『メトロジェノン/シーズン2 エピソードU
TENA CODE014 「デストラフィック」

BY ガース『ガースのお部屋』

○ コンビニ(深夜)
  パンコーナーの前で品出しをしている真坂和久(32)。
  雑誌コーナーの前でちょろちょろと動き回る4人の若者達。
  1人は、雑誌を読みながら携帯で話をしている。
  真坂、険しい面持ちで若者達を見つめるが、躊躇う。
真坂「またトラブったら、しゃれにならんしな…」
  突然、明かりが消え、店内が暗闇に包まれる。
  呆然と立ち竦む真坂。
  暫くして、照明がつく。
  雑誌コーナーを見つめる真坂。
  若者達が消えている。
  真坂、怪訝な面持ちで、雑誌コーナーの前に向かう。
  棚に並んでいた雑誌が何冊か消えている。
  ドリンクが並ぶ冷蔵庫の扉が開いたままになっている。
  お菓子のコーナー、床に菓子の袋が散乱している。棚の商品がごっそりなくなっている。
  真坂、愕然とし、急いで店内を出て行く。

○ 同・店前
  駐車場の真ん中に立ち、辺りを見回す真坂。
  人の姿はなく、目の前の道を車が空しく横切っている。
真坂「クソ!」

○ 同・事務所
  壁時計。深夜の『3:14』を差している。
  若い店員・神原(22)と対峙する真坂。
  憮然としている神原。
  しょぼんと俯く真坂。
神原「被害金額、ざっと見積もっても3万ぐらいになりますよ」
真坂「さっき店長に連絡したよ」
神原「いくら停電したからって、それまでにきちんと対応していたら、こんな事にはならなかったでしょ?」
真坂「ああ言う奴らは、ほっとけばいいって言わなかったっけ?この前…」
神原「あれはあれ。今回とは、別問題ですよ」
  溜息を吐き、部屋を出て行く神原。
  項垂れる真坂。

○ マンション2階・201号室・真坂の家(翌日・朝)
  電子レンジの音が鳴る。
  扉を開け、中からたまごパンを出し、食べる茂(7)。
  リビングでうつ伏せで眠っている真坂を見つめる茂。
  大きな鼾が聞こえる。
  茂、寡黙にパンを食べている。
  ランドセルを背負い、部屋を出て行く茂。
  真坂、眠ったまま。

○ 倉庫地下・JWA本部・科学治療室前
  女性オペレート員の波本エナ(25)が中に入ってくる。
  ベッドの前で服を着替えている坂崎千春(25)。
エナ「何してるの?」
坂崎「仕事に戻る」
エナ「まだ、無理よ」
坂崎「こんなところにずっとこもってたら、病気になっちゃうよ」
  エナの前を横切り、入口のドアの前に向かう坂崎。
エナ「待って」
  立ち止まる坂崎。
エナ「あの事は、もう忘れた方が良い」
坂崎「…ロボットならボタン一つでデリートできるけど、人間は、そうはいかない」
エナ「あなたが損するだけよ。やっと、念願だったJWAの一員になれたのに…」
  坂崎、寡黙に部屋を出て行く。
エナ「坂崎君!」
  憂いの表情のエナ。

○ 同・総監オフィス
  デスクに座る椎名歩(あゆむ)(56)。
  デスクの前に立つ北 一真(31)。
北「新型防衛システムの輸送?」
椎名「政府は、秘密裏に、日本海側に新たな防衛基地の建設を計画している。すでに地下で工事が
 進められているが、この基地の最大の目的は、国内の最新技術を組み込んだ防衛システム『エアチェイス』の
 稼動を実現させる事にある」
北「エアチェイス?」
椎名「迎撃レーザーシテスムだ」
北「…」
椎名「長距離弾道弾の破壊もできるように設計された。その迎撃精度は、これまでのシステム
 よりも遥かに向上している。B―COAのメインディスクにスケジュールデータを入れといた。
 出発時間は、今日の午後0時、到着予定時間は、明日の午後0時だ。基地建設現場まで
 24時間、輸送トラックを護衛して欲しい」
北「了解しました」
椎名「坂崎のケガの状態は?」
北「波本が今確認を取りに治療室に行きました」
椎名「別のパートナーをつけよう」
北「いいえ。1人で十分です」
  入口の扉が開く。中に入ってくる坂崎。
  北の隣に立つ坂崎。
坂崎「ご心配をおかけしてすいませんでした」
椎名「大分顔色が良くなったな」
坂崎「もう平気です」
椎名「そうか。じゃあ、今から北と一緒に行動してくれ」
  唖然とする北。
北「総監…」
  北を凝視する椎名。
椎名「何か不服な事でも?」
北「…」
  
○ 小学校前
  下校する生徒達。
  校門から1人歩いて出てくる茂。
  前を歩く女の子達の集団。輪を作り、携帯を持ちながら、楽しそうに話をしている様子を見ている茂。
  茂の背後に迫る人影。
  茂、気配に気づき、後ろを向く。

○ レストラン・店内
  窓側のテーブルに座る茂と三原 葉菜美(22)。
  茂、テーブルに置いてあるメロンジュースに手をつけず、項垂れている。
葉菜美「久しぶりに会って緊張してる?」
茂「そんなことない」
葉菜美「私、仕事の帰りでさ。今通ってる訪問先の家が茂君の学校の近くだったからさ…」
茂「何の仕事してるの?」
葉菜美「ベビーサポーターってわかる?シングルマザーや共働きの人達が仕事をしている間、
 赤ん坊のお世話をする仕事なの」
茂「楽しい?」
葉菜美「まぁね。最初は、大変だったけど」
  呆然としている茂。
葉菜美「メロンジュース、好きだったでしょ?」
茂「…」
葉菜美「学校で嫌なことあった?」
  首を横に振る茂。
葉菜美「お父さんと喧嘩したの?」
  首を横に振る茂。
  携帯の着信音が鳴る。
  葉菜美、座席に置いていたバックの中から携帯を出す。
葉菜美「はい…ああ、どうもこの間は、お世話になりました。いいえ、今ちょうど終わって帰宅途中で…」
  茂、葉菜美の携帯をまじまじと見ている。

