『CODENAME:H→←8』 「リアる悪夢」 作ガース『ガースのお部屋』


○ とある雑居ビル・3F・リビング
  鳴り響くゲームの音。テレビにRPGのゲーム画面が映っている。ボス戦。壮絶なバトル。
  激しくコントローラーを動かす男の手。
  ソファに座る高部峻(22)。テレビ画面に食いついている。
Hの声「それ、最新版?」
  ハッと後ろを振り向く峻。
  赤いスーツ姿のコードネーム・H(木崎メイナ・24歳)が立っている。
峻「いつからそこに?」
H「さっきから」
峻「何で黙ってるの?」
H「邪魔して欲しかった?」
峻「気持ちわりぃだろ?」
H「結構古そうね」
峻「まぁな。10年以上前のだし」
H「なんで、今頃?」
峻「急にやりたくなったから」
H「ふーん」
  ボスを倒す峻。思わず歓喜の声を上げる。
峻「おっと、まだ油断できねぇ…」
  新しいボスキャラが画面を覆いつくす。
  ベランダの前に立つH。外の景色を眺めると、踵を返し、峻の後ろを横切って部屋を出て行く。
  峻、ゲームを中断し、
峻「あれ、任務は?」
  玄関からHの声が聞こえてくる。
H「暇だから寄っただけ」
  ドアの閉まる音が響く。
  怪訝な表情を浮かべる峻。
峻「スパイが暇って…あっ、俺もか」
  峻、スタートボタンを押し、ゲームをスタートさせる。
峻「何がネオエクスデスだよ、みだれうちじゃ、おりゃおりゃおりゃ!」

○ 高層マンション
  地上20階の細長いビル。

○ 1911号室ベッドルーム
  ベランダの前に立ち、携帯電話で話すG5(木崎満彦・52歳)。フードつきのブルゾンを着ている。
  フードで顔を隠している。
G5「なんで急に…」

○ フラワーショップ『ザイダ』・地下リビング
  電話の前に立ち、受話器を持つ前原美智(23)。
美智「やっぱり私は、花売りのほうが向いています」

○ 1911号室ベッドルーム
G5「誰かに説得されたのか?」
美智の声「いいえ。自分でそう思ったんです」

○ フラワーショップ『ザイダ』・地下リビング
G5の声「次の依頼だが…間違いなく君は興味を示す」
  神妙な面持ちの美智。

○ 峻の夢
  ソファに横になり眠る峻。ハッと目を覚ます。
  電源が入ったままのテレビ。スタジオでニュースを読んでいる女性アナウンサーが映っている。
  起き上がり、座る峻。
  テーブルに置かれている携帯を持ち、時計を見る。
  時間は、『15:04』を表示している。
  両手を高く広げ、大きな欠伸をする峻。
峻「一日中ゲームするつもりだったのに、6時間も無駄にしちまったよ…」
  峻、ふと、ベランダ際に置かれている鳥かごを見つめる。
  鳥かごの中にいるはずの黄色いインコ・カラメルの姿がない。
  峻、立ち上がり、鳥かごのそばに近づく。
  かごの下で死んでいるカラメル。
  愕然とする峻
  女性アナウンサーの声が峻の耳に入ってくる。
女性のアナウンサーの声「中部地方から関東方面へとさらに汚染地域が拡大しています。
 核シェルターをお持ちの方は、早急に非難してください…」
  慌てて、テレビの前に向かう峻。
  テレビ画面に映る炎上した原子炉。
  映像が時折、乱れている。
女性アナウンサー「今日の午後2時14分頃、名瀬川原子力発電所で火災が発生し、
 第2原子炉から大量の放射能が放出した模様です。事故現場には、科学技術庁の関係者が
 立ち入り、確認を続けていますが、以前、放射能の放出は、食い止められていません…」
  呆然と佇む峻。
峻「うっそぉ…おいおい、マジで…」
  峻、寝癖で立っている髪をいじる。ぽろぽろと抜け落ちる髪。
  抜けた髪を拾い上げ、愕然とする峻。さらに頭をいじりまわしている。
  鏡の前に立つ峻。
  剥げた自分の頭を見つめ、驚愕し、思わず声を上げる。

○ とある雑居ビル・3F・リビング
  ハッと起き上がる峻。
  寝癖のついた髪をいじり、確認している。
  テレビを見つめる峻。ラスボス戦の画面。ストップしたまま。
  鳥かごを見つめる峻。カラメルが元気良く止まり木の上を動き回っている。
  ホッとため息をつき、ソファに座る峻。コントローラーを持ち、またゲームを始める。
  鳴り響くノック音。
  表から聞こえる女の声。
女の声「すいませーん」
  
