『555 ダッシュバード 危特科捜班』第八回「自虐突破口」byガース『ガースのお部屋』

○ 別荘2階・キッチン
  幸田 智(35)と四堂 豹摩(28)が対峙する。
  幸田の後ろで呆然と立っている小神 七緒(16)。
  四堂、幸田の額にデトニクスの銃口を向けている。
四堂「捨てろ」
  幸田、右手に持っていたコルト・パイソンの銃を四堂の足下に放り投げる。
四堂「どうして、ここがわかった?」
幸田「おまえが殺した春江川は、ダミーだ」
  唖然とする四堂。暫くして、失笑し、
四堂「・・・危特科捜班の壮大な猿芝居にまんまとはめられたって事か」
幸田「なぜ、春江川を狙う?」
四堂「僕は、相沢さんの命令通り動いてるだけだ」
幸田「章子は、どこだ?」
四堂「教えてどうする?これから死ぬのに」
幸田「・・・」
四堂「彼女が言ってた通り、おまえを甘く見過ぎてた」
幸田「あいつ、何か言ったのか?」
四堂「おまえのことが忘れられないらしい」
幸田「・・・」
四堂「でも、これで、諦めがつくだろう・・・」
  四堂、引き金を引こうとする。
七緒「四堂さん!」
  四堂、七緒を見つめる。
七緒「小さい頃、よく一緒に遊んでもらったおじさんなの・・・」
四堂「こいつは、僕を騙してここにやってきたんだ。汚い大人は、除去しないとね・・・」
  四堂が引き金を引こうとした時、警告アラームが大きく鳴り響く。
  その瞬間、幸田、四堂の銃を持つ手を蹴り上げる。
  床に落ちる拳銃。
  幸田、四堂に突進し、床に突き倒す。
  幸田、四堂の体に乗りかかり、顔面をおもいきり殴りつけている。
  四堂、透かさず幸田の顎に肘鉄を食らわす。のけ反るように床に倒れ込む幸田。
  四堂が立ち上がった瞬間、幸田、四堂の足を両足で挟み込み、押し倒す。
  そのまま素早く起き上がり、四堂の背中にエルボーを食らわす。
  四堂、幸田の腹を蹴り上げ、床に落ちているデトニクスを取ろうと手を伸ばす。
  その時、七緒が先に銃を拾い上げる。
  四堂の両足に絡みつく幸田。
  四堂、七緒の前に右手を差し出し、
四堂「それを、貸して」
幸田「七緒ちゃん、逃げろ!」
  七緒、後退りし、首を横に振る。
四堂「また、独りぼっちになってもいいの?」
  動揺する七緒。
  暫くして、入口の扉が勢い良く開く。葉山 麻衣子(26)が銃を構えながら駆け込んでくる。
  七緒、思わず、麻衣子に向け、銃を撃つ。
  麻衣子、慌てて、咄嗟に身を伏せる。そばの壁に弾丸が当たり、白い煙を上げる。
  四堂、幸田の顔を蹴り上げると、立ち上がり、そのまま、入口に向かって走り出す。
  麻衣子、立ち上がり、近づいてくる四堂に銃を向ける。
麻衣子「止まりなさい!」
  立ち止まる四堂。ジッと麻衣子を睨み付けている。
  麻衣子、四堂と目を合わすうち、茫然自失になる。
  幸田、その様子を見つめ、
幸田「麻衣子、撃て!」
  微動だにしない麻衣子。
  四堂、薄笑いを浮かべると、麻衣子のそばを静かに通り過ぎて行く。
  幸田、床に落ちていたコルト・パイソンを拾い上げると、透かさず四堂の背中に向け、撃つ。
  部屋から出て行く四堂。ドアに弾丸が当たり、風穴が開く。
  麻衣子、呆然としたまま、ゆっくり銃を下ろす。
幸田「ボケっとするな!さっさと追え!」
  麻衣子、我に返り、
麻衣子「は、はい・・・」
  慌てて、駆け出し、部屋の中から出て行く麻衣子。
  幸田、後ろにいる七緒のそばに近づいて行く。
  幸田、七緒の手から静かに銃を取る。
七緒「(俯きながら)あの人は・・・悪い人じゃない・・・」
  幸田、憮然と七緒の顔を見つめている。

○ 同・階段
  素早く駆け降りている麻衣子。

○ 同・1階入口前
  立ち止まる麻衣子。ドアの前に置かれている黒いボックスに気づき、驚愕する。

○ 同・2階キッチン
  部屋に駆け込んでくる麻衣子。
麻衣子「幸田さん、爆弾がセットされてます」
幸田「(血相を変え)また、TNTかよ!」
  幸田、七緒の手を引っ張り、急いで走り出す。
  
○ 同・1階吹き抜けの駐車場
  扉が開き、外に出てくる三人。
  必死の形相で全力疾走する。
  開いた門に 向かって突き進む三人。その時、爆音が轟き、別荘から巨大な炎が吹き上がる。
  地面に転がり込む三人。
  無惨に破裂する建物。崩れ落ちるコンクリート片。
  青い空を覆うほどの大きな炎が舞い上がる。白い煙が門の前まで広がってくる。
  
○ 別荘・門前
  立ち止まっている黒いRX−8。
  運転席に四堂が乗っている。
  四堂、無気味な笑みを浮かべ、別荘を見つめている。
  アクセルを踏み込み、爆音を轟かせながら、走り去って行く。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  受信機のレシーバーを握っている小神 洋介(48)。
小神「よくやってくれた。すまないが、七緒をここに連れてきてくれ。よろしく頼む」
  レシーバーを置く小神。大きく息を吐き、安堵の表情を浮かべる。
  
○ 別荘前
  数台の消防車が敷地内に入り、隊員が消火活動を行なっている。
  別荘の門から数百メートル離れた場所に止まっているブルーバードの前に立っている幸田と七緒。
  幸田、レシーバーを置くと、七緒と対峙する。
幸田「別荘には、他に誰かいた?」
  七緒、俯きながら首を横に振る。
七緒「四堂さんと私だけ・・・」
幸田「四堂とは、どこで知り合ったの?」
七緒「うちに来たの。最初、何かのセールスマンかと思ってたんだけど、話をしているうちにだんだん楽しく
 なっちゃって。私と同じ歳の子達が集まっている場所があるから一緒に来ないかって
 誘われたから、それで・・・」
幸田「その場所は、どこか覚えてる?」
七緒「それが・・・なぜかそこにいた時の記憶だけがどうしても思い出せなくて・・・。 
 覚えてるのは、遊園地で女の子と一緒に遊んだ事だけ。その後は、ずっと別荘にいた」
幸田「その女の子の名前は、わかる?」
七緒「・・・聞かなかったから」
  険しい表情を浮かべる幸田。
  別荘の門の方から麻衣子が駆け寄ってくる。
  幸田の背後に立ち止まる麻衣子。
  振り返る幸田。
麻衣子「消火作業終わったそうです。今から所轄の鑑識係が現場検証を始めます」
幸田「じゃあ、俺が立ち会う。おまえ、この子をうちのオフィスへ連れてってくれ」
麻衣子「わかりました・・・あの・・・」
幸田「どうした?」
麻衣子「すいません・・・あの時、ビルに閉じ込められた時の事を思い出してしまって・・・」
幸田「・・・同じ失敗は、二度とするなよ」
麻衣子「はい・・・」
  麻衣子、七緒のそばに行き、一緒にバイクの元に歩いて行く。
  その様子を見つめる幸田。
  受信機のアラームが鳴り響く。
  車内に手を入れ、レシーバーを取る幸田。
幸田「はい、『02』号車、幸田だ」

