『555 ダッシュバード 危特科捜班』第六回「デビル・コントロール」byガース『ガースのお部屋』  

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・取調室
  デスクの前に座る少年・小山遥信(16)。ふくれっ面を浮かべ、俯いている。
  遥信の対面に座る島 健司(29)。
  島、ジッと遥信を睨み付けている。
  遥信、島の顔を見つめ、
遥信「ねぇ、何か喋ってよ」
  島、一瞬体を震わせ、寡黙に遥信を睨み続けている。
遥信「(溜め息を漏らし)だるいなぁ・・・もう・・・」
  島の背後の入口のドアが開き、幸田 智(35)が中に入ってくる。
  幸田、島のそばに近寄り、島に話しかける。
幸田「何かわかったか?」
島「(幸田の方を見つめ)金属球は、渋谷の公園で、もらったそうです」
  島、デスクに置いてあるファイルから写真を取り出し、幸田に手渡す。
  幸田、険しい表情で写真を見つめる。写真には、佐伯梨琉(17)の
  バストショットが映っている。
  幸田、遥信に話しかける。
幸田「本当にこの子に間違いないんだな?」
  遥信、幸田を睨み付け、顔を背ける。
  幸田、ほくそ笑み、
幸田「・・・まだ、あの事を根に持ってるのか?」
遥信「嘘つきジジイには、何も答えないよ」
幸田「お前のためだけにビックショーを見せてやったのに、ずいぶんな言い草だな」
遥信「あんた、働く場所間違えてるよ。サーカスにでも雇ってもらったら?」
幸田「次の転職先の候補に入れとくか。おまえより、サーカスにいる猿を相手に
 しているほうが楽そうだしな」
  遥信、幸田を睨み付ける。
  島、憮然とした面持ちになり、
島「幸田さん、ここは、僕がやりますから、外に出ていてください」
  幸田、遥信を睨み付けながら、そのまま、入口のドアに向かい、外に出て行く。
  島、幸田が出て行ったその瞬間、豹変し、上目遣いで遥信を見つめる。
島「取り調べの担当が俺でラッキーだったな」
  遥信、唖然とした表情をし、
遥信「えっ?」
  薄笑いする島。何かを秘めた表情を浮かべる。
  遥信、怪訝に島を見つめる。
    
○ 同・通路
  歩いている幸田の真正面から白いバイクスーツ姿の葉山麻衣子(26)がしょんぼりと
  した様子で歩いてくる。
  幸田、麻衣子の様子を窺う。
  麻衣子、目の前にいる幸田に気づき、立ち止まる。
幸田「結果は?」
麻衣子「まだです。前に採取してコンピュータに登録してあった末沢さんのDNAと
 比較するそうです・・・」
幸田「まだ末沢だって断定されてないんだ。あまり思いつめるな」
麻衣子「・・・でも、もし末沢さんだったら、私、どうすれば・・・」
  呆然と俯いている麻衣子。
幸田「おかしいと思わないか?武装グループは、数十人いたのに、コンテナの中で見つかった
 遺体は、たった一人だ。末沢の乗ったトレーラーとは、別のものかもしれない」
麻衣子「・・・」
  携帯の着信音がどこからともなく鳴り響く。
  幸田、麻衣子のほうから鳴っている事に気づき、
幸田「おまえのだ」
  麻衣子、ハッと我に返り、スーツのポケットから携帯を取り出す。
ボタンを押し、喋り出す麻衣子。
麻衣子「はい・・・」
  
○ 同・1階正面玄関口
  入口の自動ドアが開き、麻衣子が外に出てくる。
  玄関の端のほうで白いコートを着たショートカットの女が背を向けて立っている。
  麻衣子、女を見つけ、動揺した面持ちで女のほうに向かって歩いて行く。
  女、麻衣子のほうに振り向く。女は、寺田真貴(24)。
  真貴、麻衣子に一礼する。
  麻衣子も頭を下げる。
真貴「すいません、無理矢理呼び出したりして。あの人の携帯に何度も連絡したんですけど・・・
 つながらなくて・・・」
  麻衣子、申し訳なさそうに、顔を俯ける。
真貴「私、仕事で今晩、急にイギリスのほうに行くことになって。三日間ほど戻ってこれないので、
 末沢さんにそう伝えてもらいたいんです」
  麻衣子、重い口を開き、
麻衣子「・・・失礼ですけど、末沢さんとは、どう言う?」
真貴「つきあってから3年ぐらいになるんですけど、今ちょっと、ちぐはぐしちゃってて・・・」
  麻衣子、さらに重い表情になる。
真貴「刑事を辞めてなんて、私が言っちゃったもんだから、大喧嘩しちゃって・・・」
麻衣子「どうしてそんなこと・・・」
真貴「私達、結婚を前提につきあってるんです」
麻衣子「・・・」
真貴「あの人が危険な部門の捜査に携わっている事は知ってます。もし、万が一のことがあったらなんて
 いつも悪い想像ばかりしちゃって。だから、説得したんです・・・」
  麻衣子、動揺した面持ちで真貴を見つめ、
麻衣子「・・・(声を震わせ)あの・・・」
  真貴、麻衣子の悲愴な表情を察し、
真貴「何か・・・あったんですか?」
  
○ 同・地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの前に座る小神 洋介(49)。
  小神の前に幸田が立っている。
小神「千田の行方は、わかったのか?」
幸田「今、8チームが捜査中ですが、今の所手がかりは、掴めていません。すいません。
 やっぱり俺が甲斐崎の工場に行くべきでした・・・ 」
小神「破壊されたトレーラーの調査は済んだのか?」
幸田「車両前部に取り付けてあったレーザー兵器システムの残骸を回収して、
 今、高井に調べさせています」
小神「ヘリを乗っ取った少年のほうは、どうなってる?」
幸田「金属球は、佐伯梨琉からもらったものだそうです」
小神「(溜め息を吐く)・・・」
幸田「春江川に関する事で一つ重要なことがわかりました」
小神「なんだ?」
幸田「うちの情報班にスパイがいます」
小神「・・・」
幸田「どの人物なのか、まだ特定できていませんが、奴の関係筋の人間と頻繁にコンタクトを
 取っている人物がいることは確かです」
小神「それで、どうするつもりだ?」
幸田「それを逆手に取って、春江川の組織内部の情報を探るつもりです」
  小神、少し動揺した面持ちになる。煙草を加え、ライターで火をつけようとする。
  ライターを持つ手が少し震えている。
  幸田、その手をジッと見つめる。
小神「・・・その件は、私が処理する。お前達は、手を出すな」
  幸田、唖然とし、
幸田「どう言う事ですか?」
小神「この間8チームからスパイが見つかったところだ。事を荒立てると、このセクションの
 人間全体を疑わなければならない。行末は、セクションの存続問題にもつながる・・・」
  小神、立ち上がり、幸田のそばを横切ると、立ち止まり、
小神「わかったな、幸田。勝手なマネはするなよ・・・」
  小神、そのまま、入口に向かって立ち去っていく。  
  幸田、振り返り、小神の背中を怪訝に見つめている。
  
