「エアウルフ ニュー・センチュリー 〜新世紀の狼〜」第二章 その1

 

第二章 『新たなる担い手』

<ホーク兄弟>

 東南アジアでのエアウルフの活躍から約一ヶ月前・・・

 
 美しき山々に囲まれた湖・・・
 その湖の丁度真ん中辺りに一隻のFPR製ボートが浮いていた。
 強化プラスチッックの船体に船外機と電動船外機を搭載したそのボートには二人の男が釣りをしている。

年上の男「クソ、また餌を食い逃げされた」
 年上らしい男が釣竿をあげると見事に釣針からは餌が消えていた。
年下の男「ここの魚は利口だからな。餌の食い逃げの連続なんか何時もの事さ」
 年下の男も釣竿を上げると釣針には餌が無かった。
年下の男「兄貴、ここのは簡単には釣れないが釣れればでかいんだ。所でリーはどうしてる?」
年上の男「2年前に空軍からNASAに移ったのは話しただろう? この前、新しい宇宙船の乗組員に選定されたそうだ」
 弟らしい年下の男の問いにそう答えて年上の男は缶ビールを飲み干した。
年下の男「あのリー坊やが今じゃ宇宙飛行士とはね・・・」
年上の男「ストリング、時間が経つのってのは早いもんだな。リーも立派な大人になって俺も歳を感じるようになったよ」

 この二人・・・・皆さんはお気づきだろうか?
 そう、かつてエアウルフを操縦したストリング=フェロー・ホークとセント=ジョン・ホークの二人だ。
ストリング「歳・・・か。ウルフで飛んでた頃が懐かしいよ」
ジョン「今はもう、あいつに乗るのは無理だな。この前、久しぶりにヘリで派手に飛んだら翌日は腕が肩より上に上がらなかった・・・四十肩だ」
 ジョンの悲しげな声にストリングは話しかけれなかった。
ジョン「最後にウルフに乗ったのは・・・そう、湾岸戦争の直前だったな。もう、10年以上もアイツは飛んでいないんだな・・・」
 ジョンはエアウルフが今も眠り続けている神の谷の方角に視線を向ける。
 それに気が付き、ストリングも同じ方向に顔を向けた。
 その方向を見ていれば今でも秘密基地の中で静かに佇み続けるエアウルフが見えるかのように思えた。
 二人はしばらくの間、無言でいた。

 静寂を破ったのは低い高度で飛んできた白いベル・ジェットレンジャーヘリだった。
ストリング「あのヘリ、どっかで見た事あるような・・・・・」
 ジェットレンジャーは二人の乗るボートの真上を飛び、湖畔のストリングの山荘の側の桟橋兼ヘリポートに着陸した。
ジョン「珍しいものだ。久しぶりのCIAからのお客さんとはな」
 ストリングは答える事無く船外機を始動させてボートは音を立てて山荘へと進みだす。

<DDO>

 二人が山荘に戻るとすでに山荘には髪の半分を真っ白にし、高級そうなスーツを身に着けた初老の黒人紳士がソファーに腰掛けていた。
ストリング「家宅侵入は通報するがその前にあんたはCIAだな?」
 ストリングに声をかけられて紳士はゆっくりと頷き口を開けた。
紳士「いかにも・・・CIA作戦担当次官のビル・クレイだ。そちらがストリング=フェロー・ホークでこちらがセント=ジョン・ホークだね?」
ジョン「ああ、そうだ・・・作戦担当次官? 聞きなれないな?」
ビル「CIAでは組織改変があってね、略してDDO(Deputy Director for Operations)で通っている。まあ、私は君たちの知るマイケル・コールドスミス・ブリッジスやジェイソン・ロックの後任と言った所だ」
ストリング「で、その後任さんが俺たちに何の用なんだ?」
クレイ「分かった、本題を話そう」
 クレイは立ち上がり、ストリング達と向き合う。
クレイ「単刀直入に言おう。エアウルフで飛んで欲しい」
ストリング「無理だな」
 ストリングはきっぱりと言い放った。
クレイ「金なら出すぞ」
ジョン「金の問題じゃないだ。よく見てくれ・・・俺達はアレを飛ばすには少し歳をとってるんだ」
 確かに歳を取ったな・・・
 二人を見て、自分の執務室で見た写真よりも老けてるのにクレイは気が付いた。
クレイ「では、エアウルフを貸してくれ。パイロットはこちらで用意させる」
ストリング「駄目だ。アレがCIAの手にあるとろくな事にならない」
クレイ「モフェド博士の件とレッドウルフの件だね? だが、どうしても1ヶ月後にエアウルフの力が必要なのだよ」
ジョン「1ヵ月後?」
 1ヵ月後と聞いてジョンが首を捻る。
クレイ「1ヶ月に東南アジアのとある国にあるテロリスト主催の武器マーケットを海兵隊が襲撃する。CIAと海兵隊の合同作戦だ。この作戦にエアウルフを参加させたいのだ」
ストリング「CIAにはゼブラが居るだろう? 連中を行かせればいいじゃないか?」
 ゼブラと聞いてクレイは怪訝そうな顔をする。
クレイ「あの馬鹿者どもはもう居ないよ。議会の特別調査委員会に今まで悪行が知られて解散させられたんだ」
ジョン「じゃあ、海兵隊だけで行ってくれって海兵隊に伝えてくれ」
 ジョンの素っ気無い言葉にクレイは力無くソファーに腰を降ろした。
クレイ「現地の情報はまだ不明な点が多い・・・武器マーケットの周囲にはちょっとした対空火器が設置されてるが海兵隊で潰せる程度だ。だが・・・もしもの時、海兵隊で対応しきれない可能性がある。失敗を繰り返したくないのだよ」
ジョン「失敗?」
 クレイは拳を握り締めて悔しそうに話し始めた。
クレイ「イランだ。79年にテヘランの大使館が占拠されて職員が人質になった事件だよ。私はカナダ人を装ってイランに入国して人質救出に来るデルタフォースの為に情報収集をした。私が送った情報を元に救出作戦が決行されたんだが私が手に入れてた情報は偽情報だったんだよ。慌てて本国に連絡した時はもう遅かった。デルタは失敗して職員たちは1年以上も人質になっていたんだ」
 二人は無言でそれを聞き、ストリングはカウンターからウイスキーのビンを取り、中の液体をグラスに注いだ。
クレイ「あの時、テヘランのアメリカ大使館前で誓ったよ・・・二度と兵士に危険な目に会わさないと・・・だから、今回の作戦の『もしも』の時の為にエアウルフが必要なのだ」
ストリング「一つ、条件がある」
 クレイの前にグラスを置くとストリングは静かに口を開いた。
ストリング「パイロットは俺達が探す。エアウルフを任せても問題ないパイロットをだ。賛成だろ、兄貴?」
ジョン「賛成さ。俺達ならCIAのヘボパイロットよりもマシなのを探せれる」
クレイ「ヘボパイロットとはな・・・」
 目の前に置かれたグラスを手に取り一気に飲み干すとクレイは苦笑し、足元に置いていたアタッシュケースを開けて封筒を四つ取り出した。
 封筒の中にはシルバーのカメラ付き携帯電話だった。
クレイ「携帯電話だ。君達二人とパイロットの分と予備の分だ」
ストリング「携帯電話ぐらい俺達で買える」
クレイ「これは最新のヴァージョン5スクランブラーが内蔵されていて盗聴はCIAかNSAでも無い限り不可能と言う代物だ。普通では売ってないから無くすな。おっと、失礼」
 着信音が流れるとクレイは上着のポケットから自分の携帯電話を取り出し、通話ボタンを押した。
クレイ「私だ。うむ・・・わかった、出来る限り早くそっちに行く」
ジョン「急用か?」
 通話を終えたクレイにジョンが訊ねる。
クレイ「東欧情勢の説明を会議でしろだと。私はこれで失礼させてもらうよ」
 そう言い、アタッシュケースを持って戸口から出ようとして最後に振り返って「頼んだぞ」と言い残すとCIA作戦部門の長は山荘を後にした。

