『メトロジェノン』 TENA CODE012 「ショットエンド」 BY ガース『ガースのお部屋』

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレートシテスムの操作盤の前にいる谷田星司(26)。
  スピーカーからディジアの声がする。
ディジアの声「どうして北さんと連絡が取れなくなったの?」
  ヘッドマイクに話し出す谷田。
谷田「わかりません。きっと、B―COAに何かの異常があったんじゃ…」

○ 新宿駅前・駐車場
ディジア「総監は?」
谷田の声「今、ヘリで荒崎の車を追跡しています」
ディジア「真坂君の事気になるから、そろそろ行く。後でまた連絡するから」
  携帯を切るディジア。車のドアを開ける。

○ 新宿駅・ホーム
  向かいのホームを見ながらゆっくりと歩いている真坂。
  向かいのホームに立っている広川芽衣(24)。芽衣と手をつないでいる真坂茂(5)。
  黒いスーツを着て、サングラスをつけた二人の男が真坂の前にやってくる。
  真坂、男達に気づき、足を止める。
  急行列車が通り過ぎる。
  右側の男、スーツのポケットに手を突っ込み、ナイフを掴む。
  男達を睨み付ける真坂。

○ 同・向かい側のホーム
  芽衣、真坂のいるホームを見つめる。急行電車が通り過ぎるのを待っている。
  電車が通り過ぎる。ホームで倒れている二人の男。
  唖然とする芽衣。
  真坂、線路に飛び降り、芽衣達のいるホームに向かって走っている。
  芽衣、茂の背中をつき、線路に落とす。
  真坂、線路の上に転がり込み、茂をキャッチする。
真坂「大丈夫か?」
茂「うん」
  真坂達の前に電車がやってくる。
  真坂、茂を抱き、ホームの下に転がり込む。
  ブレーキを唸らせ、立ち止まる電車。

○ 同・階段
  階段を駆け下りている芽衣。
  人込みにまみれて、ディジアが階段を上っている。擦れ違う二人。

○ 同・ホーム
  止まる電車。ドアが開き、乗客が一斉に降りてくる。
  人込みに飲まれるディジア。辺りを見回している。
  ドアが閉まり、発射する電車。
  ディジア、向かいのホームの様子を見つめる。
  電車が通り過ぎた後、駅員が倒れている二人の男達に声をかけている様子が見える。
  ディジア、足元を見つめる。両手で抱きかかえられた茂が見える。
  ホームの際に立ち、線路を覗く。
ディジア「真坂君!」
  線路の上に立っている真坂。 
真坂「こいつ頼む」
  真坂、右肩の痛みに耐えながら、茂を抱きかかえている。
  ディジア、茂を抱きかかえると、すぐに下ろし、真坂の腕を掴み、引き上げる。
  ホームの上に転がり込む真坂。
真坂「黒スーツの茶髪の女、見なかったか?」
ディジア「駄目、わからない…」
真坂「葉菜美がやばい…」
  真坂、立ち上がると、茂を背負い、階段を下りて行く。ディジアもその後を追う。

○ 新宿駅前・東口
  路肩に止まっている青いRV車。助手席のドアを開け、乗り込む芽衣。
  タイヤをスピンさせながら、急発進するRV車。
  歩道を走っている真坂とディジア。
  走り去って行くRV車を見つける。
ディジア「車とってくる」
  真坂の前から走り去るディジア。
  真坂、茂を降ろし、
茂「お姉ちゃんは?」
  真坂、険しい顔つき。

○ ビル街・国道
  走行するBMW。
  BMWの後方の空を一機の青いヘリが飛んでいる。

○ BMW車内
  運転席に座る荒崎。助手席に座る椎名。
  ヘリの羽音が聞こえている。
椎名「どこに連れて行くつもりだ?」
荒崎「…後ろにまとわりついてるやつ、なんとかなりませんか?」
椎名「私のスーツのポケットから携帯を取り出してくれ」
  荒崎、右手で椎名のスーツのポケットをまさぐる。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  通信のアラームが鳴り響く。
  ヘッドマイクで話し始める谷田。
谷田「JWAオペレーション4346。ゼフォークです」
椎名の声「私だ」
谷田「総監!」

○ BMW車内
  荒崎が右手で携帯を持ち、椎名の耳に当てている。
椎名「荒崎の車を尾行しているヘリに引き返すよう指示を出せ」
谷田の声「しかし…」
椎名「命令だ」
谷田の声「わかりました…」
  携帯を切る荒崎。そのまま、自分のスーツのポケットに入れる。
  バックミラーに映るヘリを見つめる荒崎。
  ヘリが左に旋回し、ミラーから消える。
椎名「これでいいか?」
荒崎「…あの車の事を教えてもらえませんか?」
椎名「車?」
荒崎「あなた方が開発した特殊なマシーンの事です」
椎名「あの車をどうする気だ?」
荒崎「使い道は、色々あります」
椎名「TENAに何をされた?」
荒崎「…」
椎名「一人で奴らを深追いしても、結果は見えてる」
荒崎「奴らのやり方には、不満ですが、利用する価値はあるんで…」
椎名「首謀者は、天木未月なのか?」
荒崎「彼女は、ひよっ子ですよ」
椎名「…」

○ 川の中
  青黒い川底に沈んでいるB―COA。

○ B―COA車内
  運転席のシートにしなだれ、気絶している北。うっすらと目を開け、辺りを見回す。
  北、エンジンのスタートボタンを押すが、起動しない。
  ドアを開けようとする北。しかし、ロックされていて、開かない。
  ドアの窓を肘で叩きつけるが微動だにしない。
  息を切らす北。
北「酸素がもうもたない…」

○ 橋の上
  橋の中央の壊れた柵の前に立っている天木未月(29)。
  巨大なクレーン車が走ってくる。
  クレーン車に気づき、手を振る未月。

○ B―COA車内
  シートにもたれ、息苦しそうにしている北。やがて、意識を失う。
  コンソール中央の4つのモニターが突然映り出し、『RECOVERY』の文字が点滅表示される。
  電子音か鳴り響き、パネル、コンソールのボタンが一斉に光り出す。

○ ボディが虹色に輝き始めるB―COA

○ B―COA車内
ジェノン「緊急リカバリーシステムが機能しました。エンジンをスタートさせます」
  低いクリーンな音が鳴り始める。
  室内に酸素が流れ始める。
  北、微動だにしない。
  モニターのメニュー画面『WATER JED』のボタンが光る。
  モーター音が鳴り響き始める
  モニターに映るメニュー画面。『MIND CHANGE』のボタンが光る。
ジェノン「一真…」
  北、目を覚まさない。

○ 川底を走行し始めるB―COA
  川の流れに沿って、ゆっくりと進んでいる。

○ 橋の上
  クレーンのアームが伸び始める。
  柵に寄りかかり、川底を覗いている作業服を着た男。隣に立つ未月に話し掛ける。
男「どこに落ちたんですか?」
  未月、川底をまじまじと見つめる。

