『メトロジェノンFE<ファーストエンド>』  BY ガース『ガースのお部屋』

○ 深い霧の中(深夜)
  鬱蒼とした森の狭い道を潜る青いRX車。
  森を抜けると、湖が見える。水位が下がり、茶色く濁って薄汚れている。
  湖のそばを走るRV車。
  古びた工場の前に立ち止まる。
  運転席から降りる男の足。白いスーツのズボン。
  助手席から降りる女の足。ダークブラウンのブーツを履いている。
  湖を見つめる白いドレスを着た女の後ろ姿。男が女の背後に近寄ってくる。
  男は、荒崎伸也(45)。女は、加奈見亮子(26)。
  湖を見つめる亮子。
荒崎「どうかしたのか?」
亮子「…何でもない」
  二人、並んで工場の中に入って行く。
  暗闇の中に消えて行く二人。

○ 葵港・第3臨海埠頭
  大きな倉庫が立ち並ぶ通り。
  海沿いに建てられた白い倉庫。シャッターが閉まっている

○ 倉庫地下・JWA(対外政策情報機関)本部・総監オフィス
  受話器を握る椎名 歩夢(あるむ)(55)。
  男の声が聞こえる。声は、荒崎。
荒崎の声「お久しぶりです」
椎名「生きていたのか」
荒崎の声「ええ」
椎名「今更命乞いをしてももう遅いぞ」
荒崎の声「TENAの奴らに殺されるような間抜けなマネはしません」
椎名「いつ日本に戻ってきた?」
荒崎の声「三週間前です…」
椎名「今まで何をしていたんだ?」
荒崎の声「それを説明すると、電話代が高くつくので…」
椎名「けち臭い事言うなよ。こっちは、いくらでも時間はある」
荒崎の声「あの時の借りを返してもらうため、戻ってきたんです」
椎名「借り?」
荒崎の声「忘れたとは、言わせませんよ」

○ 同・地下3F拘留室・通路(翌日・朝)
  中に入ってくる監視係とその後ろに北(ほく) 一真(29)。
  両側に並ぶ部屋。真ん中付近の扉の前で立ち止まる二人。
  監視係、扉の横に設置してあるICカードをスキャンさせて、扉を開ける。

○ 同・E―W室
  部屋の真ん中で足を伸ばして座り、本を読んでいる天木未月(みつき)(29)。
  未月の前に立つ北。
  未月、本を読んだまま、退屈そうに顔を歪める。
北「天木未月。釈放だ」
  唖然とし、顔を上げる未月。左の頬に長くついた傷が痛々しい。

○ 同・エレベータ内
  上昇している赤いスーツを着た未月が立つ。隣に立っている北。
  未月、化粧ポーチを左腕にぶら下げ、小さな鏡を見ながら、口紅を縫っている。
未月「釈放するならもっと早めに言ってよ。こっちだって準備があるんだから」
北、溜息をつく。
未月「そろそろ説明してくれてもいいんじゃない?」
北「…荒崎に感謝するんだな」
  動きを止める未月。
未月「荒崎?海外へ逃亡したんじゃなかったの?」
北「昨夜連絡があった」
未月「どうしてあいつが私を?」
北「それは、直接奴に聞け」
  未月、ほくそ笑む。

○ 同・地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの前に立つディジア(27)。
ディジア「天木を釈放したんですか?」
椎名「荒崎の指示だ」
ディジア「ガレージにB―COAが止まったままですけど…」
椎名「北が別の乗用車で天木を運んでいる」
ディジア「追跡もしないで?」
椎名「衛星レーダーによる追尾、ヘリもB―COAも使うなと言ってきた」
ディジア「…」

○ 港
  港湾用クレーンのそばを通り、立ち止まるグレイのセダン。
  車から降りる北と未月。
  辺りを見回す未月。
  腕時計を見つめる北。運転席のドアを開ける。
未月「もう帰るの?」
北「忙しいんだ」
未月「もう会いたくないわね」
北「今度会ったら、二度とお天道様は、拝めんぞ」
  薄笑いしている未月。
  車に乗り込む北。
  セダン、180度ターンして、その場を走り去る。
  冷たい視線で車を見つめる未月。
  暫くして、大きな波しぶきが上がる。唖然とする未月。岸壁に近づき、海を覗く。
  海上に白い小型潜水艇が浮かんでいる。
  ハッチを開け、顔を出す荒崎。
  サングラスを外す荒崎。未月、懐かしそうに荒崎を見つめる。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  入口から入ってくる北。
  シートに深々ともたれ、目を瞑っている椎名。ハッと目を覚まし、北を見つめる。
  デスクの前に立つ北。
北「天木未月を指定の場所に送り届けました」
椎名「ご苦労だった」
  椎名、デスクの引き出しを開け、中からICカードを取り出し、北の前に差し出す。
北「これは?」
椎名「三ヶ月のメンテナンスと試用実験が昨日終了した。新しい機能もいくつか追加された。
  シェンズにもまた活動してもらう」
  北、複雑気な表情で、ICカードを持つ。

○ 同・ガレージ
  円盤の上に止まっているグリーンのメタリックの車『B―COA(ビーコア)』。
  車の前に一人の男が立っている。
  北、B―COAの前にやってくる。
  男と顔を合わす北。男は、飯垣良幸(25)。車に見惚れている。
北「おい」
飯垣「噂で聞いてた通り、凄い車ですね。ボディもすべすべして、気持ちいい」
北「所属は?」
飯垣「化学分析ユニットの飯垣です。一ヶ月前に科捜研から移動を命じられて…」
北「関係者以外は、触れてはいけない規則になってる。知ってるよな?」
飯垣「思い込んだら先走るタイプなんで…今度は、ちゃんと許可を取ります」
  一礼し、立ち去る飯垣。
  怪訝に飯垣の背中を見つめる北。

○ B―COA車内
  運転席に乗り込む北。
  収納されているハンドルの左側に設置されている差し込み口にICカードを入れる。
  操作パネルやセンターコンソールをチェックしている。
  北、『START』ボタンを押す。メーターや操作パネルのボタン類が一斉に光を放つ。
  中央コンソールの上に設置されている音声レベルケージが青く光る。
  女性の声を持つ自己管理システム『JENON』が喋り出す。
ジェノン「緊急コードの発令ですか?」
北「システムの再チェックだ」
  ハンドルを握る北。
北「少しハンドルの感触が変わったな」
  センターコンソールの4つのモニター。左上のモニターに映るサーチ画面をチェックする北。
北「ハイウェーブサーチ感度良好…」
  右上のモニターにメニュー画面が映し出される。
  画面のボタンを指でタッチし、操作する北。
  『MIND CHANGE』のボタンが表示される。
  息を飲む北。ボタンを押す。
  モニターにポニーテールの若い女のCG が映し出される。『シェンズ』の音声に切り替わる。
北「俺がわかるか?」
シェンズ「…」
  唖然とする北。
北「奈央美…」
  北、ボリュームのボタンを押そうとする。
シェンズ「…」
  3Dの映像が乱れ、暫くして消える。
  北、動揺した面持ちで画面のタッチパネルを操作するが、『MIND CHANGE』モードが
  強制終了している。
  呆然とする北。

○ 池袋駅・ホーム
  混雑している。
  ホームに立つ女子高生・下地真世(16)。セミロングの茶色い髪をしている。
  真世、漫然と目の前に見えるレールをジッと見ている。
  真世、目を瞑り、頭をぐらつかせながら、ふっと、レールの下に倒れ掛かるが、
  寸前、女の細い腕が真世の腕を掴む。
  真世、目を開け、女を見つめる。
  目の前に立つ亮子。
  亮子、寡黙に首を横に振る。
  項垂れる真世。

