『555 ダッシュバード 危特科捜班』第五回「JED計画」byガース『ガースのお部屋』

○ 甲斐崎バイオ・メディカルセンター(夜)
  3階建て、横長い白い工場がある。
  無気味なエンジン音を上げ、黒いトレーラーが大きな門を突き破る。
  トレーラー、ビルの前で、カーブを描きながら、工場の搬入口を覆い隠すように立ち止まる。
  コンテナの扉が開く。
  カービン銃を構えた数十人の少年少女。
  軍服を身に付け、青い能面のようなマスクを被り、並んで立っている。
  先頭の少年が走り出すと、次々と後から少年少女達がコンテナから降りる。

○ 工場・一階フロア
  事務所。数人の警備員が行き来している。
  入口の扉が開き、少年・少女が現れる。
  二人、突然、天井に向けて、カービン銃を撃ち始める。
  警備員、悲鳴を上げ、身を屈める。
   ×  ×  ×
  工場内。
  7人の従業員がプラントの前に立ち、後頭部に両手をつけさせられている。
  ある男の前に立つ少年。男の額にカービン銃の銃口をつきつける。
   ×  ×  ×
  三階・工場長室。
  デスクの前に立ち、両腕を高く上げている工場長・千田 十聖(48)。
  怯えている千田。
  少年、カービン銃を構え、千田のほうに歩み寄っている。
  少年、突然、体の向きを変え、マシンガンを連射する。
  部屋の角に置かれている本棚に、次々と風穴が空き、ガラスの破片が激しく吹き飛んでいる。
  少年、サッと向きを変え、また千田の方に銃口を向ける。
  千田、顎をがくがくと震わせている。
  露出した少年の右腕についている黒い獅子のマークを一瞬見つめる。
千田「金は、その金庫の中だ・・・」
少年「金目的なら、銀行狙うって・・・」
  少年、マスクを剥がし、千田に顔を見せる。
  千田、唖然とし、
千田「おまえ・・・」
  
○ ファミリーレストラン
  窓際のテーブルに座る末沢 裕太(28)と、花井 綾奈(27)。
  綾奈、サラダを口一杯に頬張っている。
綾奈「刑事さんって、いつもこんなところで食事してるの?」
末沢「今、夜中の十二時。他に開いてる店があるなら教えてよ・・・」
  綾奈、手元にあったビールの入ったグラスを持ち、
綾奈「私がお酒好きな女性記者に見えた?」
末沢「(首を振り)いいや・・・」
  綾奈、ビールを一気に飲み干し、
綾奈「人は、見かけで判断できない。だから面白いのよね」
末沢「それが今の仕事を選んだ理由かい?」
綾奈「中学の時さ、転校生がやってきて、その子と友達になったの。でも、その子、自分の家族の
 ことを何一つ話そうとしなかったから、私、その子、問いつめちゃったのよね。そしたら、
 その子の親、昔、何かの窃盗グループに関わってた事がわかったの・・・」
末沢「・・・その子の親は、どうなったの?」
綾奈「どうにもならなかったわよ」
末沢「どうして?」
綾奈「だって、事件を起こしたのは、20年も前の話しよ。その子、当時、たまたま親がその話を
 しているの聞いちゃって、ずっと悩んでたの。だから、私が相談相手になってあげたわけ。
 そしたら、吹っ切れたみたいで。今でも友達なの」
  末沢、無言のまま、コップを持ち、水を飲み干す。
綾奈「刑事さんは、どうして刑事になろうと思ったの?」
  末沢、コップを置く。
末沢「ヒーローになりたかったの」
  綾奈、噴き出し、大笑いする。
綾奈「あっ・・・ごめんなさい・・・」
末沢「いいんだ。ありきたりだろ?今までいろんな奴に話してきたけど、
 大概は、そんな反応だったし。マンガや特撮もののヒーローはいるけど、
 架空の世界だったし、現実で唯一ヒーローと思えたのが、この仕事だったって事・・・」
  末沢、立ち上がり、財布から一万円札を抜き、テーブルに置く。
綾奈「何それ?」
末沢「昼間のお礼。それじゃあ」
  末沢、その場を立ち去っていく。
綾奈「待って、まだ何も聞いてない!」
  綾奈、立ち上がり、末沢の後を追う。
  
○ フェアレディZ車内
  運転席に座り、エンジンをかける末沢。
  助手席に綾奈が乗り込んでくる。
  末沢、驚いた様子で綾奈を見つめ、
綾奈「約束が違うじゃない」
末沢「ちゃんと会っただろ?」
綾奈「日向が汚い手を使って、国民の血税を蝕み続けてるのよ」
末沢「奴は、俺達が捕まえる」
綾奈「あなた達にできるの?ずっと野放しにしてるじゃない」
末沢「念入りに証拠を集め続けてるんだ。そんなに焦るなよ」
  綾奈、末沢を睨み付け、
綾奈「こんなことしてるから、警察の信用が落ちるのよ」
  末沢、綾奈の気迫に圧倒される。
綾奈「諦めないから、私・・・」
  綾奈、憮然としながら、ドアを開け、外に出ていく。
  フロントガラス越しに立ち去って行く綾奈の後ろ姿を見つめている末沢。
  綾奈、歩道に立ち、停車したタクシーに乗り込む。
  末沢、呆然と溜め息を吐く。

○ 小神家・玄関
  明かりが点る。
  小神洋介(49)の姿が露になる。
  小神、強面の表情で靴を脱ぎ、廊下を歩いて行く。

○ 同・2階通路
  階段を上ってくる小神。
  ある部屋の前の扉の前で立ち止まり、ドアをノックする。
小神「七緒・・・」
  中は、静まり返っている。
小神「仕事中に電話かけてくるなって言っただろ、どういうつもりだ?」
  静寂している。
  小神、ドアノブを回すと、扉が開く。
  唖然とする小神。中に入ると、部屋は、明かりが点いたまま。デスクの隣に置かれている
  コンポが鳴りっぱなしである。
  小神、動揺し、険しい表情を浮かべると、慌てて、部屋から出て行く。
  