○ ビル街
  市道を猛スピードで走行するRV車。
  その後を白いセダンが追っている。

○ RV車車内
  携帯を耳に当てている芽衣。
  電話がかかる。
芽衣「広川です」
未月の声「今どこにいるの?」
芽衣「新宿です。真坂の女と子供を捕らえたんですが、子供のほうは、あいつに奪い返されました」
未月の声「何してんの?」
  芽衣、動揺した表情で、後部シートに座っている葉菜美を見つめる。
芽衣「すいません。でも…まだ女がいます」
未月の声「言い訳はいいから。それで、追われてるわけ?」
芽衣「はい」
未月の声「いいわ。中野の工場に行きなさい。そこで事態を処理して、暫く隠れてなさい。わかった?」
芽衣「わかりました」
  神妙な面持ちの芽衣。

○ 白いセダン車内
  運転席にディジア、助手席に真坂、後部席に茂が座っている。
真坂「あんまり、近づくなよ。後ろに機銃が装備されてる」
ディジア「プレッシャーかけないでよ。見失ったらどうするの?」
真坂「知らずに近づいてたら、蜂の巣にされてるところだぞ。こんな時にB―COAがあれば…」
  フロントガラス越しに走行するRV車の後ろ姿が見えている。
ディジア「いい事思いついた。私の鞄の中から携帯を取って」
真坂「茂!」
  茂、そばに置いてあるディジアの鞄を真坂に手渡す。
ディジア「本部の専用ナンバーを登録してあるから、うちの航空整備部に連絡して」
真坂「ヘリか?」
ディジア「早く!」
  真坂、携帯のディスプレイにナンバーを表示させる。

○ 下流域・河川敷
  水の中から出てくるB―COA
  ゆっくりと川原に駆け上ってくる。
  登りきったところで立ち止まる。

○ B―COA車内
ジェノン「一真…」
  北、うっすらと目を開ける。
  起き上がり、辺りを見回す。
ジェノン「緊急リカバリーシステムが作動したの。ウォータージェッドを作動させて、水中から脱出した」
北「おまえがやったのか?」
ジェノン「総監は、万が一に備えて、リカバリーシステムと連動して、私のプログラムが立ち上がるように
 セッティングしていたのよ。ジェノンだけの力じゃ、ここまではできなかった」
北「…故障箇所をチェックできるか?」
ジェノン「診断プログラムに異常が見られるわ。このままでは、あの車に立ち向かえない」
北「本部に戻ろう…」
ジェノン「もう一度行ってみたい。あの水族館に…」
北「…」
  北、複雑な表情でハンドルを握り、アクセルを踏み込む。

○ 土煙を上げ、急発進するB―COA

○ 『エナメイト』ビル
  古びた5F建ての白い雑居ビル。
  荒崎のBMWが地下の駐車場に続くスロープを下りて行く。

○ 同・1F・空調室
  暗がりの中、扉が開く。
  後ろに両手を回し、手錠をかけられている椎名。中に押し入れられる。
  椎名の後に荒崎が入ってくる。
  荒崎と対峙する椎名。
椎名「ここが俺の墓場か」
荒崎「私は、やりませんよ。あの女の指示待ちです」
椎名「天木未月か?」
  鼻をかいている荒崎。
椎名「大谷も…ここで殺したのか?」
荒崎「生かすつもりでしたが…少々暴れ過ぎましてね…」
  椎名、中央にある椅子に座らされる。
  両手首、両足首に鉄のワッカが自動的にはめられる。
  携帯の着信音が鳴り響く。
  荒崎、携帯に出る。

○ グレンサー500車内
  走行中。ハンドルを握る未月。
  コンソールの集音装置に話し掛けている。
未月「私。ちょっと予想外の事が起きちゃって…」

○ 『エナメイト』ビル・1F・空調室
荒崎「車が消えた?」
  椎名、怪訝な表情を浮かべる。
未月の声「向こうが勝手に橋から落ちたのよ。引き上げようと思ったら、落ちた場所にいないのよ」
  荒崎、椎名を睨み付ける。
荒崎「わかった。後は、任せろ」
  携帯を切る荒崎。椎名を見つめる。
荒崎「ちょっと手荒いマネをさせてもらいますよ…」
  息を飲む椎名。

○ 倉庫地下・JWA本部・ガレージ
  円盤状の薄い鉄板の上に止まるB―COA。
  運転席から降りる北。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  入口のドアが開く。中に入ってくる北。
  オペレートシテスムの座席に着く谷田。
  北に気づくと、立ち上がり、駆け寄る。
北「至急B―COAのメンテナンスを頼む。整備部に連絡してくれ」
谷田「天木は?」
  首を振る北。
北「ディジアと連絡は、取れるのか?」
谷田「さっきまた連絡がありました。真坂さんの知り合いの女性がTENAのメンバーに拉致されて、
 例のRV車で逃走しているんです。ディジアと真坂さんが追跡しています」
北「真坂?何であいつがディジアと一緒にいるんだ?」
谷田「それが…話せば長くなるんですが…」
北「まさかお前…真坂に情報を?」
  深々と頭を下げる谷田。
谷田「すいません…」
北「…俺達のメンバーだからと言っても、あいつは、今休職中だぞ。情報漏洩は、抹殺権の適用範囲だ。
 わかってるのか?」
  谷田、困惑した表情を浮かべ、
谷田「覚悟は、できています…」
北「…天木未月がディジアの姉ってどう言う事なんだ?」
谷田「二人は、双子の姉妹だったんです」
北「双子?でも、全然顔が似てないぞ」
谷田「未月は、5年前に整形手術をしたそうです」
北「じゃあ、ディジアも時本の娘なのか?」
谷田「彼女は、その事実を知って、時本のガードを始めたんです。ディジアは、生まれて間もなく養子に
 出されています」
北「養子に?」
谷田「時本が警察に捕まり、一人で働きに出た母親が当時の経済状況を察して、未月だけを育てる事を
 選んだんです」
  北、憮然としている。
北「総監は?」
谷田「それが…総監は、荒崎に連れ去られてしまって…」
  驚愕する北。
  通信のアラームが鳴り響く。
  慌ててヘッドマイクをつける谷田。
谷田「はい」
真坂の声「俺だ。ヘリは、まだか?」
谷田「後1分弱でそっちに着くはずです」
  北、谷田のヘッドマイクを奪い取り、喋り出す。
北「真坂!」

○ 白いセダン車内
  携帯から北の怒鳴り声が聞こえる。
北の声「それ以上勝手な事をしたら、JWAの法規に基づき、お前達を拘束、もしくは、抹殺する事になるぞ」
真坂「女が奴らに拉致されてるんだ。それをおめおめと取り逃がせって言うのか?」
北の声「車は、ヘリにマークさせればいい。お前達は、こっちに戻れ」
真坂「シェンズの時、おまえ、どうしたよ?」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  北、気まずい表情を浮かべる。
真坂の声「あの時俺になんて言ってたか覚えてるか?」
北「…」
真坂の声「俺も今同じ事を言ってやるよ。余計なマネしたら、お前をブッ殺す」
  通信が切れる。
  寡黙になる北。ヘッドマイクを谷田に手渡し、そのまま、入口に向かって立ち去る。困惑する谷田。