○ ガソリンスタンド
  給油タンクの横に止まっていた黒い高級車が走り去って行く。
  頭を下げるスタッフ達。その中に一人だけ、棒立ちしている女性スタッフがいる。
  華志木那絵(19)。涙目になっている。
  那絵のそばに立っている若い男性スタッフ。那絵に喋りかける。
男性スタッフ「一度や二度の失敗は、許せても、こう多くちゃあなぁ…」
  男性スタッフ、呆れた表情を浮かべる。白いワゴンが奥の給油タンクの横に止まる。
  スタッフ、全員、ワゴンに駆け寄って行く。
スタッフ一同「いらっしゃいませぇ!」
  一人だけ立っている那絵。目の前にある給油タンクを見つめ、突然、給油ノズルを持ち、
  体にガソリンをかけ始める。
  作業服のポケットからライターを持つ。
  火をつけようとした時、突然、女の手が那絵の手の上に優しく被る。
  前を見つめる那絵。
  亮子が立っている。
亮子「そんなに醜くなりたいの?」
那絵「…」

○ 地下施設
天井に光る青い照明の下を歩く荒崎と未月。
未月「こんなのいつの間に作ったの?」
荒崎「私の叔父が作った製紙工場跡地だ。閉鎖して十年か…どこもかしこも埃まみれだ」
未月「ここの掃除をさせるためにわざわざ私をムショから出したわけじゃないでしょうね?」
  失笑する荒崎。
未月「ねぇ、どうして?」
荒崎「ん?」
未月「何で私を?」
荒崎「君の顔に傷をつけてしまった事、後悔しているんだ」
  立ち止まる未月。不機嫌そうに顔を歪める。
  荒崎も足を止め、未月を見つめる。
荒崎「荒廃しきった地に、新たな芽を増やす」
未月「こんな場所で何が育つって言うの?もう手遅れよ」
荒崎「いいや、根気良く行けばまだまだ…」
未月「バビデディットを進めるために私の力が必要だって、はっきり言ったらどう?」
  奥の方から鳴り響く足音…。女のシルエットがこちらに近づいてくる。
  青い照明に照らされ、女の姿が露になる。
  女は、亮子。白いドレスを着ている。
  亮子を見つめる未月。
  二人の前に立ち止まる亮子。
荒崎「紹介しよう。加奈見亮子…」
  未月、訝しげに亮子を見つめる。
荒崎「もう終わったのか?」
亮子「ええ…いつもの場所に連れてきた」
荒崎「よくやった。今日は、もう休んで良い」
  亮子、悲しげな目つきをしながら、立ち去って行く。

○ アパート・2F前
  ネームプレートを見つめる北。何も書かれていない。
  北、ドアノブを持ち、回す。扉が開く。

○ 同・中
  部屋の中に入る北。
  あまりの匂いに思わず顔を歪める。
  布団の上で眠っている真坂 和久(29)。
  ランニングにパンツ一丁の姿。周りには、衣類が散らばり、物が雑然と置かれている。
  北、窓を開け、真坂の足を蹴る。
  真坂、微動だにしない。
  北、足元にあったテレビのリモコンを持ち、テレビに向ける。ボタンを押すが、電源が入らない。
  北、そのまま、チャンネルを真坂の腕に投げつける。
  腕に当たったリモコンがバウンドして真坂の顔面にヒットする。
  真坂、目を覚まし、手で顔を押さえる。スッと足元にいる北を見つめ、驚愕する。
真坂「おま…」
  くしゃみをする真坂。鼻をずるずる鳴らしている。
真坂「閉めろ。風邪気味なのに…」
  北、またスッと窓を閉め、
北「仕事は?」
真坂「見ればわかるだろ」
北「…失業中か」
  起き上がる真坂。
北「捜査に協力して欲しい」
  唖然とする真坂。
真坂「おまえが直々に頼みに来るなんて…雷に打たれた気分になるな」
北「打たれた事あるのか?」
真坂「いいや」
北「こっちもこんな事させられて…ハンマーで殴られて頭が割れそうな気分だ」
真坂「あるのか?」
北「一度だけ」
真坂「マ、マジ?」
北「ガキの頃、親父が犬小屋を直してた時、後ろに立ってたら、手が滑って俺の頭に…」
真坂「それで頭が固くなったんだな」
北「おまえも味わうか?」
真坂「俺を復帰させたいなら、今から言う条件を飲んでもらう」
北「…条件?」
真坂「給料アップ、待遇向上、完全週休二日制…」
北「荒崎が日本に戻ってきた」
  険しい顔つきになる真坂。

○ 国道
  ビルが立ち並ぶ通りを走行しているB―COA。
真坂の声「無条件で未月を逃がしただと?」

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に座る真坂。
北「下手に動いたら余計な犠牲者が出る」
真坂「でも、未月と荒崎は、敵対関係じゃなかったのか?」
北「理由は、わからんが、荒崎が未月を利用しようとしている事は、間違いない」
真坂「遠いお国で一生暮らしてりゃあ良いものを…」
北「子供は、元気か?」
真坂「…」
北「どうした?」
真坂「シェンズは、元気か?」
北「…」
真坂「まさか…取り外されちまったのか?」
北「…いいや」
真坂「切り替えろよ。久しぶり話してみたい」
北「悪いが仕事中は、使えない」
真坂「なんか女に振られたみたいな素振りだな」
  真坂を睨みつける北。
北「殺すぞ」
真坂「はは…十ヶ月振りに聞いたぜその台詞。仕事以外にどこで使うんだよ?
 ふふ…また、一人でこっそりやる気か…」
  咳払いする北。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの座席につく椎名。
  真坂と北が中に入ってくる。
真坂を見つめる椎名。
椎名「少し痩せたか?」
  デスクの前に立つ二人。
真坂「2キロ太りました」
椎名「北から説明を受けたと思うが、荒崎は、国内で新たなテロ計画を実行しようとしている」
真坂「また、臨時雇いですか?」
椎名「そうだ。不服か?」
真坂「いいえ。本当は、もうここに来たくなかったんですけど、荒崎だけは…」
椎名「この半年間、世界の各情報機関の協力を得ながら、荒崎の情報収集に当たっていた」
  椎名、分厚いファイルをデスクに置く。
椎名「奴に関係する人物並び、関わった事件のリストだ。ニューヨークのアルバート・ウィルソン
 という男から有力な情報を得た」
  ファイルを開き、二人に見せる椎名。
  ファイルは、アルバート・ウィルソンの写真と経歴が書かれている。
  北、ファイルを取り、
北「DIAのエージェント?」
椎名「戦前、超能力を使ったスパイ作戦を展開した事でも知られている」
真坂「それと荒崎と何の関係が?」
椎名「アルバートは、荒崎がある能力のエキスパートの男と接触していた事を掴んだ」
北「特殊能力ってのは…」
椎名「マンハッタンに予知能力を向上させる秘密のトレーニング場がある。
 そこに荒崎がある女性を連れて現れたらしい」
真坂「女性?」
椎名「イニシャルは、R・K。これまでTENAの事件に関わった人物を調べた結果、R・Yのイニシャルを
 持つのは、全部で35人。そのうち、特殊能力の関連で検索した結果が次のページの人物だ」
  北、ページを捲る。
  ページに加奈見亮子のリストが出てくる。
  真坂、憮然としながら亮子の写真を見つめる。
椎名「実は、この二週間の間にTENAのメンバーがすでに6人も殺されている。
 死因は、全員頸部圧迫による窒息死だ」
北「それと荒崎が関係しているって言うんですか?」
  電話のアラームが鳴り響く。
  椎名、受話器を取る。
椎名「…わかった」
  受話器を置く椎名。
椎名「またTENAのメンバーが殺された。うちの捜査員が現場にいる」
北「俺達も向かいます」
真坂「俺のバッジと手帳は?」
椎名「オペレーションにいるディジアに聞いてくれ」
  真坂、慌てて部屋を出て行く。
  北、一礼し、真坂の後を追うが、足を止め、またデスクの前に歩み寄る。
北「B―COAの事ですが…」
椎名「どうかしたか?」
北「システムにいろんなエラーがかかって、操作性がいまいち…」
椎名「前より扱いにくくなったか?」
北「それに…」
椎名「…奈央美の事か?」
北「…僕の言葉に反応しなくなったんです。メモリーデータに何か異常があるのかもしれません」
椎名「各システムの動作は、確認済みだ。何か別の障害が起きているのかもしれん。
 後で整備部に連絡しておく」
  北、一礼し、立ち去る。
  北の背中を見つめる椎名。