○ 料亭『浜草』
  えんじ色の壁に囲まれた質素な空間。
  テーブルの前に置かれる懐石料理をジッと見つめ、匂いを味わっているスーツ姿の
  老人・春江川 幸造(72)。
  入口の襖が開く。日向政道(58)が中に入ってくる。
  日向、春江川に深々と一礼すると、春江川の向かい側の席に座る。
日向「遅れてすいません。しつこい取り巻きから逃れるのに、時間がかかりまして・・・」
  春江川、箸を持ち、料理に手を出し始める。
  日向も、箸を持ち、料理に手を始める。
春江川「今日は、大変だったそうだな。聞いたよ。国会前の爆破騒ぎ・・・」
日向「(苦笑し)ご存じでしたか。いやいや、参りましたよ」
  春江川、黙々と料理を食べ続けている。
春江川「刑事に助けられたそうじゃないか」
日向「ええ、去年新設された特殊セクションの連中に目をつけられていましてね」
春江川「・・・彼らは、どこまで掴んでいるんだね?」
日向「大したことはありません。特に事業のほうには、影響は、でないかと・・・」
春江川「当たり前だ。彼らに私の描いている事など、見破ることはできんよ」
日向「その事ですが、例の予算をJED(ジェッド)計画に割り当てる手続きが済みました」
春江川「そうか。君のことについては、心配ない。ちゃんと、手は、打っておいた。
 ただ、少々手違いが起きてな」
日向「・・・と、申しますと?」
春江川「私が手名付けているグループに反乱分子が現れて、ちょっとした内紛状態なんだよ」
日向「・・・」
春江川「相沢章子を知ってるかね?」
日向「相沢・・・ああ、科学者の、あの女のことですか?」
春江川「中々融通の聞かない奴でな。君を狙った男も、彼女が雇っている殺し屋だ」
  日向、深刻そうに顔を歪め、
日向「奴らがなぜ、私を・・・」
春江川「知らん。君、まさか彼女に何かちょっかいでもかけたんじゃあなかろうな?」
日向「・・・」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班第5チーム・オフィス(翌朝)
  デスクの上に座り、受話器を耳に当て、話している幸田 智(35)。
幸田「・・・いや、その件は、まだ進展はない。今、無闇に内部調査することは、危険だ。
 もう少し様子を見よう・・・」
  自分のデスクの前に座り、煙草を吸っている島 健司(29)。
  憮然と幸田を見つめ、耳を澄ましている。

○ 同・第8チームオフィス
  デスクの前に座り、受話器を持つ佐田一樹(34)。
佐田「日向は、昨夜も春江川と接触してる。諜報部筋の話によると、奴は、
 民間セキュリティガード構想とは、別に、もう一つ計画を立てているらしい」

○ 同・第5チーム・オフィス
幸田「別の計画?」
佐田の声「何の略かは、不明だが、JED計画と呼ばれてる」
  幸田、ふと島と目が合う。
  島、サッと目線を反らし、横を向いて、煙草の煙を吹かす。
幸田「わかった。また後で連絡する・・・」
  入口のドアが開き、葉山麻衣子(26)が中に入ってくる。
  幸田、受話器を置き、麻衣子のほうを見つめる。
  麻衣子、幸田の前に近寄る。
幸田「もういいのか?」
麻衣子「いつまでもベッドで寝てるわけには、いきませんから」
  島、立ち上がり、麻衣子の元へ近づく。
島「おまえ、本当に大丈夫か?」
麻衣子「ちゃんと足、動いてるでしょ。それより、幸田さん、四堂に命を狙われたんですか?」
幸田「狙われたのは、日向だ」
  島、笑みを浮かべ、
島「ブルーバードもでしょ、幸田さん」
幸田「その借りは、必ず返してやる」
麻衣子「部長は?」
幸田「それが珍しく、今日は、遅刻だ」
麻衣子「連絡ないんですか?」
島「おまえの時と一緒でな」
麻衣子「・・・あの、私、四堂につながる手がかりを掴んだんです」
幸田「何だ?」
麻衣子「公園を狙った爆弾事件の時に出会った親子が四堂となんらかの関係を持っています」
島「ああ、子供が虐待されてた、あの親子のことか・・・」
麻衣子「四堂は、母親を殺したと言いました」
  幸田の顔つきが強ばる。
幸田「なぜ、そんなことを?」
麻衣子「子供に罪はない。腐った大人は、これからも始末する・・・そう言って、
 病院から消えたんです」
幸田「島、麻衣子と一緒にその親子を当たってくれ」
島「わかりました」
幸田「ああ、出る前に俺の車のトランクに超電導衝撃吸収板を入れといてくれないか」
島「どうして、そんなもの・・・」
幸田「念のためさ。お前らの事件もあった事だしな。あれがあれば、高さ300mの
 所から飛び降りても、クッション変わりになってくれる。これでお前も、ヘリの世話になる
 事はないぞ」
  島、一瞬、幸田を睨み付けるような表情をする。そのまま、立ち去っていく島。
  幸田、唖然と島の背中を見つめている。
  ジャケットのポケットからアラームが鳴り響く。
  幸田、携帯を取り出し、喋り出す。
幸田「はい、幸田・・・」
  
○ 地下・暗がり
  通路の壁にもたれて立っている、相沢章子(33)。携帯を耳にしている。
章子「久しぶりね、幸田・・・」
   ×  ×  ×
  幸田、険しい表情を浮かべ、
幸田「俺の携帯の番号、まだ覚えてたのか」
章子の声「私がつけている人工眼にはね、小型のメモリーチップがついてるから、
 一度見れば、死ぬまで記憶してるの」
幸田「(失笑し)通りでな。ダイナミックな演出に危うく騙されてるところだったぞ」
章子の声「ハイドロゲル技術を応用したマスクの精巧さがこれで実証できたわ」
幸田「人を殺しといて、ずいぶんな言い方だな」
   ×  × ×
章子「四堂の事だけど、調べても無駄よ」
   ×  × ×
幸田「なぜだ?」
   ×  × ×
章子「あいつは、顔も過去もすべてを消した男なの」
   ×  × ×
幸田「君が手術でもしてやったのか?正義の殺し屋を売りにしてるらしいが、奴は、
 ただの危険な猛獣だ」
章子の声「勇ましい男は、忌み嫌われる時代ですもんね。あなたは、単なる時代後れだけど・・・」
幸田「それも、個性の一つさ」
   ×  × ×
章子「いいわ、ヒントを上げる。甲斐崎バイオメディカルセンターに行ってみなさい。
 何か掴めるかも知れないわよ」
幸田の声「・・・甲斐崎って」
章子「そう。私が殺した夫が作った工場よ」
幸田の声「何でわざわざ教えてくれたんだ?」
章子「・・・あの時逃がしてくれたでしょ?これで借りは、返したから」
  章子、携帯の電源を切る。
   ×  × ×
  幸田、静かに携帯を降ろし、手元のキーボードを打ち込み、ディスプレイを見つめる。
  画面に『甲斐崎バイオ・メディカルセンター』の工場の写真と、情報が表示される。
  
○ 田舎道の上空を飛ぶドクターヘリ(BK−117)
  羽音が空に響き渡る。

○ ドクターヘリ・キャビン
  操縦席に座るパイロットの男。
  男、地上の様子をまじまじと窺っている。
  緩いカーブの山道でセダンが横向きになって倒れている。
  そのそばの急斜面の林の中にワゴンRが突っ込み、大木に衝突した状態で止まっている。
  レバーを引くパイロットの男。
  
