『555 ダッシュバード 危特科捜班』第三回「キル・パズル」byガース『ガースのお部屋』

○ トンネル内(深夜)
  激しく唸るバイクの轟音。
  バイクのヘッドライトが地面にうつ伏せになって倒れている女を照らしている。
  女は、葉山麻衣子(27)。
  青いレザースーツとパンツ、フルフェイスのヘルメットを身に付けた男、
  スロットルを全開し、100m先にいる麻衣子に向かって突っ走って行く。
  トンネル内に猛烈なエンジン音が響いている。
  バイクと対面する方向から大きなクラクションが鳴り響く。
  白いマークUがスピードを上げて、トンネル内に入ってくる。
  バイク、急ブレーキをかけると、Uターンし、逃げるように立ち去って行く。
  麻衣子のそばで立ち止まるマークU。
  運転席のドアが開き、グレイのズボンを履いた男の足が地面につく。
  男、麻衣子のそばに近寄り、しゃがみこむ。
男の声「大丈夫?」

○ 病院・203号室(翌朝)
  目を覚ます麻衣子。ベッドの上で横になっている麻衣子。
  そばに長身の男が立っている。男、精悍な面持ち。
  麻衣子、呆然としながら、男の顔をまじまじと見つめている。
男「左の脇腹に打撲傷を負ってるけど、骨には、異常はないらしい。かなり丈夫なんだね」
  麻衣子、少し、体を動かそうとするが、背中に激痛が走り、顔を歪ませる。
麻衣子「私、どうして・・・」
男「車であのトンネルを通りがかったら、道端で君が倒れているのを見つけたんだ・・・」
  麻衣子、昨日の記憶が微かに甦り、
麻衣子「・・・バイクの男は?」
男「見たけど、ちょうど逃げた後だった」
麻衣子「・・・私のバイクは?」
男「さっき、病院の表に持って来た。キーは、そのバックの中に入れといたから」
  男、ベッドの隣にあるラックのテーブルを指差す。
  麻衣子、テーブルの上のバックを見つめ、
麻衣子「どうも、すいませんでした・・・」
男「最近、わけのわからないのが多いから、気をつけないとね・・・」
  男、麻衣子のそばを離れ、入口のドアに向かう。
麻衣子「あの・・・」
  男、立ち止まり、麻衣子を見る。
麻衣子「連絡先を教えてくれませんか?後でお礼します」
  男、麻衣子のそばに近づく。財布から名刺を抜き、麻衣子に手渡す。
男「じゃあ・・・」
  男、微笑むと踵を返し、部屋を出て行く。
  麻衣子、男に一礼する。
  名刺を見つめる麻衣子。
  名刺には、『宝豪調査事務所 代表取締役 四堂 豹摩(ひょうま)』と書かれている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  部屋隅のソファに座り、コーヒーを飲んでいる島・健司(29) 。
  入口の自動ドアが開き、末沢 裕太(28)が入ってくる。末沢、憮然とした表情。
  島、末沢に気づき、
島「おはよう」
  末沢、そのままデスクに座り、捜査書類を整理し始める。
  島、眉をひそめ、少し声のトーンを上げ、
島「おはよう!」
  末沢、書類を片づけながら、小声で、
末沢「おはようございます・・・」
  島、怪訝な表情で末沢のそばに近寄り、
島「ネズミの泣き声みたいな声出しやがって・・・もっとシャキッとしろよ」
  末沢、寡黙に片づけを続けている。
島「・・・昨夜、彼女と会ったのか?」
末沢「もういいんです」
島「何が?」
末沢「まだお互いのことも何にもわかっていないうちに結婚だなんて
 切り出してしまって・・・僕が間違っていました」
島「揉めちゃったのか?」
末沢「刑事である自分と結婚して欲しいって言ったんです・・・」
島「辞めるんじゃなかったのか?」
末沢「いや、考えが変わりました。これ以上彼女に心配をかけたくないので、
 僕から別れ話を・・・」
  島、険しい表情を浮かべている。
島「そうか・・・おまえの筋を通したわけだ。まっ、女なんていくらでもいるよ。
 今度は、もっと理解のある人を探せばいい・・・」
  末沢、重い雰囲気で資料をジッと見続けている。
  島、そっとその場を立ち去って行く。

○ 同・部長オフィス
  デスクに座る特命班部長・小神 洋介(48)。
  その前に佇む幸田 智(35)。
小神「私のバックアップを振り切ってまで、相沢章子の言いなりになったんだ。
 それなりの見返りは、あったんだろうな?」
幸田「末沢をつけてくれなんて頼んだ覚えは、ありませんよ・・・」
小神「万が一の対応だった。現に、末沢が相沢のアジトを見つけていなければ、
 君は、殺され、奴らを取り逃がすところだった」
幸田「・・・」
小神「だが、結果は、相沢章子を死なせてしまい、一連の拉致事件の糸口が
 跡絶えてしまった・・・」
幸田「章子を自白させる自信は、あったんです」
小神「・・・実はな、幸田。例の爆弾事件の被害にあった四星興産と北洋化学工業が、
 政府が進めている国家機密プロジェクトの参加企業に名を連ねていた事がわかったんだ」
幸田「そのプロジェクトと言うのは?」
小神「国内の不法密入国者の侵入を阻止するため、政府が特別に編成しようとしている
 民間セキュリティガード団体の設立のことだ。日本一体の海岸の監視が主な仕事だが、
 いきなり民間人にやらせるわけにもいかず、ほとんどのメンバーは、海上自衛官や防衛庁
 関係者が名を連ねているのが実情だ。問題なのは、その組織のためにある大物政治家が
 いくつかの企業に依頼して、内密にある武器を作らせている事だ」
幸田「その武器って言うのは?」
小神「最新のレーザー技術を利用したライフルだ」
  幸田、表情が強張り、
幸田「なんですって?」
小神「近々、その政治家に捜査員を派遣して事情を聞こうと思っている。情報班の調べによると、
 どうやら、奴には、不穏な動きがあるらしい・・・」
幸田「どういうことです?」
小神「東南アジアから大量の金属球を国内に運びこませている仲介人の役目を果たしている
 可能性があるんだ・・・」
幸田「誰です?その政治家ってのは?・・・」

○ 同・オフィス
  部長オフィス入口の自動ドアが開き、幸田が出てくる。幸田、険しい顔つき。
  島と末沢が慌てて幸田に近寄る。
島「幸田さん、相沢章子の遺体解剖の結果が出ました・・・」
幸田「どうだった?」
島「それが、どうやら、別人だったらしいんです」
  幸田、眼光を鋭くし、
島「遺体は、男だったそうです」
幸田「馬鹿な・・・目の前であいつの乗った車が爆発するのを見たんだぞ?」
島「僕も見ました。確かに車に乗ってたのは、相沢でした・・・」
  幸田、激しく動揺し、その場を立ち去って行く。
   
