『555 ダッシュバード 危特科捜班』第二回「無限の秘密」byガース『ガースのお部屋』

○ 円菱公園前・北洋化学工業・本社ビル
  10階建ての近代的な高層ビルから激しく轟く爆音。
  5Fのガラスが粉々に吹き飛ばされ、オレンジ色の炎が上空に舞い上がっている。
  炎を見つめ、驚愕している幸田 智(35)島 健司(29)、葉山麻衣子(27)。
幸田「麻衣子、部長に連絡しろ。島、来い」
島「はい」
  幸田、島、全速力でビルに向かって走り出す。
  麻衣子、車に乗り込み、レシーバーに話しかけている。

○ 高層ビル・1F
  幸田、島、受付のカウンターで倒れている女生と警備員に近づき、脈を調べる。
  息があることを知ると、そのまま、エレベータに向かって行く二人。
  エレベータは、停止状態。
  階段から数十人の社員達が一斉に駆け降りてくる。
  幸田、島、人波をかき分けながら、階段を上り始める。
   
○ 階段を駆け登る幸田、島
  2F、3Fの踊り場を回り込み、さらに階段を駆け上がっていく二人。
   
○ 高層ビル・5F
  白い煙が通路を伝って流れている。
  階段を駆け登って来る幸田、島。
  通路の照明は、消え、暗闇が広がっている。
  通路に飛び出す幸田。銃声が鳴り、幸田の足元で、火花が散る。
  幸田、島、慌てて、階段そばの壁際に身を隠す。
  幸田、ジャケットの中のホルダーからコルト・パイソンを引き抜き、ポケットから
  サングラスを取り出し、装着する。
  島も上着の中からシルバーのM1911A1ガバメントを引き抜き、右手に持ち、
  サングラスを装着する。

○ サングラスの内側に映るディスプレイ画面
  暗視装置になっている。熱温度感知センサーにより、周囲の熱温度の状況が映し
  出されている。
  通路の奥の方に向かって走り去っていく人の動きがとらえられる。
   
○ 幸田、島、通路を走り始める。
  二人の足音が慌ただしく鳴り響く。
  燃えたぎる部屋を横切っていく二人。
  幸田、途中で立ち止まり、両手で銃を構える。
幸田「動くな!」
  引き金を引く幸田。
  銃声が鳴り響く。

○ サングラスのディスプレイ画面
  走っていた男の足元で弾丸が弾く。
  画面は、通常の暗視モードになり、ダークな薄緑色の映像で、男の背中が微かに
  映し出されていく。
  男、エレベータの前で立ち止まり、両腕を高く上げている。
  右手には、銃を持っている。
  幸田、島、男に銃口を向けながら、ゆっくりと歩いている。
島「往生際の悪いのは、嫌いだぜ。銃を降ろせ」
  男、銃を手から放すと振り返り、幸田達の方を向く。
  男は、少年である。真っ白な顔をし、不適な笑みを浮かべている。
  幸田、島、足を止め、唖然とする。
  少年、全速力で通路奥の窓に向かって突っ走って行く。
  叫ぶ幸田。
幸田「止まれ!」

○ 高層ビル・外
  5階の窓を打ち破り、少年が勢い良く外に飛び出す。
  少年、身体を大の字にし、ムササビのような姿で地上に落下する。
  地上に体を打ち付ける鈍い音が轟く。
  幸田、島、破れた窓から顔を出し、地上を覗き込む。
  口から血を吐き、地面に大量の血を滲ませながら死んでいる少年の姿。
  少年の右腕に黒い獅子の刺青がある。
  渋面を浮かべる二人。
   
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  部長オフィス。
  特命班部長・小神洋介(48)のデスクの前に佇む幸田、島、麻衣子、末沢 勇太(28)。
麻衣子「爆破された部屋は、幸い会議室で、怪我人は、いなかったようです」
島「北洋化学は、主にポリマーフィルムや工業用接着剤の開発、製造に携わっています。
 最近は、人工血管技術など、メディカルサイエンス事業にも参入しているそうです」
小神「笹川の秘書の話では、笹川は、三日前にある男と接触していたらしい」
幸田「男?」
小神「笹川は、その男にあるものを手渡していたそうだ」
麻衣子「それって、何です?」
小神「航空部品の一部だと秘書は、言ってたが、はっきり見たわけじゃないらしい。
 死んだ少年の身元は?」
島「横山一良。半年前に失踪した東台高校の学生です」
末沢「失踪した二十四人の少年達のうちの一人ですね」
小神「いずれにせよ、奴らは、本格的にテロ行動を起こす気でいる。都内の厳重警備体制を
 強化する」
  小神、立ち上がり、険しい表情で四人のそばを横切っていく。
  島、麻衣子、末沢、小神の背中を見つめている。
  末沢、寡黙に俯いている。
  幸田、末沢を見つめ、
幸田「どうした末沢、顔色悪いぞ」
末沢「・・・ちょっと疲れただけです」
  末沢もその場を立ち去っていく。
  麻衣子、末沢の背中を見つめている。
  幸田、島と顔を合わし、
幸田「さっきのBB弾は?」
島「鑑定に回しました」

○ 同・研究室
  BB弾のX線写真を見つめている幸田。
  ファイルが整然と並べられている棚の奥のデスクに座る高井 恒二(32)研究部員。
高井「幸田さんの言う通り、それは、超小型盗聴器だった。今まで見たこともないような
 部品ばかり内蔵されてたよ。同じものが海に沈んだミニクーパーからも発見された」
  幸田、小ケースを持ち、中に入っているBB弾の切断面を見ている。
幸田「こいつの電波を追跡できないか?」
高井「俺もそれを考えたんだけどね。残念ながら駄目だった」
幸田「横山一良の司法解剖の結果は?」
高井「おもしろいことがわかったよ。採取した血液から幻覚剤のサイロピシンとメスカリン
 反応、それに、興奮剤、麻薬性沈痛剤、筋肉増強剤などが複合された物質が検出されたんだ
 まぁ、一種の高性能洗脳薬とでも言うべきかな・・・」
幸田「洗脳薬?」
高井「一時的な肉体の増強、痛みも感じず、幻覚作用によってコントロールされるってわけさ」
幸田「じゃあ、ビルから飛び降りたのも、その薬のせいだって言うのか?」
高井「まず間違いないね」
幸田「・・・なっ、一つ頼みたいことがあるんだけどな・・・」
高井「どうぞ。なんなりともうしつけてくださいな」
  幸田が口を開こうした瞬間、部屋のアラームが鳴り響く。
  自動ドアが開き、麻衣子が姿を現す。
  幸田、喋るのを止め、そ知らぬ素振りで、ケースを見つめている。
  麻衣子、幸田のそばに近寄り、
麻衣子「お話があります」
  
