SUBTITLE 『MILLOR KNIGHT』 作 ガース「ガースのお部屋」
−ACT1−
○ 暗闇の州道を疾走するコンテナつきの黒いトレーラー(深夜)
ヘッドライトの光線が長く路面に伸びている。
コンテナの扉がゆっくりと開き、一台の黒いスポーツカーが中から現われる。
バックで路面に降りると、180度ターンして、トレーラーと逆の方向へ走り出す。
○ 郊外の州道を疾走する黒のリンカーン
○ リンカーン車内
ドアミラーに反射する光がドライバーの目に当たる。
ドライバーの若い男、ドアミラーを見つめる。ヘッドライトが映り、強い光で、
車そのものの姿は、見えない。
○ 暗闇を走る黒いカマロ
車の前バンパー下から砲身が伸び、スポンと抜けた音と同時に、弾頭が発射される。
弾頭は、一瞬でリンカーンのリアガラスを突き破る。
○ リンカーン車内
後部座席に落ちた弾頭から白い煙が吹き出る。
ドライバーの男、片手で首を押さえながら、呻き声を上げ、苦しみ始める。
○ 走行するリンカーン
対向車線から近づいてきたワゴンと衝突する。リンカーン、ワゴン共々大爆発を
起こし、炎が夜空を覆う。
黒いカマロRSが立ち止まり、車から男が降りてくる。
黒いジャンパー、黒いズボンを着た男。
男は、マイケルである。無気味に笑みを浮かべるマイケル。
黒いスポーツカーの助手席に座る初老の男・ニック・モアール。目の前の出来事
に驚愕し、顔を背けている。
○ 大学研究所主催パーティ会場(翌晩)
カジュアルな装飾に包まれた室内。数百人程の人々が各テーブルを囲み、賑やか
に談笑している。
あるテーブルの前にそびえ立つきらびやかなドレスを着たボニーが太く髭を伸ば
した白髪の紳士と談笑している。
ボニーの後ろを黒いタキシードを着た長身の男が近づいてくる。男は、面長で黒
ぶちの眼鏡をかけている。
男、ボニーの肩をポンと叩く。
ハッと男のほうに振り向くボニー。
ボニー「ハリーじゃない」
男の名は、ハリー・ジェイソン。
ハリー「いやぁ、ボニー」
ボニー「三年ぶりじゃない?しばらく音信不通だったけど、どうしてたの?」
ハリー「実は、暫くの間オーストラリアのほうで暮らしてたんだ。今年こそは、出席し
ようと思って」
ボニー「娘さん元気?」
ハリー「ああ」
ボニー「いくつになったの?」
ハリー「今年で十になったよ」
ボニー「もうそんなに?私達も年を取ったわね」
笑みを浮かべる二人。
ハリー「マイクロコンピュータ分野で学生一のエキスパートだった頃の君が懐かしいよ」
ボニー「あら、今でもまだ現役なのよ。あなたのほうの研究は進んでるの?」
ハリー「今大学のほうに戻ってるんだ。来年には、バイオチップの研究に関する論文を
発表できそうだ」
ボニー「それは、楽しみね。私も聞きたいわ」
ハリー「じゃあ、また大学生に戻って、僕の講義をとってくれよ」
二人、同時に笑い声を上げる。
ハリー「ところで、君のほうは、どうなんだい?前にスペシャルカーの開発に携わった
とか聞いたけど・・・」
ボニー「ええ。あれは、私の最高傑作よ。ただドライバーが荒っぽい人だからメンテナ
ンスに苦労してるけど・・・」
微笑む、ボニー。
○ 海岸通り(翌朝)
疾走するオープンカースタイルのナイト2000。
マイケルのくしゃみが聞こえる。
○ ナイト2000車内
運転席に座るマイケル。またくしゃみをする。鼻を人差指で押さえつけている。
キット「風邪ですか?マイケル」
マイケル「サンタモニカの潮風が鼻に染みただけさ」
キット「日本では、くしゃみを一回すると良い噂、二回すると悪い噂、三回続けてする
と、風邪だと言う習わしがあるそうです」
マイケル「誰かが俺の悪口を言ってるのか?」
キット「しかしそれは科学的根拠がありません。確実とまでは・・・」
マイケル「でも、ここはアメリカだぜ」
アラームが鳴り、モニターにデボンが映る。
マイケル「せっかくの休日気分に茶々入れないでくれよ、デボン。まさか、仕事の話じゃ
ないだろうな?」
デボン「実は、来週行なうナイト記念表彰式の会場の準備に人手が足りなくてな・・・」
マイケル「今年もやるのか?あの式典の前はろくなことがないんだ」
デボン「冗談だよ。で、サンタモニカには、もう着いたのか」
マイケル「もうすぐだ。たまには、相棒にも骨休みさせてやらないとな」
デボン「彼は、あくまで君の監視役だよ。まぁ、のんびりくつろいでこい」
マイケル「ああ、言われなくとも思い存分楽しむさ」
○ ホテル・ベッドルーム
ベッドの上で眠るボニー。ハッと起き上がり、頭を抱えている。
暫くして、入口の扉が開き、ハリーが部屋に入ってくる。
ハリー、ボニーに近寄り、水の入ったコップと酔い覚ましの薬を差し出す。
ハリー「大丈夫かい?ボニー」
ボニー「やだ私、一晩ここで眠り続けたの?」
ハリー「昔話で盛り上がっていたら酒が弾んじゃって。君があんなに飲むなんて思わな
かったよ」
ボニー、朦朧とした状態で薬とコップを掴み、考え込んでいる。
ボニー「変ね・・・私。お酒そんなに強くないのに・・・」
ハリー「それを飲んでもうしばらく休んでから帰ったほうがいいよ」
ボニー「ありがとう」
ボニー、薬を飲み、水を一気に飲み干す。
その様子を食い入るような眼差しで見つめているハリー。
ハリー「じゃあ、僕は先に帰るから」
ハリー、手を振りその場を立ち去っていく。
ボニー、うとうととした表情。やがて、目を手の平で覆い隠すと同時にベッドに
倒れ、意識を失う・・・
○ カリフォルニア・サンタモニカビーチ
まばらに海岸を歩く水着姿の美女。
海は、サーフボードを楽しむ若者達で賑わっている。
遊歩道をローラースケートで走る若い女性達。桟橋には、釣りを楽しむ小太りの
中年達が座っている。
砂浜。ブルーのシートの上にうつ伏せに寝そべる水着姿のマイケル。サングラス
をつけ、照りつける太陽をの光を背に受けている。
コンムリンクのアラームが鳴り響く。
応答するマイケル。
マイケル「なんだ、キット?」
キットの声「気分はどうです?」
マイケル「最高だね。照りつける灼熱の太陽、荒波を駆け抜けるサーファー、砂浜を歩く
うら若き美女達の甘い囁き・・・」
キットの声「お友達になったキャロルは、どこに行ったんです?」
マイケル「サンオイルを買いに行ってる。お前もサンタモニカの陽射しを十分に満喫しろ」
キットの声「もう存分に満喫していますが、ここの陽射しは、少々こたえますね。
後で洗車にでも連れて行ってもらいたい気分です・・・」