○ 同・研究室
  扉が開き、二人の男によって、遺体の乗った担架が運び込まれてくる。
  その後に幸田と白衣を着た宮本 麗莉(れいり)(32)、その後ろを島が歩いている。
麗莉「年齢は、四十から五十の間・・・」
  部屋の中央に置かれる担架。遺体に被されていたシートを剥がす麗莉。
  全身、黒焦げになった遺体が露になる。
  幸田、憮然と遺体を見つめている。
  島、顔を顰め、遺体から目を逸らす。
麗莉「全身の皮膚は、ほぼ炭化してるわ。右奥歯3本に治療跡、血中からは、
 幻覚作用を起こす薬剤が検出された」
  幸田、険しい表情になり、
幸田「幻覚作用?」
麗莉「それから、遺体の顔に特殊に作られた合成繊維が付着していたわ」
  幸田、遺体の顔をまじまじと見つめている。
幸田「島!」
島「はい」
幸田「行方不明の防衛庁事務次官の資料を持ってきてくれ」
島「・・・わかりました」
  島、颯爽と部屋から出て行く。

○ 病院
  ベッドの前に立ち、上着を身に付けている麻衣子。
  看護婦が入ってくる。
看護婦「何してるんですか?」
  麻衣子、バックから 警察手帳を取り出し、
麻衣子「私、警察のものです」
看護婦「知ってます。ダメですよ、まだ動いたちゃ・・・」
  麻衣子、唖然とし、
麻衣子「どうして、知ってるの?」
看護婦「あなたを運んできた方がそう言っていましたから」
  麻衣子、怪訝な表情を浮かべ、枕元に置いていた名刺を見つめる。

○ 同・部長オフィス
  デスクにつく小神。
  小神の前に佇む幸田、島、末沢。
島「遺体は、飛田盛男のものに間違いありません」
  小神、まずい表情を浮かべる。
島「顔に付着していた合成繊維は、人間の皮膚に似せた特殊な素材のもので、
 おそらく、飛田は、何かのマスクをつけていたんだと思います」
小神「つまり、飛田が相沢に化けていたと言うことか?」
  幸田、何も言わず、その場を立ち去って行く。
  末沢、心配気な様子で幸田の背中を見つめている。
  小神、溜め息を吐き、
小神「・・・葉山は、まだ来てないのか?」
島「はい・・・」
  小神、腕時計を見つめ、
小神「もう十時だぞ」
島「連絡してみます」
  小神のデスクの電話が鳴り出す。
  島、部屋から立ち去る。末沢も島の後を追う。
  受話器を取る小神。
小神「もしもし・・・ああ、つないでくれ」
  回線が切り替わり、
小神「・・・仕事中だ。後で電話するから。もう絶対ここにはかけてくるんじゃないぞ、
 いいな!」
  受話器を叩き付けるように置く小神。

○ ビジネス街・駅前周辺
  ロータリーの脇に黄色いタクシーが止まり、後部席のドアから麻衣子が降りてくる。
  駅前の通りを歩き始める麻衣子。雑踏に紛れ込んでいく。
  バックの中で携帯のアラームが鳴り響いているのに気づき、立ち止まる。
  麻衣子、携帯を取り出すが、躊躇し、
麻衣子「まっ、いいか。怪我してるんだし」
  電源を切る麻衣子。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  しかめっ面で受話器を持っている島。
  電話が切れている音を耳にし、もう一度電話番号のボタンを押す。
電話の声「・・・現在使うことができない場所におられるか、電源が入っていないため・・・」
  島、少し切れ気味で苛立っている。

○ 廃虚ビル・1F
  古びた建物。そこら中に瓦礫が散らばっている。
  瓦礫のそばで眠っている少女・佐伯梨琉(17)。
  暫くして、工事用のトラックのエンジン音がけたたましく鳴り響く。
  目を覚ます梨琉。サッと起き上がり、立ち上がると、ふらふらと光りの差し込む
  方向へ歩いて行く。

○ 廃虚ビルのコンクリートの壁をよじ上る梨琉
  壁の上から外へジャンプする。地面に着地するが、勢い余って左膝を打つ。
  地面に座り込み、左膝を見つめる。血がジンジンと滲み出ている。
  梨琉、無表情のまま立ち上がり、ふらふらと通路を歩いて行く。

○ 警視庁地下2階・駐車場
  6台の車両が並んで止まっている。真中に止まるブルーバード。
  
○ ブルーバード車内
  シートを倒し、寝そべっている幸田。
  ジッと目を開け、車の屋根を見つめている。
  暫くして、窓をこつく音が鳴り響く。
  運転席の窓を見つめる幸田。
  窓越しに末沢が立っている。
  一礼する末沢。
   ×  ×  ×
  助手席に末沢が座っている。
末沢「俺が甲斐崎を殺しとけば・・・って言葉・・・あれ、本心だったんですか?」
幸田「・・・ああ」
末沢「・・・」
幸田「甲斐崎は、章子の才能だけを欲しがっていたんだ」
末沢「幸田さんは、まだ相沢のこと、好きなんですか?」
幸田「・・・わからん」
末沢「逃がすつもりだったんでしょ?」
幸田「・・・あいつには、借りがあるからな」
末沢「・・・借り?」
幸田「清治が生きてる頃、あいつのカウンセラーをしてくれてたんだ」
末沢「弟さんの?」
幸田「清治も心底あいつのことを気に入って、早くあいつと結婚しろって、
 俺を急かしてた。表面は、冷たい科学者をやってるように見えても、中身は、
 子供好きの優しい女だ・・・」
  末沢、神妙な面持ちで項垂れている。

○ 繁華街
  アーケードの一角にそびえ立つ8階建ての古びた白いマンションの前に辿り着く麻衣子。
  名刺をまじまじと見つめている麻衣子。

○ マンション・5F
  エレベータの扉が開き、麻衣子が現れる。
  古びたコンクリートの通路を歩き始める。
  突き当たりの扉の方に向かって進む麻衣子。
  501号室の前で立ち止まる。
  扉の左側に『宝豪調査事務所』の札がつけられている。
  扉をノックする麻衣子。
  暫くして、扉が開き、中から長身で、筋肉隆々のスキンヘッドの黒人の男が現れる。
  麻衣子、驚きながら、男の顔を見つめる。
麻衣子「あの・・・四堂さん、おられます?」
  男、ジッと麻衣子を睨み付けると、サングラスをはめ、麻衣子のそばを横切り外に出て行く。
  部屋の中からもう一人の男の声が聞こえてくる。
  男、麻衣子の前に姿を現わす。男は、四堂 豹摩(28)である。
四堂「君、もう退院したの?」
麻衣子「ええ・・・」
  四堂、腕時計を見つめ、
四堂「・・・そろそろお昼か。外で話そうよ」

