『メトロジェノン』 TENA CODE011 「ネガティブスパイラル」 BY ガース『ガースのお部屋』

○ デイルタンク生産工場(夜)
  対峙する荒崎伸也(45)と天木未月(29)。
未月「大谷は、先週、警察に逮捕されたはずだけど…」
荒崎「今、私のところにいる。ある組織と取り引きをした」
未月「組織?」
荒崎「先々あなた達にも目障りな存在になるはず」
  大笑いする未月。
未月「あんな府抜けた連中が私達を捕まえられると思う?」
荒崎「知っているんですか?奴らの事を」
未月「政府が対外政策情報機関を作ったっていう噂は、聞いたことがあるわ。
 でも所詮、クズ同然の組織でしょ?」
  不敵な笑みを浮かべる荒崎。
  荒崎の背後にマシンガンを持った二人の男がやってくる。
  振り返る荒崎。
  失笑する未月。
荒崎「わざわざお出迎えご苦労様…」
  未月を見つめ、ほくそ笑む荒崎。
未月「いい加減名乗ったらどうなの?」
荒崎「荒崎です…」
  表情を一変させる未月。

○ 倉庫地下・JWA本部・制御室
  暗闇。扉が開く。谷田とディジアが中に入ってくる。
  外光が室内を照らし出す。
  天井にいくつものパイプが張りめぐる。辺りにたくさんの制御盤が設置されている。
  ドアのそばのスイッチを押すディジア。
  電灯が点く。
  谷田の左腰に銃口を突き立てているディジア。歩き出す二人。
谷田「なぜ、無断で衛星通信チャンネルを使用したんですか?」
ディジア「…」
谷田「相手は、時本でしょ?何のために監視していたんですか?」
ディジア「あの人を死なせるわけにはいかない」
  谷田、パイプの前に座らされる。ディジア、ロープで谷田の体を縛り付け始める。
谷田「こんなことするなんて…ずっと尊敬してたのに…」
  ディジア、ロープを結び終わると、ポケットから小型の黒い爆弾装置を取り出す。
  谷田の頭上を通るパイプに爆弾をセットする。
  タイマーをセットするディジア。
谷田「僕を殺したら二度とここには、戻れなくなりますよ」
  ディジア、谷田を見つめ、
ディジア「私の事より、自分の事を考えなさい」
  ディジア、谷田の口にガムテープを貼り付ける。

○ 病院・ロビー
  治療室から出てくる真坂 和久(29)。
  右腕を包帯で釣っている。
  不貞腐れた表情でとぼとぼと歩いている。

○ 同・玄関前
  扉の際の壁の前に立つ北 一真(29)。
  携帯で話をしている。
北「…データベースにも記録が残ってないのか?」
オペレーターの男の声「そのような映像が登録された履歴は、残っていません」
北「ディジアは?」
オペレーターの男の声「今、外出中です」
  自動扉が開き、真坂が出てくる。
  北、真坂に気づき、
北「後でまたかける」
  携帯を切る北。
北「おい」
  立ち止まり、北を見つめる真坂。溜息をつく真坂。
真坂「おまえか」
北「怪我の具合は?」
真坂「軽い貧血。お前が派手な運転するから、腕からの出血がひどくなっちまった」
北「これ以上、おまえと組んでると、後々面倒な事になりそうだ。総監に言って、パートナーを代えてもらう」
真坂「ちょっと足手まといになったぐらいで、もう邪魔者扱いかよ」
北「怪我の事だけじゃない。病気のこともあるんだ」
真坂「明日死ぬような病気じゃねぇよ。どうせ死ぬなら、現場がいい…」
北「それがはた迷惑だって言ってんだよ」
  真坂のそばを離れ、歩き出す北。
  駐車場に止まっているB―COAの前に行く。
真坂「わかった。治療に専念すりゃあいいんだろ?」
  立ち止まる北。振り返り、真坂を見つめる。
真坂「入院してる間に何が起こっても、俺に泣きついてくんなよ」
  北、呆気に取られ、車のドアを開ける。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの座席につく椎名。
  ファイルを開き、リストを見つめているが、落ち着かない様子。
  椎名、ファイルを閉じ、受話器を上げ、ナンバーを押す。
椎名「もしもし、私だ。ディジアは?」
男の声「今、外出中です」
椎名「こっちは何も聞いてないぞ」
男の声「独自で調べたい事があると言って出て行きました」
椎名「谷田は?」
男の声「ディジアさんと一緒に出かけたみたいです」
  怪訝な表情を浮かべる椎名。
椎名「わかった」
  受話器を置く椎名。
  暫くして、電話が鳴る。すぐに受話器を上げる椎名。
椎名「はい」
女の声「防衛庁の稲津さんが来られています」
椎名「通してくれ」
  受話器を置く椎名。
  入口の扉が開き、中に入ってくる防衛庁情報システム開発推進部長・稲津正兵(46)。
  立ち上がる椎名。
稲津「実は、早急に御知らせしたい事があってやってきました」
  椎名、稲津をソファに案内する。ソファに対峙して座る二人。
椎名「B―COAの事ですか?」
稲津「前に大量生産プランの件でその後の経過を報告しに来ました」
椎名「ドライバーの養成プログラムの骨子はまとまったんですか?」
稲津「あの車を単なる警備活動としてだけではなく、凶悪化を強めるTENAに対向するため、
 我が国の最先端防衛戦力車両としてさらに改良を進めたいと言うTRDIからの提案が出てきまして…」
椎名「つまり…B―COAに兵器を装備するということですか?」
稲津「簡単に言いますと、そう言う事です…」
  険しい表情の椎名。
椎名「私は、反対です…」
  稲津、しかめ面をする。
椎名「そもそもあの車の開発の目的は、TENAを攻撃するためのものではなく、彼らの犯罪を抑制するために
 作られたものです。武装化して、やつらに余計な刺激を与えては、意味がありません」
稲津「しかし、TENAの工作活動は、活発になる一方です。名のある大手企業の大半に奴らの
 スパイが紛れ込んでいると言う報告も出ている。武装化する事は、必然だと思います。
 今手を打たなければ、手遅れになるかもしれない」
椎名「そのために我々が組織されたんです。あの車が増えたところで、根本的な解決にはならないの
 ではないでしょうか」
稲津「そんなことはありません。長官は、B―COAの大量生産プランに大変期待されています。
 TENA壊滅の大きな原動力になると考えておられるからです」
椎名「…」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  扉が開く。中に入ってくる北。
  辺りを見回している。そばを通りがかったオペレーター員の男を呼び止める。
北「ディジアは?」
オペレーター員「外出中です」
北「どこに行った?」
オペレーター員「それが、何も知らされていないんです…」
北「外出先の記録を書き込んでいないのか?」
オペレーター員「その管理は、ディジアさんの仕事なので…」
北「すぐに調べろ」
オペレーター員「わかりました」
  そそくさとオペレーターシステムのほうに戻る男。