○ 山道にゆっくりと着地するドクターヘリ
  後部席の扉が開き、二人の救急隊員の男が車の元に走って近づいていく。
   ×  × ×
  セダンの運転席から中年の男を引っ張り出す救急隊員A。
  男、額からかなりの出血。意識を失っている。
   ×  × ×
  ワゴンRのドアを開く。運転席でハンドルにもたれかかり、気を失っている少年。
  救急隊員B、少年の体を引っ張り出し、山道のほうへ運んで行く。
   ×  × ×
  担架に乗せられる男と少年。
  2台の担架がドクターヘリのほうに運ばれている。

○ ドクターヘリ・キャビン
  後部側に運び込まれる2台の担架。
  救急隊員が男のほうに酸素マスクを被せ、応急処置を始める。
  その隣の担架に寝そべっている少年。
  暫くして、うっすらと目を開け、ジッと救急隊員の背中を見つめる。
  
○ 住宅街通りの市道
  疾走するMR2。
  
○ MR2車内
  運転席に座り、ハンドルを握る麻衣子。
  助手席に座る島。
  島、鼻歌を歌いながら、窓を開け、煙草を擦っている。
  麻衣子、島を一瞥し、
麻衣子「お礼まだでしたね。ありがとうございました」
島「気軽に男の部屋に行くからあんな目に遭うんだぞ」
麻衣子「誤解を招くような言い方しないで下さいよ。でも、私間抜けですよね・・・」
島「そう、凹むなよ」
麻衣子「それにしても島さん、よくヘリに乗れましたね・・・」
島「土下のオヤジが派手に飛び回るもんだから、空中で振り回されてさ、散々だった」
  麻衣子、笑みを零し、
麻衣子「それで、四堂の事、何かわかったんですか?」
  島、急に憮然となり、
島「・・・いや」
  フロントガラス越しの向こうの空からヘリの羽音が近づいてくる。
  麻衣子、空を見つめ、
麻衣子「あれ、土下さんのヘリだ」
  島、空を覗き見る。
  ヘリ、MR2の上空を横切って行く。
  島、平然とヘリを見つめ、煙草の煙を吐いている。
  麻衣子、怪訝に島を見つめる。

○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席に座り、レバーを握っている土下(はした)仁(40)。
  切れ長の目でジッと前を見つめている。
  数十キロメートル向こうの空を飛行している白いヘリが小さく見える。
  こちらに向かって進んでいる。
  土下、白いヘリを見つめているが、しだいに表情が険しくなる。
  白いヘリがスピードを上げ、こちらに接近してくる。
土下「おいおい、どこ見て飛んでやがるんだ?・・・」
  やがて、白いヘリの姿がはっきりとし、BK−117型のドクターヘリであることがわかる。
  真正面に迫ってくるドクターヘリ。
土下「本気でぶつかってくる気か!クソったれ!」
  土下、レバーをおもいきり右に倒す。
  
○ 突っ込んでくるドクターヘリを颯爽と躱す230ヘリ
  230ヘリ、大きく右に逸れると、旋回し、ドクターヘリの後を追い始める。

○ 230ヘリ・コクピット
  土下、レバーを全開に引き、スピードを上げる。タービンの吸引音が高鳴る。

○ ドクターヘリにぐんぐんと近づいて行く230ヘリ

○ 230ヘリ・コクピット
  計器盤の速度計のデジタル数値が一気に上がり、『210』を超える。
  土下、それを見つめ、唖然とする。

○ 都心上空
  空の下に巨大なビル群が立ち並んでいる。
  ドクターヘリの隣に平行して飛行する230ヘリ。
  230ヘリの機体前部の下に装備されている丸い球体のスピーカーから土下の声が鳴り響く。
土下「こちら、警視庁航空パトロール部230号。至急、緊急チャンネルでの応答を求む」
  ドクターヘリの後部席が開く。
  少年が姿を現わし、230ヘリを睨み付けている。
  少年、右腕を前に差し出している。右手に金属球を持っている。

○ 230ヘリ・コクピット
  計器盤の中央にあるモニターに、ドクターヘリの後部側の様子が映し出されている。
  土下、モニターをまじまじと見つめ、驚愕する。

○ ドクターヘリ、機体を傾け、カーブを描きながら、急降下していく

○ 230ヘリ・コクピット
  不安げな表情を浮かべ、
土下「まずいぞ、こりゃあ・・・」
  土下、レバーを右に倒す。
  
○ ドクターヘリに追随するように230ヘリも急降下して行く
  東京タワーのそばに近づいていくドクターヘリ。
  230ヘリも近づいていく。
  
○ アパート前
  道路脇に立ち止まるMR2。

○ アパート2F多川家・玄関前
  扉が開く。男・鍵元勝(24)の姿が露になる。
  鍵元、驚いた表情。
鍵元「刑事さん・・・」
  外に島と麻衣子が立っている。
  麻衣子、笑みを浮かべ、手を降る。
  奥の部屋の柱に多川美菜(5)がくっつき、恥ずかしそうに麻衣子を見つめている。
  
○ 多川家・リビングルーム
  テーブルの前に対峙して、座っている麻衣子と鍵元。
鍵元「・・・頼んだって言うか、半ば強制的みたいな・・・。本当に殺すなんて、思ってもみなかった・・・」
麻衣子「じゃあ、会社の先輩と言うのも、嘘だったんですね」
鍵元「姉と僕は、親違いの姉弟です。姉は、幼い頃、母親に激しい暴力を受けていたそうです。
 毎日何十カ所も傷や痣をつけられて、死ぬ思いをさせられたと言っていました」
麻衣子「それをまた、自分の子供にもやり続けていたわけね・・・」
鍵元「その事を四堂に話したんです。ほっとけば、あの子も姉と同じようになるかもしれない。
 こんな魔の連鎖は、どこかで食い止めなきゃならない。彼は、僕にそう言ってきました」
麻衣子「四堂とは、どこで会ったの?」
鍵元「駅前のアイスクリームの店で、美菜にアイスを買って食べさせてた時です。
 突然、美菜の前にやってきて、あの子の腕の傷を調べ始めたんです」
麻衣子「・・・」
鍵元「それを見るまでは、美菜がそんな目に会っているなんて、思ってもいませんでした。
 四堂は、僕に拳銃を見せつけて、後のことは、任せろって・・・」
麻衣子「また嘘つくの?」
鍵元「・・・」
麻衣子「四堂が気づくぐらいよ。本当は、気づいてたんでしょ?見て見ぬ振りを
 していたんじゃないの?」
鍵元「・・・四堂に脅されたんです。美菜の 面倒をちゃんと見ないと、おまえも殺すって・・・」
  麻衣子、唖然とする。
鍵元「本当のこと言うと、僕、子供は、あまり好きなほうじゃありません。
 あの子を育てて行く自信もないし・・・」
  麻衣子、複雑に顔を歪ませる。

