『555 ダッシュバード 危特科捜班』第九回「アイス・ウォール」byガース『ガースのお部屋』
  
○ ヘリのコクピット内の視点
  ローターの激しい回転音が鳴り響いている。
  ガラス越しに東京都庁・第一本庁舎ビルの全景が見えている。
  操縦席に座っているのは、土下(はした) 仁(40)。険しい表情で都庁を見つめている。

○ 都庁ビル7階・通路
  エレベータが開く。
  青い能面をつけ、武装した3人の兵士達が片手にカービン銃を構えながら、
  慌ただしく突き進む。
  奥の方から3人の警備員達が表われ、横一列になって兵士達の前に突き進んでいる。
警備員A「おい、何してるんだ!」
  一人の兵士が真中の警備員にカービン銃を構え、撃つ。
  警備員の腹に緑色の光線が当たる。勢い良くその場に倒れ込む警備員。
  両端の警備員達も次々と光線を食らい、のけ反るように倒れる。

○ 都庁の上空を勢い良く通り過ぎて行く230ヘリ

○ 都庁ビル北塔45階・展望室
  一人の兵士が表われる。
  兵士、カービン銃を観光客達に向ける。
  若い女の悲鳴が轟く。
  若いカップル、老夫婦、親子づれ、子供達にカービン銃が向けられている。

○ 同・南塔45階・展望室
  一人の兵士が観光客にカービン銃を向け、歩いている。
  窓際に立たされている観光客達。

○ 同・1階フロア
  職員と警備員達が通路沿いに一列に並んで立たされている。
  1人の兵士が職員達の正面に立ちはだかり、カービン銃を向けている。
  エレベータの前にもう1人の兵士が立ち、そばに立っている2人の警備員にカービン銃を
  向けている。
  職員達の列の中に立っている島 健司(29)。島、無気味な表情で、兵士を見つめている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学科捜班・部長オフィス
  デスクに座り、受話器を握っている小神 洋介(49)。
  受話口から、警視総監・中坊信太郎(54)の声が聞こえる。
中坊の声「・・・こちらにもさっき情報が入った。都知事は、無事なのか?」
小神「近隣の大学で講義していたところを第10チームが保護しました」
中坊の声「そうか・・・それで、状況は?」
小神「今のところ、犯人グループからの犯行声明は、出ていません。1階のフロアは、
 封鎖されていて、職員は、ビルの中に閉じ込められたままです。都庁周辺並びに政府機関には、
 厳重警戒体制を張らせました。今、うちのチームと第3、第4チームが現場に向かっています」

○ 警視庁・警視総監室
  デスクに座る中坊。
中坊「この件は、危特科捜班に一任する。マスコミが嗅ぎつける前に、早急に解決してくれたまえ」
   ×  ×  ×
  小神、神妙な面持ち。
小神「わかりました・・・」

○ ビジネス街を走るブルーバード
  サイレンを唸らせながら、猛スピードで交差点を横切って行く。
  ブルーバードの後ろをシルバーのセダンが走っている。

○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田 智(35)。助手席に葉山 麻衣子(26)が座っている。
麻衣子「相沢達の目的は、やっぱり、国家転覆だったんですね・・・」
幸田「・・・まだ章子達のグループだと断定されたわけじゃない」
麻衣子「でも、現場で金属球を持っている兵士を目撃した人がいると言う情報があるんですよ・・・」
  幸田、神妙な面持ちになる。
  麻衣子、幸田を心配気に見つめている。

○ 都庁ビル前の道路
  脇道に立ち止まるブルーバード、その後ろに二台のセダンが立ち止まる。
  車のドアが一斉に開く。ブルーバードから幸田、葉山、その後ろのセダンから第3チームの
  日下 恭平(34)、前島(29)、上木(27)達、その後ろのセダンから第4チームの
  五十嵐(29)、松川(28)が降りている。
  幸田を筆頭に危特科捜班のメンバー達が都庁前の広場に足を進めている。
  麻衣子、一点を見つめ、突然、立ち止まる。脇道に止まっているMR2の後ろ姿を見ている。

○ 同・広場
  会話をしている二人の警備員の前に近づいて行く幸田。
  幸田、警備員に警察手帳を見せる。
幸田「警視庁の幸田です。状況を詳しく教えてください」
  日下達が幸田のそばに駆け寄ってくる。
警備員B「大きな黒いトレーラーのコンテナから、青い面を被った男達が一斉にビルの中に
 入って行きました・・・」
警備員C「皆どでかい銃を持っていた」
幸田「人数は?」
警備員B「おそらく、十人ぐらい。中は、電気も電話回線も遮断されています」
幸田「携帯は?」
警備員B「それが、なんらかの干渉が起きていて、ビル内では使えなくなっています」
  日下、突然、会話の中に入ってくる。
日下「他に奴らの特徴は?」
  唖然とする幸田。日下を睨み付ける。
警備員C「そう言えば、皆、重そうな黒い鎧みたいなものを身に付けてた・・・」
日下「黒いトレーラーは、その後、どこに?」
警備員C「中央公園のほうに走り去って行きました・・・」
  険しい表情を浮かべる幸田、日下。
幸田「SATを緊急要請しよう・・・」
  日下、幸田の言葉を無視するかのように、そばにいた五十嵐に話しかける。
日下「仲間が見張っている可能性がある。付近を徹底的に調べろ」
五十嵐「わかりました」
  憮然とする幸田。
  五十嵐、松川を連れ、その場を立ち去って行く。五十嵐達と入れ代わるように、
  麻衣子が幸田の元に向かって、駆けてくる。
麻衣子「幸田さん。うちの『03』号車が止まってます」
幸田「島は?」
麻衣子「いません。もしかしたら、トレーラーを追ってここに来たのかも・・・」
幸田「・・・」
日下「奴は、仲貝が残したDVD−RAMを取りに行ったんじゃなかったのか?」
  麻衣子、憮然とした表情で日下を見つめ、
麻衣子「だから、その途中でトレーラーを見つけたって言ってるんですよ」
日下「幸田、おまえのチームは、使えない奴が多過ぎるな」
  麻衣子、口を曲げ、日下を睨み付ける。
幸田「どういう意味だ?」
日下「事態は、一刻を争うんだ。うちの前島と上木をビルに潜入させて中の様子を探らせる」
幸田「なんでおまえがここを仕切るんだ?これも長官命令なのか?」
日下「押し問答してる場合じゃないんだよ。おまえが俺に突っかかるのは勝手だが、
 その間に一万人もの職員の命が揺さぶられる事になるんだ」
  麻衣子、怒りを押さえられず、大声を上げ、
麻衣子「どうして、そんな平気な顔してられるんです?素直に幸田さんに謝ったらどうなんですか?」
日下「何で俺が謝らなきゃならんのだ?馬鹿な事言ってる暇があったら、さっさと仕事を始めろ」
  麻衣子、悔しげに歯を食いしばる。
幸田「麻衣子、もういい。日下の言う通りだ」
  麻衣子、渋々幸田のそばを離れて行く。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学科捜班・取調室
  デスクを挟んで対峙して座っている末沢 裕太(28)と、千田 一樹(15)。
  一樹、寡黙に俯いている。
末沢「俺達があの島を出る前に、佐伯梨琉が言った言葉・・・あれは、都庁を占拠する事
 だったのか?」
一樹「・・・そんな計画の事は、知らない」
末沢「じゃあ、獅勇部隊は、何をしようとしているんだ?」
一樹「・・・社会から駆逐された少年少女を救い出し、彼らに悪影響を及ぼす大人を抹殺
 すること・・・」
末沢「それは、いつ始めるんだ?」
一樹「予定では、明日のはず。でも、僕が逃げたから、どうなるかわからない」
末沢「なぁ、君達に悪影響を及ぼす大人達ってのは、どんな奴らのことを指すんだ?」
   一樹、鋭い眼差しで、末沢を見つめ、
一樹「例えば、僕が刑事さんの事をうざったいなぁと思ったら、あんたを殺す」
末沢「それぞれの邪魔者を金属球を使って、大量虐殺するのか?」
一樹「・・・」
末沢「君達もいずれ大人になる。もし、君が少年達に除け者にされ、殺されそうになったら
 どうする?」
一樹「僕達が殺される理由はないよ。だって、僕らは、彼らの味方だから・・・」
  末沢、険しい表情で一樹を見ている。

