「エアウルフ ニュー・センチュリー 〜新世紀の狼〜」第一章 その1

 

第一章 『狼、再び』

<武器マーケット>

 照り付くような強い日差しが降り注ぐ東南アジア某国の密林地帯。
 この緑の絨毯の一角に木々を切り開いた場所が存在した。
 その場所には緑色のネットで擬装したコンテナが幾つも並べられ、周りには対空砲や対空機関砲、対空ミサイル発射機が設置されている。
 一見、軍隊の物資集積所に見えるが軍人は一人も居なかった。
 居るのはどう見ても真っ当な人間とはいえない男達のみ。
 そう、ここは闇の武器商人やテロリスト達が開く武器マーケットなのだ。
 今も日本のカルト教団のメンバーが注文した商品を積み込んだトラックが積み込み場から走り出して密林に消えて行った。

 テロリストの一人、ヘルナンデスは寝不足の目を擦りながらトラックを見送った。
 手に入れるのが大変な上に納品期日が今日だった商品の発送で徹夜したのだ。
 ヘルナンデスは大きく欠伸をすると背後のコンテナハウスに入っていった。
 コンテナハウスの中には一人の中年男がデスクでノートパソコンと睨みあっていた。
ヘルナンデス「やっぱり徹夜は疲れるもんだな」
 中年男・・・武器商人のイワノフはノートパソコンから顔を上げて笑みを浮かべた。
イワノフ「そう言うな、あの商品は200万ドルで売れたんだぞ。徹夜する価値はある」
ヘルナンデス「入金されてあるんだろうな? これで前金の10万ドルだけじゃ話にならないぞ。アメリカ軍とイスラエル軍の倉庫からアパッチ用の整備部品と弾薬を盗み出すのは大変だったんだからな」
イワノフ「技術の進歩ってのは便利なものだ。こんなジャングルの奥地でスイス銀行の口座確認が出来るんだからな」
 イワノフがノートパソコンの画面をヘルナンデスに見せる。
 画面にはスイス銀行のイワノフ達の口座に200万ドルが入金された事が映し出されていた。
ヘルナンデス「やったな! これで俺達はハンスのようにリッチになったぜ」
イワノフ「こんなのまだ序の口さ。ミャンマーのタウ・リンからは軍隊を作れるぐらいの注文が入ってきてるんだぞ」
ヘルナンデス「あの麻薬王からか!? それで報酬は?」
イワノフ「ここの人間が一生遊んで暮らしても十分お釣りが出るほどだ」
ヘルナンデス「そうなると忙しくなるな。大仕事の前に休みを取らんと体が持たんよ」
 苦笑しながらそう言ったヘルナンデスは睡眠を取る為に奥の寝室に入っていった。

 だが、五分後にヘルナンデスは爆発音で叩き起こされた。

<強襲!>

 慌てて起きたヘルナンデスはカーテンを開けて窓から外を見ると武器マーケットの周囲に存在する対空ミサイル発射機が大爆発を起こし、対空機関砲が天に向かって機関砲弾を撒き散らしていた。
 直後、コンテナハウスの上をジェット機が轟音を立てて飛んでいった。
 手に銃を持ったヘルナンデスが寝室から出てくると床に伏せていたイワノフが叫んだ。
イワノフ「大変だ! あれはアメリカ軍の海兵隊のハリアーだ!」
ヘルナンデス「海兵隊だと!? ジェームズ少佐には連絡したのか?」
 乱射していた対空機関砲座がAV−8B+ ハリアーU+(新型レーダーを搭載してAIM−120アムラーム空対空ミサイルを運用できるようになった改良型)が発射したマーヴェリック空対地ミサイル(AGM−65)の直撃を受けて吹き飛んだ。
 爆発に驚き、コンテナハウスの床に伏せるイワノフとヘルナンデス。
イワノフ「したとも! 5分で来るからそれまで持ちこたえろと言われた」
 遠くからヘリコプターのローター音が聞こえてくる。
 ヘルナンデスは床に落ちていた双眼鏡を掴むと恐る恐る窓からヘリの音がする方向を見た。
 双眼鏡の視界に攻撃ヘリコプター3機と大型の輸送ヘリコプター2機がこちらに向かってくるのが見えた。
ヘルナンデス「あの程度ならジェームズ少佐の部隊で何とかなりそうだ。俺はみんなを集めて何とか時間を稼ぐ」
イワノフ「私はどうすればいい!?」
ヘルナンデス「床下にでも隠れていろ!」
 そう叫ぶとヘルナンデスは銃を握り締めてコンテナハウスから飛び出していッた。

