『CODENAME:H→←←7』 「石食う幽霊」 作ガース『ガースのお部屋』
○ ゲームセンター(夜)
所狭しと置かれているゲーム機。機械音で騒がしい店内。
レースゲーム、シューティング、音ゲーのゲーム機の前に群がる若者達。
ガンシューティングのゲーム画面。画面の四方から次々と現れるゾンビがロケット弾やマシンガンの弾を
食らい、激しく撃ち倒されている。
画面の前に立つ高部峻(22)。ゲーム用の銃を構え、トリガーを引き続けている。
隣にある同じゲーム機の画面の前に立つ若い男・渦城作郎(うずしろさくろう)(22)。
短髪、切れ長の目をした二枚目。峻と同じく、銃を構え、画面のゾンビを次々と撃ち倒している。
足の速いゾンビが画面に迫ってくる。峻、必死に銃を撃つ。しかし、ゾンビ、突然、姿を消す。
暫くして、画面のまん前に突然現れ、画面に噛みつく。赤い点滅画面と共に、
ゲームオーバーの文字が浮かぶ。
銃を置き、ため息をつく峻。
作郎「はや…」
ゲームを続けている作郎。
峻「俺がシューティング苦手なの知ってる癖に…」
作郎「それ、デジャブ。高校の時もここで聞いたそのセリフ。おまえんち遊びに行っても、
RPGと麻雀しかやらなかったもんな」
峻「思い出さなくていいよ、さくやん」
作郎「さすがにゲーセンじゃ、RPGは、できないもんな」
峻、疲れた表情を浮かべ、その場を離れる。立ち去る峻の背中を見つめる作郎。
作郎「おい、どこ行く?」
○ 喫茶店
外は、激しい雨。雷鳴が轟く。
ウィンドウの前のテーブルに向かい合って腰掛けている峻と作郎。
アイスコーヒーをストローで啜っている峻。窓の外を見つめ、
峻「四年と二ヶ月か…」
作郎、ホットコーヒーの入ってカップを持ち、コーヒーを一口飲み、
作郎「卒業式がついこの間のように感じるのにな」
峻「北海道に戻ってから、携帯でメールを二、三度ぐらいしかくれなかったよな…」
作郎「おいおい、もっと送ってるぞ。返信ちっともくれなかったじゃん。ちゃんと確認したか?」
峻「毎日寝る前に欠かさずチェックしてるつぅ…あっ!」
作郎「どうした?」
峻「二年前にメールアドレス変えた…」
作郎「ほらな。自宅に電話かけて正解だった。お前の家訪ねたら、改築中だったけど、火事で燃えたんだってな」
峻、喉を詰まらせ、口の中のアイスコーヒーを吐き出す。テーブルと峻のズボンの
太股にこぼれるアイスコーヒー。
作郎、笑いを堪えながら、おしぼりを峻に手渡す。峻、ズボンを拭く。
峻「これ、四日前にセールで買ったばかりなのに…クソ、何でいつもこうなんだよ…」
作郎「相変わらず、ひでぇ被害妄想オタだな」
峻「オタとか言うな。ずっと忘れてたのに…」
作郎「クラスの皆に言われてたもんな。美術の授業で隣の女の子の似顔絵を描いた時、あまりの似てなさに
女の子が怒って、おまえ、すげぇ凹んでたよな」
峻「それ言うなってさくやん。今でも凹むわ。それより、家の話、誰から聞いたんだ?」
作郎「お前のお母さんから。最近、1人暮らし始めたのか?全然戻って来ないって嘆いてたぞ」
峻「仕事が忙しいから…会社で寝泊りしてるだけ」
作郎「何してるって言ってたっけ?」
峻「食品関係の外回り。おまえは?」
作郎「IT」
峻「コンピュータ?…おまえが?」
作郎「何だよ、いいじゃねぇかよ」
峻「高校の時は、てっきり、実家の駄菓子屋継ぐんだと思ってたからさ」
作郎「潰れたんだ」
峻「あ…ごめん」
作郎「親父が二年前に亡くなって、一時期は、大学辞めてそこを引き継ぐつもりだったんだけど、
ガラじゃないと思ってさ」
峻「色々あったんだな…」
作郎「今度の週末暇か?」
峻「週末って、いつまで東京にいるの?」
作郎「今週末まで。明日の夕方までに仕事を片付けて、週末は、こっちでのんびりしようかなと思って。
おいしい話あるんだけど、聞く?」
峻「変な勧誘は、勘弁だぞ」
作郎「そんなんじゃない。儲け話。見つけたら、50万…」
顔色を変える峻。
峻「見つけるって…何を?」
作郎「幽霊…」
首を傾げる峻。
○ フラワーショップ『ザイダ』・表(翌日・朝)
看板がはずされ、シャッターが閉まっている。
シャッターの前に立っている女。眼鏡をかけ、水色のTシャツ、
ジーパン姿のコードネーム・H(木崎メイナ・24歳)
店の中から聞こえる物音を聞き、咄嗟にその場を立ち去るH。
○ 同・裏
扉が開き、中から出てくる前原 美智(23)。
鍵を閉め、階段を上り、狭い通りを歩き出す。
○ 車道
手を上げる美智。
美智の前にやってくる黄色いタクシー。
後部の座席に乗り込む美智。
走り出すタクシー。
暫くして、黒い軽自動車・カスタードがやってくる。
タクシーを追っているカスタード。
○ カスタード車内
ハンドルを握るH。フロントガラス越しに見えるタクシーを見つめている。
車間距離をあけている。
○ 突き当たりの交差点
左折し、二車線の道路に入るタクシー。
信号が黄色に変わる。カスタード、スピードを上げて、交差点に進入。ドリフト気味に左折し、
タクシーを追う。
○ カスタード車内
アクセルを踏み込むH。
暫くして、パンと破裂音が轟く。ボディが激しく揺らぎ始める。
異変に気づくH。
○ 道路脇に止まるカスタード
車から降りるH。
右前輪の前に立ち、ため息をつく。
タイヤがパンクしている。
H、タイヤをまじまじと見つめ、怪訝な表情を浮かべる。
タイヤの横面に大きな穴が空き、白い煙が出ている。
辺りを見回すH。
美智が乗ったタクシーの姿がを消えている。
憂いの表情を浮かべるH。
○ 高層マンション
地上20階のモダンなデザインのマンション。
○ 同・19階・エレベータ前
下から上がってくるエレベータ。扉が開き、美智が出てくる。
右手に携帯を持ちながら、通路を歩き出す美智。
「1911号室」のドアの前に立ち止まる。
携帯のディスプレイを確認する美智。
大きく深呼吸して、意を決して、インターホンを押す。
ドアが開く。
美智の前に姿を現すフードつきのブルゾンを着た男。G5(木崎満彦・52歳)。フードで顔を隠している。
美智、緊張した面持ち。
美智「こんにちは…」
G5「随分早く着いたんだね…約束の時間から、まだ30分もあるけど…」