○ 国道
  車通りが少ない片側二車線の広い道路。
  先頭を走るB―COA。
  その後ろを、コンテナつきの白い大型トラック、さらにその後ろに護衛要員を乗せた
  黒のセドリックが走行している。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に座る坂崎。
  坂崎、フロントガラス越しに空を見つめ、
坂崎「そろそろ降りそうですね」
北「…」
坂崎「まだ、前のパートナーの事が忘れられないみたいですね。失礼ですけど、
 あの人のどこがそんなに良かったんですか?」
北「決して、優秀とは、言えなかったが、良い所もあった」
坂崎「何ですか?」
北「ブレないところさ」
坂崎「僕がブレてるって言うんですか?」
北「どうして真坂にあんな態度をとった?」
坂崎「性格が合わなかったんです」
北「あいつは、昔TENAに仲間を惨殺された。JWAにいた時は命がけでTENAの壊滅に全力を注いでいた。
 現実は、それを阻害しようとする力のほうが遥かに大きい。あいつは、あいつなりにそれにぶつかったんだ」
坂崎「負け犬の戯言ですよ」
  唖然とする北。
坂崎「あの人は、身を退いたんですよ。僕には関係のないことです」
北「…確かに、無理矢理あいつを引っ張り出した俺も悪かった。でも今度あいつの悪口を言ったら、
 おまえとは、二度とパートナーを組まない」
坂崎「…言い過ぎました。すいません」
北「…」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの電話が鳴り響く。
  座席に座る椎名。受話器を上げる。
椎名「私だ」
エナの声「おそらく防衛システムの輸送に関する事だと思いますが、総監にお話したい事があると言う
 男からの連絡が入っています」
椎名「何者だ?」
エナの声「名前を聞いても何も答えません」
椎名「わかった。つないでくれ」
  回線が切り替わる。電子音が鳴る。
椎名「もしもし、お電話代わりました。椎名です」
  中年ぐらいの男の声が聞こえてくる。
男の声「実は…ある場所でとんでもない話しを聞いてしまったんです」
椎名「どんな話です?」
男の声「今日の夕方、多賀野峠の橋で輸送車が襲撃されると…」
椎名「どこでその話しを聞いたんです?」
男の声「公園で寝ていたら、偶然通りがかった男が携帯で話しをしていまして…冗談だと思っていた
 のですが、聞いているうちに、随分具体的な地名や時間まで言っていたもので気になって…」
椎名「時間は?」
男の声「確か5時だと言っていました」
椎名「失礼ですが、お名前は?」
男の声「金木と申します」
椎名「金木さん。今すぐうちのものをそちらに行かせるので、あなたの居場所を教えてください」
金木の声「私は、大丈夫です。それでは、これで…」
椎名「あっ、ちょっと…」
  電話が切れる。
  椎名、回線の切換ボタンを押す。
椎名「どこからだ?」
エナの声「池袋付近の公衆電話です」
椎名「至急調査員を送れ」
エナの声「わかりました」
椎名「それと、今日の輸送ルートに多賀野峠の橋が入っているか、チェックしてくれ」
エナの声「はい」

○ マンション2階・201号室真坂の家・リビング(夕方)
  テレビの前に座る茂。アニメに夢中になっている。
  後ろを向く茂。真坂、布団に潜り込み、寝ている。
  茂、ランドセルを開け、中から新品の青い携帯を出す。
  嬉しそうに電源を入れ、ディスプレイを見つめている。
真坂「おい…」
  茂、慌てて携帯をランドセルの中にしまう。
  起き上がる真坂。
真坂「よく寝た…(時計を見つめ) うわっ、もう4時か…」
  茂、真坂を見つめ、
茂「今日、お仕事は?」
真坂「おお、おまえ帰ってたのか。仕事?今日は、休み」
  真坂、立ち上がり、茂のそばを横切り、トイレに向かう。
  茂、ランドセルを大事に抱えながら、また、テレビを見始める。

○ 山道
  黒い雲に覆われている空。
  緩やかなカーブ。ヘッドライトを光らせ走るB―COA。
  続いて輸送トラック、セドリックも進んでいる。

○ B―COA車内
  フロントガラスにポツポツと雨が当たる。
坂崎「そろそろ交代しましょうか?」
北「まだ、4時間しか運転していない。それより、油断するな。周辺をもっとよくチェックしろ」
坂崎「B―COAのボディは、戦車以上の強度を持っていると聞いています。この中にいれば、
 核ミサイルが落ちてきてもへっちゃらって事ですよね?」
北「奴らの目的は、B―COAじゃない。後ろのトラックだ」
坂崎「北さん達のコードファイルのアーカイブを読ませてもらいました。B―COAの記録も全て」
北「あまり過信するな。それに、この車は、デリケートなんだ」
坂崎「早く運転したいです。シェンズと話すには、どうしたらいいんです?」
  通信のアラームが鳴り響く。
坂崎「こちら、B―COA」
  スピーカーからエナの声が聞こえてくる。
エナの声「至急ルートの変更をお願いします」
北「どうした?」
エナの声「Aルート上にある多賀野峠の橋でトラックが襲撃されると言う情報が入りました」
北「情報提供者の素性は?」
エナの声「金木と言うホームレス風の男です」
坂崎「何者なんだ?」
エナの声「データベースを調べましたが、TENAのメンバーではないようです。内容がかなり
 具体的なものでしたので。念のために」
  坂崎、コンソールのモニターのタッチパネルを操作し、地図を映し出す。
  地図に現在地点を示す赤いマークと、多賀野峠の橋を示すマークが点滅する。
坂崎「多賀野峠まで、あと1キロです」
北「他のルートを検索してくれ」
  坂崎、タッチパネルを操作する。

○ 山道
  B―COAのハザードランプが点灯する。
  道路脇に寄り、立ち止まる三台の車。

○ B―COA車内
坂崎「後ろのトラックに事情を説明してきます」
  坂崎、ドアを開け、外に出る。
  後ろに止まっているトラックの運転席に歩いて行く坂崎。
  坂崎を見守る北。
  モニターにポニーテールの女のCGイメージが映る。人工頭脳「シェンズ」が話しを始める。
シェンズ「別のルートは、ここから500m先の交差点を左折。峠を下りて、幕神橋と言う橋を渡る。
 距離は、長くなるけど、安全のため、仕方ないわね」
北「坂崎とは、いつ口を聞いてやるんだ?」
シェンズ「坂崎君の話しを最後までじっくり聞きたかったの」
北「坂崎は、おまえに御執心みたいだぞ」
シェンズ「それは、光栄だわ。あなたより若い子と喋るのは、何年ぶりになるかしら」
北「おまえは、ずっと若いままでいいよな。俺はどんどん歳を取って親父になっていくよ」
シェンズ「早く相手を見つけないと、婚期を逃すわよ」
北「…結婚なんてどうでもいい」
シェンズ「いつまでも私の事を気にしていては駄目よ。自分の人生をもっと大事にして」
北「…自分の人生は、自分で決める」
  助手席のドアが開く。坂崎が乗り込んでくる。
坂崎「報告終わりました…誰と喋っていたんですか?」
  唖然とする北。
北「…独り言だ」

