『555 ダッシュバード 危特科捜班』 第一回「ヨーヨー狂」byガース『ガースのお部屋』

○ 地下・プラント施設(夜)
  暗闇が広がる巨大なトンネル。ヘッドライトを照らしながら走行してくる
  黒いセンチュリー。錆びた大型タンクの前に立ち止まる。
  センチュリーのトランクが開く。
  中に黒いシートに包まれた女子校生と男子学生が向かい合うように寄り添って
  寝そべっている。
  二人を見つめている女・相沢章子(34)。ボブカット、眼鏡をかけている。
  章子の目が、青く光る。不適な笑みを浮かべている。

○ 雷鳥公園・砂場(翌朝)
  バービー人形を両手に一つずつ持ち、向かい合わせて会話をさせている
  多川 美菜(5) 。
美菜「(バービーAの声)あなたは、だぁれ?(バービーBの声)あなたはだぁれ?
 (バービーAの声)私は、バービーちゃんよ・・・」
  美菜、力ない表情で右手で腹を押さえている。
  美菜のそばに近づく女の足元。
  女は、ジーンズを身に付けている。
  しゃがみこみ、幼女と目線を合わす女、葉山 麻衣子(26)。細身で、髪は、ロング。
麻衣子「ねぇ、ここで一人で遊んでるの?」
  頷く美菜。麻衣子、美菜の人形を見て、
  万遍の笑みを浮かべ、感慨に浸り・・・
麻衣子「あ〜、かわいい!ちっちゃい頃私もこれでよく遊んだぁ。二つも買ってもらったの?」
  美菜の腹がギュルと鳴り響き、
美菜「お腹減った・・・」
麻衣子「何も食べてないの?」
  頷く美菜。麻衣子、バックの中からふがしを取り出し、
  袋を開け、美菜に手渡す。
麻衣子「これあげる。お母さんどこ?」
  美菜ふがしをかじり始め、
美菜「(正面を指差し)買い物に行ってる」
  麻衣子、幼女の指差した方向を見つめる。遠くのほうにスーパーが見える。
麻衣子「あのさ、お姉ちゃん今悪い人探してるんだ。この辺に悪い人がいるかも
 知れないから、お母さんのところに戻ろうね」
  麻衣子、美奈を抱き上げ、スーパーのほうに向かって歩き出す。
美菜「ヨーヨー」
麻衣子「えっ?」
美菜「ヨーヨー見た」
麻衣子「おもちゃ屋さんに行ってきたの?」

○ 公園の茂みから麻衣子達を見つめる視線

○ 公園・入口前
  横断歩道の前で信号待ちをしている麻衣子。ふと、歩道沿いに止まる黒いコルベットを
  見つめる。ガラスは、全面黒いフィルムが貼られ、中は見えない。
  コルベット、タイヤを軋ませ、急発進。麻衣子から遠ざかっていく。
  怪訝にコルベットを見つめる麻衣子。

○ 臨海公園内
  通路を数人の警官達がかたまりになって駆けている。

○ 同・公園内
  鼻歌を歌いながら、芝生の上を駆けている男・島 健司(29)。端正な顔立ち。
  辺りを鋭い視線で見つめながら、その場を走り去っていく。

○ 同・雑木林
  一人の長身の男が木の間を駆けている。オールバックのヘア、サングラスをつけ、
  顎髭を生やした精悍な面持ちの男・幸田 智(35)。

○ 同・通路
  林を抜け出て道の上で立ち止まり、辺りを見回す幸田。腕時計を見つめる。
  時間は、12時53分。
    ×  ×  ×
  幸田のいる場所から数十メートル離れた通路の交差点の片隅に置いてあるゴミ箱を
  覗いている恰幅の良い大柄な男・末沢 勇太(28)。
  末沢、ゴミ箱のゴミを漁り始める。
  大きな発泡スチロールの箱を見つけ、顔を強ばらせる末沢。箱の中から時計の秒針の
  音が聞こえる。スーツの内ポケットに入れていた無線機を取り出し、
末沢「中央広場のゴミ箱で怪しい箱を発見」

○ スーパー前
  無線機からの情報をイヤホンで聞き、顔色を変える麻衣子。
  美菜を母親の多川慶子 に受け渡す麻衣子。
麻衣子「・・・それじゃあ、お願いします」
慶子「・・・」
  慶子、麻衣子に視線を合わそうとせず、憮然としたまま、その場を立ち去っていく。
  美奈、寂しげな表情を浮かべながら慶子の後を追って走っていく。
  麻衣子、慶子が片手に持っている重そうな米袋をふと見つめる。
  どこからともなく女の喚き声が聞こえてくる。
  麻衣子、声のほうに足を進めていく。
  自転車置場で店員と主婦がもめている。
  麻衣子、二人に近寄り、
麻衣子「あの、どうかしたんですか?」
主婦「中で買い忘れしたものを買いに行ってるうちに自転車の荷台に縛り付けてたお米を
 取られたのよ」
  麻衣子、何かに気づき、さっきの親子のほうを見つめるが、姿が消えている。

○ 臨海公園前
  脇道に数台のパトカーと護送車が止まる。護送車から数十人の爆弾処理班が降りてくる。

○ 同・公園内
  箱に金属感知センサーを当てる末沢。
末沢「(振り返り)反応ありません」
  処理班の隊員と並んで立っていた幸田、島。箱のそばに近づいていく。
  箱の中を見つめる三人。
  箱の中には、目覚まし時計が見える。
  幸田、その時計の奥に詰まっていたしきりを外す。幸田のサングラスに青黒いものが映る。
  島、末沢、気味悪げにそれを見つめ、
島「鳩の死骸・・・」

○ 公園の向かいのビル前に止まっていたワゴンが突然大響音と共に爆破する
  車体が1m程宙に浮き、そばを通っていたセダンが爆炎を浴びている。

○ 爆破音を耳にし、ハッとする幸田達
  幸田達が公園の入口に向かって一斉に走り出していくのを見つめている男の視線。
  茂みに隠れていた男、片手に持っていたハイパーヨーヨーを振り回しながら、
  その場を立ち去っていく。

○ 繁華街
  人混みの中を歩いていた慶子と美菜のそばを後ろから麻衣子が近づく。
麻衣子「あの・・・」
  慶子、麻衣子の姿を見つめ、憮然とする。
麻衣子「そのお米、どうしました?」
慶子「さっきの店で買ったの」
麻衣子「すいませんけど、レシート見せてもらえます?」
  慶子、立ち止まり、麻衣子を睨み付け、
慶子「何、あんた私が盗んだとでも言いたいの?」
麻衣子「さっきの店で盗みがあったんです。一応、念のために・・・」
  慶子、美菜を置いて逃げ始める。麻衣子、慶子を追いかけ、慶子の腕を掴む。
  慶子、袋の中からスプレーを取り出し、麻衣子に吹きかける。麻衣子をそれを躱し、
  スプレーを奪い取ると、慶子の左腕を後ろに回し、
麻衣子「暴行の容疑で現行犯逮捕します」
  麻衣子、慶子の片手に手錠をかける。
  指を口に加えて様子を見つめている美菜。