○ 同・資料室
  対峙する幸田と麻衣子。
幸田「俺と相沢章子の関係?」
麻衣子「もしかして、何か隠してるんじゃないかって思ったんで・・・」
幸田「俺が今度の事件の容疑者だとでも言いたいのか?」
麻衣子「違います。彼女の写真を見ていた時の幸田さん、様子が変だったから・・・」
幸田「(失笑し)女の勘って奴か?」
麻衣子「多分・・・」
幸田「恋愛経験は、豊富らしいな」
麻衣子「・・・人並みです」
  幸田、そばのデスクに座り込み、淡々と話し出す。
幸田「一時は、そういう時期もあったことは、確かだ」
麻衣子「きっかけは、何だったんですか?」
幸田「5年前の事件だ」
麻衣子「・・・」
幸田「相沢章子が殺した同僚ってのは、あいつの元夫の甲斐崎って男だ。二人は、
 東豪大の同期だった」
麻衣子「彼女が夫を殺した理由は何ですか?」
幸田「浮気だよ。相沢は、彼に自分の作った致死性の高い新薬を飲ませたが、
 それに気づいた甲斐崎は、死ぬ前に相沢の両目をナイフで刺した・・・」
  麻衣子、痛々しげな表情を浮かべる。暫くして、ハッと何かに気づき、
麻衣子「もしかして、その時の浮気相手が、幸田さん?」
  幸田、麻衣子の肩を叩き、その場を後にする。
  呆然と佇む麻衣子。
  
○ 同・資料室前・通路
  末沢が幸田の前に駆け寄ってくる。
末沢「幸田さん、部長が呼んでます」
  幸田、急ぎ足で通路を進んでいく。
  
   
○ 警察病院5階・病棟個室(深夜)
  ベットで眠るセミロングの女・佐伯梨琉(りる)(17)。
  突然、ハッと目を開け、スッと起き上がる。

○ 同・通路
  部屋のドアを開ける梨琉。
  周りをジッと見つめている。裸足のまま、通路をかけていく。
   
○ 同・個室
  扉そばの壁に壁際に座り込んだ状態で意識を失っている警官。
   ×  ×  ×
  翌朝。ベッドの前に佇む麻衣子。
  鑑識が慌ただしく動き回っている。
  麻衣子の背後で、警官と対峙する島。
警官「・・・警備についていた警官は、首の骨を折られて、重傷だそうです・・・」
  麻衣子、ベッドの向こうの窓のそばに行き、漫然と、外の景色を見つめている。

○ 都心の上空を飛行する230ヘリ
  羽音を響かせながらゆっくりと飛行している。
   
○ 230ヘリ・キャビン
  操縦席に座る土下(はした)仁(40)。
  計器盤の中央に設置されているモニターに地上の姿がとらえられている。
  土下、『SCANING』ボタンを押す。
  モニター画面が二分割され、左側に病院から逃げ出した女の写真が映り、
右半分には、繁華街を歩いている人々の顔が次々とスキャンされ、女の顔と照合されていく。

○ 繁華街
  車道を疾走するMR2。
  MR2の前バンパーの両サイドについている小型カメラが左右に動き回っている。

○ MR2・車内
  コンソールの中央に設置されているモニターに歩道を歩く人々の姿が映し出され、
  スキャンされている。
  運転席に麻衣子。助手席に島が座っている。
  島、繁華街を歩く若者達を見つめ、
島「子供が爆弾作って世間を騒がせる・・・人を傷つけても平然と済まして、何くわん顔だ」
麻衣子「情報化時代の宿命なんじゃないですか?ああ言う事件を起こす子供は、
 ネットから情報を得てるみたいだし。それに、大人も子供達に悪い影響を与えてる・・・」
島「中々鋭いね。まぁ、昔に比べておかしな大人が増えたのは、確かだが・・・」
  麻衣子、ふと、モニターを見つめる。
  画面に男と手を繋いで歩いている多川 美菜(5)の姿が映る。
麻衣子「(唖然とし)今の子・・・」
島「どうした?」
麻衣子「爆弾つきの人形を持ってた子が歩いてたんです」
島「(舌打ち)女がいたのかと思ったぞ。びっくりさせんなよ」
麻衣子「誰なんだろ?あの男の人・・・」
島「任務に集中しろ」
麻衣子「・・・すいません」

○ カラオケボックス
  扉が開き、幸田が中に入ってくる。
  シートに座っているボブカットの女・相沢 章子(33)。サングラスをつけている。
  幸田、相沢の隣に腰掛ける。
章子「よく生きてたわね・・・」
幸田「なんで、こんなとこに呼び出した?」
章子「もしかして忘れたの?ここ・・・」
幸田「覚えてる。だから聞いてるんだ」
章子「私達が初めて会った思い出の場所でしょ」
幸田「あの時、俺が井上陽水を歌いに来なければ、この店のトイレの中で自殺しかけてた君と
 出会っていなかっただろうな・・・」
章子「びっくりしたわよ。酔って女子トイレに駆け込んでくるんだから・・・」
  幸田、章子を見つめ、
幸田「目、見えるのか?」
  章子、サングラスを外す。ブルーの瞳を光らせる。
  吃驚する幸田。
章子「人工眼の開発に成功したの」
幸田「そんな素晴らしい技術があるのに、なぜ有効に使わない?」
章子「ギスギスした世の中で、地獄を見ながら生き続けてるかわいそうな少年達に力を
 借してあげてるのよ」
幸田「地獄を見せてるのは、君だろ?なぜ彼らを利用する?」
  幸田、ジャケットのポケットから金属球を取り出し、
幸田「こんなもんを配って、世界を滅亡させたいのか?」
章子「それは、お守りよ。外敵から身を守る手段として彼らに分け与えているの。
 ユニークなボールでしょ?」
幸田「殺し合いの道具がお守りだって?」
章子「あなただって本当は、殺したい連中がいるでしょ?」
幸田「馬鹿言うな」
章子「清治君を殺した少年達は、どうなの?」
  幸田、章子を睨み付ける。
章子「あなたは、少年達に異常な憎しみを持ってる」
幸田「黙れ!」
章子「正直になりなさい。刑事だからって、無理して善人の芝居をやり続ける必要は、
 ないのよ。私があなたの苦しみを和らげてあげるから・・・」
幸田「いったい、何が目的なんだ?」
  章子、バックから一枚の写真を取り出し、幸田に手渡す。
  写真を見る幸田。幸田と章子ツーショットのプリクラである。
  写真を裏返す幸田。メモが書いてある。
章子「明日の午後一時、そこに書いてある場所に一人で来て。時間どおり来なければ、
 また、どこかで爆破が起きるわ」
  章子、不適に笑みを浮かべ、幸田にマイクを手渡し、
章子「昔みたいにフォークソング歌ってよ」
  幸田、寡黙に立ち上がり、入口に向かって行く。
  足を止める幸田。章子に背を向け喋り出す。
幸田「・・・ムショを出た時、どうして俺に連絡をくれなかった?」
章子「あなたと会っても無駄だと思ったの。ただそれだけの事よ」
幸田「ずっと探したんだぞ」
章子「そう。でもいいじゃない。今日、こうやって会えたんだし・・・」
幸田「・・・最悪な形でな」
  幸田、憮然と部屋を出て行く。

