『80’sハンターズ』 第2話 1987年

BY ガース『ガースのお部屋』

「1987年」

○ 後楽園球場前(夕方)
  「1987年 9月12日 土曜日」
  黒い雲が空を覆い、今にも雨が降り出しそうな天気。
  会場に入れなかった大勢の観客達が建物の周りを囲んでいる。
  観客の中に紛れ込んでいる高賀麗次(25)と、根村沙里香(17)。
  球場内から「スリラー」の演奏とマイケルの「ポウ」の叫び声が漏れ聞こえてくる。
  ワンレン・ボディコンの女性達が熱狂的な喚声を上げて踊っている。
  それを見て圧倒される麗次。
  観客の群れから離れ、階段に座り込む麗次と沙理香。
麗次「もうすぐ解体されるんだっけ、ここ」
沙里香「跡地には、東京ドームシティやホテルがたくさん建設されてますよ」
麗次「それにしても、この人達いつまでここにいるつもりなんだろ?」
沙里香「コンサートが終わるまでいるに決まってるじゃないですか」
麗次「こいつは凄いぜ・・・」
沙里香「それより、早くバグルを見つけないと」
麗次「ほんとにいるのかな・・・」
沙里香「絶対来るって言ってましたよ。マイケルに詳しい人が」
  麗次、苦い顔になる。

○ 後楽園球場近く・大通り
  三車線の道路をひっきりなしに走る車。
  道路脇に止まる白のスカイラインR31・2ドアスポーツクーペ。
  運転席に座る磯山光雄(39)。
  グラサンにジーパン。MA―1のジャンバーを着ている。
  カーステレオのスピーカーから『BaBe』の「アイ・ドゥ・ノウ」が流れている。
  貧乏揺すりをして、イライラしている光雄。
  光雄、おもむろにズボンのポケットから財布を取り出す。
  財布から一枚の写真を出し、ジッと見ている。
  写真には、息子の裕司(2)が写っている。
光雄「元気しとるか。我が子よ」
  光雄、ジャンパーから出したタバコをくわえる。
  ポケットを探り、ライターを探すが見つからない。
  仕方なく、車のシガーライターをオンにする。
  運転席のドアの窓をノックする男の手。
  光雄、ウインドウの開閉ボタンを押し、窓を開ける。
  警備員の男が光雄と顔を合わす。
警備員「ここ、駐停車禁止なんで。移動してください」
  グラサンをはずす光雄。
光雄「あと5分で出ますから」
警備員「他の車も止まっちゃうんで申し訳ないけど」
光雄「もうすぐ戻ってくるんやけど・・・彼女が・・・」
警備員「あの交差点を左に曲がったところに駐車場があるからそこに止めてください。
 相手の方には、僕が責任持ってお伝えしますから」
光雄「どうしても駄目ですか・・・」
  頷く警備員。
  光雄、しぶしぶ頭を下げ、窓を閉める。
  走行車線に出て、走り去って行く光雄のスカイライン。
  その様子を見守る警備員。不敵な笑みを浮かべる。
  警備員の両目が紫色に光る。警備員は、バグル。

○ 後楽園球場前
  階段に座る麗次と沙理香。
  ハンカチで顔の汗を拭いている。
麗次「みっさんは?」
沙里香「車で球場の周りを張っているみたいです」
麗次「自分だけ冷房の効いた涼しい車の中かよ」
沙里香「高賀さん免許持ってる?」
麗次「ないけど」
沙里香「私、18になったら一度未来に戻って普通免許取ろうと思っているんです」
麗次「なんか乗りたい車があるの?」
沙里香「いや、とくに。いざと言う時に移動手段があると便利だし。この仕事にも使えるでしょ?」
麗次「現実的だね・・・」
  遠くで女の悲鳴が聞こえる。
  走り出す麗次と沙理香。
    ×  ×  ×
  球場裏の出口から警備員の男(バグル)が出てくる。
女の声「泥棒!」
  黒いスーツを着た黒人と白人のSPがバグルを追う。
  走るバグル。走りながら帽子と制服を脱ぎ、盗んだマイケルの黒いマントで身を包んで姿を消す。
  立ち止まるSP。
  不思議そうに辺りを見回している。
  SPの様子を見て立ち止まる麗次と沙理香。
沙理香「あーもう。駄目みたい」
麗次「何やってんだよ、みっさん・・・」

○ 駐車場
  奥のスペースに止まっているスカイライン。

○ スカイライン車内
  シートを倒し、眠っている光雄。
  ステレオから瀬川瑛子の『命くれない』の曲が流れている。

○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所
  ソファに座り、『サラダ記念日』の本を読んでいる沙理香。
  沙理香の後ろに立っている光雄。
  申し訳なさそうな表情。
沙理香「被害物件は?」
麗次「どうやら、盗まれたのは、マイケルがコンサートで使用するはずだった黒いマントだけみたい」
  隣の部屋から聞こえるピコピコ音。
  机の上のモニターの前に座り、ファミコンをしている麗次。
  コントローラーを持ち、「火の鳥 鳳凰編」をプレイしている。
沙理香「これで何度目ですか?」
光雄「多分、3度目くらい」
  突然、大きな音を立て、本を閉じる沙理香。
  びくつく光雄。
  麗次も驚いて、コントローラーを落とす。。
  ファミコンの画面がフリーズ。
麗次「うお、バグッた・・・なんだよ、おい」
沙理香「凡ミス5度目です」
  立ち上がる沙理香。ムスッとした表情で光雄のそばから離れていく。
  振り返る麗次。光雄と目が合う。
  光雄、救いの眼差し。
  麗次、無視してゲームを続ける。
   ×  ×  ×
  数時間後。
  ソファでくたびれている光雄。
  天井に張っているマドンナのポスターを見て、ニヤニヤしている。
  キッチンのテーブルの前に立つ麗次。
  カルピスの原液をコップに入れ、水を注いでいる。
光雄「やっと飯に行ってくれて助かった」
  光雄の隣に座り、カルピスを飲む麗次。
光雄「どうやった?マイケルのコンサート?」
麗次「どうやったって言われても・・・球場の中にいたわけじゃないし」
  ため息をつく光雄。
光雄「やっぱ見たかったなあ・・・」
  テレビのリモコンのチャンネルを変える麗次。
  テレビ画面に「おニャン子クラブ解散」の映像が一瞬映る。
麗次「そう言えば、どこから仕入れてきたんですか?バグルの情報・・・」
  テレビ画面。ヘッドホンをつけた猿の映像。ウォークマンのCMが流れている。
光雄「どの時代にもいるんや。俺たち以外にもバグルの行動を探っている奴がな。時の情報屋や」
麗次「時の情報屋?」
光雄「元は、バグルの下で働いてた奴らなんやけど、バグルに嫌気を刺して、80年代に逃げ込んだ奴がいるんや」
麗次「つまり、裏切り者ですか」
光雄「簡単言うとな。で、俺は、そいつを見つけ出して、匿ってやる代わりに、バグルの情報をそいつから聞き出すってわけ」
麗次「でも、その人達は、どうやってバグルの情報を入手しているんですか」
光雄「俺も気になって前に聞いた事があるんやけど、教えてくれんかった。何か秘密のルートがあるんやろな」
  玄関のFAXつき電話が鳴る。
  麗次、電話の前に行き、受話器を上げる。
麗次「もしもし・・・あっ、どうも、お久しぶりです。はい。わかりました。伝えておきます」
  受話器を置く麗次。
光雄「誰?」
麗次「三木さん。時流パルスに反応があったみたいです」
光雄「バグルのやつ、また未来人を送り込みやがったか」
  届いたFAXのペーパーを破り、目を通す麗次。
麗次「名前は、池川拓也27歳。東京立川出身。高校卒業後に飲料メーカーの製造部に就職。
 しかし、半年前に辞めて、今は、ニート生活・・・」
光雄「また、ニートか・・・」
麗次「まだなんか書いてある。池川拓也は、2014年から1987年に送り込まれた。
 原宿付近で平日、未来の品物を売り捌いている模様・・・だって」
光雄「2014年か・・・」

