『メトロジェノン』 BY ガース『ガースのお部屋』
パイロット サブタイトル「ウイルスコントロール」

○ 小笠原諸島沖をスピードを上げ逃走しているトロール船(夜明け前)
  荒波を進むトロール船の後を追う巡視艇。

○ 巡視艇・操舵室
  船長が舵を握りながら、マイクを片手に声を荒げる。
船長「その船、さっさと止まれ!」
  
○ 同・甲板
  薄暗い紫色の空が広がる。
  トロール船に追いつき、横に並んで進んでいる巡視艇。
  制服を身に付けた監視官達が横並びしてライフルを構えている。
  一人の監視官が炸裂弾をトロール船に投げつけている。
  炸裂弾は、トロール船の甲板で破裂し、煙を上げる。
  鉄屑やボトルを投げつけ応戦する乗組員達。

○ 同・操舵室
  地平線から差し込んでくるオレンジの光が船長の顔に当たる。船長、右手で光を遮る。
  右手を下ろした瞬間、目の前に黒い影が一瞬過る。
  
○ 巡視艇の上空を一台の青いヘリが通り過ぎて行く
  監視官達が怪訝にヘリを見つめている。

○ 巡視艇・操舵室
  監視官の一人が中に入り込んでくる。
船長「防災基地からヘリの応援を呼んだのか?」
監視官「いいえ、知りません・・・」

○ 上空の青いヘリがUターンし、無気味な低いタービン音を唸らせながら巡視艇に向かって来る。

○ ヘリ・コクピット内
  電子パネルと計器類、様々なシステムが搭載されている。
  レバーを握る男の手が力む。
男「お手伝いしましょう・・・」
  レバーの先端の「BOM」の赤いボタンを親指で押す。

○ 巡視艇に向かって飛行してくる青いボディのヘリ
  ボディの両脇に設置されたポッドからミサイルが発射される。
  ミサイルは、走行する巡視艇を超え、トロール船に命中。船は、オレンジ色の爆炎を上げ、大破する。
  巡視艇の乗組員達が爆風で甲板の上に吹き飛ばされている。巡視艇の上空を通り過ぎて行く青いヘリ。
  そこから一キロメートル程飛行した後、Uターンし、また巡視艇に向かって突き進んでくる。

○ ヘリ・コクピット内
  フロントウィンドゥに映る捕捉画面。
  十字のターゲット表示に巡視艇の熱レベル映像が表示されている。
  甲高い笑い声を上げる男。
男「さぁて、お次は、おまえらだ」
  「BOM」ボタンを押す。

○ 巡視艇に向かって飛来してくるミサイル
  巨大な爆発と爆音と共に粉砕する巡視艇。破片と炎が海面に散らばっている。

○ 船着き場(朝)
  港湾内に飛来してくるヘリ。前部に取り付けられた回転式機関銃が火を吹く。
  岸壁に集まった数十人の監視員や、警備員が被弾し、次々倒れていく。

○ 荷揚げ場
  大型コンテナが何十も積まれている。
  その間を縫って、白と黒のゼブラ模様をした巨大なトレーラーが突進してくる。
  その背後を3台のRV車が走行している。
    ×  ×  ×
  ホバリング状態で岸壁の上空に浮いている青いヘリ。ゆっくりと着地する。
    ×  ×  ×
  メインローターの回転が静かに止まる。
    ×  ×  ×
  数十人の男達によって、青いヘリにカバーがかけられる。
  ヘリの前部につけられたロープがウィンチでトレーラーのコンテナまで引っ張られる。
    ×  ×  ×
  コンテナに納まるヘリ。ゆっくりと扉が閉められる。エンジンを高鳴らせ、急発進するトレーラー。
  その後を三台のRV車が続く。

○ 繁華街(夜)
  様々な人々が行き交うストリート。
  立ち並ぶカジュアルな店の前には、色とりどりの個性的なファッションに身を包んだ若者達と、
  女子高生達が群がり、危険なムードが漂っている。

○ ゲームセンター
  若者達の熱気が漂う。
  シューティングゲームの画面。大量のミサイルを難なくよけきりミサイルを撃ち
  続けているプレイヤーの戦闘機。
  しかし、一発のミサイルが直撃。戦闘機が爆発する。
  不精髭を生やし、面長の顔をした男。真坂 和久(28)。煙草を加え、少し苛立った表情をしている。
  右耳にイヤホンを差し込み、話に聞き入っている。
  おもむろにコートから携帯を取り出す真坂。呼び出し音が鳴っている。
  ディスプレイの番号を見つめると、憮然とした表情を浮かべ、呼び出し音を止める。
  前方に見えるカフェに目をやる真坂。窓際のテーブルに座る中年とチャイナドレスを着た女を
  見つめている。
  真坂、小型カメラを二人に向ける。
  真坂のそばにセミロングの若い女が座る。吉川 香織(24)である。
香織「遅れてすいません。どうですか?」
真坂「・・・間違いない。あの男だ」
香織「やっとキャッチしましたね」
  中年とチャイナドレスの女が立ち上がり、店を出て行く。
  真坂と香織、慌てて立ち上がり、足早に店を出る。
  
○ 繁華街
  雑踏の中に紛れて行く中年と女。
  二人の後ろを、カップルに成り済ました真坂と香織が腕を組んで歩いている。

○ 歓楽街
  辺りにひしめくネオンの看板。
  「バニー・ホテル」に入り込んでいく二人。
  真坂と香織、ホテル手前の交差点の片隅に立ち、様子を窺っている。
真坂「ついでだから、やっていくか・・・」
  香織、軽蔑した表情で真坂を見つめ、
香織「やらしい・・・・」
真坂「馬鹿、しょんべんだよ。お前が中々来ないから一時間も我慢したんだぜ。膀胱はち切れそう・・・」
香織「すいません・・・」
  二人、ホテルに向かって走り始める。