○ 地下施設・監視ルーム
  ソファに座る相沢 章子(33)。紫色のワインを一気に飲み干す。
  入口の自動ドアが開き、白衣を着た男が章子の前にやってくる。
男「男がつけていたスーツの分析が終わりました。これがその結果です」
  男、右手に持った検査データのペーパーを章子の前に差し出す。
  章子、ペーパーの化学式をまじまじと見つめ、
章子「カーボンナノチューブの結合体?」
男「強力な合成繊維です。レーザーや弾丸を受けても、再生能力は、半永久的。強度も戦車の
 鋼鉄以上です。また、大量に電気を吸収できるので、レーザーガンのエネルギーとして
 活用することができます」
  章子、驚愕し、
章子「これを複製して、より強力な武装服を作って」
男「お時間は、どれくらい頂けるのでしょうか?」
章子「三日・・・」
  男、唖然とする。
章子「無理なの?」
男「いいえ・・・」
  突然、室内の警告音が高く鳴り響く。
  章子、立ち上がり、壁に設置されている巨大なマルチモニターの前に立つ。
  9つあるモニターの右下の画面に映し出されている海岸。
  3台の黒塗りのディーゼルボートが平行してこちらに迫っている。
  デッキには、黒のメタリックな戦闘服とマスクを身に付けた男達がそれぞれに2人
  乗っているのが見える。
章子「(男の方を向き)海底移動システムを作動させて」
男「潜るにしても、20分ほどかかります」
章子「大丈夫よ。奴らがここを見つけ出すには、それ以上の時間がかかるわ」
男「わかりました」
  男、コンピュータコンソールのキーボードを叩く。ディスプレイに縦スクロールで流れている
  コンピュータ言語をまじまじと見つめている。

○ 海岸
  三台のボートが砂浜に乗り上がる。
  黒い兵士達、一斉に砂の上に降り、立ち並ぶと、腰のホルダーのレーザーガンを右手で
  抜き取り、構える。
  一斉に歩き始める黒い兵士達。
  
○ 森の中
  9人の兵士、銃を構え、あちらこちらに散らばりながら歩いている。
  草叢の中のから、突然、勢い良く鉄砲水が噴出する。
  噴出する水に弾き飛ばされる1人の兵士。
  森のあちこちで水が空高く舞い上がり始めている。
  兵士達、後退し、急いで海岸のほうに戻り始める。

○ 都庁ビル・一階フロア
  壁隅に並んで立っている職員達の列の前に、カービン銃を向けながら歩いている兵士。
  島の前を横切る。
  島、離れて行く兵士の姿を目で追っている。咄嗟にエレベータの方を向く。
  エレベータ前に立っている兵士。
  左腕につけている腕時計をまじまじと見ている。
  デジタル表記の腕時計。時間は、『16:47』を表示している。
  入り口前に立っている兵士。外の様子を覗き込んでいる。

○ 都庁に向かって猛スピードで飛行する230ヘリ(夕方)
  夕陽に向かって突き進んでいる。
  激しく唸るローター音。
  第一本庁舎ビル・北塔のそばでゆっくりと止まり、屋上の上空でホバリングする230ヘリ。
  後部席の扉がスライドして開き、中から縄梯子が下ろされる。
  前島が梯子を降り始める。
  
○ 都庁ビル・北塔屋上
  梯子から数メートル下の屋上の地面に飛び降りる前島。
  腰に身に銃を抜き取り、コンクリートの地面に撃つ。銃口からロープのついた杭が発射し、
  地面に突き刺さる。
  腰に巻いているウインチつきのロープで、ビルの壁をゆっくりと降りて行く。
  48階の窓ガラスの前まで降りる前島。
  前島、ズボンのポケットからペンライトのような形をしたカッターを取り出し、
  ガラスを切り始める。

○ 同・南塔屋上
  上木がロープを伝い、48階の壁に降りている。

○ 同・北塔48階機械室
  円状に切れたガラスを蹴り落とし、中に侵入する前島。
    
○ 都庁ビル前・広場
  専用無線のレシーバーを持ち、イヤホンを耳につけている日下。前島の声が聞こえる。
前島の声「北塔機械室に、潜入しました。これから中の様子を調べます」
日下「まず、展望室だ。くれぐれも慎重に頼む」
上木の声「上木です。南塔機械室に入りました」
日下「展望室に向かえ。慎重に頼む」
上木の声「了解」
  日下の様子を窺っている幸田。どこか、落ち着かない表情である。
  
○ 都庁ビル・48階機械室
  銃を構え、通路を走り出す前島。
  非常階段の入口に入り、階段を降り始める。と、同時に機械室のドアが開き、
  一人の兵士が表われる。
  兵士、左腕につけた腕時計に話しかける。
兵士「侵入者発見・・・」

