『メトロジェノン』 BY ガース『ガースのお部屋』
パイロット サブタイトル「ウイルスコントロール」(2)

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  入口の扉が開き、真坂が表われる。憤然とした面持ち。
  監視オペレーターと談話している椎名。
  真坂、椎名に突進し、いきなり頬を殴りつける。のけ反るように倒れる椎名。
  制服を身につけたディジアとオペレーター要員達が椎名の前に集まり、椎名を起こす。
真坂「なんで俺をつけた?」
  椎名、殴られた頬を押さえながら、
椎名「・・・君は、すでに我々のセーフティーリストに登録されてる」
  監視モニターを指差す椎名。
  モニターに真坂が襲われた時のVTRが流されている。
椎名「君は、我々の実験用衛生で24時間監視下にある」
真坂「だったら、どうして事務所の連中も守ってくれなかったんだ?」
  オペレーターの男が真坂の胸倉を掴み、
男「(真坂を睨み付け)自分の命が助かっただけでもありがたく思え!」
真坂「助けてくれなんて頼んだ覚えはない」
  真坂、男の手を振り払い、踵を返すと、立ち去ろうとする。
  男、真坂の肩を掴み、顔を合わせると、いきなり、おもいきり腕を振り切り、真坂の頬を殴り飛ばす。
  真坂、床に勢い良く転がり込む。
男「だったら、さっさとあいつらに殺されちまえ!」
椎名「・・・やめろ、北!」
  男は、北(ほく) 一真(28)。
  椎名、立ち上がり、真坂の前に立つ。
椎名「あそこのモニターに映るのは、すべてセーフティリストに入る人物達だけだ。
 それ以外の人々を 守る義務は、我々にはない。私達は神様じゃないんだ」
  真坂、立ち上がり、
真坂「単なる浮気調査がこのざまだ。あんたらみたいなのに関わったせいで・・・」
  真坂、悔しげに唇を噛み締め、部屋を出て行く。
 
○ 同・通路
  足取り重く歩く真坂の背後からディジアがやってくる。
ディジア「どこ行くの?」
真坂「あんたに関係ない」
ディジア「表に出たら、殺されるわよ」
  真坂、足を止め、ディジアを睨み付ける。
ディジア「あなたは、TENAの暗殺リストに加えられてる可能性があるわ」
真坂「暗殺リスト?」
ディジア「TENAの秘密拠点は、数知れないわ。そのネットワークにあなたの
 データも流れてるかもしれない」
真坂「じゃあ、何もせずにじっと地下にこもってろって言うのか?・・・」
ディジア「暫くの間は・・・」
  真坂、意を決した表情で歩き出す。
  真坂を追うディジア。
真坂「・・・ケリは自分でつける」
ディジア「あなた一人で立ち向かえる相手じゃないわ。TENAのメンバーには、あなたには、
 想像もつかないような先進的な科学者だっているのよ」
  真坂、足を止め、
真坂「・・・関係ない」
  
○ 同・科学治療室前・通路
  真坂とディジアがガラス越しに治療室の中を覗いている。
  ベットで昏睡状態のシェンズの前に椎名が立ち、彼女の手を握っている。
ディジア「彼女の体内に入り込んだ弾丸の中に、『TERUBORAN』ウィルスが仕込まれてたの。
 弾丸は、溶解を始めてるわ」
真坂「取り出せないのか?」
ディジア「弾丸に少しでも触れたら、彼女の死期を早めるだけよ。弾丸が溶け終わるのに48時間かかる。
 撃たれてからすでに36時間経過してるわ・・・」
  真坂、悲しげな椎名の姿を見つめる。
  ディジア、真坂の目線に気づき、
ディジア「彼女は、総監の娘さんなの」
真坂「・・・」
ディジア「すでに数人のJWA要員がこの弾丸の犠牲になってる」
真坂「このまま黙って死ぬのを見守る気か?」
  ディジア、首を振る。

○ 同・オフィス
  監視モニターの一つに免疫細胞、抗体、ウィルスの相関図のイメージが映し出される。
  モニターを見つめている真坂とディジア。
ディジア「『TERUBORAN』ウィルスは、いくつかのウィルスの結合体よ。
 もちろん、このウィルスを破壊するワクチンも開発されてるわ。ところが、その研究所がTENAの
 殺人部隊に襲撃されて、ウイルスとワクチンを強奪された。唯一生き残っていた江岐は、中国にある
 自分の故郷から隠し持っていたワクチンを密航船で日本に運びこもうとしていたの」
真坂「じゃあ、ワクチンは日本にあるのか?」
ディジア「ところが、TENAの攻撃を受けて、ワクチンを積んでいた船が沈んでしまったのよ」
  監視システムのモニタリングをしていた北、システムのテーブルを拳で殴りつけると、
  突然立ち上がり、二人の間を割って、部屋から出て行く。
真坂「(北を見つめながら)なんだ、あいつ?」
ディジア「彼とシェンズ、総監に秘密でつきあってたみたい・・・」
真坂「スパイが社内恋愛したのか・・・」
 
○ 同・科学治療室前
  ガラス越しにシェネスのベッドを見つめている男。
真坂「中に入って手でも握ってやったらどうだ?」
  北、そばに来た真坂を見つめる。
北「そばにいても、彼女は助からない・・・」
真坂「案外冷たいんだな」
北「・・・あんた昔、刑事だったらしいな。なぜ辞めたんだ?」
真坂「…ちょっとしたヘマをやらかしてな」
北「俺も昔、交番勤務をしていた」
真坂「元警官か。どうしてここに?」
北「俺の捕まえた誘拐犯の男がTENAのメンバーだった。そいつを護送中に、同僚に襲われた」
真坂「同僚って?警官にか?」
北「そいつもTENAのメンバーだった。その時は、正直、何も信じられなくなった。だが、
 本署の命令でここのオペレーター員になってから、真実と向き合えるようになった」
真坂「奴ら、何が目的なんだ?」
北「奴らは、新手の妄信集団さ。世界を席巻して、自分達の妄想を実現させようとしてる。
 しかし、その思想の実体は、まだよく掴めていない」
真坂「あんたらの力で親玉をあぶり出すことはできないのか?」
北「数人の幹部の情報はあるが、潜伏場所を突き止めなきゃならない」
真坂「だったら徹底的に調査しろよ」
北「・・・ディジアを撃った奴の顔、見たのか?」
真坂「いや・・・」
  北、真坂の前を横切り、司令室のほうへ歩いていく。

