「KNIGHT OF THE TORNADO」 作 ガース「ガースのお部屋」
○ ルイジアナ州・新型エネルギー開発研究所
数十人の見学者が巨大なドームの下に設置された実験装置の前に集まっている。
真ん中に立つデボン・シャイア。立ち止まり、装置を見つめる。
○ 同・監視室
スクリーンに街を襲うハリケーンの映像が映っている。
女の声「我が研究所では、二十年前からハリケーンが作り出す巨大なエネルギーを使った
新しい電力シテスムの開発を進めてきました…」
カリブ海の映像。
海底に作られた巨大な白いタンクが見える。
基地内の映像。オペレート室。白衣を着た数十人の科学者が監視装置の前に座っている。
女の声「これがその変換装置の一部です。新開発のモニターを使って発生位置を瞬時に割り出し、
より良い効率でエネルギーを吸い出します」
タンク内にある巨大な羽が勢いよく回転している。
映像が消える。スクリーンの前に立つテイラー・マクギール。
テイラー「近い将来、アメリカを襲う脅威を取り除く事が可能になる日も近いのです」
○ 同・通路
歩くデボンとテイラー。
デボン「素晴らし過ぎる。実に画期的な発明だ」
テイラー「昨年来の石油基地破壊に伴う損害額は、計り知れないよ。私は、少しでも早くこの計画を
成し遂げたい」
デボン「全世界に支援を呼びかけるべきだ。私からも政府に直訴しよう。もちろん、
我がナイト財団も出資させてもらう」
テイラー「それはありがたい。君にも今夜のパーティに出席して欲しかったよ」
デボン「至急の用件でロスに向かわなければならないんでな」
○ 同・玄関前
白いリムジンが止まっている。
運転手が後部ドアを開け、待ち構えている。
入口からあらわれるデボンとテイラー。
車の前で立ち止まり対峙する二人。
テイラー「じゃあ」
デボン「明日また連絡する」
握手する二人。リムジンに乗り込むデボン。
発進するリムジン。車を見送ると、研究所に戻るテイラー。
○ 同・表門
門を潜り、道路を走り出すリムジン。
門の入口脇に止まっている軍用のモスグリーンのジープ。
白髪にサングラス、葉巻を銜えた男・ミンク・フリーダーマンが運転席に座っている。
走り去るリムジンを見つめている。
レシーバーを握るミンク。
ミンク「予定通り北北西に進行中」
レシーバーから男の声が聞こえる。
男の声「開始します」
走り出すジープ。リムジンの後を追う。
○ テキサス市内・市道
疾走するナイト2000。
○ ナイト2000車内
辺りを見回すマイケル。
マイケル「そろそろいいかな」
アクセルを踏み込む。
スピードメーターの数字がグングンと上がっている。
キット「なぜこんなところでスピードを上げるんです?」
マイケル「キット、近くにパトカーがいないか調べてくれ」
キット「パトカーを見つけて、どうする気ですか?」
マイケル「これからの行動は、極秘事項なんだ。暫く黙っててくれ」
○ 赤信号の交差点を突き抜けるナイト2000
歩道脇に止まっているパトカー。サイレンをうならせ、交差点を左に曲がり、ナイト2000の後を追う。
○ 警察署・正面玄関
両隣にいる警官に腕を掴まれ、連行されているマイケル。手錠をはめられている。
マイケルの前にやってくる中年の紳士風の男。クライン・メイビル警部。
立ち止まるマイケルと警官達。
クライン「後は、私が引き受ける」
警官A「ただの交通違反者ですよ?」
クライン「いいんだ。気にするな」
警官達、マイケルをクラインに引き渡す。
○ 同・取調室
マイケルの手錠をはずしているクライン。
マイケル、両手首を摩っている。
マイケル「よそ者は、いつもこう言う扱いなのか?」
クライン「まぁ、そうカッカするな。君を犯罪者にするつもりはない」
マイケル「もう少し優しいもてなしが欲しかった」
クライン「犯人が外で見張っているかもしれんからな。こうするしか方法がなかった」
マイケル「誰に狙われているんだ?」
クライン「マイアミの売人から気になる情報を得た。テキサスの天然ガス資源から
新型の燃料が奪われたと言うものだ。ところがそれを知った途端、売人は、
自殺を遂げ、私は、何者かに圧力を受けるようになった」
マイケル「圧力?」
クライン「無言電話だよ。毎朝、毎晩、決まった時間に電話のベルが鳴り響く」
マイケル「それで、俺の役目は?」
クライン「私の一人娘のネイダを守って欲しい。奴らは、娘を狙う可能性がある」
マイケル「あんたは、大丈夫なのか?」
クライン「自分の身は、自分で守る。ただ、私に万が一のことがあっても、彼女だけは、守り通して欲しい」
マイケル「わかった」
クライン「私は、これからマイアミに飛んで、売人筋の情報屋と接触する。娘の事、よろしく頼む」
○ 映画館
ポップコーンを食べているネイダの隣に座るマイケル。
マイケル「やぁ」
ハッと振り向くネイダ。
ネイダ「おじさん、誰?」
マイケル「お父さんに頼まれた。君のボディガードをね」
ネイダ、辺りを見回す。
ネイダ「あんた、あいつよりは、使えそうね」
マイケル「あいつ?」
ネイダ「この二週間ずっと私に張り付いてる奴。うっとうしくて、蹴りたくなった」
失笑するマイケル。
マイケル「俺以外にも強力な助っ人がいるんだ。後で紹介する」
上映開始のブザーが鳴る。
スクリーンを見つめるネイダ。
ネイダ「とりあえず、今は黙ってて。映画に集中できなくなるから」
マイケル「はいはい、お嬢様」
○ ビル街
市道を疾走するナイト2000。
○ ナイト2000車内
運転席にマイケル。助手席にネイダがいる。
ダッシュボードを見回しているネイダ。
ネイダ、テレビを指差し、
ネイダ「このテレビ見られるの?」
マイケル「まぁね」
ネイダ、腕時計を見つめ、
ネイダ「もうすぐアーノルド坊やは人気者が始まるの。見せて」
マイケル「その前に君に紹介しておきたい奴がいる」
キット「始めまして、ネイダ」
ネイダ、怪訝な表情で後ろを振り向く。
ネイダ「何?どこにいるの?」
キット「ここです」
笑みを浮かべるマイケル。
ダッシュボードを見つめるネイダ。
ネイダ「なんだ。通信無線か」
キット「私は、ナイトインダストリー2000。キットと言います」
ネイダ「ふーん、変な名前」
キット「そんなこと言われたのは初めてです…」
マイケル「俺がいない時は、キットが守ってくれる」
ネイダ「守るってどうやって?」
キット「私の中にいれば安全です」
ネイダ「銃とかミサイルとか撃ってきても平気なの?」
マイケル「よっぽどのもの以外はね」
ネイダ「ふーん」
呆れた表情をするマイケル。
ネイダ「ねぇ、うちに寄ってくれない?取ってきたい物があるの」
マイケル「キット、ネイダの自宅までの最短ルートを出してくれ」
モニターに地図のイメージが映る。地図が上下左右にスクロールし、ある地点が白く点滅する。