○ クルーザー・デッキ
  中に入ってくる真坂。
  ベッドの上に座り、遊んでいる真坂茂(5)。
真坂「お母さんは?」
茂「買い物に行ってる」
真坂「また戻ってくるって言ってたか?」
茂「うん」
  真坂、茂の隣に座り、
真坂「お父さん、ちょっと病院に入院しなきゃならなくなってさ」
茂「入院?」
真坂「大した事ないんだけどさ…悪いところ治さなきゃならないんだ」
茂「ふーん」
真坂「おまえ、またあの施設に行くか?それとも…」
  階段を下りる音がする。浅田恵美(34)が二人の前にやってくる。左手にコンビニの袋をぶら下げている。
  恵美を見つめる真坂。
恵美「…病気って、何の?」
真坂「…聞こえたか…大した事ないんだけどさ」
恵美「ちゃんと言って」
真坂「…肝炎だよ。肝炎。一ヶ月間入院して治療を受ける事にした」
恵美「一ヶ月も?」
真坂「ああ…」
恵美「どうするの?この子…」
  茂、指を銜えている。
  溜息をつく真坂。
茂「お母さんのところ行く…」
  唖然とする真坂。恵美、呆然としている。
真坂「マジで言ってるのか?」
茂「マジ」
  動揺する真坂。
真坂「まさか…ここが嫌になったわけじゃないよな?」
茂「…」
真坂「えっ…なんでそこで黙るんだよ?」
恵美「帰るわ」
真坂「…」
恵美「力になれるようなことがあればなんでもするから」
  恵美、茂にコンビニの袋を渡す。
恵美「この中におにぎり入ってるから好きなの取りなさい」
  茂、袋の中を漁っている。
  立ち去る恵美。
真坂「おい」
  立ち止まり、真坂を見つめる恵美。
真坂「俺が入院してる間だけな…」
  恵美、神妙な面持ち。

○ デイルタンク生産工場内・作業室(深夜)
  部屋の中央に止まる赤と紫色のツートンカラーのスポーツカー『グレンサー500』。
  運転席に乗り込み、アクセルを踏み込む須賀邦夫(42)。白い作業着を着ている。エンジンを吹かせ、
  耳を澄まして音を聞いている。
  須賀のそばにやってくる未月。
未月「どう?」
  須賀、未月に気づき、表情を強張らせる。
須賀「エンジンに改良を加えて、500馬力を出せるようにしました。燃料もメタンハイグレードに変更しました」
  須賀、車から降り、未月と交代する。運転席のシートに座る未月。アクセルを踏み込んでいる。
未月「思ってたよりも静かね…」
  ハンドル周りに設置されているパネルを見回す未月。
未月「私が注文したもの…全部つけてくれたの?」
須賀「レーザーのパワーレベル調整機が間に合わなかったので、到着次第取り付けます」
  未月、不気味に笑みを浮かべ、
未月「娘さんと別れてから結構経つわね」
須賀「ちょうど一ヶ月ぐらいになります…」
未月「何なら連れてきてあげるけど…」
須賀「余計な手出しはしないでください」
未月「無理しないでいいのに…」
  須賀、無言で開いた車のボンネットの前に立ち、エンジンを見つめる。

○ 同・生産ライン
  大型機械が大きな音を立てて稼働している。
  ベルトコンベアの前に立っている荒崎。
  流れてくるロボットのパーツを見つめている。
  荒崎の背後から部下を引き連れてやってくる未月。
  未月と対峙する荒崎。
未月「DNAチップは、どこにあるの?」
荒崎「まだ、バビデディットの内容を聞いていませんが?」
未月「渡してくれたら、お話しするわ」
荒崎「チップは、大谷が持ってる」
未月「じゃあ、大谷を連れてきて」
荒崎「社長は…どこにいるんです?」
未月「はぁ?」
荒崎「沙島さんですよ。あなたの会社の」
未月「海外に出張中よ」
荒崎「私が掴んだ情報では、国内にいると聞いています。それとももう土の中ですか?」
  失笑する未月。
荒崎「大谷が言ってましたよ。沙島は、近いうちに消されると。あなたにね」
未月「…」
荒崎「時本の方ももう用済みですか?」
未月「うちの会社にスパイでもいるのかしら。何でそんなに詳しいの?」
荒崎「まだまだ利用価値があったのに…」
未月「もういいのよ。あの人は、十分うちの会社に貢献してくれたわ」
荒崎「サーバーソサエティを自分の物にして、計画も順調に進んでいたのに奴らが
 嗅ぎつけてしまった…惜しいですね」
未月「つまんない事故を起こした立村にもむかつくけど…あんたも、今までさんざん私達の計画を
 潰しておいてよく言うわね」
荒崎「今度の計画の邪魔をするつもりはありません。私の力を利用すれば、もっとスムーズに事が運ぶ」
  怪訝に荒崎を見つめる未月。
未月「プランを聞かせて」
荒崎「…では、まずこの工場を閉鎖しましょう。明日の昼までに中のものを全て撤収してください」
  失笑する未月。
未月「ここを立ち上げるのに、どれだけ時間をかけたか知ってるの?」
荒崎「ここもいずれ嗅ぎ付けられます。ならば国外に拠点を移して、生産を進めるべきだと思いませんか?」
未月「諸費用は、当然全てあなた持ちなんでしょうね?」
荒崎「構いません。但し、これからの行動は、私の指示に従って頂く」
未月「ハイリスクね…」
  ほくそ笑む荒崎。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  オペレータシステムの操作盤の前に座る男の後ろに立っている北。
  モニターに外出記録のリストが映し出されている。ディジアの項目は、空白になっている。
男「おかしいですね…いつもならちゃんと入力して出ていくはずなのに…」
  怪訝な表情を浮かべる北。
  総監オフィスの部屋の扉が開く。中から稲津が出てくる。
  北、振り返り、稲津を見つめる。
  稲津、部屋を出て行く。暫くして、総監オフィスから椎名が出てくる。
  北を見つめる椎名。椎名の前に近づいて行く北。
北「ジェノンの通信システムが故障してしまって…遅れましたが色々とご報告したい事があります」
椎名「その前にディジアの居所を調べて欲しい」
北「さっき外出管理リストを調べたんですが、記録がありません」
椎名「実は、2時間程前にここで見かけたんだ。谷田と一緒に出て行くところをな」
北「時本の事なんですが…」
椎名「時本?奴を見つけたのか?」
北「…ええ。ディジアに総監に報告するよう頼んだんですが…」
椎名「いや、何も聞いてないぞ」
北「実は、サーバーソサエティで天木未月と撃ち合いになり、その時、時本が人質になってしまって…」
椎名「それで、時本は?」
北「天木に撃たれて…おそらく死んだと思います。今、うちの鑑識班に調べさせています」
椎名「立村と関係を持っていたのは、天木未月で間違いないと言う事だな」
北「はい」
  北と椎名、オペレーターの男の後ろに行く。
北「時本関連の調査資料のリストを出してくれ」
  男、キーボードを打ち始める。
  モニターに『FILE NOT FOUND』の文字が映し出される。
  唖然とする北と椎名。
椎名「もう一度だ」
  キーボードを打つ男。
  同じく『FILE NOT FOUND』の文字が表示される。
  愕然とする二人。
北「全ての資料が削除されてる…」
椎名「バックアップも駄目か?」
  キーボードを打つ男。
男「残念ながら、そっちも全て削除されています」
北「ディジアが時本関連の全ての情報を…」
椎名「早急に二人の行方を探し出せ」
北「わかりました」
  入口に向かって駆け出す北。