○ 高級住宅街の上空を飛行する230ヘリ
  広大な庭園のある邸宅の周りを旋回している。
土下の声「こちら『230』」
  
○ 別荘前
幸田「暴走タクシーのほうは、どうなった?」

○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席に座る土下(はした) 仁(40)。
土下「その件で連絡したんだ。至急、田園調布の門矢馬邸に向かってくれ」

○ 別荘前
幸田「門矢馬・・・?」
  スピーカーから土下の声が聞こえてくる。
土下の声「小坂電子精密産業の社長さんの自宅だ。タクシーを奪った男がおまえの事を呼んでいるらしい」
  幸田、怪訝な表情を浮かべる。

○ 森林
  木の幹にもたれ、座っている千田 十聖(48)。
  頬に蚊が止まり、右手で頬を張る。
  千田のそばで横になっていた千田 一樹(15)が目を覚まし、起き上がる。
  千田、一樹と目を合わし、
千田「大丈夫か?」
  一樹、千田を見つると、千田の元から少し離れる。
千田「おまえ・・・ここがどこなのか知ってるか?」
一樹「・・・孤島だよ」
  千田、驚愕し、
千田「何?」
一樹「逃げたって無駄だ。そのうち捕まるのが目に見えてる・・・」
千田「・・・相沢と言う女はな、おまえ達若者を利用して、政府を陥れようとしているんだ。
 おまえ達は、その駒に過ぎないんだぞ?」
一樹「社会に出れば、誰だって駒だろ?それでもいい。無能な大人を排除してやるんだ」
  その瞬間、突然、千田の右肩に緑色の光線が当たる。
  思わず、金切り声を上げる千田。
  驚愕する一樹。後ろを振り返り、唖然とする。
  黒のメタリックな戦闘服とマスクを身に付けた兵士がレーザーガンを構えながら、
  ゆっくりと二人の元に近づいてくる。
  苦痛に表情を歪ませる千田。
  動揺する一樹。
  兵士、千田に銃を向け、撃つ。
  緑色の光線が千田の腹に当たる。千田の服に血が滲み始める。
  意識朦朧としている千田。
  兵士、千田の前に立ちはだかり、千田の額に銃口を当てる。
  その様子をジッと見つめている一樹。
  兵士の背中に、紫色の光線が当たり、激しく火花が飛び散る。
  振り返る兵士。
  数十メートル離れた木の陰から、末沢 裕太(28)がしゃがんだ姿勢でレーザーライフルを構えている。
  末沢、さらに引き金を引く。
  兵士の胸のプロテクターにレーザーが当たるが、火花を散らしながら、跳ね返している。
  兵士、レーザーガンを末沢に向け、撃つ。
  木の幹の後ろに隠れる末沢。レーザーは、木の幹を貫通する。
  それを見て、驚愕する末沢。茂みで前回転しながら、突っ伏した状態で、レーザーライフルを構え、撃つ。
  兵士のマスクにレーザーが当たる。
  激しく火花が散る。
  一樹、立ち上がり、兵士に向かって、アタックする。地面に倒れる兵士と一樹。
  揉み合いになる二人。一樹が兵士のレーザーガンを奪い取ろうとする。
  立ち上がり、急いで二人の元に走って行く末沢。
  兵士に投げ飛ばされる一樹。兵士、起き上がり、一樹にレーザーガンを向ける。
  横から末沢が、ジャンプアタックし、兵士をまた、地面に押し倒す。
  末沢、兵士の上にまたがり、マスクを外す。スキンヘッドの男の額にレーザーガンの銃口を押し当てる。
末沢「脳を焼き切って欲しいのか?」
  末沢、千田の方を見つめる。
  腹を押さえ、息が荒くなっている千田。
  末沢、一樹の方を見つめる。
  一樹、千田を見たまま、微動だにしない。
  末沢、兵士に話しかける。
末沢「おまえも相沢の仲間か?」
  末沢の後ろで一樹の声が聞こえる。
一樹「そいつは、俺達とは、関係ない」
  末沢、振り返り、一樹の表情を窺う。
  男、無気味に笑みを浮かべ、突然、起き上がろうとする。
  末沢、思わず銃の引き金を引く。
  男の頭にレーザーが貫通する。
  男、その場に倒れ、息絶えている。
  末沢、悔しげに声を上げる。男の手のグローブを見つめる。
  グローブにイーグルのマークがついている。
  千田の元へ近寄る。
  千田、うっすらと目を開け、
千田「(苦しそうに声を荒げ)こんなところじゃあ、救急車も来れないな・・・」
  悔しげに唇を噛み締める末沢。
千田「息子を頼む・・・」
  千田、息絶える。
  愕然とする末沢。振り返り、一樹を見つめる。
  一樹、背中を向けて、しゃがみこんでいる。
  末沢、立ち上がり、一樹の元に近づいて行く。一樹の後ろに立ち止まり、
末沢「・・・大丈夫か?」
一樹「あんな奴、死んで当然さ・・・」
  一樹の顔を覗く末沢。涙を浮かべ、泣いている一樹。
  末沢、険しい表情を浮かべ、
末沢「意地張らないでいいんだよ。まともな人間なら、ごく自然な反応さ・・・」

 
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  麻衣子と七緒が中に入ってくる。
  デスクの座席に座っている小神。立ち上がり、七緒を見つめる。
  デスクの前に立つ二人。
  俯き加減でデスクの前に立つ七緒。
  麻衣子、小神に一礼すると、そのまま、部屋を出て行く。
  対峙する小神と七緒。
小神「・・・ここがお父さんの職場だ」
  七緒、顔を上げる。
小神「ここで毎日、いろんな事件を調べている」
七緒「怒らないの?」
  小神、神妙な面持ちになり、
小神「・・・おまえの誕生日なのに、何を買ってやればいいのか、俺には、よくわからん・・・」
七緒「そんなこと別にいいの。お父さんの仕事が大変なのは、わかってるし・・・」
  小神、七緒の左手の中指にはめている指輪を見つめ、
小神「(指輪を指差し)それは?・・・」
七緒「四堂さんが買ってくれたの」
  小神、憮然とする。
七緒「四堂さんは、とても面白くて、素敵な人だったよ・・・」
  小神、険しい表情を浮かべ、
小神「奴のどこが素敵なんだ?」
七緒「お父さん達が知ってる四堂さんと、私達の知ってる四堂さんは、違うの・・・」
小神「・・・奴は、危険な男だ。二度と会うんじゃない。約束してくれ」
  七緒、また、俯く。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  自分のデスクに座り、呆然としている麻衣子。
  