○ 神社・境内前
  二台の覆面車両のワゴンが横付けし、パトランプを光らせている。
  暫くして、走ってくるB―COA。
  覆面車の後ろに立ち止まる。
  運転席から北、助手席から真坂が降りる。
  
○ 同・本殿前
  階段を上り走ってくる二人。
  四人のJWAの捜査員達が遺体を取り囲んでいる。
  捜査員と顔を合わせる北達。
  捜査員の列の真ん中に立っている谷田 星司(27)。
真坂「(谷田を指差し)おまえ…」
  唖然とする谷田。
谷田「真坂さん!」
真坂「外勤になったのか?」
谷田「オペ部門に新人が入ったんで…」
真坂「追い出されたのか。給料上がったか?」
谷田「その話は、またそのうち…」
  谷田の隣に立っている飯垣良幸(25)。
  飯垣、不気味に真坂を見つめている。
  飯垣と目が合う真坂。
真坂「そんなに珍しいか?」
飯垣「初めて顔を見たので…」
  飯垣、その場を立ち去って行く。
  谷田、焦った様子で、
谷田「すいません。あいつも三ヶ月前に入ったばかりなんですよ…」
  北、しゃがみこんで、シートを捲る。恰幅の良い中年の男の遺体が現れる。
  顔が鬱血し、青くなっている。
北「死因は?」
谷田「首を絞められた跡がありました。その他に目立った外傷はありません。これ、被害者の遺留品です」
  谷田、北に財布と時計とハンカチ、眼鏡の入ったケースを渡す。
  財布に入っている免許証を確認する北。
谷田「職業は、スーパーの店員。TENAリストを検索したら、2年前の強盗未遂で引っかかりました。
 目撃者がいました。犯人は、40代ぐらいの女性で、身長は、150センチぐらいの小柄、茶髪だったそうです」
真坂「…小さなおばさんがこんなパワーのありそうなおっさんをね…」
谷田「これから遺体をラボに運びます」
  二人の捜査員が遺体の乗った担架を持ち上げ、階段を降りて行く。
  携帯の着信音。真坂、携帯に出る。
真坂「おお、ひさしぶり。元気か?」
  真坂、神妙な面持ち。

○ 地下施設・作業室
  ベルトコンベアに流れているロボットの部品。
  マシーンの手が部品を掴み取り、ロボットを組み立てている。
  様子を見つめている未月。
  未月、背後の物音に気づき、サッと振り向く。
  亮子が立っている。未月、亮子と対峙し、
未月「あなたの能力って何?」
亮子「人助けよ」
  失笑する未月。
未月「知ってる?私達がこれから始めようとしている事」
亮子「ボランティアでしょ?命を投げ出そうとしている人達を救うための」
  未月、笑いを堪えている。
  亮子、マシーンの操作盤の前にいる男を見つめ、
亮子「ここで働いている人達は、皆、私の力で救ったの。今は、一生懸命になって前向きに働いているわ」
未月「自殺志願者ばかり救ってどうするのよ」
  亮子、悲しそうに未月を見つめる。
未月「機械的に動かすだけなら、ロボットだけで十分賄える。人間なんて、もう時代遅れよ」
  その場を立ち去る未月。

○ 病院・ロビー
  客席に座っている茂。
  入口の扉が開き、真坂が姿を現す。
  真坂、茂を見つけると、駆け足で近寄る。
真坂「茂!」
  振り返る茂。
茂「お父さん…」
  茂の前に立つ真坂。茂の右腕を見つめる。ギプスで固定されている。
真坂「お母さんは?」
茂「トイレ…」
  通路を歩いてくる恵美。真坂に気づき、立ち止まる。

○ 同・階段前
  対峙する真坂と恵美。
真坂「一人で3時間も公園で遊ばせてただと?」
恵美「楽しそうだったから…友達もいたし、ちゃんと何分か置きに確認してた」
真坂「どこにいた?」
恵美「…」
真坂「パチンコか?」
恵美「…」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレーションシステムの操作卓の前に座るディジア。ヘッドマイクをつけ、喋っている。
ディジア「捜査途中で抜け出したって…」

○ 市道を走るB―COA
北の声「茂君が公園で怪我をしたって言うから今病院に送り届けてきた」

○ B―COA車内
  左上のモニターに映るディジア。
ディジアの声「これじゃあ、何のために呼び戻したのか、わからないわね…」
北「俺は、あいつが戻る事には、反対したんだ。でも総監は、復帰を望んだ」
ディジアの声「最初に彼をここに誘い入れたのも総監だったし…」
北「これであいつを放り出す口実ができる」
ディジアの声「真坂君、恋人いたんじゃなかったっけ?」
北「子供は、前の奥さんに預けていたらしい」
ディジアの声「裁判所の命令を無視して?」
北「病気の事もあったし、入院する前に何か取り決めをしていたのかもな。
 遺体の検視は、もう終わったのか?」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  ディジア、ボタンを押しながら、手前にあるモニター映像を次々と切り替えている。
ディジア「ええ。第3、4頚骨が折れてた。人間の握力では、出せない力よ。以前、
 同じような殺され方をした男の資料を見つけた。おそらく、犯人の女は、右腕に手術を受けているわ」
  ボタンを押すのを止め、映像を見つめるディジア。
  ガレージの映像。画面にフレームアウトして行く男の姿が見える。顔は、影になりはっきりと見えない。
  怪訝な表情を浮かべるディジア。
北の声「…ロボットか」

○ 倉庫・地下施設・実験ラボ
  顕微鏡を覗いている荒崎。
  扉の開く音。未月が中に入ってくる。
  荒崎、構わず顕微鏡を覗いたまま。
  荒崎の背後に近づく未月。
未月「ボランティアって、どう言うこと?」
  未月を見つめる荒崎。
荒崎「彼女は、救世主だ」
  失笑する未月
未月「よくそんなこと言えるわね」
荒崎「心が通じ合えば、余計な事は、気にしなくなる」
未月「いつまで騙せるかしら」
荒崎「…」

○ 同・通路
  ラボの扉の前に立っている亮子。
  動揺した面持ちで静かにその場を立ち去って行く。

○ 同・作業室
  マシーンの前で作業をする人々。
  入口の前に様子を窺っている亮子。
  ベルトコンベアの前でパーツの流れを見つめている那絵。
  那絵を見つめる亮子。
  那絵、亮子に気づき、目を合わす。
  合図するように頷く亮子。

○ レストラン
  窓際のテーブルに向かい合って座っている真坂と三原 葉菜美(21)。
  真坂の隣に座る茂。オムライスを食べている。
  葉菜美、悄然とした面持ち。
  真坂、窓の外を見つめ、
葉菜美「いや」
真坂「まだ何も言ってない」
葉菜美「そんな気分じゃない」
真坂「JWAに復帰したんだ」
  唖然とする葉菜美。
真坂「病気してる間、恵美に預けてたんだけど…あいつまた自信なくして、家に引きこもっちゃって…」
葉菜美「私、保母さんじゃないし…」
真坂「一日だけでいい。その後は、また考える」
葉菜美「まだあの時の事トラウマでさ…頭から離れないの…復帰するならなおさら駄目だ私…」
真坂「あの時って…TENAの奴らに拉致された事か?」
葉菜美「…」
真坂「おまえそれより、子供は…」
  葉菜美、真坂の言葉を遮り、
葉菜美「ごめん。久しぶりに顔見れて良かった。じゃあね」
  立ち上がる葉菜美。その場を立ち去る。真坂、立ち上がり、慌てて後を追うが、茂が気になり、足を止める。
  真坂達の隣のテーブルに座っている那絵。
  漫然ストローに口をつけ、メロンジュースを飲んでいる。