○ 地下施設
  巨大な空間に様々なコンピュータが敷きつめられたマシーンルーム。
  オペレーションシステムの前に数人の若い男女が座り、モニターを見つめている。
  モニターには、各都市の街並みが映し出されている。
  入口の自動扉が開く。中に入ってきたのは、四堂 豹摩(29)。
  四堂、青いサングラスを外し、右側に見える部屋のほうに向かって歩いて行く。
  
○ 同・監視ルーム
  ソファで目を瞑り、横たわっている相沢 章子(33)。
  入口から四堂が入ってきたことに気づく。章子、ジッと四堂の動きを目で追っている。
  四堂、クールな眼差しで章子の前に立ち、
四堂「お疲れのようですね」
  章子、目を瞑ったまま口を開き、
章子「その声は、四堂ね。珍しいじゃない。こんなところに遊びに来るなんて・・・」
  章子、起き上がり、座り込むと、右腕の腕時計についているボタンを押す。
  目を開く章子。章子の目が青く光る。
章子「神経伝達用の電子チップと相性が悪いみたい。新しいのと交換しないと・・・」
四堂「今日もまた、いい土産話を持ってきましたよ」
  四堂、章子と反対側のソファに座る。
章子「なぁに?教えて」
四堂「危特班を揺さぶる最高の餌がまた釣れたんですよ」
  章子、ほくそ笑む。
章子「餌なら、私も持ってるわ」
四堂「僕のは、それ以上です」
  四堂、ニヤリと笑みを浮かべる。
  
○ 同・地下5階・危機管理特命科学捜査班・研究室
  解剖台の上に乗っている黒焦げの遺体。
  宮本麗莉(32)が遺体の口の中に、ピンセット差し込んでいる。
  その背後に麻衣子が立っている。麻衣子、遺体から目を逸らし、俯いている。
麗莉「良かったわね」
麻衣子「えっ?」
麗莉「この遺体、末沢さんじゃないわ」
  麻衣子、咄嗟に麗莉の方を向き、
麻衣子「本当ですか?」
麗莉「身長が175cmしかないの。末沢さんは、183cmでしょ。DNAも
 一致しなかったわ・・・」
麻衣子「じゃあ、この死体は?」
麗莉「20代から30代ぐらいの男性であることは、確かなんだけどね。コンピュータで、
 頭蓋骨の復元作業を始めるわ・・・」
麻衣子「お願いします・・・」
  麻衣子、安堵の表情を浮かべている。

○ 同・一階・待合室
  座席に座る真貴。悄然とした面持ちで俯いている。
  暫くして、通路から麻衣子がやってくる。麻衣子、真貴の元に立ち止まり、
麻衣子「すいません、待たせちゃって・・・」
  真貴、顔を上げ、麻衣子を見つめる。
麻衣子「遺体は、末沢さんじゃありませんでした・・・」
  真貴、空ろな表情を浮かべ、
真貴「じゃあ、あの人、今どこにいるんですか?」
  麻衣子、少し戸惑うが、悠然とした面持ちになり、
麻衣子「必ず見つけ出しますから、心配しないでください」
  真貴、俯き、
真貴「こういうのが嫌だから、辞めてって行ったのに・・・」
  麻衣子、真貴の様子を見つめ、恐縮する。

○ 地下施設・監禁部屋
  暗がりの個室。
  暫くして入口のドアの窓から光りが差し込む。
  部屋の床に倒れているスーツ姿の男。
  男、目を開き、サッと起き上がる。
  男は、末沢 裕太(28)。扉が音を立てながら開く。
  外に軍服を身につけた少女がカービン銃を構え、立っている。
  末沢、少女を見つめる。
末沢「君・・・どこかで見たことある顔だな・・・」
  少女は、梨琉である。
梨琉「黙って私についてきて・・・」
  末沢、立ち上がり、外に出て行く。
  
○ 同・通路
  両手を後頭部につけながら歩いている末沢。末沢の背中にカービン銃を
  つきつけながら歩いている梨琉。
  末沢、通路の壁伝いにある窓を見つめる。
  窓の向こうには、真っ白な照明で照らされたクリーンルームが見える。
  その周りには、様々な分析システムが置かれ、青い作業服を着た
  研究員風の男達が群がっている。
  末沢、まじまじと人の様子を見つめる。
  
○ 同・監視ルーム
  自動ドアが開く。
  末沢が中に入ってくる。
  末沢、章子が座るソファの後ろに立ち止まる。
  章子、グラスに入っているワインを一気に飲み干している。
  グラスを静かにガラステーブルに置く。
章子「もういいわよ」
  梨琉、カービン銃を降ろし、部屋を出て行く。
  末沢、両手を下に降ろす。
章子「あなたとは、これで二度目ね」
末沢「新しい隠れ家か、ここは?」
章子「そうよ。あなた達が血眼になって探しても見つけられないわ・・・」
末沢「本当は、幸田さんをここに呼ぶつもりだったんだろ?」
章子「・・・」
末沢「幸田さんは、今でも凄く後悔していると言ってた」
章子「後悔?私を逃がした事?」
末沢「甲斐崎を自分の手で殺さなかった事だ」
  章子、失笑し・・・
章子「まだ、そんなこと言ってるんだ、あいつ・・・」
末沢「幸田さんは、あんたのことをまだ・・・ 」
  章子、末沢の言葉に割って入るように喋り出し、
章子「そんなことを聞きたくて、あなたをここに呼んだんじゃないの」
  章子、立ち上がり、末沢のそばに近寄り対峙する。
章子「私達の目的は、もうわかってるでしょ?あなた達のセクションを壊滅させる事よ」
末沢「殺るなら、さっさと殺ってくれ・・・」
  章子、失笑し、
章子「早合点しないで。殺すなんて一言も言ってないわ。あなたには、これから起きることを
 よく見ていてもらいたいの」
  末沢、怪訝に章子を見つめる。

