『80’sハンターズ』 パイロットその2

BY ガース『ガースのお部屋』

○ 国道
  軽快に走る黒のスカイラインGTターボ。

○ スカイライン車内
  カセットコンポから、大ボリュームでマイケル・ジャクソンの『スリラー』が流れている。
  リズムに乗りながらハンドルを握る光雄。
光雄「アッベッチョ、スリラー!イーホナー」
  助手席に座る麗次。ボソッと呟く。
麗次「ひでぇ…」
光雄「フォー!すがすがしいな。フォフォー!」
  光雄、皮ジャンのポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつける。
麗次「音質、いまいちじゃないですか?」
  煙を吐く光雄。白い煙が麗次のほうに流れていく。しかめっ面をする麗次。
光雄「この時代の最高級ステレオコンポなんやで」
麗次「マイケル・ジャクソン、死んだんでしょ?」
  光雄、麗次に鋭い眼光を向け、
光雄「アホ!」
麗次「えっ?」
  ボリュームを下げる光雄。
光雄「今は、全盛期なんや。この時代に生きてる人間にマイケルが25年後に亡くなるなんて言っても、
 誰も信じへんぞ。3年後には、東京でBADツアーが開催されるんや」
麗次「誰にも言わないけど…磯山さんは、どうしてこの時代に来たんですか?」
光雄「大阪の車工場で働いてたんやけど、リストラされて。友人に会うために東京に来て、
 カーステレオ見ようと思って、ふらふらとあの電気街を歩いてたら、歩道橋の上でじいさんに
 呼び止められたんや」
麗次「その後、ボウリング場に?」
光雄「そうや。高賀君もリストラされたんか?」
麗次「いや、そうじゃないですけど…」
光雄「この時代の仕事を手伝ってくれたら、給料出すって言われたから、のこのこついてきたんや」
麗次「ここにどれぐらいいるんですか?」
光雄「かれこれ一年と三ヶ月…」
麗次「結婚は?」
光雄「まぁ、子供もおるねんけどな。もう2歳になったかな…」
  光雄、急にテンションが下がり、思いつめた様子…。
光雄「別れたんや…」
  重い空気が流れる。
  麗次、慌てて話題を変え、
麗次「あ、この車、最高ですね…三木さんに買ってもらったんですか?」
光雄「自分で買ったんや。中学の時、憧れてな、免許取ってから、中古で買おうと思ってた車なんやけど、
 親父に反対されたんや。結局ずっと親父のポンコツセドリックで青春時代を送った」
麗次「青春を取り戻しているわけですか?」
光雄「そうそう。いくつになっても青春真っ只中!」
麗次「そう言えば、磯山さんとあの女の人、同じ歳なんだ」
光雄「女って?」
麗次「玉川奈津子って人」
光雄「ああ…そうみたいやな」
麗次「あの人も青春を取り戻すために、この時代にやってきたのかな…」
光雄「かもしれんわ」
麗次「過去を変えても、今の自分の未来は、変わらないのに…」
光雄「たぶん、元の時代に戻れなくなるの、知らんのとちゃうか…」
麗次「なんでそんな事わかるんですか?」
光雄「女の行動を見てると、何も知らされずに、この時代に迷い込んだ感じがするんや…」
麗次「…」
  窓から外の風景を見つめる麗次。
  新宿の高層ビル群。まだビルの数が少なく、建設中のビルがちらほらある。
麗次「あれ…」
光雄「どないした?」
麗次「都庁がない」
光雄「今の都庁は、まだできてないわ」

○ 住宅街
  道路脇に立ち止まるスカイライン。

○ スカイライン車内
  光雄、向こう側に建つ9F建ての白いマンションを見つめる。
光雄「あれか?」
  サングラスを外す光雄。
麗次「あそこの107号室」
光雄「結構リッチなところ住んでるやん」
麗次「この時代に来てからまだ日が浅いのに、もう自分の家があるなんて…」
光雄「誰かが彼女にあの部屋を貸したんや」
麗次「…」
   × × ×
  数時間後。
  シートを倒し眠っている光雄。
  麗次、ジッと奈津子の部屋を見ている。
  大きな欠伸をする光雄。腕時計を見る。
  シートを上げ、起き上がる光雄。
光雄「そろそろ沙里香ちゃんに連絡しとかんとな」
麗次「あの子は、どうしてこの時代に来たんですか?」
光雄「両親と揉めたとか言ってたな。妹の方が優秀で、私は、失敗作とか何とか…」
麗次「頭良さそうだけど…」
光雄「都内でもトップクラスの女子高に通ってたらしいけど、それでも本人は、あまり満足してない感じやで」
麗次「何が不満なんだろう」
光雄「クラスにうまく溶け込めなくて、ずっと悩んでたらしい。でも、ここに来てから生きる目的を
 見つけたって喜んどった。そりゃあもう毎日大張り切りやで」
  麗次のお腹が鳴る。
光雄「激しいな。俺見張ってるからコンビニでパンでも買ってこいや?」
麗次「どこにあるんですか?」
光雄「駅前まで出んとないけど。手前までつけようか?」
麗次「いいです。歩いて行きます」
  麗次、ドアを開け、外に出る。

