『メトロジェノン/シーズン2 エピソードW
TENA CODE016 「ネキシード」

BY ガース『ガースのお部屋』

『ネキシード』

○ 高速道高架下(深夜)
  真っ暗な歩道を走る百合川莉果(ゆりかわりか)(17)
  後方から迫って来る車。ヘッドライトが莉果を照らす
  路面に倒れる莉果。
  莉果のそばに止まる赤いセダン。
  運転席から降りてくる男。
  男は、坂崎千春(25)。
  莉果を立ち上がらせる坂崎。
莉果「大人ってみんなゴミね」
坂崎「おまえの父親はどうなんだ?」
  けたたましい奇声を上げる莉果。
  坂崎、莉果の腹をおもいきり殴る。
  気絶する莉果。
  坂崎、莉果を車の後部席に乗せる。
  スピードを上げて走り去る赤いセダン。

○ 郵便局前(朝)
  ポストにレンタルDVDの袋を入れようとしている子供の手。
  子供は真坂茂(7)。
  茂の背後で男の声がする。
男の声「おはよう」
  振り向く茂。
  茂の前に北 一真(31)が立っている。
北「お父さんは?」
茂「寝てる」
北「お使い頼まれたの?」
茂「レンタルのやつポストに入れに来たの」
北「レンタル?」
茂「そう」

○ 真坂の自宅・寝室
  アパート2Fの部屋。
  机の上にあるPCの前に座っている真坂 
和久(31)。
  就職サイトの介護関連の記事をまじまじと読んでいる。
  玄関の扉が開く音。
茂「ただいま」
真坂「おう。ちゃんと「はがき」のほうに入れたか?」
茂「OK農場」
真坂「変な奴に声かけられたりしなかったか?」
  返事をしない茂。
  怪訝な表情を浮かべる真坂。
  立ち上がり、キッチンに向かう。

○ 同・キッチン
  テーブルの椅子に座る茂。ペットボトルのメロンジュースを飲んでいる。
  冷蔵庫の前に立つ北。
  北を見つめ、頭を抱える真坂。
北「よっ」
真坂「よっ、じゃねえよ」
北「また使いっぱしりさせてるのか?」
真坂「こいつがポストに入れてみたいっていうから。どこにでも行きたがる年頃なんだよ。パソコンの前にずっといるよりマシだろ」
北「オンラインレンタルか。とうとう外に出る気力もなくなったか」
真坂「事故に遭わないし、人にも傷つけられない。ここが一番の安全地帯だろ」
北「何ニートみたいなこと言ってるんだ。子供を危険にさらしといて。子供を一人歩きさせることもリスクが高い世の中なんだぞ今は」
真坂「確かに。おまえみたいなのが一緒についてくるしな。今度はメロンジュースで買収されたのか?」
  真坂、茂の頭を撫でる。
茂「ばいしゅうって何?」
真坂「まさかまた俺を・・・」
北「そのまさかだ」
真坂「俺は真坂だが、そのまさかに付き合う気はない。帰れ」
北「坂崎が金木の娘を連れ出したまま行方不明なんだ」
真坂「おまえのパートナーだろ、坂崎は。そんなことだからなめられるんだ」
北「おまえと比べたら、まだかわいいもんだぞ」
  北の携帯の着信音が鳴る。
真坂「あいつは俺のことを嫌ってる。俺もあいつのことは好きじゃない。答えは明確だ」
  トイレに入る真坂。
  ため息をつく北。携帯に出る。
北「はい・・・わかったすぐ戻る」
  携帯を切る北。
北「仕事が入った。また来る」
  立ち去る北。
真坂「(トイレの中で叫ぶ)くんなーーっ」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  デスクに座る浅海(あさなみ)浩太(48)。浅海の前に立っている女性オペレート員・波本エナ(25)。
  デスクの上にあるディスプレイ。治療室内の映像。坂崎が二上喜助(45)と立ち話している様子が映っている。
  映像を険しい眼差しで見ている浅海。
  映像が途切れる。
浅海「映像はこれで全部か?」
エナ「はい」
浅海「この映像データのバックアップを取ってくれ」
エナ「あの・・・」
浅海「なんだ」
エナ「私も坂崎君の捜索に行かせてください」
浅海「君は、オペレート担当だろ。持ち場を離れるな」
エナ「もし坂崎君が見つかったら、彼をどうなさるおつもりですか?」
浅海「その答えを言う前にはっきりさせておきたいことがある」
エナ「なんですか」
浅海「君と坂崎とのことだ。どこまでの関係なんだ」
エナ「プライベートのことに答えるつもりはありません」
浅海「プライベート?これからの仕事に関わる重要なことだ。JWAの規則は知っているな?」
  動揺するエナ。
浅海「どうなんだ?」
エナ「ただのボーイフレンドです。恋人じゃありません」
浅海「そうか。ならいい。仕事に戻れ」
  エナ、釈然としない様子で部屋から出て行く。

○ JWA本部・通路
  歩いているエナ。憂いの表情。
  携帯電話の着信音が鳴り響く。
  電話に出るエナ。
  受話口から聞こえる男の声を聞き、唖然とする。
エナ「今どこにいるの?」

○ とある立体駐車場3F
  まばらに車が止まっている。
  片隅のスペースに止まる赤いセダン。
  セダンの運転席に乗っている坂崎。
  携帯で話している。
坂崎「それは言えない」
エナの声「なぜあの二人を逃がしたの?」
坂崎「それも今は言えない。百合川莉果の身柄は、俺が押さえている」
エナの声「いったいどういうつもりよ」
坂崎「副総監も知ってるのか?」
エナの声「治療室であなたと二上が会話をしている映像を見たわ」
  肩を落とす坂崎。
エナの声「でもまだ大丈夫。会話の内容は断片的にしか記録されていなかったし、証拠としては不十分よ」
坂崎「君に頼みたいことがある」

○ JWA本部・通路
  立ち止まるエナ。
坂崎の声「過去のJWA要員のリストを当たって欲しいんだ」
エナ「誰のリスト?」
坂崎の声「真坂和久」
エナ「そんなの知ってどうするの?」
坂崎の声「彼と至急に話したいことがあるんだ。彼は、金木と荒崎に関する重要な情報を握っている」
エナ「それ、本当なの?」

○ セダン車内
坂崎「信用できないのか僕のこと」
エナの声「一度本部に戻って。その件はその後にでも・・・」
坂崎「駄目だ。本部には戻れない」

○ JWA本部・通路
エナ「どうしてよ」
坂崎の声「僕に協力してくれるのかしてくれないのか?」
  息を飲むエナ。
エナ「じゃあ、真坂さんと会った後、必ず本部に戻るって約束して。それができないなら協力はできない」

○ セダン車内
  坂崎、憮然とした面持ち。
坂崎「わかった。必ずそうする」
エナの声「折り返し連絡するから携帯の電源切らないでね」
坂崎「副総監には、まだ何も知らせるな」
エナの声「わかったわ」
  電話が切れる。
  険しい表情の坂崎。