○ とある地下駐車場
  ヘッドライトを光らせた白いセダンがスロープを下りてくる。
  ずらっと横に並ぶ駐車車両の間を進んでいるセダン。
  ある駐車スペースに立ち止まる。
  車の運転席から降りる女。ディジアである。サングラスをつけている。
  辺りを見回すディジア。
  後ろに止まっている黒いセンチュリーのほうへ近づいて行く。
  センチュリーの左後部席のドアの前に立つディジア。
  ドアの窓が開く。
  後部席のシートにタバコを燻らす時本 浩一郎(52)が座っている。
  時本、ディジアにスーツケースを手渡す。
ディジア「あなたに関する資料は、もう存在しないわ。これで、監視されるような事もない」
時本「政治活動には、未練があるが、わけのわからん連中に命を狙われているとなると…暫くオーストラリアの
 別荘にでも引きこもるか」
ディジア「それが賢明よ。あの国は、まだTENAの影響力は、薄いわ」
時本「君は、どうするんだ?もう元の場所には、戻れないだろ」
ディジア「戻る気はない。だけど、まだやる事が残ってる」
時本「本来なら、私の手で何とかすべきだったんだが…」
ディジア「後は、私に任せて」
  頷く時本。ドアの窓を閉める。
  エンジン音を高鳴らせ、発進するセンチュリー。
  ディジアのそばから走り去って行く。

○ 倉庫地下・JWA本部・通路
  数十人の捜査員が列を作り歩いている。
  立ち止まり、数人がチームを組んで、それぞれ別方向の通路へ散らばる。

○ 資料室前・通路
  北、黒のベレッタM92Fを両手で握りながら、ドアのそばに立ち止まる。
  一息つくと、足でドアを強く蹴る。

○ 同・中
  銃を構えながら部屋に突入する北。
  人の気配は、ない。

○ 同・OP室
  操作盤に設置されているマイクスタンドの前に立つ椎名。
  スピーカーから男の声が聞こえる。
男の声「取調室…異常ありません」
椎名「資料室は?」
  北の声が聞こえる。
北の声「…異常ありません」
  憮然とする椎名。
女の声「制御室です。谷田さんを発見しました」

○ 同・通路
  歩いている北。立ち止まる。
  耳に入れているイヤホンの声に聞き入っている。
椎名「状況を説明してくれ」
女の声「谷田さんは、パイプに縛られています…ちょっと待ってください…パイプに爆弾がセットされています…」
  走り出す北。

○ 同・制御室
  谷田の前に数人の捜査員が集まっている。
  暫くして、北がやってくる。谷田の前でしゃがみこむ北。
  パイプに設置されている爆弾の前に立っている女。
  女と目を合わす北。
北「どうだ?」
女「タイマーを解除しました。信管は、抜いてあります」
  俯く谷田。北、谷田のロープを解き、口のテープを剥がす。
北「ディジアは、どこに行った?」
谷田「わかりません…彼女は、うちの専用衛生を使って、時本を監視していました。資料室の端末を使って
 回線のチャンネルを開いていたんです…『時本を死なせるわけにはいかない』と言っていました」
北「でも、時本は、死んだ」
  唖然とする谷田。
  北のつけているイヤホンから椎名の声が聞こえる。
椎名の声「北、すぐに司令室に戻れ」
  ピンマイクに話し出す北。
北「ディジアが見つかったんですか?」
椎名の声「時本の鑑識結果が出た。死んだ時本は、別人だ」
  北、立ち上がり、入口に向かって走り出す。

○ ヨットハーバー(翌日・朝)
  鴎の鳴き声が聞こえる。

○ 真坂のクルーザー内
  ベッドで眠る真坂。その隣で茂も眠っている。
  真坂の手元に置いてある携帯が鳴り出す。
  真坂、眠い目を擦りながら、携帯に出る。
真坂「はい…」
  相手は、三原 葉菜美(20)である。
葉菜美「私…ちょっと話したいことがあるんだけど、今からそっちに言っていいかな?」
  慌てて、起き上がる真坂。
真坂「体のほうは、大丈夫なのかよ」

○ 三原家・邸宅・葉菜美の部屋
  豪華なシャンデリアがぶら下がり、高級な骨董品が棚に並んでいる。
  葉菜美、ベッドの上に座り携帯で話している。
葉菜美「心配ない。ちょっと会うだけなら平気」
真坂の声「じゃあ、待ってる」
  電話が切れる。
  葉菜美、空ろな表情で俯いている。

○ 同・玄関
  門が自動的に開く。
  シルバーのBMWが表に出てくる。
  運転しているのは、葉菜美である。
  自宅の前の道を走り出すBMW。
  反対車線の脇道に泊まっている青いRV車。Uターンし、BMWの後を追い始める。

○ 真坂のクルーザー内
  ベッドでうとうととしている真坂。
  テレビを見ている茂を見つめ、ハッと起き上がる。
真坂「レンタルの袋…やべぇ、B―COAに置いたままだ…」
  立ち上がり、服を着始める真坂。

○ とある公園
  滑り台や砂場で遊ぶ子供達。
  直立歩行するロボットが砂場に近づいて行く。
  女の子、ロボットに気づく。嬉しそうな顔でロボットの前に近寄る。