○ 警視庁地下2階・駐車場
  駐車スペースに並んで止まる警察車両。その前に数人の警官達が慌ただしく歩いている。
  一台のパトカーが表に向かって走行している。
  非常口の扉が開き、中から島と遥信が表われる。
  島、辺りを執拗に見回すと、遥信の肩を抱きながら、止まっているMR2の元に
  駆け足で近づいて行く。
  
○ MR2車内
  運転席に乗り込む島。助手席に遥信が乗り込む。
  島、エンジンをかけると、透かさず、アクセルを踏み込む。
   ×  ×  ×
  駐車スペースから勢い良く出て行くMR2。
   ×  ×  ×
  駐車場の出入り口からスピードを上げ飛び出してくるMR2。
  勢い良く車道に飛び出して行く。
   ×  ×  ×
  バックミラーをしきりに気にしている島。
  遥信、島を怪訝に見つめ、
遥信「ねぇ、どうしてこんなことするの?」
島「鑑別所なんかに入りたくないだろ?」
遥信「別に。罪状は軽いんだ。2、3年もすれば出てこれる」
島「・・・」
遥信「あんた、いいの?僕を逃がした事がばれたら、捕まるよ」
  島、憮然とした表情で、
島「俺のことは、気にするな」
  遥信、首を傾げる。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  入口の自動ドアが開き、麻衣子が入ってくる。
  自分のデスクの椅子に腰掛けている幸田。腕を組み、天井を見つめている。
  幸田の前に近づいて行く麻衣子。
麻衣子「幸田さん、8チームから何か連絡ありました?」
幸田「まだだ。それより、お客は、帰ったのか?」
麻衣子「はい。末沢さんの彼女でした・・・」
  幸田、唖然とする。
  麻衣子、そわそわしながら、ソファに座り込む。テーブルの上にあるふ菓子を
  ジッと見つめている。
  幸田、麻衣子のほうを見つめ、
幸田「我慢するなよ。体に毒だ」
麻衣子「だって・・・」
  暫くして、電話のアラームが鳴り響く。
  麻衣子、ハッと表情を変える。
  受話器を上げる幸田。
幸田「はい、幸田・・・」

○ 同・情報活動班・オフィス
  デスクに座る長身の男・渡辺 雅虎(34) 。
渡辺「金属球事件の担当部署に連絡しているんですが、どこも人が出払っているんですよ・・・」
   ×  ×  ×
幸田「うちが対応します」
   ×  ×  ×
渡辺「今朝、国際宇宙ステーションから情報を受けたんですが、昨日の夕方、日本の上空で怪電波を
 キャッチしたそうです・・・」
   ×  ×  ×
幸田「怪電波?」
   ×  ×  ×
渡辺「ええ。発信地点は、東京の池袋付近・・・特殊なジャミングで、一種の妨害電波の
 ようなものだそうです・・・」
   ×  ×  ×
幸田「・・・昨日の夕方と言えば、例のヘリジャックの事件が起きてた時だ・・・」
   ×  ×  ×
渡辺「ええ。それで、何か関係があるんじゃないかと思ってお知らせしたんです」
   
○ 同・危機管理特命科学捜査班・オフィス
幸田「わかりました。折り返し連絡します」
  受話器を置く幸田。麻衣子がそばに近づいてくる。
麻衣子「誰からですか?」
幸田「情報班だ。取調室に行ってくる」
  幸田、入口に向かって歩いて行く。
  
○ 新宿・歌舞伎町
  大勢の人々が行き交う通り。
  
○ 裏通り
  若者達が歩いている中を擦り抜けるように、MR2が走行してくる。
  錆びれた雑居ビルの1Fにある『GAROTEA』の店の前に立ち止まるMR2。

○ MR2車内
  店を見つめる遥信。
遥信「なんだよ、ここ・・・」
島「この店に、お前の仲間がいる」
遥信「仲間?」
島「さっさと行け」
遥信「・・・」
  
○ MR2から降りる遥信
  車の後ろを周り、店の前に立つ。
  急発進し、その場を走り去って行くMR2。
  MR2をまじまじと見つめる遥信。看板を見上げると、息を飲み、店の中に入って行く。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・取調室
  扉が開く。幸田が中に入ってくる。
  幸田、呆然と辺りを見回す。
  島達の姿がない事を知ると、透かさず部屋を出て行く。

○ 同・通路
  険しい表情で走っている幸田。
  
○ 同・監視室
  中に入ってくる幸田。
  数人の係官がたくさんのモニターの前に座り、監視を続けている。
  中央のオペレーションシステムの前に座る係官に話しかける幸田。
幸田「第5チームの島を見かけなかったか?」
係官「そう言えば、1時間ほど前にゲートを潜りました」
  係官、手元のパネルを操作し、入口前のカメラの映像を出力させる。
  モニターに、数人の特殊班の人間達が行き交う姿が映し出されている。
  暫くして、島が画面の左端からフレーム・インしてくる。
  島の後ろを遥信が歩いているのが見える。
  画面は、そこでストップする。
  画面の左下に『09:54:32』と、時間が表示されている。
  幸田、咄嗟にその場を立ち去る。
  
○ 同・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  自動ドアが開き、幸田が中に駆け込んでくる。
  自分のデスクの前に座っている麻衣子。
  幸田の方を見つめる。
幸田「部長は?」
麻衣子「まだ戻ってませんけど・・・」
幸田「島が小山を連れて、どこかに消えた・・・」
  麻衣子、驚愕し、ハッと立ち上がる。
麻衣子「消えたって・・・どうして島さんがそんなことを・・・」
幸田「わからん。『03』号車も駐車場から消えてる・・・」
麻衣子「待ってくださいよ。島さん、車運転できなかったんじゃ?・・・」
幸田「・・・」
  幸田、おもむろに、無線機の前に歩いて行く。
  
