『メトロジェノン/シーズン2 エピソードT
TENA CODE013 「アドヒージョン」

BY ガース『ガースのお部屋』

○ とあるトンネルの中
  響く足音。
  武装した4人の機動隊員の男達が一列になり走っている。
  ひたすら、暗闇の広がる奥の穴へ突き進む4人の機動隊員。
  暗闇の向こう、道が寸断している事に気づかず、落とし穴にはまったように次々と
  落下する機動隊員達。
  バタバタと鈍い音が連続で鳴り、隊員達の悲鳴が轟く。
  天井に設置されたいくつものライトが一斉に光る。
  トンネル内が一気に明るくなる。
  5m下の窪んだ地面の上に蹲っている機動隊員達。
  窪んだ地面一面に、黒いジェル状の粘着物質が塗られている。
  粘着物質によって地面にくっついている4人。身動きが取れなくなっている。3人は、仰向けで倒れている。
  うつ伏せの状態で地面に倒れている新滝(にいたき)隊員(37)。顔全面に黒いジェルがくっついて、
  息ができずもがいている。
  新滝のそばで地面に張り付いている広中隊員(41)。
広中「新滝、大丈夫か?しっかりしろ!」
  暫くして、新滝の動きが止まる。
  広中、呆然と新滝を見つめ、
広中「新滝…新滝!」
  死んでいる新滝。

○ 同・地下・監視ルーム
  横一列に並ぶ数台のモニター。真ん中のモニターに広中達の様子が映る。
  モニターの青白い光に照らし出されている女の目。三白眼。不気味に目を見開き、へらへらと笑う女。

○ コンビニ店・中
  二人の若い店員がカウンターに立つ。買い物籠を持ってカウンターの前にやってくる女性。
  籠の中の品物のバーコードをスキャナーで読み取り、レジを打つ若い店員・神原(22)。
  菓子類の棚。屈んで箱から、お菓子の袋を取り出し、一番下の棚に並べている店員の男。
  男は、真坂和久(32)。
  真坂の前にやってくる神原。
神原「ちょっと」
  真坂、神原の顔を見つめる。
真坂「はい」
神原「その箱じゃないよ。(棚を指差し)そっちのスナック菓子を出せって言ったの」
  真坂、棚を見つめる。
  三段目の棚に空いてるスペースがある。
真坂「あ…すんません。似た感じだったから間違えちゃって…」
  神原、ため息をつき、カウンターに戻る。
  真坂、急いで棚に並べたお菓子を箱に戻す。

○ 倉庫地下・JWA(対外政策情報機関)・OP(オペレート)室
  入口の自動扉が開く。中に入ってくる北一真(31)。
  オペレートシテスムのモニターの前に集まる数人のオペレート員達。
  総監オフィスの扉が開く。中から出てくる椎名歩(あゆむ)(56)。
  北の隣に立ち、モニターを見つめる。
  モニターに映るトンネル内の様子。地面にくっついた状態の広中がカメラ目線で話している。
広中の声「誘拐された子供達は、まだ確認できていません。我々は、この通りの有り様です。
 全く身動きできません。大変申し訳ございません。身代金の増額を要求されました。金額は、
 5000万から5億に引き上げるそうです…」
  モニターを見つめながら椎名に話す北。
北「このビデオですか?」
椎名「そうだ。三日前の朝、走行していた幼稚園のバスから二人の子供がさらわれた。犯人は、覆面をした
 若い男女。グレイのステーションワゴンに乗っていたそうだ。その夜、警視庁は、4人の機動隊を身代金の
 取り引き場所に送った」
北「4人の機動隊?」
椎名「犯人の要求だ。だが、4人が犯人と取り引きするためにどこの場所に向かったのかは、
 こちらでもまだ掴めていない」
広中の声「仲間が1人…新滝君が窒息死しました…。後の二人は、無事ですが、僕らの背中にくっついている
 粘着物質は、可燃性が高く、24時間後に自然発火するかもしれないそうです…。お願いです。
 まず、二人の捜査員に5000万の身代金を持たせて、今から言う場所に来てください…」
  モニターの動画が止まる。
北「映像は、これだけか?」
  オペレートシテスムの座席に座っているオペレート員の若い男。坂崎千春(25)。長身で細身、精悍な顔つき。
  坂崎、ディスクトレイを開き、中からDVDディスクを取り出す。
坂崎「はい。トータルタイム3分31秒の動画ファイルしか記録されていません」
椎名「取引場所についての説明は?もしかして、犯人のやつ、肝心の映像を入れ忘れたんじゃないだろうな?」
北「ディスクは、何に入れられて送られてきた?」
坂崎「これです」
  坂崎、封筒を北に渡す。
  住所を確認する北。
椎名「犯人は、妙な化学薬品を所持している。それに誘拐された子供達の親は、TENAのメンバーだった
 事が判明した」
北「子供達の親は、どこにいるんですか?」
椎名「3年前に全員死んでいる。4人とも同じ車の中で無理心中をした」
  北、封筒を破り、裏を確認する。
  裏側に住所が書いてある。
北「ここだ」
  椎名、破れた封筒を持ち、確認する。
北「B―COAのメンテは?」
椎名「一時間前に終了した」
  椎名、スーツのポケットからICカードを出し、北に手渡す。
  カードを受け取る北。
椎名「パートナーが必要だな…」
  突然、立ち上がる坂崎。
坂崎「僕にやらせてください」
北「現場の経験は?」
坂崎「まだ、全然…」
北「駄目だ」
坂崎「憧れてるんです。北さんに…」
北「えっ?」
坂崎「ここを志願したのも、北さんと現場で仕事をしたかったからなんです」
椎名「君は、ここの担当になってからまだ、半年だな」
坂崎「はい。本部に来てから一ヶ月間、実地訓練を受けました」
北「あれは、ここに来る連中は、皆必然的に受けさせられているものだ。あんなものは、ほとんど現場では、
 役に立たない」
坂崎「チャンスをください。ずっとこの日が来るのを待っていたんです」
  椎名を見つめる北。
椎名「連れて行け」
北「総監!」
椎名「但し、失敗は、許されない」
坂崎「光栄です。北さんと組めるなんて…ああ…もうなんか燃えてきた!命を懸けて任務を遂行します」
  敬礼する坂崎。
  首を傾げる北。

○ 住宅街・通路
  道の真ん中を歩いている真坂茂(7)。ランドセルを背負い、とぼとぼと歩く茂。
  立ち止まる茂。手前に見える公園のほうを見つめる。
  ジャングルジムの前で立っている二人の小学生の女の子。
  二人とも携帯をいじっている。
  羨ましそうな目でその様子を見ている茂。