○ 同・玄関
  サッとドアを開ける峻。
  背の小柄なショートカットの女・久我亜美留(21)が立っている。
亜美留「こんにちは。私、久我と言います。高部峻さんですよね?」
峻「なんで僕の名前を?」
  亜美留、ポシェットから名刺を取り出し、峻に渡す。
  名刺を受け取り、まじまじと見つめる峻。
峻「これ…俺の前の会社の…」
亜美留「三日前に、近くのコンビニの駐車場で拾ったんです」
峻「…どうして僕がここに住んでるってわかったの?」
亜美留「ごめんなさい。後をつけちゃいました」
峻「別にいいのに…こんなのわざわざ…」
亜美留「私もそう思ったんですけど、何か気になっちゃって…」
峻「まっ、ありがとう…」
亜美留「ゲームの音が聞こえたんですけど…」
峻「あっ、ちょっと音うるさかったかな…」
亜美留「平日の昼間からゲームですか…」
  苦笑いする峻。
峻「今日は、仕事休みだから…」
亜美留「お休みのところごめんなさい。それじゃあ…」
  一礼し、立ち去る亜美留。
峻「あっ、ちょっと…」
  立ち止まり、峻を見つめる亜美留。

○ 同・リビング
  ソファに座る亜美留。
  テーブルに置いてあるスーパーファミコンを見つめ、
亜美留「うわっ、懐かしい!」
  キッチンから出てくる峻。
  両手に紅茶の缶を持ち、一つを亜美留の前に置く。
峻「何が?」
亜美留「これ、スーパーファミコンでしょ?私も持ってた」
峻「知ってんの?」
亜美留「一杯やりましたよ。RPGも」
  亜美留、コントローラーを持つ。
峻「やる?」
亜美留「いいですか?」
  峻、電源ボタンを入れる。
  亜美留、画面を見つめ、
亜美留「これ、途中でおじいちゃんが死んじゃうんですよね」
峻「そうそう…結構詳しいね…」
亜美留「『みだれうち』に『ぜになげ』って…邪道ですね」
  苦笑する峻。
峻「…やっぱりそう思う?」
  ゲームをやり出す亜美留。
峻「さっき俺の事つけたっていったけどさ…なんで?…」
亜美留「私、見たんです」
峻「見たって?」
亜美留「あなたが赤いスーツを着た女性と話しをしているところ…」
  固まる峻。
峻「あ、あれ友達だよ。コスプレ好きでさ、外でもしょっちゅうあんな格好して歩くから
 注意してやったの」
亜美留「もしかして、あなた…ス…」
峻「ちょっと待って。その先を言ったら、俺、消される…」
亜美留「…お願いしたい事があるんです」
  唾を飲み込む峻。

○ フラワーショップ『ザイダ』前
  立ち止まる黒い軽自動車『カスタード』。
  運転席から降りるH。白シャツに黒のジーンズ、眼鏡をかけた姿。
  店のシャッターの前を横切り、ドアの前に立つH。
  ドアノブを掴み、回す。鍵がかかっている。
  インターホンのボタンを押すH。
  反応がない。
  心配げな表情のH。

○ カスタード車内
  運転席に乗り込むH。
  コンソールの携帯入れに差し込まれている携帯電話の呼び出し音が鳴り響く。
  電話に出るH。
H「はい…」

○ 空港付近
  ジャンボ機が轟音を立てながら、着陸態勢に入っている。ゆっくりと滑走路に着地する。
  滑走路際の道路脇に停車している白いクラウン。

○ 白いクラウン車内
  運転席に座る黒いスーツを着た紳士風の男・霞(かすみ) 良次(45)。助手席に座るH。
霞「G5が美智を?」
  頷くH。
霞「何のために?」
H「わかりません。でも、彼女を利用している事は確かです」
霞「美智は、どこにいる?」
H「何をする気です?」
霞「美智の身柄を保護する」
H「本部に連れて行くつもりですか?」
霞「そうだ。何かまずい事でも?」
H「彼女の事は、私に任せてください」
  怪訝な表情を浮かべる霞。
霞「下手な隠し立てはするな。もし、妙な真似をしたら、こっちにも考えがある」
  H、険しい顔つき。

○ 公園
  遊歩道を歩く峻と亜美留。
峻「寒いね…」
亜美留「そうですか?」
峻「…もう一枚何か着てこれば良かった…」
亜美留「うちに戻ります?」
峻「今から戻ったら、また一時間かかっちゃうよ」
亜美留「そうですよね…」

○ 同・池
  池の上にかかる橋の上を歩く峻と亜美留。
亜美留「ここで自転車に乗った男とぶつかったんです」
  橋の真ん中で立ち止まる峻。
峻「君は、ここで何してたの?」
亜美留「ちょっと…色々と考え事してて、ボーっと池を眺めていました」
峻「男にかばんを引っ手繰られそうになって、無理矢理引っ張ったら、池に落ちちゃったってわけ?」
亜美留「はい。財布は、どうでもいいんです。どうしても必要なものが中に入ってて…」
  峻、ため息かをつきながら池の水面を見つめる。
峻「警察じゃ駄目なの?」
亜美留「警察には、知られたくない物なんです」
峻「一体どんな物?」
亜美留「見つかったら、教えます」
峻「…さっきの約束、ちゃんと守ってよ」
亜美留「わかってます。お礼に財布の中のお金、全部あげます」
峻「いくら入ってたの?」
亜美留「11万…」
  峻、顔色を変え、スーツの上着を脱ぎ始める。
亜美留「大丈夫ですか?」
峻「前に井戸の中に一日中閉じ込められた事があったんだけど…わりとへっちゃらだった」
  橋の柵に上がる峻。
亜美留「体調悪くしたら、ごめんなさい」
峻「鍛えてます…おそらく…」
  峻、歯をがたがたと震わせながら、勢い良く池に飛び込む。
  激しく鳴る水の音。
  亜美留、心配そうに様子を見つめる。
  
