『555 ダッシュバード 危特科捜班』第十回「ナノバトルPARTT」byガース『ガースのお部屋』

○ 警視庁・航空部ヘリポート(深夜)
  3機のヘリが並んで駐機されている。
  真中のヘリが突然、大音響と共に爆発し、巨大な炎を上げる。
  ローターやボディの破片が辺りに激しく散らばっている。
  
○ 人工島・地下施設・監視ルーム
  ソファに座る相沢章子(33)。
  右手に紫色のワインの入ったグラスを持ち、左手にペンダントを握っている。
  章子、ワインを一気に飲み干し、ペンダントについた血痕を睨みつけている。
  テーブルの上の電話が鳴り出す。
  章子、グラスを起き、受話器を上げる。

○ ビジネス街
  三車線の国道を疾走する黒いRX−8。
  四堂 豹摩(29)の声が聞こえてくる。
四堂の声「もう夜中の3時ですよ・・・」

○ RX−8車内
  運転席に座る四堂。コンソールの上部に設置されているスピーカーから章子の
  声が聞こえてくる。
章子の声「頭に埋め込んでいる電子回路が脳皮に刺激を与えて、健康をそぐわず、
 何日でも起きてられるのよ」

○ 人工島・地下施設・監視ルーム
四堂の声「それは、うらやましいですね」
章子「それで、どうなの?」
四堂の声「わかりました」
  章子、唖然とし、
章子「ずいぶん、仕事が早いわね・・・」
四堂の声「優秀な部下のおかげです。それと、危特科捜班の連中にも一応ダメージを与えておきました」
章子「場所を教えて」

○ 警察病院
  ベッドの上で起き上がり、呆然としている島 健司(29)。
  島の前に立っている葉山 麻衣子(26)。
  怪訝に島を見つめている。
麻衣子「島さん?」
  島、ジッと麻衣子の顔を見つめたまま、微動だにしない。
麻衣子「私のこと・・・わかります?」
島「・・・交通課の白バイ姉ちゃん」
  麻衣子、安堵の表情を浮かべ、
麻衣子「もう、ボーッとしてるから記憶なくしちゃったのかなぁと思った。
 驚かさないでくださいよ・・・」
  島、突然、麻衣子の話に割って入り、
  野太い、低い声で喋り出す。
島「ナノ・ジェネレーション・クロス・・・」
  麻衣子、唖然とし、
麻衣子「・・・何か言いました?」
  
○ レストラン
  窓側のテーブルに末沢 裕太(28)と花井 綾奈(27)が向かい合って座っている。
  末沢、綾奈の雑誌を険しい表情で読んでいる。
  綾奈、オレンジジュースを啜ると、末沢に話しかける。
綾奈「どう?かなり核心に迫ってるでしょ?」
  末沢、綾奈を睨み付け、
綾奈「所々憶測もあるけど、証拠は、ちゃんと握ってるの」
末沢「証拠?」
綾奈「日向の元秘書から聞いた話しよ。十年前から日向が大企業に呼びかけて、
 あるプロジェクトを進めてるって・・・」
末沢「どんな?」
綾奈「それは、これから調べるの。このネタは、ロングシリーズになるわ。
 読者もこの記事を読みたがってる・・・」
  末沢、雑誌を閉じると、綾奈に突き返す。
末沢「悪いことは、言わない。このネタから手を引くんだ」
綾奈「どうして?」
末沢「君の命が危険だからだ」
綾奈「裏組織が絡んでるからでしょ?」
末沢「手を引け」
綾奈「嫌よ。このネタを続ければ、売り上げ部数も確実に伸びるわ。自信があるの。
 それに、大物議員の名前も掴んでる。来週号で公表するつもりよ」
末沢「手を引け・・・」
綾奈「そんなにムキになるって事は、大筋で私の記事通りってことよね?」
  末沢の携帯の着信音が鳴る。
  末沢、憮然とした表情で携帯に出る。
末沢「はい・・・わかりました」
  末沢、携帯を切り、咄嗟に立ち上がる。
綾奈「どうしたの?」
末沢「仕事だ。必ず、手を引くんだ。さもないと、後悔だけじゃすまなくなるぞ」
  末沢、綾奈の前を通り過ぎ、入り口に向かって駆けて行く。
綾奈「そんな思わせぶりなこと言われちゃうと、ますます、知りたくなるじゃない・・・」
  綾奈、立ち上がり、末沢の後を追う。
  
○ レストラン・入り口前
  ドアが開き、末沢が出てくる。
  末沢、正面を見つめ、唖然とする。
  目の前に、寺田真貴(24)が立っている。
  暫くして、綾奈が店から出てくる。
  綾奈、末沢の後ろで立ち止まり、真貴を見つめる。
真貴「新しい彼女?」
  末沢、綾奈を見つめ、慌てたような素振りを見せ、
末沢「雑誌社の人だよ。覗いてたのか?」
真貴「・・・」
末沢「なぜ、そんなこと・・・」
真貴「待ってたのよ。警視庁の前で・・・」
末沢「・・・悪い。仕事に戻らなきゃいけないんだ・・・」
  末沢、俯き加減で真貴の前を通り過ぎて行く。
  綾奈、真貴に一礼し、そのまま真貴の前を横切る。
真貴「あの・・・」
  綾奈、足を止め、真貴に顔を向ける。
綾奈「彼とは、取材中にひょんなことで知り合ったの。あなたが考えてるような関係じゃ
 ないから気にしないで」
真貴「じゃあ、もうあの人に近づかないでください」
  真貴、綾奈に一礼し、そのまま立ち去って行く。
  綾奈、唖然とした表情で真貴の後ろ姿を見つめている。
  
○ 警視庁地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクの前に座る小神 洋介(49)。
  小神、デスクの電話の受話器を取り話しをしている。
  小神の前に、幸田 智(35)が険しい面持ちで立っている。
  受話器を置く小神。
幸田「被害状況は?」
小神「航空部のヘリが一基爆破された。使われた爆弾は、TNTだ」
幸田「四堂だ・・・」
小神「ヘリポートの敷地内は、厳重な警備が整ってる。警備員の網を潜って、
 四堂が侵入することは、不可能だ」
幸田「航空部内部の連中がやった可能性は・・・」
小神「否定できんな。仮に犯人が四堂だとして・・・このタイミングになぜヘリを爆破する
 必要があるんだ?」
幸田「章子達がいる人工島に近づくなって言う警告ですよ」
小神「・・・」
幸田「都庁を占拠した一味の中には、三人の警官が紛れ込んでいた。章子が開発した洗脳薬で
 操られている奴らが航空部の内部にもいる。島のように・・・」
  デスクの電話が鳴り響く。
  小神、受話器を握り、話し始める。
  暫くして、受話器を置く。
小神「日下からの連絡だ。昨日の都庁が襲われた時刻に、東京上空に奇妙な怪電波が流されていたようだ」
幸田「怪電波?」
小神「この間のヘリジャック事件の時に流れたのと同種のものらしい。発信地点は、都庁だ」
  幸田、険しい表情を浮かべる。