美智「道が込んでるんじゃないかと思って、心配になって早めに出たんですけど…全然込んでなくて…」
G5「どうぞ」
美智「失礼します…」
中に入る美智。
G5、うっすらと笑みを浮かべ、扉を閉める。
○ 同・1911号室・ベランダ
町の景色を眺めている美智。
硬い表情。少し足を震わせている。
リビングの真ん中に立っているG5。
G5「無理してないか?」
振り返り、G5を見つめる美智。
美智「全然。こんな高い場所から自分の住んでる町を見る事なんてめったにないし…」
G5「足、震えてるよ」
美智「これは、風がきついから…ここから見ると、ちっぽけですよね…」
G5「そうだよ。その程度の町さ」
美智「えっ?」
G5「今度の事業が成功したら、こんな風景、いつだって見られるようになる。そうなった時、
さっきの言葉の意味が理解できる」
美智、神妙な面持ち。
○ 同・リビング
テーブルを挟んで、向き合ってソファに座っているG5と美智。
G5、分厚いファイルをテーブルの上に置き、開く。
中から一枚リストを引き抜き、美智に手渡す。
リストを見つめる美智。
リストには、七三分け、眼鏡をかけた中年の男の写真と経歴が書き込まれている。
G5「その男の身辺調査を頼む」
美智「身辺調査?」
G5「女性関係だ」
美智「浮気の調査ですか?」
G5「男の奥さんから依頼を受けた。かなり手癖が悪いそうだ」
美智、男の写真をまじまじと見つめる。
○ とある雑居ビル・3F・リビング(数日後・夜)
壁の柱にぶら下げていたTシャツやスーツのズボンを取る峻。ラフな格好をしている。
衣類をたたみ、スポーツバックの中に入れている。
ふと、テレビの前のプレステ機を見つめる峻。
峻「…どうせ、向こうでやってる暇ねぇしな…50万入ったら、今度こそDS買うぞ」
峻の背後から聞こえる女の声。
女の声「また買うの?」
峻、思わず、声を上げ、後ろを向く。
峻の背後に立っているH。
峻「幽霊かと思った…」
憮然としているH。
峻「もしかして、新しい任務?」
H「いいえ」
峻「…明日から旅行に行くから、その間は、悪いけど手伝えないよ」
H、テーブルに置いてある『幽霊スポット探訪』と言うタイトルの本を持ち、読み始める。
峻、バックのファスナーを締める。
バックを持ち、立ち上がる。
峻、Hの持っている本を取り上げ、
峻「勝手に読まないでくれる?」
峻、Hのそばを横切り、入口に向かって歩き出す。
H「1人で行くの?」
峻「友達と…」
振り返るH。怪訝な面持ち。
H「どこに行くの?」
立ち止まり、Hを見つめる峻。
峻「想像に任せる…」
峻を睨むH。
H「新しい任務が出たら、あなたを呼び出すかもしれない」
峻「うそーん」
H「携帯の電源を入れといて」
峻「スパイにプライバシーは、ないのかよ?」
H「見習いの癖に。私は、あなたの監視役でもあるのよ」
峻「P―BLACKの事なんて何も知らないし、Hの事なんて誰にも喋らないって」
H、怪訝な表情を浮かべている。
峻「俺を信用してないの?」
小さく頷くH。
峻「…わかった。電源入れときゃいいんだろ」
峻、部屋を出て行く。
○ 駅構内・改札口
改札を通る峻と作郎。雑踏の中を早足で歩いている。
峻「財布忘れたって…ふざけんなよ」
作郎「家出る時、ちゃんとポケットに入れたつもりだったんだけど…」
峻「ホテルの宿泊代どうすんだよ?」
作郎「悪いが立て替えといて…」
峻「俺、さくやんのつきそいだぞ?」
作郎「見つけたら、50万」
峻「もう一回確認しとくけど、1人当たりだよな?」
作郎「オフコース」
○ 同・階段
階段を上る二人。
作郎「幽霊研究家の舟村州明(ふなむらしゅうめい)って知ってるか?」
峻「知らん」
作郎「この前、おまえに渡した幽霊本の執筆者だよ。うちの親父の親戚でさ、先週、会う機会があって、
その時に聞いたんだ。ここから北西50キロ付近にある双険山って山の中腹に、古い宿の
廃墟があるらしい。そこでレアな幽霊が出没するんだってさ」
峻「レアな幽霊?」
作郎「眼鏡をかけたお下げ髪の若い女の幽霊…一説によると、その古宿の一人娘の
幽霊だと言われている」
峻「でも、何でそんな幽霊に総額100万もの賞金が出るわけ?」
作郎「舟村さんは、全国各地の幽霊スポット巡っていて、今までに出版した幽霊本でガッポガッポ稼いでる
人気者なんだぞ。来月また新しい本を出版するんだ」
峻「へぇ…そんな人がいるんだ」
作郎「俺達が今日向かうところが最後の取材場所だったんだが、三日前、自宅の階段で転んで
足首を捻挫してしまって、今動けないんだ。だから、俺が代わりに探索を引き受けたってわけ…」
○ 同・ホーム
階段を上がり、プラットホームを歩き出す二人。
峻「そんな親戚いたなんて、初めて聞いたぞ」
作郎「俺も母親から聞いて、最近知ったんだ」
峻「人脈広いな、さくやん」
作郎「さくやんってやめろ、それ」
ホームに電車が入ってくる。立ち止まる電車。
峻「『さくやん』が嫌なら、『うっずー』って呼ベばいいのか?」
作郎「タイガー・ウッズみたいでそれも抵抗あるな…」
電車の扉が開き、一斉に乗客が降りている。
電車に乗り込む二人。扉が閉まる。
ゆっくりと進み始める電車。
○ フラワーショップ『ザイダ』・表(夜)
立ち止まるタクシー。
後部席から降りる美智。走り去って行くタクシー。シャッター横のドアに鍵を差し込む美智。
美智のそばに忍び寄る人影。
人影に気づき、顔を上げる美智。
美智のそばに立っているH。
美智「H…」
H「探してたの」
美智「ずっと待っていてくれたの?」
H「今来たところ…」
美智「休んで行って。冷蔵庫においしいプリンがあるから」
H「今からでも遅くない。考え直して」
美智「…何の事?」
H「あなたには、私と同じ道を歩んで欲しくない」
美智「Hのようにもっといろんな世界を覗いてみたいと思っているだけよ」
H「…」
美智「あんまりナーバスにならないでよ」
H「あの時、私は、あなたの人生を変えてしまった」
美智「だから何?私は、スパイじゃないの。Hに監視されなくても、一人で生きて行ける」
H「監視をしているつもりはない」
美智「Hがそうでも、私には、そう見える」
H「あなたに探偵の仕事の話しを持ちかけたのは、誰なの?」