○ 高速・高架下
  辺りにパトカーが数台並んで止まっている。
  トンネルの真中に群がる刑事と警官達。
  サイレン音を慣らしながら、ブルーバードとMR2が道路脇に立ち止まる。
  ブルーバードの運転席から幸田、助手席から島、MR2の運転席から末沢が降りてくる。
  群がる刑事達に近づいていく三人。
  一人の刑事に話しかける幸田。
幸田「科捜班第5チームの幸田だ」
  グレイのスーツを着、七三分けの白髪をした初老の男・水田 光義(52)が、幸田と向き合う。
水田「所轄の水田です」
  幸田、目の前で倒れているバイクを見つめる。
  バイクの前でヘルメットを被ったままうつ伏せで倒れている男。
  背中に銃弾で撃ち抜かれた跡がある。
島「見事に貫通してますね」
幸田「弾頭は?」
水田「まだ見つかっていません・・・ただ、男の死体のそばにこんなものが・・・」
  水田、幸田に血のこびりついた透明の小さな破片を手渡す。
  幸田、破片をまじまじと見つめている。
  一人の警官が島と末沢の前に近づく。
警官「男が持っていた所持品です」
  警官、二人の前で持っていたアルミケースを開く。中を覗き込む二人。
  ケースの中に、3つの金属球が入っている。
  末沢、男の前でしゃがみこみ、
末沢「この、ヘルメット外してもいいですか?」
水田「鑑識活動のほうは、一通り終わりましたので、どうぞ」
  末沢、ヘルメットを外す。
  オールバックの髪型をした男が目を剥いて死んでいる。口から血を吐いている。
  死体を見つめている島。
島「金属球の運び屋ですかね?」
幸田「この遺体、うちの研究室に運べ」
島「わかりました」
  島、末沢、幸田のそばを離れて行く。

○ 喫茶店内
  テーブルに置かれたコーヒーカップを手に取る四堂。コーヒーを啜る。
  四堂と対峙して、座っている麻衣子。
  麻衣子のグラスは、すでに空になっている。
  四堂、不思議そうに麻衣子を見つめ、
四堂「もう飲んだの?」
麻衣子「ここのオレンジジュース、おいしいですね」
四堂「食事は?」
麻衣子「お昼は、食べないんです。いつも・・・」
  麻衣子、バックからラムネを出し、食べ始める。
  四堂、それを不思議そうに見ている。
麻衣子「私のバックの中・・・覗いたでしょ?」
四堂「ごめん。看護婦さんに君のことを説明しようと思って、免許証を探したんだけど・・・
 でも、意外だった。君が警視庁の刑事だったなんて・・・」
麻衣子「私が刑事って変ですか?」
四堂「いや、そういうつもりで言ったわけじゃないけど。実は、僕の知り合いも、警視庁に
 勤めている奴がいるんだ。島って奴、知ってる?」
麻衣子「ええ・・・」
四堂「本当に?そいつとは、高校の同期でね。刑事になる夢を語り合った仲なんだ」
麻衣子「四堂さん、刑事を目指していたんですか?」
四堂「ああ。だけど挫折して、今は、探偵噛りの仕事をしてるけどね。僕には、
 正義感が足りなかったかもな」
麻衣子「そんなことはないでしょ?だって、私の事、助けてくれたし・・・」
四堂「君が男だったら、見て見ぬ振りをしていたかも知れない・・・」
  麻衣子、唖然とする。
四堂「(失笑し)冗談」
麻衣子「でも、奇遇ですね。まさか、島さんのお友達に助けてもらうなんて・・・
 高校時代の島さんってどんな人でした?」
四堂「俺よりも真面目で、優秀で、正義感が強くて・・・でも、一つだけ欠点があった」
麻衣子「欠点?」
四堂「臆病者なんだ、あいつは・・・」
麻衣子「島さんが?まさか・・・」
四堂「ある乗物が大の苦手らしい」
  麻衣子、興味深げに聞き入り、
麻衣子「その乗物っていったい何なんですか?」
四堂「当ててみてよ」
  麻衣子、ジッと考え込んでいる。
  四堂、神妙な面持ち。
  一瞬、不適な笑みを浮かべる。

○ デパート・踊り場休憩所
  長椅子に腰掛けている梨琉。
  空ろ気な表情でガラス越しに見える街の景色を見つめている。
  暫くして、目を大きく見開き、身震いする梨琉。
  ガラスにうっすらとセーラー服を着た茶髪のロングヘアの女子高生の姿が映る。
  梨琉の背後に立つ女子高生。
  ハッと振り向く梨琉。
  女子高生、微笑みながら梨琉に喋りかける。
梨琉「どうして、ここが?・・・」
女子高生「あなたのことは、なんでもわかるの」
  梨琉、激しく動揺し、困惑した様子。
女子高生「もしかして、まだ躊躇ってる?」
梨琉「・・・」
女子高生「薬が切れてきたのね。一緒に来て・・・」
  女子高生、梨琉の左腕を掴み、一緒に階段を上り始める。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  入り口の自動ドアが開く。
  麻衣子が恐縮しながら中に入って来る。
  しかし、辺りには、誰もいない。

○ 同・部長オフィス
  麻衣子、ゆっくりデスクの前に近づいて行く。
  捜査資料を見つめている小神。
小神「遅かったな」
  麻衣子、頭を下げ、
麻衣子「すいません・・・実は、昨日、男に襲われてしまって・・・」
  小神を顔を上げ、深刻そうな表情で麻衣子を見つめ、
麻衣子「・・・パイプみたいなもので背中を殴られて」
小神「怪我は?病院には、行ったのか?」
麻衣子「診てもらいましたけど、大したことなかったです。幸田さん達は?」
小神「研究室の方にいる。今日は、捜査に出ず、ここでジッとしてろ。明日、
 病院に行って診断書をもらってきてくれ。わかったな」
麻衣子「・・・はい」