○ MR2車内
  ビジネス街を走行している。
  ハンドルを握っている島。
  無線機からアラームが鳴り響いている。
  スピーカーから幸田の声が聞こえてくる。
幸田の声「『03』号車応答せよ。幸田だ。島、聞こえるか?」
  島、無言のまま、運転を続けている。
幸田の声「お前どこで車の運転の仕方を覚えたんだ?」
島「・・・」
幸田の声「ヘリに乗ったショックで、頭が変になっちまったのか?」
島「・・・」
幸田の声「小山をどうするつもりだ?」
  島、無線機の電源のスイッチを切る。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  無線が遮断される。
  幸田、憮然としたまま、レシーバーを置き、考え込んでいる。
  幸田の背後に立つ麻衣子。困惑した様子。
幸田「麻衣子、お前、部長を探してくれ。俺は、島の行方を追う」
麻衣子「はい」
  幸田、入口に向かい歩き出す。
  
○ 遊園地
  園内を駆け回るジェットコースター。
  メリー・ゴーランドのそばを歩いている小神。突然、立ち止まり、真正面に見える
  カフェテリア・レストランを見つめる。
  オープンテラスにあるテーブルの椅子に腰掛けている四堂。カップを持ち、コーヒーを
  啜りながら、小神を見ている。
  小神、憮然とした表情で、レストランの方に歩いて行く。
  
○ 同・カフェテリア・レストラン
  四堂のいるテーブルの前に近づいてくる小神。
  小神、テーブル前で立ち止まり、四堂と対峙する。
  四堂、不適な笑みを浮かべ、
四堂「初めまして」
小神「娘は、どこだ?」
四堂「そう興奮しないで。お座りになっては、どうです?」
小神「お前の目的は、わかってる。だが、こういうやり方は、卑怯だ」
四堂「彼女が選んだ選択ですから・・・」
小神「嘘を吐くな」
四堂「だったら、ご自分で確認してみては、いかがです?」
  小神、四堂が見つめている視線の方向を見つめる。
  メリーゴーランドの前にいる二人の女子高生の後ろ姿が見える。

○ 同・メリーゴーランド前
  乗物の前に近づいてくるセーラー服を着た二人の女子高生。
  ぐるぐる回る馬の乗りものを珍しげに見回している小神 七緒(16)。
七緒「これ見るの・・・多分、4歳の時以来だな・・・」
  七緒のそばに立つ茶髪のロングヘアの少女・笹川 晴佳(16) 。
晴佳「友達と遊びに来たことないの?」
  七緒、頷き、
七緒「誰もいないもん・・・友達なんて」
  七緒、左を向き、大きな船が振り子のように大きく揺れている乗り物を見つめる。
  七緒、船の乗り物を指差し、
七緒「ねぇ、あれに乗ろう」
晴佳「いいよ」
  二人、船の乗り物に向かって歩いて行く。
晴佳「最初は、誰と来たの?」
七緒「お母さん・・・」
  七緒、寂しげな表情で景色を見つめている。
晴佳「私も・・・」
  七緒、ふと晴佳のほうを見つめる。
七緒「7歳の時、病気で死んだの。お母さんいるの?」
  晴佳、首を振り、
晴佳「どっちもいないわ・・・」
七緒「・・・」
  
○ 同・カフェテリア・レストラン
  小神の目の前を通り過ぎて行く七緒と晴佳。
  四堂、コーヒーを啜ると、持っていたカップを静かにテーブルに置く。
小神「もう一人の子もおまえが誘拐したのか?」
  小神、怪訝に四堂を見つめる。
四堂「誘拐?人聞き悪いこと言わないでくださいよ」
小神「四星興産の社長の娘だな」
四堂「よくご存じで・・・」
小神「笹川を殺したのもおまえか?」
四堂「あの子の父親も、子供の事には、無頓着だった・・・」
小神「・・・我々の情報をどこまで知ってるんだ?」
四堂「全てですよ」
小神「・・・」
四堂「・・・あなたの娘さん、小さい時によく、ここに来てたそうですね」
小神「・・・女房がよく連れて来たんだ」
四堂「あなたは?」
小神「ここに来たのは、今日が初めてだ」
四堂「なるほどね」
小神「・・・」
四堂「彼女の好きな食べ物を知ってますか?」
小神「・・・いや」
四堂「彼女の趣味は?好きな音楽は?」
小神「・・・」
四堂「今日が何の日かご存じですか?」
小神「・・・何が言いたいんだ?」
四堂「僕と会わなければ、多分彼女は、自殺してた」
小神「いい加減なことを言うな!」
四堂「いい加減なのは、あなたのほうですよ」
小神「・・・」

○ 東京上空を飛行する230ヘリ
  都心の高層ビルが立ち並ぶ街の上をゆっくりと飛んでいる。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席に座り、レバーを握っている土下(はした)仁(40)。
  計器盤の中央にあるモニターに、車道を走っている車の列の姿が映っている。
  画面の右端に、シルバーのMR2の画像が表示されている。
  土下、モニターを見つめ、ヘルメットに装備されているピンマイクに話しかける。
土下「駄目だ。今の所反応はない・・・」
  
○ ビジネス街を疾走するブルーバード
  猛烈にエンジン音を響かせながら、走っている。
幸田の声「島は、誰かにコントロールされている可能性がある・・・」

○ ブルーバード車内
  運転席に座り、ハンドルを握る幸田。
  険しい表情を浮かべている。
  無線機から土下の声が聞こえてくる。
土下の声「あいつが洗脳薬を飲まされたって言う科学的根拠はあるのか?」
幸田「いいや。俺の勘だ」
土下の声「危特科捜班が聞いて呆れるぜ」
幸田「二日前から様子がおかしかったんだ。あいつが俺を見る目・・・あれは、
 北洋科学のビルから飛び降りた少年と同じ目つきをしてた・・・」

○ 230ヘリ・コクピット
土下「しかし、万能な洗脳薬だと、免許も取らずに運転ができちまうわけだな。
 俺の息子ももうすぐ教習所に通うんだが、その薬を飲ませて、試験を一発で
 合格させてやろうかな。ついでに俺の言うこともよく聞くようにさせてだな・・・」
幸田の声「・・・」
土下「あっ・・・すまん」
幸田の声「その薬にはな、幻覚作用の後に大きな副作用が生じるんだ」
土下「副作用?」

