の骨をへし折る。
  ヘリに駆け寄ってくるトビー。
  トビー、操縦士を外に蹴落とす。操縦席に乗り込み、操縦桿を握る。
  
○ 丘陵地
  離陸するブラックホーク。
  機首の方向をかえながらゆっくりと高度を上げている。
  南の方向に向かって進み始める。
  青空の彼方へ消えて行くブラックホーク。

○ 森林地帯
  木々に囲まれた一本道を疾走するナイト2000。

○ ナイト2000車内
  コンソールのモニターに映る青春ドラマの一場面。若い男女が部屋の中で対峙し、語り合っている。
  ハンドルを握るマイケル・ナイト。
  ハンドル上部に設置されているインジケータのイコライザーの赤い光が上下に伸び、
  KITT(キット)が喋り出す。
キット「この頃そのドラマにぞっこんですね、マイケル」
マイケル「何も知らないようだな。今全米で視聴率ナンバー1の人気ドラマだぞ。
 リナ・ローランスは、今超売れっ子の若手女優さ」
キット「この女優のどこに魅力があるんです?私が見た限りでは、既存のアイドルと大差ない
 と思うのですが」
マイケル「おまえは、見る目がないんだ。あの愛くるしい大きな目、エレガントな鼻、キュートな唇、
 キュッと引き締まった顎、麗しいロングヘア、スマートなボディ。おまけにまだ19歳ときてる。
 どこをとっても申し分ない。完璧だよ」
キット「意外ですね」
マイケル「何が意外なんだ?」
キット「私が想像していたあなたの女性のタイプと違っていたので」
マイケル「おまえが想像した俺の女性のタイプって、どんな人だ?」
キット「もっと美形で、背が高くて、胸の大きいボンキュンボンの人だと思っていました」
マイケル「見た目だけじゃない。この子には、類稀な天才的な演技力があるのさ」
キット「あなたに演技がわかるのですか?」
マイケル「こう見えても学生時代に舞台に上がった事があるんだぜ。チョイ役だけど」
  通信のアラームが鳴る。
キット「デボンさんです」
  ドラマの映像が消え、ナイト財団本部のオフィスのデスクにいるデボンのバストショットが映し出される。
マイケル「ああ、今いいところなのに…」
デボンの声「お楽しみ中、邪魔をして悪いが、事件だ。演習場へ向かっていた軍のヘリが二人組の男達に
 強奪された。操縦士が殺されて、副操縦士、重体になっている」
マイケル「ヘリの特徴は?」
デボンの声「UH―60・ブラックホークと呼ばれている多目的ヘリだ。最新型の対戦車ミサイルと
 ロケット弾が搭載されている」
マイケル「二人組の男達について何かわかってる事は?」
デボンの声「副操縦士の話によると、1人は、かなり体格の良い男だったらしい。ヘリの操縦も
 手馴れたものだったそうだ」
マイケル「わかった。今から基地へ向かう」
デボンの声「よろしく頼む」
  モニターが消える。
  コンソールのボタンを操作するマイケル。
マイケル「基地までの最短ルートを計算してくれ。スーパーモードだ」
キット「待ってください。南南西の方向1.5キロメートルでヘリの飛行音をキャッチしました。
 かなり低空で飛んでいるようです」
マイケル「気になるな。確認してみるか」
  アクセルを踏み込むマイケル。

○ 森林地帯
  スピードを上げて、走るナイト2000。

○ 低空で飛行する青いベル206ジェットレンジャーヘリ
  激しく機体を揺らしている。エンジン部から白い煙を吐きながら、少しずつ下降している。
  そのまま森林の中へ墜落する。
  大きな爆音と共に、黒い煙が空に舞い上がる。

○ 森林地帯
  木々の間を通り抜けているナイト2000。
  横倒しになっているヘリ。機体が激しく歪み、エンジン部から炎を上げている。
  ヘリの前に突き進むナイト2000。

○ ナイト2000車内
  ヘリの様子を確認するマイケル。
マイケル「パイロットは、無事か?」
キット「生命反応を確認しました。まだ中にいます」

○ ヘリの前で立ち止まるナイト2000
  車から降り、走り出すマイケル。
  機体の扉を開け、操縦席で気を失っている男を引っ張り出す。
  男と肩を組み、安全な場所へ移動するマイケル。
  近くに立っている木の根元に男を座らせる。
  うっすらと目を開ける男。
男「ここは…」
マイケル「ヘリが墜落したんだ。名前は?」
男「アスロー…」
  男の名は、アスロー・ファストン。
  ナイト2000のボディの先端についている赤いスキャナーが唸る。
  キットの声が聞こえる。
キットの声「マイケル、ヘリの機体を調べてみたのですが、機体の後部に銃弾の痕を
 数箇所発見しました」
マイケル「何かの攻撃を受けたって事か?」
キットの声「そのようです」
マイケル「弾の種類は、わかりそうか?」
キットの声「攻撃を受けた部分を撮影して、データを照合してみます。しばらくお待ちを」
マイケル「とりあえず病院へ行こう」
  マイケル、アスローを立ち上がらせる。ナイト2000のほうへ歩いて行く二人。

○ エルスリー・メモリアル病院・治療室前
  治療室の扉の前に立っているマイケル。
  扉が開き、医師のルーイットが中から出てくる。
マイケル「容態は?」
ルーイット「右腕と左足を打撲した程度で、後は、特に異常は、見当たらなかった。一週間ぐらい
 安静にしていれば、元気になるだろう」
マイケル「話しても良いですか?」
ルーイット「少しだけなら」
マイケル「どうも…」
  マイケル、治療室の中に入る。

