『555 ダッシュバード 危特科捜班』第四回「救いの殺し屋」byガース『ガースのお部屋』

○ マンション501号室・事務所内(夜)
  デスクに山積みになって置かれていた書類や雑誌をおもいきり
  腕で振り落とす島 健司(29)。
  デスクの右隣の白い壁の前で横になっている葉山麻衣子(26)。
  目を瞑ったまま微動だにしない。
  デスクの下に潜り込む島。辺りを必死に見回すが、何もない。
  島、立ち上がり、クローゼットの扉を開け、中を覗き込む。
  下を向く島。黒い旅行用のスーツケースが置かれているのに気づく。
  島、しゃがみこみ、額から出る汗を右手で拭うと、ケースのロックを解除し、
  ゆっくりとケースを開く。
  島、中を見つめ、驚愕する。
  ケースの中にTNT爆弾が入っている。
  タイマーは、『12:25』を表示し、一刻一刻と進んでいる。
  島、スーツケースを持ち上げようとするが、引っ張っても持ち上がらない。
  ケースの中にあるボルトで床と密着し、固定されているのに気づく島。
島「もう一つは、どこだ?」
  島、辺りを見渡している。

○ マンション前
  空の彼方から激しく鳴り響くサイレン音。
  慌ただしく野次馬が集まり始めている。
  マンションの向かい側の脇道に止まるブルーバードの後ろに止まるMR2。
  MR2の運転席のドアが開き、末沢 裕太(28)が現れる。
  ブルーバードから降りてくる幸田 智(35)。全身粉塵まみれになっている。
  末沢、驚いた様子で、
末沢「大丈夫ですか、幸田さん」
幸田「ああ、(島達のいる部屋の方を見つめ)さっさとあいつらを連れ出さないと・・・」
末沢「梯子車、まだ到着しないんですか?」
幸田「そろそろ来るはずだ」
  ブルーバードの車内からアラーム音が鳴り響く。
  幸田、運転席に乗り込み、無線機を掴む。
幸田「どうした?」
男の声「消防隊が、そちらに向かっている途中に民家で爆弾騒ぎに遭遇して、
 現在そっちの消化作業に当たっているそうです」
幸田「他の署からの応援は?」
男の声「手配済みですが、まだしばらく時間がかかります・・・」
  幸田、車の時計を見つめる。
  針は、6時51分を差している。
  幸田、車を降り、目の前にいた末沢に話しかける。
幸田「土下のオヤジは?今日は、非番なのか? 」
末沢「いや、今医療チームを乗せた巡回パトロール訓練中で近くを飛んでいるはずです」
  幸田、サッと車に乗り込み、無線機に話しかける。
幸田「こちら『02』、航空部回線『203』に繋いでくれ」

○ マンション501号室
  窓の外を覗く島。
  下で何十人も集まっている野次馬の向こうに止まっているブルーバードを見つめる。
麻衣子の声「島さん・・・」
  島、ハッと振り返り、麻衣子の方を見つめる。
  麻衣子、うっすらと目を開け、島の方を見ている。
  島、麻衣子のそばに近づき、起き上がらせる。
  麻衣子、呆然としながら、
麻衣子「なんか・・・体中の血がどんどん引いていくみたいで、だるい・・・」
島「喋らずに、ジッとしてろ」
麻衣子「早く病院に連れてってください」
島「そうしてやりたいのは、山々なんだけどな。こっから出るに出れない状況なんだ」
麻衣子「えっ?」
島「外に出りゃあ、すぐにわかるけど、その足じゃ、見るのは、無理だな」
麻衣子「島さん・・・あれ、本心じゃないですからね」
島「何のことだよ?」
麻衣子「ああ言ったら、すぐにかけつけてくれると思って、咄嗟に出た言葉ですから」
  島、携帯での会話の事を思い出し、
島「小学生じゃあるまいし、あんなのいちいち真に受けるかよ」
麻衣子「(笑みを浮かべ)島さんならそう言うだろうと思ってた」
  島、複雑な表情を浮かべ、
島「おまえ、俺のこと嘗めてんだろ?」
麻衣子「(笑みを浮かべ)ちょっとだけ・・・」
  島、麻衣子を睨み付けるが、しだいに笑みを浮かべる。
  麻衣子、思いつめた表情をし、
麻衣子「・・・高島殺した犯人、四堂です」
島「あいつが?」
麻衣子「高島、私をストーキングしてたらしいんです。四堂は、高島を利用して、
 私を襲わせたんです・・・」
島「じゃあ、なんでおまえを助けたりしたんだ?」
麻衣子「私・・・見たんです。四堂が相沢章子とこの部屋で喋っていたのを・・・」
島「あいつが相沢と?」
麻衣子「私達、奴らのターゲットにされてるみたいです・・・」
  暫くして、ヘリの羽音が鳴り始め、少しずつ近づいてくる。
  島の表情が強ばる。島、咄嗟に両耳を両手で塞ぐ。
  麻衣子、怪訝に島を見つめる。
  島の携帯が鳴る。
麻衣子「島さん、携帯鳴ってます・・・」
  島、麻衣子の顔を見つめ、咄嗟にスーツのポケットから携帯を取り出し、耳に当てる。
幸田の声「島、もうすぐそこに土下のオヤジのヘリが来る」
  島、愕然とし、
島「・・・どう言うことなんですか?」
幸田の声「時間までに梯子車が間に合いそうにないんだ」
島「車の中で話したじゃないですか・・・ダメですよ、俺・・・」
幸田の声「ずべこべ言ってる暇はない。ヘリの縄梯子で、そこから出ろ」
島「葉山は、両足を怪我してるんですよ」
幸田の声「俺もそっちに行く」
島「無理です・・・自信ありません・・・」
幸田の声「あの時の二の舞を踏む気か?島」
  島、麻衣子を見つめる。
  麻衣子の顔に島の航空部のヘリ・パイロット・笹島 重樹(43)の顔が映る。