○ セダン車内
  携帯をしまう真坂。
ディジア「えっ、切っちゃったの?」
真坂「ああ」
ディジア「ヘリからの通信、本部で中継してもらわないとできないのよ」
真坂「じゃあ、おまえかけろよ」
ディジア「運転してるのよ。法律を破れって言うの?」
  ディジア、突然、急ブレーキをかける。
  真坂、ディジアを見つめ、
真坂「どうした?」
  正面を見ているディジア。
ディジア「赤信号…」
  真坂も正面を見つめる。
  交差点を車が行き来し始める。
真坂「クソ!」
  後ろからヘリの羽音が聞こえてくる。
  真坂、渋々携帯を出し、またナンバーを表示させる。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレートシステムの通信装置のスピーカーから真坂の声が聞こえる。
真坂の声「おい…聞こえるか?」
  ヘッドマイクに話し出す谷田。
谷田「はい」
真坂の声「北は?」
谷田「出て行きました」
真坂の声「ヘリと交信したい」
谷田「十秒ほど待ってください」
  操作盤のボタンを押す谷田。

○ ビルが建ち並ぶ通り
  二車線の道路。走行する周りの車を擦り抜け、スピードを上げているRV車。
  その後ろの上空を飛行しているヘリ。
パイロットの男の声「RV車は、中野区を北上中です」

○ 実野木製作所・工場・敷地内
  入口の門に勢い良く入って行くRV車。
  古びた建物の前に向かって走っている。

○ セダン車内
パイロットの男の声「車は、工場に入った」
真坂「気づかれたらまずい。そのまま、そこを離れてくれ」
パイロットの男の声「了解」
真坂「谷田、地図に工場の場所をマークして俺の携帯に送ってくれ」
谷田の声「わかりました」

○ 実野木製作所・工場・敷地内
  白いセダンが中に入って行く。
  建物の前に止まっている軽トラックのそばに止まるセダン。

○ セダン車内
  工場の入口に止まっているRV車を見つける真坂。
真坂「銃を貸せ」
ディジア「応援を待ったほうがいい…」
真坂「待ってられねぇ」
  真坂、ディジアの鞄から銃を取り、車から降りようとするが、踏み止まり、
真坂「茂連れて、ここから逃げろ」
ディジア「一人でなんて無茶よ…」
真坂「頼むからこいつを守ってやってくれ」
  真坂、茂を見つめる。
茂「そのピストル、貸して!」
真坂「これは、玩具じゃねぇんだよ。また後でな」
  車から降りる真坂。

○ 工場・入口前
  両手で掴む銃を下に向けながら、RV車に駆け寄って行く真坂。
  真坂の背後でセダンがバックし、その場を離れて行く。
  突然、RV車の後ろに隠れていた芽衣が姿を表し、真坂に向け、マシンガンを発射する。
  真坂、慌てて、軽トラックの陰に隠れる。
  芽衣、軽トラックに向けてマシンガンを撃ち続ける。
  軽トラックの右側面ボディが蜂の巣にされて行く。
  軽トラックの荷台のそばにしゃがみ込む真坂。
  意を決し、立ち上がり、芽衣に向けて銃を撃つ。
  引き金の指を止める真坂。
  芽衣の姿がない。
  辺りを見回す真坂。
  RV車に駆け寄って行く。

○ RV車車内
  後部席のドアを開く真坂。
  中には誰も乗っていない。

○ 工場内・作業場
  銃を構えながらゆっくりと前へ進んでいる真坂。
  真坂の足元で何発も弾く銃弾。真坂、すかさず地面を転がりそばにある鉄製の棚のそばに身を隠す。
  2Fのプレハブの事務室前の通路ほうを見つめる真坂。
  手すりの前に葉菜美と芽衣が立っている。
  葉菜美、猿轡をされ、縛られている。
  真坂を見つめ、声を上げている葉菜美。
  芽衣、葉菜美の背中にマシンガンの銃口を突き立てている。
真坂「(声を張り上げ)それは、反則だろ?そいつの腹の中には、赤ん坊がいるんだぞ」
芽衣「ふーん。だから?」
真坂「女の癖に想像力がねぇな。子供産んだらわかる」
芽衣「子供なんて、うっとしいだけ。あんたもね」
  マシンガンの発射音が鳴り響く。真坂のそばで火花を上げ飛び散る銃弾。
芽衣「セクハラ。そう言うの、大っ嫌い」
真坂「お前が今している事と比べたら、大した事ないさ」
  真坂、身を乗り出そうとするが、棚に黒い道具箱が置かれているのに気づき、
  中をソッと覗き見る。中にタイマー式の爆弾が入っている。
  その直後、真坂の後頭部に銃口が突きつけられる。
  真坂の後ろに黒いスーツの男が立っている。
男「銃を捨てろ」
  真坂、男を見つめ、銃を放り捨てる。
真坂「俺達を殺した後、ここを吹き飛ばすつもりか?」
男「はっ?」
真坂「その道具箱の中見てみろ。爆弾が入ってる」
男「嘘つけ」
真坂「覗いてみろよ。後1分で爆発するぞ」
  男、神妙な面持ちで、真坂に銃口を向けたまま、道具箱を覗く。爆弾のタイマーを見つめる。
  真坂、すかさず、男の頭を棚の柱にぶつける。すかさず、拳銃を拾い上げ、男に銃口を向ける。
  男、痛みを堪えながら、狼狽えている。
真坂「なっ、さっさとあの女にも伝えたほうがいいぞ」
  声を張り上げる男。
男「広川さん、爆弾です。後、50秒で爆発します」
芽衣「えっ?」
  芽衣がマシンガンを下ろした瞬間、真坂、芽衣に向け、銃を撃つ。
  芽衣の右腕を銃弾が貫通する。
  マシンガンを落とす芽衣。葉菜美、芽衣に体当たりする。
  芽衣、手すりから身を乗り出し、下に落ちる。
  走り出す真坂。その後ろで逃げ出す男。
  葉菜美、階段を下りている。
  互いに近づく葉菜美と真坂。葉菜美、真坂に猿轡を外すようゼスチャーしている。
真坂「後で」
  真坂、葉菜美を抱き、走り出す。

○ 工場・裏口
  扉が開き、真坂と葉菜美が出てくる。
  必死に走る二人。工場から数十メートル離れた場所で蹲る。
  暫くの沈黙。
  顔を上げ、工場を見つめる二人。
  猛烈な爆音と共に工場の中から巨大な炎が上がる。また、蹲る二人。
  敷地内にサイレンを唸らせた覆面車と特殊部隊を乗せたバスが乗り込んでくる。
  立ち止まる車両。車から降りるJWAの捜査員と特殊部隊が次々と降りている。
  真坂達の前に近づいてくる捜査員の男。立ち止まり、手帳を見せる。
捜査員の男「山下です。ディジアの連絡を受けて、応援にかけつけました」
真坂「おせぇよ。もう人質は、救出した」
山下「TENAのメンバーは?」
  真坂、親指で工場のほうを指差す。
  声を上げている葉菜美。真坂、葉菜美の猿轡をはずす。
  葉菜美、泣きそうな顔を浮かべ、
葉菜美「さっきからずっと外せって言ってたのに…」
  葉菜美を抱き締める真坂。
葉菜美「もういいでしょ。離れないで…」
真坂「まだ終わってない…」
葉菜美「…」

