『555 ダッシュバード 危特科捜班』第十一回「ナノバトルPARTU」byガース『ガースのお部屋』
  
○ 人工島・地下施設・監禁部屋
  暗がりにたちこめる白い煙。部屋の真中でうつ伏せになって倒れている男の背中が
  うっすらと見えてる。
  男は、幸田 智(35) 。
  暫くして、幸田の右手がピクっと動く。
  幸田、静かに目を開け、ゆっくりと起き上がる。
  幸田、煙を吸い込み、咳をする。
  手元に置かれている携帯ディスプレイを掴む幸田。
  ディスプレイの中に何かが差し込まれている事に気づき、箱をこじ開ける。
  中から電子キーが落ちてくる。
  幸田、怪訝な表情で電子キーを拾う。

○ 同・監視ルーム
  9つからなる巨大なマルチモニターに、画面に向かって進んでくる潜水艦の様子が映し出されている。
  オペレーションシステムの前に立つ白衣の男。
  卓上の操作台からミサイル発射ボタンのついたパネルがせり上がってくる。
  男、無気味な表情をしながら、ボタンに親指を乗せる。
  
○ 海中に沈む人工島
  険しく切り立った奥深い海底から砲台が突き出ている。
  
○ 同・監視ルーム
  モニターを見つめる男。ボタンを押そうとした瞬間、男の手に紫色のワインがドバドバとかかる。
  男、後ろを振り返る。目の前に幸田が立っている。
  幸田、ほくそ笑むと、いきなり、拳で男の頬を殴りつける。男、その場に勢い良く倒れる。
  幸田、しゃがみこみ、男と向かい合う。
  男、動揺した面持ちで、
男「どうやって部屋から出てきた?」
幸田「昔から悪運が強いんだ、俺は」
  幸田、男の胸倉を掴み、
幸田「章子達は、どこだ?」
  男、顔を背け、唇を噛み締める。
  幸田、持っていた金属球を男の顔の前で見せつけ、
幸田「自分で生み出した物で死ねるんだ。本望だろう?」
  男、きょどきょどして落ち着かない表情で金属球を見つめ、
男「おまえにあの人を止める事はできない・・・」
  幸田、男の胸倉をさらに強く締め上げ、
幸田「止めてやるよ、必ず・・・」
  
○ 東京・国道
  無気味なエンジンを轟かせながら進む黒いトレーラー。
  
○ トレーラー・コンテナ内
  コンピュータルームの座席に座る佐伯 梨琉(17)。青い軍服を身にまとっている。
  相沢章子(33)が梨琉の背後に近づいてくる。
  章子、梨琉の真後ろに立ち、両手で梨琉の両肩を掴み、
章子「よくやったわ、梨琉。だから言ったでしょ?あなたは、やればなんでもできる人なのよ」
  梨琉、複雑に表情を歪め、項垂れる。
章子「どうしたの?」
梨琉「いいえ・・・なんでもないです」
  章子、梨琉の顔を覗き込み、
章子「顔色悪いわ。薬が切れてきたのかもしれないわね」
  章子、左腕につけている腕時計の中から紫色のカプセルを取り出し、梨琉に手渡す。
章子「真由美と交替して、暫く休みなさい」
  梨琉、首を横に振り、
梨琉「平気です」
  章子、ほくそ笑む。
  暫くして、携帯のアラームが鳴り響く。
  章子、腰のベルトのホルダーにかけていた携帯を掴み、身元に当てる。
  梨琉、掌に乗せているカプセルを呆然と見つめている。

○ 春江川の邸宅
  コンクリート建ての横長い3階建ての建物。コンクリートを囲う高い塀と巨大な門。
春江川の声「どうやら、君の力を見くびっていたようだ・・・」
  
○ 同・寝室
  ベッドに座り、パイプを銜えながら、携帯に話している春江川 幸造(72)。
  携帯の受話口から章子の声が聞こえる。
章子の声「うちの子達には、先生の作った部隊がつけているスーツの数十倍の強度を持つものを着せてますの」
春江川「我々の技術を踏み台に、更にレベルの高いものを生み出すとは・・・科学者冥利につきるね・・・」
  
○ トレーラー・コンテナ内
  笑みを浮かべている章子。
章子「負けを認めるの?先生・・・」
  春江川、失笑する。
  章子、急に険しい面持ちになり、
章子「じゃあ、私達の自由にさせてもらいますから・・・」
  章子、両目を青く光らせ、携帯を切る。

○ 春江川邸・寝室
  携帯を蒲団の上に静かに置く春江川。
  平然とした様子でパイプの煙を燻らせる。
  暫くして、携帯のボタンを押し、耳に当てる。
春江川「表に出る。車を用意してくれ・・・」

○ 同・地下駐車場入口
  大きな門扉が開き、地下から地上へ続くスロープの坂を黒いセンチュリーが駆け上がってくる。
  センチュリー、門を潜り、左に曲がると、手前の細い道を走り出す。

○ センチュリー・車内
  後部座席に座る春江川。グレーのスーツを身に付けている。憮然とした面持ち。
  ハンドルを握る黒いスーツとサングラスを身に付けた中年風の男。
  右側のフェンダーミラーを見つめる。
  ミラーには、センチュリーの後ろを走る黒いセダンが映っている。
  男、春江川に話しかけ、
男「危特の連中です。どうしますか?」
春江川「そろそろ整理するか・・・」

○ 交差点
  信号が黄色に変わる。
  センチュリー、突然、スピードを上げ、
  タイヤを軋ませ、急ハンドルで左に曲がる。
  後を追っていたセダンもドリフトしながら勢い良く左に曲がる。
  
○ セダン車内
  運転席と助手席に乗っているスーツを着た二人の男。
  暫くして、車の両側に赤いヘルメット、黒いつなぎを身に付けた男が乗るオートバイが表われる。
  
○ セダンの両側に張り付くようにして走行する二台のオートバイ
  運転席側を走行するオートバイの男、つなぎの中に手を入れ、金属球を取り出すと、
  セダンの運転席のドアの窓に向け、勢い良く投げつける。
  窓が割れ、金属球が運転席に転がり込む。
  同じく、助手席側のオートバイの男も金属球を投げつける。助手席のドアの窓が
  激しく割れる。

○ セダン車内
  運転席の男の足下に転がった金属球から勢い良く白い煙が上がる。同じく助手席側からも煙が上がっている。
  呻き声を上げ、激しく苦しみ始める二人の捜査員。

○ セダンから猛スピードで離れて行く二台のオートバイ
  ふらふらとよろめきながら進んでいるセダン。やがて、対向車線に進入し、
  前からやってきたダンプと正面から激突する。
  セダン、弾き飛ばされ、空中を舞い、路面に落ちると、激しくクラッシュしている。

