『555 ダッシュバード 危特科捜班』第七回「覚醒ノイズ」byガース『ガースのお部屋』

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの椅子に座り、煙草を加え、ジッポで火をつける小神 洋介(48)。
  小神と対峙し、立っている幸田 智(35)。
  小神を睨み付けている。
幸田「・・・辞めるなら、全て吐き出してからでも遅くはないでしょ?」
  小神、煙草の煙を燻らしている。
  重たい溜め息をつくと、幸田に視線を合わせる。
小神「・・・娘が誘拐された。やったのは、四堂だ」
  驚愕する幸田。
小神「娘を取り戻すのと引き換えに、春江川についての捜査情報を流せと脅してきた・・・」
幸田「四堂は、なぜ春江川の情報を欲しがっているんです?」
小神「わからん。しかし、あいつは、我々の情報を知り尽くしている。もしかしたら、
 第5チームに、奴のスパイが紛れ込んでいるのかもしれない・・・」
  小神、怪訝な表情で幸田を見ている。
  幸田、険しい顔つき。
小神「島の溶体は?」
幸田「高井が作った抗体カプセルを飲ませたので、そろそろ意識を取り戻しているはずです」
  小神、憮然とした表情で煙草の煙を吐く。幸田、唖然とし、
幸田「まさか、あいつがスパイだと思っているんじゃあ?」
小神「奴らに洗脳されてたんだ。否定は、できん」
  小神、灰皿に煙草を押しつけ、立ち上がり、
幸田「島のところに行くんですか?俺が行きます」
小神「直接、奴から事情を聞きたいんだ」
  小神、幸田のそばを横切り、入り口に向かって歩いて行く。
  幸田、困惑した面持ちで小神の背中を見つめている。

○ 地下施設・監禁部屋
  暗がりの部屋。
  片隅の壁にもたれ、塞ぎ込んでいる末沢 裕太(28)。
  末沢の前で、右往左往と歩き続けている千田 十聖(48)。
  末沢、千田を見つめ、
末沢「何をそわそわしてるんだ?」
千田「こう言うところは、どうも落ち着かなくてな・・・」
末沢「狭所恐怖症か?」
千田「暗所恐怖症だ」
  千田、苛々した表情で扉を何度も思い切り蹴り上げる。
  末沢、正面に見える天井に設置されている監視カメラを睨み付けるように見つめている。
  千田、興奮した様子で、監視カメラに向かって突進して行く。
  千田、監視カメラを右手で触れる。その途端、激しいスパーク音と共に、カメラから
  紫色の火花が散り、千田の全身に電気が流れる。
  千田、体を痙攣させながら、のけ反るように倒れる。
  末沢、千田に近づき、抱き起こす。
末沢「しっかりしろ!」

○ 同・監視ルーム
  壁に設置されている薄緑色の巨大なパネル上のマルチモニター。
  9つある画面の中央の列、右端のモニターに監禁部屋の暗視映像が映っている。
  画面の前に佇む相沢 章子(33)。
  画面に映る末沢。カメラを睨み付けている。その様子をまじまじと見つめ、
  薄笑いを浮かべている章子。
章子「・・・かわいい」
  入口の自動ドアがスライドして開く。四堂 豹摩(29)が姿を表わす。
  章子、振り返り四堂を見つめる。
章子「話しは、ついたの?」
四堂「ええ。ちょろいもんですよ。向こうは、かなり動揺していました」
  四堂、ソファに座り込む。
  テーブルに置かれている紫色の酒瓶を手に持ち、
四堂「これ、もらいますよ」
  四堂、手前にあったグラスに酒を注ぐ。
章子「小神の娘は、どこにいるの?」
  四堂、グラスの酒を一気に飲み干し、
四堂「それは、あなたにも教えられないな」
  章子、憮然とする。
四堂「これは、僕の個人的な仕事です」
章子「それを理解したからこそ、あなたと組んだのよ。お互い、隠し事は、抜きにしましょう」
  四堂、無気味に笑みを浮かべ、
四堂「じゃあ、一度抱かせてください」
  章子、平然と済ました表情。
  四堂、失笑し、
四堂「冗談ですよ。娘は、僕の部屋にいます。明日の朝十時に、また小神と接触します」
  章子、また振り返り、マルチモニターを  見つめる。
四堂「幸田って男にまだ未練があるんですか?」
章子「・・・そうじゃないわ。あいつは、見た目以上に、危険な男よ」
  四堂、憮然とした表情で、立ち上がり、入口のドアに向かって歩き出す。
  章子、モニターを見つめたまま、
章子「どこ行くの?」
  立ち止まる四堂。
四堂「・・・僕のこと、まだ信用していないみたいですね。あいつなんか、ほんの数秒で
 あの世送りにできますよ。もっとも、あなたしだいですが・・・」
  章子、寡黙にモニターを見ている。
  四堂、そのまま、部屋を出て行く。

○ 繁華街(夜)
  色鮮やかにきらめく飲食店のネオン。
  行き交う人々。酔い潰れたサラリーマン、肩を抱き合いながら歩く若いカップル、
  カラフルな派手な衣装を身に付けた若者達の集団  。
  その中に、激しく憤った表情をしながら歩くグレイのスーツ姿の男・仲貝 光彦(35)がいる。
  仲貝、煙草の煙を勢い良く吐き出すと、吸殻を正面に投げつける。
  仲貝の前を歩いてきた黒いスーツを着た大柄、角刈りの男の靴に吸殻が当たる。
  仲貝、男を無視して、歩き続ける。
  男、突然、仲貝の左肩を鷲掴みし、自分の前に引き寄せる。
男「おい!」
  仲貝、男の顔に唾を吐きかける。
仲貝「離せ、糞野郎!」