○ マンション前
  ブルーバードの前で携帯に話しかけている幸田。
幸田「おまえの取れる道は、2つしかない。命を捨てるか、トラウマを克服するかだ」

○ マンション501号室・事務所内
  耳から携帯を離し、呆然とする島。
  咄嗟に立ち上がり、洗面所のほうに駆けて行く。
  島の吐き声が麻衣子の方にまで届く。
  麻衣子、心配そうに島を見つめ、
   ×  ×  ×
  洗面所。洗面台に顔を突っ込み、嘔吐している島。
麻衣子の声「島さん、大丈夫ですか?」
  島、顔を上げ、息を凝らしていると、漫然と足元のほうを見つめる。
  黒いボックスが置かれているのに気づく島、しゃがみこみ、恐る恐る
  ボックスの蓋を開ける。
  TNT爆弾が現れ、タイマーが『6:05』の数字を表示している。
  島、真っ青な顔をする。
   ×  ×  ×
  ヘリの羽音がどんどん近づいてくる。
  島、身震いし、激しく動揺している。
  麻衣子、済ました表情で島を見つめ、
麻衣子「無理しないでください、島さん」
島「えっ?」
麻衣子「ダメなんでしょ?ヘリ・・・」
島「・・・なんでおまえ、知ってるんだ?」
麻衣子「四堂から聞いたんです。ヘリのことは、嘘じゃなかったんですね・・・」
島「あいつは、四堂じゃない。ただの殺し屋だ・・・」
麻衣子「・・・」

○ マンションの上空を飛び回る230ヘリ
  ホバリングの状態でゆっくりと駐車場のほうに降りてくる。
  警官達が野次馬の整理に辺り、道を作り、そこを幸田と末沢が走って行く。

○ 230ヘリ・キャビン
  後部席に乗り込む幸田と末沢。
  コクピットに座る土下(はした)仁(40) 。
  幸田達のほうを見つめる。
幸田「ハシさん頼むぜ」
土下「おぅ、了解」

○ 宙に浮かび上がる230ヘリ
  幸田、梯子に掴まり、同じく宙に浮かび始める。
  ヘリ、上空に上がると、できるだけマンションのそばに近づいて行く。

○ マンション501号室・ベランダ
  縄梯子を掴んだ幸田がゆっくりと近づいてくる。
  幸田、ベランダに降り、扉を開け、中に入り込んで行く。

○ 同・事務所内
  幸田が駆け込んでくる。
  麻衣子のそばに駆け寄る幸田。
  幸田、麻衣子を背負い、ベランダのほうに足を進めるが、
  途中で立ち止まり、踵を返す。
  壁際で背中を向けてしゃがみこみ、両耳を両手で塞いでいる
  島の姿を見つめる幸田。
幸田「島!」
  島、身震いして動こうとしない。
  幸田、島に近寄り、足で島の背中を蹴る。
  床に倒れ込む島。サッと立ち上がり、幸田を見つめる。
幸田「さっさとしろ!死ぬぞ」
  幸田、そそくさとベランダのほうに向かって駆けて行く。
  島、両耳を両手で押さえたまま、苦渋の面持ちでベランダのほうに歩いて行く。
  タイマー残り『3:04』。

○ 同・ベランダ
  麻衣子を背負ったまま縄梯子に掴まる幸田。
  幸田、顔を見上げ、ヘリから顔を出している末沢に下に降りるよう合図を送る。

○ 地上に降りて行く230ヘリ
  幸田、地面に着地するとそのまま、数メートル先に止まっている救急車に向かって
  走り出す。
  麻衣子、担架に乗せられ、救急車に担ぎ込まれて行く。

○ マンション・ベランダ
  両耳を両手で塞ぎながら下の様子を見回す島。
  目の前に浮かんでいるヘリを見つめ、驚愕する。やがて、息が荒くなり、
  その場にしゃがみ、塞ぎ込む。
  ベランダの前に縄梯子が近づいてくる。

○ 230ヘリ・キャビン
  後部席から体を外に出し、声を上げる末沢。
末沢「島さん、早く!」

○ マンション・ベランダ
  柵にもたれて、呻き声を上げている島。
  両耳を両手で必死に押さえつけ、震えている。

○ 駐車場
  島のいるベランダを険しい目つきで見ている幸田。
  幸田、腕時計を見つめる。『6時59分』を差している。

○ マンション・ベランダ
  島、息を飲み、ゆっくりと立ち上がると、右手で縄梯子を掴む。
  ふと頭上を見つめ、ヘリの機体を目にし、立ち暗みする島。
  しかし、目を瞑り、息を激しく吐きながら両手で梯子に掴まる。
  その瞬間、ヘリ、勢い良くマンションのそばを離れて行く。
  暫くして、大きな爆音と共に、真赤な巨大な炎が501号室の部屋から勢い良く
  飛び出してくる。炎が梯子を掴む島のそばまで広がってくる。
  島、大きな叫び声を上げて、ヘリの音を掻き消そうとしている。

○ 駐車場
  空に上がる巨大な炎を見つめ、騒然とする野次馬。
  ビルの5階より上の部屋のコンクリートがなだれるように地上に崩れ落ちていく。
  幸田、険しい表情で空を見上げている。
  ヘリ、マンションから数百メートル離れた上空を旋回している。
  島、必死の形相で縄梯子を掴んでいる。
  大きな喚き声を上げながら、ヘリと共に振られている。
   ×  ×  ×
  ビル前に群がる野次馬の背後から数メートル離れた脇道に止まっている白いマークU。

○ マークU車内
  運転席に四堂 豹摩(29)、助手席に相沢 章子(33)が座っている。
四堂「あなたの元彼、なかなかやりますね」
章子「せっかくの大仕掛けが台無しになったわね」
四堂「(失笑し)彼を先に殺るべきだったかな・・・」
章子「幸田は、私が殺るの」
四堂「本気で言ってるんですか?」
  章子、不敵な笑みを浮かべ、四堂を見つめる。
  四堂、ほくそ笑み、アクセルを踏み込む。

○ 急発進して走り去って行くマークU 

○ 麻衣子の幻想
  病室・朝。
  ベットで眠る麻衣子。
  窓から太陽の光が麻衣子の顔に差し込む。
  麻衣子、暫くして、目を開ける。眩しさに耐え切れず、右手で光を遮る。
  右手を降ろした瞬間、目の前に黒いスーツを着た四堂が立っているのが見える。
  驚愕し、目を大きく見開く麻衣子。
  笑みを浮かべる四堂。四堂の背後に巨大な黒い獅子の影が広がり始める。
麻衣子「あなたが獅子なの?」
  四堂、突然、左手に持っていたベレッタを麻衣子の目の前に向け、引き金を引く。
  轟く銃声。