○ 山道
  B―COAを先頭に走り出す三台の車。
  スピードを上げ、交差点に向かっている。

○ 倉庫地下・JWA・OP(オペレート)室
  オペレートシテスムのモニターの前に座る数人のオペレート員達。
  真ん中の座席にエナが座る。エナの背後に近づく椎名。
椎名「どうだ?」
  振り返るエナ。
エナ「ルートの変更を指示しました。現在、Bルートを北北西に向かって進んでいます」
  椎名、腕時計を見つめる。
  時間は、5時を過ぎている。
椎名「どうやらガセのようだな…」
  モニターをチェックするエナ。流れている情報を読み取り、愕然とする。
  慌てて操作卓にある電話の受話器を上げ、確認を取るエナ。
エナ「多賀野峠の橋が爆破されました。JWAの偵察衛星が爆発の様子をとらえたそうです」
  愕然とする椎名。
椎名「モニターに出せ」
  モニターに多賀野峠の様子をとらえた衛星カメラの映像が映し出される。
  白い煙が上がり、橋が跡形もなく消えている。
  愕然とする椎名。
椎名「爆発時間は?」
エナ「5時ジャストです」
  憂いの表情を浮かべる椎名。

○ 山道
  街灯のない道。激しい雨が降り注ぐ。
  鬱蒼とする森林に囲まれた坂道を下りているB―COA。その後に続く大型トラックとセドリック。

○ B―COA車内
  通信のアラームが鳴る。
坂崎「こちら、B―COA」
エナの声「多賀野峠の橋が爆破されました」
  愕然とする坂崎。
北「金木と言う男の身柄は、押さえたのか?」
エナの声「電話をかけてきた場所は、特定したんですが、すでにその場所には…」
  モニターの地図を見つめる坂崎。
坂崎「幕神橋も念のため調べたほうがいいと思います」

○ 倉庫地下・JWA・OP(オペレート)室
  操作卓のスピーカーから北の声が聞こえる。
北の声「一旦トラックを待機させて、俺達は、これから通る橋の確認作業をする」
  椎名、エナのつけているヘッドマイクを掴み取り、マイクに向かって喋り出す。
椎名「橋は、坂崎に調べさせろ。お前は、トラックを見張れ」

○ B―COA車内
北「了解」

○ 山道・下り坂
  一斉に立ち止まる三台の車。

○ B―COA車内
坂崎「行ってきます」
北「気をつけろ」
坂崎「はい」
  ドアを開け、外に出る坂崎。
  雨の中を全速力で駆け抜けて行く。
  走り去って行く坂崎を見守る北。

○ マンション2階・201号室真坂の家・リビング
  布団の上に横になりながらテレビを見ている真坂。
  テレビに映るバラエティ番組を見て、ゲラゲラ笑っている。
  
○ とある家・リビング
  赤ん坊を抱きあやす葉菜美。
  赤ん坊の寝顔を確認すると、そのまま、ベビーベッドに寝かせる。
  どこからともなく聞こえる携帯の着信音。
  葉菜美、慌てて、隣の部屋へ行く。

○ 同・隣の部屋
  部屋の隅に置いてあるバッグの中から携帯を取り出す葉菜美。
  ディスプレイに映る番号を確認する。
葉菜美「これって…」
  電話に出る葉菜美。
葉菜美「もしもし?茂君?」

○ マンション・階段
  階段に座り、携帯で話しをする茂。
茂「お姉ちゃん?」
葉菜美の声「どうしたの?こんな時間に…」
茂「なんか変なの」

○ とある家・リビング
葉菜美「変って?」
茂の声「お父さん」
葉菜美「お父さんどうかした?」
茂の声「ずっといるの。家に…」
葉菜美「…」

○ マンション・階段
葉菜美の声「わかった。明日の朝、確かめてみる」
茂「お姉ちゃんに買ってもらった携帯の事、言わないでね…」

○ とある家・リビング
葉菜美「わかってる」

○ 倉庫地下・JWA・OP(オペレート)室
  電話で話すオペレート員の男。椎名のほうを向く。
オペレート員の男「総監、金木と言う男が話したい事があると連絡してきています」
  椎名、オペレート員の男の前に行き、男から受話器を受け取る。
椎名「椎名だ」
金木の声「どうも…」
椎名「あなたの情報は、正しかった。時間通りにあの橋で爆発が起こった」
金木の声「そうですか。聞き間違いじゃなくて良かった。もしかしたら、もう1つのほうも…」
椎名「もう1つ?と言うと?」
金木の声「ええ。私の記憶が正しければ、男は、こう言っていました。橋の爆破は、
 荒崎さんを釈放させるための警告だと…」
  愕然とする椎名。
椎名「金木さん…あなた…」
金木の声「明日の午後0時に、荒崎さんを新宿駅へ連れてきてください」
椎名「襲撃を計画したのは、あなたですね?」
  不気味に高笑いする金木。
椎名「目的は、荒崎だけか?」
金木の声「約束を守って頂けない場合は、私の仲間が輸送トラックを破壊します」
椎名「わかった。約束は、必ず守る」
金木の声「それでは、また折り返し連絡します」
  電話が切れる。
  呆然と佇む椎名。

○ 幕神橋
  橋の上に立ち、辺りを見回す坂崎。
  橋の欄干から下を覗き込む。
  10m下を流れる川。雨で流れが早くなっている。
  橋の土台を確認する坂崎。ふと立ち止まる。
  背の低い小太り、眼鏡をかけたマシュマロヘアの中年の男が橋の欄干の前に立っている。
  男を怪訝に見つめる坂崎。
  坂崎、男のそばに駆け寄って行く。
  男、川の流れをジッと見ている。
坂崎「何をしてるんですか?こんなところで…」
男「夜釣りをしに来たんですが、川があの通り…なので、川の流れを楽しむ事にしました」
坂崎「もう日も暮れているし、そろそろ家に帰ったほうがいいですよ」
  坂崎をギッと睨みつける男。
男「何を言ってるんですか。これから盛り上がるんですよ」
坂崎「はぁ?」
男「大丈夫です。この橋には、爆弾は、仕掛けていません」
  唖然とする坂崎。
男「金木と言います。元TENAの幹部です」
  男は、金木 光久(45)。
  坂崎、ホルダーから銃を抜き、金木に銃口を向ける。
坂崎「両手を頭につけて、後ろを向け」
  金木、両手をゆっくりと上げる。
金木「私は、あなたにお会いしたくてここに来ました」
坂崎「僕に何の用だ?」
金木「私に協力してくれたら、あなたにTENAの内部情報をリークします」
坂崎「そう言う取引には、応じない」
金木「お父さん、残念でしたね。結局、記憶は、戻らなかったそうで…」
  動揺する坂崎。
坂崎「親父の事、知ってるのか?」
金木「一年半ほど前、警察をお辞めになられた直後に、お父さんと会いました」
  金木、ソッと腕を下ろし、皮ジャンのポケットから何かを取り出そうとする。
  坂崎、引き金に指を当てるが、躊躇する。
  金木、薄い赤色のリボンブローチを右手に持ち、坂崎に見せる。
  坂崎、それを見て銃を下ろす。
坂崎「話しを聞かせろ…」