マイケル「なんなら自分で行って来たらどうだ」
キットの声「あなたから目を離すわけには行きません。デボンさんからきつく言われてる
ので」
マイケル「今日は休みなんだ。たまにはおまえも仕事抜きで楽しんだらどうだ?」
○ ナイト2000車内
緊急呼び出し用のアラームが鳴り響き、モニターにデボンの姿が映る。
デボン「キット、マイケルはいるか?」
キット「今ビーチにいます」
○ サンタモニカビーチ
マイケルの背中にオイルを塗るキャロル。
マイケル、上機嫌に笑顔を作っている。
コムリンクからキットの声が聞こえる。
キットの声「マイケル、デボンさんから連絡です」
マイケル「仕事は、キャンセルだ。今日は絶対ここを動かないぞ」
キットの声「至急の用件だそうです」
マイケル、憮然とした表情を浮かべる。
○ ナイト2000車内
運転席のシートに座るマイケル。
助手席にキャロルが座っている。
マイケル「昨夜がどうかしたって?」
デボン「君達は、どこにいた?」
マイケル「自宅に戻って、朝まで熟睡さ」
デボン「昨日、ラスベガス郊外のハイウェイで殺しがあった。その犯人なんだが・・・」
マイケル「誰だ?」
デボン「・・・君だよ」
マイケル「(呆気にとられ)俺が?」
デボン「犯人は、黒のスポーツカーに乗り、走行中の車に神経ガス系のミサイルガスを
撃ちこんだそうだ」
マイケル「デボン、悪い冗談だ」
デボン「君の顔を見たと言う目撃者がいる。それに、今朝マスコミ宛に、今度の事件に
ナイト財団が関与していると言う趣旨の手紙が届いたらしい・・・」
マイケル「誰かの悪質な悪戯じゃないのか?それにキットのロケットミサイルは、取り
外したばかりだぜ」
デボン「詳しい事情は後だ。至急戻ってこい」
モニターからデボンの姿が消える。
マイケル、落胆し、キャロルを見つめている。
○ ナイト財団本部・デボン・オフィス
デスクの前で対峙するデボンとマイケル。
デボン「殺されたのは、ダグラス美術館の館員マニー・ボイトと言う男だ」
マイケル「その美術館と財団とは何の関係があるの?」
デボン「その美術館は、上院議員のピート・ダグラスが建てものだ。実は、財団もいく
らかそこに出資しているんだ」
マイケル「ピート議員と言えば、最近フランスの麻薬王のロベルト・ホルセーって男と
の関係を噂されていたあの・・・?」
デボン「ロベルトは、前の麻薬取引の失敗で、海外へ逃亡し国際手配されている。
ピートと彼との関係も含めて今FBIが捜査中だ」
マイケル「その俺を見たって言う目撃者は?」
デボン「ニック・モアールと言う古美術商で、ピートの作った美術館で大量の美術品を展
示していた人物だ」
マイケル「ニックとマニーのつながりは?」
デボン「マニーは、ニックの交渉係を勤めていた。当局は、ニックから詳しい事情を聞く
つもりでいたが、彼は、当局に連絡を入れた後、姿をくらましている」
マイケル「俺が犯人だって言う確実な証拠は、あるのか?」
デボン、封筒から一枚の写真を取り出し、マイケルに手渡す。
写真には、燃え盛る炎をバックにマイケルの姿が映っている。しかし、暗闇でハッきりと
顔は、見えない。
マイケル「(唖然とし)そんなバカな、合成写真じゃないのか?」
デボン「君のアリバイを実証できる人物は、誰かいないのか?」
マイケル「キットなら、俺が何をしていたか知ってるはずだけど・・・」
デボン「問題は、当局がキットの証言をどこまで信用してくれるかどうかだが・・・」
マイケル「なんなら俺も一緒に行くぜ」
デボン「いや、先に私が事情を説明しに行ってくる。その間君は、ここで大人しく
してるんだ。いいな」
マイケル、落胆した面持ちで、
マイケル「わかったよ」
○ 廃工場
山間にポツンと立つ古びた雑居ビル。シャッターが閉まっている。
中からエンジン音が鳴り響いている。
○ 同・作業場
黒いカマロの運転席に乗り込み、アクセルを何度も踏み込んでいるハリー。
ハリーの前に男女が近づいてくる。
グレイのスーツを着た白髪の初老の男ジョエル・レイズ。少しデボンと似た雰囲気を持つ。
ブルネットの細身の若い女レナ・ヘルロ。
車から顔を出すハリー。
ジョエル「車は完成したのか?」
ハリー「まだ必要なものがある」
ジョエル「何だ?」
ハリー「この車をより完璧にさせるものさ」
ジョエル「300万ドルもの前金を払ったんだ。元が取れなかったら、あんたには、
死んでもらう事になるぞ」
ハリー「『クリスタル・ダーク』は、強盗にかけてはプロ中のプロだろ?いざとなれば、
僕抜きでも簡単にあんなもの盗み出せるんじゃないのか?」
ジョエル「あんたも人が悪いな。俺達の事情を知っててそんなことわざわざ聞くかね?」
ハリー、不気味に笑みを浮かべる。
地面の下のほうから、男の喚き声が聞こえてくる・・・。
レナ「下に誰かいるの?」
ハリー「僕の情報源だ。危うく裏切り行為をしそうだったから、あそこに閉じ込め
ていたんだが・・・どうやら目が覚めたらしい」
ハリー、隣の作業場に向かって歩いていく。
レナ、ハリーを怪訝に見つめ、
レナ「あいつ、信用して大丈夫なの?」
ジョエル「話を持ちかけてきたのは、奴のほうだ。少なくとも今度の計画には、必要な男だ」
レナ「さっさと取るもの取って、こんなところおさらばしましょうよ」
ジョエル「ああ、バンクーバーに別荘でも買ってのんびり暮らすか・・・」
二人の前にニックが現われる。
ジョエル、レナ、同時に拳銃をニックのほうに向ける。
ニック、血相を変え、
ニック「撃たないでくれ!」
隣の作業場からハリーの声が聞こえる。
ハリーの声「撃つんじゃない!」
ジョエル、レナ、ハリーのほうを見つめる。
ニック、その隙に入口のほうに向かって、逃走する。
ジョエル「あの男逃げ出したぞ」
ハリー「大丈夫、必ず仕留めてやる」
ハリー、無気味な笑みを浮かべる。
−ACT1−
−ACT2−
○ 砂漠の道を疾走するナイト財団移動本部トレーラー
○ ナイト財団移動本部トレーラー車内
キットの運転席に乗り込み、システムの調整をしているボニー。青ざめた表情で
作業を進めている。
コンソールの前でうろうろしているマイケル。
ボニー、マイケルを見つめ、
ボニー「・・・何いらついてるの?」
マイケル「これじゃあ檻の中に閉じ込められた犬も同然だ」
ボニー「仕方ないでしょ。下手に動き回って警察に捕まりたいの?」
マイケル「君まで俺を犯人扱いするのかい?それにしても、犯人は、どうやって俺達の