○ 繁華街(二日後)
  原宿通りを歩く麗次と光雄。二人ともグラサンをかけている。
  おしゃれな店から「おニャン子クラブ」の「ウェディングドレス」の曲が聞こえてくる。
  髪は、ストレートやワンレン、スレンダーで小麦色の肌をしたOLや、セーラー服を着た女子高生達、
  ツーブロックの髪型をした青年達が歩いている。
  目の前を通り過ぎる女子高生を見ている麗次。
光雄「何ジロジロ見とんねん」
麗次「清楚な感じ女の子が多いですね、この時代は・・・」
光雄「さっきの子、ゴクミっぽいよな」
麗次「五組?」
光雄「後藤久美子」
麗次「あーなんか聞いたことある。F1レーサーと結婚した人でしょ」
光雄「おいおい、この時代のやつにそんなこと絶対言うなよ。まあ、誰も信じんやろうけど」
  麗次、前方から来る二人組の女子高生が手に持つ物を見つめる。
麗次「みっさん、あれ」
  麗次、右側の女子高生が持っているDVDを指差す。
  女子高生達の前に立ち塞がる麗次と光雄。
光雄「君ら・・・ちょっと」
  立ち止まる女子高生達。
  光雄、女子高生からDVDを取り上げる。
女子高生A「何すんのよ」
光雄「ごめんごめん。これ、どうしたの?」
女子高生B「駅前の路上販売で買ったの」
光雄「いくらで?」
女子高生A「2000円」
  光雄、財布から4000円を出す。
光雄「じゃあ、その倍出すから、これ売ってくれる?」
  考えている女子高生達。

○ 原宿駅前
  シートの上にDVDやCD、お菓子や飲料水などを置き、販売している青年・池川拓也(27)。
  髪型はソフトモヒカン。ゼブラ柄のブルゾンを着ている。
  若者達が集まり、物珍しげに品定めをしている。
拓也「未来にあるかもしれない珍しい商品が一杯だよ。しかもお安い値段で販売中だ。
 よってたかって見てらっしゃい。そして買ってちょうだい」
  DVDを手に取る光雄。隣に立つ麗次。
光雄「これは、何が入ってるの?」
拓也「未来にはあるかもしれないディスク。CDは音楽だけど、それには、なんと映像が収録されてる。
 しかも、誰も見たことがない2時間の映画が入ってるの」
光雄「このロボコップ、リメイク版のほうやないか。おまえ、この時代では、まだオリジナルも公開されてないんやぞ」
麗次「へえ。ロボコップ、リメイクされるんだ・・・」
  怪訝な表情で二人を見る拓也。
拓也「あんたら、何者?」
光雄「お前と同じ。未来人や」
  拓也、焦った表情で、逃げ出す。
光雄「高賀君、この商品片付けといてくれ」
麗次「あ、はい」
  走り出す光雄。
  柴田恭兵の「ランニング・ショット」の曲が鳴り出す。

○ 駅前・繁華街
  雑踏を割いて、必死に走る拓也。
  横断歩道を渡る。
  拓也の後を追う光雄。苦しそうな顔で走っている。

○ 歩道橋
  走る拓也。
  前から来た会社員とぶつかって、勢い良く転ぶ。
  左足の踝を押さえ、苦痛の表情の拓也。
  しばらくして、光雄が走ってくる。
  拓也に追いつく光雄。拓也の腕を掴む。
光雄「一緒に来てもらうぞ」
拓也「何なんだよ、おっさん」
  光雄、ジャンバーから名刺を出し、拓也に見せる。
光雄「わかったか」

○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所
  机の上にダンボールを置く麗次。
  ダンボールを開け、中の物を出していく。
麗次「DVDに週刊誌、飲料水にお菓子に・・・AKBのCDまで・・・」
  机の上に品物を並べていく麗次。
  麗次の前にやってくる沙理香。
  机の上に置いてある衣装を持ち、
沙理香「何かのコスプレみたいですね」
麗次「ワンピースのトラファルガーだよ、それ」
沙理香「さすが。でもこれ、全部回収できたんですか?」
麗次「駅の前で売り出してた物は全て。売った分がどれぐらいあるのか、今、みっさんが聴取してるよ」

○ 同・洋室
  テーブルの前に向かい合って座っている光雄と拓也。
  拓也、腕を組み、不貞腐れている。
拓也「警察でもないのに、偉そうに」
光雄「お前のやったことは犯罪行為に等しいんや。わかるか?」
拓也「俺だけじゃないだろ。他にもたくさんいろんな時代に行って商売している奴がいるって聞いたぜ。ただそれに乗っかっただけなのに」
光雄「それがあかんていってるんや」
拓也「もういいよ。早く元の時代にもどしてくれよ」
光雄「女子高生にぬいぐるみ一つ、会社員の男にプレステ一台、小学生に3DSのソフト2枚・・・これで全部か?」
拓也「そんなもんかな」
光雄「ハードもないのにソフトだけ売るとか。あこぎなマネしやがって」
拓也「だってみんな珍しがって買ってくれるし。買った奴にも責任があるでしょ?」
光雄「俺達はな、時の監視人として、委託を受けてるんや。あまりにも手に負えんあくどい人間には、存在を抹消する権利を行使できるんやぞ」
拓也「やってみろよ。どうせ生きてたって何にも楽しくないし」
光雄「おまえ、今、西暦何年か知ってるか?」
拓也「1987年だっけ」
光雄「ちょうどお前が生まれた年や」
拓也「・・・」
光雄「ずっと立川に住んでたらしいな。ちゃんと就職もできたのに、何が気に入らんかったんや」
拓也「一生あんなところにいるのが嫌になったっていうか・・・怖くなったって言うか・・・」
光雄「実は、俺も大阪の車の工場に十年ほど勤めたんやけど、景気が悪くなって経費削減でリストラされたんや。
 でも俺は、車が好きやから、また車関係の仕事見つけたるぞとおもて東京に来たんや」
拓也「なのになんで、時の監視人やってるの?」
光雄「色々あってな」
拓也「ああ、あのダサい車に乗りたかったのか」
光雄「しばくぞ、こら!」
拓也「あんた、名前は?」
光雄「何やいきなり・・・」