○ B―COA車内
  苛立っている北。
北「ちょっと見てくる。おまえ、トラックを見張っててくれ」
シェンズ「総監にトラックを見張るように言われたでしょ」
北「あいつが出て行ってからもう30分以上経つ。何かトラブルがあったのかもしれない」
シェンズ「私一人では、対応できない事象が起こる可能性もある。持ち場を離れている間に
 何か起きたら、あなたの責任問題にもなりかねないわ」
  溜息をつく北。
  その時、激しい銃声が轟き始める。

○ 山道
  B―COAのボディを弾く銃弾。
  後ろの大型トラックのコンテナにも激しく銃弾が撃ち込まれているが、火花を上げて、跳ね返している。
  トラックの後ろに止まるセドリック。
  激しく銃弾を撃ちこまれ、蜂の巣になっている。
  護衛要員の4人の男達が車の陰に隠れている。
  しばらくして、セドリックのエンジンルームから火が吹き始める。
  4人、慌てて一斉に走り出し、トラックのコンテナの陰に身を隠す。
  爆発するセドリック。激しい炎が吹き上がる。

○ B―COA車内
北「ハイウェーブサーチ、感度を最大にして、周囲をチェックしろ」
  モニターに映し出される周辺の地図。
  サーモグラフィックの映像に切り替わる。
シェンズ「北北西の方角、84m先の山の草陰に人間の熱反応をキャッチ」
  北、シフトレバーを操作し、アクセルを踏み込む。

○ 急発進するB―COA
  スピンターンし、西の山のほうへ車体を前に向けて立ち止まる。

○ B―COA車内
  モニターに映るメニュー画面の「BONDING POD」のボタンを押す北。

○ B―COAの右側リアフェンダーの格納庫が開く
  青い筒型のミサイルがあらわれ、発射する。勢い良く飛び出すミサイル。
  向こう側の山の草陰にいる5人の男達。アサルトライフルを構え撃ち続けている。
  男達の前に落ちてくるミサイル。爆発し、特殊な粘着液が男達の体にまとわりつく。
  身動きが取れず、地面をはいつくばる男達。

○ B―COA車内
シェンズ「ターゲットに着弾。銃撃が止まった」
  北、ハンドルを回す。

○ 山道
  スピードを上げ走り出すB―COA。
  幕神橋のほうへ進む。

○ 幕神橋
  橋の真ん中に止まるB―COA。
  車から降りる北。
  辺りを見回す北。欄干の前に行き、川を覗く。
北「坂崎!」
  B―COAの先端部のスピーカーからシェンズの声が響く。
シェンズの声「ハイウェーブサーチには、何の反応も見られない」
北「もう一度よく調べろ」
  辺りを見回しながら駆け出す北。

○ 倉庫地下・JWA・OP(オペレート)室
  操作卓の前に座るエナ。
  北からの通信を聞き呆然としている。
エナ「坂崎君が…」

○ B―COA車内
  運転席に座っている北。
北「周辺を調べたが、どこにもいないんだ。襲撃犯人は、全員捕らえた。後で拾いに来てくれ」
エナの声「…」
北「聞こえてるか?」
エナの声「あっ…はい。至急応援を要請します。北さん、今回の襲撃の首謀者は、
 元TENAの幹部の金木です。金木は、荒崎の釈放を要求してきました」
  愕然とする北。
北「いつ釈放するんだ?」
エナの声「明日の午後0時です」
北「…わかった」
  通信が切れる。
シェンズ「すでに50分のロスタイム。急がないと、到着時間に間に合わなくなるわ」
  北、険しい顔つきで、アクセルを踏み込む。

○ 幕神橋
  橋の上に止まっていたB―COAとその後ろの大型トラックが一斉に走り出す。

○ 倉庫地下・JWA・総監室
  デスクに座る椎名。
椎名「坂崎が消えた?」
  椎名の前に立つエナ。
エナ「橋を調べに行くといって、そのまま戻ってこなかったそうです…」
  動揺した面持ちのエナ。
椎名「どうした?気分でも悪いのか?」
エナ「総監、私が彼の行方を探します」
椎名「君は、ここのオペレート担当だ。坂崎の事は、別の担当員にやらせる」
エナ「でも…」
椎名「何をそんなに焦っている?」
エナ「すいません…」
  エナ、一礼すると、足早に部屋を出て行く。
  
○ 山の麓
  坂道を下りている黒いレクサス。

○ レクサス・車内
  ハンドルを握る金木。
  助手席に座る坂崎。
坂崎「どこに行く?」
金木「東京に戻ります」
  金木、皮ジャンの中からリボンブローチを取り出し、
金木「このブローチ、お返しします。お母さんの形見なんでしょ?」
  金木からブローチを受け取る坂崎。
  ブローチをまじまじと見つめる坂崎。
金木「お父さんは、いつもこれを大事に持ちながら、仕事をされていました。あんな事さえなければ…」
坂崎「…親父は、TENAのメンバーに加わっていたのか?」
金木「いいえ、お父さんは、TENAに警察の情報をリークしただけです。どうやらお金に
 お困りになられていたようで…」
坂崎「いくら払ったんだ?」
金木「3000万お支払いするつもりでした。でもタイミングが悪かった。丁度私と話しをしていた時に、
 JWAの人間がやってきて…」
坂崎「その時に親父は、頭を打って、記憶を失ったんだな?」
金木「そうです。あなたのお父さんをTENAのメンバーと思い込んで、執拗に追いかけた奴がいます」
坂崎「真坂という男だ」
金木「すでにお調べになられていましたか」
坂崎「あいつが親父を殺した」
金木「その真坂という男をマークしてもらいたいのですが」
坂崎「僕が?」
金木「真坂を我々の仲間に引き入れたいのです。あなたにも協力して欲しい」
坂崎「…でも」
金木「あなたも見たいでしょ?あの男が落ちていく姿を…」
坂崎「…」
  不敵な笑みを浮かべる金木。