○ コンビニ店・中
  カウンターの前に立っている真坂。カウンターの上に置かれている小包。
  真坂、伝票を記入している。
真坂「(舌打ち)…きたねぇ字だな、これじゃあ、郵送できねぇよ」
  真坂、伝票をまじまじと見つめ、
真坂「って…これ、俺の字だな…」
  自動ドアが開く。
  店内に駆け込んでくる茂。籠を持ち、カウンターの前を横切る。
  茂に気づく真坂。
真坂「おい!」
  お菓子の棚の前に行く茂。チョコレート、ラムネ、スナック菓子等など、手当たりしだいお菓子を
  籠の中に入れる。
  一杯になった籠を持ち、カウンターの前に行く茂。
  真坂、茂に小声で話しかける。
真坂「ここには、来るなって言っただろ。店の人には、独身だって言ってあるんだ」
茂「客だよ、僕」
真坂「誰が払うんだよ、これ?」
  茂、真坂を指差す。
真坂「親に向かって指差すな」
茂「買って」
真坂「やだよ。戻して来い」
  奥の部屋から、神原が出てくる。
  茂、泣きべそをかき始める。
  神原、茂の様子を見つめ、
神原「どうしたの、僕?」
  茂、真坂を指差し、
茂「この人が僕の事いじめてレジ売ってくれない」
真坂「はぁ?」
  真坂を睨みつける神原。
神原「真坂さん、相手が子供でもお客さんですから。平等に対応してあげないと…」
真坂「…すんません」
  真坂、しぶしぶ、商品のバーコードの読み取りを始める。
真坂「(小声で)おまえのせいでレンタル屋いけなくなったじゃねぇかよ。新作借りようと思ってたのに…」
  真坂、レジを打ち終わると、悔しそうに財布を出し、千円札を数枚取り出し、レジのドロアに入れている。
  茂、袋を持ち、寡黙に店を出て行く。
真坂「もう二度と来るなよ」

○ ビジネス街・国道
  二車線の道路。まばらに走行する車。
  右のレーンを走行するグリーンメタリックの滑らかなデザインのスポーツカー・B―COA(ビーコア)。
  クリーンなエンジン音が高鳴る。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に座る坂崎。
  坂崎、しきりに携帯を弄っている。
  坂崎を一瞥する北。
北「さっきから何やってるんだ?」
坂崎「あっ、すいません…」
  坂崎、携帯を制服のポケットにしまう。
北「前は、どこの所属だ?」
坂崎「名古屋です。ここと同じくオペレートを担当していました」
北「名門の大学を出たのに、どうしてわざわざこんな危険なところに志願したんだ?」
坂崎「親父が警察官だった影響もあるかもしれないです」
北「親父さんは、まだ現役?」
坂崎「去年亡くなりました」
北「…原因は?」
坂崎「病気です。27年間、都内で交番勤務を勤めてきたんですが、元々持病があったのに若い頃から
 無理のしっぱなしで。そのつけが一気に来たんでしょうね…」
北「悪い事聞いたな」
坂崎「いいえ。北さんは、どうして、ここに?」
北「成り行きだ」
坂崎「北さんも三年前までオペレート要員だったんですよね?」
北「誰から聞いた?」
坂崎「ディジアさんです。半年前、九州支部へ移動された…」
北「ディジアを知ってるのか?」
坂崎「ここに配置が決まった時、彼女から指導を受けました」
北「どんな話を聞いた?」
坂崎「結構色々聞きましたよ。性格とか、好みとか、彼女の事とか…」
  北、険しい表情になる。北の様子を窺う坂崎。
坂崎「気に障ったら、すいません」
北「諜報員の癖して、身内の事になると、途端にお喋りになるんだよな…」
坂崎「ついでに聞いてもいいですか?」
北「何?」
坂崎「シェンズのこと…」
北「何を知りたい?」
坂崎「この車のメインシステムにシェンズの頭脳が使われてると聞いたんです」
  気分悪そうに顔を歪める北。
北「その話は、後だ…」
  怪訝な表情を浮かべる坂崎。

○ 高速・高架下
  道路脇に立ち止まるB―COA。
  
○ B―COA車内
  坂崎、腕時計を見つめ、
坂崎「そろそろ時間ですけど…」
  辺りを見回す北。
北「慌てるなよ。そのうち来る」
  やがて、後方からバイクのエンジン音が聞こえてくる。
  B―COAの前に立ち止まるバイク。
  青いトレーニングウェアを着て、黒いフルフェイスをつけている華奢な男。
  男、北達に指で合図を送る。
坂崎「なんだ?偉そうに…」
北「ついて行くしかないだろ」
  シフトレバーを入れる北。

○ 高速・高架下
  走り出すバイク。バイクを追うB―COA。

○ 国道
  緩やかな坂道を上るバイク。
  交差点を左に曲がる。B―COAも後を追う。
  真っ直ぐな坂道をひたすら駆け下りているバイク。次の交差点でまた左に曲がる。
  B―COAも左に曲がる。

○ B―COA車内
坂崎「なんか…おかしくないですか?」
北「何が?」
坂崎「この先は、突き当たりで左にしか曲がれません。また、さっき通った道に戻ってしまいますよ」
  北、怪訝な表情で、バイクの男を見つめる。
  フロントガラス越しに見えるバイク。
  突き当たりに差し掛かり、勢い良く、左に曲がる。
  北、ハンドルを左に切る。

○ 住宅街・道路
  緩いカーブを軽快に走行するバイク。
  バイクを追うB―COA。

○ B―COA車内
  フロントガラス越しに見える交差点を見つめる坂崎。
坂崎「ほら、やっぱり」
  バイク、交差点をまた左に曲がる。
北「何か裏がありそうだな…」
  北、アクセルを踏み込み、スピードを上げる。

○ 交差点
  ドリフト気味に滑りながら、交差点を曲がるB―COA。
  みるみる加速し、走行するバイクの前に回り込み、バリケードを張る。
  立ち止まるバイク。
  車から降りる北と坂崎。
  北、ホルダーから黒のベレッタM92Fを抜き、両手で構えながら、バイクの男に近づく。
北「ヘルメットを取れ」
  ヘルメットを脱ぐ男。青い髪、前髪を長く垂らした青年。首筋にペガサスの刺青。
  上目遣いで北を見ている。
  男に近づく二人。
  ニヤッと笑みを浮かべる男。
北「案内する気がないなら、ここで手錠をかけるぞ」
男「そんなことしていいのかなぁ…」
坂崎「おまえ…時間稼ぎしてるだろ?」
男「バイク乗るの久しぶりだから、ちょっと遊んじゃったぁ…」
  坂崎、我慢できずを拳を振り上げようとするが、北が坂崎の腕を掴み、静止する。
  銃を下ろす北。
北「君、未成年だな。人質は、どこにいる?」
男「さぁ…どこでしょう?」
  へらへらと笑う男。
男「そろそろいいかな…今度こそ本当に案内するよ。ふふふ…」
  男を睨む二人。