○ 同・北塔45階展望室
  非常口の扉がうっすらと開く。
  前島が扉の隙間から室内の様子を覗いている。
  観光客がガラス側に一列に立たされ、二人の兵士にカービン銃を向けられている。
  若い女に抱かれた幼児の泣き声が聞こえる。
  
○ 都庁ビル前・広場
  日下の携帯から前島の声が聞こえる。
前島の声「前島です。展望室で兵士1人を確認しました」
日下「よし、確保しろ」
前島の声「了解・・・」
  幸田、怪訝な表情を浮かべ、日下のそばから離れる。
  日下、幸田をジロッと見つめ、
日下「どこに行く?」
  幸田、立ち止まると、振り返り、
幸田「本部に連絡してくる」
  幸田、そのまま走り去って行く。
  日下、ほくそ笑み、
日下「役立たずが・・・」
  通信が入る。
上木の声「上木です。こちらも1人確認しました」
日下「確保だ」

○ 同・北塔45階展望室前・階段
  前島、ベレッタに睡眠弾の入ったマガジンを差し込む。
  スライドを引き、中にいる兵士に銃口を向け撃つ。

○ 同・展望室
  兵士の左足の脹ら脛に弾丸が刺さる。
  もう一人の兵士の右の脹ら脛にも弾丸が刺さる。
  二人の兵士、暫くして、その場に崩れるようにして、倒れる。
  前島、ゆっくりと扉を開け、銃を倒れた兵士に向けながら、中に入り、観光客の前に
  近づいて行く。
前島「落ち着いてください。警察のものです」
  
○ 都庁ビル前・広場
  日下のレシーバーから前島の声が聞こえる。
前島の声「職員と観光客13人を保護しました」
  日下、万遍の笑みを浮かべ、
日下「よし、そのまま42階に降りて、各部屋の様子を探れ」
前島の声「了解」
  上木の声が聞こえる。
上木の声「南塔、職員と観光客7人を保護しました」
日下「次は、42階だ」
上木の声「了解」
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学科捜班・オフィス
  無線機の前に末沢が立っている。レシーバーを握っている。
末沢「伊豆諸島、小笠原諸島一帯の海図を調べたんですが、僕が連れていかれた島は、
 見つかりませんでした」

○ ブルーバード車内
  運転席に座る幸田。レシーバーを握り、喋りかけている。
幸田「見つからない?」
   ×  ×  ×
末沢「地図上には、存在しません」
   ×  ×  ×
幸田「至急、ヘリで確認してくれ」
  無線機のスピーカーから、末沢の声が聞こえる。
末沢の声「わかりました」
  バックミラーにパトカーのサイレンの光りが反射している。
  幸田、ふと、後ろを振り返る。
  三台のセドリックのパトカーがブルーバードの後ろに縦列に止まる。
  
○ 都庁ビル・南塔40階高齢政策部
  電気が消え、夕陽が差し込んでいるオフィス。
  数十人の職員が騒然としている。
  入口から上木が駆け込んでくる。
上木「(大声で)警察のものです・・・」
  職員達が一斉に上木のほうを向く。

○ 都庁ビル前・広場
  携帯を耳にしている日下。
  上木の声が聞こえる。
上木の声「40階の職員全員の無事を確認しました」
日下「よし、次は、38階だ」
上木の声「了解」
  日下、ふと都庁のビルを見上げる。
  ビル内の照明が一斉に灯り始める。
  日下、腕時計を見つめる。時間は、5時ジャスト。

○ 都庁ビル・北塔39階
  通路を駆けている前島。エレベータの前で立ち止まり、ボタンを押す。
  電光表示盤を見つめる前島。エレベータが上から降りてくる。『39』の数字が発光し、
  扉が開く。
  前島、エレベータの中を見つめ、驚愕する。
  エレベータ内にカービン銃を構えた黒い兵士が立っている。
  兵士、前島に銃を発射する。
  激しく鳴り響く銃声。

○ 同・1階フロア
  エレベータの扉が開き、中から三人の兵士が降りてくる。
  1階にいた3人の兵士達がエレベータ前に駆け寄ろうとする。
  壁沿いに立たされている職員達の列にいる島。ホルダーから、シルバーのM1911A1
  ガバメントを抜き、目の前を横切って走って行く兵士の背中に銃口を向ける。
  島、突然、引き金を引く。
  黒い兵士の背中に弾丸が当たるが、火花を散らし、跳ね返っている。
  エレベータ前にいる5人の兵士達が一斉に島のほうを見つめる。
  島、列を離れてゆっくりと兵士に近づいている。
  黒い兵士、微動だにしない。暫くして、突然、振り返り、島のほうを向く。
  島、咄嗟に引き金を何度も引く。
  兵士の胸に次々と弾丸が当たるが、次々と跳ね返している。
  唖然とする島。
  兵士、カービン銃を構え、島に向けて、連射する。
  島、素早く地面を前回転し、柱に隠れる。轟く女性の悲鳴。
  職員と警備員達がその場にしゃがみ、また、逃げ出すものもいる。
  床から柱まで弾丸が勢い良く減り込む。
  島、柱から左腕を出し、銃を撃ち続ける。
  黒い兵士の青い能面のマスクに弾丸が当たるが、弾丸を跳ね返している。
  5人の兵士達、玄関から外に飛び出して行く。

○ 都庁前・広場
  5人の兵士達が銃を構えながら走ってくる。
  兵士達を見つめる日下。日下の周りには、警視庁特殊急襲部隊(SAT)が陣を固めている。
  一人の兵士が立っていた日下達にカービン銃を振り向け、撃ち捲る。
  激しく飛び交う銃弾。逃げ惑うSATの部隊。日下の前に煙が上がる。
  日下、地面を転がり、弾を避けている。
  すかさず、ホルダーから銃を抜き、兵士達に向け、何度も撃つ。
  弾を跳ね返しながら、平然と道路に向かって走り去って行く兵士達。
  SATの隊員達、兵士達に一斉にサブ・マシンガンを向け、発射する。
  激しく乱れ飛ぶ銃弾と激しい銃声。

○ 都庁・一階フロア
  島、引き金を引き続けているが、やがて、弾切れになる。
  兵士、カービン銃を連射しながら、後退りし、玄関へ走り去って行く。
  柱の破片が激しく散らばる。柱の下にしゃがみこんでいる島。
  ガバメントにマガジンをセットすると、素早く立ち上がり、兵士に銃口を向け、
  引き金を何度も引く。
  走っている兵士の右足、左足に弾丸が当たるが火花を散らし、跳ね返している。
  島、鋭い眼光をしながら走り出す。