○ 倉庫地下・JWA・拘留室
  通路を歩く椎名と2人の監視員の男。
  『13』番のドアの前に立ち止まる。
  監視員の男、カードを差し込み、ドアを開ける。

○ 同・13番ルーム
  一畳の畳の上で正座をしている荒崎 伸也(46)。
  髪を短くし、髭を蓄えている。
  目を瞑り、小さな声で何かを呟いている荒崎。
  荒崎の後ろに立つ椎名。
椎名「久しぶりだな、荒崎」
  荒崎、微動だにしない。
荒崎「金木って男の事、知っているか?」
荒崎「…」
椎名「何か知ってるなら、教えてくれ」
荒崎「私の元部下…」
  目を開ける荒崎。
荒崎「正確には、元部下だった男だ」
椎名「その元部下がお前の釈放を要求してきた」
荒崎「私は、終身刑の判決を受けた。もう何も抵抗する気はない。静かに見守ってもらいたい」
椎名「約束の時間におまえを釈放しなければ、多くの犠牲者が出るんだ」
荒崎「今、表に出ても、私には、何のメリットもない。金木は、きっと、私を殺したくてうずうずしているはずだ」
椎名「思い当たる事でも?」
荒崎「昔、随分とこき使いましたから…」
椎名「とにかく、一緒に来てもらう」
荒崎「拒否権は、なしって事ですか?」
  椎名、監視員に合図を送る。
  二人の監視員、荒崎の腕を掴み、立ち上がらせようとするが、荒崎、それを振り払う。
荒崎「汚い手で触るな」
  立ち上がる荒崎。
  椎名と顔を合わせる。
荒崎「いいでしょう。その代わり、ガードをつけてもらいたい」
椎名「…わかった」
  荒崎、監視員に連れられ、椎名のそばを通り、部屋を出て行く。
  複雑げに顔を歪ませる椎名。

○ 山間の向こうから登る太陽
  黒い雲が晴れ、オレンジの光が照り出す。

○ 海岸線(翌日・朝)
  片側一車線の幅の狭い道。
  緩やかなカーブを走行するB―COAと大型トラック。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。
  うとうととし、眠りかけている。
シェンズ「一真…」
  北、ハッと目を覚まし、
北「ちょっと運転を変わってくれないか?」
シェンズ「オートアドバンスに切り替える」
  システムボードの『AUTO ADVANCE』のボタンが青く発光する。
  自動走行を始めるB―COA。
  ハンドルから手を離す北。
  ポケットからミントガムを取り出し、口に入れる北。
シェンズ「大分疲れているみたいね」
北「ちょっと風邪気味なだけだ」
シェンズ「JWAの仕事が激務なのは、当然の事だけど、だからこそ、体を休める事も大切な事よ」
北「昔、誰かさんは、俺にこう言った。『くどくど言ってる暇があるなら、もっと馬並みに働け』って…」
シェンズ「誰が言ったの?」
北「忘れたのか?」
シェンズ「…」
  北、苦笑し、
北「無理もないよな。もう6年ぐらい前の話しか…」
シェンズ「あなたが研修をさぼって私を水族館に誘おうとしたからよ」
北「覚えてたか…」
シェンズ「それに『くどくど』とは、言ってない。『口説いている暇があったら』と言ったの」
北「…そうだったっけ」
シェンズ「不思議。他の事は、曖昧なのに、あなたとの記憶は、隅々まで覚えている」
北「朝っぱらから惚気すぎだな、俺達…」
シェンズ「もう十分目が覚めたでしょ?自分で運転しなさい」
  電子音が鳴り響く。
  慌てて、ハンドルを握る北。
  通信のアラームが鳴り響く。スピーカーからエナの声が聞こえる。
エナの声「トラックを襲った男達の取り調べが終わりました」
北「金木の居所は、掴めたのか?」
エナの声「いいえ。捕まえた男達は、全員2日前に金木に雇われた日雇い兵士です」
北「銃の撃ち方が下手糞だったのは、そのせいか。坂崎のほうは、進展あったか?」
エナの声「…」
北「どうした?」
エナの声「あ、はい…一人だけ、気になる情報を持っていました。犯行の前日、金木は、日雇い兵士の
 リーダーを晴海埠頭近くの倉庫に呼び出して、襲撃計画の最終確認をしたそうです」
北「その倉庫の調査が済んだら、また連絡してくれ」

○ マンション2階・201号室真坂の家・リビング
  布団に潜り眠る真坂。
  布団を踏みつける女の足。ぐりぐりしている。
真坂「茂…やめろって…」
  まだぐりぐり力を入れて踏みつけている。
  思わず、布団を放り投げ、起き上がる真坂。
真坂「でこピンするぞ、こらっ…?」
  真坂の前に立っている葉菜美。
  唖然とする真坂。
真坂「なんでおまえがここに?」
葉菜美「わざわざ早朝から来てやったよ。感謝しろ」
真坂「来てくれって頼んだっけ?」
葉菜美「茂くんから聞いた。バイト休んでるんだって?」
真坂「あいつ…」
  辺りを見回す真坂。
葉菜美「茂君は、もう学校行った」
  真坂、テレビの下に置いてあるビデオの時計を見る。時間は、『8:08』を表示している。
葉菜美「仮にも親だろ、あんた」
真坂「仮じゃねぇ、親だよ」
葉菜美「親が仕事もしないで一日中ゴロンじゃ、教育にも悪いだろ」
真坂「…」
葉菜美「もしかして…バイト辞めたの?」
真坂「辞めてねぇよ」
葉菜美「ホントに?」
真坂「辞めたい気分ではあるけど…」
葉菜美「馬鹿。あんたがそんなだらしのない事言ってるから茂君が…」
真坂「茂がどうかしたのか?」
  携帯の時計を確認する葉菜美。
葉菜美「…そろそろ出勤時間だから。あの子に余計な心配させるなよ。私が言いたかったのは、それだけ」
  葉菜美、部屋から出て行く。
  意気消沈と項垂れる真坂。

○ 同・洗面所
  鏡の前に立つ真坂。電動の髭剃り機で髭を剃っている。鏡に映る
  自分の顔をまじまじと見つめ、落胆する。
  突然、電話が鳴る。
  無視するが、気になり、動き出す。

○ 同・リビング
  受話器を上げる真坂。
真坂「もしもし…」
金木の声「真坂さんですか?」
真坂「どちらさん?」
金木の声「お友達の事で、お話が…」
真坂「お友達?」
金木の声「北さんをご存知ですよね?」
真坂「…北がなんだって?」
金木の声「北さんは、今、政府の命令で防衛システムを積んだトラックの護衛をしています」
真坂「あんた…誰?」
金木の声「今日の午前中、我々は、そのトラックを襲います」
真坂「はぁ?」
金木の声「お友達を助けたかったら、2時間後に、新宿にある『ネットネクスステージ』と言うお店に来てください。
 13番室でお待ちしています。ああ、それから、くれぐれもJWAには、連絡しないでください。
 お一人で来られない場合は…では」
  電話が切れる。
  自体が飲み込めず、呆然としている真坂。

○ 倉庫地下・JWA・エレベータ内
  椎名と荒崎、監視員の三人が横並びで立っている。
  荒崎、黒のスーツに着替えている。
椎名「お前の部下は、確か3人と聞いていたが…」
荒崎「TENAの実行部隊を操る部下が4人いた。その一人が金木だ。2人は、消息不明、もう一人は、
 作戦実行中に事故で死んだ」
椎名「金木にどんな仕事をさせていたんだ?」
荒崎「私の研究成果を試すために、様々な実験に利用した時もある。開発中の猛毒を奴の体に打って、
 試した事もあった。もちろん、すぐに解毒剤は、打ったが、副作用のため、
 背中に大きな傷を背負わせてしまった」