○ 警視庁・全景

○ 警視庁・地下5階
  通路を慌ただしく歩く刑事達の中に幸田、島、末沢が肩を並べて歩く姿がある。

○ 同・危機管理特命科学捜査班・オフィス部長室
  部長デスクに座る特命班部長・小神 洋介(48)。目の前のディスプレイを
  見つめている。
  島、自分のデスクに置かれているパソコンを打ち込み、ディスプレイに爆弾の
  イメージを映し出す。島の後ろに幸田、末沢が立ち、画面を見つめている。
島「ワゴンに仕掛けられていた爆弾は、化学薬品混合型のマグネシウム爆弾。
 時限タイマーには、ICチップが使われていて、半径500m以内で車のクラクション
 程の音が鳴ると、薬品を仕切っていた銅版が作動するように音声処理されてました」
  小神、マウスをクリックし、ディスプレイにメール閲覧ソフトを表示させる。
  『黒鬼』と言う件名のついたメールを開く。
  メールは、全てローマ字で書かれた脅迫文。
  『KONOKUNIHA AKUMANI SENRYOUSARERU 
  TONAI KOUEN 7/20/13』の文字が打たれている。
  最後に、黒い獅子のマークがつけられている。
小神「・・・こんなメール今時、小学生でも作れるよな・・・」
島「目撃者の証言では、爆弾が仕掛けられていたワゴンは、爆破する10分前に
 止められたものだそうです」
末沢「公園なんて書きやがって。完全にはめられましたね・・・」
幸田「つまり、次からは、もっと捜索範囲を広げろってことだ」
島「今朝の春川公園の砂場に仕掛けられた爆弾は、周りに被害は、及ばなかったが、
 今回は、走行中の車のドライバーが飛んできた破片で重傷を負ってますからね」
末沢「まだこれからどんどんエスカレートしそうですね」
小神「念のため、政府機関には、うちの捜査班を数十人送り込んだ。引き続き、
 第6、8チームと合同で捜査を進める」
末沢「あの、葉山さんは?」
幸田「さぁな」
島「あの元白バイ姉やん、持ち場離れて単独行動してやがるんですよ」
小神「・・・」

○ 交番・取調室
  パイプ椅子に座り踏ん反り返っている慶子。憮然とした表情で俯いている。
  対峙して初老の警官が座っている。
警官「子供の目の前で、こういう事して恥ずかしくないかね?」
慶子「米袋を置きっ放しにしてる方が悪いんじゃないの?たかだか万引きぐらいで大袈裟に
 しないでよ」
警官「あんな重たいもの持って買い物しろって言うのか?被害者のお母さんは、腱鞘炎持ちで
 手が自由に動かせないんだ」
慶子「そんなの知ったこっちゃないよ」
警官「いい大人が子供みたいな受け答えしちゃいかんよ」
  慶子、憮然と警官を睨み付けている。

○ 同・休憩室
  美菜と一緒にバービー人形で遊んでいる麻衣子。かなり夢中。
  美奈と麻衣子、それぞれ人形を向かい合わせ、
美菜「あなたは、だぁれ?」
麻衣子「私は、バービーちゃんよ」
美菜「私もバービーちゃん。あなたは、偽物でしょ?」
麻衣子「偽物じゃないよ。私は・・・」
  麻衣子、脳裏にある幻想が一瞬過る・・・

○ 麻衣子の幻想
  鏡を見つめる麻衣子。鏡に映る麻衣子が、突然、無気味に嘲笑を浮かべる。
  驚愕する麻衣子。麻衣子の背後に黒い渦が現れ、やがてそれが黒い獅子の面の姿に変わり、
  麻衣子を飲み込もうとしている。

○ 交番・休憩室
  体を震わせ恐れ戦く麻衣子。
  取調室から警官が出てくる。麻衣子、ハッと我に返り、警官の方に振り向き、
麻衣子「・・・どうでした?」
警官「ようやく喋りました。この三日間何も食べてなかったそうです」
麻衣子「じゃあ、この子も?」
警官「なんでもご主人が勤めていた工場をリストラされて、それ以来行方知らずに
 なってるそうで。本人も働き場所が見つからず、やけくそになって・・・」
麻衣子「あの・・・私本部の仕事があるので、これで・・・」
警官「警視庁の刑事さんは、さすがに面倒見がいいですな。うちも部下をかかえているん
 ですが、これがまた出来が悪くて・・・」
  麻衣子、苦笑しながら警官に一礼し、美菜に手を振る。
美菜「(手を振り)またね・・・」

○ ビジネス街の市道を疾走するブルーバード2000GT

○ ブルーバード車内
  助手席に座る島がダッシュボードを開け、中からベビースターを取り出し、
  袋を開け食べ始める。
  幸田、眉を上げ、
幸田「(舌打ち)俺の車にいつの間にそんなもん・・・」
島「前に麻衣子が乗った時、ここに入れたんですよ。あいつ駄菓子屋で懐かしがって、
 10袋ぐらい買って食べてましたから」
幸田「子供じゃあるまいし。緊張感足りねぇぞ、あいつは」
島「まだ入って1週目でしょ?毎日緊張してたら体が持ちませんよ。とくにうちは。
 何しろ危険任務を一手に引き受けてるんですからね。移動中ぐらいリラックスさせて
 やったほうがいいですよ」
幸田「やけに片持つじゃないか。惚れたのか? 」
島「(苦笑し)・・・んなぁこたぁない。それにしても何であんな交通課の姉ちゃんなんかを
 やすやすとうちに入れたんでしょうね?」
幸田「小神部長直々の推薦だったらしいが・・・。何か裏がありそうだな」
  島、ベビースターをボリボリと食べ始めている。幸田、透かさずベビースターを奪い取り、
幸田「こんなもん食うな。カスが落ちる」
  島、ふてくされた表情を浮かべながら、煙草を加え、ライターで火をつけようとする。
  幸田、透かさず煙草を奪い取り、
幸田「てぇい!俺の車で吸うんじゃない」
島「こんな古い車・・・いつまで乗り続ける気ですか?」
幸田「(島を睨み付け)おい、俺のジョーズにケチつける気か?」
島「シートもタイヤもエンジンも、全て取り替えたっていっても、やはり見た目は、
 70年代ですからね・・・」
幸田「70年代の何処が悪い。こいつは俺の青春だ。見ろ、この木目調の素晴らしさを・・・
 角目のライト、フェンダーミラー、しなやかなボディライン。尻でか丸ぽちゃの今の車とは、
 比べものにならん。所詮お前にこいつの魅力は、わかるまい」
島「わかりませんよ、僕は、70年代生まれですもん」
幸田「なんだ、お前のボディも70年代じゃないか」
島「(呆れてものも言えない)・・・」
  助手席側のダッシュボードに設置されている小型無線機のアラームが鳴り響く。
  島、トランシーバーを取り上げ、
島「はい、こちら『02』」
  スピーカーから小神の声が鳴り響く。
小神の声「情報部に連絡が入った。今朝、四星興産の本社のパソコンに例の爆弾犯からの
 脅迫メールが届いたそうだ」
幸田「四星の社長に?」
小神「内容は、警視庁に送られてきたものと同じだ」
島「社長は今どこに?」
小神「自分の邸宅にいる」
島「今から向かいます」
  レシーバーを置く島。
幸田「四星興産のデータを出してくれ」
  島、コンソールの中央につけられているモニターの横のボタンを押す。
  画面に会社名がリストアップされ、「四星興産」の項目を選択する。
  画面に事業内容が表示される。
島「化学製品、医療機械、航空部品などの開発、製造をしている会社のようですね」
  幸田、物憂げに考え込んでいる。