○ 市道
  住宅が立ち並ぶ道を走るB―COA。

○ B―COA車内
  ハンドルを握っている北。冴えない表情。
  コンソールのモニターにポニーテールの女性のCGイメージが映る。人工頭脳「シェンズ」が話している。
シェンズ「何考えてるの?」
北「俺にパートナーは必要ないのかもな」
シェンズ「どうしてそう思うの?」
北「真坂は俺から離れようとするし、坂崎は俺の言うことを聞かず行方知れず。もしかしたら俺に原因があるのかも」
シェンズ「そんなに自分を責めないで。真坂さんが今のようになったのはあなたのせいじゃない」
北「あいつを立ち直らせてやりたいんだ。でも、奴は、子供みたいに文句を言うだけだし、やる気も見せない」
シェンズ「彼自身も一番自分に会う仕事はここしかない思っているはず。JWAを不当に解雇されて恨んでいるだけよ」
北「それはわかってる。あの時は止むを得ない事情があったんだ。だが、総監が倒れた今、あいつの力が必要だ」
シェンズ「諦めず粘ることね。あなたなら彼を元通りにできる」
  北、照れ臭そうに顔をしかめる。
シェンズ「前方500m先。不審なバイクが猛スピードで接近中」
  前方を見つめる北。
  男が乗る黒いバイクがこちらに急接近しているのが見える。
北「あれか」
シェンズ「こっちに真っ直ぐ突き進んでくるわ」
北「COBで止めるぞ」
シェンズ「あのスピードで使えば危険。転倒してバイクの運転手が命を落とす可能性76%」
  北、ブレーキをおもいきり踏み込む。

○ 急ブレーキで立ち止まるB―COA
  突進してくるバイク。
  バイクは、B―COAのボディに乗り上がる。
  ボンネットに乗り上がり、ルーフを勢い良く駆け上がる。滑り降りて路面に着地し、そのまま走り去って行く。

○ B―COA車内
  後ろに振り向き、走る去るバイクを見つめる北。
北「なんだあいつ」
シェンズ「追跡する?」
北「いやいい。早く本部に戻らないと」
  北、車を発進させる。

○ 山頂付近・旧地震研究所内
  部屋の片隅に積まれている材木資材。
  薄暗い部屋の中で対峙する金木 光久(45)と、荒崎 伸也(46)。
荒崎「まだ礼を言ってなかったな」
金木「礼なんて要りません。その代わりあなたにも参加してもらいたい」
荒崎「弱体化したTENAに戻れと言うのか?」
金木「500人以上いたTENAメンバーは、分裂状態でもはや風前の灯。小さな分派を作って対立を深めています。
 だから私はそれに代わる新しい組織を作ったのです」
  サングラスをはずす荒崎。
荒崎「私の力がどれ程のものか、知っているのか?」
金木「JWAの最高責任者を撃ち倒した。それだけでも十分評価できます」
荒崎「あれは、私の力じゃない。それに椎名は、まだ生きている」
金木「JWA内は今バラバラになっています。連携が乱れている今が絶好の狙い目です」
  険しい目つきで金木を見つめる荒崎。
荒崎「秘策はあるのか?」
金木「あなたが興味を引くような面白い実験もすでに始めています」
荒崎「実験?」
金木「それを進めるために、娘を取り戻さないと・・・」
金木の携帯が鳴る。
  携帯に出る金木。
金木「もしもし・・・なんだ君か」

○ セダン車内
  携帯で話している坂崎。
坂崎「百合川莉果と一緒だ」

○ 旧地震研究所内
  唖然とする金木。
金木「ちょうど良かった。じゃあすぐに連れて来てくれませんか」
坂崎の声「荒崎の居所を教えろ」
金木「なるほど。そういうことか」
坂崎の声「教える気がないのなら、娘を殺す」
金木「君を正式に私の組織に迎え入れようとしていたのに。もう少し冷静になったらどうだ」

○ セダン車内
坂崎「あんたの仲間になるほど、まだ落ちぶれちゃあいない。真坂の復讐は俺一人でやる」
金木の声「君はJWA総監襲撃計画の共犯者だ。二上達を逃がしたのも君だ。なんなら全てを副総監に話してもいいんだぞ」
坂崎「30分だけ時間をやる。それまでに返事がない時は・・・。わかったな」
  電話を切る坂崎。
  坂崎、後部席を覗く。
  気絶したまま横たわっている莉果がいる。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  総監デスクの前に立つ北。
北「10人も・・・」
  チェアに座っている浅海。
浅海「そうだ。この4日間で10人もの人間の消息がぴったり消えた」
北「目撃情報は?」
浅海「それが全くない。何の手がかりも掴めない。だからうちに仕事が回ってきた」
  浅海、行方不明者のリストが入ったファイルを北に手渡す。
  ファイルを開く北。
北「小学生1名、中学生2名、高校生2名、会社員2名、主婦1名、老人2名・・・」
浅海「それからもう一つ気になることがある。この事件は、特定機密事案としてマスコミには公表していないのだが、
 一社だけこの件を記事にした新聞社がある」
  浅海、デスクの引き出しから新聞を取り出す。
  「明朝デイリー」4月5日発行分。
  新聞を開き、記事を確認する北。
  社会面。下段の小さめの記事。
  「謎の行方不明者10人に」の見出し。
北「記事にしたのがその一社だけってのが気になりますね」
浅海「その新聞は、アジア嗜好が強く、偏向や捏造が絶えないフラワーゴシップ紙と巷では言われている」
北「確かに他の記事も妄想が激しいですね・・・」
浅海「政府関係者並びにうちの内部の人間、そして隣国の関与も含め、調査をしてほしい。ただし、君は率先して坂崎の行方を捜せ」
北「はい」
  頭を下げ、立ち去ろうとする北。
浅海「ああ、待て」
  立ち止まる北。
浅海「成井を連れて行け。坂崎の代役だ」

○ 同・OP室
  総監室から出てくる北。
  辺りを見回す。エナの姿がない。
  目の前を通り過ぎたオペレート員・篠本唯(28)を呼び止める。
北「波本は?」
唯「さっき出て行きました。おそらくトイレに・・・」
北「さっきB―COAから連絡した時、応答がなかったんだが」
唯「そう言えば、30分前にデータ保管室に入っていくところを見かけました」
  怪訝な表情を浮かべる北。
北「ちょっといいか」
唯「はい・・・」

○ 同・女子トイレ
  右隅のブースの中に入るエナ。
  携帯を取り出し、坂崎の携帯を呼び出す。

○ とある立体駐車場3F
  シートを倒し、横になっている坂崎。
  痛みをこらえている。
  莉果に刺された右腕を押さえている坂崎。
  後部席で眠っていた莉果が目を覚ます。
  莉果、静かに起き上がろうとする。
  その時、坂崎の携帯が鳴り響く。
  起き上がる坂崎。携帯に出る。
  莉果、眠った振りをする。
坂崎「わかったか?」
エナの声「やはりこんなことは良くない」
  ため息をつく坂崎。
坂崎「無駄に時間を引き延ばして、衛星で俺の居場所を探る気だな?」
  坂崎、携帯を切ろうとする。
エナの声「待って。切らないで。そんなことはしていない」
坂崎「だったら早く真坂の情報を教えろ」
エナの声「私達・・・どうなるの?」
坂崎「・・・その話は」
エナの声「落ち着いたら、時間を見つけて母と会ってくれるって言ったわよね?」
坂崎「ああ、そのつもりだ」
エナの声「じゃあ、私の言うことを聞いて」
坂崎「駄目だ。公私混同するなよ」