○ 同・地上階
  エレベータのドアが開く。
  エレベータから降り、歩き出す三人。
荒崎「ガードは、何人つくんだ?」
椎名「ガードは、一人も出さない」
  立ち止まる荒崎。椎名も釣られて止まる。
荒崎「約束を破る気か?」
  椎名、スーツのポケットから紺色の四 角いケースを出し、蓋を開ける。
  中から、白いカプセルを取り出し、
椎名「これは、服用型の発信装置だ。胃の中に残り、十二時間後に溶けてなくなる」
  椎名、荒崎にカプセルを渡す。
  荒崎、寡黙にそれを受け取り、カプセルを飲み込む。
椎名「後は、我々を信用してもらうしかない」
  
○ 新宿付近
  激しく行き交う人と車。
  人ごみの中を歩く真坂。
  
○ 雑居ビル
  4F建ての古びた建物。
  1Fの『ネットネクステージ』の店に入る真坂。

○ ネットネクステージ・店内
  両側に個室が並ぶ狭い通路を歩く真坂。
  『13』のドアの前に立ち止まる。
  真坂、緊張した面持ちで部屋をノックする。
  反応がない。もう一度ノックするが誰も出てこない。
  真坂、ドアを開ける。

○ 同・13番室
  畳二畳程の狭い個室。奥のデスクにテレビがあり、その前に大きなシートが置かれている。
真坂「誰もいねぇじゃねぇかよ…」
  真坂の背後から聞こえる男の声…
男の声「いますよ」
  振り返る真坂。金木が立っている。
金木「はじめまして」
真坂「挨拶なんてどうでもいい」
金木「まぁ、まだ時間があるので。落ち着いてください」
  金木、真坂のそばを横切り、シートに深々ともたれる。
  右手に持っていた漫画の単行本を読み始める。
真坂「おちょくってるのか?」
金木「中々読む暇がなくて…10分ほど良いですか?」
真坂「北をどこで襲う気だ?」
金木「私の仲間が北さん達の車を尾行しています」
真坂「TENAの幹部か?」
金木「元です」
真坂「卒業したのに、なぜまだ物騒な事をやり続ける?」
金木「趣味です」
真坂「テロが趣味だって?。超悪趣味だな」
金木「卒業と言えば、あなたもJWAを半年前にお辞めになられたそうですね」
真坂「俺の事、どこで調べた?」
金木「JWAには、2、3度スパイを送り込みましたが、いずれも失敗に終わりました。しかし、
 あなたの情報は、別の方法で入手する事ができました」
真坂「そうさ。俺も「元」だよ」
金木「あなたが持っているJWAの情報を全て欲しい」
真坂「何も覚えちゃいねぇよ」
金木「五千万でどうです?」
  一瞬、動揺する真坂。
金木「お子さんの先々の養育費なども考慮すると、それぐらいが妥当かと…」
真坂「ふ、ふざけんな…」
金木「コンビニの安月給じゃあ、中々得られない金額ですよ。少し喋るだけで、しばらく遊んで暮らせます」
真坂「…」
  不敵な笑みを浮かべる金木。
金木「どうしました?顔色が悪いですよ」
真坂「それを話したら、襲撃を止めるのか?」
金木「ええ。お話し頂けるのであれば…」
  真坂、意を決して、
真坂「わかった…」
  唖然とする金木。
  金木、単行本を閉じ、
金木「では、そろそろ行きましょうか」
  怪訝な表情を浮かべる真坂。

○ 海岸線
  ゆっくりと走行するB―COA。その後を走る大型トラック。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。
シェンズ「基地建設現場まであと5キロ」
  モニターに映る時計を確認する北。
  時間は、『9:48』を表示している。
シェンズ「予定時間よりも2時間早く到着しそうね」
  北、険しい顔つき。
シェンズ「どうしたの?」
北「橋の爆破も襲撃も全てカモフラージュのような気がしてならない」
シェンズ「金木の狙いは、別にあると言う事?」
北「坂崎だ」
シェンズ「金木が坂崎君を拉致したと言うの?何のために?」
北「まだわからない。この任務が片付いたら、金木と坂崎の接点を探ってみる」

○ JWA・地上倉庫内
  一台の白いベンツが止まっている。
  その前に立っている椎名と荒崎。
  二人の監視員が荒崎の両脇に立っている。
  監視員の携帯が鳴る。携帯に出る監視員。
監視員「総監、金木から連絡が…」
  監視員の携帯を掴み、話し出す椎名。
椎名「私だ」
金木の声「準備は、できましたか?」
椎名「話が違うぞ。なぜ昨日の夜、トラックを襲撃した?」
金木の声「あれは、2度目の警告です。荒崎さんと代わってください」
  椎名、荒崎に携帯を渡す。電話に出る荒崎。
金木の声「お久しぶりです、荒崎さん」
荒崎「まだ生きてたのか?」
金木の声「ええ。残念ながら」
荒崎「ムショの生活を楽しんでいたのに、どうして邪魔をする」
金木の声「あなたのような才能の持ち主をムショの中で腐らせるわけにはいきません」
荒崎「私をどうしたい?」
金木の声「それは、会ってからじっくりお話しします。その前にやってもらいたい事があります」
荒崎「…」
  荒崎、寡黙に金木の話に聞き入っている。
  怪訝に荒崎を見ている椎名。
  荒崎、金木の話しを聞き終わると、椎名に携帯を渡す。
  荒崎から携帯を受け取る椎名。
  荒崎、神妙な面持ち。
  荒崎を見つめながら、携帯に話し出す椎名。
椎名「話は、終わったのか?」
金木の声「はい。1つお願いがあります。荒崎さんに拳銃を渡してください」
椎名「何?」
金木の声「早く」
椎名「それは、できない」
金木の声「3度目は、本気ですよ」
  険しい表情を浮かべる椎名。
  椎名、監視員を呼びかける。
椎名「荒崎に拳銃を渡せ」
  唖然とする監視員。
椎名「いいから早く」
  監視員、ホルダーから銃を抜き、荒崎に手渡す。
  拳銃を受け取る荒崎。
椎名「今渡した」
金木の声「そうですか。それでは、よろしくお願いします」
  電話が切れる。
  荒崎、突然、椎名に銃を向ける。
  荒崎の隣にいた監視員が慌てて、銃を抜く。
荒崎「私をここで殺せば、政府の計画は、丸潰れだ」
椎名「(監視員に)銃を下ろせ」
  監視員、なくなく銃を下ろす。
荒崎「金木の命令だ。悪く思わないでください」
  荒崎、引き金を引く。
  高鳴る銃声。腹を三発撃たれ、その場に前のめりに崩れる椎名。
  荒崎、銃を下ろす。一人の監視員が拳銃を奪い取り、荒崎を取り押さえる。
  もう一人の監視員、慌てて、椎名の前に駆け寄る。
監視員「総監!総監!…」