ネイダ、画面を興味深げに見つめている。
○ カリフォルニア・郊外
のどかな田園風景。
スピードを上げ走行しているナイト2000。
○ メイビル家前
庭の前に立ち止まるナイト2000。
○ スキャナーを唸らせるナイト2000
○ ナイト2000車内
キット「周囲に生体反応は、見られません」
助手席のドアを開けるネイダ。
マイケルも慌てて車から降りる。
○ メイビル家前
玄関に駆け込んで行くネイダ。
マイケル「待て、ネイダ」
ネイダ「誰もいないんでしょ?一人でも平気」
ドアを開け、中に入るネイダ。
溜息をつくマイケル。
キット「その表情、久しぶりに見ました」
マイケル「なんてったって、お嬢様を相手するのは、久しぶりだからな」
暫くして、ネイダの悲鳴が聞こえてくる。
マイケル、慌てて、走り出す。
○ 同・2F・ネイダの部屋
部屋に駆け込んでくるマイケル。
ネイダ、部屋の中央にしゃがみこみ、怯えている。
ネイダに近づくマイケル。
マイケル「どうした?」
ネイダ、いきなり、マイケルと顔を合わせ、笑い声を上げる。
呆れるマイケル。
マイケル「大人をからかうと、後で痛い目にあうぞ」
ネイダ、ベロを出す。
デスクの上のマンガ雑誌をカバンの中に詰め込み始めるネイダ。
下でガラスの割れる音がする。
コムリンクの通信のアラームが鳴る。
コムリンクに話し掛けるマイケル。
マイケル「どうした?」
キットの声「裏口から誰かが侵入しました」
慌てて、部屋を出て行く。
○ 同・1F・キッチン
辺りを見回すマイケル。
裏口のドアを開け、出て行く人影。
走り出すマイケル。
○ 同・庭
必死に走っている帽子を被った少年。
後を追うマイケル。少年に追いつき、左腕を掴む。
少年、必死になってマイケルの腕を引き離そうとする。
マイケル「そう興奮するなって」
マイケル、少年から手を離す。
少年「あんた誰?」
マイケル「それはこっちが聞きたいな」
少年「もしかして、新しく雇われたネイダのガードマン?」
マイケル「ネイダの事やけに詳しいな。彼女の友達か?」
少年「同じクラスなんだ彼女と…」
少年の名は、アレックス・ライト。
マイケル「いつも黙って入ってるのか?」
アレックス「様子を見てただけだよ。だって、彼女、居留守を使う事が多いから…」
ネイダの悲鳴が聞こえる。
マイケル、またかと言ったうんざりした表情で家に向かう。
○ 同・1Fバスルーム
浴室の床に仰向けで倒れている男がいる。メガネをかけた若い男。
浴室の前で呆然としているネイダ。マイケルがやってくる。
マイケル「さっきの忠告もう忘れたのか?」
死体に気づくマイケル。
ネイダを抱き締めるマイケル。
ネイダ「その人、死んでるの?」
男の前でしゃがみこみ、身体を調べるマイケル。
マイケル「君は、向こうに行ってて」
男の足を見る。裸足である。右足に石鹸水がこびりついている。
男の手元に石鹸が転がっている。
コムリンクに話し掛けるマイケル。
マイケル「キット、浴室で死体を見つけた。男の身体を調べてくれ」
○ ナイト2000車内
モニターに人の3Dのイメージが映る。
身体をスキャンしている。
キット「マイケル、男の背中を調べてください」
○ メイビル家・1F・バスルーム
マイケル、男のシャツを捲り上げる。背中の中央に赤く腫れた跡がある。皮膚から
針のようなものが飛び出ている。
マイケル「何かに噛まれた跡のようだ」
キットの声「そこから高濃度のヒスタミン反応を検出しました」
マイケル「…蜂か。死因は、蜂に刺されたせいだな」
キットの声「そうです」
マイケル「死亡推定時間はどれぐらいだ?」
キットの声「死後3時間以上経過しています」
○ 同・庭
アレックス、そわそわと家の中を覗いている。アレックスの前にやってくるネイダ。
ネイダ「あんた、何やってんの?」
アレックス「別に…」
アレックス、慌てて逃げる。
アレックスを睨み付けるネイダ。
○ マイアミ・とあるホテル・ロビー
公衆電話の前に立つクライン。
受話器を握っている。
クライン「死体?」
○ 田舎町
田園の真ん中を通る道を走るナイト2000。
マイケルの声「ああ。バスルームの中で倒れていた」
○ ナイト2000車内
ハンドルを握るマイケル。
マイケル「今、警察に身元を調べてもらっているところだ」
スピーカーからクラインの声が聞こえる。
クラインの声「娘は、無事なのか?」
助手席に座るネイダ。膝の上に鞄を置き、窓の外の景色を見つめ、ツンとしている。
キット「お父様に何か声をかけてあげてはどうです?」
ネイダ「平気」
クラインの声「ネイダ、くれぐれも余計な事をするんじゃないぞ」
憮然とするネイダ。
ネイダ「余計な事って何よ?」
マイケル「ネイダの事は心配しないで。あなたがテキサスに戻るまでしっかり見張っています」
クラインの声「死んだ男の事…何かわかったらまた連絡を頼む」
マイケル「わかりました」
通信が切れる。
キット「父親と仲が悪いのですか?」
ネイダ「うるさい。大きなお世話」
通信のビープ音が鳴る。
キット「ボニーからです」
モニターに映るボニー・バースト。険しい眼差し。
ボニーの声「マイケル、大変よ。デボンが行方不明なの」
マイケル「テイラーのエネルギー研究所に行ってたんじゃなかったのか?」
ボニーの声「そうよ。その後、ロスのコンベンションセンターに向かうはずだったんだけど、さっき、
センターからデボンがまだ来ていないって連絡があって…」
マイケル「研究所には、連絡したのか?」
ボニーの声「ええ。今RC3がテイラーに事情を聞きに行ってるわ」
マイケル「わかった。今から俺達もデボンの足取りを追ってみる」
ボニーの声「デボンの事は、私達に任せて、あなたは、ネイダの警護に集中して」
ネイダ「ああ。気にしないで。私なら大丈夫」
マイケル「俺とキットがいるんだ。少々寄り道しても大丈夫」
ボニーの声「じゃあお願いね」
マイケル「また後で」
モニターが消える。
○ とある研究所・隠し部屋
暗がりの部屋。
中央の椅子に縛り付けられているデボン。
気を失っている。
天井の白い照明が一斉に光る。
目を覚ますデボン。
デボンの正面にある扉が開く。サングラスをかけたミンクが入ってくる。
ミンク「これはこれは。良い夢を一杯見れましたかな?」
ミンク、右手に持っている水の入ったコップをデボンの前に差し出す。
デボン「目覚めたら、現実のほうが悪夢だったよ」
ミンク「まぁ、そう言わず。あなたには、これから色々と協力してもらわなければならない」
不敵な笑みを浮かべるミンク。
ミンク、右手にクロドクシボグモを持ち、デボンの顔の前に差し出す。
ミンク「これが何かご存知かな?」
デボン「…南米産の毒蜘蛛かね」
ミンク「ほほ、博識ですな。血清は、手元にあるし、運が良ければ助かる可能性は、99%…」
デボン「何が目的だ…」