○ 同・リビング
  ソファに座り、テレビを見ている麗次。
  リモコンを持ち、チャンネルを何度も変えている。『3時のあなた』のワイドショー番組の『石原裕次郎 追悼特集』が映る。
麗次「どこも裕次郎だね・・・」
  テーブルの前に立つ沙理香。
  机のものをダンボールに詰め込んでいる。
沙理香「2ヵ月前に亡くなったばかりですからね」
  テレビ台の中にあるビデオデッキの時計を見る麗次。
  時間は、「3:15」を表示している。
沙理香「いつまで休憩してるんですか。早く手伝ってください」
麗次「ああ、ごめん」
  立ち上がる麗次。
  光雄が部屋に入ってくる。
光雄「あいつになんか冷たいもんやって沙理香ちゃん」
沙理香「今忙しいんです。自分でどうぞ」
光雄「へいへい」
  冷蔵庫の前に行く光雄。扉を開け、メローイエローの缶を出している。
麗次「バグルのことなんか聞けました?」
光雄「会ったのは、2014年の7月18日。コンビニの駐車場で声をかけられたそうや」
  缶の蓋を開け、メローイエローを飲み始める光雄。
光雄「交渉時間は、30分程度で即日この時代に送り込まれたそうや。
 その時、パソコンの話をしたらしくてな。マンハッタンシェイプがどうこうのと・・・」
麗次「なんですかそれ?」
  光雄、メローイエローを一気飲み。もう一缶をジャンバーのポケットに入れる。
  沙理香のそばに立ち、机の上に置いてある2014年の週刊雑誌を読み始める光雄。
光雄「沙理香ちゃん、知ってる?」
沙理香「ああ・・・X68000とか言うパソコンのことですか?」
麗次「じゃあ、バグルのやつ、パソコンを・・・」
光雄「明日のお昼の2時にバグルと会う約束をしてるそうや」
麗次「その時がチャンスですね」
  光雄、ページをめくり、突然、声を上げる。
麗次「どうしたんですか?」
光雄「嘘やろ・・・」
  沙理香、光雄から週刊誌を取り上げる。
沙理香「2014年の週刊誌ですよ。未来のこと知り過ぎると、私達の存在も消されちゃいます」
  週刊誌をダンボールにつめ、隣の部屋に持っていく沙理香。
光雄「うわあ・・・ショックや。俺の青春のやーやーやーが・・・」
男の声「もしかして、あんたら、俺がいた時代よりも古い時代から来たの?」
  振り返る光雄。
  部屋の入口に拓也が立っている。
麗次「俺達、2010年から来てるんだ」
拓也「へえ。じゃ佐村河内とか小保方とか号泣議員の騒動も知らないんだ」
光雄「さむらごーち?」
拓也、冷蔵庫の前に行き、扉を開ける。
拓也「何にもねーな」
  冷蔵庫の上に置いてある『電光姫士マーブル』のフィギュアを手に取る拓也。
拓也「なんでこんなところにマーブルが・・・」
  麗次、慌てて拓也からフィギュアを奪い取る。
麗次「俺のだよ。触るな・・・ってマーブル知ってるの?」
  苦笑いする拓也。
光雄「おい」
  光雄、メローイエローの缶を放り投げる。
  キャッチする拓也。
拓也「俺、炭酸苦手なんだけど」
光雄「贅沢言うな」

○ 渋谷・繁華街
  コインパーキングに入る光雄のスカイライン。

○ スカイライン・車内
  駐車スペースに停車する。
  運転席に光雄。助手席に麗次。後部席に拓也が座っている。
  タバコを吸っている光雄。
  麗次、光雄が吐く煙を吸い込み、咽ている。
麗次「本当に来るんですかね、バグルのやつ」
拓也「俺が嘘ついてるっていうのか?」
光雄「こいつ信じるしかないやろ」
  光雄、カーステレオの時計を見る。
光雄「2時まであと10分」
  拓也、不貞腐れた表情。
光雄「この作戦が成功したらちゃんと未来に送り返してやるから。バグルに余計なこと喋るなよ。わかったな」
拓也「わかってるって」

○ コインパーキング
  車から降りる麗次。その次に拓也が降りる。
  拓也、面倒臭そうに、鼻を掻いている。

○ スカイライン・車内
  外にいる麗次に手招きをする光雄。
麗次「なんですか?」
  小さい声で麗次に話す光雄。
光雄「あいつの靴の裏に発信機を仕込んどいたから。万が一逃げ出しても心配ない」
麗次「ふー良かった。ちょっと不安だったんですよ」
  光雄、後部席に置いていたカメラケースを取り、中からVHS―Cビデオムービーカメラを取り出す。
光雄「これでバグルを撮影するんや」
  光雄、カメラを麗次に手渡す。
麗次「これちょっと・・・目立ちません?」

○ 渋谷・喫茶店・外景
  窓際のテーブルに座る拓也。
  車道を挟んで向こう側の歩道に立つ麗次。
  喫茶店の様子を見ている。
  しばらくして、拓也のテーブルの前に、リーゼントの頭にサングラス、黒い革ジャンを着た男が現れる(バグルの変装)。
  ビデオカメラを構え、録画ボタンを押す麗次。無線機に話しかける。

○ スカイライン・車内
  運転席でタバコをふかす光雄。
  カーステレオからTMネットワークの「ゲット・ワイルド」が流れている。
  助手席に置いてある無線機から麗次の声が聞こえる。
麗次の声「みっさん、みっさん!」
  慌ててタバコを灰皿でもみ消す光雄。
  無線機を持つ。
光雄「来たか?」

○ 渋谷・喫茶店前
  ビデオカメラを構えながら、無線機で応答する麗次。
麗次「頭がとんがった、いかつーい男と喋ってます」
光雄の声「バグルが変装してるかもしれん。絶対目を離すな」
麗次「ちょっと待ってください」
光雄の声「どないした?」
麗次「二人が店を出ます」

○ スカイライン・車内
麗次の声「今、表に出ました。あっ、車に乗るみたいです」
  光雄、慌てて、サイドブレーキを下ろし、車を発進させる。

○ 渋谷・喫茶店前
  店の前に止まるシルバーの日産シルビアに乗り込むバグルと拓也。
  そのまま走り去る。
  暫くして、麗次の前に光雄のスカイラインがやってくる。
  車の助手席に乗り込む麗次。
  発進するスカイライン。

○ スカイライン・車内
  シルビアの後ろを少し距離を開けて走っている。
麗次「どこにいくつもりなんだろ」
光雄「今、青山通りやろ。この先には、皇居と国会議事堂があるけど」
麗次「国会議事堂に行って、政治家の人達に未来のものを売りつける気じゃ?」
光雄「あいつが持ってきたものは、全部回収したんやし、それはありえん」
麗次「じゃあ、総理と記念撮影?」
光雄「この時代の総理誰か知ってるんか?」
麗次「竹下なんとか・・・」
光雄「うお、おしい。まだ中曽根さんや」
麗次「80年代後半は、竹下さんて聞きましたけど・・・沙理香ちゃんに」
光雄「沙理香ちゃん、時々アバウトやからな」
麗次「じゃあ、竹下さんは?」
光雄「二ヵ月後に中曽根さんが後継を指名して竹下内閣ができるんや。消費税を導入したふざけたやつや」
麗次「ああ、消費税決めた人か・・・」
光雄「来年には、リクルート事件も発覚するし、あんまり良いイメージないわ」
麗次「二年しか続かなかったらしいですね」
光雄「でも、その次の内閣は、もっと短くて最低やったけどな・・・」

