『555 ダッシュバード 危特科捜班』最終回「未来の獅子達」byガース『ガースのお部屋』
  
○ 小坂電子精密産業ビル地下二階・駐車場
  巨大なパイプにつながるスロープに向かって突き進んでいるシルバーのコンテナつきのトレーラー。
  駐車スペースに止まっている車の間にしゃがみ、トレーラーの様子を見つめる
  幸田 智(35)と末沢 裕太(28)。
  トレーラー、急停止する。
  息を飲む幸田達。
  コンテナの扉が開く。青い能面のマスクとスーツを身につけた二人の少年兵が
  レーザーライフルを構え降りてくる。
  険しい表情を浮かべる幸田達。寡黙に少年兵達の様子を窺う。
  少年兵達、車の陰にしゃがみこみ、暫くして、白いシャツを着た女の手を掴み、
  立ち上がらせている。
  女の声が幸田達のほうにも響いてくる。
女の声「イッタイ!そんなに馬鹿力出さなくても立てるって・・・」
  末沢、聞き覚えのある声に耳を疑い、女を見つめる。
  少年兵達に捉えられている女。一瞬、顔を幸田達のほうに向ける。女は、花井
  綾奈(27)である。
  末沢、苦々しい表情を浮かべる。
幸田「知ってるのか?」
末沢「週刊宝洋の記者です。日向に取り付いてた女ですよ」
  二人の少年兵、綾奈と対峙する。
  片側の少年兵が突然、レーザーライフルを構え、綾奈の腹に向け、レーザーを撃つ。
  レーザーは、貫通する。
  末沢、愕然とし、立ち上がろうとするが、幸田が押し止める。
  綾奈、その場に崩れ、倒れる。
  少年兵達、扉の上を駆け上がり、コンテナに乗り込む。
  コンテナの扉がゆっくりと上がる。走り出すトレーラー。
  スロープの上を駆け上がって行く。
  倒れている綾奈のそばに幸田と末沢が駆け寄ってくる。
  末沢、綾奈を抱き起こす。
  綾奈、うっすらと目を開き、末沢を見ている。
綾奈「(掠れた声で)私・・・撃たれた?」
末沢「どっから入ってきた?」
綾奈「裏口の扉が開いてたから・・・」
末沢「後悔だけじゃ済まなくなるって言ったのにな・・・」
  綾奈、苦痛に顔を歪ませ、
綾奈「どうしよう、記事が間に合わない・・・」
末沢「他に心配することがあるはずだ」
綾奈「やだぁ・・・死ぬの私?」
末沢「君次第だよ・・・頑張れ」
幸田「早く表に運び出そう」
  末沢、綾奈を両手で抱き上げ、走り出す。幸田もその後を追う。

○ 同・ビル前
  入口の扉から警官隊と機動隊員が外に出ている。
  弾丸の風穴でボロボロになったパトカーの前に佇む日下 恭平(34)。
  そのそばに葉山 麻衣子(26)が立っている。
  麻衣子、俯き、呆然としている。
  サイレンが鳴り響き、5台の救急車がやってくる。
  救急車、ビル前に一列に止まる。
  ビルの脇の通路から幸田と綾奈を抱いた末沢がやってくる。
  日下、幸田達に気づく。
日下「幸田・・・」
  麻衣子、日下の声に反応し、顔を上げる。
  末沢、救急車の前に行き、綾奈を担架の上に乗せている。
  群がる野次馬の中に立つベージュのスーツを着た女。寺田 真貴(24)である。
  幸田、日下の前に駆け寄り、立ち止まる。
幸田「(辺りを見回し)何があった?」
日下「黒い部隊に滅多打ちにされた。半数近くの人間が殺られた」
幸田「このビルの地下二階に隠しフロアがあるんだ。至急調べてくれないか?」
日下「ビルの検証は、第6チームと7チームが引き継ぐ。うちは、今から春江川の潜伏先に向かう」
幸田「奴の居所がわかったのか?」
日下「ああ。警視総監の携帯に奴が連絡を入れてきた」
幸田「じゃあ、俺達は、相沢達のほうを追跡する。地下のパイプを使ってトレーラーで移動中だ」
日下「パイプ?」
幸田「ビルの中に巨大な隠し通路があるんだ」
  幸田、ふと麻衣子のほうを見つめる。
  麻衣子、まだ茫然自失の様子・・・。
幸田「行くぞ、麻衣子!」
  我に返る麻衣子。
麻衣子「は、はい・・・」
  幸田、踵を返し、走り出す。麻衣子も後を追う。
  救急車から降りる末沢。
  群集のほうを見つめ、真貴の姿に気づく。真貴、顔を俯け、その場を立ち去って行く。
  群集をかき分け、真貴の後を追って走ってくる末沢。
  真貴の肩を掴む。
  振り返る真貴。
末沢「君までなんでここに・・・」
真貴「花井さんから情報をもらったの。彼女、あなたを尾行していたみたいだから・・・」
  末沢、困惑した表情を浮かべる。
真貴「花井さん・・・怪我したの?」
末沢「ああ、でも意識は、しっかりしてるから、きっと助かるだろう・・・」
真貴「・・・やっぱり、あなたは、仕事をしてる時のほうが私と会ってる時よりもずっといい顔してるわ」
末沢「・・・」
真貴「ごめん、邪魔ばかりして。もうしないから・・・」
  真貴、笑みを浮かべ、そのまま立ち去って行く。
  末沢、呆然と離れて行く真貴を見つめている。

○ ビジネス街の市道を疾走するブルーバード
  激しく唸るエンジン。サイレンを響かせ、交差点を横切って行く。
  
○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。助手席に麻衣子が
  座っている。
  センターコンソールに設置されているモニターに地図のイメージが映し出されている。
  麻衣子、モニターを見ているが、呆然とした様子。
幸田「どうだ?キャッチしたか?」
  麻衣子、我に返り、
麻衣子「えっ、あっ・・・まだ」
  幸田、ハンドルを思い切り左に切る。
  
○ 小坂電子精密産業ビル・裏口
  地下2階の駐車場に続くスロープを駆け降りて行くブルーバード。
  
○ 同・地下二階・駐車場
  猛スピードで走行しているブルーバード。
  ヘッドライトを照らす。
  パイプにつながるスロープを駆け上がり、巨大なトンネルの中を走り始める。
  
○ ブルーバード車内
  暗いトンネルの中を突き進んでいる。
  幸田、辺りを見回し、
幸田「許可も取らずに勝手にこんなトンネル掘りやがって・・・」
  麻衣子、寡黙に俯いている。
幸田「腹でも減ったか?」
麻衣子「・・・いいえ」
幸田「そこのボックスを開けてみろ」
  麻衣子、目の前のボックスを開く。
  中にベビースターが10袋程入っている。
  麻衣子、袋を一つ取り出し、
麻衣子「持ち込み禁止じゃなかったんですか?」
幸田「前におまえが持ち込んだのを食べたら、見事にはまっちまった。一つ返す」
  麻衣子、笑みを浮かべるが、また、力ない表情を浮かべる。
麻衣子「・・・幸田さんは、もし、自分と瓜二つの人間を見つけてしまったら、どうします?」
幸田「(失笑し)なんだよ、いきなり・・・」
麻衣子「もう一人の自分に何もかもコントロールされて、自分の存在を消されそうになったら・・・」
幸田「きっと、消される前に、そいつを殺すな・・・」
麻衣子「・・・」
  幸田、怪訝な表情で麻衣子を一瞥する。
   