○ 春江川の邸宅・寝室
  暗然としている。
  部屋の中央のベッドに横たわり、眠りについている春江川 幸造(72)。
  暫くして、ベッドの右横の棚に置かれている携帯が鳴る。
  春江川、サッと目を覚まし、携帯を掴む。  

○ 同・玄関
  黒いスーツで身を固めた巨漢のSPの男が携帯を耳にし、話しをしている。
SPの男「誠に申し訳ございません。どうしても、今会いたいと言っておられるので・・・」
  男、玄関の方を見つめる。
  白いジーンズと革靴を履いた男が玄関に立っている。
  
○ 同・寝室
  棚の淡い照明が春江川を照らしている。
  春江川、起き上がり、携帯を耳にしている。正面の壁にある掛け時計を見つめて
  いる。時計は、午前3時44分。
春江川「(溜め息を尽き)奴の夜行性には、困ったものだ。かまわん。リビングに通せ」

○ 同・リビング
  ソファに座る春江川。その対面のソファに眼鏡をかけた若い男が座っている。
春江川「七十を超えた老人をこんな時間に起こしおって・・・」
男「すいません。至急、お耳に入れたい事がありましたもので。今日の午前十時に奴らが動きます。
 ターゲットは、ファースト・イーグルです」
春江川「私の部隊の居所を教えたのかね?」
男「四堂の部下が激しく嗅ぎ回っていたので止むを得ず・・・」
  若い男の姿が映る。男は、切れ長の目をしている。男は、色沢 千晴(33)。
色沢「四堂の事は、ご心配なく。奴は、まもなくこちら側につきます」
春江川「じゃあ、後は、あの女だけか・・・」
色沢「はい」
春江川「向こうから来てくれるなら手っ取り早い。JED計画を始動させる」
  色沢、ほくそ笑む。
  
○ 第一本庁舎ビル七階・知事室(翌日・朝)
  デスクに座る都知事。
  都知事のデスクの前に立つ幸田と末沢。
都知事「こんな朝早くから事情聴取とは、たまったもんじゃないな・・・」
幸田「すいません。一刻を争う事件なもので・・・」
都知事「わかってる。君達が噂の新セクションのメンバーかね?」
幸田「第5チームの幸田です」
末沢「末沢です」
  都知事、二人をまじまじと見据え、
都知事「二人とも中々精悍な顔つきだ。最近は、警察官僚の中にも私をよく思わん連中が多くてな。
 君達は、信用できそうだ」
  都知事、デスクの引き出しから、ある封筒を取り出し、幸田に手渡す。
  幸田、封筒から手紙を出し、目を通す。
  手紙に黒い獅子のマークが入っている。末沢、マークを見つめ、
末沢「幸田さん、これは、獅勇部隊の・・・」
  幸田、末沢の言葉を遮り、都知事に話し掛ける。
幸田「この手紙は、いつから?」
都知事「半年前から二週間に一度のペースで定期的に送りつけられていた。こんな脅しに屈する程、
 まだ老いぼれちゃあいないよ」
幸田「犯人に何か心当たりでも?」
   都知事、笑みを浮かべ、
都知事「敵は、多いんでな。見当は、つかんよ」
末沢「どうして、今まで隠し続けられたんです?」
都知事「単なるいたずらだと思ってた。だが、本当にこのビルに乗り込んでくるとはな。
 捜査のほうは、進んでるのかね?」
末沢「昨日、捕まえた男達は、皆三十代から四十代のホームレスで、道端で「リテアシステム」と
 呼ばれる警備会社の社員の男に勧誘されたそうです」
幸田「調べてみたところ、そんな会社は、存在しません・・・」
都知事「・・・」
幸田「この事件には、ある政治家が深く関与している可能性があります」
都知事「政治家?誰だ?」
幸田「春江川幸造です」
  都知事、ほくそ笑み、
都知事「春江川か・・・あの人とは、昔、個人的なつきあいもあったが・・・私に何か恨みでも
 持っているのかね?」
幸田「狙いは、あなたではありません・・・」
都知事「・・・」
  
○ 小坂電子精密産業ビル
  ビル前に巨大な黒いトレーラーが立ち止まる。
  コンテナの扉がゆっくりと開く。
  青い能面と青い軍服を見にまとい、武装した少年、少女の兵士達二十人が姿を表わす。
  少年達、一斉にコンテナから降り、ビルに向かって駆け出す。
  
○ 同・一階フロア
  事務室に一斉に入り込んでくる5人の少年兵士達。右手に小型のレーザーガンを構え、
  デスクの狭間を慌ただしく歩き始める。
  周りにいる社員達が血相を変え、兵士達に詰め寄る。
社員の男「なんなんだ、君達は?」
  一人の少年が目の前に立った社員に向け、レーザーガンを撃つ。
  社員の男、反動でその場から吹き飛ばされる。
  
○ 同・階段
  五人の少年が地下一階に向かって階段を降りている。
  降りた先は、白い壁になっている。
  五人の兵士、一斉にレーザーガンを構え、壁に向かって撃つ。
  激しく飛び交う紫色の光線。
  壁が破壊され、破片が吹き飛ぶ。
  壁に開いた大きな穴を潜り始める少年達。

○ 同・隠し通路
  薄青い照明が通路を照らしている。
  五人の少年、通路を歩き始める。
  その真向から、黒のメタリックの戦闘服と、マスクをつけた三人の男がやってくる。
  少年達、一斉に男達に向け、一斉にレーザーガンを発射する。
  レーザーガンは、男達の体中に当たり、火花を散らしているがびくともしない。
  男達、腰につけているホルダーからレーザーガンを抜き、少年達に向け、一斉に撃つ。
  一人の少年が胸を撃たれ、反動で弾き飛ばされる。同じく他の少年達も次々と撃たれ、
  その場に倒れ込む。
  一人の少年、レーザーガンを撃ちながら後退している。腰にぶら下げていた電子手榴弾を持ち、
  スイッチを押すと、そのまま、男達に投げつける。
  男達の前の手榴弾が爆裂する。
  少年、その間に壁の穴から外に出る。
  通路に広がる白い煙。
  暫くして、煙の中から三人の男達が姿を表わし、前に進んでいる。