○ カラオケ店・表
  入口から幸田が現れ、雑踏に紛れて歩いて行く。
  向かい側のビルの陰に隠れている末沢。
  歩き去っていく幸田を怪訝に見つめている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
小神「何か収穫はあったか?」
幸田「質問したいことの一パーセントも聞けませんでした。明日の午後、もう一度彼女と
 接触します」
小神「また一人でか?」
幸田「それが条件です」
  小神、デスクの引き出しから煙草を取り出し、加えると火を付ける。勢い良く
  煙を吐き出し、
小神「実は、防衛庁事務次官の飛田盛男と言う男が行方不明になっている。国家機密の
 極秘プロジェクトのデータの入ったノートパソコンと一緒にな・・・」
幸田「(眉をひそめ)何ですって?」
小神「例の4つ目の爆弾事件のメール、あれは、防衛庁に送られてきたものだったんだ。
 今、9チームが捜査中だ」
幸田「データの中身は、何です?」
小神「・・・それは、まだわかっていない」
  小神、煙草の灰皿に擦り付け、
小神「わざわざ君だけを呼び出す理由は、なんだ?」
  幸田、寡黙に俯き、暫くして顔を上げ、
幸田「・・・この俺があいつを苦しめてる元凶だからですよ」
  小神、神妙な面持ち。
  幸田、踵を返し、小神のデスクから離れていく。

○ 同・オフィス
  部長オフィスから幸田が出てくる。
  ソファに座り、コーヒーを飲んでいる島。
  通り過ぎる幸田を見つめている。
  デスクに着く麻衣子。心配気に幸田を見ている。
  幸田、入口の扉の前に立つ。自動ドアが開くと、向こう側に末沢が立っている。
  末沢、幸田に一礼し、中に入っていく。
  幸田、部屋を出ていく。
  麻衣子、立ち上がり、島のそばに近づき、
麻衣子「幸田さん、部長と何話してたんでしょ?」
島「トップシークット。俺達は、余計な干渉は、しなくていい」
  末沢、島のそばに近づいてくる。
末沢「島さん。ちょっと・・・」
  島、末沢を見つめ、
島「何?」
  末沢、外を指差す。
  島、立ち上がり、末沢と一緒に部屋を出ていく。
  麻衣子、憮然と二人を見つめ、
麻衣子「皆、隠し事ばっかし・・・」
   
○ 同・通路
  肩を並べて歩く島と末沢。
  他の部員が慌ただしく歩き回っている。
末沢「前にアパレル会社のOLの彼女のこと、話したでしょ?」
島「ああ、大学時代からつきあってた子の事だろ」
末沢「実は、結婚しようと思ってるんですよ、彼女と」
島「おお!良かったな」
末沢「それが、良くないんです。彼女、俺の今の仕事に理解がなくて。いつ命を落とす
 かわからない危険な任務を続けるなら、俺と別れるって言うんですよ」
島「それで?」
末沢「刑事辞めようと思ってます・・・」
  立ち止まる島。
島「辞めた後は、どうする気なんだ?」
末沢「ビール会社に努める友達がいて、そこの工場で働くつもりです」
島「それで後悔しないなら好きにしろよ。でも、幸田さんや部長を説得するのは、難しいぞ。
 女のために刑事辞めるなんて聞いたら・・・」
末沢「だから先に島さんに話したんです。協力してもらえませんか?」
島「いいよ」
末沢「お願いします」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  小神のデスクの前に立つ麻衣子。
  小神、険しい表情で麻衣子を見つめ、
小神「一週間前に挙げられた、例の金属球をばらまいていた女が今日の午後、新宿界隈の
 ゲームセンターである男と接触することになっていたらしい」
  小神、麻衣子に写真を手渡す。
  写真を見つめる麻衣子。
小神「オルセイ・ベンジャミン。アメリカのマフィアの下で麻薬の密売を取り仕切ってた男だ。
 去年、FBIに逮捕されたが、刑務所移送中にオルセイの乗った護送車が襲撃され、
 彼は姿を消した。情報班の話では、奴は今、日本に潜伏し、細菌入り金属球の卸人として
 活動しているらしい。今回の任務は、そのオルセイの麻薬ルートと密入国組織の全容を
 暴くこと、そして、相沢章子の潜伏先を掴むことにある・・・」
麻衣子「私は、どうすれば?」
小神「諜報活動班の上崎が女に化けて、直接奴と接触する。君は、島と一緒に彼女の
 バックアップをしてやってくれ」
麻衣子「・・・わかりました」
    ×  ×  ×
  デスクの前に立つ末沢。
末沢「また、幸田さんを尾行するんですか?」
小神「そうだ。航空部の土下のヘリで奴の足取りを追って欲しい」
末沢「しかし、そんなことして、奴らにばれたりしたら・・・」
小神「230の地上追跡レーダー監視システムなら、半径3km周囲の監視が可能だ。
 幸田にも気づかれず、向こうの情報を取得できる」
  末沢、寡黙になり、躊躇う。
小神「何か心配事でもあるのか?」
末沢「いいえ。わかりました」