○ 首都高速付近・工事現場敷地内
  路面に掘られた巨大な穴からトレーラーが表れる。
  トレーラー、敷地入口のフェンスを突き破って、左に曲がり込み、国道に飛び出す。
  走行していた三台の乗用車がトレーラーの後部に次々とぶつかる。横転する車、ボンネットから煙を吐く車、
  ボディがズタズタに凹んでいる車が立ち往生している。

○ トレーラー・コンテナ内
  奥の監視ルームのモニターの前に立っている相沢章子(33)。その隣に色沢 千晴(33)が立っている。
  色沢の背後に少年兵が立つ。レーザーライフルを構え、色沢の背中に向けている。
  章子、憮然とした様子。右手に持っている血痕つきのペンダントを強く握り締める。
   
○ 数十台の覆面車とパトカー車両が国道を走行する
  眩く光るパトランプ。激しく鳴り響くサイレン。
  パトカーの後を護送車、装甲車が続いて走っている。

○ 先頭を走るシルバーのセダン車内
  上木がハンドルを握っている。助手席に座る日下。険しい表情を浮かべている。
  日下の携帯の呼び出し音が鳴り響く。
  携帯を取り出し、喋り出す日下。
日下「もしもし・・・」
  日下の表情が一変し、厳しい目つきになる。
  
○ 首都高速付近・工事現場敷地内
  巨大な穴から飛び出してくるブルーバード。敷地の入口に向かって突き進み、
  左に曲がると、国道を走り出す。
  立ち往生する車の間を縫って走るブルーバード。
  
○ ブルーバード車内
  幸田、後ろを向き、様子を窺っている。
  呆然と俯く麻衣子。
  モニターに発信信号のマークが点滅し始める。
  麻衣子、それに気づき、
麻衣子「幸田さん、信号をキャッチしました」
  幸田、モニターを見つめる。
  マークは、首都高速沿いの国道を北上している。
麻衣子「ここから北北西4キロメートル地点、さいたま市方面に向かっています」
  助手席側のダッシュボードの上に設置してある小型無線機のアラームが鳴り響く。
  レシーバーを掴む麻衣子。
麻衣子「『02』号車・・・」
  スピーカーから小神 洋介(49)の声が聞こえる。
小神の声「小神だ。さっき、緊急会議が開かれ、そこで、危特科捜班の活動停止命令が出た」
  驚愕する幸田と麻衣子。
幸田「どう言うことですか?」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクに着く小神。受話器を持ち、話をしている。
小神「我々も突然のことで、事態をまだ完全に把握できていない。全チームの捜査員を
 本庁に戻すよう指令が出ている」
  
○ ブルーバード車内
  麻衣子からレシーバーを奪い取る幸田。
幸田「上層部に手を回したのは、春江川ですか?」
小神の声「可能性は、ある。自分の足下がやばくなる前に、計画を強行させる気かもな」
幸田「指令は、無視しますよ、部長・・・」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  小神、笑みを浮かべ、
小神「他のチームも本庁に戻る気はないと言ってる。後のことは、我々でなんとかする」

○ ブルーバード車内
小神の声「その代わり、必ずやつを捕まえろ」
幸田「・・・了解」
小神の声「それから、後で携帯のほうに連絡してくれ」
  幸田、怪訝な表情を浮かべ、
幸田「・・・わかりました」
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  無線気のレシーバーを置く小神。訝しげな表情を浮かべる。
  暫くして、デスクの電話が鳴り響く。

○ 同・1階正面玄関口
  柱の隅に立つ制服姿の少女。小神七緒(16)である。
  小神が駆け足で七緒の前にやってくる。
  対峙する二人。
七緒「島さんは?」
小神「病院で手術を受けた」
七緒「二日前、島さんうちに来たの」
小神「馬鹿、なんでもっと早く連絡しなかった?」
七緒「だって、四堂さんが今日まで黙ってろって・・・」
小神「また、四堂と会ったのか?」
七緒「でも、何もされなかったよ。一言だけ、私にこう言ったの。もうすぐ苦しまずに
 生きられるようになるって・・・」
小神「・・・」

○ 小坂電子精密産業ビル前
  フェアレディZの助手席側のドアの前に立つ末沢。
  末沢の背後で慌ただしく機動隊や警官隊が動き回っている。
  レシーバーを握り話している。
末沢「末沢です。小坂電子ビル内の確認が終わりました。社員は、全員無事です。
 死んだ黒い兵士は、十二名、三十四名は、病院に担ぎ込まれています。獅勇部隊のほうで
 死んだのは、小山だけです。両方の部隊の兵士達は、もうこのビルには、残っていません」  

○ ブルーバード車内
  レシーバーを掴んでいる幸田。
末沢の声「今から俺もそっちに行きます」
  突然、巨大な爆発音が伝わってくる。
幸田「どうした?」
末沢の声「ビルの中で何か爆発したようです。後でまた報告します・・・」

○ 警察病院・5F病棟・個室
  ベッドで眠る島 健司(29)。頭に包帯を巻いている。
  入口の扉が開く。部屋に入ってくる宮本 麗莉(32)。
  島、うわ言のように何かを呟いてる。
島「ナノ・ジェネ・・・」
  麗莉、島のそばに立ち、
麗莉「さっきも言ってたわね。一体何の意味があるんだろう・・・」
  島、急に目を見開き、天井を睨み付ける。
  
○ 埠頭・保税倉庫前
  三台の覆面車を先頭にして数十台のパトカーがやってくる。
  車両一斉に別の倉庫の陰に立ち止まる。
  セダンから降りる日下と上木。
日下「上木、あの倉庫の様子を探ってきてくれ」
  上木ともう一人の私服の捜査員が倉庫に向かって走り出す。
  日下、怪訝な表情を浮かべ、セダンの無線機のレシーバーを握る。
  
○ ブルーバード車内
  無線機のアラームが鳴り響く。
  レシーバーを掴む麻衣子。
麻衣子「こちら『02』号車」
日下の声「日下だ。今、現場に到着した。場所は、芝浦埠頭近くの保税倉庫だ」
  幸田、麻衣子からレシーバーを受け取り、
  話し出す。
幸田「相沢達のトレーラーは、埼玉方面に向かってるぞ」
  
○ 埠頭・保税倉庫前
日下「と言うことは・・・こっちは、罠か?」
幸田の声「いや、こっちだってその可能性はある」
日下「先に踏み込もうか?」
  
○ ブルーバード車内
幸田「トレーラーが目的地に着くのを待って、同時に踏み込むほうがいい」
日下の声「わかった。それまで待機する」
  通信が切れる。
麻衣子「長官、やはり、私達に嘘の情報を・・・」
幸田「長官自身も騙されているのかもしれん」
  麻衣子、憂いの表情を浮かべる。
  
○ 山の中腹の坂道を駆け上がるトレーラー
  煙を掃き出しながら、緩めのカーブを駆け上がっている。
  
○ 山道を走るブルーバード
  交差点を右に曲がり、坂を上り始める。
  
○ ブルーバード車内
  モニターに映る地図のイメージ。移動していた発信点のマークの動きが止まる。
  麻衣子、モニターを見つめ、
麻衣子「幸田さん!」
  幸田、モニターを一瞥し、
幸田「よし・・・」
  幸田、ふと、バックミラーを見つめる。
  ブルーバードの後ろに赤いRX−8が煽り立てるようにボディを振りながら、
  ぴったりとくっついて走っている。
  