○ 小坂電子精密産業ビル前
  十階建ての近代的なビル。
  歩道の脇に黒いトレーラーが立ち止まる。
  コンテナの扉が開き、章子達が姿を表わす。
  章子、三人の少年兵士達と共に、扉を伝って、路面に降り、ビルの入口の自動扉に向かって歩き出す。
  章子達が扉の前に差しかかった時、自動扉が開き、中からサングラスをつけ、青いスーツを着た四堂
  豹摩(29)が表れ、章子達と対峙する。
  立ち止まる章子。それに釣られて、少年兵士達も立ち止まる。
  四堂も立ち止まり、サングラスを外す。
  ほくそ笑む四堂。
  章子もほくそ笑み、
章子「連絡が取れなくて、心配してたのよ」
四堂「なぜ、あなたが僕の心配をするんです?」
章子「仕事のし過ぎで寝惚けてるの?それとも私との契約を忘れたの?」
  四堂、上着の中からデトニクスの銃を抜き取り、章子に向けて構える。
  一斉にカービン銃を四堂に向ける少年兵士達。
  四堂の背後に、黒のメタリックの戦闘服とマスクをつけた四人の男達がレーザーガンを構えている。
  章子、男達を見つめ、
章子「何、これ?・・・」
四堂「あなたと契約した仕事は、やり遂げた。今から新しい契約者と交わした仕事を始める」
  章子、憮然とした表情で四堂を睨み付ける。
  
○ 『ナイトグラス』の映像
  望遠モードで小坂電子精密産業のビルの入口に立つ章子達の様子が映っている。
  章子達、四堂に銃を向けられながら、ビルの中に入って行く。
  
○ 小坂電子精密産業ビルの真向かいに立つ十階建てのビル
  その五階の窓の前にベージュのスーツを着た男が立っている。
  ナイトグラスを外す男。男は、危特科捜班第3チームの上木(27)である。
  上木、携帯をかけている。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの前に座る小神 洋介(49)。受話器を持ち、話をしている。
  入口から末沢 裕太(28)が足早に駆け込んでくる。
  受話器を置く小神。
  末沢、小神の前に立ち、
末沢「幸田さんから連絡がありました」
小神「どこにいるんだ?」
末沢「例の相沢章子が潜伏している島を見つけたそうです。一時間後にこっちに戻るそうです」
小神「今、日下から報告を受けた。相沢章子が獅勇部隊を引き連れて小坂電子産業ビルに入った」
末沢「第3チームと合流します」
  末沢、そそくさと部屋を出て行こうとする。
小神「待て」
  足を止め、小神のほうに顔を向ける末沢。
小神「現場には、四堂もいたそうだ」
  驚愕し、目を丸くする末沢。
末沢「奴は、俺の目の前で金属球の煙を浴びて死んだんですよ」
小神「向こうが確認してるんだ。間違いない」
  末沢、呆然としながら、思いつめた表情で部屋を出て行く。
  
○ 同・裏口スロープ
  地下2階の駐車場に続くコンクリートの坂をサイレンを唸らせたフェアレディZが駆け登ってくる。
  末沢が運転している。
  タイヤを唸らせ、右に曲がると、表の車道を走り出すフェアレディZ。
  颯爽と走り去って行くフェアレディZの後を追ってベージュのワゴンが走っている。

○ ワゴン車内
  若い男・木村(21)がハンドルを握る。助手席に花井 綾奈(27)が座っている。
木村「こう言うのやりなれてるけど・・・なんか、今度の事件ってやばくないっすか?」
綾奈「やばい事をするのが私達の仕事よ」
木村「・・・」

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・取調室
  机の前に座っている警視総監・中坊 信太郎(54)。その対面に危特科捜班第8チームの
  佐田 一樹(34)が座っている。
  中坊を口をツンと曲げ、目を瞑り、意志の固い表情で両腕を組んでいる。
  佐田、やりにくそうな表情で頭を掻いている。暫くして、扉が開き、葉山 麻衣子(26)が入ってくる。
  麻衣子、神妙な面持ちで中坊を見ている。
  中坊、麻衣子の姿を見つめ、憤然とする。
中坊「君達は、どこまで私に恥を掻かせる気だ?」
佐田「僕に正直にありのままをお話して頂けたら良かったんですが・・・これは、最終手段です」
中坊「これも小神が仕向けたことか?ふざけるのもいい加減にしろ!」
麻衣子「部長は関係ないわ。私が志願したの」
  中坊を怒りを押さえ、顔を背ける。
  佐田、立ち上がり、麻衣子と入れ代わる。
  麻衣子、椅子に座り、中坊と対峙する。
  佐田、二人を見つめながら部屋を出て行く。
  中坊、目を瞑ったまま微動だにしない。
麻衣子「春江川と交わした約束の事・・・詳しく教えてください」
中坊「・・・」
  麻衣子、辛そうに顔を歪める。
  中坊、目を開け、項垂れる。
中坊「麻衣子・・・」
  麻衣子、悲しげな目で中坊を見つめ、
中坊「私のことを恨んでいるか?・・・」
麻衣子「そんなこと今は、関係ない」
中坊「あいつが死んでから、おまえは、別人のように変わった。新しい母親には、一言も口を聞かず、
 私の言う事を無視して警察官なんかになるから、こんなことに・・・ 」
麻衣子「私の意志よ。私が警官になった事と今度の事件、何が関係あるの?」
中坊「このまま危特に居続ければ、おまえは、必ず死ぬ・・・」
麻衣子「なぜ、そう決めつけるの?」
中坊「もうまもなく、春江川は、ある計画を実行する・・・」
麻衣子「その計画って、何なの?」
中坊「私も詳しい事は、聞いていない。ただ、奴の発想力は、宇宙規模的だ。
 何をしでかすかは、私にも想像がつかん・・・」
麻衣子「長官、あなたには、この国を守り抜く責任があるはずです・・・」
中坊「わかってる・・・」
  中坊、険しい表情をし、
中坊「麻衣子、お前には、兄弟がいたんだ・・・」
麻衣子「何よ、突然・・・」
中坊「3つ年上の兄だ。数年前、不良グループに襲撃され、殺された。
 私は、あいつのようにおまえまで失いたくない・・・」
  麻衣子、動揺した面持ち・・・。
 
