「エアウルフ ニュー・センチュリー 〜新世紀の狼〜」第一章 その2

 

第一章 『狼、再び』

<撃破>

 自分達を追い詰めていた装甲車が次々と正体不明のヘリコプターに撃破されていくのを海兵隊員たちは呆然と見ていた。
ヘンリー「すげぇ・・・アパッチやコブラよりも強いんじゃないか?」
ジョージ「何ぼさっとしておる! 今までやられた分、やり返せ! M72があっただろ、持って来い! 衛生兵、少尉とそこに居る奴を手当てしろ!」
 ジョージに怒鳴られた海兵隊員が銃撃戦を再開した。ヘリの攻撃で勢いづいた海兵隊員は傭兵達に果敢に銃撃を加え、追い込んでいく。
 コンテナの陰に隠れた最後のBMP−2とPT−76が回り込んできた海兵隊員のM72ロケットランチャーの直撃を受けて爆発を起こし、残りの傭兵達も追い詰められるかジャングルへ殆ど逃走していった。

 黒いヘリコプター・・・エアウルフの機内ではフルフェイスヘルメットのバイザーを降ろしたパイロットが最後のBMP−2が海兵隊員によって撃破されるのを眺めていた。
パイロット「地上は海兵隊に任せても大丈夫そうだな。おい、周囲の状況はどうなってる?」
 パイロットは振り返ってフライトシステム席に座った小柄な男に訊ねた。
小柄な男「えーっと、ちょっと待ってよ。イオージマからは増援のハリアーが発進して後6分ぐらいで到着するみたいだ」
 小柄な男・・・多分、身長と声の調子からしてまだ少年と言える年齢のフライトシステム要員はイオージマとハリアーの間で交わされる無線を傍受しながら答えた。
パイロット「6分か・・・ミグが気になる。ドリス、レーダーはどうなってる?」
 ドリスと呼ばれた少年は新たに増設されたと思われるノートパソコンのキーボードを操作、パイロットの側にも増設されている小型の液晶ディスプレイにレーダー画面を出した。
ドリス「今の所は見当たらない・・・逃げたのかな?」
パイロット「おかしい・・・・下の連中から連絡が来てるはずだからこの辺りに居るはずだ」
 パイロットがもう一度液晶ディスプレイを見ると突然、エアウルフの後方にレーダー反応が現れた。
ドリス「な・・・嘘だろ!? さっきまで居なかったはずなのになんでだよ!?」
パイロット「こいつら腕がいい! レーダー切って低空をジャングルすれすれで飛んで回り込んだんだ!」
 そう叫ぶとパイロットがターボのボタンを押すとエアウルフは弾かれたように加速していく。
 警報音が鳴り響く。
ドリス「インディ、ミグがミサイルを撃った!」
インディ「レーダー照射があるか?」
ドリス「ない、レーダー波は受けてない」
インディ「フレアを発射しろ!」
 インディと呼ばれたパイロットの指示でドリスがフレアの発射ボタンを押す。
 エアウルフの側面の一部がカパっと開き、フレアが発射される。

 3機のファルクラムから発射された3発のR−60(NATOコード「AA−8 エイフィド」)対空ミサイルはしっかりとその赤外線シーカーにエアウルフのターボのノズルから出る赤外線をロックしていた。
 だが、エアウルフから発射されたフレアが燃え始めるとフレアから放射される強烈な赤外線にエアウルフを探知しきれずに迷走し始めた。
 2発のエイファドは明後日の方向へ飛んでいき、最後の1発はジャングルに突っ込んで爆発を起こした。
 フレアの効果はそれだけではなかった。
 ファルクラムがレーダーの代わりに使用していたIRST(赤外線センサー)を強烈な赤外線で目潰ししたのと同じ状態にしたのだ。
 レーダーを起動させたファルクラムは搭載された30mm機関砲でエアウルフを葬り去るべく、加速した。