○ コンビニ
  カウンターの前に立つ真坂。OL風の女性の客の精算をしている。
  金髪や茶髪のヤンキー風の若い男達がざわめきながら、店の中に入ってくる。
  本棚の前にたまり、手当たりしだいを本を取り、立ち読みし始める男達。中には、
  床に座り込み、読み始める奴もいる。
  女性にお釣りを手渡す真坂。ちらちらと男達の様子を窺っている。
  逃げるように店から出て行く女性。
真坂「ありがとう…ございました…」
  真坂、憮然とした表情で男達の前に近づいて行く。
真坂「おーい」
  男達、気にせず、大声を上げながら本を読んでいる。
真坂「ねぇねぇ?」
  一斉に真坂を見る男達。鋭い眼光。
  真坂、座っている男Aを見つめ、
真坂「あの…とりあえず立ってくれる?」
男A「はい?」
男B「俺達、客なんですけど…」
男C「お客様に何か文句でも?」
真坂「お客って言ってもさぁ…なんか違うよねぇ…」
男A「違うって?」
真坂「皆、雑誌置いて…さぁ」
男B「何なんだよ?」
男C「客って言ってんだろうが」
真坂「お前達みたいな客は、要らないな」
  立ち上がる男A。
  三人、真坂を取り囲み、凄む。
  そこに駆けつけてくる神原。
神原「どうかしましたか?」
男A「こいつが俺達を客扱いしないんだよ。どう言う教育してんの?」
男B「俺達、普通に立ち読みしてただけなんだけど」
真坂「普通に立ち読み?図書館気取りがいい加減な事言いやがって」
  真坂、三人、掴み合いを始める。神原、慌てて奥の部屋へ駆けこんで行く。
   ×  ×  ×
  駐車場に立ち止まるパトカー。赤色灯が光っている。
  若い男達、警官に連れられ店から出て行く。
男A「クソ、覚えてろよ」
  カウンターの前に立つ真坂と若い店員。真坂、シッシッと追い払っている。
真坂「さいならさいなら。もう二度と来ないでいいから」
神原「あの…」
真坂「どう言うしつけしたら、ああなんのかねぇ…」
神原「店長に報告しますから」
真坂「構いませんよ。別に悪い事したわけじゃないし。ただ、パトカーは、呼ばなくてもよかったような…」
神原「ああ言うのは、気が済んだら勝手に出て行くんだから、ほっとけば良かったんですよ」
真坂「でも、他の客の迷惑に…」
神原「あの時、他に誰もいなかったじゃないですか」
  ため息をつく神原。立ち去り、奥の部屋に入って行く。
  納得行かない様子の真坂。

○ 山道・美波田峠
  林の中のアスファルトの坂道を進んでいるバイクとB―COA。
  バイク、突然、ガードレールのそばに止まる。
  バイクの後ろに止まるB―COA。
  バイクから降りる男。B―COAに向かって歩き出す。

○ B―COA車内
  運転席の窓を開ける北。
  北の前にやってくる男。
男「どっちか1人、僕のバイクの後ろに乗って」
北「どう言う事だ?」
男「ここからは、2人もいらないって事…」
北「坂崎、運転頼む」
坂崎「僕が行きます」
北「おまえは、まだ無理だ」
坂崎「北さん、こういうのは、下っ端の仕事ですよ…」
  坂崎、車から降りる。
  北に話し掛ける男。
男「あんたは、帰っていいよ。ついてこないでね。ついてきたら、この人消えちゃうからね」
  立ち去る男。
  男と一緒にバイクに乗る坂崎。
  唸るエンジン。勢い良く走り出す二人乗りのバイク。
  前方にあるトンネルの中に入り、姿を消す。
北「ジェノン」
  スピーカーから女の声が聞こえる。中央コンソールの上部に設置されている
  音声レベルケージが青く光る。
ジェノン「はい」
北「さっきの男の映像を出してくれ」
ジェノン「わかりました」
  センターコンソールの4つのモニター。左上の画面にB―COAに近寄るバイクの男の映像が映し出される。
  男の顔にズームアップ。
  画面が2分割され、右の画面にTENAのメンバーの写真のリストが次々に表示され、サーチされる。
  暫くして『NO LIST』と言う文字が表示される。
ジェノン「TENAのデータベースには、情報がありません」
北「本部につないでくれ」
ジェノン「わかりました」
  通信のアラームが鳴り響く。
  暫くして、椎名の声が聞こえる。
椎名の声「私だ」
北「今、美波田峠にいます。坂崎が若い男のバイクの後ろに乗って、現場に向かいました」
椎名の声「坂崎が?」
  北、地図のイメージが映し出され、発信地点を示す赤丸のランプが点滅している。
北「坂崎の靴に仕込んである発信器が作動しているので、追跡します。男の映像をそっちに送信します」
  発信点が突然消える。
  唖然とする北。
北「ジェノン、発信が消えたぞ」
ジェノン「信号が途絶えました」
椎名の声「一体どうした?」
北「…」

○ 暗闇の部屋
  どこからか差し込む薄明かりに照らされている坂崎。気を失い、コンクリートの壁隅に横たわっている。
  ふと、目を覚ます坂崎。起き上がろうとするが、背中、両腕、両足に黒いジェル状の粘着物質がこびりついて
  身動きがとれない。
  遠くから聞こえる男の不気味な笑い声。
男の声「どう?人間ホイホイの感想は?」
坂崎「これ…広中さん達に仕掛けた物と同じものか?」
男の声「当たり」
坂崎「子供達は、どこだ?」
男の声「ここには、いないよ」
坂崎「広中さん達は?」
男の声「ここは、あんたを監禁するためのスペシャルルームだよ」
坂崎「僕を監禁するなら、他の人質を解放しろ」
  男の声が消える。
坂崎「おい!」
  扉がずるずると閉まる音が響く。薄明かりが消え、坂崎の姿も暗闇に消える。

○ アパート・2F(夕方)
  オレンジ色の空。
  夕陽を浴びながら階段を上る真坂。少し疲れた様子。通路を歩き、ドアの前に立つ。
  鍵をドアノブに差し込む。

○ 真坂の自宅
  真っ暗な部屋。
  電灯の電源スイッチを押す真坂。
  雑然とした8畳のワンルーム。
  布団の上にランドセルと携帯ゲーム機が投げ出されたように置かれ、あちらこちらに玩具が散らばっている。
  コンビニの袋に入ったお菓子も散らかっている。
  辺りを見回す真坂。
真坂「茂…」

○ 同・トイレ
  扉を開く真坂。中には、誰もいない。

○ 同・リビング
  トイレの扉を閉める真坂。動揺した面持ち。
  突然、携帯が鳴る。少しびびる真坂。携帯に出る真坂。
真坂「茂をどこにやった?」
電話の音「…」
真坂「貧乏人に身代金を要求するなんて、見る目ないな、おまえ…」
電話の音「…」
真坂「俺が人質になってやるから、場所を教えろ!」
女の声「私の家だけど」
真坂「私の家?そんな言い方でわかるわけねぇだろ」
女の声「茂君、家に帰りたくないって言ってる…」
真坂「茂の声を聞かせろ!」
女の声「…出たくないって」
真坂「…本当にそこにいるのか?」
女の声「いるわよ」
真坂「嘘つくな…何が目的だ?」
女の声「携帯欲しいんだって。買ってあげたら?」
真坂「はぁ?」

○ 三原家邸宅・2F・葉菜美の部屋
  10畳ほどの広さのあるリビング。
  携帯を持ち、話す三原 葉菜美(22)。
  葉菜美の前で横になり、眠っている茂。
葉菜美「友達、皆持ってるのに自分だけなくて悔しいって言いながら眠っちゃたんだけど…」

○ 真坂の家・リビング
真坂「おまえかよ…」
葉菜美の声「今頃気づくか?普通…」
真坂「良かった…お前の家にいるなら安心だ…」
葉菜美の声「別にいいんだけどさ、突然はね…」
真坂「わりぃ。今から迎いに行く」
葉菜美の声「いい。今日は、面倒見てあげるよ」
真坂「育児ヘルパーだったっけ?新しい仕事。大変らしいじゃねぇか」
葉菜美の声「ベビーサポーターよ。タイミング良かったわね。今日と明日は、休みなの」
真坂「やっぱそっち行くわ。絶対連れて帰るから」
  受話器を置く真坂。
  急いで、玄関に向かう。
  その時、突然インターホンが鳴る。