○ 同・治療室
  ベッドで横になっているアスロー。右腕と左足に包帯、口元に絆創膏を張っている。
  アスローの前にやってくるマイケル。
マイケル「落ち着いたかい?」
アスロー「ああ。まだお礼を言ってなかったな…」
マイケル「気にしなくて良いさ。俺は、マイケル・ナイト。調査会社のものだけど、
 ちょっと聞きたい事があって」
アスロー「保険会社の調査員か?」
マイケル「そうじゃないんだ。実は、君が乗っていたヘリの事なんだけど、機体に無数の銃弾の痕が
 残っていた。ヘリが墜落したのは、それが原因じゃないのか?」
アスロー「事故の事は、あまりよく覚えていないんだ」
マイケル「家族か恋人がいるなら、連絡するけど…」
アスロー「自分でやるよ。色々とすまなかったな」
  握手する二人。
  マイケル、部屋を出て行く。

○ 同・治療室前
  扉を閉め、通路を歩き出すマイケル。
  カーキのニットキャップを被った男がマイケルの前からやってくる。男と目を合わすマイケル。
  マイケルから視線をそらす男。すれ違う二人。
  振り返る男。男は、トビーである。
  トビー、入口に向かって歩き去って行くマイケルの背中を怪訝に見つめている。

○ 同・駐車場
  まばらに車が止まっている。
  中央の駐車スペースに止まっているナイト2000。
  ナイト2000の後方の列の駐車スペースに止まっているダークグリーンのセダンのトランクがゆっくりと開く。
  中から、赤いつなぎを着た茶髪のポニーテールの少女が降りてくる。
  少女、辺りを見回し、恐る恐るトランクから降りる。
  車の影に隠れている少女。人気がないことを確認すると、必死で走り出す。
  ナイト2000のそばにやってくる少女。
  少女、病院の入口からスキンヘッドの男が出てきたのに気づき、慌てて、ナイト2000の前で屈み、隠れる。
  ナイト2000のスキャナーが唸る。
キットの声「こんなところでかくれんぼですか?」
  唖然とする少女。小声で話し出す。
少女「誰?」
キットの声「鬼は、どこにいるんです?」
  少女、ナイト2000の運転席を覗く。
少女「あんたが喋ってるの?」
キットの声「そうです」
  少女、病院の入口付近に立っているスキンヘッドの男を指差し、
少女「あいつが鬼なの。やばい、見つかりそう」
キットの声「いい隠れ場所を教えましょう」
  キット、助手席側のドアを開ける。
  少女、慌てて助手席に乗り込み、ドアを閉める。

○ ナイト2000車内
  助手席で身を屈めている少女。
  恐る恐る顔を上げ、病院の入口の様子を確認する。
  スキンヘッドの男を見る少女。男が別人だとわかると、安堵の表情を浮かべ、ため息をつく。
  インジケータを見る少女。
少女「あんた、コンピュータなの?」
キット「私は、ナイト・インダストリー・2000。キットと呼ばれています」
少女「私は、ロンダ。お願いキット。このまま、どこか遠くまで行きたいの」
キット「病院の中に私の主人がいます」
ロンダ「パパを助けなきゃいけないの。早く警察に連絡しなきゃ…」
キット「パパがどうかしたのですか?」
ロンダ「変な男たちに追われてるの。私も捕まって、あの車のトランクの中に入れられたんだけど、
 なんとか脱出する事ができたの」
キット「では、隠れていたわけではないのですか」
ロンダ「早くしないと、あいつが戻ってくる…」
  運転席側のドアが開く。
  中に乗り込んでくるマイケル。
  マイケル、ロンダを見つめ、
マイケル「こんなところで何をしてるんだい、お嬢さん」
  慌てるロンダ。
キット「安心しなさい。私の主人です」
マイケル「キット、何のお遊びだ?」
キット「彼女は、ロンダ。何者かに追われているそうです」
ロンダ「そうなの。早くしないとパパが…」
  ロンダ、病院の入口付近を見つめる。
  トビーが表に出てくる。こっちに向かって歩いてくる。
  ロンダ、トビーを指差し、
ロンダ「あの人よ。あの人に捕まってたの」
  マイケル、トビーを見つめる。
キット「彼女は、後ろのグリーンのセダンのトランクの中に監禁されていたんです」
  マイケル、後ろを見つめ、車を確認する。
マイケル「よし、キット、窓を暗くしろ」
  ナイト2000の全てのガラスにスモークがかかる。車内が真っ暗になる。

○ エルスリー・メモリアル病院・駐車場
  グリーンのセダンの前に向かうトビー。
  トランクが空いている事に気づき、慌てて走り出す。
  トランクの中を確認すると、辺りを見回し始める。