ニヤリとするミンク。
―ACT1 END―
―ACT2―
○ 砂漠の道
疾走するナイト2000
キットの声「デボンの車が通ったルートに辿り付きました」
○ ナイト2000車内
マイケル「ボニーの話だと、デボンが乗っていたのは、白のリムジンだったらしい」
モニターにいろんな種類のタイヤがスキャンされている。
興味深げにモニターを見ているネイダ。
キット「マイケル、リムジンのタイヤの跡は、確認できません」
マイケル「ルートに間違いはないはずだ。もう一度調べてみてくれ」
ネイダ「へぇ、こんな事もできるんだ」
キット「これぐらいは、序の口です。やはり、確認できません」
マイケル「と言うことは、デボンは、リムジンに連れ去られたって事か」
キット「先程、警察無線から情報が入りました。ネイダの自宅で死んでいた男は、
ルイジアナのオルプテック研究所の開発者・エド・モリスと判明しました」
マイケル「オルプテックってのは、何を研究しているんだ?」
キット「太陽発電を中心とした新型エネルギーシステムの開発です」
マイケル「ネイダ、しばらく長旅が続くけど辛抱してくれよ」
ネイダ「いいよ。なんだか面白くなってきた」
マイケル「キット、スーパーモードだ」
マイケル、『SUPER PERSUIT MODE』のボタンを押す。
○ スーパー追跡モードに変形するナイト2000
ハイスピードで砂漠の道を一瞬のうちに走り過ぎる。
ネイダの悲鳴が響く。
○ 草原の道を走行するナイト財団移動本部トレーラー
トレーラーの後ろから勢い良くやってくるRC3の乗ったバイク。コンテナに乗り込む。
○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
バイクが止まる。ヘルメットを外すRC3。バイクから降りる。
RC3「マイケルは?」
ボニー「デボンが乗ったリムジンが辿ったルートを調べてもらってるの」
RC3、バイクのシートを開き、収納ボックスの中から箱を取り出す。
ボニー、箱を見つめ、
ボニー「それ、何?」
RC3「コンベンションセンターにデボン宛てで届いた荷物だ。俺が向こうにいた時、ちょうど郵便屋が
持ってきやがってさ」
RC3から箱を受け取るボニー。
箱を見回している。
RC3「心配ご無用。出る前にバイクに積んでたスキャナーで予め調べてみたが、金属反応はなし」
ボニー「用意周到ね」
ボニー、紐を解き、包みを取り、箱を開ける。
中からビデオテープが出てくる。
ボニー、テープをコンピュータラックにあるビデオデッキに入れる。
コンピュータのディスプレイに映像が映る。
映像には、隠し部屋の中央の椅子に縛られているデボンが映っている。デボン、
顔に異常な汗をかき、呼吸が乱れている。
驚愕する二人。
○ ルイジアナ州・オルプテック研究所・駐車場
入口から侵入してくるナイト2000。
建物の前の駐車スペースに止まる。
○ ナイト2000車内
マイケル「ちょっと、待っててくれ」
車から降りるマイケル。
玄関に向かって歩いて行くマイケルをフロントガラス越しに見ているネイダ。
どこからか猫の鳴き声が聞こえる。
キット「何です?」
ネイダ、鞄の中から白い子猫を取り出す。
ネイダ「かわいいでしょ?メニーって言うの」
キット「あの私…動物があまり…」
ネイダ「嫌いなの?」
子猫、ネイダの手元から飛び出す。ネイダの足元で寝返りを打っている。
キット「はぁ…またこんな…」
○ ナイト2000の背後を不審なワゴンが通り過ぎて行く
○ オルプテック研究所・ロビー。
カウンターの前に立つマイケル。
奥の通路から白衣を着た日本人の男が現れる。
男「新エネルギー開発部の山村です」
男は、コウ山村。
マイケル「エド・モリスについて聞きたい事がありまして」
山村「彼は、一週間前から無断欠勤をしていまして。我々も彼の行方を探しているんです」
マイケル「実は、テキサスの田舎町で彼の遺体が発見されたんです」
表情を強張らせる山村。
マイケル「仕事中に何か変わった様子はなかったですか?」
山村「エドは、一ヶ月前から技術漏洩の疑いがあって、我々は、独自で調査を進めていたところで…」
マイケル「技術漏洩?」
山村「我々が現在開発している風力システムの最新技術の情報を他企業に高額で売り渡していると
言う内部からの密告がありまして。もう少しでその取り引き相手を割り出せるところだったんですが…」
○ ナイト2000車内
助手席でメニーを膝の上に置き、マンガ雑誌を読んでいるネイダ。
雑誌を閉じ、キットに話し掛ける。
ネイダ「当分うちには、戻れそうにないね」
キット「殺し屋に狙われているのに…怖くないのですか?」
ネイダ「脅迫電話は、今までも度々あったから。慣れっこよ、こう言うの」
キット「うちでは、いつも何をしているんです?」
ネイダ「本を読んだり、テレビを見たり、ゲームもするわ」
キット「友達とは、遊ばないのですか?」
ネイダ「まぁね。うちが一番楽しいもん」
キット「アレックスは、友達ではないのですか?」
ネイダ「あいつとは、幼馴染みなの。昨日、ちょっとしたことで喧嘩しちゃって」
キット「原因はなんです?」
ネイダ「くだらないことよ。あなたはどうなの?友達いるの?」
キット「ええ。たくさんいます」
ネイダ「一緒に遊びに行ったりするの?」
キット「もちろんです」
ネイダ「友達なんて、邪魔なだけよ。私のすることなすことに文句ばかり言ってくるし」
キット「友達は、かけがえのないものです。そんなに尖っていたら後で後悔しますよ」
ネイダ「車の癖に生意気なこと言うのね。ねぇ、ねぇ、もしかしてゲームとかもできる?」
ダッシュボードの下側にあるトレイが開く。トレイにコントローラーが乗っている。
キット「いつもマイケルがやっているものならありますが、それで良ければどうぞ」
モニターにレースゲームのメニュー画面が映る。
ネイダ「凄い!」
ネイダ、笑みを浮かべ、コントローラーを持つと画面に集中する。
通信のビープ音が鳴り響く。
モニターがRC3の映像に切り替わる。
RC3の声「キット、マイケルは?」
ネイダ「誰よ、もう!」
RC3の声「悪いね。取り急ぎの用なんだ」
キット「研究所のほうにいます…ああ、今戻ってきました」
運転席に乗り込んでくるマイケル。
マイケル「どうした?RC3」
RC3の声「デボンが何者かに誘拐された。コンベンションセンターにデボンの様子を映した
ビデオが送り届けられたんだ」
マイケル「映像を見せてくれないか?」
RC3の声「待ってろ、今送る」
モニターが切り替わる。
隠し部屋の中央、縛られたデボンが映っている。
マイケル、険しい表情で映像を見ている。
キット「マイケル…」
マイケル「ああ…早く救い出さないと…」
ネイダ、デボンの顔をまじまじと見ている。
ネイダ「この叔父さん、なんだか具合悪そう…」