美智「それを知ってどうするつもり?Hに親代わりになってくれって頼んだ覚えはない」
美智、ドアを開け、中に入る。
呆然とするH。
H、踵を返し、店から立ち去って行く。
ドアを開け、ソッと顔を出す美智。
Hの後ろ姿を寂しげに見つめている。
○ 公園内・遊歩道
花木が並ぶ広い通りを1人歩くH。
美智の言葉がHの脳裏でリフレインする。
美智の声「私は、スパイじゃないの。Hに監視されなくても、一人で生きて行ける…」
力ない表情を浮かべるH。
H、ふと正面を見つめ、立ち止まる。
街灯下、歩道の真ん中に不気味に立っているG5。
G5を睨みつけるH。
G5「冴えない顔だ。まるで恋人に振られたみたいな…」
H「どうしてここにいるの?」
G5「ちょうどその先の寿司屋で夕食をな」
Hの体が赤く発光する。赤いコスチューム姿になるH。アームシェイドを構える。
G5「飯食った後に激しい運動をさせる気か?」
H「そのつもりで来たんでんしょ?」
G5「やはり、今日は、ご機嫌斜めだな」
H「誰のせいだと思ってるの?」
G5「丁度良い。ちょっと気分をリフレッシュさせてやろう。おまえの大好きなママの話だ…」
H「…」
G5「霞達に何をすり込まれたのかは、知らんが、俺は、五月を自殺に追い込んだ人間を知っている」
H「ママを殺したのは、あなたでしょ?」
G5「違う。私は、そいつらに罪をなすりつけられただけだ」
動揺するH。
フード下から見える三白眼。不気味に笑みを浮かべるG5。携帯を出し、素早くボタンを操作する。
G5「おまえの携帯にメールを送った。話の続きが気になるなら、連絡してこい」
H「作り話につきあう程、暇じゃない」
G5「作り話かどうか、霞に聞いてみたらいい…掛け替えのないものを失う前にな…」
H「どう言う意味?」
G5「そのうちわかる」
G5、踵を返し、立ち去って行く。
呆然としているH。
○ 双険山の麓(深夜)
山間に広がる小さな湖。
湖辺に建つ4階建ての古びた白いホテル『三栄』。光る看板。
○ ホテル『三栄』4F・部屋
6畳ほどの和室。テーブルの前に座る峻と作郎。
テーブルの上に地図を置き、赤ペンで位置をマーキングしている作郎。
峻、マーキングされた場所を見つめ、
峻「これが古宿の場所?」
作郎「そう。この辺は、普段あまり人が近づかないらしい」
峻「なんで?」
作郎「幽霊を見た人間は、必ず寿命が縮むか、不慮の死を遂げると言う噂があるんだってさ。
ちなみにその幽霊は、「ミカコ」って呼ばれているらしい」
峻「ミカコ…ね…」
欠伸をする峻。
作郎「出発時間4時だぞ」
峻「えっ、そんなに早いのかよ」
作郎「とらの時がもっとも発生しやすい時間帯なんだ」
峻、腕時計を見つめる。時間は、『12:16』を表示している。
畳の上に横になる峻。
峻「この歳になって、幽霊探しするなんて思わなかった。なんかさ、修学旅行の事思い出すな…」
作郎「あの時も早朝に変な山登らされたっけ。俺達だけはぐれて、後で先生に叱られたんだよな…」
峻「あみだくじで進む道決めて、迷路のような山道を探検したんだ…」
作郎「おまえ、ドラクエのBGM鼻歌で歌いながら、勇者気取りで歩いてたもんな」
峻「そう言えば、途中で変なおっさんと会わなかったっけ?」
作郎「カールおじさんみたいな奴。麦藁帽子かぶって、髭生やしたちょっとやばい感じの…」
峻「ジッとこっち見つめてきやがんの。まるで幽霊でも見ているみたいにえげつない顔してさ」
作郎「俺が小石投げつけたら、とっとと逃げていきやがったけど」
峻「…あの頃に戻れねぇかな」
作郎「出た。「あの頃症候群」勃発」
峻「社会人って、いろんなしがらみができてさ、あの頃みたいに気楽に生きれないし…
ゲームもできないし…命がいくらあっても足りないし…」
作郎「はぁ?」
峻「いや、その…ドラクエの話…」
○ 湖辺の道(翌日・朝)
朝靄の中を歩く峻と作郎。
湖面の上にかかる長い橋を渡る。
○ 双険山・林の中
空に響くカラスの鳴き声。
ぬめった土の上をゆっくりと歩いている二人。
作郎、携帯のディスプレイを見つめている。ディスプレイに映る地図のイメージ。
作郎「怖気づいたか?」
峻「全然。こういうのは、慣れてんだよ」
作郎「1人でこんな場所に行く事あるのか?」
峻「あるある。うんざりするほど…」
作郎「仕事で?」
峻「うん…じゃなくて、趣味で…」
作郎「どんな趣味だよ…」
峻「こんな山の中に本当に古宿が建ってたのか?」
作郎「32年前までは、結構人が住んでたらしいぞ。地震で多少地形が変わったらしいけど…」
峻「何で取り壊さなかったんだろ」
作郎「何度も解体業者が入ったみたいだけど、作業に関わろうとした人達が病気になって、それ以来、
誰も手を出さなかったらしい」
峻「おもいっきり呪われてんじゃん。俺達もやばいじゃん」
作郎「大丈夫。俺達は、解体業者じゃないんだから」
作郎、肩にぶら下げているバックから、デジタルカメラを取り出す。
作郎「とにかく、「ミカコ」を見つけて、このカメラに収めればいいんだ」
峻「これじゃあ、いつもやってる事とかわらねぇ…」
作郎「えっ?」
峻「いや、別に…」
○ フラワーショップ『ザイダ』・表
ドアが開く。外に出てくる美智。白いTシャツと黒いジーパン姿。ショルダーバックを肩にぶら下げている。
鍵を閉め、歩き出す。
○ 住宅地の間を通る電車
ゆるいカーブを走行している。
○ 電車内
扉の前に立っている美智。
手すりを持ち、憂い顔で窓の景色を眺めている。
外は、曇り空。黒い雲が町を覆い始めている。
○ 新興住宅地
新築の一軒家が並ぶ通りを歩く美智。
携帯のディスプレイを確認し、周囲を見回している。
○ 玉木家前
庭つきの3階建て住宅。
門前に立ち止まる美智。
家の周囲を慎重に見回している。
玄関のドアの上に設置されている監視カメラに気づく美智。
インターホンを押す。
鳴り響くベル。応答がない。
諦めて、その場を立ち去る美智。
○ 同・裏
壁の前に立つ美智。周囲を確認した後、壁をよじ登り、中に入り込む。
○ 同・裏口
裏の扉の前に忍び寄る美智。
ドアノブを回す。扉が開く。
唖然とする美智。ソッとドアを開ける。
○ 同・中・キッチン
ドアを閉める美智。靴を脱ぎ、中に入る。