○ 対向車線を走り、ブルーバードを追い抜くRX−8
  RX−8、横滑りしながら、スピンし、ブルーバードの行く手を阻むように立ち止まる。
  急ブレーキをかけ、立ち止まるブルーバード。
  
○ ブルーバード車内
  険しい表情を浮かべる幸田。麻衣子もRX−8を見つめる。
  フロントガラス越しに見えるRX−8から青いスーツとサングラスをつけた長身の男が降りてくる。
  男、こちらに向かって歩きながら、右手に握るデトニクスの拳銃にマガジンを装填している。
  幸田、麻衣子、驚愕する。
  
○ ブルーバードの前に立つ男
  男は、四堂 豹摩(29)である。四堂、ほくそ笑み、幸田達を見つめている。
四堂「降りてこい、幸田。ここで決着をつけてやる」
  
○ ブルーバード車内
幸田「さっき仕留めたはずなのに・・・」
麻衣子「私が行きます。幸田さん、先に行ってください」
幸田「こいつを運転させてやるから、おまえが先に行け」
  麻衣子、激しく動揺した面持ち。
  幸田、ホルダーからコルト・パイソンを抜き、ドアを開け、外に出て行く。
  麻衣子も車から降りる。
  
○ ブルーバードの前で対峙する幸田と四堂
幸田「おでこに防弾チョッキでもつけてたのか?」
四堂「もう一人の俺は、たぶんお前にこう言ったはずだ。何度殺されても、また、おまえらの前に表れると・・・」
幸田「もう一人?」
四堂「科学の最先端の事件を追う刑事にしては、鈍い奴だ」
  幸田、怪訝に四堂を見つめ、
幸田「まさか・・・そんな実験までおまえら・・・」
四堂「優秀な人間は、チャレンジ精神旺盛さ。春江川の権力の傘下にいれば、なんだってできる」
幸田「誰だ・・・お前は?・・・」
四堂「笹島秀一。元航空隊所属の笹島清の息子だ。本当の俺は、八年前に死んだ」
幸田「笹島?」
麻衣子「島さんがヘリで事故を起した時に一緒に乗っていた教官です・・・」
幸田「島を洗脳して苦しめたのも、奴に復讐するためなのか?」
四堂「いや、違う。あの事故は、仕組まれたものだ・・・」
麻衣子「仕組まれた?」
四堂「親父は、ヘリで巡回パトロール中に、少年達の暴行事件の現場を目撃した。その事件で一人の
 少年が死んだんだ。春江川の孫の和男だ」
幸田「・・・」
四堂「親父は、警邏のパトカーに連絡して、暴行を止めさせようとしたが、パトカーが来るのに十分以上かかり、
 警官達がかけつけた時、和男は、すでに死んでいた」
幸田「それで春江川が逆恨みしたのか?」
四堂「奴は、おたくらの上司とつながりがあり、その頃から警察機構にも幅を利かせていた。
 航空部にスパイを送り込んで、ヘリに細工したんだ」
麻衣子「じゃあ、島さんも事故の被害者だったの?」
  四堂、嘲笑い、
四堂「奴が一番貧乏籤を引かされたわけだ。春江川に利用された挙げ句、トラウマを抱えて今まで
 生きてきたんだからな・・・」
幸田「そして、おまえも島を利用した。この借りは、俺が返させてもらうぞ」
  幸田、四堂、同時に銃を構え、引き金を引く。
  高鳴る二つの銃声。絶叫する麻衣子。
麻衣子「幸田さん!」
  
○ 山の中腹・草原地帯
  広大な敷地の中にゆっくりと入ってくるトレーラー。立ち止まると、コンテナの扉が開き、
  章子と少年兵達にライフルをつきつけられた色沢が降りてくる。その後に続いて、
  二十人程の少年少女の兵士達が次々と降りている。
  辺りを見回す章子。
  崩れたコンクリートの壁、その向こうに錆びれた煙突が見える。
章子「(色沢のほうを向き)私達を騙したんじゃないでしょうね?」
色沢「そう、焦るなよ」
  暫くして、煙突の中から太い金属棒が表れ、空高く伸びる。その先端につけられている巨大なパラボラ
  アンテナが開き、章子達のほうに向く。アンテナから青い光線が発射される。
  光線は、少年少女の兵士達を包み込む。次々と倒れていく少年少女の兵士達。
  草叢の中から黒いメタリックのスーツとマスクをつけた兵士達が次々と姿を表わす。
  三十人程の黒い兵士達がレーザーライフルを構え、章子達の周りを取り囲み、
  章子に迫っている。色沢、ほくそ笑み、
色沢「ちょろいな」
  章子、色沢を睨み付けている。
  
○ 同・山道
  路面に倒れている幸田と四堂。幸田、左肩を撃ち抜かれている。
  四堂、左の太股から血が流れ出しているが平然とした面持ちで立ち上がろうとする。
  四堂の前に麻衣子が近寄ってくる。麻衣子、四堂に銃を向けている。
  四堂、麻衣子に気づく。
四堂「僕を殺しても、また、別の僕が表れる。君達が死ぬまで、永遠追い続ける・・・」
麻衣子「毎日、私の夢の中にあなたが表れて、私を殺そうとする。もう一人の私と狐目の男も・・・」
四堂「君は、自分の存在に自信を持てるか?」
麻衣子「・・・どういう意味?」
四堂「君は、自分の命を磨り減らしてまで、特殊セクションの仕事をする意志など、最初から持っていなかったんだ」
麻衣子「何言ってるの?私は、ずっと今まで危特で・・・」
  麻衣子、小坂電子のビルの中で見たもう一人の自分のことを思い出す。
麻衣子「あなた、何か知ってるの?」
四堂「父親に対する小さな反発心しかなかったんだよ、本当の君は・・・」
麻衣子「じゃあ、私は?・・・」
  四堂、ほくそ笑み、
四堂「僕と同じ、クローンさ」
  麻衣子、余りの衝撃で言葉を失う。
  起き上がる幸田。傷口を押さえながら、二人の話に耳を傾けている。
四堂「君が時々見ていた幻想は、脳思考制御回路によるものだ。君は、幻想を見ている間は、我々のスパイとして危特科捜班の
 捜査状況を僕に流し続けていたのさ」
麻衣子「いつ・・・いつ私と本物が入れ代わったの?」
四堂「君が危特に入って二日目の日だ。ネットで知り合った狐目の男と出会ったはずだ・・・」
  麻衣子、銃を構え、
麻衣子「知らないわ、そんなこと・・・絶対嘘よ!」
四堂「君の記憶は、その男にコントロールされている。それに君は、完全な人間体ではない・・・」
  麻衣子、狂ったように引き金を引き始める。四堂の胸や腹に蜂の巣のように風穴が開く。
  四堂、息絶えている。
  麻衣子、その場に膝を落とし、呆然としている。
  幸田、傷口を押さえながら立ち上がり、ブルーバードの運転席側のドアに向かって歩き出す。
幸田「行くぞ。ちんたらしてる暇はない」
麻衣子「・・・幸田さん、聞いたでしょ?私は、スパイなんです。クローンなんです・・・」
幸田「・・・それがどうした?」
  麻衣子、幸田を見つめ、
幸田「俺達と一緒に仕事をしてきたのは、おまえのほうだろ?」
  麻衣子、神妙な面持ちで幸田を見つめる。
  幸田、ドアを開け、中に乗り込む。
  麻衣子、気を取り直し、立ち上がると、助手席に乗り込む。
 