事を知ったんだろうな」
ボニー「考えたくはないけど、やっぱり財団関係者に犯人がいるのかも・・・」
マイケル「実は、俺も今同じことを考えていたところなんだ・・・」
マイケル、ボニーの冴えない表情を見つめ、
マイケル「今日はやけに元気がないね。どうかしたの?」
ボニー「2日酔いよ」
マイケル「君が2日酔いだって?」
ボニー「飲んでた時の事、まるっきし覚えてないの」
キット「記憶をなくすまでお酒を飲む人の特徴は、超真面目人間か、小心者に多いと聞
きますが・・・」
マイケル「どう見たってボニーは、小心者には見えないけどな・・・」
ボニー、マイケルを睨み付け、
ボニー「私が気の強い女だとでも言いたいようね」
マイケル「とんでもない、君は、男勝りのたくましい精神力を持つ素晴らしい女性だよ」
ボニー「マイケル!」
マイケル、ボニーの声に慌てて、逃げ去る。
○ ハイウェイ
交通量の激しい三車線の道路。
他の自動車を縫って、猛スピード疾走する赤いメルセデス。
○ 赤いメルセデス車内
運転席に座るニック。
バックミラーを一瞥する。
バックミラーに黒いカマロが映っている。
カマロのガラスには、全て黒いフィルムが張られていて、車内の様子は、見えない。
ニック、戦慄し、さらにアクセルを踏み込む。
○ ハイウェイから細い市道に向かって猛スピードで疾走する赤いメルセデス
その後を追うように黒いカマロが走行している。
○ 市道
豪壮な建物が並ぶ住宅街の間を通り抜けている赤いメルセデス。
赤信号。
メルセデス、交差点を飛び出し、横から来た白い乗用車と追突する。
メルセデス、追突の勢いで車体を激しく振りながら立ち止まる。
後からスピード上げやってきたカマロが、メルセデスの前で180度ターンし、
メルセデスと対峙するように止まる。
○ 赤いメルセデス車内
ニック、命乞いしながらカマロを見ている。
○ 黒いスポーツカーの前部バンパーの下から砲身が伸びる
砲弾が赤いメルセデスに向かって勢いよく発射される。砲弾は、赤いメルセデス
のフロントガラスを突き破る。
○ メルセデス車内
白い煙が小さくあがると、暫くして、煙を吸い込んだニックが激しく呼吸し、
苦しみ呻き始める。
○ カマロから降りる男
男・ヘルメット脱ぐ。男はマイケルである。
白い乗用車のドライバーがマイケルを見つめている。
○ ナイト財団移動本部トレーラー車内
アラームが鳴り、コンソールのモニターにデボンが映る。
マイケルがモニターの前に立つ。
マイケル「どうだった?」
デボン「その前に、例のスポーツカーがまた車を襲った。その車は、ニック・モアールのものだ」
マイケル「なんだって?」
デボン「車内に毒ガスの砲弾を撃ち込まれてな」
マイケル「死んだのか?」
デボン「いや、残っていたのは、車だけだ。現場近くを通った車のドライバーが君の顔を見た
と証言した。襲った車は、黒のカマロのようだ」
マイケル「誰かが俺をおとしめようとしている。なぁ、デボン、俺に調査させて
くれないか?」
デボン「駄目だ。当局は、犯人が捕まるまで我々の活動を禁止しろと言ってきた。
君を参考人として出頭させる気でいるらしい」
マイケル「俺のアリバイが受け入れられなかったってことか?」
デボン「しつこく説得してみたんだが、やはりキットの証言だけじゃな。とにかく、
まだそこから一歩も動くんじゃないぞ」
モニターからデボンが消える。と、同時にマイケル、ナイト2000に近づいていく。
奥の部屋からボニーが現われる。
ボニー「マイケルどこ行くの?」
マイケル「ジッとしちゃいられない。俺のふりした犯人をこの手で捕まえてやる。
デボンにそう言っといてくれ」
ボニー「駄目よ、マイケル!」
車に乗り込むマイケル。バックしてコンテナから出ていくナイト2000。
慌ててマイケルを呼び止めるボニー。
○ 州道を疾走するナイト2000
キットの声「デボンさんの命令を無視していいんですか、マイケル」
マイケルの声「また俺の顔をした犯人に事件を起こされちゃあたまったもんじゃないからな。
ダグラス美術館について教えてくれ」
○ ナイト2000車内
キットのモニターに美術館の写真が映る。
キット「1982年に設立されたものです。館長は、ピート議員の妻メアリーが務めています。
殺されたマニーは、この美術館の設立メンバーの一人で、美術館が建てられる前まで、
ピート議員の秘書をしていました」
○ ダグラス美術館
巨大な空間と吹き抜けのある建物。
壁には、様々な絵画がかけられ、壺や銅像などが、並べられている。
マイケル、通路を歩いている。
○ 同・管理事務所・オフィス
扉を開け、中に入るマイケル。
デスクに座っていた事務員のソフィー・クリスがマイケルを見つめる。
マイケル「ここの館員の方?」
ソフィー、怪訝にマイケルを見つめ、
ソフィー「あなたは?」
マイケル「政府機関から調査を依頼されているものでね。昨夜殺されたマニーの事件を
追ってるんだ」
ソフィー「事情なら、もうさっき警察の人にお話しましたけど・・・」
マイケル「それとは別の機関のものでね。彼は、昨日どこに行ったか知らないかい?」
ソフィー「ニックの屋敷に行くようなことを言ってましたけど・・・」
マイケル「何しにそこへ?」
ソフィー「ニックから東洋の美術品とモダンアートを2、3譲り受けに行くとか・・・」
マイケル「彼は、マニーが殺された現場を目撃しているんだ。その後、行方不明になってる」
ソフィー「さっき、警察の方にも聞かれました。でも、私には、何がどうなってるんだか・・・」
○ 同・通路
マイケル、渋々と歩きながらコムリンクに喋りかけている。
マイケル「キット、この建物の中をスキャンしてくれ」
○ ナイト2000車内
モニターに美術館の断面図が映る。
キット「中にいるのは、一人の館員と三人の警備員、そしてあなたの目の前にいる作業員の
二人だけです」
○ ダグラス美術館・通路
マイケル「客は誰も来てないらしいな。館長室には、誰もいないか?」
キットの声「ええ・・・」
ふと目の前に置かれている狼の頭像を見つめるマイケル。
二人の作業員が頭像を念入りに見つめている。
マイケル「どうかしたんですか?」
片方の作業員の男がマイケルのほうを向き、
作業員の男A「昨日来た子供がいたずらして、コインを投げつけやがってな。修復するのに、
ここから移動させるんだ」
マイケル「これ、いくらするの?」
作業員の男B「3億ドルは、くだらんな」