○ 東春銀行・正面入口
  激しく鳴り響く非常ベル。
  黒い目指し棒を被り、黒いコートを着た長身の男が表に出て、全速力で歩道を走り出す。
  左手に黒いスーツケースを持っている。
  男、走りながら、目指し棒を脱ぎ取る。赤茶の髪をし、面長の顔。

○ スーパー・地下駐車場
  車が何列にも渡ってびっしりと止まっている。
  通用口から出てくる男。ニット帽をかぶっている。
  車列の前を走る男。ズボンのポケットからリモコンキーを出し、
  シルバーのステーションワゴンのドアのロックを解除する。
  運転席のドアを開け、中に乗り込む。

○ ステーションワゴン車内
  運転席に座る男。
  シートに深くもたれ、一息つく。
  暫くして、助手席のドアが開く音がする。
  突然、助手席に乗り込んでくる見知らぬ女…。
  唖然とする男。
男「誰だおまえ?」
  男に顔を向ける女。女は、美智である。
  男、鋭い眼光で美智を睨み、ポケットに手を突っ込む。
  美智、コートのポケットから小型のビデオカメラを出し、男に見せつける。
美智「この中の動画…警察に持って行くけど、いい?」
  苦笑いを浮かべる男。
男「自分の寝顔でも撮ったのか?」
  美智、ディスプレイに記録した映像を映す。
  男が銀行から逃走している映像が流れる。
美智「車のナンバーも記録した。いいのね。それじゃあ…」
  美智、ドアを開け、車を降りようとする。
  男、慌てて、美智の腕を掴み、車の中に引き戻す。
男「結構度胸あるじゃん。強盗犯強請るなんてさ」
美智「目的は、お金じゃない」
男「…じゃあ、何だ?」
美智「あなたの大事な人に会わせてもらいたいの。水戸村さん」
  怪訝な表情を浮かべる男。男は、水戸村靖貴(28)。
靖貴「キモイな、おまえ…」
  不気味に笑みを浮かべる美智。

○ 高層マンション・1911号室ベッドルーム
  鏡の前に座っているG5。
  鏡に映るG5の顔。焼け爛れた自分の顔を睨みつけるG5。
  どこからともなく聞こえてくる携帯の呼び出し音。
  G5、立ち上がり、ベッドの上に置いてある携帯を掴む。ディスプレイを確認する。
  不気味な笑みを浮かべながら電話に出る。
G5「もしもし…」

○ カスタード車内
  停車中の車内。運転席に座るH。携帯で話している。
H「美智は、どこ?」
G5の声「何のことだ?」
H「利用しないでって言ったはずよ」
G5の声「彼女は、まだ辞める気は、ないみたいだぞ」
H「何をしたの?」
G5の声「何もしちゃいない。私の依頼を積極的に引き受けてくれたんだ」
H「彼女は、辞めるって私の前で言った」

○ 高級マンション・1911号室ベッドルーム
G5「気が変わったんだろう」
Hの声「呼び戻して、すぐに」
G5「ことわる」

○ カスタード車内
G5の声「心配なら自分で探せ。ヒントをやる。美智は、強盗事件の犯人を捜している」
H「…強盗事件」
G5の声「おまえの方の問題は、解決したのか?」
H「…」
G5の声「霞にまだ何も聞いていないのか」
H「あなたの妄想につきあってられない」
G5の声「奴は、知ってるんだぞ。おまえの母親を殺した本当の犯人を…」
H「…殺したのは、あなたよ」
G5の声「…まだ俺の事が信用できないのか…まぁ、それでもいい。いずれはっきりする事だ。
 それじゃあ、健闘を祈る」
  電話が切れる。
  険しい表情を浮かべながらも、どこか動揺を隠し切れないH。

○ 公園
  池の水際に立つ亜美留。
  心配げな表情で池の水面を見ている。
  水中から、顔を出す峻。
  唇をぶるぶると震わせている。
亜美留「大丈夫ですか?」
  峻、右手を高く上げ、赤い鞄を亜美留に見せる。
峻「これ?」
亜美留「そうです」
  峻、平泳ぎで亜美留の元に行き、鞄を手渡す。
  亜美留、鞄のフォックを開け、中を確認する。
  亜美留、笑みを浮かべ、
亜美留「良かった…」
  水の中から出て、地面に転がる峻。
  全身ずぶ濡れのまま、体育座りする。
亜美留「本当にありがとうございました」
  体を震わせながら、頷く峻。
峻「大事なもの…あった?」
亜美留「はい…あっ…」
  亜美留、鞄の中から財布を取り出し、札束を峻の前に差し出し、
亜美留「約束の、これ…」
峻「濡れてるから…後で受け取るよ」
亜美留「うちで乾かしてください」
峻「ここから近いの?」
亜美留「歩いて3分ほどです」
  峻、顔面蒼白。