○ 警視庁・屋上ヘリポート
  一基の白いヘリがこちらに向かって飛んでくる。
  ヘリポートの上でホバリングし、ゆっくりと着地する。
  助手席の扉が開き、中から幸田が降りてくる。
  幸田、ヘリのローターから出る強い風を浴びながら、階段を降りて行く。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査  班・部長オフィス
  幸田が足早に中に入ってくる。
  小神、待ち構えていたように座席から立ち上がる。
  小神と対峙する幸田。
幸田「人工島に海上自衛隊の護衛艦と潜水艦を向かわせました。相沢達は、都内に潜伏中です」
小神「相沢は、小坂電子産業ビルにいる」
幸田「なんですって?」
小神「獅勇部隊も一緒だ。さっき末沢が現場に向かった」
幸田「俺も行きます」
  幸田、踵を返し、走り出す。入口を抜けようとした瞬間、麻衣子と鉢合わせする。
  麻衣子、幸田の前に立ち塞がる。神妙な面持ち。
  幸田、唖然としている。麻衣子、幸田の前を横切り、小神のデスクの前に立つ。
麻衣子「長官の取り調べ、終わりました・・・」
  幸田、驚愕し、麻衣子の背後に近づいて行く。
幸田「どう言うことだ?」
麻衣子「長官、春江川と接触したんです。二人は、二十年前から密接な関係があったそうです」
幸田「特殊セクションの情報を春江川に流していたのも長官だったのか?」
麻衣子「はい・・・」
幸田「部長、春江川の身柄を押さえましょう」
  小神、電話の受話器を上げ、ボタンを押すと、話し出す。
小神「小神だ。十チームの坂下につないでくれ・・・」
  小神、突然、顔色を変える。
  小神の表情を見つめる幸田と麻衣子。
  小神、険しい目つきで二人を見つめ、
小神「・・・春江川を尾行していた十チームの車が襲撃された。金属球の煙を浴びて、
 二人の捜査員が即死だ・・・」
  驚愕している幸田と麻衣子。
幸田「日向を監視している8チームに連絡して、至急奴の身柄を押さえてください」
小神「わかった・・・」
  
○ 小坂電子精密産業ビル・地下二階
  天井に青い照明が灯る。
  巨大なサーバーマシーン、ネットワークシステムに囲まれたオペレーションルーム。
  奥の壁には、70インチのディスプレイが5台並べられ、都内の地図のイメージや、
  上空から見た各所の東京の街の映像が映っている。
  ディスプレイの前の長テーブルに黒いメタルスーツを着た5人のオペレーターが座り、
  目の前に設置されているモニターを監視している。
  部屋の中央に向かって歩く若い男。色沢
  千晴(33)。ベージュのスーツを身に付け、眼鏡をかけている。
  色沢、中央に立つと、振り返り、背後に立っている章子と対峙する。
色沢「君達の行動は、ここで監視させてもらった」
  一番右端のディスプレイに人工島の様子が映る。
  章子、まじまじとディスプレイを見つめる。
  護衛艦が砂浜の前に止まり、数十人の自衛隊員の集団が林の中を歩いている。
色沢「人工島は、すでに警察の手に渡ってしまったようだね。あの島の設計に
 携わったものとしては、大いに残念だよ」
  章子、無気味に笑みを浮かべる。
章子「全然そんな風には、見えないけど。三年前に突然姿を消したと思ったら、
 春江川の犬に成り下がっていたのね」
色沢「君ほど落ちぶれちゃあいないがね。海外で宇宙開発技術の研究を重ねていたんだ。
 成果は、思いのほか上々だった。甲斐崎が今の君を見たら、さぞ悲しむだろう」
章子「あの人から生き方を学んだのよ。それより、あいつにいくらで雇ってもらったの?」
色沢「君も愛人時代に結構な財産を手に入れたそうじゃないか。それで人工島の開発にも
 弾みがついた。金蔓の彼氏を裏切るなんて・・・馬鹿なことをしたもんだ」
章子「本気であいつに惚れるわけないでしょ」
色沢「そう言えば、甲斐崎の死のきっかけを作った君の浮気相手、まだ頑張ってるようだね・・・」
  章子、憮然とし、話しを変える。
章子「うちの部隊の子達を返して」
色沢「それは、無理な話しだ。彼らには、我々の計画の一部になってもらう」
章子「何?計画って?」
色沢「それは、君に教える必要はない」
  入口の扉がスライドし、四堂が中に入ってくる。四堂、章子の背後に立つ。
  章子、振り返り四堂を見つめる。
章子「やってくれるわね・・・春江川の復讐話もでたらめだったのね」
  四堂、怪訝な表情を浮かべる。
四堂「復讐は、本当ですよ」
  色沢、ほくそ笑み、
色沢「そいつは、僕が作ったクローンだよ」
  章子、唖然とする。
章子「本物は、どこにいるの?」
色沢「随分前に死んだ。ある人の依頼で僕が蘇らせたんだ」
  色沢、右手の掌に乗せている肌色のボールを章子に見せつける。
色沢「こいつに核を注ぎ込み、発育促進液の入った培養カプセルに入れると、一時間で人型に変わり、
 三日で死ぬ前の体の状態にまで成長する。もちろんそれまでの記憶も残ったままだ」
  章子、四堂をまじまじと見つめ、
色沢「しかし、残念なことに副作用が残ってね。安定期を過ぎると、急激に老け込み、
 半年足らずで死を迎える。だから、定期的に体を入れ替える必要があるんだ」
章子「不完全な技術で人の栽培をしてるの?科学者失格ね」
色沢「君には、言われたくないね」
  四堂、章子の背中に銃口を突きつける。
  色沢、章子の前に近づき、
色沢「君の才能を無駄にしないよう、僕が新しく君を作り替えてあげるよ」
章子「好きにしなさいよ。その前に、私の条件を聞いて・・・」
  ほくそ笑む色沢。
  
○ 国道を疾走するブルーバード
  サイレンを唸らせながら猛スピードで走行している。
  
○ ブルーバード車内
  ハンドルを握る幸田。助手席に麻衣子が座っている。
  麻衣子、俯き加減で、思いつめた様子。
  幸田、麻衣子を見つめ、
幸田「おまえが長官の娘だったなんてな・・・」
麻衣子「すいません。皆に特別な目で見られるのが嫌だったから・・・」
幸田「・・・長官の娘だからって特別視なんてしないぜ。少なくとも俺はな」
  麻衣子、幸田を見つめ、吹っ切れたような笑みを浮かべるが、
  また、思いつめた表情をする。
麻衣子「父は、昔から私には、甘くて・・・大人になってからもずっと私を
 監視しようとしていたんです・・・」
幸田「しかし、監視のためにおまえを特殊セクションに引き入れるってのは、
 長官も無茶な選択をするもんだな・・・」  
麻衣子「幸田さん・・・私前から変な・・・」
  助手席側のダッシュボードに設置されている小型無線機のアラームが鳴る。
  麻衣子、レシーバーを掴み、
麻衣子「はい、こちら『02』」
  スピーカーから小神の声が聞こえてくる。
小神の声「島が見つかった。都内のパチンコ屋の裏で倒れていたらしい。警察病院に運ばれて、
 今から緊急手術を始めるそうだ」
  幸田、麻衣子、安堵の表情。
  