○ 国会議事堂前
  横切るシルビア。そのあとすぐスカイラインも通る。

○ 中央通り
  銀座付近の道路を走るシルビア。その後を追うスカイライン。

○ スカイライン・車内
麗次「銀座に出ましたね」
光雄「この先は、日本橋やろ」
麗次「ということは・・・」

○ 秋葉原
  中央通りを走るシルビア。
  道路脇に車を寄せ止まる。
  車から降りる拓也。
  そのまま、電気街のほうに歩き出す。
  拓也を降ろした後、すぐに発進するシルビア。
  しばらくして、光雄のスカイラインがやってくる。道路脇に止まる。

○ スカイライン・車内
光雄「バグルの車を追うからあいつ頼む」
麗次「はいよ」
  急いで車から降りる麗次。
  麗次が降りると、急発進するスカイライン。

○ 秋葉原・電気街
  人ごみの中を歩いている拓也。
  拓也から数十メートル後方を歩く麗次。
  ある店舗ビルの前で立ち止まる拓也。
  拓也の脳裏にバグルの言葉がリフレインする。
バグル(N)「黒豚どもの情報を逐一知らせて欲しい・・・」
  顔を見上げると、店舗の中に入って行く。
  同じく店舗の前に立つ麗次。看板を確認する。
  『ソフマップ』と書かれている。

○ 中央通り
  激しく車線変更しながら、前の車を抜いて走るシルビア。
  シルビアの後を必死に追うスカイライン。
  目の前の信号が赤に変わる。
  シルビア、突然、左車線に移り、ドリフトぎみに左折する。
  スカイラインも大きく膨らみながら左に曲がる。

○ 市道
  スピードを上げるシルビア。
  シルビアの後方にぴったりついて追うスカイライン。

○ スカイライン・車内
光雄「くそ、完全に喧嘩売っとる」
  シルビアがおちょくるように蛇行走行している。
光雄「おもろやないか?やったるで」
  アクセルを踏み込む光雄。
  高鳴るエンジン音。

○ ソフマップ・店内
  横一列に並べて置かれている最新型のパソコン。
  一台ずつ入念に見ている拓也。
  ある機種の前で立ち止まる。
  『]68000 マンハッタンシェイプ』
  と書かれたポップをじっと見ている拓也。
  拓也のそばに近づいてくる店員。
店員「いらっしゃいませ。最新機種をお探しですか?」
  拓也、マンハッタンシェイプを指差し、
拓也「これ・・・欲しいんだけど」
店員「マンハッタンシェイプですね。在庫のほうはございますんで、では、こちらのほうへ・・・」
  拓也、パーカーのポケットから銃を出し、店員に向ける。
  思わず両腕を上げる店員。
拓也「ついでに軽トラ、用意してくれます?」
  拓也の背後に近づく男の影。男、拓也の拳銃を素早く取り上げる。
  振り返る拓也。
  目の前に麗次が立っている。
麗次「おい、マジでこんなことしてどうすんだよ」
拓也「おまえ・・・」
  店員に頭を下げる麗次。
麗次「どうもすいません。こいつとゲームで賭けをして、負けたほうが最新型のパソコンを買うって話なってつい・・・」
店員「いたずらにしちゃ度が過ぎるよ。とりあえず、警察呼ぶから」
麗次「勘弁してください。(銃を見せ)これ、ただのモデルガンだし。シャレがわかんないですよこいつ」
  拓也の頭を押し、無理矢理頭を下げさ せる麗次。

○ 高架を走る0系新幹線

○ 新幹線高架下沿い
  橋の柱の前で対峙する麗次と拓也。
麗次「事件なんか起こして捕まったら元の時代に戻れなくなるんだぞ」
拓也「バグルにパソコンショップに行って、マンハッタンシェイプ盗めって言われたから」
麗次「ことわれよ」
拓也「俺さ、小中高で全く信用できる友達ができなくてさ。でも、あいつは、違うんだ。
 あいつの話面白いし、なんか友人みたい思えてきて・・・」
麗次「そうやって何人もの未来人を利用して、用が済んだら平気でポイする男だぞ」
拓也「バグルは俺に希望をくれたんだ」
麗次「希望って・・・」
拓也「あんた・・・名前は?」
麗次「えっ?高賀麗次だけど・・・」
拓也、突然、麗次に腹パン。
  麗次、その場に倒れ、蹲る。
  走り去る拓也。

○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所
  玄関の扉が開く。
  慌てて部屋の中に入って行く光雄。
光雄「高賀くんは?」
  デスクでワープロを打っている沙理香。
沙理香「帰ってませんけど。一緒じゃなかったんですか?」
光雄「見つけたんや。バグルを・・・」
沙理香「本当ですか?」
光雄「でもあいつ、俺よりドライビングテクニックが凄くて、その・・・」
  鼻で笑う沙理香。
光雄「あっ、何その笑いは?」
沙理香「要するに、逃がしたんですね」
光雄「高賀君が秋葉原で拓也を尾行してるはずなんやけど」
  立ち上がり、ソファに置いていたショルダーバックを肩にかける沙理香。
沙理香「探してきます」
  慌てて沙理香の前に立つ光雄。
光雄「ちょっとお願い事が・・・」
沙理香「この間の二万円、まだ返してもらってませんけど」
光雄「バグルの車追ってた時、前のタイヤがパンクしてん。今JAFに運んでもらってるんやけど。
 これってさ、仕事中の事故やから、経費で落ちるよね?」
沙理香「駄目です。あの車は、うちの正式な活動車じゃないし、みっさんの趣味でしょ」
光雄「いけず」
  
○ JR秋葉原駅前
  乗車券売り場の付近をうろついている拓也。
  立ち止まり、路線図を確認している。
  後ろから女の声が聞こえる。
女の声「あっ、さっきの人」
  振り返る拓也。
  セーラー服を着たロングヘアの女子高生・中山里美(17)が立っている。
拓也「えっ?」
里美、鞄の中からふなっしーのぬいぐるみを出し、
里美「これ買ったの。原宿駅の前で露店出してた人でしょ?」
拓也「・・・覚えてたの?」
  里美、拓也の髪を指差し、
里美「その髪型。珍しいからすぐわかった」
  拓也、髪をいじり、
拓也「ああ、これ?」

○ 秋葉原駅前・タクシー乗り場
  辺りを見回しながら歩道を走る麗次。
  立ち止まり、改札口のほうを見つめる
  拓也と里美が楽しそうに会話しながら、改札を潜っている。
麗次「あいつ・・・」
  急いで改札口に向かう麗次。

○ 山手線・205系・電車内
  走行中。
  座席の端に座る拓也と里美。ゲラゲラと談笑している。
  少し離れた扉前に立っている麗次。
  ちょっと羨ましそうに二人を見ている。

○ 博物館動物園駅前
  改札を抜けて、歩道を歩く拓也と里美。
  その後を追う麗次。

○ 上野動物園・東園・パンダ舎
  木登りをしているジャイアントパンダのトントンを見ている拓也と里美。
  少し離れた場所で二人を見ている麗次。
麗次「未来のことベラベラ喋ってるんじゃないだろうな・・・」
  麗次の後ろから聞こえる女の声。
女の声「楽しそうですね。あの二人・・・」
  振り返る麗次。
  麗次の横に沙理香が立っている。
麗次「おお、沙理香ちゃん・・・」
沙理香「池川さんの靴の発信器の信号を辿ってきたんです」
麗次「あいつ、女の子ナンパして、さっそくデートだよ。いい気なもんだ」
  沙理香、突然、麗次と腕を組む。
沙理香「仕事の一環ですから。勘違いしないでくださいね」
麗次「わかってるよ」
  麗次、まんざらでもない様子。
  