○ ショッピングセンター前・遊歩道
  数台のロボットが歩いている。
  歩いている客達が足を止め、不思議そうにロボットを見つめている。

○ 電気街
  道路を歩くたくさんの人々。
  人込みに紛れて歩いている数台のロボット。
  一台のロボットがそばを歩いていた男に蹴り倒される。仰向けで倒れるロボット。赤い目から光線を出す。

○ 倉庫地下・JWA本部・通路
  ゲートの前にいる警備員に手を振る真坂。
  通路を歩き出す。辺りに人はおらず、閑散としている。
  怪訝な表情を浮かべる真坂。

○ 同・ガレージ
  入口に立つ真坂。B―COAは、止まっておらず、がらんとしている。

○ 同・OP室
  自動ドアが開き、真坂が中に入ってくる。
  辺りを見回す真坂。
  オペレーター員が二人座っている。

○ 同・総監室
  受話器を握っている椎名。
  入口から真坂が入ってくる。
  椎名、真坂に気づき、受話器を置く。
椎名「真坂…」
真坂「皆、どこに行ったんですか?」
椎名「それより、体の方は、どうだ?」
真坂「実は、その報告をしに来たんです。一ヶ月ほど入院治療のため、休暇をもらいたいんですけど…」
椎名「君の病状には、早急な処置が必要だと聞いている。休暇申請を出してくれ」
  真坂、悔しげに唇をかみ締め、
真坂「本意じゃありません。捜査に関わりたいんです…」
椎名「焦るな。お前の治療が済んでも、TENAは、消える事はない」
  電話が鳴り響く。受話器を上げる椎名。
椎名「私だ…また、見つかったのか?場所は?…新宿、池袋、渋谷…全部で15だな。わ かった」
  受話器を置く椎名。
真坂「何かあったんですか?」
椎名「…何も知らないほうが良い。早く治療して、また現場に戻ってきてくれ」
  真坂、一礼し、その場を立ち去る。

○ 同・通路
  憮然としながら歩いている真坂。
  向こう側から谷田が歩いてくる。
  谷田、真坂に気づき、
谷田「真坂さん…」
  そそくさと谷田に近づいて行く真坂。
真坂「ちょうど良かった。北は、どこ行った?」
谷田「今、ディジアの行方を探してるんです」
真坂「どう言う事だ?」
谷田「あの人…時本関連の情報を根こそぎ削除してここを出て行ったんです」
真坂「時本?あいつ、サーバーソサエティの秘書の女に撃たれたけど、あの後どうなった?」
谷田「時本は、生きています。死んだのは、時本によく似た別人だったんです」
真坂「サーバーソサエティと時本の関係については、何かわかったのか?」
谷田「時本は、あの会社の設立時に資金面での援助を果たしています。天木未月と一時期関係を
 持っていたそうで、経営面でもかなり幅を利かせていたみたいです」
真坂「時本の影響力を排除するために、天木が時本の命を狙っているって事か…」
谷田「気になるのは、時本の代役を立てたのは、一体誰なのかと言うことです」
真坂「…ディジアの身辺調査は、済んだのか?」
谷田「さっき、情報を収集し終えて、今から総監に報告しに行くところなんですけど…」
  真坂、不敵な笑みを浮かべる。
  谷田、真坂から目線を反らし、俯いている。

○ 真坂のクルーザー内
  中に入ってくる葉菜美。
  ベッドの上にいる茂。玩具で遊んでいる。
葉菜美「おはよう!」
茂「あ、お姉ちゃん…」
葉菜美「お父さんは?」
茂「仕事に行った」
葉菜美「えっ?」
茂「レンタルのDVD取りに行くって言ってた。すぐ帰って来るって」
  葉菜美、なぜか安堵の面持ち。茂を見つめ、
葉菜美「朝ご飯食べた?」

○ 海岸沿い・国道
  走行しているB―COA。
北の声「ディジアの自宅を調べましたが、何の手掛かりも見つかりませんでした」

○ B―COA車内
  コンソールの4つのモニターの左上の画面に椎名が映っている。
椎名の声「コードネーム・ディジア=本名・松宮美和27歳。彼女の両親は、15年前に離婚し、
 同居していた母親は、去年病気で亡くなっている。親戚、交友関係の資料を調査中だが、
 一つだけ引っかかった事がある」
北「何です?」
椎名の声「一緒に暮らしていた母親は、実は、彼女の本当の母親じゃない」
北「本当の母親は、今も生きているんですか?」
椎名の声「目黒区のアパートに住んでいたらしいが、実母も同じく去年亡くなっている。
 今からそっちにデータを転送する」
  北、ブレーキを踏み込む。

○ 180度ターンするB―COA
  反対車線に入り、逆方向へ走り始める。

○ B―COA車内
北「ロボットのほうは?」
椎名の声「都内7箇所、全部で15機発見された。ロボットには、前と同じく、レーザー装置が組み込まれていた。
 今のところ被害者は、出ていないみたいだが、まだ拡大しそうな勢いだ。
 ロボットを所持していた男を一人だけ確保した。今、取調中だ」
北「奴ら、ロボットをばら撒いたりして、一体何をするつもりなんだ…」
椎名の声「サーバーソサエティに強制捜査をかけて、各所工場の生産ラインをストップさせた。だが、
 社長の沙島も秘書の天木も未だ行方不明のままだ」
北「沙島も姿を消しているんですか?」
椎名の声「沙島の海外出張は、嘘だ。3日前まで自宅にいたのを社員が確認しているが、それ以後、
 連絡が途絶えていた」
  険しい表情を浮かべる北。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  天井から降りていたプロジェクターが自動的に上に上がり、天井の中に収納される。
  電話が鳴り響く。受話器を掴む椎名。
椎名「はい」
OP員の声「荒崎と言う男から連絡が入っています」
  息を飲む椎名。
椎名「つないでくれ」
荒崎の声「お久しぶりです…」
椎名「大谷から情報を聞き出せたのか?」
荒崎の声「ええ…おかげさまで」

○ 倉庫街
  道路脇に止まるBMW。運転席に座る荒崎。携帯を握っている。
荒崎「おそらくこれが最後の連絡になると思います」
椎名の声「どう言う意味だ?」
荒崎「また面白い情報をお教えしますよ」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
荒崎の声「天木未月という女の事…ご存知ですか?」
椎名「…ああ」
荒崎の声「あの女、奥多摩の山の中にあるデイルタンクという名の工場で、今世間を騒がせている
 ロボットの生産をしています」
椎名「…そこに天木もいるのか?」
荒崎の声「彼女は、旅行の準備をするために六本木の自宅に3時頃に戻るはずです」
椎名「荒崎!」
荒崎の声「…」
椎名「これからどうするつもりだ?」
荒崎の声「いずれ、わかりますよ…」
  電話が切れる。
  椎名、神妙な面持ち。

