『ナイトライダー0 第2章』  作 ガース「ガースのお部屋」

【登場人物紹介】
マイケル・ロング=ロサンゼルス第11管区警察署の刑事。
ステファニー(スティービー)・メイソン=マイケルの恋人。音楽活動をする傍ら弁護士事務所で働く。
マンジー=ロサンゼルス第11管区警察署の黒人刑事。マイケルの相棒。
シェリー・ブリックマン=ロサンゼルス第11管区警察署の主任。
ジム・コートニー(ジンボ)=ロサンゼルス第11管区警察署の刑事。マイケルの前の相棒。
ボウマン=ロサンゼルス第11管区警察署の黒人刑事。マイケルの先輩。

ウィルトン・ナイト=ナイト財団の創始者。
デボン・シャイアー=ナイト財団の管理者。ウィルトンの良き友人。
ケン・フランクリン=探偵。ナイト2000のドライバーの候補者。
ブーアマン博士=ナイト2000開発メンバーの中心的存在。
ブリーランド博士=ナイト2000開発メンバー。
ボニー・バースト=ナイト2000の開発メンバー。
エイプリル・カーチス=ナイト2000のメカニック・メンバー。
トレイシー・モーブ=ナイト2000実験用プロトタイプのテストドライバー。
KARR(カール) =ナイト2000プロトタイプ用に制作された人工知能。

タニヤ・ウォーカー=国際的産業スパイ組織の工作員。
キャメロン・ザッカリー=国際的産業スパイ組織のボス。
シンプソン=国際的産業スパイ組織のメンバー。ザッカリーの部下。
ガイ・トーマス=ラルファー・クレメント一家(マフィア)の幹部。
ミゼラ・トーマス=パタンナー。ガイの妹

 

○ ナイト財団研究所・全景
  広大な駐車場(テストコース)があり、その奥の高台に3F建ての横長の白い建物がそびえ立つ。

○ 同・実験室
  様々なコンピュータ機器が並んでいる。
  部屋の真ん中にジャッキで高く上げられた黒いトランザムの姿がある。
  研究員がボディの下に入り込み、ボディチェックをしている。
  ジャッキが下がり、ゆっくりと下に下ろされるボディ。
  白衣を身につけた研究員がトランザムの周りに集まる。
  その中心に立つブーアマン博士。
ブーアマン「では、これから最終チェックに入る。各自、担当のシステムのテストを行い、
 報告書を提出してくれ」
  立ち去るブーアマン。研究員達、各自の持ち場につき、作業を進める。

○ 同・コンピュータルーム
  コンピューターの前に座るボニー・バースト。白衣を身につけ、ディスプレイに向かい、
  キーボードを打ち込んでいる。
  ボニーのそばに立つブリーランド博士。
  ブリーランド、ディスプレイを覗き、
ブリーランド「仕事が早いな」
  手を止め、ブリーランドを見つめるボニー。
ブリーランド「ああ、そのまま続けて」
  ボニー、また手を動かし、キーボードを打ち始める。
ボニー「あと十分で終わります」
ブリーランド「デボンが見込んだだけある。この仕事が終わったら、私の研究所で雇いたいくらいだ」
  照れるボニー。
ボニー「こんな時に冗談は、やめてください」
ブリーランド「本気だよ。私もこれが終わったら、次世代のAIを模索するプロジェクトを立ち上げたいと
 思っているんだ。君には、それ相応のポジションを与えてもいいと思っている。但し、このプロジェクトが
 成功したらの話だがね」
ボニー「必ず成功させてみせます」

○ ロサンゼルス第11管区警察署・全景
  四角い小さな建物。警官や住民が入口の扉を出入りしている。

○ 同・オフィス
  主任のデスクの前に横一列に立ち並ぶ6人の刑事達。その真ん中に立っている長身の男
  マイケル・アーサー・ロング。黒いスーツに赤いストライプのネクタイをしている。
  マイケルの左隣に立つ黒人の刑事マンジー。茶色のスーツを身につけている。右端に立つ薄い髪、
  髭面の強面の男、ジム・コートニー(愛称・ジンボ)。
  主任・シェリー・ブリックマン。金髪に眼鏡をかけた端正な顔つきの男。
シェリー「明晩、ミランダ・ファミリーとラルファー・クレメントの組織との大掛かりな銃器の取引がある。
 皆も知っての通り、ラルファーの一味は、カリフォルニア全域で暗躍している産業スパイ一味と
 深いつながりがあると言われている。その取引現場を押さえるため、大きな網を張る」
マイケル「大きな網って、どんな網なんです?」
シェリー「大魚が大量に釣れる網だ」
  右端に立つ黒人刑事ボウマンが声を出す。
ボウマン「小魚の間違いじゃないですか?」
  せせら笑う署員。
マンジー「情報屋の話しによると、両方合わせて30人以上は、集結すると聞いています」
シェリー「それでは、今から各人員の割り振りと配置を説明する。マイケル、おまえは、ジンボと一緒に
 立体駐車場の屋上を張り込んでくれ」
マイケル「ジンボもこの捜査に加わるんですか?」
シェリー「昔の相棒と一緒に仕事するのが嫌なのか?」
  コートニー、マイケルを見つめ、
コートニー「何か不満か?マイケル」
マイケル「いや、別に…」
  
○ ナイト財団本部・ウィルトン・オフィス(夜)
  デスクに並べられた人物のデータが書かれた調査書。
  老眼鏡をかけている老人・ウィルトン・ナイト。暗い面持ちで、調査書に目を通している。
  扉が開く。中に入ってくるデボン・シャイアー。端正な顔つき。グレイのスーツを着ている。
デボン「どうです?」
ウィルトン「世の中には、いろんな能力を持った男がいるもんだな、デボン」
デボン「その資料は、まだほんの一部に過ぎません。気に入らなければ、もっと探しますが…」
ウィルトン「この五人の男達には、ドリームカーのドライバーとしての資質が十分にある」
デボン「五人を呼び出して、直接話を聞いてみますか?」
ウィルトン「皆それぞれ仕事や家庭を持っているんだ。無闇に彼らの人生に立ち入る事は、できん」
デボン「家庭を持っているのは、五人中三人です。残りの二人については、一人は、離婚、
 もう一人は、独身…」
  ウィルトン、ある調書を手に持ち、
ウィルトン「ケン・フランクリン…探偵業をやっているのか」
デボン「やはり、気になりますか?その男…」
ウィルトン「おまえも目をつけていたのか?」
デボン「ええ。私の知り合いの弁護士が彼の事をよく知っていましてね。話しを聞いたのですが、
 中々優秀な男だそうです。レースドライバーの経験もあるとか…」
  ウィルトン、フランクリンの写真をじっと見ている。
  電話のアラームが鳴り響く。
  受話器を取るウィルトン。
ウィルトン「…わかった。すぐ行く」
  受話器を置く。
デボン「どうかされたんですか?」
ウィルトン「エリザベスが訪ねて来た」
デボン「エリザベスが?なぜ?」
ウィルトン「さぁな。よりによって、こんな忙しい時に…」
  立ち上がるウィルトン。

○ 同・待合室
  ソファに腰掛けているエリザベス・ナイト。
  髪をアップにして、水色の綺麗なドレスを身につけている。
  ワイングラスを右手に持ち、一気に飲み干す。
  扉が開く。杖をつきながら入ってくるウィルトン。
ウィルトン「こんな時間に一体何の用だ?」
  グラスをテーブルに置くエリザベス。
エリザベス「この三日三晩…ずっと自分の部屋に閉じこもっていらっしゃったようですね」
ウィルトン「やる事が多くてな」
エリザベス「自分の夢の実現に向けて努力されるのは、大変結構な事ですわ。でも、それ以上に
 もっと大事な事をお忘れになっているんじゃないかしら?」
ウィルトン「何の事だ?」
エリザベス「ガースの事です」
ウィルトン「あいつは、終身刑を受けたんだ。もうどうすることもできん」
エリザベス「いいえ。何とかできるはずよ。あなたがその気になれば…」
ウィルトン「金の力でどうにかなるとでも思っているのか?お前の歪んだ愛情があの子を悪の道に
 走らせたんだ。私がこの財団を設立したのも、ガースのような犯罪者を一人でも多く
 この世からなくしたいからだ」
エリザベス「あなたがもっとあの子に愛情を注いでいたら、道を踏み外す事はなかった。
 離婚は、したけど、あの子は、私達の息子よ」
ウィルトン「そんなに気になるなら、アフリカに行って、優しい声でもかけてきてやったらどうだ?」
エリザベス「あなたに言われなくてもそうするつもりです。くだらない車作りなんかいつまでも続けていないで、
 少しは、財団の将来の事でも考えたらどうです?」
ウィルトン「お前に財団の事をとやかく言う資格はない」
エリザベス「あなたが死んだら、ここは、ジェニファーに引き継がせますから」
ウィルトン「あいつがそう言っているのか?」
エリザベス「これから説得するんです。今は、嫌がっているけど、必ずその気にさせてみせるわ」
  エリザベス、グラスにワインを注ぎ、また一気に飲み干す。
  呆然と佇むウィルトン。