○ 高層ビル
  二十階建ての黒い円形型のビル。
  突然、9Fから硝子が割れ、炎が吹き上がる。

○ 国道
  蛇行する車。
  突然、対向車線に食み出し、ダンプカーに正面から激突する。

○ 公園
  ブランコに乗って遊んでいる子供達。
  その隣の植え込みの影で倒れている作業服を着た男…。

○ 川原
  釣りをしている麦藁帽子を被った老人。
  川の真ん中を流れているものをジッと覗いている。中年の男の遺体が仰向けで流れている。
  
○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの前に立ち、背を向けている椎名。
  椎名の後ろに北が立っている。
椎名「これで十三人…どんどん数が増えて行く…」
ディジア「荒崎は、どうやってTENAのメンバーの情報を仕入れているんでしょう?」
  鳴り響く電話のアラーム。
椎名「奴の手元にも我々が持つようなリストがあるのかもしれない」
  ディジアの脳裏に、OP室のモニターに映っていた男の姿が浮かぶ。

○ アパート・2F
  布団の上に座っている茂。ヨーグルトを食べている。
  アニメが映るテレビを見ている。
  茂の後ろに立つ真坂。
真坂「冷蔵庫の中に蕎麦が入ってるから、ちゃんと食っとけよ」
  頷く茂。
真坂「じゃあな」
  真坂、玄関に行き、靴を履く。

○ 住宅街・道路
  走行する真坂の軽自動車。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  入口のドアが開く。中に入ってくる真坂。
  ディジアが真坂に近寄ってくる。
ディジア「丁度良かった。北さんを迎えに行ってくれる?」
真坂「どこにいるんだ?」
ディジア「TENAのメンバーの男が私達に助けを求めてるの。今、地下鉄に乗ってる」
真坂「地下鉄?」
ディジア「本当は、駅前で待ち合わせだったんだけど、男が身の危険を感じて電車に乗ったの」
真坂「B―COAは?」
ディジア「メインシステムに異常があったからメンテナンスを受けてたの。さっき終わった」
  ディジア、カードキーを真坂に手渡す。

○ 地下鉄
  暗いトンネルを照らし、走行している。

○ 同・車内
  シートの左端に座る白髪の老人・佐光邦弘(58)。
  佐光の前に立っている制服姿の真世。
  佐光、真世の顔を見つめる。
  真世、笑みを浮かべると、突然、佐光の首を鷲掴みする。
  客達が悲鳴を上げる
  ホームに止まる車両。一斉に扉が開く。
  車両に駆け込んでくる北。ホルダーから銃を抜き、真世に銃口を向ける。
  真世、佐光を羽交い絞めにして、盾にする。北を睨みつけている。
  北、銃口を向けたまま、
北「よせ…」
  真世、佐光の首を腕で締め付ける。
  引き金を引く北。轟く銃声。
  右肩を撃たれる真世。よろめきながら列車から降り、走り去る。
  銃を下ろす北。苦々しい表情で佐光の元へ歩く。

○ 繁華街
  疾走するB―COA。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る真坂。
  真坂、突然、センターコンソールのモニターのメニュー画面を操作し始める。
真坂「…シェンズを呼び出すには、どうしたらいい?」
ジェノン「暗証ナンバーが必要です」
真坂「暗証ナンバー?何それ?」
ジェノン「使用目的を簡潔にお答えください」
真坂「はっ?」
ジェノン「目的によっては、臨時にアクセスを可能にすることができます」
真坂「おまえの喋りが耳障りだから」
ジェノン「…使用目的を簡潔にお答えください」
  首を捻る真坂。
  ドアミラーを見つめる真坂。青いRV車が尾行しているのに気づく。

○ 交差点
  左に曲がるB―COA。
  RV車も後を追う。
  反対車線からやってきたもうシルバーのワゴンが右折して、RV車の後ろについて走り始める。

○ 国道
  走るB―COA。その後を続いてRV車とワゴン。

○ B―COA車内
  センターコンソールの右上のモニターに後方の様子が映っている。
  モニターを見つめる真坂。
真坂「なんだ?…なんだなんだ?…」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレートシステムの操作卓の前に座るディジア。
ディジア「真坂君、まだ着いてないの?」

○ 駅前
  ロータリー。タクシーが列を作っている。
  切符売り場の前の柱のそばに立っている北と佐光。
  携帯で話している北。
北「もう20分も経ってるぞ」
ディジアの声「ちょっと待って。付近にうちのワゴンが走ってるから、拾ってもらって」

○ 高速下・道路
  四車線の道路。
  加速するB―COA。後を追うRV車とワゴン。右隣の車線に移り、RV車を追い抜く。
  B―COAの隣を走るワゴン。突然、ワゴンがB―COAの右側のボディに体当たりする。

○ B―COA車内
  衝撃で車内が少し揺れる。溜息をつく真坂。
真坂「当たり屋かよ?…メンテ受けたばっかりなのに、相手選べよ!」
  さらに衝撃。
  激しくぶつかってくるワゴン。
  RV車が突然車線を変え、ワゴンの後ろつき、激しく追突する。
  ワゴン、その反動で大きく右に逸れて、激しく横転する。

○ B―COA車内
  ドアの窓越しから横転するワゴンの様子を見つめている真坂。
  RV車、B―COAを追い越し、突然、左に曲がり、走り去って行く。
  真坂も負けじとアクセルを踏み込み、ハンドルを左に切る。

○ 高速下を抜け、市道を加速するB―COA

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  北が入ってくる。
椎名「真坂は?」
北「まだ戻ってきていません。佐光は、今、取調室に…」
椎名「何か喋ったか?」
北「自分の働く工場に殺人予告の連絡があったそうです。奴は、二年前に銃器密輸に関わって
 逮捕されています。その時、もう一人仲間が捕まっていますが、そいつは、まだ収監中です」

○ 同・OP室
  総監オフィスの扉から姿を現す北。
  オペレートシステムの前に座る男に声をかける。
北「ディジアは?」
  振り向く男。
男「5分ほど前に出て行きました」
北「どこに行った?」
男「そう言えば、モニター映像のバックアップを見に、記録保管室に行くとか言ってました」
  
○ 同・通路
  歩いている飯垣。数メートル離れた位置で飯垣を追っているディジア。
  エレベータの前で立ち止まる飯垣。
  ディジア、壁の突き出た部分に身を隠し、飯垣の様子を見つめている。

○ とある住宅前
  新築された2階建ての家。玄関前に止まるRV車。走ってくるB―COA。
  ワゴンの後ろに立ち止まる。

○ B―COA車内
  運転席の窓から住宅を覗き見る真坂。
  助手席のボードの引き出しを開けて銃を取り出し、ホルダーに入れる。

○ 住宅前
  車から降りる真坂。
  ドアの前に立つ真坂。インターホンを押す。誰も出てこない。
  草の茂った庭に向かって歩き出す真坂。
  ベランダの扉のガラスに張り付き、中を覗き見る。
  洋間が見えるが物は、何も置かれていない。
  扉を引いてみる真坂。鍵がかかっていない。
  
○ 同・キッチン
  流し台のそばに置かれた電子レンジが回っている。
  真坂、電子レンジの扉を開ける。
  中には、何も入っていない。
  真坂の後ろに亡霊のように立っている女…真世である。
  真坂、電子レンジの扉に映る人影に気づき、ハッと振り向く。
  真世、いきなり真坂の顔を殴りつける。
  壁隅まで吹き飛ばされる真坂。
  真世を一目見ると、そのまま気絶する。