○ ナイト2000車内
  モニターにトビーの様子が映っている。
  トビー、いらついた様子で、車のトランクを叩き閉める。
  モニターを見ているマイケルとロンダ。
マイケル「この男、さっき病院の通路ですれ違った。ちゃんと録画できてるか?」
キット「ええ、もちろんですとも」
マイケル「よし、ロンダ、捕まった時の状況をもっと詳しく教えてくれないか?」
ロンダ「突然、二人組の知らない男の人たちがパパのうちに上がり込んできて、『パパは、いるか』って
 言うから、『いない』って答えたら、突然、あの男が私を…」
マイケル「パパは、今どこにいる?」
ロンダ「ヘリの運搬会社に勤めているの。会社のヘリを借りて、朝、うちの山荘に戻ってきたけど、
 また乗ってどこかにいっちゃった」
マイケル「ヘリって、もしかして、青色の?」
ロンダ「当たり。おじさん、勘が良いね」
マイケル「お父さんの名前は?」
ロンダ「アスロー・ファストン」
  唖然とするマイケル。
  自分の車に乗り込み、エンジンをかけるトビー。
  急発進し、駐車場を出て行く。
マイケル「キット、あの車を追うぞ」
キット「ブラックホークの件はどうするんです?」
マイケル「ちょっとぐらい遅れても構わないさ」

○ エルスリー・メモリアル病院・駐車場
  走り出すナイト2000。

○ アーモンド農園付近・道路
  ピンクの花が華やかに咲く木々が並ぶ通りを走行するセダン。
  水路脇に建つ小屋の前に立ち止まる。
  車から降りるトビー。慎重に辺りを見回しながら小屋に入って行く。
  暫くして、ナイト2000がやってくる。
  小屋から数百メートル離れた道路脇に立ち止まる。

○ ナイト2000車内
  小屋のほうを見ているマイケルとロンダ。
マイケル「あの男、どうやら農園業者らしいな」
ロンダ「早く通報しないと」
マイケル「ロンダ、君のパパは、さっきの病院にいる」
ロンダ「パパの事知ってるの?」
マイケル「パパが乗ってたヘリが墜落したんだ。俺がパパを病院まで運んだ。大丈夫、怪我は大した事ない」
ロンダ「早くパパに会いたい」
マイケル「その前にあの男の事を調べなきゃな」
  車から降りるマイケル。小屋に向かって歩いて行く。

○ 小屋前
  扉の前に立ち、ノックするマイケル。
  トビーが顔を出す。
トビー「何だ、おまえ?」
マイケル「ちょっと道に迷ってしまいましてね。ここら辺は、走り慣れていなくて。ファーミントンへ行くには、
 どっちの方向へ向かったらいいのか…」
トビー「この道づたいを西の方へまっすぐ向かうと、標識があるから、それに従って進むといい」
マイケル「…ありがとう。さっき、隣町の病院でお見かけしましたね?」
トビー「いや、おまえなんか見てない。病院にいたのは、確かだが…」
マイケル「友人があそこに入院してて、その見舞いの帰りなんですよ。あなたもどなたかのお見舞いで?」
トビー「昨日、作業中に右腕を怪我して、先生に診てもらいに行っただけだ」
マイケル「そうですか。それじゃ、どうも」
  立ち去るマイケル。
  マイケルを怪訝に見ているトビー。

○ ナイト2000車内
  運転席に乗り込んでくるマイケル。
キット「どうでした?」
マイケル「何か臭うな」
ロンダ「アーモンドの匂いでしょ?」
マイケル「確かにそれもある」
キット「アスローをあの病院に置いておくのは、危険なのでは?」
マイケル「とにかく、一旦トレーラーに戻ろう」
  シフトレバーを操作するマイケル。

○ アーモンド農園付近・道路
  勢い良くUターンし、走り去って行くナイト2000。
  その様子を小屋の前で見ているトビー。
  暫くして、黒いつなぎを着た男が乗るハーレーがトビーの前に立ち止まる。
  サングラスをはずす男。男は、ガイ。
ガイ「どうした?」
トビー「アスローの娘を逃がしてしまった」
ガイ「おいおい、大事な切り札を…。どうするつもりだ?」
トビー「心配するな。アスローの居場所は、わかっている。それより、さっきの男の事が気になる」
ガイ「サツか?」
トビー「知らん。黒のトランザムに乗っていた。西の方向へ向かった。調べろ」
  ガイ、サングラスをかけ、猛スピードで走り去って行く。

○ 海岸線
  海沿いの道路を走行するナイト財団移動本部トレーラー。
  トレーラーの後方からナイト2000がやってくる。
  トレーラーのコンテナの扉が開く。
  トレーラーに接近するナイト2000。下りた扉を足場に、コンテナに乗り込む。

○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
  立ち止まるナイト2000。
  車から降りるマイケルとロンダ。
  ボニーが二人の前にやってくる。
ボニー「この子がロンダ?」
マイケル「そう。しばらくここで面倒を見て欲しい」
  ロンダ、辺りを見回し、
ロンダ「何なのここ?軍の秘密基地?」
キットの声「似たようなものです。ここなら安全です」
ロンダ「パパも早く連れてきて」
マイケル「もちろん。これから迎いに行ってくる」
ボニー「ブラックホークの件は、デボンになんて報告するの、マイケル」
マイケル「ちゃんと説明するさ」
キットの声「マイケル、先程のヘリの調査結果が出ました」
  運転席に乗り込むマイケル。