○ アパート・2F・マイケルの家(深夜)
  暗闇が広がる。微かな月明かりが部屋に差し込んでいる。
  玄関のドアが開く。男のシルエット。扉を閉める音。
  スイッチを押す音が鳴る。明るくなる部屋。
  照らし出されるマイケルの姿。リビングに進み、上着を脱ぐマイケル。

○ 同・リビング
  ソファで眠っているスティービー(ステファニー・メイソン)。綺麗な金髪を乱している。
  マイケル、スティービーがつけているハート型の金のネックレスを見つめ、小さく微笑む。
  スティービーの前をそっと横切るマイケル。
  目を覚ますスティービー。
スティービー「マイケル?」
  立ち止まり、スティービーと顔を合わすマイケル。
マイケル「静かに歩いたつもりだったのにな…」
  スティービー、起き上がり、テレビの上に置いてある時計を見つめる。時計は、「2:16」を表示している。
スティービー「またこんな時間…」
  ネクタイを緩め、向かいのソファに座るマイケル。
マイケル「明日の夜も張り込みがあるんだ」
スティービー「明後日は、何の日か、忘れてないでしょうね?」
マイケル「もちろん。今までバラードしか聴いたことがなかったもんな。君がバンドを引っ下げてロックンロール
 する姿なんて、ちょっと想像できない」
スティービー「馬鹿にしてるの?」
マイケル「褒めてるんだよ」
スティービー「そんな風には、全く聞こえないけど…」
マイケル「ロック大好き。で、どの曲をカバーするの?」

○ ナイト財団研究所・テストコース前(翌日・朝)
  白衣を身につけた研究員達が横一列に並んでいる。その右端に立っているボニー。
  その隣には、長机が置かれ、その上に様々な計測機材が設置されている。
  モニターの前に座る2人の研究員。
  研究員の前に止まっているシートを被った車。
  高台に立つ研究所の出入り口から、杖をつきながら歩いてくるウィルトン・ナイト。ウィルトンと
  並んで歩くデボン。
  ウィルトン、階段の前で立ち止まり、車の方を見つめる。デボンも足を止め、
デボン「手を貸しましょうか?」
ウィルトン「いや。ここでいい」
デボン「でも、こんな遠くからじゃ…。ナイト2000は、もう目の前に存在するんですよ」
ウィルトン「ドライバーは、私じゃない。近くだろうが、遠くだろうが、一目見れば、わかる。
 本当に夢が叶ったのかがな」
デボン「…」
  一人の若い研究員が車のシートを外す。
  中から姿を表す黒光りしたスポーツカー。
  1982年型ファイアーバード(トランザム)をベースにしたドリームカー・『KNIGHT(ナイト)2000』
  ボディの先端部にとりつけられたスキャナーが赤いフラッシュを放ち、不思議な音を立てながら、
  ゆっくりと横方向になびき始める。
  流線型の滑らかなボディに映る研究員達の姿。
  ナイト2000の周りに集まる研究員達。
  その様子を見守るウィルトン。険しい表情。
  デボン、ウィルトンを見つめ、
デボン「どうです?あなたの選定したボディを改造して、ようやく完成したんです」
ウィルトン「KARRの調子は?」
デボン「今のところ、順調です。これまでの実験で目立った異常は、ありません。
 今日のテストも成功しますよ」
ウィルトン「そう信じたいな…」
  二人の背後から男の野太い声が聞こえる。
男の声「こんなところで二人だけの会議ですか?」
  振り返る二人。
  二人の背後に立っている男。トレイシー・モーブ。短い金髪、白いレース服を身につけている。
デボン「君こそこんなところで何油を売っているんだ?」
トレイシー「売るんじゃなくて、汚れた油を排出してきたんです。研究所のトイレの中でね…」
ウィルトン「準備は万全か?」
トレイシー「私のほうはね。後は、あのKARRくんが私の命令通りに動いてくれたら、ばっちりです」
デボン「良い結果を頼んだぞ」
トレイシー「あの…ちょっと」
デボン「私にかね?」
トレイシー「できれば、二人だけで…」
  怪訝な表情を浮かべるウィルトン。
  デボン、トレイシーと共にウィルトンのそばから離れる。数メートル先の場所で立ち止まり、
  話しを始める二人。
トレイシー「この間話したあの件、どんな按配ですか?」
デボン「何の話だ?」
トレイシー「この期に及んで惚けなさんなって。世知辛いですぜ、旦那…」
デボン「報酬は、約束通り、君の故郷のテキサスに送るよう手続きをしているが…」
トレイシー「そうじゃなくて…私を財団の正式なドライバーとして雇う件についてですよ」
デボン「すまんが、候補者はすでにそろっているんだ」
トレイシー「そこを何とか。あなたの力で…」
  下のほうから研究員の男の声が轟く。
研究員の男の声「トレイシー、時間だ!」
トレイシー「ああ、待ってろ、すぐ行く。(デボンに)お願いしますよ…また後で…」
  デボンの前を横切り走り出すトレイシー。
  急いで階段を下りている。
  その様子を苦い表情を浮かべながら見ているデボン。

○ ナイト2000車内
  運転席に乗り込むトレイシー。
トレイシー「オニューの臭いがぷんぷんするぜ」
  計器類を見回すトレイシー。
トレイシー「スターウォーズをマネたのか?なんだ、このこまごました電子機器の数は…テレビは、内臓型か。
 ボタンがたくさんありすぎて、わけがわからんな」
  内部のスピーカーからブリーランドの声が聞こえる。
ブリーランドの声「聞こえるか、トレイシー」
トレイシー「ああ、感度良好」
ブリーランドの声「どうだ、気分は?」
トレイシー「この前のポンコツと比べたら月とすっぽんの差だな」
ブリーランドの声「君にナイト2000の操作方法を一切教えなかったのは、KARRに全ての状況を
 判断させるためだ」
トレイシー「つまり、今日一日、俺様は、居眠りしていても良いって事か?」
ブリーランドの声「午前中は、テストコースで各システムのチェックをして、午後からは、オフロードコースを
 使ってのボディ強度の実験だ。その後、公道に出て走行テストを行う」
トレイシー「寂しいこったな。人間様の出番がないなんて…」

○ ナイト財団研究所・テストコース前
  ヘッドマイクに話すブリーランド。
ブリーランド「そろそろスタートするぞ」
トレイシーの声「了解」
  ジェット音を轟かせ、走り出すナイト2000。
  
○ ナイト2000車内
  ハンドルの根元の上の部分に設置されているKARRのインジケーター部。
  「NORMAL CRUISE(通常走行)」から「AUTO CRUISE(自動走行)を示すランプに切り替わる。
  デジタルのタコメーター及びスピードメーターの数値がみるみる上がって行く。

○ テストコースの円周を猛スピードで走行するナイト2000
  一瞬で研究員達の前を横切って行く。
  各々チェックシートに書き込みしている研究員達。
  ブリーランド、一際厳しい目つきでナイト2000を見つめる。
  高台に立つウィルトンとデボン。
  ウィルトン、目を細め、不安そうな表情を浮かべている。

○ ナイト2000車内
トレイシー「よし、そろそろ直進コースに入って、システムチェックだ」
  KARRのインジケーター。三本のラインがあり、中央と両側は、上下に分かれて黄色い光が伸びる。
KARR「了解」