○ 駅前・国道沿い・歩道
  腹を押さえながら、とぼとぼ歩く麗次。
  前方を見つめ、突然立ち止まる。
  道路の向こう側に立つ木造2階建ての古びたアパートを懐かしそうに見つめている麗次。

○ アパート2階・通路
  階段を上る麗次。
  『203』号室のドアの前に立つ。
  ポストに書き込まれているネームを確認する。『高賀』と書かれている。
麗次「もしかして…」
  鳴り響く車のブレーキ音。
  下を覗く麗次。
  タクシーの後部席から赤ん坊を抱いた女性が降りている。
  麗次、その様子を見つめているが、暫くして、慌てて、その場から離れる。
  赤ん坊をあやしながら階段を上っている女性・高賀幸子(26)。
  通路を歩き、『203』のドアの前に立つ。
  反対側の階段の陰に隠れている麗次。
麗次「あの人が俺の…じゃあ、あの赤ん坊…」
  鍵を開け、ドアを開ける幸子。中に入る。
  呆然とする麗次。
麗次「俺を生んで病院から戻ってきたところなんだ…」
  麗次、『203』の部屋の窓の前に立つ。
  中から赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
幸子の声「レイちゃん、ほらほら…今からミルク入れるからね…」
  にやける麗次。
  ふと、階段の方を見つめる麗次。警官が立っている。
  警官、怪訝な表情。
  麗次、気まずそうにその場を立ち去って行く。
   ×  ×  ×
  翌日朝。
  203号室のドアの前に立っている麗次。
  緊張した面持ち。インターホンのボタンに指を当てようとした時、中から赤ん坊の泣き声が鳴り響く。
  麗次、腕を下ろし、その場から走り去って行く。

○ 笹松コーポ2F・三木の事務所
  ソファに座っている沙里香。電話の受話器を握っている。
沙里香「えっ、一緒じゃないんですか?」

○ 住宅街
  市道沿いの歩道の電話ボックスに入っている光雄。
  受話器を持ち、話している。
光雄「昨夜は、俺が張り込んで、あいつには、そっちに帰るように言ったんやけど…」
沙里香の声「まだ戻ってませんよ…」
光雄「やばいな。三木さんに連絡しといたほうがええんとちゃうか?」

○ 笹松コーポ2F・三木の事務所
沙里香「私が探します…それじゃあお願いします」
  受話器を置く沙里香。深い溜息。

○ 公園
  ベンチに座っている麗次。
  噴水前。周りに人がたくさんいる。キャッチボールする少年達、フリスビーをするカップル、
  ローラースケートをしている若者達。出店でアイスクリームを買っている親子。
  鬼ごっこしている子供たち。麗次のベンチに立つ野球帽を被った少年A。鬼役の少年Bが近づいてくる。
  少年A、咄嗟にベンチを飛び降り、奇声を上げながら走り去る。Aを追いかけるB。
  その様子を呆然と見ている麗次。
麗次(N)「母親は、生まれてすぐ亡くなった。親父の話によると、住んでいたマンションが火事になり、
 買い物から帰ってきた母親が俺を救い出そうとして、火の中に飛び込んだそうだ…俺は助かり、
 母親は重度の火傷を負って三日後に…」
  遠くから聞こえてくるサイレン。
  サイレン音がどんどん大きくこちらに迫ってくる。
  噴水前にいる人々が数人、公園から出て行く。
  麗次の前を横切る少年達。少年達の声が麗次の耳に轟く。
少年A「結構近い」
少年B「どこ?」
少年A「あそこ」
  空を見上げる少年B。
少年B「本当だ。煙…すんごい…」
  麗次、立ち上がり、走って公園を出て行く。

○ アパート前
  2Fの中央の部屋から黒い煙がもくもくと上がっている。
  アパートの前に集まる住人と野次馬。
  走ってやってくる麗次。
  立ち止まり、アパートの様子を見つめている。
  アパートの2Fから赤ん坊の泣き声が聞こえる。
  麗次のそばを取り乱した幸子が通り過ぎて行く。
  麗次、幸子に気づき、唖然とする。
  幸子、管理人の男と話をしている。
  麗次、空に高く上る黒煙を見つめ、
麗次「もしかして…今日があの火事の日…」
  幸子、管理人の静止を振り切り、アパートに向かって走り出す。
  幸子を見つめる麗次。
麗次「母さん…」
  麗次が走り出そうとした時、何者かが麗次の腕を掴む。
  振り返る麗次。
  麗次の前に沙里香が立っている。
  首を横に振る沙里香。
沙里香「駄目です」
麗次「なんで?」
沙里香「元の時代に戻れなくなりますよ」
麗次「俺は…あの人の子供だ!」
  麗次、アパートを見つめる。
  燃え盛る炎を掻い潜り、203号室の部屋の中に駆け込んで行く幸子。
  消防車がアパートの前に立ち止まる。
  消防員達が一斉に車から降りる。
  放水開始。強力な水の勢いで炎が掻き消されて行く。