○ 繁華街・裏通り
  工事現場前の暗がりの道。激しい殴打の音が響き渡っている。
  道端に倒れ込む仲貝。鼻血を垂らし、口から血を流している。
  男、右手に持っていた鉄パイプを放り投げ、仲貝の横腹を蹴り上げる。
  男、仲貝から奪い取った財布から、3枚の札を抜き取り、
男「足りんな・・・」
  財布からクレジットカードを全てを抜き取ると、
男「暗証番号は?」
   ×  ×  ×
  よろよろとふらつきながら歩いている仲貝。
  腹を右手で押さえながら、痛みを堪えている。左手に鉄パイプを持っている。
  立ち止まる仲貝。激しく咳き込み、路上に血を吐いている。
  顔を見上げる仲貝。仲貝、正面に見えるコンビニを鋭い目つきで見ている。
仲貝「クソ!なめてんじゃねぇぞ!」
  どこからともなく女の声が聞こえる。
女の声「おじさん・・・」
  仲貝、声のほうに振り向く。
  セーラー服を着た笹川 晴佳(16)が立っている。
晴佳「大丈夫?」
  仲貝、晴佳をまじまじと見つめ、
仲貝「かわいいな。いくらならやらしてくれる?」
晴佳「勘違いしないでよ。鉄パイプなんか持っちゃって、どうしたの?」
  晴佳、コンビニのほうを見つめ、
晴佳「まさか、強盗でもするつもり?」
  仲貝、薄笑いを浮かべ、
仲貝「・・・強盗でもレイプでも何でもやってやる」
  晴佳、ポシェットから金属球を取り出し  、
晴佳「これ、あげる」
  晴佳、金属球を仲貝に手渡す。
  仲貝、不思議そうに金属球をまじまじと見つめ、
仲貝「・・・大人をからかうと、痛い目にあうぞ」
晴佳「叔父さんの望みをなんでも叶えてくれる魔法の球になるかも・・・」
  晴佳、笑みを浮かべる。

○ 警察病院5階・個室病棟
  ノック音。扉が開き、小神が部屋の中に入ってくる。
  ベッドで横になっている島 健司(29)。右腕を包帯で釣っている。
  小神に気づき、起き上がる島。
島「すいません。ヘマやらかして・・・」
小神「どこで薬を飲まされたか、覚えているか?」
島「・・・繁華街を歩いてて、女と擦れ違ったんです」
小神「女?」
島「多分、相沢章子です。相沢を追って、パチンコ屋に入って、しばらくして、四堂が
 やってきたんです。そこで奴と撃ち合いに・・・」
小神「相沢と四堂が一緒にいたのか?」
島「はい。その後のことが・・・どうしても思い出せない・・・」
  島、自分の右腕を見つめ、
島「記憶が断片的に抜けているんです。なぜ、自分が撃たれたのかも、
 まったく覚えていなくて・・・」
  小神、深い溜め息を吐く。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  デスクの電話の受話器を置く葉山 麻衣子(26)。
  麻衣子、幸田のデスクの前に行く。座席に座る幸田のそばに近寄り、
麻衣子「甲斐崎バイオメディカルセンターの被害状況がわかりました。
 ほぼ跡形もなく破壊されてしまったようです。現状の残骸からTNT爆弾の
 破片が見つかりました」
幸田「TNT?」
麻衣子「四堂が私と島さんをビルの部屋に閉じ込めた時に使ったものと同じです。
 それと、設計にはなかった地下室の存在も確認されました」
幸田「・・・江崎が最後に残した言葉と合致し始めたな。甲斐崎の工場に乗り込んできたのは、
 章子の工作員のグループに違いない。奴らが工場に爆弾を仕掛けたんだ」
麻衣子「『メリトリプルD』さえ、残っていれば、春江川と金属球の関係を結ぶ決定的な
 手がかりになったのに・・・」
  幸田、ハッと何かを察知し・・・
幸田「そうか、あそこは、春江川のレーザーライフルの製造工場だったのか・・・」
麻衣子「レーザーライフル?何のことですか?」
幸田「お前には、まだ言ってなかったが、奴は、民間セキュリティー団体の設立を名目に
 レーザー技術を取り入れた武器を開発しようとしているんだ」
麻衣子「なんで、そんなものを?」
幸田「目的は、まだわかっていない。章子達は、あそこが春江川の工場だと知って、
 襲撃した。お前を襲ったトレーラーにレーザー兵器が装備されていたって事は、奴らは、
 すでにその技術を手に入れた可能性が高い」
麻衣子「相沢達・・・そんなものを手に入れて何を・・・」
幸田「・・・」

○ 小坂電子精密産業ビル
  十階建ての近代的なビル。
  入り口前にスーツ着の男がやってくる。
  仲貝である。
  仲貝、無気味な目つきでビルを見上げ、入り口に向かって歩いて行く。

○ 同・一階・警備室
  受付の窓口に警備員が座っている。
  窓口の前に仲貝がやってくる。
  警備員、仲貝を見つめ、
警備員「仲貝さん、どうしたんですか?こんな時間に・・・」
仲貝「忘れ物を取りに来たんだ・・・」
警備員「待ってください。私も同行します」
仲貝「ああ・・・いいよ、すぐに終わるから 」
  警備員、仲貝の顔をまじまじと見つめ、
警備員「怪我されたんですか?」
  仲貝、薄笑いを浮かべ、
仲貝「さっき、階段でこけたんだ・・・」
 
○ 同・二階・オフィス
  暗がりの中で、物音が聞こえる。
  仲貝、あるデスクの前にしゃがみこみ、引き出しを開けている。
  敷きつめて、入れられている書類を探り始める。
  仲貝、ある書類を取り出し、まじまじと見つめ、ほくそ笑む。
    ×  ×  ×
  自分のデスクに近寄る仲貝。デスクの下に置いていたスーツケースを右手に持ち、
  引き出しから、DVD−RAMを取り出すと、その場を立ち去って行く。

○ 地下施設・監禁部屋
  壁際に座り込み、身震いしている千田。
千田「こんなことになるんだったら、あんなもの、引き受けるんじゃなかった・・・」
  千田と反対側の壁にもたれている末沢。
末沢「兵器の製造を指示して来たのは、誰だ?」
千田「・・・・防衛庁事務次官の飛田だ」
末沢「飛田盛男か?」
千田「ああ・・・」
  末沢、立ち上がり、監視カメラをまじまじと見つめる。
末沢「ここから抜け出すぞ」
  千田、怪訝に末沢の背中を見つめる。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  入り口の自動ドアが開き、小神が現れる。
  幸田、立ち上がり、小神の前に近寄る。麻衣子も後を追う。
幸田「どうでした?」
  小神、立ち止まり、複雑な表情を浮かべ、
小神「私のオフィスで話そう」
  歩き出す小神。
  幸田、麻衣子、小神の後をついて行く。

○ 同・部長オフィス
  デスクの前に座る小神。
  デスクの向こう側に立っている幸田、麻衣子。
小神「島を暫く、チームから外す」
  麻衣子、唖然とし、
麻衣子「どうしてですか?」
小神「あいつは、薬を飲まされる前に相沢達と接触していた。二日間の洗脳状態の間に、
 奴らに我々の情報を流していた可能性がある」
幸田「末沢を探すには、奴の力が必要です。金属球事件の捜査にも支障がでます」
小神「セクションの情報管理は、最優先されなければならない重要事項だ」
幸田「じゃあ、七緒ちゃんは、どうするんです?」
  小神、寡黙になり、困惑する。
  麻衣子、幸田を見つめ、
麻衣子「なおちゃん?」
小神「・・・」
麻衣子「幸田さん、なおちゃんって、誰・・・」
  幸田、麻衣子の話を無視し、
幸田「部長・・・俺に考えがあります」
  小神、深い溜め息を突き、
幸田「かなり危険な作戦ですが、それを承知して戴けるなら、お話しします」
  小神、険しい表情で幸田を見つめる。