○ ナイト2000車内
  モニターを見つめるマイケル。
  モニターにジェットレンジャーの胴体後部、テールブームの写真が映し出されている。
  無数の弾丸の痕が流れるようについている。
キット「弾丸の入射角度は、全て一定の方向からです。地上ではなく空から攻撃を受けています。
 開いた穴の形状を分析した結果、M134のものと判明しました」
マイケル「ガトリングガンか。つまり、撃った相手は、軍用ヘリ?」
キット「その可能性が高いです」
マイケル「奪われたブラックホークがM134を装備していたか調べてくれないか?」
キット「二人組が奪ったヘリの事件とこの事故に何らかの関係があるのですか?」
マイケル「一応、念のためだ」
キット「それから、さっきの男の事ですが、名前は、トビー・レイソン。前任者の死去に伴い、
 5年前からあのアーモンド農園を経営しています。その前は、ミラマーにある沿岸警備隊の
 基地で働いていたようです」
マイケル「ますますきな臭くなってきたな」
  マイケル、エンジンをかけ、車をバックさせる。

○ 海岸線
  トレーラーのコンテナからバックして表に出てくるナイト2000。
  路上に下りると、スピンターンして、トレーラーと逆方向に走り始める。
  トレーラーの前を走っている(ガイが乗る)ハーレー。バックミラーを確認するガイ。
  次の交差点で右に曲がり姿を消すハーレー。
―ACT1 END―

―ACT2―
○ エルスリー・メモリアル病院・外景
  駐車場・中央のスペースに止まっているナイト2000。

○ 同・2F病室
  2人部屋。
  ベッドの上で座るアスロー。
  マイケルがそばに立っている。
アスロー「私の娘が誘拐?」
マイケル「そうだ。うちで二人組の男に捕まったが、なんとか自分で脱出した」
アスロー「実は、今離婚調停中で、ロンダは、前妻の家に預けていたんだ。母親と喧嘩してうちを
 飛び出してきて、三日前から私の家に泊まっていた。ロンダは、今どこに?」
マイケル「うちで保護している。この病院の駐車場で見つけた」
アスロー「…」
マイケル「つまり、犯人は、君がここにいることも知っている」
  アスロー、寡黙に俯く。
マイケル「犯人に心当たりがあるんじゃないのか?」
  頷くアスロー。

○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
  ロンダ、テーブルの上で、ロボットのパーツを組み立てている。
ロンダ「これ、完成したら、本当に動くの?」
  コンピュータの前に座っているボニー。
  ロンダのほうに振り向く。
ボニー「玩具メーカーに勤めている私の友人が開発している最新型のミニお掃除ロボットよ」
ロンダ「プラモデルを組み立てるより面白いわ」
ボニー「プラモデル組み立てた事あるの?」
ロンダ「パパが趣味でやってるの。小さい頃からよく見てたから。ママは、こういうの好きじゃないんだ…」
ボニー「ママは、何してるの?」
ロンダ「保険会社で働いてる。ほとんどうちにいない。たまに話すると、勉強しろとか、
 テレビは見るなとかうるさいし」
ボニー「それで、パパのところへ行ったの?」
ロンダ「パパは、静かだし優しいし」
  腕のパーツを胴体に取り付けるロンダ。
ボニー「ああ、焦らないで。よーく、説明書を読んで。部品を余らせないように…」
ロンダ「ボニーもママみたい」
  苦笑いするボニー。

○ 荒野
  岩山に囲まれた砂漠の道を走行しているナイト財団移動本部トレーラー。
  トレーラーの後方からガイが乗るハーレーが近づいてくる。
  ハーレー、スピードを上げ、トラクタの左横に並んで走行する。
  
○ ナイト財団移動本部トレーラー・トラクタ内
  トレーラーは、自動走行している。
  シートに横たわり、うとうと眠りかけているRC3。
  バイクのエンジン音に気づき、起き上がる。
RC3「んっ…なんだ?」
  運転席の窓からバイクの様子を窺うRC3。

○ 荒野
  ガイ、ポケットの中から手榴弾を取り出す。レバーを外し、トラクタの中に投げ込むと、
  そのまま急ブレーキをかけ立ち止まる。

○ ナイト財団移動本部トレーラー・トラクタ内
  シートの下に転がる手榴弾。
RC3「おいおいおい、マジかよ、ふざけんな」
  RC3、必死になって手榴弾を拾い、外に放り投げる。

○ 荒野
  手榴弾がトレーラーのそばで爆発する。

○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
  激しく横揺れしている。
  ロンダ、思わず声を上げる。
ロンダ「何?」
  ボニー、ロンダを抱きしめ、
ボニー「落ち着いて!」

○ 荒野
  蛇行するトレーラー。

○ ナイト財団移動本部トレーラー・トラクタ内
  ブレーキを踏み込むRC3。激しくうなるブレーキ音。
  しばらくして、立ち止まる。
  腕で汗を拭うRC3。
  ミラーを見つめる。
  ハーレーがUターンし、走り去って行く姿がうつっている。
RC3「あのクソ野郎めが」

○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
  RC3が中に駆け込んでくる。
ボニー「どうしたの?」
RC3「ハーレーに乗ったイカレた野郎が手榴弾を投げてきやがった。
 危うくあの世へ顔を出すところだったぜ」
ボニー「トレーラーに損傷は?」
RC3「チェックしたけど、問題ない」
ボニー「男の顔は、見た?」
RC3「帽子にグラサンかけてて、よくわからなかった」
ボニー「気味悪いわ…何か狙われるような覚えはないの?」
RC3「俺を個人的に狙ってるなら、あんな大胆なマネはしてこねぇだろ」
ボニー「そうすると…もしかしたら」
  ボニー、RC3、ロンダを見つめる。
  テーブルの上でロボットを組み立てているロンダ。
RC3「ここもやばそうだぜボニー」
ボニー「みたいね」