○ 首都高を疾走するブルーバード
  時速80km程で走行している。

○ 都心の上空を飛行している230ヘリ

○ ヘリ・キャビン
  後部座席に座る末沢。
  目の前に設置されている監視装置のモニターを見つめている。
  首都高を走っているブルーバードの動きがとらえられている。

○ ゲームセンター『TAIHOON』
  機械音が入り乱れ、騒然とする店内。
  シューティングゲーム機の前に、白髪のウィッグをつけ、肌を黒く焼いた麻衣子がいる。
  シックなスーツを身に付けた上崎佳苗(28)が、入口前に立ち、煙草を吸っている。
  コインゲームの前にいたベージュのスーツの男が麻衣子をジロジロと見つめている。  

○ 喫茶店前
  窓際のテーブルに座る島。
  窓の外を見つめる。真ん前にゲームセンターが見える。

○ ゲームセンター『TAIHOON』
  格闘ゲームに熱中する少年の背後に立つ麻衣子。
  スーツの男が麻衣子のそばに近づいてくる。
  男、不適な笑みを浮かべながら、ポケットからカメラ付きの携帯を取り出す。
  麻衣子のスカートのそばに手を伸ばし、携帯をスッと忍ばせる。
  突然、男の手首を女の手が掴む。麻衣子の手である。麻衣子、男を見つめ、
麻衣子「タダ撮りする気?」
  仰天する男。麻衣子、男を背負い投げする。床に叩き付けられる男。
  麻衣子達の周りに少年、少女達が集まってくる。
  その中に梨琉がいる。梨琉、憮然と様子を見つめている。
  中に警官が入ってきたのに気づき、その場を立ち去る梨琉。

○ 山道を走行するブルーバード
  緩やかなS字の道を駆け抜け、トンネルに入り込む。

○ 郊外の上空を飛行する230ヘリ
  山の方に向かって進んでいる。
  
○ ヘリ・キャビン
  末沢、監視モニターを見つめている。
  画面には、トンネルが映っているが、ノイズが入り始め、画面が砂嵐になる。
  末沢、インカムに喋りかける。
末沢「土下さん、もう少し近づいてくれませんか?」
  インカムで末沢の声を聞く土下。
土下「これ以上近づくと、向こうにばれちまうぞ」
末沢「トンネルの向こう側の情報が掴めないんですよ」
土下「仕方ない。回り込んでやるか」
  土下、レバーを曲げる。

○ 右側にボディを傾け、山に近づいていく230ヘリ

○ ヘリ・キャビン
  監視モニターの映像。
  砂嵐が消え、じんわりとトンネルの向こう側の映像が映り始める。
末沢「映りました」
  末沢、『SEARCH MODE』のボタンを押し、レーダー画面を見つめるが、
  反応がない。
末沢「おかしいな。幸田さんの車が識別されない・・・」
土下「何?」
  土下、険しい表情を浮かべている。

○ さらに山の奥へと進んでいく230ヘリ上空に羽音が轟く。

○ トンネル内
  道路脇にハザードを出して止まるブルーバード。

○ ブルーバード・車内
  ハンドルに持たれる幸田。トンネルの出口に微かに見える230ヘリを覗き見る。
幸田「悪いが、今日は、一人で行かせてくれ」
  幸田、腕時計を見つめると、ギアを『R』に入れる。

○ 猛スピードでバック・ターンし、逆方向に向かって勢い良く走り出すブルーバード

○ 廃工場跡地
  荒涼とした広大な土地。土煙を上げ、疾走してくるブルーバード。
  崩れかけの雑居ビルの前に止まるコルベットの助手席から章子、運転席から黒いスーツを
  身に付け、サングラスをつけた白人レイモンド・ゲイジー(34)が降りてくる。
  コルベットの200m手前で急ブレーキをかけ、ボディを滑らせながら立ち止まる
  ブルーバード。
  運転席から幸田が降りてくる。
  幸田、険しい表情を浮かべながら二人に近づいていく。
幸田「約束を守ったんだ。拉致した少年達がいる場所に案内してもらおうか?」
  幸田の背後から黒づくめの男達が乗った4台の黒いバイクが猛スピードで近づいてくる。
  幸田、振り返り、バイクを見つめる。
  バイクは、幸田の周りをぐるぐると回り始める。やがて、幸田の周りを取り囲むように
  立ち止まる。4人の男達、一斉に幸田に拳銃を向ける。
  幸田、観念したような面持ちで両腕を高く上げ、章子を見つめる。
幸田「たいそうなもてなしだな」
  レイモンドが幸田の前に立ち、幸田の身体を調べる。
  ほくそ笑む章子。

○ ゲームセンター『TAIHOON』・裏口
  麻衣子、申し訳なさそうな表情で携帯に話しかけている。
麻衣子「もう信じられないですよ。補導巡回中の女子高の先生が痴漢常習犯なんて・・・」

○ 繁華街通りの国道脇に止まるMR2
島「だからって投げ飛ばすことないだろ?」

○ MR2・車内
  助手席に座る島。携帯に話し込でいる。
島「部長の面子を潰すようなことは、するなよ」
麻衣子の声「だって、ほっといたら、写真撮られまくってたんですよ」
島「パンツの一枚や二枚ぐらい大目にみてやれよ」

○ ゲーム・センター『TAIHOON』・裏口
麻衣子「こっちの身にもなってくださいよ。黙って撮られ続けてるなんて、耐えられません」
  島の声が突然、跡絶える。
麻衣子「あれ・・・島さん?」
  暫くして、島の声が聞こえ始め、
島の声「早く戻ってこい」
麻衣子「どうしたんですか?」
島の声「オルセイの部下を名乗る男が上崎を別の場所に案内しようとしてる」
  電話が切れる。
  麻衣子、憮然としながら、
麻衣子「どういう神経してんだろ、もう!」
  麻衣子、ふくれっ面を浮かべ、ラムネを一口含むと、走り出す。

○ ヘリ・キャビン
  末沢、監視モニターを見つめている。
  モニターに空き地にポツンと止まるブルーバードが映る。
末沢「土下さん、見つけました。南南西の方角2km先の工場跡です」
土下「了解」