辺りを見回す。中には、何も置かれていない。
○ 同・中・和室
ソッと歩いている美智。
畳の上に置いてあるノートパソコンに気づく。
その場に座り、ノートパソコンを開く。
電源ボタンを押す。
パソコンが起動し始める。
OS画面が映し出される。
ディスプレイを見つめる美智。タッチパッドでポインタを動かし、次々とフォルダを開いている。
あるフォルダの中のTIFFファイルを見つめる美智。
ファイルを開こうとするが、パスワードがかけられていて見る事ができない。
外から物音が聞こえる。
美智、慌てて立ち上がり、ベランダの扉のガラス越しに外の様子を窺う。
門を開いて、中に入ってくる中年の女。玉木夏貴(37)。茶髪。サングラスをし、赤いワンピースを
着ている。
美智、慌てて、ノートパソコンの前に戻り、電源を切る。蓋を閉め、部屋を出て行く。
× × ×
部屋の中に入ってくる夏貴。
ノートパソコンを開き、電源ボタンを押す。何度も押すが、一向に電源がつかない。
夏貴「バッテリー切れかしら…」
夏貴、押入れを開ける。中から赤い籠を出し、ACアダプターをノートパソコンに取り付ける。
電源ボタンを押す夏貴。
しかし、電源が入らない。
困惑している夏貴。
暫くして、携帯が鳴り出す。
携帯に出る夏貴。
夏貴「はい…あ、ちょうど良かった。すぐに戻ってきて。パソコンつかないの…」
部屋の入口の柱の影に立っている美智。
夏貴の声を聞いている。
夏貴「新しいの買えって…よくそんな事言えるわね。今まで撮ってきた画像、見れなくなってもいいの?」
雷の光が夏貴を照らす。
遠くから聞こえる雷鳴。
夏貴「コピーなんてとってないわよ。とれって言わなかったでしょ。私やり方知らないもん…帰ってきたら
つかなくなってたのよ…」
美智、その場から立ち去る。
○ 同・キッチン
足早に歩き、裏口のドアの前に近づく美智。
靴を履き始めた時、突然、大きな雷鳴が轟く。
美智、思わず小さく声を上げる。
○ 同・和室
美智の声に気づく夏貴。
夏貴「…じゃ、また後でね」
携帯を切る夏貴。
立ち上がり、キッチンの方に向かって歩き出す。
○ 同・キッチン
怪訝な表情で辺りを見回す夏貴。
裏口のドアのほうに進み、ドアノブを握る。
ドアが開く。
唖然とする夏貴。
○ 同・裏
外に出る夏貴。
辺りを見回している。
空は暗くなり、ポツポツと雨が降り始めている。
○ 新興住宅地
早足で道路を歩いている美智。
左腕を怪我し、血が出ている。
美智、白いハンカチで腕の傷を押さえる。
雨が本格的に降り出す。
美智、ふと振り返り、後ろを見つめる。
遠くに見える玉木家。家の門から夏貴が表に飛び出してくる姿が見える。
唖然とする美智。
夏貴、険しい顔つきで美智のほうを見ている。
夏貴と一瞬目を合わす美智。美智、咄嗟に顔を背け、歩くスピードを速める。
美智の後ろ姿を見つめる夏貴。後を追って歩き始める。夏貴のそばを通るカスタード。
美智のそばで急ブレーキをかけ、立ち止まるカスタード。
助手席側のウインドウが開き、運転席に座る私服を着たHの姿が見える。
美智「H…」
H「早く乗って…」
美智、後ろを見つめる。夏貴が駆け足でこちらに向かってくる。
美智、カスタードの助手席に乗り込む。
急発進するカスタード。突き当たりの交差点を曲がり、姿を消す。
○ カスタード車内
ハンドルを握るH。
美智「ずっと私をつけてたの?」
H「…違う」
美智「じゃあ、なぜここに?」
H「空き巣みたいなマネをして、どう言うつもり?」
美智「私の質問に答えて」
H「あなたの事が心配なの」
美智「…もしかして…Hも玉木の事、調べてるの?」
H「具体的な事は、言えないけど、あの夫婦は、P―BLACKがマークしている重要人物よ」
唖然とする美智。
H「どう言う理由で玉木を調べてるの?」
美智「…」
H「二度と関わらないで」
美智「Hこそ、私の仕事の邪魔をしないで」
唖然とするH。
美智「止めて」
H「…」
美智「早く止めて」
ブレーキを踏み込むH。
立ち止まるカスタード。
美智「私に構わないで。助けなんて必要ないから」
車から降りる美智。雨の中を走り去って行く。
困惑するH。
携帯電話が鳴り響く。携帯に出るH。
H「はい…」
○ コンビニ・駐車場
駐車スペースに並んで止まっている白いクラウンとカスタード。
○ クラウン車内
激しい雨がフロントガラスに当たっている。
運転席に座る黒いスーツを着た紳士風の男・霞(かすみ) 良次(45)。
助手席に座るH。
霞「ジャロメンの居場所がわかった?」
H「二ヶ月前にここから3キロ北にある新興住宅地に別人名義で家を購入しています。レスファも確認しました」
霞「やはり、二人とも日本に戻ってたのか」
H「夕方、二人は、接触するはずです」
霞「こっちの動きを感づかれないように慎重にな」
Hの脳裏にG5の言葉がリフレインする。
G5の声「作り話かどうか、霞に聞いてみたらいい…」
呆然と俯くH。
霞「どうした?」
H「いいえ…」
車から降りるH。Hの様子を窺う霞。
H、カスタードの運転席に乗り込む。
唸るエンジン。勢い良くバックして、駐車スペースから出るカスタード。
前進し、クラウンの背後を横切り、駐車場から出て行く。
○ 双険山・林の中
斜面の細い道を登っている作郎。
立ち止まり、後ろを見つめる。
木の幹にもたれて座り、ペットボトルのスポーツドリンクを一気飲みしている峻。
作郎「おい!」
額の汗を腕で拭う峻。
峻「だるい…」
作郎「まだ、4キロ程しか歩いてねぇぞ」
峻「昨夜、一時間しか寝てないんだよ。ちょっと眠らせて…」
作郎「うだうだうるせぇ奴だな、もう…」
作郎、峻の前に近寄る。腕を掴み、無理矢理立ち上がらせる。
作郎「ほら、とっとと歩け」
峻の後ろに回り、背中を押す作郎。
峻、疲れた顔で歩き始める。
○ 同・中腹・墓場
木々に囲まれた広い敷地。
段上に横一列に隙間なく並ぶ墓石。
その前の細い道を歩く作郎と峻。
作郎、突然、立ち止まり、携帯のディスプレイに映る地図を確認する。
作郎に合わせて立ち止まる峻。
作郎「おかしいな。この辺りが古宿のある場所のはずなんだけど…」
峻「やっぱ、こんな山の中に古宿なんてあるわけねぇよ」
作郎、墓石を一つずつ確認している。