○ 暗がりの階段を降りる色沢達
  地下奥深く続く階段をゆっくりと降りている色沢と、黒い兵士に捕えられた章子。
  その後ろを数人の黒い兵士が続いている。

○ 地下部屋
  自動ドアが斜め方向にスライドして、開く。色沢達が中に入ってくる。
  部屋の奥にある黒い皮のソファに座る春江川 幸造(72)。
  春江川、まじまじと章子を見つめ、
春江川「久方ぶりに顔を見た。相変わらずの美しさだ」
  章子、憮然とし、
章子「先生も、あの頃と変わらず、若々しいですわね・・・」
春江川「御世辞の言い合いは、もうよそう」
章子「私達を潰そうとしても無駄ですわ。超小型ナノ衛生のコントロールシステムは、すでに破壊しました」
春江川「システムは、複数用意してある」
章子「それもいずれ危特が嗅ぎつけますわ」
春江川「特殊セクションは、活動を停止した。何の権限もない連中に私を阻む事はできない。手出ししたものは、
 処分され、二度と職場に戻ることはないだろう。君の恋人もな」
  章子、ほくそ笑む。
  春江川の後ろの壁に設置してあるスクリーンに外の草原の様子が映し出されている。
  ブルーバードが止まり、幸田と麻衣子が車から降りている。
  章子、まじまじとスクリーンを見ている。
春江川「ちょっと、遣いに出てもらおうか」
  章子、憮然とした表情を浮かべる。
 
○ 山の中腹・草原地帯
  トレーラーのコンテナの前に近づいていく幸田と麻衣子。
  幸田、麻衣子、銃を握り、辺りを見回しながら進んでいる。
  幸田、銃を構え、コンテナの中を覗き込む。中に人影は、見られない。
麻衣子「相沢達、どこに消えたんでしょ?」
幸田「きっとどこかに隠し施設があるはずだ・・・」
  どこからともなく女の声が聞こえる。
女の声「幸田・・・」
  幸田、辺りを見回す。
  トレーラーから数百メートル離れた場所に章子が立っている。
  幸田と麻衣子、章子を見つける。
章子「来ると思ってたわ・・・二人とも携帯と銃を捨てなさい」
  怪訝な表情で章子を見つめる二人。
章子「あなた達は、黒い兵士に囲まれているわ。無駄な抵抗しないで、黙って私についてきて・・・」
幸田「おまえも捕まったのか?」
  章子、憮然と沈黙したまま。
  幸田、携帯と銃を両手に持ち、その場に落とす。続いて、麻衣子も。
   
○ 東京上空を飛行する230ヘリ
  スピードを上げ、埼玉方面へ進んでいる。
  パイロットの土下(はした) 仁(40)の声。
土下の声「国家を揺るがす大事件が起きてる時に、活動停止命令だなんて。上層部の奴ら、狂ってやがるぜ!」
 
○ 230ヘリ・キャビン
  操縦席に土下、助手席に末沢が座っている。
末沢「長官不在の元で、特殊セクションの真っ当な捜査活動を進めるのは、不可能だと言うのが表向きの
 言い分だけど、誰が圧力をかけたかは、明白です」
土下「それにしても、春江川って奴は、えげつない奴だな。警視庁さえもまともに機能させない力を
 持っていやがるんだからな」
末沢「・・・奴を逮捕したら、俺、この仕事辞めます」
土下「何?」
末沢「ここに居続けたら、何か肝心なもの見失ってしまうような気がして・・・」
土下「女か。そうだな。確かにここにいちゃあ、デートする余裕もあったもんじゃない」
末沢「幸田さんと相沢を見てると、なんか不思議な感じがするんです。敵対する関係なのに、いつも
 どこかで通じ合ってるような・・・」
土下「・・・」
  計器盤中央に設置されたモニターに映る地図。発信の点滅が突然消える。
  末沢、モニターを凝視する。
末沢「信号が・・・」
土下「どの辺りで消えた?」
末沢「埼玉県の北西部にある山です」
  土下、レバーを左に曲げる。

○ ボディを左に傾け、うねるように進んで行く230ヘリ

○ 埠頭・保税倉庫前
  日下達の前に上木ともう一人の捜査員が戻ってくる。
日下「中の様子は?」
上木「誰もいません。中には、かなりの量の荷物が置かれていますが、特に変わった様子は、ありません」
  日下、左腕の腕時計を見つめる。スーツのポケットから携帯を取り出し、幸田に電話をしているが、つながらない。
  苛立つ日下。
 
○ 地下施設
  暗がりの階段を降りている章子。その後ろを幸田と麻衣子が続いている。

○ あるモニターに階段の様子が映っている
  モニターを見つめる春江川の後ろ姿。

○ 同・階段
  階段を降りると薄暗い緑の照明が光る通路を歩いて行く章子。幸田達も続いて歩いている。
幸田「小山遥信が死んだぞ、章子」
  章子、少し動揺した面持ち。
章子「知ってる・・・」
幸田「お前は、二人の少年を殺した」
章子「多少の犠牲は、やむを得ないわ・・・」
幸田「清治の死を無駄にするような真似はもうやめろ」
章子「もうすぐ、獅勇部隊が馬鹿教師達も木端微塵にしてくれるわ・・・」
  章子、憮然とした表情。
幸田「教えてくれ。お前が獅勇部隊を作ったもう一つの目的は、なんなんだ?」
  ある部屋の扉の前に辿り着く章子。幸田達も立ち止まる。
章子「・・・この部屋の中に、あなたが一番会いたがっている人がいるわ」
幸田「・・・なぜ俺を助けた?」
章子「助けた?私がいつそんなことを?」
幸田「人工島で俺を監禁した時、殺人バクテリアの入っていない金属球を渡しただろ?
 小型モニターの中に監禁部屋のキーまで入れてな・・・」
章子「あなたを死なせたくなかったの・・・」
幸田「・・・」
章子「・・・こう言う台詞を期待してた?」
幸田「・・・」
章子「早く入りなさい」
  幸田、ドアノブに手をかける。麻衣子、幸田の後に続こうとするが、章子が二人の間に割って入り、
章子「あなたは、駄目よ。私と一緒に来て・・・」
  幸田、麻衣子にアイコンタクトする。麻衣子、頷き、そのまま幸田を見送る。
 