○ 同・正面ゲート付近
  楽しそうに歩く拓也と里美。
里美「親には、クリーニング店引き継げって言われてるんだけどさ、私向いてないかも」
拓也「なんで?」
里美「失敗ばかりしてるもん。この間もアイロンかけてる時にお客さんの作業服の襟焦がしちゃうし・・・」
拓也「失敗なんて誰でもやるよ」
里美「スチュワーデスになろうかな」
拓也「スチワーデス?キャビンアテンダントのこと?」
里美「えっ?」
拓也「あ、いや何も・・・」
里美「海外に行って、ハイエナとかソマリライオンとか、日本では見られない動物に会うのもいいかな」
拓也「いい夢持ってるじゃん」
里美「でも、本当はまだよくわからないんだ。何がやりたいのか・・・」
拓也「パソコンとか・・・興味ないの?」
里美「パソコン?」
拓也「きっと将来、その分野が急成長してると思うよ」
里美「池川さん、何の仕事してるんですか?」
拓也「俺?俺は・・・印刷・・・いや、玩具メーカーで働いてるんだ」
里美「凄い。どんなもの作ってるの?あのぬいぐるみ作ったの、池川さんなの?」
拓也「まあね・・・あっ、俺ちょっと電話かけてくる」
  拓也、財布の小銭入れを調べる。小銭が全く入っていない。
  里美、財布の中からトントンのテレホンカードを出す。
  テレカを見つめる拓也。
里美「これ使って」
拓也「これ・・・」
里美「いいの。もう一枚あるから」
  テレカを受け取る拓也。
  拓也、売店の前の公衆電話に向かって走り出す。

○ 売店前
  緑の公衆電話にテレカを入れ、電話番号を押す拓也。
  暫くして電話がつながる。
拓也「あっ、もしもし。池川です。ええ。もう一人もわかりましたよ。高賀麗次・・・」

○ 新宿・下町(夜)
  歩道を歩く拓也と里美。
  クリーニング店の前に止まる二人。
  里美、手を振り、店の中に入って行く。
  拓也も手を振り、そのまままた歩き出す。
  拓也の進路を阻むように二人の人影。
  立ち止まる拓也。
  目の前に麗次と沙理香が立っている。
拓也「おまえら・・・」
麗次「昼間っから女子高生とデートとか。お金でもやったのか?」
拓也「JKお散歩みたいに言うな」
沙理香「じぇいけーおさんぽ?」
  拓也、慌てて逆方向へ向かって逃走。
  追いかけようとする麗次を止める沙理香。
麗次「何すんの、逃げられちゃうよ」
  沙理香、ショルダーバックから短銃を出し、拓也に向けて撃つ。
  拓也の背中に針のようなものが刺さる。
  拓也、前のめりに倒れる。
  愕然とする麗次。
麗次「何その新しい武器?」
沙理香「これ、パルスガン。一種の電気銃です。針に電流が仕込まれていて、当たると軽いショックを与えるんです」
麗次「ドラえもんの道具みたい・・・」

○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所・洗面所(翌日・朝)
  寝起きの麗次。あくびをしながら洗面台の前に立つ。
  鏡を見つめ、髪をいじる麗次。
  後ろの風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。
  麗次、風呂場でシャワーを浴びている沙理香に気づき、慌ててその場を離れる。

○ 同・リビング
  パジャマを着た沙理香。濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に入ってくる。
  ソファに座り、ビデオデッキにテープを差し込もうとしている麗次。
  沙理香、冷蔵庫を開け、中からチェリオのメロンソーダを出す。
沙理香「何してるんですか?」
麗次「昨日撮ったビデオ確認しようと思ってるんだけど・・・このビデオ、電源入らないよ。潰れたのかな?」
沙理香「ああ、それ、予約解除しないと。前にみっさんが中島のナマの走りを見るんや、とかいってF1を録画してたんですよ」
  麗次、ビデオを操作し、テープを入れ替える。
  メロンソーダを飲み始める沙理香。
麗次「朝からシャワー浴びるんだ」
沙理香「ああ。朝シャンのことですか?ちょっとやってみたかったんです」
麗次「この時代に来る前はやらなかったの?」
沙理香「はい。面倒臭くて」
  再生ボタンを押す麗次。
  画面は砂嵐。
麗次「あれ・・・何も映ってない・・・」
沙理香「ちゃんと録画ボタン押したんですか?」
麗次「押したよ。おかしいなあ・・・」

○ 寝室
  ベッドで眠っている拓也。
  窓から差し込む光が拓也の顔に当たっている。
  目を覚まし、ハッと起き上がる拓也。
  ベッドの棚の上に置いてあるウォーターゲームを手に取る。
  漫然とウォーターゲームのボタンを押している拓也。
  拓也の脳裏に、印刷会社の主任の声がリフレインする。
主任の男の声「池川君・・・また納品部数間違えてるよ」
    ×  ×  ×
主任の男の声「何度目だよこのミス」
    ×  ×  ×
主任の男の声「思っていたより駄目だね。ゆとり世代はこれだからほんとにもう・・・」
  悔しげに唇を噛み締める拓也。
  入口の扉が開く。
  拓也、慌ててウォーターゲームを棚の上に戻す。
  沙理香が入ってくる。
  ため息をつく拓也。
拓也「おまえらとは、もう関わりたくなかったのに」
沙理香「昨日知り合った女子高生に未来のこと、話したんですか?」
拓也「あの子は、俺が未来から持ってきたぬいぐるみを買った客だ」
  拓也、財布を出し、中からテレホンカードを出す。
拓也「これ、借りたままだった」
  沙理香、テレホンカードを見つめ、
沙理香「パンダのテレカ・・・」
拓也「小さい頃、親と一緒に何度かこのパンダを見に行ったことがあってさ・・・」
沙理香「トントン・・・ですか?」
拓也「そう。昨日、生きてるの見たら、懐かしくて涙出そうになったよ。俺が中学の時、死んじゃったんだよなトントン。
 剥製にされたトントン見た時は、俺も死にたくなった」
沙理香「そんな思い出があったんですね」
拓也「あの頃は、まだ親も離婚してなかったし、週末になると必ず遊園地とか動物園とか連れてってもらって・・・」
沙理香「羨ましい。私、そういう記憶、あんまりなくて」
拓也「あの頃がピークだったのかな、俺の人生・・・」
沙理香「人生のピークとか、そういう発想するから駄目なんですよ」
拓也「若いのにおばさんみたいなこと言うね」
  ムッとする沙理香。
沙理香「もう一度、バグルと会ってもらえませんか?」
拓也「やだね」
沙理香「じゃあ、このままあなたを未来に送り返します」
拓也「向こうに戻ったらおまえらのことネットに書きまくってやる」
沙理香「この時代にいた記憶は、全てデリートします」
拓也「そんなことできるの?」
沙理香「なんなら今やりましょうか?」
拓也「待てよ。その代わり、一つだけ頼みがある」