○ 葬式会場(数日後)
  入口の前に止まる霊柩車。遺族が横一列に並んでいる。
  幸子の遺影を持つ高賀淳一(35)。
  淳一の母・松枝(58)が赤ん坊の麗次を抱いている。
  霊柩車に乗り込む淳一と松枝。
  走り出す霊柩車。
  その様子を遠くで見ている麗次。
  寂しそうな表情で俯いている。
  麗次の隣に立つ沙里香。
沙里香「もういいですか?」
麗次「先に帰れよ」
沙里香「駄目です。また勝手な行動をされたら困りますから」
  会場を出て、公道を走り去って行く霊柩車。
  麗次、霊柩車を見つめている。

○ 高級住宅街
  坂道を下りている麗次と沙里香。
麗次「俺があのアパートにいた事、どうしてわかったんだ?」
沙里香「三木さんから聞いたんです」
麗次「俺の家族の事まで…なんで知ってるんだ…」
沙里香「私の事も詳しいですよ」
麗次「半年ぐらいこの時代にいるんだろ?親とか心配しないの?」
沙里香「心配なんかしないですよ」
麗次「えっ?」
沙里香「あの時代には、戻りたくないんです」
  麗次、歩道を歩いている人を見回し、
麗次「皆、素朴で良い人そうな感じがするな。歩いている人皆黒髪だ…」
沙里香「この時代に茶髪にしたら、不良と間違われますよ」
  麗次、沙里香の髪を見つめ、
麗次「だから、髪黒いの?」
沙里香「私は、元から黒です。日本人は、生まれた時から黒です」
麗次「まぁね…」
沙里香「あー、もっと早く生まれたかった」
麗次「いつの時代に…?」
沙里香「ちょうどこの時代に今の歳ぐらいだったら良かったのに」
麗次「でもさ、不便な事も一杯あるよね」
沙里香「例えば?」
麗次「プレステがない、ネットがない、コンビニでトイレを貸してくれない…」
沙里香「そんなの大したことないです」
麗次「俺やっぱ…この時代に合ってないのかも…」
沙里香「戻りますか?未来に…」
  複雑に顔を歪める麗次。
  けたたましいエンジン音が轟く。
  後方から二人に近づいてくるスカイライン。
  麗次達の前で勢い良く立ち止まる。
  助手席の窓が自動で開く。運転席に光雄の姿。
  車に気づき、中を覗き込む沙里香。
沙里香「みっさん…」
  麗次も覗く。
光雄「玉川奈津子が強盗事件起こしよったぞ」
  愕然とする麗次と沙里香。
沙里香「また、ゲームショップですか?」
光雄「車の販売店や。銃で店員を脅して、白のホンダ・シティ・カブリオレを盗んだ」
沙里香「彼女は、今どこに?」
光雄「あのマンションに戻ってる。はよせな見失うで」
  沙里香、車の助手席のドアを開け、中に乗り込む。
光雄「高賀君、何してるんや!」
沙里香「高賀さんは、事務所に戻ってください」
光雄「何でや?」
沙里香「未来に戻るそうです」
光雄「そうなんか」
麗次「待って。俺も行く」
  麗次、車に乗り込む。
  急発進するスカイライン。

○ 玉川奈津子が住むマンション前
  道路脇に立ち止まるスカイライン。
  車から降りる麗次と沙里香。
  沙里香、107号室の部屋の様子を確認する。
沙里香「灯が点いてる。まだ中にいます」
  運転席に座っている光雄。
光雄「俺、一応裏回っとくわ」
麗次「どうするの?」
沙里香「彼女を確保します」
麗次「捕まえるのか?」
沙里香「本当は、もう少し泳がせたかったんですけど…仕方ありません」
光雄「また、事件を起こされたらさらにやっかいな事になるしな…」
  光雄、タイヤを軋ませ、車を急発進させる。勢い良く走り去るスカイライン。
沙里香「行きましょう」
麗次「銃持ってんだろ?やばいって」
沙里香「おそらく、未来から持ってきたモデルガンです。前にバグルが連れてきた人は、
 2007年製のベレッタ92Fのモデルガンを持っていましたから」
  沙里香、肩にかけているショルダーバックから、スプレーを取り出し、麗次に渡す。
麗次「何これ?」
沙里香「催眠スプレー。即効性です」
麗次「バグルって誰?」
沙里香「それはまた後で…」
  マンションの入口に入って行く沙里香。
  麗次、沙里香の後を追う。