○ 危機管理特令科学捜査班・部長オフィス
  小神のデスクの前に立つ麻衣子。
  麻衣子、恐縮気味に項垂れている。
小神「米泥棒?」
麻衣子「・・・職務の一環だと思ってつい・・ ・」
小神「・・・ここは、警視庁が秘密裏に組織した危機管理部門の第5セクションだ。
 米泥棒は、所轄に任しとけばいい」
麻衣子「・・・すいません」
小神「今、幸田達は、四星興産に向かっている。君もそこに向かってくれ」
麻衣子「わかりました」
  麻衣子、入口に向かって駆けていく。
  小神、座席のシートに深々ともたれ、煙草に火をつける。

○ 笹川邸・応接室
  パソコンのディスプレイに映る脅迫メールを見つめている幸田。
  『KONOKUNIHA・・・7/20/15』とワープロ文字で打たれている。
  最後に黒い獅子のマーク。 
幸田「爆破時刻は、午後3時・・・(腕時計 を見つめ)後1時間程しかない」
  幸田と島、ソファに座っている。
  二人に対峙するように笹川 康彦(56)がソファに座っている。煙草の煙を燻らし、
  落ち着かない様子。
笹川「何も要求してこないのは、いったいどういうことだ。犯人の目的はなんだ?」
島「それは、まだわかりません。念のため、今日は、ここで待機してもらえませんか?」
笹川「生憎忙しい身でね。午後から取締役会議に出席しなきゃならない。
 どうせ、何かのいたずらだろう?」
島「すでに今日2度も爆破が起きてるんです」
笹川「2度とも公園ばかり狙われたんだろ?あんた方が必死になって探せば、
 なんとかなるんじゃないのか?」
  笹川、テーブルに置かれている灰皿に煙草を押しつけると、立ち上がり、部屋を出て
  いこうとする。二人も一斉に立ち上がり、
島「どこへ行かれるんですか?」
笹川「会社だ。さっき言っただろ?私は、忙しいんだ」
幸田「護衛します」
  笹川、振り返り、
笹川「あんまり騒ぎ立てないでくれよ。警察沙汰は、すかん」
  笹川、足早に部屋を出ていく。
島「(舌打ち)ムカつくな〜あの言い方」
  幸田、棚に置かれていた笹川の家族の写真を見つめる。
  写真には、青々とした山間に流れる清流の岩場を背景に、左から笹川、娘の晴佳(16)、
  妻の美奈子(41)が写っている。
  幸田、怪訝な表情を浮かべる。

○ 同・車庫前
  シャッターが開き、中から一台のベンツが走り出してくる。ベンツ、路上に出ると、
  脇道に止まっているブルーバードのそばを横切っていく。
  走り去っていくベンツを運転席の窓から首を出し見つめている幸田。
  ブルーバードのエンジンがかかる。
  走り出すと、180度ターンして、ベンツの後を追い始める。

○ ベンツ車内
  携帯電話が鳴り響く。笹川、スーツから携帯を取り出し、話し出す。
笹川「何者だ?」
  ボイスチェンジャーで低音に変えられた男の奇妙な声が聞こえてくる。
男の声「(無気味に笑い声を上げ)心の準備は、整ったか・・・」
  顔を顰める笹川。

○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。
幸田「こんな時間に笹川は、自宅で何をしてたんだ?」
島「あっ?そう言えば、確かにそうですね。あれだけ忙しい、忙しいって言っておきながら、
 何で自宅なんかに・・・」
  フロントガラス越しに見えるベンツが、突然、猛スピードで走り始める。
  幸田も負けじとアクセルを踏み込む。
島「何のつもりですかね?」
幸田「ションベンにでも行きたくなったんじゃないか?」
  幸田、憮然と前を見ている。

○ 立体交差点
  高速高架下の道路を潜り抜けていくベンツ。その対向車線から黒づくめのレザースーツと
  ヘルメットを身に付けた三台のカスタムバイクが並んで走ってくる。

○ ブルーバード車内
  フロントガラス越しに三台のカスタムバイクが見える。
  幸田、バイクを睨み付け、
幸田「なんだ、あいつら」

○ 走行するブルーバードのそばを横切っていく三台のカスタムバイク
  三台のバイク、一斉に180度ターンして、ブルーバードの周りに張り付いて走る。

○ ブルーバード車内
  運転席側のドアの窓越しからバイクを見つめている幸田。バイクに乗る男を睨み付けて
  いる。
  助手席側の窓越しからバイクを見つめている島。島、窓を開け、
島「おい、何のマネだ、お前ら!」
  バイクの男、スーツのジッパーを開き、中から拳銃を取り出し、島に向ける。
  島、仰天する。
  引き金を引く男。島の額にBB弾が当たる。

○ 急ブレーキをかけ立ち止まる道の真中で立ち止まるブルーバード
  バイクは、そのまま走り去っていく。

○ ブルーバード車内
  額を押さえ、シートに沈み込んでいる島。
  幸田、仰天し、
幸田「おい、大丈夫か?」
  島、目を赤くし、涙を流している。
島「いてぇ・・・」
  幸田、島の額を見つめる。額は赤く腫れている。幸田、笑みを浮かべると、
幸田「生きてるだけありがたいと思え」
島「あいつら、今度会ったら実弾を食らわしてやるぞ」
  どこからともなくヘリの羽音が聞こえてくる。島、その音に動揺し、慌てて耳を塞ぐ。
  島の脳裏に、ある場面が過る。

○ 島の回想
  嵐の中の海上を飛行するヘリが海に向かって降下している
  ヘリ・キャビン内。操縦桿を握った島がパニックに陥っている。助手席にいるもう一人の
  パイロットの男が島の代わりにレバーを握り、操作を試みている。
  しかし、ヘリ、真っ逆様に海に墜落。

○ ブルーバード車内
  島、額から汗が滲み出ている。

○ 東京上空を飛行するベル230
  ブルーとシルバーのツートンのヘリ。
幸田の声「こちら『02』、『230』応答せよ」
  パイロットの中年の男・土下(はした)仁(40)の声が聞こえる。
土下「こちら『230』どうぞ!」

○ ブルーバード車内
  走行しながらレシーバーに話しかけている幸田。
幸田「ハシさん、ちょっと頼みがある」
  スピーカーから土井の声が聞こえる。
土下の声「こっちは地震予知団体のクルーを乗せて、火山調査の帰りだ。邪魔すんな」
  後部の座席に外人と日本人の老紳士風の専門学者が二人が座る。データのプリントを
  見つめながら、話しをしている。
幸田「緊急なんです。追跡中のシルバーのベンツが254号線を走ってるんです。
 ナンバーは、50−75」
  耳を塞いだまま、助手席にうずくまり微動だにしない島。島の様子を見つめながら、
  レシーバーに喋りかける幸田。

○ 230・キャビン
  計器盤の中央に設置されたコンピュータシステムのモニターに東京の街並が映し出され、
  車種判別のサーチ画面が右下に現れる。
  ビルの谷間を忙しなく走っている車の中から、一台の車がピックアップされ、
  ズーム・イン、走行するシルバーのベンツの映像が映し出される。
  土下、モニターを見つめる。
土下「いたいた、ナンバーを確認した。南南東を真っ直ぐ走行中だ。待てよ、スーパーの
 立体駐車場に入ったぞ」