○ 麻衣子の幻想
  鏡に映る麻衣子の背後に立つ切れ長の細い目をした男の姿。
  男、麻衣子の首元に腕を回し、抱擁し始める。
  麻衣子、無気味な笑みを浮かべ、男と口付けを交わす。
  鏡に映る二人の姿を呆然と見ているもう一人の麻衣子。
麻衣子「あなたは・・・誰?」
  鏡に映る麻衣子がもう一人の麻衣子を見つめ、薄笑いをしている。
  麻衣子の右肩を掴む男の手。
  ハッと振り返る麻衣子。
  麻衣子の背後に、四堂が立っている。
四堂「素直になれよ・・・僕のことが好きな癖に・・・」
  四堂、無気味な笑みを浮かべる。
  麻衣子、首を横に振り、
麻衣子「違う・・・そんなんじゃない・・・」
四堂「無理をするな」
  やがて、四堂の体が黒い獅子の姿に変わり、麻衣子を包み込む・・・。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  我に返る麻衣子。大きく目を見開き、深く息をつく。
  麻衣子の正面に島 健司(29)が立っている。
  島、右腕を包帯で釣っている。
麻衣子「島さん・・・いいんですか、もう?」
島「さっき、高井さんに体を調べてもらった。洗脳薬反応は、検出されなかった。
 それより、末沢、まだ見つかってないのか?」
麻衣子「はい・・・私が四堂を逃がしたりしなければ、何か手がかりが掴めたかも知れないのに・・・」
島「さっき、末沢の彼女が訪ねてきた。イギリスに行くのを辞めて、今、会社を休んで
 いるらしい。奴のことが心配で仕事に身が入らないんだろうな・・・」
麻衣子「・・・小山を逃がした時のこと、思い出しました?」
  島、額を手で押さえ、
島「いいや・・・その事考えると、頭がガンガンに痛むんだ」
  重い表情を浮かべる麻衣子。
  無線機のアラームが鳴り響く。
  麻衣子、立ち上がり、無線機に駆け寄り、レシーバーを握る。
麻衣子「はい、第5チーム・オフィス・・・」  

○ 門矢馬家・表門前
  数台のパトカーや覆面車が門を囲うように列を作り、止まっている。
  サイレンを唸らせながら、ブルーバードが走行してくる。
  ブルーバード、急ブレーキをかけ、覆面車のセダンの後ろに立ち止まる。
  運転席のドアが開き、幸田が姿を表わす。
  幸田の前に近づいてくる捜査員。
  第3チームの日下 恭平(34)が幸田と対峙する。
  幸田、無惨に破壊された門と邸宅まで続く通路を見つめ、
幸田「偉く派手に突っ込みやがったな。コンビニを襲ったのは、この予行練習ってわけか・・・」
日下「タクシーに乗っていたのは、小坂電子精密産業の開発部の社員だ」
幸田「小坂電子は、確か春江川の国家機密プロジェクトの参加企業に名を連ねてたはずだ」
日下「その通り。小坂電子は、今、宇宙ロケット部品の開発に力を入れていて、この1年の間に
 業績を急激に伸ばしている。昨日、うちが強制捜査を執行したが、レーザー兵器に関するものは、
 何も見つからなかった」
幸田「社員の名前は、わかったのか?」
日下「ああ。10分前に、うちの捜査員が占拠された部屋を撮影してきた」
  日下、スーツの内ポケットから、小型の携帯用電子モニターを取り出し、幸田に手渡す。
  幸田、画面に映る静止画を見て、唖然とする。
日下「知り合いか?」
  幸田、深く溜め息をつき、
幸田「・・・ああ、幼馴染みだ」
日下「仲貝は、三日前に会社を解雇されている」
幸田「・・・」
日下「奴は、俺達が近づいたら、金属球を爆破させると言ってる。中に入れるのは、おまえだけだ・・・」
  幸田、険しい眼差しで、通路に向かって歩き出す。
  
○ 同・邸宅・玄関口
  玄関の扉が無惨に破壊され、黄色いタクシーが突っ込んだ状態で止まっている。
  タクシーのそばに黒いスーツを着た若い男が立っている。
  通路をゆっくりと歩いている幸田。男の前に立つ。
男「幸田智か?」
幸田「そうだ」