○ 高級マンション『アベルパーク』・外観
  鉄筋コンクリートの6階建ての建物。
  
○ 同・エントランス
  自動ドアが開く。中に入ってくる峻と亜美留。
  亜美留、オートロックシステムの前に立ち、ボタンを押す。
  エントランスの扉が開く。
峻「1人で住んでるの?」
亜美留「えっ?」
峻「…変な意味じゃなくて」
亜美留「親と一緒です。今出かけてるから心配しなくてもいいですよ」
  エントランスのドアを潜る亜美留。峻も後を追う。

○ 同・5F通路
  エレベータのドアが開く。中から降りてくる峻と亜美留。
  504号室の前に立ち止まる二人。
  亜美留、ポシェットの中から鍵を取り出している。
  峻、強い風を浴びる。体を震わせながら、マンション下の景色を覗く。
  隣に立つマンションの前に立ち止まるステーションワゴン。
  車の運転席から靖貴、助手席から美智が降りる。
  峻、美智に気づき、ジッと見つめている。
  靖貴と美智、二人並んで隣のマンションの中に入って行く。
  呆然としている峻。
亜美留「どうしたんですか?」
峻「えっ?あっ別に…」
  家の中に入る二人。

○ 504号室・リビング
  中に入ってくる二人。
  テーブルの前に座り、ノートパソコンをいじっている中年の男の姿が見える。
  亜美留、ハッと立ち止まる。
  男は、亜美留の父・久我仁蔵(46)。
  スキンヘッド。強面の鋭い眼光で峻を睨みつける仁蔵。
  峻、目を逸らして、あたふたする。
亜美留「お友達…今からお仕事?」
仁蔵「ああ。9時頃には、戻ってくる」
  亜美留、怪訝な表情で仁蔵を見つめる。
  唖然とする峻。
  立ち上がり、峻の前に近づく仁蔵。
  対峙する二人。巨漢の体で威圧する仁蔵。峻の顔を睨みつけている。
  峻、俯いたまま、
仁蔵「母さんは、男を見る目があったのに、おまえは、誰に似たんだか…」
亜美留「お友達だって言ったでしょ」
  仁蔵、ムスッとしながら、部屋を出て行く。
  顔を上げる峻。
亜美留「ごめんなさい」
峻「別に気にしてないし…お父さん?」
  頷く亜美留。
亜美留「…母さん死んだショックで一気にハゲちゃって」
峻「どこで着替えたらいいかな…」
亜美留「応接間使ってください。こっちです」
  歩き出す亜美留。亜美留についていく峻。

○ 同・応接間
  パンツ一丁になり、ファンヒーターの前に体育座りしている峻。
  ズボンを前にかざし、乾かしている。
  ドア越しから亜美留の声が聞こえる。
亜美留の声「父親のものだけど、良かったら使ってください。ここに置いておきます」
峻「あっ、いいよ。すぐに乾くから」
  携帯の着信音が鳴る。電話に出る亜美留。
亜美留の声「もしもし…」
  亜美留、足音を立て、ドアのそばから離れて行く。
  峻、立ち上がり、ソッとドアを少し開ける。
  小さなドアの隙間からリビングを覗き込む峻。
  しかし、亜美留の姿は見えず、声も聞こえない。
  暫くして、物音がし、足音が迫ってくる。
  峻、慌てて、ドアを閉める。
  亜美留がまたドアの前にやってくる。ドア越しから聞こえる亜美留の声。
亜美留の声「ちゃんと洗ってますから、使ってください」
  ファンヒーターの前に座っている峻。
峻「ああ…どうも」
  ドサッと何かが倒れる音がする。
  怪訝な表情を浮かべる峻。
峻「…どうかした?」
  亜美留の声が聞こえない。
  峻、立ち上がり、ソッとドアを開ける。
  ドアの前でうつ伏せに倒れている亜美留。
  峻、慌てて、部屋を出て、亜美留の体を抱き起こす。
峻「ちょっと、ねぇねぇ!」
  亜美留、意識を失っている。
  動揺する峻。
  突然、インターホンが鳴る。
峻「誰だよ、こんな時に…」
  玄関のドアの前に立つ峻。覗き穴で確認する。
  覗き穴から見える男の影。男は、靖貴。何度もインターホンを押す靖貴。
  困惑する峻。
峻「やべぇ…」
  峻、慌てて、その場を離れる。
  亜美留をおんぶして、リビングに連れて行く峻。
  
○ 同・リビング
  峻、テーブルの前に亜美留を寝かせると、ダッシュで部屋を出て行く。

○ 同・応接間
  静かにドアを閉める峻。
  乾ききっていないシャツやズボンを取り、慌てて着始める。
  
○ 同・玄関
  鍵音が鳴り、扉が開く。中に入ってくる靖貴。
靖貴「おい、亜美留!いるんだろ!」
  靖貴、ムスッとした顔つきで靴を脱ぎ、家に入り込む。
  応接間のドアのそばを横切る靖貴。