○ 都庁前・道路
  ブルーバードから降りる幸田。
  騒然とする広場の方を気にしながら、ドアを閉める。
  兵士達がこちらに向かって走ってくる。
  幸田、また、車に乗り込む。

○ ブルーバード車内
  運転席に座り、身を屈め、兵士達の様子を窺う幸田。
  兵士達、ブルーバードの後ろに止まっている三台のパトカーに別れて乗り込んでいる。
  幸田、愕然としている。
  三台のパトカー、サイレンを唸らせながら、タイヤを軋ませ、一斉に走り始める。
  幸田、パトカーを睨み付け、イグニションを回す。勢い良く唸るエンジン音。
  幸田、アクセルを強く踏み込む。

○ 急発進するブルーバード

○ 都庁前・広場
  もう一人の兵士が日下達の前にやってくる。
  日下、透かさず兵士に銃を撃つ。
  兵士の頭、胸に弾丸が当たっているが、びくともしない。
  日下、引き金を引き続けているが弾切れになる。
  兵士、立ち止まり、日下にカービン銃を向ける。
  日下、愕然とし、観念した様子。
  兵士、何者かに背中をジャンプキックされ、そのまま、前のめりに倒れる。
  兵士の後ろに島が立っている。
  日下、島を見つめ、唖然とする。
日下「島・・・」
  島、兵士のカービン銃を足で蹴飛ばし、兵士を起き上がらせ、マスクを剥ぎ取る。
  スキンヘッドの中年の男の顔が露になる。
  島、ガバメントの銃口を男の額に当てる。
  島、男を鋭い眼光で睨み付け、引き金を引こうとする。
日下「やめろ、島!何してるんだ?」
  唇を震わせている中年の男。
  島、引き金に当てている指を押し続ける。
  島の頭上を飛び交う白いヘリ。
  島、ヘリの羽音を聞き、錯乱し始める。
  両手で頭を押さえながら発狂し、大きな喚声を上げ、その場に膝まづく。
  SATの部隊が一斉に中年の男の周りを取り囲む。
  日下も部隊のそばに近づいてくる。
  顔を天に向け、喚き続けている島。
  日下、その様子を見つめ、唖然としている。
  
○ 市道を走る三台のパトカー
  前を走る車を次々と追い抜いている。
  赤信号の交差点を猛スピードで通り過ぎる。

○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。
  赤信号を見つめると、渋々、センターコンソールにあるパトランプのスイッチを押す。
  
○ ブルーバードの両側のリアピラーから収納式パトランプが表われる
  大きな音を立て、発光するパトランプ。
  交差点を猛スピードで突っ切るブルーバード。
  
○ 東京タワー付近の上空を飛行する230ヘリ
  夕陽を浴びながら突き進んでいる。
幸田の声「こちら『02』、幸田だ」

○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席に座り、レバーを握る土下。
  ヘッドマイクに喋りかける。
土下「こちら『230』。どうした?」
幸田の声「今、西新宿の本町3丁目付近の交差点にいる・・・」

○ ブルーバード車内
  左手に持つ無線機のレシーバーに喋りかけている幸田。
幸田「3台のパトカーが逃走中だ。フォローを頼む」
  無線機のスピーカーから土下の声が聞こえる。
土下の声「パトカーが逃走中だぁ?」
幸田「都庁のビルを襲ったグループが乗ってる」
土下の声「そりゃあ、どう言うことだ?」
幸田「俺にもまだわからん・・・」
  フロントガラス越しに見える交差点。
  タイヤを軋ませながら、ドリフト気味に右折している3台のパトカーの姿が見えている。
  幸田もハンドルをおもいきり右に切る。

○ 交差点を滑るように曲がっていくブルーバード
  けたたましくエンジン音を響かせ、加速する。
  パトカーの左後部ドアの窓から兵士が身を乗り出し、ブルーバードにカービン銃を向け、
  撃ち始める。
  ブルーバードのフロントグリル、ボンネットから、フロントガラスにかけて、流れるように
  弾丸が当たる。
  
○ ブルーバード車内
  幸田、険しい表情で兵士の男を見ている。
  フロントガラス越しに、兵士の男が手榴弾のピンを外し、ブルーバードに投げつける姿が
  見える。
  幸田、唖然とし、慌てて、急ブレーキを踏む。
  
○ ブレーキ音を唸らせ、路面を滑るブルーバード
  ブルーバードの前で手榴弾が爆発する。激しい爆発音と共に、炎がブルーバードのボディを
  包み込む。
  ブルーバード、炎を潜り、脇道にある電柱の前をぎりぎりで立ち止まる。
  
○ ブルーバード車内
  ハンドルにもたれかかっている幸田。
  ゆっくりと顔を上げる。走り去って行くパトカーを睨み付けている。
  
○ 中野区上空を飛行する230ヘリ
  ローター音を唸らせながら低速で進んでいる。
幸田の声「手榴弾を浴びちまった。今、どこにいる?」
  
○ 230ヘリ・コクピット
  計器盤の中央に設置されているモニターに猛スピードで道路を走る三台のパトカーが
  映し出されている。
  マイクに喋りかける土下。
土下「ジョーズでも食いつけなかったのか?仕方ねぇな。山手通りを順調に北上中だ」
幸田の声「所轄のパトカーに包囲網をかけさせる。追跡を続けてくれ」
土下「了解」
  
○ 都庁ビル・7階通路
  エレベータから日下、その後ろに数人の捜査員、そして、3人のSAT隊員が
  サブマシンガンを構えながら降りてくる。
  
○ 同・知事室
  中に入り込んでくる日下と捜査員達。
日下「室内を徹底的に調べろ。奴らが何か仕掛けた可能性もある」
  捜査員、分散し、辺りを調べ始める。
  日下の携帯が鳴る。日下、携帯を耳にし、
日下「俺だ」
上木の声「北塔39階のエレベータの前で、前島さんの遺体を見つけました・・・」
  日下、愕然と目を瞑り、
日下「わかった。今からそっちに向かう」

○ 同・1階フロア
  職員、警察官、SAT隊員が入り乱れ、騒然としている。
  エレベータが開き、数十人の職員が一斉に降りている。その中に長身の若い男がいる。
  眼鏡をかけ、精悍な顔つきだが、どこか無気味さが漂う。
  黒いスーツを着て、左手に大きなボストンバックを持っている。
  男、雑踏を潜り抜け、外に出て行く。

○ 同・北塔45階展望室
  担架で運ばれている黒い兵士。
  エレベータの扉が開き、日下と上木が降りてくる。
  日下、救急隊員を呼び止め、担架の前にやってくる。
  立ち止まると、担架の上で眠っている兵士を見つめる。
  兵士は、スキンヘッドの若い男。
  日下、兵士の体をまじまじと見回している。男が左手につけているグローブに
  イーグルのマークがついているのに気づく。
  日下、険しい表情を浮かべる。