○ 廃工場跡地
  上空を230ヘリが飛んでいる。

○ ヘリ・キャビン
  扉口から地上を見つめている末沢。

○ 廃工場跡地
  ヘリがゆっくり降りてくる。
  地面に着地するヘリ。激しく土煙が舞っている。
  末沢、ヘリから降り、ブルーバードに向かって走り出す。
  ブルーバードに近づくと、中を覗き込む。
  誰も乗っていないことを知ると、困惑した表情を浮かべ、
末沢「幸田さん・・・」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  無線機のマイクに向かって喋りかけている小神。
小神「幸田が消えた?」
末沢の声「すいません。河合峠のトンネルに入るまでは、確認できたんですが・・・」
小神「何か奴の行方を追う手がかりはないのか?」

○ 廃工場跡地
  ブルーバードの助手席に座り、レシーバーに話しかけている末沢。
末沢「現場でいくつかのタイヤ痕を発見しました。データベースで検索した所、その一つが
 例のコルベットのものと一致しました」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
小神「そのまま、コルベットの行方を探してくれ。絶対に幸田を見つけ出すんだ」
末沢の声「了解」
  無線機のそばから離れ、デスクの椅子に座る小神。
  デスクの上に肘をつき、頭を抱え込む。
小神「なぜだ・・・幸田・・・」

○ コルベットのトランクの中
  アイマスクで目隠しをされ、横になっている幸田。腕と足を縛られている。

○ 地下・プラント施設
  暗闇が広がる巨大トンネルに無気味に車のエンジン音が響き渡る。
  ヘッドライトを光らせながら、水溜りの地面を駆け抜けているコルベット。
  大型タンクの前で立ち止まる。
  タンクの周りがアップライトされ、コルベットから章子とレイモンドが降りてくる。
  コルベットのトランクが開く。レイモンド、横になっていた幸田の腕を掴み、身体を
  起こす。
  章子、幸田のアイマスクを外す。
  額に激しい汗を掻いている幸田。辺りを見回し、
幸田「ここが隠れ家か。偉く薄汚れた場所だな」
   ×  ×  ×
  レイモンドに掴まれ、タンク奥の通路を歩いている幸田。
  幸田、正面を向き、仰天する。
  紫色の柔道着のような服装をした数十人の少年少女達が幸田の前に立ち塞がる。
  幸田を睨み付けている少年少女達・・・。
  幸田も負けじと彼らを睨み付ける。

○ 廃工場跡
  ヘリの前に佇む末沢。ヘリから土下が降りてくる。土下、末沢に四角い小型のタイヤ
  痕感知装置を手渡す。
土下「一つだけ積んであった」
末沢「ああ、すいません」
土下「本当に一人で大丈夫か?」
末沢「ええ」
  土下、ズボンのポケットから黒いボールのようなものを取り出し、末沢に手渡す。
土下「ついでにこれも渡しとく。万が一のことがあったら、その発信機を作動させてくれ。
 すぐにかけつけてやるから」
末沢「ありがとうございます」

○ ゲームセンター『TAIHOON』
  店の中に入ってくると上崎とスーツの男。レースゲーム機のそばでオルセイが
  女子高生と談笑している姿が見える。
  上崎、男と一緒にオルセイの元へ向かって行く。
  暫くして、麻衣子が中に入ってくる。
  麻衣子、そばにあったUFOキャッチャーの前に身を潜める。
  麻衣子、胸元のマイクに向かって喋り出し、
麻衣子「確認しました。オルセイです」
島の声「表に応援を回す。上崎がオルセイを表に連れ出すまで、そこにいろ」
麻衣子「わかりました」
  麻衣子、ジッとオルセイを見つめている。
  オルセイの更に向こう側に見えるトイレの付近で少女が眼鏡をかけた男ともめ合って
  いる姿が見える。麻衣子、少女を見つめ、唖然とする。
  麻衣子、マイクに喋り始め、
麻衣子「島さん、病院から抜け出した子が中にいます・・・」

○ 同・表
  イヤホンで麻衣子の声を耳にし、険しい表情を浮かべる島。
島「オルセイが優先だ。待機しろ」

○ 同・中
  島の声を聞く麻衣子。梨琉の様子を見つめる。
  梨琉、男から逃げようとするが、男に腕を掴まれている。激しく抵抗している。
麻衣子「男に襲われてます。見過ごせません」
  麻衣子、遠回りして、トイレの方に向かって駆け出す。
島の声「動くなって言って・・・」
  麻衣子、耳のイヤホンを外し、トイレに近づいていく。
  梨琉、男を突き飛ばし、トイレに駆け込む。
  麻衣子、走り出し、トイレの中に駆け込んで行く。
  上崎、オルセイと肩を並べて歩き出し、入口に向かっている。

○ 同・女子トイレ内
  壁際で梨琉を押さえ込んでいる麻衣子。
  麻衣子、警察手帳を梨琉に見せつける。
  梨琉、驚愕し、
麻衣子「どうして逃げたりしたの?」
梨琉「・・・」
麻衣子「ここに来るまでに誰かと会ったのね?」
梨琉「・・・知らない」
麻衣子「じゃあ、その服は、どうしたの?それにそのポシェットは?」
  梨琉、困惑した表情。
麻衣子「今の男は、何者なの?」
  梨琉、呆然と麻衣子を見つめている。
  麻衣子、ポシェットの中にうっすらと金属球が見えているのに気づく。
  梨琉、突然、豹変し、麻衣子を突き放すと、回し蹴りする。壁に叩き付けられ、
  頭を打つ麻衣子。そのまま、崩れるように倒れ、意識朦朧としている。
  梨琉、トイレの窓を拳で割り、外へ飛び出して行く。
  
○ ゲームセンター『TAIHOON』・前
  店からオルセイと上崎が出てくる。
  島、二人の捜査員を連れ、オルセイの元に向かって行く。
  店の横の隙間から梨琉が現れる。梨琉、島達とオルセイの間で転ぶ。
  梨琉のポシェットから金属球が零れ落ち、地面を転がり始める。
  オルセイ、転がる金属球を見つめる。金属球が島達の方に転がって行く。
  オルセイ、島達に気づき、突然、上崎を羽交い締めにする。
  立ち止まる島達。
  梨琉、慌てて、金属球を掴み、ポシェットにしまうと、立ち上がり、
  急いで、その場を後にする。
  島のイヤホンから麻衣子の声が聞こえてくる。
麻衣子の声「すいません。少女が裏から逃げ出しました。例の金属球を持っています」
島「今、取り込み中だ」
  オルセイ、上崎の髪を掻き上げ、耳元の盗聴装置を取り外す。
  上崎、観念したかのように表情を歪ませる。
  オルセイ達の前に黒いセンチュリーが猛スピードで近づいてくる。
  立ち止まったセンチュリーの後部席に乗り込むオルセイと上崎。
  センチュリー、急発進して、その場を立ち去って行く。
  捜査員達が慌てて、通りを駆け抜けていく。
  麻衣子がゲームセンターの入口から慌てて出てくる。
島「上崎が拉致された」
麻衣子の声「えっ?」