○ 黒いトレーラー・コンテナ内
  コンピュータルームの座席に座る少女の兵士。青い能面を被っていて、顔は、見えない。
  スピーカーから少年の声が聞こえてくる。
少年の声「隠し部屋を発見したが、四人が撃たれた。こちらの銃は、奴らに通用しない」
  少女兵士、喋り出す。少女の声は、佐伯 梨琉(17)である。
  梨琉、焦った様子で手前のマイクに喋りかける。
梨琉「逃げないで。応援を送るから」
  
○ 小坂電子精密産業ビル・地下一階
  黒い戦闘服の男達が階段を上っている。
  一階の階段前に少年兵士が立ち、小型のロケットランチャーを右肩に乗せ、構えている。
  少年、三人の男に向け、ミサイルを発射すると、すぐさま、その場から離れる。
  巨大な爆音と共に大きな炎が階段から沸き上がる。
  床に突っ伏している少年。
  立ち上がり、煙の上がる階段を覗き見ている。
  
○ 警視庁・警視総監室
  入口の扉が開き、麻衣子が姿を表わす。
  麻衣子、険しい面持ちで扉を閉め、デスクに向かって歩き出す。
  デスクに座る中坊 信太郎(54)。
  麻衣子、中坊の前に立つ。
  中坊、唇を一文字に噛み締め、
中坊「いずれは、この日が来ると思っていたが、早く決心したな」
麻衣子「長官の言った通り、あのセクションの仕事は、私には、向いていませんでした・・・」
中坊「おまえの希望を素直に聞き入れた私にも責任がある。辞令は、一週間後に言い渡す。
 解任手続きの書類を二日後までに届けてくれ」
麻衣子「私・・・この仕事やめようと思ってるんです・・・」
  麻衣子、悄然とした面持ちで項垂れている。
  中坊、険しい表情になり、
中坊「そうか。おまえには、もっと相応しい職業があるはずだ。今からでも遅くない。
 早くそれを見つけることだ」
麻衣子「そのことで今晩、相談したいことがあるんです」
中坊「今晩は、無理だ。明日の夜、うちに来なさい」
麻衣子「はい・・・これ・・・」
  麻衣子、右手に持っていたバックから、小さな白い箱を取り出し、デスクの上にそっと置く。
  中坊、箱を見つめ、
麻衣子「この間の結婚記念日に渡せなくて・・・」
中坊「おまえ、今までプレゼントなんて・・・」
麻衣子「これを気に改心したの。二人目のお母さんの事も・・・」
  中坊、唖然とする。
  麻衣子、静かに一礼し、踵を返すと、そのまま部屋を出て行く。
  中坊、椅子に深くもたれ、天井を見つめ、息を漏らす。
  白い箱を見つめ、笑みを浮かべる。
  
○ 警察病院・病棟・個室
  窓から差し込む光がベッドで眠る島の顔に当たっている。
  島、突然、目を見開き、起き上がる。

○ 同・病棟・廊下
  部屋の扉が開き、スーツ姿の島が姿を表わす。
  島、呆然とした面持ちで歩き出す。
  島の背後、数メートル先にある階段の柱の向こうに男が立っている。
  男は、末沢である。
  末沢、島の後を追って歩き始める。

○ 東京湾上空を飛行する230ヘリ
  時速150キロのスピードで南南東の方角に進んでいる。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  操縦席に土下 仁(40)、助手席に幸田が座っている。
土下「昨日は、メンテナンス日で工場に格納していたから良かったものの、あやうく俺のヘリも
 TNTのとばっちりを受けるところだったぜ」
幸田「悪運が強いよな、ハシさんは。俺のジョーズは、今修理中だ」
土下「手榴弾のダメージが予想以上に大きかったようだな。そろそろ本気で新車に乗り換えたらどうだ?」
幸田「それは、できん・・・」
土下「・・・そうだな。あれは、清治君のお気に入りの車だったもんな・・・」
幸田「・・・」
  土下、計器盤を見つめ、
土下「・・・すまん。おまえがあの車にこだわる理由を考えてたら、急にあの子の事を思い出して
 しまってな」
幸田「・・・いいんだ」
土下「それにしても、わざわざ、俺達がここに足を運ばなくても、もし、島が存在するなら、
 海上自衛隊の船か潜水艦にこの海域を探らせたほうが早く見つけ出せるだろ?」
幸田「相沢章子と直接話しをしたかったんだ」
土下「・・・そろそろ目的の地点に到着だ」
  幸田、窓から下の海を覗き込む。
  海には、ディーゼルボートの破片がぷかぷかと浮かんでいる。
土下「やはり、何もないようだな。もしかして、末沢も奴らに捕まって、記憶を操作された
 んじゃないだろうな?」
幸田「変なこと言うなよ。誰も信じられなくなる・・・」
土下「・・・」

○ 人工島・地下施設・監視ルーム
  巨大なマルチモニターの前に立っている章子。
  9つあるモニターの真中の画面に、島の上空が映し出されている。
  画面の中に230ヘリがフレーム・インし、旋回しているのが見える。
  モニターをまじまじと見ている章子。
  
○ 海の上を旋回し続けている230ヘリ
幸田の声「燃料は、どれぐらい持つ?」
土下の声「心配ない。今日は、補助タンクを積んであるんだ」  

○ 230ヘリ・コクピット
  計器盤の真中に設置されているモニターを見ている幸田。
  パネルの『UP』ボタンを押し、画面をズームアップさせる。
  幸田、海面から青くて細長い突起物が出ているのに気づく。
幸田「潜望鏡?」
  土下、思わず、画面に見入り、
土下「潜水艦か?」
  
○ 高度を下げ、海面に近づく230ヘリ
  海面がゆらゆらと揺れ始め、やがて、大きな波紋が次々と表れる。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  モニターに海面の様子が映し出されている。
  幸田、画面に見入り、
幸田「何か出てくるぞ・・・」
  
○ 海面から水飛沫が吹き上がる
  大きな波を立てながら、海面から青々とした木々がじわじわと顔を出す。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  モニターに見入り、唖然としている幸田と土下。