○ 高架沿いをスピードを上げ疾走する三台のカスタムバイク
  その後をブルーバードが追っている。

○ ブルーバード車内
  レシーバーに話しかける幸田。
幸田「サンキュー、どうも」
土下の声「後で借りは、帰してもらうぞ」
幸田「わかってます」
  島、まだ両手で耳を押さえている。
幸田「(島を見つめ)どうした?」
島「いや、ちょっと耳鳴りがしたもので・・・」
  無線受信機のアラームが鳴り響く。
  島、すかさずレシーバーを取る。
  スピーカーから麻衣子の声が聞こえてくる。
麻衣子の声「こちら『03』」
島「麻衣子?」

○ 繁華街の市道を走行しているオートバイ
  ブルーの『ジール』に股がる麻衣子。
  ヘルメットに内蔵されているスピーカーから島のどよめきが聞こえてくる。
島の声「お前、どこで油打ってたんだよ!」
  麻衣子、顔を歪めながら、口元にあるマイクに向かって喋り出す。
麻衣子「すいません、遅れちゃって・・・」
  
○ ブルーバード車内
  島からレシーバーを取り上げ、喋り出す幸田。
幸田「板橋にある大型スーパーの立体駐車場に向かってくれ」
  島、唖然とする。
幸田「ナンバー50−75シルバーのベンツだ。四星興産の笹川社長が乗ってる。
 至急探し出して、保護しろ」
麻衣子の声「わかりました」
  島にレシーバーを投げ渡す幸田。島、レシーバーを元に戻し、
島「あいつに任して大丈夫ですか?」
幸田「これぐらいの事できなくて、どうする? 」
  幸田、アクセルを踏み込み、急加速する。

○ 交差点
  信号が赤に変わる。
  二台のバイクは、枝分かれし、それぞれ別の路地へ走り始める。
  もう一台のバイクももう一つ奥の路地に入ろうとするが、そこへブルーバードが
  割り込んでくる。
  バイクは、ブルーバードのボンネットの上をジャンプし、地面に着地した瞬間、
  ふらつきながら滑るように倒れ込む。
  ブルーバード、立ち止まり、幸田と島が降りて、バイクに近づいていく。
  幸田、男のヘルメットを剥ぎ取る。
  男は、赤髪の少年。少年、無気味な笑みを浮かべながらムシャムシャとガムを噛んでいる。
幸田「(少年を睨み付け)誰に頼まれた?」
  少年、幸田から顔を背け、惚けた表情を浮かべている。
  幸田、拳を握り、右腕を振り上げるが、その腕を島が掴む。
島「駄目ですって、暴力は!」
幸田「一、二発殴ったら、口が軽くなる」
  少年、突然、顔色を変え、幸田にガンを飛ばし、ガムを幸田の顔に向けて吐き捨てる。
  幸田の頬にガムが張り付いている。幸田、怒りを爆発させ、少年に殴りかかろうと
  するが、すかさず島が、幸田を後ろから羽交い締めし、必死に食い止めている。
  少年、ズボンのポケットから小さな金属球を取り出し、それを二人に投げつけよう
  とする。
幸田「島、離せ!」
  島、幸田から手を離す。幸田、少年の手首を掴み、金属球を奪い取る。
  幸田、金属球を怪訝に見つめている。

○ 立体駐車場
  横一列に隙間なく並んで止まっている車の間をゆっくりと走り抜けている麻衣子のバイク。
  後ろ向きに止まっているベンツの前で立ち止まる麻衣子。
  麻衣子、バイクから降り、ベンツの後ろに近づく。しゃがみ込み、ナンバーを確認する。
  ナンバーは、『50−75』。
麻衣子「(溜め息)やっと、見つかったぁ・・・」
  突然、ベンツの車体が大きく揺れる。
  唖然とする麻衣子。
  また揺れる。
  麻衣子、ベンツのトランクに耳を当てる。
  麻衣子、ポケットから電子ロック解除キーを取り出し、トランクの鍵穴に差し込む。
  暫くして、電子音が鳴り、カチッと音が鳴る。
  トランクを開ける麻衣子。
  トランクの中には、口と体を電気コードで巻き付けられた女が乗っている。
  呆然とする麻衣子。
  麻衣子の背後に止まっていた黒いコルベットのエンジンがかかり、駐車ゾーンから
  出ると、静かにその場を走り去っていく。

○ 危特科捜班・取調室
  椅子に腰掛け、デスクに両肘をつき、正面に座っている少年を睨み付けている幸田。
  少年、椅子に深々ともたれかかり、天井を見つめている。
  島が部屋に駆け込んでくる。
  幸田のそばに近づき、
島「幸田さん、第8チームから連絡がありました。3つ目の爆弾は、見つからなかったそうです」
  幸田の目つきが更に険しくなり、
幸田「(金属球を少年に見せつけ)誰からもらった?」
  少年、不適な笑みを浮かべている。
  幸田、少年に殴りかかろうとする。
  島、慌てて幸田の腕を掴み、
島「だから、駄目ですって、幸田さん」
  少年、二人を呆然と見つめている。
幸田「あくまで喋らない気なら、科学的かつ強制的に口を割らせる方法もあるんだぞ・・・
 やりたいか?」
少年「・・・」
  少年、幸田から視線を反らし、天井を見つめている。
幸田「鑑定に回す。島、準備しろ」
  立ち上がる幸田。

○ 同・実験室
  ステンレス製の白い壁に囲まれた狭い部屋。
  その中央に、マシーンのシートに少年が座らされている。両腕にリストバンドを
  つけられ、体のあちこちに電極つきのシールが貼られている。
  少年の前には、大きなスクリーンが設置されている。スクリーンにある女の写真が
  投影される。

○ 同・監視ルーム
  巨大なコンピュータ上にあるモニターに映る少年。
  その下には、脳波、脈拍、血圧、発汗の測定レベルの波形パネルがあり、
  針が微妙に振れている。
  奇妙なパルス音が少しずつ大きく鳴り響く。
  窓越しに見える実験室の様子を見つめる幸田、島、そして研究員。
  扉の音が開き、麻衣子が入ってくる。
幸田「笹川の行方は?」
麻衣子「わかりません」
幸田「トランクに乗ってた女の身元は?」
麻衣子「まだわかっていません。今、警察病院で治療中です。やっぱり、幸田さんの言った
 通りでした。笹川の娘の晴佳さんは、今日、学校に来てなかったそうです。メードさんの話に
 よると、今朝も7時30分にいつものように家を出て、学校に向かったと言ってました。
 これいったい、どういうことなんですか?」
  麻衣子、ふと窓越しの様子を覗き、
麻衣子「あの・・・これ、何してるんですか?」
幸田「見ればわかるだろ。リラックス・マシーンだ」
麻衣子「まだ子供じゃないですか」
幸田「いいんだ」
麻衣子「あの機械、スパイ、テロリスト用の自白プログラムマシーンでしょ?
 まだテスト段階じゃあ・・・」
幸田「島、こいつ外に連れ出せ」
島「わかりました」
  島、麻衣子の片腕を掴み強引に外へ連れていく。
研究員「鑑定を開始します」
  幸田、神妙な面持ちで中の様子を見ている。
幸田「やってくれ・・・」