○ アパート・2F部屋
  扉が開く。
  サングラスを外す女。女は、ディジアである。左肩にショルダーバックをかけている。
  ディジア、正面を見つめ、驚愕する。
  窓のそばに立ち、煙草を吸っている真坂。
  ディジアを見つめる真坂。
  ディジア、慌てて、部屋を出て行く。
真坂「おい、待てよ!」
  追いかける真坂。

○ 路上
  必死で駆けているディジア。
  真坂、どんどんディジアに追いついていく。ディジア、立ち止まり、バックの中から銃を出し、真坂に向ける。
  立ち止まる真坂。
真坂「(両手を上げ)俺、丸腰だぞ、丸腰…仲間を撃つのか?」
ディジア「もう仲間じゃない」
真坂「それ、もしかして、シェンズが使ってた銃じゃないか?あいつが生きてたら泣くぞ」
ディジア「…」
真坂「俺も今日から現場を離れる事になった」
ディジア「じゃあ、何であのアパートにいたの?」
真坂「谷田から聞き出した。北達もいずれここにやってくる」
  銃を下ろすディジア。
真坂「時本と釣るんで何やってんだよ」
ディジア「私は、JWAの内情を知り尽くしているわ。あそこを潰すことだって、簡単にできるのよ」
真坂「俺に「真実」を教えといて、自分は、そこからとんずらか?」
ディジア「…」
真坂「TENAのメンバーにでもなるつもりかよ?…」
ディジア「…ミンヨルを尾行した時…あいつが持っていたDVDの中身を確認した時よ」
真坂「…」
ディジア「その中の資料映像に映ってたのよ…」
  サイレンが鳴り響いてくる。
  真坂、ディジアの手を掴み、
ディジア「何?」
真坂「来い」
  真坂、ディジアを引き連れ、アパート前の狭い路地を走り出す。
  暫くして、パトランプを光らせたB―COAがやってくる。
  アパートの前に立ち止まるB―COA。
  運転席から北が降り、階段を上っている。

○ とあるカラオケ店・ルーム
  扉が開き、店員とその後に続いて真坂とディジアが入ってくる。
  シートに向かい合って座る真坂とディジア。
  テーブルにグラスを置く店員。
店員「お飲み物は、カウンター横の機械でお入れください」
  一礼し、部屋を出て行く店員。
真坂「なっ、絶好の隠れ場所だろ?」
ディジア「…何なの?ここ」
真坂「えっ?歌いに来たことないのかよ?」
ディジア「苦手だから…私…」
真坂「北達には、何も言わないからさ。喋っちまえよ、全部…」
ディジア「三日前、荒崎から連絡があったの。総監以外の担当者と重要な話があると言うから、私が出たの」
真坂「…」
ディジア「荒崎があの病院に時本がいる事を教えてくれた。TENAに命を狙われている事を知って
 荒崎が時本の代役を立てて、私は、密かに時本を別の場所に移動させたの」
真坂「なぜ荒崎に協力した?」
ディジア「時本は、TENAのメンバーじゃない。サーバーソサエティに力を貸しているのは、
 天木未月がいるからよ」
真坂「二人は、愛人関係なのか?」
ディジア「違う。天木は、時本の力を利用して、サーバーソサエティを世界のトップレベルの企業に
 推し進めようとしていた。私、二人の関係を調べているうち、ある情報を握ったの。時本が大学時代に
 起こした窃盗事件の事。時本が奪ったケースの中には、一億の現金の他に女性の写真が入っていたの」
真坂「写真って、誰が写ってたんだ?」
ディジア「天木未月の母親よ」
真坂「もしかして…親子?」
  頷くディジア。
ディジア「当時、時本は、窃盗の常習犯で、40件以上の窃盗を繰り返していたの。結婚して、
 母親が未月を生んだのをきっかけに足を洗うつもりだったんだけど、仲間に足をすくわれて、その競馬場の
 事件でついに捕まってしまったのよ。でも、その時、時本は、現金を盗むためにスーツケースを
 奪ったわけじゃないの」
真坂「その写真を取り戻すためか。ケースの中に入れたのは、時本の仲間だったって事か?」
ディジア「そう。時本は、スーツケースが競馬場にあると聞いて、取りに行かされたのよ。現金は、競馬場から
 盗まれた売上金だった」
真坂「何で俺達に黙って時本を監視していたんだ?」
ディジア「…それを話したら、真坂君きっと私を許さないと思う」
  神妙な面持ちの真坂。

○ アパート前
  駆け足で階段下りてくる北。
  B―COAに乗り込む。

○ B―COA車内
  運転席に座る北。
北「本部につないでくれ」
ジェノン「了解しました」
  スピーカーから椎名の声が聞こえる。
椎名の声「私だ」
北「ディジアの実母の部屋に行きましたが、何も見つかりませんでした」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの座席に座る椎名。受話器を握っている。
椎名「そうか…」
北の声「工場のほうは?」
椎名「今、うちの特殊選任チーム3名が現場に向かっている。まもなく報告があるはずだ」
北の声「こっちも向かいます」
椎名「いいや。君は、一度戻ってくれ。話しておきたい事がある」

○ B―COA車内
  神妙な面持ちの北。
北「わかりました…」
  通信が切れる。

○ デイルタンク生産工場前
  2台の覆面車が森の中から現れ、建物の前に止まる。
  2台の車のドアが一斉に開き、黒いスーツを着た特殊専任チームの男達が車から降りる。
  入り口のほうに向かって歩く3人。

○ 近くの森
  木の陰に隠れている須賀。
  工場の入口に近づいて行く3人の男の様子を見つめながら、足元に置いてあるスーツケースを開ける。
  ケースの中には、電子機器が詰まり、右下に赤いボタンがついている。
  3人が工場の中に入る。
  須賀、ボタンを押す。
  巨大な爆音と共に工場の入口と壁に並ぶ窓から炎が吹き上がる。
  大きな炎に包まれる工場。
  須賀、ケースを閉め、左手に持つと、そそくさとその場を立ち去る。

○ カラオケ店・ルーム
  神妙な面持ちの真坂。
  ディジア、困惑した面持ち。重い空気が漂う。
真坂「…仮にそうだとしてももう彼女は、TENAから抜け出せないんだぞ」
ディジア「13年よ。ずっと、探し続けたの。私がJWAに志願したのも、彼女の情報を探り出す事が
 一つの目的だった」
  テーブルを叩く真坂。
真坂「…クソ!なんでこうなるんだよ」
  携帯の着信音が鳴り響く。
  真坂、ジャケットのポケットから携帯を取り出す。