○ 同・応接間
  部屋の灯りを消し、暗闇で息を潜めている峻。ドアに耳を当てている。
  暫くして、靖貴の声が聞こえてくる。
靖貴の声「おい、寝てる場合か、おい!…どうした、薬でも飲んだのか?」
  峻、静かにドアを開け、リビングの様子を覗き込む。
  靖貴の後ろ姿が微かに見える。
  
○ 同・リビング
  テーブルの前で意識を失っている亜美留の前に立つ靖貴。携帯をかけている。
  足を激しく揺すり、苛立っている様子。
  電話がつながる。
靖貴「女が倒れて、意識がないんです。住所?住所は…」
  峻、隙を見計らって応接間を出て、静かに玄関に向かっている。
  その時、峻のスーツのポケットに入っていた携帯の呼び出し音が鳴る。
  峻、慌てて、走り出し、靴を手で持ち、外へ飛び出す。
  靖貴、音に気づき、玄関の様子を覗き見る。
  何事もなかったようにいつもの光景の玄関。

○ 高級マンション『アベルパーク』・階段
  慌てて勢い良く降りている峻。
  踊り場で立ち止まり、携帯のディスプレイを確認し、電話に出る。
峻「もしもし?」

○ カスタード車内
  停車中の車内。運転席に座るH。携帯で話している。
H「どこにいるの?」
峻の声「友達の家…今から帰るところ…」
H「至急手伝ってもらいたい事がある」
峻の声「何?」
H「美智を探して欲しい」

○ 『アベルパーク』・階段踊り場
峻「彼女どうかしたの?」
Hの声「シルバーのステーションワゴンを探して。3時間前に起きた銀行強盗事件の犯人が乗ってる」
峻「あの子が何でそんな車を…」
  峻の脳裏に、過ぎる光景。
    ×  ×  ×
  隣のマンションの前に止まるステーションワゴン…車から降りる靖貴と美智…
  亜美留の自宅、ドアの覗き穴で見た靖貴の顔…。
    ×  ×  ×
  峻、勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべ、
峻「ちょろいな」
Hの声「えっ?」
峻「Hよりも先に見つけ出してやるよ」
  電話を切る峻。

○ カスタード車内
  H、憮然とした面持ち。

○ マンション『ミシェルモール』前
  亜美留が住むマンションの隣に立つ8階建てのタイル張りの建物。
  建物の前に止まっているステーションワゴンのそばに近づいて行く峻。
  車内を覗き込む。
  シートには、何も置かれていない。
  救急車のサイレン音が聞こえてくる。音がだんだんこちらに近づいてくる。
  『アベルパーク』マンションの前に立ち止まる救急車。
  2人の救急隊員が担架を出し、エントランスへ入って行く。
  その様子を見つめる峻。

○ 『アベルパーク』・エントランス
  担架に乗せられた亜美留。
  担架を押す救急隊員。その後ろに付き添うように歩いている靖貴。

○ 同・前
  救急車に乗せられる亜美留。
  救急隊員に声をかけられる靖貴。
救急隊員の男「一緒に乗ってください」
靖貴「あっ、後で車で追いかけます」
救急隊員の男「身内の方でしょ?」
靖貴「いいえ…ただの友達です」
  怪訝な表情を浮かべる救急隊員。
救急隊員の男「じゃあ、携帯の電話番号教えてください」
靖貴「えっ、なんで?」
救急隊員の男「搬送先の病院を知らせるので…」
  苦笑いする靖貴。
靖貴「あっ、そうか…えーと…」
  携帯を出し、番号を確認する靖貴。