○ 都市部
  ビルやマンション、住宅が密集する大通り。
  交通量の激しい道路を走行しているナイト2000。

○ ナイト2000車内
  ハンドルを握るマイケル。助手席に座っているアスロー。
  病院の駐車場で録画したトビーの映像がモニターに映し出されている。
  モニターを見ているアスロー。
  映像がストップし、トビーの顔にズームアップする。
キット「トビー・レイソン。アーモンド農園の経営者です」
マイケル「どういう関係なんだ?」
アスロー「1年半前、交通事故を起こして、その時、怪我をさせた相手さ」
マイケル「交通事故?」
アスロー「交差点でトビーの乗ったバイクと俺の車が接触したんだ。その時、トビーは、
 右足を骨折して、3ヶ月入院した」
マイケル「何かトラブルでも抱えていたのか?」
アスロー「いいや、入院費や慰謝料は、全て支払ったし、トビーの怪我も完治して、何の問題もなかった。
 だが、その事故から半年過ぎた時、突然、奴がまた俺の家を訪ねて来た。右足に後遺症が残ったとか、
 以前のように仕事ができなくなったとか難癖をつけて、金をせびりにきやがったんだ」
マイケル「それからずっとつきまとわれていたのか」
アスロー「仕方なく、一度だけ金を支払ったが、それからまたどんどんエスカレートして、無言電話も
 毎晩かかるようになった」
マイケル「どうして警察に連絡しなかった?」
アスロー「連絡したら、娘に危害を加えられる恐れがあったから…」
マイケル「ヘリの事故の件だけど、君のヘリを襲ったヘリは、M134のガトリング砲を装備していた
 事がわかった」
アスロー「ガトリング砲?」
マイケル「実は、あの事故が起きる一時間前、陸軍の軍用ヘリが何者かに強奪される事件が起きているんだ」
アスロー「じゃあ、僕のヘリは、その盗まれたヘリに襲われたって言うのか?」
マイケル「その可能性がある。事故の事、何か思い出せそうかい?」
アスロー「駄目だ…何も浮かんでこない…」
マイケル「トレーラーに着くまで、まだ時間がある。しばらく休みなよ」
アスロー「申し訳ない…」

○ 荒野(数時間後)
  走行するナイト財団移動本部トレーラー。
  遠くから地響きのような乾いた轟音が鳴り響き始める。
  岩山の向こうの、青い空の彼方からあらわれる黒い物体。
  道を走行するトレーラーにじわりじわりと迫ってくる。
  重く回転する4枚のローターブレード。激しく鳴り響くエンジン音。黒い物体は、ブラックホーク。
  ブラックホーク、トレーラーの後方を飛び、ゆっくりとトレーラーに接近する。

○ ブラックホーク・キャビン
  右側のドアが開く。ガンマウントに装着されたM134・口径7.62mmのガトリング砲の銃口が
  トレーラーのコンテナに向けられる。
  ガトリング砲を操作するガイ。
  銃身が激しく回転し、火を吹き始める。
  トレーラーのコンテナの屋根に流れるように弾丸が炸裂する。
  
○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
  天井から雨のように降り注ぐ弾丸。
  テーブルに置かれた組み立て中のロボットに弾丸が当たり、無残に部品が飛び散る。

○ 同・トラクタ内
  ハンドルを握るRC3。
  緊迫した様子で、外をちらちら見ながら運転を続けている。
RC3「弾丸シャワーの餌食になるなんてまっぴらごめんだぜ」

○ 激しく蛇行しながら加速しているナイト財団移動本部トレーラー
  トレーラーの真上を飛ぶブラックホーク。激しく弾丸が飛び交っている。

○ 郊外
  山林に囲まれた市道のカーブを走るナイト2000。

○ ナイト2000車内
  通信のアラーム音が鳴る。
キット「RCからです」
マイケル「どうした?RC3」
RC3の声「トレーラーがブラックホークに襲われてる。早く助けに来てくれ」
マイケル「わかった。キット、スーパーモードだ」
キット「はい、マイケル」
  マイケル、パネルの『SUPER PURSUIT MODE』のボタンを押す。

○ スーパー追跡モードに変形するナイト2000
  爆音を上げながら、超高速で走行し始める。
  瞬く間に市道を走り抜けて行くナイト2000。

○ 荒野
  激しく蛇行しているナイト財団移動本部トレーラー
  ブラックホークの攻撃が続いている。
  蜂の巣になり、風穴が無数に空くコンテナ。
  弾丸がトラクタの側面部にも当たる。右前輪も被弾する。
  右側に傾き、くねりながら横倒しになるトレーラー。砂煙が舞い、激しく路上を滑っている。
  道を塞ぐようにして立ち止まる。

○ ブラックホーク・キャビン
  激しく回転し、火を吹くガトリング砲。
  撃つのをやめるガイ。
  操縦桿を握るトビー。バイザーつきのヘルメットを被っている。ガイに声をかける。
トビー「おめぇは、イカレ過ぎだ。誰がそこまでやれって言った!」
ガイ「好きなようにしろって言っただろうがよ!もっと盛り上がろうぜ、ヒャホー!」
トビー「大事な人質が死んでたら、ただじゃおかねぇぞ」
  憮然とするガイ。
  ガイ、南の方角からナイト2000がやってくるのに気づく。
ガイ「おい、次のカモが来たぞ」
トビー「あんまり弾の無駄遣いするな。取り分が減っちまう」
  不敵な笑みを浮かべるガイ。