○ 同・総監オフィス
  豪壮なテーブル奥の黒い椅子に椎名が座っている。
  テーブルの前に並んで佇む真坂と北。
椎名「うちの部内でまた新しい調査チームを作ることになった。しかし、予算の関係上、定員は2名・・・」
北「やらしてもらえるんですか?僕に」
椎名「そのつもりでここに呼んだ」
北「(真坂を一瞥し)でも、彼がなぜここに?」
椎名「彼は、君のパートナーだ」
北「本気ですか?彼は、まだ、ここのテストも訓練も受けてないんですよ?」
椎名「もちろん、後々やらせるつもりだ。うちからチームを作ると言っても、人員不足でな。幸い彼には、
 刑事をやってた前歴がある。即戦力になると思ってね・・・」
  北、真坂を睨み付けると、部屋から立ち去っていく。
  真坂、北の背中を見つめているが、暫くして椎名のほうを向き、
真坂「奴の言うことも一理あるな」
椎名「そんなに難しく考えるな。実際には、諜報活動と言うよりも普通の捜査活動だ」
真坂「どうして俺なんかにこだわるんです?」
椎名「実を言うと、前々から君のことは知ってた」
真坂「どうして?」
椎名「武羽さんだ。若い時、数年間刑事をやってた時代があってな。その時、
 武羽さんから刑事の仕事と生き方を学んだ。『何事も相手を信じることから始まる』・・・
 それが武羽さんの口癖だった」
真坂「おたくと武羽さんがね・・・」
椎名「武羽さんは、君のことを誉めてたよ。久々に優秀な人材と巡り会ったってな」
真坂「あの人は誉め上手だったからな・・・」
椎名「今回は、私の特別権限で、君を臨時諜報員の訓練生としてJWAに迎い入れる」
  真坂、複雑げに、顔を歪ませる。
真坂「・・・娘さんは、どうなるんです?」
  椎名、険しい表情になる。
椎名「誰から聞いた?」
真坂「お喋り上手な女性からです」
椎名「補佐官の癖に、口が軽くていかんな、彼女は・・・」
真坂「彼女が補佐官?まさか・・・」
椎名「私の実家は、代々茶畑をやっていてね。こんなことになるんなら、茶摘娘でもやらせとけば良かった・・・」
真坂「・・・」

○ 同・ガレージ
  薄暗い部屋に明かりが点る。
  円盤状の薄い鉄板の上に止まるグリーンメタリックのスポーツカーが照らし出される。
  照明がスポーツカーのボディを美しく輝かせている。
  入り口の扉が開き、ディジアとその後ろに真坂、北が並んで入ってくる。
ディジア「あなた達が今日から使う車よ」
  真坂、北、車を凝視している。

○ スポーツカー・車内
  運転席に北、助手席に真坂が乗り込む。
  まもなくして4つのモニターのうち右上に椎名が映る。
椎名「乗り心地はどうだね?」
真坂「なんか宇宙船の中にいるような気分で落ち着かない。(失笑)宇宙船には、
 まだ乗ったことはなかったな」
椎名「簡単に車について説明しよう。この車の名前は、『B―COA(ビーコア)』。
 J―HIが現代化学の水位を結集して完成させた21世紀型の特殊車両だ。私からの司令は、
通信システムを解してこの車で行なうことになるから、そのつもりで・・・」
真坂「とうとうこの国にもこんな物騒なものが走らなきゃならない時代が来たんだな・・・」
椎名「君もTENAの殺人部隊のやり口を見ただろ?」
  真坂、険しい目つきになり、
真坂「ああ」
椎名「エンジン出力765馬力、最高速度300km。ボディは、カーボンナノチューブを使った新素材で、
 戦車以上の完全装甲を実現した。マシンガンの弾や新型の爆弾の直撃を食らってもびくともしない。
 その他のシステムについては、彼に聞いてくれ」
  北、ハンドルの右横にあるスターターボタンを押す。
  クリーンな低音のエンジン音が鳴り出すと、ゆっくりと走り始めるスポーツカー。
  大型エレベーターに乗り込むと扉がゆっくりと閉まる。

○ 葵港・第3臨海地域・倉庫
  シャッターが開き、ヘッドライトを光らせたスポーツカーが勢い良く地上を走り出す。

○ スポーツカー・車内
  左下のモニターに破壊されたトロール船と巡視艇の残骸が映し出される。
椎名「今から君達には東京都知事の元へ向かってもらう。三日前、小笠原諸島近海で国籍不明の
 密航船と、それを追っていた日本の巡視船が何者かに襲撃された。現場でミサイルの破片が発見され、
 上空から攻撃を加えられたものと断定した」
真坂「まさか、戦闘機にでも撃墜されたのか?」
椎名「いや、海上保安庁と危機管理センターからの情報では、監視レーダーには、
 そのような戦闘機は確認されなかったそうだ」
真坂「じゃあ、何が?」
椎名「レーダーに感知されない最新型の攻撃ヘリだ」
真坂「どうしてそんなことがわかるんだ?」
椎名「昨夜、歌舞伎町のビルを攻撃したのはそのヘリだ。事件を起こす前、都庁のビルの前を飛んでいた」
真坂「日本にそんなものが持ち込めるのか?」
椎名「やつらは、複数の企業と結びついている可能性がある。彼らのネットワークと組織力を持ってすれば、
 ヘリを持ち込むことなどたやすいことだ」
  真坂、寡黙になる。
椎名「実は、そのヘリに100万人の致死量のある『TERUBORAN』ウイルスが
 仕掛けられている可能性が強くなった。奴らは、都知事を脅迫し、市民を人質に
 身代金300億円を要求している。君達の目的は、そのヘリの行方と首謀者を突き止めることだ」
真坂「なるほど、よくわかったよ」
椎名「そう言えば、君達にまだコードネームをつけていなかったな」
真坂「コードネームなんていらないよ」
椎名「君達の名前を国内外の敵にに曝すわけにはいかないんでな。北、君は『スターク』
真坂君のコードネームは、『サーフ』だ」
真坂「そんな洗剤みたいな名前やめてくれよ」
椎名「いや、君にはこのコードネームを使ってもらう。後は、彼に色々と教えてもらってくれ」
  椎名、手を振ると画面から消える。 