○ JWA内・女子トイレ
エナ「私のことも少しは考えてよ。こんな無茶なことをしてJWAから追い出されたらどうするつもり?」
坂崎の声「真坂と会った後、本部に戻るってさっき言っただろ。その時事情を説明する」
エナ「北さんと相談してよ。今ならまだ取り返しがつくかもしれない。坂崎君・・・」
  トイレに誰かが入ってくる。
  足音を聞き、寡黙になるエナ。
エナ「(小声で)誰か来た。住所は、メールで送ったわ。約束を守ってね」
  エナ、慌てて電話を切る。
  扉をノックする音。
  エナ、わざとらしく咳払いして、水を流し、扉を開ける。
  目の前に唯が立っている。
エナ「なんだ。篠本さんだったんですか」
  エナ、無理矢理笑顔を浮かべながら、唯の前を通り過ぎろうとする。
唯「波本さん」
立ち止まるエナ。
エナ「なんですか?」
唯「今ここで誰と話してたの?」
エナ「あ・・・いや、聞こえていたんですか」
唯「あなたさっきデータ保管室にいたわよね。あそこで何をしていたの?」
エナ「過去の事件の資料がたまっていたのでデータ化してバックアップを作成していました」
唯「アクセス履歴を調べたの。そのデータベースにアクセスされた記録はなかった」
  動揺するエナ。
唯「仲間同士で変な腹の探り合いはしたくないの。だから、正直に答えて」
  エナ、俯いたまま微動だにしない。
  唯、勝ち誇った表情でエナを見ている。

○ とある立体駐車場3F
  セダン車内。
  メールを確認している坂崎。
  振り返り、後部席を確認する。
  莉果が消えている。
  辺りを見回す坂崎。
  莉果が非常階段の扉を開け、階段を降りていく姿が見える。
  慌てて車から降り、走り出す坂崎。

○ JWA・地下ガレージ
  巨大な円状の鉄板の上に止まるB―COA。運転席に北、助手席に成井満(26)が座っている。
  成井、立腹している。
  北、成井の様子を見つめ、
北「どうした?」
成井「何考えてるんでしょうね、坂崎のやつ」
北「・・・」
成井「手柄を挙げる事に必死になっているんでしょうかね。何かにつけて俺の仕事には文句つけてるくせに。
 あいつのせいでもう無茶苦茶ですよ。もしかしたら金木と・・・」
北「おまえの気持ちはわかるけど、坂崎が金木と通じている証拠はまだ何一つ見つかっていないんだ。
 憶測で仲間を傷つけるようなことは言うな」
  通路から現れる唯。北の前に急いでやってくる。
唯「北さんの推測通りでした。波本は坂崎と連絡を取り合っていました」
北「居場所はわかったか?」
唯「波本が携帯の電波から割り出していました。練馬区東大泉の立体駐車場です」
北「盗難車リストを調べてくれ。この12時間以内に池袋周辺の警察に出された被害届け全てを割り出すんだ」
唯「はい。ああ、それから。坂崎は以前ここで働いていた職員の情報を聞いてきたそうです」
北「誰のだ?」
唯「真坂和久」
  唖然とする北。
唯「真坂という人が金木と荒崎の重要な情報を握っているとそう話したそうですが・・・」
北「坂崎は真坂の情報を手に入れたのか」
唯「波本がメールで送ったそうです」
北「急がないと。波本はどうしてる?」
唯「持ち場に戻っています」
北「この事は副総監には報告するな。いいな」
唯「はい」
北「ありがとう」
唯「いいえ」
  発進するB―COA。

○ ショッピングモール
  様々なショップが立ち並ぶ通りを必死で走っている莉果。
  莉果、前を歩いていた親子に体当たりをする。
  転倒し激しく泣き出す子供。
  ハンドバッグを落とす父親。
  バックの中から手帳やボールペンが飛び出す。
  莉果、素早くボールペンを取り上げるとウインドブレーカーのポケットに入れ、また走り出す。
父親「何やってんだ。謝れよ、こら!」
  莉果、気にせず走り去って行く。
  追いかける坂崎。親子連れのそばを横切る。

○ 同・エスカレーター
  素早く駆け下りていく莉果。
  坂崎も乗り、勢い良く駆け下りている
  
○ 同・地下一階
  人気のない通路。歩いている警備員の男にしがみつく莉果。
莉果「お願い助けて!」
警備員「なんだい君・・・」
  坂崎が警備員の前にやってくる。
  警備員の後ろに隠れ、坂崎を指差す莉果。
莉果「あの人、私を殺そうとしてる」
警備員「なんだって」
坂崎「僕は、政府の要職についている者だ」
  坂崎、バッジと身分証明証を警備員に見せる」
警備員「JWA?」
坂崎「その子は、重要参考人なんだ。身柄を引き渡してくれ」
  怪訝な表情を浮かべる警備員。
警備員「JWAなんて聞いたことがない」
坂崎「無理もない。あまり表沙汰にはされない組織だ。早くその子を渡してくれ」
警備員「一緒に交番に来てもらえますか」
  ため息をつく坂崎。
坂崎「わかった・・・」
  警備員、莉果を連れて歩き出す。
  警備員の背後に寄る坂崎。突然、持っていた銃のグリップ部で警備員の頭を殴りつける。
  逃げようとする莉果。すかさず莉果の手を掴む坂崎。
坂崎「今度こんなマネしたら、本当に殺すぞ」
  坂崎、莉果の腰に銃口を当てている。
  莉果、観念した様子。
  一緒に歩き出す二人。

○ 立体駐車場3F
  赤いセダンの前に戻ってくる坂崎と莉果。
  莉果を後部席に押し込む坂崎。
  遠くからクリーンなエンジン音の響きが聞こえてくる。
  聞き覚えのあるエンジン音を耳にし、辺りを見回す坂崎。
  出入口から姿を現すB―COA。
  赤いセダンに迫っている。
  坂崎、急いで車に乗り込む。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に成井は車から降りている。
北「ハイウェーブサーチの感度を最大限にしろ」
  モニターに立体駐車場のフロアの断面図とサーモグラフィの画面が映っている。
シェンズ「成井さんから連絡です」
  スピーカーから成井の声が聞こえる。
成井の声「ショッピングモールで男に追われていた高校生ぐらいの少女が目撃されています」
北「いつ頃だ?」
成井の声「約10分前。それと地下の通路に警備員が倒れていたそうです」
北「坂崎はまだここにいる。警備員から話を聞けそうか」
成井の声「今から聴取します」
  携帯が切れる。