○ ナイト2000車内
  トレーラーの様子を確認するマイケル。
キット「マイケル、トレーラーが!」
マイケル「よし、元に戻すぞ」
  マイケル、『EMERGENCY BRAKING SYSTEM』のボタンを押す。

○ ナイト2000と屋根と後部フェンダー部にある空気抵抗板が勢い良く開く
  緊急ブレーキシステムが作動する。急激にスピードが落ちる。
  元の形に戻るナイト2000。

○ 旋回するブラックホーク
  大きく曲線を描き、ナイト2000の方に向かって行く。

○ ブラックホーク・キャビン
  ガトリング砲を発射するガイ。
  地上を走るナイト2000のボディに激しく当たる弾丸。

○ ナイト2000車内
  フロントガラスが弾丸を跳ね返し、激しい火花を散らしている。
  歯を食いしばるマイケル。
  ブラックホークが頭上を通り過ぎて行く。
キット「盗まれたブラックホークです」
マイケル「ああ、わかってる。煙幕を張るぞ」
  マイケル、『SMOKE RELEASE』のボタンを押す。

○ ナイト2000の後ろバンパー下の噴射口から白煙が吐き出される
  上空に広がる煙。トレーラーやナイト2000の姿が煙に覆われ消える。

○ 大きく旋回するブラックホーク
  白煙が広がる方に突き進んでいる。

○ ブラックホーク・キャビン
  トビー、呆然と辺りの様子を見回している。
  ガイも側面のドアから顔を出し、地上を睨んでいる。
ガイ「駄目だこりゃあ…奴らの姿が見えねぇ」
 トビー、前方を見つめ、険しい顔つきになる。
トビー「民間のヘリがこっちにやってくる。ひとまず退散するぞ」
ガイ「ヘリもやっちまえよ」
トビー「おまえが弾になるなら、今すぐにでも撃ち込んでやるぞ」

○ 右に旋回し、そのまま大空の彼方へ消えて行くブラックホーク

○ 荒野
  トレーラーの前で立ち止まるナイト2000。
  車から降りるマイケル。
  横倒しになっているトラクタの上に乗り上がる。

○ ナイト財団移動本部トレーラー・トラクタ内
  車内を覗き込むマイケル。
マイケル「RC!」
  ハンドルに蹲っているRC3。顔を上げる。額と唇から血を流している。
RC3「待ちくたびれてくたばりかけたぜ…」
  マイケル、RC3の腕を掴み、体を引っ張り上げる。
  車内から出るRC3。
マイケル「遅れてすまなかった。怪我は?」
RC3「ご覧の通り。大した事はない」
  RC3、トレーラーの様子を見渡し、
RC3「こいつは、瀕死の重傷を負ったみたいだ…」
マイケル「ボニーとロンダは?」
RC3「大丈夫。襲われる前にトレーラーを降りて、タクシーで本部に向かった」
マイケル「奴らは、ロンダがトレーラーにいることをどうやって知ったんだ…」
RC3「ブラックホークに襲われる前にバイクに乗った男に手榴弾を投げ込まれたんだ。
 おそらくそいつが俺達の動きを見張ってたんだろう」

○ ナイト財団本部・デボンオフィス
  デスクに座るデボン・シャイアー。
  書類を書き込んでいる。
  どこからか激しいロックサウンドが流れてくるが、すぐに消える。
  デボン、一瞬、顔を上げるが、再び、書類に目を向ける。
  今度は、動物の鳴き声をマネするDJのマイク・パフォーマンスが声高に聞こえてくる。
  顔を歪めるデボン。
  暫くして、音が消える。
  デボン、ため息をつくと、また書類に集中。
  今度は、女の激しい奇声が聞こえてくる。
  たまらず声を出すデボン。
デボン「悪いが、他のにしてくれるかな?」
  部屋の隅のソファに座るロンダ。ラジオを聴いている。
ロンダ「音楽の方が良かった?」
デボン「さっきのは、私の趣味ではないからね…」
ロンダ「お爺ちゃんは、いつも何を聴いてるの?」
  ムッとするデボン。
デボン「…クラシックが好きなんだ」
ロンダ「クラシックって何?お菓子の名前?」
  呆れた顔をするデボン。
  扉が開く。ボニーが入ってくる。
デボン「まだ、トレーラーと連絡が取れないのかボニー」
ボニー「ええ。何度も連絡しているんですが、音信普通で…」
  デボン、厄介そうにロンダを見つめ、
デボン「本当にヘリの事件と関係があるんだろうな?」
ボニー「マイケルを信じないんですか?」
デボン「信じてるが…いつまで…その…」
  通信のアラームが鳴る。
  扉のそばにあるコンピュータの前に行くボニー。キーボードを操作する。
  スピーカーからのマイケルの声が聞こえる。
マイケルの声「ボニー、俺だ」
ボニー「マイケル、今どこにいるの?」