○ 橋の上を走行する黒いバイク(夕方)
  黒いヘルメット、つなぎを着た男が運転している。

○ マンション・駐輪場
  勢い良く入り、立ち止まるバイク。
  ヘルメットを取る男。飯垣である。
  飯垣、髪を振り、いじっている。

○ 同・2Fリビング
  風呂から上がり、髪を拭いている飯垣。短パン、上半身裸。
  ソファに座り、携帯のボタンを押す。
  携帯を耳に当てる飯垣。
飯垣「どうも。ええ…すでに混乱し始めています。B―COAのほうは、明日もう一度…はい…後で…」
  携帯を切る飯垣。
  飯垣、背後に気配を感じ振り向く。
  ディジアが飯垣に銃口を向け、立っている。
ディジア「誰と話してたの?」
  飯垣、ディジアを見つめ、
飯垣「僕を尾行していたんですか?」
ディジア「あなた、化学分析ユニットの担当員でしょ?先月入ってきたばかりなのに、
 どうしてB―COAの事を…」
飯垣「僕が何をしたんですか?」
ディジア「その携帯を貸しなさい」
飯垣「…いいんですか?後で問題になっても」
ディジア「いいから貸して」
  飯垣、携帯を渡すと見せかけて、いきなり、ディジアの顔面にぶつける。
  すかさず、ディジアの持っていた銃を奪い取り、銃口を向ける。
  顔を押さえているディジア。
ディジア「最低…」
  ほくそ笑む飯垣。
飯垣「はいはい。ああ疲れた…かったるい遊びは、もうやめた」
  飯垣を睨みつけるディジア。

○ 同・地下(夜)
  部屋のコンクリートの上で仰向けになって倒れている真坂。
  ハッと目を覚まし、起き上がる。
  入口に立っている亮子。隣に真世が立っている。
亮子「ここは、私が子供の頃に住んでた家。今は、誰も買い手がつかなくて、ずっと空き家のまま…
 防音になってるの。父が毎晩ここでピアノ弾いてて…あそこの角にピアノが置いてあったの」
真坂「そんな事より他に聞きたいことが山ほどある」
亮子「荒崎のことでしょ。あの人とは、石倉の事件があった後に知り合ったの。向こうが声をかけてきたわ」
真坂「あの能力を鍛えにニューヨークにいたんだって?」
  笑みを浮かべる亮子。
亮子「おかげである程度、自分でコントロールできるようになったわ。伝わる痛みや苦しみも
 抑えられるし、予知範囲も以前の倍になった」
真坂「何のためにそんな事…」
亮子「もっと早く気づくべきだった。あの苦しみから逃れるために先走ってしまった…」
真坂「荒崎は、TENAを壊滅させる気だ」
亮子「気づいたのは、一週間前よ。荒崎は、私の能力を使って、苦しんだ人達を集めて
 何かの計画を進めようとしてる…」
真坂「手遅れだったわけか…」
亮子「ボランティア活動の一環として、空気清浄機を作る工場で働いてもらうと言うのが最初の話。
 でも、実際は、地下の工場でロボットを大量に作っているわ」
真坂「…」
亮子「こうして立っているだけで、未だにいろんな人の悲鳴が聞こえる…」
真坂「自殺志願者を救っても、殺人の片棒担ぎじゃあ、何の意味もない」
亮子「だから、あの人達を見捨てるわけには、いかないの」
  真坂、神妙な面持ち。

○ 倉庫・表
  組み立てられたロボットの入った箱を運び出している作業員達。
  トラックのコンテナにロボットを積み込んでいる。
  外に出てくる荒崎と未月。
未月「あの女、どこに行ったの?」
荒崎「別のグループと共に行動している。面倒見がいいんだ」
未月「大丈夫?」
  荒崎、笑みを浮かべる。
荒崎「心配は、無用だ」
  荒崎、コンテナの前に行き、
荒崎「よし。さっき言った場所に運んでくれ」
メンバー全員「はい」
荒崎「良い子達だ」
  横一列に並んで立っているメンバー。真ん中にいる作業服を着た女。恵美である。

○ 倉庫地下・JWA本部・取調室
  テーブルを挟んで向かい合って座る北と佐光。
佐光「TENAのメンバーは、一時期と比べれば、減少している。下層のメンバー達の一部が反発して、
 内部抗争が激しくなっている。俺は、それに巻き込まれたくないから、TENAからは、もう離れたいんだ」
北「うちのセーフティーリストに入れば、衛星監視でおまえの身を守る事ができる」
佐光「そんなの当てにはできん。家族とは、縁を切って、都内から追い出した。外にいるくらいなら
 檻の中に入ってるほうがマシだ」
北「じゃあ、おまえの知っている事全てここで吐き出せ。話によっては、檻に招待してやってもいい」
佐光「上層級の奴なら一人知ってる。一ヶ月前、たまたま会合があって、そこで顔を見た…」

○ 同・OP室
  入口のドアが開き、北が入ってくる。
  オペレートシステムの前に立つ谷田。
北「谷田…」
谷田「どうですか?」
  首を振る北。
北「自宅も調べてもらったが戻っていない」
谷田「実は…うちのユニットに一人だけ早退した奴がいるんです」
北「誰だ?」
谷田「飯垣です。こっちも連絡が取れなかったので、今一人、自宅に向かわせました」

○ 山道
  うねるカーブをヘッドライトを光らせながら高速で進むB―COA。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る真坂。助手席に座る亮子。
真坂「人数は、どれぐらいいるんだ?」
亮子「約五十人…」
真坂「都内だけでそんなにも?」
  首を横に振る亮子。
亮子「実際は、もっといるわ」
    
○ 地下倉庫・JWA本部・OP室
  オペレートシステムの男の後ろに立つ北と谷田。
男「駄目です。向こうの通信システムにまた障害が起きているみたいです」
北「現在位置は、わかるか?」
  キーボードを打つ男。
男「GPSも反応がありません」
谷田「衛星チャンネル3に切り替えてみてくれ。B―COAの制御が可能かも…」
  キーボードを打つ男。
男「B―COA専用のシグナルを発信して位置情報も確認する事ができます」
谷田「ただ、それを使うと、エンジンが完全停止してしまうけど…」
  北を見つめる谷田。
北「いや、待て…もう少し様子を見る」

○ 地下施設・監禁室
  暗闇の中、部屋の真ん中に正座で座っているディジア。腕を後ろにされ、ロープで縛られている。
  突然、扉が開く。外の光がディジアの顔に当たる。
  目を細めるディジア。
  未月がディジアの前にやってくる。立ち止まり、ディジアを見下げる。
未月「私が半年間味わった事、あなたにも味合わせてあげたいけど、
 そんな無駄な事はさせないから安心して」
  未月、右手に持っている錠剤の入った赤い袋を開ける。
ディジア「私を殺す気?」
未月「生きて帰れると思ってたの?」
ディジア「こんなところに殺人ロボットのパーツを隠していたのね。
 仲間を次々と殺してどう言うつもりなの?」
未月「TENAとは、決別したの。今あそこにいても何のメリットもないし」
ディジア「荒崎の復讐に手を貸しても無駄よ。後で痛い目にあうのは、そっちよ」
未月「あんたは、天国にでも行って私達の計画を拝んでいなさい」
  未月、左手でディジアの口を掴み、錠剤を入れようとする。
  必死に拒むディジア。
未月「往生際悪い子ね。昔は、かわいかったのに…」
  突然、警告アラームが鳴り始める。
  振り返る未月。
  飯垣が未月の前にやってくる。
未月「何?」
飯垣「作業室でトラブルが…」