○ ブルーバード車内
幸田「高井の分析によると、薬の効能は、3日間前後だそうだ。薬が切れた途端、激しい虚無感と
 脱力感に襲われ、急激な躁鬱状態になって、やがては、自分を死に追い込むんだ」
土下の声「・・・さっさと見つけてやらんとな」
幸田「ハシさんは、そのまま北のほうを当たってくれ。俺は、湾岸沿いを調べる」
  
○ 機体を大きく右に傾け、北の方向へ向かって行く230ヘリ
土下の声「了解!」
  
○ 警視庁・警視総監室
  大きなチェアに腰掛けている警視総監・中坊信太郎(54)。
  机の上の書類をまじまじと見つめている。
  暫くして、入口の扉をノックする音が聞こえる。
中坊「はい」
  扉が開く。麻衣子が姿を表わし、中に入ってくる。
  中坊、唖然とするが、やがて、嬉しそうに顔をにやつかせる。
  麻衣子、机の前に近づき、中坊と対峙する。
中坊「何のようだ?」
麻衣子「小神部長、こちらに来なかったでしょうか?」
中坊「・・・いいや。今朝は、呼んでいない」
麻衣子「そうですか。失礼しました」
  麻衣子、あっさりとその場を離れ、入口のほうに歩いて行く。
中坊「待て。小神がどうかしたのか?」
  麻衣子、立ち止まり、振り返る。
麻衣子「いいえ。大したことありませんので・・・」
  中坊、ほくそ笑み、
中坊「あそこを辞める決心がついて、私に相談しに来たのかと思ったぞ」
  麻衣子、憮然とした面持ちで、
麻衣子「長官」
中坊「なんだ?」
麻衣子「変な顔で私を見ないでください・・・」
中坊「(失笑し)また、近いうちに会おう・・・」
  麻衣子、一礼し、扉を開け、外に出て行く。
  憮然とする中坊。

○ ブルーバード車内
  街中を走行している。
  無線機のアラームが鳴り響く。
  レシーバーを掴む幸田。
幸田「こちら『02』・・・」
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  無線機のマイクに話しかけている麻衣子。
麻衣子「監視員の話では、部長は、9時30分頃にゲートを通ったそうです。他に立ち寄りそうな
 ところを探したんですが、庁舎には、見当たりません・・・」  

○ ブルーバード車内
  幸田、溜め息を吐き、レシーバーに向かって話し出す幸田。
幸田「お前、そのままそこに待機してくれ」
麻衣子の声「わかりました」
  
○ 東京上空を飛行する230ヘリ
  地上に住宅やビルが隙間なく密集している様子が見える。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  レバーを握る土下。
  中央のパネルにあるモニターを見つめる。
  土下、モニターを見つめ、唖然とする。
土下「おっと・・・こう言う時に限って、やっかいなのを見つけちまうんだよな・・・」
  モニターに市道を猛スピードで疾走する黒いワンボックスカーの姿が映っている。
  ワンボックスカー、信号を無視して、次々と交差点を突っ切っている。
  
○ とある赤信号の交差点を突っ走るワンボックスカー
  左側の車道からやってきた青いセダンが急ブレーキをかけるが、立ち止まる事ができず、
  右側から走ってきた対向車のワゴンと激突する。

○ 小高い丘の緩やかな車道を突っ走るワンボックスカー
  その上空を飛んでいる230ヘリ。
  230ヘリ、ワンボックスカーの後を追い飛行している。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  モニターを見つめながら、ヘルメットのピンマイクに話しかける土下。
土下「武蔵野管内で黒いワンボックスカーが暴走中。練馬区方面に向かって北東に進んでいる。
 至急、緊急配備を頼む」
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  デスクの電話のアラームが鳴り響く。
  電話の前にいる麻衣子。慌てて、受話器を掴み上げる。
麻衣子「はい・・・」
  
○ MR2車内
  とある港の脇道に止まっている。
  窓の外に軍艦が航行しているのが見える。
  運転席に座る島。携帯を持つ手がぶるぶると震えている。
島「俺だ・・・」
   ×  ×  ×
麻衣子「島さん!」
   ×  ×  ×
島「今、晴海にいる・・・」
   ×  ×  ×
麻衣子「何のために、小山を連れ出したんですか?」
   ×  ×  ×
島「あいつは・・・何も悪くないんだ」
   ×  ×  ×
  麻衣子、怪訝な表情を浮かべ、
麻衣子「何を言ってるんですか?・・・」
   ×  ×  ×
島「幸田さんを・・・呼び出してくれ・・・」

○ 遊園地・『フライングパイレーツ』乗り場
  数人の客の列の中に、潜り込んで行く小神。
  小神、船から降りてくる乗客をまじまじと見つめている。
  小神、乗客の中で、七緒の姿を見つける。小神、思わず、叫び、
小神「七緒!」
  七緒、小神に気づくが、晴佳と共に別の方角へ逃げるように去って行く。
  二人を追いかける小神。
  通路を走り出す七緒と晴佳。
  その後を追っている小神。
  小神の前を遮るように男が立ちはだかる。
  男は、四堂である。
  四堂、右手に短銃を持ち、小神に向けている。
四堂「これでわかったでしょ?」
小神「そこをどけ、あいつと話をさせろ」
四堂「僕は、身勝手な大人が嫌いだ」
小神「自分のことを言ってるのか?」
四堂「・・・」
小神「なぜ、他人の子供ばかりに世話を焼くんだ?」
  四堂、失笑する。
四堂「・・・愛情に飢えた子供達を救済することが、そんなに悪いことなのか?」
小神「洗脳して、バクテリアの入った金属球をばらまかせ、工作員として
 働かせる事が、救済なのか?」
四堂「この国は、歪んだ大人が増えてしまった。金属球は、そんな大人から彼らを
 救うための唯一の手段だ」
小神「そう言うおまえも歪んでるじゃないか。つまらん正義感をぶら下げて、
 殺人集団を作り上げているだけだ」
四堂「・・・一つ良いことを教えてやるよ。春江川のスパイが警察上層部に
 紛れ込んでいる。警視総監だ」
小神「・・・長官が?」
四堂「あのセクションを一番潰したがっているのは、その長官ですよ・・・」
小神「・・・」
四堂「汚いことに目を瞑るのも大人の役目か・・・所詮、サツも春江川の犬か。
 つまらん正義感をぶら下げてるのは、はたして、どっちなんでしょうね・・・」
  愕然としている小神。
  暫くして、ヘリの羽音が鳴り響いてくる。四堂、後ろを振り向き、空を見つめる。
  230ヘリが遊園地に近づいてくる。
  四堂、小神の方を向き、
四堂「約束・・・守ってくれなかったんですね・・・」
  小神、ヘリを見つめ、唖然とする。