○ 同・春江川の書斎
  扉を開け、中に入ってくる幸田。
  デスクにつき、幸田を待ち構えている春江川。
  幸田、ゆっくりと歩き、春江川と対峙する。
春江川「長らく私のことを捜査し続けてきたようだが、何かわかったかね?」
幸田「ええ、もうすぐ全容が明らかになりますよ・・・」
春江川「ここは、私の親父が勤めていた軍事工場跡だ。ここで航空機部品や砲弾など、大量の武器を生産していた。
 それから六十年余り・・・私は、若くして戦争で死んだ親父の倍生き、世の中をコントロールできる力を身につけた」
幸田「あの黒い兵士を使って、この国を乗っ取る力か?」
春江川「ファースト・イーグルは、世界の脅威からこの国を守るために組織したものだ」
幸田「マジで言ってるのか?あんな部隊で、この国を救えるとは、思えんけどな」
春江川「私は、この国の高度経済成長を支え、この国を発展させてきた者の一人だと自負している。
 だが、長らく平和に安住し、時代に甘え過ぎたために、この国の人間達は駄目になってしまった・・・」
幸田「・・・」
春江川「このままでは、間違いなくこの国は、滅びる。それを回避するためには、若者達の再教育を急がねばならない」
  春江川の後ろの壁に設置されているスクリーンに映像が映る。
  スクリーンには、マスクとスーツを外した獅勇部隊の少年少女の兵士達が教室のような部屋で座席についている。
  幸田、スクリーンを見つめる。
春江川「『JUNK END DEVELOP』だ。ここはいずれ、大規模な更生施設になる」
幸田「(失笑し)それがJED計画か。下手なネーミングだ・・・」
春江川「先の戦争を知る世代がこの世を去れば、今の子供達は、またあの時と同じ過ちを繰り返すだろう。
 今度争えば、確実に取り返しがつかなくなる。そうさせないために科学的治療を施すのだ」
幸田「何を根拠に、そう決め付ける?」
春江川「今を見れば、一目瞭然だろう?歪んだ教育を受けてきたガキどもは、得体の知れない怪物と一緒だ」
幸田「子供達から人間らしい生き方を奪って、あんたは、ヒットラーにでもなるつもりか?」
春江川「弟を自殺で亡くしたそうだな。私も少年達に孫を殺された。君なら、私の気持ちがわかるはずだ」
幸田「いつそんなこと調べた?」
春江川「特殊セクションの人間のことは、私が一番熟知している。私は、あの時のような輝かしい時代を取り戻したいのだ。
 若者達の精神の荒廃を払拭させてな」
幸田「洗脳でか?それは無理な話だ。自分の言いなりになるロボットを作って、未来を今以上にどす黒くするつもりか?
 懐古趣味にも限度があるぜ」
春江川「温故知新と言う言葉がある。次の時代の担い手に正しい歴史と良識を与えるのだ」
幸田「あんたの歪んだ良識を押し付けるのか?これは、史上最低の謀略じゃないか」
春江川「君達の役目は、これで終わりだ・・・ご苦労だった」
  春江川を睨み付ける幸田。
  入口の扉の前に立っていた二人の兵士が幸田の両脇に立つ。兵士達、幸田の腕を掴み、幸田を引き連れて行く。

○ 同・研究室
  分厚い金属性の扉が開く。章子と黒い兵士に囲まれた麻衣子が入ってくる。
  薬品が詰まった棚、奥には、巨大な金属性のタンクがいくつも並べられている。
  タンクには、緑色の液体が入れられ、人間の細胞体が培養されている。
  立ち止まる章子。
章子「連れてきたわよ」
  タンクの陰から姿を表わす色沢。小さい猿を抱いている。
  麻衣子、色沢を見つめ、驚愕する。
  章子達の前に近づく色沢。麻衣子の体をいやらしい目つきでジロジロと見回している。
麻衣子「あなたは、誰なの?」
色沢「君の生みの親とでも言うのかな・・・」
麻衣子「・・・」
  章子の右側に立っていた黒い兵士が突然、マスクを脱ぎ取る。もう一人の麻衣子の顔が露になる。
  麻衣子、振り返り、もう一人の麻衣子と顔を合わす。
  麻衣子2、険しい表情を浮かべたまま微動だにしない。
色沢「何を言っても無駄だ。彼女は、私に忠誠を誓って、洗脳手術を受けた。自分から
 人間らしい生き方を放棄したのだ」
  章子、無気味に笑みを浮かべている。
麻衣子「あんたが強制的に彼女を作り変えたんじゃないの?」
色沢「彼女は、白バイ隊にいた時に、暴走車を追跡中に事故を起こして危うく死にかけた経験があった。
 僕が彼女と知り合った時は、度重なる危険な任務で、すでに相当精神が病んでいた。特殊セクション入りは最初は、
 断るつもりだったらしいが、父親に対する反発心で安易に引き受けてしまった。そうしているうち、
 彼女は、自分を追い込んでいった・・・」
麻衣子「おかしいじゃない。私には、そんな記憶は、ないわ」
色沢「君を作る時、彼女のトラウマになっている部分の記憶を消した。特殊セクションに順応でき安いようにな」
章子「本物は、すでに廃人に成り下がり、クローンのあなたのほうが人間らしい生き方をしている。皮肉な話ね。
 (色沢のほうを向き)あなたが目指していた人間とクローンの逆転理論を見事に実証したわけね」
色沢「そうだ。クローンは、人並み以上の優れた未知のパワーを持っている。それに体を入れ替えれば、何度でも
 蘇ることができるからな」
麻衣子「私の体は、いつまで持つの?」
色沢「最新の実験結果は、3日と3時間39分・・・君の体は、後4時間ほどで別の細胞体と交換しなければ、
 現状の君の記憶は、跡絶えることになる」
  麻衣子、愕然としている。
  章子、突然、そばにいた麻衣子2の顔に肘鉄を食らわし、レーザーガンを奪い取る。もう一人の黒い兵士が章子に
  レーザーガンを向ける。麻衣子、透かさず、レーザーガンを蹴り落とす。
  麻衣子、回し蹴りで黒い兵士のマスクを蹴り上げる。よろめく兵士。麻衣子、レーザーガンを拾い、兵士の足に
  レーザーを撃ち込む。緑色の光線が足を貫通する。
  悲鳴を上げる兵士。麻衣子、麻衣子2にレーザーガンを向ける。
  色沢にレーザーガンを向けている章子。
章子「偉く安上がりのスーツを着させてるのね。自分の持ってるレーザーを跳ね返すくらいのものを着せてあげたらどう?」
色沢「こっちにも予算の都合ってものがある。ロークラスには、あの程度で十分だ」
  章子、正面に見える大型の白いマシーンを見つめ、
章子「あれは、洗脳電磁送信システムね。(ほくそ笑み)そう、あれで部隊を操ってたのね」
色沢「待て、甲斐崎の研究を灰にする気か・・・」
  章子、白いマシーンにレーザーガンを向け、撃つ。
  マシーンが炎を上げ、爆発している。
  色沢、愕然と、顔を歪ませる。
章子「幸田は、どこにいるの?」
色沢「まだあの男のことを忘れていなかったのか・・・」
  章子、色沢の頭に銃口を向け、
章子「早く言いなさい!」
色沢「六番監禁ブースだ」
章子「(麻衣子に)一緒に来て!」
  麻衣子、唖然とする。
  麻衣子2、いきなり立ち上がり、麻衣子に襲いかかってくる。
  麻衣子、麻衣子2に思わず、レーザーガンを撃ってしまう。麻衣子2の脇腹にレーザーが貫通する。
  麻衣子にしがみつく麻衣子2。
  麻衣子、麻衣子2を抱き止める。麻衣子2、赤い目で涙を浮かべながら、意識を失う。
  麻衣子、複雑な面持ちで、麻衣子2を抱き締めている。
 