○ 小坂電子精密産業ビル・地下三階・一番→三十番監禁室
  白い壁伝いの長い通路の両側に、オレンジ色の扉が並んでいる。
  色沢を先頭に黒いメタルスーツをつけた二人の男に囲まれた章子が歩いている。
  色沢、立ち止まり、章子と対峙する。
色沢「君のかわいい兵士達は、ここに一人ずつ監禁してある」
章子「面会するのに一苦労ね」
色沢「三十分だけ時間をやる。それだけあれば十分だろ?」
  色沢、章子を横切り、入口に向かって、歩き去って行く。
  章子、手前にある扉の四角い覗き穴を覗く。
  部屋の真中で、正座し、目を瞑る少年の姿が見える。
  章子、次に隣の扉に向かって歩いて行く。覗き穴を覗く。
  部屋の真中でうつ伏せで寝ている長髪の少女が見える。
  章子、兵士の男に話しかけ、
章子「この部屋の鍵を開けて」
  兵士、スーツの中からICカードを取り出し、扉の横の読み取り装置に差し込む。
  緑色のランプが光り、扉が横にスライドして開く。
  
○ 同・三番ケージ
  中に入ってくる章子。
  二人の兵士達も後から入ってくる。
  章子、辺りを見回し、監視カメラを見つける。兵士達と対峙し、透かさず、声を上げ、
章子「どうせ、何もかもお見通しなんでしょ?二人きりで喋らせて」
  兵士達、踵を返し、部屋を出て行く。
  章子、少女の体を抱き上げ、自分の膝に乗せる。
  少女の顔を覗く章子。少女は、笹川晴佳(16)。目を真赤にして顔中涙でぐしゃぐしゃになっている。
章子「何がそんなに哀しいの?」
  晴佳、激しく慟哭しながら掠れた声で、
晴佳「恐い・・・恐い・・・」
  晴佳、章子の体に抱きつく。
  章子、監視カメラのを見ながら、晴佳の口に紫色の錠剤を含ませる。
章子「これを飲んだら、数分で落ち着くわ」
  晴佳の涙が止まる。やがて、呆然としながら眠りにつく晴佳。
  章子、晴佳を抱きしめ、頭を撫でながら、耳元で囁く。
章子「心配しないで・・・あなた達は、強いんだから・・・」
  ほくそ笑む章子。
  
○ 小坂電子精密産業の真向かいに立つビル・五階
  窓の前に立つ末沢と上木。小坂電子ビルの様子を見つめている。
  二人の背後にある階段を幸田と麻衣子が駆け上がってくる。末沢、二人に気づき、振り返る。
  末沢と対峙する幸田と麻衣子。
幸田「何か動きは、あったか?」
末沢「いいえ。とくにこれといったことは・・・」
麻衣子「変ですね・・・獅勇部隊が中にいるのに、あそこの社員達は、何事もなかったように
 仕事を続けてる・・・」
末沢「変なのは、それだけじゃない。玄関の前で四堂が相沢に拳銃を向けたそうだ」
麻衣子「・・・四堂は、死んだんじゃあ?」
  末沢、動揺した面持ちになり、幸田を見つめ、
末沢「奴が金属球の白い煙に包まれて倒れたのを確認したんです・・・」
幸田「その煙は、見せかけだったんじゃないか?」
末沢「見せかけ?」
幸田「俺も人工島で章子達に捕まって、金属球の煙を浴びたが、この通り生きてる」
末沢「・・・」
麻衣子「でも、相沢は、どうして幸田さんに見せかけの金属球なんかを・・・?」
  幸田、大きく息を吐き、考え込んでいる。
  暫くして、幸田の携帯が鳴り響く。携帯を取る幸田。
男の声「日下だ・・・」
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班第3チームオフィス
  デスクに座っている日下 恭平(34)。
日下「春江川の国家機密プロジェクトに参加している企業のチェックが終わった。獅勇部隊が表われたのは、
 どうやら伊上データ通信と小坂電子を含めた全十一カ所。今、チーム総勢で手分けして監視を続けている」
   ×  ×   ×
幸田「こっちには、首謀者の相沢がいる。特殊急襲部隊に応援要請を出して、一気に踏み込もう」
   ×  ×  ×
日下「そう焦るな。獅勇部隊の狙いもわからずに踏み込むなんて危険すぎる」
   ×  ×  ×
幸田「獅勇部隊の目的は、首都機能を麻痺させる事だ。相沢は、春江川の部隊の事を知ってる。
 首都を狙う前に、奴の部隊を襲撃するつもりでここに来たに違いない」
   ×  ×  ×
日下「しかし、まだあの黒スーツの集団と春江川を結びつける証拠がない。仲貝の
 DVD−RAMがあればな・・・」

○ 小坂電子精密産業の真向かいに立つビル・五階
  幸田、突然、険しい表情を浮かべ、窓の外を見つめる。
  携帯に話しかける幸田。
幸田「・・・俺が中の様子を見てくる」
  末沢達、唖然とする。
日下の声「バカ言え。おまえが行けば、火に油を注ぐようなもんだ」
幸田「ちょっとひっかかることがあってな」
   
○ 『ナイトグラス』の映像
  望遠モード。
  幸田が足早に小坂電子精密産業ビルの入口のドアに向かって歩いている姿が映っている。
  
○ 小坂電子精密産業の真向かいに立つビル・五階
  幸田の様子を窺う末沢達。
  末沢と上木がナイトグラスをかけている。
  末沢のそばに立つ麻衣子。憂いの表情。
  末沢、突然、階段に向かって走り始める。
  麻衣子、咄嗟に声を上げ、
麻衣子「末沢さん、どこに行くんですか?」
  末沢、立ち止まり、麻衣子を見つめ、
末沢「俺も小坂電子に行く。十五分経って俺達が戻ってこなかったら、SATを連れて乗り込んでくれ」
  末沢、階段を駆け降りて行く。

○ 小坂電子精密産業ビル・ロビー
  自動扉が開き、幸田が中に入ってくる。
  柔らかい照明が幸田を包み込む。
  周りを見渡す幸田。辺りに人気はない。
  中央の受付カウンターに女子社員が一人座っている。
  カウンターに向かって歩く幸田。
  カウンターの上の天井に監視カメラが設置されている事に気づき、じっと、カメラを見つめている。
  
○ 同・地下二階・オペレーションルーム
  真中のディスプレイにロビーを歩く幸田の様子が映し出されている。
  色沢、部屋の中央に立ち、ディスプレイを無気味に見つめている。
  
○ 同・ロビー
  カウンターの前に立つ幸田。
  女子社員、頭を下げる。
女子社員「ご用件をお伺い致します」
  幸田、ジャケットの内ポケットから警察手帳を出し、女子社員に見せる。
  女子社員、一瞬、動揺した表情を見せる。
幸田「以前、開発部にいた仲貝さんの事について聞きたい事があるんですが・・・」
女子社員「ちょっとお待ちください・・・」
  女子社員、立ち上がり、奥の事務所に向かって走り去って行く。
  怪訝に女子社員の背中を見つめる幸田。
  幸田、辺りを見回すと、右側に見える通路に向かって歩き始める。
  
○ 同・階段
  階段の前に立つ幸田。地下一階に続く階段の踊り場に細かいコンクリート片の
  瓦礫が散らばっているのに気づく。
  幸田、階段を下り、踊り場に立ち、瓦礫を拾うと、さらに階段を下りて行く。