○ クルーザー・デッキ
  先端に立ち、携帯を耳にしている葉菜美。
葉菜美「私…」
真坂の声「おまえか…」
葉菜美「約束…」

○ カラオケ店・ルーム
真坂「わりぃ。もう少ししたら戻る」
葉菜美の声「話なんだけどさ…今ここで言ってもいいかな…」
真坂「何?」
葉菜美の声「お腹の子…カズの子じゃないの…」
  驚愕している真坂。

○ クルーザー・デッキ
真坂の声「…どういう事だよ?」
葉菜美「ごめん…」
真坂の声「ごめんじゃわかんねぇよ」
葉菜美「半年前さ…二週間ほど会えなかった時期があったでしょ?その頃ちょうど昔の彼氏から
 電話がかかってきてさ…」

○ カラオケ店・ルーム
真坂「…会ったのか?」
葉菜美の声「…近くのレストランで食事するだけのつもりだったんだけど…話が盛り上がっちゃって…」
真坂「…そいつ、今どこにいる?」
葉菜美の声「シカゴに帰っちゃった…」
真坂「ハーフか?」
葉菜美の声「アメリカ育ちの日本人…」

○ クルーザー・デッキ
真坂の声「彼氏は、知ってるのか?お前の妊娠…」
葉菜美「…知らない」
真坂の声「なんで言わないんだよ?」
葉菜美「だってあの人、彼女いるんだもん…それにつきあってからわかったんだけど、私のタイプじゃなかった」

○ カラオケ店・ルーム
真坂「じゃあ、何で子供生むんだよ?」
葉菜美の声「せっかく芽生えた命よ。始末なんてできなかった…」
  頭を抱える真坂。
葉菜美の声「ちょっとあんた何?…えっ…やめて!」
真坂「おい、どうした?」
  突然、電話が切れる。
ディジア「どうかしたの?」
真坂「おまえ、車は?」
ディジア「近くの駐車場に止めてあるけど…」
真坂「一緒に来てくれ」
  立ち上がる真坂。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの前に立つ北。
北「話しって何です?」
椎名「…B―COAのことだ」
北「…」
椎名「B―COAを一時TRDIに預ける事にした」
北「何のために?」
椎名「B―COAの大量生産プランを実現させるためにだ。B―COAを解体して、さらに強化を加える。
 それで、ジェノンの機能の一部を除外する事にした」
北「奈央美…ですか?」
椎名「彼女の精神プログラムを記録したデータは、うちの隔離室のコンピュータに保管する事になるが…
 私は、このまま彼女を封印しようと思っているんだ」
北「…」
椎名「…それで、君の意見も聞きたかった」
  北、寡黙に俯く。
北「僕もずっと悩んでいたところです。これから先、彼女とどんな風に向き合って行けばいいのか、
 ずっと考えていたんです…」
椎名「これは、私が独自で進めた計画の一つに過ぎん。彼女は、十分、納得の行く結果を出してくれた」
北「…総監にお任せします」
椎名「…それから、さっき荒崎から連絡があって、3時に天木未月が六本木の自宅に戻ると言う
 情報を流してきた」
北「天木の自宅には、誰がいるんですか?」
椎名「監視員を2名ほど張らしている。君も向かってくれ」
  北、一礼し、そそくさと立ち去って行く。
  椎名、天井を見つめ、溜息をつく。

○ 同・ガレージ
  運転席に座る北。
  モニターに映るポニーテールの女のCG。
ジェノン「どうして何も喋らないの?」
  北、溜息をつく。
北「もし、俺が死んだら、君は、どうする?」
ジェノン「あなたが死んでも、私は、何も変わらない。JWAのために力を注ぐだけよ」
北「…やっぱり君はあの時死んだんだ。人間の感情なんて、何一つ残っていない」
ジェノン「あなたは勘違いしているわ」
北「何?」
ジェノン「私はあなたのためにこう言う形で生き残ったわけじゃない。私に特別な感情を持つのは勝手だけど、
 私は、もう前の私じゃない。そこをよく理解して」
  苦笑いする北。
北「総監にも同じような事を言われた」
  北、憮然とした表情でエンジンをスタートさせる。

○ 葵港・第3臨海地域・倉庫
  シャッターが開く。ヘッドライトを光らせながらB―COAが勢い良く地上を走り出す。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。
ジェノン「どこに行くの?」
北「…天木の自宅に行く」

○ 海岸沿いの道をスピードを上げ疾走するB―COA。
  通りにある水族館の前でスピードを落とす。

○ B―COA車内
北「あの水族館、覚えてるか?」
ジェノン「あなたが始めてデートに連れて行ってくれた場所…」
  北、ジェノンの声を聞くとまたアクセルを踏み込む。
  北、うっすらと涙を浮かべている。
ジェノン「…どうかしたの」
  指で涙を拭う北。
  モニターのタッチパネルを操作し、『MIND CHANGE』を終了させる。モニターからポニーテールの
  女のCGが消える。

○ ヨットハーバー
  走行してくる白いセダン。

○ 白いセダン車内
  正面を見つめ、愕然とする真坂。
  フロントガラス越しに見える真坂のクルーザー。炎に包まれている。

○ クルーザー前
  立ち止まるセダン。
  車から降りる真坂とディジア。
  真坂、右腕の包帯を外し、燃え上がるクルーザーに駆け寄って行く。
  ディジア、真坂の腕を掴み、
ディジア「何考えてるのよ」
真坂「中に茂と葉菜美がいるんだ。(ディジアを振り払い)どけ!」
  真坂の携帯が鳴る。立ち止まる真坂。携帯に出る。
女の声「女と子供を預かってる」
真坂「おまえ、誰だ?」

○ ビジネス街を走行する青いRV車

○ RV車車内
  ハンドルを握る男。黒いスーツにサングラスをつけている。
  助手席に座る広川芽衣(24)。携帯に話している
芽衣「会いたいなら、今晩7時に新宿駅のホームに来て」
真坂の声「まだ切るなよ。二人の声を聞かせろ」
  芽衣、後部シートに座っている葉菜美の耳に携帯を当てる。
  葉菜美、ロープで縛られている。怯えた表情をしている。

○ ヨットハーバー
葉菜美の声「…私」
真坂「茂は、元気か?」
葉菜美の声「ここにはいない」
真坂「一緒じゃないのか?」
葉菜美の声「私とは、別の車に乗せられたみたい…(涙声で)ごめん、守って上げられなくて」
真坂「おまえのせいじゃない。絶対助けに行くから…(小さな声で)車種を教えろ」