○ 『エナメイト』ビル・1F・空調室
  椅子に縛り付けられている椎名。
  荒崎、右手に注射器を持っている。
  椎名、注射器を見つめ、
椎名「自白剤か?」
荒崎「これを頭に打つと、ナノ単位の回路が脳の毛細血管に付着して、一定の間隔で血管を圧迫する。
 かなりの苦痛が生じます。大谷は、これに耐え切れずに死んだんです」
  椎名、動揺した面持ち。
  荒崎の背後にある扉が開き、グレイのスーツを着た男のシルエットが映る。
  男を見つめる椎名。
  二人に近づいてくる男。
  照明が男の顔を照らし出す。男は、防衛庁情報システム開発推進部長・稲津正兵(46)
  愕然とする椎名。
稲津「あなたのこんな無様な姿は、見たくはなかった…」
椎名「無様なのは、あなたのほうですよ」
稲津「(荒崎を見つめ)この男の事は、ついさっきまで知らなかったんです。まさか、
 あなたの知り合いだったとは…良いお友達をお持ちですね」
椎名「TENAとは、いつから関っていたんだ?」
稲津「三ヶ月前に、天木未月と言う女と知り合いましてね…」
椎名「…」
稲津「これで、B―COAの武装化もスムーズに進む…」
椎名「おまえがTENAの首謀者か?」
稲津「先にあなたに質問したい事がある」
  荒崎、椎名の後頭部に注射針を打つ。
  呻き声を上げる歯を食いしばり、必死に耐えている椎名。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  入口のドアが開き、入ってくるディジア。
  オペレートシステムの前にいる谷田。ディジアに気づき、近づいて行く。
谷田「ディジアさん」
ディジア「北さんは?」
谷田「ガレージです。整備部の人と一緒にB―COAのメンテナンスに当たっています」
ディジア「状況を報告して」
谷田「荒崎の車を尾行していたんですが、総監の支持で退避させられました」
ディジア「副総監は、まだ到着してないの?」
谷田「一時間前に内閣総理大臣から正式な指令が出されて、現在こっちに向かっています」
  オペレートシステムの前に向かうディジア。
谷田「荒崎の情報を受けて、3名の特殊先任チームが奥多摩にあるデイルタンクと言う工場に
 向かったんですが、工場は、爆破されていました」
  座席に着くディジア。
ディジア「それで、二人は?」
谷田「二人とも即死です…」
ディジア「総監は、万が一の時に備えて、発信器を常に携帯しているの。その信号を今から特定するわ」
  キーボードを打ち始めるディジア。
谷田「戻ってきてもらって助かりました。僕一人じゃどうする事も…」
ディジア「本当は、戻って来られる立場の人間じゃないんだけど…」
谷田「いいんです。今度昼飯奢って下さい」
  唖然とするディジア。
ディジア「そんなのでいいの?」

○ 同・ガレージ
  B―COAの助手席に乗り込む整備部の作業員。
  コンソールのパネルのチェックをしている。
  前輪のタイヤ周りを見回している北。
真坂の声「潰れたのか?」
  ハッと後ろを振り返る北。
  真坂が立っている。立ち上がる北。
真坂「B―COAにレンタルの袋置きっぱなしにしててさ」
北「それなら、さっき保管室に持って行った。うまく行ったのか?」
真坂「自力でなんとかな…」
北「…」
真坂「総監は、まだ見つかってないのか?」
北「まだ居場所は、特定されてない。今頃、拷問を受けて、ここの情報が全て漏れてしまっている
 かもしれない…」
真坂「シェンズの二の舞は、ごめんだぜ」
  物凄い形相で真坂を睨み付ける北。
北「何かにつけてシェンズ、シェンズって、うるさいんだよ」
  北、また、助手席に乗り込む。
  北を見つめる真坂。
  北、寡黙にパネルのチェックを始める。

○ 『エナメイト』ビル・1F・空調室
  呻き声を上げている椎名。
  椎名の前に立つ荒崎と稲津。
  ドアの開く音が響く。
  振り返る荒崎。未月が二人の前にやってくる。腕を組み、椎名を見つめる未月。
未月「あれがJWAの総監?」
荒崎「ええ」
未月「それで、何か喋ったの?」
荒崎「中々手強いですよ。でも、後十分もすれば…」
  椎名の呻き声がさらに激しくなる。
荒崎「あなたのほうは、どうやら、失敗だったようですね」
  未月、苦笑いし、
未月「心配しないで。足がつかないようちゃんと処理したから」
荒崎「でも、これじゃあ、計画は、丸潰れだ。おそらくJWAは、体制を立て直して、
 あいつの奪還に乗り出しますよ。B―COAは、まだ奴らの手元にある」
  未月、申し訳なさそうに顔を歪め、
未月「…わかった。バビデディットの事を話すわ」
  勝ち誇った表情をする荒崎。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレートシステムの前にいるディジア。
  ディジアのそばに立っている谷田。
ディジア「駄目…信号を捉える事ができない」
谷田「総監…発信器を作動させなかったのかも…」
ディジア「どうして?」
谷田「まだ信じているのかもしれない…荒崎の事を…」
ディジア「…」
  入口のドアが開く。OP員の男が二人の前に駆け寄ってくる。
OP員の男「副総監が来られました」
  立ち上がるディジア。OP員達が横一列に並ぶ。
  入口のドアから、制服を着た椎名 光蔵(76)が入ってくる。
  口を開き、唖然とするディジアと谷田。
  立ち止まり、敬礼する光蔵。
光蔵「副総監は、病気のため、急遽、臨時副総監に任命された。私は、元警視庁警視総監の職についていた」
ディジア「総理大臣直々の指名ですか?」
光蔵「失敬な。でなければ、ここには来ておらん。さっそくだが、状況を報告してもらおうか。椎名総監の件だ」
  入口から入ってくる真坂。
  光蔵の前を横切り、ディジアの前に近づく。
真坂「茂と葉菜美は?」
ディジア「保安室で休んでもらってる」
  険しい顔つきで真坂を見ている光蔵。
  真坂、光蔵に気づき、
真坂「誰?このじいさん…」
  笑いを堪える谷田。ディジア、焦った表情をし、
ディジア「副総監よ。さっき到着されたの」
光蔵「君は?」
真坂「ここの捜査員だけど?」
光蔵「あいつは、見る目がないな」
真坂「はっ?」
光蔵「こんなチャラチャラしたのが…」
  光蔵を睨み付ける真坂。
真坂「こんなしわしわが副総監だって?」
ディジア「この人は、総監のお父様なのよ」
  唖然とし、ディジアを見つめる真坂。
  真坂を睨みつけている光蔵。