○ 荒野
  砂漠の真ん中を通る一直線の道をスーパー追跡モードで走行しているナイト2000。

○ ナイト2000車内
  ハンドルを握るマイケル。助手席に座るアスロー。
マイケル「今、アスローを連れてそっちに向かっているところだ。トレーラーがブラックホークに
 襲撃された。俺たちの動きが向こうによまれていた」
ボニーの声「RCは?」
マイケル「無事だ。それより、そっちも警戒を強めてくれ」
ボニーの声「わかったわ」
  音声が切れる。
アスロー「俺だけならまだしも、ロンダまで殺そうとするなんて…」
  頭を抱えるアスロー。
アスロー「僕は、どうすればいいんだ…」
マイケル「君達親子は、俺達が守るさ。何も心配することはない」
アスロー「少しでも君に協力したいのに…」
マイケル「今は、気持ちだけで十分さ」

○ 砂漠
  巨大な岩山に囲まれた静かな場所。山の麓に止まっているブラックホーク。
  エンジンは、ストップしているが、ローターは、余力でまだ回り続けている。
  ヘリから降りるトビーとガイ。
ガイ「もう一度あのトレーラーを確認しに行ったほうがいいんじゃないか?」
トビー「あのトレーラーの中にいたのは、娘だろ?アスローは、まだ生きてる」
ガイ「もしかしたら、あの黒のスポーツカーにアスローが乗っていたのかもしれん」
トビー「気にするな。奴は、そのうち必ず行動を起こす…」
  不敵な笑みを浮かべるトビー。
―ACT2 END―

―ACT3―
○ ナイト財団本部・ガーデン
  門を潜り、屋敷の出入口に立ち止まるナイト2000。
  車から降りるマイケルとアスロー。
マイケル「こっちだ」
  屋敷の入口に向かって歩き出す二人。

○ 同・デボンオフィス
  中に入ってくるマイケルとアスロー。
  ソファに座るロンダ。アスローに気づき、歩み寄る。
ロンダ「パパ!」
  ロンダを抱きしめるアスロー。
アスロー「心配かけてすまなかったな、ロンダ」
ロンダ「もう駄目なんじゃないかと思って諦めかけてたの。トランクの中でパパが幽霊に
 なってる夢を見ちゃってさ」
アスロー「足もちゃんとある。姿も見えてるだろ?」
  顔を合わせるマイケルとボニー。
ボニー「RC3は?」
マイケル「本人は、嫌がってたけど、一応病院に送っといた」
  デスクにいるデボン。
デボン「マイケル!」
  マイケル、デボンの前に立つ。
デボン「ブラックホークの手がかりは?」
マイケル「残念ながら…でも、犯人たちは、アスローの命も狙っている。俺達がアスローを匿っている事もね」
デボン「また、危険な賭けに出ようとしてるんじゃないだろうな?」
マイケル「そうしたいのは、山々だけど、アスローがまだ回復してないし、しばらく様子見だ」
アスロー「マイケル、悪いがロンダと二人だけで話したいことがあるんだ…」
ボニー「ゲストルームに案内するわ」
  ボニー、ドアを開け、外に出る。ボニーの後を追って部屋を出て行くアスローとロンダ。扉が閉まる。
デボン「トビーとアスローの関係について、何かわかったか?」
マイケル「一年半前の交通事故をきっかけに、アスローは、トビーから脅迫され続けてきたそうだ」
デボン「たかだか交通事故ぐらいの事で、奴らがアスロー親子の命を狙うとは、思えんがな。
 アスローの身辺についても詳しく調べた方が良さそうだ」
マイケル「俺は、トビーが勤めていた基地に向かってみる」

○ 同・ゲストルーム
  ベッドに座るロンダ。ラジオをいじっている。
  窓の前に立っているアスロー。険しい顔つきで外の景色を見ている。
ロンダ「ねぇ、パパ、怪我はもう治ったの?」
  振り返り笑顔を見せるアスロー。
アスロー「ああ。もう大丈夫だ」
  ラジオのボリュームを上げるロンダ。
  アスロー、部屋の奥にある電話の前に向かい、受話器を上げる。
ロンダ「どこへ電話するの?」
アスロー「会社だよ。ヘリを駄目にしちゃったからね。社長さんに謝らないと…」
  番号のボタンを押すアスロー。しばらくして、電話がつながる。

○ ガイの倉庫
  棚にたくさんのバイクの部品が並べられている。大型のバイクが数台置かれている。
  出入口のシャッターの横にある電話の受話器を持ち、話しているガイ。
ガイ「わざわざそっちから連絡してくるとは、良い度胸だ、アスロー!」
  受話器を引っ手繰るトビー。
トビー「やっと落ち着いて話ができるな」

○ ナイト財団本部・ゲストルーム
アスロー「娘を殺そうとしやがったな。ただじゃ済まさんぞ」
トビーの声「火種を作ったのは、おまえだ。金をどこに隠した?」
アスロー「場所を教える。ヘリを持って来い」
トビーの声「ブラックホークと取引しようって腹か?」
アスロー「おまえ1人で来るんだ」

○ ガイの倉庫
トビー「いいだろう。どこにいる?」

○ ミラマー・沿岸警備隊基地
  ゲートの前で中年の隊員と話をしているマイケル 。隊員、トビーの写真を見つめ、
隊員「トビー中尉は、大変指導力があり、立派な方でした。十数年前、民間の船で爆発事故が起こり、
 21名の乗客が炎に飲まれそうになりましたが、中尉の適切な行動力で、乗客達は、全員助け出されました」
マイケル「トビーが沿岸警備隊を辞めた理由は、何なんです?」
隊員「怪我です。交通事故で右足を骨折してから、その後遺症に悩まされていたようです」
マイケル「交通事故?」
隊員「バイクで交差点を曲がる時に、車に追突されたとか…相手も確か、軍の関係者とか
 言っておられたような…」
  唖然とするマイケル。