○ 同・和室
  部屋の中に入る男と幸田。
  障子を閉める男。
  幸田、当たりを見回し、驚愕する。
  部屋の左側の壁沿いで、座蒲団の上に正座している門矢馬 晃助(64)。
  そして、その隣に春江川 幸造(72)が座っている。
  二人、両手を後ろに回し、手首をビニールテープで縛られている。
  部屋の中央に立っている仲貝 光彦(35)。右手に金属球を持っている。
  仲貝、左手に持っているペットボトルのジュースを一気に飲み干し、幸田を見つめる。
仲貝「久しぶりだな・・・幸田」
幸田「おまえが小坂電子で働いてたとは、知らなかった。こんなところで、何やってるんだ?」
仲貝「(門矢馬を睨み付け)自分の保身のために、真面目に働いてきた社員の首をバッサ、バッサと
 切り続けている企業の社長達へ警告を促しているんだ」
幸田「リストラされた恨みで、こんなことしたのか?」
仲貝「それだけじゃない」
  仲貝を睨み付ける門矢馬。春江川、ムスっとした表情で幸田のほうを見つめ、
春江川「刑事さん・・・」
  幸田、春江川を見つめる。
春江川「済まないが、私は、腰の具合が芳しくないんだ。早くこの男を説得して、
 ここから出してもらえないか?」
  幸田、憮然とした表情で春江川を見ている。
仲貝「勝手なこと抜かすなジジィ!お宅は、うちの会社の重要な取り引き相手だ。
 ちゃんと、買い物をして帰ってもらわないと困るんだよ。(門矢馬を睨み付け)
 そうだろ?門矢馬さん」
門矢馬「おい、仲貝。おまえ、この方が誰なのかわかっているんだろうな?」
仲貝「よ〜く存じ上げていますよ。日本国の官房長官様でしょ?」
門矢馬「言葉遣いに気をつけろ!」
仲貝「こんな状況で言葉遣いもへったくりもあるかよ」
  仲貝、スーツのポケットからラムネ菓子の袋を取り出し、そのまま門矢馬の口の
  中に突っ込む。門矢馬の口を押さえ、ビニールテープでテーピングを始める。
  その様子をまじまじと見ている幸田。
幸田「なぜ、リストラされたんだ?」
  門矢馬の口にテープが巻き付けられる。
仲貝「(門矢馬を顎で差し)こいつに聞け」
幸田「聞けって言われても、これじゃあな・・・」
  仲貝、金属球を幸田の前に見せつけ、
仲貝「これを作ったの、相沢章子だろ?」
  春江川、聞き耳を立てている。
幸田「・・・なぜ、知ってる?」
仲貝「ずっと前に一度、おまえと彼女と三人でカラオケに行ったことがあるだろ?
 おまえがトイレに行ってる間に彼女とお互いの研究活動について語り合った事があるんだ」
  仲貝、金属球をまじまじと見つめ、
仲貝「彼女がその時、研究していたのは、最先端の電熱技術・・・瞬間加熱素材『BO』だ・・・」
幸田「・・・」
仲貝「おまえ、まだ彼女とつきあってるのか?」
幸田「いいや」
仲貝「あの事件からもう五年か。ムショから出てきててもおかしくはないよな」
幸田「あの女は、おまえが今やってる事以上に、良からぬ事を始めようとしてるんだ・・・」
仲貝「なんだ、やっぱり知ってたのか。彼女なら、それも可能だな。あの技術を使って、こんなもんを
 作り出したんだから。彼女の悪魔的才能を俺にも分けてもらいたいよ」
  仲貝、金属球をポケットにしまう。ノートパソコンを開き、電源を入れる。
幸田「なぜ、俺を呼んだんだ?」
仲貝「おまえに見せたいものがあってな。うちの会社が裏でとんでもない兵器作りに加担してる。
 その証拠を今から見せてやる」
  春江川、まずそうに顔を歪ませる。
  右手の袖から、小型の筒の様なものが外に出てくる。筒から細長い火が噴出し、ビニールテープを
  焼き始める。
  ノートパソコンのCPUの書き込み音が激しく鳴る。ディスプレイの画面が発光する。
  春江川の両手首にくっついていたビニールテープが切れる。
  春江川、右腕を静かに前に出し、小型の筒先をノートパソコンのディスプレイに向ける。
  筒から、小さい針が発射する。
  パソコンのディスプレイに針が刺さる。
  仲貝、それに気づき、唖然とする。
  幸田、春江川の様子を見つめ、右腕が前に出ている事に気づき、
幸田「仲貝、パソコンから離れろ!」
  ノートパソコンのディスプレイが破裂する。仲貝、破裂した部品の残骸を浴び、その場に倒れ込む。
  幸田、慌てて、仲貝の元に駆け寄る。
  春江川、咄嗟に立ち上がり、部屋の入口に向かって歩き出す。
  黒いスーツを着た男達数人が部屋の中に一斉に入り、春江川の周囲を取り囲む。
  そのまま、部屋から出て行く。
  門矢馬のそばに秘書の三上 義郎(40)が近づいてくる。三上、門矢馬の口のテープを外そうとする。
  仲貝を抱き起こす幸田。
  仲貝、顔が黒焦げになり、目を細めている。
仲貝「ああ・・・クソ・・・」
  仲貝、幸田を突き飛ばし、金属球を持って、立ち上がり、
仲貝「おまえ、死にたいのか?」
  仲貝の声に驚き、動きを止める三上。
三上「社長は、高血圧なんだ。いつまでもこんな状態じゃ体がもたない・・・」
仲貝「うるせぇよ。早く出て行け!」
  門矢馬を心配気に見つめ、部屋を出て行く三上。
  仲貝、目を剥き、門矢馬を睨み付け、そばに近づいて行く。

○ 同・表門
  春江川の集団が姿を表わす。
  その様子を見つめる日下。春江川の姿を見つめ、唖然とする。
  パトカー車両の狭間を通る春江川達の前に、黒いセンチュリーが止まる。
  黒いスーツの男が後部座席のドアを開ける。
  春江川、不機嫌そうな様子で車に乗り込む。
  黒いセンチュリーの後ろに止まっているベンツに男達が乗り込む。
  発進するセンチュリー。その後を追ってベンツも走り出す。
  センチュリーの真向から、サイレンを唸らせたMR2が走ってくる。
  センチュリーを横切るMR2。
  MR2、パトカー車両の後ろに立ち止まる。
  MR2の両ドアが開き、運転席側から麻衣子、助手席側から島が降りてくる。
  日下の前まで歩いて行く二人。
麻衣子「幸田さんは?」
日下「家の中だ。今、とんでもない奴の顔を見てしまったよ・・・」
  怪訝な表情を浮かべる麻衣子と島。

○ 森林
  木々の狭間を潜り抜けている一樹、その後を末沢が歩いている。
  
○ 断崖
  高さ30mほどある切り立った断崖の先端に座り、下を覗いている一樹と末沢。
  断崖の下には、海岸が広がり、一台のボートが砂浜の上に止まっている。
  一樹、怪訝にボートを見つめる。
一樹「あれは、うちのじゃない」
  末沢、一樹の左横にしゃがみこみ、ボートを覗く。
末沢「さっきの黒メタルの男が乗って来たんだろう・・・」
  一樹、不安げな表情でボートを覗いている。
末沢「なっ・・・前に『変革をもたらすのは、僕達自身』だって言ってたけど、
 あれは、何の事なんだ?」
一樹「・・・」
末沢「さっきの男と何か関係があるのか?」
一樹「・・・僕らの獅勇部隊に匹敵する部隊が日本のどこかで秘密裏に
 組織されているらしいんだ。でも、僕ら自身は、そいつらをまだ見たことがない」
末沢「もし、その部隊がこの場所を知っているとすれば・・・」
  一樹、突然、立ち上がり、森林のほうに向かって歩き出す。
末沢「待て!どこ行くんだ?」
  一樹、立ち止まり、
一樹「仲間を助けに行く・・・」
末沢「お父さんのためにも、ここから一緒に抜け出そうって、さっき約束したところじゃないか」
一樹「連れが部隊にいるんだ。やっぱり、一人じゃ、逃げられない・・・」
末沢「君の連れは、俺達が必ず助ける。だから、今は、ここから逃げることだけを考えよう・・・」
  一樹、思いつめた表情。
末沢「なっ、一体、俺達をどうやってこの島に連れてきたんだ?」
  一樹、末沢のほうを向き、
一樹「海岸に潜水艇が止まってるはずだ」
末沢「君らが操縦してきたのか?」
一樹「部隊には、訓練を受けて、操縦できる奴もいるけど、僕は、できない・・・」
末沢「とにかく、海岸に出よう・・・」
  暫くして、海のほうから船のエンジン音が鳴り響いてくる。
  末沢、海のほうを見つめる。
  一台の白いクルーザーが猛スピードで島に近づいてくる。
  