○ ビジネス街(深夜)
  高層ビルに囲まれた道路を走行している黄色いタクシー。
  タクシー、ウィンカーを光らせ、手前の交差点の脇道に止まる。
  
○ タクシー車内
  開いた後部の座席にスーツ姿の男が乗り込んでくる。男、ドアを閉める。
  ドライバーの男、バックミラーを見つめ、
ドライバーの男「どちらまで?」
  バックミラーに後部席に座る仲貝の姿が映っている。
仲貝「ああ、僕がナビするから・・・」
ドライバーの男「わかりました」
  ドライバーの男、シフトレバーをローに入れ、車を発進させる。
  無気味な目つきでドライバーを見ている仲貝。
  仲貝、スーツの上着のポケットから、ゆっくりと金属球を取り出す。

○ 歩道橋の下を潜り抜けて行くタクシー

○ タクシー車内
仲貝「この間、さっきの歩道橋で異臭騒ぎがあったらしいね」
ドライバーの男「ああ、なんかのガスで高校生が殺されたって言ってましたね。犯人は、
 まだ捕まってなかったんじゃ?」
仲貝「そのガスの入った球が街で売られているみたいだよ」
ドライバーの男「へぇ、世も末ですな。明日は、我身か・・・」
  仲貝、ドライバーの顔元に金属球を差し出す。ドライバー、唖然とし、
ドライバーの男「なんですか、これ?」
仲貝「この金属の表面に摂氏四十度の熱を与えれば、一人の人間を確実に殺す量のガスが発生する」
  笑みを浮かべるドライバーの男。
ドライバーの男「冗談言わないでくださいよ」
  仲貝、球をきつく握り始め、
仲貝「試してみようか?・・・」
  ドライバーの男、バックミラーに映る狂気に満ちた仲貝の様子を見つめ、戦慄する。

○ マンションの駐車場の前に入り込むタクシー
  急ブレーキをかけ、立ち止まる。
  運転席のドアが開き、ドライバーの男が飛び出してくる。
  後部席のドアが開き、仲貝が出てくる。
  仲貝、そのまま、運転席に乗り込む。
  タクシー、勢い良くバックし、路上に出ると、急発進して走り去って行く。

○ 地下室・監禁部屋(夜明け前)
  監視カメラの前に佇む末沢。
  カメラを見つめながら背広を脱ぐ。背広を大っぴらに広げ、カメラに向けて放り投げる。
  背広がカメラに覆い被さる。
  紫色の火花を上げ、激しくスパークしているカメラ。

○ 同・監視ルーム
  章子、部屋の片隅にある酒瓶を置いた白い棚の前にいる。
  扉を開け、上段の棚から、酒瓶を右手で掴み取る。
  酒瓶を取り除いてできた隙間をまじまじと覗き込む章子。
  隙間の奥に、茶色い唐草模様をした古い宝石箱が見える。
  章子、それを憮然とした表情で掴み、外に出す。
  ソファに座り、宝石箱をテーブルに置く章子。宝石箱の蓋を開け、中を見つめる。
  金色のネックレス、バッジ、そして、赤い血の血痕がついたペンダントを取り出す。
  章子、右手に持ったペンダントを睨み付けている。
  章子、ふと正面に見えるマルチモニターを見つめる。
  9つの画面の中央の列の右端のモニターが真っ黒に染まっている。
  章子、薄笑いを浮かべ、テーブルに置いてあるマイクロシステムのボタンを『ON』にし、
  ヘッドマイクをつけ、喋り出す。
章子「梨琉、イミュリメントルームナンバー3を確認して・・・」

○ 同・監禁部屋
  観音開きの鉄の扉が自動的に開く。
  部屋に光が差し込み、軍服を身に付けた佐伯 梨琉(16)が姿を表わす。
  梨琉、カービン銃を構え、ゆっくりと中に進む。
  扉の前の左右の壁際に身を潜めている末沢と千田。
  末沢、カービン銃に掴みかかる。
  梨琉、慌てて引き金を引く。激しく鳴り響く銃声。天井に火花を散らし弾く銃弾。
  千田、梨琉の背後に近づき、腰に手を回すと、そのまま、力任せに梨琉の体を投げ飛ばす。
  梨琉、銃から手を離し、壁に勢い良く背中を打ち付け、突っ伏すように倒れる。
  末沢、唖然とし、
末沢「すげぇ怪力だな・・・」
千田「若い頃、レスリング部にいてな。力を出し過ぎた・・・」
  末沢、カービン銃を片手に持ち、
末沢「あまり無茶するなよ。この子も被害者なんだ・・・」
千田「被害者?」
末沢「相沢達は、見ず知らずの少年少女達を集めて、洗脳してるんだ」
千田「やつら、そんな研究もしていたのか・・・じゃあ、俺の息子も・・・」
末沢「・・・行こう」
  末沢、千田、走り出し、部屋の中から出て行く。

○ 同・通路
  走っている末沢と千田。
  末沢、突然立ち止まり、壁際に身を寄せる。千田も釣られて、壁に寄りそう。
千田「どうした?」
  末沢、顎で正面の方角を差す。
  通路の奥に監視カメラが設置されているのが見える。
  末沢、カービン銃を構え、監視カメラに銃口を向ける。
千田「そんなことしたら、俺達が逃げた事がばれるぞ」
末沢「仕方ない」
  末沢、銃を構え、引き金を引く。
  弾がカメラに向けて、数発発射される。
  監視カメラ、炎を上げ、風船が割れたように、破裂する。

○ 同・監視ルーム
  マルチモニター、上の列の右側の画面が真っ黒になる。
  ソファに座っている章子。異変に気づき、マイクに喋りかける。
 
○ 同・監禁部屋
  暗がりで、倒れている梨琉。
  ヘッドマイクのスピーカーから章子の声が流れている。
章子の声「梨琉、何してるの?」

○ 同・監視ルーム
  マルチモニターの画面が次々と真っ黒になって行く。
  章子、怪訝な表情を浮かべ、緊急用ボタンを作動させる。
  マイクロホンの無線を切り替えるボタンを押し、マイクに向かって喋り出す。
章子「イミュリメントルームから脱走者。直ちに警戒体制に入りなさい」