○ マンション『ミシェルモール』前
  ステーションワゴンの前に駆けてくる靖貴。
  運転席に乗り込む。

○ ステーションワゴン車内
  運転席のシートに座り、大きくため息をつく靖貴。
靖貴「めんどくせぇな…クソ、何で今日に限ってめんどくせぇ目に合うんだ…」
  突然、車の助手席に乗り込んでくる男。
  唖然とする靖貴。男を見つめる。
  男は、峻である。
峻「ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
靖貴「なんだ、てめぇ!」
峻「久我さんの事、追わなくていいの?つきあってんだろ?」
靖貴「おまえ、亜美留のこと知ってるのか?」
峻「誤解するなよ。今日知り合ったばかりだから」
靖貴「…今日亜美留と一緒にいたのか?」
峻「ついさっきまで。池に鞄を落としたって言うから、拾ってやったんだ」
  靖貴、神妙に面持ちになり、
靖貴「鞄?」
峻「大事な物が入ってるって。俺は、見てないけど、かなり重要なものだったんじゃないかな…」
靖貴「その鞄、どこにあるか知ってるか?」
峻「さぁ…」
  峻、不敵な笑みを浮かべている。
  靖貴、峻を怪訝に睨みつけ、
靖貴「おまえ、何か隠してるだろ?」
峻「隠してるって?」
靖貴「亜美留と何を話した?」
峻「大事なものを拾うためにさ、こんなにクソ寒いのに、池の中潜ったんだぜ。あ、そうだ。
 まだ謝礼金受け取ってなかった…」
靖貴「それを俺にタカリに来たのか?」
峻「謝礼金のことは、どうでもいいんだ。それより俺も聞きたい事があるんだ」
  息を飲む靖貴。
峻「3時間前に起きた銀行強盗事件の犯人がこの辺りにいるらしいんだけど…」
  固まる靖貴。
峻「犯人は、シルバーのステーションワゴンで逃走したんだって…」
靖貴「おまえ…ポリか?」
峻「そう見える?」
靖貴「いや…」
峻「さっき、この車に若い女の子を乗せていたよね?」
靖貴「…」
峻「その子を探してるんだ」
靖貴「もしかして、あいつもポリ?」
峻「そう見えた?」
靖貴「いや…」
峻「こうしよう。その子のいる場所に案内してくれたら、見逃してやるよ」
靖貴「教えなかったら?」
峻「警察に連絡する」
  峻の目の前にナイフを差し出す靖貴。
靖貴「ここで口封じもできるんだぜ」
  動揺する峻。しかし、作り笑いをし、
峻「大事な物がある場所がわからなくなってもいいのかな…」
靖貴「亜美留が目を覚ましたら、本人から直接聞く」
  峻、かなり追いつめられる。しかし、また笑みを浮かべ、
峻「大事なものは…俺が持ってるんだ。彼女に託された…」
靖貴「嘘つけ!」
峻「じゃあ、殺せよ。彼女もどこにあるか知らないぞ」
  靖貴、ナイフをしまう。
  峻、緊張が一気に溶け、がくっと俯く。

○ マンション『ミシェルモール』105号室・玄関
  ドアが開く。光が差し込み、一気に明るくなる。
  靖貴、続いて峻が部屋に入ってくる。

○ 同・リビング
  部屋の電灯が点く。
  ソファの前に解けたロープが落ちている。
  ロープを拾い上げる靖貴。
峻「どこにいるんだよ?」
靖貴「逃げやがった…」
峻「はぁ?」
  ベランダのカーテンを開ける靖貴。扉のガラスが割れている。
靖貴「やべぇ…あいつポリに俺のこと…」
峻「…何のために強盗なんかやったんだ?」
靖貴「おまえに話す気なんてねぇよ…」
  靖貴の携帯が鳴っている。電話に出る靖貴。
靖貴「はい」
救急隊員の声「久我亜美留さんは、草丘救命センターに運びましたので…」
靖貴「草丘救命…?どこにあんだよ?」
  靖貴、ハッと何かを思い起こし、
靖貴「亜美留…」
  部屋を飛び出す靖貴。峻も慌てて靖貴の後を追う。

○ ステーションワゴン車内
  運転席に乗り込む靖貴。エンジンをかける。
  マンションから出てくる峻。
  車の前に立ちはだかる。
峻「ちょっと待て」

○ 急発進するステーションワゴン
  峻、ステーションワゴンの前バンパーと接触、尻を軽く打つ。
  悲鳴を上げ、地面に転がる峻。
峻「いててて…俺より運転下手糞だぜあいつ…」
  峻、スーツのポケットから携帯を取り出す。

○ カスタード車内
  走行している。ハンドルを握るH。
H「美智を見つけた?」
  コンソールのスピーカーから峻の声が聞こえる。
峻の声「彼女と一緒にいた強盗犯の男が草丘救命なんとかって言う病院に向かった…」

○ 草丘救命救急センター・玄関口
  止まる救急車。
  車から、亜美留の乗った担架が出され、施設の入口に運び出されている。

○ 同・中・通路
  亜美留の乗った担架が検査室に運び込まれる。
  柱のそばに身を隠し、その様子を窺っている女…。
  女は、美智。妖しい目つきをしている。

○ 住宅街・交差点
  赤信号を突っ切るステーションワゴン。
  近くに止まっていたパトカーがUターンし、ステーションワゴンを追跡し始める。
  うなるサイレン。

○ パトカー車内
  ハンドルを握る警官A。ステーションワゴンをまじまじと見つめ、
警官A「あの車のナンバーを照合してくれ。今朝の強盗事件の逃走車両と似ている」
  助手席に座る警官B。レシーバーを持ち、
警官B「こちら、306…今朝の銀行強盗事件の逃走車と思われる車を発見。ナンバーは…」

○ ステーションワゴン車内
  バックミラーを見つめる靖貴。
  パトカーが映っている。
  悔しげな表情を浮かべ、
靖貴「クソ…厄日ってレベルじゃねぇよ…」

○ 草丘救命救急センター・緊急治療室
  ベッドで眠る亜美留。点滴を打っている。仕切りのカーテンが開く。静かに亜美留の前に近づく美智。
  思いつめた表情で亜美留の顔を見つめている。
  目を覚ます亜美留。