○ 同・107号室前
  インターホンのボタンを押す沙里香。
  反応がない。
  息を飲む麗次。
麗次「いないじゃん」
沙里香「静かに」
  中から奈津子(未)の声が聞こえる。
奈津子(未)「どなた?」
沙里香「ナウ・ウォッチ事務所の根村と言います。お話したい事があります」
奈津子(未)「訪問販売ならいらないから帰って」
沙里香「成川洋介さんの事です」
  扉が開く。顔を出し、沙里香を睨みつける奈津子(未)。
奈津子(未)「どこの高校生?成川くんの知り合い?」
沙里香「成川さんは、今度の日曜日に、交通事故で死にます」
  唖然とする奈津子(未)。
奈津子(未)「真顔で、何言ってるの?」
沙里香「あなたもご存知のはずです。だから、彼を救うために、この時代にやってきた」
奈津子(未)「何者なの?あなた達…」
沙里香「仮に彼の命が助かったとしても、あなたは、もう2度と未来に戻る事ができなくなるんですよ」
奈津子(未)「あなた達も未来から来たのね。バグルの力を借りて」
麗次「バグル…」
奈津子(未)「心配しないでもいいわ。バグルと取り引きしたから。未来へ戻る事を条件にね」
沙里香「あなたは、バグルに利用されたんです。未来人が過去の出来事を変えてしまったら、
 その未来人は、2度と未来には、戻れません」
奈津子(未)「あんた達は、何をしにこの時代に来たの?」
沙里香「私達は、時の監視人です」
奈津子(未)「監視人?」
沙里香「この時代には、この時代のあなたがいます。未来に戻れなくなったら、あなたは、
 この時代で別の人生を歩まなければいけなくなるんです」
奈津子(未)「それでもいい…」
  愕然とする麗次。
奈津子(未)「成川君がずっと生きてくれるなら、私は、この時代で、二人の成長を見届ける」
沙里香「ごめんなさい…」
  沙里香、催眠スプレーを奈津子(未)の顔に向け、噴射する。
  奈津子(未)、しばらくしてその場に倒れ込む。
沙里香「みっさん呼んで来て下さい」
麗次「えっ?」
沙里香「彼女を運びます。早く…」

○ マンション2F・『ナウ・ウォッチ』事務所(夕方)
  ソファで眠っている奈津子(未)。両手両足をゴムテープで、ぐるぐる巻きにされている。
  玄関の前で輪になる麗次、沙里香、光雄。
麗次「このまま彼女を未来に送り返すって…」
光雄「しゃあないやろ。この時代では、犯罪者になってしもたし、警察に捕まりでもしたら、ムショ暮らしやぞ…」
沙里香「2時間後に三木さんが来るから、相談した後にでも。丁度その頃に彼女も目覚めるだろうし」
麗次「どうやって、送り返す?」
  光雄、沙里香を見つめ、
光雄「そろそろ教えとかなあかんやろ」
沙里香「そうですね。一緒に来てください」
  沙里香、奥の部屋に続く通路を歩き出す。後を追う麗次。
  突き当たりの壁の前に立つ沙里香と麗次。
  沙里香、壁に右手をそえる。
  しばらくして、壁が青白く発光し、沙里香の手の形と指紋を照合する・壁に分析画面が映し出される。
  驚愕する麗次。
  壁が消え、奥の隠し部屋が姿をあらわす。
  隠し部屋には、部屋の中央に転送機の円台があり、その周りにパソコンやサーバーなどの
  未来の機器がたくさん並んでいる。
  隠し部屋に入る沙里香。
  麗次も入ろうとするが、沙里香が静止する。
沙里香「ちょっと待って。あなたの手形や指紋は、まだ登録してないから。そこにいてください」
  麗次、隠し部屋を見回し、
麗次「未来の物持ち込み捲くりじゃねぇかよ…」
沙里香「情報を収集するためです」
麗次「じゃあ、バグルの情報をここで?」
沙里香「バグルは、80年代の時代をかけ巡って、未来人を利用して、様々な事件を起こしているんです。
 三木さんは、バグルを捕まえるために、この事務所を作ったんです」
麗次「どうして、80年代で?」
沙里香「コレクションです。この年代ものに非常にこだわりがあるみたいです」
麗次「バグルが未来から連れてくる人達の情報は、どうやって仕入れてるの?」
沙里香「ワーピング時に発生する「時流パルス」をここで探知して、みっさんが探知した場所を調査し、
 送られてきた未来人を特定します」
  麗次の背後に立つ光雄。
光雄「一見、面倒臭い仕事のように見えるけど、未来人の特定は、結構簡単やで」
麗次「簡単?」
光雄「時間移動した人間には、『時流粉』と呼ばれる物が体に付着するんや」
沙里香「顔立ちや体の特徴も今と昔では、まるっきし違いますから」
麗次「なんか、脳味噌がとろけそう…」
沙里香「彼女は、私が監視しておきます。みっさんとご飯に行ってきて下さい」
光雄「ちょうど腹減ってたところや。(麗次の肩を叩き)行こか!」
  頭をおさえる麗次。
沙里香「どうしたんですか?」
麗次「ちょっと気分悪くて…」
光雄「じゃあ、沙里香、行こか!」
沙里香「私は、彼女を…」
  沙里香の腹が大きく鳴る。
光雄「ダイエット中とは言え、体は正直やな」
  麗次、思わず、吹き出す。
沙里香「何がおかしいんですか!」
麗次「俺が代わりに彼女を見張るから。どうぞ」
沙里香「…中華は、嫌ですよ」
  隠し部屋を出る沙里香。麗次の前を横切り、光雄と一緒に歩き出す。
  壁がうっすらと現れ、また部屋の出入り口が封じられる。その様子を不思議そうに見ている麗次。
光雄「じゃあ、フォルクスでサラダセットでも食えば?」
沙里香「それにします」
  玄関の前に立つ沙里香と光雄。
  麗次と向き合い、
沙里香「じゃあ、よろしくお願いします」
  麗次、軽く手を上げる。
  部屋を出て行く二人。
  溜息をつく麗次。ソファに座り込む。眠っている奈津子(未)の様子を見つめる。
  麗次の脳裏に、奈津子(未)の言葉が過ぎる。
奈津子(未)の声「成川君がずっと生きてくれるなら、私は、この時代で、二人の成長を見届ける…」
  