○ 「バニー・ホテル」3階・302号室
  ベッドのそばの壁にしゃがみこみ、イヤホンに聞き入っている真坂と香織。
  真坂、物音一つたたない事に、不審な表情を浮かべる。
真坂「大人しすぎるな・・・」
香織「もう寝ちゃったんじゃないですか?」
真坂「何もせずにか?」
  香織、恥ずかしげに顔を俯ける。
  突然、イヤホンにつんざくような銃声が2度轟く。たまらず、イヤホンを外す真坂。
  さらに3度目の銃声が鳴り響く。
真坂「(香織に)ここで待ってろ!」
  部屋を飛び出して行く真坂。

○ 同・通路
  302号室の扉が開き、真坂が姿を表わす。
  突き当たりのエレベーターに向かって歩いている三人の男の背中が見える。
  真中の男は、両脇の男達に抱えられている。
  右側の男が振り向く。真坂に気づき、銃を撃ち放す。
  慌てて、その場に突っ伏し、壁際の柱にに転がり込む真坂。
  壁に当たった弾がスパークし、青白い炎が燃え上がる。
  唖然とする真坂。エレベーターのほうを覗き込む。男達がエレベーターに乗り込み、扉が閉まる。
  真坂、ゆっくりと起き上がり、303号室へ駆け込んで行く。
  
○ 同・303号室
  辺りを見回す真坂。人の気配はない。
  割れたウォールライトの破片が散らばる。風穴の開いたベッドの上に飛び乗り、窓の下を覗く。
  前の道路に、若者達が歩く姿が見えるが、男達の姿は見当たらない。
  真坂の背後で物音がする。ゆっくりと振り向く真坂。床に這いつくばったチャイナドレスの女が顔を上げ、
  真坂の背中に銃を向けている。
女「動かないで」
真坂「・・・」
  女、真坂に銃を向けたまま起き上がり、壁に寄りかかるようにして座り込む。額からひどく
  汗が滲み出ている。
女「そのまま、こっち向いて」
  女と向き合う真坂。
女「あんた、誰?」
真坂「隣の部屋の人。大きな音がしたからびっくりして出てきたの・・・」
女「変ね・・・あなた以外は、誰も気づいてないわ」
真坂「そりゃ、皆さんいろんなことに夢中だから、それどころじゃないでしょ」
女「あんた一人なの?」
  真坂、薄ら笑いを浮かべ、
真坂「そう。隣の女の喘ぎ声を聞きながら・・・って、んなわけねぇだろ」
  女、腰を押え、苦渋の表情を浮かべる。
  腰辺りから大量の血が流れ、床に溜まっている。
  真坂、すかさず、女の銃をもぎ取り、
真坂「(女の怪我の様子を見て)そのまま、ジッとして・・・」
  女、顔を俯け、痛々しく顔を歪ませる。

○ 武羽探偵事務所・応接間(翌朝)
  ソファで毛布に包まり眠る男の姿がある。
  黒いスーツを身につけた白髪で小太りの男・里見 雄二(42)がガラステーブルの上に
  置かれているリモコンを持ち、棚のコンポの電源を鳴らす。
  スピーカーから、大きく響き渡るクラシックの壮大な演奏。
  男、思わず毛布から顔を出し、アイマスクを取る。男は、真坂である。
  眠い顔で立ち上がると、コンポの電源を切る。
  
○ 同・オフィス
  所長デスクの椅子に腰掛ける里見。
  真坂が表れる。大きな欠伸をしている。
真坂「もっとマシな起こし方してくださいよ。昨夜も徹夜で尾行してたんですよ・・・」
里見「吉川は?」
真坂「もうすぐ来るはずですけど・・・」
里見「参ったよ。昨日、また高村がしくじりやがった・・・」
真坂「(冷蔵庫を開け缶コーヒーを取り)今度は何やらかしたんです?」
里見「まる被に正体がばれたんだ。事務所に不倫相手の男が乗り込んできてな。
 あることないこと3時間も押し問答だ」
真坂「(コーヒーを飲み)仕方ないっすよ。元印刷工の新人なんですから」
里見「(溜め息)仕方ないっすよ、じゃすまんぞ。おまえ達にも責任取ってもらう」
真坂「冗談でしょ?」
里見「あいつの出来が悪いのは、おまえの調教がなってないからだ」
真坂「馬じゃないんですからね奴は。俺だって入った頃は、マル被に正体がばれて
 散々危険な目に遭いましたよ・・・」
里見「それより、そっちは、どんな状況だ?」
真坂「ついに見つけましたよ」
  真坂、鞄の中から一枚の写真を取り出し、里見のデスクの前に置く。
  写真には、昨夜の中年とチャイナドレスの女が写っている。
里見「やったな。それで、相手の女は?」
真坂「今日それを調べようと思ってたんですけどね・・・昨夜、とんでもない展開になりまして・・・
 まる被が連れ去られました」
  里見、唖然とし、
里見「誰に?」
真坂「わかりませんよ。相手の女も襲われて今病院で治療中です。場所はわかってるんで、
 今から当たってみます」
里見「女が病院?」
  真坂、いきなり、ジャンパーの中から拳銃を取り出し、里見に銃口を向ける。
  里見、思わず、後退りするが、銃を見つめ、
里見「モデルガンか?」
  真坂、銃をまじまじと見渡し、
真坂「本物ですよ。女が持ってたんです。ベレッタなんて銃を日本で使う奴なんてそうざらにはいませんよ」
里見「おい、こりゃあ、まずいぞ」
真坂「危険だからって身を退いてたら、また売り上げパーですよ。
 御大の作った探偵事務所を潰す気なら、何も言いませんけどね・・・」
里見「誰もそんなこと言っとらん。もう証拠は掴んだも同然だ。さっさと追い込みにかかれ」