○ 同・玄関
  真坂、ドアの覗き穴で外を確認する。
  覗き穴の視点。外には、誰もいない。
  首を傾げながら、ソッとドアを開ける真坂。
  表の通路の柵の前に立つ北の後ろ姿が見える。
  振り返る北。真坂と目が合う。真坂、思わず、扉を閉める。
  外から北の声が聞こえてくる。
北の声「元気そうだな」
真坂「何しに来た?」
北の声「ちょっと話しが…」
真坂「聞きたくねぇ」
北の声「頼む。時間がないんだ」
真坂「こっちもだ。帰ってくれ」
北の声「三日前に幼稚園児が誘拐された。その事件に奴らが関わっているんだ」
真坂「俺は、解雇された人間だ。そんなに人材不足なのかよ?」
北の声「この件を解決できなかったら、うちの組織は、やばい状況になる…」
真坂「自業自得だろ。出来損ないの総監を恨めよ」
北の声「それ以上総監を侮辱したら…」
真坂「『ぶっ殺す』か?お得意の名言も空しく聞こえるな」
北の声「この国がTENAに浸食されても我慢できるのか?」
真坂「誰がTENAだろうが、もうどうでもよくなった。とっ捕まえても次から次へゴキブリみたいに
 沸いてきやがるし…」
北の声「そうか…」
  北の足音が響く。少しずつ遠のいて行く。
  扉にもたれ、困惑する真坂。
  暫くして、サッと扉を開ける。

○ マンション2F・通路
  通路を歩く北。後ろから真坂の声が聞こえてくる。
真坂「これが最後だぞ」
  立ち止まり、振り返る北。
  扉から顔を出している真坂。
  真坂を見つめ、頷く北。

○ 国道(夜)
  繁華街。人で賑わう歩道。そのそばの車線をヘッドライトを光らせ走行するB―COA。
真坂の声「それで、俺に何をさせようってんだよ」

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に座る真坂。
北「俺の新しいパートナーの行方を探す」
真坂「JWAの新人か?」
北「犯人の要求通りに動いて、拉致されてしまった」
真坂「子供や機動隊員を人質に取った上に、その新人まで誘拐しやがったのか。
 もしかして、奴らの趣味は、誘拐か?」
北「何か理由があるはずなんだ…それを見つけ出さないと…」
真坂「総監は、知ってるのか?」
北「知ってるって?」
真坂「お前が俺を誘った事…」
北「いいや…」
真坂「ばれたら問題になるぞ」
北「余計な事心配しないでいい。ちゃんとフォローする」
真坂「何のフォローだよ。そんなのいらねぇ」

○ 山道
  電灯が一つも立っていない山奥の暗がりの道。
  緩いS字の道を走行するB―COA。

○ B―COA車内
  北、モニターにメニュー画面を映し出す。画面の『MIND CHANGE』のボタンを押す。
  モニターにポニーテールの女のCGイメージが映る。人工頭脳「シェンズ」が話しを始める。
シェンズ「どうしたの?」
北「美波田峠のトンネルの中を調べる」
シェンズ「ハイウェーブサーチの準備を開始する。助手席に座っているのは、部外者ね」
真坂「部外者で悪かったな」
シェンズ「あなたは、半年前にJWAを解雇された」
真坂「ああ、その通りだ」
シェンズ「真坂さんのこと…総監に報告しておくわね」
北「待て。報告しなくていい」
シェンズ「どうして?」
北「後で俺がする」
シェンズ「わかった」

○ 美波田峠・トンネル内
  勢い良く進入して来るB―COA。
  トンネルの中央部付近で車体を横に滑らせ、立ち止まる。
  オレンジ色のネオンに照らされているB―COA。

○ B―COA車内
北「坂崎は、このトンネルの中で消えた。きっと、ここに何かの仕掛けがあるに違いない」
シェンズ「ハイウェーブサーチシテスム起動」
  モニターのメニュー画面の「HI―WAVE」のボタンが光る。

○ B―COAのボンネット上の突起部が青く光る

○ B―COA車内
  モニターにトンネルの3Dワイヤーフレームイメージが表示される。
シェンズ「データベースに反応あり。全長324m、全幅4m、高さ5.5m。1956年に建造され、
 75年に地震による土砂崩れで崩壊し、建て直されているわ」
北「何か変わったところは、見つからないか?」
  モニター画面。トンネルの中心にズームアップする。
シェンズ「1.5m前方、左側面中央部にセメントの薄い部分を発見した」
北「補修の跡か?」
シェンズ「いいえ。幅1m、高さ2.5m。誰かが手を加えた可能性が高いわ」
真坂「きっと何かの入口だ」
  車から降りる二人。

○ 美波田峠・トンネル内
  トンネルの壁に歩み寄る二人。
  壁のコンクリートを手を当て調べ始める北。
  真坂、壁に耳を当てている。
北「何か聞こえるか?」
  首を横に振る真坂。
真坂「何も聞こえねぇな…」
  北、壁を念入りに触り、ある場所にカードの読み取り装置(スキャナー)を発見する。
北「見つけたぞ」
  真坂、装置を見つめ、
真坂「隠し部屋か…どうやって開ける?」
  北、B―COAのほうを向き、
北「シェンズ、ミサイルを用意してくれ」
シェンズ「了解」
  B―COAの右側のリアフェンダーの格納庫が開く。
  赤い筒型のミサイルが表に出てくる。
真坂「ミサイルで吹き飛ばす気か?」
北「消火用のやつだ。うまい事ぶち抜いてくれるといいが…」
真坂「やるしかねぇよな」
  二人、壁から離れ、B―COAのそばに立つ。
北「いいぞ」
  発射するミサイル。勢い良く、トンネルの壁に当たり、壁の下に隠れていて扉をぶち抜く。
  白い煙が辺りに充満する。
  口元を押さえ、煙を払う二人。
真坂「おいおい、煙で前が見えねぇよ…」
北「あのミサイルじゃ無理があったか…」
真坂「でも、ちゃんと貫通したぞ」
  二人、煙を振り払いながら前に進む。