○ 同・地下一階
  暗がりの通路を歩く幸田。途中で立ち止まり、右側にある青い壁をまじまじと見ている。
  壁を触る幸田。色違いの柔らかいプレートで補修された部分を見つける。
  幸田、携帯を取り出し、ボタンを押す。
  しかし、つながらない。
  その瞬間、何ものかが幸田の背中に、デトニクスの銃口を突き立てる。
  幸田、動きを止め、険しい表情を浮かべる。
  幸田の背後に四堂が立っている。
幸田「こんなところで何をしているんだ?四堂・・・」
四堂「それは、こっちの台詞だ」
幸田「章子の命令で俺を殺しに来たのか?」
四堂「いいや、これは、個人的な活動だ」
  幸田達から数メートル離れた通路の天井に設置してある監視カメラが二人のほうに向いている。
  
○ 同・地下二階・オペレーションルーム
  真中のディスプレイに幸田と四堂の様子が映し出されている。
  部屋の中央に立つ色沢。暫くして入口の自動ドアが開き、二人の兵士に囲まれた章子が中に入ってくる。
  兵士達、章子を色沢の隣に連れていくと、そのまま、引き下がって行く。
  章子、ディスプレイを見つめ、唖然とする。
章子「幸田・・・」
色沢「君は、もうすぐ記憶の一部を失うんだ。この男の事もな」
  オペレーターの男が色沢に声をかける。
オペレーターの男「ロビーにもう一人男が来ました」
  右端のディスプレイにロビーの様子が映る。受付のカウンターの前に末沢が立っている。
  末沢、女子社員の話しを無視して、右奥の通路に向かって走り始める。
  画面を見つめる色沢と章子。
  章子、無気味にほくそ笑む。
  
○ 同・地下一階
  四堂、引き金に指を当て、今にも引きそうな動きを見せている。
幸田「今まで章子の言いなりだったのに、どうして今日は、個人的な活動なんだ?」
四堂「俺は、誰の言いなりにもならん。彼女を利用しただけだ」
幸田「あいつを裏切って、今度は、春江川の用心棒にでもなったのか?」
四堂「いずれあいつもこれからおまえが行くところに送ってやるよ」
  幸田、咄嗟に四堂の右手を両手で掴み、壁に何度も叩き付ける。四堂の右手から銃が落ちる。
  四堂、左腕を振り上げ、幸田の頬を殴りつけ、幸田の腹に何度も右膝を打ち付ける。
  そして、背中に肘鉄を食らわす。
  幸田、その場に崩れ、突っ伏している。
  銃声が鳴り響き、四堂のそばの壁に弾丸が弾き、白い煙を上げている。
  四堂の背後から末沢の声が響く。
末沢の声「動くな!」
  後ろに振り向く四堂。
  末沢が両手で拳銃を構えている。
  末沢、銃を構えながら、四堂に近づいて行く。
  四堂、無気味にほくそ笑み、
四堂「撃てよ。何度殺されようと、俺は、またおまえらの前に表われる」
末沢「どう言う意味だ?」
四堂「撃てばわかる」
  四堂、高笑いする。
  幸田、ゆっくりと立ち上がる。透かさず四堂が幸田を左腕で引き寄せ、幸田の首に腕を回し、
  スーツのポケットからもう一つのデトニクスの銃を取り、幸田の蟀谷に当てる。
  立ち止まる末沢。険しい目つき。

○ 小坂電子精密産業の真向かいに立つビル・五階
  窓越しから小坂電子ビルの様子を見つめる上木と麻衣子。
  麻衣子、ビルの玄関をまじまじと見ている。
  暫くして、ドアが開き、四堂が姿を表わす。
  四堂、玄関の前に立ち、顔を上げ、麻衣子と目を合わす。ほくそ笑む四堂。
  麻衣子、唖然とし、上木に話しかける。
麻衣子「四堂に気づかれたわ・・・」
  上木、不思議そうな顔で麻衣子を見つめ、
上木「四堂?どこにいるんですか?」
  麻衣子、もう一度ビルの玄関を見つめる。
  四堂の姿は、ない・・・。
  麻衣子、呆然としている。
  腕時計を見つめる上木。
上木「もうすぐ十五分経ちますよ・・・」 
  麻衣子、神妙な面持ち。
  
○ 小坂電子産業ビル・地下一階
  四堂と対峙し、拳銃を向ける末沢。
幸田「末沢、撃て!」
  四堂、笑みを浮かべながら、引き金を引こうとする。その瞬間、末沢、咄嗟に引き金を引く。
  鳴り響く銃声。
  弾丸は、四堂の額を貫く。
  幸田、四堂の左腕を解き、そばから離れる。
  四堂、前のめりに倒れる。
  呆然と立ち竦む末沢。
幸田「おまえがいなきゃ、やばかった」
末沢「応援を呼んで、至急社員達を避難させましょう」
幸田「ああ・・・」

○ 同・地下二階・オペレーションルーム
  失笑する章子。
章子「四堂も大したことないわね。まさか、あのクローンは、失敗作だなんて、言い訳はしないでしょうね?」
色沢「その通り。あれは、失敗作さ。いいんだよ。後で君の頭脳を取り入れた新しい殺し屋を作るから」
  章子、憮然とした面持ち。

○ 同・地下三階・三番ケージ
  部屋の中央で背中を向けて座り込んでいる晴佳。
  突然、立ち上がる晴佳。右足のブーツの中から煙草サイズの紫色の細い筒を取り出し、
  扉のほうに向け、放り投げる。
  扉に向かって転がる筒。

○ 同・地下三階・一番→三十番監禁室通路
  巨大な爆音を鳴り響き、三番ケージの扉が吹き飛ぶ。
  警告アラームが大きく鳴り響く。
  暫くして、その他の番号の扉も雪崩式に次々と吹き飛ぶ。通路に白い煙が充満する。

○ 同・地下一階
  幸田、末沢、下のほうから聞こえてくる振動に気づき、
幸田「このビルの地下は、一階だけだったよな?」
末沢「地下に別の部屋が?・・・」
  二人、階段に向かって走り始める。

○ 同・地下三階・一番→三十番ケージ通路
  黒いメタリックのスーツとマスクを身に付けた四人の兵士達がマシンガンを構え、
  煙の中を駆け抜けている。
  各部屋から出てきた少年、少女の兵士達が一斉に通路に出て、メタリックの兵士達に飛びかかっている。
  それぞれ数人の少年達に薙ぎ倒されるメタリックの兵士達。少年達、兵士のマスクやスーツを剥ぎ取り、
  マシンガンを奪い取っている。
  