○ 空港・滑走路沿いの道
  ジャンボ機のジェット音が鳴り響く。
  閑散とした細い通路を走っているRX−8。道路脇に止まる。
  運転席のドアが開き、四堂が降りてくる。
  四堂、憮然と正面を向く。
  一台のグレーのスカイラインが止まっている。
  運転席のドアが開き、男が降りてくる。
  男、四堂に向かって歩き出す。
  男は、色沢である。
  四堂、色沢を見つめ、ほくそ笑みながら歩き始め、
四堂「こんなところに呼び出して、どう言うつもりだ?」
色沢「すいません。どうしても直接お渡ししたいものがあったので・・・」
  対峙する二人。
  色沢、右手に持っていたアルバムを四堂に手渡す。
  四堂、怪訝な表情を浮かべ、アルバムを開く。
  幼少の頃の四堂と、その両親の三人が映る写真がたくさん貼られている。
  四堂、アルバムの中の写真を見つめ、
  四堂、サングラスを外し、動揺した面持ちで写真を見回している。
四堂「どこで見つけてきた?」
色沢「私の手元にあったものですよ・・・」
四堂「なんで、おまえがこんなものを持ってる?」
色沢「それは、簡単な話です。そのアルバムの最後のページを見てください」
  四堂、憮然とした様子で最後のページを見開く。
  四堂、写真を見つめ、驚愕する。
  写真には、手術台で裸で眠っている二人の四堂が映っている。
  四堂、上目遣いで色沢を睨み付け、
色沢「どうです?かなり興味深いでしょ?」
四堂「誰だ、おまえは?」
色沢「私のことよりも、自分の過去に興味は、ありませんか?」
  四堂、透かさず、スーツの中から拳銃を抜き、色沢の額に銃口を向ける。
四堂「俺のくだらない過去なんてどうでもいい。おまえのことが知りたいんだ」
  色沢、豹変し、無気味に四堂を睨み付ける。
色沢「科学の力が分身自在の殺し屋を生んだ・・・」
  四堂、愕然とし、顔を歪め、
四堂「何を言ってる?」
  スカイラインの後部席のドアが開き、中から青いスーツを着た男が降りてくる。
  四堂、男の顔を見つめ、驚愕する。
  二人に近づく男。
四堂「(怯えた声で)どうなってるんだ・・・説明しろ!」
  色沢、銃を右手で掴み取り、
色沢「見ての通り。つまり、あなたのスペアは、いくらでもある・・・」
  男、スーツの中から、四堂と同じ拳銃を抜き、透かさず、四堂の額に銃口を向け、撃つ。
  轟く銃声。
  男の顔は、四堂と瓜二つである・・・。
   
○ 新宿・歌舞伎町界隈
  国道を疾走する一台の黒いタクシー。
  その数十メートル後を走るフェアレディZ。
  
○ フェアレディZ車内
  運転席に座る末沢。
  コンソールのモニターを見つめている。
  モニターには、近辺の地図が映り、赤い点滅が道路を移動している。
  
○ 裏通り
  雑踏を突っ切るようにタクシーが進んでいる。錆びれた雑居ビルの前で立ち止まる。
  後部席のドアが開き、島が降りる。
  立ち去って行くタクシー。
  島、雑居ビルの1Fにある『GAROTEA』の店を呆然と見つめる。
     ×  ×  ×
  雑踏の中を歩いている末沢。島の姿を見つけ、即座に電柱の影に身を隠す。
  末沢、島が喫茶店に入って行く様子を見ている。喫茶店の看板を確認し、店に近づいて行く。
  
○ 『GAROTEA』店内
  薄赤いライトで照らされている。
  中に入り込んで行く末沢。
  中には、誰もいない。
  末沢、二列に並んだテーブルの間をゆっくりと進んでいる。
  突然、照明が切れ、暗闇になると同時に銃声が二度鳴り響く。
  末沢、透かさず、その場に転がり、テーブルの下に身を隠す。
  末沢、スーツの右ポケットから暗視装置つきサングラス『ナイトグラス』を取り、かける。
  
○ 『ナイトグラス』の映像
  熱温度感知モードの映像。
  カウンターに人の熱反応が映し出されている。
  こちらに向けて、銃を構えている。

○ 『GAROTEA』店内
  銃声。
  末沢、素早く立ち上がり、床を転がり、別のテーブルに身を隠す。
  末沢、ナイトグラスの縁にあるボタンを押し、『暗視モード』に切り替える。
  
○ 『ナイトグラス』の映像
  薄暗い緑色の画面にじんわりと人の姿が映り、やがて、島の姿が露になる。
  
○ 『GAROTEA』店内
  末沢、ホルダーから銃を抜き、
末沢「島さん、俺です、末沢です」
  末沢の前で銃弾が跳ねる。
  末沢、テーブルをひっくり返し、楯にする。
末沢「仲間を殺す気ですか?目を覚ましてください」
  暫くの沈黙。
  末沢、ナイトグラスで辺りを見回す。

○ 『ナイトグラス』の映像
  熱温度感知モード。
  熱反応は、ない。

○ 『GAROTEA』店内
  末沢、銃を構えながらゆっくりと立ち上がり、辺りを見回している。
  
○ 伊豆・小笠原海域
  巨大な人工島が姿を表わしている。
  さらにゆっくりと浮上し続けている。
  島の上空を旋回し続ける230ヘリ。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  助手席のドアの窓から島を見つめている幸田。
土下「夢でも見てるようだ・・・」
幸田「現実だよ。日本もまだまだ捨てたもんじゃないな・・・」
土下「しかし、船や潜水艦にも見つからずに、いつの間にこんなものを・・・」
  緊急無線のアラームが鳴り響く。
  土下、パネルのボタンを押し、受信する。
  スピーカーから章子の声が流れてくる。
章子の声「危特科捜班のヘリでしょ。何度もしつこいわね」
  幸田、マイクに向かって喋り出す。
幸田「久しぶりだな、章子」
章子の声「その声は、幸田ね」
  
○ 人工島・地下施設・監視ルーム
  オペレーションシステムの前に立ち、ヘッドマイクに喋りかけている章子。
章子「この島には、ミサイル発射台が3つあるの。私の手元にあるボタンを押せば、
 あなた達は、一瞬で原子レベルの産物になるわ」
  スピーカーから幸田の声が聞こえてくる。
幸田の声「撃てるのか?」
  
○ 230ヘリ・コクピット
  土下、唖然とした表情で、幸田の顔を見つめ、
土下「おいおい、挑発するなよ。俺は、こんなところで死ぬのは、イヤだ」
幸田「どうせ死ぬなら、最後におまえの顔が見たい」
章子の声「今更私の顔を見て、何がしたいの?」
  
○ 人工島・地下施設・監視ルーム
幸田の声「俺に会うのが恐いのか?章子・・・ 」
  章子、憤然とした表情を浮かべ、
章子「いいわ、降りて来なさい・・・」
  
○ 230ヘリ・コクピット
  通信が切れる。
  土下、観念した様子。幸田、土下の表情を窺い、
幸田「すまん・・・」
土下「俺も危特科捜班の端くれだ。自ら危険に飛び込むのが俺達の仕事だろ?ええ?」
  土下、笑みを浮かべる。
  幸田も微笑む。
  土下、レバーを下に降ろす。
  
○ ホバリングしながら、島の地上へ降りて行く230ヘリ

○ 警視庁・警視総監室
  デスクに座る中坊。受話器を持ち、話をしている。
  受話口から、嗄れた男の声が聞こえる。
男の声「昨日の件・・・中々壮観だったよ」
中坊「もう少し、長引かせても良かったんじゃないですか?」
男の声「いいや、あれで十分だ。都知事も十二分に脅威を感じたはずだ」
  