○ ナイト財団研究所・テストコース円周
  円周上のコースからドリフトして、真ん中の直進コースに入るナイト2000。
  猛スピードで高さ2mの鋼鉄の壁に向かって突き進んでいる。

○ ナイト2000車内
  モニターに鋼鉄の壁の3Dイメージが映し出される。
KARR「500m先に障害物を発見した」
トレイシー「そうかい。じゃあ何とかしろ」
KARR「指示を出さないのか?」
トレイシー「お前に任せる」
KARR「あの鋼鉄は、通常の4倍以上の強度で作られているが、私のボディは、それ以上の強度だ」
トレイシー「体当たりしても余裕でぶち壊せるな」
KARR「だが、わざわざ新しいボディを傷つける必要はない」
トレイシー「じゃあ、どうする気だ?」
KARR「こうする」
  ハンドルの右側に設置されているスイッチボックスの『TURBO BOOST』のボタンが作動する。

○ ジェットエンジンの噴射音が轟く
  前側のボディが浮く。ジャンプするナイト2000。
  鋼鉄の上をまたぎ、路面に鮮やかに着地する。

○ ナイト2000車内
  激しい振動で体を大きく揺さぶられているトレイシー。
  絶叫するトレイシー。
トレイシー「ウォウ!このターボジャンプとか言うのは、遊園地の乗り物より迫力あるな!癖になりそうだぜ」
  モニターにトレイシーの体の3Dイメージが映し出されている。サーモグラフィックで体内温度の
  状態がカラーで表示されている。
KARR「かなりの興奮状態のようだが、そんなに好きなら、もう一度やってみるか?」
トレイシー「ああ。また今度な」

○ ナイト財団研究所・テストコース(直進コース)
  折り返し地点のパイロンの周りを華麗にターンするナイト2000。
  タイヤを軋ませながら、また来た道を走り始める。
    ×  ×  ×
  (レーザー実験)
  鋼鉄版の前に立ち止まるナイト2000。
  ナイト2000のボディの先端部から発射される青色のレーザー。レーザーが鋼鉄板を貫通。
  小さな穴を空ける。
      ×  ×  ×
  ナイト2000の前バンパー下部から発射するフックつきのワイヤー。
  数メートル離れた場所に縦一列に止まっている3台のセダン車を引っ張るナイト2000。
  ナイト2000を見守る研究員達。
  ボニー、真剣な眼差し。
    ×  ×  ×
  可変スモークが作動し、窓ガラス全面に黒いフィルターがかかる。
  運転席に座るトレイシーの姿が消える。
    ×  ×  ×
  運転席側のルーフが自動でゆっくりと開く。
  運転席に座るトレイシー。
  スイッチボックスのボタンを一つずつ指差している。「EJECT L」のボタンを間違って押してしまう。
  運転席のシートが跳ね上がり、ルーフから勢い良く飛び出すトレイシー。
  空を飛ぶトレイシーを呆然と見つめるボニー。
  近くに止まっていた車の屋根に落ちるトレイシー。
  研究員達が慌てて、助けに行く。

○ オフロードコース実験場
  曲がりうねった土砂の道を走行するナイト2000。急な傾斜の坂道を駆け上がり、すぐに降りると地面に
  仕掛けられた地雷が次々と爆発し始める。舞い上がる炎を潜り抜けるナイト2000。
  武装兵士の格好をしたスタッフの男がナイト2000に向かって機銃を発射する。
  ボディに激しく当たる弾丸。火花を上げ跳ね返している。
  興奮し、絶叫するトレイシー。

○ ロサンゼルス第11管区警察署・通路
  コーヒーカップを持ちながら歩いているマイケルとコートニー(通称・ジンボ)。
コートニー「お前と組むなんて何年ぶりになるかな?」
マイケル「確か、ウイスター通りの誘拐事件の時以来じゃないか」
コートニー「あの時は、お前がドジって、危うく犯人を取り逃がすところだったな」
マイケル「心配性の母親に邪魔されて、侵入するタイミングを逃したのさ」
コートニー「想定外の出来事は、つきものだ。しかし、それで今まで数多くの有能な刑事が命を落とした」
マイケル「確か俺は、6人目の相棒だったんだよな」
コートニー「ああ。1人目と4、5人目は、捜査中に撃たれて殉職し、2人目は、不慮の事故で死んだ」
マイケル「3人目は?」
コートニー「報復を受けたんだ」
マイケル「報復?」
コートニー「マフィアの連中に逆恨みされてな。俺と組んで生き残ったのは、おまえだけだ」
マイケル「俺が生きてるのは、奇跡か?」
コートニー「そうとも。おまえは、とびきりの幸運の持ち主だよ」
  笑い声を上げるコートニー。神妙な面持ちのマイケル。

○ ロサンゼルス市内・国道
  交通量少なめの二車線の道路を軽快に走行するナイト2000。
  交差点の信号が赤に変わる。
  停止線で立ち止まる車両。左側のレーンの二列目に止まるナイト2000。

○ ナイト2000車内
ブリーランドの声「今のところは、順調だな。よし、何か指示を与えてみてくれ」
トレイシー「指示ってどんな?」
ブリーランドの声「何でもいい。KARRに連れて行ってもらいたい場所をリクエストしろ」
トレイシー「連れて行ってもらいたい場所ね…ハワイとかフランスとか色々あるけど、さすがに空は、
 飛べねぇしな。そういや、腹が減った。腹ごしらえにうまいレストランを探してくれ」
KARR「腹ごしらえとは、食事の事か?」
トレイシー「よくご存知で」
  モニターに付近の地図が映し出される。
  ある地点に赤い点滅が表示される。
KARR「ここから東に3.3km地点に海洋レストランを見つけた」
トレイシー「そいつはいいね。当然、財団の奢りなんだろうな?」
ブリーランドの声「馬鹿言うな。あくまでシュミレーションだ」
トレイシー「はいはい、わかってますよ。ジョークぐらい大目に見ろって」
KARR「データによると、この店は、昨日、オープンしたばかりだ。かなりの混雑が予想される」
トレイシー「今何時だ?」
KARR「9時57分だ。開店まであと3分しかない。急がねば」
  シフトレバーが自動的に『D(ドライブ)』に入る。ハンドルとアクセルも勝手に動き出す。

○ ロサンゼルス市内・国道
  前の車に体当たりするナイト2000。エンジンを高鳴らせ、車を前に押し出す。
  押し出してできた隙間を潜り抜けて、赤信号の交差点を飛び出し、左に曲がるナイト2000。
  走行していたトラックや乗用車がKARRに進路を妨害され、立ち往生する。激しくクラクションを
  鳴らしている。

○ ナイト2000車内
  KARRのインジケータ部の表示「PURSUIT MODE」のランプが点灯する。
  デジタルメーター「80」マイルを超え、みるみる加速する。
トレイシー「おいおい、どうした?」
KARR「急がなければ、食事が不可能になる」
トレイシー「不可能になるって…そんなに慌てなくたって…」
ブリーランドの声「スピードが急速に上がっているみたいだが、何かあったのか?」
トレイシー「突然、暴走し始めやがった。何とかしてくれ」
ブリーランドの声「KARR、応答しろ!」

○ ロサンゼルス市内・国道
  二車線の道路を緩やかに走行する車両。
  その車両をジグザクしながら次々と追い抜いて行くナイト2000。
KARRの声「まずい」
  エンジンを高鳴らせ、さらに加速する。

○ ナイト2000車内
トレイシー「何がまずいんだ?」
  フロントガラス越しに見える前方の道の様子。二台の乗用車が並走している。
  『SKI MODE』のボタンが作動する。
  噴射音と共に車体の右側が浮き上がる。
  思わず声を上げるトレイシー。

○ 片輪走行するナイト2000
  並走する車の間を猛スピードで潜り抜ける。
  車を抜き終わると、車体を元の体勢に戻し、また、加速する。
  数百メートル先の横断歩道を渡る母娘。
  そこに突進するナイト2000。