○ 回想
  燃えるアパート。階段を駆け上がり、部屋に駆け込んで行く幸子。
  炎は、ますます大きくなる。消防車のサイレンが空しく鳴り響く…。
  呆然とその様子を見守る麗次。

○ 笹松コーポ2F・『ナウ・ウォッチ』事務所(夕方)
  数十分後。ソファで眠っている麗次。
  うっすらと目を覚ます。
  背後から奈津子(未)がつながれた両腕で麗次の首を締めつける。
奈津子(未)「テープをとって」
麗次「とるから、離れろよ」
奈津子(未)「騙そうとしても駄目よ」
麗次「本当にはずすから」
  奈津子(未)、麗次から離れる。
  麗次、立ち上がり、奈津子の前に行くと、何も言わず奈津子の手首のゴムテープを剥がす。
  唖然とする奈津子。
奈津子(未)「やけに聞き分けが良いわね」
麗次「あんたの気持ち…なんとなくわかった…」
奈津子(未)「私の気持ち?」
麗次「昨日、俺の母親が死んだ。赤ん坊の俺を助けるために、火のついたアパートに飛び込んで…」
奈津子(未)「あんたも未来から…。母親を助けるために、この時代に来たの?」
麗次「違う。昨日が火事の日だったなんて…全然知らなかった…」
奈津子(未)「知っていたら、お母さんを別の場所へ誘導した?」
麗次「…」
奈津子(未)「元の時代に未練たらたらなのね。どうして母親を見殺しにしたの?」
  動きを止める麗次。
麗次「見殺し?」
奈津子(未)「火事の事を教えてあげたら、親子で幸せに暮らせたかもしれないのに」
麗次「でも、未来に戻れなきゃ、未来の母さんに会えないし、俺が俺でなきゃ、何の意味もない…」
奈津子(未)「…成川君は、死ぬべき人間じゃない。死んじゃいけない人なの」
麗次「もうすぐあんたは、強制的に元の時代に戻される」
奈津子(未)「成川君は、どうなるの?」
麗次「…」
奈津子(未)「お願い。見殺しにしないで…」
  困惑する麗次。
  その場に泣き崩れる奈津子(未)。
麗次「1つだけ聞きたいことがある」
  顔を上げる奈津子(未)。

○ 同・地下駐車場
  駐車スペースに立ち止まるスカイライン。
  けたたましいエンジン音が鳴り止む。
  車から降りる光雄と沙里香。
  階段に向かって歩き出す。
  満腹顔の沙里香。
光雄「沙里香ちゃん、あんなに食う人やったんやな。あっという間にダルマになるで」
沙里香「セクハラ。訴えますよ」
光雄「この時代には、まだそんな言葉はないんやで。サラダセットだけかと思ったら、
 いきなりハンバーグセットも注文するし…」
沙里香「いいんです。またしばらく何も食べませんから」
光雄「何か良い事あったんか?あっ、もしかして、恋してるとか…」
沙里香「殴りますよ」
光雄「もしかして、あいつにラブリー?」
沙里香「あいつって?」
光雄「多賀君」
沙里香「延髄蹴りますよ」

○ 同2F・『ナウ・ウォッチ』事務所(夕方)
  部屋に入ってくる沙里香と光雄。
  ゲームのピコピコ音が鳴り響いている。
  ソファに奈津子(未)がいない事に気づき、そばに近づく。
  ソファに座る麗次。ファミコンのコントローラーを持ち、『ロードランナー』をプレイしている。
沙里香「玉川奈津子は?」
  麗次、何も言わずゲームを続けている。
光雄「おまえ、もしかして…」
沙里香「逃がしたの?」
麗次「もういいじゃん」
沙里香「馬鹿!彼女は、警察に追われているのよ」
麗次「…」
光雄「バグルに利用されるだけ利用されたら、使い捨てカメラみたいにポイされるのがオチや」
麗次「彼女が選んだ道だ。好きなようにさせてやればいいじゃん」
沙里香「彼女に共感しちゃったんですか?お母さんを助けられなかったから…」
  立ち上がり、沙里香と向き合う麗次。
麗次「ああ」
  麗次、走り出し、部屋を出て行く。
  困惑する沙里香と光雄。

○ オフィスビル街(夜)
  会社帰りのサラリーマンやOLの群れが歩道を埋め尽くすように歩いている。
  その中を逆流するように、たどたどしく歩く麗次。
 
○ 電気街
  様々な店のネオン看板がきらびやかに光っている。
  歩道橋の真ん中に立つ麗次。
  慌しく流れる街の風景を眺めている。
  アーケード下でツッパリスタイルの青年達がギャル風の女性たちをナンパしている。
  不思議そうにその光景を見つめる麗次。