○ 同・通路
  軍服を着た数十人の少年少女達がカービン銃を持ち、一斉に走り出している。
  あちらこちらに落ちている黒焦げになった監視カメラの残骸の前を通り過ぎて行く。

○ 同・クリーン・ルーム
  暗がりの部屋。
  巨大なマシーン・システムの間に身を伏せ、隠れている末沢と千田。
  そばの通路を少年少女達が駆けている。
  末沢、カービン銃を見つめながら、溜め息をつき、
末沢「参ったな・・・少年達を無闇に攻撃する事はできないし・・・」
千田「・・・ここは、レーザー研究用の部屋のようだな」
末沢「なぜ、そんなことがわかる?」
  千田、部屋の奥に置かれているある巨大な装置を指差し、
千田「あれは、うちの工場で使っていた自由電子レーザーの実験装置だ」
  末沢、装置をまじまじと見つめ、
末沢「相沢は、あれが欲しくて、甲斐崎の工場を襲ったのか?」
千田「試作段階のレーザーライフルがどこかにあるかもしれない。あれは、照射レベルを
 調整できるように作られている。最少レベルにセットすれば、相手に軽い電気ショックを
 与える事ができる。だが、まだ私自身は、試したことがない」
末沢「とにかく、そいつを探そう・・・」
  末沢、千田、別々に別れて、辺りを探り始める。
  マシーンルーム入口の扉が開き、部屋の照明が一斉に光り始める。
  カービン銃を構えた二人の少年が中に入り込んでくる。
  マシーンとマシーンの隙間に入り込み、隠れる千田。
  千田、少年の姿を見つめ、唖然とする。
千田「一樹・・・」
  片方の丸刈りの少年は、千田 一樹(15)。
  デスクの下に身を隠している末沢。
  向こう側のデスクの上をまじまじと見つめる。
  デスクの上に置かれているレーザーライフルを見つける。
  千田、マシーンの隙間から出て、少年達の前に姿を表わす。
千田「一樹!」
  一樹ともう一人の少年、一斉に千田のほうに銃を構える。
千田「・・・相沢に洗脳されたのか?目を覚ませ!」
一樹「洗脳なんかされてねぇよ」
千田「・・・」
一樹「日向の泥をかぶって、あんなつまんねぇ工場の管理者に成り下がりやがったあんたに、
 鉄槌を下すために、獅勇部隊に参加したのさ」
千田「しゆうぶたい?」
一樹「あんた、政策資金をレーザー兵器の開発費用に回してたんだってな」
千田「・・・相沢から聞いたのか?そんなのは、でたらめだ」
一樹「子供だからって、嘘ついて許されると思ってるのか?政策秘書は、政治家の手助けする
 立派な仕事だって、えらそぶってたくせに、実際やってたのは、こんなことじゃねぇかよ」
  一樹、銃の引き金に指を当てる。
一樹「僕達は、目覚めた。この国に、変革をもたらすのは、僕達自身であることを・・・」
  一樹が引き金を引こうとした瞬間、衝撃音がし、一樹の背中に黄色い閃光がほとばしる。
  一樹、電気ショックを受け、その場に倒れ込む。もう一人の少年もその場に崩れ落ちる。
  倒れた少年の背後に末沢がレーザーライフルを構え立っている姿が見える。
  千田、しゃがみこみ、一樹を抱き起こすと、一樹の心臓に耳を当てている。
  末沢、千田の前に近づき、
千田「・・・大丈夫だ」
末沢「変革をもたらすって言ってたな。戦争でも始める気か?」
千田「・・・相沢達の行動を見る限り、笑い話ですみそうにないな・・・」
末沢「・・・ここから出るぞ」
  千田、一樹を背中に乗せる。
  末沢、千田、部屋の入口に向かって歩いて行く。

○ 同・通路
  ゆっくりと駆けている末沢と千田。
  正面から三人の少年達がやってくる。少年達、カービン銃を一斉に構える。
  末沢、レーザーライフルを構え、少年達に次々と撃ち放つ。
  黄色い光線を浴びる少年。少年少女達に次から次へ光線が当たりバタバタと倒れていく。
  末沢、千田、そのまま先に進み出す。
   ×  ×  ×
  通路を走る末沢、千田。
  手前に非常階段があるのに気づき、足を進める。
  階段を上り始める二人。

○ 山の中腹
  森林が密集している。
  少し盛り上がった土面にコンクリートが露出している。そこに設置されている小さな扉が開く。
  末沢と千田が外に出てくる。
  二人、そのまま、森林の中を駆け抜けて行く。
  小さな扉の上に埋め込まれている小型カメラ。

○ 地下施設・監視ルーム
  9つあるマルチモニター画面の中に、一つだけ、映っている画面がある。
  森の中を駆けている末沢と千田の姿が映し出されている。
  モニターの前に立ち、画面を見ている章子。
  薄笑いを浮かべ、ワイングラスに入った紫色のワインを一気に飲み干す。
  テーブルのマイクロシステムのスピーカーから少年の声が聞こえてくる。
少年の声「外に逃げられました。後を追います」
  マイクに向かって喋り出す章子。
章子「もういいわ。ほっときなさい」

○ タクシー車内
  ハンドルを握る仲貝。
  突き当たりに見えるコンビニをまじまじと見つめている。
  仲貝、コンビニを睨み付けると、アクセルをおもいきり踏み込む。
  仲貝、大きな奇声を上げ、
  
○ 猛スピードでコンビニの建物に突進して行くタクシー
  そのまま、コンビニのガラスを突き破る。

○ コンビニ車内
  商品棚を勢い良くなぎ倒して突入してくるタクシー。
  辺りにたくさんの商品が散乱する。
  カウンターに立っている店員。直立不動。
  タクシーの運転席から仲貝が降りてくる。仲貝、右手に持っている金属球を
  店員に見せつけながら、おもむろに辺りを見回している。
  足下に落ちていたガムを取る中貝。開封すると、そのまま、食べ始める。
  冷蔵庫の前に行き、ピーチジュースの缶を取り出すと、プルトップを開け、
  ジュースを一気に飲み干す。
  空缶を捨て、そのまま、タクシーに戻る。
  車に乗る前に、店員の顔をまじまじと見つめ、
仲貝「・・・客がいなくて良かったな」
  仲貝、車に乗り込む。
  呆然としている店員。
  タクシー、商品を蹴散らしながら、猛烈な勢いでバックする。