○ 230ヘリ・コクピット
  操縦をしながら、中央のパネルのモニターを見ている土下。ヘルメットの
  ピンマイクに向かって喋り出す。
土下「犯人は、遊園地に侵入した。今メリーゴーランド付近にいる」
  
○ 遊園地・メリーゴーランド前
  中年の男、そばにいた女性が抱いている赤ん坊を奪い取る。悲鳴を上げる女性。
  男、赤ん坊を抱え、右手にナイフを持ち、そのまま、小神達のいる方向に
  向かって走っている。

○ 同・通路
小神「何か事件があったんだ。私とは、関係ない。娘を返せ・・・」
四堂「・・・いいでしょう。但し、一つお願いがあります。警視総監から流れてくる春江川の
 情報を随時僕に教えてください」
小神「・・・捜査情報を・・・おまえに流せと言うのか?」
  四堂、不適な笑みを浮かべる。
  四堂の背後からナイフを持った男が猛烈な勢いで走り、迫ってくる。
  小神、怪訝に男を見つめる。
  四堂、近づいてくる男の足音を聞き、ふと振り返る。
  四堂、男が抱いている赤ん坊と右手に持つナイフを見つめる。
  四堂、咄嗟に男に向け、短銃の引き金を引く。
  男の額に弾が当たり、血飛沫が上がる。
  唖然とする小神。
  前のめりに倒れそうになる男から、赤ん坊を奪い取る四堂。
  四堂、子供を抱き、素早く、短銃をスーツの中にしまい込む。
四堂「・・・それができないなら、それまでです。また連絡します」
  四堂、足早にその場を立ち去って行く。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  モニターに映る小神と四堂。
  四堂、近づいてきた母親に子供を手渡すと、そのまま立ち去っていく。
  小神、ヘリを一瞥すると、踵を返し、逃げるようにその場を立ち去って行く。
  モニターを見つめ、唖然としている土下。

○ 港
  猛烈なスピードで走行してくるブルーバード。
  脇道に止まっているMR2と向かい合うようにして、立ち止まる。
  ブルーバードの運転席のドアが開き、幸田が降りてくる。
  MR2の運転席のドアが開き、島が降りてくる。
  互いの車の前で向かい合う二人。
幸田「説明してもらおうか、島・・・」
島「あいつは、無実です」
幸田「馬鹿な事言うな。あいつがヘリから降りてきたのをおまえも見ただろ?」
  島、首を振る。
幸田「小山は、章子達の重要な情報を握ってるかもしれないんだ。
 どこに連れて行ったんだ?さっさと教えろ!」
  島、突然、スーツの内ポケットに右手を入れ、ホルダーから、M1911A1ガバメントを抜き、
  幸田に銃口を向ける。
島「あんたのその命令口調には、前からむかついてたんだ・・・」
  幸田、島を睨み付ける。
  島の体が若干震え始める。
幸田「そうだったのか。そりゃあ、初めて知った」
島「そうやって、偉そぶってるから、清治君が孤立してしまったんだよ」
幸田「待てよ、清治の事は、関係ないだろ?」
島「・・・あの子を殺したのは、あんただ。あんたが見殺しにした・・・」
  幸田、島を睨み付け、
幸田「黙れ!」
  島、更に体の震えが激しくなってくる。
  幸田、島の異変に気づき、
幸田「・・・島、何もしないから、銃を下ろせ」
  島、痙攣し、顔が引き釣る。
  幸田の額から汗が滲み落ちている。
島「俺も人殺しだ・・・俺のせいで、笹島さんが・・・」
  島、激しく慟哭する。
  幸田、静かにジャケットの中に右手を差し込んでいる。
幸田「落ち着けよ、島!」
  島、自分の蟀谷に銃口を当てる。その瞬間、幸田、咄嗟にホルダーからコルト・パイソン
  を抜き、島の右腕に銃口を向け、引き金を引く。
  島の右腕に銃弾が貫通する。
  と同時に島、自分の拳銃の引き金を引くが、銃口は、空を向いている。
  拳銃を落とす島。
  幸田、慌てて走り出し、島の元へ駆け寄る。
  島、その場に崩れ、激しく痙攣を起こしている。
  島を抱き上げる幸田。
  島、白目を剥き、意識を失っている。
  
○ 地下施設・監視ルーム
  ソファに座る章子。紫色のワインが入ったグラスを揺らしている。
  グラスを見つめる章子。
  グラスに、向こう側のソファに座る末沢の姿が映っている。
  末沢、俯き加減になり、苛立っている様子。
章子「あなたも飲む?」
  末沢、章子に視線を合わせる。
末沢「一体、いつまで僕をここに座らせとく気だ?」
章子「(ほくそ笑み)何を苛ついてるの?」
末沢「さっきの部屋に戻してくれないか?」
章子「私といるのがそんなに嫌?」
  末沢、また、俯き、険しい表情を浮かべている。
章子「いいわ。いいもの見せてあげる」
  章子、テーブルに置いてたリモコンを持ち、ボタンを押す。
  末沢の背後にある白い壁が大きな音を立て、スライドし、開き始める。
  壁の向こうから、箱形のコンピュータシステムが現れる。
  薄緑色の巨大なパネル上にマルチモニターが設置されている。
  モニターには、地上にある施設の姿が映し出されている。
  末沢、後ろを振り向き、コンピュータシステムを見つめている。
末沢「何なんだ?これは・・・」
  章子、笑みを浮かべる。
章子「あなたが興味を引くものよ・・・」
  末沢、立ち上がり、モニターーの前に近づいて行く。
  モニターの前に立ち止まる末沢。右下の画面に映る白い建物を見つめ、
末沢「甲斐崎の工場じゃないか・・・」
章子「モニターのそばに赤いボタンがあるでしょ?」
  末沢、赤いボタンを見つめる。
章子「それを押してみなさい・・・」
末沢「何のボタンだ?」
章子「押せばわかるわよ」
  末沢、怪訝な表情で章子を見つめる。
 