○ 同・監視ルーム前通路
  扉が開き、中から島と麻衣子が出てくる。
  麻衣子、島の腕を振り払い、怒り声を上げ、
麻衣子「あんなやり方卑怯じゃないですか!」
島「(耳の穴を人差指でほじくりながら)ギャーギャーでかい声でわめくなって」
麻衣子「あの子がいったいどんな重要な情報を握ってるって言うんですか?」
  島、パチンコ玉のような小さな金属球を右手で摘まみ、麻衣子に見せる。
  麻衣子、唖然としながら、不思議そうに金属球を見つめている。

○ 同・資料室
  デスクの上に置かれる1枚の写真。
  写真には、天井に巨大な配管がいくつも伸びている。奥のほうにガスタンク、そして
  棚に飲料水のボトルが並んでいる。
  更に奥のほうには、先の鋭い鉄の突起物の様なものが見える。
  その周りには、紫色の柔道着の様な衣服を身につけた少年達の姿が映っている。
  デスクの周りに立つ島と麻衣子。
麻衣子「プラント施設?」
島「旧式のロシア原潜の内部を改造して作られたものだ」
麻衣子「潜水艦?」
  麻衣子、右手の掌に金属球をのせている。
島「この写真は、昨日、東南アジアに潜伏している国際麻薬密売組織の潜入調査に向かった
 諜報部の部員が配信してきたものだが、その直後、その諜報部員との音信が途絶えて
 しまったんだ」
麻衣子「(金属球を見ながら)これは?」
島「中に殺人バクテリアが入ってる」
  麻衣子、驚愕し、思わず金属球から手を離す。
  床に金属球が落ちると、ガラスのように粉々に球が砕け散る。
  麻衣子、仰天し、慌てて出口に向かって走り出そうとする。
島「中身は、抜いてあるんだよ」
  麻衣子、立ち止まり、振り返る。
麻衣子「先に言ってくださいよ・・・」
島「サンプルはいくらでもあるんだ。マグネシウム合金と特殊素材『BO』で作られたカプセルさ。
 バクテリアは、遺伝操作されて作られた新種のものだ。ごく微量の細菌を吸い込むと、
 人の全身の筋肉を一瞬で異常肥大させ、破裂させてしまう。これを都内でばらまこう
 としていた少年グループを二日前、第3チームが保護し、それを阻止したと思っていたが、
 あの少年もこれと同じものを持っていた」
麻衣子「・・・このプラント施設と何の関係が?」
島「少年達の腕を見てみろ」
  麻衣子、もう一度写真を見つめる。
  少年達の腕につけられた黒い獅子の刺青がつけられているのに気づく。
    ×  ×  ×
  麻衣子の幻想。
  鏡の中の麻衣子が黒い獅子に飲み込まれようとしているイメージ。
    ×  ×  ×
麻衣子「このマーク・・・あの脅迫メールにつけらていたものと同じ・・・」 
  
○ 同・通路。
  歩いている島と麻衣子。
島「少年少女連続失踪事件の事知ってるか?」
麻衣子「この三年の間に二十四人もの少年少女達が相次いで行方不明になってる
 あの事件のことですか?・・・」
  島、うちポケットから写真を取り出し、
島「この写真に映っているのは、その消えた少年達なんだ」
  麻衣子、神妙な面持ちになり、
麻衣子「何者かが少年達を無差別に拉致して、彼らを使って凶悪犯罪を引き起こそうと
 している・・・じゃあ、笹川の娘も・・・」
島「またどでかい任務を背負わされるはめになりそうだな・・・」
  島、そばにあったトイレに駆け込もうとする。
島「(振り返り)ああ、幸田さんのことだけどな」
  麻衣子、島を見つめる。
島「あの人の弟さん、中学生の時、同級生に殴り殺されたんだ」
  麻衣子、吃驚し、
麻衣子「なんでまた?・・・」
島「幸田さんから直接聞いたんだけど、それ以上何も聞けなかったよ」
  麻衣子、寡黙に俯く。

○ 同・オフィス
  デスクの座席につき、検査データを見つめている小神。
  小神の前に幸田、島、麻衣子、末沢が立っている。
幸田「前に暴行容疑で挙げられていました。名前は、高波孝十六歳」
 小神「組織の居場所は、わかったのか?」
幸田「いいえ、残念ながら。アメリカ国籍の白人から直接指示を受けたようです」
小神「仮に一連の失踪事件と、今回の事件が結びついたとして、なぜ、笹川自身まで拉致
 されたんだ?しかもわざわざ我々の目の前で・・・」
幸田「奴らは、先に警視庁にメールを送って来ています。もしかしたら、この一連の爆弾事件は、
 我々の情報を知るためにわざと起こしたんじゃあ・・・」
小神「となると、今までの我々の動きは全て監視されていたことになるな」
  幸田、ズボンのポケットから焦げた2つの破片を取り出し、島達に見せる。
島「なんですか?」
幸田「爆弾の破片だ。研究部で調べてもらった結果、この2つの爆弾には、特殊素材「BO」
 が使われていた。そして、その犯人の一人は、この女だ」
  幸田、島達に女の写真を見せる。
幸田「相沢章子。東豪大の医学研究グループで新薬開発に携わっていた女だ」
麻衣子「何者なんですか?」
幸田「5年前、同僚の研究員に自分の作った新薬を飲ませ、殺人罪で逮捕された。
  昨夜、第3チームの連中が金属球を少年達に手渡していた女を挙げ、取り調べた結果、
  この女の存在が浮かび上がった。同じく、高波に彼女の写真を見せたら、反応が見られた」
末沢「じゃあ、この女が殺人バクテリアを・・・でも、何のためにこんなことを・・・」
  幸田、表情を強張らせ、憮然としながらその場を立ち去っていく。
  立ち去っていく幸田の背中を怪訝に見つめている四人。
麻衣子「部長、幸田さん、どこか具合でも悪いんですか?」  
小神「さぁな」
  デスクの電話が鳴り出す。
  入口から島と末沢が入ってくる。
  受話器を取る小神。暫くして、耳元から受話器を離し、麻衣子に話しかける。
小神「北洋化学工業の本社に例の脅迫メールが届いた。都内のどこかの公園で爆破時刻は、
 午後5時ジャスト」
島「要求は?」
小神「今のところはない。第8チームと警護班が本社と社長の自宅に向かった。
 君らは、爆弾の捜索に向かってくれ」
  島、末沢、麻衣子、一斉に部屋を出ていく。

○ 警視庁地下2階・駐車場
  ブルーバードの助手席シートの下に腕を伸ばしている幸田。
  島達が幸田の背後に近づいてくる。
島「幸田さん、また例の爆弾犯からのメールが・・・」
  幸田、微動だにしない。
島「何してるんですか?」
  幸田、シートの下から腕を出す。BB弾を指で摘んでいる。
幸田「後でこれを調べてくれ」
  島、ポケットからハンカチを取り出し、
島「わかりました」
  幸田、運転席に乗り込む。助手席に末沢が乗り込む。
  エンジンの轟音が立てながら、ブルーバード、ミニクーパー、その他覆面車が一斉に
  出口に向かって走行する。

○ ビジネス街を疾走するブルーバード
  商業ビルに囲まれた公園の脇道に止まる。運転席から、幸田、助手席から末沢が
  降りて、当たりを見回している。

○ 住宅地の路地を疾走するミニクーパー
  小さな子供達で賑わう公園の前に車が止まる。
  中から、島と麻衣子が出てきて、公園の方に駆けていく。

○ 臨海地域の公園のそばをサイレンを鳴らしながら3台のパトカーが走行している。

○ 雷鳥公園内
  通路を駆けながら、辺りを見回している幸田。車椅子に乗る女性とそれを押す
  男性のそばを横切り、足を進める。
  その背後に警官達の姿がある。警官、辺りを見回している。
  幸田、入口前に止まるピザ配達用のバイクを見つめる。
  暫くして、ふと、展望台を見つめる。
  男が一人ポツッと立っているのが見える。