マイケル「そう言えば…やけに顔色が悪い」
ネイダ「これ…きっと毒のせいだよ」
マイケル「毒?」
ネイダ「蜘蛛の毒。誰かのいたずらで一度うちに送りつけられてきた事があって私も噛まれた事があるの。
病院で血清を打ってもらって命を取り留めたけど…」
キット「それがもし本当なら、早くデボンさんを」
エンジンをかけるマイケル。車をバックさせる。
○ 砂漠の通り
土煙を上げながら走行するナイト2000。
ネイダ「エドの事は、何かわかったの?」
○ ナイト2000車内
マイケル「詳しい事は、まだ良くわからないけど、おそらく、エドは、君のお父さんに何かを伝えようとして
君の家にやってきたのかもしれない」
ネイダ、呆然と俯く。ネイダの様子を窺うマイケル。
マイケル「気分でも悪くなった?」
首を横に振るネイダ。
キット「何か気分のよくなる音楽でもかけましょうか?」
マイケル「そりゃあいいな。ノリのいいリズムで頼む」
キット「あなたのために流すのではありません。ネイダのためです」
ネイダ「キット、ありがとう。でも今はいい。ちょっと眠くなってきた」
キット「わかりました。では、ゆっくりお休みください」
○ 断崖の上に立つミンク
レシーバーを持っている。
ミンク「例の車を見つけた。第1段階開始。どうぞ」
○ 砂漠の通り
ゆっくりと走行しているナイト2000。
○ ナイト2000車内
フロントガラス越しに正面から接近してくるタンクローリーが見える。
キット「マイケル、前から何かやってきます」
マイケル「タンクローリーか」
眠りかけていたネイダ。ハット目を覚まし、前方を見つめる。
○ ナイト2000に向かって突進してくるタンクローリー
○ ナイト2000車内
キット「こっちに向かってきます」
ネイダ「あぶない!」
マイケル「スキーモードでタンクローリーを横切る。しっかり捕まって」
マイケル、『SKI MODE』のボタンを押す。
○ ジェット音を上げ、片輪走行を始めるナイト2000
悲鳴を上げるネイダ。
猛スピードでやってくるタンクローリーのそばをスッと通り抜け、路面に着地する。
○ ナイト2000車内
ネイダ、驚きながらもどこか楽しげな様子。
ネイダ「ジェットコースターに乗ってるみたい…」
モニターにレーダー画面が映る。
キット「マイケル、前からまた車が急速に近づいてきます」
○ ナイト2000の前にやってくるジープ。
後部席に立つ男が機関銃の銃口をナイト2000に向ける。
機関銃の攻撃を受けているナイト2000。火花を上げながら跳ね返している。
―ACT2 END―
―ACT3―
○ ジープ車内
後部席の男、後ろに積んでいたロケットランチャーを肩に担ぐ。
○ ナイト2000車内
前を見つめ、驚愕するネイダ。
ネイダ「何あれ?」
マイケル「ロケットだ」
ネイダ「うそ…」
○ ロケット発射。
白い煙を上げながら勢い良くナイト2000の方向に飛んで行くロケット。
ボンネットの上に命中。オレンジ色の巨大な爆炎が上がる。
○ ナイト2000車内
歯を食いしばるマイケル。
ネイダ、顔を俯け、猫を抱き締めている。
マイケル「大丈夫か、キット!」
モニターに回路のイメージが映り、『ERROR』の文字が点滅している。
キット「自己診断システムの一部と走行系の回路に損傷がありました。SPMが使用不可能になりました」
マイケル「マイクロロックは?」
キット「一度だけなら可能です」
マイケル「ジープを止めるぞ!」
マイケル、『MICRO ROCK』のボタンを押す。
モニターにジープのイメージが映る。後輪の車軸が赤く光る。
○ ジープの後輪がロックされる
突然、急ブレーキがかかり、路面を滑るジープ。
後部席に立っていた男が車外に投げ出される。路面に転がる男。
そのそばを通り過ぎて行くナイト2000。
ジープのドライバー、悔しげに両手でハンドルを叩いている。
○ 断崖の上に立つミンク
葉巻の煙を吹かしながら不敵な笑みを浮かべる。
ミンク「噂通り、ユニークな車だ」
トランシーバーから男の声が聞こえる。
男の声「第3段階はどうします?」
ミンク「中止だ。新しい作戦を思いついた」
○ 砂漠の道を疾走するナイト財団移動本部トレーラー
ボニーの声「あなた達を狙ったのは、一体何者なの?」
○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
ナイト2000のボンネットが開いている。エンジンルームを調べているボニー。
ボニーの後ろに立っているマイケルとネイダ。
振り返り二人と対峙するボニー。
マイケル「俺にも全く見当がつかない」
ネイダ「きっと、私を狙ってる連中の仕業よ」
マイケル「…だとしても用意周到な連中だった。俺達の行動を全て熟知している感じだった」
ボニー「ネイダの言ってる毒のことだけど、映像を見る限り、確かにいつものデボンさんと、様子が違うわね」
ネイダ「どうやって見つけ出すの?何の手がかりもないのに…」
携帯電話が鳴り響く。電話に出るボニー。
ボニー「マイケル、テイラーさんからよ」
マイケル、電話に出る。
○ 研究所・所長室
デスクにつくテイラー。受話器を握っている。
テイラー「デボンの事は、聞いたよ。それで例のリムジンの運転手の事を調べてみたら、
やはり君達の思っていた通り、あのドライバーは、偽者だった。研究所に来る前に、
本当のドライバーと入れ替わったみたいだ」
○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
マイケル「やっぱり。で、そのドライバーについて、何かわかった事は?」
テイラーの声「それについては、今警察に調べてもらっている。いずれにしてもこんなことになって残念だ。
私にも責任がある。できる事は何でも協力するよ」
マイケル「ありがとうございます。また何かわかったら連絡します」
電話を切るマイケル。
ボニー「デボンの事を調べている間、ネイダの事は、私に任せて」
マイケル「クラインと約束したんだ。ネイダは、俺達が守るってね。このトレーラーが襲われる事だって考えられる。
キットの中が一番安全だよ」
ボニー「でも…」
ネイダ「キットと一緒がいい」
ボニー、困惑した面持ち。
マイケル「それで、キットは、もう直った?」
ボニー「後は、走行回路を少し弄るだけよ…」
キットのスキャナーが唸る。
キット「マイケル、誰かが財団の専用回線を使って私に呼び出しをかけています」
マイケル、運転席に乗り込む。
マイケル「つないでくれ」
スピーカーからミンクの声が聞こえる。
ミンクの声「始めまして、じゃあ、なかった。車の調子は、どうだね?」
マイケル「さっき俺達を襲ったのはおまえか?」
ミンクの声「あまり攻めないでくれ。君達が気にかけている人物の行方を知っているんだ」