○ 巨大な高層ビル郡に向かって突き進むB―COA
 
○ 都庁・都知事室
  ソファに座る高浪。高浪と対峙するように真坂と北が座っている。
高浪「私と椎名は古い親友でな。かつて、学生闘争に共に参加してこの国の将来をよく語り合ったものだよ。
 だが、我々の想像に反して今のこの国の状況は、最悪だ・・・」
北「そのTENAの幹部とは、面識がありますか?」
高浪「いいや・・・」
北「ヘリのパイロットとどんなやりとりをされたんですか?」
高浪「身代金を払わなければ、この東京全都市に『TERUBORAN』をばらまくと脅された。
 正気の沙汰とは思えんな」
北「奴の指示に従わないおつもりですか?」
高浪「三百億もの大金をみすみす手渡すなんてできんよ。そんなことするぐらいなら、
 逼迫した財政の資金に当てる。それに、要求を飲めば、奴らに屈することになる。テロ行動に対しては、
 あくまで戦う姿勢を見せなければならん」
北「しかし、歌舞伎町の事件をご存知でしょ?奴らは本気です。大勢の市民が
 犠牲になる確立は高いんですよ」
高浪「私だって人間だ。正直言ってTENAは、恐ろしいよ。だが、リスクは背負わんとな。指示に従えば、
 この国を奴らに売り渡すことになるからな」
真坂「さすが一本気のある都知事だ」
高浪「実は、今朝も奴らから連絡があってな。一時間後に、ある公園に来るよう呼び出されている。
 そこでもし私が身代金を渡さなければ東京だけでなく、日本中にウイルスをばらまくと言ったそうだ・・・」
  息を飲む真坂と北。

○ 都内・公園前
  歩道脇に止まるB―COA。

○ B―COA・車内
  コンソール上のデジタルタイマーが『8:04:13』の数字を表示している。
  運転席に座る北。タイマーを凝視している。助手席に真坂が座っている。
  真坂、助手席のグローブボックス部に設置された引き出し式のケースを開く。
  中に置かれているガバメントを取り出す。ジャケットのポケットからマガジンを取り出し、
  ガバメントに装着し、左の腰につけたホルダーにしまう。
  真坂、グローブボックスを覗き込む。中に腕時計のようなものが見える。
  北、真坂の視線に気づき、
北「JWA専用の通信機『レギオ・ウォッチ』だ。それも携帯しておけ」
 真坂、レギオ・ウォッチを右の手首につける。
真坂「結局、身代金払うんだな。誉めて損した・・・」
北「そうでもないみたいだぜ」
  コンソール中央の4つの小型モニターに公園内の各部分の映像が映し出されている。
  トイレ付近、噴水前の植え込み、木陰、ベンチにそれぞれスーツや私服を
  身に付けた恰幅の良い男達が立っている。
真坂「警視庁の連中もいるじゃないか」
北「みたいだな」
真坂「じゃあ、俺達は、用無しって事か?」
北「彼らは、相手がTENAだとは気づいてない」
真坂「じゃあ、奴らは、俺達の存在も知らないのか?」
北「知ってるのは上層部のごく一部の人間だけだ。『TENA』には絶対俺達の
 組織のことをばらすわけにはいかないからな」
真坂「全く、おめでたい連中だこと」
北「お前に一つだけ忠告しとく」
真坂「なんだ?」
北「俺の指示に忠実に従って行動しろ」
  真坂、失笑し、
真坂「・・・仕切り屋宣言か。ヤだね。フェアに行こうぜ」
  北、真坂の蟀谷に銃口を押しつける。
真坂「(呆れた顔で)なんてマネするんだ?おまえは・・・」
北「シェンズを助けるのに、もう8時間しかない。余計なマネしたら、ブッ殺す」
  真坂、険しい目つきになり、
真坂「抹殺権ってのは味方にも行使できるのか?俺だってあいつらには、お前以上にムカついてんだよ!」
  睨み合う二人。
  左下のモニターが緑と青の点滅を始め、
  『CHAEK CODE』と言う赤い文字が浮かび上がる。画面を見つめる二人。
  北、モニター下の『SEACH』ボタンを押す。
  画面には、公園脇の路上に止まった4WDが映る。そして、その画面に登録ナンバーの数字が重なる。
真坂「何が起きたんだ?」
北「この車は、自分に攻撃を加えた犯罪者を記憶してる。どうやら、お前を襲ったRV車と
 ナンバーが一致したようだ」
  真坂、モニターを凝視する。
  モニター画面。黒いコートを着た男が車から降り、歩道を越え、公園内に入る。
北「行くぞ」
  北、シフト・レバーを引き、アクセルを踏み込む。
   
○ 公園内
  数十人のSPの男達に囲まれた高浪が噴水前に姿を表わす。左手に黒いケースを持っている。
  噴水前には、サラリーマン風の男、若いカップル、子連れの女性達が歩き回っている。