○ 砂浜
  砂浜に乗り上げるクルーザー。
  コクピットの中から黒いスーツを着、青いサングラスをつけた四堂が表われる。
  四堂、サイドデッキから砂浜に飛び降りる。
  サングラスを外し、怪訝にボートを見つめている。
  
○ 断崖
  砂浜に立っている四堂を見つめ、唖然とする末沢。
末沢「四堂・・・」
  四堂、ボートの元に向かい、操縦席を覗き込んでいる。
  
○ 地下施設・監視ルーム
  入口の自動ドアが開き、四堂が入り込んでくる。
  コンピュータシステムの前に白衣を着た科学者が立ち、監視システムのチェックをしている。
  ソファに座り、紫色のワインを嗜む相沢 章子(33)。
  四堂、相沢の前に立ち、
四堂「えらく、騒々しいですね」
章子「餌が逃げたの・・・」
四堂「・・・」
章子「監視カメラを根こそぎ破壊されたわ。通信システムにも異常があったから、
 今、直してもらってる所よ」
四堂「・・・僕の餌も消えました」
章子「(唖然とし)えっ?」
四堂「幸田が乗り込んできたんですよ。僕の 別荘に・・・」
章子「今日は、厄日だわ。あなたもね・・・」
四堂「まだ、探せば見つかるんじゃないですか?」
章子「そうね。脱出方法も知らないだろうし・・・飢え死にするのを待ってみるのも面白いかも・・・」
四堂「いや、さっさと部隊を出すべきだと思いますよ」
章子「どうして?」
四堂「侵入者ですよ。海岸にボートが止まってた」
  章子、血相を変え、立ち上がると、監視システムの前に歩いて行く。
  制御盤の回線をいじっている科学者の男に話しかける章子。
章子「電源を立ち上げて・・・」
科学者「まだ、第3フロアのユニットの部品の取り付けが終わってませんが・・・」
章子「海岸のカメラを見るだけよ。さっさと映しなさい」
  科学者の男、制御盤の中の数個あるスイッチを順番に押していく。
  監視システムの9つのモニターがにわかに映り始める。
  章子、画面をまじまじと見つめる。
  中央の画面に海岸の様子が映る。
  末沢と一樹が砂浜にあるボートに乗っている。
  章子、モニターを見つめながら、ヘッドマイクをつけ、喋り出す。
章子「梨琉、聞こえる?」
   
○ 砂浜
  ボートの後ろに周り込み、船外機を調べている末沢。
  プロペラの羽根が欠けているのに気づく。
  ボートの上に乗っている一樹。末沢のほうを向く。
  末沢、困惑した様子で辺りを見回す。
  ふと、白いクルーザーの後方を見つめる。
  クルーザーの後方に船外機が取り付けられている。
  末沢、笑みを浮かべ、
末沢「(一樹の方を向き)一緒に手伝ってくれ!」
  クルーザーの方に向かって走り出す末沢。
  
○ 森林
  軍服を身に付け、青い能面の様なマスクをつけた少年・少女の兵士達が
  カービン銃を構え、辺り一面を散らばって歩いている。
  茂みの中を抜け出る二人の少年。
  数十メートル先に、黒いメタリックのプロテクターをつけたスキンヘッドの男が倒れている。
  少年達、男の元に近づき、しゃがみこんで、男の体を調べ始めている。
  もう一人の少年、木の根っ子にもたれて死んでいる千田を見つめる。

○ 地下施設・監視ルーム
  ソファに座り、ヘッドマイクに話しかけている章子。
章子「・・・男?どこにいたの?」
少年の声「第3ブロック西側の森林です。千田の死体も発見しました・・・」
  章子、怪訝な表情を浮かべる。
  監視システムのモニターの前に立っている四堂。海岸の様子が映るモニターを
  まじまじと見つめている。
  
○ 砂浜
  末沢、一樹、海に向かってボートを押している。
  ボートの後方にクルーザーから取ってきた船外機がセットされている。
  海に浮かぶボート。
  ボートの上に乗り込む二人。
  末沢、船外機のスタータースイッチを押す。低音で響き渡るエンジン。
  末沢、スロットルレバーを握り、
末沢「よし!」
  その瞬間、ボートの周りに弾丸が激しく飛び交う。
  末沢、一樹の頭を押さえ、一緒に身を伏せる。
  砂浜にカービン銃を構えた佐伯 梨琉(17)が立っている。
梨琉「千田君・・・降りてきなさい」
  顔を上げ、梨琉を見つめる一樹。
一樹「佐伯さん・・・」
  末沢、梨琉の顔を見つめ、
末沢「・・・「連れ」ってのは、あの子の事なのか?」
一樹「部隊で知り合ったんだ・・・」
  梨琉、優しい顔で一樹を見つめ、
梨琉「あんなところ戻っても意味ないでしょ?共に戦うって誓った事・・・
 もう忘れたの?」
  一樹、激しく動揺している。
  末沢、一樹の様子を伺うと、梨琉に話しかける。
末沢「君も来い。ここから一緒に抜け出そう」
  梨琉、引き金を引き、ボートの周りに弾丸を撃ち込む。
  慌てて、身を伏せる末沢と一樹。
梨琉「・・・あそこは、もうすぐ戦場になる。大勢の人が死ぬわ」
  梨琉の背後から、軍服を着た少年・少女達数人が表われ、こっちにやってくる。
  末沢、咄嗟に立ち上がり、レーザーライフルを梨琉に向け、撃つ。
  黄色い一直線上の光が梨琉の腹に当たる。
  梨琉、激しい電気ショックを浴び、その場に崩れ落ちる。
  一樹、驚愕し、
一樹「(末沢を睨み付け)馬鹿野郎!」
  一樹、ボートから降りようとするが、末沢が寸前で一樹の腕を掴む。
末沢「少しショックを与えただけだ」
一樹「だから大人なんか信用できねぇんだよ」
  末沢、鋭い眼光で一樹を睨みつけ、
末沢「俺を信じてくれ・・・頼む!」
  末沢の威圧感に屈伏する一樹。
  末沢、スロットルレバーを引く。
  発進するボート。
  少年・少女達、砂浜に並んで立ち、ボートをジッと見つめている。
  荒波の上を進んでいるボート。地平線に向かって突き進んで行く。
  