○ 病院(翌朝)
  ベットで眠る麻衣子。ハッと目を開ける。
  興奮気味に執拗に辺りを見回す麻衣子。
  窓から入る光をジッと見つめている。
  呆然としながら、冷静さを取り戻す。
  暫くして、ベッドの前に末沢がやってくる。
  麻衣子、末沢の顔を見て、安堵の表情。
麻衣子「末沢さん」
末沢「今さっき、担当医に会った。三日もすれば歩けるようになるってさ」
麻衣子「・・・すいません」
末沢「恐くなったか?」
麻衣子「いいえ・・・」
末沢「中途半端な気持ちを抱えるくらいなら、いっそのこと辞めたほうがいいぞ。
 今度こそ命取りになる」
麻衣子「・・・」
末沢「・・・とか言いながら、実は、俺もつい最近まで危特を辞めようと思ってたんだ」
麻衣子「末沢さんが?どうして?」
末沢「お前と比べたら、くだらない理由さ」
  麻衣子、天井を向き、考え込んでいる。
麻衣子「島さんは?」
末沢「オフィスにいるよ。お前、何か知ってるか?」
麻衣子「えっ?」
末沢「島さんのことだよ。なんであんなにヘリに乗るの、躊躇ってたんだろう?・・・」
麻衣子「・・・末沢さん、お願いがあるんですけど」
末沢「何?」
麻衣子「チョコウエハース、買ってきてくれませんか?あ、できればプチの奴が
 欲しいんですけど・・・」
末沢「・・・」

○ 警視庁地下5F/危機管理特命科学捜査班・オフィス
  島、デスクに座り、呆然と俯いている。
  右手に持つ煙草の先の灰が長く伸びている。
  暫くして、入口の自動ドアが開き、特命班部長・小神 洋介(48)が現れる。
  小神、島のデスクの前で立ち止まり、
小神「島!」
  島、ふと我に返り、慌てて煙草を揉み消し、小神を見つめる。
島「あ、はい・・・」
  小神、部長オフィスの方を指差し、
  島、立ち上がり、小神の後をついていく。

○ 同・部長オフィス
  デスクにつく小神。小神と対峙して立っている島。
小神「昨日の爆破騒ぎで使われた爆弾、北洋化学工業のビル爆破事件で使われたものと
 同じだったらしいな」
島「はい。火薬量は、破壊の規模から察して、5キロほど」
小神「たかだか、5キロでビルの4分の1を削り取るとわな」
島「軍事関係者のリストを探ってみましたが、駄目でした」
小神「重要犯リストのほうは?」
島「そちらのほうも・・・」
小神「本当の四堂豹摩には、連絡は、取れたのか?」
島「妹さんの話では、2ヵ月ほど前に仕事を探しに行くとかで、東京近辺に
 向かったらしいんですが、消息不明です・・・」
小神「その男のバックに相沢がついてるとなると、やはり、私達の組織に対する
 報復としか考えられんな」
  小神、島に紙を手渡し、
  島、思いつめた表情をする。
小神「知り合いの精神科医が今度独立して、精神治療の診療所を開設したんだ。
 良かったら、そこのカウンセリングを受けてみたらどうだ?」
  島、ジッと紙を見つめている。
  小神のデスクの電話が鳴る。
島「お気遣いは、ありがたいんですけど、俺、こういうの余り・・・」
小神「気遣いじゃない。仕事に影響が出ると困るんでな」
島「・・・」
  受話器を取る小神。
  島、小神に一礼すると、その場を立ち去って行く。
小神「ちょっと待て、島!」
  振り返る島。
小神「お前らが追ってる少女の名前がわかった。佐伯梨琉十六歳。半年前、
 宮城にある実家から家出して、家族から捜索願いが出されてる。五反田の
 アパートに一カ月ほど前まで住んでいたようだ。これから8チームがそっちに向かう。
 合流してくれ」
島「わかりました」
  
○ 日向邸
  玄関先に黒いセンチュリーが立ち止まる。
  その後に黒いクラウンが3台立て続けに止まる。
  黒スーツを身に付けた男達が一斉に車から降りてくる。
   ×  ×  ×
  日向邸の真向かいの住宅の塀の片隅に隠れている女。
  タイトなベージュのスーツとショート・カットの髪型。
  女の後ろには、黒い帽子を被った男の姿が見える。
  二人、ジッと男達の方を見つめている。
   ×  ×  ×
  遠くからエンジン音が鳴り響き、ブルーバードが勢い良く日向邸の方に向かって
  走ってくる。
  センチュリーの前に対峙して止まるブルーバード。
  運転席から幸田、助手席から末沢が降りてくる。
   ×  ×  ×
  日向邸の玄関に向かう幸田達を見つめている女。

○ 日向邸・応接室
  天窓から光が差し込み、白い壁の質素な空間に光が広がっている。
  真中にあるテーブルのソファに幸田、末沢が並んで腰掛けている。
  二人の対面するソファに衆院議員・日向 政道(58)が座っている。
  日向、頭頂部が禿げ上がっている。
幸田「一週間前から続いている爆弾事件のことをご存じですか?」
日向「ああ、最近そういう事件が多いそうだな」
幸田「この事件に絡んでいる大がかりな地下組織が、バクテリアの入った
 金属球を都内にばらまいている事がわかったんです」
日向「その金属球と言うのは、どれぐらい出回っているのかね?」
末沢「この一週間の押収量は、200球程。外に出回っているのは、その3倍以上と
 見られています・・・」
  日向、煙草を加え、火をつける。
日向「そりゃあ、深刻な問題だ。しかし、まだ表沙汰には、なってないんだろ?」
幸田「明日にでも公表するつもりです。実は、昨日、高校生がその犠牲者になって
 しまったんです。このまま、ほっとけば、そのうち第2、第3の犠牲者が出るのは、
 確実です」
  日向、深い溜め息を吐く。
幸田「実は、爆弾事件の被害者の笹川氏が経営していた四星興産が、
 ある国家機密プロジェクトの参加企業に名を連ねていたんです。
 笹川氏の事は、ご存じですよね?」
日向「笹川か。大学時代の後輩だった。高度経済成長の真っ只中に、二人で医療会社を
 設立し、数年間、共に会社を盛り立てた」
末沢「わずか6年で、四星を急成長させたあなたは、その後、会社を離れて、選挙に
 立候補した」
  日向、突然、険しい目つきになり、
日向「率直に聞こう。何が知りたいんだ?」
幸田「東南アジア開発事業の第一人者である官房長官の春江川氏は、金属球の事件に
 関わっている可能性があります」
末沢「そして、秘密裏にある新型兵器の開発にも携わっているんです」
日向「・・・」
幸田「国家機密プロジェクトの参加企業には、明日にも極秘裏に強制捜査が入ります。
 参考人として、あなたにも事情を窺いたいんです」
  日向、済ました顔で、
日向「短く済ましてくれよ。昼からの予算委員会に出席しなければならないんでな」
  幸田、神妙な面持ち。