○ 同・駐車場
  駐車スペースに止まっているスカイライン。
  右前輪のタイヤの前にいる光雄。新品のタイヤを見て、満足気な表情。
  光雄の後ろに立っている麗次。
光雄「ターボつけてエアロつけて、バキバキにチューンナップしたいけど金が・・・」
麗次「半目のフェアレディZに乗り換えたほうが早いんじゃないですか」
光雄「丸目のスカイラインが最強なんや。てか、高賀君も車に興味あるのか?」
麗次「雑誌でちょっと読んだだけですけどね。黒のスープラに乗ってみたいかなって。フロント部分にスキャナーとかつけて」
光雄「それ、あれの見過ぎや・・・」
麗次「沙理香ちゃんみたいに、勉強しよっかな俺も・・・」
光雄「恋してんるんちゃうか・・・」
麗次「えっ?」
光雄「サラダ記念日読んでたやろ」
麗次「あれ、料理本じゃなかったんですか?」
光雄「大人の恋を綴った短歌集や。この年のベストセラーやで」
麗次「へえ・・・」
  光雄、ニヤケ顔で麗次を見ている。
麗次「・・・きもい」

○ 秋葉原・ソフマップ前
  店の前に立っている麗次。
  暫くして、店から拓也が出てくる。
  マンハッタンシェイプのPCが入った箱を両手で持っている。
拓也の前に行く麗次。
拓也「モニター・・・おも・・・」
麗次「いくらした?」
  荷物を下に置く拓也。
拓也「45万。結構粘って値切らせたんだぜ」
麗次「おつりは?」
拓也「ケチ臭い事言うなよ」
麗次「50万もするパソコン買ったんだぞ。どこがケチ臭いんだよ」
  拓也、不貞腐れた表情で、麗次におつりを渡す。
  拓也、目の前にある電話ボックスを見つめ、
拓也「荷物見といて」
  歩き出す拓也。
麗次「どこ行くんだよ」
拓也「あいつに電話するんだよ」
  電話ボックスの中に入る拓也。
  麗次、その様子を見ている。

○ 電話ボックス内
  財布からトントンのテレカを取り出す拓也。
  電話に差し込もうとするが、躊躇する。
  テレカのトントンを見つめ、想いを巡らせる拓也。
拓也「同じ時代に生まれたのに、こいつは死んで、俺はまだ生きてる・・・」
  拓也、テレカをズボンの後ろのポケットに入れ、財布から小銭を出す。

○ 秋葉原・ソフマップ前
  麗次の肩を叩く女の手。
  驚く麗次。
  女は、沙理香。
麗次「うおっ」
沙理香「荷物をチェックしに来ました」
麗次「チェックって?」
沙理香「大金使ったんですからね。領収書は?」
麗次「あいつが持ってるよ」
沙理香「これに乗っけてくれませんか?」
  沙理香の横に台車がある。
麗次「事務所から持ってきたの?」
沙理香「さっき買ったんです」
  麗次、箱を台車に乗せる。
麗次「どこ持ってくの?」
沙理香「バグルに見られてるかもしれないから、見えないところに行きます」
  台車を押す沙理香。

○ ソフマップ屋上からの視点
  何者かが下の様子を見ている。
  台車を押し、麗次から離れていく沙理香。

○ ソフマップ屋上
  ツーブロックの髪型にサングラスをかけた男(バグル)。ショルダーキーボードで、光ゲンジの『スターライト』を弾いている。
バグル「しつこい黒豚ども」

○ 昭和通り
  国道を走るスカイライン。

○ スカイライン車内
  運転する光雄。
  助手席に麗次。後部席に拓也が乗っている。
麗次「またあの喫茶店か。よっぽど好きなんだなあの店」
拓也「あそこのカレーパスタにハマったらしい」
光雄「んじゃ俺達も食べに行くか」
麗次「大丈夫ですか?」
光雄「アイテムは手元にあるんや。あいつも立て続けに強盗はできんやろ。そっちに夢中になって俺たちの事は気づかんと思う」
麗次「バグル捕まえたら、俺たちどうなるんですか?」
光雄「そら解散やろ。バグルを捕まえたら、この時代にいる目的がなくなるんやし」
麗次「そっか・・・」
光雄「何やその寂しいそうな顔は。この時代、不便とか言ってなかったっけ?」
麗次「見たかったな。マイケルのコンサート」
光雄「・・・チケット取ろうと思ってあちこち電話したり、ショップ行ったけど結局手に入らんかったんや。
 ダフ屋もあたったけど、高額で手が出せんかった」
麗次「この時代のみっさん何歳ですか?」
光雄「高一」
麗次「東京に住んでたんですか?」
光雄「大阪や。初東京は、東京ドームがオープンして間もない時や。友達と巨人戦見に行った」
麗次「そっか。高一のみっさん見てみたいな」
光雄「あほなこというな」
麗次「なんで?」
光雄「今とは・・・別人やし・・・」
麗次「ますます気になる」
光雄「どうでもええ、仕事仕事・・・」
  後部席に寝転んで物思いに老ける拓也。
  トントンのテレカをじっと見ている。

○ 喫茶店
  窓際のテーブルに座る拓也。
  足元にマンハッタンシェイプの入った箱を置いている。
  奥のテーブルの座席にいる光雄と麗次。
  麗次、後ろを向いて拓也のテーブルを見ている。
  光雄、激しい音を立てながらパスタを食べている。
光雄「ほんまや。これはいける」
麗次「必死に食ってる場合ですか?」
  拓也のテーブルを見つめ、顔を強張らせる光雄。
光雄「来たぞ」
  振り向こうとする麗次。
光雄「見るな」
  光雄、パスタを食べながら、ちらちらと拓也のテーブルを見る。
  拓也のテーブルの前に、ゼブラのブルゾン、ジーパン、テクノカットをした男がやってくる。
  拓也の前に立ち止まり、話をする男。
  拓也、男の話を聞いて頷き、立ち上がる。
  拓也、荷物を持ち、男と一緒に出て行く。
  立ち上がり、走り出す光雄。
  麗次、請求書を持ち、
麗次「みっさん、これ」

○ 同・店前
  道路脇に止まっているタクシー。
  後部席に荷物を詰め込む拓也。
  扉を閉める。
  男、拓也に手を振ると、タクシーの助手席に乗り込む。
  走り去って行くタクシー。
  拓也のそばにやってくる光雄。
光雄「パソコンは?」
拓也「さっきの男に渡した」
光雄「何者やあいつ?」
拓也「バグルに頼まれて荷物を取りに来たって・・・」
  二人の前に近づく麗次。
麗次「あれ、荷物は?」
光雄「どうやら、気づいてたみたいやな。俺達のこと・・・」
麗次「だから言ったでしょ。50万ですよ。どうするんんですか?」
光雄「慌てるな。こういう時のために、ちゃんと奥の手を打っておいたんや」

○ 昭和通り
  勢い良く走るスカイライン。

○ スカイライン車内
  ハンドルを握る光雄。
  助手席に麗次。後部席に拓也が乗っている。
  麗次、片手にスマホサイズの発信探知機を持ち、監視している。
麗次「次の信号を左」
  ハンドルを左に切る光雄。
  
○ 後楽園球場前
  道路脇に立ち止まるタクシー。
  車から降り、トランクの中の荷物を降ろす男。
  しばらくして、スカイラインが追いつく。
  タクシーから数十メートル離れた道路脇に止まるスカイライン。 