○ コンビニの建物から飛び出してくるタクシー
  バックしたまま、切り換えし、路上に出ると、また、猛スピードで前進する。

○ タクシー車内
  ハンドルを握りながら、馬鹿笑いしている仲貝。
  
○ 地平線から太陽が昇る
  オレンジの色の光が空を照らしている。

○ 霊園・通路(翌日・朝)
  たくさんの墓石に囲まれた通りを歩いている小神。右手に黒いスーツケースを持っている。
  中央にある吹き抜けのコンクリートの小さな建物の中に青いサングラスをかけた四堂がいる。
  四堂の前で立ち止まる小神。
  四堂、サングラスを外し、小神を見ている。
小神「この場所は、娘から聞いたのか?」
四堂「そうですよ。良いところで眠ってらっしゃいますね。奥さん・・・」
  四堂、ある墓石をジッと見つめている。
  四堂の視線の向こうに、小神家の墓石が立っているのが見える。
小神「娘と一緒に墓参りでもさせようって気か?」
四堂「残念ながら、娘さんは、連れてきていませんよ」
小神「どこまで人のプライベートに介入すれば気が済むんだ?」
四堂「それは、あなたの貢献しだい・・・」
  小神、憮然とした表情で渋々とスーツケースから、封筒を出す。封筒から一枚のリストを出し、
  四堂に手渡す。
小神「情報班が作成した春江川と関係のある大手産業メーカーと研究所のデータだ」
  四堂、データをまじまじと見つめている。
小神「今日の午後、春江川は、その中の一つの企業の社長と会う予定がある」
四堂「どこの会社だ?」
小神「娘は、どこにいる?」
四堂「会社の名前を教えろ」
小神「娘が先だ」
四堂「子供は、殺しは、しない。情報が本当かどうか、確認する必要がある」
  四堂、ほくそ笑み、
四堂「それに、あなたの役目は、これだけじゃないんですよ・・・」
  小神、観念し、怒り任せに封筒を四堂に投げ渡す。
  封筒をキャッチする四堂。
小神「・・・企業の名前は、『洋堂精工』だ。時間は、十二時」
四堂「場所は?」
  
○ 国道を疾走するブルーバード
  エンジンを唸らせ、猛スピードで走っている。

○ ブルーバード車内
  運転席に座る幸田。助手席に麻衣子が座っている。
  麻衣子、左手に携帯を持ち、喋っている。
麻衣子「了解しました」
  携帯を切る麻衣子。幸田に喋りかけ、
麻衣子「書類を渡したそうです」
幸田「モニターと発信器の電源を入れてくれ」
  麻衣子、コンソール中央に設置されているモニターの電源ボタンを押す。
  次に発信サーチモードのボタンを押す。
  画面に地図のイメージが浮かび上がり、レベルゲージが映るとサーチを開始する。
麻衣子「まだ、感知しません・・・」
  険しい表情を浮かべる幸田。
麻衣子「もしかして、四堂にばれたんじゃ・・ ・」
幸田「馬鹿言うな。1mm四方の無色透明高密度チップ式発信器だ。いくら奴でも封筒の
 中にそんなもんが仕込んであるなんて気づきやしないさ。春江川が目的なら、奴は、
 真っ先に洋堂精工へ向かうはずだ」
麻衣子「部長が四堂に渡した資料に書いてある十六件の会社と研究所って、本当に存在
 するんですか?」
幸田「会社は、全てシェル・カンパニー。つまり、ダミーだ。ダミーには、うちのセクションの
 専従捜査員が配置されてる。研究所のほうには、諜報班のメンバーが二人ずつ待機させてある」
麻衣子「つまり、洋堂精工は、架空の会社?」
幸田「そうだ」
麻衣子「一晩で、そこまで準備できるなんて・・・凄い」
幸田「感心してる場合か?これからが肝心なんだ」
麻衣子「・・・でも、リスクが大き過ぎませんか?もし、四堂が七緒ちゃんのいる場所に
 行かなかったら、どうするんです?」
幸田「じゃあ、代替案を示せ」
麻衣子「えっ?」
幸田「他に方法があるなら、簡潔に述べろ」
麻衣子「いきなりそんなこと言われても・・・」
幸田「・・・ふっ、ないなら、ほざくな」
  麻衣子、ムカッとして、ふくれっ面を浮かべ、
麻衣子「わかりました。ちょっとメモをお借りします・・・」
  麻衣子、助手席の前の小物入れの蓋を開ける。
  幸田、慌てて、大声を出し、
幸田「ああ、よせ!」
  小物入れの中からたくさんの物がこぼれ落ちてくる。
  麻衣子、足下に落ちた二本のカセットテープを取り上げている。
麻衣子「もう、物詰め込み過ぎですよ」
  カセットテープのタイトルを見つめ、唖然とする麻衣子。
麻衣子「『黄金の70年代アニメ主題歌大全集』『特撮主題歌列伝』・・・」
  幸田、恥ずかしげに額を掻く。
  麻衣子、ほくそ笑み、
麻衣子「・・・(噴き出し笑い)なんか、意外。幸田さんがこんなの
 聞いてるなんて・・・しかも、テープって、古!」
幸田「いいか、このことを知ってるのは、島だけだ。他の誰にも言うんじゃないぞ。いいな!」
  麻衣子、笑いを堪えながら、
麻衣子「わかりました」
  麻衣子、テープをダッシュボードの中に仕舞い込む。
  麻衣子、笑いを堪えてひくひくと体を震わせている。
  幸田、思わず、声を張り上げ、
幸田「おまえ、笑い過ぎ!」
  モニターのサーチ画面が止まり、地図上に赤い点が点滅し始める。
麻衣子「(笑いを堪えながら)幸田さん、反応し始めました」
  幸田、モニターをまじまじと見つめる。
幸田「よし、来た!」

○ 高速の高架下を潜るブルーバード
  猛スピードで進んでいる。
  
○ 首都高速
  スピードを上げ、軽快に進むマークU。

○ マークU車内
  運転席に座る四堂。
  右手でハンドルを握りながら、左手に携帯を持ち、喋っている。
四堂「・・・ああ、さっき転送したリストに載ってる会社を全てだ」
  助手席のシートに置かれている封筒。

○ ブルーバード車内
  ダッシュボード上に設置されている小型無線機のアラームが鳴り響く。
  麻衣子、レシーバーを取り上げ、喋り出す。
麻衣子「こちら、『02』号車・・・」
  幸田、麻衣子を睨み付けている。
  
○ 東京上空を飛行する230ヘリ
  ブルーとシルバーのツートンのヘリ。
  土下(はした) 仁(40)の声がする。
土下の声「おお、葉山刑事がジョーズに乗り込んでるとはな。おやつの食い過ぎで乗車拒否を
 受けてたんじゃなかったのか?」