仰天するマイケル。頭像の前につけられた月の形をした丸い鏡を見つめる。
鏡に映るマイケル。その背後に、マイケルを見つめるスーツ着の男が映っている。
男は、ハリーである。
マイケル、ハッと、振り返る。静かに立ち去っていく男を追いかけるマイケル。
怪訝にマイケルを見ている作業員達。
作業員の男A「あいつ、ここの関係者か?」
作業員の男B「さぁ・・・」
○ ダグラス美術館前・広場
ハリーを追いかけるマイケル。
ハリー、道路脇に止まっていた白いポルシェに乗り込むと、車を急発進させ、
その場を立ち去っていく。
マイケル、遠のいていく車を怪訝に見つめる。
コムリンクに話しかけるマイケル。
マイケル「キット、今走って行った白いポルシェのナンバーを映しとけ」
キットの声「わかりました」
マイケル、ナイト2000に乗り込む。
暫くして、発進する。
マイケルの声「あの男いつからいたんだ?」
○ ナイト2000車内
キット「一分程前、あのポルシェが止まったのを確認したのですが、ノーマークでした。
すいません、マイケル」
マイケル「気にすることないさ。ニック・モアールの自宅までの最短ルートを出してくれ」
キット「わかりました」
○ ニックの屋敷
暗がりの部屋に入り込むマイケル。
白い空間が広がるリビングルーム。
周りを見渡すマイケル。
マイケル「美術商にしては、やけに質素な部屋だな」
キットの声「マイケル、その部屋には、何者かが入り込んだ形跡があります」
マイケル、床の足跡を見つける。
マイケル「おそらく警察かFBIだろう。事件に必要な物証は、全て押さえられたかも・・・」
マイケル、壁の棚に何もか置かれていないのを見つめ、何から気づく。
○ ナイト2000車内
運転しているマイケル
マイケル「部屋中の美術品が片っ端から盗まれてたとはな」
キット「ニックは、その美術品強盗に拉致された」
マイケル「おそらくな。そのニックを使って、マニーをおびき寄せた」
キット「しかし、何のために?」
マイケル「どうやら、ただの美術品泥とは、訳が違うようだ」
○ 州道を疾走する黒いトレーラー
○ 黒いトレーラー・コンテナ内
カマロの前で黒いジャンバー、黒いジーンズを履いたハリーがジョエルとレナに
話しかけている。
ハリー「予定が狂った。計画を変更する」
ジョエル「どう言う事だ?」
ハリー「時間がない。後で話す」
ハリー、マスクを被り、マイケルに早変わりする。
不気味に笑みを浮かべるマイケル。
○ ナイト2000が走行する道の対向車線から黒いトレーラーが走ってくる
トレーラーは、ナイト2000を横切っていく。
暫くして、黒いトレーラーのコンテナの扉がゆっくりと開く
中から黒いカマロがバックして、路面に降りる。
カマロ、そのままスピンターンすると、ナイト2000のほうに向かって走行し始める。
○ ナイト2000車内
キット「マイケル、後ろを」
マイケル、ドアミラーを見つめる。
ドアミラーにヘッドライトを光らせたカマロの姿が映っている。
マイケル「モニターに映してくれ」
モニターに走行中の黒いカマロの正面のアングル映像が映る。
マイケル「中の人物を見通せないか?」
キット「駄目です。ガラスに特殊なフィルムが張られていて、センサーの電波が妨害さ
れてしまいます」
○ ナイト2000の後ろをピッタリとくっついて走る黒いカマロ
カマロのバンパー下の砲身からボーリングの玉ほどの白い発光弾が発射される。
発光弾は、ナイト2000のリアガラスに当たり、爆発する。
黒いカマロ、素早く180度ターンし、逆の方向へ立ち去っていく。
ナイト2000のボディに爆炎が燃え広がる。
−ACT2 END−
−ACT3−
○ ナイト2000車内
マイケル「大丈夫か!」
キット「ええ、ほんの擦り傷です」
マイケル「何に撃たれたんだ?」
キット「ロケット弾です」
マイケル「追うぞ!」
マイケル、素早くハンドルを左に切る。
○ 180度ターンし、エンジンを唸らせ逆方向へ加速するナイト2000
○ 住宅街の坂を猛スピードで駆け登っていく黒いカマロ
交差点を左に曲がり、さらに山道の坂を走り抜けていく。
暫くして、ナイト2000が現われ、その後を追っている。
○ ナイト2000車内
マイケル、更にアクセルを踏み込む。
○ 猛烈な爆音を上げ、黒いカマロに近づいていくナイト2000
S字の山道を疾走するカマロ。
その後ろをぴったりとくっついて走るナイト2000。
○ ナイト2000車内
マイケル「よし、前に出るぞ」
マイケル、ハンドルを左に切る。
○ 対向車線に出るナイト2000
正面から黒いトレーラーが現われ、キットに猛スピードで突っ込んでくる。
キット「マイケル!」
マイケル、近づいてくるトレーラーに驚愕し、慌ててハンドルを左に切る。
○ ナイト2000、トレーラーを避け、50度角の急斜面の山肌を滑り落ちていく
○ ナイト2000車内
マイケル、何度もブレーキを踏み込んでいるが、利かない。スピードが増し、
コントロール不能に陥っている。
土煙をあげながら、奥深い森林に向かって落ちていくナイト2000。
○ 山道の脇道に立ち止まる黒いカマロ
カマロの運転席のウィンドウが開く。
マイケルの姿をしたハリーが露になる。ハリー、急斜面の下を覗いている。
○ ナイト2000車内
巨大な大木が横並びする密林に向かって突き進むナイト2000。
モニターに、『PASSIVE LASER RESTRAINT SYSTEM』
の文字が映る。
キット「このまま行けば、あの密林地帯にある大木に激突します」
振動で体を激しく揺さぶられているマイケル。
マイケル「逆噴射だ」
キット「駄目です。この急角度で使用することはできません」
マイケル「おまえならあれにぶつかるくらい、平気だろ?」
キット「推定樹齢300年、直径2メートルもある巨大な大木です。私が耐えられたとしても、
あなたがその衝撃に耐えられるかどうか・・・」
マイケル「KITT、RC−3がつけてくれた特製ナパーム弾を使うぞ!」
マイケル、スイッチパネルの『R』ボタンを押す。
○ ナイト2000のバンパー下から白い球状の物体が発射される
白い物体が大木の前で5m四方に広がり、巨大なエアバックになる。
ナイト2000、そこへ思い切りぶつかり、立ち止まる。
○ ナイト2000車内
衝撃で意識を失うマイケル。
キットの声「大丈夫ですかマイケル?しっかりしてください」
○ 高台に止まる黒いトレーラー