○ 日向邸前
  白いクラウンが玄関前に立ち止まる。
  玄関から日向とその両脇に幸田、末沢が並んで表に出てくる。
  その背後に黒スーツの男達が険しい表情で歩いている。
  クラウンからスーツを着た男達が3人現れ、日向を待ち構えている。
  幸田、車の前に立っている一人の男に話しかける。末沢と他の二人は、
  日向を取り囲む。
  末沢、車のドアを開け、
末沢「どうぞ」
  日向、溜め息をつきながら車に乗り込む。
   ×  ×  ×
幸田「交渉役は、お前らの専売特許だろ?」
  紺のスーツを着た男・危特科捜班第8チーム・佐田一樹(34)。
佐田「すまん。実は、春江川の関係筋を張らせていたうちのチームの一人が、
 うちの捜査状況を向こうに流していたらしい」
幸田「ミイラ取りがミイラに・・・って奴か。特殊セクションも形無しだな」
佐田「(溜め息を吐き)スパイにもスパイがついているってことさ。
 部長が責任を取って解任された」
  佐田、日向を睨み付け、
佐田「春江川派のナンバー3、日向を丸め込んで、なんとしてもメタルボール
 コネクションの確たる証拠を掴まないと・・・」
幸田「そう簡単に行くかな。なんだか気味が悪い」
佐田「どういうことだ?」
幸田「日向が俺達の事情聴取に素直に応じたことさ・・・」
佐田「地検が複数企業への闇献金疑惑で来週にも日向を引っ張る準備を進めていたらしい。
 そのほうが俺達にとっても何かと都合が良かったんだがな・・・」
幸田「政界の重鎮達の馴れ合い利権政治を封じ込める絶好のタイミングってわけだ。
 確かにこのまま奴らを野ざらしにしとけば、国民は、干上がっちまう」
佐田「じゃあ、また後でな」
  佐田、クラウンの助手席に乗り込む。
  幸田、車の中を覗き込む。
  後部席に日向が男達に囲まれ座っている。日向、憮然とした表情。
  幸田、顔を上げ、漫然と辺りを見回す。
  幸田、突然、目つきを変える。
幸田「末沢!」
  末沢、幸田のそばに近づき、
幸田「(顎で正面の方向を指し)あれ」
  末沢、幸田が指示した方向を見つめる。
  ベージュのスーツの女と皮ジャンを着た男がこちらを見ている。
  男、クラウンにカメラを向け、シャッターを切り続けている。

○ カメラのファインダー画面
  激しく光るフラッシュ。
  クラウン、急発進し、その場を走り去って行く。
  突然、左側から末沢がフレーム・インし、カメラに手を伸ばす。

○ 男のカメラを取り上げる末沢
  男、末沢からカメラを取り返そうと、手を伸ばす。末沢、男の手を躱す。
末沢「これは、一時没収する。後で警視庁のほうに取りに来て」
  女、末沢の前に立ち、
女「週刊宝洋の花井と言います。日向代議士は、なぜ連行されたんですか?
 詳しい事情を聞かせてください」
  女は、花井 綾奈(27)。
  末沢、黙ったままその場を立ち去って行く。
綾奈「ちょっと、待って!」
  ブルーバードの助手席側のドアに歩み寄って行く末沢。
  運転席には、すでに幸田が乗り込み、アイドリング状態で待機している。
  末沢、車のドアを開け、中に乗り込む。
  綾奈、車に近づいて行くが、それと同時に急発進して走り去って行くブルーバード。
  綾奈、悔し紛れに大声を上げ、
綾奈「あ〜もう!」
  男が綾奈に近づいて行く。
男「(ブルーバードを睨み付け)なんて奴らだ。絶対許せねぇよ」
綾奈「仕方ないわ。締め切りに間に合わない。さっさと戻りましょう」
  綾奈、悠然とその場を立ち去って行く。
  男も綾奈の後を追う。

○ アパート前
  古びた家々が立ち並ぶ通りの脇道に止まるMR2。
  その向こう側に島と危特科捜班8チームの江崎 晴彦(28)が立ち、大家の中年の
  女から事情を聞いている。
女「あの子が家出人だったなんて、ちょっと信じられないわね・・・」
島「どういう事です?」
女「もう一人、女の人と一緒に暮らしていたから、てっきり親子だと思っていたのに・・・」
島「その女の特徴は?」
女「美人だったわね。背もスラッとしてて、足も細いし、言わゆる才女タイプって
 人かしら・・・」
島「二人は、ずっと部屋の中に閉じ込もっていたんですか?」
女「三カ月ほどね。変だと思ってたのよ。制服着て学校に行っている姿を一度も見た
 ことなかったから。一度だけその子と喋った事があるんだけど、なんか近くの
 コンビニでアルバイトしているようなことは、言ってたわね」
島「・・・」
女「ああ、それから・・・その美人の女の人・・・いつもサングラスをつけてたわ」
  島、怪訝な表情を浮かべる。

○ 国道を疾走するMR2
  まばらに走る車の群の中を走っている。
  MR2の前バンパーの両サイドに設置されている小型カメラが左右に動き回っている。

○ MR2・車内
  運転席に座りハンドルを握っている江崎。助手席に島が座っている。
江崎「相沢章子ですか?」
島「・・・相沢が佐伯梨琉の面倒を見ていたなら、今度の事件の事も合点が行く」
江崎「優秀な技術者だったのにもったいない。その才能をうまく使えばノーベル賞も
 夢じゃなかったのにな・・・」
  スーツのポケットから煙草を出し、口に加え、火をつける島。
  コンソール中央に設置されているモニターを漫然と見つめている。
島「あれ?」
江崎「どうかしたんですか?」
  島、ボタンを押し、ビデオ画像を再生する。映像には、繁華街の通りを歩く小神
  と女子高生の姿が映っている。
  島、透かさず画面を切り替える。
島「何もない。あっ、次の駅前で降ろしてくれないかな?病院に行きたいんだ」
江崎「どこか悪いんですか?」
島「胃が痛くてさ・・・」
江崎「だったら先に煙草辞めたほうがいいですよ」
  島、苦笑し、
島「それもそうだな・・・」
  灰皿に煙草を擦り付ける島。

○ 繁華街・歩道
  俯き加減で歩いている小神。右隣に並んで歩く女子高生・小神 七緒(16)。
  七緒、悄然とした面持ち。
小神「いつまで学校さぼる気だ?」
七緒「だって、つまらないもん、あんなところ・・・」
小神「・・・必死に勉強して、入ったばっかりだろ?」
  七緒、憮然とする。
七緒「私、やめるかもしれない・・・」
  小神、溜め息を吐き、
小神「久しぶりに一緒に昼飯でも食うか」
  七緒、寡黙に俯いたまま。