○ 同・研究室
  デスクの上にある電子顕微鏡を覗き見る高井 恒二(32)。

○ 電子顕微鏡の映像
  超微粒子の青白い結晶体が映し出されている。

○ 研究室
  高井のそばに近づく幸田。
幸田「どうだ?」
  高井、顕微鏡から目を離し、
高井「鉛じゃないな。特殊なコーティング素材の結晶体だとは、思うけど。軽量でかなりもろい。
 でも、前にも見たことあるぞ、これ」
  高井、立ち上がり、棚から分厚いファイルを引っ張り出す。
高井「先月の科学捜査専門会議で、これと同じ弾丸を使った殺人事件の事が取り上げられてた
 のを思い出したよ」
幸田「ああ、11チームが捜査中の事件か。確か殺されたのは、麻薬のコバイヤだろ?」
高井「死体がどうなってたか聞いた?」
幸田「体がものの見事に真っ二つに破裂してたってな・・・」
  幸田、険しい表情を浮かべ、
幸田「あの時の弾丸と同じなのか?」
  高井、資料の調査報告書に目を通し、
高井「この時殺された男の死体からも弾丸は、発見されなかった。でも死体の間近で
 これと同じ透明の金属片が見つかったんだ」
  高井、デスクに戻り、プレートに乗った金属片にレーザーポインターを照射する。
  破片から七色の光が浮かび上がり、部屋の天井まで一筋に伸びる。
  光を見つめ、唖然とする幸田。
幸田「破片がプリズムの役目を果たして、光を発してる」
高井「この弾丸は、小型爆弾だ。薬莢の中にかなりの爆発量の火薬を詰め込んで、
 弾丸が体に突き刺さったと同時に爆発し、人体を木端微塵にする」
幸田「それと、この破片のプリズムと何の関係が?」
高井「それは、信管代わりさ。太陽の光を受けると同時に、電磁起爆装置のようなものが作動する
 仕掛けになっていたんじゃないかと、僕は推測してるんだけどね・・・」
幸田「だが、今日殺された男が死んでた場所は、トンネルの中だ。しかも、弾は、貫通し、
 死体は、きれいに残ってた」
高井「コバイヤが殺された時は、当然犯人は、離れた場所から弾丸を撃ったはずだ。
 今回の場合は、弾丸の入射角度から察して、至近距離、しかも、通常の火薬量の弾丸で、
 撃ったと考えられる」
幸田「つまり、犯人は、バイクの男が金属球を持っていたことを知ってたことになるな・・・」
高井「同じ弾丸を使ったのは、犯人のこだわりかな」
幸田「強力な技術力を持ったスナイパーか、あるいは、テロリストか・・・」
  幸田、さらに険しい表情になる。
  研究室の入口の扉が開き、麻衣子が入ってくる。
麻衣子「おはようございます・・・」
  幸田、ファイルから調査報告書を抜き取り、そばのデスクの上に置いていた自分の
  ファイルの中に入れる。
  麻衣子、幸田の前に近づき、頭を下げ、
麻衣子「遅れてすいません・・・実は、私・・・」
  幸田、ファイルを持ち、麻衣子のそばを通り過ぎて行く。
  麻衣子、焦った様子で幸田の後を追う。
麻衣子「ちょっと、幸田さん!」
  高井、失笑すると、デスクの前の椅子に座り込む。

○ 同・研究室
  部屋の中央のテーブルにシートに包まれた遺体が置かれている。そのそばに、幸田、
  麗莉が立つ。幸田、書類に目を通している。
  暫くして、麻衣子が入ってくる。
麻衣子「幸田さん!」
  麗莉、麻衣子を見つめ、
麗莉「あれ、泊まりだったの?」
麻衣子「えっ?」
麗莉「(麻衣子の服を指差し)服、昨日と同じ・・・」
  幸田、目線を麻衣子の方に向ける。
  麗莉、少し焦った表情を浮かべ、
麗莉「・・・まずいこと言ったかな?私」
麻衣子「違うんですよ。昨日の帰りに、怪我しちゃって、それで、今朝まで病院にいたんです」
幸田「どこを怪我したんだ?」
麻衣子「背中に打撲傷を・・・」
幸田「その割りには、ピンピンしてるじゃないか」
麻衣子「そう言うふうに見せてるだけです」
  幸田、書類を見つめ、
幸田「じゃあ、帰って休んでろ」
  麻衣子、憮然とし、悔しげに口を曲げる。
麗莉「致命傷は、腹に貫通した一発だけ。弾丸は、軍用ライフルの形状に似て、相当、
 破壊力のあるものだったようね。腸の3分の2が跡形もなくなってたわ」
  麻衣子、痛々しげな表情を浮かべ、
麻衣子「一体何があったんですか?」
幸田「昼間、男の射殺体が見つかったんだ。そいつが例の金属球を持ってた」
  麻衣子、目の前の遺体を見つめ、
麻衣子「これが、その男の?・・・」
幸田「顔でも拝んどけ」
麻衣子「結構です。後で写真見ますから。それで、男の身元は?」
幸田「今、末沢が調べてる」
麗莉「遺留品の鑑定も終わったけど、バイクで倒れた時についた傷以外にめぼしい物証は、
 見つからなかったわ」
  幸田、書類をファイルの中に入れ、
幸田「ありがとう」
  幸田、麻衣子と顔を合わし、壁隅に置かれている四角いケースを指差し、
幸田「あれ、保管室に運んどいてくれ」
麻衣子「なんですか?」
幸田「男の遺留品だ」
  幸田、そそくさと部屋から立ち去って行く。
  麻衣子、憮然とした表情で幸田の背中を見つめ、
麻衣子「怪我したって、言ってるのに・・・」
麗莉「私が運ぶわ」
麻衣子「あっ、平気です。私がやります」
  麻衣子、麗莉の前を横切り、ケースの前に近づく。
  麻衣子、ケースを持ち上げるが、その瞬間、背中に激痛が走り、思わずケースから
  手を離してしまう。
  床に散らばる遺留品。
麻衣子「ごめんなさい・・・」
麗莉「体、本当に大丈夫?」
  麻衣子、苦笑を浮かべながら慌てて、遺留品を拾い集めている。
麻衣子「やっぱり・・・ジッとしてる方がいいみたい・・・」
  麗莉、麻衣子のそばでしゃがみこみ、遺留品を拾っている。
麗莉「あんまり無茶しないほうがいいわよ。これからもっと忙しくなるんだから」
  麻衣子、悄然とし、俯いている。
  目の前に落ちているヘルメットを見つめ、ハッとする麻衣子。
麻衣子「(ヘルメットを持ち上げ)これ、男が被っていたものなんですよね?」
  麗莉、唖然とし、
麗莉「どうしたの?」

○ 同・部長オフィス
  小神のデスクの後ろに設置されたスクリーンに男の写真とデータが表示される。
島の声「高島 幸彦 二十七歳。先月まで、新宿のパチンコ屋に勤務していました」
  スクリーンを見つめる幸田、島、末沢、麻衣子。
  小神、自分のデスクのディスプレイを見つめている。
幸田「この男に間違いないのか?」
麻衣子「はい、あのヘルメット、確かに見たんです・・・」
末沢「しかし、高島が、どうして葉山さんを襲ったりしたんでしょう?」
島「高島との面識は?」
麻衣子「今まであったこともありません・・・」
幸田「歳がお前と一緒だな。学生時代に何か接点があったんじゃないのか?」
  麻衣子、脳裏に過去の出来事を思い浮かべているが、暫くして、あの幻想が過る・・・。