○ 同・隠し部屋
  暗がりの狭い通路を走る北、その後ろに真坂。
  奥のコンクリートの地面に横になっている坂崎を見つける北。
北「坂崎!」
  坂崎の元に駆け寄る北。真坂も後を追う。
坂崎「北さん…」
  北、坂崎の背中の周りについている黒いジェル状の粘着物質を見つめる。
坂崎「すいません…」
  北、粘着物質をペンで救い上げている。
真坂「そんなに強力な接着剤なのか?」
  坂崎、真坂を見つめ、
坂崎「あの…どちらの方ですか?」
  北、削った粘着物質を小さな丸い容器の中に入れ、蓋を閉める。容器を上着のポケットにしまう。
北「お前の先輩だ…」
  真坂、坂崎の様子を確認し、
真坂「両手がくっついてなけりゃ服を切り裂いて助け出せるのにな…」
  怪訝に真坂を見つめる坂崎。
坂崎「思い出した。総監の特別の権限で雇われた臨時諜報員って、あなたの事でしょ?」
真坂「詳しいな。どこで調べた?」
坂崎「ディジアさんから聞きました」
  北、「あちゃー」と言うような苦い顔つき。
坂崎「でも、あなたは、半年前に辞めたはず」
真坂「ああ、そうさ」
坂崎「じゃあ、どうしてここにいるんですか?」
真坂「ボランティアだよ。俺の事より、自分のことを心配しろよ」
坂崎「あなたの心配なんかしてません。僕に構わないでください」
  愕然とする真坂。
北「俺が頼んだんだ。俺と同等の働きをしてくれるのは、今のところこいつしかいない」
  照れる真坂。
真坂「つまんねぇ事言うなよ。はずい…」
  真坂を見つめる北。
北「本当だ」
真坂「キモイな…お前からそんな言葉聞くとは、思わなかったぜ」
  坂崎、悔しげな表情を浮かべ、
坂崎「帰ってください」
北「坂崎!」
坂崎「あなたは、もうJWAのメンバーじゃないんです。余計な手出しは、無用です」
  真坂、ため息を突く。
真坂「…だってさ」
北「こんなところでくだらない意地を張ってる場合じゃない。人質の命は、あと12時間しかないんだ」
坂崎「総監の指示なんですか?」
北「俺の指示に従えないのか?」
坂崎「今度のあなたの行動には、法規上、問題があります」
真坂「わかった、わかった。俺が帰れば、問題即時解決だ。じゃあな」
  立ち去る真坂。
  北、重たい表情を浮かべ、
北「どうしてだ、坂崎」
坂崎「部外者に手を借りる必要は、ありません。いくら、元JWAのメンバーでも、もう過去の人でしょ」
北「あいつに恨みでもあるのか?」
坂崎「JWAの法規を遵守しているだけです」
  北、ため息をつき、真坂の後を追う北。
  憮然とした表情で天井を見つめる坂崎。

○ 同・内
  B―COAのそばを横切る真坂。
シェンズの声「どこに行くの?」
  立ち止まる真坂。
真坂「仕事が終わったから帰るんだよ」
シェンズの声「仕事は、まだ終わってないわ」
真坂「ああ。だけど、俺の仕事は、もう終わりだ」
シェンズの声「一真は、あなたを必要としている」
真坂「疲れたんだよ…もうどうしようもなくな…」
  立ち去って行く真坂。
  北の声が響く。
北の声「真坂!」
  北の声を無視し、歩き続ける真坂。
  真坂を追い、静止させる北。
北「あいつは、今日が現場デビューだ。お前の事なんて何もわかっちゃいない」
真坂「でも、あいつの言ってる事は、間違っちゃいない。俺は、もうJWAのメンバーじゃないんだ」
北「とにかく、おまえ、ここに残って、あの部屋を調べてくれ。俺は、一度本部に戻って
 粘着物質の成分を調べる」
  苦笑いする真坂。
真坂「俺とあいつを二人っきりにさせるってか。相変わらずハードな職場だな」
北「頼む」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  デスクの座席に座る椎名。デスクの上に肘をつき、考え耽る。
  椎名のデスクの前に立つ防衛省諜報担当官・浦河三造(47)。紺のスーツ、短髪、中年太りしている。
浦河「私があの話をしてから今日でちょうど半年になる。もうそろそろ決断してもいい頃だろ」
椎名「…」
浦河「どっちみち、いずれは、新しい組織へ統合される。君自身の手でここを存続させたい気持ちは、
 わからないでもないが、諸外国の動きを見ても、わが国の諜報活動は、まだまだ遅れを取っている。
 将来のためにも規模を拡大して、強大な組織作りが急務だ」
椎名「外部機関の遅れは、私も十分理解しています。しかし、国内においては、
 現在の組織形成で対応できているし、際立った問題点も今のところは、見当たらない」
浦河「JWAは、君が作り上げた組織だ。財閥グループや宇宙開発事業団を取り込んで、B―COAの
 開発プロジェクトを見事に成功させた。それは、私達も十分に評価している。だから、君には、これからもっと
 この機関の中で重要な役割を果たしてもらいたいんだ」
椎名「外部機関の拡大は、賛成します。しかし、安易な吸収案には、やはり賛成しかねます」
浦河「安易ではない。時代の流れだ」
椎名「時代のせいにする事が安易です」
浦河「君がいつまでも渋るようなら、こちらにも色々と方策がある」
椎名「その話は、またいずれ」
  苦笑する浦河。
浦河「忙しいようだから、出直しますよ」
  立ち去る浦河。部屋を出て行く。
  ため息をつく椎名。

○ 同・化学分析ユニット・ラボ室
  部屋の周りを取り囲むように置かれている棚。様々な研究資料のファイルが並んでいる
  真ん中の長テーブルの前に座る科学分析ユニット室長・内木一昭(45)。電子顕微鏡を覗いている。
  内木の後ろに立つ北。険しい顔つき。
  内木の正面に並んでいる複数のモニター。
  真ん中のモニターに顕微鏡の画像が映し出される。瑠璃色の不思議な形をした分子が見える。
  モニターを見つめる北。
内木「エポキシ樹脂と黄燐を結合させた組成物資だ。しかも、黄燐よりもとても発火しやすい組成になっている。
 ちょっとした摩擦熱や、人間の体の熱だけでも自然発火を引き起こす」
北「じゃあ、24時間のタイムリミットの前に爆発する可能性もあるって事ですか?」
内木「その可能性は、否定できないな…」
北「はがし剤は、どれぐらいで完成できます?」
内木「うーん、必要な薬品が全て揃っているか今から調べてみないとわからんが、なるべく早く用意するよ」
  自動ドアが開く。女性オペレート員の波本エナ(25)が入ってくる。
エナ「男の身元が判明しました」
  エナ、リストを北に手渡す。
  リストを見つめる北。
北「鶴美イズマ…将聖会病院の医院長、鶴美隆明の一人息子…東港大学科学研究部の学生か」
エナ「大学には、5日前から姿を見せていないそうです」
北「捜索願は?」
エナ「出されていません。これ以上の情報は、入手できませんでした」
北「なぜだ?」
エナ「諜報担当官からの指示です」
  怪訝な表情を浮かべる北。
北「…わかった。直接、鶴美の父親に会ってくる」
  部屋から出て行く北。
  内木、くたびれた表情をし、エナに話し掛ける。
内木「担当部門が情報の差し止めか?」
エナ「例の外部機関拡大の案件で、総監ともめているそうです」
内木「まぁ、拡大なんてのは、口実で、JWAを廃止して、別の諜報機関を立ち上げるのが本当の
 目的なんだろうけどな…」
エナ「薄々は気づいていましたけど…そのための情報規制が始まっているのでしょうか?」
内木「どうだろうね。これからの担当官の動きを注視しておかないと。どうなっちゃうんだろうね…僕達…」
  内木、奥の部屋に向かって歩き出す。
  憂いの表情を浮かべるエナ。