○ スカイライン車内
  タクシーの様子を窺う三人。
麗次「またここか・・・」
光雄「おい、来たぞ」
  タクシーの後ろに止まるシルビア。
  運転席にいる男は、バグル。車から出てこない。
  後楽園球場を見つめるバグル。涙を流している。
  男、荷物を持ち、シルビアに近づく。
  シルビアのトランクを開け、荷物を詰め込んでいる。
光雄「行くぞ」
  光雄と麗次、一斉に車から降りる。
  困惑している拓也。

○ 後楽園球場前・歩道
  走る光雄と麗次。
  物凄い勢いで走る拓也。
  あっという間に二人を追い抜き、二人の前に立ちはだかる。
  拓也、二人の体に掴みかかり、制止させる。
拓也「やめろ!」
  ウインカーを出し、走り出そうとしているシルビア。
麗次「ああ、いっちゃうよ」
光雄「離せ、愚か者!」
  猛スピードで走り去って行くシルビア。
  拓也、必死で二人の体にしがみつき、離さない。
  ズボンの後ろのポケットに入れていたトントンのテレカが地面に落ちる。
光雄「いい加減にしろ!」
拓也「ここはな、バックネット裏まで行って野球を見たり、キャンディーズを聴いたり、小さい頃から慣れ親しんできた場所だってよ・・・」
  抵抗するのをやめる光雄と麗次。
拓也「もうすぐここ取り壊されるんだろ?あいつ泣いてたよ。どうにかして残したいけど、
 自分にはそんな力はない。そんな力が欲しいって・・・」
  光雄、拓也を引き離して、急いで車に戻る。
  その場に跪く拓也。
拓也「ニューヨークのツインタワーが崩壊した時、マンハッタンシェイプのことを思い出したんだってさ。
 一番最初に触れた記念のパソコンなんだって」
麗次「・・・」
拓也「消えちまったものに執着するなんて馬鹿げてるけどさ、でも、そういうものに必死になる奴がいたっていいじゃん」
麗次「・・・」
拓也「惚れてるんだよあいつ。この時代に」
  困惑する麗次。

○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所(夜)
  部屋に入ってくる麗次と拓也。
  ソファに座る沙理香。
  サラダ記念日の本を読んでいる。
  拓也、何も言わず、隣の部屋に入って行く。
沙理香「みっさんから連絡がありました。またバグルを逃がしたって」
麗次「それ・・・面白い?」
沙理香「ああ、これ。テレビで話題になってたから本屋さんで買っちゃったんです」
麗次「あのさ・・・全然気にしてないの?」
  本を閉じる沙理香。
沙理香「マンハッタンシェイプのことですか?あれ、うちの古いパソコンと詰め替えておきました」
  愕然とする麗次。
麗次「じゃあ、マンハッタンシェイプは?」
  沙理香、机の下の箱を出す。
  箱を開ける。梱包されたままのマンハッタンシェイプが見える。
沙理香「ありきたりですけど、敵を騙すには、まず・・・」
麗次「味方からか・・・」
沙理香「そういうことです」
麗次「上手過ぎるよ、沙理香ちゃんは・・・」

○ プールバー(翌日・夕方)
  高級感とシックな雰囲気が漂う空間。
  ビリヤードテーブル上の手玉がキューで突かれる。手玉は、激しくクッションに当たり、9ボールとぶつかる。
  9ボールがコーナーポケットに入る。
  キューを構えている拓也。
  拓也の後ろに立つ里美。拍手している。
拓也、キューを里美の前に差し出す。
里美「私、やったことないし・・・」
拓也「ほら」
里美「ずっと見てるだけでいいよ」
拓也「そんなのつまらないって」
  里美の後ろに回り、ボールの突き方の手解きをする拓也。
  拓也、ブルゾンのポケットからふなっしーのキーホルダーを出す。
  里美のスカートのポケットにソッとキーホルダーを入れる。

○ プールバー前
  店前の階段に座っている麗次と沙理香。
  沙理香、普通免許の問題集を読んでいる。
  目の前を通り過ぎる若いカップルをまじまじと見ている麗次。
麗次「ああ。せっかく準備してきたのに」
  麗次、背中のリュックを下ろす。
沙理香「準備って何持ってきたんですか?」
  麗次、リュックの中の水着のパンツとしぼんだ浮き輪を沙理香に見せる。
沙理香「・・・ひどい」
麗次「ゲームボーイもまだない時代だなんて・・・アンビリーバボー」
沙理香「2年後ですよ。ゲームボーイ発売されるの」
麗次「沙理香ちゃん、元の時代にいた時、ゲームやらなかったの?」
沙理香「やる暇なんてなかったですよ。学校から帰ったら塾で、その後、着付けのお稽古。家に戻ったらまた勉強・・・」
麗次「ちょっとぐらいは、息抜きしなかったの?」
沙理香「この仕事を始めてからはずっと息抜きしてますよ。ファミコンのゲームもほとんどやったし」
  目の前を通り過ぎる幸せそうなカップルや若者達をジロジロ見ている麗次。
麗次「みんなバブルを謳歌してるのに、俺達ときたら・・・いやになっちゃう」
沙理香「何ですか?さっきからブツブツブツブツ」
麗次「そう言えばさ、バブル・・・バグルって、歳いくつなの?」
沙理香「それがわからないんです」
麗次「えっ?」
沙理香「調べたんですけど、どの時代に生まれたのかもまだわかってないんです」
麗次「なんとなく、親父世代っぽいけど・・・」
沙理香「みっさん大丈夫かな・・・」
麗次「バグルの車と再バトルして負けて、相当落ち込んでたみたいだけど・・・」

○ パチンコ屋
  騒がしい店内。
  中央の列の真ん中の台の前に座っている光雄。
  タバコを吸い、憮然としている
  
○ 川原(夜)
  高架橋を通り過ぎる0系新幹線。
  タバコを吸いながら土手の道を歩いている光雄。
  立ち止まり、走り去って行く新幹線を見ている。
  清々しくタバコの煙を吐く光雄。
  河川敷を見つめ、回想にふける。

○ 光雄の回想
  河川敷で息子の裕司(4歳ぐらいに成長した)とキャッチボールをする夢を見ている。
  光雄の元妻・磯山京子(36)の声がフラッシュバックする。
京子(N)「車ばかりに夢中になって。たまには、裕司の面倒見てよ」
  楽しそうにボールを投げている光雄。
京子(N)「あなたはそうやっていつも逃げるの。子供を取るか、車を取るかはっきりして・・・」
  光雄の表情がしだいに暗くなる。
京子(N)「それでいいのね。本当に」
  裕司が投げたボールが光雄の頭に当たる。
  光雄、呆然とした立ち竦む。
京子(N)「二度と会わせないから。車と心中しなさいよ」

○ 川原
  呆然と突っ立つ光雄。
  手に持っているタバコが短くなっている。
  我に返る光雄。
  タバコをくわえたまま、突然ムーンウォークを始める光雄。
  ピシッと決め、吹っ切れたようにタバコの煙を吐く。
光雄「今日も元気だタバコがうまい!」