○ 麻衣子の幻想
  鏡に映る麻衣子の背後に黒い無気味な渦が現れ、やがて、その渦が黒い獅子となり、
  麻衣子に襲いかかる。
  黒い獅子の向こうには、もう一人の麻衣子が立ち、大声を上げて、笑っている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  突然、奇声を上げ、頭を両手で押さえながらその場にしゃがみこむ麻衣子。
  唖然とする幸田達。
幸田「おい、どうした?」
  顔をゆっくりと上げ、幸田を見つめる麻衣子。苦笑いし、
麻衣子「・・・ちょっと・・・背中が痛くなっちゃって・・・」
小神「葉山、もう帰っていいぞ」
  麻衣子、立ち上がり、
麻衣子「でも・・・」
小神「パイプで殴られたんだろ?もう一度病院に行って、ちゃんとよく見てもらえ」
  麻衣子、俊とした様子で、一礼し、
麻衣子「失礼します・・・」
  踵を返し、その場を立ち去って行く麻衣子。と、咄嗟に振り返り、
麻衣子「島さん!」
島「はい?」
麻衣子「ちょっと・・・」

○ 同・通路
  壁際で対峙して話している島と麻衣子。
島「四堂?」
麻衣子「私、その人に助けてもらったんです」
島「ああ、あいつか・・・」
麻衣子「結構、カッコ良い人ですよね」
島「カッコ良い?もてない君って言われてた奴だぞ」
麻衣子「でも、背は、島さんより高いし、島さんよりも落ち着いた雰囲気で優しい人
 でしたけど・・・」
島「10年前は、俺のほうが高かったぞ・・・整形でもしたのか?」
麻衣子「ひどいこと言いますね」
島「今、何やってるって?」
麻衣子「探偵みたいな仕事をしてるらしいですよ」
島「あいつ、学校卒業したら、家業のたこ焼き屋を継ぐって言ってたんだけどな・・・」
  麻衣子、唖然とし、
麻衣子「たこ焼き屋?二人で一緒に刑事の夢を語り合ったんじゃあ・・・」
島「刑事ドラマの話で盛り上がったことは、あるけど・・・」
  麻衣子、怪訝な表情を浮かべ、
麻衣子「あの・・・」
島「何?」
  麻衣子、何か言いかけようとするが、躊躇し、
麻衣子「・・・なんでもありません」

○ パチンコ屋
  騒がしい店内。
  一列に並んでいるCR台を埋め尽くす客達。真中の台に赤いドレスを着、金髪の
  セミロングの女が座っているが、顔は見えない。
  煙草を加える口元、パチンコ台の数字を見つめている女の目が映し出される。
  暫くして、女の背後にセーラ服を着た女子高生が近づいてくる。
  女子高生、女の右肩に右手を置く。
  声を出す女。
女「見つけたの?」
女子高生「はい」
  女、たんまりと詰まったパチンコ玉のケースを女子高生に差し出し、
女「これで、食事でもしてきなさい」
  女子高生、ケースを受け取り、その場を立ち去って行く。
  女子高生が通り過ぎた後、女の顔が露になる。女は、相沢章子(33)。
  不適な笑みを浮かべながら女子高生を見ている章子。
  章子の足下に落ちるパチンコ玉。無気味に床をゴロゴロと転がっている。
  
○ 歩道橋
  一人そそくさと歩いている男子高校生の背中が映っている。
  高校生の後を何者かが追っている。
  高校生、突然、立ち止まり、サッと振り返る。
高校生「俺に何か用?」
  高校生と対峙しているのは、梨琉である。
  梨琉、ジッと高校生を見つめている。
梨琉「彼子のこと、覚えてる?」
高校生「彼子?」
梨琉「好きだったのに・・・あんたのこと・・・」
高校生「ああ・・・あいつね。顔見てるとムカつくんだよな。
 俺のタイプじゃないって・・・」
  梨琉、高校生を睨み付ける。
高校生「ちゃんと断ったんだぜ。俺には、彼女がいるって」
梨琉「暴力振るったのは・・・なんで?」
高校生「ああ・・・憂さ晴らしって言うか、しつこいから友人に頼んじゃったの」
  梨琉、ポシェットの中に右手を入れる。
高校生「もう死んだんだから、いいじゃん。それとも、君も俺達にやられちゃいたいわけ?」
  梨琉、ポシェットから手を出す。金属球を握っている。
  梨琉、高校生に向かって、金属球を投げる。
  金属球をキャッチする高校生。不思議そうに金属球を見つめ、
高校生「何これ?」
  立ち去って行く梨琉。
  高校生、呆然と梨琉の背中を見つめている。
  暫くして、高校生の掌の上で金属球が割れ、白い煙が噴き出し始める。
  煙に包まれている高校生。
  やがて、大きな奇声を上げる。
  平然と階段を降りている梨琉。

○ スーパー
  棚に置いてあるスナック菓子を手当り次第掴み、右腕にぶら下げている籠に詰め
  込んでいる女の腕が映る。女は、麻衣子である。

○ 住宅街・通路
  右手に買物袋を持ち、憮然と歩いている麻衣子。
  数メートル先にアパートが見えてくる。
  漫然とアパートを見つめている麻衣子。
  突然、ハッとする。
  アパート2Fの多川家の玄関から四堂が現れる。四堂、男と会話を交わしている。
  男、封筒を四堂に手渡す。四堂、それをスーツの内ポケットに入れ、その場を立ち去って行く。
  アパート前の一軒家の壁際に身を潜めている麻衣子。四堂の様子を窺っている。
  四堂、アパートの階段を降りると、そばに止めていたマークUに乗り込む。
  颯爽と走り去って行くマークU。