マイケル「デボンか?」
ボニーとネイダが運転席の前にやってくる。
ミンクの声「声を聞かせてやりたいが、生憎今は、喋れる状態ではないんでね」
マイケル「要求はなんだ?」
ミンクの声「今からサンノゼに来てもらおう。ジェームズ公園の噴水前。連れの女の子も乗せて」
マイケル「ネイダ…狙いは、ネイダなのか?」
息を飲むネイダ。
ミンクの声「時間は、4時ジャスト。着いたら君だけ車から降りて、噴水の前で待っていて欲しい」
マイケル「じゃあ、同じ時間にデボンを開放してくれ」
ミンクの声「…いいだろう。シリコンバレーの空港に来たまえ。それじゃあ」
回線が切れる。
唖然としているボニー。
ボニー「どうするの?」
困惑した表情を浮かべるマイケル。
ネイダ「私を連れてって」
マイケル「駄目だ…」
ネイダ「このままだと、あのお爺さん、死んじゃうよ」
マイケル、険しい表情のまま微動だにしない。
ネイダ「パパとの約束なんか守ってる場合じゃないって」
マイケル「キット、本部にいるRC3を呼び出してくれ」
キット「何か名案でも?」
マイケル「一か八か、賭けてみるしかない」
○ 走行するナイト財団移動本部トレーラー
コンテナからバックしながら出てくるナイト2000。
路面に降りると、そのまま、180度ターンし、勢いよく走り出す。
○ サンノゼ
ダウンタウンのストリートを走るナイト2000。
歩道脇に立ち止まる。
○ ナイト2000車内
コンソールのボタンを操作するマイケル。
マイケル「不審な奴を感知したらすぐに知らせてくれ」
助手席に座るネイダを見つめるマイケル。
マイケル「済まないネイダ」
ネイダ「気にしないで」
マイケル「キット、後は、頼んだぞ」
キット「わかりました。マイケル…気をつけて」
マイケル、険しい表情を浮かべ、車から降りる。
○ 公園前・アパート・6F
中央の小窓から飛び出している銃身。
○ ライフルスコープ・主観
噴水の前に立つマイケル。辺りを見回している。
スコープの中心がマイケルの上半身を捉える。
轟く銃声。
マイケル、左胸を撃たれ、そのまま、前のめりに倒れる。
○ アパート・6F室内
小窓の前でライフルを構えているミンク。
黄色いサングラスをつけている。
トランシーバーを持ち、喋り出す。
ミンク「障害は取り除いた。早く車に乗り込め」
○ ナイト2000の前に近づいてくる若い男
運転席のドアを開け、中に乗り込む。
○ ナイト2000車内
若い男、ダッシュボードを見回している。
その様子をまじまじと見ているネイダ。
若い男「イグニションは?」
ダッシュボードの計器類が一斉に光り、自動的にエンジンがかかる。
唖然としている若い男。
ハンドルを持ち、アクセルを踏み込む。
○ 公園の前から走り去って行くナイト2000
○ 公園・噴水前
うつ伏せで倒れているマイケルの前に円を描いて群がる人々。
マイケル、目を瞑ったまま、微動だにしない…
○ 空港前・道路
走行するBMW。脇道に止まる。
後部席のドアが開く。男と一緒にアイマスクと猿轡をされたデボンが下りてくる。
両手を縛っている縄をはずす男。
男「車が走り去ったら、アイマスクをはずせ。約束を破ったら撃ち殺す」
頷くデボン。猿轡をはずす男。
車に乗り込む男。
走り去る車。
アイマスクをはずすデボン。
やつれた表情で辺りを見回している。
デボンの後ろから赤いメルセデスがやってくる。
デボンの前に立ち止まるメルセデス。
運転席から降りるボニー。
ボニー「デボン!」
デボンに肩を貸すボニー。立ち上がるデボン。
デボン「奴らは、なぜ私を解放したんだ?」
ボニー「マイケルが向こうの要求を飲んでネイダを…」
デボン「ネイダ?財団にガードの依頼をしてきたクラインの娘か?」
ボニー「そうです。身体の具合は?」
デボン「部屋から出る前に血清を打ってもらった。あと1時間も遅れていたら、君の顔を見れなかったよ」
ボニー「さぁ、行きましょう」
ボニー、デボンを車の助手席に乗せる。
○ 国道
疾走するナイト2000。
○ ナイト2000車内
ハンドルを握る若い男。
助手席に座るネイダ。メニーを抱いている。
ネイダ「ねぇ…どこに行くの?」
若い男「もうすぐわかる」
ネイダ「向こうに着いたらどうなるの?私…」
若い男「さぁな。後は、隊長が決める事だ。俺は知らん」
ネイダ「やっぱり、殺されるのかな…」
若い男「おまえの親父が捜査から手を引かないから悪いんだ。まっ親父を恨め」
ネイダ「捜査って、何の?」
若い男「お前にいちいち言うことじゃねぇよ」
突然、インジケータの『NORMAL DRIVE』のランプが消え、
『AUTO DRIVE』のランプに切り替わる。
ハンドルとアクセルが自動的に動き始める。困惑する男。
若い男「な、なんだ…」
キット「この時間は、私が運転をする事になっています。自分で運転する場合は、
ドライブスケジュールの変更をお願いします」
引きつった表情を浮かべる若い男。
若い男「なんだ、おまえ?」
キット「紹介が遅れました。私は、ナイトインダストリー2000。キットと呼ばれています。どうぞよろしく」
若い男「自分で運転するから、なんとかしろ」
キット「4時半になりました。スピードアップの時間です」
パネルが開き、SPMのボタンが点灯する。
○ スーパー追跡モードに変形するナイト2000
車道を高速で走り出すナイト2000。
○ ナイト2000車内
身震いしている男。
若い男「おい、よせ、そんなに急いでない」
キット「急ぐようにとインプットされています」
ネイダ、くすくすと笑っている。
若い男「どこに行くつもりだ?」
キット「それは、まだインプットされていません」
若い男「ふざけるな」
キット「目的地を教えてくだされば、自動走行は、解除されます」
若い男「…ナパバレーの小さなワイン工場跡地だ」
キット「聞きましたか、RC3」
後部席からRC3が姿を表す。
RC3「しっかり聞いたぜ。よくやったぞ、キット」
若い男「何なんだ、この車?」
RC3「この車の事を知りたいなら、先にワイン工場の事を喋りな」
○ 橋の上を通るナイト2000
運転席側のルーフが開き、射出される若い男。空高く飛び上がり、
絶叫しながらそのまま、5m下の川に落ちる。
何事もなかったように猛スピードで走り去って行くナイト2000。
―ACT3 END―
―ACT4―
○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
テーブルに座り、コーヒーを飲んでいるデボン。
通信のビープ音が鳴り響く。
コンピュータのディスプレイの前に座るボニー。
キーボードを打つ。ディスプレイにナイト2000の運転席に座るRC3の顔が映る。
RC3の声「敵のアジトを掴んだぜ、ナパにあるワイン工場だ」
ボニー「どうやら、うまく行ったようね」