○ 美波田峠・トンネル内・隠し部屋
  狭い通路に立つ真坂。コンクリートの壁を念入りに調べている。
  真坂、奥の部屋を覗く。
  天井を向いたまま微動だにしない坂崎を見つめる。
真坂「いつ本部に入った?」
坂崎「あなたに答える必要はありません」
真坂「ジェノンみたいな口の聞き方…」
坂崎「…」
真坂「お前になんか悪い事したっけ?」
坂崎「…あなたは、JWAの裏切り者でしょ?」
真坂「…」
坂崎「総監に楯突いて、自ら職場を離れた人間に何も話すことは、ありませんよ」
真坂「俺がJWAを辞めた本当の理由を知ってるのかよ?」
坂崎「…」
真坂「何だ知らねぇのか。オペレート員の癖に情報収集力が乏しいな」
坂崎「バビデディットの真相を調べていた…」
  動きを止め、険しい顔つきになる真坂。
真坂「誰から聞いた?」
坂崎「自分で調べました。と言っても別の調査資料を調べているうちに、偶然見つけたものでしたけど…」
真坂「余計なことに足を突っ込みやがって…馬鹿な奴だ」
坂崎「馬鹿は、あなたでしょ?何も解決できず、結局、うやむやに調査を終わらせた」
真坂「うやむやに終わらせたのは、俺達じゃない」
坂崎「あなたですよ。やり方次第では、調査を続行できたのに途中で投げ出したんだ」
  真坂、坂崎の元へ猛突進し、殴りつけようとするが、動きを止める。
  目に涙を潤ませている坂崎。
  真坂、坂崎を見つめ、
真坂「一体、何なんだよ…おまえ…」
  坂崎、真坂の後方を見つめ、唖然とする。
  振り返る真坂。
  青いトレーニングウェアを着た男が立っている。男は、鶴美イズマ(20)。
  イズマ、真坂を見つめ、
イズマ「どちら様?」
真坂「そりゃあ、こっちのセリフだ」
イズマ「せっかく苦労して建てた僕の秘密基地を…弁償してよ」
真坂「そこでジッとしてろ」
  真坂、携帯を出し、北の電話番号を呼び出す。
イズマ「やめろ」
  動きを止める真坂。
  イズマ、テニスボールを右手の持ち、
イズマ「あの黒いドロドロにこれを当てたらどうなると思う?」
  真坂、坂崎の周りの粘着物質を見つめる。
真坂「それ、脅してるつもり?」
イズマ「じゃあ、投げるね」
  イズマ、腕を振り上げる。
真坂「待った!そのボール、もしかして爆弾?」
  イズマ、不気味な笑みを浮かべる。
イズマ「試してみれば、わかるよ」
真坂「待て!おまえ、野球やったことあるのか?」
イズマ「あるよ」
真坂「本当に?ゲームじゃ駄目だぞ」
  イズマの顔をジッと見つめる真坂。
  イズマ、動揺している。
真坂「ほらほら、やっぱ、ゲームだろ。普段投げたりしないのに、本当にあの黒い物質にボールを
 当てられるか?そこから距離的に8m以上はあるぞ」
坂崎「おい、早く投げろ!」
  真坂、慌てて、坂崎を見つめ、
真坂「お前黙ってろ!」
坂崎「ノーコン坊や、早く投げて来いよ」
  憤然としているイズマ。
真坂「挑発するなカス」
イズマ「ふざけんなよ、クソォ!」
  イズマ、勢い良く投げる。
  真坂、ボールの前に飛び出し、ブロックする。
  真坂の腹にボールが当たる。思わず唸る真坂。
  地面に倒れる。
  呆然としている真坂。暫くして我に返り、安堵の表情。
真坂「爆弾じゃねぇ…」
  イズマ、慌てて、逃げ出す。立ち上がり追いかける真坂。
  身震いしている坂崎。

○ 同・中
  道路脇を走るイズマ。真坂、全速力でイズマに追いつき、タックル。イズマを地面に押し倒す。
  馬乗りになり、顔面を殴りつけようとする真坂。
  イズマ、顔面を両手でかばい、
イズマ「暴力やめろ…もう!」
  手を下ろす真坂。
真坂「人質は、どこだ?」

○ 将聖会病院・1F・ロビー
  受付カウンター前に立つ北。看護師の女と話している。
北「不在?」
看護師の女「医師会の定例の会合に出席されています」
北「いつ頃戻られますか?」
看護師の女「今日は、戻ってこられないと思います」
北「どう言うことですか?」
看護師の女「会合の後、奥様と一緒に出かけられると聞いています」
北「どこへ?」
看護師の女「場所は、わかりません…」
北「…どうも」
  北、釈然としな様子で玄関に向かって歩き出す。
  看護師の女、ムスッとした表情で北の背中を見ている。

○ 同・駐車場
  辺りに隈なく止まっている車。
  中央の駐車スペースに止まっているB―COA。
  B―COAの前に戻ってくる北。車に乗り込む。

○ B―COA車内
  運転席のシートに座っている北。
  モニターに映るポニーテールの女のCG。
シェンズ「何を悩んでいるの?」
北「…医師会が開かれている場所を調べてくれないか」
シェンズ「わかったわ」
  北、病院の玄関口のほうを見つめる。
  玄関前に止まる黒いセンチュリー。
  後部席から白衣を着た白髪、眼鏡姿の医師が降りている。
  北、医師を見つめ、
北「シェンズ、病院の入口に立っている男をモニターに映してくれ」
  モニターに映る男。男は、鶴見孝明(56)。
シェンズ「医院長の鶴見孝明よ」
  北、慌てて、車から降りる。

○ 将聖会病院・1Fロビー
  歩いている鶴見。その後方で北の声がする。
北の声「すいません」
  立ち止まり、振り返る鶴見。
  鶴見に駆け寄る北。
北「医院長の鶴見孝明さんですね」
鶴見「誰だ?君は…」
  北、内ポケットからバッジを取り出し、
北「政府機関のものです。息子さんの事について、お話を聞きたいんですが…」
鶴見「息子が…どうかしたんですか?」
  北、カウンターのほうを見つめる。
  話をした看護師の女が消えている。
北「今日は、医師会の会合に出席されていたようですね」
鶴見「いや、近くの喫茶店で食事をしていただけだが…」
  怪訝な表情を浮かべる北。

○ 同・駐車場
  走る北。B―COAに乗り込む。

○ B―COA車内
  運転に座る北。エンジンをかける。
北「瀬川沙希と言う女の自宅へ行く」
  アクセルを踏み込む北。進むB―COA。
シェンズ「瀬川沙希?」
北「あの病院で働いている看護師だ。俺に嘘をついて、どこかへ消えた」
シェンズ「専用コードナンバーを使った連絡が来たわ。おそらく真坂さんよ」
北「つないでくれ」
  スピーカーから真坂の声が聞こえる。
真坂の声「はぁ…やっとつながった」
北「どうした?」

○ 美波田峠・トンネル前
  道路脇に立っている真坂。
  遠くからカラスの鳴き声がこだまする。
真坂「そっちの番号を忘れちゃってさ、思い出すのに時間がかかった。それで、分析は、終わったのか?」
北の声「今、はがし剤を作らせている」
真坂「喜べ。大きな収穫があったぞ」

○ B―COA車内
真坂の声「バイクの男を捕まえた」
北「鶴美イズマだな?」
真坂の声「何だ、知ってたのか。今、坂崎の隣にいる」
北「何か聞き出せたか?」
真坂の声「主犯は、あいつじゃない。女だ」
北「女?」

○ 美波田峠・トンネル前
真坂「そう、3ヶ月前に知り合って、付き合い始めたらしい。年上の女がタイプらしいな」
北の声「もしかして、その女の名前は、瀬川沙希か?」
真坂「なんだよ、それも知ってんのかよ?」
北の声「今、その女の自宅に向かっているところだ」
真坂「あの粘着物質は、イズマが作った。その女に指示されてな」
北の声「誘拐された子供と機動隊員達の居場所は?」
真坂「あいつは、何も知らない。全部女の差し金だ」