○ アパート前
  階段降りる麻衣子。
  MR2から島と美菜が降りてくる。
  美菜、慌てて麻衣子の元に走っていく。
美菜「お姉ちゃん」
  麻衣子、しゃがみこみ、笑みを浮かべ、美菜の頭を撫でるが、どこか力ない表情。
島「どうだった?」
  麻衣子、頷き、
麻衣子「四堂が話を持ちかけたようです。(首を傾げ)でも、なんか、変だな・・・」
島「変って?」
麻衣子「四堂は、なぜそこまでして、この親子に執着したんだろう・・・」
島「父親は?」
麻衣子「どうも、行きずりの相手の子供らしくて・・・」
島「・・・車に乗ってから、ずっとお前のことばかり気にてしたぞ、この子」
  美菜、麻衣子を見つめ、
美菜「公園に遊びに行こう・・・」
麻衣子「御免ね、これからまだ仕事があるんだ・・・」
  美菜、口を曲げ、拗ねた表情をする。
麻衣子「美菜ちゃん。お母さんと会いたい?」
美菜「いや」
  美菜、項垂れ、しゃがみこむ。
  麻衣子、美菜に微笑みかけ、
麻衣子「今度休み取れたら、必ず遊びに行こうね」
  美菜、小指を出す。麻衣子、小指を出し、美菜の小指と絡ませ、指切り拳万。
  島、憮然と二人を見つめている。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  入口の自動ドアが開き、警視庁長官・中坊信太郎(54)が現れる。
  デスクに座っている幸田、立ち上がり、中坊の方に近づく。
中坊「小神部長は、まだ来てないのかね?」
幸田「ええ・・・」
  中坊、口を曲げ、
中坊「じゃあ、いい・・・」
  中坊を踵を返し、立ち去ろうとするが、暫くして、また振り返り、
中坊「ああ、幸田君。葉山刑事は?」
幸田「葉山は、今朝から復帰して、捜査に出ていますが、何か?」
  電話のアラームが鳴り響いている。
中坊「彼女にも用があるんだ。戻ったら、連絡をくれ」
幸田「・・・わかりました」
  中坊、そのまま、そそくさと立ち去って行く。
  怪訝に中坊を見つめている幸田。
  自分のデスクに行き、受話器を取る。
幸田「はい・・・」
  幸田、険しい表情を浮かべ、
幸田「今、人手が足りないんだ・・・ああ、とりあえず、他にも指令を出してくれ」
  入口の扉が開く。小神が現れ、中に入ってくる。小神、悄然とした面持ち。
  幸田、受話器を置き、小神に話しかける。
幸田「部長、ドクターヘリが金属球を持った少年に乗っ取られました」
小神「なんだと?」
幸田「島と麻衣子を連れて、現場に向かいます」
小神「末沢は、どうした?」
幸田「今、甲斐崎バイオメディカル研究センターに向かわせています」
小神「なぜそんなところに?」
幸田「さっき、相沢章子から連絡があったんです。そこに行けば、
 何か手がかりが見つかると言ってきたので・・・」
小神「奴らの罠かも知れんぞ」
幸田「ええ、そう思って8チームの江崎も付き添わせています」
  幸田、椅子にかけていたジャケットを着て、入口に向かって歩き出す。
幸田「・・・それと、さっき長官が来ました。葉山に用があるとかで・・・」
小神「ああ、今通路で会った」
幸田「じゃあ、行きます」
  幸田、外に飛び出して行く。
  小神、動揺した面持ちで、部長オフィスに向かって歩き出す。
  
○ 甲斐崎バイオメディカルセンター・1F通路
  通路を歩く千田と末沢。
末沢「何か周辺に変わったことは、なかったですか?」
千田「いや、別に」
末沢「脅迫まがいの電話を受けたとか、関係者の誰かが傷を追わされたとか?」
千田「全然ないよ、そんなこと」
末沢「じゃあ、この名前に聞き覚えは?相沢章子・・・」
  千田、少し動揺した面持ちになり、
千田「さぁ、知りません・・・」
  千田、足を止め、溜め息を吐き、末沢と向き合う。
千田「すいませんが、午後から生命工学研究所の方に行くことになっているので、できれば、これで・・・」
末沢「そうですか。わかりました」
  千田、末沢に一礼すると、踵を返し、一人通路を歩いて行く。千田、物憂げな表情を浮かべる。
  千田の背中を怪訝に見つめている末沢。
  末沢、ふと搬入口の方を見つめる。
  入口に黒いトレーラーが止まり、コンテナに従業員の男達がいくつものダンボールを詰め込んでいる。
  コンテナの中から少年が現れ、箱を持って近づいてきた従業員の前で立ち止まる。
  少年、従業員に指示を出している。
  末沢、怪訝にその様子を見つめている。
  
○ 搬入口
  末沢、静かに中に進入し、置かれたダンボールの前でしゃがみこみ、身を隠す。
  顔を上げ、まじまじとトレーラーのほうを見つめる。
  奥のほうから、作業着を着た若者が現れ、従業員の男と話をしている。
  末沢、ジッと若者を見つめる。
  露出した右腕に獅子のマークの刺青が見える。
  唖然とする末沢。
  末沢、スーツの中に手を入れ、ベレッタを取り出す。サイレンサーを装着し、
  ポケットの中から紫色の弾丸を取り出し、マガジンにそれに詰め込む。
  末沢、トレーラーの方に銃を構え、引き金を引く。
  低い銃声と共に、コンテナ下に弾丸が刺さる。暫くして、弾丸が赤く点灯し、暫くして消える。
  末沢、銃をしまうと静かにその場を立ち去る。

○ 巨大なビル群の前の道を走り抜けているブルーバード
  その上空に、ドクターヘリが飛んでいるのが見える。

○ 都心上空
  巨大なビル群の周りを円を描くように飛び回っているドクターヘリ。
  その500m後方に230ヘリが後を追っている。
幸田の声「こちら『02』、様子はどうだ?」

○ 230ヘリ・コクピット
  ヘルメットの設置されたマイクに向かって喋り出す土下。
土下「今からドクターヘリの様子を映した映像を転送する」
  土下、ピッチレバーを引く。
  計器盤の中央下にあるパネルの『HYPER・AIR・TURBIN』のボタンを押す。
  各計器盤のメーターが一気に触れ始める。