○ 同・玄関
  真坂、扉を開けると通路を駆け込んできた香織と鉢合わせする。
香織「あっ、真坂さん」
真坂「(外に出ようとするが踵を返し)高村は?」
香織「昨夜から歌舞伎町のホテルで張り込みしてるみたいですけど・・・」
真坂「香織、高村の失敗、連帯責任になりそうだぞ」
香織「え〜、うそ〜!」
真坂「もっとちゃんと面倒見てやれよ。彼氏の・・・」
  真坂、香織のそばを横切り、通路を歩き去って行く。
  香織、ふくれっ面を浮かべている。
  
○ 戸丸急送株式会社
  巨大なビルの全景。配送用の十トントラックが次々と表門を潜り抜けている。

○ 同・一階作業場
  コンテナから、大量の荷物がベルトコンベアに流されている。
    ×  ×  ×
  積まれた大量の荷物の間を、リフトが通り、突き当たりにエレベーターが見える。
  エレベータの扉の上のランプが消える。
  
○ ある男の主観
  地下三階の通路を歩いている。
  天井に巨大なパイプが何十にも並び、張り付いている。
  周りには、ガラス張りのブースで仕切られた実験場が見える。
  作業服を着た数人の中年達が慌ただしく動き回っている。
  
○ 地下三階・管理室
  ノックの音。扉を開け男が入ってくる。
  デスクの上に足を上げ、漫画雑誌を読んでいる大柄な男・田池 涼一(45)。大きな笑い声を上げる。
  静かに扉を閉め、デスクに近づいてくる男・白岩 一樹(43)。憮然とした表情。
  白岩、いきなりスーツの中から拳銃を取り出し、田池の頭に向ける。
白岩「ヘリをどこに隠した?」
  田池、焦った様子で、
田池「本部からの連絡、聞いてなかったのか?」
白岩「そんなもん知るか。あのヘリは、俺が設計したんだ。お前も知ってるよな?」
  撃鉄を起こす白岩。
田池「・・・知ってる。知ってるよ」
  白岩、それを聞くと、銃をしまい、デスク手前のソファに座り込む。
白岩「(煙草を加え)十年ぶりにこの糞汚い工場に戻ってきてやったのに、なんだこの出迎えは?」
  田池、苦笑を浮かべると、立ち上がり、白岩の前のソファに座り込む。
田池「歓迎は、今度改めてやらしてもらうよ。お前のお好みの女も揃えてな・・・」
  白岩、怪訝に田池を見つめている。スーツのポケットからピンク色の液体が
  入った縦長の容器を取り出し、田池に投げ渡す。
白岩「プレゼントだ」
田池「なんだ、これ?」
白岩「お守りだ」
  不適な笑みを浮かべる白岩。

○ 病院・ICU治療室前
  エレベータの扉が開き、真坂が姿を表わす。
  廊下をゆっくり歩き、ICUの入り口前に立った瞬間、扉口から看護婦が出てくる。
  真坂の前を横切り、立ち去る看護婦。真坂、エレベータ前の長椅子に座り、右手に持っている
  雑誌を読み始める。
  エレベータの扉が開き、中からグレイのスーツを着た恰幅のいい紳士風の男と、
  その後を数人の黒服の男達が続いて表われ、真坂の前を横切って行く。
  壁際に立ち、様子を窺う真坂。男達は、ナースセンターの前で看護婦と話している。
  
○ ICU治療室内
  扉口から看護婦とグレイのスーツの男が入ってくる。
  仕切りのカーテンが開かれ、人工呼吸器をつけられベッドに横たわる女の姿が露になる。
  看護婦と共に女の顔元に近寄る男。
  外にいる真坂。扉を少しだけ開き、中の様子を窺っている。
 
○ 武羽探偵事務所・資料室(夕方)
  テレビ画面に釘付けの高村 伸吾(24)。
  アイドルグループの番組に夢中。
真坂の声「仕事もしないで何やってんだよ」
  振り返る高村。
高村「真坂さん・・・」
  真坂、部屋に入ってくる。
真坂「所長は?」
高村「先に帰られました・・・」
真坂「またしくじったんだって?」
高村「参りましたよ。女の相手・・・(頬を指で切るような仕草をし)これ系・・・」
真坂「その筋かぁ・・・」
高村「苦手なんですよ。面割れちゃったし、給料減るし、ついてねぇ・・・」
真坂「歩合制のシビアさを知ったか」
高村「真坂さん、昔刑事だったから顔利くし、羨ましいな。僕は、単なるずぶの素人ですからね・・・」
真坂「そんな弱気じゃ仕事になんねぇよ」
高村「そう言えば、この事務所を設立した武羽さんも前は、刑事だったんですよね?」
真坂「西条署の署長やってた。俺の先輩だった人。警察辞めて、うちの所長と一緒にこの
 事務所を作ったけど、一年と経たないうちにぽっくりイっちゃてな。俺を拾ってくれた恩師でもあるわけ」
高村「つまり、コネで入ったんっすね・・・」
真坂「うっせぇよ」
  真坂、高村の頭をコツンと殴る。
  真坂のポケットから携帯のアラームが鳴る。真坂、慌てて手に取り、
真坂「もしもし?」