○ 住宅街
  緩やかな坂を勢い良く走るナイト2000。

○ ナイト2000車内
キット「アスローが軍の関係者?」
  ハンドルを握るマイケル。
マイケル「そうだ。キット、デボンを呼び出してくれ」
  通信のアラームが鳴り響く。
  モニターに財団本部のデスクにいるデボンの姿が映し出される。
デボンの声「やぁ、マイケル」
マイケル「アスローは、俺に嘘をついてた。彼が交通事故を起こしたのは、一年半前でなく、
 五年前。トビーが沿岸警備隊を辞めた年だった」
デボンの声「すると、二人は、五年前から関係があったと言う事か?」
マイケル「ああ。ヘリの事故のことももしかしたら記憶を失った振りをしているのかもしれない」
デボンの声「こっちもアスローについて、わかった事があるぞ。彼は、元陸軍の兵士で、
 航空部門のパイロットだった前歴がある」
マイケル「アスローが軍を辞めた理由は?」
デボンの声「上司であるモース・レイゼル大佐を忌み嫌って、事あるごとにもめていたらしい。
 痺れを切らした大佐がアスローをクビにした」
マイケル「俺が戻るまでアスローを部屋から一歩も出さないでくれ」
デボンの声「わかった…マイ…」
  デボンの表情が固まる。
マイケル「どうしたデボン?」

○ ナイト財団本部・デボンオフィス
  入口で銃を構えて立っているアスロー。
アスロー「通信を切れ」
  デボン、デスクに設置されている通信用のスイッチを切る。

○ ナイト2000車内
  モニターのデボンの映像が消える。
マイケル「キット、もう一度つなぎなおせ」
キット「駄目です。デボンさんが回線を切断したようです」
マイケル「スーパーモードだ」
キット「了解!」
  マイケル、パネルの『SUPER PURSUIT MODE』のボタンを押す。

○ スーパー追跡モードに変形するナイト2000
  爆音を上げながら、ハイスピードで走行し始める。
  
○ ナイト財団本部・デボンオフィス
アスロー「黙って、私の言う事を聞け」
デボン「ヘリの事故は、トビーたちの仕業だな?」
アスロー「うるさい。余計な事に口を挟むな」
デボン「マイケルに出会ったのが運の尽きだ。おまえもブラックホークの件に関与しているのか?」
  アスロー、引き金を引く。
  デボンのデスクの上に銃弾が当たる。
アスロー「次は、確実に狙うぞ」
  扉が開くボニーとロンダが部屋に入ってくる。
ボニー「やめて、アスロー」
  ロンダ、呆然と立ち竦む。
アスロー「ロンダ、おまえは、部屋に戻ってなさい」
ロンダ「何やってるのパパ!」
アスロー「いいからパパの言う通りにしろ」
  部屋を出て行くロンダ。
  アスロー、ボニーの腕を掴み、こめかみに銃口を当てる。
アスロー「マイケルは、今どこにいる?」
デボン「もうすぐこっちに戻ってくる」
アスロー「電話を貸せ」
  デボン、コードレスフォンを持って、アスローの前に行く。
  コードレスフォンをアスローに手渡す。
  番号ボタンを押すアスロー。
アスロー「俺だ。もうすぐマイケルが戻ってくる。しっかりやれよ」
  電話を切るアスロー。
デボン「誰にかけた?」
アスロー「黙れ」
  空からヘリの重い羽の音が聞こえてくる。
アスロー「外を見ろ!」
  振り返り、窓を覗くデボン。
  空の彼方からこちらに向かって飛行してくるブラックホーク。
  驚愕するデボン。
デボン「ブラックホーク…」
  不敵な笑みを浮かべるアスロー。

○ 崖沿いの道
  S字の緩やかなカーブを瞬く間に走り抜けて行くナイト2000。

○ ナイト2000車内
キット「マイケル、緊急ブレーキシステムを作動させてください。300メートル前方に人が…」
マイケル「なんだって?」
  前方を見つめるマイケル。
  下り坂の道の真ん中にハーレーが止まっている。

○ 道路
  ハーレーにまたがっているガイ。不敵な笑みを浮かべる。
  持っていた対戦車砲ミサイルを肩に乗せ、ミサイルを発射する。
  勢い良く飛び出すミサイル。

○ ナイト2000車内
  マイケル、『EMERGENCY BRAKING SYSTEM』のボタンを押す。

○ ナイト2000と屋根と後部フェンダー部にある空気抵抗板が勢い良く開く
  緊急ブレーキシステムが作動する。
  急激にスピードが落ちたところで、ミサイルがボディに命中する。
  巨大なオレンジ色の炎が一気にナイト2000を包み込む。
  ガイ、ハーレーを走らせ、脇道に逃げる。
  ナイト2000、炎に包まれたまま、ハーレーを横切る。道を飛び出し、崖下に転落する。
  炎の塊のようなナイト2000がゆっくりと20m下の地面に落下して行く。
  崖際にハーレーを止めるガイ。
  崖下の様子を見つめ、薄気味悪い笑みを浮かべると、そのまま、走り去って行く。
―ACT3 END―

(続きをご覧になりたい方は、メールで管理人にお知らせください。
クライマックス/ラスト編<ACT4・5>のテキストファイルをメールでお送り致します)

戻る