○ 海岸線を走るB―COAと大型トラック

○ B―COA車内
  モニターに映る地図。道路上に異常を示す赤いマークが点滅する。
シェンズ「ハイウェーブサーチに異常反応あり。2キロ前方から時速80キロでこちらに接近してくる車を感知した」
北「トラックの無線につないでくれ」
  無線の切換を示すアラーム。
北「こちらB―COA。前方から暴走車が接近してくる模様。確認してくるので、ここで待機してください」
  スピーカーから聞こえるトラックのドライバーの声。
トラックのドライバー「了解」
  北、アクセルを踏み込む。

○ 海岸線
  猛スピードで走り出し、トラックから離れて行くB―COA。

○ B―COA車内
  前方を見つめる北。
北「カメラをズームアップしてくれ」
  モニターに前方の様子が映る。
  前から物凄い勢いでこちらに向かってくる青いスポーツカー。運転席には、誰も乗っていない。
シェンズ「ドライバーがいないわ」
  唖然とする北。
北「…俺達で食い止めるしかない」
シェンズ「どうする気?」
北「装甲強度レベルを最大にしろ」
シェンズ「もしかして、体当たりするつもり?」
北「その通り」
  北、パネルの『SHOCK ABSORPTION SHIELD』のボタンを押す。

○ B―COA先端部の車体の下から、シールドが出てくる
  シールドは、車の前面を覆い、3mの高さまで一瞬にして伸びる。
  急ブレーキで道の真ん中に立ち止まるB―COA。
  青いスポーツカーがB―COAに向かって突進してくる。
  
○ B―COA車内
  モニターに映る青い車を見ている北。
シェンズ「なんだかドキドキするわ」
北「ちょろいもんだろ?」

○ B―COAと正面衝突する青いスポーツカー
  青いスポーツカー、B―COAのシールドにぶつかり、大きな爆発と共に大破する。
  炎に飲み込まれるB―COA。
  しばらくして、炎が晴れる。
  B―COAのボディは、煤で汚れているが傷一つついていない。

○ B―COA車内
北「大丈夫か?」
シェンズ「システムに異常は出ていない」
  北、ホッと気を緩め、シートにもたれる。
シェンズ「これが最後だといいけど…」
北「ラストランだ。トラックのところに戻ろう」

○ シールドをしまうB―COA
  勢い良く走り出し、スピンターンして、トラックの元へ向かう。

○ スーパー跡地・地下駐車場
  車が一台も止まっていない閑散とした空間。
  スロープを駆け下りてくる茶色のワゴン。
  通路の真ん中に立ち止まる。
  助手席のドアが開く。
  車から降りる真坂。アイマスクをつけられ、目を隠されている。運転席から降りる金木。
  金木、真坂のアイマスクを取る。
真坂「ここは?」
金木「私達の隠れ家です」
真坂「ただの駐車場じゃねぇか」
金木「奥の非常階段を下りたら、仲間がいます」
  奥のほうから響いてくる足音。
  真坂、足音がするほうへ顔を向ける。
  坂崎が真坂達のほうに向かって歩いてくる。
  坂崎を見つめ、唖然とする真坂。
真坂「なんでおまえがここにいる?」
坂崎「真坂さんこそ、どうして?」
真坂「(金木に目をやり)こいつと話があってな」
  立ち止まり、真坂と対峙する坂崎。
坂崎「北さんは、ブレないところがあなたの良い所だって言っていたけど、どうやら、
 それは、ウソだったようですね」
真坂「あいつは、昔から人を見る目がないからな」
坂崎「正直、がっかりです」
  坂崎、ホルダーから銃を抜き、真坂に銃口を向ける。
真坂「おまえ…北を裏切ったのか?」
坂崎「覚えていますか?一年半前、奥ケ原にあったTENAの廃工場に北さんと一緒に潜入した時のことを…」
真坂「…」
坂崎「TENAのメンバーじゃなかったのに…おまえは、親父を殴り倒した」
真坂「何もしない奴に手を挙げたりはしない。たぶん、激しく抵抗したか、俺を殺そうとしたか…」
坂崎「どっちにしろ、親父は、おまえのせいで死んだ」
真坂「そうか、それで俺に楯突いていたのか」
金木「坂崎さん、冗談は、それぐらいにしてください。これからこの人と重要な話をしなければならないんですから」
真坂「やれよ」
  唖然とする坂崎。
真坂「北は、さぞ悲しむだろうな。新しいパートナーがこのザマじゃ」
坂崎「あなたに言われたくないですよ…」
  坂崎、銃の引き金に指を当てる。
  真坂、覚悟を決め、静かに目を瞑る。
  坂崎、突然、金木に銃を向け、引き金を引く。轟く銃声。ハッと目を開ける真坂。
  金木、左胸を撃たれ、その場に倒れる。
  愕然としている真坂。
  ホルダーに銃をしまう坂崎。
坂崎「早くその車に乗って」
真坂「えっ?」
坂崎「ここには、誰もいない。調査済みだ」
真坂「どう言う事だ?」
坂崎「詳しい話は、車の中で…」
  坂崎、駆け出し、ワゴンの運転席に乗り込む。
  真坂、怪訝な表情を浮かべながら、ワゴンの助手席に乗り込む。
  ワゴン、猛スピードでバックして、切り返し、タイヤを軋ませながらスロープを駆け上って行く。
  姿を消すワゴン。
  うつ伏せで倒れている金木。暫くして、目を開け、立ち上がる。
  金木、皮ジャンの下に身につけていた防弾チョッキを確認すると、不敵な笑みを浮かべる。