○ 居酒屋(夜)
  客で溢れる店内。壁際のテーブルに真坂の姿がある。
  コップに入ったコーラを一気に飲み干す真坂。
  テーブルを挟んで、松川 博樹(28)が座っている。
松川「ジュースでいいのか?」
真坂「(ゲップをしながら)まだ仕事があるんだよ」
  松川、憮然とした表情で生ビールを飲み干す。
真坂「仕事辞めたって?」
松川「正確に言えば、クビさ」
真坂「なんで?」
松川「ビルの建築が突然中断してな。人員削減とかで・・・」
真坂「次の仕事は?」
松川「探してる。なぁ、探偵って面白いか?」
真坂「うちは浮気専門だからな。個人的に言えば、もっとバリエーション豊富な
 調査をしている会社をお勧めするよ」
松川「今の仕事に飽きたのか?」
真坂「別に・・・どうして?」
松川「・・・昔から飽きっぽかったからな・・・お前」
真坂「相変わらず失礼な奴だ」
松川「お互い様だろ」
真坂「奥さんはどうしてる?」
松川「OL現役でバリバリやってるよ」
真坂「子供は?」
松川「そんなもん作ってる余裕ないって」
真坂「俺みたいになっちまうぞ」
松川「そういや、もうちゃんと話しをつけたのか?」
真坂「まだ・・・」
松川「寄り戻したほうがいいんじゃないの?」
真坂「・・・それは、無理だ」
松川「まぁ、仕方ないよな。今回は、奥さんの方が悪いんだし・・・」
真坂「もうその話しはいいよ・・・」
  真坂、思いつめた表情でグラスに残っていた少量のコーラを啜り飲む。

○ 松川のアパート前
  数十台のオートバイが止まり、若者達が声を上げ、騒いでいる。
  一緒に歩いてくる真坂と松川。松川、少年達を睨み付けている。
松川「おまえら、うぜぇんだよ。とっと消えろ」
  少年、ジャンパーのポケットからナイフを出し、松川の顔に突き立て、
少年「うるせぇ、糞オヤジが」
  他の少年達が一斉に立ち上がり、威圧的に二人を見ている。
  そして、立ち上がり、一斉に真坂達に近づいてくる。
真坂「おい、逃げよう」
  真坂、松川の腕を掴み、走り出そうとするが、松川、少年の手からナイフを奪い取り、
  少年の右腕に突き刺す。
  地面に倒れ、呻きながら門取り打つ少年。
  目を丸くし、驚愕する真坂。真坂、松川の手を掴み走り出す。
 
○ 繁華街
  雑踏の中に紛れ込む二人。走るペースを落とし、ゆっくりと歩き出す。
真坂「デカやってたら、今頃現行犯でしょっ引いてるところだぞ」
松川「(息を切らし)あいつら、いい気になりすぎてるんだ。あれぐらいやっとけば、少しは堪えるだろ」
真坂「ガキ相手に何もあそこまで・・・」
松川「いくら注意しても言うこと聞かない奴には、あれぐらいが丁度いい。
警察に言っても何にも対応しやがらないしな・・・」
  真坂、怪訝な表情で松川を見つめる。
松川「用事を思い出した。つき合わせて悪かったな。じゃあ・・・」
  松川、足早に雑踏の中に消えて行く。

○ 病院・ICU治療室(翌朝)
  扉が少し開き、その隙間から真坂が中を覗いている。
    ×  ×  ×
  真坂の主観。カーテンで仕切られた室内。辺りには誰も見当たらない。
    ×  ×  ×
  仕切りのカーテンを開ける。
  ベッドで静かに眠る女。
  真坂、小型カメラを女の顔に向け、シャッターを押す。
  女、突然目を開け、真坂を凝視する。
  驚愕する真坂。カメラを下ろす。
  真坂、名刺を女の前に見せつけ、
女「探偵だったの?」
  頷く真坂。
女「ホテルのこと、警察に言ったの?」
真坂「まだ。商売を優先してるんで・・・」
女「私に、何の用?」
真坂「ハエラル薬品の江岐って男知ってるよね?」
女「・・・何が知りたいの?」
真坂「江岐と君の関係。彼は、3ヵ月前に自宅を出て、ずっと行方不明になってた。奥さんの依頼で、
 ずっと彼を探してたんだ。そして3日前、江岐が君の部屋に住み込んでいる事を掴んだ」
女「一つだけ教えるわ。私と彼は、そう言う関係じゃない・・・」
真坂「じゃあ、どうして3ヵ月も江岐と一緒に暮らしてた?」
女「それ以上何も言えない・・・」
真坂「証拠の写真があるんだ。奥さんには、君の証言なしでも、一応報告するからそのつもりで・・・」
女「無駄な事は、しないほうがいいわ。それは、真実じゃないから・・・」
  真坂、女を怪訝に見つめる。
  入り口の扉が開く音。真坂、透かさず、ベッドの下に潜り込む。
  グレイのスーツを着た口髭を生やした男が、女のベッドに近づいてくる。
  男の足下を見つめている真坂。
  男、神妙な面持ちで女の顔を見つめ、
男「いつ目を覚ました?」
女「ついさっきです」
男「今から君を本部の治療室へ移送する。江岐の件は、別のチームに任せるから、
 もう何も心配することはない」
女「・・・あの、外に出てもらえませんか・・・トイレを・・・」
男「わかった。ナースを呼んでくる」
女「いいえ、自分でやります」
  男、うんうんと頷き、その場を後にする。
  男が部屋を出て、扉が閉まると、真坂がベッドの下から出て、立ち上がる。
真坂「(女を怪訝に見つめ)あんた何者なんだ?」
女「これ以上深入りしないほうがいいわ」
真坂「銃を預かってる。なんならあれを警察に持って行って調べることもできるけど・・・」
女「お好きにどうぞ。元刑事さん・・・」
真坂「何で俺のことを?・・・」
  扉が開く音。真坂、慌ててベッドの下に潜り、四つん這いで隣のベッドの下に進む。

○ ICU治療室前・廊下
  扉が開き、看護婦達によって、女のベッドがエレベータに向かって運ばれている。
  黒いスーツを着た男達がその後を追うように歩いている。
  最後に現れた看護婦が扉を閉め、その場を立ち去って行く。
  暫くして、また扉が開く。真坂が姿を表わし、階段の方に向かって走り出す。
 