トレーラー、コンテナの出入り口を急斜面に向け車を止めている
コンテナの中からワイヤーが伸びている。
○ ロープを体に巻き付けた黒装束の男が急斜面を降りている
片手にフックの付いたワイヤーを持っている男。
立ち止まるナイト2000の後ろまで降りてくる男。ナイト2000の後部バンパーの
下にフックを引っかける。
○ 黒いトレーラーのコンテナの中のウインチが作動する
ワイヤーが巻かれている。
フックにかけられたナイト2000が後ろ向きのままゆっくりと急斜面を上っている。
ナイト2000、急斜面を上がり終わると、そのままコンテナの中まで引き込まれていく。
ナイト2000がコンテナの中に収納されると、扉がゆっくりと閉まる。
エンジンがかかると、颯爽とその場を立ち去っていくトレーラー。
○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
コンソール前で話をするデボンとボニー。
デボン、物凄い剣幕で怒りを露にしている。
デボン「あれほど動くなと言っておいたのに」
コンピュータに向かい、KITTとの通信を試みるボニー。
ボニー「駄目です、つながりません」
ため息をつくデボン。
デボン「マイケルが動いてることが当局に知れたら、私は彼を庇い切れなくなるぞ・・・」
ボニー「・・・」
○ 廃工場内
薄暗い蛍光灯に照らされたナイト2000が止まっている。
○ ナイト2000車内
マイケル、目を覚ます。
マイケル「キット、ここはどこだ」
キット「黒いトレーラーにここへ運び込まれました」
マイケル、辺りを見回し、
マイケル「車の工場か?」
キット「車用のジャッキが多数置かれているので、おそらく・・・」
マイケル、車から降りる。
○ 廃工場内
様々な工具や自動車のパーツが棚に置かれている。
棚の向こうに、ブルーのシートを被った一台の車が見える。
マイケル、それに近づき、車の前でしゃがみこむ。
シートを少し上げ、中を見るマイケル。
車は、白いポルシェである。
コムリンクに話しかけるマイケル。
マイケル「キット、ナンバーを確認してくれ。2CAE536」
キット、モニター上でナンバーを識別する。
キットの声「美術館に止まっていたポルシェです」
マイケル、立ち上がり、さらに奥の部屋へ突き進んでいく。
通路の前に立つ白い作業着を着た男の背中が見える。ハリーである。
奥の作業場を見回しているマイケル。
マイケル「キット、ビデオを回して、この建物内を記録してくれ。何か変わったところ
はないか?」
ナイト2000のフロントのスキャナーがうなる。
キットの声「マイケル、あなたの足元を見てください。カーペットの下に金属性の扉が
隠れています」
マイケル、カーペットを引き剥がし、床に設置されている扉を見つける。
○ 同・地下倉庫
扉をゆっくりと開けるマイケル。中には暗闇が広がっている。
マイケル、扉の入口際にあったスイッチを押し、明かりを点ける。
棚が横一列にずらっと並び、棚にガスの入った金属性の容器が何本も置かれている。
マイケル、中に入り込み、ガスの容器を睨み付けている。
扉の入口のほうから、物音が聞こえる。
振り返るマイケル。ハリーと顔を合わす。
ハリー、作業着のポケットから短銃を取り出し、マイケルに向ける。
マイケル、強面になり、ハリーを睨み付ける。
ハリー、撃鉄を起こし、マイケルに銃口を向けながら階段を降りてくる。
マイケル「こんなところでそれをブッぱなしたら、おたくもあの世行きだぜ」
ハリー「この至近距離で外しはしないさ」
マイケル「俺を貫通して、ガスボンベに当たったらどうするんだ?」
ハリー「あのガスボンベは、特殊なんだ。この銃のタマが当たったぐらいじゃびくともしない」
マイケル「どうしてこんなものここに隠してるんだ?」
ハリー「ここは僕の親父が第2次大戦中に建てた軍事工場の一部でね。ここにあるもの
は、すべて親父が残したものさ」
マイケル「おたく一体何ものなんだ?」
ハリー「そんなこと言っても仕方がない。恨みはないが君には死んでもらう」
マイケル、ハリーを睨み付ける。
○ 廃工場内
地下倉庫の階段を両腕を上げたマイケルが上がってくる。その後をマイケルの
背中に拳銃を向けたハリーが上がってくる。
マイケル、階段を上り切ると、コムリンクにひそひそと話しかける。
マイケル「キット、助けてくれ」
ナイト2000のスキャナーがフラッシュし、うなり始める。
ハリーの後ろに止まっている白いポルシェのヘッドライトがカバー越しにチカチカ
と光り初める。
マイケル、それに気づき、
マイケル「後ろを見ろよ。あんたの車が走りたがってるぜ」
ポルシェのエンジンがかかる。 ハリー、振り返りポルシェを見つめる。
マイケル、咄嗟にハリーの拳銃を持つ腕を蹴り上げ、ハリーの頬を殴りつける。
ハリー、その場に倒れるが、咄嗟に作業着のポケットからスプレーを取り出し、
マイケルの顔に振りかける。
マイケル、呻き声を上げ、両手で顔を押さえながらその場に倒れ込む。
○ ナイト2000車内
キット「マイケル!!」
キット、エンジンをスタートさせる。
○ 廃工場内
ナイト2000、動きだし、ハリーの前に突っ込んでくる。
ハリー、咄嗟にポルシェの後ろに逃げ込む。
マイケルの前で立ち止まるナイト2000。
○ ナイト2000車内
キット、『BLOOD ANALYZER』を作動させる。
モニターにマイケルの体内のグラフッイクが映し出され、体内の血流と血圧を
スキャンしている。
キット「大丈夫、ただの睡眠ガスです。命には、別状ありません」
マイケル、眠ったまま微動だにしない。
○ 廃工場の表
シャッターの前に黒いトレーラーが止まり、入口を塞ぐ。
○ 廃工場内
ハリー、高笑いを響かせながらナイト2000に近づいてくる。
ハリー「お前を待ってたんだ、キット」
キット「どうして私の名前を?」
奥の通路からジョエルとレナがライフルを持って現れる。
二人、マイケルにライフルの銃口を向ける。
ハリー「いいか、大人しく私の言うことを聞くんだ。さもないと、この男があの世に行く
ことになるぞ」
キット「何をするんです?」
ハリー、ナイト2000の運転席のドアの前に近づき、
ハリー「扉を開けろ。俺が今からメンテナンスしてやる」
−ACT3− END−
−ACT4−
○ 廃工場内
目を覚ますマイケル。起き上がり立ち止まる。当たりを見回すと、目の前に男がうつ伏せで
倒れている。