○ 繁華街
  雑踏を潜り抜け、走り抜けている梨琉。

○ 山道
  両手で持ったタイヤ痕感知センサーを路面に向けながら歩き続けている末沢。
  額の汗を浮かべながら、必死の形相。

○ 地下プラント・倉庫
  暗闇の部屋の真中に置かれているガラス
  張りのブースの中で椅子に縛られている幸田。顔中汗だらけになっている。
  幸田の頭上に青い光が薄く光っている。暫くして、足音が響き、幸田の元に章子が
  近づいてくる。
  幸田の前に佇む章子。
  幸田の目に映る章子の顔がぼやけ始める。幸田の首元に注射の跡がある。
  章子、笑みを浮かべ、
章子「もう少し落ち着いたら、話し合いましょう・・・」
  幸田、身体を激しく震わし、放心状態。
   
○ 山の向こう側に沈む夕陽

○ 山道
  タイヤ痕感知装置をアスファルトの路面に向けながら歩いている末沢。
  辺りを見回す末沢。
  数十メートル先にダムが見える。
  末沢、ダムに向かって、走り出す。

○ 繁華街沿いの国道を疾走するセンチュリーその後をMR2が追っている。
  MR2の後尾に数台の覆面車がついてくる。

○ MR2・車内
  ハンドルを握る麻衣子。
  助手席に島が座っている。
  フロントガラス越しにセンチュリーの後ろ姿が見える。
  センチュリー、交差点を左折する。
  麻衣子、ハンドルを左に切り、交差点を曲がる。

○ 地下プラント施設・倉庫
  薄い灯の下で座っている幸田。項垂れて、意識を失っている。
  暫くして、顔を上げる幸田。狼のようにけたたましく険しい表情を浮かべている。   

○ 樹林の中を歩く末沢
  ダムそばの急斜面を滑り降りている。
  木々の間を潜り抜け、茂みの方へ向かって行く。
  暫くして、さらさらと草木の揺れる音が鳴り響く。
  末沢、足を止め、周りを見渡している。
  どこからともなく烏の泣き声・・・。
  低周波の音が大きく鳴り響いてくる。
  末沢、耳を塞ぎ、走り出す。
  茂みの方を駆け抜けている途中で、落とし穴に落ち、姿を消す。
  茂みの間に落ちる黒いボール。
  青い煙が吹き上がる。
  
○ 巨大なパイプを滑り落ちていく末沢

○ 地下プラント施設・倉庫
  幸田の前に立つ章子。
章子「気分は、どう?」
幸田「最高だ」
章子「ねぇ、あなた達の事について教えて」
幸田「警視庁危機管理部門科学特命捜査班第5セクション第5チーム所属・・・」
章子「チームを指揮しているのは誰なの?」
  幸田、ジロッと、章子に目を向ける。
  章子、後退りし、
章子「薬、効いてなかったのね・・・」
  幸田、後ろに回していた縛られていたロープを解き、立ち上がる。
  幸田、ズボンのポケットからカプセル錠を取り出し、
幸田「うちの優秀な科学者が超高性能洗脳薬の効き目を薄くする抗体カプセルを開発して
 くれてな。トランクの中にいた時に、あらかじめそれを口に含んでおいたんだ」
章子「なるほどね・・・」
幸田「俺から警察の内部情報を引き出して、どうするつもりだったんだ?」
章子「それだけが目的じゃないわ」
幸田「笹川にも同じ事をして、殺したのか?」
章子「さぁね・・・」
幸田「防衛庁事務次官を拉致したのもおまえらか?」
  章子、失笑し、
章子「あいかわからず間抜ね、日本の警察は」
  章子、胸元から拳銃を取り出し、幸田に銃口を向ける。
章子「こっちの思い通りにならないのなら、もうあなたは、必要ない」
幸田「・・・」

○ 地下プラント施設・通路
  ゴミ溜めの前で倒れている末沢。起き上がり、ふらつきながら歩き出す。
  通路の両側に並べられているドラム缶の間を歩く末沢。天井を見上げる。巨大な配管が
  いくつも入り乱れて通っている。
  正面から二人の少年が勢い良く末沢に近づいてくる。二人、同時に末沢に飛び蹴りを
  する。吹っ飛ばされる末沢。
  末沢、サッと立ち上がり、激しく二人と組手を交わす。
  末沢、一人の少年の腹に左肘を食らわす。倒れる少年。床にもんどり打っている。
  もう一人の両足を蹴り倒し、腹に拳を入れる。
  少年、ショックで気絶する。
  末沢、ホルダーから拳銃を抜き、さらに通路を進む。

○ 山道
  軽快に走行しているセンチュリー。
  その数百メートル後にMR2が走行している。
  路上を滑りながらターンするセンチュリー  。
  激しくタイヤを軋ませながら猛スピードでMR2に向かって走り出す。

○ MR2・車内
  フロントガラス越しにセンチュリーがこちらに突進してくるのが見える。
  戸惑う麻衣子。
麻衣子「やだ、こっちに来る・・・」

○ センチュリー、車体を滑らし、道を塞ぐようにして止まる
  運転席から降りるスーツ着の男。マシンガンを発射する。
  
○ MR2・車内
  麻衣子、ブレーキを踏ながら咄嗟に身を隠す。フロントガラスに当たる銃弾が次々と
  弾き返されている。
  島、平然と座り、拳銃に弾を装填している。
島「何してんだよ?」
麻衣子「えっ?」
  MR2のボディを流れるように弾丸が弾くが、MR2のボディは、無傷である。
  麻衣子、身体を起こし、
島「今時、完全防弾は常識なんだ」

○ センチュリー、突然、動き出す
  男の背後を走り去っていく。
  何百発もの弾丸をMR2のボディが跳ね返している
  フロントガラスにいくつもの火花が飛び散っている。