○ トイレの扉の隙間から様子を窺っている男
  オールバックの狐目の男が、トイレの扉を開け、廊下を歩き出す。

○ 病院・玄関口(夜)
  一台の特殊車両(ワゴン)に女の乗ったタンカーが運ばれている。
  柱の片隅で様子をうかがっている真坂。
    ×  ×  ×
  特殊車両が走り出し、構内を出て行く。
  真坂、止まっていたタクシーに乗り込み、後をつけ始める。

○ 湾岸線を疾走する特殊車両
  その後を真坂の乗った黄色いタクシーが追っている。
  タクシー、海岸沿いに並ぶ倉庫街へ入って行く。

○ 葵港
  コンテナが何十にも積まれた間を走行する特殊車両
  タクシーも後を追っているが、次の角を曲がった瞬間、特殊車両が消えている。
  急ブレーキをかけ立ち止まるタクシー。

○ タクシー車内
  後部座席のシートに座っている真坂。
  ブレーキの衝撃で手前のシートに顔をぶつける。
真坂「(顔を手で押さえ)何で止まるんだよ?」
ドライバー「これ以上先は私有地だから、無理だね」
真坂「(声を上げ)クソ!」

○ 武羽探偵事務所前
  真坂の乗ったタクシーが路上脇に止まる。

○ 同・オフィス
  所長デスクに座る里見。
里見「今回の件は、事件性が濃くなった。もう我々の出る幕じゃない」
  デスクの前に立つ真坂。
真坂「大丈夫ですよ。明日、もう一度葵港の方を調べに行ってみます」
里見「女には、変な男達がバックにいる、まる被は何者かに連れ去られて、まだ行方知らず・・・
 どう考えてもうちの調査範囲の枠を超えている」
真坂「だから燃えるんですよ」
里見「警察ごっこは、もう止めとけ、真坂。我々は、浮気調査だけをやってればいいんだ。
 余計な事に首突っ込んで事件に巻き込まれたらどうする?」
真坂「やらせてくださいよ、所長!」
里見「首にされたくないなら、俺の言う通りにしろ。最期通告だ、わかったな」
  真坂、頭を掻きむしり、突然飛び出していく。
  呆れた表情を浮かべる里見。
 
○ メインローターの風切り音(夜)
  ビルの屋上でホバリングし、上昇を始める青いヘリ。

○ 青いヘリ・コクピット
  メインパネルのデジタル高度メーターの数字が急速に上がっていく。
  スティックを握る白岩。メタリックなヘルメットを被り、薄笑いを浮かべながら計器類を見回している。
  速度メーター下の「STILLNESS」ボタンを押す。
  鳴り響いていたエンジン音がぴたりと消える。
  夜空に向かって無気味に飛行を始める。

○ ヨットハーバー
  岸壁のそばに並んで浮かぶヨット。その片隅に古びたクルーザーが止まる。
   
○ クルーザー内
  整然としている。ベッドの上に寝転び、携帯を握る真坂。
真坂「・・・何話を蒸し返してるんだよ。その件は、前にも言ったはずだ・・・はぁ?ごたごた言うなって・・・」
   
○ 都庁・8F議場
  窓際に佇む一人の男・高浪 浩二郎(58)。外の景色を険相を浮かべながら見つめる高浪。
  都会のイルミネーションが広がっている。
  暫くして、高浪の目の前に青いヘリが姿を表わす。まじまじとヘリを見ている高浪。

○ 都庁ビル外観
  8Fの窓に張り付くようにホバリングを続けている青いヘリ

○ 同・議場
  高浪、ヘリのコクピットにいる白岩を睨み付けている。
  携帯のアラーム音が鳴り響く。スーツのポケットから携帯を取り出す高浪。

○ 青いヘリ・コクピット
  高浪を見つめ、薄笑いを浮かべる白岩。メットについているピンマイクに話しかけている。
白岩「顔色が悪いですな、都知事。栄養は、きちっと摂らないと・・・」

○ 都庁・8F議場
  携帯から白岩の声が聞こえる。
高浪「君は小さい頃、漫画を読みすぎたんじゃないか?この国は、法治国家だぞ」
    ×  ×  ×
  ヘリ・コクピット内。
白岩「確かに漫画は、好きですよ。夢や希望が満ち溢れてる。今のちんけな現実とは、違ってね」
高浪の声「現実と空想の世界をごっちゃにされてもらっては困るんだよ」
白岩「『TENA』は、空想じゃない。我々は、世界各国に拠点を置き、様々な救済活動を展開している歴とした
 ボランティア集団だ。その活動の絶好の穴場として、この国が選ばれたんだ」
   ×  ×  ×
高浪「全世界の銀行と貴金属店から大量の金品を奪い取り、国際的な麻薬密売ルートの
 仲介役でボロ稼ぎする集団がどんな救済活動をしてくれるんだ?」
   ×  ×  ×
白岩「我々のこと、よ〜くご存じじゃないですか。嬉しいね。だがな、俺は、おまえのその
 へ理屈な態度が気に食わん」
   ×  ×  ×
高浪「君達の出した条件だが、余りに法外な金額だ。少しは、我が都市の財政事情を考えてもらいたいね」
   ×  ×  ×
白岩「俺の知ってる日本は、自信に満ち溢れてた。今のザマはなんだ。怠慢とせこい小競り合いが
 蔓延してるだけじゃないか。都政を変えるには、余計な邪魔ものは、排除すべきだ。あんたもそう
 思ってるんだろ?このヘリの下についている容器を地上に落とせば、この街は一夜にして生まれ変わる。
 あんたが望めば、俺がいくらでも手を貸してやると言ってるんだ」
   ×  ×  ×
高浪「市民を邪魔もの扱いか。よっぽどすねた人生を送ってきたんだな、君は」
   ×  ×  ×
  白岩、無気味な笑みを浮かべ、
白岩「何なら、試しに落としてやろうか?」
  都庁の周囲に数十台のパトカーや警察関係車両が集まる。赤い光がいくつも輝いている。