ドリス「連中、ミサイル避けられて頭にきたらしいぜ。まっすぐこっちに向かってくる」
インディ「ターボ、リバーススタンバイ。ついでにミグとの距離もカウントしろ」
 ドリスがターボを逆噴射させる準備をしてファルクラムとの距離を読み上げ始める。
ドリス「2000・・・1500・・・1000」
インディ「ターボリバース!」
 ターボが逆噴射するとエアウルフはつんのめるように急制動がかかり、超音速から一気に減速していく。
 無論、この急減速で中の二人は思いっきり振り回され、体にシートベルトが食い込む。
インディ「くぅ・・・」
ドリス「うぐぅ・・・」
 だが、この動きにファルクラムのパイロットは驚いた。
 ヘリが音速を超えて飛んでいること自体、彼らにとっては常識外れであったのに目の前のヘリコプターが信じられない急制動をしたのだ。
 このエアウルフの急制動にファルクラムは対処しきれずにオーバーシュート。
 このチャンスをインディは狙っていた。
インディ「戦闘機は・・・急には止まれないぃ!」
 インディは躊躇わずに引き金を引く。エアウルフの30mm機関砲と40mm機関砲が咆哮する。
 2種類の大口径弾を受けた最後尾のファルクラムがバラバラになり、これを見た残りの2機がアフターバーナーを点火させて逃げようとしていく。
インディ「ありがとよ、狙いやすくなったぜ」
 ヘルメット内にスティンガー対空ミサイルがファルクラムをロックオンしたトーン音が途絶える事無く鳴り響くとインディは親指で発射ボタンを押した。
 エアウルフの胴体底部のADFポッドランチャーからスティンガーが飛び出し、ロックオンしたファルクラムめがけて一直線に飛んでいく。
 無論、ファルクラムのパイロットもスティンガーの発射に気がつき、フレアを発射して回避しようとする。
 だが、アフターバーナーを点火したままで旧式の囮になるタイプのフレアを発射しては無意味だった。
 スティンガーはフレアに惑わされる事無く、そのままファルクラムの後部に突き刺さり、機体の後ろ半分を吹き飛ばした。
 瞬く間に2機のファルクラムを撃墜したエアウルフであったが最後の1機はスティンガーの射程距離外に離脱していた。
ファルクラムパイロット「ここまでくればもう手は出せないはずだ」
 パイロットはヘリが搭載できる赤外線誘導ミサイルの射程距離外に逃げ切れた事で安堵していた。
 だが、狼の牙はスティンガーと機関砲だけではなかった。
ドリス「サイドランチャーオープン、ロックオンしてあるから何時でも撃てるよ」
インディ「まったく、こいつは反則だぜ。ヘリがアムラーム発射できるなんてよ!」
 ADFポッドランチャーの両脇のサイドランチャーが開くと1発のアムラーム対空ミサイルが空中に躍り出て、ロケットモーターを点火すると薄い煙を出しながら逃走するファルクラムに向かって飛んでいった。

 ファルクラムのパイロットは突然のレーダー警報に驚き、軍人時代に叩き込まれた回避行動を取った。
 機体を急旋回させ、ECM(電波妨害)装置を作動させてチャフもばら撒く。
 だが、パイロットがとっさに取った回避行動はアムラームよりも一世代前のスパロー対空ミサイルに想定したものだった。
 アムラームはチャフの作り出した偽の反応にも騙されず、ECMを受けると直ぐに別の周波数に切り替えてファルクラムに向かって飛び続けて急旋回して逃れようとするファルクラムの至近距離で爆発した。
 22kgの高性能爆薬の爆発は戦闘機にとっては致命的で爆発で飛んだ無数の破片を受けたファルクラムの右主翼は?ぎ取れ、コントロールを失って錐もみ状態になったファルクラムはそのまま密林に落下していった。

<エアウルフ飛び去る>

 地上では海兵隊員たちによって武器マーケットの周囲は制圧されていた。
 エアウルフによって装甲車が撃破された事で優勢になった海兵隊の攻勢の前にテロリスト側の傭兵達はある者はジャングルに逃走し、一部は降伏し投降した。