○ 亜美留の主観
  美智の顔がうっすらと見え始める。

○ 草丘救命救急センター・緊急治療室
  美智、優しい笑みを浮かべ、
美智「気がついた?」
亜美留「…あなたは?」
美智「私は、靖貴さんのお友達です」
亜美留「靖貴…靖貴は、どこ?」
美智「もうすぐ来るわ。あなたにちょっとお話があって…」
  呆然と美智を見つめる亜美留。
亜美留「何の話ですか?」
美智「5年前の秋…あなた、吉永祐一と言う人と会ったわね」
亜美留「吉永…祐一…」
美智「記録によると、吉永さんは、5年前に交通事故で亡くなっている。初めてあなたと会った日に…」
  亜美留、少しずつ記憶を取り戻している。
美智「吉永さんを車で轢き殺したの、あなたでしょ?」
亜美留「私、あの時まだ高校生よ。車なんて運転できない」
美智「いいえ。あなたよ」
  混乱している亜美留。
美智「吉永祐一は、私の父親なの」
  愕然とする亜美留。
  美智、憎しみを堪えたようなやるせない表情を浮かべている。
美智「吉永さんは、P―BLACKの工作員として、5年前ある地下組織に潜り込んでいたの。
 そこで、その組織のメンバーとP―BLACKのある諜報員が精通していることを知ってしまった。
 あなたは、吉永さんを殺す時、誰かに手助けしてもらったはずよ。そいつがP―BLACKの裏切り者…」
亜美留「P-BLACKって何?」
  美智、スーツのポケットの中から、小型のナイフを出す。
  腕を大きく振り上げ、亜美留の胸にナイフを振り落とす美智。その時、何者かが美智の腕を掴む。
  美智の後ろに立つ看護士の女…。
  美智、看護士を見つめ、唖然とする。
美智「H…」
  看護士に変装したHが美智の腕を掴んでいる。

○ 同・屋上
  柵の前に立つ美智。その後ろに立つH。
H「なぜ、あの子を殺そうとしたの?」
美智「Hと同じ理由よ…」
H「私と同じ?」
  振り返る美智。
美智「2年前、私は、海堂天世と呼ばれるグループの工作員だった」
H「リーダーの海堂があなたのハッキング技術を利用して、政府のコンピュータに侵入し、
 情報を盗み出そうとした」
美智「その時、私は、リーダーの海堂と一緒にあなたに捕まった」
H「あなたの父親は、P―BLACKのメンバーだったわね」
美智「ハッキングの技術も全て父から教えを受けた。あの時、父が生きていたら、私は、
 海堂に利用されなかったかもしれない」
H「もしかして、父親の復讐をするために…」
美智「昨日までそんな事これっぽっちも考えていなかったのに…」
H「あなたが知り合った探偵事務所の高松さんって人…あの人は、私の父親よ…」
  愕然とする美智。
H「あの人もP―BLACKに恨みを持っている。あなたを利用して、それを晴らそうとしているの」
美智「…どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」
H「言えば、またあなたを黒い世界へ引き戻す事になってしまうと思ったから」
美智「もう遅いわ」
  美智、Hを横切り、立ち去って行く。
  H、呆然と立ち竦む。

○ 国道
  サイレンを鳴らしながら、列を作って走る数台のパトカー。
  とある吹き抜けのマンションの前を横切る。

○ とある吹き抜けのマンション・駐車場
  空いた駐車スペースに入り込み、待機しているステーションワゴン。

○ ステーションワゴン車内
  シートを倒し、身を隠している靖貴。
  暫くしてパトカーのサイレン音が過ぎ去ると、シートを上げ、すかさずエンジンをかける。

○ とある吹き抜けのマンション・駐車場
  猛烈な勢いで国道に出るステーションワゴン。パトカーと逆方向の道を走り去って行く。

○ 草丘救命救急センター・ロビー
  大勢の見舞い客や患者が座席に座り、また慌しく歩いている。
  入口の自動ドアが開く。走って中に入ってくる峻。
  立ち止まり、息を凝らす。
  峻の前に近づいてくるH。
  峻、Hの格好をまじまじと見つめ、
峻「その衣装、どこから調達したの?」
H「どうやってここまで来たの?」
峻「タクシーに決まってるだろ。後で請求書を送るから経費で落としてくれよ」
  H、寡黙に峻を横切り、入口のドアに向かって歩き出す。
  Hの後を追う峻。
H「あなたの連絡が遅れていたら、美智は、殺人者になっていた」
峻「彼女がここに?久我さんを殺そうとしたのか?なんで?」
H「5年前の爆破計画…」
峻「爆破計画?何それ?」
H「説明すると長くなるから、想像に任せる」
峻「美智を見つけたのは、俺だぞ。ちゃんと話せよ」
H「焼きプリン買ってきて」
  呆れた表情で立ち止まる峻。1人前進するH。
峻「いつもこれだよ…」