○ 青いヘリ・コクピット内
  白岩、地上の様子をモニターで見つめながら、
白岩「おっと、どうやら、ここまでのようだな。まぁ、これから起きることを見て、よく考えろ」
  白岩、スティック・レバーを引く。

○ 都庁から離れていくヘリ
 
○ 都庁・議場
  無気味なローター音を響かせながら、ゆっくりと旋回し、大都会の夜空を飛び去って行く
  青いヘリを睨み付けている高浪。右手の拳を力一杯握っている。

○ 歌舞伎町・歓楽街
  路面に腹から血を出し倒れている少年。
  松川、血のついたナイフを辺りで振り回し、周りを取り囲む若者達を威圧している。
松川「来いよ、おまえら、皆殺しにしてやる」
  松川を睨み付ける若者達。彼らの上空を青いヘリが近づいてくる。

○ 青いヘリ・コクピット
  無気味に薄笑いを浮かべる白岩。ヘルメットから右目を覆うようにバイザーが降りる。
  バイザー・ディスプレイの映像。歓楽街の通路が映し出される。それを被うように
  方眼状のイメージが映し出され、
  その真中に赤いセンサーが点灯し始める。
  スティックの上の「BOM」ボタンを押す白岩。

○ 歓楽街の通路を一直線に伝うように、機関銃の弾が撃ち込まれる
  辺りは騒然となり、人々が次々と撃たれ、路面に倒れて行く。
  立ち上がる白い煙に巻かれる若者達。咄嗟にそばの店の中に潜り込んでいる。
  松川、煙をはらいながら、その場から逃げ去る。

○ 「ピンクバイヤーホテル」と書かれたビルと対峙し、ホバリングしている青いヘリ

○ 青いヘリ・コクピット
  バイザーのディスプレイに映る赤いセンサーがビルを捕える。
白岩「(薄笑いしながら)あの世で、イきな!」
  スティック・レバーの「BOM」ボタンを親指で押す白岩。
  
○ 青いヘリの両側につけられたロケットポッドからミサイルが発射される
  「スポン」と抜けたような音が鳴り、同時に、ビルの4階から5階にかけて外壁が吹き飛ばされ、
  大きな爆破が起こる。更にミサイルが発射され、激しい爆風と共に、ビルの屋上辺りが脆く崩れさる。
  炎の光によって、無気味に照らし出されている青いヘリ。
そのまま向きを変え、猛スピードでその場を飛び去って行く。

○ 武羽探偵事務所・資料室(翌朝)
  テレビモニターに昨夜、破壊されたビルの前が映っている。
  騒然とする町で慌ただしく救助活動するレスキュー員達の姿が映し出されている。
アナウンサーの声「辺りは散々たる状況で、これまでに入った情報によりますと、
 死傷者は、ホテルの客と従業員、またホテルの周りにいた歩行者も含め360人以上に上る模様です・・・」
  画面を食い入るように見つめる香織。
  入口の扉から高村が入ってくる。
  憮然とした表情で、本棚の資料を取り出し読み始める高村。
  香織、高村のほうを向き、唖然とする。
香織「どこ行ってたのよ?」
高村「えっ?」
香織「歌舞伎町の銃撃事件に巻き込まれたんじゃないかって心配してたのよ。昨夜は、
 あの辺で張り込んでたんでしょ?」
高村「早い目に切り上げたから、事件の時は、別の場所に移動してた」
香織「(怒号を上げ)携帯の電源ぐらい入れとけ!もしくは、連絡しろ!」
高村「(資料を見ながら)それがさ、携帯に見知らぬ電話番号が入ってて、それに電話したら、
 高額の請求書が来ちゃってさ。だから今使わないようにしてるの」
  香織、落ち着き、気を取り戻し、
香織「昨日、真坂さんと会った?」
高村「会ったよ」
香織「怒られたんじゃないの?」
高村「俺、まだ探偵やって間もないんだよ。ちょっとは大目に見て欲しいもんだね」
香織「そんなこと、自分で言うな!」
  香織、呆れた表情で沈黙する。
  入り口の扉から里見が顔を出す。
里見「高村!」
  高村、強ばった表情で起立し、里見を見つめ、
高村「はい・・・」
  里見、何も言わず、手招きしている。
  高村、顔を歪め、部屋を出て行く。
  香織、思わず失笑。
  
○ 武羽探偵事務所前
  二台のRV車が勢い良く立ち止まり、歩道に横付けされる。
  扉が開き、中からサングラスをつけた四人の男達が一斉に車から降りる。

○ 葵港・第3臨海埠頭(夕方)
  辺りを見回しながら歩いている真坂。
  暫くして正面の岸壁にチャイナドレスを着た細身の女の後ろ姿が見える。
  女、夕日に照らされながら、灯台を見つめている。
  女にゆっくりと近づいていく真坂。
  振り返る女。真坂、女の顔を見つめ、唖然とする。
女「シェンズの銃、返してくれる?」
真坂「シェンズ?」
女「あなた探偵さんでしょ?」
真坂「なんで俺のことを?」
女「調べたの」
真坂「あんた、誰?」
女「『真実』を知りたくない?」
真坂「真実って?」
  女、目の前の倉庫を指差し、
女「この建物、何かわかる?」
真坂「・・・保冷倉庫だろ?」
  女、建物に向かって歩き出す。真坂、怪訝な表情で女の後をついていく。

○ 地下に続く螺旋階段を降りて行く女と真坂
  薄暗い楕円状の空間を突き進んでいる二人。
  階段を降り、床を歩き出す二人。
  目の前に止まる一台の車。色は透明感のあるグリーンのメタリック。
  空を切るような流線型の未来的なボディ。
  真上の天井から光る照明がボディを美しく照らしている。
  真坂、足を止め、ジッと車を見つめている。振り返る女。
真坂「こんな地下に車を止めて、どこから出すんだ?」
女「それ、実験車なの」
真坂「ここは、自動車工場なのか?」