○ 都庁前・道路
  脇道に立ち止まる数十台のパトカー。
  その列に紛れて止まっていた救急車が走り出す。
   
○ 救急車内
  担架の上で眠り、酸素マスクをつけられている島。
  島の隣に座る麻衣子。心配気に島の様子を見つめている。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの前に座る小神。受話器を持ち、話をしている。
  小神の前に立っている末沢。険しい表情を浮かべている。
  小神、受話器を置き、末沢に話しかける。
小神「3番ヘリポートのヘリを使ってくれ。操縦は、吉川だ」
末沢「行ってきます」
  末沢、踵を返し、部屋を出て行く。
  デスクの電話が鳴り出す。
  小神、受話器を取る。
小神「第5オフィス・・・」
  小神、慌てて、声を上げ、
小神「末沢、客だ」
  立ち止まり、小神を見つめる末沢。
  おもむろに顔を顰める。
  
○ 同・1階正面玄関口
  玄関の柱の前に立っている寺田真貴(24)。
  末沢が真貴の前にやってくる。
  真貴、末沢の元に駆け寄り、抱きつく。
真貴「戻ってきたなら、どうして連絡くれなかったのよ・・・」
  末沢、真貴の両肩を掴み、真貴と離れる。
末沢「仕事の途中なんだ。後で、またゆっくり話そう」
  末沢、踵を返し、真貴のそばから離れて行く。
真貴「(強い口調で)後で話すって、いつ話すのよ」
  末沢、振り返り、真貴を見つめ、
末沢「これでよくわかっただろ。これからもまた、似たような事があるかもしれない」
  真貴、悲しげに顔を下げる。
真貴「やめてくれなんてもう言わない。だから、私を無視するのだけはやめて」
  末沢、悲壮な表情を浮かべ、俯き加減で真貴から離れて行く。
  真貴、呆然としたまま、微動だにしない。
   
○ 東中野の上空を飛行する230ヘリ
  地上では、車を次々と追い抜き、暴走する三台のパトカーの姿が見える。
土下の声「もうすぐ東中野を過ぎて、また新宿区に入る。以前北上中だ。奴ら、わざと交通量の
 多い道を選んで走ってるな。封鎖するにも、これじゃあ危険だぞ」
  
○ 細い路地を猛スピードで走っているブルーバード
  激しく唸るエンジン音。
  
○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。
  左手に握っているレシーバーに喋りかけている。
幸田「封鎖を解除して、そのまま奴らを泳がす」
土下の声「おいおい、俺を扱き使うつもりか?もうすぐ日が暮れるって言うのに・・・」
幸田「できるだけ、食らいついてくれ」

○ 東京湾上空を飛行する430ヘリ
  陽が落ち始めている。
  白と黒のツートンのヘリが猛スピードで突き進んでいる。
  
○ 430ヘリ・キャビン
  後部席に座る末沢。
  窓から海面を覗き見ている。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの前に立っている小神。怪訝な表情を浮かべている。
  デスクを挟んで、小神と対峙する第3チーム部長・羽芹(はせり)道明(47)。
  背は、小柄、髪は、短髪で、白髪が入り混じっている。ベージュのスーツを着ている。
小神「・・・何も出てこない?」
羽芹「うちの日下の情報では、テロリストグループは、全部で9名。奴らが入り込んだ知事室、
 展望室及び1階フロアを隈無く調べましたが、何かを持ち込まれた形跡はなく、また、ビル内の
 ものを物色した跡もなかったと言うことです」
小神「捕まった男の身元は?」
羽芹「自称、フリーのテロリストとか訳のわからんことを言い続けていて、その辺は、まだ、
 はっきりしません。必要ならコンフェショナル・プログラム・マシーンにかけて、必要な
 証拠を自白させます」
小神「金属球は、見つかったんですか?」
羽芹「一つだけ。展望室にいた男が持っていたそうです」
  怪訝な表情を浮かべる小神。

○ 警察病院・病棟個室
  ベッドで眠る島。右腕に針が刺さり、点滴が打たれている。
  ベッドのそばに立つ高井 恒二(32)と麻衣子。
  高井、島の右目を開き、ペンライトを当てている。
高井「今朝調べた時は、洗脳薬の反応が見られたなかったのにな・・・」
麻衣子「何かを見落としてるんですよ、きっと・・・」
  高井、麻衣子をキリッと睨み付け、
高井「済ました顔して、結構失礼な事言うね、君・・・」
  麻衣子、恐縮し・・・
麻衣子「すいません・・・」
  高井、また島を見つめ、
高井「もう一度、うちの実験室に入れて、調べ直してみるしかなさそうだ・・・」
  麻衣子、島の顔を見つめる。
  
○ 北区の上空を飛行する230ヘリ
  空がオレンジ色に染まり、地上も灯が点灯している。
  
○ ヘリ・コクピット内
  モニターを見つめている土下。
  画面には、国道を走る3台のパトカーが映っている。
  土下、マイクに話しかける。
土下「パトカーは、もうすぐ、埼玉に入る。あいつら、どこまで走るつもりだ?」
  
○ ブルーバード車内
  ハンドルを握りながら、左手に持つレシーバーに話しかけている幸田。
  フロントガラス越しにパトランプを光らせながら走っている3台のパトカーが見える。
幸田「(パトカーを見ながら)よし、追いついた」
  
○ 国道
  3台のパトカーのうち、最高尾のパトカーがスピンターンし、逆方向へ走り始める。
  パトカーの500m前方にヘッドライトを光らせたブルーバードが走っている。
  接近する二台の車。
  
○ ブルーバード車内
  迫ってくるパトカーをまじまじと見つめる幸田。
  パトカー、対向車線に入り込み、ブルーバードの正面に向かって突き進んでいる。
幸田「古い車だと思って舐めてかかると、痛い目にあうぞ」
  幸田、センターコンソールのスイッチパネルの『SHOT』ボタンを押す。
  
○ ブルーバードのバンパーの両サイドから、二本の銃身が伸びる
  勢い良く銃弾が発射される。
  パトカーのボディに激しく弾丸を浴びせる。
  一つの弾丸が左のタイヤを貫通する。
  パトカー、ブルーバードとの距離100m付近でボディを横に滑らせ、横転。
  激しく転がり、ルーフを地面に擦りながら、滑っている。
  