○ 公園入口前に止まるRV車
  中から青年風のジーパン姿の男が降りる。顔は見えない。黒いケースを右手に持ち、
  公園のほうに歩いて行く。

○ RV車の後ろに止まる車の後ろにB―COAが止まる。
  両方のドアが開き、中から北と真坂が出てくる。

○ 男の主観
  噴水付近の様子を窺っている男。
  男、高浪達にマシンガンを向ける。

○ 植え込みに身を隠す北と真坂
  茂みから男の姿を確認する。
  男のそばに二人の警官とその後ろを数人の捜査員が近づいている。
  男、警官達に気づくと、そこへ銃口を向け、マシンガンを連射する。
  激しく飛び交う薬莢。
  体中に弾丸を浴び、血飛沫を上げ次々と倒れていく警官と捜査員達。
  男、すかさず高浪達のほうへマシンガンを向ける。
  高浪の周りにいたSP達が激しく銃弾を浴び、次々と倒れる。
  高浪も体にいくつもの風穴が開き、その場に倒れ込む。
  女性達の喚き声と子供の泣き声が響き渡る。
  北、ホルダーから黒のベレッタM92Fを引き抜く。 
  北と真坂、一斉に身を乗り出し駆け出すと両手で拳銃を構えながら、男の背後に近づいて行く。
北「動くな」
  男、撃つのをやめる。
真坂「一発でも撃ってみろ。即あの世行きだぞ」
  男、二人のほうに顔を向ける。
  真坂、驚愕する。
  男は、松川である。
  松川、真坂の顔を見つめ、薄笑いを浮かべる。
  真坂、足を止める。
  北も足を止め、真坂のほうに顔を向ける。その瞬間、松川、咄嗟にマシンガンを二人に向ける。
  真坂、北の体にタックルする。地面に倒れ込む二人。銃弾が二人の前を跳ねる。
  逃走する松川。
  真坂、顔を上げ、信じられないと言う面持ち。
  二人、うつ伏せで倒れている高浪に近づいて行く。
  北、高浪を抱き起こす。しかし、その男は、高浪に似ているが別人である。
北「違う、ダミーだ」
真坂「都知事じゃないのか?」
北「どうやら、俺達も一杯食わされたようだな・・・」
  二人、一斉にB―COAのほうに向かって走り始める。

○ B―COA車内
  運転席に北、助手席に真坂が乗り込む。
  北、シフトレバーを『D』に入れ、アクセルを強く踏み込む。

○ 急発進するB―COA

○ B―COA車内
  センターコンソールの設置されている『SCAN』ボタンを押す北。
  モニターに付近の半径5kmの地図が表示され、ある路上を赤い点滅が動いている。
真坂「俺もお前に言いたいことがある」
北「何だ?こんな時に・・・」
真坂「さっきの男は、俺の友人だ・・・」
北「本当か?」
真坂「ああ・・・」
北「きっとモニターにさっきの男の顔が映っているはずだ。JWAの重要犯データベースに
 アクセスして照合してみよう」
  右下のモニターに公園内でマシンガンを構える男の横顔がズームアップされる。
  男の正面の顔が映ると、画面は、縦分割され、右側に容疑者リストの顔が素早くサーチされる。
  松川の顔が画面に映り、リストの文面が左下のモニターに表われる。
  真坂、それをまじまじと読んでいる。
真坂「3件の傷害事件と2件の殺人容疑だと?いずれもTENA絡み・・・嘘だろ?」
  愕然とする真坂。

○ 国道・大通り
  猛スピードで周りの車をジグザクで追い抜いていくRV車。
  目の前の交差点の信号は赤。RV車、さらに加速する。

○ 同・交差点
  飛び出していくRV車。横切って来たタクシーと衝突するが、タクシーを弾き飛ばし、
  そのまま走り去って行く。
 
○ 国道大通り
  猛スピードで走行しているB―COA。

○ B―COA車内
  北、ハンドルに設置されている『SIGNAL JACK』のボタンを押す。

○ B―COAのボンネット上の突起した部分につけられた電光板が青く光る

○ 同・交差点
  信号が点滅信号に切り変わる。
  立ち往生している車と白い煙を履くタクシーの前をジグザグに擦り抜けていくB―COA。

○ B―COA車内
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスに透明のスクリーンが投影される。方眼軸が浮かび上がると、
  500m先を走っているRV車を捕捉する十字の点滅が表示される。
  北、ハンドルに設置されている『COB』ボタンを押す。
  
○ B―COAの前バンパー両側の窪みからオレンジ色のボールが2つ同時に発射される
  ボールは、RV車の後ろのタイヤ両方に辺り、ガム状にへばり着く。
  暫くして、小さな爆発が起こり、タイヤがパンクする。

○ 歩道橋の前の路上駐車の車に突っ込むRV車
  運転席から松川が降り、全速力で走り始める。
  その後ろをB―COAがゆっくりと追う。

○ B―COA車内
  松川がウインドゥに向かってマシンガンを撃っているが、弾は、不思議な音を立てながら跳ね返され、
  びくともしていない。
  北、ハンドルに設置されている『SHOCK』のボタンを押す。
  ボンネット上の突起した部分に設置された噴出し口から高密度圧縮空気弾が発射され、空中を伝わり、
  松川の背中にヒットする。松川の体に衝撃がほとばしる。
  松川、ショックで、前のめりにその場に倒れ込む。
 