○ 同・ビル前の通り
  小坂電子ビルの2件手前のビルの前の歩道脇に止まるベージュのワゴン。

○ ワゴン車内
  運転席に座る木村。助手席に綾奈が座っている。
  木村、小坂電子ビルのほうを見つめ、
木村「花井さんが追ってる刑事、中々出てきませんね・・・」
  綾奈、手帳のメモをまじまじと見つめ、
綾奈「やっぱり思った通り。ここの小坂電子の社長、あのプロジェクトに名を連ねてるわ」
  綾奈、ドアを開け、車から降りる。
  木村、綾奈を止め、
木村「どこ行くんですか?」
綾奈「取材に決まってるでしょ!」
  遠くから何重にも重なって鳴り響くサイレン。
  綾奈、音の鳴るほうに顔を向ける。
  上空からは、ヘリの羽音が聞こえてくる。
  数十台のパトカー、二台の装甲車、護送車がこちらに向かって走ってくる。
  綾奈達の前を次々とパトカーや護送車が走り抜けて行く。
  呆然と見ている木村と綾奈。
綾奈「小坂電子で何かが起きてる・・・」
  綾奈、小坂電子ビルに向かって走り始める。

○ 小坂電子精密産業ビル・地下二階・オペレーションルーム
  警告アラームが鳴り響いている。
  オペレーターが慌ただしく卓上のボタンを操作し、各階のフロアの監視カメラの映像をチェックしている。
  色沢、右側に座るオペレーターの男の隣に行く。
色沢「何が起きた?」
オペレーターの男「爆発のようです。地下三階の監禁室の監視カメラが破壊されて、
 映像を確認することができません」
  色沢、卓上のモニターを見つめる。
  モニターに監視カメラの配線図が映し出されている。
  カメラの電源状態を知らせる丸いランプの赤い光が次々と消えている。地下三階から
  地下二階のカメラの電源も落ちる。
  もう一人のオペレーターの男Bが色沢に話しかける。
オペレーターの男B「表に警察車両がやってきています」
  色沢、中央のディスプレイを見つめる。
  ビル前に十数台のパトカーや護送車がビルを囲むようにして止まっている。
  兵士達に囲まれ立っている章子。
  ディスプレイを見つめ、にやけている。
色沢「各階に部隊を配置させろ」
オペレーターB「了解しました」
  
○ 同・通路
  少年少女の兵士達、向かってくる黒いメタリックの兵士達にマシンガンを撃っている。
  メタリックのスーツが弾丸を跳ね返している。
  メタリックの兵士達、レーザーガンを構え、少年兵士達に向け、撃つ。
  レーザーは、少年兵士のスーツに当たるが、跳ね返し、微動だにしない。
  四人の少年少女の兵士達、一斉にメタリックの兵士に向かって走って行く。
  二人の少年兵士達がラリアットでメタリックの兵士を倒し、後から二人が兵士の上にのしかかり、
  マスクやスーツを剥ぎ取っている。
  
○ 同・地下一階から地上階へ続く階段の踊り場
  十数人の黒いメタリックスーツを身に付けた兵士達が二列に並んで階段を駆け上がっている。
  
○ 同・1F・ロビー
  入口のシャッターが降りている。
  兵士達が慌ただしく走り回り、各配置についている。
  奥の通路の柱の壁の影に隠れている幸田と末沢。様子をうかがっている。
幸田「さっきの通路に戻るぞ」
末沢「何かあるんですか?」
幸田「あの通路の壁に何かで破壊された跡があった」
末沢「じゃあ、その壁の向こうに・・・」
  二人、奥の通路を駆けて行く。
  
○ 同・地下二階・オペレーションルーム
  入口の扉が開き、五人の少年少女達がマシンガンを構えながら乗り込んでくる。
  一人の少年が天上に銃口を向け、マシンガンを連射する。
  火花を上げ、ブルーの照明が床に勢い良く落ちる。
  二人の少年兵、章子の両隣にいるメタリックの兵士にレーザーガンを撃つ。
  光線を胸に浴びる二人のメタリックの兵士達。
  巨大な爆風のショックで吹き飛ばされる。
  オペレーションシステムの周りを取り囲み、オペレーターの男達にそれぞれの武器を
  向ける少年少女の兵士達。
  一人の少年兵士がマシンガンを色沢に向けながら近寄ってくる。
  二人の少年少女の兵士が倒れている二人のメタリックの兵士のマスクやスーツを剥ぎ取っている。
  入口からもう一人の少年兵がやってきて、スイッチを押し、入口の扉を閉めている。
  章子、薄笑いをしながら腕を組み、色沢と対峙する。
章子「形勢逆転ね。色沢さん」
色沢「うちの部隊が何人いるか、知ってるのか?」
章子「他の兵士は、表に気を取られてるわ。それに、あなたは、今、私達の人質になったのよ」
  色沢、観念したような面持ち。
章子「さぁ、まずは、春江川の計画のことを喋ってもらおうかしら・・・」  

○ 同・ビル前
  立ち止まる数十台のパトカーの周りを慌ただしく動いている警官達と機動隊員。
  護送車から十人のSAT隊員が表われ、パトカーの前にやってくる。
  パトカーの間を潜り抜けて、上木と麻衣子が姿を表わす。
  二人の前に日下が表われる。左手に黒いケースを持っている。日下、麻衣子達と対峙し、
日下「シャッターは、いつ降りたんだ?」
上木「つい、さっきです。我々のことを察知していたようです」
日下「幸田達から連絡は?」
麻衣子「駄目です。電波が遮断されています」
  その瞬間、突然、ビルの各階の横一面のガラスが一斉に割れ、警官達や機動隊、
  パトカー車両に激しく弾丸が飛び交う。
  麻衣子達の前に降り注ぐガラスの破片の雨。
  ビルの各階の破壊されたガラスの向こうから黒のメタリックの兵士達が表われる。
  二階から十階まで各階ごとに十人の兵士が横一列に並び、マシンガンを撃ち続けている。
  ビルの周りが騒然としている。激しい雨のように飛んでくる弾丸。鳴り止まないマシンガンの銃声。
  胸や足、腕を撃たれ、次々と倒れていく警官達と機動隊員。急いで避難しているSAT隊員達。
  日下、麻衣子、上木、しゃがんだ姿勢で足早にパトカーの影に身を隠す。
  機動隊員達、ポリカーボネート性の透明の盾を差し向けながら、右手に持っている
  マシンガンで応戦を始める。
  数台のパトカーの車体には、蜂の巣のように風穴が無数に開いている。
  5Fの中央付近にいるメタリックの兵士がレーザーガンを構え、撃ち始める。
  レーザーの光線は、一人の機動隊員の盾を貫通し、機動隊員の腹をも貫通する。
  日下、持っていたケースを開ける。ケースには、小型のレーザー銃が3丁収納されている。
日下「うちの研究部が末沢が持ち帰ったレーザーガンの構造を分析して、開発したものだ。
 向こうのよりも十倍のパワーがある」
  日下、麻衣子と上木にレーザー銃を手渡す。
麻衣子「SATや機動隊員達も携帯してるんですか?」
日下「残念ながら用意できたのは、この三丁だけだ。我々で確実に敵を狙い撃つしかない」
  日下、麻衣子、上木、レーザー銃を右手に構え、一斉に立ち上がると、銃を撃ち始める。
  6F、4Fにいたメタリックの兵士達が光線を浴びる。火花を上げながら、ビルから落下する。
  