○ 繁華街
  歩道を歩いている拓也と里美。
  どこかの店のラジオから林哲司の『ガラスの観覧車』の曲が聞こえてくる。
  拓也の髪をジロジロ見ている里美。
拓也「そんなに珍しい?」
里美「珍しいよ」
拓也「ベッカムヘアーがねえ・・・」
里美「ベッカム?」
拓也「いや・・・」
里美「うちの学校、共学だけど、そんな髪型してる男の子いないよ」
突然、立ち止まる拓也。腕時計を見つめる。
拓也「この間借りたテレカ、失くしちゃってごめん」
里美「いいって。面白かったよ。ビリヤードやったの初めてだったし」
拓也「今日は家まで送れなくてごめん」
里美「気にしないで。その代わり、今度カラオケ連れてってよ」
拓也「カラオケ?」
里美「まだ行った事ないんだ。学生だけだとことわられるし・・・」
拓也「俺・・・実は・・・」
  拓也、里美の後ろに立っている麗次と沙理香に気づき、口を噤む。
里美「何?」
拓也「仕事決まってさ。東京離れることになったから」
  里美、手さげ鞄からふなっしーのぬいぐるみを出し、
里美「これ・・・」
  ぬいぐるみを拓也に手渡す里美。
里美「頭のところ黒ずんでたから洗濯しといた。本当は、凄く気に入ってたの」
拓也「これがないと、困る奴らがいるから。これさ、2010年ぐらいに大ヒットしてるかもよ」
里美「2010年って。おばばじゃん私」
拓也「俺はこのままだったりして」
里美「また変なこと言う。戻ってきたら、電話してね」
拓也「じゃあ」
  拓也、手を振り、里美の元から走り去って行く。
  里美も寂しげな表情で手を振る。
  その様子を見守る麗次と沙理香。
麗次「好きだったのかな・・・あいつ」
沙理香「彼女のほうが好きだったのかも・・・」
麗次「恋したことあるの?沙理香ちゃん」
沙理香「セクハラやめてください」
麗次「えっ?」

○ 東京タワー前
  ライトアップされた東京タワーの前を歩く拓也。
  タワーを見つめる拓也。
  タワーの下層の階段の踊り場に黒い人影が見える。
  人影に気づく拓也。
  人影は、バグル。(盗んだマイケルの)黒のマントに身を包んでいる。黒いシルクハット、サングラスをかけている。
  拓也の耳にバグルの声が届く。
バグル「まだ聞いていないことが一つあった。黒豚どものアジトのことだ」
拓也「知らない。これ以上俺は何も協力できない」
バグル「・・・」
拓也「契約違反なのはわかってる。好きにしろよ」
  鋭い目つきで拓也を見ているバグル。
  バグル、右手に持っているテレカを放り投げる。
  テレカをキャッチする拓也。
  テレカを確認する拓也。トントンのテレカである。
拓也「これ・・・」
  不気味に微笑むと、階段を降りて、暗闇に消えるバグル。
拓也「バグル・・・」
  
○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所(翌日・朝)
  隠し部屋の前に立つ沙理香。
  沙理香の後ろに麗次と拓也が並んで立っている。
  扉の横のスイッチを押す沙理香。
  隠し部屋の扉が開く。
  エレクトリップルームがあらわれる。
拓也「この部屋がタイムマシーンってわけか?」
麗次「そういうこと」
拓也「あの子とデートした記憶も消えちゃうわけ?」
沙理香「残念ながら」
拓也「その記憶だけは、残してくれない?」
沙理香「駄目です。ルールですから」
拓也「おまえらと出会った事も忘れちゃうのか」
麗次「嬉しいか?」
拓也「いや。未来でまた会えたら、友達になれそうな気がする」
  唖然とする麗次と沙理香。
  部屋の中に入って行く三人。
  
○ 東京・秋葉原
  2014年7月12日土曜日。
  若者たちで賑わう店。
  電気街の雑踏の中を歩いている拓也。
  
○ ソフマップ・店内
  ノートパソコンのコーナー。
  横一列に並んでいる最新型のパソコンを見ている拓也。
  
○ 同・カウンター前
  『ロンリー・チャップリン』の曲が店内に流れている。
  拓也が購入したノートパソコンの箱を袋に入れている中年女性の店員。
  拓也、財布を出し、一万円札を出している。
  カード入れに入っているトントンのテレカに気づき、それを取る。
拓也「なんだこれ・・・なつい」
女性店員「どうかしましたか?」
拓也「あ・・・これ。知ってます?」
  女性店員、テレカを見つめ、
女性店員「ああ・・・トントンね」
拓也「おばさん知ってるの?」
女性店員「一度だけ観に行ったことあるわよ。学生の時に」
拓也「俺も小さい頃何度か観に行ったんだ」
女性店員「私もそのテレカ持ってたよ」
拓也「へえ。でも、おかしいな。もうテレカなんか使ってないのに。いつから入ってたんだろ・・・」
女性店員「未使用ね。貴重ですよ。大事にしてくださいね。ヤフオクに売りに出したりしちゃ駄目ですよ」
拓也「生きないとな。こいつの分も・・・」
  拓也、テレカを財布にしまう。札を出し、女性店員に手渡す。
  女性店員の腰のベルトにふなっしーのキーホルダーがぶら下がっている。
  袋を拓也に渡す女性店員。
女性店員「お待たせしました」
  袋を持つ拓也。
  一礼する女性店員。
  拓也の髪型を見つめ、なぜか懐かしい気持ちになる女性店員。
  女性店員、ふなっしーのキーホルダーを手に取り、握り締める。
  立ち去る拓也の後ろ姿を不思議な想いで見つめている。
  女性店員は、里美(44)である。

○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所
  1987年9月16日水曜日。
  テレビの隣に置かれたマンハッタンシェイプのPC。
  PCの前に座り、マウスを動かしている麗次。
  部屋に駆け込んでくる光雄。
  辺りを見回す。
光雄「あれ、沙理香ちゃんは?」
麗次「ゲームセンターです。車に乗る前に原付に乗りたいからって、その練習に・・・」
  
○ ゲームセンター
  電子音で騒がしい店内。
  実物のバイクにまたがり、『ハングオン』のゲームに夢中になっている沙理香。

○ 笹松コーポ2F「ナウ・ウォッチ」事務所
光雄「三木さんがお呼びや」
  立ち上がる麗次。
麗次「何かあったんですか?」
光雄「またバグルが現れたんや。1981年に・・・」
麗次「今度は、81年か・・・」
光雄「そや。この前録ったビデオ、どうやった?」
麗次「あ・・・バグルのですか。それがその・・・」
光雄「そのって?」
麗次「テープのツメが折れてて・・・」
光雄「えーっ?なんで確認せんかったんや?」
麗次「ツメの折れたテープをカメラにセットしたのみっさんじゃないですか」
光雄「しゃあないな。まあええわ。それより、沙理香ちゃんや・・・」
麗次「あ・・・」
光雄「何や?」
麗次「そう言えば、ゲームセンターの後にダンス教室にも行くって・・・」
光雄「手分けして探すぞ」
  慌てて部屋から出て行く二人。

○ 雑居ビル内・エアロビクス教室
  こじんまりとしたダンスフロア。
  数人のレオタードを着た女性達がマドンナの『La Isla Bonita』の曲のリズムに合わせて踊っている。
  その中に金色のレオタード姿の沙理香がいる。
  夢中で踊っている沙理香。

                                            ―THE END―


                                                      

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