○ 排気口から青白い光が吹き上がり、
  急加速して、ドクターヘリの隣の位置まで辿り着く。

○ 230ヘリ・コクピット
  モニターに映し出されるドクターヘリのキャビン内の様子。
  少年が右手で金属球を握り締め、こちらを見つめている。
  左手には、携帯を持ち、ボタンを押している様に見える。

  
○ ビジネス街・市道
  道路脇に止まるブルーバード。
  
○ ブルーバード車内
  コンソール中央に設置されているモニターに、ドクターヘリのキャビン内の様子が映し出されている。
  運転席に座る幸田。画面をジッと見つめている。
  幸田、右手でレシーバーを握り、
幸田「要求は?」
土下の声「他の航空機は、近づけるなと言ってきてる。その他は、今のところ何もない。
 それと、事故で重傷を負った患者がいる」
幸田「溶体のほうは?」
土下の声「胸と左足を強く打っているらしい。救急隊員が応急処置をしているが、
 それもいつまでもつかわからない」
幸田「・・・」

○ 230ヘリ・コクピット
土下「追い始めてから三十分経過してる。さっきから都心のビルの上空を
 ぐるぐる回り続けてる。これでもう8週目だ」

○ ブルーバード車内
幸田「できるだけ、離れて追跡を続けてくれ」
  携帯のアラームが鳴り響く。
土下の声「了解」
  幸田、レシーバーを元の場所に戻すと、透かさず、携帯を取り出し、通話ボタンを押す。
幸田「幸田・・・」

○ バイオメディカルセンター前
  入口前の道路脇に止まっているフェアレディZ。
末沢の声「あの工場、やはり、様子がおかしいです」

○ フェアレディZ車内
  運転席に座っている末沢。
末沢「搬入口に奇妙な黒いトレーラーが止まっていました。中にいる数十人の若者達が
 中年の従業員を指示をして、何かを積み込ませているみたいです。それと、その若者の
 一人の腕に例の黒い獅子の刺青がありました・・・」

○ ブルーバード車内
幸田「そのまま張り込みを続けてくれ」

○ フェアレディZ車内
末沢「わかりました」
  携帯を切る末沢。
  ドアガラス越しに工場の様子を窺う末沢。
  ふと、持っていた携帯のディスプレイをおもむろに見つめ、ボタンを押す。
  携帯のディスプレイに表示される電話番号。寺田真貴(24)のものである。
  末沢、『通話』ボタンに親指を当てる。しかし、押すのを躊躇う。
  唇を噛み締めている末沢。
  
○ ブルーバードの後方に勢い良く立ち止まるMR2
  MR2の運転席側から麻衣子、助手席側から島が降りてくる。
  ブルーバードの運転席のドアが開き、幸田が降りる。対峙する幸田と、島、麻衣子。
島「状況は?」
幸田「都心のビルの上空を回り続けている」
麻衣子「何が目的なんです?」
幸田「まだわからん。ドクターヘリは、埼玉から飛んできたものだ。山の峠で資材運搬用の軽トラックと、
 軽ワゴンが衝突したと言う連絡を受けて、その救助に向かったらしい」
麻衣子「少年が車を運転していたんですか?」
幸田「信号待ちで止まっていた女性の車を奪って、逃走した事が確認されている。おそらく、奴が暴走して、
 ワゴンに激突したんだろう・・・」
  険しい表情を浮かべる島と麻衣子。
幸田「島、おまえ平気か?」
島「何がですか?」
幸田「ヘリのことだ」
島「ああ、それならもう大丈夫ですよ」
麻衣子「治療を受けたんですか?」
島「まぁな・・・」
幸田「じゃあ、島、お前は、ここに待機してくれ。麻衣子、今からドクターヘリのキャビン内の
 映像を本部に転送するから、お前、オフィスに戻って、少年の身元を洗い出してくれ」
麻衣子「わかりました」
  麻衣子、踵を返し、MR2に駆け寄ると、車に乗り込み走り去って行く。
  幸田、島、ブルーバードに乗り込む。
  
○ ドクターヘリ・キャビン
  担架に寝たまま、意識朦朧としている男。
  酸素マスクをつけ、手で押さえている救助隊員A。
  その隣に座り、男の心電図をジッと見続けている救助隊員B。
  後ろの扉の前に座り込んでいる少年。
  ガラス越しにジッと都心のビルを見つめている。
  救助隊員A、少年に声をかけ、
救助隊員A「被害者の状態が芳しくない。早く救命センターに向かわないと死んでしまう」
少年「じゃあ、殺したら」
救助隊員B「なんだって?」
  少年、救助隊員の方を向き、
少年「どうせ、あんた達も死ぬかもしれないんだし」
  愕然とする救助隊員達。
  少年、金属球を強く握り締め、無気味にほくそ笑む。
  
○ ブルーバード車内
  アラームが鳴り響く。島、咄嗟にレシーバーを取る。
島「こちら『02』」
  
○ 230ヘリ・コクピット
  土下、マイクに向かって喋っている。
土下「犯人から要求が来た。十分以内に政治家を呼んで、池袋の高層ビルの屋上に立たせろと
 言ってきている。
 それができなければ、金属球を爆破させて、ヘリを墜落させると脅してきた」

○ ブルーバード車内
  島、唖然とする。
  幸田、神妙な面持ち。
幸田「・・・高層ビル?」
島「・・・わかりました。本部とかけあってみます」
  島、無線機を切り、元に戻す。
  コンソールにあるパネルのボタンを押し、回線を切り換える島。
幸田「待て、島。連絡しなくていい」
島「でも、政治家を呼び出せって・・・」
幸田「呼んだって、誰も来やしない・・・」
  頭上でヘリの羽音が大きく鳴り響いてくる。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  入口の扉が開き、麻衣子が入ってくる。
  麻衣子、自分のデスクの前に座り、キーボードを打ち始める。
  ディスプレイにドクターヘリのキャビンの様子が映し出される。
  少年の顔をピックアップされ、サーチ画面が映る。
  結果は、『NO FILE』。
  麻衣子、補導歴リストを表示させ、ENTERボタンを押し、サーチを開始する。
  部長オフィスの扉が開く。
  中坊が姿を現わす。麻衣子、中坊に気づき、唖然とする。
中坊「待っていたんだ、ずっと」
  麻衣子、画面に集中し、
麻衣子「仕事中だから、後にしてください」
  中坊、麻衣子の前に近づき、
中坊「前の部署に戻るんだ」
  麻衣子、唖然とする。
中坊「ここは、お前向きの場所じゃない」
麻衣子「スピード違反の取り締まりをしているほうが私には、お似合いだって、そう言いたいの?」
中坊「誰もそんなこと言ってない。そうムキになるな」
麻衣子「いつもムキになるのは、お父さんの方じゃない」
中坊「あんな痛い目にあったのに、まだわからんのか?ここにい続ければ、
 今度は、命を落とすかもしれないんだぞ」
麻衣子「それが恐いなら初めからこの仕事選んでないよ。ここに私を推薦したのは、
 長官じゃないですか・・・」
中坊「間違いだったことに気づいたんだよ・・・」
  麻衣子、困惑して、立ち上がり、
麻衣子「そんなの勝手過ぎる!」
小神の声「長官」
  部長オフィスから小神が姿を現す。
小神「彼女の言葉を尊重してあげてください」
  中坊、小神を睨み付け、
中坊「娘に万が一のことがあったら、君が責任を取ってくれるのか?」
小神「もちろん。私の部下ですから」
  麻衣子、複雑に表情を歪めている。
  ディスプレイに少年の犯罪リストが表示されている。
小神「彼女は、あなたの背中を見て、育ったんですよ」
  麻衣子、小神を見つめる。
  中坊、小神を睨み付け、颯爽と立ち去り、部屋を出て行く。
  麻衣子、小神を見つめ、
麻衣子「すいません、部長・・・」
小神「(溜め息を吐き)仕事を続けてくれ」
麻衣子「はい」
  麻衣子、デスクの前に座り、電話の受話器を上げる。