○ ナイト2000車内
  トレイシー、前方に見える母娘に気づき、
トレイシー「おい、この馬鹿、早くブレーキをかけろ!」
  トレイシー、ブレーキを何度も踏むが、微動だにしない。
トレイシー「止まれぇぇぇ!」

○ 横断歩道を歩く母娘に迫るナイト2000
  母娘、ナイト2000に気づき、咄嗟に走り出す。二人が渡り切ると同時に、
  横断歩道を瞬く間に走り抜けて行くナイト2000。

○ 海洋レストラン・駐車場
  まだ一台も車が止まっていない。
  勢い良く進入してくるナイト2000。
  駐車スペースに入り込み、急停止する。

○ ナイト2000車内
KARR「10時ジャストだ。時間通りに到着した」
  トレイシー、蒼ざめた顔で力なくシートに寄りかかってる。
KARR「どうした?食事をしないのか?」
トレイシー「ドアを開けろ」
  『AUTO DOOR』パネルの左側の『OPEN』のボタンが光る。

○ 海洋レストラン・駐車場
  運転席のドアが開く。
  外に飛び出すトレイシー。壁下の溝に勢い良く嘔吐する。
  スキャナーを唸らし、トレイシーの様子を感知するナイト2000。
KARR「あれが人間の食行動なのか。奇妙な光景だ」

○ ナイト財団研究所・テストコース
  勢い良く進んでくるナイト2000。
  研究員達の前で急停止し立ち止まる。
  運転席から降りるトレイシー。力強く扉を閉める。
  トレイシーの前に集まる研究員達。
ブリーランド「どうだった?」
トレイシー「悪くは、なかった。レースを始める前まではな」
ボニー「問題点を詳しく説明して」
トレイシー「他の車を傷つけるわ、信号は、無視するわ、無理な割り込みをするわ、スピード違反して、
 横断歩道を渡っている親子を轢き殺そうとするわ…おまけに、俺の命も弄んだ」
  愕然とするボニー。
トレイシー「どこがドライバー重視の人工知能なんだ。聞いて呆れるぜ。とんだ欠陥AIだ」
  トレイシー、研究員達の前から立ち去って行く。
ブリーランド「おい、どこに行く?」
  振り返るトレイシー。
トレイシー「これ以上つきあったら殺される。悪いが降りるよ」
  階段を上り、研究所の建物の中に入って行くトレイシー。
  研究員達のため息が漏れる。
  ボニー、落胆した面持ちでナイト2000を見つめる。
  空しく響くスキャナー音。

○ ナイト財団本部・ウィルトン・オフィス
  部屋に入ってくるデボン。
  ソファに座るウィルトン。医者の中年の男が寄り添い、ウィルトンの左腕に注射を打っている。
ウィルトン「あまり芳しくなかったようだな」
デボン「お察しの通りです。KARRは、まだ、我々が望んでいる働きを完璧にこなす事ができないようです」
  医者の男、鞄に注射をしまい、部屋を出て行く。腕を押さえているウィルトン。
ウィルトン「何年にも渡って改良を続けてきた人工知能だぞ。どこが間違っていたと言うんだ?」
デボン「原因を調べさせていますが、街の中での自走は、危険との報告を受けました」
ウィルトン「つまり、まだ使い物にならんということだな…」
  ため息をつくウィルトン。
  デボン、ウィルトンの表情を見つめ、
デボン「フランクリンの事ですが、今晩、会いに行きます」
ウィルトン「連絡が取れたのか?」
デボン「ええ。昨日ようやく電話がつながりました」
  ウィルトン、小さく笑みを浮かべる。

○ 立体駐車場・出入り口前(深夜)
  ヘッドライトを光らせた3台の黒いセンチュリーの高級車が並んでゲートを潜る。

○ 同・屋上
  東側の駐車スペースの列に止まる青色のセダン。
  運転席にマイケル、助手席にマンジーがシートを倒し、横になって乗っている。

○ 青いセダン車内
  通信機のアラームが鳴る。
  マイケル、レシーバーを掴み、話し出す。
マイケル「こちら053」
ボウマンの声「ミランダ・ファミリーの車が今ゲートを潜った」
  マンジー、助手席側のドアの窓から外の様子を見つめる。
  北側奥の駐車スペースに並んで止まる3台のBMW。その一番右端に茶色のワゴンが止まっている。
マンジー「ラルファーの組織の車のほうは、今のところこれと言った動きは、ありません」
  無線機に話すマイケル。
マイケル「こっちは、異常はない」
ボウマンの声「これからゲートを塞ぐ準備に入る」
マイケル「わかった」
  
○ 立体駐車場・屋上
  北側に止まるBMWのドアが開く。
  運転席と助手席からサングラスをかけた細身の若い男・ガイ・トーマスとダウリーが降りる。
  二人、辺りを慎重に見回し、警戒している。
  暫くして、センチュリーの列がスロープを駆け上って来る。
  分散し、各々、空いている駐車スペースに車を止める。
  南側に泊まるセンチュリーから二人の男が降りてくる。長身の男リーズと巨漢の男ピート。
  ガイ、リーズ達に気づき、指で合図を送る。
  リーズとピート、辺りを見回しながら、茶色のワゴンに向かって歩き出す。

○ 青いセダン車内
  マイケル、無線機のチャンネルを変更するスイッチを押す。
マイケル「ジンボ、聞こえるか?」

○ 立体駐車場・屋上
  真ん中の駐車スペースに止まっているブロンズのワゴン。
コートニーの声「俺だ」

○ シルバーのワゴン車内
  運転席に座る若い警官。助手席に座るコートニー。
  腰を低くして、無線機のレシーバーを持っている。
マイケルの声「俺が合図したら、ミランダ・ファミリーの車を包囲してくれ。こっちは、ラルファーの組織を囲む」
コートニー「任しとけ」

○ 立体駐車場・屋上
  リーズ、車の後部席のドアを開け、中から黒いスーツケースを取り出す。
  右手にケースを持ち歩き出す。
  ワゴンの後ろに集まるガイ達とリーズ達。
  リーズ、スーツケースを開ける。
  ケースの中に敷き詰められた一万ドル札。
  ガイ、束を持ち、確認し終わると、ダウリーに顎で合図する。
  ダウリー、ワゴンの後ろの観音扉を開ける。
  ワゴンの中。後ろのシートが取り外され、何十丁ものライフルやマシンガン、小銃などが並べられている。
  リーズ、ワゴンの中を覗き、唖然としている。
ガイ「約束通りの品揃えだ」
  リーズ、ワゴンからオートマティックの銃を掴み取り、品定めしている。
リーズ「思ってたよりも大荷物だな、こりゃあ」
ガイ「車ごと持って行け」
リーズ「いいのか」
  リーズから受け取ったケースを叩くガイ。
ガイ「車代もちゃんと込みになってる」
  苦笑するリーズ。
リーズ「ちゃっかりしてやがるぜ」
  ワゴンのそばに忍び寄る人影。
マイケルの声「よし、動くな」
  声の方に顔を向ける4人。
  4人の前に立つマイケル。右手に銃を構え、4人に銃口を向けている。
  ワゴンの右隣に止まっている車の陰に隠れていたマンジーが姿を現し、4人に銃を向けている。
マイケル「全員、その場で両手を上げて、後ろを向け」
  辺りを見回すガイ。
  駐車スペースに分散して止まっていた6台の警察の覆面車が一斉に動き出し、南側に止まるセンチュリーと
  北側に止まるBMWの前に立ち塞がり、動きを封じ込める。
  一台のBMWが覆面車に体当たりし、暴走。轟音を響かせ出口のスロープを駆け下りて行く。
  コートニーが乗るワゴンがパトランプを唸らせながらBMWを追う。
  4人、一斉に後ろを向き、マイケルに背中を見せる。
  4人のそばにゆっくりと近づくマイケル、そしてマンジー。
  ガイ、一瞬の隙をついて、ワゴンの中に飛び乗る。
  銃を撃つマンジー。
  ワゴンに積んであるサブマシンガン・イングラムM10を持つガイ。イングラムをマンジーに向け撃つガイ。
  赤い閃光を上げながら、連続して発射される弾丸。激しく轟く銃声。
  マンジー、慌てて、ワゴンの右隣の車の陰に身を隠す。
  車から降りるガイ。近寄ってきたマイケルにも撃つ。
  マイケル、ワゴンの左隣の車のボンネットに飛び乗り、その車の陰に身を隠す。
ガイ「ダウリー、早く乗れ!」
  ガイ、リーズとピートにイングラムを撃つ。
  蜂の巣にされるリーズとピート。
  運転席に乗り込むダウリー。ガイもワゴンの後ろに飛び乗る。
  急発進するワゴン。ふらつきながら、スロープを駆け下りて行く。
  立ち上がるマイケルとマンジー。急いで自分達の車の元に向かって走り出す。