○ 通路
  全面真っ白い壁に覆われている。女、ある扉の前に立ち止まり、
  扉際のパネルに右親指の指紋を当てると、その下のテンキーの数字を打ち込む。扉が自動で開く。
  女、中に入る。真坂が扉を越えると、赤いセンサーが真坂の体を通り、スキャンしている。

○ ある部屋のマルチモニター
  スキャンされた真坂の体の断面図が映る。
  脇腹辺りを赤い点が点滅し、金属反応を示すコードが表示される。

○ 通路
  警告アラームが鳴り響いている。慌てふためく真坂。
女「拳銃を出して」
真坂「嫌だ」
女「出さないと、この部屋には、入れないわよ」
真坂「じゃあ、帰る」
女「そうはいかないわ。あなたは、もう私達の秘密を知ってしまったんだから・・・」
  怪訝に眉を細める真坂。
  
○ 秘密部屋
  入口の扉が静かに開き、女と真坂が姿を表わす。
  クリーム色の壁が周囲を囲んでいる。正面には、巨大な監視シテスムが設置され、
  男女二人の監視員が座席に座りオペレートしている。
  奥の棚には、たくさんの観葉植物が並べて置かれている。中央には、不思議な形をした
  水色のオブジェが立っている。
真坂「(辺りを見回し)いったいなんなんだ、ここは?」
  観葉植物の前に立つグレイのスーツを着た男。赤い花に水をやっている。
  男、振り返り真坂を見つめると、じょうろを置き、目の前にあるテーブルつきのソファに座る。
  オレンジ色の陶器を持ち、湯飲みにお茶を注いでいる。
  真坂、男を怪訝に見つめ、
真坂「あんた、病院であの女と・・・」
男「彼女は、昨夜から意識不明に陥っていてね。とても喋れる状態じゃない」
  男、テーブルに置かれた資料を手に取り読み始める。
男「真坂和久・28歳独身。漁師の親父に譲ってもらったクルーザーに住んでるのか。
 職業は探偵。元西条署の警察官・・・。驚いたね、その若さで2度の離婚歴があるのかね?」
  真坂、失笑し、
真坂「探偵が逆に調査されちまったよ。どっからそんな情報仕入れてきた?」
  男、真坂を見つめ、
男「余計なことに頭を突っ込むから、君をここへ呼ぶ羽目になったんだ」
  真坂、男と対峙するようにソファに座り込み、男を見つめ、
真坂「俺に何の話だ?聞かせてもらおうじゃないの」
  男、憮然と真坂を見つめ、
男「私は、JWA司令部総監・椎名だ」
  男は、椎名歩夢(あるむ)(54)。
真坂「JWA?」
椎名「日本政府が秘密裏に組織した対外政策情報機関『JAPAN WORLD―
 INTELLIGENCE AGENT』のことだ」
真坂「そんなの初耳だな。新聞やネットでもそんな機関の話し、聞いたことないぞ」
椎名「だから秘密裏に組織されたと言ってるだろ。我々のことはまだ誰にも知られていないんだ」
真坂「CIAの日本版ってところか?アメリカの受け売りが多いんだ、この国は」
椎名「宇宙開発財団、J―HIの科学技術力の支援を受け、内外の重大な事件調査に関わっている。
 すでに全世界に調査員を派遣し、諜報活動を始めている」
真坂「日本にこんな気の利いた組織があったなんて、驚きだぜ。でも俺の知りたいことはそんなことじゃない、
 あの女のことだ」
椎名「彼女は、我々の諜報員だ。外資系企業ハエラル製薬研究員・江岐洋平が半年前から
 日本に大量の新型薬品『TERUBORAN』を持ち込んでいると言う情報を入手し、
 彼女に江岐を張らせていた」
真坂「『TERUBORAN』って何?」
椎名「ミサイル用の生物兵器を開発しているアメリカのある民間研究所が、より強力な
 新型混合ウィルスを作ったんだ。そのウィルスは、ほんの一瞬で人の神経細胞を破壊する。
 一粒でも粉末に触れた瞬間、即あの世行きだ」
真坂「彼女は、江岐がそれを持ち込んだ証拠を掴んだのか?」
椎名「後もう少しのところだった。江岐は、主任研究員として一年前アメリカに渡り、
 その研究所でウィルスの開発に携わっていたが、つい数日前の調査で、奴がある巨大な組織に
 目をつけられていることが明らかになった」
真坂「巨大組織って?」
椎名「『TENA』と呼ばれる地下組織で、世界的に暗躍している国家的な犯罪集団だ。
 日本をターゲットに活動を活発化させている」
真坂「・・・」
椎名「彼らの巨大な組織力に魅せられた失業者や若者達が訳も分からず奴らのメンバーに入会し、
 凶悪な犯罪に手を染めるんだ」
真坂「話が唐突すぎて、訳がわからん・・・」
椎名「我々は、政府からTENAの壊滅司令を受けている。シェンズは、江岐から情報を入手するため、
 彼の恋人に成り済ましていた。もちろん君が見張ってたことも承知の上でだ。ところが
 彼女がスパイであることをTENAの幹部に見破られ、江岐が連れ去られたんだ」
真坂「で、江岐はどうなった?」
椎名「(お茶を啜り)・・・昨日、死体で発見された。君の命も心配してたんだぞ」
真坂「どうしてあんたが俺の心配なんかしてくれるんだ?」
椎名「君は、シェンズと関わったせいで彼らに目をつけられている可能性がある」
真坂「この家業やってるとそんなことしょっちゅうだ。調査してた女の不倫相手に
 半殺しにされかけたことだってあるし」
椎名「暫く我々の元で大人しくしてるんだ」
真坂「それはできない。次の仕事も控えてるんでな」
椎名「じゃあ、ここを出る前に一つ約束を守ってもらいたい。シェンズとここの事は、
 外部の人間に漏らさないで欲しい」
真坂「漏らしたら、どうなるんだ?」
椎名「我々は特別な権利を持っていてね。抹殺権というのを君に行使することになる」
真坂「(苦笑を浮かべ)冗談はよせよ」
  椎名、お茶を真坂の前に差し出し、
椎名「冗談になるかどうかは、君しだいだ。中国茶だ。健康にいいぞ、君も飲むかね?」
真坂「・・・結構」
  