RC3の声「首謀者は、ミンク・フリーダーマンって男だ。元陸軍士兵。射撃の腕は、
軍の中でもずば抜けてるって言ってた」
ボニーの背後でマイケルの声がする。
マイケル「確かに腕は、良かった。キットの勧めで防弾チョッキをつけていって正解だった」
左胸を押さえているマイケル。
デボン、マイケルを見つめ苦笑いする。
デボン「わざわざ撃たれに行くなんて…おまえも無茶な男だ」
マイケル「撃たれるなんて思ってもいなかったさ」
画面に向かうマイケル。
RC3「工場でとんでもないものを作っているらしい」
ボニー「とんでもないものって?」
RC3「何かを観測するための車両だとか言ってたが、キットに乗ってきた男は、あまり詳しく知らなかった」
マイケル「RC、お前のバイクを借りるぜ」
マイケル、RC3のバイクの前に行く。
デボン「マイケル!」
デボンのほうを向くマイケル。
デボン「そのミンクって男は、キットのことに深く興味を持っていた。おそらく、ネイダだけでなく、ナイト2000も
奪うつもりだったのかも知れん」
マイケル「かもな。じゃあ、ちょっと行って来る」
ヘルメットを被るマイケル。
○ 砂漠の道
脇道に止まるナイト財団移動本部トレーラー
コンテナから路上へ降りるバイク。そのまま、勢い良く走り始める。
○ ルイジアナ州・新型エネルギー開発研究所・テイラーのオフィス
デスクの椅子に座るテイラー。携帯電話を持ち、話をしている。
テイラー「娘は?」
○ 国道を走るジープ
ミンクの声「工場に連れて行きました」
○ ルイジアナ州・新型エネルギー開発研究所・テイラーのオフィス
テイラー「クラインに連絡して、取り引きをもちかけろ」
ミンクの声「その前に祝杯のシャンペンでも開けたいですな」
テイラー「それは、全て終わってからだ。準備のほうは?」
ミンクの声「30分後に出発します」
テイラー「よし…」
電話を切り、秘書の女に手渡すテイラー。
○ ワイン工場前
ジープが止まる。
助手席から降りるミンク。
三人の兵士がミンクの前に集まってくる。
ミンク「車と娘は?」
兵士「それがまだ到着していません」
ミンク「何だと?」
ミンク、腕時計を見つめる。
ミンク「とりあえず、先に済ましてしまおう」
○ 同・中
装甲を施したバスの周りに群がる整備士達。
ミンクと山村がやってくる。
山村「完成まで後どのくらいだ?」
整備士「もうすぐ終わります」
腕時計を見つめる山村。
山村「ぎりぎりだな」
葉巻を吹かすミンク。右手にワインの瓶を持ち、一気に飲み干す。
ミンク「作戦の準備もあるんだ。テストもなしに試乗させる気か?」
山村「テイラー社長の判断だ。たらふく報酬をもらった癖に文句ばかり並べ立てるな」
ミンク、煙を吐くと、憮然とした表情で山村に銃を突きつける。
山村「何の真似だ?」
ミンク「報酬分の仕事は、ここまでだ」
数人の迷彩服を着た男達が整備士達の前にやってきて、ライフルを向ける。
ミンク「鼻っからおたくらと協力する気は、なかったのだよ」
不敵な笑みを浮かべるミンク。
ミンクの前にやってくる兵士。
兵士「中に変な奴が潜り込んでいました」
振り返るミンク。
両側にいる兵士に捕まり、連れてこられるRC3。RC3、酒に酔った振りをし、ふらふらと歩いている。
ミンク、葉巻を銜え、RC3を睨み付ける。RC3の匂いを嗅ぐミンク。
RC3「飛び切りうまいのが貯蔵庫に保管されてたから、つい飲んじまった…」
ミンク「君とは、初対面だが、我々の顔を見てしまったのが運のつきだ」
RC3「俺もあんたとは、初対面さ。初対面同士、仲良くやろうぜ」
ミンク、葉巻の煙をRC3に吹きかける。
RC3、にやけながら、顔を俯ける。
ミンク、RC3が左腕につけているコムリンクに気づく。
ミンク、コムリンクを毟り取る。
RC3、気まずそうに顔を歪ます。
ミンク「これは、俺が殺したあの男がつけていたものと同じだ」
RC3「ああ…良い時計だろ?この間向こうの畑で拾ったんだ」
ミンク「こいつをバスに乗せろ。向こうで実験台にしてやる」
兵士、RC3をバスのほうに歩かせる。
○ 国道(夜)
田園風景が広がる。
道路脇に止まっているナイト2000。
後方からマイケルが乗るバイクがやってくる。ナイト2000の横に立ち止まるバイク。
バイクから降り、メットを外すマイケル。
○ ナイト2000車内
運転席に乗り込むマイケル。
助手席に座るネイダ。
ネイダ「マイケル!」
マイケル「すまなかったな、ネイダ。RC3は?」
キット「ワイン工場に潜り込みましたが、先程、発信電波が途絶えました」
マイケル「RC3の身に何かあったな」
モニターにレーダー画面が映る。
キット「マイケル、再び発信電波をキャッチしました。工場前です」
マイケル、エンジンをかける。
○ 走り出すナイト2000
○ ワイン工場前
勢い良く走ってくるナイト2000。
白いトレーラーの後ろに立ち止まる。
○ ナイト2000車内
モニターにトレーラーの様子が映っている。コンテナの入口が開いているが、
黒いカーテンがかかっていて、中が見えない。
コンテナのドアがゆっくりと開いている。
マイケル「よし、コンテナの中を探れ」
モニターから電子音が流れ波長のイメージが流れている。
キット「駄目です。何かの妨害電波が邪魔をして、センサーの信号が跳ね返されてしまいます」
マイケル「仕方ない。乗り込むぞ」
○ 走り出すナイト2000
トレーラーのコンテナの中に入り込むナイト2000
それと同時にコンテナの扉が閉まる。
○ ナイト2000車内
暗闇の中、ダッシュボードのパネルの光に照らされているマイケルとネイダ。
ネイダ「怖い…どうなってるの?」
前方にある排出口からセメントが大量に噴出している。
ナイト2000のボディの下に流れ込み、どんどん積もっている。
キット「どうやら敵の罠にはまったようです」
マイケル「なるほど、こいつは、巨大なゴキブリホイホイってわけか」
× × ×
ナイト2000の前輪がローラーの上で回転している。
× × ×
ネイダ「こんな暗いところで死ぬの嫌」
マイケル「脱出するぞキット!」
キット「駄目です。タイヤの下にローラーがひかれていて、身動きできません…」
× × ×
ボディがセメントで蹲って行く。
× × ×
マイケル「ターボだ、キット。高度を最大にセットしろ!」
モニターにターボーブーストの発射角度のイメージが映る。
マイケル、『TURBO BOOST』のボタンを押す。
○ コンテナの屋根を突き破り飛び出してくるナイト2000
ジェットエンジンの爆音が轟く。
トレーラーのトラクターの頭上を越え、鮮やかに路上に着地するナイト2000
○ ナイト2000車内
車内が激しく揺れる。
マイケル「大丈夫か?」
ネイダ「うん、もう慣れた」
マイケル「コンクリート付けにされなくて良かったな、キット」