○ 埼玉上空を飛行する230ヘリ
  唸るローター音。低速で進んでいる。
  スピーカーから聞こえてくる日下の声。
日下の声「幸田の居所は、まだ掴めないのか?」
  
○ 230ヘリ・キャビン
  計器盤中央のモニターを見ている末沢。
  末沢、頭にかけているヘッドマイクに喋りかけている。
末沢「後、3キロ程で現場に到着します・・・」
  土下、前方をジッと見ている。
土下「見つけたぞ。幸田のブルーバードだ」
  フロントガラス越しに広大な草原の敷地が見えてくる。
  トレーラーとブルーバードが止まっているのが、小さく見える。
  
○ 山の中腹・草原地帯
  その上空を横切る230ヘリ。
 
○ 埠頭・保税倉庫前
  日下がセダンの助手席側に立ち、レシーバーを握っている。
日下「幸田達は、確認できたか?」
  スピーカーから末沢の声が聞こえてくる。
末沢の声「いいえ。トレーラーも確認しましたが、中に人が乗っている様子は、ありません」
  日下のそばに上木達が駆け寄ってくる。
上木「日下さん・・・」
  日下、倉庫のほうを見つめる。
  五十人の黒い兵士達が横二列並び、こちらに向かって前進している。
  前の列の兵士達が一斉にレーザーガンを構え、撃ち始める。

○ 230ヘリ・キャビン
  激しく飛び交うレーザーの発射音が末沢のヘッドマイクに伝わってくる。
末沢「日下さん!」
土下「どうした?」
末沢「どうやら、春江川の部隊に襲撃されているようです・・・」
土下「まずいぞ、こりゃあ・・・」
末沢「早く着陸して、幸田さん達を探しましょう」
土下「ああ・・・」

○ 埠頭・保税倉庫前
  覆面車の後ろに隠れ込む日下達。
  前に止まっているパトカーのボディに蜂の巣のように次々とレーザーが貫通している。
日下達「(手を振り合図する)行け!」
  分厚い銀色の装甲板をつけた装甲車が前進し始め、日下達の前を通り過ぎて行く。
  装甲車の後ろに沿って歩き始めるSATと機動隊員達。マシンガンを一斉に撃ち始める。
  マシンガンの弾が黒い兵士達に当たっているが、火花を散らし、跳ね返している。
  レーザーが装甲車に当たっている。
  装甲板が切り刻まれ、激しく火を噴いている。
  装甲車、砲台を黒い兵士達の方に向ける。発射するミサイル。
  黒い兵士達の前でミサイルが爆発する。
  数十人の黒い兵士が炎に飲み込まれている。そのうちの数人は、まだ前進しているが、
  突然、攻撃をやめる。
  日下、手を上げ、指示を送る。
  立ち止まる装甲車と機動隊員達。
  黒い兵士、立ち尽くしたまま、微動だにしない。

○ 地下施設・通路
  色沢を先頭に歩いている章子と麻衣子。
  監禁ブースの入口のドアに立つ三人。
  章子、色沢の頬にレーザーガンの銃口を突き立てる。
  色沢、白衣の右側のポケットから、静かに何かを取り出そうとしている。
  章子、色沢の不自然な動きに気づき、銃口を突き上げる。
章子「何してんの?さっさと出しなさい」
  色沢、透かさず、右側のポケットから手を出し、左側のポケットに手を入れる。
  ICカードを取り出すと、読み取り装置にスキャンさせる。
  分厚い鉄の扉が開く。三人、中に入って行く。
  
○ 同・六番監禁ブース
  薄暗い照明下。部屋の中央に立っている幸田。暫くして、入口の扉が開く。
  通路の光が差し込み、幸田を照らす。
  章子達が幸田の前に姿を表わす。
  唖然とする幸田。
幸田「章子・・・」
  色沢の背中に銃口を突きつけ、前進する章子。麻衣子も後に続く。
章子「早く!」
  幸田、章子達と共に部屋を出て行く。
  
○ 同・春江川の書斎
  モニター映像。通路を走る章子達が映っている。
  モニターを見ているのは、春江川である。
  章子、監視カメラに気づき、カメラ目線でカメラを睨み付ける。
  春江川、笑みを浮かべる。
  
○ 同・通路
  T字路の前で立ち止まる四人。
章子「(色沢に)子供達は、どこにいるの?」
色沢「この下の更生ルームだ」
  麻衣子、章子の前に立ち、色沢にレーザーガンを向ける。
麻衣子「私が行くわ」
章子「いいの。私が助けるから・・・」
幸田「麻衣子、おまえは、色沢を連れてこっから脱出しろ。末沢と日下達に連絡してくれ」
麻衣子「幸田さん、(色沢を見つめ)知ってたんですか?」
幸田「こいつは、甲斐崎の同僚だった男だ。甲斐崎が死んだ後、奴が進めていた研究を引き継いだ。そうだろ?章子」
章子「黒い部隊は、あれで操ってたのよ」
  章子、突然、色沢の白衣の右側のポケットに手を入れ、金属球を取り出す。
  金属球を握り締める章子。
  幸田、険しい表情で章子を見つめ、
幸田「やめろ、章子。何考えてるんだ?」
章子「春江川は私が殺る」
  章子、後退りしながら、春江川の書斎のある方向へ走り始める。
  幸田、章子を追って、走り出す。
  
○ 山の中腹・草原地帯
  着陸する230ヘリ。土下と末沢が降り、辺りを見回している。
  風音が無気味に鳴り響く。揺らいでいる草叢で人影が過る・・・。
  末沢、透かさず、草叢のほうに銃口を向ける。
末沢「誰だ?」
  二人の足下で弾丸が何発も弾く。末沢、土下、慌てて、ブルーバードのほうに向かって突っ走って行く。
  車の影に身を伏せる二人。
  末沢、顔を上げ、辺りを見回す。
  草叢の中から青いスーツとサングラスをつけた男が表われる。四堂である。
  四堂、マガジンを外し捨てると、弾の詰まったマガジンを装填している。
  四堂を睨み付ける末沢。
末沢「またあいつか・・・」
  四堂、薄笑いを浮かべながら、末沢達に向かって歩いている。
  スーツのポケットから手榴弾を取り出し、ピンを抜くと、ブルーバードに放り投げる。
  手榴弾は、ブルーバードの車体の下に転がり込む。
末沢「(驚愕し)ヤバイ!」
  末沢、土下、立ち上がり、必死の形相で走り出す。と、同時に、手榴弾が爆発する。
  炎に包まれたブルーバードの車体が空中に浮き上がり、反転している。
  広がる炎から逃れるように走り続けている二人。草叢に飛び込み、身を隠す。
  四堂、薄笑いしながら、踵を返し、また、草叢のほうに向かって歩き始める。
  草叢から顔を出す末沢と土下。
  土下、炎に包まれ、黒焦げになり、骨組みと化すブルーバードを見つめている。
土下「ブルーバードが・・・」
末沢「俺は、四堂を追います。土下さん、ヘリに戻って、応援を呼んでください」
土下「わかった・・・」
  末沢、立ち上がり、走り出す。

○ 地下施設・春江川の書斎
  扉が開き、勢い良く中に入り込んでくる章子。
  扉を閉めると同時にドアノブの鍵を閉める。
  デスクに座っている春江川。憮然と構えている。
  章子、ゆっくりと春江川に近づいて行く。
章子「あなたは、何もかも知ってて、私を利用した。そうでしょ?」
春江川「何を言ってる?利用したのは君じゃないか」