○ 葵港・第3臨海埠頭
  倉庫から女と真坂が出てくる。
  真坂、倉庫をまじまじと見上げ、
真坂「どうしてこんな場所に本部なんか建てたんだ?」
女「都心部じゃあ目に付きやすいし、有事にあそこがやられちゃうと何もできないでしょ。
 ここなら誰にも目を付けられずカモフラージュすることができる。日本には他に7ヵ所の
 JWA地下施設が存在するわ」
真坂「日本政府にこんな発想力があるとは、思ってもみなかった・・・」
女「時代は、間違いなく変化してるわ。あなたにもいずれその時が来るかもね」
真坂「変化なんて、とっくの昔に終わってる。君、名前は?」
女「ディジア。JWAでのコードネーム。本当の名前は明かせないの」
真坂「彼氏いるの?」
ディジア「それも秘密」
真坂「(笑みを浮かべ)さすがスパイ。ガードが固いな・・・」
  ディジア、笑みを浮かべる。
 
○ 武羽探偵事務所前
  黄色いタクシーが歩道際に止まる。
  後ろのドアから真坂が降りてくる。
  事務所の入り口のドアを開き、中へ入る。

○ 同・オフィス
  真坂、辺りを見回すが誰もいない。
真坂「用心悪ぃな。皆出払ってんなら鍵ぐらい閉めとけよ」
  黒いソファに座り込み、煙草を吸い始める真坂。
  奥の資料室のドアがゆらゆらと開いてるのを漫然と見つめる真坂。
  真坂、立ち上がり、ドアを開け、中を覗き込む。

○ 同・資料室
  真坂、くわえていた煙草を落とし、驚愕する。
  床に手前から里見、高村、香織が倒れている。胸部から腹部にかけて無数の銃弾を浴び、
  大量の血が床にこびりついている。
  真坂が里見に近づこうとした時、黒いレザースーツを身に付けた男が表われ、
  マシンガンを真坂に向け発射する。
  真坂、咄嗟に身を伏せ、隣の部屋に飛び込む。
 
○ 同・入口前
  勢い良くドアが開き、真坂が飛び出してくる。
  真坂、全速力で繁華街の方に向かって走り始める。

○ 歩道を走っていた真坂の背後をRV車が猛スピードで突っ走ってくる
  真坂、RV車を見て、驚愕し、さらにペースを上げ、疾走する。
  RV車、激しくクラクションを鳴らしながら走行している。歩道に止まっていた
  自転車や盾看板などを次々と弾き飛ばしている。
  横断歩道を渡ってきた自転車に乗る子供とぶつかり、転倒する真坂。
  子供、地面に叩き付けられ、泣き始める。エンジンを唸らせながら迫ってくるRV車。
  真坂、起き上がり、子供を抱きかかえる。
  真坂にRV車が数メートルのところまで迫ってきた時、一台のグリーンのスポーツカーが
  別の方向から表われ、真坂達の前に立ち止まり、RV車の進路を妨げる。
  RV車、急ブレーキをかけ、スポーツカーにぶつかる寸前に立ち止まる。
  真坂達の前でスポーツカーの運転席のドアが開く。
  真坂、子供を抱きかかえ、咄嗟に車の中に乗り込む。
  真坂達が車に乗り込むとドアが自動的に閉まる。
  RV車の両方のドアが開き、二人の男が出てくると、スポーツカーに向かってマシンガンを撃ち始める。
  弾は、スポーツカーのボディに当たっているが次々と青い光を放ち、跳ね返されている。
  跳ね返った弾が一人の男に当たる。のけ反るように地面に倒れる男。
  もう一人の男、スーツのポケットから透明な青いプラスチック板を車に投げつけると、RV車に乗り込む。
  車をバックさせ、Uターンすると、そのまま走り去って行く。プラスチック板は、
  スポーツカーのボンネットの上に張り付く。
  暫くして、黄色く発光すると、大爆発を起こす。
  巨大な赤い炎が吹き上がり、一瞬にして車全体を包み込む。
  暫くして、炎が消え、傷一つもなく立ち止まっているスポーツカーの姿が露になる。

○ スポーツカー・車内
  運転席のシートに座り、子供を抱え塞ぎ込んでいる真坂。暫くして顔を上げ、周りを見回している。
  当たりには、RV車も人影もいない。
  車内を見回す真坂。
  目の前には、ハンドルのようなものはなく、ダッシュボードに張り巡らされた様々なシステムボードが見える。
  中央コンソールに4つの小型モニター、その下に数種類のボタンが並んでいる。
  フロントガラスに、緑色の方眼図が浮かび、地図のイメージが映し出される。
  呆然とその様子を見守る真坂。
  すると、突然、真坂の前で奇妙なパルス音が鳴り響き、袋状のものが膨らみ始める。
  暫くしてそれが『M』型のハンドルの形に変わる。
真坂「(圧倒されながら)いったいなんなんだ、こりゃあ・・・」
  右上のモニターに、男の姿が映し出されるが、画面はちらつき、見えにくい。男は、椎名である。
椎名の声「やはりまだまだ実験が必要だ」
  真坂、モニターを見つめ、
真坂「あんた・・・どうして?」
椎名の声「すまんが、車をこっちまで運んで来てくれないか?回線の状態が芳しくない。
オペレートコントロールでは、これ以上操作できん」
  真坂、緊張がほぐれ、シートにもたれると、大きく息を吐く。

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