マイケル、男のそばに行き、男の顔を見る。男は、ニックである。息がない。
唖然とするマイケル。やがて、息苦しくなり、咄嗟に手で鼻と口を押さえる。
マイケル「ガスだ。キット、さっさとここから抜け出すぞ」
マイケル、立ち上がり、ふらふら歩きながら目の前に止まっている
ナイト2000に乗り込む。
○ ナイト2000車内
エンジンをかけるマイケル。
シフトを『R』に入れ、後ろのシャッターを見つめながら、ナイト2000をバックさせ、
シャッターに突っ込んで行くが、シャッターに押し返され、突き破ることができない。
マイケル「何かにつっかえてるようだ」
キット、沈黙。
マイケル「やけに大人しいじゃないか。どうした?毒ガスにやられちまったのか」
キット、沈黙。
マイケル「わかったよ。いつも通り、俺の好きにさせてもらうぜ」
○ ナイト2000、切り返して今度は、車体を前にしてシャッターに向かって走り出す
○ ナイト2000車内
マイケル、『TURBO BOOST』のボタンを押す。
○ 修理工場・表
タービンが激しくうなる。
シャッターと表に止まっていたトレーラーのコンテナを突き破ってナイト2000が
表に飛び出し路上に着地する。
数キロメートル離れた場所まで走ると、横滑りしながら立ち止まるナイト2000。
暫くして、修理工場が大爆音と共に、巨大な炎を上げ爆発する。
○ ナイト2000車内
マイケル「やばかった、表にトレーラーが止まってたなら、どうして教えてくれなかった?」
キット、沈黙。マイケル、キットの異変に気づき、
マイケル「どうした?キット・・・」
遠くからパトカーのサイレンが鳴り響いてくる。
マイケル「どうやら、奴にはめられたようだな」
マイケル、アクセルを踏み込む。
○ 猛スピードでその場を立ち去っていくナイト2000
○ トンネル内を走行するナイト財団移動本部トレーラー
ボニーの声「キットのCPUユニットが丸ごと取り外されてるわ」
○ 同・コンテナ内
ナイト2000の前に立つマイケル。
マイケル「そんなバカな。前に同じようなことがあった時に簡単に取り外せないように
したんじゃなかったのか?」
ナイト2000の運転席の下に潜り込んでいるボニー。
ボニー「キットのプログラムを書き換えられないよう、何重にもセキュリティ・パスワードは
組み込んだけど・・・」
マイケル「他に被害は?」
ボニー「メモリーバンクは、残ったままだけど、ミサイル誘導システムと、マイクロシステムの
一部も取り外されてるわ」
マイケル「キットに工場内の様子を記録させたんだ。そのビデオをモニターに映してくれないか?」
ボニー「わかったわ」
○ ナイト2000車内
モニターにビデオが映るが、ノイズだらけで何も映っていない。
マイケル、ナイト2000の助手席に乗り込み、モニターを見つめる。
マイケル「やっぱり駄目か。奴らが消したんだ」
ボニー「待って、なんとか再現できそうよ」
ボニー、シンクロレベルのつまみを回す。
乱れた映像の中にジョエルとレナの姿が映し出されている。そしてハリーがフレームに
入り込んでくる。
ボニー、唖然とし、
ボニー「まさか、そんな・・・」
マイケル「どうした?」
ボニー「この人・・・私の知り合いなの。ハリー・ジェイソンよ」
マイケル「何者だ?」
ボニー「大学時代の友人よ。この間同窓会で会ったばかり・・・」
マイケル「彼に何か話したのか?」
ボニー「・・・キットのことは、何も・・・」
ボニー、寡黙になり、
ボニー「・・・駄目、お酒を飲んでた時の記憶がどうしても思い出せないの」
マイケル「おかしくないか?何一つ記憶に残ってないなんて・・・」
ボニー、突然、スイッチパネルの『BLOOD ANALAYZER』のボタンを押す。
モニターに、ボニーの体内のグラフィックが映り、スキャンされている。
マイケル「自分の体をスキャンしてどういうつもりだ?」
ボニー「微量のアミタールが検知されたわ」
マイケル「アミタール?」
ボニー「意識拡張剤・・・自白剤としても利用できる薬剤よ・・・」
マイケル「となると、彼は、君からキットのことを全て聞き出したことになるな」
ボニー「でも、どうしてナイト2000を奪わずキットだけを奪い取ったのかしら?」
マイケル、コンソールの前に向かい、
携帯用の電話を持つ。番号を押し、
マイケル「あっ、もしもし、そちらの館員のソフィーさんって方おられます?」
○ ダグラス美術館
白色のコンテナを積んだトラックの中に四角いガラスケースに入れられた頭像が
運び込まれている。
ケースは、白く曇っていて、中の頭像をはっきりと見通すことができない。
○ トラックが走行し始める
トラックと行き違いになるようにナイト2000が美術館の前にやってくる。
○ ナイト2000車内
窓から辺りを見回すマイケル。
数十人の警官が辺りを動き回っている。
美術館からソフィーが現われ、ナイト2000の前にやってくる。
車に乗り込むソフィー。
マイケル「呼び出してすまなかったね。実は君に見てもらいたいものがあるんだ」
マイケル、ハリーの写真を見せ、
マイケル「この男、俺が君を訪ねた時、美術館に来てた。見覚えないか?」
ソフィー、驚愕し、
マイケル「何か知ってるんだね」
ソフィー「前に一度だけ、ピート議員のことを訪ねて来た人に似ているかも・・・」
マイケル「何か他に思い当たる事はないかい?」
ソフィー「ずっと前から美術館に脅迫電話をかけていた男がいるの」
マイケル「相手はこの男か?」
ソフィー「いつも電話に出ていたのは、マニーだったからよくわからないけど、ピート議員の
秘密を握ってるとか言って、それをマスコミに公表すると脅してきたの。それが嫌だったら
議員を美術館に呼び出せって何度も言われたらしいわ・・・」
マイケル「それで、マニーは、どうしたんだ? 」
ソフィー「脅迫を無視した。そしたら、本当に週刊誌で議員と麻薬王の記事が掲載されて
しまって・・・」
マイケル「・・・じゃあ、あの記事は、事実なのか?」
ソフィー、微かに頷き、
ソフィー「マニーは、丁稚上げだって言ってたけど、かなり動揺してたわ」
マイケル「どうして今まで黙ってた?」
ソフィー「議員から、止められていたんです」
マイケル「議員は、今どこにいる?」
ソフィー「今、美術館の館長室にいます」
マイケル「もしかして、また脅迫を受けたのか?」
ソフィー「(頷き)議員が来なければ、上院議会のビルをガス弾で攻撃するって言われて・・・」