○ 同・作業室
  生産ラインのマシーンが暴走し、部品があちこちに散乱している。
  中に入ってくる未月と飯垣。
  機械の手が二人にロボットの足を投げつけてくる。
  慌てて、避ける二人。
未月「早く、マシーンを停止させて…」
  飯垣、奥のほうにある制御盤の前に向かう。前に行くと、突然立ち止まる。
  制御盤の前に立っている真坂。
真坂「おまえ、こんなところで何やってんだよ?」
  飯垣、真坂に殴りかかる。真坂、飯垣のパンチを避け、飯垣の体を持ち上げ、
  ブレーンバスターのような形で放り投げる。
  床に激しく叩きつけられる飯垣。
  未月の背後に立つ亮子。
  未月、振り返り亮子を見つめる。
亮子「もうここには、誰もいないわ」
未月「…」
亮子「荒崎は、どこ?」
  未月、右手で亮子の首を掴む。
未月「少し捻るだけで、別の世界が見れるわよ」
真坂の声「やめろ」
  真坂を見つめる未月。真坂、未月の頭に銃を向けている。
真坂「手を離せ。早く!」
  未月、黙って亮子から手を離す。
真坂「おまえにもう勝ち目は、ねぇよ」
未月「どうかしら。あなたが銃を下ろさなかったら、美和が悲惨な事になるわ」
真坂「…おまえ、ディジアに何をした?」
未月「銃を下ろして」
亮子「大丈夫よ」
  入口から真世に連れられたディジアが現れる。
  未月、ふくれっ面を浮かべる。
  真坂、銃を向けながら、未月の後ろに行く。銃をホルダーにしまい、
  未月の両腕を後ろに回して、手錠をかける。
ディジア「荒崎は、どこに行ったの?」
未月「…知らない」
真坂、未月の頭に銃口を突き付ける。
未月「本当に知らないのよ」
真坂「いいや、知ってるはずだ」
ディジア「(真坂を見つめ)私に任せて…」
  ディジア、未月の前に立ち、制服の内ポケットから赤い袋を出す。袋を開け、錠剤を取り出す。
未月「そんなの私に利かないのわかってるはずでしょ?」
ディジア「あなたの頭部は、まだ人間のままなのよ。少し噛めば、歯がら毒を吸収して、脳をおかすわ…」
  ディジア、未月の左手で口元を掴み、錠剤を押し込もうとする。
未月「木更津の港湾施設よ…」
真坂「そこに何があるんだ?」
未月「そこまでいちいち知らないわ」
ディジア「私、ここに残る。亮子さんを連れて急いで」
  真坂、ホルダーから銃を抜き取り、ディジアに投げ渡す。
真坂「飯垣は、制御盤の中に閉じ込めといた。そいつから目を離すよ」
  真坂、亮子を連れ、通路を走り出す。
  ディジア、未月の頭に銃を向ける。
  未月、薄笑いを浮かべ、
未月「サイボーグになるなら、完全体じゃないと駄目ね…」
ディジア「ミスったわね」
未月「こう言う事もできるのね。美和…今なら私達、良い友人になれそうじゃない?」
ディジア「ロボットの友人は、おことわり」

○ 山道(深夜)
  スピードを上げ、坂を下りているB―COA。

○ B―COA車内
  運転席に座る真坂。助手席に座る亮子。
  携帯が鳴り響く。
真坂「オートアドバンスに切り替えろ」
ジェノン「目的地を指定してください」
真坂「木更津の港湾施設だ」
ジェノン「了解しました」
  電子音が鳴り響き、ハンドルが袋状に縮んでなくなる。
  携帯に出る真坂。
真坂「もしもし…」
葉菜美の声「…私」
真坂「…今丑三つ時だぜ?」
葉菜美の声「茂君の事だけど…面倒見るよ」
真坂「そ、そうか…」
葉菜美の声「今から行くから、住所教えて」
真坂「後でメール送る」
  葉菜美、少し震えた声になり、
葉菜美の声「あのさ…駄目だった、赤ちゃん。顔見たかったのになぁ…」
真坂「…」
葉菜美の声「…でももう平気」
真坂「…彼氏は、なんて言ってる?」
葉菜美の声「…今度こそ、ちゃんと別れた」
真坂「…わりぃ、今忙しくて。終わってからまた」
葉菜美の声「痰が絡まって話し辛い。でもスッキリした。じゃあ、メール待ってる」
  電話が切れる。
  真坂、複雑な表情。
亮子「恋人?」
真坂「んん…ああ」

○ 地下倉庫・JWA本部・総監室
  入口から入ってくる華志木(かしぎ)良助衆議院議員(49)。
  デスクのシートに座る椎名。立ち上がり、華志木を出迎える。
椎名「お待ちしていました。華志木さん」
華志木「なぜ、私がここに呼ばれなければならんのだ?」
椎名「まぁ、どうぞ」
  ソファに深々と座る華志木。対面に椎名が座る。
椎名「実は、ある男からあなたに関する情報を入手しまして…」
華志木「何の情報だ?」
椎名「TENAと言う組織の事、ご存知ですか?」
華志木「…知らん。聞いたことがない」
椎名「今年の3月21日、午後9時頃…どこにおられました?」
華志木「そんな事いちいち覚えてるわけないだろ。秘書に聞いてくれ」
椎名「その日時、都内のあるビルの地下で秘密の会合が行われ、あなたも出席していた。
 集まったのは、TENAのメンバー15名」
華志木「証拠は、あるのか?」
  北が中に入ってくる。
北「今、ディジアから連絡がありました。埼玉の旧工場跡で天木未月と飯垣を捕えたと…」
  華志木、微妙に表情を曇らせる。
椎名「わかった…」
  北、一礼し、外に出て行く。
椎名「荒崎と言う男の事…ご存知ですか?」
華志木「…聞いたことがない」
椎名「TENAの元構成員。今は、寝返って、かつての同志達を次々と殺している」
  憮然とする華志木。
椎名「奴は、半年前に国外逃亡し、三週間前に日本に戻ってきた」
華志木「何のためにだ?」
椎名「あなたを殺すためですよ…」
華志木「…」
椎名「荒崎のゲノム研究を狙っていたTENAの一味が彼の妻と息子を殺したんですよ。
 それを指示したのは、あなたでしょ?」
華志木「妄想話は、勘弁願いたい」
椎名「奴は、自らTENAのメンバーになって、復讐のチャンスを狙っていた」
  動揺する華志木。
椎名「半年前にやろうとしていた計画を今度は、本気でやり遂げようとしている」
華志木「…」
椎名「奴の居所を掴むには、あなたの証言が必要なんです」
華志木「…」
  椎名、鋭い眼光で華志木を見つめ、
椎名「この国を…破滅させる気ですか?」
  華志木、溜まらず声を上げる。
華志木「約束してくれ…娘を必ず助け出すと…」
  静かに頷く椎名。

○ コンテナ・ターミナル(翌日・朝)
  眩しい太陽が海面を照らす。
  何重にも積まれたコンテナの間を走り抜けているB―COA。
  突然、一つのコンテナが大爆発する。炎上げながら倒れ、路上に転がり落ちる。
  急ブレーキをかけ、立ち止まるB―COA。
  暫くして、B―COAの後ろのコンテナも爆発し、路面に転がり落ちる。
  燃え滾るコンテナに挟まれ身動きが取れないB―COA。

○ B―COA車内
  周りの様子が映るモニターを見つめる真坂。
真坂「こんなわかりやすい仕掛けってありかよ?」
  亮子、窓の外を見つめる。
  左側のコンテナの上に恵美が立っている。
  真坂が見つめた瞬間、恵美が姿を消す。
真坂「そうだ…消化ミサイルがあったはずだ」
ジェノン「現在搭載されておりません」
真坂「おいー!ちゃんと積んどけ」
ジェノン「整備部門に報告しますか?」
真坂「多少ボディが焦げても文句言うなよ」
ジェノン「何をする気です?」
真坂「見てりゃわかる」
  アクセルを踏み込む真坂。