○ 同・地下5階・危機管理特命科学捜査班・部長オフィス
  デスクに座る小神。
  右耳にイヤホンをつけ、中坊と男の会話を聞いている。
中坊「それで、今後のご予定は?・・・」
  
○ 同・第5チーム・オフィス
  自分のデスクに座っている麻衣子。
  コンピュータのディスプレイを見つめ、キーボードを打ち込んでいる。
  ディスプレイにCGで描かれた切れ長の目をした男の顔が映し出されている。
  その男の顔は、どことなく色沢に似ている。
  麻衣子、男の顔を見つめ、苦悩する。
麻衣子の声「黒いトレーラーに乗っていた男が・・・どうして、私の頭の中にこびりつくの・・・
 もしかして、『黒い獅子』の正体って・・・・」
  突然、電話が鳴り響く。
  麻衣子、ハッとし、息を飲むと、受話器を上げる。
    ×  ×  ×
  『GAROTEA』前。
  末沢が携帯を耳にし、喋っている。
末沢「島さんを見失った・・・」
    ×  ×  ×
麻衣子「島さん、やっぱり病院から抜け出したんですか?」
    ×  ×  ×
末沢「今、歌舞伎町の『GAROTEA』って名前の店の前にいる。至急、鑑識班を呼んでくれ」
    ×  ×  ×
麻衣子「わかりました」
   
○ 『GAROTEA』前
  末沢、携帯を切ると、雑踏の中に駆けて行く。
  車の元に向かって歩いている末沢。正面を見つめ、ハッと立ち止まる。
  末沢の前方に真貴が立っている。
  唖然とする末沢。
  真貴、憮然とした表情で末沢の元に歩いて行く。
  対峙する二人。
末沢「会社は?」
真貴「休んだ」
末沢「なんでこんなストーカーまがいなことするんだ?」
真貴「ストーカー?私が?」
末沢「忙しいんだ。邪魔するなよ」
真貴「いい加減にしてよ。私達、いつになったら話し合えるのよ?」
末沢「・・・別れよう」
真貴「えっ?」
  末沢、ふと真貴の後ろを見つめる。
  数十メートル離れた場所に青いスーツを着た男が立っている。四堂である。
  四堂、青いサングラスをかけ、ニヤッとすると、踵を返し、立ち去って行く。
  末沢、咄嗟に走り出し、四堂を追いかけ始める。
  真貴、走り去る末沢を呆然と見ている。
  雑踏を掻き分け、全速力で走る四堂。
  末沢も負け時とスピードを上げ、走る。

○ 靖国通り
  脇道に止まっていたRX−8に乗り込む四堂。
  息つく暇もなく急発進するRX−8。
  末沢のそばを横切って行く。
  末沢、急いでフェアレディZの元へ駆けて行く。
    ×  ×  ×
  乗用車やタクシーなどを次々に追い抜き、
  ドリフトしながら交差点を左に曲がるRX−8。
  暫くして、フェアレディZも猛スピードで交差点に侵入し、タイヤを軋ませながら左に曲がる。
  
○ 人工島・地下施設・監視ルーム
  入口の自動ドアがスライドして開き、幸田と土下が姿を表わす。幸田達の後ろに、
  二人の少年兵士が立ち、二人の背中にカービン銃を突きつけている。
  部屋の中に入る二人。ソファに座る章子の前に立つ。
  章子、合図を送り、兵士を下がらせる。
章子「ずいぶん見ないうちに、げっそりしたわね」
幸田「おまえがいろいろと仕事を増やしてくれるから、飯を食う暇もない」
  章子、立ち上がり、幸田達の前に近づく。
章子「あなたは、昔から少食なのよ。私の作った料理をよく食べ残してたじゃない。
 清治君は、いつもおいしそうに食べてくれたわ」
幸田「あいつの話は、いい。本題に入ろう」
  幸田と対峙する章子。
章子「あなたは、そうやって、あの事を忘れようと必死になってる」
  幸田、憤然とし、
幸田「忘れられるはずがないだろ!そんなこと今蒸し返して、どうするんだ?」
章子「あなたは、逃げてるだけよ。あの子がどんなに無惨な殺され方をしたか・・・」
  幸田、悔しげに唇を噛み締めている。
章子「・・・今を生きる少年達の環境は、清治君が生きてた頃よりも更に悪化してるわ。
 誘拐、殺人、虐待・・・大人のくだらない私利私欲に、彼らが犠牲になり、計り知れないほどの
 深い心の傷を毎日のように積み重ねてる・・・」
幸田「それが金属球を開発した理由か?」
土下「あんたの気持ちは、わからんでもないが、殺し合いで、何が解決する?」
  章子、土下を睨み付ける。
幸田「そんなことしたって、彼らを余計に傷つけるだけだ」
章子「前にも言ったでしょ?私は、彼らに自信と勇気を与え、力を貸してあげてるのよ」
  章子、ほくそ笑み、
章子「清治君のいじめに気づかず、何年もほったらかしにしていたのは、誰よ?」
  幸田、険しい表情を浮かべる。
章子「それに気づいていた連中は、今もこの世にのさばっているわ。あなただって、
 今も恨んでるんでしょ?あの教師達を・・・」
  土下、幸田の悔しげな表情を窺う。
  章子、テーブルの角に設置されている
  ボタンを押す。
  入口の扉が開き、二人の兵士が中に入ってくる。
章子「(少年達のほうを向き)二人をイミュリメントルームに案内して」
幸田「待て。春江川幸造と言う男を知ってるか?」
章子「(惚けて)誰よ、それ?」
幸田「奴は、東南アジアから金属球を買い付けている仲介人だ。奴は、強力な戦闘兵器で
 おまえの部隊を潰そうとしてる」
章子「そう・・・」
  幸田達、少年兵士達に連れられ、部屋を出て行く。
  章子、ソファに座る。テーブルのワインボトルを掴み、一気に飲み干す。
  
○ 警視庁・警視総監室
  デスクに座る中坊。
  二人の刑事達が中坊の前に立っている。
  刑事達、一礼すると、踵を返し、部屋を出て行く。
  中坊、扉が閉まるのを確認すると、電話の受話器を上げ、番号のボタンを押し始める。
中坊「・・・もしもし、至急車の手配を頼む」
  中坊、受話器を置くと立ち上がり、入口に向かって歩き始める。
  中坊、ふと立ち止まり、デスクのほうを見つめる。
  デスクの上の白い箱をジッと見つめている。