○ 展望台
  階段を駆け上がってきた幸田。
  ベンチの上に食べ干されたピザのケースが置き去りにされているのを見る。
  幸田、街の景色を見つめている男の背後に近づいていく。
  男、右手にハイパーヨーヨーを持ち、振り回している。
  幸田、男の後ろで立ち止まり、
幸田「ちょっといいかな」
  振り返る男。
  男は、まだ顔にあどけなさを残した少年である。少年の口元にパンの粉がこびり
  ついているのに気づく幸田。
幸田「(入口前のバイクを指差し)あそこに止まってるバイクに乗ってる人、
 見かけなかった?」
  少年、寡黙にハイパーヨーヨーを振り回している。
  幸田、怪訝に少年を見つめながら、
幸田「君、学生か?」
少年「・・・」
幸田「ここで何してるんだ?」
少年「あんた、刑事?」
幸田「ああ・・・」
  少年、突然表情を強ばらせると、ハイパーヨーヨーを飛ばす。空を切り刻むような
  シュバッと言う音と共に、ヨーヨーは、幸田の額にクリティカルヒット。
  思わず悲鳴を上げ、よろめく幸田。

○ 高架下・公園
  当たりを見回している島。
  滑り台の方に向かって駆けている麻衣子。
  フェンスの向こうに止まっている黒いコルベットを見つめている。
麻衣子「島さん」
  麻衣子に近づく島。
麻衣子「あの車・・・」
  島、コルベットを見つめる。
島「どうした?」
麻衣子「あの車、2度目の爆弾探しの時も見かけたんです・・・」
島「・・・」
  と、突然、エンジンがかかり、タイヤを滑らせながら急発進して走り去っていく
  コルベット。
  島、麻衣子、路上に走り出て、遠のいていくコルベットを見つめている。
   
○ 雷鳥公園・通路
  全速力で走る幸田。額が真赤になっている。
  幸田の前方をヨーヨーを持った少年が走っている。
  幸田、激しい息遣いで走っている。
  少年のポケットから袋に入った白い粉末が路面に落ちる。
  幸田、咄嗟に足を止め、それを見つめながら、携帯を取り出し、ボタンを押している。
幸田「幸田だ。今すぐ雷鳥公園に来い!怪しい奴を見つけた」
  幸田、携帯を切るとまた走り始める。
  幸田、粉末の袋に金色の糸の様なものが張り付いてるのに気づき・・・。
  
○ 高架下・公園
  島、携帯を切ると覆面車のほうに走り出す。わけもわからず、麻衣子も後を追う。

○ 雷鳥公園・通路
  少年、前方を歩いていた男を押し退け、男が押していたALS患者の初老の女性が
  乗る車椅子を奪い取る。
  幸田、足を止め、少年を睨み付ける。
  少年、女性の首にヨーヨーの鎖を巻き付けると、車椅子を押し、そばにあった公衆トイレに
  駆け込んでいく。
  幸田、緊張した面持ちでその様子を見守っている。

○ ビジネス街をエンジンを唸らせ疾走するミニクーパー
  交差点をドリフトして左折する。

○ 雷鳥公園・トイレ前
  トイレを見つめている幸田。幸田の周りに数人の警官と、末沢が立っている。
  幸田、ゆっくりと歩き出し、トイレに近づいていく。
  トイレの中から少年の怒鳴り声が響いてくる。
少年「来るな!」
  足を止める幸田。
  少年の声が聞こえなくなる。
  数人の警官がトイレの周りの茂みに隠れている。
  少年、薄ら笑いを浮かべながら幸田を見ている。
幸田「何が面白いんだ?」
  少年、人工呼吸器に手をかけようとする。
幸田「(透かさず)要求があるなら何でもいいから言ってみろ」
少年「・・・この辺りにいる中年親父、うざいから皆殺しにして来てよ」
幸田「(眉間に皺を寄せ)何?」
少年「頭来るんだよ。あいつら見てるとさ」
  突然、どこからともなく大爆音が響き渡る。
  幸田、驚愕し、辺りを見回している。
幸田「どこだ?・・・」
  幸田、そばに来た末沢に話しかけ、
幸田「ここは、俺がやる。公園の周りを調べろ」
末沢「わかりました」
  末沢、数人の警官を引き連れ、通路を走っていく。
  末沢達と行き違いで、島と麻衣子が幸田の前に駆けてくる。
  二人、幸田の前で立ち止まり、
麻衣子「幸田さん!」
島「犯人は?」
幸田「便所の中だ。人質を取ってる。島、便所の入口のそばに近づいて、俺が合図するまで
 隠れてろ」
島「わかりました」
  島、すぐさま通路を駆けていく。
  麻衣子、小声で幸田に喋りかけ、
麻衣子「私は、どうすれば?(幸田の額を見つめ)・・・幸田さん、おでこ
 どうしたんですか?」
  麻衣子、幸田の顔を見つめる。幸田、眼光鋭く、少年を食い入るように睨み付けている。
幸田「気にすんな。それより、お前ならこんな状況の時、どうする?」
麻衣子「・・・説得するしかないと思いますけど・・・」
幸田「じゃあ、やってみろ」
  麻衣子、唖然とし、
麻衣子「えっ、でも私、経験が・・・」
幸田「冗談だ」
麻衣子「こんな時に何なんですか?」
幸田「爆弾犯は、別にいる・・・」
麻衣子「えっ?」
  麻衣子、神妙な面持ちになり、
幸田「奴も爆弾犯に違いないが、一連の爆弾事件とは、関係ない」
  幸田、麻衣子に白い粉末を手渡す。
幸田「塩素酸カリウムだ。それにこれが付着していた」
  幸田、金色の糸を麻衣子の手に置く。
麻衣子「(糸を見つめながら)・・・これ、人形の髪です・・・」
幸田「奴は、人形の中に爆薬を仕込んでる」
  麻衣子、ふと昨日の事を思い出し、血相を変える・・・。
麻衣子「米泥棒の子供が持ってた人形・・・」
幸田「心当たりあるのか?」
麻衣子「昨日、この公園の砂場で遊んでたんです。同じ人形を2つも持ってたから
 おかしいなぁとは思ってたんですけど・・・」
幸田「さっさと調べに行け!」
麻衣子「はい・・・」
  麻衣子、慌てて、その場を走り去っていく。
    ×  ×  ×
  公園内。池付近の通路。
  末沢と警官達が必死で走っている。
  末沢、突然足を止め、前方を見つめ驚愕する。
  炎に包まれた人間がふらつきながらこっちに近づいてくるが、すぐに地面に倒れ込む。
末沢「水だ、池から水を汲んでこい」
警官A「はい」
  末沢、背広を脱ぎ、燃えたぎる人に近づく。背広で必死に火を払い消そうとするが、
  激しい炎に阻まれている。
    ×  ×  ×
  公園内。トイレ前
幸田「(大声を上げ)おい、さっきの爆破は、お前の仕業か?いったい、誰から作り方を
 教わったんだ?」
  トイレの中から少年の声が聞こえてくる。
少年「・・・どの辺で爆発した?」
幸田「この公園のどこかだ」
  少年、少し動揺した面持ちで、車椅子の女性を幸田達の前に見せつけ、人工呼吸器の
  調節器に手をかける。
幸田「おい、その人の人生奪ってみろ、お前絶対殺すぞ」
少年「・・・やれば」
  互いににらみ合う二人。
  幸田、トイレのそばに佇む島に合図を送る。島、壁を沿うようにゆっくりとトイレの
  入り口に近づく。
  少年、幸田を睨み付けながら、調節つまみを回そうとした瞬間、透かさず島が少年の
  右手首を掴み、トイレの中に押し込んでいく。
  幸田、咄嗟に走り出し、車椅子を押して、トイレから離れる。