○ ブルーバード・車内
麻衣子「今日から解禁になったんです」
  幸田、麻衣子からレシーバーを奪い取る。
幸田「今、捜査中なんだ」
  無線機のスピーカーから土下の声が聞こえてくる。
土下の声「すまん。昨夜、また馬鹿たれが表れやがってな。中野区の路上でタクシーが男に
 奪われたんだが、そいつがまた、おかしな奴でな・・・」

○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席でレバーを握る土下。
土下「暴走しまくって、立て続けに3つのコンビニに車を突っ込みやがった」
幸田の声「被害状況は?」
土下「それが、ちんけな強盗でな。一番最初に襲った店で、ガムとピーチジュース、
 その次は、おまけつきのラムネ菓子に、スポーツ飲料水の入ったペットボトル、後の1件も
 ジュースの缶を盗んで行っただけだ」
  
○ ブルーバード・車内
幸田「犯人の身元は?」
土下の声「今、第4チームが割り出しに当たってる。奪われたタクシーのドライバーの
 話によると、男は、金属球を持っていたらしい。3つのコンビニの店員達も男が
 金属球を持っていたのを見てる」
  幸田と麻衣子の顔が強ばる。
土下の声「第3チームから要請が来て、今、そのタクシーを捜索中なんだが、もうすぐ
 燃料切れで基地に戻らなきゃならん。悪いが今から挙げる特徴のある車を見かけたら、
 連絡してくれないか?」
  幸田、険しい表情を浮かべる。
  
○ トンネル内
  オレンジ色の光で照らされている。
  脇道に止まっている黄色いタクシー。
  
○ タクシー車内
  助手席に座っている仲貝。
  両膝にノートパソコンを置き、キーボードを勢い良く打ち込んでいる。
  ディスプレイ画面をスクロールするプログラミング言語。
  暫くして、画面が切り替わり、ロケットの設計図が表示される。
  仲貝、画面を見て、薄笑いを浮かべる。
仲貝「見てろよ、糞ジジイ・・・」
  仲貝、ノート・パソコンの電源を切り、助手席に置くと、すかさず、運転席に移動し、
  ハンドルを握る。
  シフトレバーをローに入れる。  

○ 急発進するタクシー
  タイヤを激しく軋ませ、白い煙を上げながら、トンネルから出て行く。

○ 警察病院5階・個室病棟
  ベッドで眠る島。うっすらと目を開け、うとうとと窓の外の景色を見ている。
  暫くして、ヘリの羽音が鳴り響いてくる。白いヘリが青い上空を飛んでいる。
  島、突然、大きく目を見開き、唇を震わす。
   ×  ×   ×
  島の回想。
  『GAROTEA』店内。赤い光の中、床に押し倒される島。
  スキンヘッドの黒人、韓国人、眼鏡をかけた中国人、そして初老の男、
  その周りに若者達が集まり、島を取り囲んでいる。意識朦朧としている島。
  ニット帽を被った若い男が島の口を無理矢理開き、紫色の錠剤を口に入れ、飲み込ませる。
  島、暫くして、大きく目を見開き、もがき苦しみ始める。
  暴れる島の両手両足を若者達が押さえつけている。
   ×  ×   ×
  島、ヘリの羽音を聞くのが耐えられず、ハッと起き上がり、両耳を両手で塞ぐ。
  大きく目を見開く島。島の目が一瞬、紫色に染まり、光る。

○ 森林
  雲で覆われた薄暗い空。霧がかった木々の中を黙々と歩く末沢と千田。
  千田、汗だくになり、たまらず、木のそばに一樹を降ろし、自分も地面に座り込む。
  末沢、足を止め、振り返ると、千田の様子を窺う。
千田「もう、3キロは、歩いたぞ。一体、いつになったらここから抜け出せるんだ?」
  溜め息をつく末沢。
末沢「・・・携帯を取り戻してから、外に出るべきだったな・・・」
  末沢、右手に持っているレーザーライフルをまじまじと見つめている。
   ×  ×  ×
  末沢達のいる場所から数十メートル離れた茂みで不気味な物音がする。

○ 門矢馬家・玄関前
  巨大な門の両脇に立つ黒いスーツを着た男達。

○ 同・邸宅
  広大な庭園。マツやダイスギが生い茂る前庭。石畳のアプローチの向こうにある中門。
  その向こうに日本建築式の建物がある。
  縁側の廊下をラフな格好をした白髪の男・門矢馬晃助(64)が歩いている。
  門矢馬の後ろに秘書の三上 義郎(40) が歩いている。
  
○ 同・和室
  正座をし、お茶を嗜んでいるグレイのスーツを着た男の後ろ姿。
  入口から門矢馬達が入ってくる。
門矢馬「(一礼をしながら)先生、お元気で何よりです」
  男の口元が映る。
男「今日は、天気も良いし、絶好の商談日よりだね・・・」
  門矢馬、男と対峙するように、座蒲団の上に座り、
門矢馬「それでは、さっそく、お話を窺いましょうか・・・」
  
○ 洋堂精工本社ビル前
  5階建てのグレイの鉄筋ビル。玄関前に掲げられている石造りの看板。
  ビル前の国道を走ってくるマークU。
  ビルの反対側にある立体駐車場の前の脇道に立ち止まる。
  
○ マークU車内
  四堂、青いサングラスの縁についている青いボタンを押す。
   ×  ×   ×
  サングラスの視界。レンズにフィルターがかかり、小型のディスプレイ画面が表示される。
  四堂がビルの二階の窓を見つめると、そこへ画面がズームアップする。
  二階のオフィスの様子が克明に映し出されている。
  数十人の社員が慌ただしく勤しんでいる。
   ×  ×  ×
  四堂、顔を上げ、三階の様子を見つめている。
  
○ 洋堂精工本社ビル・5階
  窓際に佇む白いバイクスーツ姿の麻衣子。地上を見下ろし、止まっているマークUを
  まじまじと見つめている。
  麻衣子、胸元につけているピンマイクに喋り出す。
麻衣子「四堂の車を確認しました。ビルの様子を窺っています」
  
○ 立体駐車場・1F
  駐車スペースに止まるブルーバード。
幸田の声「了解」

○ ブルーバード・車内
  運転席に座る幸田。
  センターコンソールについている時計を見つめる。
  時間は、まもなく十二時になる。
  幸田、無線を切り換え、レシーバーに向かって喋り出す。
幸田「特捜班、スタンバイ!」
  