○ ブルーバード車内
  地面を滑っているパトカーがブルーバードに向かって進んでくる。
  幸田、急ブレーキを踏み、ハンドルをおもいきり右に切る。
  
○ サイドターンして立ち止まるブルーバード
  ブルーバードの50m手前で動きを止めるパトカー。
  暫くして、大爆発を起こす。
  大音響と共に、空高く舞い上がる炎。
  車から降りる幸田。メラメラと燃えるパトカーを見つめ、悔しげに頭を抱えている。
  
○ ブルーバード車内
  運転席に乗り込み、レシーバーを握る幸田。
幸田「(溜め息)・・・あとの二台は、今どこだ?」

○ 飛行する230ヘリ
土下の声「おい、今こっちからもこんもり盛り上がる炎が見えたぞ。何をやってんだ?」

○ 230ヘリ・コクピット内
  スピーカーから幸田の声が聞こえている。
幸田の声「すまん、久しぶりに装置を扱うものだから、加減するのを忘れてた・・・」
土下「ジョーズなんかに機関銃なんか積むからそうなるんだ。今は、ハイブリットの時代
 なんだぞ」
幸田の声「あんたまで俺のジョーズを馬鹿にするのか?」
  モニター画面に高速道付近の様子が映っている。
  モニターをまじまじと見つめている土下。
土下「おっと、余計な口叩いている間に、あいつら高架下に潜ったまま出て
 来ないぞ・・・」  

○ 高速道・高架下
  交差点をタイヤを唸らせながら曲がり、高架下に突っ込んでくるブルーバード。
  脇道に寄り、急ブレーキで立ち止まると、颯爽と幸田が降り、辺りを見回している。
  周りは、静かに通り過ぎる車ばかり。
  幸田、悔し紛れに、柱を蹴り上げる。
  
○ 伊豆・小笠原海域上空を飛行する430ヘリ(夜)
  薄暗い空の中をライトを光らせながら進んでいる。

○ 430ヘリ・キャビン
  目前に設置されているモニターをまじまじと見つめている末沢。
  操縦席に座るパイロット吉川 典之(38)が末沢の方に顔を向け、
吉川「そろそろUターンしないと、燃料切れで引き返せなくなる」
末沢「後もう少し、進んでください」
  また、モニターを見つめる末沢。
  ハッと目を見開き、画面に見入る。
  モニターに、海面に浮かぶボートが小さく映っている。
  末沢、ディスプレイの右側についている『UP』ボタンを押す。
  画面がズームアップし、ボートが画面全体に映る。
  ボートは、デッキ部が粉々に破壊されている。
  キャビンの屋根に設置されているレーダーやサーチライト、ウィンドウにかけて、
  激しく銃撃された跡が残っている。
  ボートの周りに、残骸が激しく散らばっている。
  末沢、ヘリの窓から、まじまじと海面を見つめる。

○ 警視庁・警視総監室
  デスクの前に腰掛けている中坊。
  中坊と対峙して、小神が立っている。
中坊「知事や職員に怪我もなく、サミット開催までに事件が一段落して何よりだ。
 それにしても、無気味だ。テロリストグループは、何のために都庁を占拠したんだ?」
小神「ビル内の全フロアの調査は、済みましたが、とくに異変は、見当たらなかったと言う報告を
 受けています」
中坊「明日のサミットを狙った事前のパフォーマンスか?」
小神「その辺については、捕まえた男達の意識が回復しだい、判明すると思います」
中坊「まぁいい。明日の警備は、機動隊員を倍の数に増やして、万全の体制を整えている」
  小神、怪訝な表情を浮かべる。
中坊「君に一つ話しておきたいことがある。麻衣子の事だ」
小神「・・・」

○ 麻衣子の幻想
  麻衣子、暗闇の中を必死で駆けている。
  麻衣子を追っている四堂 豹摩(28)。四堂、右手にベレッタの銃を構え、無気味な笑みを
  浮かべながら走っている。
  麻衣子、激しく息をしながら、何度も振り返り、四堂を気にしながら走っている。
  四堂、立ち止まり、麻衣子に銃口を向け、撃つ。
  高鳴る銃声。
  弾は、麻衣子の左肩を掠める。
  麻衣子、苦痛の表情を浮かべ、左肩を右手で押さえながらさらに走り続ける。
  四堂、悦に入った笑い声を上げながら、また、引き金を引く。
  麻衣子、左の股を撃ち抜かれる。そのまま、前のめりに地面に倒れ込む。
  四堂、高笑いし、
四堂「すまない。直りかけていた古傷をまた傷つけてしまった・・・」
  麻衣子、起き上がり、立ち上がろうとするが、力が出ない。
麻衣子「(四堂を見つめ)お願い、助けて・・・」
  四堂、首を横に振っている。
  麻衣子、観念した面持ち。その時、突然、麻衣子の前で女の声が聞こえる。
女の声「手を貸して上げようか?」
  振り返る麻衣子。
  麻衣子の前に、もう一人の麻衣子が立っている。
  驚愕する麻衣子。
  もう一人の麻衣子、ポシェットからスナック菓子を取り出し、食べ始める。
  スナック菓子を麻衣子に差し出し、 
麻衣子2「あなたも好きでしょ?食べる?」
  麻衣子、呆気に取られ、微動だにしない。
麻衣子「なんで私にまとわりつくのよ・・・」
  もう一人の麻衣子、高笑いし、
麻衣子2「あなたは、私なのよ。私達は、一心同体なの・・・」
麻衣子「・・・私は、一人で十分。あなたは、いらない」
麻衣子2「私もそう思ってたところ・・・あなたは、いらないわ」
  もう一人の麻衣子、スナック菓子を麻衣子の口の中に勢い良く突っ込む。
  すかさず、両手で麻衣子の首を締め上げる。
  声を上げ、苦しむ麻衣子。
  もう一人の麻衣子の背後に、切れ長の細い目をした男が立っている。
  麻衣子、薄れ行く意識の中で、男を見つめ、やがて、意識を失う・・・。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・研究室
  入口前の壁際のシートに座っている麻衣子。ハッと目を覚まし、声を上げながら立ち上がる。
  奥のデスクに座っている高井が麻衣子のほうに振り向く。
  額から流れる汗を右手で拭く麻衣子。
  高井、唖然としている。
  隣の実験検査室のドアが開き、宮本 麗莉(32)が表われる。
  麗莉、右手に検査結果のリストを持っている。
  麻衣子、麗莉の前に近づく。
麗莉「MRIと全身血流スキャンをかけて薬物反応を再検査してみたけど、反応は、0。
 でも、その代わり、とんでもないものが見つかったわ」
  高井、立ち上がり、麗莉の前に近づいて行く。麗莉が持っているリストを掴み、確認する。
高井「中枢神経系に異常が見られるな。海馬の萎縮・・・PTSDで見られる症状か?」
  麗莉、島の脳の断面が映ったレントゲン写真を高井に渡し、
麗莉「それをよく見て」
  高井、レントゲンをまじまじと見つめ、
  何かを鋭い眼差しで見つめ、薄笑いし、
高井「僕の目が節穴だったな。恐れ入った。こんなところに細工されてたなんて・・・」
麻衣子「何です?」
  高井、島の脳の海馬の部分を指差し、
高井「ここに、ナノミクロンサイズの電磁式作動装置が埋め込まれている」
  麻衣子、レントゲンを持ち、まじまじと見ている。
麗莉「島君が抱えているPTSDをコントロールする機械よ」
高井「何かの拍子でPTSDによる強いショック状態を受けた時に、装置が反応して、
 脳の情報伝達をコントロールし、突発的な洗脳状態を作り出す」
麗莉「相沢章子達のグループに捕まった時、実験台にされたのね・・・」
麻衣子「ヘリの羽根の音を聞いたんだ・・・早くその装置をとってください」
高井「脳神経科の先生に連絡を取ってみる。でも、場所が場所だけに難しい手術になりそうだ・・・」
  麻衣子、自分の後頭部を右手で擦り、不安げな表情を浮かべる。