○ 病院
  ベッドの上で座り、ウエハースを食べている麻衣子。
  部屋に多川 美菜(5)が走って中に入ってくる。
  麻衣子、唖然とし、
麻衣子「あれ?美菜ちゃん!」
  美菜、麻衣子の前に行き、ラムネを手渡す。
麻衣子「(笑みを浮かべ)ありがとう・・・」
  麻衣子、笑顔を浮かべ、美菜の頭を撫でている。
  暫くして、男が部屋の中に入ってくる。
  男、麻衣子に一礼する。
  麻衣子も男に一礼し、
麻衣子「・・どうしてここに私がいること、わかったんですか?」
男「今朝、男の人から連絡があったんです。刑事さんが美菜に会いたがってるから、
 見舞いに行ってやってくれって・・・」
麻衣子「・・・」

○ 墓地
  『笹島家』の墓石の前に立つ島。
  目を瞑り、合掌している。

○ 高級住宅街
  更地の前に佇む島。
  呆然と辺りを見回している。
  背後を通り過ぎた初老の中年女性に声をかける。
島「すいません」
女性「はい?」
島「前にここに建っていた家に住んでいた人は、どこに引っ越されたんですか?」
女性「ああ、笹島さんなら、もう・・・」
島「もう・・・って?」
女性「去年、奥さんがガンで亡くなられてね。子供もいなかったようだし、
 親戚筋の人が依頼して、先月家の解体をしたばかりなのよ」
島「息子さんは、いなかったんですか?」
女性「いいえ。6年前に亡くなられたご主人と二人だけで暮らしてたんですよ・・・」
島「・・・」

○ 繁華街
  俯き加減で歩いている島。悄然とした面持ち。
  雑踏の中を歩く黒いドレスの女。ボブカットに金髪の髪。サングラスをつけている。
  島の方に向かって、歩いている。
  島、前からやってくる女の顔をふと見つめる。女も一瞬、島を見つめる。
  島と女、互いに横切る。
  島、突然、立ち止まり、振り返る。
  雑踏の中を歩き去っていく女の背中を見つめる。

○ パチンコ屋前
  女、中に入って行く。
  後からやってくる島。中に入る。

○ 同・店内
  騒然とする店内。
  一列に並んだパチンコ台を埋め尽くす様に客達が座っている。
  あるCR機の前に座り、カードを差し込む女。
  上皿に玉が流れ、ハンドルを回す。
  液晶パネルをジッと見つめている女。
  島、女と反対側の列の一番端のパチンコ台の前に座り、女を見つめながら、
  カードを差し込んでいる。
  女の顔を探るように見つめている島。
  女、煙草に火をつけ、吸い始めている。
  島、それに釣られて、煙草を加え、火をつける。
  島のパチンコ台が突然、唸り始める。
  島、ハッと、台のほうを向く。
  液晶パネルの数字がリーチ状態。
  やがて、真中に「5」の数字が止まり、
  当たりが出る。
島「(舌打ちし)こういう時に限って当たるんだよな・・・」
  玉が上皿にどんどん溜まる。
島「しゃあない」
  島、立ち上がり、女のほうを向く。
  島、驚愕する。
  女の前に黒い皮ジャンを着て、サングラスをつけた四堂 豹摩が立っている。
  四堂、女と親しげに話している。
  すると、突然、四堂が島に気づき、ニヤッと笑みを浮かべる。
  四堂、そのまま、島のいる方と逆の方向に歩き去る。右側の通路を曲がる。
  島、外側の通路に向かって走り出し、周り込んで行く。
   ×  ×  ×
  外側通路。島、走って来ると、数メートル先に四堂が立っている。対峙し、
  目を合わしている二人。
  島、ゆっくりと四堂に近づいて行く。
  四堂、突然、皮ジャンの中からデトニクスの銃を取り出し、
  島に向けて2発、発砲する。島、咄嗟にしゃがみこみ、スーツの中からガバメントを
  取り出し、四堂に向ける。
  四堂、また発砲する。島のそばにあったパチンコ台が火花を散らし破裂する。
  島、立ち上がり、四堂に向け、引き金を引く。
  弾は、四堂のそばの壁に当たる。
  四堂、そのまま、真中の通路を走り去って行く。
  島も拳銃を構えながら、外側の通路を走り始める。
  客達が島の握っている拳銃に気づき、にわかに逃げ始める。
  パチンコ台の列を横切りながら走り続ける二人。四堂、ある列の通路で立ち止まり、
  島に向け、発砲する。
  島、すかさず、前のめりに倒れ込む。
  客達は、銃声に気づかずパチンコ台に向かったまま。
  四堂、そのまま、反対側の方向へ走り去って行く。
  島、立ち上がり、四堂の後を必死の表情で追い始める。

○ 裏通り
  辺りを見回しながら走る島。
  しかし、四堂の姿は、見つからない。
   ×  ×  ×
  ある交差点の前に佇む島。
  暫くして、猛スピードで白いマークUが島の前に向かってくる。
  助手席に座っている四堂が窓から右腕を出し、島に向けて拳銃を撃ち続けている。
  島、慌てて、大きく前転しながら、弾を避け、透かさず、しゃがんだ姿勢で交差点を
  通り過ぎたマークUのボディに銃を構え、引き金を三度引く。
  マークUのテールライトが破裂する。
  マークU、そのまま、走り去って行く。
  額に汗を浮かべながら激しく息をしている島。ハッと何かに気づき、
  銃をホルダーにしまいながら、パチンコ屋のほうに向かって走って行く。

○ パチンコ屋・店内
  女が座っていたパチンコ台の前にかけつける島。しかし、女の姿はなく、
  頭の剥げた中年の男がその台の前に座り、玉を打ち続けている。
  島、男に声をかける。
島「なぁ、さっきここに女が座ってただろ?」
男「あんた、島さんかい?」
島「(唖然とし)なんで、俺の名前を知ってる?」
  男、島にCR用のカードを手渡す。
  カードを見つめる島。小さな文字である住所が書かれている。
男「ここにいた女の人に頼まれたんだ。四堂さんに会いたいなら、一人で新宿の
 『ギャロティ』と言う喫茶店に来いって・・・」
島「・・・」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・取調室
  座席に座る日向。キリッと構えている。
  対面して座っている佐田をクールな眼差しで見つめている。