○ アパート2F・多川家
  玄関の扉が開き、中から男の姿が現れる。
  表に麻衣子が立っている。
麻衣子「こんにちは」
  男、少し動揺した面持ちで、軽く頭を下げる。
  男の後ろから美菜がキティのぬいぐるみを持って麻衣子の前に走ってくる。
美菜「お姉ちゃん」
  麻衣子、しゃがみこみ、美菜の頭を撫でる。
  麻衣子、買物袋からお菓子を取り出し、
  美菜に手渡す。
麻衣子「これ、好きなの取って」
  美菜、袋の中のお菓子を漁り、ラムネを握る。笑みを浮かべる美菜。
麻衣子「お母さんとお話がしたいんですけど、まだ戻られていないんですか?」
男「ええ・・・実は、一週間ほど、田舎のほうに戻ってるんで・・・」
麻衣子「そうですか・・・あの、さっき出て行った男の人は?・・・」
男「ああ、僕が前に働いてた会社の先輩ですけど、何か?」
麻衣子「・・・ちょっと知ってる人と似てたから気になって・・・」
男「今から出かけるんです。すいませんけど・・・」
麻衣子「ごめんなさい。突然押しかけてきちゃって・・・それじゃあ」
  美菜、はにかみながら麻衣子に手を振っている。
美菜「またね〜」
  麻衣子、笑みを浮かべ、手を振り、
麻衣子「またね!」

○ 歩道橋
  科学防護服を身に付けた数人の警察官達が辺りに除去剤を散布している。

○ 歩道橋から数十メートル離れた場所に群がるパトカー
  その中にブルーバードとMR2が止まる。
  車の前で幸田、島、が立ち、歩道橋の様子を見守っている。
  三人、険しい表情を浮かべている。
島「金属球、初の犠牲者か・・・」
幸田「・・・」
  二人の背後に末沢が近づいてくる。
末沢「死んだ少年は、北栄高校3年の川端良樹。今、学校と家族の方に事情を
 聞きに回っています」
  警官が島に近寄り、話をしている。
  島、それを聞き終わると、幸田に話しかけ、
島「目撃証言が出ました。川端をつけていた女がいたそうです」
幸田「女?」
島「今、所轄がモンタージュを作っています」
  上空を飛ぶヘリの羽音がこちらに近づいてくる。
  島、咄嗟に両手で両耳を塞ぐ。
幸田「俺達も聞き込みに回るぞ」
末沢「はい!」
  末沢、車に向かって走り去る。
  幸田、島を見つめ、
幸田「おい!」
  幸田、島の胸を叩く。島、幸田を見つめ、慌てて両手を降ろす。
幸田「行くぞ」
島「あ、はい・・・」
  島、慌てて車の方に走って行く。
  幸田、怪訝に島を見つめている。

○ 高級マンション6F・全景
  通路を歩いている麻衣子。
  603号室の扉の前で止まり、ドアノブにキーを差し込んでいる。

○ 葉山・自宅・リビングルーム
  テレビの音声が鳴り響く。
  ソファの上に寝そべる麻衣子。テレビ画面を見入っている。
  テーブルの上に、クッキー、スナック菓子、チョコレート、ヨーグルトなどが
  雑然と置かれている。
  麻衣子、手を伸ばし、次々とお菓子を平らげている。
  テレビのリモコンを持ち、ボタンを次々と変えている。
麻衣子「(溜め息を吐き)つまんない・・・」
  リモコンの電源ボタンを押す。テレビが切れる。
  ブラウン管に映る自分の姿をまじまじと見つめている。
  麻衣子、テーブルの上に置いていた財布から四堂の名刺を抜き取る。
  また、ソファに寝転がり、顔の前に名刺を近づける。
  麻衣子、ジッと名刺を見つめている。

○ ビジネス街(夕方)
  混雑する国道を走行するブルーバード。

○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。
  助手席に座る島。
幸田「なぁ、島」
島「はい」
幸田「お前、ヘリが恐いのか?」
島「いや、エンジン音が耳障りなだけです」
幸田「捜査活動に支障は、ないのか?」
島「・・・すいません。実は、隠していることがあります」
幸田「・・・」
島「俺、航空隊のヘリ・パイロットを目指していた事、幸田さんに話しましたよね?」
  幸田、首を傾げ、
幸田「ああ・・・聞いたっけな・・・」
  幸田、自信なさげの様子。
島「訓練飛行で海上を飛行中に、夕立にあって、豪雨と強風の中を飛ぶことになったんです。
 ところが、目の前で光った雷を見た時、急にパニック状態に陥ってしまって・・・」
幸田「・・・」
島「頭の中が真っ白になりました。ヘリを操縦するのが、恐くなって、気づいたら、
 ヘリを急下降させていたんです・・・」
  幸田、ジッと正面を見つめている。
島「ヘリが海に直撃する直前、付き添いの教官が、僕をヘリから突き落として、
 教官は、そのままヘリと一緒に・・・」
幸田「死んだのか?」
  島、頷き、
島「・・・それ以来、ヘリの羽根の音を聞く度に、脳裏にあの場面が過るように・・・」
幸田「部長は、この事知ってるのか?」
島「はい・・・」
  コンソールの中央に設置してあるモニターの上の赤いランプが点滅する。
  幸田、失笑し、
幸田「さすがは、うちのチームの部長を努めているだけのことは、あるな」
島「今の話、誰にも言わないでくださいね」
幸田「わかった・・・」
  島、コンソールのボタンを押し、モニターを映し出す。
島「女のモンタージュが転送されてきました」
幸田「確認してくれ」
  モニターにじんわりと映し出されるモンタージュ。
  島、モンタージュを見つめ、唖然とする。
島「幸田さん、この女、病院から逃げ出した・・・」
幸田「笹川の車のトランクに詰め込まれてた奴か?」
島「間違いないです」

○ 橋の上の国道を疾走するMR2
  交差点を勢い良く曲がっているMR2。
  車内の無線のアラームが鳴り響く。
末沢の声「こちら『03』」

○ ブルーバード車内
  無線機を持つ島。
島「女は、北千住方面に向かった」

○ MR2・車内
  末沢、コンソールのモニターを見つめ、
末沢「こっちも今確認しました。一分ほどで現地に到着します」
  
○ マンション・501号室
  扉の前に立つ麻衣子。インターホンを何度も鳴らすが、物音は、聞こえない。
  麻衣子、周囲を見回すと、ズボンのポケットから電子キーを取り出し、ドアノブに差し込む。
  電子キーについているロック解除の緑のランプが点く。