○ ブルーバード車内
  幸田の携帯が鳴り響く。
  幸田、車から降りる。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
麻衣子「少年の身元がわかりました。小山遥信十六歳。一年前、学校で暴力事件を起こして、
 現行犯逮捕されています。一週間前に鑑別所から脱走しています」
 
○ ブルーバードの運転席の扉の前に立つ幸田
幸田「両親は?」
麻衣子の声「残念ながら二人とも五年前に事故死しています・・・」
幸田「・・・」
  幸田、おもむろに空を見つめる。
  ドクターヘリが上空を駆け抜けて行く。
  その後をすぐ、230ヘリが追っている。
  幸田、険しい表情を浮かべる。
  
○ フェアレディZ車内
  助手席に江崎 晴彦(29)が乗り込んでくる。
江崎「医療用器具や福祉用具などの、専門機器を製造しているようですが、それは、
 どうも表向きのようですね」
末沢「・・・と言うと?」
江崎「ここの幹部クラスの人間は、皆元政府関係者のようです。千田も一年前まで、
 ある政治家の政策秘書をしていました」
末沢「その政治家ってのは?」
江崎「日向ですよ」
  末沢、唖然とする。
江崎「きっと、裏で動いている春江川のプランの製造工場として、利用されている可能性が高いです」
末沢「・・・暫くの間、ここで待機しててください。僕、例のトレーラーの様子を見てきます」
  末沢、車を降りて行く。

○ 甲斐崎バイオメディカルセンター・1F・搬入口
  入口の扉の前に立つ末沢。
  ドアのガラス越しに中を覗き見る。
  当たりを見回すが、人影はない。
  末沢、静かにドアを開け、忍び足で黒いトレーラーの前に近づいていく。
  コンテナの入口を覗き込む末沢。
  両側の側面にオペレーションシステムマシーンが設置されているのが見える。
  その奥には、山積みで置かれたダンボールがある。
  末沢、ズボンのポケットに右手を入れ、コンテナに向かって歩き出そうとした時、
  背中を何かで突かれ、すかさず足を止める。
  末沢、ポケットの中の小型発信機のボタンを押す。

○ フェアレディZ車内
  運転席に座る江崎。
  コンソールのモニターの電源が自動的に作動し、ディスプレイに付近の地図の様子がじんわりと
  浮かんでくる。
  江崎、画面に気づき、それを見つめる。
  画面に現在地が赤く点滅している。
江崎「発信探知画面?・・・」


○ 甲斐崎バイオメディカルセンター・搬入口
  末沢、ゆっくりと両腕を上げる。末沢の背後に、青い軍服を着た少年がカービン銃を構え、
  立っている。
  少年、銃口で末沢の背中を突き、末沢をコンテナに向かって歩かせる。
  末沢、正面を向きながら、険しい表情で歩いている。

○ フェアレディZ車内
  運転席に座る江崎。携帯を耳にしている。
江崎「8チームの江崎です。今、甲斐崎メディカルセンター前で張り込み中なんですが・・・」
  バイオメディカルセンターの入口から、黒いトレーラーが出てくる。
  トレーラー、重い地響きと低いエンジン音を高鳴らせながら、国道を走り去って行く。
  江崎、ディスプレイを見つめる。
  画面の点滅が動き始めている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
麻衣子「末沢さんが?」
江崎の声「今から僕も工場のほうの様子を見てきます。一つお願いしたいことがあるんですが・・・」

○ 230ヘリ・コクピット
  計器盤のパネルのスピーカーから小山遥信(16)の声が聞こえてくる。
遥信の声「後2分。一秒でも遅れたらこれ、爆破させるよ」
  土下、マイクに向かって喋り出す。
土下「そんなことしたら、君も死ぬんだぞ」

○ ドクターヘリ・コクピット
  助手席に座り、ヘルメットのピンマイクに向かって喋っている遥信。
遥信「わかってる。そう熱くならないでよ」
  キャビン内の担架の上に寝そべる中年の男。心電図の波形が弱まり、数値が減少している。
  緊急のアラームが鳴り響いている。
  救急隊員、それを見つめながら、焦燥し、
救急隊員「心臓の動きが弱まってる。これ以上は、もちこたえられない」
  パイロットの男、燃料ゲージを見つめ、
パイロット「もうすぐ燃料も切れる・・・」
  遥信、平然とした様子。ふと正面に見える白いビルの屋上を見つめる。
  サンシャイン60の屋上にグレイのスーツを着た男が立っているのが見える。
  遥信、薄笑いを浮かべる。

○ サンシャイン60・屋上
  スーツを着た幸田が立っている。
  幸田の前をドクターヘリが横切る。
 
○ 230ヘリ・コクピット
  計器盤のモニターに幸田の姿が映し出されている。
  土下、それを見つめ、唖然とし、
土下「奴を刺激させんなよ、幸田・・・」
   
○ ドクターヘリ・コクピット
  無線機のスピーカーから、幸田の声が聞こえてくる。
幸田の声「保真党の山中だ」
遥信「バッジを見せて」

○ サンシャイン60・屋上
  幸田、胸元の議員バッジを外し、右手に持つと、右腕を高く上げる。
  襟元のピンマイクに向かって喋り出し、
  目の前をドクターヘリが通り過ぎる。