○ 同・監視ルーム
  ガラス越しに見える取調室の様子を覗いている幸田。
  幸田、憮然と日向を睨み付けている。

○ 同・取調室
  佐田の前に膨大な資料のファイルが置かれている。
  日向、資料を手に持ち、読んでいる。
日向「なるほどね、中々よく調べてある」
  日向、資料をデスクに置く。
日向「だが、春江川氏がそんなとてつもなく恐ろしいものを国内に持ち入れるなんて
 到底信じられん話だな・・・」
佐田「我々の調書がでっち上げだとでも言いたいんですか?」
日向「特殊セクションができたのは、いつの話だね?一年そこいらの秘密機関の情報を
 まともに信じられると思うかね?」
佐田「我々の存在を邪険に思うのは、勝手ですが、そんな言い訳は、通用しませんよ」
日向「この資料の中のレーザガン開発の経緯については、認めよう。だが、
 それを作ったからと言って何が悪い?」
佐田「民間の監視員に、なぜそんな強力な武器を持たせる必要があるんです?」
日向「君達は、丸腰で侵入者と戦えるのか?」
佐田「・・・」
日向「自分の身は、自分で守らなければならない。ごく当たり前のことだ。
 仮に侵入者が想定外の武器を携帯していたら、どうする?春江川氏は、それを見越して、
 護身用の小型で強力な武器を作り、監視員達の不安を和らげようとしているだけだ」
佐田「だからといって、公にできないものを、内密に作るのは、問題じゃないですかね?」
日向「いずれ、試作品は、政府部内のプロジェクトチームに公開するつもりでいる」
  部屋に幸田が入ってくる。
  日向、幸田を一瞥する。
  幸田、佐田に紙を手渡す。
  佐田、メモ書きの紙を見つめ、愕然とする。
佐田「(幸田を見つめ)なんだ、これ?」
  幸田、険しい表情で日向を見つめ、
幸田「日向さん、もうお帰りになって結構です」
  日向、スッと立ち上がり、憮然とした表情で入口の扉を開け、外に出て行く。
佐田「この事件から手を引くって、どういうことだ?」
幸田「長官命令だ」
佐田「捜査を命令したのは、長官なんだぜ。ある程度の証拠も握ってる」
幸田「その証拠が、いまいち信用性が乏しくなってきたんだ」
佐田「どういうことだ?」
幸田「春江川が雇っていたと見られた売人の証言そのものがでたらめだったと
 情報部が言ってきてる」
佐田「それこそ、でたらめだ。情報部に確認してみる」
幸田「・・・無駄だ」
佐田「どうして?」
幸田「情報部内にもスパイがいるかもしれない」
佐田「なんだと?」
幸田「日向が涼しい顔してここに来たのは、俺達の捜査状況を偵察したかったからだ・・・」
  佐田、悔し紛れに、ファイルをデスクに叩き付ける。

○ 同・部長オフィス
  デスクの前に警視庁長官・中坊信太郎(54)が小神と対峙して座っている。
  小神、憮然とした様子で、
小神「・・・こういう事は、あまり気に入りませんな」
中坊「誰だって、嫌な思いは、するもんだよ」
小神「・・・しかし、これでは、我々の存在価値が問われますよ」
中坊「このセクションも政府の要請があってこそ成り立つ事ができる」
小神「・・・我々の機関は、政府監視の任命権も得ているはずです」
中坊「あんなのは、あくまで名目上だ。いざと言う時は、すぐに閉鎖できるんだ」
小神「・・・」
中坊「私にだって、正義感は、ある。だが、立場上、それだけでは、乗り越えられない
 壁がいくつもあるんだ、ここは、一先ず、堪えてくれ」
小神「堪えれば、何か解決するんですか?」
中坊「・・・別の形でな」
  小神、神妙な面持ち。
中坊「ああ、娘のことだがな。やはり、あの子にここの仕事を任せるのは、無理だ。
 早死にさせるわけには、いかない・・・」
小神「彼女が望んだことですよ」
中坊「君なら、わかるだろ?私の気持ちが・・・」
  小神、憮然と中坊を見ている。

○ 同・オフィス
  入口のドアが開き、幸田が中に入ってくる。
  デスクに座り、写真を見ている末沢。幸田が末沢に近づく。
幸田「部長いるか?」
末沢「中で長官と会議中です」
幸田「島は?」
末沢「8チームと合流して、例の女の捜査に行ったらしいんですけど、途中で、抜けた
 らしいです」
幸田「抜けた?」
末沢「胃が痛いって言って病院に行ったそうです。部長も了解済みです」
  幸田、思いつめた表情をする。末沢の持っている写真を見つめ、
幸田「それは?」
末沢「日向の家の前にいた雑誌社のカメラマンが撮った写真ですけど・・・」
  幸田、末沢から写真を奪い取るように取り、一枚ずつ写真を見始める。
  暫くして、ある写真に見入る幸田。
  写真は、幸田邸に止まるセンチュリーが映り、その前で女子学生が地面に落ちた
  十円玉を拾い上げている。
  女子高生の顔は、長い髪に隠れて見えない。
  幸田、写真をまじまじと見つめ、
幸田「末沢、その会社に行って、この写真に映っている女子高生のことを調べて来てくれ」
末沢「どうかしたんですか?」
幸田「俺達が日向の屋敷に行った時間は、何時だ?」
末沢「十時過ぎぐらい・・・」
幸田「そんな時間になぜ、学生が歩いてる?」
末沢「・・・でも、学校さぼってその辺うろちょろしてる奴なんかいくらでもいますからね・・・」
幸田「いいから調べろ」
末沢「わかりました・・・」

○ 新宿・歌舞伎町
  若者達やカップルが行き交う通り。
  島が辺りを見回しながら、雑踏の中を歩いている。
  
○ 裏通り
  錆びれた雑居ビルの1Fに今にも倒れ落ちそうになっている看板がある。
  看板には、青いスプレーで落書きの様な文字で『GAROTEA』と言う文字が
  書き込まれている。
  島、息を呑み、中に入り込む。

○ 『GAROTEA』店内
  薄暗い赤い照明下。二列に並んだ十のテーブルに客が埋め尽くされている。
  島、そばの座席に座り込む。
  辺りを見回す島。
  対面のテーブルに座る3人の若者達が島を見ている。
  島、怪訝な面持ちで、目を逸らし、他のテーブルを見つめる。
  対角上にあるテーブルの席についている若いカップルが呆然とした様子で島を見ている。
  島、前のテーブルを見る。
  スキンヘッドの黒人と韓国人、中国人、アジア人、初老の男がジッと島を見つめている。
  島、店内の異変に気づき、居心地が悪くなる。
  島の前に立つニット帽を被った一人の若い男。
  島、顔を見上げ、男を見つめる。
島「(眉をひそめ)君・・・もしかして・・・ 」
  テーブルの席に座っていた客達が一斉に立ち上がり、島のテーブルに近づいて行く。
  若者達に取り囲まれている島。壁際に身を寄せる。
  若い男、皮ジャンのポケットから、スプレーを取り出し、島に吹きかける。
  島の前に広がる緑色の煙・・・。