○ B―COAが倒れた松川の真ん前で立ち止まる
  真坂、車から降り、松川に近づき、体を抱き起こす。
  松川、暫くして目を覚ますと、スーツのポケットから青いプラスチック板型の
  爆弾を取り出し、真坂の顔の前に近づける。
松川「(プラスチック板を握り締め)この爆弾は、38度以上の熱を与えると爆発する。
 俺と一緒に木端微塵になるか?」
真坂「お前に死ぬ勇気があるなら、やれよ!」
  松川、プラスチック板を強く握る。真坂、咄嗟に、松川の腕を捻る。それを奪い取り、
  自分のジャケットのポケットに仕舞い込む。
松川「お前、また刑事に復帰したのか?」
真坂「今はまだ、日雇いバイトさ」
松川「お前が殺人リストの候補になってるのを知った時は、正直驚いた・・・」
真坂「(松川の胸倉を掴み、怒りの表情で)・・・驚いたのはこっちのほうだ。いつから
 TENAのメンバーになった?」
松川「知事の暗殺に成功したら、三千万の報酬が手に入るんだ・・・」
真坂「そんな汚いマネしてまで金が欲しかったのかよ」
松川「欲しいね。俺だけじゃない。借金を抱えた奴や貧乏人は、わんさかいるからな。
 今まで夢も希望も見えなかった連中が、一攫千金を狙って、TENAの殺人部隊に群がってくる。
 俺じゃなくても誰かがやる・・・」
真坂「俺の事務所を襲って、いくらの報酬をもらった?」
松川「やつらがお前の仲間まで殺すとは思わなかった・・・」
  悲愴な表情ながらも、薄笑いを浮かべる松川。
  真坂、松川の頬を勢い良く殴りつける。
真坂「クソ野郎!」

○ 国道を疾走するB―COA
 
○ B―COA・車内
  運転席に北、助手席に真坂が座っている。
  右上のモニターに犯罪者リストのデータが映り出される。画面の左側に田池の写真が浮かび上がる。
北「田池満。戸丸急送株式会社の社長だ」
真坂「こいつが今度の事件の首謀者か?」
北「奴はヘリを操縦する資格を持っていない。パイロットは別にいる」
真坂「運送会社の社長までがTENAのメンバーとはな・・・」
北「TENAはどこにでも寄生虫のように蔓延っている」
真坂「いったいどれぐらいの企業がTENAと関わっているんだ?」
北「過去の犯罪記録では、数百社ぐらいだが、水面下では、もっとあるはずだ。下っ端の社員には、
 自分では気づかず、TENAに利用されているだけの奴もいる」
真坂「要するに、ゴキブリ並みにあちこち張り付いてるってことか?」
北「どうやらTENAの恐ろしさが理解できてきたようだな。だが、これはほんの序の口だ」

○ 戸丸急送株式会社・入口前
  激しく行き交うトラック。
  B―COAが通り抜け、構内に入って行く。
 
○ 戸丸急送株式会社・社長室
  警備員の男がドアを開け中に入ってくる。その後に北と真坂が並んで入ってくる。デスクに座る田池。
田池「警視庁の特別捜査員だと?」
  田池の前に立つ二人。
北「あなたが、歌舞伎町の事件に関与していると言う有力な情報を掴みましてね」
  田池、呆気にとられ笑っている。
真坂「笑って誤魔化すな、ブタ!」
田池「(真坂を睨み付け)名誉毀損で訴えるぞ!」
北「松川と言う男を知ってるだろ?」
田池「松川?」
真坂「そいつが全部喋ったんだ。お前らのことを洗いざらいな・・・」
田池「証拠は?礼状はあるのか?」
  北、田池の後ろの棚のガラスに映る人影に気づく。
  開いた入口の扉の隙間からオートマティックの拳銃を持った男の姿が見える。
  北、透かさず真坂の体を引き寄せ、その場に突っ伏す。
  銃声。弾丸がデスクを貫通する。
  北、真坂、ソファの後ろに逃げ込み身を隠す。すかさず、一斉に立ち上がり、同時に銃を連射する。
  田池、デスクの下からマシンガンを取り出し、二人に向け発射する。
  辺りに弾丸が炸裂する。
  二人、咄嗟に弾を躱し、床に倒れ込みながら、田池の足に向けて銃を撃ち込む。
  二人の弾丸が同時に田池の両足に当たる。田池、マシンガンを天井に向け、
  暴発させながらその場に倒れ込む。
  真坂、立ち上がり、田池のそばに行くとマシンガンを取り上げ、田池の胸倉を掴み上げる。
  北、駆け足で部屋から出て行く。
真坂「『TERUBORAN』ウイルスのワクチンはどこだ?」
田池「お前、何でその事を?」
真坂「いいから場所を言え!」
田池「知らん」
  真坂、田池の額にマシンガンの銃口を押し当て、
真坂「生憎、俺達は、警察じゃないんだ。凶悪な犯罪者には、抹殺権を行使することができるんだぜ・・・」
田池「そんな権利聞いたことがない。お前らいったい何者?・・・」
  真坂、怒りを込み上げ、田池を睨み付ける。田池、戦慄する。
  真坂、引き金を引く。鳴り響く銃声。

○ 同・地下駐車場
  拳銃を構えながら、辺りを見回す北。
  北の背中に強い閃光が当たる。
  北、振り返る。光を遮りながら、前を見つめる。
  ヘッドライトを照らしたRV車が北に向かって突っ込んでくる。
  北、RV車とぶつかる寸前で路面に転がり、車を躱す。すかさずしゃがんだ姿勢で車に銃口を向け、
  引き金を引き続ける。
  RV車のトランク部の扉に銃弾が貫通している。
 