○ MR2・車内
島「麻衣子、センチュリーを追え!」
  アクセルを踏み込む麻衣子。

○ マシンガンを撃つ男に突進していくMR2
  男、MR2のボンネットに乗り上げ、車体を滑るように転がり、地面に落ちる。

○ カーブを曲がるセンチュリー
  向かってきた対向車のセダンとぶつかる。
  センチュリー、セダンに乗り上げ、横倒しになり、路上を滑り、一回転して、
  また元の体勢に戻る。
  暫くして、MR2がやってくる。
  島、麻衣子、咄嗟に車から降り、スッと立ち上がると、銃を構えながら、センチュリー
  に近づいていく。
  センチュリーの扉が開き、オルセイが現れる。オルセイの額から大量の血が流れている。
  オルセイ、後部座席の扉を開け、上崎を外に出す。
  島、麻衣子、足を止め、驚愕する。
  オルセイに羽交い締めにされている上崎。口の中に金属球を加えている。
麻衣子「(激しく動揺し)島さん・・・」
島「胃が痛くなってきた・・・」
  島、額に汗を浮かべながら、オルセイを睨み付けている。
  オルセイ、上崎の顎を右手で上げ、金属球を噛み潰させようとしている。
  島、引き金を引く。
  弾は、オルセイの右肩をかする。
  その反動でのけ反るオルセイ。
  麻衣子、透かさず、2度引き金を引く。
  弾は、オルセイの左足を貫通する。
  崩れるように地面に突っ伏すオルセイ。
  島、麻衣子、急いでオルセイの元に近づいて行く。
  上崎の口からゆっくりと金属球を取り出す麻衣子。
  島、オルセイを起き上がらせ、胸倉を掴み上げる。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  無線機の前に立っている小神。
  スピーカーから麻衣子の声が聞こえる。
麻衣子の声「葉山です。オルセイを捕まえました」
小神「至急、奴から相沢章子の潜伏先を聞き出せ!」

○ 山の上空を飛行する230ヘリ
  夕陽を浴びながら飛んでいる。
小神の声「小神だ。今すぐ愛豊峠ダムに向かってくれ」

○ ヘリ・キャビン
  操縦席に座り、レバーを操作している土下。
  土下、前を見つめ、唖然とする。
  数キロ先で青色の煙がもくもくと空に浮かんでいるのを目にする。
  インカムに話しかける土下。
土下「もう目の前ですよ」

○ 地下プラント・倉庫
  幸田の首元に銃口を当てる章子。
章子「じゃあ、一つだけ教えてあげる。甲斐崎は、あの頃、私の技術を黙って企業に
 売りつけてたのよ。それで莫大な資金を得てた・・・」
幸田「その技術ってのは、なんだ?」
章子「・・・」
幸田「(叫ぶように声を上げ)答えろ!章子!」
章子「これ以上は、駄目よ。あなたも何も教えてくれなかったでしょ?」
幸田「君は、甲斐崎に利用されてた。そして、君は、俺を利用して彼と別れようとしたって
 わけだ」
章子「甲斐崎は、私をお金でコントロールしようとした。私は、自分の技術で全てを
 コントロールしてみせる」
幸田「それは、無理だ」
章子「どうして?」
幸田「君はまだ、誰かの操り人形だからだ」
章子「・・・この国が灰になったら、初動捜査をミスったあなた達の責任は、重大ね」
  幸田、険しい表情で章子を見つめている。

○ 同・通路
  必死に掻けている末沢。
  目の前に数十人の少年少女達が立ちはだかる。
  末沢、拳銃を構え、
末沢「動くなよ」
  末沢の数メートル背後にレイモンドが現れ、マシンガンを撃ち始める。
  末沢、咄嗟に左側の壁際に身を隠す。
  右肩を押さえる末沢。赤く血が滲み始めている。
  苦渋の表情を浮かべる末沢。
  レイモンド、マシンガンを構えながら、ゆっくりと末沢に近づいてくる。
  末沢、レイモンドの足元に見える消火器に向けて銃を撃つ。
  破裂する消火器。白い煙がレイモンドを覆う。
  末沢、その隙に少年達のほうに向かって突進する。少年達を押し退け、更に前進する。

○ 地下プラント・倉庫
  末沢が勢い良く中に駆け込んでくる。
  章子、振り返り、末沢に銃口を向け、撃つ。
  末沢、地面を転がり、弾を避ける。
  幸田、後ろから章子を羽交い締めにし、右手に持つ拳銃を奪い取る。
  末沢、相沢章子に銃を向ける。
幸田「末沢、銃を下ろせ」
  末沢、静かに銃を下ろす。幸田、奪った銃を後ろに投げ捨てる。
  章子、幸田と対峙し、
幸田「もうすぐうちの捜査班がかけつけてくる。早くここから逃げろ」
末沢「幸田さん!」 
  章子、幸田の前に近寄り、突然口付けをし、
章子「さよなら、幸田・・・」
  幸田、神妙な面持ちで章子を見ている。 
  章子、ほくそ笑みながら、入口に向かって走り出し、外に出て行く。
  末沢、幸田の元に近寄り、
末沢「どうして、逃がしたんですか?」
幸田「・・・責任は、俺が取る」
  と、突然、二人の少年が幸田達の前に駆け込んでくる。
  幸田、金蹴りしてきた少年の足を手で払い、思い切り振りかざした右腕で少年の顔を
  殴りつける。
  末沢、連続する少年のパンチを躱しながら、一瞬でストレートパンチを少年の腹に
  決める。

○ 同・トンネル
  コルベットに乗り込む章子。
  エンジンが轟くと、猛スピードでバックターンし、出口に向かって走り始める。

○ トンネルから外へ飛び出してくるコルベット
  と、突然、コルベットの前の地面に流れるように弾丸が飛び交う。
  急ブレーキをかけ、立ち止まるコルベット。前を見て、唖然とする章子。
  目の前にホバリング状態で浮かんでいる230ヘリ。
  ヘリの左側に設置されている機銃がコルベットに向けられている。
  土下がサングラス越しに章子を睨み付けている。
  暫くして、サイレンが鳴り響き、先頭をMR2、パトカー達がヘリの後ろから現れる。