○ 『宝洋社』雑誌編集室前
  通路を歩く末沢。
  編集室の中を覗く。デスクの回りを雑然と動き回る編集スタッフ。
  末沢の目の前に見えるデスクの列に綾奈が座っている。
  綾奈、溜め息を吐き、項垂れている。

○ 同・通路
  壁際で向き合いながら喋っている末沢と綾奈。綾奈、写真をジッと見つめ、
綾奈「何してたって言われても・・・」
  綾奈、不満気な表情で末沢を凝視し、
綾奈「それより、一体どういうことなんです?大手企業と日向代議士との癒着関連の記事が、
 今日になって、差し止めを食らうなんて・・・。あなた達が圧力をかけたの?」
末沢「さぁ・・・」
綾奈「今週号のスクープになるはずだったのよ、あの記事・・・」
末沢「・・・」
綾奈「半年前から、取材してきたのに、それが今日一日でパー・・・」
末沢「・・・」
綾奈「さっきから私だけ喋ってる・・・何か言ってくださいよ」
  末沢、圧倒され、呆然としている。
  綾奈、ハッと何かを思い出し、
綾奈「取り引きしましょう」
末沢「取り引き?」
綾奈「日向を連行した理由を教えてくれたら、あの時の状況を話すわ」
末沢「そんなの無理だ」
綾奈「じゃあ、私も喋らない」
末沢「これは、事件の捜査なんだ」
綾奈「こっちも命がけなの。今週号の売れ行きが悪かったら、来月には、
 うちの雑誌廃刊が決まっちゃうの」
  末沢、呆れ顔・・・。
  綾奈、辺りを見回すと、ひそひそと末沢に話しかけ、
綾奈「じゃあ、こうしましょう。今からあの時の状況を話すから、
 その代わり、今晩もう一度会って。お願いだから・・・」
  綾奈、手を合わし懇願する。
  困惑する末沢。

○ 道路
  雑然と走行する車の中に黒いセンチュリーがある。
  
○ センチュリー・車内
  後部席に座っている日向。
  済ました表情で一点を見つめている。

○ 国会議事堂前・道路
  赤信号。
  一番左側の車線で停車するセンチュリー。
  センチュリーの前には、5台ほどの車が止まっている。
  後から走ってきた数台の車がセンチュリーの背後を囲むように止まる。
  前方に国会議事堂の正門が見える。
   ×  ×  ×
  交差点から、サイレンを唸らせたブルーバードが曲がってくる。
  ブルーバード、猛スピードで国道を疾走する。左側車線を走り、信号待ちの列の
  後ろで立ち止まる。ブルーバードの2台前にセンチュリーが止まっている。
  ブルーバードの運転席から幸田が降りる。
  歩道を走り、センチュリーの前に近づく。
  幸田、後部席の窓を叩き、警察手帳を見せる。
  窓が開くと、日向が幸田に話しかける。
日向「こんなところまで来て、今度は、何のようだ?」
幸田「ほんの一分ほどでいいので、車を止めていてください」
日向「はぁ?」
  幸田、突然、しゃがみこみ、センチュリーの車体の下回りを調べ始める。
  左タイヤの付近の下を覗き込む幸田。
  目の前に時限式の発火装置が取り付けられているのを確認する。
  幸田、咄嗟に立ち上がり、
幸田「爆弾が仕掛けられてる」
  日向、唖然とし、車のドアを開ける。
  ドライバーとSP達も急いで降りる。
  幸田、センチュリーの後ろに止まっている白いセダンに乗るドライバーに声を荒げ、
幸田「爆弾だ!降りろ!」
  ドライバー、慌てて車から降りる。
  幸田、日向と肩を組み、急いでその場から離れ、歩道を走って行く。
  その瞬間、大きな衝撃音と共に、センチュリーが勢い良く爆破する。
  ボンネットが空高く吹っ飛ばされ、エンジンルームから火柱が舞い上がる。
  歩道に滑るようにして倒れ込む幸田と日向。暫くして、起き上がり、メラメラと
  燃える車の炎を見つめている二人。
日向「一体、どういうことだ?」
幸田「あんたが大物だって事さ」
日向「ちゃんと答えろ。何か知ってるんだろ?」
幸田「それは、こっちの台詞だ。知ってることを洗いざらい喋ったらどうだ?」
日向「私は、何も知らん」
幸田「じゃあ、教えてやる。これは、春江川が仕掛けた罠だ」
日向「(苦笑し)バカな・・・」
  その瞬間、日向のそばで弾丸が跳ねる。
  振り返る幸田。
  後ろから白いマークUが猛スピードで走ってくる。助手席からサングラスをかけた
  四堂が顔を出し、銃口を幸田達のほうに向けている。
  路面に刺さった透明の弾丸に太陽の光が差し込み、七色の光を発光する。
  幸田、それを見て、慌てて立ち上がり、日向の体を引っ張り上げる。
  爆発する弾丸。
  逃げる幸田達の背後に炎が広がる。
  ブルーバードの左側の後部席のドアにしゃがみこむ幸田と日向。
  ジャケットの中のホルダーからコルト・パイソンを引き抜く。
  鳴り響く銃声。ブルーバードの後部席の窓が破裂する。
  ガラスの粉を浴びる二人。
  幸田、慌てて日向の腕を引っ張り、その場を走り去る。
  歩道の向こうに突き刺さった弾丸が爆発する。
  炎がブルーバードのほうまで、押し寄せてくる。
  路面に倒れ込む二人。
  幸田、すかさず立ち上がり、
幸田「(発狂し)俺の車を傷つけやがって、クソ!」
  幸田、道路の真中に駆け寄り、立ち止まると、国会議事堂のほうに銃を構え、
  引き金を引く。
  走り去るマークU。議事堂の前の交差点をタイヤを軋ませながら左に曲がり、
  燃え上がるセンチュリーの黒い炎の向こうに消えて行く。
  幸田、悔しげな表情で銃を降ろす。
日向「ずいぶん物騒になったもんだ、この国も・・・」
  日向の前に立つ幸田。
幸田「あんた達のせいだろ?」
  日向、幸田を睨み付け、
日向「なんだと?」
幸田「そうやって、人事ばかり並べ立ててるから、こうなるんだ。
 死にたくなかったら、今から有能なボディガードを倍に増やすんだな」
  幸田、日向を睨み付けながら、銃をホルダーの中にしまう。
  携帯のアラームが鳴る。
  幸田、ジャケットのポケットから携帯を取り出し、ボタンを押す。

○ 宝洋社前
  ビル前の脇道に止まっているMR2。
末沢の声「幸田さん、わかりました。センチュリーの前にいた女子高生、
 車の前で小銭をいくらか落とした時に、車の下に潜り込んでいたそうです」