○ 同・入口
  路上に滑り込み、スピードを上げ、疾走するRV車。

○ 同・駐車場
  B―COAの前にかけつける真坂と北。
北「田池はどうした?」
  二人、同時に車のドアを開け、中に乗り込む。

○ B―COA車内
  運転席に北。そして助手席に真坂が座る。
真坂「殺した」
北「バカ!奴は、TERUBORANのワクチンの在処を知ってたかもしれないんだぞ!」
真坂「あいつはただの輸送係。首謀者は、白岩って男だ」
  真坂、ジャンパーの中から一枚のDVD―Rを取り出す。
真坂「この中にヘリの設計図のデータが入ってる。ワクチンは、ヘリの中だ」
  北、真坂の持っていたDVD―Rを手に取り、コンソールのモニター下に設置してある
  DVDドライブに差し込む。
  右下のモニターに画像ファイルのメニューが映し出される。
  北、ドライブ横につけられているボタンを操作し、画像をモニターに映し出す。
  ヘリの正面、横、上、下のデザインが次々と映し出されていく。
  左下のモニターに文章データが映し出される。
北「ヘリの名前は『MANMOS―117』。TENAが独自に開発した最新型の武装ヘリだ。
 新型D―MAYミサイル20基を装備している」
真坂「こんなヘリ、どこで作ったんだ?」
北「先月、うちの諜報員がロシアのある工場に潜入した時に、ヘリ製造用の大型機械を発見した。
 MANMOSの一部の部品は、そこで作られた」
  右上のモニターに白岩のリストが映る。
北「白岩は、5年前まで海上自衛隊の輸送ヘリのパイロットをしていた。だが覚醒剤常用の罪で逮捕され、
 自衛隊も首になっている・・・」
  北、データを見つめ、驚愕し、
北「こりゃぁ、まずいぞ」
真坂「何が?」
北「白岩は、殺人部隊の中の特殊部門ジェノサイド部隊の一員だ」
真坂「何だ?そのジェノサイド部隊って?」
北「大量虐殺を屁とも思わない連中の集まりの事さ」
  北、左上のモニターの電源ボタンを押す。画面に地図が映り、赤い点滅が道路上を動いている。
真坂「この画面は?」
北「逃走車に撃ち込んだ弾丸には、発信器が内蔵してあるんだ」
真坂「・・・やるね」
北「当たり前だ」
  タイマーが『4:58:12』を表示している。
  北、スターターボタンを押し、エンジンをかける。

○ 同・入口
  クリーンな低音を響かせ、B―COAが路上を疾走し始める。

○ とある山の中腹
  廃虚と化した雑居ビルが軒を連ねる。

○ 雑居ビル・屋上
  中央に『MANMOS―117』が止まっている。
  黒と白のゼブラ模様のパイロット・スーツを身に付けた白岩が片手にヘルメットを持ち、
  ヘリの前に近づいていく。
  白岩、ヘリを見上げ、ボディを叩き、
白岩「おまえは、もうすぐ歴史的瞬間を作る・・・」
  白岩、高笑いしながらヘルメットをかぶり、扉を開け、操縦席へ乗り込む。
    ×  ×  ×
  メインローターがゆっくりと回転を始める。
  テールローターの回転が急速に上がっている。
    ×  ×  ×
  ゆっくり浮き上がるMANMOS。少しずつ高度を上げ、500mの上空まで浮き上がると、
  水平飛行を始める。

○ 山道
  S字の道を猛スピードで疾走するB―COA。
 
○ B―COA車内
  警告アラームが鳴り響き、右上のモニターにレーダー画面が映し出される。
真坂「今度は、何の警告だ?」
北「JWA専用衛生からの映像だ。この付近半径1km以内の上空に飛行物体がいる・・・」
真坂「白岩のヘリか?」
  真坂、辺りを見回している。
  北、全モニターをカメラ映像に切り替え、周辺の空を映し出す。
  真坂、北の空のほうを見つめ、
真坂「いた!」

○ 真坂の主観
  山の頂上付近から姿を表わすMANMOS。スピードを上げ、巨大なビル群が立ち並ぶ都心に
  向かって飛んで行く。

○ 180度ターンするB―COA
  来た道を逆戻りして、ハイスピードで走行を始める。
 
○ 都心の上空を飛行するMANMOS
  
○ 国道を疾走するB―COA
  住宅街や雑居ビルがひしめく通りをスピードを上げ走行している。
 
○ MANMOSコクピット内
  ヘルメットに装備されたピンマイクに向かって喋り出す白岩。
白岩「東京都心部に拠点を置くTENAメンバーに継ぐ。
 今からコード306を実行する。直ちに準備を始めろ・・・」
  白岩、真ん前を向き、険しい目つきになる。

○ 都庁のビルに近づいていくMANMOS
  MANMOSに対峙するように、もう一機の小型ヘリが近づいてくる。
 
○ 小型ヘリ・コクピット内
  後ろの座席に座る男が身を乗り出し、テレビカメラをMANMOSに向けている。  

○ MANMOSコクピット内
  手前を飛行する小型ヘリを見つめ、嘲笑う白岩。
白岩「へなちょこが。勝手に俺のヘリを映すな!」
  白岩、右目のバイザーを下ろし、ターゲットを捕捉する。
  バイザーの熱レベル映像。小型ヘリの全体像が映っている。ヘリに乗る男が
  持つテレビカメラに照準を合わせる。
  白岩、レバーの『BOM』ボタンを押す。

○ MANMOSの右側のミサイルポッドからミサイルが発射される
  ミサイルは、一瞬で小型ヘリに命中。
  オレンジ色の巨大な爆炎が空に広がる。
  ヘリの残骸が地上に落ちていく。
 
○ 住宅街にヘリの残骸が降り注ぐ
  喚き声を上げながら、逃げ惑う歩行者達。そこへB―COAが表れる。
  B―COA、落ちてくる残骸を避け、ジグザクに進んでいる。
 
○ B―COA車内
北「奴はここでウイルスを散蒔く気だ」
真坂「どうする?」
  北、困惑しながらモニターに映るMANMOSの映像を見つめている。暫くして何かを閃き、
 
○ 急ブレーキで路上を数メートル滑りながら立ち止まるB―COA
  丁度、ヘリの真下の位置に止まっている。

○ B―COA車内
  北、ハンドルの左そばに設置されたシステムボードの『WIRE』ボタンを押す。

○ B―COA前バンパーのフレームが開く
  格納庫からフックのついた太いワイヤーが猛列な勢いで上空に向かって飛び出す。

○ B―COA車内
  モニターにB―COAとMANMOSのイメージが映し出されている。
  ワイヤーを示す白いマークがMANMOSのイメージに近づく。
 
○ MANMOSの着陸装置のソリにフックが絡みつく

○ B―COA車体内のウインチが作動する静かなモーター音を鳴らしながらがゆっくりと
   ワイヤーが巻かれている
 
○ MANMOSコクピット
  怪訝な表情の白岩。高度計を見つめている。針が少しずつ下がっている。
白岩「何だ、何だ、おい!」
  白岩、モニターに地上の映像を出力させる。B―COAの姿がはっきりと映し出される。