キット「マイケル、トレーラーから男が逃げ出しました」
モニターにトレーラーの前を去って行く男の姿が映る。
マイケル、アクセルを踏み込む。
○ 勢い良く発進するナイト2000
必死に走っている男の後ろに近づき、男の前に回り込む。
男の前を塞ぐようにして止まるナイト2000。
ドアを開け、男に飛び掛るマイケル。
男を地面に押し倒す。
男の胸倉を掴み、立ち上がらせるマイケル。
マイケル「ミンクは、どこに行った?」
男「実験車に乗って、カリブ海に向かった」
マイケル「実験車って何だ?」
男「ハリケーン監視用に開発した観測用バスだ」
マイケル「それを使って、何をする気だ?」
男「わからん。やつに直接聞いてくれ」
マイケル「それができるならとっくにやってるさ」
男の顔面にパンチを食らわすマイケル。
○ ナイト2000車内
車に乗り込むマイケル。
マイケル「キット、研究所のコンピュータを借りて、次のハリケーンの発生日時を割り出せるか?」
キット「やってみます。少々お待ちを」
マイケル、アクセルを踏み込む。
○ 急発進するナイト2000
○ ナイト2000車内
通信のビープ音が鳴り響く。
キット「デボンさんです」
モニターに映るデボンとボニー。
デボンの声「さっき、クラインから連絡があった。マイアミの情報屋から重要な情報を
入手したそうだ。エネルギー研究所を次々と狙って、次世代エネルギーの技術を根こそぎ
自分の支柱に納めようとしている元軍人がいる」
マイケル「ミンクの事だろ?」
デボンの声「その通り。テイラーの研究所もミンクに脅迫を受けていた」
マイケル「テイラー?じゃあ、あんたをミンクに襲わせたのは?」
デボンの声「然様。テイラーがミンクに協力した。実は、テイラーに関しては、前々から良からぬ噂を聞いていた。
自分達の作った最新技術を得体の知れない連中に売り渡して、莫大な利益を得ていると言う情報だった。
今回のクラインの調査でそれが明確になってきた」
ネイダ「じゃあ、私を狙ってたのは、そのテイラーって人なの?」
デボンの声「テイラーがクラインの動きを察知して、ミンクを使って、君を拉致しようとした」
マイケル「財団やキットの事もテイラーが喋ったんだな?」
デボンの声「そう見て間違いない。ミンクの履歴を洗ったら、一つ気になる資料を見つけた。
奴の両親は、三十年前のハリケーンの被害で命を落としている。それが理由で今度の
一連の事件を起こしているなら…」
マイケル「オルプテックのハリケーン観測用バスについて何か資料はないか?」
コンピュータの前に座るボニー。キーボードを打っている。
ボニーの声「オルプテックのハリケーンの研究についての資料を見つけたわ。
テイラーの研究所と共同でハリケーン観測用バスに取り付ける巨大な羽の開発をしているわ。
でも、このバスに積み込まれたシステムは、実験段階で、実用的には、まだ使えない」
キット「マイケル、わかりました。今年9番目の『マイキー』が近づいています。カテゴリー4、風速144マイル」
マイケル「ミンクの奴、勝てもしない相手に勝負を挑むつもりなのか…RC3は、
観測バスの中にいる。一度トレーラーに戻るぞ」
キット「急ぎましょう」
マイケル、『SUPER PURSUIT MODE』のボタンを押す。
○ スーパー追跡モードに変形するナイト2000
爆音を上げ、猛スピードで走り出す。
○ カリブ海付近(翌日・朝)
うねる海流。その上に広がる積乱雲。上昇気流が発生し、強風が渦を巻き始めている。
○ 海岸通り
走行するバス。
屋根から、アンテナが飛び出してくる。枝分かれし、2方向に伸びる。
○ 観測用バス車内
海面のサーモグラフィ映像。海面温度が赤くなり、上昇を続けている。
両側に置かれた機械の椅子に縛られているRC3。
白衣を着た男がパネルの操作ボタンを弄っている。
RC3の前に現れるミンク。
葉巻を吹かして、笑みを浮かべる。
RC3「どこなんだ?ここは?」
ミンク「これから起こる事は歴史に残るぞ」
正面に見える監視モニターを見つめるRC3。サーモグラフィの映像を見つめ、愕然とする
RC3「(苦笑)まさか…冗談だろ?」
ミンク「奴のエネルギーを吸い尽くして、自由自在に操ってやるのさ」
○ 沿岸地域・住宅街
道路の両脇に何台もの車両が止まる。住民が避難の準備をしている。
車両の間を潜りぬけ、走行しているナイト2000。
○ ナイト2000車内
ハンドルを握るマイケル。
フロントガラスにぽつぽつと雨が当たり始める。
モニターに映るレーダー画面。
赤い点滅が中心に近づいている。
○ 海岸沿いの道
猛スピードで走行しているナイト2000。
海の向こうに巨大な竜巻が見える。
キットの声「予め申し上げておきますが、いくらなんでもあの巨大な竜巻には、私の強靭なボディでも
耐える自信は、ありません」
マイケルの声「心配するな。ハリケーンが来る前に、RC3を助け出す」
○ 観測用バス内
機械の前に座るミンク。
モニターを見つめている。近づくハリケーンの映像。オペレート操作盤のレバーを握る。
ハリケーンの位置を示すレーダー画面。
○ 観測用バスの両側の側面にあるポッドが開く
ポッドの中から巨大な風車が姿を表す。勢い良く羽が回転する。
○ ナイト2000車内
キット「マイケル、前を…」
フロントガラス越しに不気味に立ち止まるバスが見える。
○ 観測用バス
運転席に座るミンク。葉巻を銜え、余裕の笑みを浮かべる。
後部監視用のモニターを見つめる。ナイト2000がフレームインしてくる。
RC3もモニターを見ている。
RC3「マイケル!」
ミンク「おまえさんのお仲間もわざわざ私の実験台になりに来たようだ」
○ ナイト2000車内
前を見つめるマイケル。
マイケル「運転しているのは、ミンクだな」
○ 観測用バスの風車が勢い良く回り始める
猛烈な風圧がナイト2000を襲う。バスのほうに少し引き寄せられている。
○ ナイト2000車内
木の枝や椰子の実、ゴミ箱がフロントガラスに当たる。
キット「竜巻の風圧の力が加わり、物凄いパワーです」
マイケル「耐えられそうか?」
キット「駄目です。どんどん吸い寄せられていきます…」
マイケル、『TURBO BOOST』のボタンを押す。
○ ジェットタービンの爆音が鳴り響く
バックでターボジャンプするナイト2000。
ゆっくりと前進する観測用バス。その後ろに巨大なハリケーンの渦巻きが迫っている。
○ ナイト2000車内
キット「このままだとバスがハリケーンに飲み込まれてしまいます」
正面を見つめるマイケル。
フロントガラス越しに観測用バスが突進してくるのが見える。
マイケル「バスのタイヤをパンクさせられるか?」
キット「やってみます」
○ ナイト2000のスキャナーが唸る
○ バスの両方の前輪がパンクする。