○ 赤いセダン車内
  身を伏せている坂崎。
  目の前をB―COAが通り過ぎていく。
  携帯を持ち、エナに電話しようとする坂崎。何かに気づき、すぐに電話を切る。
坂崎「あいつ・・・クソッ」

○ B―COA車内
シェンズ「本部から連絡です」
  スピーカーから唯の声が聞こえる。
唯「盗難車リストのサーチが終わりました。この12時間以内に出された被害届けは、6件」
北「車種とナンバーのデータをシェンズのデータベースに送れ」
  読み取り完了の合図のシグナルが鳴る。
シェンズ「読み取り完了しました。今から照合を始めます」
  モニターに車のイメージとナンバーが映し出され、サーチされる。該当した車種とナンバーが画面に表示される。
シェンズ「見つかりました。赤のアクセラ。ナンバーは、足立301 す85―96」
北「何階にいる?」
シェンズ「この階です」

○ 立体駐車場3F
  立ち止まるB―COA。突然勢い良くバックし始める。
  
○ 赤いセダン車内
  B―COAが近づいてくるのに気づき、慌ててエンジンをかける坂崎。
  アクセルを踏み込み、車を急発進させる。

○ B―COA車内
  猛スピードで駐車スペースから出て行く赤いセダンを見つめる北。
北「気づかれた」
シェンズ「北側出口に向かっています」
  北、ブレーキを踏み、素早く前進させる。

○ 立体駐車場
  駐車スペースをぐるっと回り込んで赤いセダンの前に出るB―COA。

○ 赤いセダン車内
  坂崎、意を決してさらにアクセルを踏み込む。

○ B―COA車内
シェンズ「どうやら止まるつもりはないみたい」
北「仕方がない」
  
○ 立体駐車場
  B―COA、そばの駐車スペースに入り込み、道を開ける。
  赤いセダン、そのままB―COAのそばを横切り、出口に向かって走り去る。

○ B―COA車内
シェンズ「いいの?」
北「赤いセダンの位置情報を記録したか?」
シェンズ「ええ」
  北、車をバックさせる。

○ 立体駐車場を出て一般道を走り出す赤いセダン

○ 赤いセダン車内
  バックミラーを見つめる坂崎。
  しばらくしてB―COAが立体駐車場を出てくる。
  目の前の交差点。赤信号になっている。
  坂崎、アクセルを踏み込み、交差点を突っ切る。

○ 交差点
  走行中の一般車やトラックの合間を潜り抜ける赤いセダン。
  信号前で立ち止まるB―COA。
  交差点を越えて走り去ってく赤いセダン。

○ 真坂の自宅・キッチン
  テーブル前。椅子に座り、カップめんを啜っている真坂。
  リビングから聞こえる携帯の着信音。
  真坂、気にせず食べ続けている。

○ 高速高架下の道路を走るB―COA
シェンズの声「応答がありません」

○ B―COA車内
北「いつものことだ。急ぐぞ」

○ B―COAのルーフの収納口からパトランプが出てくる
  パトランプを唸らせ、猛スピードで進むB―COA。

○ 住宅街
  人通りがない静かな通り。
 「山下」の札がついた二世帯住宅の扉の前に立っている白いスーツを着た女・森本美佐(28)が立っている。
  インターホンのボタンを押す女。
  スピーカーから女の声がする。
女の声「はい」
美佐「明朝デイリーの森本です。ちょっとお聞きしたいことがあるんです」
女の声「主人の件でしたらもうお話したはずです」
美佐「ご主人様が会社から横領したお金、いくらかご存知ですか?」
女の声「だから、主人は何もしていません。お金のことは知りません」
美佐「証拠はありますか?」
女の声「ありますけど、それは、今言えません」
美佐「ご主人おられますね」
女の声「いません」
美佐「隠れても無駄ですよ。わかっていますから」
  扉が開く。
  山下房雄(45)が姿を現す。
山下「おい、なんのつもりだ。いい加減にしろ!」
  ニヤリとする美佐。
美佐「あなた、悪い人」
山下「知らないって言ってるだろ。周りの迷惑も考えろよ!」
  美佐、ショルダーバックから、変わった形の銃をソッと取り出し、山下に銃口を向ける。
山下「おい、よせ。何してるんだ!」
  引き金を引く美佐。
  奇妙な発射音が轟く。
  蒸発したかのように跡形もなく山下の姿が消える。
  その様子を見ていた妻の山下里子(43)、驚愕し、パニックに陥っている。
里子「主人は?何をしたの?」
  美佐、里子にも銃を撃つ。
  瞬く間に消える里子。
  家の近くに止まっているコンテナつきの白いトラックのエンジンがかかる。
  銃をバックにしまい、道路を歩き出す美佐。
  美佐のそばを横切り走り去って行く白いトラック。
  山下家の真向かいにある公園のブランコに座っている茂。
  歩いている美佐をジッと見ている。
  立ち止まる美佐。突然、茂と目を合わし、不気味に笑みを浮かべる。

○ 真坂のアパート前
  立ち止まる赤いセダン。

○ 赤いセダン車内
  坂崎、莉果を後ろ手にして手錠をかけ、両足首と口にガムテープをしている。
  莉果、坂崎を睨みつけている。
坂崎「終わったら、親父のところに返してやるから」
  声をあげ、首を横に振っている莉果。
坂崎「おとなしくしてろよ」
  車から降りる坂崎。

○ 真坂のアパート
  ゆっくり階段をのぼる坂崎。
  真坂の部屋の扉の前に近づく。
  坂崎、制服の上着の中に隠していた銃を取り出し、サイレンサーを装着する。

○ 住宅街
  細い道路を走るB―COA。

○ B―COA車内
  真坂の携帯を呼び出してる信号音。
  しかし、電話はつながらない。
北「坂崎が真坂の自宅に到着してからどれぐらい経った?」
シェンズ「1分40秒です」
  苦い顔をする北。
シェンズ「ハイウェーブサーチが異常をとらえた。100m先の公園で子供が逃げ回っているわ。助けないと」
北「こんな時に・・・」
  公園の前で立ち止まるB―COA。
  公園を見渡す北。
  滑り台の前で茂を追う美佐。
北「茂くん・・・」
  北、慌てて車から降りる。

○ 公園
  北、銃を抜き、美佐に向ける。
北「子供から離れろ」
  美佐、北を見ると、すかさず茂を楯にし、
  茂の頭に銃口を突きたてる。
美佐「銃を足元に置いて。一歩でも動いたら撃つから」
  立ち止まる北。足元に銃を置く。

○ 真坂の自宅
  玄関の扉を開ける坂崎。
  静かに廊下を歩いていく。
  キッチンを覗く坂崎。
  誰もいない。
  リビングを覗き込む。
  誰もいない。
  リビングを進んで、隣の洋間の扉を開ける。
  誰もいない。
  銃を降ろす坂崎。
  その銃を素早く奪い取り、坂崎の脇腹に銃口を当てる真坂。
  唖然とする坂崎。
真坂「真っ先にトイレを調べないなんて。ヌケてんな」