○ 洋堂精工本社ビル前
  国道から3台の黒いセンチュリーが走ってくる。
  ビル前の脇道に一列に立ち止まる。
  反対側の脇道に止まるマークU。
  運転席の窓越しから四堂がまじまじと様子を窺っている。
  中央のセンチュリーの後部席から、春江川 幸造(72)が降りてくる。
  ビルの入口から社員達が表われ、春江川を出迎える。
  春江川、ビルを見上げ、社員達に喋りかけている。
   ×  ×   ×
  マークU車内。
  四堂、サングラスを外し、春江川を睨み付ける。
  スーツからデトニクスを抜くと、ポケットからサイレンサーを取り出し、装着する。
  窓を開け、春江川の背中に照準を合わせる。
   ×  ×   ×
  入口に向かって歩き出す春江川。
  黒いスーツを着たSP達が辺りを見回しながら、春江川の背後をカバーしようとしている。
   ×  ×   ×
  四堂、デトニクスを構え、引き金を引く。小さく響く銃声。
   ×  ×   ×
  春江川の背中に風穴が空き、血が飛び散る。更に二発の銃弾が撃ち込まれる。
  春江川、前のめりに地面に崩れ倒れる。
  慌てふためくSP達。春江川を取り囲む。一人のSPが、四堂に気づき、睨み付ける。
   ×  ×   ×
  四堂、笑みを浮かべると、おもいきりアクセルを踏み込み、車を急発進させる。
  猛スピードでビルから立ち去って行くマークU。
  と、同時に、立体駐車場の出口からブルーバードが飛び出してくる。
  ブルーバード、国道に出て、マークUを追って走り始める。

○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。
  左手にレシーバーを握っている。
幸田「予想は、的中した。第一段階は、成功だ。今から第二段階に突入する」
  
○ 洋堂精工ビル本社ビル・階段
  4Fから3Fにかけての階段を急いで駆け降りている麻衣子。
  ピンマイクに応答する。
麻衣子「了解!」
  
○ ブルーバード車内
  モニターに映る地図の道に沿って、赤い点滅が動いている。
  
○ 警視庁地下5F/危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの座席につく小神。
  険しい表情の小神。煙草を黙々と吸い、煙をはいている。
  暫くして、入口から警視総監・中坊信太郎(54)が現れる。
  小神のデスクの前に近づいてくる中坊。
  中坊を険しい目つきで見つめる小神。
小神「長官・・・」
中坊「昨日、娘が初めて私の部屋に来たよ」
  中坊、そばにあった座椅子に腰掛ける。
中坊「てっきり、辞める決心でもついて、私に報告しにきたのかと思っていたよ・・・」
  小神、神妙な面持ちになり、
小神「・・・彼女を辞めさせるおつもりですか?」
中坊「ああ。考えて見たまえ。もし君の娘が、ここで働きたいと言い出したら、君は、どうする?」
小神「娘が望むことなら、止むを得ません」
中坊「寛容だな、君は。娘の命がどうなってもいいのか?」
  小神、中坊の言葉が胸に刺さり、言葉を失う。
  中坊、小神を見つめ、
中坊「どうした?」
  小神、我に返り、
小神「・・・いえ、なんでもありません」
中坊「そう言えば、君、昨日は、どこに行ってたのかね?」
小神「・・・娘に頼まれ事がありまして、ちょっと買い物に・・・」
中坊「真っ昼間に娘の誕生日のプレゼントでも買いに出かけていたのか?
 金属球事件の捜査が難航している時に、そりゃあ、まずいぞ、君・・・」
小神「誕生日・・・」
  小神、呆然と俯く。
中坊「末沢は、行方知らず、島もあの状態ではな・・・いつまでも欠員のできた状態では、
 捜査もやりにくいだろう?」
小神「・・・」
中坊「欠員のできた8チームに臨時の捜査員を派遣しようと思っているんだが、君のチームにも
 検討しようか?」
小神「島は、回復するのにそれほど時間は、かかりませんし、末沢は、必ず我々の手で見つけ
 出します」
中坊「そうか・・・わかった」
  中坊、立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
  小神の頭の中に四堂の言葉が過る。
    ×  ×  ×
四堂の声「・・・セクションを一番潰したがっているのは・・・長官ですよ」
    ×  ×  ×
  小神、疑心暗鬼になり、突然、立ち上がると、声を張り上げ、
小神「長官!」
  振り返る中坊。
中坊「なんだ?」
小神「いいえ・・・なんでもありません」
  中坊、無気味に笑みを浮かべ、そのまま部屋を立ち去って行く。
  小神、怪訝な表情を浮かべたまま、再び、椅子に座り込む。
  暫くして、入口から島が現れる。島、腕を包帯で釣っている。
  小神、唖然とし、
小神「島・・・病院を抜け出してきたのか?」
  デスクの前に近寄る島。
島「・・・捜査に復帰させてください」
  小神、寡黙になり、考え込んでいる。
島「洗脳状態は、もう完全に解けています」
小神「それは、検査の結果を見て判断する。それまで、部屋でジッとしてろ」
  島、憮然とした表情を浮かべ、踵を返し、立ち去って行く。
  小神に背を向けた瞬間、島の両目が紫色に光る。
  
○ 海岸通り
  緩やかなS字の道を走行しているマークU。
   ×  ×  ×
  マークUから数キロメートル離れた道を走行しているブルーバード。
  
○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。
  モニターに映る地図。海岸通りの道の上を赤い点滅が動いている。
  幸田、左手にレシーバーを持ち、喋っている。
幸田「ちゃんとついて来てるか?」
  
○ 丘陵地
  緩やかな坂を猛スピードで下っているブルーのバイク『ジール』。麻衣子が乗っている。
  突き当たりの交差点を右に曲がり、勢い良く海岸通りを突き進む。
麻衣子の声「私のドライブテクニックをなめないでくださいよ」
  
○ ブルーバード車内
幸田「誰もなめちゃいないよ」
  
○ 白い別荘・表門前
  海岸沿いに建てられた3階建ての豪壮な建物。
  赤い鉄門の前に止まるマークU。
  門が自動的にスライドし、ゆっくりと開き始める。マークU、門が開くと、
  ゆっくりと敷地の中に入って行く。
  マークUが敷地に入ると同時に、門が閉まり始める。
    ×  ×  ×
  暫くして、緩い勾配をゆっくりと駆け上がってくるブルーバードの姿が見える。
  ブルーバード、門前から100m手前の道路の脇道に静かに止まる。
  
○ ブルーバード車内
  幸田、フロントガラス越しに別荘の辺りを見回している。
  門前に設置されている監視カメラに気づく。
  幸田、モニターの右端に並んでいるボタンを押す。
  モニターに、別荘周辺の電気配電図が映し出される。電線を表わすラインに赤い光りが伸び始める。
  門に高圧の電流が流れている。
  幸田、レシーバーを取り、喋り出す。
幸田「麻衣子、今どこにいる?」
  