○ 歩道橋
  ため息をつく麗次。
  そばで男の声が聞こえる。
男の声「青年!」
  麗次のそばに立つ男。男は、三木。
  唖然とする麗次。
三木「もうこの時代に飽きたのか?」
麗次「何でここに連れて来たんだよ」
三木「…」
麗次「リアルタイムで母さんの死に様なんか見たくなかった」
三木「おまえ、母親が生きていたら、自分は、もっと違う生き方をしていたんじゃないかって、
 小さい頃からずっとそう思っていただろ」
麗次「…」
三木「母親が火の中に飛び込んで行った時、何か感じなかったか?」
麗次「…」
三木「命がけで守ったんだぞ。おまえを…」
  麗次、思いつめた様子…
麗次「あのたまごっち…やっぱり俺のだったんですね…」
三木「…」
麗次「あれ、中学の時、好きな子にあげたものなんです。片思いだったけど…」
三木「あれは、一ヶ月前ある女性からもらったものだ」
麗次「もしかして、田上美春って人じゃないですか?」
三木「名前は、聞かなかった。この歩道橋で話をしたんだ。結婚のことで相談を受けてな」
麗次「結婚…」
三木「彼氏と本当にうまくやっていけるのか、自信がないって言うから、励ましてやった」
麗次「ずっと大事に…」
三木「50の時、突然、変な力が身についた。何かを握っただけで、その物の持ち主の過去や
 心を読み取れるようになった」
麗次「あの子の心を読み取ったんですか?」
三木「これ以上は、聞くな」
麗次「聞いたら、むちゃくちゃ凹みそうですね…」
三木「ずっと好きだったのか?」
麗次「10秒前まで…」
  照れ笑いする麗次。
麗次「俺、ずっと今まで、母親の幻影を追いかけていたのかもしれない…」
三木「これからも追いかけるのか?」
麗次「いいえ。もう吹っ切れました」
三木「そうか。じゃあ、帰るか」
麗次「帰るって?」
三木「おまえが生きる時代に」
麗次「時の監視人の仕事、もう少し続けたいんですけど…」
三木「さっさと沙里香達のところへ行け。おまえのせいでてんてこ舞いしてやがるぞ」
  走り出す麗次。素早く階段を駆け下りて行く。
  三木、どこか寂しげな表情で麗次を見つめている。

○ 三木の回想
  25年前のボウリング場。人で溢れかえる。
  各レーンには、親子や学生、若いカップル、老夫婦がボールを投げている。
  23番レーンにいる三木の家族。
  座席に座る30代後半の三木と妻の緑。
  勢いのボールがテンピンを倒す。
  レーンの前に立つ。三木の息子の勝(まさる)(9)。ガッツポーズ。
勝「次は、パパの番」
  三木、マイグローブをつけ、マイボールを手にし、レーンの前に立つ。
三木「渾身の一撃、よく見てろ」
  三木、力強いフォームで、ボールを投げる。
  ボールは、綺麗な楕円を描いて、レーンの真ん中に向かい、テンピンを弾き倒す。
  三木、豪快にガッツポーズ。
  拍手し、大喜びしている勝。
勝「ナイス、ストライク!」

○ 電気街・歩道橋
  俯き、呆然としている三木。

○ 笹松コーポ前
  歩道を走る麗次。階段を上り始めた時、マンションの地下駐車場の出入り口から光雄の
  スカイラインが出てくる。
  麗次、慌てて階段を降り、
麗次「磯山さん!」
  麗次に気づかず、公道に出て走り出すスカイライン。

○ スカイライン車内
  ハンドルを握る光雄。
  ラジオからチェッカーズの「涙のリクエスト」が流れている。
  ふと、バックミラーを見つめる光雄。サングラスを外し、もう一度見る。
  車を追いかけている麗次の姿が映っている。

○ 住宅街
  道路脇に止まるスカイライン。
  息を凝らしながら、スカイラインの前にやってくる麗次。
  助手席のドアの窓が自動で開く。
  車の中を覗き込む麗次。

○ スカイライン車内
光雄「どないした?忘れもんか?」
麗次「僕も行きます」
  麗次、車のドアを開け、助手席に乗り込む。
光雄「三木さんと会ったんか?」
  頷く麗次。
麗次「一緒に探します」
  光雄、少し笑みを浮かべると、また、サングラスをかけ、アクセルを踏み込む。
光雄「で、どうすんの?」
麗次「…もう少しここにいることにしました」
光雄「コロコロコロコロ…コロコロコミック…」
麗次「すみません」
光雄「万が一のために、沙里香ちゃんが玉川奈津子の首筋に発信塗料を塗ってたから心配ないわ」
麗次「じゃあ、彼女の居場所は、もう?」
光雄「特定済みや」
  光雄、さらにアクセルを踏み込む。

○ 道路
  ヘッドライトを光らせ、加速するスカイライン。
  東京の夜景が見える。
  東京タワーのそばを通り過ぎるスカイライン。
  そびえ立つ6本の高層ビル。
  中央公園を通り過ぎている。