○ 公園
  美佐、引き金を指に当てている。
  北、銃をまじまじと見つめ、
北「変わった銃だな。君が作ったのか?」
美佐「さあね」
北「その子は知り合いの子なんだ。小学生になったばかりだ。君には子供はいないのか?」
  一瞬動揺した表情を浮かべる美佐。
北「いるんだな。ならわかるだろ。子供の命を奪うことがどんなに哀しいことか」
美佐「いずれは、みんな消えるのよ」
  美佐、茂を突き倒し、北に銃を向けて撃つ。
  転がる北。落ちていた銃を拾って美佐のいる方向に銃口を向ける。
  美佐の姿が消えている。
  立ち上がり、茂を起こす北。
北「大丈夫か」
茂「平気農場」
北「何があったんだ?」
茂「人が消えたの。幽霊みたいに」
北「えっ?」

○ 真坂の自宅
坂崎「俺が来ること知ってたのか?」
真坂「しらねえよ。さっきから携帯がうるさくて気にはなっていたが、出なかった。ちゃんと出とくんだったな」
坂崎「殺してください。早く」
真坂「ここで殺してもいいけど、部屋がおまえの血で汚れるのは嫌だし。あのことで俺を殺しに来たのか?」
坂崎「覚えていたんですか」
真坂「一年半前、俺がおまえの親父さんを殴って、それが原因で親父さんが死んだって言ってたよな」
坂崎「親父は、その後遺症で半年後に亡くなった。親父は警察官だった。持病を抱えながら男手一つで俺を育ててくれた。
 おまえがTENAと勘違いして、追い掛け回したせいで親父は・・・」
真坂「親父さんの名前は?」
坂崎「倉馬裕樹。俺の育ての親だ」
  愕然とする真坂。
真坂「あれは確か新型衛星システムの開発データの取引現場をマークしていた日だ。俺達が現場に踏み込んだ時、
 倉馬は別の部屋から出てきて俺から逃げようとした。俺は咄嗟に奴を捕まえようとしたが、
 倉馬は、つまづいて、目の前にあった鉄骨に頭をぶつけた」
坂崎「嘘だ。おまえが殴り殺したんだ」
真坂「その話誰から聞いた?もしかして金木か?」
坂崎「・・・」
真坂「俺は、手を出していない。倉馬は、TENAのメンバーだったんだぞ」
坂崎「違う。親父は・・・TENAに利用されていただけだ」
真坂「証拠はあるのか?」
坂崎「俺は・・・親父を信じている」
  坂崎、咄嗟に走り出し、窓から飛び降りる。
  窓下を覗く真坂。
  停車していた車の屋根をクッションにして道路に着地し、走り去って行く坂崎の姿が見える。
  険しい顔つきの真坂。
  扉が開く音がする。
  すかさず銃を向ける真坂。
  扉口で銃を構えている北。
真坂「なんだ。おまえか」
  銃を降ろす真坂。
  銃を降ろし真坂の前にやってくる北。
北「坂崎は?」
真坂「さっき(窓を指差し)そこからお帰りになられたけど」
北「ずっと連絡してたんだぞ。何で電話に出なかった」
真坂「俺がおまえの電話に出ると思うか?」
北「思わない。でもちゃんと出ろ」
  真坂のそばにやってくる茂。
  茂の服が汚れているのに気づく。
真坂「なんかあったのか?」
北「公園で女に襲われてた。おまえの家に向かう途中で偶然現場を目撃したんだ。怪我はない」
茂「ぼく平気農場」
北「気になるのは、女が持っていた銃だ。今まで見たことがないタイプのものだった」
真坂「TENAのメンバーが俺を標的に?」
北「それも含めて今調べているところだ」
真坂「坂崎の異常行動はどうやら俺に原因があるみたいだ」
北「あいつと話したのか?」
真坂「ああ。俺があいつの親父を殺した」
北「坂崎の親父さんは病気で死んだって本人から聞いたけど」
真坂「おそらく坂崎は、金木に操られてる。エアチェイスの輸送の時、あいつ俺に嘘をつきやがった。
 金木にJWAの情報をリークしているかもしれん」
北「まさか・・・」
真坂「俺も金木に買収されかけたんだ」
  不安げな表情を浮かべながら立ち去る。
真坂「おい」
  振り返る北。
真坂「茂を助けてくれたお礼だ。お供するよ」
  頷く北。

○ 国道
  三車線の交通量の多い道路を走る赤いセダン。
  道路脇に停車する。

○ 赤いセダン車内
  携帯が鳴っている。
  ハンドブレーキを引き、携帯に出る坂崎。
  荒崎の声が聞こえる。
荒崎の声「椎名は元気か?」
  怒りの表情を浮かべる坂崎。
坂崎「総監が死んだら、おまえも殺す」
荒崎の声「いつから復讐鬼になったんだ」
坂崎「おまえを収監室へ戻すつもりはない。俺がじわじわと八つ裂きにしてやる」
荒崎の声「そう。楽しみにしているよ」
  金木と代わる。
金木の声「娘を連れてきてもらえますか」
坂崎「場所は?」

○ 市道
  ビル街に囲まれた通りを走り抜けるB―COA。

○ B―COA車内
 ハンドルを握る北。助手席に真坂。後部  席に茂が乗っている。
  モニターに地図のイメージが表示されている。坂崎の車の位置を示す赤い点滅が映っている。
真坂「金木と接触する気だな」
北「あいつが一人でここまでやるとはな。まるで昔のおまえを見ているようだ」
真坂「おまえのパートナーは、クレイジーなやつばかりだな」
北「自分で言うかね」
真坂「俺はレイジー」
シェンズ「やっと復活したのね」
真坂「一日限りだよ」
シェンズ「あなたのことを心配していたのよ北さん」
北「余計なこと言うな」
  茂、モニターに映るポニーテールの少女のCGを指差し、
茂「この人が喋ってるの?」
北「そうだ。まだ紹介してなかったな。この車のメインシステム、シェンズだ」
シェンズ「はじめまして、茂君」
  茂、不思議そうな顔をしている。
真坂「最近の車は普通に喋るんだぜ」
茂「びっくり農場」
シェンズ「どこの農場ですって?」
真坂「今こいつの中だけで流行ってる言葉なんだ。記憶しないでいいぞ」
シェンズ「成井さんから連絡です」
  成井の声が聞こえる。
成井の声「例の件ですが、北さんが助けた子供の証言通り、夫婦が行方不明になっています。消えたのは、山下房雄・里子。
 二人は、今朝まで一緒にいたのを一人息子の忠良くんが確認しています」
真坂「俺の息子が嘘つくわけねえだろ」
成井の声「誰ですか?今の声」
北「気にするな。女のほうは?」
成井の声「ここ2、3日決まった時間に山下家を訪れていた女がいたそうです。近所の人の話だと、どこかの新聞記者ではないかと」
北「どこの新聞社だ?」
成井の声「明朝デイリー。山下房雄は、元銀行員で、5000万円の横領疑惑がかけられています。
 女はその取材に来ていた可能性がありますね」
北「明朝デイリーは、例の失踪事件を記事にした新聞社だったな。公園付近の監視カメラの映像のほうはどうだ」
成井の声「確認しましたが、数秒だけ、付近の道を歩いている姿をとらえたものがありました。今から映像を送ります」
北「引き続き頼む」
成井の声「はい」
  通信が消える。
真坂「なんだ?例の失踪事件て」
北「今調査中のものさ。詳しいことは後で教える」