○ 海岸通り
  走行する車を次々と追い抜き進んでいる麻衣子のバイク。
麻衣子の声「もうすぐ、そっちにつきます」
  
○ ブルーバード車内
幸田「俺は、今から四堂の別荘に忍び込む」

○ 海岸通り
  スロットルを回し、さらにスピードを上げて走行する麻衣子のバイク。
麻衣子の声「待って下さい。私も行きます」
  
○ ブルーバード車内
幸田「表の門に高電流が流れてる。今、別荘の電力供給源をサーチして、そいつに過大な
 電流を与えようとしているところだ。別荘の電力を一時的に遮断している間に中に侵入する。
 おまえは、俺が外に出てくるまで、待機しろ」
  無線機のスピーカーから麻衣子の声が聞こえる。
麻衣子の声「わかりました」
  幸田、『ERECTRIC POWER BOM』と書かれている赤いボタンを押す。

○ 別荘・地下
  配電盤がにわかにショートし、火花が散る。
  ブレーカーが降りる。

○ 監視カメラの電源が切れる。

○ ブルーバードから降りる幸田
  別荘の門に向かって走り出す。
  赤い鉄門の前で立ち止まると、左手で、おそるおそる鉄柵に触れる。
  電気が通っていない事がわかり、安堵の表情を浮かべる幸田。
  そのまま、柵をよじ登り、敷地の中に進入。建物に向かって走って行く。

○ 別荘3階・リビングルーム
  海が見えるベランダ。太陽の光が部屋を照らしている。
  部屋の中に入ってくる四堂。左手に封筒、右手に携帯を持ち、喋っている。
四堂「・・・会社は、すべて存在するんだな。よし、今度は、経営者から直接春江川との
 つながりを聞き出すんだ。手段は、任せる・・・」
  四堂、携帯を切る。
  テーブルに封筒を投げ置き、ソファに座り込む四堂。
  ソファに深くもたれこみ、天井を見上げる四堂。
  天井の照明がパチパチとちらついている。四堂、怪訝な表情を浮かべ、咄嗟に立ち上がる。  

○ 同・1階・吹き抜けの駐車場
  マークU、ワゴン、黒いRX−8、3台の車が並んでいる前を駆けている幸田。
  ジャケットの中に手を入れ、ホルダーからコルト・パイソンを右手で引き抜くと、
  車の後ろにある扉の前に向かう。
  扉のドアノブをゆっくりと回す幸田。
  鍵がかかっている事を知ると、ジャケットのポケットから電子ロック解除キーを取り出し、
  鍵穴に差し込む。
  ゆっくりとドアを開ける幸田。ドアの隙間から中の様子を見渡す。
  誰もいないことを知ると、するりと中に入り込み、静かに階段を駆け登って行く幸田。
  
○ 交差点
  赤信号を突っ切って行く黄色いタクシー。

○ タクシー車内
  ステレオから流れるハードロック。小刻みなギター音がボリューム一杯で鳴り響いている。
  ハンドルを握る仲貝。リズムに合わせながら、ヘッドバッキングしている。
  更にアクセルを踏み込む。

○ 別荘・2階・通路
  幸田、銃を構え、静かに前進している。
  横一列にいくつも並ぶ部屋のドア。
  幸田、あるドアの前に立ち止まり、ドアノブをゆっくりと回し、中を覗き見る。
  キッチンが見える。幸田、静かにドアを開け、中に進入して行く。
  
○ 高級住宅街・道路
  エンジンを唸らせ、猛スピードで走行するタクシー。

○ タクシー車内
  口笛を吹きながら運転する仲貝。
  フロントガラス越しに、門矢馬家の表門が見えてくる。
  仲貝、険しい顔つきで口笛を吹きながら、名一杯アクセルを踏み込む。

○ 門矢馬家・表門前
  センチュリーの間を擦り抜け、表門に突っ込むタクシー。
  門を突き破り、さらに中門に突入、門を薙ぎ倒し、建物に向かって、突進する。

○ 同・玄関口
  扉を突き破って、激しい勢いで玄関に乗り上げるタクシー。
  タクシー、立ち止まると、運転席のドアが開き、中から仲貝が降りてくる。
  通路をSP達が走り、タクシーの前に駆け寄ってくる。
  仲貝、左手でスーツケースを持ち、通路を歩き出す。
  右手に持つ金属球を近づいてきたSP達に見せつけ、
仲貝「早死にしたいのか?そこをどけ!」

○ 別荘・キッチン
  ガスコンロの上にある鍋が煙を上げ、グツグツと音を立てている。
  幸田、壁際に身を隠し、辺りを見回す。
  奥の方で物音が聞こえてくる。
  幸田、銃を構えながら、ゆっくりとガステーブルに近づいて行く。
   ×  ×  ×
  奥にある冷蔵庫の扉が開き、セミロングの女が、中を物色している。
  女、中から、肉を取り出し、冷蔵庫の扉を閉める。
  振り返る女。女は、小神 七緒(16)である。
  七緒、驚愕し、思わず声を上げそうになるが、幸田が慌てて、七緒の口を左手で塞ぐ。
幸田「前に一度会ったことあるだろ?覚えてるか?」
  幸田、七緒の口元からゆっくりと手を離す。七緒、幸田をまじまじと見つめ、
七緒「幸田さん?」
幸田「そうだ。早くここから出よう」
  七緒、幸田の背後を見つめ、表情が強ばらせる。
  その瞬間、幸田の背後で、撃鉄を起こす音が鳴り響く。
  幸田、憮然とした表情を浮かべる。幸田の背中にデトニクスの銃口を向けている四堂。

○ 門矢馬家・和室
  仲貝が部屋の中に入ってくる。
  門矢馬、眉間に皺を寄せ、仲貝を睨み付ける。
門矢馬「・・・おまえ、何しにここへ?・・・ 」
  仲貝、笑みを浮かべ、
仲貝「あんたを殺しに来たんだよ」
  仲貝、門矢馬の対面に座っている老人を見つめる。老人は、春江川である。
  春江川、静かにお茶を飲んでいる。

○ 別荘2階・キッチン
  四堂、銃の引き金に指を当て、薄笑いを浮かべる。
四堂「無駄が省けたよ。わざわざ足を運んでくれるなんて・・・ちょうど会いたかったところだ」
  幸田、振り返り、四堂を睨み付ける。
幸田「・・・俺もだ」
  幸田、四堂、互いに睨み合っている。

                                                  −覚醒ノイズ・完−

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