○ B―COA車内
真坂の声「それより、いつまであの新人をホイホイさせ続けるんだ?」
北「もう少し待ってくれ。後でまた連絡する」

○ 高級マンション
  住宅街の一角にそびえる建物。白タイル模様の4F建て。
  マンションの前に立ち止まるB―COA。
  車から降りる北。
  マンションの中に駆け込んで行く。

○ 同・303号室・瀬川沙希の自宅前
  ドアノブを握る北。鍵がかかっている。
  上着のポケットから電子キーを取り出し、鍵を開ける。

○ 同・リビング
  部屋の中に入る北。
  辺りを見回す。
  整然としている。机の棚の本、引き出しを調べる北。
  机の上に飾ってあるやっこさんの折り紙に気づく。折り紙を手に取る北。
  隣の部屋でごそごそと物音がする。
  北、ホルダーから銃を抜き、両手で構えながら、隣の部屋の扉の前に立つ。
  意を決して、扉を開ける北。

○ 同・ベッドルーム
  両手で銃を向ける北。
  ベッドの上で遊んでいる三上信行(6)と中谷小春(6)。
  信行は、ゲーム、小春は、人形を抱いている。
  不安そうな顔で北を見ている二人。
  北、銃をしまい、二人に近づく。
北「大丈夫、味方だよ…」
小春「お姉ちゃんのお友達?」
北「お姉ちゃんって、ここに住んでる?」
  小春をたしなめる信行。
信行「余計なこと言うなって」
  北、屈んで、二人の目線に合わせて話し出す。
北「君達いつからここにいたんだ?」
小春「昨日から…」
北「その前は、どこにいたの?」
小春「古いトンネル…」
北「トンネル?どこの?」
小春「山の中…カラスが一杯飛んでた」
  北、携帯を出し、美波田峠のトンネルの画像をディスプレイに表示させ、小春に見せる。
北「このトンネルかな?」
  首を横に振る小春。信行が話し出す。
信行「そこ通ったよ」
北「通ったって、じゃあ、その古いトンネルは、このトンネルの近くにあるの?」
小春「うん」
  
○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレートシテスムの座席につくエナ。
  ヘッドマイクをつけ、話している。
エナ「二人を見つけたんですか?」
北の声「そうだ。瀬川沙希の自宅に監禁されていた。至急誰かを派遣してくれ」
エナ「わかりました」
  総監室から出てくる椎名。エナの背後に近づく。
北の声「はがし剤は、完成したか?」
エナ「もうすぐです」
北の声「わかった。完成したら、美波田峠のトンネルに向かってくれ。俺は、現場に向かう」
エナ「了解」
  通信が切れる。
椎名「子供が見つかったのか?」
  ヘッドマイクをはずすエナ。椎名と顔を合わせる。
エナ「はい。広中隊員達がいる場所も見つけたそうです」
  安堵の表情を浮かべる椎名。

○ 山道
  森の中のうねった坂道をスピードを上げ、進んでいるB―COA。

○ 美波田峠・トンネル前(夕方)
  ガードレールにもたれ、待ちくたびれている真坂。
  暫くして、低いエンジン音が鳴り響く。
  走行してくるB―COA。
  真坂の前で立ち止まる。
  B―COAの助手席に乗り込む真坂。
  勢い良く発進するB―COA。
  トンネルの中に入る。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。
真坂「ほっといていいのか?あの生意気新人」
北「はがし剤が完成したら、うちの派遣員が迎いに来る。鶴美イズマは?」
真坂「新人の隣に貼り付けといた。あの粘着物質でな」
北「ひでぇ野郎だ」
真坂「仕方ねぇだろ。何一つ小道具を持たせてもらってねぇんだから。死にそうな思いをしたんだぜ。
 ボランティアに危険なマネさせやがって」
北「そうだったな」
真坂「あの新人…バビデディットの事知ってたぞ…」
  唖然とする北。
真坂「やけに食いついてくるから、おかしいと思ったんだ…あいつもTENA絡みで
 何かあったな…俺達みたいに…」
北「…そう言えば、あの強情なところは、おまえとそっくりだな」
真坂「おまえだろ?」
北「いや、おまえだ」
真坂「おまえだっちゅうの」
北「おまえだよ、おまえ!」
  睨み合う二人。
シェンズ「おまえおまえうるさいわよ。まもなく目的地に到着するわ」
  真坂、モニターに映るCGの女を見つめ、
真坂「シェンズ、おまえどう思う?」
シェンズ「比較は、できないわね。そっくりですもの、あなた達…」
  そっぽを向く真坂。
北「ハードな冗談だ」
シェンズ「本当の事を言っただけ。ディジアがいたらきっと同じ事を言っているわ」
北「地図を出してくれ。この付近にあるトンネルの位置を全て知りたい」
  モニターに地図のイメージが映る。トンネルの位置が赤いマークで表示される。
シェンズ「全部で3箇所ある。北部のものは、埋め立てられていてすでに閉鎖状態、東側のは、数年前の
 地震で一部崩壊し、人が近づける状態じゃない」
北「じゃあ、残りは、西側か」
シェンズ「鈴門寺(りんもんじ)トンネル。61年前に建設。全長830m、幅11m、高さ10m。6年前まで
 使用され、経年劣化が進んで、2年前に閉鎖されたけど、トンネルは、解体されずそのまま放置されている。
 片方の入口は、地震で土砂に埋もれて通れなくなっているけど、もう片方は、まだ残っている」
真坂「決まりだな」
  北、アクセルを踏み込む。

○ カーブの坂道を勢い良く降りているB―COA

○ 鈴門寺廃トンネル前
  土の凸凹道を走っているB―COA。
  トンネルの前に立ち止まる。
  車から降りる北と真坂。
  そばに赤いカブが止まっている。
  北、カブを見つめ、ホルダーから銃を抜く。
  真坂、北の様子を見つめ、
真坂「おい、俺は?」
北「銃は、貸せない」
真坂「丸腰で突っ込ませる気かよ?」
北「おまえは、ここで待ってろ」
真坂「何のために俺をここに連れて来た?」
北「万が一の時のためさ」
真坂「…」
北「10分経っても戻ってこなかったら、本部に連絡してくれ」
真坂「1人じゃ心細いんじゃねぇのか?」
北「はぁ?」
真坂「本当は、びびってる癖に。正直になれよ」
北「もういい、帰れ」
  歩き出す北。ゆっくりとトンネルに向かっている。
  真坂、呆れた様子で、
真坂「カッコつけんなっつうの」
  トンネルの影に隠れていた瀬川沙希(27)が姿を現す。沙希、トンネルの真ん中に立ち、
  バズーカを構え、北に向けて、発射する。
  北、慌てて、踵を返し、B―COAに向かって勢い良く走り出す。
  B―COAのボンネットに飛び込み、そのまま転がって、ボディの影に隠れる北。
  真坂も屈み込む。
  B―COAのそばにロケット弾が落ち、猛烈な爆発と共に地面の土砂が吹き上がる。
  さらに発射。B―COAの周りで次々と巨大な 炎が舞い上がる。
  屈みながら顔を合わす北と真坂。
真坂「本当に帰りたい気分だぞ」
  北、B―COAの助手席側のドアを開け、乗り込む。真坂も続いて乗り込む。