○ 同・2F
  スピードを上げ、逃走するBMW。
  BMWを追うコートニーのワゴン。
  コートニー、窓から身を乗り出し、銃を撃つ。
  弾丸は、BMWの左のタイヤを貫く。
  BMW、車の列に衝突し、立ち止まる。
  BMWの後ろに止まるワゴン。

○ ワゴン車内
  無線機のアラームが鳴る。レシーバーを握るコートニー。
コートニー「こちら、コートニー」
マイケルの声「ワゴンが逃走した。ラルファーの組織の幹部が乗ってる」
コートニー「なんだと?」
マイケルの声「今どこにいる?」
コートニー「2階の3番エリアだ」
マイケルの声「BMWは?」
コートニー「今捕まえたところだ」
マイケルの声「そっちに向かうはずだ。バリケードを張ってくれ」
コートニー「わかった」
  暫くして、上のほうからエンジンの轟音が響いてくる。
  コートニー、窓から、上半身を出し、後ろを向く。
  ヘッドライトのまぶしい光がコートニーに当たる。光を遮るコートニー。
  猛スピードで、コートニーの前を横切る茶色のワゴン。タイヤを軋ませながらスロープを下りて行く。
  
○ トランザム車内
  ハンドルを握るマイケル。
  右手に無線機のレシーバーを握っている。
コートニーの声「マイケル、すまん、ワゴンを見逃した」
マイケル「なんだって?」
コートニー「入口を張っているボウマンに連絡した。ゲートで何とか食い止められるといいが…」

○ 立体駐車場・1F出入り口
  ゲートを囲むように止まっている3台のパトカー。ボウマンと警官達がパトカーの前に立っている。
  勢い良く迫ってくるワゴン。ゲートバーを突き破り、表に出る。
  ボウマン達の前に突っ込んでくるワゴン。
  ボウマン、咄嗟に逃げ出す。
  バリケードのパトカーに体当たりし、蹴散らして走り去って行くワゴン。
  間もなくして、マイケル達が乗るトランザムがパトランプを光らせながらやってくる。
  ワゴンを追って、スピードを上げるトランザム。

○ ロス市内・国道
  スピードを上げ、暴走する茶色のワゴン。
  ガイ、跪いた姿勢でイングラムを発射する。
  トランザムのフロントガラスが砕け散る。

○ トランザム車内
  屈んでいるマイケルとマンジー。
  マンジー、拳銃を構え、応戦。
  マイケル、頭を下げたまま、ハンドルを操作している。
  激しく轟く銃声。
  茶色いワゴン。対向車線にはみ出て、前の車を追い抜く。
  マイケル達の車も対向車線に出るが、前からクラクションを鳴らすトレーラーが接近。
  マイケル、慌ててハンドルを切り、元の車線に戻る。
  ワゴン、次々と前の車を追い抜いている。
マンジー「車の通りが激しすぎる。これ以上追跡するのは、危険です」
マイケル「でも、奴らを見失うわけにはいかない」
  マイケル、もう一度ハンドルを切り対向車線に出る。

○ タクシー車内
  後部席に座っているデボン。
  フロントガラス越しに見える茶色のワゴン。こっちに向かって猛突進してくる。
  デボン、思わず、目を閉じる。

○ タクシーを避け、通り過ぎて行くワゴン
  続いてトランザムもタクシーのそばを横切り走り去って行く。

○ タクシー車内
  ゆっくりと目を開けるデボン。
タクシードライバーの男「大丈夫ですか?お客さん…」
デボン「ひやひやしたよ。全く、野蛮人めが…」

○ トランザム車内
マイケル「マンジー、ハンドルを頼む」
  マンジー、両手でハンドルを握る。
  マイケル、両手で拳銃を構え、引き金を引く。
  轟く銃声。

○ ガイの腹にマイケルの撃った弾丸が命中
  ガイ、ワゴンから倒れ落ち、激しく地面に転がる。
  仰向けで倒れるガイの前に立ち止まるトランザム。
  車から降りるマイケルとマンジー。
  ガイのそばに駆け寄る二人。
  マンジー、ガイの首筋に指を当て脈を調べる。
マンジー「死んでます…」
  ため息をつくマイケル。

○ アパート2F・フランクリン探偵事務所
   扉の前に立つデボン。扉が開き、中から七三分けの髪形をした
   恰幅の良い二枚目の男、ケン・フランクリンが姿を表す。
フランクリン「どちら様?」
デボン「私は、ナイト財団のデボン・シャイアーと言うものです」
フランクリン「ナイト財団?ああ、今朝連絡してきた…」

○ 同・リビング
  テーブルを挟んでソファに座るデボンとフランクリン
フランクリン「私がドリームカーのドライバーに?」
デボン「君は、カーレースに出場した経験もあるそうだね。学生時代には、空手の選手権に
 出場して、準優勝を果たした」
フランクリン「お詳しいですな。何もかも調査済みですか」
デボン「その巧みな運転技術と何者にも恐れない屈強な精神、我々が求めているドライバーの
 要素を全て兼ね備えている」
フランクリン「財団のプロジェクトには、大いに興味がある。もちろんドリームカーにも」
デボン「ナイト氏も君と会うのを楽しみにしている。それで、さっそくだが、君にやってもらいたい事がある」
フランクリン「何です?」
デボン「ある事件の調査をお願いしたいんだが…」
フランクリン「もしかして、それは、財団に入るための試験?」
デボン「まぁ、そんな感じだ…」

○ ロス市内・高層ホテル・全景
  円柱型の淡いベージュ色のビル。

○ 同・13階・1307号室ベッドルーム
  電話が鳴り響いている。
  ブロンドの髪の美女・タニヤ・ウォーカー。バスローブ姿で、ベッドに座り、テレビのリモコンの
  電源ボタンを押す。
  テレビ画面。フットボールの生中継の映像が映っている。
  インターホンが鳴り響く。
  タニヤ、不機嫌そうな表情を浮かべながら、立ち上がり、玄関に向かう。

○ 同・玄関
  ドアを開けるタニヤ。
  表に立っているシンプソン。薄い金髪で少し目の大きな痩せ型の男。
シンプソン「いいですか?」
タニヤ「どうぞ」

○ 同・リビング
  窓際に立ち、ブランデーをグラスに注いでいるタニヤ。
  タニヤの後ろに立っているシンプソン。
タニヤ「コムトロン?」
  シンプソン、封筒をタニヤに手渡す。
シンプソン「詳しい事は、資料に書いてあります」
  封筒の中身を取り出すタニヤ。調書と中年の男の写真が出てくる。
  写真を掴むタニヤ。
シンプソン「シリコンバレーにある世界有数のメーカーです」
  ブランデーを一口飲むタニヤ。
タニヤ「社長のウィリアム・ベンジャミンを取り込もうって言うの?」
シンプソン「秘書として潜り込んでください。あとは、俺達がバックアップします。ボスは、ニューヨークでの仕事が
 片付き次第こっちに戻るそうです」
タニヤ「わかった。準備をするわ」
シンプソン「最近、サツの動きが敏感です。二時間前に俺の仲間が銃の密売の取り引きで
 何十人も捕まっちまって…」
タニヤ「警察をいちいち怖がっていたら、ビジネスにならないわ」
シンプソン「俺のダチがデカに撃たれて殺されたんです。あのデカ野郎、どうにも許せねぇ」
タニヤ「つまらない事を考えちゃ駄目よ。今あなたが余計な事をして捕まったら、計画が丸潰れになるわ」
シンプソン「俺は、こう見えてもプロの殺し屋ですぜ。大丈夫です。きっちり落とし前をつけてやりまさぁ…」
  険しい表情でシンプソンを見つめるタニヤ。