○ MR2・車内
  島、両手で耳を塞ぎ、両目を瞑っている。麻衣子、一瞬島を見つめ、唖然とし、
麻衣子「島さん?」
  微動だにしない島。

○ トンネルを駆け抜け表に出てくる幸田と末沢
  幸田、大声で叫び声を上げ、
幸田「よせ、皆その女に手を出すな!」
  コルベット、おもいきり加速しながら、猛然とヘリに向かって行く。
  ヘリ、コルベットとぶつかる直前に急上昇する。コルベット、そのまま直進し、
  230ヘリの後ろに止まっていたパトカーの群れに体当たりする。
  パトカーのボディの上をハイジャンプ。
  宙に浮いたボディがバランスを崩し、くねるような横回転をしながら地面に激突。
  コルベットのボディは、ひっくり返った状態で立ち止まり、大爆発を起こす。
  巨大なオレンジ色の炎が上空に高く舞い上がる。
  炎のそばを駆け抜けている230ヘリ。
  車から降りてくる島と麻衣子。
  島、まだ両耳を押さえている。
  メラメラと燃え盛る車の炎を呆然と見つめている。
  愕然と肩を落としている幸田。
  幸田の様子を見つめている末沢。
末沢「あの女・・・幸田さんのこと、まだ・・・」
幸田「俺が甲斐崎を殺しておけば良かったんだ・・・」
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス(夜)
  コーヒーを飲みながら、パソコンのモニターを見つめる島。
島「この静けさ、なんだか無気味だな。今夜は、何も起こらなきゃいいけど・・・」
  島の元に近づいてくる麻衣子。
麻衣子「これから毎日、爆弾の脅威に晒されなきゃいけないのかしら・・・」
島「オルセイを絞り上げても、プラントと密入国組織の情報以外は、出てこないし、
 相沢章子に振り回されるだけ振り回されて、また捜査は、振り出しか・・・」
麻衣子「行方不明になっていた少年達が見つかっただけでも良かったですよ」
島「だが、まだ消息不明の少年達が15人もいる・・・」
麻衣子「・・・」
島「それにしても、驚いたね。爆弾事件の主犯核が幸田さんの元彼女だったなんて・・・」
麻衣子「・・・相当ショックだったでしょうね、幸田さん」
島「いいや、さっき会ったら、もう済んだことだって、ケロッとした顔で外に出て行った。
 さすがは、鉄の心を持つ男・・・」
  島、コーヒーを一気に飲み干す。

○ 港
  岸辺に止まるブルーバード。
  ブルーバードの運転席に座っている幸田。 

○ ブルーバード・車内
  ダッシュボードの中から写真を取り出し、見つめている幸田。
  章子と撮ったプリクラ写真を見つめている。

○ 岸辺に立つ幸田
  写真を破り、海に投げ捨てる幸田。
  海面に落ち、ポツンと浮かぶ写真。
  幸田、クールな眼差しで海面見つめた後、その場を立ち去る。
  車に乗り込み、エンジンをかける。激しくタイヤを軋ませながら、その場を走り去って
  行くブルーバード。

○ 警視庁・長官室
  警視庁長官の中坊信太郎(54)のデスクの前に立つ小神。
  ファイルのデータをまじまじと見つめ、
小神「・・・こんなものを民間企業に作らせていたんですか?」
中坊「その参加企業の中に今度の爆弾事件の被害にあった四星興産と北洋化学工業の
 名前も入っている」
  中坊、デスクの引き出しから一枚の写真を取り出し、小神の前に置く。
  小神、写真をまじまじと見つめている。
中坊「それが、今度のプロジェクトの発案者だ」
小神「(驚愕し)まさか・・・」
中坊「非常に厳しい捜査になる。覚悟を決めてくれ・・・」
  
○ 国道
  走行するフェアレディZ。

○ フェアレディZ・車内
  ハンドルを握る末沢。
  暫くして道沿いに車を止める。
  歩道に立つ白いドレスの女・寺田真貴(24)。車に近づき、助手席に乗り込み、座る。
真貴「遅かったわね」
末沢「ごめん、ちょっと色々と立て込んでたから・・・」
真貴「私も明日、朝から新製品のミーティングで忙しいの。それであの事、決心してくれたの?」
  末沢、言い難げに、
末沢「あのさ・・・」

○ アパート2F・多川家
  玄関の扉が開く。中から美菜が現れる。
  外に立っている麻衣子。美菜と対峙し、
麻衣子「お母さんは?」
  美菜、首を横に振る。
  麻衣子、美菜の向こうに男が立っているのに気づく。
  麻衣子、一礼し、
男「どなたです?」
  麻衣子、警察手帳を見せ、
麻衣子「警視庁の葉山と言います。昨日の事件の事で、美菜ちゃんの様子がちょっと気に
 なったものですから・・・お父さん?」
男「いいえ・・・姉に頼まれて面倒見てるんです」
麻衣子「そうですか・・・」
  麻衣子、美菜の頭を撫で、
麻衣子「あっ、忘れてた」
  鞄の中から、キティのぬいぐるみを取り出し、美菜に手渡す。
麻衣子「これ、人形の代わり。じゃあね」
  麻衣子、手を振る。美菜も手を振っている。麻衣子、男に一礼し、扉を閉める。
  男、憮然とした表情をしている・・・。

○ トンネルを駆け抜ける麻衣子のバイク
  急ブレーキを駆け、途中で立ち止まる。
  麻衣子、バイクから降り、ヘルメットを外す。
  頭の中にあの幻想が浮かぶ。

○ フラッシュバック
  鏡に映る麻衣子の後ろに黒い獅子。
  足下には、バービー人形が踊っている。
  黒い獅子が麻衣子を飲み込もうとしている・・・。

○ トンネル内
  頭を痛め、苦痛に顔を歪ます麻衣子。
  麻衣子の背後から近づいてくるバイク。
  バイクに乗る男。左手にパイプを持つ。
  麻衣子、頭を手で押さえ、俯いている。
  麻衣子のバイクに猛スピードで近づいてくるバイク。
  男、左腕を真横に真っ直ぐ伸ばし、麻衣子の背中にパイプを近づけていく。
  麻衣子、パイプで背中を殴られる。
  呻き声を上げ、崩れるように地面に倒れる麻衣子。
  男のバイク、ターンし、麻衣子の方を向く。
  うつ伏せで倒れている麻衣子の顔に、男のバイクのヘッドライトが当たっている。
  麻衣子、うっすらと目を開けているが、やがて、意識を失う。
  トンネル内に響き渡るバイクの轟音・・・。

                                                   −無限の秘密・完−

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