○ 成川家
  青い瓦屋根の2階建ての一軒家。
  門前に立つ奈津子(未)。
  暫くして、遠くから足音が鳴り響いてくる。
  奈津子(未)、家の壁の隙間に身を隠す。
  家の前にやってくる細身の少年のシルエット。街灯の下を通る少年。少年の姿が照らし出される。
  少年は、洋介。
  洋介に気づき、胸を熱くする奈津子(未)。
  門を開け、中に入ろうとする洋介。
奈津子(未)の声「成川君…」
  声のほうに顔を向ける洋介。
  洋介の前に立っている奈津子(未)。
洋介「どちら様ですか?」
奈津子(未)「私…」
洋介「えっ?」
奈津子(未)「立派なお医者さんになってくださいね…」
洋介「…」
  立ち去る奈津子(未)。
洋介「ちょっと…」
  立ち止まる奈津子(未)。
洋介「僕の夢が医者だって、どうして知ってるんですか?」
  奈津子(未)、寡黙にまた歩き出す。
洋介「夢の話をしたのは、山本と、玉川の二人だけなんですけど…」
  また、立ち止まる奈津子(未)。
  奈津子(未)、振り返り、
奈津子(未)「私…奈津子(未)の叔母です」
  洋介、奈津子(未)に一礼し、
洋介「じゃあ、玉川から聞いたんですか?」
奈津子(未)「ええ…」
洋介「あいつ、黙っとけって言ったのに、お喋りだよな、ったく」
奈津子(未)「ごめんなさい…お喋りで…」
洋介「ああ、叔母さんの事じゃないですよ。気にしないで。でも、どうして叔母さんがわざわざ僕に…?」
奈津子(未)「たまたま通りかかったので。奈津子をよろしくお願いします」
  一礼する奈津子(未)。暗闇に消えていく。
  不思議そうに奈津子の背中を見つめる洋介。
  光雄達が乗るスカイラインが洋介のそばを横切る。

○ スカイライン車内
  リアガラス越しに洋介を見る麗次。
麗次「成川洋介…」
光雄「あの女、洋介と会ってたんや」
麗次「じゃあ、この近くに…」
  光雄、コンソールの上に設置している発信探知機の画面を確認する。
  画面の真ん中に赤い光の点が点滅しているが、暫くして消える。
  突然、ブレーキを踏む光雄。
  反動で、ダッシュボードに頭を打ちそうになる麗次。
麗次「あぶねぇ」
光雄「信号が消えた」
  麗次、発信探知機の画面を確認する。
麗次「発信塗料に気づいたんじゃ…」
光雄「降りて探そう」
  車から降りる二人。

○ 住宅街
  交差点に立つ光雄と麗次。
  二手に分かれて、それぞれ別の方向へ走って行く。
  空き地の土管置き場に何者かの影。

○ 空き地
  土管の影に屈む男と奈津子(未)。
  スポーティーソフト帽で目元を隠している男。男は、バグル。
  バグル、奈津子(未)の首筋についた塗料を拭いた赤いハンカチを燃やし、地面に捨てる。
バグル「あいつら…」
奈津子(未)「知ってるの」
バグル「黒豚ども…」
奈津子(未)「確認したい事があるの」
バグル「…何?」
奈津子(未)「本当に元の時代に戻してくれるんでしょうね?」
バグル「まだ仕事が残っている」
奈津子(未)「今度は、何をすればいいの?」
  バグル、サングラスを外す。
  紫の眼で奈津子(未)を見つめながら、不敵な笑みを浮かべる。

○ 笹松コーポ2F・『ナウ・ウォッチ』事務所(深夜)
  玄関前で輪になり話し合う麗次、沙里香、光雄。
  腕を組み、肩を鳴らす光雄。
光雄「次は、カール・ルイスの金メダルか、桑田のボールか、清原のサインか、マイケル・ジャクソンの
 コンサートのチケットか…」
沙里香「それ、全部自分が欲しいものばかり言ってるでしょ?」
麗次「バグルは、今までどんなものを盗んだの?」
  沙里香、机の棚からファイルを取り出し、リストを確認する。
沙里香「82年では、電気店で、新発売のCDプレーヤー、ETの前売り券とポスター、アーケードゲーム機を数種。
 83年は、マリオ・ブラザーズのゲーム・ウォッチ、ディズニー・ランドの開園日のチケット、
 薬師丸ひろ子のサイン色紙、リカちゃんハウス…」
麗次「リカちゃんハウスって…」
沙里香「バグルの収集活動は、まだ始まったばかりです。今回は、車…どんどん欲が膨らんで
 エスカレートしてる」
光雄「マイケル・ジャクソンのスリラーの衣装も狙いそうやな」
沙里香「だからそれ、自分が欲しいものでしょ?」
麗次「逃がす前に彼女に聞いたんだ。バグルがあるものを欲しがってるって」
沙里香「何ですか?」
麗次「それは…」