○ ライブハウス(翌日)
  ステージに立つスティービー。マイクを持ち、華麗にダンスしながら、歌っている。
  スティービーの後ろには、4人のバンドマン達がギター、ベース、ドラム、キーボードを演奏し、
  激しいロックのリズムを奏でている。
  客席には、数百人の観客が立ち、賑わっている。
  スティービー、歌いながら客席を見回し、マイケルを探しているが、見当たらない。
  空ろな表情を浮かべるスティービー。
  
○ ロサンゼルス第11管区警察署・オフィス前
  オフィスから一緒に歩いて出てくるマイケルとコートニー。受付のカウンターの前を通り過ぎている。
コートニー「取調べは?」
マイケル「今終わった」
コートニー「すまん、マイケル」
マイケル「気にすんなよ」
  気まずい表情のコートニー。
コートニー「あの時、俺が奴らのワゴンを止めていたら…」
マイケル「やれるだけの事はやったんだ」
コートニー「産業スパイ一味に関する情報は、何か掴めたか?」
マイケル「現場で取り押さえた連中は、皆下っ端ばかりで、内部事情に詳しい奴は、一人もいなかった」
  ため息をつくコートニー。
コートニー「…どうだ、今晩ちょっとつきあわんか?」
  立ち止まるマイケル。
  マイケル、ふと何かを思い出し、左手首につけている腕時計を見つめる。
マイケル「悪い。大事な用があって…また今度…」
  慌てて、走り出すマイケル。
  呆然と佇むコートニー。

○ 同・駐車場
  駐車スペースに止まるトランザムの前に走ってくるマイケル。
  運転席のドアを開け、車に乗り込もうとした時、女の声がする。
女の声「あの…」
  声の方に振り向くマイケル。
  白いワンピースを着た小柄な若い女が立っている。
女「警察の方?」
マイケル「ああ…そうだけど…」
女「ちょっと聴いて貰いたい事があって…」
マイケル「事件の相談なら、署にいる受付の警官に言ってくれないか」
女「兄を探しているんです。一週間前から連絡が取れなくて…」
マイケル「名前は?」
女「兄の名前は、ジルと言います。私は、ミゼラ・トーマスです。シースファッションと言う会社で
 パタンナーの仕事をやっています」
  女は、ミゼラ・トーマス。
  マイケル、ため息をつき、車のドアを閉める。
マイケル「中で話を聞こう」

○ ライブハウス・ステージ裏・通路
  演奏を終え、歩いているスティービー。
  通り過ぎるスタッフに挨拶しながら歩いている。ライブハウスの店長の男・ライクと顔を合わす。
  立ち止まるスティービー。
ライク「やぁ、ステファニー。今日の歌、最高だったよ」
スティービー「ありがとう」
ライク「マイケルは?」
スティービー「ああ…来てなかったみたい。きっとまた仕事が長引いているのよ」
ライク「そいつは、残念だったね。今度ベールさんの会社の主催でまたステージを開くんだ」
スティービー「もちろん参加したいわ」
ライク「OK。じゃあ、名前を売り込んどいてやるよ」
  立ち去って行くライク。
  スティービー、不機嫌そうな表情を浮かべ、ネックレスをはずす。

○ ナイト財団研究所・コンピュータルーム
  コンピュータの前に座り、キーボードを打つボニー。
  遠くから鳴り響く足音。ボニーの背後に迫る女の影。
女の声「こんにちは」
  キーボードを打つのをやめるボニー。女の方を見つめる。
  金髪の美しいパーマーをかけたスレンダーな美女・エイプリル・カーチスが立っている。
ボニー「あなたは?」
  立ち上がるボニー。
  エイプリル、ボニーと握手する。
エイプリル「エイプリル・カーチス。デボンさんに呼ばれて、さっき着いたばかりなの」
ボニー「…デボンさんが言っていた美人のプログラマーって、あなたのことだったのね」
エイプリル「かなり、苦労しているみたいね」
  溜息をつくボニー。
ボニー「ナイト2000の事について、どこまで知ってるの?」
エイプリル「これまでの経緯は、デボンさんから全て聞いているわ」
ボニー「全ての流れを再確認したんだけど、KARRのプログラムは、自己防衛本能が
 強過ぎるのかもしれない」
  エイプリル、ディスプレイを見つめ、
エイプリル「ちょっといいかしら」
  エイプリル、コンピュータの前に座り、キーボードを打ち始める。
  画面にスクロールするコンピュータ言語を読むエイプリル。
ボニー「一つ悪い部分を見つけても、そこからまた悪い部分が広がってしまって、いたちごっこなの」
エイプリル「もう一度、最初から組み直すしかないわね」
ボニー「プロジェクトが大幅に遅れてしまうわ」
  立ち上がるエイプリル。
エイプリル「さっきブーアマン博士と話したんだけど、KARRの設計ミスをウィルトンさんに報告すると言っていたわ」
  ボニー、椅子に座り、またキーボードを打ち始める。
ボニー「これから全てをやり直すにしても、確実に一年以上は、かかってしまう…やはり、プログラムの悪い部分を
 抽出して取り除いて行く方法が一番有効よ」
エイプリル「KARRには、ドライバーの人命を最優先すると言う理念が欠けているわ。その基本となるプログラムを
 修正し直すぐらいなら、いっそのこと新しいものを作るほうが…」
ボニー「でもそれじゃあ、今までの苦労が水の泡になる。何とか、私が1ヶ月以内でやってみせる」
エイプリル「一人で焦ってもどうにもならないわよ」
ボニー「別に焦ってなんか…」
エイプリル「あなたも知ってるのね…ウィルトンさんの病気のこと…」
  キーを打つのをやめるボニー。
ボニー「じゃあ、あなたも?」
エイプリル「確かにウィルトンさんには、もう時間がないわ。だからこそ、彼の理想のAIを実現
 させなければいけないと思うの」
ボニー「…」
  ボニー立ち上がり、ガラス越しに見える実験室を覗き込む。
  部屋の真ん中でぽつんと立ち止まるナイト2000。
  ボニー、寂しげな目でナイト2000を見ている。
  実験室に現れるウィルトン。
  ウィルトン、杖をつきながらナイト2000の前に近づいている。
  ウィルトンを見ているボニー。ボニーのそばにやってくるエイプリル。
  エイプリルもウィルトンに気づく。
エイプリル「ウィルトンさん…」

○ 同・実験室
  ナイト2000の前に立つウィルトン。
  スキャナー音が響く。
KARRの声「あなたは?」
ウィルトン「生みの親の顔を忘れたのか?」
KARRの声「メモリーを検索したがあなたの情報は、見つからなかった」
ウィルトン「まだ、データベースが不完全らしいな。私は、ウィルトン・ナイト」
KARRの声「生みの親…あなたが私を作ったのか」
ウィルトン「そのスキャナーで私の姿を取り込んで、しっかり記憶しておけ」
KARRの声「私を操縦するのか?」
ウィルトン「お前のドライバーは、もうすぐ決まる」
KARRの声「そのドライバーのデータが欲しい」
ウィルトン「そう焦るな。近いうちに会わせてやる」
  部屋に入ってくるデボン。
デボン「やはり、ここにおられましたか」
  振り返るウィルトン。
ウィルトン「戻っていたのか、デボン」
デボン「報告が遅れてすいません」
ウィルトン「それで、どうだった?」
デボン「その事でちょっと…」