○ B―COA車内
  爆発音が轟く。吹き飛んだ土がフロントガラスに当たっている。
真坂「どうする気だ?」
北「シェンズ、シールドの準備だ」
シェンズ「了解」
  センターコンソールのパネルの「SHOCK ABSORPTION SHIELD」のボタンが光る。 

○ B―COAの先端部の車体の下から、シールドが出てくる
  シールドは、車の前面を覆い、3mの高さまで一瞬にして伸びる。
  シールドにロケット弾が当たる。巨大な炎が上がるが、シールドが衝撃を吸収し、
  B―COAのボディに影響はない。 

○ B―COA車内
  北、シフトレバーを入れ、アクセルを踏み込む。
  シールドが透明になり、前方のトンネルが見えるようになる

○ シールドを出したままトンネルへ突進するB―COA
  バズーカを撃つ沙希。
  ロケット弾、シールドに当たり、猛烈な炎を上げている。
  沙希に迫るB―COA。
  沙希、バズーカを放り投げ、トンネルの中に駆け込んで行く。
  B―COAもトンネルの中に入る。

○ 鈴門寺廃トンネル中
  走る沙希。
  シールドをしまい、ヘッドライトを光らせ、沙希を追うB―COA。
  沙希、途切れた道の前で立ち止まり、そこからジャンプして5m下の地面に落ちる。
  立ち止まるB―COA。車から降りる北と真坂。
  途切れた道の下を覗き込む二人。
  暫くして、天井の照明がつき、辺り一面が明るくなる。
  5m下の窪んだ地面全面が黒いジェルで覆われ、その中に4人の機動隊員達が倒れているのが見える。
  唖然とする二人。
  北、声を張り上げ、
北「大丈夫か?」
  広中達、うっすらと目を開けながら、頷く。
広中「助かった…早くここから出してくれ!」
  どこかに取り付けられたスピーカーから沙希の声が聞こえてくる。
沙希の声「余計な手出しをするな!」
  動きを止める北と真坂。
沙希の声「あんた達も飛び降りて。あの三人を灰にしたいの?」
  険しい表情の二人。
真坂「どうするよ?」
北「おまえ先に飛び降りろ」
真坂「はぁ?」
北「きっとこの下に女が隠れている部屋があるはずだ。できるだけ手前に落ちてくれ」
真坂「まさか、俺をクッションにする気か?」
北「あの黒い粘着地帯を切り抜けるには、それしか方法がない」
真坂「ボランティアにそんな危険なマネさせるか?普通…」
沙希の声「早く!粘着物質に火をつけるわよ!」
北「真坂!」
真坂「うまく行かなかったら、あの世で地獄に送ってやるからな」
  真坂、ジャンプし、5m下の粘着地帯に飛び降りる。
  体の左側面を下にして、黒い粘着物質の上に倒れる真坂。苦痛の表情。
真坂「やべ…失敗した…」
北「シェンズ!ワイヤー!」
  B―COAの前バンパーからフックつきのワイヤーが発射される。北、それをキャッチして、
  粘着地帯に飛び降りる。
  粘着地帯すれすれのところまで落ち、粘着物質のついていないわずかな地面の上に着地する北。
  その前にドアがあるのを発見する。

○ 同・監視ルーム
  足でドアを蹴り開ける北。両手で銃を構えている。
  薄青い部屋。
  部屋の真ん中にモニターの光に照らされ、立っている沙希。
  沙希、喉元に銃口を突き立てている。
北「銃を下ろせ」
沙希「あの子達の両親を殺したのは、おまえ達よ。おまえ達があの人達を追いつめたから…」
北「4人を食い物にしたのは、TENAだ。3年前、4人が車の中でガス自殺した時、中谷小春の母親の
 携帯に書き置きが残されていた。内容は、TENAに服従した自分達を恥じたものだったそうだ」
沙希「嘘よ。あの人達は、この国を恨んでいた」
北「だから、子供達の誘拐をでっち上げて、国から金を毟り取ろうとしたのか」
沙希「あの子達に一生食べていけるだけのお金をあげるためよ。5000万なんて少なすぎる」
北「おまえもTENAのメンバーだな?残りの金は、TENAの活動資金に使う気だったのか?」
沙希「元メンバーよ。もう戻る気はない…」
  沙希が引き金を引こうとした瞬間、北、沙希の右腕を撃ち抜く。
  銃を落とし、その場に倒れる沙希。
  北、悲しげに俯く。

○ 三原家・2F葉菜美の部屋(夜)
  扉を開け、部屋に入ってくる葉菜美。続いて、真坂が入ってくる。真坂、左腕を包帯で釣っている。
  テレビの前に座っている茂。真坂に気づくが、無視してテレビを見続ける。
真坂「帰るぞ」
茂「ここがいい」
真坂「誰の家だと思ってんだ?」
茂「うちに帰っても面白くないもん」
真坂「わがまま言うな。さぁ」
葉菜美「もう一日だけ、面倒見てもいいよ」
真坂「明日仕事だろ?こんな癖つけたら、後が大変だ」
葉菜美「茂君も明日学校でしょ?ついでだから、学校まで私が送ってあげる。
 あんた、腕怪我してるじゃん。家に帰って、一人で休んでなよ」
真坂「おまえがどんだけ拗ねても、携帯は、買わないぞ」
  茂、ふくれっ面を浮かべる。
真坂「おまえには、まだ早いんだよ」
  真坂、部屋を出て行く。
  葉菜美も後を追う。

○ 同・門前
  表に出てくる真坂と葉菜美。
真坂「悪いな」
葉菜美「その腕、本当にコンビニで怪我したの?」
真坂「荷物を運んでた時に、台車を倒しちゃってさ。その時、腕を挟まれたの」
葉菜美「なんか違うよ、やっぱ…。探偵業、もう一度やればいいのに」
真坂「もうこりごりなんだよ。あの手の仕事は…」
  二人の前に静かに近づいてくる茂。
真坂「茂…」
茂「帰る」
  真坂、茂の頭を撫で、
真坂「待ってたぜ、相坊主!」
  微笑む葉菜美。
  真坂、茂と手をつなぎ、その場を立ち去る。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  デスクのシートに座る椎名。険しい顔つき。
  デスクの前に立つ北。
椎名「今、報告を聞いた。はがし剤で、広中隊員達含め三人の機動隊員達の命は、助かった。坂崎も元気だ。
 鶴美イズマと瀬川沙希も無事確保できた。本来なら、君をここに呼び出す必要は、なかったんだが…」
北「仰りたい事は、よくわかっています」
椎名「じゃあ、率直に聞く。どうして許可もなく、真坂に任務を手伝わせた?」
北「バビデディットの謎を解明するためには、あいつの力が必要です」
椎名「それについては、半年前に結論が出たはずだ。今更話しを蒸し返すな」
北「このままだと、本当にJWAは、浦河に乗っ取られますよ。そうなった時は、もう遅い。TENAに
 敗北を認めることになるんですよ」
椎名「確たる証拠もなしに、まだそんな事を言ってるのか」
北「証拠は必ず見つけてみせます」
椎名「今度、真坂を連れ出すような事があったら、君の処分も免れない。肝に銘じておけ」
  険しい表情の北。
  鋭い眼光で睨み合う椎名と北。

                                                      ―つづく―

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