○ タイヤをスピンさせて走り出すB―COA
  スピードを上げて、燃えるコンテナに突っ込んで行く。
  コンテナを突き破りし、炎の中を潜り抜け、岸壁沿いを走り出すB―COA。

○ 港湾用クレーンの下をスピードを上げて走り抜けるB―COA
  高く上がっていたアームが突然、勢い良く下に落ち始める。
  アームの先端のフックが走っていたB―COAの屋根に直撃する。
  
○ B―COA車内
  激しく車体が揺れている。
  思わず天井を見つめる真坂と亮子。
真坂「何が起きた?」
ジェノン「ボディに大きな衝撃を受けました。只今から損傷確認システムを作動します」
  警告アラームが鳴り響き、突然B―COAのスピードが遅くなり始める。

○ 完全に立ち止まるB―COA。
  左下のモニターにB―COAのワイヤーフレームイメージが映り、各ボディのパーツ及び
  エンジン、タイヤ、各システムをサーチしている。
真坂「さっさと動け!」
ジェノン「確認が終わるまで暫くお待ちください」
  前を見つめる真坂。愕然とする。
  恵美がマシンガンを持ち、立っている。
  恵美の右側にもマシンガンを持った中年の女、左側に学生服を着た少年が立っている。

○ B―COAの周りを円を描くように取り囲んでいる人間達
  全員、一斉にマシンガンを撃ち始める。
  何百発もの銃弾がB―COAのボディに激しく当たり、跳ね返っている。

○ B―COA車内
  激しく鳴り響く音。フロントガラスにも激しく銃弾が当たり、火花を散らして跳ね返している。
真坂「恵美…なんで」
亮子「知り合い?」
真坂「前の女房…」
亮子「あの人は…確か子供の事で悩んでいたはず…今は、何を言っても無駄よ。一時的な
 洗脳状態に陥ってる…荒崎が薬を飲ましたんだわ」
真坂「ジェノン、空気弾は、使えるか?」
ジェノン「使用可能です」
亮子「恵美さんを撃つの?」
真坂「仕方ない」
  真坂、ハンドルの真ん中にある『SHOCK』のボタンに指を近づける。

○ B―COAの後方から北が乗るバイクが走ってくる。
  北、走行しながら、両手で銃を構え、B―COAの周りに立つ人を撃つ。
  次々と倒れていく人達。
  北のバイクにマシンガンを向ける中年の女。
  バイクに弾丸が当たる、横倒しになるバイク。バイクと共に激しく路上を滑る北。
  北、透かさず起き上がり、銃を撃ち続ける。
  腹を撃たれ、倒れる中年の女。
  最後に恵美だけ残る。
  恵美、北にマシンガンの銃口を向ける。
  真坂、咄嗟に車から降り、恵美に銃口を向ける。
真坂「やめろ、恵美」
  恵美、真坂に銃口を向ける。
  唖然とする真坂。
  北、透かさず銃を撃つ。
  右肩を撃たれ、仰け反り倒れる恵美。
  真坂、北を睨みつける。
真坂「おまえ!」
北「…心配するな。睡眠弾だ」
  真坂、ホッとしながら恵美の元へ駆け寄って行く。
  恵美を抱き起こす真坂。
  北と亮子も真坂の前にやってくる。北、痛みを堪え、左足を引きずっている。
真坂「何でここに?」
北「TENAのメンバーから聞いた」
真坂「誰だ?」
北「華志木衆議院議員…」
真坂「そいつが首謀者か?」
北「奴は、TENAの上層部のメンバーの一人だ。娘が荒崎に拉致されている」
  北、亮子を見つめる。
亮子「名前は?」
北「華志木那絵…ガソリンスタンドでバイト中に姿を消した…」
亮子「工場に連れて行ったのは、私よ…でも、私たちが着いた時は、もうあそこには、いなかったわ」
真坂「じゃあ、荒崎が…」
  北、倉庫を見つめ、
北「ここは、TENAの武器倉庫だ」
真坂「荒崎もここを狙って…」
  激しく轟くローター音。
  上空に接近してくる黒と赤のツートン色したヘリ。
  キャビンから身を乗り出す若い男が真坂達に向けて、バズーカーを撃ち放つ。
  真坂達、慌てて、地面に伏せる。
  真坂達の目の前で巨大な炎が吹き上がる。
  立ち上がる真坂達。
真坂「荒崎か?」
北「いや、あれは、TENAのヘリだ。前にも同じカラーリングのやつを見た事がある。早くB―COAに…」
  走り出す三人。
  ヘリ、旋回し、またB―COAのいる方向へ機首を向ける。

○ B―COA車内
  運転席に乗り込む真坂。助手席に恵美と亮子が乗っている。
  北、ジャケットの内ポケットから、ディスクを取り出し、センターコンソールのトレイに入れる。
真坂「何やってんだよ!」
  ボタンを押し、操作する北。
北「飯垣がB―COAのメインプログラムを改ざんしていたんだ。それを修正しないと…」

○ B―COAの頭上にやってくるヘリ
  ヘリのキャビンの男、バズーカを撃つ。
  B―COAのそばで巨大な爆発が起こる。
  炎に包まれるB―COA。

○ B―COA車内
  ガラスの向こうの炎を見つめる真坂。
真坂「やべぇ。早くしろ」
  モニターにシステムの解析画面が映る。
ジェノン「全システムのエラーチェックが終了しました」
  北、ボタンを早打ちして、右上のモニターにメニュー画面を出す。
  『MIND CHANGE』ボタンを押す。
  3Dのポニーテールの女のCGが映し出される。
シェンズ「一真…」
北「やっと目覚めたな」
シェンズ「B―COAのボディの熱温度が上昇しているわ」
北「真坂!」
真坂「よっしゃ」
  真坂、シフトレバーを操作し、アクセルを踏み込む。

○ 急発進するB―COA
  スピンターンし、炎を振り払う。
  接近してくるヘリ。

○ B―COA車内
  ブレーキを踏む真坂。
北「ボンディングミサイルの準備だ」
真坂「どこだっけ?久しぶりだから忘れた…」
北「もういい、俺がやる!」
  北、モニターのタッチパネルを押している。

○ 海面から巨大な水飛沫を上げてミサイルが飛び出してくる。
  ミサイルは、ヘリに直撃。
  空中爆発するヘリ。
  炎を帯びたヘリの残骸がB―COAの前に降り注いでいる。

○ B―COA車内
  唖然としている北と真坂。
  北、海のほうを見つめる。
北「海だ…荒崎は、海の中にいる」
真坂「えっ?」
北「シェンズ、ハイウェーブサーチ」
  画面の「HI―WAVE」のボタンが光る。
  モニターに海中の3Dイメージが映し出される。海の中を移動する潜水艇のイメージが映し出される。
真坂「潜水艇かよ!」
シェンズ「水深50mのところで高速で移動し始める物体を確認した」
北「未月も潜水艇に乗せて、アジトに運んだんだ」
真坂「また逃げられちまうぞ」
北「潜水艇の移動方向を確認しろ」
真坂「どうする気だ」
シェンズ「南南東の方角よ」
北「そのまま海に突っ込め」
真坂「はっ?」
北「いいから早く!」
  真坂、アクセルを踏み込む。
  
○ 走り出すB―COA
  加速して、岸壁から勢い良くジャンプし、海に飛び込む。

○ 海の中
  水の中に深く潜り込むB―COA
  
○ B―COA車内
真坂「言う通りにしたぞ…皆溺れ死んだら、霊になっても恨み続けてやる」
シェンズ「心配しないで。B―COAのボディは、浸水することはないわ」
  北、モニターのタッチパネルの『DIVE MODE』のボタンを押す。