○ 人工島・地下施設・監禁部屋
  暗がりの部屋。
  幸田、腕組みしながら、壁にもたれかかるように立っている。その前で土下がそわそわと
  歩き回っている。
幸田「落ち着けよ」
土下「このままだと、この島で骨を埋めることになるんだぞ」
幸田「末沢が抜け出すことができたんだ。俺達ができないわけがない」
土下「何か秘策でもあるのか?」
幸田「・・・もう一度、章子と交渉する」
土下「まともにとりあってくれるか?」
幸田「ここで寛いでる暇はない」
  幸田、顔を上げ、突然、天井に向かって、叫び声を上げ始める。
幸田「俺は、あいつらを許したわけじゃないぞ、章子・・・」
  
○ 同・監視ルーム
  マルチモニターの右端の画面に幸田達の様子が映し出されている。
幸田の声「・・・教師の目の届く範囲には、限界があるなんて、ふざけたことを抜かしやがった
 あいつらをマジで殺そうと思った」
  画面の前に立つ章子。モニターを見つめている。
幸田の声「あいつを殺した少年達もな。だがな、憎しみは、憎しみを生むだけだ・・・」
  章子、幸田を睨み付ける。
 
○ 同・監禁部屋
土下「本人のいないところで何言っても無駄だ」
  幸田、土下の言葉を無視し、声を上げ続ける。
幸田「聞こえてるんだろ?何か言えよ!」
  暫くの沈黙。
土下「疲れるだけだぞ。やめとけ」
  土下、壁角に向かい、座り込む。
  暫くして、天井のスピーカーから、章子の声が聞こえてくる。
章子の声「負け犬の遠吠えとは、この事ね」
  唖然とする土下。
  幸田、天井を睨み付ける。
  
○ 同・監視ルーム
  オペレーションシステムの前に立つ章子。
  幸田達の映るモニターを見つめながら、ヘッドマイクに話しかけている。
章子「今の子供達は、戦うことを恐れては、いないわ。自分達で未来を作り上げようとしているのに、
 それを邪魔する強大な力が、彼らをどんどん腐らせてるのよ」
  スピーカーから幸田の声が聞こえてくる。
幸田の声「彼らを腐らせてるのは、おまえだろ。これ以上無茶なことをさせるな」
章子「何を言っても堂堂巡りね。あなたは、何もわかっちゃいないわ」

○ 同・監禁部屋
幸田「だったら、先に俺を殺せ。邪魔者を抹殺したいんだろ?」
  土下、仰天し、立ち上がり、
土下「だから、挑発するなって!」
幸田「その代わり、ハシさんをここから出してやってくれ。それが条件だ」
  暫くの沈黙。
  スピーカーから章子の声が聞こえてくる。
章子の声「・・・面白いわね。わかったわ」
  土下、動揺した様子で、
土下「ほら、見ろ。向こう本気にさせちまった」
幸田「でも、あんたは、ここから出られる。島を出たら、海上自衛隊を呼んで、この島に包囲網をかけさせるんだ」
土下「馬鹿なこと言うな。俺は、残るぞ」
幸田「少年達の無謀な戦争を止められるのは、あんただけだ・・・」
  土下、息を飲む。
  
○ 同・監視ルーム
  ソファに座り込む章子。白衣を着た男が章子の前に近づいてくる。
男「敵の居所に送り込んだ兵士からの連絡が全て揃いました。11ヵ所全ての隠れ施設を占拠。
 敵は、降伏しました」
  章子、男を見つめ、
章子「私も東京に向かうわ。パイロットを離したら、あなたは、島を沈めて、戦闘体制を作っておきなさい」
男「なぜ、パイロットを逃がすんです?」
  章子、テーブルの上に置いていた白いボックスからゆっくりと金属球を取り出す。
  顔の前に金属球を近づけ、まじまじと見つめている。
章子「危特科捜班の連中は、もう、この島の存在に気づいてるわ。
 これで、いいのよ。奴らを潰す絶好のチャンスだから」
男「それでは、いよいよ計画のほうを?」
章子「時代に取り残された哀れなお祖父様の結末を見届けてからよ・・・四堂から連絡は?」
男「いいえ・・・何度も連絡しているのですが、携帯がつながりません」
  章子、怪訝な表情を浮かべる。
  
○ ビジネス街を疾走するRX−8
  その後をフェアレディZが追っている。
  RX−8、8階建ての黒いガラス張りのビルの前で急停止し、脇道に車を止める。
  運転席のドアが開き、四堂が降りてくる。
  四堂、こちらに向かって走ってくるフェアレディZを見つめ、ほくそ笑むと、ビルの入口に向かって走り出す。
  RX−8の後ろに立ち止まるフェアレディZ。
  末沢、車から降り、ビル前の石掘りの看板を見つめる。
  看板には、『伊上データ通信』と書かれている。
  末沢、怪訝な表情を浮かべ、ふと、向こう側の歩道を見つめる。
  巨大な黒いトレーラーが脇道に止まっている。
  末沢、何かを悟り、突然、ビルの入口に向かって走り出す。
  
○ 伊上データ通信・1Fフロア
  ビルの中に駆け込んでくる末沢。
  立ち止まり、辺りを見回す。
  人の気配を感じない。
  末沢、ホルダーから銃を抜き、ゆっくりと、前へ進んで行く。
  
○ 同・事務室
  自動ドアが開き、銃を構えた末沢の姿が露になる。中に人は、誰もいない。
  末沢、四方八方に銃を振り向けながら、ゆっくりと部屋の奥へ進んで行く。
  
○ 同・事務長室
  ドアを蹴飛ばし、部屋の中に銃口を向ける末沢。
  机の下に中年の男が倒れているのが見える。
  末沢、男のそばでしゃがみこみ、男の頸動脈を調べる。
  死んでいることがわかると、立ち上がり、入口に向かって走り出す末沢。
  
○ 同・2F通路
  階段を駆け上がってくる末沢。
  通路を颯爽と駆け始める。
  システム課の部屋のドアが突然、開き、青い能面とスーツを身に付けた少年が表れる。
  少年、末沢に向け、カービン銃を発射する。
  末沢、慌てて、壁際に身を隠し、弾を避ける。
  少年、スーツのポケットから金属球を出し、末沢のほうに向かって勢い良く転がす。
  末沢の足下に金属球が転がってくる。
  末沢、仰天し、思わず通路を走り出す。
  少年、末沢に銃を連射させる。
  末沢が階段に滑り込むと同時に、金属球に弾が当たる。弾は、破裂し、白い煙を上げる。
  末沢、階段から転げ落ち、踊り場で立ち上がると、急いで下に降りて行く。
  