○ B―COA車内
真坂「向こうが俺達に気づいたら、ウイルスをばらまかれちまうぞ」
北「その前にヘリのシステムをショートさせてやる」
  北、システムボードの『V』ボタンを押す。
 
○ ワイヤーを伝って青白い電流が流れていく

○ MANMOSコクピット
  白岩の前の電子機器や、計器パネルのあちこちから火花が飛び散る。
  白岩が握っていたレバーにも電流が走る。白岩、思わず声を荒げ、レバーから手を離す。
白岩「俺のヘリになんてことしやがる、クソ!そんなに早死にしたいのか?」
  白岩、制御盤に設置された『CAPSULE』ボタンを押そうとするが、帯電し、触れることができない。

○ MANMOSがみるみる地上に引き摺り降ろされていく

○ B―COA車内
北「ヘリ底に設置されたカプセルは薄い皮膜で覆われていて、ちょっとした衝撃ですぐに壊れる設計だ」
真坂「よっしゃ!」
  真坂、ドアを開け外に出る。

○ MANMOSが真坂の目の前まで降りてくる
  真坂、ヘリの下に設置されているカプセルの表面のプラスチック板をおもいきり拳で殴りつける。
  プラスチック板は、脆く割れ、中から容器が落ちる。
  真坂、それを両手でキャッチする。
  真坂、ウイルスを睨み付けるように見つめている。
  真坂のレギオウォッチから北の声が聞こえる。
北の声「早く車に戻れ!」
  真坂、ヘリのコクピットを睨み付けると、容器をジャンパーの中にしまい、ヘリのソリに足を掛ける。
  ヘリのドアのウインドゥ越しから白岩を睨みつける真坂。

○ MANMOSコクピット
  真坂、扉を開けようとするが、開かず、拳で何度も窓を殴りつけている。
  白岩、真坂を見て、嘲笑うと、
白岩「甘いんだよ!バ〜カ!」
  白岩、レバーを握り、ヘリを水平発進させる。

○ 道路を一直線に猛スピードで突き進むMANMOS
  真坂、ヘリのソリに必死にしがみついているが、振り落とされそうである。
  ワイヤーがぐんぐんと引き伸ばされていく。
  B―COAのウインチ部から黙々と白い煙が上がっている。
  
○ B―COA車内
北「余計なことするなって言ったのに!」
  アクセルを踏み込む北。
 
○ 地上から5m浮いた状態で水平飛行を続けるMANMOS
  真坂、必死にヘリのソリにしがみついている。

○ MANMOSコクピット内
  目の前に都庁のビルが近づいてくる。
  白岩、システムボードの『MISSILE』ボタンを見つめ、
白岩「こうなったら、ビルを狙い撃ちだ!」
  白岩、ボタンを押し、ミサイルシステムの電源を立ち上げ、スタンバイ状態にする。

○ MANMOSの後をハイスピードで追っているB―COA
  MANMOSの前を走ってきた高級車がヘリを避けざまにバランスを崩し、横転する。
  その後ろを走っていたセダンが高級車に衝突し、大炎上する。
  B―COA、炎上する車のそばを横切る。

○ MANMOSに張り付く真坂
  ジャンパーからブルーの透明のプラスチック板型の爆弾を取り出し、ヘリの扉に張り付ける。
  真坂、ヘリのソリにぶら下がり、ドアから離れると、ホルダーから銃を抜き、
  プラスチック板に目掛けて銃を撃つ。
  大きな爆炎と爆音と共に、ヘリの扉が吹っ飛ぶ。
  MANMOS、爆発の衝撃により、機体が激しく揺れている。
 
○ B―COA車内
  フロントガラスに向かってヘリの扉が飛んでくる。
  北、思わず、身を屈める。
 
○ B―COAのルーフの上すれすれをヘリの扉が飛び去っていく
 
○ B―COA車内
北「あいつ、自分がウイルス持ってること忘れてやがる!」

○ MANMOSのソリにしがみつく真坂
  機体をよじ上って、開いた扉口から中へ乗り込む。

○ MANMOSコクピット
  白岩の隣の席に座る真坂。白岩に銃を向ける。
真坂「ヘリを降ろせ!」
白岩「やだね」
  真坂、引き金に当てている指に力を入れる。
白岩「やれるもんならやってみろ。お前も道ずれだ」
  真坂、辺りを見回し、後部座席に回り込む。
  座席下に置かれた黒いケースを発見する。
  中を開ける真坂。中には、大きな容器に入ったピンク色の溶液がある。
真坂「TERUBORANウイルスのワクチンだな!」
白岩「だったら、なんだ?」
  真坂、レギオウォッチに向かって喋り出す。

○ B―COA車内
  スピーカーから真坂の声が聞こえる。
真坂の声「喜べ、ワクチンの入った鞄を見つけたぜ」
北「前方を見ろ!ヘリを止めるんだ」

○ MANMOSスピードを落とす
  800m先に都庁のビルがそびえ立っている。

○ MANMOSコクピット
  真坂、白岩に銃を向けながら後部席の黒いケースを掴み取る。
  白岩、真坂を一瞥し、ほくそ笑む。
白岩「おい、俺の指を見てみろ!」
  白岩、『MISSILE』ボタンの前に指を当てている。
  真坂、白岩を睨み付ける。
白岩「無駄な努力ご苦労さん。これでジ・エンドだ」
真坂「パイロット崩れがいい気になってんじゃねぇよ」
白岩「役立たずの役人の代わりに、この国を変えてやろうとしてるだけだ」
真坂「変えるんじゃない。滅亡させる気だろうが?」
白岩「往生際の悪い人間が多いんだよ。おまえみたいなのがな・・・」
真坂「おまえ、一度医者に見てもらった方が良いぞ」
白岩「ほほぉ、俺は、極めて普通の人間だ。狂ってるのは、この国だ。だから予防注射を打ってやるのさ。
 ちょこっと痛いが、一瞬ですっきりする」
  真坂、フロントウインドウ越しに見える都庁のビルを見つめる。ビルがどんどん目の前に迫ってくる。