バスの動きが止まる。
○ ナイト2000車内
マイケル、ドアを開け、外に出る。
キット「無茶です。マイケル!」
○ 巨大な風を受けながらバスのほうに向かっているマイケル。
バスから降りるミンク。
ミンク、マイケルを押し倒す。マイケルの腹の上に乗っかり、顔を殴りつけているミンク。
マイケル、ミンクの右手を掴み、捻り上げる。
路上に倒れ込むミンク。
マイケル、立ち上がり、ミンクの頬を思い切り殴りつける。
気絶するミンク。
マイケル、急いで、バスに乗り込む。
○ 観測用バス車内
中央のシートに縛られているRC3。
RC3「待ちくたびれたぜ、マイケル」
必死の表情でロープを解くマイケル。
マイケル「さっさとしないと、俺達も竜巻の餌になるぜ」
RC3のロープが解ける。
二人、急いでバスから降りる。
○ バスから降りるマイケルとRC3
強い風を受けながらナイト2000に向かって走り出す。
○ ナイト2000車内
運転席にマイケル、助手席にRC3が乗り込む。
キット「RC、無事で何よりです」
RC3「ありがとよ、キット」
マイケル「スーパーモードだ」
マイケル、『SUPER PURSUIT MODE』のボタンを押す。
○ スーパー追跡モードに変形するナイト2000
華麗に180度ターンし、爆音を上げ、一目散に走り去って行くナイト2000。
ハリケーンの渦が観測用バスを飲み込む。
空高く舞い上がるバス。
○ ナイト2000車内
後ろを覗き込むRC3。
RC3「まさに地獄絵図だな」
キット「マイケル、前方を…」
マイケル、前を見つめ、驚愕する。
数キロメートル前方にもう一つのハリケーンが勢いよく迫ってくる。
マイケル、ブレーキを踏み込む。
○ EBSを作動させ、緊急停止するナイト2000
前方と後方の道上を、2つのハリケーンが進んでいる。ハリケーンに囲まれるナイト2000。
キットの声「もう一つのハリケーンが同時発生していたようです。最悪の状況です」
○ ナイト2000車内
モニターに映る地図。現在位置の道の両側は、密林のある広大な丘が広がっている。
RC3「木を削り取りながら北の方向に進むしかない」
キット「私はショベルカーではありません」
マイケル「あいつを突っ切る自信は、あるか?」
キット「さっきないと言ったでしょ?」
マイケル「でもやるしかない」
RC3「よせよ…まともじゃないぜ…」
マイケル「飲み込まれるのを待ってるよりは、いいだろう」
キット「本気ですか?」
マイケルの様子を窺うRC3。
意を決して、硬い表情を浮かべるマイケル。
RC3「腹を括るしかなさそうだぜ、キット」
マイケル「行くぞ!」
○ 元の姿に戻るナイト2000
ゆっくりと進み始めるナイト2000
巨大な渦巻きがナイト2000を飲み込む。空高く舞い上がって行くナイト2000のボディ。
やがて、渦巻きの外に勢いよく投げ出され、北の方角に飛ばされる。
○ ナイト2000車内
マイケル、必死の形相でE.P.D.(EMERGENCY PARACHUTE DEPLOYMENT)のボタンを押す。
○ ナイト2000のルーフからパラシュートが開く
パラシュートにぶら下がり、空に浮かぶナイト2000。
2つのハリケーンがナイト2000から遠退いて行く。
○ ナイト2000車内
蒼褪めているRC3。
キット「だから言ったのに…」
マイケル「そう怒るな。とりあえず、危険からは脱した…」
RC3「あんたの悪運もハリケーン級だな…」
キット「どうすれば、あの風を止められるんです?」
マイケル「お前に答えが出せないのなら、俺達にもわからない。でもいつかその答えが
見つかる日が来るさ…」
―ACT4 END―
―ACT5―
○ 野球場前
バッターボックスに立つアレックス。
飛んでくるボール。空振り。
首を傾げベンチに戻るアレックス。フェンスの前に立っているネイダと目を合わせる。
ムスっとした表情でアレックスを見つめているネイダ。
アレックス「(手を上げ)よっ!」
ネイダ、何も言わず、後ろに止まるナイト2000に向かって歩き出す。
唖然としているアレックス。また首を傾げる。
ナイト2000のボディの下で丸くなっているメニー。
ネイダ、ナイト2000の前に向かって歩き出す。
○ ナイト2000車内
助手席に乗り込んでくるネイダ。メニーを抱いている。
ダッシュボードのボタンが一斉に光り、エンジンがかかる。
『AUTO CRUISE』で自動走行を始める。
キット「アレックスと仲直りできましたか?」
ネイダ「まだ。後でまた話してみるよ」
キット「そのほうが良いと思います」
ネイダ「事件も解決したし、そろそろお別れだね」
キット「明日からまた安心して学校に通えます」
ネイダ「また、会いに来てくれる?」
キット「困った事があれば、必ず」
ネイダ「キット、あなたは、最高の友達よ」
○ ネイダ家・玄関前
扉口からマイケルとクラインが出てくる。
並んで歩き出す二人。
クライン「君達のおかげで、事件の真相を掴む事ができた。本当によくやってくれた」
マイケル「マイキーがテキサスを逸れてくれて良かった。ただ、ミンクを捕まえられなかったのは、残念だけど…」
クライン「ハリケーンと真っ向から張り合うなんて。馬鹿げた事を考えたもんだ…」
マイケル「本当に刑事を辞めるんですか?」
クライン「今回の一件も元を正せば、私が招いたことだ。カナダにいる古い友人に誘われているんだ。
そこで娘とのんびり暮らすよ」
マイケル「ネイダは、知ってるんですか?」
クライン「ああ。早くに母親を亡くしたせいで孤立させてしまった。あの子もここの暮らしには、
うんざりしてるだろうしな」
マイケル達の前に立ち止まるナイト2000。
助手席からネイダが降りてくる。
クラインのそばに行くネイダ。
クライン「ネイダ、マイケルに礼を言いなさい」
ネイダ「ありがとう。また来てね」
マイケル「また?」
ネイダ「キットが困った事があれば助けに来てくれるって」
マイケル「わかった」
マイケル、ネイダと握手をすると、ナイト2000の運転席に乗り込む。
エンジンをかけ、走り去って行くナイト2000。その姿を見ているネイダ。
ネイダ「パパ、もうちょっとここで暮らしたいんだけど、駄目?」
唖然としているクライン。
○ ナイト2000車内
キット「しかし、久々に手痛い作戦でしたね、マイケル」
マイケル「ああ、俺は、危うく死にかけたしな」
キット「私は、竜巻に飲み込まれた挙句、馬鹿なコンピュータの演技をさせられました」
マイケル「あれを考えたのは、RC3だろ?」
キット「そうなんですか?私は、ずっとあなただと思っていました」
マイケル「その演技、見てみたかったな」
キット「再演はありえません」
マイケル「そう恥ずかしがるなって」
笑みを浮かべるマイケル。
―THE END―