○ ナイト財団・ウィルトンのオフィス
ウィルトン「フランクリンからは、連絡があったか?」
デボン「いいえ、まだです」
ウィルトン「随分てこずっているみたいだな」
デボン「彼の腕と能力があれば、真犯人を見つけ出す事ぐらい容易い事ですよ」
  呼び出し音のアラームが鳴り響く。
  デスクの電話の受話器をあげるウィルトン。
ウィルトン「何だ?」
秘書の女の声「男の方が来られています。アポイントを取られていないのですが、至急お話ししたい事が
 あると言われて…」
ウィルトン「名前は?」
秘書の女の声「ケン・フランクリンと言う方です」
  唖然とするウィルトン。
ウィルトン「通してくれ」
秘書の女「わかりました」
  受話器を置くウィルトン。デボンに話しかける。
ウィルトン「フランクリンだ」
デボン「なんですって?」
  扉が開く。中に入ってくるフランクリン。
フランクリン「どうも。思っていた以上に立派な建物ですね。国宝級とでも申しましょうか…」
デボン「大袈裟だな」
  ウィルトンのデスクの前に立つフランクリン。
フランクリン「失礼。(ウィルトンを見つめ)あなたがウィルトンさん?」
ウィルトン「そうだ。よく来てくれた」
フランクリン「この間の調査の件ですが、犯人の男の居場所を特定しました」
デボン「本当か?素晴らしい」
  フランクリン、書類の入った封筒をウィルトンに渡す。
  書類を確認するウィルトン。
ウィルトン「後は、警察に引継がせる」
フランクリン「冗談じゃない。私は、今まで自分の引き受けた仕事は、最後まで完璧にやり遂げてきた。
 この仕事も最後までしっかりやらせてもらいます」
  資料を読んでいるウィルトン。
ウィルトン「2年前の宝石強盗か。犯人の男はサンフランシスコ市内に潜伏中…」
フランクリン「そうなんです。そこまで調べさせておいて、なぜ私の手で捕まえてはいけないのでしょうか?」
デボン「君は、まだうちと正式に雇用契約を結んでいない」
フランクリン「じゃあ、早く契約を結びましょう」
デボン「三日後にもう一度ここに来てくれ」
フランクリン「ウィルトンさん。私は、あなたの夢に大変感銘を受けました。私で良ければ、
 一日でも早く力になりたい」
ウィルトン「…いいだろう」
  唖然とするデボン。
デボン「しかし…」
ウィルトン「せっかく今日ここに来てくれたんだ。彼の熱意を受け止めるべきだ」
フランクリン「ありがとうございます」
  ウィルトン、引き出しの中から雇用契約書を出し、デスクの上に置く。
ウィルトン「この紙にサインをしてくれ」
  ペンを持ち、契約書にサインするフランクリン。
フランクリン「もし良かったら、車を見せて頂けませんか…」
ウィルトン「デボン、見せてやれ」
デボン「しかし、KARRは、まだ…」
ウィルトン「車を見せてやるだけだ」

○ ナイト財団研究所・実験室
  部屋に入ってくるウィルトン、デボン、フランクリン。
  部屋の真ん中に止まっているナイト2000。
  立ち止まるフランクリン。ナイト2000をまじまじと見つめ、
フランクリン「あの車ですか?」
デボン「ナイト2000だ」
  フランクリン、ゆっくりと歩き、ナイト2000の前に立つ。ボンネットを優しく撫で、
  赤く光るスキャナーを不思議そうに見つめる。
  運転席の窓から車内を覗くフランクリン。
ウィルトン「どうだ?」
フランクリン「こいつは、凄い。足回りも良さそうだ。変わった形のハンドルですね」
デボン「まだ完全じゃなくてね。試乗させてやれないのがとても残念だ」
フランクリン「いずれは、私の良きパートナーになるんだ。楽しみは、後に取っておきますよ」
  フランクリン、興味深そうにナイト2000を見回している。
  その様子を見つめ、微笑むウィルトン。

○ アパート・2F・マイケルの家(夜)
  玄関の扉を開け、中に入ってくるマイケル。
  部屋の明かりをつける。リビングを見つめるマイケル。スティービーの姿が見当たらない。
  ゆっくりとテーブルの前に進むマイケル。
  テーブルにハート型の金のネックレスが置いてある。
  ネックレスを握るマイケル。ため息をつく。

○ ロサンゼルス第11管区警察署・オフィス(翌日・朝)
  部屋に入ってくるマイケル
  警官達に挨拶している。
  自分のデスクの前に向かい、椅子に座るマイケル。
  マイケルのそばにやってくるボウマン。
ボウマン「おはよう」
マイケル「おはようございます」
ボウマン「さっき、連絡があった。昨日捜索願いを出していった女からだ」
マイケル「ミゼラ・トーマス?」
ボウマン「その子だ。何か話しがあるそうだ。500m北にあるコーヒーショップに来てくれと言ってた」
  怪訝な表情を浮かべるマイケル。

○ コーヒーショップ・カフェテラス
  水玉模様のパラソルの下のテーブルに座るマイケルとミゼラ。
マイケル「昨日少しだけ調べてみたんだけど、君のお兄さんのジルは、確かに昨日までテリー運送と言う
 工事会社でクレーンの運搬作業していた事がわかった。でも、一週間前に辞めて、その後の行方は、
 会社の関係者も誰も知らなかった」
ミゼラ「…そう」
  ミゼラ、マイケルから目を逸らし、俯く。
  近づく店員。テーブルにコーヒーを置く。
マイケル「そう落ち込まないで。まだ、捜査は、始まったばかりだ。そのうち何か手がかりが見つかるよ」
ミゼラ「…そうよね」
マイケル「ところで、こんなところに呼び出して、俺に何の相談?」

○ 繁華街・国道
  信号待ちする黄色いタクシー。

○ タクシー車内
  後部席に座るスティービー。スーツ姿。
  ドア窓の景色を眺めるスティービー。
  カフェテラスにいるマイケルとミゼラの姿を見つけ、唖然とする。
スティービー「ここで降ろして…」

○ 国道
  タクシーから降りるスティービー。歩道を走り出す。
  道路脇に止まっている白いキャデラック。

○ キャデラック車内
  運転席に座る髭面の体格の良い男バート。助手席に座るシンプソン。足元に縦置きしている
  ライフルにスコープをセットしている。

○ コーヒー店・カフェテラス
  コーヒーを飲むマイケル。
  俯いたままのミゼラ。
  マイケル、ミゼラの様子を見つめ、
マイケル「飲まないの?」
  ミゼラ、顔を上げ、
ミゼラ「ごめんなさい…ちょっと…」
  ミゼラ、突然、立ち上がり、テーブルから離れて行く。
  怪訝な表情を浮かべるマイケル。
  ミゼラ、店の中に入り、化粧室に入る。
マイケル「なんだ、トイレか…」

○ スコープの視点
  照準を示す十字のマークの中心にマイケルの顔。

○ キャデラック車内
  ライフルを構えているシンプソン。スコープを覗きながら、マイケルに目標を定めている。
シンプソン「クソ、あの女…どこに行きやがった?」
バート「どうしたんです?」
シンプソン「ミゼラがいなくなった。ふざけやがって…」
  バート、マイケルを見つめ、
バート「あの男ですか?」
シンプソン「そうだ。マイケル・ロング。ガイを殺した刑事だ」

○ コーヒー店・カフェテラス
  マイケル、コーヒーを啜りながら、辺りを見回す。ある方向に視線を向けた時、唖然とした表情を浮かべる。
  歩道に立っているスティービー。憤然とした様子でマイケルを見ている。
マイケル「スティービー…」
  スティービー、踵を返し立ち去って行く。
  立ち上がるマイケル、スティービーの元に駆け寄って行く。