○ 同・春江川の書斎前・通路
  走ってくる幸田。ドアの前で立ち止まり、ドアノブを回すが鍵がかかっている。
  幸田、銃を構え、ドアノブに銃口を向けるが、章子の話し声を聞き、動きを止める。
章子の声「私達の計画も最初から計算に入れていた。人工島で私に獅勇部隊を組織させて、私を殺した後、
 獅勇部隊に電磁システムを操らせて、全世界の電力をジャックし、パニックに陥れようと考えていた・・・」
  春江川、高笑いする。
春江川の声「君は、見た目によらず人が良いな。自分の計画を全て私に打ち明けるとは・・・」
  幸田、二人の話しを耳を済まして聞き始める。

○ 同・春江川の書斎
章子「数十のナノ衛生にレーザー装置を組み込み、地球の周りにばらまいて、
 全てを支配下に置くつもりだったんでしょ?・・・」
春江川「そんな馬鹿げた話、誰も信用せんぞ」
  章子、血痕のついたペンダントを取り出し、春江川の机の上に置く。
  春江川、ペンダントをまじまじと見ている。
章子「これは、私の母親がつけていたものよ。母は、十九年前、事故で死んだ。その時、これを握り締めてた」
  ペンダントの蓋を開ける章子。中には、若かりし頃の春江川の写真が入っている。
章子「母は、父のことについては、何も語ろうとはしなかったわ。だから、色々自分で調べて、ある人物に辿り着いた。
 四星興産の笹川よ」
春江川「誰だ?」
章子「笹川は、あの会社に入る前、あなたの秘書兼ドライバーをしていた。そして、私の母を事故死に見せかけて、
 殺したのよ。あなたの指示でね・・・」
春江川「・・・」
章子「なぜ、母を殺したの?」
春江川「・・・邪魔だったからだよ」
章子「・・・」
春江川「別れてからもずっと私の財産を目当てにして、たかってきたからな、あの女は。
 そう、今の君とそっくりだ・・・」
章子「これで、すっきりしたわ・・・」
  章子、レーザーガンを春江川に向け、金属球を春江川に投げつける。
  春江川の胸元に金属球が当たる。
章子「さよなら、パパ・・・」
  その瞬間、春江川、右腕のスーツの袖から小型の筒の様なものを差し出し、
  章子の目に向ける。筒から小さな針が飛び出し、章子の右眼に突き刺さる。
  春江川、透かさず、もう一つ、針を発射する。章子の左眼に針が刺さる。
  暫くして、章子の眼に刺さった両方の針が小さな爆発を起こす。
  悲鳴を上げる章子。
  外で銃声が鳴り響く。幸田がコルト・パイソンを構えながら部屋に駆け込んでくる。
  幸田、うつ伏せで倒れている章子を見つめる。章子の顔から白い煙が上がっている。
幸田「(春江川を睨み付け)こいつに何をした? 」
  座席から立ち上がる春江川。
春江川「私を殺せば、この国は、滅びるぞ」
幸田「おまえみたいな独裁者がはびこる世の中で、まともな子供が育つはずがない。
 彼らは、大人のエゴの犠牲者だ・・・」
春江川「お前達は、必ず同じ過ちを繰り返す。自滅したければ、私を撃つがいい」
  幸田、躊躇わず、引き金を引く。弾丸は、春江川の左胸を貫通する。
  幸田、また引き金を引く。
  春江川の額に弾丸が突き刺さる。
  春江川、座席にしなだれかかり、座ったまま、息絶えている。
  章子を抱き起こす幸田。章子の顔を見つめ、愕然とする。章子の人工眼が破壊され、眼が黒く潰れている。
章子「また光を失ったわ・・・」
幸田「また人工眼をつければいいさ」
  幸田、章子を立ち上がらせる。
章子「春江川を殺したの?・・・」
幸田「ああ・・・」
章子「私の長年の苦労があなたのせいで台無しね・・・」
幸田「お前の代わりをしてやっただけさ。感謝しろよ」
  章子、複雑に顔を歪ませる。
  部屋から出て行く二人。
  
○ 同・地下施設・階段
  色沢の背中に銃を突きつけながら、階段を上り始める麻衣子。
  銃声が鳴り響く。麻衣子、レーザーガンを落とす。麻衣子の右腕から血が流れている。苦痛に顔を歪ます麻衣子。
  階段の中央にある踊り場で銃を構えながら立っている四堂。
  色沢、ニヤリとし、踊り場まで階段を上り始める。
  四堂と対峙する色沢。
色沢「ナンバーは?」
四堂「087」
色沢「086は?」
四堂「ここに来る途中、撃たれて死んでるのを確認した」
  麻衣子、声を上げ、
麻衣子「私が殺したのよ・・・」
  色沢、麻衣子を見つめ、
色沢「ナノ・ジェネレーション・クロスを実行する。あの女を片づけたら、春江川の始末も頼むぞ」
四堂「やっと・・・目的を果たせる・・・」
  色沢、四堂を横切り階段を上り始める。
  四堂、麻衣子に銃を向け、
四堂「俺の分身の仇だ・・・」
  突然、四堂の後ろから色沢が転がり落ちてきて、四堂を前のめりに押し倒す。
  四堂も階段を転がり落ち、麻衣子の前で、立ち止まる。
  階段の上のほうに銃を構えた末沢が立っている。
末沢「すまん、麻衣子。取り押さえようとしたら、足を滑らせやがってさ・・・」
麻衣子「末沢さん・・・」
末沢「幸田さんは?」
麻衣子「春江川の部屋に向かいました。相沢を追いかけて・・・」
  踊り場にうつ伏せで倒れている色沢。色沢の手元に四堂のデトニクスが落ちている。
  色沢、眼を大きく開け、デトニクスを掴む。
  麻衣子の後ろで倒れている四堂が立ち上がり、通路に向かって走り始める。
末沢「麻衣子、後ろ!」
  振り返る麻衣子。咄嗟にレーザーガンを拾い、四堂に向け、撃つ。
  走る四堂のそばの壁に光線が当たる。
  四堂、気にせず、通路の奥へ駆け抜けて行く。
  末沢、階段を降りている。中央の踊り場に差しかかった時、突然、色沢が立ち上がり、末沢を羽交い締めにする。
  麻衣子、踊り場を見つめ、レーザーガンを向ける。
  麻衣子の体が突然、異変を起こす。皮膚が変色し、皺が増え始める。
  末沢の蟀谷にデトニクスの銃口を当てている色沢。末沢、麻衣子の姿を見つめ、
  愕然とする。色沢も麻衣子を見つめ、
色沢「おっと、そろそろ体が腐り始めてきたようだ・・・」
  麻衣子、自分の体を見回し、艶のない低い声を上げる。
麻衣子「まだ、平気よ・・・」
  麻衣子、足をふらつかせ、その場に倒れ込む。
色沢「後輩の最後だ。ちゃんと看取ってやれ」
  色沢、末沢から手を離し、銃を向けながら階段を上り始める。
  末沢、呆然とした様子で階段を降り始める。
  末沢、麻衣子を抱き起こす。皺くちゃになった麻衣子の顔を見つめ、愕然とする末沢。
末沢「なんでこんなことに・・・」