○ 山頂付近・旧地震研究所前
  古びた白い建物が残っている。
  広々とした敷地の中に進入してくる赤いセダン。
  立ち止まる車。
  運転席から降りる坂崎。前方を見つめる。
  しばらくして、黒いワンボックスカーが敷地に入ってくる。
  運転席から降りてくる金木。
金木「娘はどこだ?」
坂崎「荒崎は?」
金木「この車の中にいる」
坂崎「おまえの娘もだ。外に出せ」
金木「娘も一緒だ」
  それぞれ荒崎、莉果を車から降ろす。
  荒崎を睨みつける坂崎。
  莉果を懐かしそうに見つめている金木。
坂崎「二人同時に歩かせる。いいな」
金木「どうぞ」
  歩き出す荒崎と莉果。一歩ずつゆっくり進む。途中ですれ違う二人。
  坂崎、左腕の袖口に銃を隠し持っている。
  金木も革ジャンのポケットの中に短銃を隠し持つ。
  坂崎に近づく荒崎。金木の前にやってくる莉果。
  荒崎、突然、しゃがみこみ、ズボンの裾の中に隠していたリボルバーを取り出し、坂崎を撃つ。
  左肩を撃たれる坂崎。車の後ろに身を隠し、銃を発砲する。
  莉果、踵を返して逃げようとする。金木、莉果を取り押さえる。
  荒崎、銃を撃ちながら、金木がいるほうへゆっくりと戻る。
  応戦する坂崎。肩の痛みで狙いが定まらず、息が荒い。
  ワンボックスカーの後部左サイドにセッティングされている二連装タイプのFIM92スティンガーミサイルが発射される。
  急いで車から離れる坂崎。
  ミサイルは、赤いセダンに命中。巨大な爆炎を上げ、粉々になる。

○ B―COA車内
  モニターの地図のイメージ。坂崎の車の位置を示す赤い点滅が消える。
北「消えたぞ?」
シェンズ「GPS信号が途絶えた。車に何らかの異常があったと思われます」
神妙な面持ちの真坂。
  北、さらにアクセルを踏み込む。

○ 川沿いの道
  カーブが続く道を猛スピードで走り抜けていくB―COA。

○ 山頂付近・旧地震研究所前
  坂崎、土面を転がりながら、銃を撃ち続ける。
  ワンボックスカーのボディに弾丸が当たっている。
  金木、莉果を力づくで助手席に乗せる。後部席に乗り込む荒崎。
  金木、運転席に乗り込むと、すかさず車を発進させる。
  跪いている坂崎に向かって突進するワンボックスカー。
  坂崎、車の運転席に向かって銃を撃ち続ける。
  しかし、車のフロントガラスは防弾になっており、次々に弾丸を跳ね返している。
  坂崎、慌てて立ち上がり、横っ飛びで走ってきた車を避ける。
  走り去るワンボックスカー。
  二連装タイプのスティンガーミサイルの砲台が回転する。
  坂崎のいる方向に発射されるミサイル。
  坂崎の目前で弾丸は爆発。
  爆風で吹き飛ばされる坂崎。

○ 山道
  密生する杉林の間を通る緩やかな坂道を下りているワンボックスカー。

○ ワンボックスカー車内
  寡黙に俯いている莉果。
  金木、莉果の様子を見つめる。
金木「一緒に車に乗るの何年ぶりかな」
莉果「父親面しないで」
金木「おまえとママには毎月300万の金を払っているし、何不自由ない生活を与えてきたつもりだ」
莉果「なら今まで通りお金だけ送ってくれたらいい。私と会おうなんて思わないで」
  金木、莉果の左の太腿をちらちら見ている。
金木「太腿の傷、綺麗に治ったな」
莉果「小6の時よあの傷できたの。今頃何言ってんの?」
金木「バスケをやってる時に転んだって言ってたな」
莉果「知らないうちにできてたのよ。なんであんな大きな傷・・・」
  途中で口を閉ざす莉果。何かに気づいた様子。
  少し落ち着かない金木。
荒崎「久しぶりの親子の会話に水を差して悪いが、死体を確認しなくていいのか?」
金木「大丈夫ですよ。予備策は打ってあります」
シートに深くもたれる荒崎。スーツのポケットからタバコを取り出し、火をつける。
莉果「ここで吸うのやめてくれる?私その匂い嫌いなの」
  呆気に取られる荒崎。
荒崎「それは失礼」
  荒崎、指で火を消し、タバコをしまう。
  ムスッとしている金木。

○ 山頂付近・旧地震研究所前
  急ブレーキで立ち止まるB―COA。
  車から降りる北と真坂。
  黒い煙を上げ燃えている赤いセダンを見つめる。
真坂「ひでぇな。まるで戦場じゃねえかよ」
  B―COAからシェンズの声が聞こえる。
シェンズの声「ハイウェーブサーチで焼けた車の残骸を調べた。ミサイルの部品の一部を発見したわ」
北「ミサイルの種類は?」
シェンズの声「FIM92スティンガー」
真坂「地対空ミサイルかよ。車に向かってそんなもん撃ちやがって」
北「坂崎・・・」
  辺りを見回す北。
  足元に血だまりがあるのを見つける。
  血だまりは近くの林のほうまで続いている。
北「向こうの林の中に逃げ込んだに違いない」
真坂「この量だとかなり傷を負ってるな」
北「おまえは、B―COAで金木の行方を追ってくれ」
真坂「おう」
  車に戻る真坂。血だまりを追って歩き出す北。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレートシステムの座席に座っているエナ。
  キーボードを打ち、データベースのチェックをしている。
  エナのそばに近づいてくる唯。
唯「波本さん。これ」
  唯、エナの携帯をエナに手渡す。
唯「携帯の中身、全部チェックさせてもらったわ」
エナ「他に何も見つからなかったでしょ」
  エナを疑いの眼差しで見ている唯。
唯「あなた達、やっぱりできてたのね」
  唖然とするエナ。
エナ「ただの同僚です。そんな仲じゃありません」
唯「通話履歴は全て消されていたけど、メールのほうは、一つだけ残っていたわ。あなたと坂崎君の関係を示す決定的な証拠が」
エナ「JWAでは、組織内の恋愛は禁止事項になってる。ばれたら、私達ここにいられなくなる」
唯「副総監には黙っておいてあげる。ただし、条件があるの」
  唾を飲み込むエナ。
唯「これ以上ここで出しゃばらないで。あなたは、一線から尻退くの」
エナ「どういうこと?」
唯「あなたのポジション。私に譲って」
エナ「・・・どうやって?」
唯「あなたが自ら副総監に相談するのよ。理由は自分で考えて。そして私をプッシュして」
  複雑気に顔を歪ませるエナ。
  エナの携帯が鳴り響く。
  番号を確認するエナ。非通知になっている。
唯「彼氏からかもよ」
  ニヤリとする唯。
エナ「わかったわ。そのこと絶対に喋らないでよ」
唯「大丈夫。口は堅いほうだから」
  エナ、立ち上がり、部屋から出て行く。
  軽蔑したような目でエナの背中を見つめる唯。