○ ドクターヘリ・コクピット
  遥信、幸田を見つめながら、
遥信「それ、もういらないから、捨てて」

○ サンシャイン60・屋上
  幸田、バッジを空高く放り投げる。
  地上に向かって真っ逆様に落ちていくバッジ。

○ ドクターヘリ・コクピット
  遥信、それを見て、ほくそ笑む。

○ サンシャイン60前・路上
  道路脇に止まっているブルーバード。

○ ブルーバード車内
  助手席に座る島。運転席には、SATの隊員が座っている。コンソールのモニターに映る
  幸田を見つめている。
  携帯のアラームが鳴る。島、スーツのポケットから携帯を取り、
島「はい!」
麻衣子の声「葉山です。そちらの状況は?」
島「幸田さんが今から小山と交渉する」
  無線機のスピーカーから遥信の声が聞こえてくる。
  島、無線機の方に耳を傾ける。
麻衣子の声「緊急要請があったので、私、末沢さんのほうの応援に回ります・・・あの、島さん?」
遥信の声「馬鹿じゃないの?本当に来るなんて・・・」
幸田の声「呼び出しといて、それはないだろ?」

○ サンシャイン60・屋上
  イヤホンから流れる遥信の声を聞いている幸田。
遥信の声「まっ、勇気は、認めてあげるけどね」
幸田「いつまで同じところをぐるぐる回ってるんだ?そのうち吐くぞ」
遥信の声「乗り物に弱いんだ。僕は全然平気。メリーゴーランドに
 乗ってるみたいで、すっごく楽しい・・・」
幸田「遊園地の乗物じゃないんだぞ、そのヘリは・・・」
遥信の声「わかってるよ」
幸田「じゃあ、なぜこんなことをする?」
遥信の声「僕らの未来を奪い取った政治家さん達に、正義の鉄拳を下すためさ・・・」

○ ドクターヘリ・コクピット
幸田の声「正義の鉄拳か・・・私達がいつ君達の未来を奪ったんだ?」
遥信「白々しいね。この世の中を見てみろよ」
幸田「・・・学校の先生は、君に肝心な事を教えなかったようだな」
遥信「あんな奴ら、屑だよ・・・」
幸田の声「前に暴力事件起こしたらしいな。ガールフレンドを助けるために先生を殴って、
 怪我させたんだって?」
遥信「誰に聞いた?」

○ サンシャイン60・屋上
幸田「ここに来る前、警察の人からだ」
遥信の声「あいつら、生徒をおもちゃにして、楽しんでるんだ」
幸田「確かにひどいよな。モラルをなくした先生なんて、先生でもなんでもないよな」
遥信の声「物分りのいい芝居が見え見えだけど。あんな奴に教師の資格を与えてるのは、
 お前達じゃん」
 幸田の目の前をドクターヘリが通り過ぎて行く。
遥信の声「・・・責任取ってそこから飛び降りてよ」

○ ブルーバード車内
  スピーカーから聞こえている二人のやりとりを聞き入る島。険しい表情を浮かべる。
遥信の声「できないのなら、代わりに僕らが死ぬよ」
幸田の声「そのヘリに乗っている人達を巻き添えにする気か?」
遥信の声「お前しだいさ」
  島、ビルの頂上を見つめ、困惑する。

○ サンシャイン60・屋上
幸田「死ぬなら、お前一人で死ねよ」
  暫くの沈黙・・・。
  幸田の背後をドクターヘリが飛んでいる。
遥信の声「・・・本音が出たね。やっぱり、自分だけ生き延びたいんだ」
幸田「・・・今のは、冗談だ。すまん」
遥信の声「(失笑し)じゃあ、さっさと飛び降りて」

○ 230ヘリ・コクピット
  ガラス越しに幸田を見つめている土下。心配気な面持ち。

○ サンシャイン60・屋上
  幸田、足を進め、策の前に立ち、下を覗き込む。
  ずっと奥のほうに見える地上で、小粒な人々が歩いているのが見える。
  幸田、ピンマイクに喋りかけ、
幸田「一つだけ約束してくれ。俺が飛び降りたら、そのヘリを救命センターに向かわせるんだ。
 いいな」

○ ドクターヘリ・コクピット
遥信「いいよ。ちゃんと死ぬところを見届けたらね」

○ サンシャイン60・屋上
  幸田、マイクを外し、無線機を足下に置くと、柵を越え、端のコンクリートの上に立つ。
  幸田、額に汗を浮かべ、下を覗き込んでいる。

○ サンシャイン60前
  ブルーバード、タイヤを空回りさせ、走り出すと、ビルの真ん前に向かう。
  ビルの壁際に勢い良く立ち止まるブルーバード。

○ ブルーバード車内
  島、コンソールのパネルにある『MAGNETIC FORCE PULSE』のボタンを押す。  

○ ブルーバードのルーフから円形の白いプレートが現われる
  やがて、プレートが半径5mの巨大な円に広がり、赤く発光し始める。 

○ ドクターヘリ・コクピット
  ガラス越しに幸田の姿を見つめている遥信。
  薄ら笑いを浮かべているが、瞬間、顔が硬直する。
  幸田がビルの屋上から華麗にダイブし、落下していくのを目の当りにする。

○ 230ヘリ・コクピット
  土下、幸田を見つめ、驚愕する。

○ 猛スピードで落下している幸田
  プレートの下に急速に落ちてくる。
  地面に叩き付けられたような鈍い音が聞こえる。

○ ドクターヘリ・コクピット
  遥信、パイロットに声を荒げ、
遥信「高度下げて周り込んで。死体を確認する」

○ 急下降するドクターヘリ

○ ドクターヘリ・コクピット
  地上を見つめる遥信。
  地面にうつ伏せで倒れている幸田。
  当たりに血溜まりができている。
  幸田の周りに人の輪ができ、騒然としている。
  遥信、それを見つめ、放心状態になっているが、暫くして、顔を上げ、大笑いする。

○ ビルから離れ、飛び去って行くドクターヘリ
  その後を230ヘリが追って行く。
  地上に倒れている幸田。口から血を吐き、倒れたまま、微動だにしない。

○ 国道を疾走するオートバイ
  ブルーの『ジール』にまたがる白いバイクスーツ姿の麻衣子。
  スピードメーターの下に内蔵されている小型モニターに地図が映り、点滅が道に沿って
  動いている。
  猛スピードで前の車を次々と追い抜いている。