 海兵隊のAH−1Z スーパー・コブラが木々の先端すれすれの低空を飛行してハリアーが撃ち漏らした対空砲をマーヴェリックで次々と破壊し、無謀にもライフルで応戦するテロリストを20mmガトリング砲で薙ぎ払っていく。
 着陸地点が確保されると海兵隊員達を満載した2機のCH−53E スーパー・スタリオン輸送ヘリがテロリスト達がヘリ発着場として利用している空き地に着陸、次々と武装した海兵隊員が飛び出して行った。

ジョージ「コンテナの上から撃ってるぞ! ウィリー、ふっ飛ばせ!」
 ベテランのジョージ・ガートン曹長が指揮する分隊の兵士がコンテナの陰からM16A2アサルトライフルに装着されたM203グレネードランチャーから40mmグレネード弾を発射し、向かいのコンテナの上から銃を撃っていたテロリストを吹き飛ばした。
ジョージ「よし、ウィリーとハドソンは援護、後は俺に続いて目標のコンテナハウスまで走るぞ!」 
 M203を装着したM16A2を装備した兵士とM249軽機関銃(FN社のミニミ軽機関銃の米軍ヴァージョン)を装備した兵士が援護する中、ジョージを先頭に海兵隊員たちはコンテナの間を走りぬけコンテナハウスに向かっていった。

 イワノフはコンテナハウスに兵士が向かってくるのを見ると慌てて床板の一部をあけて床下に潜り込んだ。
 床板を閉じると同時に海兵隊員がドアを蹴破ってコンテナハウスに踏み込んでくる。
海兵隊員「クリア!」
ジョージ「よし、書類にファイル、PCも全部押収しろとの命令だ。特に顧客リストは絶対に見つけろ」
 海兵隊員が持ち込んだバッグに片っ端から書類を突っ込んでいき、デスクに置かれていたノートパソコンも押収した。
ジョージ「他にもあるかもしれん。おい、チャーリーは床下を探せ」
 チャーリーと呼ばれた海兵隊員がイワノフが隠れてる床板を開けようと手をかけようとした。

<危機>

 それはジョージにとっては幾度か聞いたことのある音だった。
 演習で聞きなれたハリアーやスーパー・コブラの機関砲ではなくLAV−25歩兵戦闘車の機関砲でもない。
 グラナダやソマリア、イラクで聞いた旧ソビエト製の・・・
リード少尉『ジョージ、所属不明の装甲車がこっちに来る! 急いで来てくれ!』
 無線から小隊を指揮するリード少尉からの救援要請が来た。
ジョージ「クソ、連中は装甲車両も装備していたのか!? チャーリーとクレイはここで荷造りしろ。後は少尉達に合流する」
 2名の海兵隊を残してジョージ達はコンテナ群の向こうに居る少尉が率いる小隊本部に向かっていった。
 一方、床下ではイワノフは腹ばいになったまま息を潜めていた。

 コンテナの上に腹ばいになって接近してくる装甲車を海兵隊員が報告した。
海兵隊員「先頭は・・・パパタンゴセブンシックス(PT−76水陸両用軽戦車)が2台、続いてブラボーマイクパパツー(BMP−2歩兵戦闘車)が8台」
リード少尉「OK,ハリアーとコブラに攻撃要請を出せ。我々はM72しかないから辛いな」
 地上からの要請を受けたハリアーが旋回してに入った。

海兵隊パイロットA「シー・ゴブリン・ワン、標的をマーキングしてくれ」
 パイロットの指示で地上の隊員がレーザー照準機で先頭のPT−76にレーザー照射をするとコックピットのHAD(ヘッドアップディスプレイ)に照射を受けた車両のマークが現れた。
海兵隊パイロットB「こちらでもマーキングを確認した。これより爆撃コースに入る」
 2機のハリアーが緩やかに旋回していく。
海兵隊パイロットA「さてと、お荷物のお届けを・・・レーダー照射? ロックされてる!? ブレイクしろ!」
 ヘルメットのレシーバーから警報音が鳴り響く。
 反射的に2機のハリアーは回避行動を取る。