○ RV車車内
葉菜美「ブルーのアール…ブ…」
  芽衣、携帯を自分の耳に当て
芽衣「約束の時間までにあなたを確認できなかったら、二人とも抹消するから」

○ ヨットハーバー
真坂「データじゃねぇんだぞ、人の命は。手出したら、おまえも削除してやるからな」
  電話が切れる。
  真坂、車のほうへ走り出す。
  後を追うディジア。
ディジア「誰からなの?」
真坂「わからん。新宿駅に行くぞ」
  車に乗り込む二人。
  加速して車をバックさせ、ターンすると、猛スピードで走り去って行く。

○ 六本木ヒルズ
  道路脇に立ち止まるB―COA。

○ B―COA車内
  窓越しから聳え立つ二棟の高層マンションを覗き込む北。
北「ハイウェーブサーチの感度を最大にしろ。天木の部屋は、何階だ?」
ジェノン「40階です」
北「監視員の携帯につないでくれ」
ジェノン「了解しました」

○ レジデンスC・40階
  ある部屋の扉が開く。中から出てくる未月。部屋の鍵を閉め、通路を歩き出す。

○ 同・エレベータ内
  籠に乗っている未月。下降している。

○ B―COA車内
ジェノン「応答がありません」
北「…もう一度だ」
ジェノン「了解しました」

○ レジデンスC・地下駐車場
  横にずらっと並んで止まっている車の群れの前を歩いている未月。
  グレンサー500の前に行き、キーレスエントリーで鍵を開ける。
  電子音が鳴り響く。
  車に乗り込む未月。エンジンをかけると、
  勢い良く駐車レーンを出て走り去って行く。
  駐車レーンの奥でスーツを着た二人の男が倒れている。二人とも息絶えている。

○ B―COA車内
ジェノン「やはり応答がありません」
北「もしかして…」
  北、ドアを開け、車から降りようとする。
ジェノン「今、地下の駐車場から車が出ました。天木未月の乗る車とナンバーが一致しました」
北「どっちの方向に行った?」
ジェノン「南西の方角に進んでいます」
  北、エンジンをかける。

○ スピンターンして、走り出すB―COA

○ 国道
  疾走するグレンサー500。
  その後をB―COAがスピードを上げて走っている。
  グレンサー500とB―COAの距離がどんどん縮まって行く。

○ グレンサー500車内
  バックミラーを見つめる未月。
  ミラーに写るB―COAを見つめ、ニヤッとする。
  未月、ハンドルの左側にあるパネルの赤いボタンを押す。
  
○ グレンサー500の後部両側のフェンダーの格納庫が開く
  銃身が伸び、機銃が発射される。
  B―COAのボンネットからフロントガラスにかけて激しく撃ち込まれる銃弾。
  
○ B―COA車内
北「COBだ!」
ジェノン「了解しました」
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスに透明のスクリーンが投影される。方眼軸が浮かび上がり、
  前方を走るグレンサー500の両側の後輪を捕捉する十字の点滅が表示される。
  北、ハンドルの『COB』ボタンを押す。

○ B―COAの前バンパー両側の窪みからオレンジ色のボールが2つ同時に発射される
  ボールは、グレンサー500の両側の後輪にガム状にへばり着く。
  暫くして爆発する。しかし、煙を上げただけで微動だにしない。

○ B―COA車内
  愕然とする北。

○ グレンサー500車内
  失笑する未月。
  中央のコンソールのモニターにB―COAの正面の映像が映っている。
未月「お返しよ」
  未月、ハンドルについている青いボタンを押す。

○ グレンサー500の後部両側のフェンダーの格納庫から紫色のボールが同時に発射される
  ボールは、B―COAの両側の前輪に当たり、ガム状にへばりつくと、爆発する。
  両側のタイヤから白い煙が上がる。

○ B―COA車内
北「大丈夫か?」
ジェノン「タイヤの損傷をチェックしています。走行には、影響ありません」

○ 緩いカーブを猛スピードで走り抜けるグレンサー500
  B―COAもスピードを上げる。

○ 葵港・第3臨海埠頭
  保冷倉庫の前に歩いてくる荒崎。
  シャッターの前にゆっくりと歩いて行く。

○ 倉庫地下・JWA本部・通路
  警告アラームが鳴り始める。
  白い煙がもうもうと立ち込める。
  警備員やOP員達が煙に撒かれ、咽ている。
  その間を掻い潜る荒崎。防護マスクをつけて、走っている。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの座席に座る椎名。
  激しく警告アラームが鳴り響いている。
  受話器を握る椎名。ナンバーを押す。
椎名「私だ。何事だ?」
男の声「侵入者です。警備員が2名殺されました。男は、現在、オペレーター室のほうに向かっています」
  入口の自動扉がスライドして開く。
  荒崎が捜査員の男の首に腕を回し、こめかみに銃口を突きつけながら中に入ってくる。
  立ち上がる椎名。
椎名「荒崎…」
  立ち止まる荒崎。
荒崎「これ以上犠牲者を出したくなければ、私と一緒に来てもらいましょうか」
  荒崎の背後に谷田を筆頭に数人のOP員の男達がやってくる。立ち止まり、一斉に銃を構える。
  椎名、谷田達に首を振り、銃を下ろさせる。
  谷田、困惑した表情を浮かべる。
椎名「いいだろう。そいつを離せ」
荒崎「こっちに来てください」
  椎名、歩き出す。荒崎の前で立ち止まる。
  荒崎、男を突き出し、透かさず、椎名の首に腕を回し、こめかみに銃を突きつける。
  荒崎を取り囲む谷田達。
椎名「何も手出しするな。命令だ」
谷田「しかし…」
  OP員達、困惑した表情で椎名を見つめている。
  荒崎、椎名と一緒に部屋から出て行く。
  谷田達も後を追いかけて行く。

○ 同・OP室
  銃をちらつかせながら、部屋を出て行く荒崎と椎名。
  谷田、二人の後を追うが立ち止まり、オペレートシステムの緊急通信ランプが青く点滅しているのに気づく。
谷田「先に行ってください」
  他のOP員達、走って部屋を出て行く。
  谷田、オペレートシステムのキーボードを操作し、マイクに喋りかける。
谷田「この専用チャンネルを使ってるのは、ディジア、あなたですね?」