○ 同・1F通路
  末沢、ふらふらと歩きながら携帯のボタンを押し、耳に当てるが、電波がつながらない。
  そこへ、突然、正面から四堂が表れる。
  四堂、両手で銃を構え、末沢の額に向け、引き金を何度も引く。
  末沢、のけ反り、弾を避けるが、右膝に銃弾が貫通する。その場に崩れる末沢。
  体を転がしながら慌てて柱の影に身を隠す。
  四堂、銃を構えながら、ゆっくりと末沢に近づいてくる。
  末沢、床に突っ伏した状態で、四堂の方に銃を構え、引き金を二度引く。
  四堂の右脛に銃弾が当たる。四堂、前のめりに倒れる。
  末沢、さらに引き金を引く。
  四堂の右手に銃弾が当たり、親指が吹っ飛ぶ。
  四堂の手から銃が落ちる。
  末沢、苦痛に絶えながら立ち上がる。右足を引き摺りながら歩き出す。
  銃を構えながら四堂の元に近づく。
  四堂、自分の右手を見つめ、
四堂「ずいぶんとひどいことをしてくれるじゃないか・・・」
  四堂の前に立つ末沢。四堂の拳銃を拾い、スーツのポケットにしまう。
末沢「ここは、春江川の国家機密プロジェクトに名を連ねてる会社だな?
 どうして獅勇部隊がここにいるんだ?」
  四堂、顔を見上げ、上目遣いで、無気味に末沢を睨み付け、ほくそ笑む。
末沢「島さんは、どこだ?」
四堂「ここは・・・おまえの墓場だ・・・」
  四堂、スーツのポケットから金属球を取り出し、掌に乗せている。
  驚愕する末沢。
  金属球から白い煙が吹き上がる。
  
○ 国道
  四車線の道路。
  一台の黒いクラウンが疾走している。
  クラウン、交差点をゆっくりと右に曲がる。
  しばらくして、黒いつなぎと黒いヘルメットを被った人物の乗るブルーの
  CBR600RRのオートバイが勢い良く走ってくる。
  オートバイ、交差点に入り、エンジンを唸らせながら、スッと右に曲がって行く。
  
○ 上川病院
  古びた2階建ての白い建物。
  狭い路地から黒いクラウンがやってくる。
  クラウン、地下に続くスロープに入って行く。
  
○ 同・地下駐車場
  ゆっくりとスロープを降りるクラウン。
  壁を前にして止まっているセンチュリーの右横のスペースにクラウンが同じく壁を前にして、立ち止まる。
  クラウンの運転席から黒いスーツを着たドライバーの男が降り、その場から離れて行く。
  センチュリーの後部席の、右側のウィンドウがゆっくりと開く。
  続いて、クラウンの後部席の左側のウィンドウが開く。シートに座っている中坊が姿を表わす。
  センチュリーに乗る男の影。煙草の白い煙が窓から出ている。
中坊「お待たせして、申し訳ございません」
  男の掠れた声が聞こえてくる。
男「・・・捜査のほうは、進んでるのかね?」
中坊「有らぬ推測を掻き立てているようですが、まだ、証拠は、何も掴んでいません」
男「これから大変だな、彼らは。次から次へ大きな事件が転がり込む」
中坊「そのために、特殊セクション設立を賛成されたんでしょ?」
男「所詮は、見かけ倒しの機関だ。あのセクションが役立たずだと言うことが分かれば、
 すぐにでも解散に追い込める」
中坊「では、次こそ、本番ですか?」
男「ああ。まもなく、私の想いが成就することになるだろう。君は、今まで通り、忠実に
 私との約束事を果たしてくれればいい・・・ 」
  男が窓から顔を出す。男は、春江川である。
  
○ 上川病院前
  病院から数十メートル離れた脇道に止まるCBR600RR。
  ヘルメットを被ったままバイクにまたがっている人物。
  三連メーターの真中にある円型のディスプレイに地図のイメージが映し出されている。

○ 人工島・地下施設・監禁部屋
  入口の扉が開く。
  章子が立っている。章子の両脇には、カービン銃を構えた少年兵士が立っている。
  部屋の中央に立っている幸田。振り返り、章子を見つめる。
  片隅の壁にもたれて座っていた土下、立ち上がり、章子をまじまじと見ている。
章子「(土下を見つめ)出ていいわよ」
土下「いや、俺も残る」
幸田「ハシさん、章子の言う通りにしてくれ」
土下「おまえ、マジで死ぬ気なのか?」
  幸田、章子を睨み付け、
幸田「ヘリが島から出て行くところを確認させろ。俺を殺すのは、それからでも遅くないだろ?」
章子「わかったわ」
  章子の右側に立っていた少年兵士が土下に近づく。兵士、土下の右腕を掴み、歩き出す。
  幸田のそばを横切る土下。
  土下、幸田の顔を見つめる。
  幸田、険しい表情で土下に頷く。
  土下も頷き、そのまま外に連れ出される。
  章子、幸田の顔の前に右手を差し出し、握っていた拳を開ける。
  掌に金属球が乗っている。
  幸田、金属球をまじまじと見ている。
章子「あげるわ」
  章子、幸田に金属球を投げ渡す。
  幸田、金属球を掴む。
  章子、少年兵士から小型の携帯ディスプレイを受け取り、幸田の前に差し出す。
  幸田、ディスプレイを受け取る。
章子「ヘリが出て行くのを確認したら、その球を使いなさい」
幸田「おまえの開発した殺人球で死ねるなら本望だ」
章子「心にもないこと言わないで」
  章子、踵を返し、部屋から出て行く。
幸田「清治のことが、おまえを変えたのなら、それは、俺のせいだ」
  章子、足を止める。
  章子の後ろ姿をまじまじと見ている幸田。
章子「相変わらず生き方が下手ね。自分を犠牲にしてまで私を止めようとするなんて。
 馬鹿じゃないの?」
幸田「・・・言いたい事はそれだけか?」
章子「・・・私が獅勇部隊を作ったのは、清治君の事だけじゃないわ」
  章子、再び歩き出し、外に出て行く。
  扉がスライドし、大きな音を立てて、閉まる。
  幸田、金属球を険しい表情で見つめている。
  
○ 島の地表に止まっている230ヘリ
  ローターが大きな音を立てながら回り出す。
  地面からスキッドが浮き上がる。
  ホバリングしながら、ゆっくりと高度を上げて行く230ヘリ。
  機体を北北西に向け、前進し始める。
  