○ 同・ガレージ
  止っているB―COA。

○ B―COA車内
  運転席に座る北。
  左上のモニターに映るポニーテールの女のCGと話している。
北「さっきの礼、まだ言ってなかったな」
ジェノン「プログラムの指示通りに動いただけよ」
北「…おまえに話しておかなければいけない事がある…」
ジェノン「何?」
北「総監が…TENAに捕まった」
ジェノン「…」
北「今、全力で探し続けているが、まだ手掛かりが掴めない」
  突然、電子音が鳴り響き、エンジン音が響き始める。
  唖然とする北。
ジェノン「早く助け出さないと…」
北「待てよ。どうするつもりだ?」
ジェノン「総監を探すの」
  困惑した表情を浮かべる北。
  奥の通路から真坂が駆け寄ってくる。
  北、真坂に気づき、慌てふためく。
ジェノン「消さないで一真!…」
北「後でな」
  北、右上のモニター画面に映るメニューボタンの『MIND CHANGE』のボタンを押す。
  左上の画面が消える。
  運転席の前に近寄る真坂。北、ドアを開ける。

○ 倉庫地下・JWA本部・ガレージ
  対峙する真坂と北。
真坂「総監に関する有力な情報が入ったぞ」
北「居場所がわかったのか?」
真坂「さっき、須賀って男からタレコミがあった」
北「須賀って…あの須賀か?」
真坂「生きていたんだ。天木未月の工場で働いていたらしい。助けを求めてる」
  真坂、回り込み、助手席に乗り込む。
北「どこにいるんだ?」
  北も運転席に乗り込む。

○ B―COA車内
  助手席に座る真坂。
真坂「世田谷の公園だ」
  アクセルを踏み込む北。

○ 葵港・第3臨海地域・倉庫
  シャッターが開く。ヘッドライトを光らせながらB―COAが勢い良く地上を走り出す。

○ 『エナメイト』ビル・1F・空調室
  力ない表情で項垂れている椎名。
  椎名の前に立つ荒崎。
荒崎「そろそろ限界のようですね…」
  顔を上げる椎名。
椎名「もういい。荒崎、私を殺せ…」
荒崎「…」
椎名「どれだけ粘っても、私は、何も喋らん」
  荒崎、スーツのポケットから注射器を出し、突然、椎名の首に針を打つ。
  悲鳴を上げる椎名。
  針を抜く荒崎。
荒崎「今のは、解凍剤です。これで頭の中の回路は、解けてもう苦しまずに済む…」
椎名「どうして…」
  荒崎、不敵な笑みを浮かべる。

○ 同・1F別室
  ソファに座る未月。イヤホンで椎名と荒崎の会話を聞いている。
荒崎の声「あの女を信用させるために、やむを得ずこんなマネを…」
椎名の声「もしかして、天木のバックについている奴らの情報を聞き出したのか?」
荒崎の声「ええ。稲津は、天木に利用されているだけです。もうすぐ助けが来るはずです」
椎名の声「JWAに連絡したのか?」
荒崎の声「内情に詳しい男を投降させた」
  憮然とする未月。

○ 世田谷・公園
  脇道に立ち止まるB―COA。
  車から降りる二人。公園の中に入って行く。
  ジャケットの中に手をしのばせ、ホルダーの銃を握っている北。
北「罠かもしれない…」
真坂「娘の事をとても気にしてた。これ以上、無茶な事は、しないと思うけどな」
北「でも、奴は、TENAの一員だ。油断はできん」
  トイレの前に差し掛かる二人。
  トイレの入口から男が出てくる。
  北、咄嗟に銃を向ける。
  男は、須賀である。右手に持っていた鞄を落とし、思わず両手を上げる。
真坂「須賀…」
  須賀に近寄る真坂。北、銃を下ろす。

○ 国道
  走行するB―COA

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に座る真坂。
  後部席に須賀が座っている。
須賀「約束してくれ。俺は、天木未月に関する重要な情報を握っている。全てを喋ったら、俺を見逃して欲しい」
  北、真坂、怪訝な表情で顔を合わす。
北「善処は、するが、ここで判断は…」
真坂「善処もへちまもあるかよ。俺が副総監に取り合って、なんとかする。その代わり、
 一つでも嘘をついたら、ここでお前を殺す」
須賀「ここまで来て嘘なんかついても意味がない」
北「工場で何をしていたんだ?」
須賀「…サーバーソサエティの工場で製造している販売品のロボットのパーツを横流しして、レーザー装置を
 組み込む作業を手伝わされていた。それと…車だ」
真坂「車?あのRV車に機銃を加えたのもお前達か?」
  須賀、軽く頷き、
須賀「天木の車もだ。車両の先端にロボットに積んだものよりも十倍の威力があるレーザー装置と
 トランク部にミサイルが搭載されている。それと天木の体は、一部、サイボーグ化されてる」
北「じゃあ、この間弾を跳ね返したのは、ファイバースーツじゃなかったのか…」
真坂「おまえ、車のディーラーじゃなかったのかよ?」
須賀「ムショに入る前までは、大手の車工場で働いていた。天木の工場で腕の良いカーエンジニアが雇われて、
 そいつに色々と教わったんだ…」
北「奥多摩の工場を爆破した犯人を知ってるか?」
須賀「…俺だ」
  唖然とする二人。
須賀「天木の命令でやったが、爆破を支持したのは、荒崎と言う男だ」
真坂「じゃあ、中野の工場を爆破したのも…」
須賀「奴だ」
  真坂、須賀の胸倉を掴み、
真坂「あの爆発でうちのメンバーが三人も死んだんだぞ。俺もあの世に行きかけた!」
北「真坂、手を放せ!」
  真坂、須賀から手を離し、
須賀「約束は、守ってくれるんだろうな?」
  渋々頷く北。
北「天木は、今どこにいる?」
須賀「…板橋付近の『エナメイト』って言う古いビルに身を隠している」
北「ジェノン、地図を出してくれ」
ジェノン「…」
真坂「どうしたんだ?音が出ないぞ」
  真坂、モニターのタッチパネルを操作している。
  左下の画面に『ASSIST ERROR』が表示されている。
  北、画面を見つめ、
北「チェックミスだ。ジェノンの音声回路の一部がまだ完全に機能していないんだ」
真坂「何やってんだよ…」
北「…左下のボタンを押した後、『MIND CHANGE』のボタンを押してくれ」
  真坂、画面をまじまじと見つめ、
真坂「これか?」
  ボタンを押す真坂。
  左上のモニターにポニーテールの女のCGが映る。
北「非常事態だ。アシストを頼む。板橋付近の地図を出してくれ」
ジェノン「…総監の居所を掴んだの?」
北「ああ。今から向かう」
  右下の画面に地図のイメージが映る。
  唖然としている真坂。
真坂「妙に女っぽいよな…それに、どこかで聞いたような声だ」
ジェノン「何を言ってるの元探偵屋さん。私は、正真正銘の女よ」
  呆然とする真坂。
真坂「…何なんだ?」
北「真坂…こいつは、ジェノンじゃない。シェンズだ」
真坂「はぁ?」
ジェノン「ここであなたと話すのは、初めてね」
  呆然としている真坂。
  真坂の戸惑う様子を見て、笑みを浮かべる北。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  部屋の中央に立ち、メンバーの様子を見つめている光蔵。
  オペレートシステムの座席に座るディジアと谷田。
  谷田、ソッと振り返り、光蔵の様子を見つめる。
谷田「あんなところにずっと突っ立っていられたらやりにくいですよ」
ディジア「総監の事が気になって仕方ないのよ」
谷田「あの人に的確な判断ができるんですか?」
ディジア「…」
谷田「よりによって、何であんなじい…」
光蔵の声「谷田君」
  ハッと、振り返り、立ち上がる谷田。
  谷田の目の前に光蔵が立っている。
谷田「はい」
光蔵「何か情報は、入っていないのかね?」
谷田「動きがありましたら、報告しますので…」
  通信のアラームが鳴り響く。
  ディジア、ヘッドマイクに話し出す。
ディジア「JWAオペレーション3238。ディジア」
  スピーカーから北の声が聞こえる。
北の声「こちらスターク。総監の居場所が判明した」
  光蔵、ディジアのヘッドマイクを奪い取り、マイクに話し掛ける。
光蔵「どこにいるんだ?」