 負傷し手当てを受けているリード少尉の側で負傷した少尉の代わりにジョージがシー・ゴブリン・ワン小隊を指揮していた。
 ふと、上空を見ると先ほど自分達を助けてくれたヘリがこちらに飛んでくるのが見え、無線機のスイッチを押した。
ジョージ「アルファウイスキー、聞こえているか? 下はもう大丈夫だ」
 エアウルフがADFポッドや機関砲を格納した状態で武器マーケットの上空で旋回する。
インディ「こちら、アルファウイスキー。 シー・ゴブリン、そっちはもう大丈夫なんだな?」
ジョージ「ああ、くたばった奴も結構居るがもう大丈夫だ」
インディ「すまん、俺達がもっと早く来れば・・・」
 パイロットの申し訳なさそうな声を聞きながらジョージは押収した弾薬ケースに腰を下ろしながら考えた。
 こいつは言い訳で言っちゃいない・・・本当にもっと早く来れればと悔やんでいる。
 長年、海兵隊で飯を食っているジョージはヘリのパイロットがそんじょそこいらのヘボなクソ野朗ではなく、味方を見捨てないタイプの男だと確信していた。
ジョージ「気にすんな。連中が装甲車はおろか、戦闘機まで持ってるのを教えてくれなかったバカ情報部の連中が悪いんだ。帰ったらぶん殴ってやるさ」
インディ「ハハハハ・・・あんまり強くぶん殴るなよ」
リード少尉「ジョージ! そんな事をしたらどんな事になるか分かって・・・イテテテテェ!!」
 パイロットの苦笑いと注意する途中で衛生兵が巻いた包帯に痛み声を上げる少尉にジョージも思わず苦笑いする。
ジョージ「ところであんたらは何者だ? そんな凄いヘリ、海兵隊や海軍、空軍は持って無いし陸軍は論外だし・・・」
インディ「それは聞かないでくれ。俺達は単なる通りすがりの・・・そう、狼だ」
ジョージ「狼?」
 訳が分からないと首を捻るジョージ。無線にパイロットとは別の声が割り込む。
ドリス「お喋りの途中で悪いんだけどさ、海兵隊のハリアーがそろそろと到着する時間だ」
インディ「そう言う事なんで俺達は引き上げさせてもらうぜ。元気でな、海兵隊」
 エアウルフが再びターボを作動させて、東に向かって飛び去っていく。
ジョージ「行っちまった・・・」
リード少尉「彼らは何者だと思う?」
ジョージ「自分には分かりません。慌しい連中なのは確かですがね」
 入れ違いでイオージマから飛んできたハリアーが上空に到着した。
ジョージ「航空隊のバカ野朗! 今頃着やがって・・・あのヘリを見習え!」
 今頃になって到着したハリアーにジョージは拳を振り上げて悪態をついた。

 かくして、海兵隊の強襲作戦は少なからず被害を出したものの成功に終わった。
 ある一点を除いて・・・・・・

<逃げ延びた者>

 武器マーケットの戦いから数時間後、武器マーケットから50kmほど南の港町に海兵隊が強襲する直前に出発したトラックが到着した。
 トラックは埠頭に横付けされた大型のコンテナ船の側に止まるとトラックを待っていた男たちが「積荷」を慌しくコンテナ船に積み込んでいく
男1「危ない所だったな、大丈夫か?」
男2「大丈夫だ。付けられた様子も無いから問題は無いはずだ」
 トラックを運転してきた男に積み込みを監督していた男が話しかけた。
男1「積み込みはもう直ぐ終わる。そうだ、これが君の新しいパスポートだ」
 監督らしい男が偽造パスポートを渡す。積み込みが終わり、男達が船に乗り込んでいく。
男2「まったく・・・休む間もなく日本行きか」
男1「そう言うなよ。全ては教祖様の為だ」
男2「そうだな、教祖様さえ救い出せば我々のものだ」
 男達はやがて得るはずの勝利を確信し、邪悪な笑みを浮かべた。

 邪悪な者達の企みを・・・それを止める力を持つ者達はまだ知らない。

 

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