作郎、墓場に入り、奥の墓石に向かって歩いて行く。
峻、その場に座り込み、鞄の中からもう一本、スポーツドリンクのペットボトルを出し、飲み始める。
奥の列に並んでいる墓石を一つずつ確認している作郎。
ある墓石の前で立ち止まる。
名前が彫られていない墓石をまじまじと見つめる作郎。
作郎「ここだ。おい、こっちに来い」
ドリンクを飲み干す峻。立ち上がり、作郎の元へ近づいて行く。
峻「…これじゃ、ただの墓参りじゃねぇかよ…」
作郎の隣に立つ峻。
峻「この墓がどうかしたのか?」
作郎「動かすぞ。手伝ってくれ」
呆気にとられる峻。
峻「縁起でもない。呪われんぞ」
作郎、墓石に腕を回し、
作郎「とっとと持てよ」
峻、怪訝な表情で、墓石を持ち上げる。
墓石の下の土を手でほじくり返す作郎。
やがて、土の中から木製の棺桶の先っぽがうっすらと見えてくる。
その様子を見つめる峻。
峻「何だ?これ…」
作郎、墓石の列の一番左端にある物置を見つけ、駆け足で近づいて行く。
○ 物置の中
勢い良く扉が開く。作郎、中に置いてあるシャベルを2つ持ち出す。
○ 高層マンション19階・1911号室リビング
黒いソファに座っているG5。ペルシャ猫を膝の上に乗せ、頭を撫でている。
G5の前に立つ美智。
美智「玉木の自宅を見つけました」
G5「何か収穫は、あったかね?」
美智「引っ越し前で家の中には、まだ何もありません。でも、和室にノートパソコンがあったんです…」
G5「…家の中に潜り込んだのか?」
美智「はい。それを調べていたら、女がやってきて…」
G5「どんな、女だ?」
美智「ショートカットの髪型で、顔が小さくて、赤いワンピースを着ていました。もしかしたら、
彼女も玉木の不倫相手かもしれません。もう一度調べ直してきます」
G5「やる気があるのは、わかるが、くれぐれも無茶は、するなよ。玉木に気づかれたら、全てが丸潰れだ」
美智「この依頼を解決したら、本当に事務所の設立資金を出して頂けるんですよね?」
G5「出してやるとも。ちゃんと解決できたらな」
美智「絶対に…必ず証拠を掴みます」
G5「調査中に、やっかいな事があれば、すぐに連絡をくれ…」
動揺している美智。
美智の様子を窺うG5。
G5「どうした?」
美智「実は…その…」
G5「何かあったのか?」
困惑している美智。
美智「…なんでもありません」
美智、一礼し、部屋を出て行く。
ほくそ笑むG5。
○ 双険山・中腹・墓場
ショベルで土を掘る作郎と峻。
峻「棺桶の中に、「ミカコ」が?」
作郎「あのマーキングが正しいなら、間違いなくいるはずだ…」
峻「しかし、縦置きに埋めるなんて、何考えてんだ?」
作郎「少しでも大勢の人を埋めるための工夫だろ」
峻「中の死体ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん」
作郎「そんなの俺達の知ったことかよ」
峻「…これじゃ、いつもと変わらねぇ」
作郎「おまえ、毎日、趣味で土堀ってんのか?」
峻、苦笑いし、
峻「はは…そうそう、落とし穴作るのが得意なんだ…」
作郎「朝からわけわかんねぇ事いいやがって」
× × ×
大きな穴ぼこに突き刺さるように立っている棺桶。
作郎が穴の下に下り、棺桶を持ち上げる。
上に立つ峻、棺桶を引っ張り上げている。
穴から引き上げられ、土の上に置かれる棺桶。
峻、作郎の腕を掴み、穴から引き上げる。
棺桶の前に立つ二人。
作郎「開けさせてやるよ」
峻「言い出しっぺがやれよ」
作郎「そんなの関係ねぇ」
峻「ホラーゲーム得意だろ?」
作郎「グロいの苦手だったっけ?」
峻「普通の人は大概そうだと思うけど…」
作郎、緊張した面持ちで棺桶の蓋を開けようとする。しかし、釘で打ち付けられていて、開かない。
峻、思わず吹き出し笑い、
峻「落ち着けよ」
作郎「落ち着いてるよ」
峻「縦置きにされてたのに、簡単に開くわけねぇじゃん」
作郎「まいったな…」
峻「とりあえず、この棺桶を撮影してさ、一旦帰ろう」
作郎「棺桶だけ撮っても意味ねぇだろ」
峻「じゃあ、どうすんだよ?(ショベルを持ち)叩き割るか?」
作郎「…これ持って山を下りる」
唖然とする峻。
峻「はい?」
○ 新興住宅地・全景
○ 玉木家・和室
ノートパソコンの前に座る中年の男・玉木浩太(39)。
電源をボタンを何度も押しているがつかない。
部屋に入ってくる夏貴。
夏貴「どう?」
浩太「おまえ、踏んづけたり、落としたりしてないか?」
夏貴「するわけないでしょ」
浩太「空気穴塞いで、熱暴走させてしまったとか」
夏貴「いくら、パソコン音痴でもそこまで馬鹿じゃないわよ。昨日の夜までは、使えたのに…」
ノートパソコンを折りたたむ浩太。
浩太「ハードディスクを外して、別のやつで読み取るしかないな」
夏貴「それで見れるようになるの?」
浩太「たぶんな。何か思い当たる事はないのか?」
夏貴「…ある。今朝、ここに戻ってきて、そのパソコンを調べてた時、裏で物音がしたの。
裏の物干し台の下にこんなものが落ちてたわ…」
夏貴、ポシェットからひまわり模様のついたボールペンを浩太に渡す。
ボールペンを見つめる浩太。
浩太「誰かが侵入したって言うのか?」
夏貴「表に出たら、若い女が逃げるように道を歩いてた」
浩太「どうして追わなかった?」
夏貴「追ったわよ。でも、途中で黒い軽自動車に乗り込んで、どこかに消えてしまったの」
浩太「…ここは、やばい。引き上げるぞ」
夏貴「えー?まだ契約したばかりなのに…」
浩太「誰かに感づかれたんだ。また、別の場所を見つけるしかない」
夏貴「やっと良い場所見つけて、普通の生活が送れると思ってたのに…」
携帯の着信音が鳴り響く。浩太、青いポロシャツのポケットに入れていた携帯を取り、出る。
浩太「もしもし…ああ、おまえか…えっ?見つけたか…」
○ 同・庭
和室のベランダのそばに立つ人影。
赤いコスチューム姿のHである。
浩太と夏貴の様子を窺っている。
部屋を出て行く二人。
H、壁に向かって素早く走り、ジャンプして壁を越え、姿を消す。
○ 空き地
玉木家から数キロ離れた場所。
道路脇に止まっているカスタード。
私服姿で戻ってくるH。
カスタードの方を見つめ、立ち止まるH。唖然とする。