○ B―COA車内
  唖然とする北と真坂。
北「…副総監ですか?」
  スピーカーから光蔵の声が聞こえる。
光蔵「そうだ」
北「板橋区の『エナメイト』ビルです。今、現場に向かっています」

○ 倉庫地下・JWA本部・・OP室
光蔵「わかった。至急、応援部隊を送る」
北の声「待ってください。まず我々が潜入します。一気に押しかけて、敵に感づかれたら、
 総監の命が危険です」
光蔵「よし、では、準備を整えておく。慎重に頼む」

○ B―COA車内
北「了解しました」
  通信が切れる。
真坂「決め台詞は、総監そっくりだな」
北「親子だからな」
ジェノン「ああ見えて心配性だから…」
真坂「…そうか、おまえのじいちゃんになるんだよな…って俺普通に喋っちゃってるよ。マジでシェンズなのか?」
ジェノン「ホテルで私を助けてくれた事、一応記憶には、残っているわ。あの時は、ありがとう」
  真坂、複雑に表情を歪め、
真坂「礼なんて言うな。俺達は、おまえを救えなかった…」
  悔しげに唇をかみ締めている北。
ジェノン「でもベストは、尽くしてくれた」
  北、寡黙に運転を続けている。
ジェノン「目的地まで後1キロよ」
須賀「おい、俺も一緒に行かなきゃならんのか?」
北「この車の中にいろ」
真坂「タフなんだぜこいつ。少々の攻撃を受けてもびくともしないから」

○ 住宅街
  カーブを走り抜けるB―COA。

○ 『エナメイト』ビル一階・空調室
  扉が開く。銃を構え、中に入ってくる稲津。
  稲津を見つめる荒崎と椎名。
  稲津に続いて、未月が中に入ってくる。
未月「(荒崎を見つめ)その人、どうする気?」
荒崎「答える前に、その男に銃を下ろすように言ってくれないか」
未月「あなた…その男とどう言う関係なの?」
荒崎「聞いていたのか。私達の話を…」
未月「私から『バビデディット』の情報を聞き出すために、一芝居を打ったって事ね」
荒崎「目的は、達した。君は、もう用済みだ」
  稲津、荒崎に向け、銃を撃つ。
  荒崎の左胸に銃弾が当たるが跳ね返される。
  荒崎、透かさず、ポケットから携帯を取り出し、携帯を稲津に向け、あるボタンを押す。
  携帯のアンテナ部から紫色のレーザーが発射される。
  レーザーは、稲津の右手に当たる。
  銃を落とす稲津。
  稲津、慌てて、銃を拾おうとする。
  荒崎、未月に携帯を向け、
荒崎「拾えば、女の命は、ないぞ。このレーザーは、ファイバースーツも貫通するんだ」
  高笑いしながら荒崎に近づく未月。
  荒崎、未月にレーザーを撃つ。
  未月の右肩にレーザーが当たるが微動だにしない」
  呆然と佇む荒崎。
未月「これでわかった。私はこの体で未来永劫生き続けるの」
荒崎「立村に身体を弄られていたんですね。お気の毒に…」
  荒崎、未月の顔に向けてレーザーを撃つ。
  レーザーが未月の顔を傷つける。
  悲鳴をあげ、顔を押さえる未月。
荒崎「自分の美しい顔までは、サイボーグ化できなかったみたいですね…」
  顔から手を離す未月。右頬に細く長い焼き傷がついている。荒崎を睨みつける未月。
  荒崎、椅子の左側にあるパネルのボタンを押し、椎名の両手首と足首についている鉄のワッカを外す。
  立ち上がる椎名。
荒崎「裏口から出て行け」
椎名「荒崎…」
荒崎「早く…」
  椎名、奥のほうに向かって歩き出す。
  失笑する未月。
荒崎「何がおかしい?」
  未月、右手に握っているものを見せる。黒いリモコン装置である。
未月「手始めに奥の扉を吹き飛ばしてやるわ」
  未月の背後に人影が近づく。男が未月の手からリモコンを奪い取る。
  ハッと振り返る未月。
  真坂と北が銃を向け、立っている。
  北、稲津を見つめ、
北「稲津さん…」
  荒崎、咄嗟に稲津の背中にレーザーを打ち込む。
  レーザーが貫通する。倒れる稲津。
  裏口に向かって走り出す荒崎。
  真坂、荒崎に向け、銃を撃ち続ける。
  荒崎の背中に銃弾が当たっているが次々と跳ね返されている。
  未月、北の拳銃をハイキックで蹴り飛ばし、さらに北の顔を蹴飛ばす。薙ぎ倒される北。
  真坂、咄嗟に未月に銃を向ける。
  未月、真坂の腹に蹴りを入れる。
  その場に突っ伏す真坂。
  二人の合間を潜り抜け、走り出す未月。
  立ち上がろうとする二人。
  北、レギオウォッチに話し掛ける。
北「総監を発見。ビルの裏口に向かった。荒崎もそっちに向かっている」
ディジアの声「了解」
北「裏口は、特殊部隊に任せよう。行くぞ」
真坂「おぅ…」
  北、部屋を出て行く。真坂、腹を押さえながら、北の後を追う。
  
○ 同・裏口
  扉が開く。荒崎が出てくる。
  ビルの周りを特殊部隊の隊員達が取り囲んでいる。隊員達、一斉にライフルを荒崎に向ける。
  立ち並ぶ隊員達の中央に立っている椎名。
椎名「無駄な抵抗は、よせ、荒崎」
  両手を上げ、ほくそ笑む荒崎。
荒崎「わかりました…」
  荒崎に向かって隊員達が一斉に近づいて行く。
  不敵な笑みを浮かべている荒崎。