○ 同・通路
  肩を組み、ゆっくりと歩いている幸田と章子。
章子「やっぱり、あなたを生かしておいて良かった・・・」
幸田「俺まで利用したのか?どうしようもなく打算的な女だ」
章子「こんなドジをしなければ、私達の計画は、完璧に実行できたのに・・・」
幸田「もう子供達を戦闘に出すなんて、馬鹿なマネは、よせ」
章子「春江川の予備軍は、たくさんいるのよ。獅勇部隊がいなければ、腐った連中がますます
 増えていくだけよ・・・」
幸田「・・・」
  幸田達の正面から足音が聞こえてくる。
  四堂がこちらに向かって駆けている。
  唖然とする幸田。
幸田「四堂・・・」
  幸田、章子と離れようとする。
章子「待って、どこ行くの?」
幸田「そこにいろ」
  四堂、立ち止まり、幸田と対峙する。
幸田「春江川は、俺が殺した」
四堂「何?」
幸田「一足違いだ。残念だったな」
四堂「余計なマネしやがって・・・」
  四堂、幸田、同時に銃を向け、引き金を引く。
  その瞬間、幸田の前に飛び込んでくる章子。幸田、唖然とする。
  章子の左胸辺りの背中を弾丸が貫く。
  四堂、首の真中に弾丸が貫通している。
  四堂、後ろに倒れ、息絶えている。
  章子を抱き締める幸田。
  章子、幸田を見つめ、
章子「向こうで清治君の顔、見れるかしら・・・」
幸田「馬鹿言うな」
章子「未来をつないで・・・幸田・・・」
  章子、幸田を抱き締め、息絶える。
  幸田、章子を抱き締め、怒りと悲しみ打ち震えながら、獣のように吠える・・・

○ 山の中腹・草原地帯(夕方)
  獅勇部隊の二十人の少年少女達が列を作って立つ。輝く夕日を見上げ、憂いの表情を浮かべている。

○ 新宿駅前(半年後)
  改札を通るジーンズの男。サングラスをつけている。色沢である。不精髭を生やし、野性味が増している。
  色沢、コインロッカーの前に近づいて行く。
  色沢、あるロッカーの扉を開ける。
  中は、空である。
  色沢、振り返り、後ろを見つめる。
  島と日下が立っている。
色沢「おまえら、ここで何してる?約束が違うぞ!」
島「約束?何のことだよ?」
  色沢、ジャケットのポケットから小型のリモートスイッチボックスを取り出し、
色沢「特殊セクションは、解散したんじゃなかったのか?」
日下「したさ。おまえのおかげでな」
島「リストラされずに、捜査一係に拾ってもらったんだよ」
日下「押しても無駄だぞ。都庁に仕掛けた爆弾は、とっくの昔に回収してある」
色沢「何?」
日下「おまえをおびき出すために、わざわざ要求を聞き入れてやったんだ。今更、
 十億円も吹っかけてきやがって、また、軍資金でも作るつもりだったのか?」
  色沢、リモートスイッチのボタンを押すが、何も起こらない。
島「おまえは、はなっから春江川を裏切るつもりで、別の計画を立てていた。それが『ナノ・ジェネレーション・クロス』。
 都庁爆破計画の事だ」
日下「ファースト・イーグルが都庁を占拠した時に、爆弾を仕掛け、前島を殺したのも、おまえだったのか・・・」
  日下、色沢の前に行き、大きく右腕を振り、色沢の頬を殴りつける。
   
○ 都庁前
  軽装の末沢と真貴が腕を組んで歩いている。談笑する二人。
  二人の薬指に指輪がついている。
  末沢、ふと、足を止め、都庁を見上げる。
真貴「どうかしたの?」
末沢「いや。ヒルズで飯でも食うか・・・」

○ 公園(夕方)
  ブランコ、滑り台、鉄棒などに群がり、遊んでいる子供達。心配そうに子供達を見守る大人達。
  砂場で遊ぶ子供達の中に、多川 美菜(5)の姿がある。美菜、バービー人形で遊んでいる。
  美菜のそばにジーンズを履いた女が近寄ってくる。
女「美菜ちゃん、そろそろお家に帰ろうか」
美菜「いや。もうちょっと遊ぶ」
  しゃがみこみ、美菜と顔を合わせる女。女は、麻衣子である。麻衣子、元の若々しい姿に戻っている。
麻衣子「もうすぐ晩ご飯の時間だよ。お姉ちゃんがハンバーグ作ってあげるから・・・」
美菜「わかった。じゃあ、帰ろう」
  麻衣子、ふと、バービー人形を見つめ、
麻衣子「私は・・・私よ・・・」
  美菜、不思議そうに麻衣子を見ている。
  麻衣子、美菜と手を繋ぎ、砂場から立ち去って行く・・・。

○ 雑居ビル・6F
  通路を歩いている黒いスーツを着た男の足元が映る。
  男、あるドアの前で立ち止まる。
  ドアの看板を見つめる男。看板には、「フリーフリーハウス・相談所」と書かれている。
  ドアをノックする男。扉が開く。中から幸田が姿を表す。幸田、男の顔を見て、唖然とし、
幸田「小神部長・・・」
  表に立っているのは、小神である。
小神「もう部長じゃないだろ?」
  幸田、笑みを浮かべる。

○ フリーフリー・ハウス・相談所・ベランダ
  柵の前に立ち、話をする幸田と小神。
小神「麻衣子は、元気にやってるか?」
幸田「時々、手伝いに来てくれてますよ」
小神「特殊セクションの科学技術部が存続できたおかげで、色沢の研究を分析して、新たな細胞体の開発に成功した。
 まだ定期的な体の交換は、必要だが、数年後には、完全な肉体を手にする事が出来るだろう」
幸田「つまり、死んでも、もう蘇らないって事ですか?」
小神「普通に歳を取って、普通に死んでいくのが自然だろう?」
幸田「獅勇部隊の少年少女達は?」
小神「普通の生活に戻っている。薬の副作用も今は治まって、落ち着きを取り戻しているそうだ」
幸田「そうですか」
小神「仕事は、もう慣れたか?」
幸田「慣れるなんて事はありません。子供達は、次から次へ新しい悩みを持ってここにやってきますからね」
小神「おまえが相談所の所長とはな。半年前には、想像も出来なかった」
幸田「七緒ちゃんは?」
小神「最近、新しい学校にもなれてきたようだ。友達も出来たようだし・・・」
幸田「良かったじゃないですか」
小神「しかし、いつかまた以前の状態になってしまうかもしれん」
幸田「その時は、ここに連れてきてくださいよ。部長・・・じゃなかった、あなたも自信を持ってください。
 俺達を指揮していた時と同じように・・・」
  小神、苦笑いし、
小神「定年まで所轄署長をやるつもりだったが、気が変わった。俺も手伝わせてくれないか?」
幸田「ここは、特殊セクションよりもハードですよ」
  幸田、小神、笑みを浮かべ、外の景色を眺める。
  インターホンのアラームが鳴る。入口の扉が開き、学生服姿の女子高生が入ってくる。
女子高生「あの・・・」
  振り返る幸田。女子高生を見つめ、優しい笑みを浮かべる。
  
                                 −未来の獅子達・完−

(最後まで読んで頂いた方々、長い間お付き合いくださり、ありがとうございました。byガース)


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