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  デスクの電話が鳴り響く。
  慌てて、電話の前に行く麻衣子。
麻衣子「はい、第5チームオフィス・・・」
  
○ 甲斐崎バイオメディカルセンター前
  工場の前にシルバーのセダンが止まっている。
男の声「8チームの江崎です」
  
○ セダン車内
  運転席に座る青いスーツを着た男・江崎 晴彦(34)。携帯を持ち、話をしている。
江崎「春江川とこの工場を結ぶ決定的な証拠が見つかりましたよ」
  江崎、左手に紫色の液体が入った容器を持っている。
   ×  ×   ×
麻衣子「何ですか?」
   ×  ×   ×
江崎「地下に自由電子レーザーの実験施設を発見したんですよ。それと、レーザー出力を
 通常の3倍に上げる『メリトリプルD』と呼ばれる物質も見つけました・・・」

○ 地下施設・監視ルーム
  赤いボタンを見つめている末沢。
  章子、不適な笑みを浮かべながら、末沢を見つめ、
章子「どうしたの?早く押しなさい」
  末沢、険しい表情を浮かべる。
  入口前に立っている梨琉。カービン銃を末沢の方に向け、構える。
  末沢、困惑した様子で息を飲む。

○ セダン車内
江崎「奴らは、これを狙っていたんです。この物質は、東南アジアから取り寄せたものだそうで、
 今、春江川の金属球輸送ルートとの関連も調べています。それと、従業員の話では、
 少年達の右腕に黒い獅子のマークが・・・」

○ 地下施設・監視ルーム
  末沢、モニターを見つめ、静かにボタンに指を当てる。
  激しい動揺と焦燥感に襲われる末沢。
  嘲笑を浮かべる章子。
  銃の引き金に指を当てる梨琉。
  末沢、意を決して、ボタンを押す。

○ 突然、バイオメディカルセンターの工場の搬入口から爆発し、
  巨大なオレンジの炎が吹き上がる
  工場前に止まっていた江崎の乗るセダンも炎に包まれる。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  電話が突然切れる。
麻衣子「もしもし・・・江崎さん?」

○ 地下施設・監視ルーム
  モニターの右下の画面に映っていた工場が巨大な炎に包まれている。
  大きく目を見開き、驚愕する末沢。
  高笑いする章子。

○ 国道を走行する救急車
  激しくサイレンを鳴らしながら、一般車両を追い抜いている。
  救急車の後ろを走るブルーバード。
幸田の声「島は、見つかった。今警察病院に向かっているところだ」

○ 東京都心上空を飛行する230ヘリ
土下の声「奴の様子は?」

○ ブルーバード車内
  運転席に座り、ハンドルを握る幸田。
  無線機のレシーバーを掴み、喋っている。
幸田「命に別状はない。調べてもらわないとはっきりしないが、章子が作った
 高性能洗脳薬特有の症状が出ていた事は、間違いない」

○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席に座り、レバーを握っている土下。
土下「そうか・・・あのな、幸田。おまえに見せたい映像があるんだ」

○ ブルーバード車内
幸田「転送してくれ」
土下の声「それが、ちょっとやっかいな代物でな・・・」
幸田「・・・」
土下の声「近くの埠頭で落ち合おう・・・」
幸田「・・・わかった」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  麻衣子、受話器を持ち、江崎の携帯のナンバーを押すが、つながらない。
  麻衣子の向かい側に見える幸田のデスクの電話が鳴り響いている。
  麻衣子、慌てて幸田のデスクに近寄り、受話器を取る。
麻衣子「第5チームオフィスです・・・」
  
○ 同・研究室
  壁に設置されている電話の受話器を持ち、話をしている麗莉。
麗莉「宮本です。遺体の復元作業が完了しました。データをそちらに送ります」
  
○ 同・危機管理特命科学捜査班・オフィス
麻衣子「あっ、はい・・・」
  麻衣子、慌てて自分のデスクに座り、パソコンのディスプレイを見つめる。
  ディスプレイにCGで描かれた男の顔が映し出される。
  切れ長の細い目をし、高い鼻、薄い唇、顎髭を貯えている。
  麻衣子、そのイメージを見つめ、また、あの幻想が過る・・・
  
○ 麻衣子の幻想
  鏡に映る麻衣子の背後に黒い無気味な渦が現れ、やがて、それが黒い獅子に変わる。
  黒い獅子が麻衣子に襲いかかる。麻衣子の体が黒い渦に包まれる。
  鏡に映る麻衣子、不適な笑みを浮かべている。黒い獅子に包まれた麻衣子の姿がやがて、
  みるみると変形し、切れ長の細い目をした男の姿に変貌していく・・・。

○ 同・危機管理特命科学捜査班・オフィス無線機のアラームが鳴り響いている。
  受話器から手を離し、両手で頭を抱え込む麻衣子。
  受話口から麗莉の声が聞こえる・・・。
麗莉の声「もしもし?どうかしたの?・・・」
  麻衣子、苦しげな表情を浮かべ、
麻衣子「どうなってんの?私の頭の中・・・」
  入口の自動ドアが開き、小神が姿を現わす。
  小神、麻衣子のデスクの前で立ち止まる。
小神「どうした、葉山?」
  麻衣子、ハッと我に返り、小神を見つめる。
麻衣子「部長!」
小神「幸田達は?」
麻衣子「島さんが取り調べ中に小山と一緒にどこかへ消えてしまって・・・」
  険しい表情を浮かべる小神。
  小神、無線機の前に近づいて行く。

○ ブルーバード車内
  運転席に座り、ハンドルを握る幸田。
  無線機のアラームが鳴り響く。
  左手でレシーバーを掴む幸田。
小神の声「私だ・・・」
  唖然とする幸田。
幸田「部長・・・」
   ×  ×  ×
  レシーバーを持つ小神。
小神「島は、見つかったのか?」
   ×  ×  ×
幸田「ええ。今、病院へ搬送中です。小山をどこかに逃がしたようです・・・」
   ×  ×  ×
小神「至急こっちに戻って詳しい情報を教えてくれ」
   ×  ×  ×
幸田「わかりました・・・一体どこに行かれてたんですか?」
   ×  ×  ×
  憮然とする小神。
小神「野暮用だ。勝手に留守してすまなかったな。それじゃあ、よろしく頼む」
   ×  ×  ×
  通信が切れる。
  怪訝な表情を浮かべる幸田。