マイケル「他にこの事を他に知ってる人はいるのか?」
ソフィー「いいえ、議員は、一人で決着をつけるつもりでいるみたいです・・・」
マイケル「そんなことさせたら駄目だ。ソフィー、議員を別の場所に移動させるんだ。後は
俺達に任せてくれないか?」
ソフィー、神妙な面持ちでマイケルを見つめている。
○ 砂漠の通りを疾走するトラック
トラックの前から黒いトレーラーがやってきて、トラックのそばを横切っていく。
○ 黒いトレーラーのコンテナが開き、中からカマロが現われる。
カマロ、勢い良く180度ターンすると、トラックの背後を疾走し始める。
○ カマロ車内
マイケルのマスクを被ったハリーがハンドルを握っている。
ハリー「キット、マイクロロックを起動させろ」
ダッシュボードのハンドルの前につけられた紫色のモジュラーインジケータが光る。
キット「わかりました。マイケル」
○ カマロのノーズについた横に長く伸びる赤いスペクトルからパルス音が発生する
○ 自動的にブレーキがかかり、立ち止まるトラック
その後ろにカマロが立ち止まる。
○ カマロ車内
ハリー「いいぞ、キット。次は、ミサイルだ」
キット「わかりました。マイケル」
カマロの前バンパーの下から弾頭が発射される。
弾頭は、コンテナの扉を貫く。
○ トラック・コンテナ内
2人の警備員がガスを浴び、呻き声を上げながら、次々と倒れていく。
警備員の一人が片手に持っていた小型の黒いボックスのスイッチを押す。
○ カマロの両ドアが開き、デボンのマスクを被ったジョエルとボニーのマスクをつけた
レナがライフルを持ち、トラックに向かって駆けていく。
トラックの運転席から降りてきた警備員がジョエルのライフルに撃たれる。
ジョエルがトラックの運転席、レナが助手席に、それぞれ乗り込む。
ジョエル、トラックを発進させる。
その後を着くようにカマロも走り出す。
○ ナイト財団移動本部トレーラー・コンテナ内
マイケルとボニーとデボンがコンソールの前で話している。
デボン「ハリーは、次世代コンピュータに使用されるバイオチップを開発している
ハイべルズ社の研究員だったが、3年前にそこを辞めている」
マイケル「首にでもされたのか?」
デボン「いや、その同じ年に、彼は、妻と一人娘を交通事故で失っている」
ボニー、吃驚し、
ボニー「そんな事、彼、一言も言わなかったわ・・・」
デボン「彼女達を轢いた相手ってのは、その時、麻薬の取引現場を取り押さえられて
警察のパトカーに追われていたロベルト達の乗った車だった」
マイケル「彼は、その時の取引相手だったピートに復讐しようとしてるのか」
デボン「おそらくな。しかし、どうして我々に罪をなすりつける工作を練ったのかは、謎だ」
ボニー、呆然と俯いている。
デボン「それから、キットのビデオに映ってた二人組がわかったぞ。ジョエル・レイズと
レナ・ヘルロ。国際的な美術品強奪グループ『クリスタル・ダーク』のメンバーで二人は
変装のプロだ。彼らは、メキシコで事件を起こした後、仲間割れをし、メンバーを殺して、
今は、アメリカに潜伏中だ」
マイケル「ハリーの変装も奴らが仕組んだってことか」
デボン「私は、今から当局に事情を説明しに行く」
マイケル「後は、頼んだぜ、デボン」
マイケル、颯爽とナイト2000に向かって歩き出す。
ボニー「マイケル、どこ行くの?」
マイケル「ダグラス美術館さ。ハリーは、ジョエル達と組んで何かをやらかす気だ」
マイケル、ナイト2000に乗り込む。
ボニー「待って、私も行くわ。キットの代わりがいるでしょ」
ボニー、ナイト2000の助手席に乗り込む。
マイケル、エンジンをスタートさせ、コンテナから出ていく。
○ 砂漠の一本道を疾走しているトラック
その後ろをカマロがピッタリとくっついて走行している。
○ カマロ車内
しばらくして、カマロの後方からパトカーのサイレン音が鳴り響いてくる。
ハリー、通信システムのパネルのスイッチを押し、
ハリー「邪魔ものを片づけてくる」
スピーカーからジョエルの声が聞こえる。
ジョエル「了解」
ハリー、ハンドルを思い切り左に切る。
○ 180度ターンし、トラックと逆方向へ進み出すカマロ
○ 街道を疾走するナイト2000
○ ナイト2000車内
マイケル、アクセルをめいいっぱい踏み込む。
ボニー「私とハリーは、大学時代同じマイクロコンピュータシステムの開発研究会で
技術を競い合ってたの」
マイケル「じゃあ、彼でも簡単にキットのプログラムを変えられるってことか」
ボニー「ええ、でも、ナイト2000のシステムをチェックした時、一つだけ腑に落ちない点を
見つけたの」
マイケル「なんだい?」
ボニー「ハリーは、キットの基本プログラムを生かしたまま使用している可能性があるの。
キットの記憶を初期状態に戻してね」
マイケル、深く考え込んでいる。
○ 列をなして走行してくる3台のパトカーに真正面から近づいていくカマロ
○ カマロ車内
ハリー「キット、こう言う時は、どうするんだ?」
キット「正面のパトカーを排除します」
ハリー、無気味な笑みを浮かべる。
スイッチパネルの『MICRO JAMMER』のボタンが光る。
○ 三台のパトカーの全タイヤが次々とパンクしていく
一番前のパトカー路上に立ち止まると、後ろについて走っていたパトカーが次々と衝突する。
カマロ、立ち往生する三台のパトカーのそばを横切っていく。
○ カマロ車内
ハリー「よし、キット。自分で走行するんだ」
モジュラーインジケータ下の『AUTO CRUISE』の文字が赤く光る。
ハンドルから手を離すハリー。
アクセルからもゆっくりと足を離す。
自動的に走行している様子を見回しながら、ほくそ笑み、
ハリー「良いぞ、その調子で、今からある地点に向かうぞ」
キット「目的場所を指示してください」
ハリー、硬く表情を強ばらせる。
○ ダグラス美術館前
周囲の通りにパトカーが立ち止まり、広場には、警官があちらこちらに歩いている。
広場より、少し離れた通りの道路脇にナイト2000が立ち止まる。
マイケル「なんだか慌ただしいな」
『SURVEILLANCE MODE』のレベルメータの光が真横に長く伸び、
パルス音が鳴り響く。
ボニー、ノート型のコンピュータのディスプレイを見つめ、キーを打ち込んでいる。
ボニー「マイケル、警察無線を傍受したわ。ここから三キロ先の州道で美術品を積んだトラックが
襲われたみたい。犯人は、黒いスポーツカー」