○ 門矢馬家・和室
  門矢馬、金属球を口の中に入れている。
  苦しげな表情。
  仲貝、ビニールテープで門矢馬の口元を塞ぎ、テーピングしている。
  仲貝の背後に立っている幸田。
  幸田、仲貝に近づこうと足を一歩前に出す。仲貝、それに気づき、
仲貝「幸田・・・」
  足を止める幸田。
仲貝「友達だろ?変なことしないでくれよ」
幸田「仲貝、もう、これぐらいにしとけ」
仲貝「春江川をもう一度ここに呼び戻せ」
幸田「そんなことして、どうする?」
仲貝「決まってるだろ?あいつに全てをぶちまけさせるんだ」
幸田「だったら、おまえの証言を元に、俺達が動く。おまえは、民間人なんだ。これ以上
 事を大きくしたら、本当に人生終わっちまうぞ」
仲貝「これからの人生なんてたかが知れてる。それより、俺は、俺の研究を無断で武力兵器に利用しようと
 したこいつが許せねぇんだよ」
  仲貝、テーピングをやめる。門矢馬の顔半分にテープが何重にも張り付けられている。
  仲貝、幸田と顔を合わす。
幸田「おまえ、何を研究してたんだ?」
仲貝「小型の監視衛星に使う新素材の特殊合金の研究だ」
幸田「春江川は、監視衛星を欲しがっているのか?」
  頷く仲貝。
仲貝「その特殊素材を使って、『ウォールスーツ』と呼ばれる戦闘服の試作品も完成してる。
 その設計図のデータがパソコンの中に入っていたんだ」
幸田「データのコピーは、ないのか?」
仲貝「ある。新宿の地下のコインロッカーだ。DVD−RAMが入ってる」
  
○ 同・表門前
  騒然としている。
  覆面車の前で話をしている日下と捜査員の男。そこに島が近寄り、会話の中に入る。
  日下の携帯が鳴る。
  日下、携帯を取り、耳に当てる。
日下「もしもし・・・」
  
○ 同・和室
  携帯を持ち、話をする幸田。
幸田「幸田だ。頼みがある」
   ×  ×  ×
  襖を開け、島が姿を表わす。
  唖然とする幸田。
  島を睨み付ける仲貝。
幸田「おまえ・・・」
島「心配かけてすいません。もう平気です」
幸田「悪いが、至急、新宿地下の京王モールにあるコインロッカーに行って、DVD−RAMを
 取ってきてくれ」
  幸田、キーを島に投げ渡す。
島「わかりました・・・」
  島、仲貝と一瞬、目を合わす。そして、部屋の片隅に座っている門矢馬の姿を見つめる。
  仲貝、気に入らない様子で島を見つめ、
仲貝「さっさと行けよ!」
  島、後退りしながら、踵を返し、部屋を出て行く。

○ 同・表門
  勢い良く走り出てくる島。MR2の元に駆け寄る。
  MR2の運転席に乗り込んでいる麻衣子。
  島がウィンドウをノックする。ウィンドウを開ける麻衣子。
麻衣子「どうしたんですか?」
  島、運転席のドアを開け、
島「京王モールに行ってくる。代わってくれ」
  島、麻衣子を強引に降ろし、運転席に座り込む。
  ドアを閉め、エンジンをかけると、バックして、交差点で切り返し、猛スピードで前進する。
  麻衣子、愕然とした様子・・・
麻衣子「なんで?・・・」

○ 同・和室
  門矢馬、金属球を口に加え、息苦しそうな表情を浮かべている。
  部屋の中央で対峙する幸田と仲貝。
  仲貝、スーツのポケットからラムネ菓子のおまけの戦車の模型を取り出し、手に持つと、
  擬音を唸らしながら、空中で走らせる。
仲貝「いい加減な上司を持つと部下は、苦労させられるよな。うんざりだよ、こんな世の中。
 戦車でも買って、国会議事堂に突っ込んでやりたい気分だ」
幸田「おまえ、派手な映画の見過ぎだろ?そんな事したって、何も変わりはしないよ」
仲貝「・・・やってみなきゃわからんだろ?」
幸田「おまえにもらったアニメと特撮の主題歌テープ。まだ、車の中に入ってるぞ・・・」
仲貝「あんなもん、まだ置いてたのか。おまえも好きだよな。ガキの時、おまえがヒーローで、俺が敵のドンの役で、
 おもちゃの剣で、よく戦ったっけ?・・・」
幸田「そう言えば、なんであの時、ヒーローをやりたがらなかったんだ?」
仲貝「俺は、今で言う、敵キャラオタだったんだよ」
幸田「・・・思い出した。自分でコスチュームも作ってたよな。それが今の仕事に生かされたって訳か」
仲貝「変なこと思い出させんなよ・・・」
幸田「おまえ、結婚は?」
仲貝「まだだ」
幸田「そうか・・・」
仲貝「おまえは、どうなんだ?まだ相沢章子の事が気になってるんじゃないのか?」
幸田「気には、なっているさ。犯罪者としてはな」
仲貝「嘘つくなよ。あの頃、彼女をどうやったら救い出せるのか、何度も俺に相談して来たじゃないか」
幸田「昔のことだ・・・」
仲貝「彼女は、事件を起こす前に俺に連絡してきたんだ」
  険しい表情を浮かべる幸田。
仲貝「『科学者なんかになるんじゃなかった』ってな」
幸田「・・・なぜ、今まで教えてくれなかった?」
仲貝「彼女に口止めされたんだ。おまえと、普通の出会いをして、普通に暮らしたかったって言ってたよ」
幸田「あいつの話しは、やめろ。もう終わった事だ」
仲貝「もっと自分に正直になれよ」
幸田「・・・」
  
○ 地下施設・実験ルーム
  部屋の中央のテーブルの上に横たわる黒いメタリックのプロテクターをつけたスキンヘッドの男の遺体。
  その隣にあるテーブルの上に、千田の遺体が置かれている。
  白衣を着た男が男の額にクリップライトを当て、開いた穴を調べている。
  入口のドアが開き、章子と四堂が白衣の男のそばに立つ。
章子「どうなの?」
白衣の男「見事なまでのシャープな貫通力だ。おそらく、奪われた試作品でつけられた傷でしょう」
  四堂、男の顔、まじまじと見つめ、
四堂「この男・・・見たことがある」
章子「誰?」
四堂「確か、王虎会の組員だったはず・・・名前は、広重・・・」
  章子、千田の遺体を見つめ、
章子「(白衣の男に)あいつが死んだ原因は?」
白衣の男「うちの試作品よりも遙かに強力な照射威力を持った兵器で、腹に穴を開けられていました」
  白衣の男、壁沿いにあるデスクの上に置いてあるレーザーガンを持ち、章子に手渡す。
  章子、レーザーガンをまじまじと見渡し、
章子「これの分析を急いで。それと、この男がつけてるスーツもね」
  
○ 新宿・地下モール
  階段を急いで降りている島。
  モールを歩く人達の雑踏をかきわけながら、必死に走っている。
  
○ 同・コインロッカー前
  走ってくる島。
  『432』番のロッカーを探し始める。
  番号を見つけ、キーを差し込む。
  扉を開き、中に手を入れ、DVD−RAMの入ったケースを掴み出す。
  島、ケースをスーツのポケットに入れ、また、走り始める。
  