 だが、遅かった。

 2機のハリアーの内、後方を飛んでいた機体に後ろからミサイルが当たり、空中で火の玉と化した。
 何とか回避したハリアーの後ろに国籍マークの無いMiG−29 ファルクラム戦闘機が3機、ぴったりと追尾してきた。
海兵隊パイロットA「こちらランサーワン、国籍不明のMiG−29に後ろに付かれた!」
 パイロットがハリアーを低空に降下させ、必死に回避行動をとる。
海兵隊パイロットA「至急、応援を求む! う、撃ってきた! 避けきれ・・・」
 回避行動もむなしく、最後のハリアーにファルクラムから発射された30mm機関砲弾が浴びせられ、火を噴きながらハリアーはジャングルに突っ込んでいった。

<空の狼(エアウルフ)、出現>

 武器マーケットから150km離れた洋上に展開した強襲揚陸艦イオージマは撃墜されたハリアーの報告を受けて慌しくなっていた。
アンダーセン艦長「状況は分からんのか!? 急いで現地に展開している指揮官と連絡を取れ!」
 イオージマを旗艦とした艦隊の指揮官でもある艦長のアンダーセン大佐がCIC(中央情報管制室)で命令を発している間も甲板ではアムラーム対空ミサイルを搭載したハリアーの発艦準備が進められていた。
 そんな騒ぎの中、レーダー要員が監視していたレーダー画像に接近してくる航空機の陰が映し出されていた。
レーダー要員「艦長、我が艦隊に航空機が拘束で接近してきます! 数は1、スピードは音速を超えています!」
アンダーセン艦長「何!? こんな時間に味方が来る予定は無いはずだ・・・まさか、敵では・・・艦隊各艦は防空戦闘の用意!」
 艦隊の駆逐艦やイージス艦が対空ミサイルのVLS(垂直発射機)をカバーを開け、何時でも発射できるようにした。
レーダー要員「待ってください! IFF(敵味方識別装置)の反応が友軍機となっています。このままのコースなら後10秒で本艦上空を通過します」
アンダーセン艦長「甲板の乗組員はまもなく本艦上空を通過する航空機を報告せよ」
 数秒後、イオージマ上空を飛んでいった航空機を目撃した乗組員は自分の目を疑った。
乗組員「艦長、あれは・・・・ヘリです」
アンダーセン艦長「ヘリ? バカな、ヘリが音速で飛ぶなど・・・」
乗組員「でも、黒いヘリコプターが高速で本艦の上空を飛んでいったんです!」
 乗組員は飛び去っていく黒いヘリコプターを呆然と見送っていた。