○ 同・地下一階
  銃声が激しく鳴り響き、ある壁に風穴がいくつも空く。
  壁が脆く破壊されると、その向こうから幸田と末沢の姿が露になる。
  二人、壁にできた穴を潜り、薄青い照明で照らされた隠し通路の中に入って行く。
  幸田達、辺りを見回し、立ち止まる。
  通路のあちらこちらでスーツを剥がされた男達が倒れている。
  末沢、一メートル先に設置されている監視カメラに気づく。
  監視カメラは、破壊され、原形を留めず、土台の上に残骸だけが残っている。
  幸田、ある男の前に立ち、うつ伏せで倒れている男の体を仰向けにする。
  腹に無数の銃弾を受け、死んでいる。
  末沢もそばで倒れている男の遺体を確認し、
末沢「幸田さん・・・」
  幸田、立ち上がり、末沢のそばに行く。
  末沢、うつ伏せになっている男の遺体を仰向けにする。男は、幼い顔をした少年である。
  額を撃ち抜かれ、死んでいる。
幸田「ヘリをジャックした小山遥信だ・・・」
  幸田、憤然とした表情で少年を見ている。  


○ 同・地下二階・オペレーションルーム
  中央のディスプレイにビルの玄関前の様子が映し出されている。
  飛び交うマシンガンの銃弾とレーザーの光線で苦戦している機動隊員と警官達が映っている。
  オペレーションシステムの卓上の前に立つ章子。携帯を持ち、呼び出しをかけながら
  ディスプレイをまじまじと見ている。
  色沢、両隣を少年兵士に挟まれ、立っている。背中にマシンガンの銃口を突き立てられている。
  章子、振り返り、色沢を見つめる。
章子「つながらないわ。春江川の居場所を教えなさい」
色沢「あいつを殺しても、君の計画がうまく行くとは、思えないが・・・」
章子「もちろんあなたにも死んでもらうわ。心配しないで、あなたが生み出した技術は、
 私が受け継いで完璧なものにしてあげるから」
  章子の右眼が青く光る。
  色沢の右隣にいる少年兵士がマシンガンの引き金を引こうとする。
  色沢、焦った様子で章子に喋りかける。
色沢「待て、わかった・・・」
  ほくそ笑む章子。
  
○ 同・ビル前
  弾丸とレーザーの光線が激しく飛び交い、
  荒々しい戦争状態と化している。
  パトカーの前で盾を構えながらマシンガンを撃ち続ける機動隊員達。
  6F、5F、3Fにいた兵士達がレーザーの光線を受け、次々とビルから落下している。
  パトカーに盾にしながら、レーザー銃を撃ち続けている日下、麻衣子、上木。
  マシンガンの弾丸が麻衣子の右腕を貫通する。血が噴き出し、その場に倒れる麻衣子。
  日下、しゃがみこみ、麻衣子のそばに近寄る。
日下「大丈夫か?」
  麻衣子、痛みに耐えながら起き上がり、
麻衣子「はい・・・」
  上木、しゃがんで日下に話しかける。
上木「向こうは、まだ五十人近く残っています。このままだと、うちの部隊がレーザーの
 攻撃で全滅してしまいます」
  突然、各階にいるメタリックの兵士達の攻撃が止まる。
  顔を上げ、様子を窺う日下達。
  各階の兵士達が次々とビルから落下している。ビル前の路面に叩き付けられ、重なって倒れている兵士達。
  唖然とする日下達。
  メタリックの兵士達が全員ビルから落ちると、各階のガラスの向こうに青いスーツと能面の
  ようなマスクを被った少年少女の兵士達が姿を表わす。
  兵士達、奪ったレーザーガンやマシンガンを右手に持っているが、攻撃する気配は、ない。
  麻衣子、兵士達の姿を見つめ、
麻衣子「獅勇部隊・・・」
上木「どうして、攻撃をしてこないんだ?」
日下「よし・・・」
  日下、携帯を取り出し、喋り出す。
日下「私だ。入口のシャッターを破壊して、ビルの中に潜り込む。準備を始めろ」
  携帯の受話口から男の声が聞こえてくる。
男の声「了解・・・」

○ とある施設・地下三階
  8畳ほどある書斎のような部屋。
  中央のソファに座り、煙草を吸っている春江川。
  暫くして、ガラステーブルの上の電話が鳴り響く。
  受話器を上げる春江川。

○ 小坂電子精密産業ビル・地下二階オペレーションルーム
  オペレーションシステムの電話の受話器を持ち、話しをしている色沢。
  色沢の背後に章子と、マシンガンを構えた少年兵士が立っている。
色沢「色沢です。実は、危特がうちの施設を嗅ぎつけまして、ちょっとややこしい事になっています」
    ×  ×  ×
  煙草を燻らす春江川。
春江川「相沢と彼女の部隊は、取り押さえたのか?」
    ×  ×  ×
色沢「はい。部隊は、監禁室に隔離し、相沢は、私の実験素材に・・・」
    ×  ×  ×
春江川「そうか。よくやってくれた。危特のことは、私に任せなさい」
    ×  ×  ×
色沢「お願いします」
  色沢、受話器を置く。
  章子、薄笑いを浮かべる。

○ 同・ビル前
  十人のSATの隊員達がビルの入口に忍び寄り、シャッターの前にピンを外した手榴弾を放り投げる。
  一斉にシャッターから離れるSAT隊員達。
  暫くして、大きな爆音と炎を上げ、シャッターが吹き飛ばされる。
  黙々とビルの前を包み込む白い煙。
  やがて、煙が晴れ、ビルの入口が見えてくる。
  緊張の面持ちで入口のほうを見つめる日下達。人影は、見当たらない。
 
○ 同・地下二階・通路
  オペレーションルームの扉が開く。
  章子を先頭に二人の少年兵士に挟まれ歩いている色沢。その後を他の三人の少年少女兵士達が
  続いて歩いている。
  章子達が歩く通路の横にもう一つの通路がある。その通路の柱の影に身を潜める幸田と末沢。
  二人に気づかず直進する章子達。その様子をまじまじと見つめる二人。
  末沢、小声で幸田に喋りかける。
  幸田、色沢を見つめ、唖然とし、
幸田「あいつ・・・」
色沢「どうかしたんですか?」
幸田「いや・・・」
  幸田達から離れて行く章子達の列。二人、後を追ってゆっくりと歩き出す。