○ スーパー跡地
  駐車場の出口から勢い良く表に出て来るワゴン。
  道路を走り出すと、、さらに加速する。

○ ワゴン車内
  ハンドルを握る坂崎。
真坂「どうしてあいつを撃った?」
坂崎「金木は、あなたからJWAの情報を聞き出そうとしていたんでしょ?」
真坂「だからって殺さなくても…TENAの上層部に辿り着く重要な情報を握っていた可能性があるんだぞ」
坂崎「金木にいくらで買収されたんですか?」
真坂「買収なんてされるか。話に乗った振りをして奴らのアジトを掴もうとしただけだ」
坂崎「部外者なのに、余計な事しないでください」
真坂「やりたくてやったわけじゃない。おまえは、なんであそこにいた?」
坂崎「僕も奴らの実態を掴むために、潜入捜査をしていたんです」
真坂「北達は、大丈夫なのか?」
坂崎「今頃、無事に現場へ到着しているはずです」
真坂「さっきの話し、本当なのか?」
坂崎「さっきの話?」
真坂「おまえの親父さんの話だよ」
坂崎「あれは…」
真坂「…」
坂崎「気にしないでください。ああでも言わないと、僕も金木に疑われていたかもしれないので」
真坂「ここでいい。降ろしてくれ」
坂崎「うちまで送りますよ」
真坂「いや、これ以上おまえらと関わりたくない」
  坂崎、ブレーキを踏み込む。
坂崎「今日の事は、僕と真坂さんだけの秘密に…」
真坂「報告してもらっても構わないけど」
坂崎「報告したら、調書を取るために、あなたをJWAに呼び出す事になりますよ」
真坂「それは、面倒だ。わかった。そう言う事にしておこう」
  真坂、ドアを開け、車から降りる。
  憮然としている坂崎。

○ 工場地帯
  古びた工場が建ち並ぶ通り。
  走り去って行くワゴン。
  呆然と立つ真坂。深い溜息をつく。

○ 防衛基地建設予定地
  巨大なゲートを潜り、敷地に入るB―COAと大型トラック。
  巨大な建物の骨組みの上を何人もの作業員が立ち、作業している。
  入口付近に立ち止まるB―COAと大型トラック。

○ B―COA車内
  シートにもたれる北。
北「やっと終わった…」
シェンズ「お疲れ様。本部への報告を忘れずに」
北「ああ。つないでくれ」
  通信のアラームが鳴り響く。
北「こちら、B―COA」
  スピーカーからエナの声が聞こえる。
エナの声「北さんですか?」
北「今、基地建設予定地に到着した。無事にレーザー…」
エナの声「総監が撃たれました」
  愕然とする北。
北「誰が撃った?」
エナの声「金木の指示で荒崎が…」
北「それで、総監の様態は?」
エナの声「意識不明の重体です。今、緊急手術を受けています。銃弾は、心臓の真下にあって、
 非常に厳しい状況とスタッフが言っていました」
北「荒崎は?」
エナの声「監視員が約束の場所へ連れて行きました」
北「わかった。すぐに戻る」
  通信が切れる。
北「聞いたか、シェンズ」
シェンズ「ええ。総監を助けてあげて…」
北「…」

○ 防衛基地建設予定地
  B―COA、ターンして、猛スピードで敷地を走り出て行く。

○ JWA・科学治療室
  数人の手術スタッフが手術台を囲む。手術台の上で呼吸器をつけられ眠っている椎名。
  被弾した部分にメスが入れられ、弾丸の取り出し作業が進む。

○ 新宿駅・地下
  まばらな人通り。
  コインロッカーの前に立っている荒崎。
  しばらくして、荒崎の前に金木が近づいてくる。
  向かい合う二人。
金木「しばらくです。荒崎さん」
荒崎「もう二度と顔を見ることはないと思っていたのに…」
金木「そうですか。私は、もう一度会えると思っていましたよ」
荒崎「あの事、根に持っているのか?」
金木「別に気には、していません。背中の傷も整形手術で消す事ができましたし」
荒崎「…」
金木「さぁ、行きましょうか。あ、そう言えば、椎名さんは、あのあとどうなりました?」
荒崎「さぁ。死んだかもしれないし、運良く生き延びているかもしれない」
金木「まぁ、どちらでもいいです。私達の存在をアピールしたかっただけですから…」
  不敵な笑みを浮かべる金木。
荒崎「相変わらずおっかないね…」
  歩き出す二人。
  数メートル先の柱の陰に身を隠しているJWAの監視員。
  二人の様子をまじまじと見ている。

○ 公園
  ランドセルを背負ったままブランコに乗っている茂。
  携帯を持ち、ニヤニヤしながらディスプレイを見ている。
  遠くから聞こえる真坂の声。
真坂の声「茂!」
  茂、慌てて、携帯を服の中に隠し入れる。
  茂の前に駆け寄ってくる真坂。
真坂「やっぱりここにいたか」
茂「どこ行ってたの?」
真坂「ちょっとな…また一人かよ。友達まだできないのか?」
茂「クラスにいるよ。2、3人くらい…」
真坂「じゃあ、たまには、その子らと遊べよ」
茂「塾があるってさ」
真坂「そうか、皆大変だな。俺らの時は、そんなに縛られてなかったのにな…」
茂「…」
真坂「たまには、外で飯食おうか。吉野家行くか?」
茂「いい。弁当買ってくる」
真坂「たまには、外で食おうぜ。明日からまた仕事で忙しいからな」
  茂、少し笑みを浮かべながら、ブランコから降り、
茂「ランドセル置いてくる」
  走り去って行く茂。
  真坂、呆然と茂を見つめ、呟く。
真坂「もう色々とわかる年頃だもんな…」

○ JWA・地下ガレージ
  大型エレベータの扉が開き、B―COAが出てくる。
  巨大な円状の鉄板の上に止まるB―COA。
  運転席から降りる北。
  エナが北の元に駆け寄ってくる。
北「総監は?」
エナ「今、手術が終わったところです」
北「結果は?」
エナ「幸い致命傷になるような傷は、なかったようです。これからCCUのほうで24時間の治療体制に入ります」
北「坂崎の情報は、何か掴めたのか?」
  エナ、動揺した面持ちで、
エナ「例の倉庫を調べましたが、手がかりになるようなものは、何も見つかりませんでした…」
北「総監に会ってから、俺も坂崎の行方を探す」
  奥の通路のほうから足音が聞こえる。
  通路を見つめる北。
  坂崎が現れる。
北「坂崎…」
  ハッと振り返るエナ。
エナ「坂崎君…」
  エナ、坂崎に駆け寄る。
エナ「いつ戻ってきたの?」
坂崎「今さっき…」
エナ「どこに行ってたのよ?」
坂崎「話せば、長くなる…」
北「事情を説明しろ」
坂崎「申し訳ございません。実は、あの橋の上で金木と会ったんです」
北「金木と?」
坂崎「金木に脅迫されて、アジトに連れて行かれましたが、何とか自力で抜け出してきました」
エナ「総監が撃たれたの」
坂崎「総監が?…」
エナ「早く一緒に来て」
  エナ、坂崎の腕を掴み、引き連れて行こうとする。
  坂崎、北に頭を下げた後、エナと共に通路を走り去って行く。
  北、張りつめた表情。
  B―COA先端部のスピーカーからシェンズの声が聞こえる。
シェンズの声「総監、一命を取りとめたようね」
  B―COAのほうに顔を向ける北。
北「ああ」
シェンズの声「良かった。早く話がしたいわ」
北「…」
シェンズの声「どうしたの?一真…」
  浮かない表情をしている北。

                                                      ―つづく―

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