○ 市道
  猛スピードで走るグレンサー500。
  その後を追うB―COA。
  グレンサー500のトランク部の格納庫が競り上がる。2つの発射口からミサイルが同時に発射される。

○ B―COA車内
  フロントガラス越しに2つのミサイルが迫ってくるのが見える。
  北、パネルの「SHOCK ABSORPTION SHIELD」のボタンを押す。
 
○ B―COAの先端部の車体の下から、シールドが競り上がり出てくる
  シールドは、車の前面を覆い、3mの高さまで一瞬にして伸びる。
  シールドにミサイルが当たる。大きな音と共に爆炎が上がるが、B―COAのボディは、微動だにしない。
  そのまま走行を続けるB―COA。

○ グレンサー500車内
  コンソールのモニターを見つめ、繭を顰める未月。
未月「あんな小細工して…卑怯ね」

○ 急ブレーキをかけ、180度ターンするグレンサー500
  後輪をスピンさせながら、急発進する。
  先端から紫色のレーザーが発射される。
  B―COA、間一髪のところで右に逸れ、レーザーを避ける。

○ B―COA車内
ジェノン「あのレーザーを受ければ、致命的なダメージを受ける。絶対当たらないで」
北「わかってる!」

○ B―COAに向かって突進して行くグレンサー500
  先端からレーザーが発射される。
  レーザーは、シールドの上部に当たる。しかし、当たった部分からみるみる穴が空き始める。
  猛スピードで擦れ違うB―COAとグレンサー500。

○ B―COA車内
  真坂、シールドに開いた穴を見つめ、
真坂「やばい、穴空いたぞ、穴」
北「シールドでもレーザーに耐えられない」
ジェノン「レーザーの発射口を破壊するのよ」
真坂「そうだよ、もっと早く気づけよ」
北「飛び道具は、限られてるんだ。あのじゃじゃ馬のレーザー装置をうまく破壊する自信があるなら、
 やってみろよ」
ジェノン「BONDING MISSILEが一発だけ残っているわ」
北「それで、発射口を塞げって言うのか?」

○ 180度スピンターンするグレンサー500
  タイヤを唸らせながら、また、スピードを上げて走り始める。
  同じく、B―COAも180度ターン。突進してくるグレンサー500に向かって走り出す。

○ B―COA車内
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスに透明のスクリーンが投影される。
  方眼軸が浮かび上がり、照準を示す十字の点滅が表示される。
  北、モニターに映るメニュー画面の「BONDING POD」のボタンを押す。

○ B―COAの右側のリアフェンダーの格納庫が開く
  青いミサイルの先端が見えている。

○ B―COA車内
  ハンドルから赤い光線が飛び出し、北の左眼に当たる。
  北、左眼でフロントガラスに映る照準を合わせている。
  真坂、北の様子を見つめ、息を飲む。
  フロンガラス越しに猛スピードで近づいてくるグレンサー500が見える。
  照準がグレンサー500のレーザーの発射口を捉える。
ジェノン「今よ」
  ウインクする北。

○ ミサイルが発射する
  ミサイルは、一直線にグレンサー500の車体の前部に向かう。やがて、命中。
  グレンサー500のボンネットにドロドロした粘液がこびりついている。

○ グレンサー500車内
  必死にハンドルのボタンを押している未月。しかし、レーザーは、発射されない。

○ B―COA、右に逸れ、グレンサー500を避ける
  グレンサー500の左側リアフェンダーの格納庫からレーザーが発射される。
  レーザーは、B―COAの後部に命中する。

○ B―COA車内
  警告アラームが鳴り響く。
真坂「後ろにもつけてやがるなんて、クソ!」
  左上のモニターに『TANK ABNORMALITY』のコードが表示される。
ジェノン「今のダメージで燃料タンクが欠損したわ。後30秒ほどで燃料が切れる」

○ B―COAのボディ後部の下から白い煙が吹き上がっている
  グレンサー500の動きが止まる。
  前輪のタイヤにも粘液が広がって固まり、
  タイヤが動かなくなっている。

○ グレンサー500車内
  コンソールのモニターを見つめる未月。
  モニターに白い煙を噴き上げているB―COAの後ろ姿が映し出されている。
未月「終わった。私の勝ちよ」
  未月、ハンドルのボタンに指をかける。

○ B―COA車内
  エンジンが停止し、立ち止まる。
真坂「こんな負け方ってありかよ?」
北「まだ手はある」
ジェノン「エネルギー出力を電力走行に切り替えるわ」
  モニターに『JWA HYGIENE ACCESS』の文字が表示される。
ジェノン「JWA専用衛生のソーラーパネルにアクセスした」
北「起動までの時間は?」
ジェノン「後5秒…」
  モニターに『CHARGE』の文字とレベルメーターが表示される。メーターがみるみる横に伸びて行く。
  暫くして、エンジンがかかる。
  北、アクセルを踏み込む。

○ 華麗にスピンターンするB―COA
  猛スピードでグレンサー500に突き進んで行く。
  グレンサー500のリアフェンダーの格納庫からレーザーが発射される。
  B―COA、素早く右に逸れレーザーをかわす。
  そのまま、グレンサー500の前に回り込み、立ち止まる。
  車から降りる北と真坂。二人、銃を構え、運転席の前に近づいて行く。
  未月、正面を向いたまま、車から降りようとしない。
  車の前に近づく二人。
北「ドアを開けろ」
  未月、膨れっ面を浮かべながら、ドアを開ける。
  未月、二人を睨み付ける。真坂、銃を下ろし、手錠をかける。
  B―COAのスピーカーからジェノンの声が聞こえる。
ジェノンの声「緊急連絡が入った。荒崎の乗った護送車が襲撃されて、荒崎が脱走した」
  唖然とする二人。

○ 市道
  パトランプを唸らせながら、疾走するB―COA。

○ 埠頭
  白いクルーザーに乗り込む荒崎と青いスーツを着た三人の男達。
  サイレンを唸らせながら猛スピードで走ってくるB―COA。
  荒崎のクルーザーが発進する。
  
○ B―COA車内
  クルーザーを見つめる真坂。
真坂「いたぞ!」
  北、ドアの窓越しに見える荒崎のクルーザーを見つめる。

○ 荒崎のクルーザーと並んで海辺りの道を走行するB―COA。
  やがて道が途絶える。
  急ブレーキをかけ、岸壁際に止まるB―COA。
  荒崎のクルーザー、沖に向かって進んで行く。

○ B―COA車内
真坂「ワイヤーで引き止めろ!」
北「無理だ、距離が足りない」
真坂「やってみなきゃわかんねぇよ」
  真坂、ハンドルの左そばに設置されたシステムボードの『WIRE』ボタンを押す。

○ B―COA前バンパーのフレームが開く
  格納庫からフックのついた太いワイヤーが猛列な勢いで海に向かって飛び出す。
  クルーザーの後尾にフックが突き刺さる。
  ワイヤーがピンと伸び始める。