○ 百貨店前
  脇道に止まっていたMR2がサイレンを唸らせながら、猛スピードで走り始める。
  路上で、スピンターンし、逆方向へ走り始める。
  
○ MR2車内
  ハンドルを握る島。
  フロンガラス越しに見えるバスターミナル。
  その向こうには、高層ビルが立ち並んでいるのが見える。
  手前の交差点を黒いトレーラーが横切って行く。
  島、トレーラーを見て、突然、ブレーキをかける。
  
○ 交差点の前で立ち止まるMR2
  MR2の後ろを走っていた軽トラが急停止し、MR2の寸前で立ち止まる。
  軽トラの後を走っていた車が次々と急停止する。激しく鳴り響くクラクション。
  MR2、また、走り出すと、タイヤを唸らせながら、ドリフト気味に左に曲がる。
  
○ MR2車内
  アクセルを踏み込む島。
  フロントガラス越しに前の車を次々と追い抜いて行くのが見える。
  黒いトレーラーのコンテナが見え始める。
  島、トレーラーを睨み付けている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクを挟んで対峙している小神と警視総監の中坊信太郎(54)。
  小神、唖然とした面持ち。
小神「・・・本気ですか?長官」
中坊「本気だよ。仲貝光彦を射殺する」
小神「仲貝には、今、幸田がついてます。もう暫く時間を・・・」
中坊「そん気長な事は、言ってられんのだよ。君も知ってるだろうが、明日、主要3ヵ国を集めた
 国際サミットが新設された会議場で行なわれる。だから、近辺でこんな事件が起こっていては、
 非常にまずいんだ・・・」
小神「・・・実は、さっき、連絡があったんですが、小坂電子社長の門矢馬の自宅に、
 官房長官の春江川幸造がいたそうです・・・」
  中坊、険しい表情を浮かべ、小神に背を向ける。
中坊「それがどうかしたのかね?」
小神「・・・」
中坊「私と官房長官との間に、何かあるとでも思ってるのかね?小神君・・・」
小神「・・・」
中坊「娘さんが見つかったんだ。この事件が片づいたら、早く家に帰ってあげなさい」
  中坊、そのまま入口に向かって、歩き去って行く。
  中坊の背中を怪訝に見つめている小神。

○ 門矢馬家・表門
  覆面車の前で円陣を作り、話をしている第3チームの捜査員達と麻衣子。
  覆面車の運転席から日下が表われ、円陣の中に入ってくる。
日下「仲貝の射殺命令が出た」
  捜査員達に緊張が走る。
麻衣子「待ってください。仲貝は、幸田さんが必ず説得して、連れ出してきます」
日下「一刻も早く事態を収拾しろと政府から要請が来たそうだ」
麻衣子「春江川・・・春江川が指示を出したんですね?」
  日下、麻衣子の言葉を無視し、
日下「前島、上木、庭に入り込んで、狙撃の準備をしろ」
  捜査員の前島、上木が円陣から抜け出て行く。
  麻衣子、焦った様子で、
麻衣子「ちょっと、待ってください。幸田さんを信じてあげてくださいよ!」
日下「仲貝は、もう幸田の友達じゃない。奴は、犯罪者だ」
  絶句する麻衣子。
  
○ 同・和室
  門矢馬の顔が紅潮し、額から激しい汗が流れている。意識朦朧としている門矢馬。
  幸田、ふと門矢馬の方を向く。
  門矢馬、目をパチパチとさせ、白目を剥き始めている。
  幸田、慌てて、門矢馬の元に行き、口元のテーピングを外す。
  仲貝、その様子を見つめ、
仲貝「取るな!」

○ ライフルのスコープの映像
  邸宅の和室。部屋の中央に立っている仲貝の背中に照準が合わされている。

○ 門矢馬家・和室
  幸田、門矢馬の右手首の脈を指で押さえ、
  さらに、胸に耳を当てる。
幸田「心臓が止まってる」
  幸田、門矢馬をその場に寝かせる。
  口元のテーピングを外し、口の中から金属球を抜き取り、畳に置く。
  幸田、門矢馬の胸を手で押さえ、マッサージを始める。
仲貝「そのまま死なせてやれよ。そんな奴、救っても意味がない」
  幸田、マッサージを続ける。
幸田「『悪人にも一分の魂』さ」
仲貝「なんだ、そりゃあ?・・・」
幸田「どんな悪人にも、命には、限りがあるってことさ」
  幸田、門矢馬の顎を上にし、口を開け、息を吹き込む。
  仲貝、その様子を見つめ、空しい表情を浮かべ、
仲貝「そんなことわざ・・・初めて聞いた・・・」
幸田「そりゃそうだ。俺が今、作ったんだ・・・」
  幸田、門矢馬と口を合わせ、さらに息を吹き込んでいる。
  仲貝、薄ら笑いを浮かべ、
仲貝「よくやるぜ・・・」
  仲貝、ふと、畳に置いてある金属球に目を向ける。
  息を吹き返す門矢馬。うっすらと目を開け、幸田の顔を見つめる。
  幸田、携帯を取り出し、ボタンを押すと、耳に当て、
幸田「幸田だ。門矢馬が倒れた。至急、救急車を呼んでくれ・・・」
  幸田、仲貝を見つめる。
  その瞬間、銃声が鳴り、仲貝の腹から血飛沫が上がる。驚愕し、目を剥く幸田。
  さらに二発目の弾丸が仲貝の腹を貫通する。
  仲貝、その場にゆっくりと崩れ落ちる。
  幸田、急いで、仲貝の元に駆け寄り、仲貝の体を抱き起こす。
  仲貝、薄れゆく意識の中で呆然と幸田を見つめている。
仲貝「なんで・・・幸田・・・」
幸田「こんなの馬鹿げてる。何かの間違いだ」
仲貝「おまえに嘘ついてた・・・俺、やっぱり、嫁さんが欲しい・・・子供も・・・」
  幸田、声を荒げ、
幸田「だったら頑張って生き続けろ!」
仲貝「何年ぐらいムショにいなきゃならないのかな・・・」
幸田「俺がなんとかして、すぐにムショから出してやる。出たら、すぐに見合いしろ」
  仲貝、笑みを浮かべ、
仲貝「おまえは、相沢さんと一緒になれよ・・・必ずな・・・」
  仲貝、静かに目を閉じ、息絶える。
  幸田、呆然とした表情で仲貝の顔を見ている。
  