○ 501号室・事務所内
  辺りを見回す麻衣子。
  壁際に積まれたアルミケースを不審気に見つめている。
  デスクに近寄る麻衣子。たくさん積まれた書類を見回す。
  何かの部品の製図のようなものを目にする麻衣子。
  机の引き出しを開ける。
  B5判の封筒が無造作に入っている。
  麻衣子、それを取り出し、中のものを引き出す。
  数十枚の写真が出てくる。麻衣子、写真を見つめ、驚愕する。
  全て、麻衣子の写真である。
  背後で物音がし、ハッと振り返る麻衣子。四堂が立っている。
四堂「君は、刑事よりも空き巣のほうが向いてるんじゃないか?」
麻衣子「(写真を四堂の前に差し出し)説明してください、四堂さん」
四堂「それは、僕のセリフだ。なぜ君がここにいる?」
麻衣子「あなた、本当に四堂さんなの?」
四堂「何を疑ってるの?」
麻衣子「優しすぎるんです・・・変に・・・」
四堂「(失笑し)僕は、フェミニストなんだよ」
麻衣子「今時、そんなこと言う人、信じられません・・・」
四堂「その口振りだと、初めから僕が君の事を狙っていたように聞こえるけど・・・」
麻衣子「そうじゃないんですか?」
四堂「・・・そうだよ。それは、君を襲ったバイクの男が持っていたものだ」
  麻衣子、愕然とし、
麻衣子「・・・グルだったの、高島と?」
四堂「さすが、すでに奴のことを調べてたのか。でも、どうやって?」
麻衣子「高島は、今日の昼間、殺されたの」
四堂「そりゃあ、気の毒に・・・いや、自業自得かな」
麻衣子「もしかして、あなたが?・・・」
四堂「彼は、以前スピード違反の取り締まりを受けた時、ある交通課の女警官に
 一目惚れしてしまったらしいんだ。君の事だよ」
麻衣子「私?」
四堂「どうしても、君と出会うきっかけを作って欲しいと言うから、僕は、
 彼に力を貸してあげたんだ。そこで初めて知った。君の事を・・・」
麻衣子「あなた・・・何者なの?」
  四堂、内ポケットからベレッタを取り出し、麻衣子の左股、右股を順に撃ち抜く。
  麻衣子の両股から血飛沫が上がる。
  床に倒れる麻衣子。
四堂「君が来てくれたおかげでかなり手間が省けそうだ」
  苦痛の表情を浮かべながら、四堂を睨み付けている。
麻衣子「・・・昨日は、助けてくれたのに・・・今日は、見殺しにする気?」
  四堂、しゃがみこみ、麻衣子を凝視し、
四堂「君が悪いんだよ。人の部屋に勝手に上がり込むから・・・」
麻衣子「多川さんの家には、何しに言ってたの?」
  四堂、表情を強ばらせ、
四堂「なぜ、知ってる?」
麻衣子「あのアパートから出てくるの見たの。あそこの子供、母親から虐待を受けてるの。
 だから、母親と相談しようと思ってあそこに・・・」
四堂「(失笑し)警視庁の刑事が、なぜ、そんなことを?」
麻衣子「悪い?」
四堂「いいや。でも、あそこの母親とは、もう二度と会えないかも・・・」
麻衣子「どうして?」
  麻衣子、必死に痛みを堪えている。
  四堂、麻衣子のバックの中に手を入れ、携帯を取り出すと、麻衣子の前に放り投げる。
四堂「さっ、本題に入ろうか・・・」
 
○ パチンコ屋
  騒然とする店内を歩き回る刑事達。

○ とあるマンション
  各階の通路を歩き回る刑事達。
  ある部屋の住人に聞き込みをしている刑事もいる。

○ 商店街通り
  人混みの中を数人の警官達が歩き回る。
  酒屋の前で店主に聞き込みをしている刑事達。

○ 国道
  サイレンを鳴らしながら駅前にやってくるブルーバード。脇道に停車する。
  幸田、島、車から降り、商店街通りに向かって駆けて行く。
  途中、島の携帯の着メロが鳴り響く。
  島、立ち止まり、携帯を取り出すと、ディスプレイに映る電話番号を見つめ、
島「(舌打ち)麻衣子かよ!」
  島、携帯の電源を切る。

○ マンション501号室・事務所内
  デスクにもたれている麻衣子。
  苦痛に耐えながら、左耳に携帯をあてがう。四堂、麻衣子のそばでしゃがみこみ、
  麻衣子の右の蟀谷に銃口を当てている。
  麻衣子、もう一度、番号を表示させ、通話ボタンを押す。 
麻衣子「島さん、お願い・・・」

○ 商店街通り
  雑踏の中を潜り抜け、とぼとぼと歩いている梨琉。
  梨琉、ふと正面を見つめる。
  2人の警官が梨琉の方に近づいてくる。
  梨琉、立ち止まり、呆然としている。
  警官達、まだ梨琉の姿に気づいていない。
  梨琉、放心状態でジッと立ったまま。
  近づく警官達。
  暫くして、梨琉の右手を何者かが掴む。
  梨琉、強引に引っ張られて行く。
  警官達、辺りを見回しながら、歩き去って行く。

○ クラウン・車内
  後部席に連れ込まれる梨琉。
  運転席に乗り込む黒人の男のサングラスがバックミラーに映る。
  助手席に座る女の姿。金髪、黒いスーツを身に付けている。
  梨琉、呆然と座り込んでいる。
女「どう、すっきりした?」
  女、梨琉の方に振り向く。女は、相沢章子である。
  梨琉、漫然と章子を見つめている。
梨琉「次は、何すればいいの?」
  章子、正面を向き、
章子「やることは、いくらでもあるわ・・・」

○ 駅前の国道を猛スピードで走り去って行くシルバーのクラウン

○ 商店街通り
  雑踏の合間を駆け抜けている末沢。
  ある地点で幸田、島と合流する。
末沢「駄目です。見つかりません」
島「沿線の警備網にもまだ引っかかっていないようです。いったい、どこに・・・」
幸田「(溜め息をつき)車に戻るぞ」
  幸田、通りを抜け、国道に続く狭路を駆けて行く。末沢、その後を追う。
  島、走り出そうとするが、ふと、携帯を取り出し、
  電源を入れると、また、幸田達の後を追い走り始める。
  と、突然、着メロが鳴り響く。島、立ち止まり、携帯を持つ。ディスプレイには、
  麻衣子の携帯番号が表示されている。

○ マンション501号室・事務所
  白い顔をしている麻衣子。額から汗を噴き出しながら、苦しい表情を浮かべている。
  携帯の受話口から、島の声が聞こえる。
島の声「どうした?」
麻衣子「(力ない笑みを浮かべ)・・・朝のこと、根に持ってるかと思った・・・」
島の声「何?」
麻衣子「今から言う住所にあるマンションの501号室に来てください・・・」

○商店街の片隅に歩み寄り、携帯で話している島
島「はぁ?なんで俺が?」

○マンション501号室・事務所
麻衣子「・・・わかりました?」
島の声「足立区って、お前、何でそんなところにいるんだよ?」
麻衣子「私・・・島さんのこと、好きです・・・」
  麻衣子、フーっと意識を失い、携帯を落とし、床に倒れ込む。
島の声「おい・・・もしもし・・・」
  四堂、麻衣子の携帯を拾い上げ、電源を切る。