○ 同・通路
  人気のない場所まで歩くエナ。携帯に出るエナ。
エナ「もしもし」
  男の激しい息遣いが聞こえる。
エナ「坂崎君?」
坂崎の声「助けてくれ・・・」
エナ「どこにいるの?」
坂崎の声「高井山の麓・・・405号線沿いの林の中だ・・・」
エナ「わかった。急いで行くからジッとしてて」
坂崎の声「ちゃんと抜け出せそうか?」
エナ「大丈夫よ。任せて」
  電話を切るエナ。
  歩き出すと、目の前に唯が立っている。
  驚愕するエナ。
唯「誰からだった?」
エナ「母からよ。今ニューヨークに行ってるの」
  エナ、一瞬うっとうしいそうな顔を浮かべ、唯のそばから離れていく。
  後を追う唯。
唯「坂崎からでしょ?」
  動揺を隠すエナ。
エナ「違います」
唯「とぼけても無駄よ。顔に出てるわ」
  立ち止まり、唯を睨むエナ。
エナ「あなたってそういう人だったのね。物分りの良い頼もしい先輩のフリをしてたの?」
唯「本当にそう思ってた?私より後から入ってきて、ずっと出世コースを歩んでいるあなたが?」
エナ「さっきの条件は飲むわ。だからもうほっといて」
  早足で立ち去っていくエナ。
  唯、悔しげな表情を浮かべている。

○ 山道
  曲線の続く坂道を走り抜けているB―COA。
真坂の声「半径3キロ以内で不審な車が走ってないかチェックしろ」

○ B―COA車内
シェンズ「今衛星回線とリンクした。空撮映像を呼び出しています」
  バックミラーを見つめる真坂。
  後部席にいる茂。横になり眠っている。
真坂「葉菜美に預けとけば良かった」
シェンズ「そっくりね、あなたと」
真坂「俺には似て欲しくないんだよな」
シェンズ「どうして?」
真坂「俺に言わせる気か?」
シェンズ「あなたは国民をテロの脅威から守った人。そしてまた戦っている。私が茂くんにそう教えてあげるわ」
真坂「そういうの苦手だからやめてくれ」
  シグナル音が鳴る。
シェンズ「スキャンが完了した」
  モニターに高井山の空撮画像が出力される。
  ズームアップし、山道を走る黒いワンボックスのカーのルーフが映し出される。
  画面が赤外線画面に切り替わる。
  車内の熱分布が表示される。
シェンズ「ここから北北西2.3km付近を走行する黒いワンボックスカーに3人が乗っている」
  モニターを見つめる真坂。
真坂「車種は割り出せそうか?」
シェンズ「映像の鮮明度が不足しているからそれは無理。でも、車の後部左サイドを見て」
真坂「何か四角いものが見えるな。熱量が高いぞ」
シェンズ「過去の赤外線イメージのデータと照合した。二連装タイプのミサイル砲のものとよく似ているわ」
真坂「こいつだ」
  アクセルを踏み込む真坂。

○ 杉林の中
  血だまりを追って歩いている北。
  さらに植林の奥へ進んでいく。
  前方で物音がする。
  北、そばの杉の木陰に隠れる。
  銃を持ち、辺りを確認する。
  奇妙な発射音が轟く。
  走り出し、前へ進む北。
  そしてまた木陰に身を隠す。
北「坂崎か?」
  草むらをかきわけ走っているような音が聞こえる。
北「俺だ。余計な抵抗はするな。大人しく投降するんだ」
  ボイスチェンジゃーで変えられた男の声が聞こえる。
男の声「投降するのはおまえのほうだ。坂崎を助けたかったらな」
北「何者だ?」
男の声「早く銃を捨てろ。撃つぞ」
  北、銃を遠くに捨て、両腕を上げながら、歩き出す。

○ 男の視点
  木陰から出てくる北。
男「よし止まれ」
  立ち止まる北。
北「坂崎はどこだ?」
男「ここにはいない。だが、心配するな。やつはまだ生きている」
北「あいつをどうするつもりだ?」
男「教えても意味がない」
北「どうして?」
男「おまえはもうすぐ消えるからだ」

○ 杉林の中
  木陰に隠れていた男が姿をあらわす。
  男は、小倉(こくら)鋭二郎(35)。肩まで髪を伸ばし、無精ひげを生やす。迷彩服を着ている。
  北に銃を向ける小倉。
  北、小倉が持っている銃を見て、唖然とする。美佐が持っていた銃と同じだと気づく。
北「それは?」
小倉「ネキシード。一瞬で人間の肉体を消してしまう銃だ」
北「明朝デイリーの女記者もそれと同じ銃を持っていた。もしかして、行方不明になっている12人も・・・」
小倉「全員跡形もなく消してやったよ」
北「人間を燃料に変えるガスの次は、人間を完全に消し去る銃・・・色々考えてくるな」
小倉「マリンR計画は試作段階でおまえらに潰されたが、俺は同じ失敗はしない」
北「銃を開発したのはおまえか?」
小倉「自衛隊は私の才能を理解しなかった。だが、CRHは違う」
北「CRH?」
小倉「そろそろいいか?」
覚悟を決める北。
小倉「じゃあ」
  銃を撃つ男。奇妙な発射音が轟く。
  蒸発するように一瞬で消えてしまう北。
  銃を下ろす小倉。
  薄気味悪い笑みを浮かべる。
  そばに止めていた黒いバイクに跨る小倉。
  ヘルメットを被る。
  エンジンをかけ、走り去って行くバイク。

○ ワンボックスカー車内
  金木の携帯。着信音が鳴る。
  携帯を出す金木。メールを確認する。
  メールには、「13」の数字だけが打たれている。
  金木、革ジャンのポケットに携帯をしまう。
  バックミラーを見つめる金木。
  後ろにB―COAがぴったりついて走っている。
金木「追っ手が来たようだ」
  振り返り、後ろを見る莉果。
  荒崎、気にせず目を瞑っている。

○ B―COA車内
真坂「カメラスタンバイ。前に出るぞ」
シェンズ「了解」
  アクセルを踏み込む真坂。

○ 山道
  対向車線に出て、ワンボックスカーと並んで走る真坂。
  ワンボックスカーを追い越し、前に出る。

○ B―COA車内
  モニターにワンボックスカーの車内の様子が映っている。
真坂「間違いない。金木が運転している。助手席にいるのは莉果だ」
  突然、車内が激しく揺れる。
  目を覚ます茂。
真坂「なんだ今のは?」
シェンズ「金木が車をぶつけている。今のところボディやシステムに問題はないわ」