○ 同・第5チーム・オフィス
  部長のオフィスから出てくる幸田。
  自動ドアがスライドして開き、日下が中に入ってくる。日下、右手にファイルを
  持っている。
  幸田、憮然とした表情で日下を見ている。
  日下、勢い良く、幸田の前に近づく。
日下「逃げた男達の事は、何かわかったのか?」
幸田「付近を通っていたタクシー運転手の話によると、高架下に黒いトレーラーが止まって
 いたらしい」
日下「それに、二台のパトカーが乗り込んで逃げたのか?」
幸田「あそこの高架下は、舗装工事中で車は、入ってこられない状況だった」
日下「工事関係者に目撃者は?」
幸田「皆、柱の裏で縛り上げられてた」
  日下、落胆する。
日下「島は、どこだ?」
幸田「あいつに何のようだ?」
日下「都庁のビルで何をやっていたのか事情を聞きたい」
幸田「奴は、今、高井達の検査を受けている」
日下「中貝のDVD−RAMは、見つかったのか?」
幸田「いや・・・」
日下「どういう事だ?」
幸田「新宿駅のロッカーからDVD−RAMを持ち出したのは、確かなようだ。だが、その後、
 どうしたのかは、本人から聞かないとわからん・・・」
  日下、溜め息を吐く。ファイルからリストを取り出し、幸田に手渡す。
  幸田、リストをまじまじと見つめ、
日下「捕まえた3人のうち、1人の身元が判明した。伊野山康彦四十六歳。北塔の展望室に
 いた男だ。二年前まで霧川食品の営業部長をしていたが、会社が倒産し、解雇されて、
 それからは、ホームレスの生活が続いていたらしい」
幸田「家族はいないのか?」
日下「6年前に離婚している。さっき意識が回復して、事情を聞いたが、この一ヶ月間の記憶を
 全く思い出せないと言ってる。後で、コンフェショナル・マシーンにかけてみるつもりだ。
 どうやら、今回の事件は、相沢章子達の事件とは、別のようだな」
幸田「奴らがつけていたスーツのことは、何かわかったのか?」
日下「あの武装服は、最新技術の合成繊維素材を使った新しい防備服だ。鋼鉄貫通弾は、おろか、
 小型ミサイル並の爆撃にも耐えられるように設計されているそうだ。それから、グローブに
 イーグルのマークがついてた」
幸田「待てよ。そんなスーツを着ていたのに、展望室にいた男達は、どうして睡眠弾を
 食らったんだ?」
日下「奴らがつけてたのは、見た目こそ同じように見えるが、素材の脆い全くの別ものだ。
 どうやら捨て駒に使われたようだな」
幸田「都庁に押し入った9人の兵士のうち、捕まったのは、3人・・・。逃げたのは、5人
 ・・・と言う事は、もう1人の兵士は、いったいどこに消えたんだ?」
日下「おそらく、ビルの中のどこかに隠れていて、職員達に紛れて、1階に下り、逃げ去った
 んだろう。俺は、そいつが前島を殺した犯人だと睨んでいる」
幸田「日下・・・」
  日下、幸田を見つめる。
幸田「おまえを責めたのは、筋違いだった。すまん」
  日下、険しい表情を浮かべ、
日下「部下の死は、堪えるもんだな・・・」
幸田「・・・」
日下「任務の立場上、感情を押し殺してはいるが・・・俺にも人間的な感情が備わっている事に
 気づかされた」
幸田「ロボコップにも感情は、あるみたいだぜ」
  日下、失笑するが、すぐに強面になり、
日下「長官の命令とは、言え・・・悪い事をした・・・」
  幸田、うな垂れ、寂しげな表情を浮かべる。
  暫くして、入口のドアから末沢が駆け込んでくる。幸田、日下の前に向かい、
幸田「どうだった?」
末沢「島は、見つかりませんでした。ただ、北緯32.5、東経141.5キロ地点で破壊された
 ディーゼルボートを発見しました」
幸田「ディーゼルボート?」
    ×  ×  ×
  オフィスの壁に設置されたスクリーンに海に浮かんでいるボートの映像が映し出されている。
  スクリーンを見つめる幸田、日下、末沢。
日下「機銃で派手に撃たれてるな・・・」
幸田「ボートに人体反応は?」
末沢「なかったです。ただ、一つ気になる事が・・・」
幸田「なんだ?」
末沢「俺と千田の息子が島から脱出する前、男の乗ったボートが島に乗り込んできたんですけど、
 それとよく似ているんです」
日下「我々以外に相沢章子がいる島の存在を知っている人間がいるって事か?」
末沢「おそらく・・・その男は、黒いスーツを身に付け、レーザー銃を持っていました。
 その銃は、今、高井さん達が分析中です」
日下「黒いスーツ?」
  日下、上着の内ポケットから写真を取り出す。
日下「もしかして、これのことか?」
  日下、末沢に写真を手渡す。
  写真をまじまじと見つめる末沢。
  末沢、唖然とし、
末沢「そうです」
  幸田、日下、一層険しい表情を浮かべ、
日下「それは、今日都庁を襲ったグループが身につけていたものだ」
  末沢、驚愕する。
末沢「じゃあ、獅勇部隊の犯行じゃなかったんですか?」
日下「しゆう部隊?」
末沢「相沢章子が拉致した少年達を使って組織しているテロリスト部隊の事です」
幸田「末沢、その男は、グローブをつけていなかったか?」
末沢「そう言えば、つけてました。イーグルのマークが入ったものを・・・」
  幸田、日下、思わず顔を合わせ、
幸田「つながったな・・・」