○ 新宿駅前・駐車場
  駐車スペースに止まる白いセダン。
  運転席に座り、携帯に話しているディジア。
ディジア「緊急なの。何も聞かないで協力して。真坂君の知り合いの女性と子供が拉致されたの」
谷田の声「誰にですか?」
ディジア「まだ確認できてないけど、おそらくTENAよ。女性のほうは、青いRV車で連れ去られた」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
谷田「協力したいのは、山々なんですけど…こっちも今、緊急事態なんです…」
ディジアの声「どうかしたの?」
谷田「総監が…荒崎に拉致されました…」

○ セダン車内
  愕然とするディジア。
ディジア「どんな状況なの?」
谷田の声「本部に残っているOP員全員で二人を追っています…」
ディジア「北さんは?」
谷田の声「さっき、連絡がありました。天木未月の車を追跡中です…」
  
○ 川沿いの道を走行するグレンサー500
  その後を追うB―COA。
  グレンサー500、対向車線に食み出し、前の車を次々と追い越して行く。
  B―COAのルーフからパトランプが出る。サイレンを唸らせ、走り出すB―COA。
  対向車線から大型のミキサー車がやってくる。

○ グレンサー500車内
  ほくそ笑む未月。
未月「面白いこと思いついちゃった」
  ハンドルの左側のパネルのボタンを押す未月。

○ グレンサー500の先端から紫色のレーザーが発射される
  レーザーは、ミキサー車のドラムに命中する。
  ドラムに穴が空き、大量の生コンが路面に流れ始める。
  グレンサー500、ミキサー車を避け、また、進路方向の車線に戻る。
  対向車線を走行しているB―COA。
  真っ向からやってくるミキサー車に近づいて行く。

○ B―COA車内
ジェノン「100メートル前方の路面で異常な流出物を感知しました」
  クラクションを鳴らす北。

○ 立ち止まるミキサー車
  進路方向の車線に戻るB―COA。
  流出した生コンの前に突進して行く。

○ B―COA車内
  北、ハンドルの中央に設置されているボールを指で動かす。ボールが緑色に光る。
  フロントガラスに跳躍角度メーターが表示される。北、ボールを動かし、三十度にセットし、
  『MICRO JED』のボタンを押す。

○ B―COAのフロント部の下に設置された噴射口が火を吹く
  B―COAのボディが30度の角度で浮き上がる。猛烈な勢いで生コンの上をジャンプするB―COA。
  路面に着地し、さらに加速する。

○ 橋の上
  川沿いの道から橋に入るグレンサー500。橋を渡り切った所で、突然、180度ターンし、立ち止まる。
  B―COAがやってくる。

○ B―COA車内
ジェノン「何者かが私の通信回線に割り込んできます。発信位置は、前に止まる車からのものと思われます」
北「つないでくれ」
  スピーカーから未月の声が聞こえる。
未月の声「中々しぶといわね」

○ 橋に入りかけたところで立ち止まるB―COA

○ グレンサー500車内
未月「でも、もう遅いわ。今頃荒崎があなたの組織に乗り込んで総監を監禁しているから」
北の声「荒崎?」
未月「そう、荒崎から何もかも聞いたわ」
北の声「嘘をつくな」
未月「荒崎は、知ってるのよ。JWAの本部がある場所を」

○ B―COA車内
  唖然とする北。
未月の声「指揮系統は、混乱に陥っている。もうおしまいね」
北「奴は、今までお前達の邪魔ばかりしてきたんだ。一通り利用されたら、お前も消されるぞ」

○ グレンサー500車内
未月「そんな事初めからわかってる。だから、先手を打ってあるのよ」
北の声「まさか…荒崎を…」
未月「あなた達のリーダーもろとも。これで私の勝ち!」

○ B―COA車内
  北、悔しげに顔を歪ませ、アクセルを踏み込む。

○ 発進するB―COA
  グレンサー500も同時に発進する。

○ B―COA車内
  デジタルのスピードメーターがグングンと上がっている。
ジェノン「専用回線から連絡が入っています」
北「それ所じゃない」
ジェノン「非常通信シグナルをキャッチしました。強制的につなげます」
  スピーカーからディジアの声が聞こえてくる。
ディジアの声「北さん、やめて!」
  唖然とする北。
北「ディジア、おまえ…」
ディジア「天木未月を殺さないで。彼女は…私の姉なの…」
  驚愕する北。

○ B―COAに向かって突進するグレンサー500
  ボディの先端から紫色のレーザー発射される
  B―COAのボンネットから激しく火花が散る。

○ B―COA車内
  ハンドル周りのパネルがショートし、白い煙が上がる。
  ハンドルが急に重くなり、唖然とする北。
北「どうした?ジェノン!」
ジェノン「制御システムに重大な欠陥が生じました。故障箇所は、予測不可能です…」
  4つのモニターが全て砂嵐になる。奇妙な電子音があちらこちらから聞こえてくる。
  前を見つめる北。グレンサー500が突進してくるのが見える。
ジェノン「車が速度を上げて接近しています。緊急回避システムをスタートさせます…」
北「やめろ!ジェノン!」
  ハンドルが自動的に右に曲がる。

○ 橋の柵を突き破るB―COA
  10m下の川に真っ逆さまに落ちて行く。
  水面に垂直に突き刺さるB―COA。しだいに、水の中に沈んで行く。
  橋の上に立ち止まるグレンサー500。
  車から降り、潰れた柵の前に立つ未月。勝ち誇った表情でB―COAを見ている。
  携帯を出しナンバーを押す未月。
未月「…あっ、もしもし私です。今終わりました。少々荒っぽいやり方になってしまいましたけど…」

○ 都心・国道
  走行する黒のマジェスタ。
男の声「それで、車は、どこに?」
未月の声「川の中です」

○ マジェスタ車内
  後部シートに座るグレイのスーツを着た男。男は、稲津である。
稲津「車は、傷つけるなと言ったはずだ」
未月の声「ごめんなさい。すぐに引き上げる準備をしますから」
  憮然としている稲津。

○ 新宿駅・ホーム
  辺りを見回している真坂。落ち着かない様子。急行電車が通り過ぎる。
  電車が過ぎ去った後、向かいのホームを見つめる真坂。目を見開き、微動だにしない。
  芽衣と手をつなぐ茂が立っている。
  真坂、茂を見つめ、
真坂「しげる…(叫ぶ)しげる!」
  芽衣、冷たい眼差しで茂を見ている。
  真坂の携帯が鳴り響く。すぐに携帯に出る真坂。
芽衣の声「私の指示通りに動いて」
真坂「何が目的だ?目的言えよ!」
芽衣の声「あんたの命…」
  呆然と前を見つめる真坂。

                                                      ―THE END―

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