カスタードのそばに立っている美智。
待ち構えていたかのようにHに視線を送る。
○ カスタード車内
運転席にH、助手席に美智が座っている。
美智「依頼者の事…教えてあげる」
H「…誰?」
美智「玉木浩太の奥さん。玉木の不倫相手を調べているの」
H「不倫相手?」
美智「女性関係が激しいらしくて…数人いるみたい」
H「…」
美智「情報交換しない?二人で協力したほうがいろんなメリットがあると思うの」
H「…悪いけど、ことわる」
唖然とする美智。
H「玉木浩太は、9年前、政府要人を脅迫した秘密工作員よ。国内で様々な犯罪に関わっていた。
半月前に日本に戻ってきたの」
美智「…」
H「名前も別人のものよ。コードネーム・ジャロメン。そして、あの女も玉木と共に活動している。
レスファと呼ばれている」
美智「…それじゃあ、私が調べている事は、全部でたらめだって言うの?」
H「あなたに探偵の仕事を持ちかけた人の名前を教えて」
美智、呆然と俯いたまま。
美智「何かの間違いよ…」
美智、ドアを開け、飛び出して行く。
Hも慌てて車から降りる。
○ 歩道
走る美智。
一瞬で美智を追い抜き、美智の前方を阻むH。
立ち止まる美智。
対峙する二人。
H「家を張り込んでも無駄よ。あの二人は、もう私達の事に気づいている」
美智「どうして、邪魔ばかりするの?」
H「私を信じられないの?」
美智「もう二度と私の前に現れないで…」
愕然とするH。
美智、踵を返し、走り去って行く。
H、呆然と立ち竦む。
○ 双険山・中腹
棺桶を運びながら、斜面を下りている作郎と峻。作郎が前、峻が後ろで棺桶を持っている。
峻「ちょ、ちょ…タンマ…」
立ち止まる作郎。
作郎「どうした?」
峻「腕釣った…一旦下ろすぞ…」
憮然とする作郎。
棺桶を下ろす二人。
峻、その場に座り込み、カバンの中をあさる。しかし、ドリンクは、もうない。
峻「なぁ、飲むもんなんかねぇか?」
作郎「さっき飲んだ…」
峻、力ない表情を浮かべ、ため息をつく。
峻「写真撮るだけのはずが、なんで、こんなことになるんだよ…」
作郎「もうちょいだよ、我慢しろって」
峻「幽霊なんているわけねぇだろ。お前絶対騙されてんぞ」
作郎「何を今更…じゃあ、なんでここに来たんだ?」
峻「遊びだよ。遊び…幽霊なんてどうでも良かった」
作郎「じゃあ、報酬もどうでもいいんだな?」
峻「…それは、どうでも良くない」
峻、しぶしぶと立ち上がる。棺桶を持ち上げる二人。また、斜面を下り始める。
○ 国道
走行するシルバーのライトバン。
○ ライトバン車内
ハンドルを握る浩太。助手席に夏貴が座っている。
夏貴「どうやって運ぶ気なの?この車じゃ乗せられないわよ」
浩太「中の物だけ後ろのシートに乗せりゃあいいんだよ」
夏貴「やめてよ、気持ち悪い。私絶対触らないから。全部浩太がやってよ」
浩太「俺もちょっと抵抗があるんだよな…めんどくさいが、前に働いてた職場から
一台拝借するか」
○ 国道
スピードを上げるライトバン。
ライトバンの後ろを走る車の後ろを走っているカスタード。
○ カスタード車内
ハンドルを握るH。
Hの脳裏に美智の言葉がリフレインする。
美智の声「もう二度と私の前に現れないで…」
憂い顔のH。次の瞬間、G5の言葉がHの脳裏に浮かぶ。
G5の声「作り話かどうか、霞に聞いてみたらいい…掛け替えのないものを失う前に…」
H、何かに気づき、ハッと目を見開く。
○ 葬儀屋『昭進葬祭』
4F建てのビル。ビルの前にやってくる浩太のライトバン。地下駐車場につながるスロープを下りていく。
数百メートル手前の道路脇に立ち止まるカスタード。
○ カスタード車内
ビルの様子を窺うH。しかし、少し落ち着かないそぶり。
G5の言葉が頭を過ぎり、離れない。
H、コンソールのホルダーにかけてある携帯電話を掴み、電源を入れる。
ディスプレイにG5の電話番号を表示させる。ディスプレイを見つめ、険しい表情を浮かべるH。
○ 高層マンション19F・1911号室
ベランダの前に立つG5。
外の景色を眺めている。
鳴り響く着信音。
ブルゾンのポケットから携帯を出し、電話に出るG5。
G5「もしもし…」
電話の声「…」
ほくそ笑むG5。
○ カスタード車内
携帯を耳に当てているH。
G5「やっと、話を聞く気になったのか?」
H「あなたが言った事…信じてあげる」
○ 高層マンション19F・1911号室
G5「どうしたんだ急に?まぁいい。これが本来の親子関係だ」
Hの声「話を聞く前に、約束して欲しい事がある…」
G5「何だ?」
Hの声「美智を利用するのをやめて」
険しい顔つきになるG5。
○ カスタード車内
G5の声「何を言ってる?」
H「彼女を使って玉木の事を調べてるんでしょ?彼女を巻き込まないで」
G5の声「さっぱり理解できんな」
H「これ以上、彼女を傷つけるような事をしたら…」
○ 高層マンション19F・1911号室
G5「…どうなるんだ?」
Hの声「想像に任せる…」
失笑するG5。
G5「おまえには、嘘をつけんな…」
○ カスタード車内
H、葬儀屋のビルの中から出てきた霊柩車を見つめる。
霊柩車、勢い良く道路に出て、走り去って行く。
H「用事ができた。話は、また後で…」
電話を切るH。車から降りる。
○ 葬儀屋『昭進葬祭』・地下駐車場
スロープを走って下りるH。
駐車レーンに並んで止まっている霊柩車の前で立ち止まる。
真ん中の駐車レーンが一つ空いている。黒いスーツを着た社員の若い男がうつ伏せで倒れている。
辺りを見回すH。
奥の駐車スペースにライトバンが放置されているのに気づく。
○ 双険山・麓
林の中の薄暗い坂道。棺桶を持ちながら歩いている作郎と峻。
作郎、前方を見つめる。湖が見える。
作郎「あともうちょいだ」
峻「もうちょい、もうちょいって…何度めだそのセリフ…」
作郎「湖が見えた。今度こそ間違いない」
○ フラワーショップ『ザイダ』1F
片付けられ、何一つ置かれていないフロア。
床の上に仰向けに寝転がる美智。
呆然と天井を見つめている。
美智「馬鹿すぎる、私…」
携帯の着メロが鳴り響く。
起き上がり、携帯に出る美智。
美智「もしもし…」
G5の声「私だ」
美智「あっ、こんにちは」