マイケル「頭像って?」
ボニー「時価3億ドルの東洋美術の最高峰と言われている美術品よ」
マイケル「そうか、奴は、美術館で俺を見てたんじゃなくて、あの頭像を見ていたんだ」
マイケル、アクセルを踏み込む。走り出すナイト2000。
○ ナイト2000車内
マイケル「カマロの走行地点をモニターに映し出してくれないか?」
ボニー「わかったわ」
キーを打ち込むボニー。
モニターに地図のイメージが映し出され、ある地点が白く点滅し、それが移動している。
マイケル「こっちへ近づいてる」
マイケルの視点。正面からカマロが近づいてくる。
ボニー「あれよ!」
○ カマロ車内
ハリー、ナイト2000を睨み付け、
ハリー「キット、あの車を破壊しろ」
キット「わかりました」
『MISSAILE』のスイッチボタンが赤く光る。
○ カマロのバンパー下から弾頭が発射される
○ ナイト2000車内
マイケル「お前とこんな形で勝負するとは、思わなかったぜ、キット」
ボニー、正面に接近してくるミサイルに驚愕し、
ボニー「マイケル!」
マイケル「ああ、わかってる」
マイケル、『TURBO BOOST』のボタンを押す。
○ タービンが激しくうなり、高く飛び上がるナイト2000
空中に浮かんだナイト2000のボディの下を弾頭が擦り抜けていく。
弾頭は、道路脇の砂漠に命中し、空高く爆炎を上げる。
ナイト2000、猛スピードで向かってきたカマロの頭上も飛び越え、路上に鮮やかに
着地する。
○ ナイト2000車内
マイケル、そのまま真っ直ぐ走行している。
ボニー「カマロを追わないの?」
マイケル「先にトラックのほうだ」
マイケル、『SUPER PERSUIT MODE』のボタンを押す。
○ ナイト2000、スーパー追跡モードに変形する
瞬間に時速250kmで走行し始める。
○ 州道を走るトラック
後方から疾風のようにナイト2000がやってくる。
トラックの前方に周り込み、スピンターンしてトラックと向き合うナイト2000。
トラック、急ブレーキで立ち止まる。
○ ナイト2000車内
マイケル、『MICRO JAMMER』のボタンを押す。
○ トラックのタイヤが4本とも一斉にパンクする
ナイト2000、そのまま猛スピードで走り出し、トラックのそばを離れていく。
○ 郊外の道で立ち止まるカマロ
○ カマロ車内
ハリー、自爆装置のスイッチを押し、タイマーを『1:00』にセットする。
ハリー「君みたいな優秀なコンピュータを手放すのは惜しいが、これでお別れだキット」
キット「マイケル、どこへ行かれるんです?」
ハリー「(笑みを浮かべ)妻と娘のところだよ。後は頼んだぞ」
キット「わかりました」
○ 運転席からハリーが降りる
ハリー、ドアを閉める。
無人のカマロがそのままハリーの前を走り去っていく。
ハリー、マスクを取り、カマロをジッと見つめている。
暫くして、ハリーの前をスーパー追跡モードのナイト2000が一瞬で横切っていく。
○ ナイト2000車内
ボニー、窓越しに消えていくハリーを見つめ、
ボニー「ハリーよ」
マイケル「警察に連絡するんだ」
ボニー「・・・」
マイケル、呆然としているボニーのほうを向き、
マイケル「ボニー?」
ボニー「・・・わかったわ」
スピードメーターが300を上回っている。
マイケル達の前に黒いカマロの姿が見えてくる。
マイケル「と言うことは、あの車を運転しているのは、キットか」
ボニー「何かの電波をキャッチしたわ。自爆装置よ!」
マイケル「美術館に突っ込む気でいるんだ」
ボニー「駄目、マイクロジャマーがきかないわ」
マイケル「焦ることはないさ」
○ 黒いカマロをあっさり抜いていくナイト2000
○ ダグラス美術館前
横滑りしながら、立ち止まるナイト2000。
警官達が慌ただしくナイト2000の前にやってくる。
マイケル、車から降り、道の真中に突っ立つ。
車の中からマイケルを呼び止めるボニー。
ボニー「マイケル!」
マイケルに向かって突っ走ってくるカマロ。
マイケル「止まれ、キット、俺だ」
マイケル、カマロを睨み付けている。
マイケルに突進してくるカマロ。
マイケル、歯を食いしばる。
急ブレーキをかけ道を滑べりながら立ち止まるるカマロ。
マイケルの前すれすれでカマロが立ち止まる。マイケル、胸をなで下ろし、
マイケル「俺をひき殺すつもりかよ」
ボニー、車から降り、カマロの中を覗いている。
ボニー、自爆装置のタイマーを見つけ、解除ボタンを押す。
マイケル達の前に一台のパトカーが現われ、ナイト2000の前に立ち止まる。
後部席にハリーが乗っている。
ボニー、ハリーの前に行き、
ボニー「どうしてこんなことを?」
ハリー「科学者の性かな。君が大学時代の夢を実現していたことを知って嫉妬したのかもしれない」
ボニー「・・・」
ハリー「済まなかった、ボニー。君らを巻き込んでしまって・・・」
ハリー、項垂れ、目を瞑る。
ボニー、ハリーを悲しげに見つめている。
−ACT4 END−
−ACT5−
○ サンタモニカビーチ(翌日)
砂浜で寝そべっている水着姿にサングラスをかけたのマイケルの前に、ビキニ姿の
キャロルが現れる。
キャロル「ハ〜イ」
マイケル、颯爽と起き上がり、
マイケル「また会うなんて奇遇だね」
キャロルのそばに身長2m程ある筋肉隆々のマッチョマンの男が立っている。
マイケル、顔を見上げ、男を見ている。
キャロル「この間あなたと別れた後、この人と知り合いになったの。彼、ライフガードしてるの」
マイケル「(苦笑いして)そう・・・そりゃあ良かった」
キャロル「(手を振り)じゃあね」
男とキャロル、その場を立ち去っていく。
マイケル、呆気にとられ、漫然と手を振っている。
暫くして、コムリンクのアラームに鳴り、
マイケル「なんだ、キット?」
キットの声「休暇の仕切り直しはできても、女性の方まで、うまく行かなかったようですね、
マイケル」
マイケル「俺もライフガードになろうかな・・・いいさ、今度はマリリン・モンロー似の美人の女性を
見つけてやるから」
○ ナイト2000車内
モニターにデボンが映る。
デボン「ピート上院議員がロベルトとの関係を認めて議員辞職をしたが、もうそのニュースは
聞いたかね・・・キット、マイケルは?」
○ サンタモニカ・ビーチ
キットの声「マイケル、デボンさんから連絡です」
マイケル「もう、たくさんだ」
マイケル、逃げるように海に向かって走り出し、飛び込む!
−END−