○ 高速を疾走するRX−8
  夜のイルミネーションの中をひた走る。
章子の声「とんだ来客に戸惑ったけど、なんとか追い払ったわ」
  
○ RX−8車内
  運転席に座り、ハンドルを握る四堂。
  センターコンソールに設置されているモニターに映る章子を見つめ、
四堂「あなた達を襲うなんて、馬鹿げた事を考える奴は、ただ一人・・・」
章子の声「春江川よ。あいつに決まってるじゃない」
四堂「それで、どうするつもりなんですか?」
章子の声「あいつの情報を探って、部隊の居所を掴んで」
四堂「時間と金を要しますよ」
章子の声「わかってるわ。その代わり、奴らを見つけたら、一人残らず消して」
四堂「わかりました」
章子の声「それともう一つ、危特科捜班の連中をここに近づけさせない方法、何かないかしら・・・」
四堂「あいつらのおかげで、僕は、事務所と別荘を失いましたからね・・・考えましょう」
章子の声「それじゃあ、また後で・・・」
  通信が切れ、モニターがブルー画面になる。
  四堂、ほくそ笑むと、助手席に置いていたDVD−RAMを左手で掴む。
  DVD−RAMは、仲貝のものである。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・オフィス
  壁のスクリーンに海図が映し出されている。
  幸田、日下、末沢、麻衣子、小神が立ち、スクリーンを見ている。
末沢「ボートは、八丈島近辺の南南東の方角十キロのところで漂流していました」
幸田「明日の朝、俺と末沢ではしさんのヘリで現場に行ってみる」
日下「うちは、引き続き、都庁を襲撃した男達の取り調べと、逃走中の他のメンバーの行方を追う」
  日下、そのまま、入口のドアに向かい、外に出て行く。
  末沢、自分のデスクの前に座り、コンピュータのキーボードを叩き始める。
  小神、幸田に声をかける。
小神「幸田、後で、私の部屋に来てくれ。話したい事がある」
  幸田、唖然とし・・・
幸田「わかりました・・・」
  小神、部長オフィスのほうに戻って行く。
  麻衣子が幸田に声をかけてくる。
麻衣子「あの・・・私は、何を?」
幸田「島についててくれ。電磁装置が脳に埋め込まれたままなんだ。また勝手に動き出すかも
 しれん。意識が戻ったら、DVD−RAMの事を聞いてくれ」
麻衣子「わかりました・・・」
  幸田、部長オフィスのほうへ歩いて行く。
  麻衣子、不安げな表情を浮かべる。
   
○ 同・部長オフィス
  デスクの前に座る小神。
  小神と対峙して、立っている幸田。
  小神、デスクに両肘をつき、俯き加減でいる。
小神「君が言うように、警視総監には、不穏な動きが見られる・・・」
幸田「我々が掴んでいる情報は、春江川に筒抜けなんですね?」
小神「それは、今諜報班に調べてもらっているが、相手が相手だけに、情報を仕入れるのは、
 非常に困難だ」
幸田「我々も独自で調査しましょう」
小神「長官の身近に近づける人間が一人だけいる」
幸田「誰ですか?」
小神「葉山だ」
幸田「麻衣子が?冗談でしょ?」
小神「彼女は、長官の一人娘だ」
  幸田、唖然とし、
幸田「なんですって?」
小神「長官は、7年前に離婚して、葉山は、母方の旧姓を使っている。長官は、葉山を
 危特科捜班から追い出すつもりでいるらしい・・・」
幸田「あいつは、長官の推薦でここに来たんじゃ?」
小神「そうだ。だが、度重なる危険な任務に親心が耐え切れなかったようだ・・・」
幸田「じゃあ、解任させるつもりですか?」
小神「長官の情報を手に入れる絶好の機会だと受け止めて欲しい」
  幸田、不安げな表情を浮かべる。
 
○ 警視庁・玄関口
  入口の扉が開き、末沢が表われる。
  ビル前の歩道を歩き出す末沢。
  暫くして、末沢の後をつけて来る人影。
  足音が少しずつ末沢に近づく・・・。
  末沢、突然、立ち止まり、後ろを振り向く。
  末沢の背後に、花井 綾奈(27)が立っている。
綾奈「どうも・・・」
  末沢、憮然とした表情をし、そのまま、また歩き出す。
  綾奈、末沢の後を追い、横に並んで歩き出す。
綾奈「ここ二、三日毎晩ずっと、ここで待ってたんですよ」
末沢「今から食事なんだ。邪魔しないでくれる?」
綾奈「邪魔なんて、する気はないですよ。私もつきあいますから・・・」
  末沢、さらにムッとし、
末沢「一人でゆっくりしたいの」
  綾奈、持っていた鞄から雑誌を取り出し、末沢に見せる。
  表紙の見出しには、『日向議員に群がる大企業の役員達と大物政治家の影・・・』
  末沢、綾奈から雑誌をひったくるように取り、ページを開ける。
綾奈「うちの雑誌の今週号。私の記事ですよ。こんな暗いところで読まないで、早く店に
 行きましょう」
  綾奈、末沢の左手を引っ張り、歩き出す。二人の背後に立つ女性の影。
  真貴である。
  真貴、二人を憮然と睨み付けている。
  
○ 警察病院・個室
  ベットで眠る島。
  そのそばに座り、島の様子を見つめている麻衣子。
  麻衣子、空ろ気な表情を浮かべ、立ち上がると、ベランダのほうに向かって歩き出す。
  カーテンを開け、外の景色を見つめる。
  麻衣子、下のほうを見つめ、突然、驚愕する。
  下の通路に切れ長の目の男が立っている。
  男、麻衣子を見つめ、ほくそ笑んでいる。
  麻衣子、咄嗟にカーテンを閉める。
  麻衣子、困惑し、
麻衣子「誰よ・・・」
  麻衣子、もう一度カーテンを少し開け、下を覗き見る。
  男は、消えている。
  麻衣子、激しく動揺し、振り返ると、また、驚愕する。
  島が起き上がり、呆然と麻衣子を見ている。
  島の目が一瞬、紫色に光る。
  
○ 警視庁・航空部ヘリポート
  3機のヘリが並んで駐機されている。
  突然、真中のヘリが大音響と共に爆発し、オレンジ色の巨大な炎を上げる。
  破片が辺りに激しく散らばる。

                                                  −アイスウォール・完−

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