G5の声「今回の調査は、依頼主の要請で中止する事になった」
美智「えっ?」
G5の声「今、どこにいる?」
美智「…ええと、玉木の自宅の近くにあるコンビニ前です」
G5の声「今日は、もう帰っていい」
美智「…高松さん。今回の調査…本当にただの浮気調査だったんですか?」
G5の声「…と言うと?」
美智「…もし良かったら、依頼主に会わせて頂けませんか?」
G5の声「どうして?」
美智「調査をやめた理由を知りたくて」
G5の声「そんなこと君がいちいち知る必要はない」
美智「…すみません」
G5の声「次の依頼があるんだ。時期を見て連絡するから、自宅で待機していてくれ」
美智「はい…」
○ 高層マンション19F・1911号室
ソファに座っているG5。携帯を切る。
ニヤリとした表情で、グラスを持ち、ウーロン茶を飲み干す。
○ 双険山・麓・道路
道路脇の草むらに座っている峻。棺桶にもたれ、力なく俯いている。
腰を押さえ、顔を歪める。
峻「腰イタ!…駄目だ…相当きてるわ…」
峻の前にやってくる作郎。缶ジュースを持っている。
作郎「1キロ先の自販機で買ってきてやったぞ」
作郎、峻に缶ジュースを投げる。
キャッチできず、地面に落とす峻。
慌てて、地面に落ちたジュースを掴み、死に物狂いで一気飲みする。
作郎、思いつめた表情で峻の様子を見ている。
缶ジュースを飲み干す峻。
峻「ウッズー、タフだな。こんな重たいもんもって、山下りたところなのにさ…」
作郎「当たり前だろ。こう見えても黒帯持ってんだぜ」
峻「柔道やってたんだよな…そう言えば…」
作郎「おまえは?」
峻「帰宅部…」
ニヤける作郎。
峻「わざとらしいんだよ」
作郎「悪かったな。久しぶりに会えたのにこんなことさせちまって…」
峻「ホント…詐欺だぞ、これ…」
作郎「そう言うなよ、そのうち良い思い出になるさ」
峻「一生思い出さねぇよ」
苦笑する作郎。峻のそばを離れる。
峻に背中を向ける作郎。
ズボンのポケットからスタンガンを出す。
緊張した面持ちの作郎。スタンガンを持つ手を後ろにやり、ソッと峻に近づいて行く。
作郎「でも、おまえ、変わったよな」
峻「えっ?」
作郎「昔は、自分からこんなところへ行くタイプじゃなかったのに…」
峻「俺もいろいろあったからな…とくにこの数ヶ月間は…ウッズーもな」
立ち止まる作郎。
作郎「どんな風に?」
峻「昔は、幽霊なんて絶対信じなかったよな。信じてる奴をからかって笑いものにしてたのにさ…
こここまでやるとは、思わなかった」
作郎「ITの仕事してるって言ったけど、あれ、嘘…」
峻「えっ?」
作郎「本当は、実家の駄菓子屋継いだんだ…」
峻「なんだよ。初めから正直に言えば良かったのに…」
作郎「ちょっと、見栄を張りたかったんだ」
峻「じゃあ…東京の仕事も嘘だったのか?」
頷く作郎。
峻「見栄張りすぎだろ…」
作郎、咄嗟に峻の首にスタンガンを押し当てる。
電気ショックを受け、気絶する峻。
呆然と突っ立つ作郎。
作郎「先に謝ったからな。後でブツブツぼやくなよ…」
作郎、峻を林の中に引きずって行く。
× × ×
一時間後。
立ち止まる霊柩車。
車から降りる浩太と夏貴。
棺桶の上に座り、煙草を吸っている作郎。
作郎の前に歩み寄る浩太達。
立ち上がり、煙草を捨て、踏み消す作郎。
浩太「待たせたな」
浩太、棺桶を見つめ、
浩太「これか?」
作郎「はい」
浩太、夏貴を見つめ、
浩太「工具箱持って来い」
夏貴、霊柩車の助手席側のドアを開け、シートの下に置いてある工具箱を取り出す。
夏貴から工具箱を受け取る浩太。
浩太、工具箱の中から釘抜きを二本取り出し、一本を作郎に渡す。
二人、棺桶の蓋の周りに打ち付けられている釘を一本ずつはずして行く。
一斉に棺桶の蓋を持ち上げる浩太と作郎。
中には、包帯でくるまれた死体が横たわっている。
思わず顔を歪める作郎。
作郎「ミイラ?」
浩太、死体の頭を覆っている包帯を外して行く。
包帯の中からロングの髪の女の顔が露になる。
その様子を見ている作郎と夏貴。
夏貴「美香子…」
浩太「…まったく、手の込んだことしやがって…」
夏貴「これで今度こそ普通の生活ができるのね」
作郎「どう言うことなんですか?」
浩太「ずっと探してたんだ。7年近くもな…」
夏貴「私たちの仲間だったの」
浩太「昔、三人で宝石店を襲ってな。この女が盗んだ宝石を全て持ち逃げしたんだ」
夏貴「美香子は、つきあってた男と一緒にヨーロッパに逃亡した。その情報を知った私達も
美香子の後を追った。男は、見つけたけど、美香子は、見つけられなかった」
浩太「三年前、美香子が日本で自殺した事を知り、俺達も日本に戻ろうとしたが、日本の秘密機関が
俺達をマークしていると言う情報を聞いて、しばらく戻る事ができなかった」
夏貴「立派な剥製になっちゃって…」
作郎「人間の…剥製?」
浩太「美香子の新しい男が美香子の美しい姿を残すために剥製にしたんだとさ。口の中に宝石をつめて」
作郎「その男って、もしかして…」
夏貴「舟村州明。三日前に死んだ幽霊研究家兼剥製技師」
浩太「正確に言うと、俺達が幽霊してやったんだ」
夏貴「今頃、幽霊になった自分の記事を書いてるかもね」
作郎「あんた達一体…?」
夏貴「浩太、どうするの?」
浩太「ちと喋りすぎたな…」
二人、不気味な笑みを浮かべながら、作郎を見つめる。
作郎「死体を見つけたら、500万くれる約束でしたよね?」
夏貴「そんな約束したの?」
浩太「さぁ…忘れた」
夏貴、バックの中から短銃を取り出し、浩太に向ける。
夏貴「今度は、あなたが幽霊になる番…」
夏貴の銃を持つ手の甲に小石が当たる。
銃を落とす夏貴。
夏貴の前に転がり、銃を拾う人影。
すかさず立ち上がり、夏貴に短銃を向ける男の姿。男は、峻。
峻を見つめ、唖然とする作郎。
作郎「おまえ…」
峻「すげー、俺、かっちょいいー。今の見た?」
作郎「…」
峻「これが幽霊探しの真相かよ、ウッズー」
作郎「…店の借金があってさ。だから、こいつらの言った通りにした。それだけだ」
浩太「(峻を見つめ)渦城君のダチか?まんまとハメられた哀れな狸って感じだな」
峻「なんだって?」
浩太、スーツのポケットから銃を出し、引き金を引く。峻の足元で跳ねる弾丸。