○ 商店街通り
  島、唖然としながら、麻衣子の携帯番号を呼び出し、電話をかけるが、つながらない。
島「あいつ、なめてんのか?」

○ ブルーバード車内
  助手席に乗り込む島。
  幸田、憮然とした表情で島を見つめ、
幸田「何、ちんたらしてんだ」
  幸田、アクセルを踏み込み、車を発進させる。
島「すいません。麻衣子から連絡があって・・・」
幸田「やっぱり、おまえらつきあってるのか?」
島「違いますって」
幸田「じゃあ、なんであいつがおまえの携帯に連絡してくるんだ?」
島「それが、なんか今にも死にそうな声出して、俺に・・・」
  島、神妙な面持ちになり・・・

○ マンション501号室・事務所
  横に向いて倒れている麻衣子。
  意識朦朧としながらうっすらと目を開けている。
   ×  ×  ×
  麻衣子の目線。
  四堂、部屋の中央にアルミケースを置き、
  中からマシンガン、手榴弾、ライフルなど、次々と武器を外に出し、
  スポーツバックに詰め込んでいるのが見える。
  四堂の背後から女と黒人の男の足元が見える。
  女と四堂の会話が微かに聞こえている。
女の声「どうして、私があげた金属球を使わずに捨てたの?」
四堂の声「僕には、必要ないって言ったでしょ?」
女の声「それで、あの女が餌代わり?」
四堂の声「そうです・・・」
女の声「そんな大仕掛けしないで、直接狙えばいいじゃない。
 良い腕を持ってるくせに、勿体振らないで・・・」
四堂の声「それじゃあ、つまらないでしょ?チャンスは、活かさないと意味がない」
   ×  ×  ×
  麻衣子、女の顔を見つめる。
  女は、相沢章子である。
  愕然とする麻衣子。
  章子、麻衣子と目を合わす。
章子「(笑みを浮かべ)・・・お目覚めよ。いいの?」
  振り返る四堂。
四堂「心配しなくても、もうすぐ迎えが来るよ・・・」
  四堂、笑みを浮かながら、麻衣子の口元にクロロホルムつきのハンカチを
  押さえつける。

○ マンション前(夜)
  立ち止まるブルーバード。
  
○ ブルーバード車内
  運転席に座る幸田。
島「ちょっと行ってきます」
幸田「ああ」
  島、車から降りる。

○ マンション前
  島、中に向かって走り出す。

○ 同・5F
  エレベータが開き、島が現れる。
  島、エレベータを降り、通路を歩いて行く。
  突き当たりにある501号室の扉の前で立ち止まる。
  ドアノブを回す島。扉が開く。
  
○ 501号室・事務所
  島、デスクの前で倒れている麻衣子を発見する。
  麻衣子の足元の血溜まりを見て、吃驚する島。
  島、急いで麻衣子に近づき、麻衣子の体を起き上がらせる。
島「おい、しっかりしろ(麻衣子の頬叩き)おい!」
  麻衣子、目を瞑ったまま微動だにしない。
  島、麻衣子を背負い、立ち上がると、部屋を出て行く。

○ 同・前
  扉が開く。中から麻衣子を負ぶった島が出てくる。
  島、正面を見つめ、険しい表情を浮かべる。
  島の数メートル先に立っている四堂。不適な笑みを浮かべている。
  四堂、右手に持っていた手榴弾のピンを抜き、放り投げる。
  島、慌てて、引き返し、部屋の中に入り込む。
  大きな破裂音と共にオレンジ色の爆炎が通路に燃え広がる。

○ 爆音を聞き、慌てて車から降りる幸田
  顔を上げ、マンションを見つめる。
  5Fから巨大な白い煙が吹き上がっている。

○ 雑居ビル5F・通路
  白い煙が舞い上がっている。
  501号室の扉が見事に吹き飛ばされなくなっている。
  扉口に姿を現わす島。煙を吸い咽ている。
  島の目の前に漂っていた白い煙がじんわりと晴れていく。
  島、手前に見える通路を見て、驚愕する。
  通路の床のコンクリートが7mに渡って破壊され、大きな穴が開いている。
  その向こう側に四堂が立っているのが見える。
  島、四堂を睨み付け、
  四堂、笑みを浮かべ、
四堂「いつまでも正義づらぶら下げてんじゃないぞ、島!」
  島、怪訝に四堂の顔を見つめ、
島「おまえ、四堂じゃねぇな・・・」
四堂「俺が誰なのか、そこでじっくり考えろ。と言ってもあんまり
 ゆっくり考えてると、死ぬぞ」
島「どういう意味だ?」
四堂「時限式の爆弾装置を2つ、その部屋にセットしてる。(腕時計を見つめ)
 7時ジャストにその部屋は、跡形もなく消える」
島「周りの住民のことも考えろよな!」
四堂「どうせ、このビルは、来月には、取り壊される。後十五分しかないぞ。
 さっさと葉山刑事を助けてやらないと、おまえ、また人殺しになっちまうぞ」
  島の胸に、四堂の言葉が突き刺さる。
  四堂、そのまま立ち去って行く。
  島、スーツの中からガバメントを引き抜き、両手で構え、四堂の背中に向ける。
島「止まれ!」
  四堂、足を止め、振り返り、島を見ている。
四堂「俺も殺すのか?オヤジのように・・・」
  愕然とする島。
  四堂、颯爽とその場を立ち去り、非常口の階段を降りて行く。
  島、銃を降ろし、茫然自失。
  エレベータから幸田が降りてくる。
  幸田、惨状を見つめ、愕然とし、
幸田「島、大丈夫か?」
島「・・・はい。麻衣子も無事です」
幸田「応援を呼ぶ。待ってろ」
  島、徐々に我に返り、
島「早くしてください。部屋に爆弾があるんです。後十五分でばくは・・・」
  その瞬間、幸田の右側にある非常口から、大きな爆音が鳴り響く。
  幸田、爆風の衝撃で吹き飛ばされ、白い粉塵と煙を激しく浴びている。

○ 雑居ビルの5Fから6Fにかけての階段が破壊され、崩れ落ちている

○ 雑居ビル5F・通路
  島、吃驚し、
島「幸田さん!」
  暫くして、煙が晴れ、床に倒れている幸田の姿が露になる。
  幸田、全身粉塵まみれになりながら立ち上がり、
幸田「(発狂し)クソ!」
  幸田、よろめきながら、エレベータに乗り込む。

○ 501号室・玄関口
  床で横たわっている麻衣子の両足の根元に引き契ったシャツを縛り付ける島。
  麻衣子、微動だにしない。
  島、麻衣子の腕の脈を調べている。
  島、額に汗を浮かべながら、激しい動揺と焦りの表情を滲ませている。

                                                  −キル・パズル・完−

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