○ 公衆トイレ内
  島、少年の右腕を捻じり、背負い投げをする。床に体を押しつけると、スーツの
  ポケットから手錠を取り出し、右手首にはめる。
  少年、観念したように床に突っ伏したまま、微動だにしない。
  幸田、しゃがみこみ、少年と向き合い、
幸田「なぜこんなことをしたんだ?」
  憮然としている少年。しばらくじっと少年を見つめている幸田。
少年「・・・バイト先の先輩に叱られて、むしゃくしゃしてやった」
  幸田の表情が少しずつ険しくなり、
幸田「人の命を粗末に扱うんじゃねぇよ、カス野郎!」
  少年、突然、大笑いし、
少年「なんか、すっごく必死だね」
  幸田、いきなり、少年の頬をおもいきり拳で殴りつける。
島「(慌てて幸田の腕を掴み)幸田さん!」
  失神する少年。
  幸田、鬼のような形相。

○ 交番前
  ミニクーパーが急ブレーキで立ち止まる。

○ 交番内
  初老の警官が調書を調べている。
警官「わかりました。東京都世田谷の文化住宅です」
麻衣子「ありがとうございました」
  麻衣子、透かさず、その場を走り去っていく。

○ ミニクーパー車内
  麻衣子、ハンドルを握りながら、レシーバーを片手に持ち、
麻衣子「人形を持っていた女の子の家の住所がわかりました。今からそこに向かいます」
  スピーカーから幸田の声が聞こえる。
幸田の声「わかった。俺達も今からそっちに向かう」

○ 文化住宅前通路
  ミニクーパーが勢い良く走行してくる。
  急ブレーキがかかり、文化住宅の前で車が止まる。
  運転席から麻衣子が降り、そばの階段を駆け登っていく。
  
○ 同・2階通路
  「多川」の表札のかかった扉を叩く麻衣子。
  扉が開く。扉の隙間から慶子が顔を出す。
  麻衣子、警察手帳を慶子に見せ、
麻衣子「美菜ちゃんは?」
慶子「えっ?」
  麻衣子、慶子を押し払い、中へ駆け込んでいく。

○ 多川家
  襖を開ける。麻衣子。中で泣いている美菜を見つける。
  麻衣子、美菜と顔を合わす。美菜、顔を赤く腫らしている。腕や足に痣が無数に
  ついている。
  麻衣子、驚愕している。慶子、憮然と麻衣子、慶子を睨み付けている。
麻衣子「あんたがやったの?」
慶子「私の言うこと聞かないからよ」
麻衣子「こんなになるまで殴ることないじゃない」
慶子「うるさいわねぇ、私の子供なのよ。ほっといてくれる」
  麻衣子、険しい表情をしながら、慶子の前に向かい、いきなり慶子の頬を殴りつける。
  慶子、殴られた頬を手で押さえ、物凄い形相で麻衣子を睨み付ける。
慶子「痛いじゃないのよ!」
麻衣子「この子は、その倍以上の苦痛を味わってるの。どうしてそれがわからないの?」
慶子「この子のことが心配なら、あんた面倒見てよ」
麻衣子「(愕然とし)・・・なにそれ・・・」
  幸田と島が部屋の中に駆け込んでくる。
  二人、中の様子を見つめ、
幸田「どうした?」
  麻衣子、慶子を睨み付けたまま微動だにしない。
島「葉山、爆弾は?」
  麻衣子、我に返り、
麻衣子「爆弾・・・あっ!」
  麻衣子、美菜と顔を合わし、
麻衣子「ねぇ、あのお人形どこに置いてあるの?」
美菜「(押し入れを指差し)その中」
  麻衣子、押し入れを開ける。プラスチックケースの中に2つの人形を取り出す。
  どちらも服がボロボロに破けてしまっている。
麻衣子「(両手で人形を持ち)ありました・・・」
  幸田、麻衣子の手から2つの人形を奪い取り、
  人形の服を剥ぎ取る。片方の人形を調べ終わると、その場に放り捨て、もう一つを
  調べ始める。
  その様子を悲しげに見つめている美菜。
  幸田、背中についている蓋を開けようとするが、慌ててやめる。
  幸田、人形の腹についた小さなデジタル時計を見つける。
  タイマーは、「5:03」秒を表示している。
島「解除できそうですか?」
幸田「トラップ式かもしれん」
  幸田、突然、玄関に向かって走り出し、外へ飛び出していく。
  島も、慌てて幸田の後を追う。
  麻衣子、戸惑いながらも外へ出ていこうとするが、振り返り、
  美菜の方を心配気に見つめている。
  島、麻衣子に呼びかけ、
島「行くぞ!」
麻衣子「はい・・・」

○ 文化住宅前・通路
  ブルーバードに乗り込む幸田。しかし、すぐにまた車から降り、ミニクーパーに乗り込む。
  エンジンを駆け、猛烈な勢いでその場を走り去っていく。
島「どうして、自分の車使わないんですか?」
  島、ブルーバードの運転席に乗り込む。
  麻衣子、階段を駆け降りている。
島「早くしてくれ、俺、運転できないんだ」
麻衣子「えっ?」

○ 国道
  走行する車の合間を縫って、ジグザグで走行しているミニクーパー。
  後を追うように数台のパトカーが走行している。

○ 湾岸・埋め立て地区そばの国道を猛スピードで走るミニクーパー
  
○ ミニクーパー車内
  幸田、額から汗を流しながら、憮然とハンドルを握っている。更にアクセルを踏み込み、
  加速する。

○ 埠頭
  大きく湾曲するカーブを疾走し、岸壁の通りを突き進むミニクーパー。

○ 海運倉庫前
  シャッターの前に一台の黒いコルベットが止まっている。
  助手席のミラーに、サングラスをかけ、ベージュピンクの口紅をした女の顔の口元が
  映っている。

○ コルベット車内
  電子モニターに地図のイメージが映る。
  白い点が画面中央に向かって進んでいる。

○ コルベットの運転席の窓が開き、MP5A3のサブマシンガンが姿を現す
  イエローのサングラスをした白人の男、フォアアームに手をかけ、バレルの先端の
  照準器を睨み付けている。

○ 照準器の向こうにミニクーパーが現れる
  猛スピードでこちらに近づいてくるミニクーパー。男、引き金を引く。

○ ミニクーパーの左側面のボディに火花と共に波打つような風穴が開く
  同時に後輪のタイヤもパンクする。

○ ミニクーパー車内
  幸田、ハンドルを動かそうとするが、制御不能に陥っている。
  おもいきり急ブレーキをかける。

○ 岸壁の端部から勢いよくジャンプし、放物線を描くように海面に落ちるミニクーパー
  海面に突っ込む。

○ コルベット車内
  バックミラーに映る海から揚がる水しぶきを見ている女。
女「もう会いたくなかったのに・・・幸田・・・」
  女、振り返り、青く光る目で、後ろを見つめる。
  女は、相沢章子。笑みを浮かべる。