○ 地下施設・監禁部屋
  暗がりの部屋。扉が開き、外の光りが差し込む。
  中に入ってくる末沢。魂の抜け殻のような力ない表情をしている。
  部屋の片隅で丸くなって座っている千田 十聖(48)。近づいてくる末沢を
  まじまじと見つめている。
  末沢、壁の前ですっとしゃがみこむ。俯いて、床の一点を呆然と見ている。
  入口の前に立ち、銃を構えている梨琉。
  扉から離れ、立ち去っていく。
  扉がスライドし、自動的に閉まる。
  末沢が気がかりになり、声をかける千田。
千田「・・・あいつらに何かされたのか?」
  末沢、ゆっくりと顔を上げ、千田の顔を見つめる。
  唖然とする末沢。
末沢「あんた・・・なんで、ここに?」
千田「さっき、連れて来られたんだ。息子を助けるためにここに来たのに、
 あいつら、騙しやがって・・・」
末沢「息子・・・?」
千田「黒いトレーラーでやってきた奴らの中に、私の息子が紛れ込んでいたんだ・・・」
末沢「奴らの狙いは?」
千田「工場で保管していた新物質だ」
末沢「あそこで何を作っていたんだ?」
千田「政府の秘密プロジェクトに参加していた・・・」
末沢「レーザー兵器か・・・」
  末沢、苦々しい表情を浮かべ、千田から顔を逸らす。
千田「あの時は、嘘を吐いてすまなかった。奴らに脅されて、何も喋ることができなかったんだ」
末沢「もう遅いよ・・・」
千田「えっ?」
  末沢、悔しさのあまり、床をおもいきり拳で殴り、
千田「遅いって・・・どういうことだ?」
末沢「工場は・・・俺が・・・」
  怪訝に末沢を見つめる千田。

○ 車道を走行するセンチュリー
  センチュリーの背後に、国会議事堂が見える。
  
○ センチュリー車内
  後部座席に座る春江川 幸造(72)。春江川、携帯を耳にしている。
春江川「君もなかなかやり手だな、相沢君」

○ 地下施設・監視ルーム
  ソファに座る章子。携帯を耳にしている。
章子「あら、先生ほどでは、ないですわ。私が先生の愛人をやっていた時に、全てを教えて
 くれていたら、こんなことには、ならなかったのに・・・」
   ×  ×  ×
春江川「困ったものだな。君のことを高く評価していたんだよ・・・」
   ×  ×  ×
章子「そう言ってもらえるなんて、光栄ですわ」
   ×  ×  ×
  春江川、急に強面の表情に変わり、
春江川「でも、失望したよ・・・」
   ×  ×  ×
章子「先生、もうお年なんですから、そろそろ引き際を考えられたほうがよろしいですわ・・・」
   ×  ×  ×
春江川「(失笑し)そうは、いかんよ。こんなイカれた国をほっとくわけには、いかない。
 私の役目は、まだ終わっていないんだ」
   ×  ×  ×
章子「私が終わらせてあげますわ。これからも期待しててくださいね・・・」
   ×  ×  ×
春江川「程ほどにしないと・・・また、お尻をひっぱたくよ」
   ×  ×  ×
章子「(鋭い目つきになり)望むところですわ・・・」

○ 埠頭
  ホバリングしながらゆっくりと地上に降りてくる230ヘリ。
  暫くして、ブルーバードが姿を現わす。猛スピードでヘリに向かってくるブルーバード。
  着地したヘリの横に立ち止まる。
  運転席のドアが開き、幸田が降りてくる。  

○ 230ヘリ・コクピット
  計器盤の中央のパネルに設置されているモニターに遊園地の映像が映っている。
土下の声「追跡していた暴走車の男が、遊園地に逃げ込みやがってな。そこで、
 とんでもないものを見てしまったんだ・・・」
   ×  ×  ×
  フライング・パイレーツの乗り物の前に群がる客達が映し出される。
   ×  ×  ×
  土下、パネルの『ZOOM』ボタンを押す。
   ×  ×  ×
  アップで映し出される映像。乗り場の近くに、小神が立っているのが見える。
  その向こう側に四堂が立っている。
   ×  ×  ×
  助手席に座る幸田。唖然としながら画面を見ている。
幸田「部長・・・」
  幸田、険しい目つきで画面を見つめ、
幸田「四堂・・・」
   ×  ×  ×
  四堂の背後から、ナイフを持った男が勢い良く走ってくる。
  四堂、サッと振り向き、男を銃で撃つ。
  前のめりに倒れる男。
  四堂、男から赤ん坊を奪い取り、小神に言葉をかけると、颯爽と立ち去って行く。
   ×  × ×
土下「どう言うことなんだ?幸田・・・」
  幸田、画面を見つめ、深く考え込んでいる。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  入口の扉が開く。幸田が姿を現わし、部長オフィスのほうに向かって突き進んでいる。
  自分のデスクの椅子に腰掛けている麻衣子。幸田に気づき、咄嗟に立ち上がる。
麻衣子「幸田さん。大変です」
  幸田、麻衣子の前で立ち止まる。
麻衣子「甲斐崎バイオメディカルセンターで爆発がありました・・・」
  驚愕する幸田。
幸田「・・・原因は?」
麻衣子「まだ、わかっていません。工場の従業員、それから8チームの3人と十数人の捜査員が
 犠牲に・・・」
  麻衣子、呆然と俯く。
麻衣子「私、ちょうどその時、江崎さんと話をしていたんです・・・」
幸田「江崎から何か聞いたのか?」
麻衣子「工場の地下で自由電子レーザーの実験場を見つけたって言ってました・・・
 それと、新物質のことも・・・」
  幸田、憤然とした様子で部長オフィスに向かって歩き出す。
  
○ 同・部長オフィス
  椅子に腰掛けている小神。デスクの前に立つ幸田と向かい合っている。
小神「そうか・・・ヘリのビデオに映ってたか・・・」
幸田「四堂と・・・何のやりとりをしたんですか?」
  小神、憮然とした様子で目を瞑る。
幸田「答えてください部長!」
小神「・・・私は、危特を辞職する」
  険しい目つきで小神を睨み付ける幸田。
  小神、目を瞑ったまま、唇を噛み締めている。
   
                                                −デビルコントロール・完−

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