峻、焦って、銃を落とす。
すかさず、銃を拾う夏貴。夏貴、作郎に銃を向ける。
浩太、峻に銃を向けている。
浩太「狸は、山にこもっていれば良かったんだ」
峻「ホント、黙って帰れば良かった…」
作郎「…」
峻「ウッズー、全部作り話かよ。幽霊探しに来たのに、俺達が幽霊になってどうするんだよ…」
夏貴、思わず笑い出し、
夏貴「傑作。フレンドリーな幽霊になって、伝説を作れば?」
浩太、夏貴、同時に引き金を引こうとした瞬間、夏貴の銃を蹴り落とす女の足が一瞬見える。
銃は、空を飛び、作郎の前に落ちる。
次の瞬間、浩太の銃も女の足で蹴り落とされる。浩太の前に現れる赤いコスチューム姿のH。
浩太にアームシェイドの銃口を向けている。
驚愕する浩太と夏貴。
唖然とする峻。
峻「H…なんでここに?」
H「あなたこそ、ここで何してるの?」
峻「長話になりそうだから、また後で…」
作郎、足元に落ちている夏貴の銃を拾う。銃を両手で構え、夏貴に向ける。
作郎「おまえらよくも騙しやがって…」
作郎のそばに近づこうとする峻。
作郎、峻の足元に向け、銃を発射する。
慌てて立ち止まる峻。
峻「ちょ…」
作郎、また、夏貴に銃を向ける。
作郎「近寄るな。撃つぞ」
峻「友達だろ?」
作郎「友達は、一時間前に終了だ」
峻「…」
作郎、自分のこめかみに銃口を当てる。
峻「ウッズー!」
H、峻達のほうを見つめる。
浩太、夏貴、アイコンタクトを取る。Hが目を離している隙に走り出す二人。
H、慌てて、浩太にマシンガンを撃つ。
浩太、霊柩車の運転席に乗り込む。唸るエンジン。
夏貴も車に向かっているが、Hがマシンガンを撃ち放ち、静止させる。
急発進する霊柩車。
H、高くジャンプし、霊柩車の屋根に張り付く。
スピードを上げ、湖岸の道を走り去って行く霊柩車。
叫ぶ夏貴。
夏貴「浩太!」
作郎、こめかみに銃口を当てたまま、微動だにしない。
困惑する峻。
峻「そんな簡単に壊れる程度の関係だったのか?俺達…」
作郎「そうさ。おまえならはめ安いと思って誘ったのさ」
峻「ひでぇな。でも、俺結構楽しかったぞ。死体を見つけるまでは…」
作郎「…」
峻「あの頃に戻った感じで…デジャブな時間だった…」
作郎「お前悔しくないのかよ」
峻「ウッズーは、どうなんだよ?」
作郎「俺は、悔しいよ。無茶苦茶な」
峻「俺も悔しいから、おまえを死なせない」
作郎「…」
作郎の前に歩み寄る峻。作郎の銃を静かに掴み取る。
峻「まだ幽霊になる年じゃねぇだろ、俺達…」
作郎、頭を下げ、
作郎「すまん…」
峻、頭をポリポリかいている。
○ 湖岸・道路
対向車線を食み出て、激しく蛇行する霊柩車。
霊柩車の屋根に捕まっているH。激しく揺さぶられ、今にも落ちそうになっている。
H、アームシェイドの発射口からワイヤーを発射する。
ワイヤーのフックが霊柩車のボンネットの先端にかかる。
ワイヤーを巻き戻すH。
ワイヤーによって、霊柩車のボンネットが開き、フロントガラスを覆う。
○ 霊柩車・車内
ボンネットに視界を遮られ、慌てふためく浩太。
ブレーキを踏み込む。
○ 湖岸・道路
横滑りしながら、立ち止まる霊柩車。
H、その反動で霊柩車の屋根から投げ出され、湖に落ちる。
車から降りる浩太。湖面を確認する。
浮き上がってこないH。
浩太、ほくそ笑み、踵を返し、車に戻る。その瞬間、湖の中からワイヤーが飛び出し、
浩太の胴体に鮮やかに巻きつく。
地面に倒れる浩太。
湖の中から、飛び出し、高くジャンプして浩太の前に着地するH。
H、浩太を睨みつけ、
H「お帰り、ジャロメン」
浩太「何だ?おまえ…」
H「後でじっくり教えてあげる」
○ とある雑居ビル・3F・リビング(数日後)
ソファに座る峻。プレステのリモコンを持ち、画面に見入っている。
画面に映るRPGゲームの画面。大陸を歩く三人のキャラ。
峻の背後で聞こえる女の声。
女の声「飽きないわね…」
思わず声を上げ、ハッと振り返る峻。
峻の後ろに立つ私服姿のH。
峻「インターホン押すとか、ドアをノックするとか…」
H、冷蔵庫を開ける。
中は、空。
H「プリンは?」
ゲームに夢中の峻。
H、テレビの前に立ち、
H「プリン」
峻「後で買いに行くよ。ちょ、そこどいて!」
テレビの前から離れるH。
戦闘画面。二人のキャラが敵にやられ、死んでいる。
呆然とする峻。
ベランダ前に置かれている鳥篭の前に屈み込むH。
止まり木に立つ黄色のインコ「カラメル」を見つめている。
H「お友達は、元気?」
峻「ウッズーのこと?」
H「…」
峻「まぁ、一応。実家に戻って一からやり直すって言ってたから大丈夫だと思うよ、たぶん…」
H「そう」
峻「でもビビったよ。まさか、あんなところでHと会うなんて…俺が監視されてるのかと思ったよ…」
憮然とするH。立ち上がり、峻の後ろを通って部屋を出て行こうとする。
峻「あっ、ちょっと待って」
立ち止まるH。
峻、テーブルの下のお菓子の箱を取り出す。箱には、『ス饅』のラベルがついている。
峻「ウッズーが贈ってきたんだ。新製品の饅頭。食べる?」
H、寡黙に立ち去って行く。
峻、饅頭を食べながら、
峻「はいはい。プリン一筋ね…」
○ フラワーショップ『ザイダ』前・(夜)
シャッターの前に立つH。
憂い顔を浮かべている。
暫くして、その場を立ち去るH。
Hの背後から聞こえる女の声…
女の声「H…」
振り返るH。
シャッターの横のドアから顔を出している美智。
H「戻ってたの?」
美智「ずっといたよ」
H「そう」
美智「この前の調査の件、結局中止になった。もしかして、高松さんに手を回したの、Hなの?」
H「高松?」
美智「私のボス…」
H「あの人はね、美智…実は…」
美智「もう何も言わないで。私やめることにしたから」
H「…」
美智「ごめんなさい。迷惑ばかりかけて」
H「店、再開するの?」
美智「まだわからない」
H「私にできる事があれば、協力する」
美智「プリンあるけど、食べて行く?」
H、優しい笑みを浮かべ、店の中に入る。
遠くの歩道に立ち、二人の様子を見つめているG5。
不気味な笑みを浮かべている。
―THE END―
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