○ 黒いコルベット、スピンターンし、走ってくるブルーバードに向かって突進する。

○ ブルーバード車内
  麻衣子が運転している。その横に島が座っている。
麻衣子「島さん、さっきの車・・・」
  島、麻衣子、真っ正面に近づいてくるコルベットに驚愕する。
島「やばいって、避けろ!」
  麻衣子、ハンドルを思い切り、左に切る。

○ ブルーバード、コルベットを避ける
  コルベット、そのまま走り去っていく。

○ 海に沈んでいくミニクーパー
  完全にボディが見えなくなる。

○ 岸壁の前に立ち止まるブルーバード
  と同時に目の前の海上で大爆発が起こり、水飛沫が空高く舞い上がる。
  ブルーバード、もろにその水飛沫を浴びている。
  ブルーバードから島と麻衣子が降りてくる。
  島、海のほうを見つめ、叫ぶ。
島「幸田さん!」
  麻衣子、呆然と海を見ている。
  麻衣子、ふと横を向く。岸壁のステップに男の手が張り付いているのに気づく。
麻衣子「(男の手を指差し)島さん、あれ・・ ・」
  島、麻衣子、男の手のそばに近づいていく。その手は、幸田の手である。
  幸田、全身ずぶ濡れで岸壁の上に這い上がってくる。
  島、手を貸し、幸田を引き上げる。
  幸田、路面に座り込み、疲れた表情を浮かべる。
島「どうして車ごと海なんかに・・・」
幸田「誰かがマシンガンでタイヤを撃ちやがった・・・」
麻衣子「誰かって、誰ですか?」
  幸田、立ち上がり、車の元に近づいていく。
幸田「おい、俺のジョーズが海水に濡れてるじゃないか・・・こんなところに
 止めるな」
麻衣子「車の心配なんかしてる場合ですか?」
  幸田、ブルーバードのボンネットの上に座り、一息ついている。
  麻衣子、幸田の前に近づき、
島「さっき警視庁のデータペースにアクセスしました。あの少年、やはり前科がありました。
 中学時代にも爆弾を作って、今度と似たような事件を・・・」
幸田「くだらねぇ。くだらねぇよ・・・」
島・麻衣子「・・・」
幸田「この街には、猿野郎が蠢いてるぞ。おまえらも油断するな」
  幸田、寡黙に俯く。
  地平線に沈む夕陽を浴びている三人のシルエット。

○ 危特科捜班・本部オフィス
  無線機のマイクに話しかけている小神。
小神「司法解剖の結果がわかった。爆弾の爆炎に飲み込まれて死んだのは、笹川隆一だ」

○ コンビニ前・駐車場(夜)
  レシーバーを握っている幸田。
幸田「黒のコルベットの方は?」

○ 危特科捜班・本部オフィス
小神「都内各所の検問の網には、今の所、かかっていない」
  入口の自動ドアが開き、警視庁長官の中坊信太郎(54)が現れる。
  小神、振り返り、長官に気づくと、
小神「おっと、お客様だ。また後で連絡する」
  中坊、部長デスクに立ち止まり、
中坊「足手まといになっていないかね、娘は?」
小神「徐々にうちの仕事に馴染んできてますよ」
中坊「そうか・・・」
小神「心配は、ごもっともです」
中坊「娘が選んだ道だ。私は、一切口出しするつもりはないがね」
  小神、デスクのそばのチェアに中坊を誘い、座らせる。紅茶を注ぎ入れると、
  長官に差し出し、
中坊「君に早急に話しておかなければならない事態が起きた」
  小神、座席に座り、
小神「なんでしょうか」
中坊「防衛庁事務次官の飛田盛男が何者かに拉致された」
小神「何ですって?」
中坊「現場から彼の使っていたノートパソコンも奪われていた。そのパソコンには、重要な
 国家機密のデータが記録されていたんだ。それと、これだ」
  中坊、フロッピーを小神に手渡す。
    ×  ×  ×
  パソコンのディスプレイに映るメール閲覧ソフト。受信トレイに『黒鬼』の件名の
  ついたメールが入る。
  小神、メールの内容を読み始める。
小神「一連の爆弾事件と同じものですね。しかし、どうして、今頃になって?これを・・・」
中坊「私も今さっき防衛庁から連絡を受けたところでな」
小神「データの中身は、何です?」
中坊「新型兵器システムの設計図だ」
小神「(怪訝な面持ちで)・・・もう少し詳しく説明してもらえますか?」

○ コンビニ前・駐車場(夜)
  コンビニの中から麻衣子が袋を持って出てくる。

○ MR2・車内
  助手席に座りながらパンを噛る島。辺りを見回している。
  運転席に座る麻衣子。ラムネを食べながら、
麻衣子「あの子、今頃どうしてるだろうな・・・」
島「あの子って?」
麻衣子「爆弾つきの人形を持ってた子のことですよ。全身、痣だらけにされて・・・」
島「虐待か」
麻衣子「・・・母親は、ちゃんと大人に成長してるじゃないですか。今の子供達は、生後まもなく
 殺されたりして、生きる喜びも知らずに死んでいくんですよ・・・」
島「・・・」
麻衣子「大人ってなんなんでしょうね・・・」
島「・・・何ムキになってるんだよ。気になるなら、所轄の生活課にでも転属したらどうだ?」
麻衣子「別にムキになってるわけじゃ・・・」
島「俺達の任務は、爆弾犯を挙げて、地下組織の在り処を突き止めることだ」
麻衣子「わかってますけど・・・」
  島、煙草を加え、ライターで火を付ける。
麻衣子「あの時の幸田さんの少年を見る目・・・怖かったなぁ・・・」
島「凶悪な爆弾犯相手にしてるんだ。見る目も自然に鋭くなるって」
麻衣子「でも・・・それ以外に何かあるような気がして・・・」
島「何かって?」
麻衣子「ほら、相沢章子の写真を私達に見せた時、何か変な風に見えませんでした?」
島「別に」
麻衣子「それに、マシンガンで撃たれた事も・・・もしかして、幸田さん、今度の事件で
 何か隠しているんじゃ・・・?」
  ガラスを叩く音が二度鳴り響く。 
  運転席の窓越しに幸田の姿がある。
  島、慌てて煙草を灰皿に押しつけ、顔を引き締める。
  麻衣子、慌てて、菓子をバックシートにやり、窓を開ける。
  幸田、二人を見つめ、
幸田「何慌ててる?」
島・麻衣子「(同時に)別に・・・」
幸田「ディナーは、終了だ。また爆破予告だ」
島「また公園ですか?」
幸田「そうだ。今度は、時間指定をしてこなかった。いつ爆破するかわからない」

○ 円菱公園
  鳴り響くサイレン。
  側道脇にブルーバードと、MR2が止まる。
  一斉に車から降りている幸田達。
  と、突然、三人の背後に建っていた高層ビルの5階から、巨大な爆炎が上がる。
  爆音の方にハッと振り向く幸田、島、麻衣子。
  燃え広がる炎に照らされている三人。炎を見つめたまま、驚愕している。
   
                                                 −ヨーヨー狂・完−

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