○ B―COAの後部のトランク部が変形し、
  小型のスクリュー装置が現れる
  スクリューが回転し始める。
  静かに海中を推進し始めるB―COA。

○ B―COA車内
真坂「ほほぉぅ…すげぇ!こんな芸もできるようになったのか…」
北「実用するのは、今回が初めてだ。トラブルが起きない事を祈っててくれ」
シェンズ「潜水艇との距離は、839m」

○ 海中を推進するB―COA
  荒崎の潜水艇が見えてくる。

○ 潜水艇内
  操縦席に座る荒崎。
  操作盤のモニターを見つめる。
  後ろ方向のカメラの映像。
  唖然とする荒崎。
  操作盤のボタンを操作し、操縦桿のレバーの赤いボタンを押す。

○ 潜水艇の右横に設置されているミサイルポッドが回転し、発射口が後方に向く。
  ミサイルポッドから発射される魚雷。

○ B―COA車内
  正面を見つめる真坂と北。
  フロントガラス越しに迫ってくる魚雷が見える。
真坂「ほら、見ろ。こっちは、武器は、何も積んでないのに…」
北「愚痴る前に頭使えよ、シェンズ、衝撃吸収シールド。電磁システムを作動させろ」
シェンズ「了解」
  ハンドル下のパネルの「SHOCK ABSORPTION SHIELD」のボタンが光る。

○ B―COAの車体の下から、シールドが引き出される
  シールドは、車の前面を覆い、3mの高さまで一瞬にして伸びる。
  シールドの表面が緑色の電磁パルスに覆われる。
  向かってきたミサイルがシールドに当たる直前に跳ね返され、180度方向を変えて、
  潜水艇に向かって進み始める。
  
○ 潜水艇内
  モニターを見つめる荒崎。驚愕し、慌てて操縦桿を左に切る。

○ 左の方角に進路を変える潜水艇
  潜水艇の右後方部で魚雷が爆発する。
  爆風を浴びる潜水艇。

○ 潜水艇内
  激しい衝撃を受けている荒崎。
  警告アラームが鳴り響く。
  計器盤がショートし、火花を上げている。
  荒崎、必死の形相で操縦桿を引く。

○ 海の中
  煙を出しながら急浮上する潜水艇。

○ 海岸
  海面から飛び出してくる潜水艇。
  ハッチを開け、飛び降りる荒崎。水の上を必死に走り出す
  爆発する潜水艇。巨大な炎が上がる。
  砂浜に倒れる荒崎。
  海面から現れるB―COA。
  砂浜に駆け上がってくる。
  砂浜の上に立ち止まるB―COA。
  車から降りる北と真坂。銃を握り、荒崎の元へ向かって走り出す真坂。
  北も足を引きずりながら、真坂の後を追う。
  立ち上がる荒崎。
  荒崎、スーツから銃を取り出し、銃口を北達に向ける。
荒崎「それ以上近づくな」
  立ち止まる北と真坂。銃を構える。
荒崎「他の尊い命が犠牲になってもいいのか?」
  真坂と北の前にやってくる亮子。荒崎、亮子を見つめる。
荒崎「亮子…私の元に来い」
亮子「あの人達をどこに隠したの?」
荒崎「こっちに来たら教えてやる」
真坂「嘘だ。行くな!」
  前進する亮子。
亮子「これから生きようとしていた人達をこんな風に使うなんて…」
荒崎「おまえを救ったのは、私だ」
亮子「力が上がれば、もっと大勢の人を助けられると思ってたのに…」
  荒崎の前に立つ亮子。
亮子「さぁ、どこ?どこにいるの?」
荒崎「信じていたのに…とても残念だ」
  荒崎、突然、亮子に向けて拳銃を撃つ。
  亮子の左胸に弾丸が当たる。溢れ出る血。
  亮子、静かに前のめりに倒れて行く。
  驚愕する真坂、北。
  真坂、荒崎を睨みつけ、
真坂「このクソ野郎!」
  真坂、引き金を引き続ける。鳴り響く銃声。
  二人に背を向け、砂浜を走り出す荒崎。
  北、真坂を止め、
北「撃つな!」
  真坂、亮子のそばに駆け寄り抱き起こす。
  亮子、もの言いたげな目線で真坂を見つめているが声が出ない。
  亮子、静かに目を閉じ、息絶える。
  怒りに震える真坂。

○ 砂煙を上げながら走り出すB―COA。

○ B―COA車内
  フロントガラス越しに見える荒崎。走りながら銃を撃ち続けている。荒崎にどんどん迫っている。
  
○ 弾丸を浴びながら走るB―COA
  ボンネットやフロントガラスに当たった弾丸が火花を散らして跳ね返されている。
  立ち止まり、両手で銃を持ち、引き金を引き続ける荒崎。弾切れになる。
  勢い良く荒崎の前に進むB―COA。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る真坂。助手席に座る北。
北「下手な事はやめろよ、真坂…」
真坂「下手な事ってなんだよ」
北「おまえが一番良くわかっているはずだ」
真坂「…」
真坂、険しい表情で正面を見つめながら、アクセルを踏み込む。
北「よせ!」
真坂「うるせぇ、黙ってみてろ!」

○ 直立不動の荒崎の寸前で急ブレーキをかけるB―COA
  タイヤが滑り、荒崎の足の手前数センチのところにB―COAのバンパーがある。
  B―COAのボンネットの突起した部分にあるセンサーが青く光る。
  荒崎、めまいを起こし、B―COAのボンネットの上に手をつき、体を支えている。

○ B―COA車内
ジェノン「人命を確認したため、緊急制止システムを作動しました」
北「…新たに加えられたシステムだ」
  真坂、悔しげに歯を食いしばる。
北、ハンドルの集音マイクに向かって喋り出す。
北「余計な事せずそこでジッとしてろよ。今から行く」
  真坂、すぐさま、車から降り、荒崎の元へ向かう。

○ 荒崎を立ち上がらせる真坂
  荒崎の胸倉を掴み、物凄い形相で睨みつける。
真坂「拉致した人達は、どこだ?」
荒崎「…」
真坂、荒崎の首を絞める。
荒崎「その調子だ…」
  ほくそ笑む荒崎。
  北、真坂の腕を掴み、荒崎から引き離す。
北「もういい…」
  真坂、荒崎を睨み続けている。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  受話器を握る椎名。
椎名「荒崎を…それで場所は?…わかった。ご苦労だった」
  受話器を置く椎名。大きく息を吐き、  ホッとした面持ち。
  ディジアが駆け込んでくる。椎名の前に立つ。
椎名「至急救援部隊を要請して、横浜のコンテナターミナルに向かわせてくれ。
 荒崎に拉致された人達は、そこに監禁されている」
ディジア「わかりました…」

○ 葵港・第3臨海埠頭(翌日・夕方)
  汽笛を鳴らしながら航行しているフェリーの向こうに隠れていた夕陽が顔を出す。
  岸壁の車止めの上に座る真坂。
  松葉杖をついて真坂の背後にやってくる北。左足をギブスで固定している。
  真坂、北に気づき、振り返る。
真坂「無様だな」
北「喜んでないか?」
真坂「そんな気分じゃねぇよ」
北「…加奈見亮子のこと、まだ気にしてるのか?」
真坂「また救えなかったな…俺達…」
  北、夕陽を見つめる。
真坂「亮子の善意をもっと別の方向に向けてやりたかった」
  沈黙する二人。
北「…前の奥さんは、元気か?」
真坂「まだ病院だ。シェンズと仲直りできて良かったな」
北「喧嘩なんかしてない」
真坂「あの時の落ち込みようは、半端じゃなかったぞ」
 立ち上がり、北を横切り歩き出す真坂。
北「ここに残るのか?」
真坂「ああ、TENAの首謀者の顔を拝むまではな…」
  笑みを浮かべる北。
  
                                          ―THE END―

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