○ B―COAの後部に何度も体当たりしているワンボックスカー
  B―COAのボディに損傷はない。ワンボックスカーの前部がボコボコに凹んでいる。

○ ワンボックスカー車内
荒崎「無駄なことはよせ。こっちが痛い目に遭うぞ」
金木「なるほど、噂通りの車だ」
  金木、ハンドルの左下にあるミサイルの発射ボタンを押そうとする。
  莉果、咄嗟に、ウインドブレーカーのポケットからボールペンを出し、金木の左腿におもいきり突き刺す。
  たまらず叫び声を上げる金木。

○ 山道
  ワンボックスカーが蛇行し始める。

○ B―COA車内
  モニターを見つめている真坂。
茂「どうしたの?」
真坂「様子がおかしいぞ」
シェンズ「何かあったようね」
真坂「このままおまえのボディを使って車を止めるぞ」
  ブレーキを踏み込む真坂。

○ B―COAの後部とワンボックスカーの前部が激しく接触する

○ ワンボックスカー車内
  金木、痛みをこらえながら運転を続けている。
  莉果、ドアを開ける。
金木「やめろ莉果、死ぬぞ」
  車から飛び降りる莉果。

○ 山道
  山肌の急斜面を転がり落ちる莉果。

○ B―COA車内
  モニターを見つめる茂。
茂「誰か落ちたよ」
真坂「莉果だ」

○ 山道
  Uターンし、逆方向へ走り始めるワンボックスカー。
  B―COAも華麗にスピンターンしてワンボックスカーの後を追う。

○ B―COA車内
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスにスクリーンが投影される。方眼軸が浮かび上がり、
  前方を走るワンボックスカーを捕捉する十字の点滅が表示される。
  真坂、ハンドルの『COB』ボタンを押す。

○ B―COAの前バンパー両側の窪みからオレンジ色のボールが2つ同時に発射される。
  ボールは、ワンボックスカーの両側の後輪に当たり、ガム状にへばり着く。
  暫くして、小さな爆発が起こり、タイヤがパンクする。

○ 山道
  ワンボックスカーは、そのまま横倒しになり、暫く路面を滑った後立ち止まる。
  ワンボックスカーの前に止まるB―COA。
  車から降りる真坂。
  銃を構えながらワンボックスカーに近づく。
  ワンボックスカーの後部のスライドドアが開き、荒崎が顔を出す。
真坂「荒崎!」
  真坂を見つめ、ほくそ笑む荒崎。
荒崎「腐れ縁だな真坂!」
  荒崎、右肩にバズーカーを担ぐ。
  真坂、慌てて横っ飛びをし、道下の斜面を転がる。
  バズーカー発射。
  弾は、B―COAに命中し、巨大な爆炎を上げる。
  山肌の急斜面を転がり落ちていく真坂。
  B―COAのボディが炎に包まれている。
  助手席の扉を開け、外に出る金木。
  荒崎、金木に肩を貸す。
金木「大きな借りができましたね」
荒崎「これでチャラだ」
金木「莉果・・・」
荒崎「娘は諦めろ。今は逃げるのが先決だ」
金木「実は・・・私の娘ではないんだ」
  唖然とする荒崎。
  金木、携帯を出し、ある所に電話をかける。
金木「金木です。トラブルがありましてもう少し時間が・・・申し訳ございません。はい。必ず見つけ出して送り届けます」

○ 山の麓・国道
  白いステーションワゴンが走っている。
  道沿いの杉林から姿を現す坂崎。
  坂崎、道に倒れ込む。
  坂崎の前に立ち止まるステーションワゴン。
  運転席からエナが降りてくる。
エナ「坂崎君!」
  坂崎を立ち上がらせ、車の助手席に乗せるエナ。

○ ステーションワゴン車内
  運転席に乗り込むエナ。
  坂崎の顔の傷や火傷を見つめ、
エナ「酷い・・・早く治療しないと・・・」
坂崎「JWAには戻るな」
エナ「駄目よ。帰って精密検査を受けないと」
坂崎「君が手当てしてくれ」
エナ「無理よ」
坂崎「訓練学校で習ったことをそのままやればいいだけだ」
エナ「肩も撃たれてるのよ」
坂崎「できる。君なら・・・」
  エナ、困惑しながらも意を決した様子。

○ 国道
  走り去って行くステーションワゴン。

○ 高井山上空を飛ぶ黒いヘリ
  道沿いで待ち構えている金木と荒崎。
  ゆっくりと高度を下げ、二人の前に着陸するヘリ。
  金木、荒崎の肩を借りてゆっくりと歩き出す。
  ヘリの後部席に乗り込む二人。
  ゆっくり浮き上がるヘリ。
  高度を上げながら飛び去って行く。

○ 山の麓・杉林の中
  鬱蒼とした茂みの中にうつ伏せで倒れている莉果。
  数十メートル離れた茂みに真坂が仰向けで倒れている。
  意識を取り戻す真坂。
  起き上がり、辺りを見回す。
  莉果を見つける真坂。
真坂「そうだ・・・茂が・・・」
  真坂、立ち上がろうとするが、右足首に痛みを感じ動けない。
  ジャンバーのポケットから携帯を出す。
  液晶画面が割れている。ボタンを押すが電源が入らない。
真坂「クソッ」
  携帯を投げ捨てる真坂。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  デスクの椅子に座っている浅海。
  OP室と連絡を取っている。
浅海「北と連絡が取れない?」
唯の声「はい。一時間前から。B―COAのほうも回線がつながらなくなっています」
  険しい表情を浮かべる浅海。
浅海「B―COAの現在位置はわかるのか?」
唯の声「一時間前のGPSデータの記録は残っています」
浅海「そこに捜索隊を送れ」
唯の声「わかりました」
  受話器を置く浅海。深いため息をつく。
浅海「どうなってんだ。どいつもこいつも・・・」
  
○ 同・OP室
  オペレートシステムの座席に座っている唯。
  空いているエナの座席を冷たい眼差しで見つめている。

○ 山道
  炎の勢いがなくなり、黒焦げになったB―COAのボディが露になる。
  暫くして、エンジンが始動する。
  突然走り出すB―COA。
  勢い良く坂を下っていく。

○ 杉林の中
  真坂、右足の痛みを堪えながら、莉果のそばに近づく。
真坂「おい」
  莉果の顔を叩く真坂。
  目を覚ます莉果。
莉果「あんたがなんでここに?」
真坂「運が良かったな。俺がいなかったら今頃猪の餌になってたかもよ。車の中で何があった?」
莉果「あいつを殺そうと思った。でも、できなかった。だからあいつの太腿にボールペンブッ刺してやったの」
真坂「見かけによらずえぐいことするなあ。あれでも金木はおまえの・・・」
莉果「違う。あいつは私の父親じゃない」
真坂「・・・おまえ、何か隠してるな?」
突然、泣き出す莉果。
莉果「もう遅い。何もかも遅いのよ・・・」
真坂「・・・遅いって?」
莉果「計画はもう始まってる。誰にも止められない・・・」
  困惑する真坂。

                                                      ―つづく―

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