○ 臨海開発地域
  更地の区画。閑散としている道路に麻衣子のバイクがエンジンを高鳴らせ進んでくる。

○ 資材置場
  麻衣子、ある区画の前で急ブレーキをかけ、立ち止まる。
  ヘルメットのゴーグルを上げ、区画のほうを見つめる。
  山積みに置かれたコンクリート資材の前に、黒いトレーラーが止まっている。
  トレーラー、突然エンジンを唸らせ、ゆっくりと走り始める。
  麻衣子、ゴーグルを下げ、トレーラーに向かって、走り出す。
  道路に出て、猛スピードで走り出すトレーラー。その真っ向から、麻衣子のバイク
  が突き進んでくる。
  トレーラー、更にスピードを上げ、猛然と麻衣子のバイクに突き進む。
  麻衣子のバイクもスピードを上げて、トレーラーに近づいて行く。
  麻衣子のバイクとトレーラーとの間の距離が300m地点に差しかかる。
  その時、突然トレーラーのタンクラジエーターの隙間から緑色のレーザーが発射される。
  レーザーは、麻衣子のバイクの前の路面に当たり、巨大な爆破を起こす。
  猛然と吹き上がるオレンジ色の炎を避けようとして、地面を滑り、転倒する麻衣子とバイク。
  トレーラー、炎を突っ切って、麻衣子のそばを横切り、そのまま轟音を響かせ、走り去っていく。
  地面に倒れている麻衣子。起き上がり、ヘルメットを脱ぎ、トレーラーを睨み付け、
麻衣子「何?今の・・・」
  麻衣子、立ち上がろうするが、両股に激痛が走り、苦痛の表情を浮かべる。
  バイクを起こし、股がると、エンジンをかけ、トレーラーと反対方向へ走り出す。

○ 突き当たりの角を曲がる黒いトレーラー
  猛然と一直線の道路を突き進んでいる。
  その真っ向から、また麻衣子のバイクが猛スピードで走行してくる。
  麻衣子、バイクの収納ケースから左手でリボルバーの拳銃を取り出す。
  右手のスロットルを全開し、まっしぐらトレーラーに突き進む。
  走行するトレーラーから、レーザーが発射される。
  麻衣子のバイクの手前で爆炎が舞い上がる。麻衣子のバイク、それを突っ切る。
  同時に麻衣子、両手で銃を構え、トレーラーに向かって引き金を引く。
  大きく響く銃声。
  弾丸は、トレーラーのラジエーター部分に当たり、火花を散らす。
  麻衣子、走るトレーラーのそばを素早く通り抜け、急ブレーキでターンしながら、
  バイクを止める。
  その直後、トレーラーの前のほうから後ろにかけて、流れるように次々と爆発が起こり、
  炎が舞い上がる。
  コンテナが大破し、巨大な黒炎が上空に舞い上がる。
  麻衣子、炎を見つめ、驚愕し、
麻衣子「撃ち所、悪かったのかな・・・」
  バイクケースの中で携帯のアラームが鳴っている。
  麻衣子、ケースから携帯を取り、耳に当てる。
麻衣子「こちら『05』」
江崎の声「江崎です」
  
○ 甲斐崎バイオメディカルセンター前
  数台の覆面車が止まり、スーツを着た特殊セクションの刑事達が従業員に事情を聞いている。
江崎「昨夜、黒いトレーラーが工場に進入し、軍服を着た若い少年達が乗り込んで来たらしいです。
 末沢さんは、それを察知して、トレーラーに発信弾を撃ち込んだんだと思います」

○ 臨海開発地域・路上
麻衣子「それで、末沢さんは?」
江崎の声「少年達に連れ去られて、おそらくそのトレーラーのコンテナに拉致された可能性が・・・」
  麻衣子、江崎の言葉にショックを受け、放心状態で、燃え上がるトレーラーを見ている。

○ 救命センター・ヘリポート
  着陸するドクターヘリの周辺を取り囲むように覆面車が止まっている。
  後部席の扉が開き、救急隊員が降りてくると、中から男の乗った担架が運び出されて行く。

○ ドクターヘリ・コクピット
  薄笑いを浮かべ、シートにもたれ座り込んでいる遥信。
  助手席の扉が開く。
  遥信、漫然と扉の外を見つめ、驚愕し、目を見開く。
  扉の外に幸田が不適な笑みを浮かべ、立っている。
  幸田、遥信の左手に持っていた金属球を奪い取る。
  遥信、激しく動揺している。
  幸田、おもむろに握った金属球を見つめながら、
幸田「今いる政治家の顔と名前ぐらい、ちゃんとインプットしとけよ」
  幸田、遥信の左腕を掴み、ヘリから引っ張り出す。

○ ヘリの前の地面に倒れる遥信
  すぐに起き上がり、幸田のほうを見上げる。
遥信「・・・なんで生きてんだよ?」
  遥信の左腕から黒い獅子の刺青が露出している。
  幸田、それに気づき、唖然とする。遥信を睨みながら、
  背広を脱ぐ。中の黒いチョッキを遥信に見せ付け、
幸田「このチョッキにはな、全身に強力な磁石が埋め込んであるんだ。地上に叩きつけられる直前に
 超電導磁力プレートの上に落ちたおかげで、体が宙に浮いたってわけさ」
  遥信、呆然自失・・・。
遥信「宇宙人かよ、お前・・・」
幸田「逃げてもいいぞ」
遥信「えっ・・・」
幸田「この金属球をお前の背中に投げつけてやる。早く行け」
  幸田、しゃがみこみ、遥信を威圧し、
幸田「俺は、お前のために一度死んでやったんだぞ。次は、お前の番だ」
遥信「騙したくせに、偉そうに言うな!」
  遥信、立ち上がり、幸田の前から離れ、走り去って行く。
  遥信が進んでいる向こう側に、島が立ちはだかる。
  島、遥信に銃を構え、近づいて行く。
  遥信、薄笑いを浮かべ、力なく両腕を上げる。
  島、遥信にゆっくり近づき、右手に手錠をかける。
  幸田、島の前に近づき、
幸田「こいつも章子の工作員だ。徹底的に取り調べろ」
  島、一瞬、幸田を物凄い形相で睨み付ける。
  幸田、島の眼光鋭い目つきに唖然とする。島、遥信を連れ、その場を立ち去っていく。
  幸田、怪訝な眼差しで、島の背中を見つめている。

○ 警視庁・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの席に座り、深刻そうな面持ちで電話をしている小神。
小神「・・・娘の・・・声を聞かせてくれないか?」

○ 警視庁前・歩道
  建物をバックに佇む四堂 豹摩(29)。
  携帯で話をしている。
四堂「それは、できない。彼女が嫌がってる」
小神の声「嘘を吐くな」

○ 警視庁・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
小神「七緒に何を吹き込んだんだ?」

○ 警視庁前・歩道
四堂「彼女があんたに、何をして欲しかったのか、もう一度よく考えてみることだな。
 危特科捜班の部長さん」
  四堂、携帯を切る。

○ 警視庁・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  小神、受話器を持ちながら呆然とし、暫くして、頭を抱え込み、デスクに塞ぎ込む。

                                                    −JED計画・完−

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