○ 同・表門前
  救急隊員によって門矢馬の乗った担架が運ばれている。
  その後を、青いシートを被った担架が運び出されている。
  担架の後ろを幸田がとぼとぼと歩いている。
  幸田の元に麻衣子が近づく。
麻衣子「幸田さん・・・」
  幸田、立ち止まる。
  幸田の前に日下がやってくる。
  幸田、しだいに表情が強ばり、
幸田「これは、一体どう言うことだ?」
日下「警視総監の命令だ」
幸田「睡眠弾薬を使う方法もあったのに、どうして、本物の弾を奴に撃ち込んだんだ?」
日下「だから、警視総監の命令だと言ってるだろ?」
  幸田、透かさず、右手の拳で日下の顔を殴りつける。
  その場に倒れ込む日下。
  幸田、日下の腹の上に乗り、何度も日下の顔を殴りつけている。
  麻衣子と第3チームの捜査員が幸田を羽交い締めにし、日下から遠ざける。
  幸田、怒りがおさまらず、大声を上げ、
幸田「あいつは、誰も殺してないんだぞ?ブッ殺すぞ日下!」
麻衣子「幸田さん!落ち着いてください」
  日下、起き上がり、赤く腫れた頬を手で押さえ、
日下「事件に私情を持ち込むなよ、幸田。我々は、しかるべき対応をしたまでだ。
 文句があるなら、長官に言うんだな」
  日下、立ち上がり、その場を立ち去って行く。
  興奮する幸田。怒りの表情が徐々に和らいでくる・・・。
幸田「離してくれ、もう何もしない」
  幸田の腕から手を離す麻衣子と捜査員達。
  麻衣子、幸田と対峙し、
麻衣子「春江川ですよ。あいつが指示を出したに決まってます・・・」
  幸田、落ち着きを取り戻し、
幸田「わかってる・・・島は?」
麻衣子「まだ、帰ってきてません・・・」
  幸田、怪訝な表情を浮かべ、
幸田「あいつがDVD−RAMを取りに行ったのか?」
麻衣子「それがおかしいんです。島さん、また、自分で車を運転して行ったんです・・・ 」
  唖然とする幸田。
幸田「洗脳状態が・・・まだ続いてる・・・」
  
○ 都庁前
  疾走する黒いトレーラー。
  その後を追うMR2。
  
○ MR2車内
  トレーラーを見つめながら、ハンドルを握る島。
  トレーラーが都庁前の脇道に止まる。
  
○ 都庁前
  警備員がトレーラー前に駆け寄ってくる。
  トレーラーのコンテナの扉が開き、青い能面のマスクをつけ、武装した少年兵達数十人が
  カービン銃を持ち、一斉に降りてくる。
  一人の少年が警備員に銃をつきつける。
  他の少年達、一斉に都庁のビルの入口に向かって突っ走って行く。

○ MR2車内
  島、慌ただしく走り出す少年達を見つめ、
島「何考えてんだ?あいつら・・・」
 
○ 都庁前
  脇道に止まるMR2。
  慌てて車から降りる島。少年達を追って走り出す。
  
○ 都庁・一階フロア
  分散しながら突き進む少年達。
  騒然とするフロア。
  辺りにいる人々に銃を振り向ける少年。
  エレベータに数人の少年達が乗り込む。
  
○ 都庁前
  必死に走っている島。
  暫くして、上空からヘリの羽音が聞こえてくる。
  島、突然、立ち止まり、耳を押さえながら、その場にしゃがみこむ。
  苦痛な表情を浮かべながら、空を見つめる島。
  都庁の上空を報道局の白いヘリが横切っている。
  呼吸が荒くなり、苦しみ始める島。
  やがて、島の両目が紫色に光る。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの上の電話が鳴る。受話器を上げる小神。
  
○ 海岸
  飲食店の前の公衆電話の前に立つ末沢。
  受話器を握り、話をしている。
末沢「末沢です・・・」
    ×  ×  ×
  小神、唖然とし、
小神「今どこにいる?」
    ×  ×  ×
末沢「千葉の白浜の海岸にいます・・・」
    ×  ×  ×
小神「そこで待ってろ。すぐに迎いを出す」

○ 東京湾の上空を飛行する230ヘリ
  時速200kmのスピードで突き進んでいる。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席に座り、レバーを握る土下。
  ガラス越しに、複雑に隆起した海岸砂丘が見えてくる。
  海岸をまじまじと見つめている土下。
  やがて、海岸に立つ末沢と一樹の姿が見えてくる。

○ 海岸
  ゆっくりと降りてくる230ヘリ。
  スキッドが砂浜の上にぴったりと乗る。
  ヘリから出る強い風を浴びながら、機体に駆け寄る末沢と一樹。
  末沢、ヘリ後部の扉を開け、一樹をヘリに乗り込ませる。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  助手席に乗り込む末沢。
  土下、末沢を見つめ、
土下「よく生きて戻ってきた」
  土下、末沢と固い握手を交わす。
  末沢、複雑な表情を浮かべると、後ろを
  見つめる。
  座席に座る一樹。呆然と項垂れている。
  
○ 海岸
  ゆっくりと高度を上げ、旋回すると、猛スピードで飛び去って行く230ヘリ。  
  砂浜に一人の男が表われる。
  四堂である。四堂、小さく消えていく230ヘリをジッと見つめている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  幸田が勢い良く部屋の中に入ってくる。
幸田「長官を呼び出してください。聞きたい事があります」
  小神のいるデスクの前に立ち止まる幸田。
  小神、険しい表情を浮かべる。
幸田「呼び出せないなら、直接出向きますよ」
  幸田、踵を返し、部屋を出て行こうとする。
小神「待て、幸田」
  立ち止まる幸田。
小神「おまえの言いたい事はよくわかる。だが、これ以上、内部に混乱を与えるようなら、
 私は、チームからおまえを外す」
  幸田、振り返り、小神を睨みつけ、
幸田「じゃあ、教えてください。俺達をスパイしているのは、長官なんでしょ?」
  小神、寡黙になり、何も答えようとしない。
  
○ 同・オフィス
  末沢が部屋の中に入ってくる。
  部長オフィスの前に立っている麻衣子。
  末沢に気づき、近づいて行く。
麻衣子「末沢さん!」
末沢「部長と幸田さんは、中にいるのか?」
  デスクの電話が鳴り始める。
麻衣子「ええ・・・早く、真貴さんの所に行ってあげてください」
末沢「・・・なんで、真貴のこと?」
麻衣子「彼女、何度もここに足を運んでるんです・・・」
  末沢、憮然とし、麻衣子の前を横切り、部長オフィスへ歩いて行く。
  唖然とする麻衣子。電話の受話器を上げる。
麻衣子「はい、第5チーム・オフィス・・・」
  麻衣子、驚愕し、
麻衣子「都庁が・・・少年達に占拠されたそうです・・・」
  立ち止まる末沢。愕然とした面持ちになる。

                                               −自虐突破口・完−

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