○ 国会議事堂前・国道
幸田「もういいぞ、末沢。(足元でしゃがみこんでいる日向を見つめ)奴は、無事だ」

○ MR2・車内
末沢「今からそっちに行きます」
幸田の声「来なくていい。おまえ、今からオフィスに戻って、
 爆弾を仕掛けた女子高生を調べろ」
末沢「わかりました」
  末沢、携帯を切り、スーツのポケットにしまう。
  エンジンをかけ、サイドブレーキを降ろそうとした瞬間、アラームが鳴り響く。
  末沢、また携帯を取り出し、携帯を耳にする。
末沢「もしもし・・・」
女の声「・・・私」
末沢「・・・」

○ 繁華街・電話ボックス
  寺田真貴 。寂しげな表情で受話器を持っている。
真貴「あの時、話し中途半端に終わったでしょ?」
   ×  ×  ×
末沢「・・・」
   ×  ×  ×
真貴「今晩、会って、もう一度きちんと話しをしたいの」
   ×  ×  ×
末沢「話しても、あまり意味ないような気がするけど・・・」
   ×  ×  ×
真貴「逃げてるの?」
   ×  ×  ×
末沢「そんなんじゃない。考えは、変わらないよ。それと・・・
 今晩は、ちょっと用事があるんだ」
真貴の声「わかった。じゃあ、明日でもいいから。また電話ちょうだい」
末沢「・・・」
真貴の声「待ってるから・・・」
  携帯が切れる。末沢、重く沈んだ面持ち。

○ とある森林(夕方)
  大きな木々の葉枝に当たる太陽の光。
  土面に仰向けに倒れ、落ち葉に埋もれている島。
  木漏れ日が島の顔に突き刺さる。
  島、ふと目を覚まし、右手で光を遮る。
  起き上がる島。辺りを呆然と見回すと、立ち上がり、土を払いながら、
  当てもなくふらふらと歩き始める。

○ 病室
  眠っている麻衣子のベッドにスーツを着た男が近づいてくる。
  男、麻衣子のベッドの前に佇む。
  男、黒いグローブをつけた右手で、麻衣子の頬を優しく叩く。
  目を覚ます麻衣子。男に気づくと、目を大きく見開き、驚愕する。
  男は、四堂である。
  四堂、サイレンサー付きの銃を持った右手を蒲団の中に入れ、
  銃口を麻衣子の右腕に密着させる。
四堂「引き金を引いたら、心臓まで貫通する。静かに話そう・・・」
麻衣子「・・・美菜ちゃんの家に電話かけたの、あなたでしょ?
 いったい、あの親子に何したの?」
四堂「母親を・・・殺した」
  麻衣子、驚愕する。
四堂「あの子の溌らつとした幸せそうな顔を見たか?この世に生まれて、
 初めて生きる喜びを味わってる」
麻衣子「どうしてそんなことがあなたにわかるの?」
四堂「わかるよ、僕には。子供には、罪はない。腐った大人は、始末する」
麻衣子「子供から親を奪うなんて、駄目よ・・・」
四堂「今日は、君のチームのリーダーにも顔を売り込んできたよ」
麻衣子「幸田さんにも何かしたの?」
四堂「彼がいなければ、今頃日向は、この世にいなかった」
麻衣子「日向?」
四堂「あんな悪徳政治家を生かしといても、世の中のためには、ならないのにな・・・」
麻衣子「一体何が目的なのよ?」
四堂「・・・一つだけいいことを教えてあげるよ。もうすぐ僕達の計画が始まる」
麻衣子「計画って、何?」
四堂「それを調べるのが、君達の仕事だろ?」
  四堂、不適な笑みを浮かべると、そのまま、立ち上がり、部屋から出て行く。
  麻衣子、呆然としながら息を吐いている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  コンピュータのディスプレイに映し出される女子高生のアップ写真。
  画面が二分割され、右側に女子高生のモンタージュの写真が映し出される。
  末沢のデスクのディスプレイの前に佇む幸田。
  デスクの前に座っていた末沢が声を出す。
末沢「笹川晴佳です」
  幸田、画面をまじまじと見つめる。
幸田「彼女も奴らの工作員に仕立てられていたのか・・・」
  末沢、深い溜め息をつく。
  末沢のデスクの電話が鳴る。
  受話器を取る末沢。
  話を窺い、暫くして、受話器を置く。
末沢「麻衣子からです。さっき、病院に四堂が現れたそうです」
幸田「あいつは、無事なのか?」
末沢「それが、計画が始まるとか言って、すぐに部屋を出て行ったそうです」
  幸田、険しい表情を浮かべ、入口に向かって歩き出す。
末沢「どこ行くんですか?幸田さん」
幸田「国会に行って来る」
末沢「日向は、第8チームがマークしてるでしょ?」
幸田「いいや。春江川だ」
末沢「無茶ですよ、そんなの。まず、証拠を固めてから・・・」
  幸田、寡黙に入口の自動ドアに向かって歩き始める。
  それと同時に、ドアが開き、島が中に入ってくる。
末沢「島さん・・・」
  島、呆然とした様子で幸田と対峙し、
島「遅くなって・・・すいません」
幸田「胃の方は、大丈夫なのか?」
島「胃・・・ああ、胃ね。はい、もうすっきりしました」
  島、万遍の笑みを浮かべている。
  末沢、怪訝に島を見ている。
幸田「偉く、ハイテンションじゃないか?島。何か良いことでもあったのか?」
島「何言ってるんですか、幸田さん。ハイテンションなのは、いつものことでしょ?
 それより、事件のほうは、どうなりました?」
  幸田も怪訝に島を見つめる。

○ トンネル(夜)
  オレンジ色のネオンに照らされている通路を一台の黒いトレーラーが疾走している。

○ 黒いトレーラー・コンテナ内
  両側の壁伝いに設置されているオペレーションマシーン。両側に5人の少年少女
  達が椅子に腰掛け、キーボードを叩いている。
  その奥に黒いセラミックケースが積み重ねられている。
  右腕に黒い獅子のマークをつけた少年がケースの蓋を開ける。中には、M16A2
  カービン銃が20丁ぎっしりとしきつめられている。
  少年、カービン銃を取り出し、マガジン、グレネード弾を装着している。
  ディスプレイに映る東京都心地図。
  画面が切り替わり、コンピュータ言語が出力される。かなりのスピードでスクロールしている。
  画面に集中する若者達。何かに取り付かれたような無気味な表情を浮かべている。

○ トンネルを潜り抜け、表に出てくるトレーラー
  交差点を左に曲がり、高架橋の下の道路を走り抜けて行く。

                                                   −救いの殺し屋・完−

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