通信兵「こちら、シー・ゴブリン・ワン。シー・ゴブリン・ツーはロイス少尉以下5名がが戦死! 至急、応援を求む!」
 悲痛な声で無線機に向かって助けを求める通信兵が隠れてるコンテナから10mほど離れたコンテナがPT−76の砲撃を受けて爆発を起こした。
リード少尉「クソ! これでは演習の的ではないか!?」
ジョージ「少尉、ここは危険です。ヘリの連中が最後の攻撃をするそうですから移動しましょう」
 ハリアーを撃ち落したテロリスト達のファルクラムは次の獲物に低空を飛ぶスーパー・コブラを選んでいた。
 たちまち一機が撃ち落され、ジャングルで黒煙の元と化すが残りのスーパー・コブラ2機が地上部隊を逃がすために装甲車群に向かって攻撃を始めた.
 密林の上を這うように飛びながらスーパー・コブラは20mmガトリング砲を唸らせ、たちまち4台のBMP−2が火を噴いた。
コブラパイロット1「ソード・ツー、3時の方向よりファルクラム! 最後の手段、使うぞ」
 一旦、武器マーケット上空を離れていたファルクラムが再びスーパー・コブラを攻撃しようと迫ってきた。
 だが、2機のスーパーコブラは逃げずに機首を向かってくるファルクラムに向けた。
コブラパイロット2「カウント3・・2・・1・・ファイア!」
 スーパー・コブラ2機は最後の手段として搭載していたサイドワインダー対空ミサイルを一斉に発射、合計で4発のサイドワインダーがファルクラムに向かって飛んできた。
 ロックオンもしないで発射したものだったがファルクラムは編隊を解いて慌てて回避、その一瞬の隙を突いて2機のスーパー・コブラは逃げにかかった。
コブラガンナー「シー・ゴブリン、スマン、弾切れだ。引き上げさせてもらうぜ」
リード少尉「ソード編隊、ありがとう。これから俺達はジャングルにトンズラだ」
コブラパイロット1「ファルクラムが爆撃コースに入ってるぞ! 逃げろ!」
 地上の海兵隊員たちが上空を見上げるとファルクラムがコンテナ群に向かって緩やかに降下して来るのが見えた。
リード少尉「総員退避! 出来るだけジャングルに逃げろ!」
 海兵隊員たちはあえてコンテナ群から飛び出しBMP−2やPT−76が撃ち出す砲弾が飛んでくる中をジャングルに向かって走っていく。
 数名が30mm機関砲の掃射を受け、その場に倒れる。
 リード少尉が倒れた兵士でまだ息のある者に駆け寄り、担ぎ上げる。
リード少尉「おい、しっかりしろ!」
海兵隊員「少尉、自分を置いて行ってください・・・」
 その海兵隊員は胸に機関砲弾の破片を受けたらしく、苦しげに呼吸していた。
 更にBMP−2から降りてきた傭兵たちがジャングルに向かって走る海兵隊員に向かってライフルを撃ち始めた。
 少尉の周りに土煙が上がる。必死に負傷者を抱えて逃げる少尉の右太股を無情にもライフル弾が貫いた。
 たちまち激痛が襲い、右足に力が入らずに負傷者共々地面に倒れこむ。
海兵隊員「少尉が撃たれた!」
ジョージ「援護しろ! ヘンリーは俺と一緒に来い!」
 ジョージと海兵隊員が一人、先にジャングルに駆け込んだ海兵隊員が援護する中を倒れた少尉たちに駆け寄っていく。
 少尉が倒れている場所の側にある窪地に少尉と負傷兵引きずり込むとその上空をファルクラムが何事も無いようにフライパスしていく。
リード少尉「クソ、フェイクか」
ジョージ「少尉、しっかりしてください!」
リード少尉「ジョージ・・・みんなを連れてヘリに乗れ。もし、ヘリが駄目なら南に・・・南に行け。50kmで海岸線に出る・・・くぅ」
 撃たれた右太股が痛むのだろう。苦痛の表情で傷口を押さえている。
ジョージ「ヘリは無事です。ですが・・・この状況じゃとても動けません」
ヘンリー「チーフ、連中がこっちに来るぞ!」
 スーパー・コブラが居なくなったのをいい事に一台のPT−76が6名ほどの傭兵を後ろに従えながらジョージ達が隠れている窪地に近づいてくる。
 ある程度まで近づくと停車して砲口をジョージ達の居る窪地に向けた。
 撃たれる・・・4人はそう思い、窪地に伏せた。
 爆発音がまた戦場に響いた。

 ジョージは未だに自分が無傷で生きてる事に驚いた。
 それどころか隣に伏せている少尉達も無事だった。
 恐る恐る窪地から頭を出すと自分たちに砲口を向けていたPT−76は無残にも炎に包まれ破壊されていた。
 突然の事だったのだろう、ジャングルで応戦していた海兵隊員と彼らと撃ち合っていた傭兵達も何が起こったのか分からない様子だ。
 呆然としているジョージ達の上空を上下に黒と白の二色のカラーリングしたヘリコプターが猛スピードで飛びぬけていく。
黒いヘリのパイロット「海兵隊、あんたの上を飛んでる。今、助けるぞ」
 ジョージの携帯無線から黒いヘリのパイロットと思われる男の声が流れる。
ジョージ「何処の何者だ!? おい、こちらシー・ゴブリン。所属不明機、答えろ!」
黒いヘリ改めAW「シー・ゴブリンか? こちらのコールサインはアルファウイスキー(AW)だ。装甲車をぶっ潰すから頭下げてろ」
ジョージ「気は確かか!? そっちはどう見てもアパッチでもコブラでも無いだろ。どう見ても戦闘ヘリじゃない! それにだ。MiGが戻ってくるかもしれないんだぞ!」
AW「いいから黙って見てろ」
 AWと名乗ったヘリは機首を装甲車に向けると白い胴体底部のポッドから続けざまにミサイルを発射し、たちまち3台のBMP−2が爆発炎上する。
 この攻撃に驚いたBMP−2の内の1台が30mm機関砲をAWに向けようとするがそれよりも早くAWの機体左右の機関砲が唸り、そのBMP−2は穴だらけになって火を吹いた。
 その様子はまるで狼が獲物を次々と狩るようで・・・まさにエアウルフ(空の狼)そのものだった。

 

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