○ 歩道
  スティービーと並んで歩くマイケル。
マイケル「どうしてここに?」
スティービー「偶然通りかかっただけよ」
マイケル「昨日の事、まだ根に持ってるのか?」
スティービー「根に持ってるのは、あなたのほうじゃないの?」
マイケル「どういう意味だ?」
スティービー「新しい恋人に聞いてみたらどう?」
マイケル「新しい恋人?」
スティービー「ついてこないで。忙しいの」
マイケル「カフェテラスで話していたのは、俺が担当している事件の関係者だ」
スティービー「そう言ったら、私が信じるとでも?」
マイケル「信じるか信じないかは、君の自由だ。だけど、こんな下手な嘘をつくくらいなら、
 もっとマシな嘘を考える」
  立ち止まるスティービー。マイケルも足を止め、
スティービー「(マイケルを見つめ)私、どうしたらいいの?」
マイケル「…」
スティービー「前にも言ったけど、たまに悪夢を見るのよ。霊安室の中に横たわっているあなたの死体の夢…」
  マイケル、困惑した表情。
スティービー「日常の会話が薄れていけば、いくほど、不安になる。いつか夢が現実になるんじゃないかって…」
マイケル「俺の事を重荷に感じるなら、それぞれの道を歩む方がいいのかもしれないな…」
  愕然とするスティービー。
スティービー「それがあなたの答えなの?」
マイケル「君の答えも同じだろ?」
  スティービー、呆れて、踵を返し、歩き出す。
  その瞬間、鳴り響く銃声。
  立ち止まり、振り返るスティービー。
  うつ伏せで地面に倒れているマイケルを見つめ、驚愕する。
  タイヤを軋ませ、Uターンし、走り去って行くキャデラック。
スティービー「マイケル…」
  呆然としているスティービー。暫くして、事態を把握し、マイケルに駆け寄って行く。
  マイケルの体を抱き起こすスティービー。
スティービー「マイケル…目を覚まして…マイケル!」
  マイケル、うっすらとを目を開け、スティービーを見つめる。
  マイケルを抱きしめるスティービー。
  離れる二人。背中を確認するマイケル。
  背中の真ん中に大きな穴が空いている。
  上着とシャツを開き、中に着込んでいる防弾チョッキを見せるマイケル。
マイケル「あやうくジンボのジンクスにはまるところだったぜ。万が一に備えていたが、
 まさか本当に役立つなんて…」
  マイケル、カフェテラスのほうを見つめる。
  呆然と佇むミゼラ。マイケルと目が合い、走り去る。
  マイケル、立ち上がり、ミゼラを追う。
スティービー「マイケル!」
  歩道の雑踏を潜り抜け、走っているミゼラ。
  全速力で走るマイケル。
  交差点を駆け抜けるミゼル。ミゼルに追いつくマイケル。ミゼルの腕を掴む。
マイケル「待てよ」
ミゼル「離して!」
マイケル「誰に頼まれた?」
ミゼル「何が?」
マイケル「俺をカフェテラスに呼び出したのは、あそこで俺を狙い撃ちするためだった」
ミゼル「私は、何も知らない」
マイケル「じゃあ、どうして逃げた?」
ミゼル「あなたが撃たれた姿を見て、パニックになっただけよ」
マイケル「とりあえず一緒に署に来てくれ」
  ミゼル、マイケルの手を振り払い、バックの中から短銃を取り出す。
  マイケルに銃を向けるミゼル。
マイケル「ミゼル…どうして…」
ミゼル「世間には、極悪非道な犯罪者でも、私にとっては、たった一人の優しい兄だった」
マイケル「…君は、ガイの妹だったのか?」
ミゼル「あなたも立派な犯罪者よマイケル。私が制裁してあげる」
マイケル「君は、ガイとは、別世界の人間だ。兄貴と同じ道に足を踏み入れるんじゃない」
  動揺するミゼル。
マイケル「今ならまだ間に合う。さぁ、銃を下ろして」
  右手を差し出すマイケル。
  ミゼル、力なく、銃を下ろす。

○ ロサンゼルス第11管区警察署・表(翌日)
  入口から出てくるマイケルとスティービー。
  歩道に出て、歩き出す。
マイケル「あのミゼラって子…昨夜俺が撃ち殺した男の妹だったんだ。男の仲間が彼女を
 使って、俺を狙撃しようとしたわけ」
スティービー「彼女もその組織のメンバーなの?」
マイケル「違う。兄のガイとは、五年前から会っていなかったそうだ。昨日の朝、見知らぬ男から
 連絡があってガイの死を聞かされたんだ」
スティービー「その男にそそのかされて、あんな行動を…」
マイケル「仲間の男の恨みの方がもっと根深そうだけどね…」
スティービー「どうするのよ」
マイケル「大丈夫。同じ罠には、二度と引っかからない」
  立ち止まるマイケル。スティービーも足を止める。
  マイケル、スーツのポケットからハート型の金のペンダントを出し、スティービーの首にかける。
マイケル「これは、君の物だ」
スティービー「ステージを観に来てくれなかった事、ずっと恨んでやる」
マイケル「おいおい、君までそんな…。今度は、行くから…」
  スティービー、踵を返し、マイケルの前から足早に去って行く。
スティービー「もう二度と呼ばない」
マイケル「おい、待てよ」
  スティービーを追うマイケル。

○ ナイト財団・ウィルトンのオフィス
  扉が急に開く音。
  デボン、足早に部屋の中に駆け込んでくる。
  デスクに座り、書類にサインを書いているウィルトン。
  デボンに気づき、老眼鏡を外す。
ウィルトン「ノックもせずに何事だ?」
デボン「フランクリンが…撃たれました」
  愕然とするウィルトン。
ウィルトン「どうして…?」
デボン「あれほど例の犯人を捕まえようとしたらしいのですが、その犯人の仲間に…」
ウィルトン「どこの病院に運ばれた?」
デボン「サンフランシスコ市内の病院です…」
ウィルトン「彼を迎いに行く。ヘリを用意しろ」
デボン「体中に銃弾を浴びたそうです。今頃はもう…」
ウィルトン「いいから早く!」
  デボン、複雑な表情を浮かべ、
デボン「わかりました…」
  部屋を出て行くデボン。
  悔しげに顔を顰めるウィルトン。

○ 海岸・墓地(数日後)
  雲ひとつない青空。小さな波音が聞こえる。
  『KEN FRANKLYN』と掘られた墓石の前に立つウィルトンとデボン。
ウィルトン「犯人は、どうなった?」
デボン「まだ、逃亡中です。聞くところによると、C.J.ジャクソンは、凶悪犯らしいです。
 …全くもって運が悪かったとしか言い様がありません…」
ウィルトン「あんなに逞しい若者がなぜ私よりも先に逝かねばならんのだ…」
  哀しみに暮れるウィルトン。

○ ナイト財団本部・会議室(数日後)
  研究員達が輪になって座っている。
  ウィルトンを中心に左隣デボンが座る。ウィルトン真っ向にブーアマン、ブリーランド、
  リー、ボニー、エイプリルが並んで座っている。
  ブーアマンが起立し、ウィルトンに向かって、報告している。
  重々しい雰囲気に満ちている。
ブーアマン「ナイト2000プロトタイプ用の人工知能プログラム・KARRに致命的な欠点が見つかりました。
 KARRのプログラムの修復作業は、諦め、ドライバーの命を守る事を最優先にする新たな
 AIの開発に着手します」
  ウィルトン、一際険しい表情を浮かべている。
  着席するブーアマン。
ウィルトン「話していいか?」
ブーアマン「ええ…どうぞ」
ウィルトン「この数年間、君達は、私の夢のために多大な貢献をしてくれた。とても感謝している。だが、
 今日限りでこのプロジェクトを打ち切り、財団を閉鎖しようと考えている」
  どよめく研究員達。
  驚愕するデボン。
デボン「本気ですか?」
ウィルトン「ああ、本気だ。異論は、あるだろうがどうか理解して欲しい」
  呆然としているボニーとエイプリル。

○ ナイト工業・倉庫前(深夜)
  門前に止まるナイト2000。
  門がゆっくり開いている。構内に静かに進入するナイト2000。

○ 同・倉庫内
  薄暗い空間の真ん中に立ち止まるナイト2000。
  ヘッドライトが消える。

○ ナイト2000車内
  運転席に座るボニー。
KARR「ここは、どこだ?」
ボニー「KARR、あなたは、ここで一時保管されることになったの」
KARR「なぜだ?」
ボニー「ウィルトンさんの指示よ」
KARR「私のボディをチェックするコンピュータがここには、一台も置かれていない」
ボニー「プロジェクトは、一時中断することになったの」
KARR「私は、どうなる?」
ボニー「…」
KARR「ボニー、どうして何も答えてくれない?」
  ボニー、KARRのシステムの電源ボタンを押し、システムを停止させる。
KARR「ボニー…」
  KARRの声が途中で消える。

○ ナイト工業・倉庫内
  運転席から降りるボニー。
  ナイト2000を見つめ、
ボニー「ごめんなさい、KARR…」
  スキャナーの赤い光が静かに消える。
  ボニー、ナイト2000のそばから立ち去る。
  入口のドアが閉められ、天井のライトが消される。暗闇に消えるナイト2000。
      
                                              ―THE END―

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