○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクにつく小神。
  電話が鳴り、即座に受話器を上げる。
小神「もしもし、小神だ」
  受話口から情報活動班の渡辺 雅虎(34)の声が聞こえる。
渡辺の声「情報班の渡辺です。中坊警視総監の事情聴取の結果、危特科捜班の中にいる
 スパイの名前が判明しました。全部で八人です」
小神「データを送ってくれ」
  デスクにあるパソコンのディスプレイにメンバーの写真とリストが映る。
  小神、マウスをクリックしている。
渡辺の声「その八人を取り調べたところ、もう一人の首謀核の名前が浮かんだんですが・・・」
小神「誰だ?」
渡辺の声「あなたのチームの葉山麻衣子です・・・」
  驚愕する小神。
  暫くして、携帯のアラームが鳴り響いてくる。
  小神、険しい表情を浮かべる。
  
○ 同・取調室
  机の前の椅子に座る中坊。腕を組み、眼を瞑っている。
  暫くして、入口の扉が開き、小神が入ってくる。
  眼を開き、小神を刺すように見つめる中坊。
  小神、机に歩み寄り、中坊と対峙する。
中坊「麻衣子に取調べをさせるなんて・・・」
小神「私のやり方は、あなたもご存じのはずです」
中坊「特殊セクションに君を推薦したのは、間違いだったな・・・」
小神「そんなことはない。あなたの人を見る眼に、狂いは、なかったと言うことです」
  中坊、苦笑いをすると、深くため息をつく。
中坊「朝から訊問続きだ。少し休ませてくれないか?」
  どこからともなく携帯のアラームが鳴り響く。小神、スーツのポケットから携帯を取り出し、
中坊に見せつける。
小神「あなたの携帯ですよ、長官・・・」
  中坊、動揺した面持ちを浮かべる。
小神「さっきから、ずっと鳴り続けているんです・・・」
中坊「・・・」
小神「電話に出てもらえますか?」
  中坊、静かに携帯を掴み、ボタンを押すと耳に当てる。受話口から男の声が
  聞こえる。
男の声「私だ・・・」
  電話の声は、春江川である。
  小神、険しい目つきで中坊を見ている。

○ 小坂電子精密産業ビル前
  SAT隊員達がマシンガンを構えながら、ビルの中に侵入する。
  パトカーに身を隠し、様子を見守る日下と麻衣子。
  麻衣子、ビルの二階から十階を見つめる。
  各階とも人影がない・・・。
  暫くの沈黙。やがて、日下の携帯が鳴り響く。携帯に出る日下。
日下「・・・わかった」
  日下、携帯を切ると、麻衣子達に話しかける。
日下「ロビーには、誰もいない。我々も入るぞ」
  日下達、ビルの入口に向かって歩き出す。
  
○ 同・1Fロビー
  辺りに散らばり、各通路や事務所の様子を探っているSAT隊員。事務所にいた
  4人の女子社員を連れ出し、外に避難させている。
  日下、麻衣子、上木が中に入ってくる。
  三人、ロビーの中央に立ち、辺りを見回している。
  一人のSAT隊員が日下の前にやってくる。
隊員A「事務所にいたのは、社員6名だけです」
日下「二階には、まだ上がるな。獅勇部隊の少年達と生き残った黒い兵士が武器を
 持って待ち構えている可能性がある。応援を呼んで作戦を練る」
  麻衣子、ふと右奥の通路を見つめる。
  黒いメタリックのスーツとマスクをつけた兵士が静かにこちらに向かって歩いてくる。
  兵士、右手に持っていたレーザーガンをゆっくりと麻衣子に向ける。
  麻衣子、驚愕し、大声を上げる。
麻衣子「日下さん!」
  レーザーを発射する兵士。
  麻衣子、傍にいた日下を庇うように押し倒し、床に転がる。レーザーは、二人のそばを横切り、
  SAT隊員の腹部を貫通する。
  ロビーにいたSAT隊員達が一斉に兵士に向けマシンガンを発射させる。
  猛烈な弾丸が兵士の体中に当たっているが、火花を散らしながら跳ね返し、微動だにしない。
  上木、レーザー銃を構え、撃つ。
  兵士の右腕にレーザーが貫通する。
  兵士、レーザーガンを落とす。
  SAT隊員、一斉に撃つのをやめる。
  麻衣子、起き上がり、しゃがんだ姿勢でレーザー銃を構える。
  兵士、呆然と立ったまま、微動だにしない。
  日下、起き上がり、兵士の様子を見つめる。
  兵士、自分のマスクを剥ぎ取り、麻衣子達に顔を見せる。
  麻衣子、兵士の顔を見て、驚愕する。
  兵士の顔は、麻衣子と瓜二つである。
  兵士、麻衣子を見つめ、薄笑いを浮かべると、そのまま、通路の向こうへ走り去って行く。
  日下、唖然としながらも、冷静になり、
日下「あいつを追え!」
  上木、数人のSAT隊員達が通路に向かって一斉に走り始める。
  麻衣子、呆然としている。
  
○ 麻衣子の幻想
  大きな黒い渦がいくつも並んでいる空間。
  左の太股を撃ち抜かれた麻衣子の前に立ちはだかるもう一人の麻衣子。
  もう一人の麻衣子、麻衣子を嘲笑い・・・
麻衣子2「私達は、一心同体なの・・・」
   
○ 小坂電子精密産業ビル・1Fロビー
  麻衣子、両膝と両手を床につけ、愕然としている。
麻衣子「どうして・・・どうして私がもう一人いるの?・・・」
  通路を見ている日下。入口から走ってきた危特科捜班第3チームの川崎(29)が日下の前にやってくる。
川崎「部長から連絡がありました。至急、ビル内から撤退しろと言っています」
日下「なんだと?どうして?」
川崎「春江川の居所がわかったそうです」
  日下、険しい表情を浮かべる。そばで項垂れ、微動だにしない麻衣子の姿を見つめる。
  
○ 警察病院・5F病棟・個室
  ベッドで眠る島 健司(29)。
  暫くして、目を覚ます。
  そばに立っていた宮本 麗莉(32)が声をかける。
麗莉「・・・気づいた?」
  島、朦朧としながらも、喋り出す。
島「俺・・・どうなってた?」
麗莉「ずっと、相沢達に洗脳されてたのよ。 開頭手術を受けて、海馬についていた作動装置を取り出したの」
島「俺の頭に・・・そんなもんが・・・」
麗莉「記憶がはっきりするまでには、もう少し時間がかかるわ」
  島の脳裏にある言葉が浮かぶ・・・
島「ナノ・ジェネレーション・クロス・・・」
麗莉「えっ?」
島「何だろ?勝手に言葉が出てきた・・・」
  
○ 小坂電子精密産業ビル地下二階・駐車場
  シルバーの巨大なトレーラーのコンテナに乗り込む章子と少年兵に連れられた色沢。
  コンテナの扉が閉まると、同時にトレーラーが動き始める。
  トレーラー、巨大なパイプにつながるスロープに向かって走行する。
  止まっている二台の車の間に身を潜める幸田と末沢。
  末沢、銃を抜き、トレーラーのコンテナに照準を定め、引き金を引く。
  鳴り響く銃声・・・。
  
                                              −ナノバトルPARTU・完−

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