○ B―COA車内
  北、また『V』ボタンを押す。

○ B―COAから出たワイヤーに青白い電流が走る
  MANMOSのソリに電流が伝わる。

○ MANMOSコクピット
  電子パネルからまた火花が上がる。白岩、思わずボタンから指を離す。
  瞬間、真坂、白岩の胸倉を掴み、顔面をおもいきり殴りつける。
  白岩、反撃し、真坂の顔を肘で何度も殴りつける。
 
○ MANMOSの外から放り出される真坂
  地面に叩き付けられ、微動だにしない。

○ B―COA車内
  北、路面に倒れている真坂を見つめ、
北「(絶叫し)白岩!」
  北、発狂し、アクセルを踏み込む。

○ スピードを上げ、突進するB―COA
  ヘリからフックを切り離し、MANMOSにどんどん迫っている。

○ B―COA車内
  北、ハンドルの中央に設置されているボールを指で動かす。ボールが緑色に光る。
  フロントガラスに跳躍角度メーターが表示される。北、ボールを動かし、三十度にセットし、
  『MICRO JED』のボタンを押す。

○ B―COAのフロント部の下に設置された噴射口が火を吹く
  B―COAのボディが30度の角度で浮き上がる。猛烈な勢いで横を向いた
  MANMOSの機体に向かって飛んで行くB―COA。
  B―COA、MANMOSに激突し、MANMOSの機体を貫く。
  B―COAの背後で、キャビンに穴の開いたMANMOSが巨大な炎を上げ、大爆発を起こす。
  B―COA、路上に着地すると、180度ターンし、路上で炎上するMANMOSの残骸を擦り抜ける。
  真坂の前で立ち止まる。
  運転席のドアが開き、北が降りてくる。
  真坂の体を起き上がらせ、声をかける北。
北「おい、しっかりしろ!」
  気絶していた真坂がうっすらと目を開ける。
真坂「頭がくらくらする・・・」
  北、慌てて真坂のジャンパーの中をまさぐり、中からウイルスの入った容器を掴み取る。真坂、容器を見つめ、
真坂「案外丈夫なんだな・・・」
北「ワクチンの入った鞄は?」
真坂「・・・やべぇ、ヘリの中だ!」
  慌てて起き上がる真坂。
  北、真坂、血相を変えて、燃え盛るMANMOSに向かって走り始める。
  散らばった残骸の周囲を見回す二人。
  路上に横たわった黒い鞄を見つける。
  中を開ける北。
  ウイルスのワクチンの入った容器を取り出す。
  北、真坂、顔を合わせ、万遍の笑みを浮かべる。
北「丈夫な鞄で、良かった・・・」
真坂「ほんと・・・」
北「『ほんと』じゃねぇよ。余計なことしやがって」
真坂「こっちは、死にかけ寸前だったんだぜ」
北「自業自得だ」
  北、腕時計のタイマーを見つめる。『0:10:09』を表示している。
北「急ぐぞ」
  二人、B―COAに向かって走り出す。

○ JWA・治療室
  ベッドに横たわるシェンズに白いシートが被されている。
  ベッドの前で佇み、黄色い菊の花を置く椎名。
  椎名の頬に涙が伝う・・・。
 
○ 同・治療室前
  赤く目を腫らしたディジアが佇んでいる。北と真坂が駆け足でやってくる。
  北、ディジアの表情を見つめ、ガラス越しに見える治療室のベッドを覗き見る。
  北、息を切らし、
北「どうして?・・・」
ディジア「予定より30分以上も早く弾丸が溶けてしまったの・・・」
  北、愕然とし、その場にひざまずく。
  真坂、呆然と目を瞑り、天に顔を向け、発狂じみた声を上げる。
  北、項垂れたまま、微動だにしない。
  意気消沈とする三人・・・。

○ JWA・隔離室(数日後・夕方)
  薄暗い部屋の中央に巨大な透明のタンクが設置されている。タンクの中の緑色の
  液体に裸のシェンズが入っている。
  シェンズの体中にたくさんのチューブがつけられている。
  タンクの前に椎名が立つ。椎名、シェンズを見つめている。暫くして、そばにディジアが近づいてくる。
ディジア「総監・・・」
椎名「(ディジアを見つめ)AI技術のテスト素材がいるんでな・・・」
ディジア「シェンズを実験材料に?」
椎名「科学技術の発達に貢献できるんだ。彼女も文句は言うまい・・・」
ディジア「・・・」
 
○ 葵港・第3臨海埠頭
  汽笛を鳴らしながら航行していくフェリーに隠れていた夕陽が姿を表わす。
  岸壁に立つ北、夕陽を真向から浴びている。
真坂の声「黄昏たい気持ちはわかるけど、ちょっと陽射しがきつくないか?」
  北、振り返る。北の背後に真坂が立っている。
  北、真坂を一瞥すると、また夕陽を見つめる。
  真坂、沈んだ面持ちで、
真坂「事務所の仲間の墓参りに行ってきた。遺影を見てたら、あいつらの魂の叫びが聞こえてきた・・・」
北「・・・」
真坂「JWAの採用試験を受ける」
北「・・・仇討ちのためにか?」
真坂「ああ・・・」
  北、冷めた眼差しで真坂を見ている。
北「お前と組むのは、もうごめんだ」
  北、真坂の前を横切り立ち去って行く。
  真坂、振り返り、険しい眼差しで北の背中を見つめている。
真坂「一人で十分だ。パートナーなんかいらねぇよ・・・」
 
                                                 ―THE END―

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