<選定>

 二日後、二人は麓の町のレストランで昼食を取りながら頭を悩めていた。
ストリング「こんなに探したのに見つからないとは・・・」
 クレイが去った後、自分達の知り合いを粗方当たったのだが結局適任者を見つけることは出来なかったのだ。
 流石にここまで見つからないとは想像していなかったらしく、二人の顔にも焦りの色が見えていた。
ジョン「後、誰が居たっけ?」
ストリング「兄貴と一緒にエアウルフに乗っていたマーク・リーバースは?」
ジョン「ダメだ、マークも歳だから・・・」
 そこまで言いかけて重要な事を思い出した。
 それは本人でも何でもっと早く思い出さなかったのか不思議に思えるほど重要だった。
ジョン「マークは空軍士官学校の校長をしてるんだった! あいつなら空軍に顔が利くし腕のいい連中も知ってるのに何で最初に思い出さなかったんだ」
ストリング「何でもっと早く思い出さないんだよ」
 ストリングが呆れてる前でジョンはクレイから渡された携帯電話を取り出し、電話帳に書かれた士官学校の番号をプッシュした。

マーク「ジョンか? 久しぶりじゃないか」
 久しぶりのジョンからの電話にマークはコロラド・スプリングス空軍士官学校の校長室で懐かしさを感じていた。
 かつてジョンと共にエアウルフを駆ったマーク・リーバースも月日が流れて少将の階級章を付ける身分までに昇進していた。
マーク「そっちは元気か? こっちは無茶しようとすると秘書や教官たちに止められて退屈で余計に歳を取りそうだ」
ジョン「元気とは言いがたいね。四十肩で肩がイヤと言うほど痛むんだ」
マーク「ハハハ、それはご苦労なこった」
 ジョンの歳を感じさせる声に苦笑しながらマークは校長室の窓から校庭を見た。
 校庭では20人ほどの候補生たちがランニングをしていた。
マーク「ホント、若い頃が懐かしいもんだ・・・」
ジョン「感傷に浸ってる所で悪いんだが本題に入らせてもらう。ウルフを・・・」
マーク「ウルフをまた飛ばすのか!? 何時なんだ? 今すぐにでもそっちに行くぞ!」
 ウルフと聴いた瞬間、マークは興奮したような声を上げた。
 興奮するのも無理も無い、校長では乗れるのは練習機が関の山だ。
ジョン「話しは最後まで聞け。ウルフを飛ばせられるパイロットを探してるんだ」
マーク「何だ・・・そんな事か」
 ジョンの返答を聞いてマークは落胆の声を漏らす。
ジョン「お互い無茶をするには歳なんだ。今のウルフには・・・自分でも言いたくは無いが若い連中が必要なんだよ」
マーク「分かった・・・俺の知り得る限り、空軍で一番ヘリの操縦が上手い連中といったら第16特殊作戦航空団の第20特殊作戦飛行隊だな」

 

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