○ 大型ショッピングセンター・玩具売り場(翌日)
  ミニカーやブロック、プラモデルのコーナーに群がる子供達。
  ファミコンコーナーには、横一列に数台のテレビが並べて置かれている。テレビの前に座り、
  コントローラーを操作しながらゲームに夢中になる子供達。
  シルエットのワンピースに身を包み、サングラスとマスクをした奈津子(未)が店内に入ってくる。
  辺りを見回しながら、通路を歩き、あるコーナーの前で立ち止まる。
  『ダイアクロン』と書かれたロボットに変形する車や飛行機の超合金が山積みのように棚に置かれている。
  通りかかった店員の女を呼び止める奈津子(未)。
奈津子(未)「すいません」
店員の女「はい?」
奈津子(未)「これ全部包んでください」
店員の女「どれですか?」
奈津子(未)「この棚に置いてある玩具全部…」
店員の女「どの種類ですか?」
  奈津子(未)、ハンドバックから銃を出し、店員の女に向ける。
奈津子(未)「だから全部って言ってるでしょ?」
麗次の声「強盗ごっこは、そこまで」
  声のしたほうに顔を向ける奈津子(未)。
  麗次と沙里香が奈津子(未)の前にやってくる。
沙里香「それ09年製のモデルガンですね。早く下ろしてください」
奈津子(未)「…どうしてここがわかったの?」
麗次「あんたから聞いたヒントを頼りに、大きな玩具店をリストアップしたんだ」
沙里香「都内で一番たくさんの商品を扱っている店を調べたら、ここにたどり着いたんです」
  麗次、下を向き、唇を噛みしめる。
  銃を下ろす奈津子(未)。
  店員の女、奈津子(未)から離れる。
奈津子(未)「元の時代に戻ったら、成川君と結婚するつもりだったのに…。でも…夢は、夢のまま
 であり続ける事も必要なのかもね」
  顔を上げる麗次。
奈津子(未)「あなた達が来てくれて良かった」
  唖然とする麗次達。
奈津子(未)「正直、ここに来るまで迷っていたの。バグルの正体がわかったし、それに、昨夜成川君と会って、
 気づいたの。私のわがままに彼を巻き込んじゃいけないって…」
  奈津子(未)に歩み寄る二人。
沙里香「行きましょう」
  頷く奈津子(未)。
  麗次達、奈津子(未)を囲んで歩き出す。
  ミニ四駆のコーナーの前に立つスーツ姿の男の前を横切る三人。
  振り返る男。男は、バグル。
  バグル、店から立ち去る三人を見つめ、不敵な笑みを浮かべる。
  サングラスを外す。紫色の眼が無気味に光る。

○ 笹松コーポ2F・『ナウ・ウォッチ』事務所(数日後)
  ソファに座る麗次と光雄。
  麗次、天井を見つめ、ボーっとしている。
  少年ジャンプを読んでいる光雄。
麗次「みっさん、どうして、三木さんは、あのボウリング場から僕らをこの時代に送り込んだか、わかります?」
光雄「聞くところによると、あそこは、昔、三木さんが家族を連れて、よく遊びに行ってた場所らしい」
麗次「三木さん、家族いるんですか?」
光雄「奥さんは、3年ぐらい前に亡くなったって言ってたっけ…。一人だけ息子さんがいるみたいやけど、
 息子の話は、詳しく聞いてないからな…」
麗次「それで、いつもあの電気街をうろうろしてるのか」
  二人の前にやってくる沙里香。
沙里香「玉川奈津子の転送作業、無事終了しました」
光雄「お疲れさん」
  麗次、テレビの上に貼ってあるカレンダーを眺め、
麗次「そう言えば、今日が成川洋介の…」
光雄「それは、もう忘れろ」
麗次「でも、あれだけ成川のために命がけだったのに…本当に、彼の死を受け入れる事ができたのかな…」
沙里香「彼女の事なら心配ありません。送り返す前に、この時代の記憶は、全て消去しましたから」
光雄「そのほうが後腐れなくてええやろ」
  沙里香、アニメキャラのフィギアを手に持ち、
沙里香「これ、『電光姫士マーブル』のレアものフィギュアでしょ?」
麗次「それ俺の…」
光雄「おまえ、そんな趣味あんのか」
沙里香「今朝、荷物を整理したら、鞄からはみだしていたんで…」
  取り返そうと手を出す麗次。沙里香、その手を振り払い、
沙里香「あなたが元の時代に戻るまでの間、私が管理します」
麗次「フィギュアなんて何の問題もないじゃん。外で見せびらかすわけでもないのにさ」
沙里香「うるさい」
  走り出す沙里香。後を追う麗次。
  隠し部屋へ駆け込む沙里香。麗次も入ろうとするが、目の前に壁が現れ、遮断される。
  麗次、壁を叩きながら、
麗次「それ、オークションでも出回らないプレミアつきのやつだぞ。丁寧に扱えよ、おい!」
  麗次の背後に立っている三木。
  麗次、人の気配に気づき、振り返る。
三木「こらっ!」
麗次「三木さん…」
三木「移動だ」
  三木の背後に立つ光雄。神妙な面持ち。
麗次「えっ?」
三木「バグルは、1987年にいる。全員エレクトリップルームに入れ」
麗次「エレクトリップルームって?」
三木「沙里香!」
  壁が消え、隠し部屋(エレクトリップルーム)が現れる。
  部屋から出てくる沙里香。
三木「麗次の登録は、終わったか」
沙里香「はい」
  三木、麗次の背中を押す。隠し部屋に入る麗次。三木と光雄も部屋に入る。
麗次の声「俺のフィギュアは?」
  不思議な虹色の光と衝撃音と共に壁が現れ、隠し部屋が消える。

○ 電気街(奈津子の夢)
  日曜の午後の街並み。かなり混雑しているアーケード。
  雑踏の中で、楽しそうに話しながら歩いている奈津子と洋介。
  店頭に置かれたモニターにファミコンのゲーム画面が映る。それを指差し、
  モニターの前に歩み寄る二人。興味深々で話をしている。

                                                      ―終わり―

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