○ 230ヘリ・コクピット
  レバーを握る土下。
  土下、ドアの窓から島を見つめ、悔しげに顔を引き釣らせている。
  
○ 小型ディスプレイに映る230ヘリ
  230ヘリがスピードを上げ、島から離れて行く様子が映っている。
  
○ 人工島・地下施設・監禁部屋
  部屋の中央に座っている幸田。ディスプレイをまじまじと見ている。
  ディスプレイの光が幸田の険しい顔を淡く照らしている。
  
○ 同・監視ルーム
  モニターに幸田の様子が映し出されている。
  オペレーションシステムの前に立つ章子。
  モニターを憮然と見つめている。

○ 同・監禁部屋
  幸田、ディスプレイを床に置き、右手で金属球を掴むと、力一杯握り締める。
  幸田の脳裏に清治の言葉が過る・・・
清治の声「・・・兄さん、仕事ばかりに夢中にならないで、ちゃんとジョーズと章子さんを守ってあげてよ」
  金属球が赤く光り、やがて、白い煙が吹き上がり始める。
  
○ 同・監視ルーム
  モニターに映る幸田。幸田の姿がゆっくりと白い煙に覆われて行く。
  暫くして、幸田、スッと床に崩れるようにして倒れる。
  モニターを見つめる章子。悲しげに目を瞑る。
  
○ 小神家
  門前に立つ一人の男。
  男、インターホンを押す。
  
○ 同・二階・七緒の部屋
  ベッドの上で蒲団の中に潜り込んでいる小神七緒(16)。
  インターホンが何度も鳴っている。
  蒲団から顔を出す七緒。
  憮然とした表情で起き上がり、窓を少し開け、門前の様子を覗き見る。
  門前に島が立っている・・・。
  
○ 警視庁・警視総監室
  デスクに座っている中坊。
  入口の扉をノックする音がする。
  扉が開き、小神が姿を表わす。
  小神、一礼し、中坊の元へ近づいて行く。
  中坊、小神を見つめ、
中坊「急な用件とは、なんだね?」
小神「春江川幸造とある男の密会の様子を傍受したディスクが手に入りました」
中坊「・・・どんな内容だ?」
小神「今からお聞かせします」
  小神、デスクの前に立ち、スーツの内ポケットから小型の携帯用ディスク再生機を
  取り出し、デスクの上に置く。
  小神、再生ボタンを押す。
  スピーカーから春江川の声が聞こえてくる。
春江川の声「・・・捜査のほうは、進んでるのかね?」
  中坊の声が聞こえる。
中坊の声「有らぬ推測を掻き立てているようですが、まだ、証拠は、何も掴んでいません」
  中坊、済ました表情で音声を聞いている。
春江川の声「これから大変だな、彼らは。次から次へ大きな事件が転がり込む」
  小神、険しい表情で中坊を見ている。
中坊の声「そのために、特殊セクション設立を賛成されたんでしょ?」
春江川の声「所詮は、見かけ倒しの機関だ。あのセクションが役立たずだと
 言うことが分かれば、すぐにでも・・・」
中坊「もういい。止めてくれ」
  小神、停止ボタンを押す。
  中坊、大きく息を漏らし、目を瞑る。
中坊「君が仕掛けたのか?盗聴器を・・・」
小神「命令したのは、私です」
  中坊、鋭い目つきで小神を見つめ、
中坊「命令?」
  入口の扉が開き、黒いつなぎを着た麻衣子が入ってくる。
  麻衣子、空ろな表情で、中坊を見ている。
  中坊、唖然とし、自分のつけているブルーのネクタイを両手で掴み、弄る。
  ネクタイの先端に超小型の電波発信装置がついている。
  中坊、麻衣子を睨み付け、
中坊「麻衣子・・・」
麻衣子「・・・ごめんなさい」
小神「詳しい事情を聞かせてもらえないでしょうか?」
  中坊、怒号を上げ、立ち上がり、
中坊「小神、私は、おまえを許さんぞ。あの子に、こんなマネをさせよって!」
小神「彼女は、まだ危特科捜班の一員です」
  寡黙になる中坊。
小神「普通に仕事を果たしただけですよ」
  麻衣子、複雑な面持ちで俯きながら、部屋を出て行く。
  中坊、愕然と、椅子に座り込む。

○ 同・地下5階・危機管理特命科学捜査班オフィス
  自分のデスクに座る麻衣子。普段の服装に着替えている。呆然としている。
  麻衣子の脳裏に切れ長の目をした男の顔が過ぎる・・・。
  麻衣子、ハッとし、何かを悟る・・・。
麻衣子「私見てる・・・小さい頃に四堂もあの男も・・・」
  電話が鳴り響く。麻衣子、我に返り、受話器を上げる。
麻衣子「第5チーム・オフィス・・・」

○ フェアレディZ車内
  運転席に末沢が座っている。
  携帯を耳にしている。
  苦痛に顔を歪めながら喋っている末沢。
末沢「末沢だ。至急、春江川の国家機密プロジェクトに参加している企業全てを調査してくれ」
麻衣子の声「どう言うことです?」
末沢「獅勇部隊が会社を占拠してるかもしれない・・・」

○ 同・地下5階・危機管理特命科学捜査班オフィス
麻衣子「・・・わ、わかりました」
末沢の声「それと・・・四堂が死んだ」
  麻衣子、驚愕する。
末沢の声「これで、もう、俺達があいつに命を狙われることはないぞ・・・」
  麻衣子、なぜか激しく動揺している・・・。

○ ビジネス街を走行するRX−8
色沢の声「この街ももうすぐ変わる」

○ RX−8車内
  助手席に座る色沢。
色沢「心配するな。あのジジィが死んだら、おまえの好きなように染めさせてやる」
  色沢、運転席のほうを見つめる。
  運転しているのは、四堂である。
  四堂、鋭い目つきで無気味に街を見回している。

○ 伊豆・小笠原海域上空を飛行する230ヘリ
  230ヘリの数十キロ前方に、海上を航行するヘリ搭載型護衛艦が見える。
土下の声「こちらは、危特科捜班航空部230ヘリコプター。パイロット、土下。現在位置は、北緯33度25分、
 東経140度18分地点を飛行している。緊急に着陸許可を求める・・・」
   
○ ホバリングしながら、護衛艦の甲板にゆっくりと着陸する230ヘリ。
  
○ 護衛艦・艦長室
  ドアを開け、土下が入ってくる。土下、敬礼する。
  艦長、座席から立ち上がり、敬礼する。
土下「至急お話したい事があります」
   ×  ×  ×
  机の上に開かれた海図。土下が伊豆・小笠原海域を指差す。
  艦長、苦笑し、
艦長「そんな馬鹿な。こんなところに人工島など考えられん・・・」
土下「うちの捜査員が一人捕まっているんです。早く救出しなければ、奴は・・・」
艦長「・・・」
  
○ 伊豆・小笠原海域
  海中を進む潜水艦。
  険しく切り立った奥深い海底へ潜っている人工島。
  島の地表に設置されているミサイルの発射口が開き、狙いを潜水艦に定めている。
  人工島の方へ進んでくる潜水艦。
  無気味に潜水艦のほうに向くミサイル。

                                     −ナノバトルPARTT・完−

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