○ B―COA車内
真坂「見ろ!やったじゃねぇか」
北「…」

○ B―COA車体内のウインチが作動する
  静かなモーター音を鳴らしながらがゆっくりとワイヤーを巻いている。

○ クルーザー・デッキ
  荒崎。チェインソーを持っている。チェインソーを作動させ、後尾に向かい、ワイヤーを切り落とす。
  B―COAを見つめ、ほくそ笑む。

○ B―COA車内
  呆然とする二人。車から降りる。

○ 岸壁
  車から降り、クルーザーを睨み付ける真坂と北。
  クルーザー、地平線に沈む夕陽に向かって突き進んでいる。
  真坂、ホルダーから銃を抜き出し、クルーザーに向けて、引き金を引き続ける。
北「…真坂」
  真坂、まだ撃ち続けている。
北「無駄な事するな」
  真坂、撃つのを止め、
真坂「暫く使えなくなるんだ。最後まで撃たせろよ!」
  また引き金を引き始める真坂。
  弾切れになってもまだ引き続けている。空しく響く撃鉄の音。

○ 地平線に向かって進むクルーザー
  デッキの上に立っている荒崎。
  キャビンの中から黒いドレスを着た女が現れる。
  荒崎の横に立つ女。
  女の顔を見つめる荒崎。
荒崎「気分は、どうだ?」
  荒崎を見つめる女。女は、加奈見亮子(26)。
亮子「あそこよりは、いい」
荒崎「ここなら、自殺者の心配をしなくても大丈夫だ」
亮子「…どこに行くの?」
荒崎「…君の能力である人物を探して欲しい」
亮子「誰?」
荒崎「TENAの首謀者だ」
亮子「…」

○ 倉庫地下・JWA本部・・OP室
  入口のドアが開く。二人の男の捜査員に両腕を押さえられた未月が入ってくる。
  オペレートシステムの前に座るディジア、立ち上がり、未月の前に歩いて行く。
  対峙するディジアと未月。
  未月、ディジアの顔を見つめ、驚愕する。
未月「…美和?」
ディジア「どうして、私の名前を知ってるの?」
未月「高校の時、聞かされたの。双子の妹がいたって…」
  未月、ディジアから目を背ける。
未月「あんたを見てると、昔の自分を見ているみたいで吐き気がしてきた…」
ディジア「こんなところで会いたくなかった…」
未月「いいじゃない。私に勝てたんだから…」
ディジア「勝ち負けの問題じゃない」
未月「勝たなければ、自分も未来を変えられない」
  寡黙に未月を見つめるディジア。
ディジア「もういい、取調室に連れてって」
  捜査員の男達、未月を連れ、入口に向かって歩き出す。
  入口のドアが開き、現れる椎名。
  ディジア達、一斉に椎名を見つめる。
  未月と擦れ違う椎名。未月、自信に満ちた表情で椎名を見ている。
  ディジア達の前にやってくる椎名。
ディジア「ご無事で良かったです」
椎名「君が指揮をとってくれたのか?」
ディジア「いいえ…副総監です…然るべき処分は、受けます」
椎名「それについては、後でじっくり事情を聞こう。稲津の取調べは、私がやる」
  椎名、振り返る。椎名の背後に立っている光蔵。
光蔵「よく戻ってきたな」
  唖然としている椎名。
椎名「なぜ?…」
  憮然とする光蔵。
光蔵「私が副総監なのが不服なのか?」
椎名「…いいえ」

○ 同・ガレージ
  止まっているB―COA。
  運転席に北が乗っている。
ジェノンの声「ジェノンの音声回路の修理は、いつ始めるの?」

○ B―COA車内
  コンソールのモニターに映るポニーテールの女のCG。
北「明日の朝だ。もうすぐ総監もここに来る」
  北、寂しげな表情を浮かべる。
ジェノン「じゃあ、総監に言って。B―COAから私のデータを外すように…」
  唖然とする北。
ジェノン「これ以上私がアシストについても、あなたを困らせるだけ」
北「…」
ジェノン「私がいたら、命を落としかねない。生きて欲しいの。私の分まで」
北「君も生きてるだろ」
ジェノン「…」
北「アシストよろしく…これからも」
ジェノン「…一真」
  北、モニターに映るCGを優しく撫でる。

○ ヨットハーバー(夜)
  無惨に焼け焦げた真坂のクルーザー。その前に立つ真坂、葉菜美、茂が立っている。
  呆然と佇む真坂。
真坂「今日からホームレスか…」
茂「あ〜あ」
葉菜美「…」
  真坂、葉菜美を見つめ、
真坂「明後日から入院するんだ、俺…」
  唖然とする葉菜美。
葉菜美「どこか悪いの?」
真坂「大した事ない。すぐに終わる」
葉菜美「茂君は?」
真坂「前の嫁さんに任せる」
  葉菜美、呆然と俯く。
真坂「子供…ちゃんと産めよ」
  真坂を見つめる葉菜美。
葉菜美「でも…」
真坂「退院したら、安いアパート探すの手伝ってくれ」
  葉菜美、複雑な表情。
  真坂、茂と手を繋ぎ、クルーザーに背を向け歩き出す。
  真坂の後を追う葉菜美。並んで歩き出す三人。
葉菜美「ねぇ…前からずっと気になってた事があるんだけど…」
真坂「えっ?」
葉菜美「カズの…最初の奥さんの事…」
真坂「前にも言ったろ?病気で死んだんだよ」
葉菜美「何の病気だったの?」
真坂「肝炎。気づいた時は、もう手遅れだった」
葉菜美「…」
真坂「俺は、大丈夫だから」

○ 葵港・第3臨海埠頭(翌日・朝)
  汽笛を鳴らしながら航行していくフェリーの向こうに隠れていた朝陽が顔を出す。
  岸壁に立つ北。目を細め海を見つめている。
  北のそばに立つ真坂。
北「明日から入院か」
真坂「今日が一応最後の出勤ってわけ」
北「最後?随分弱気だな。忘れたのかTENAのこと」
真坂「忘れるか。でも入院なんて初めての経験だからな。ブルーにもなる」
  真坂、ポケットから煙草を取り出す。しかし、躊躇い、またしまう。
真坂「シェンズの事、なぜ俺に隠してた?」
北「言う暇がなかっただけだ」
真坂「どんな気分だ?」
北「…もう慣れた」
真坂「一度一緒に飯でも食いに行きたかったよな。酒は、飲んでたのか?」
北「あいつは、飲めない。俺もな」
真坂「俺ももう飲めなくなるかも…」
  北、真坂を見つめ、
北「らしくないぞ…早く治せ」
  北、太陽に背を向け、歩き出す。
  真坂、北の背中を見つめる。
真坂「稲津も未月もTENAの首謀者じゃなかった。あー、ホントきりがねぇな。一体いつになったら
 辿りつけるんだ?」
  立ち止まる北。振り向かず声を出す。
北「見つけ出すしかないだろ?俺達が生きてるうちに…」
  北、そのまま歩き去って行く。
  優しい笑みを浮かべる真坂。

                                                 ―THE END―

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