○ 高層マンション・1911号室リビング
  ソファに座るG5。
  静かに部屋に入ってくる美智。
  G5、足音に気づき、喋り出す。
G5「手がかりは、見つかったのか?」
美智「はい」
G5「じゃあ報告書をまとめてもらおうか」
美智「その前に、お話ししたいことがあります」
G5「ギャラの事かな?報告書の内容を見て、判断させてもらうよ」
美智「あなたもP―BLACKの関係者だったんですね」
  G5、険しい顔つきになる。
美智「私を騙して、組織の情報を掴むつもりだったんでしょ?」
  G5、立ち上がり、美智と対峙する。
G5「Hから聞いたのか?」
美智「用済みになったら、私を消す気ですか?」
G5「私は、もうP―BLACKの人間ではない。そんな野蛮な事は、考えていないから安心しなさい」
美智「でも、Hは、あなたを憎んでいる」
G5「あの親子をどうしたいんだ?」
美智「絶対に許せません」
G5「多くの犠牲を伴ないそうだな…」
美智「前に一度、P―BLACKの開発部門のコンピュータにアクセスした事があるんです。
 その時、設計図をいくつか入手しました」
G5「何の設計図だ?」
美智「アームシェイド…」
  G5の眼光が鋭くなる。
美智「Hのような超人的な力があれば、仕事の効率が上がると思います…」
G5「覚悟は、できているのか?」
  頷く美智。
  G5、不敵な笑みを浮かべる。

○ 草丘救命救急センター・ロビー
  慌しく中に入ってくる靖貴。
  座席の合間の通りを抜け、受付カウンターの前に駆け寄る。
  受付の女性に話しかける靖貴。
靖貴「久我亜美留の部屋は、どこだ?」
受付の女性「くがあみるさん?少々お待ちください」
  女性、奥のデスクの前に立ち寄り、電話で確認を取っている。
靖貴「早くしろ!時間がねぇんだよ!」

○ 同・緊急治療室前・通路
  勢い良く走る靖貴。そばを通った患者や看護士達が苦い表情で靖貴を見ている。
  入口のドアを開け、中に駆け込む靖貴。

○ 同・緊急治療室
  カーテンを開け、亜美留のベッドの前に立つ靖貴。
靖貴「おい!」
  うっすらと目を開ける亜美留。
靖貴「大丈夫か?」
亜美留「うん」
靖貴「どこが悪いんだよ?」
亜美留「まだ先生から何も聞いてないけど、ずっと前から吐き気がして、お腹もしょっちゅう痛くて…」
靖貴「あのさ、あれ、どこにやった?」
亜美留「あれって?」
靖貴「メモリースティックだよ」
亜美留「あれ…池に落としちゃって…」
靖貴「いいから場所を言え」
亜美留「キッチンの調理台の上…」
靖貴「わかった…じゃあな」
  靖貴、踵を返すが立ち止まり、
靖貴「俺以外に誰かここに来たか?」
亜美留「何?」
靖貴「いや、まっいいや」
亜美留「お父さんを止めて」
靖貴「…」
亜美留「何か悪い事考えてる…またあの組織に誘われたんだ…」
靖貴「お前知ってたのか?」
亜美留「私たち幼馴染みでしょ。靖貴だったら、話しを聞いてくれると思うの」
靖貴「俺でも無理だって」
亜美留「どうして?」
靖貴「親父さんには、色々と世話になったけど、あの人といたら俺達が駄目になる」
亜美留「…」
靖貴「病気治ったらさ、ここから離れようぜ」
亜美留「離れるって?どこへ」
靖貴「できるだけ遠くに。心配しなくても金は、たんまりあるし」
亜美留「お父さんは、どうなるの?」
靖貴「…また後でな」
  足早に立ち去る靖貴。

○ 同・表
  ロータリーのタクシー乗り場に止まっている黄色いタクシーの後部席に乗り込む靖貴。
  発進するタクシー。

○ 山の麓・ガソリンスタンド跡地(夕方)
  坂道を上ってくるタクシー。
  跡地の前で立ち止まる。
  タクシーから降りる靖貴。走り去って行くタクシー。
  奥のほうに立ち止まる茶色のワゴン。
  窓に黒いスモークが貼られている。
  ワゴンに駆け寄って行く靖貴。
  ワゴンの運転席から降りてくるスキンヘッドの中年の男。サングラスをつけている。
  サングラスを外す男。男は、仁蔵。
仁蔵「時間かかりすぎだぞ」
靖貴「すいません」
仁蔵「つけられなかっただろうな?」
靖貴「大丈夫です」
仁蔵「あれは、見つかったか?」
  靖貴、コートのポケットからメモリースティックを取り出し、仁蔵に渡す。
靖貴「やっぱ、亜美留が隠してた」
仁蔵「あいつ、メモリーの中身を…」
靖貴「…どうでしょうね」
仁蔵「おまえがわかるような場所にほったらかしにしてるからだろ、馬鹿!」
靖貴「別にばれてもいいじゃないですか。正直に言ったらあいつも納得して…」
仁蔵「黙れ!あいつには、絶対ばらすわけにはいかん。前に約束したんだ。今度組織と関わったら、
 親子の縁切るってな」
  靖貴、落胆した面持ち。
仁蔵「5年前、あいつは、命がけで俺を止めた。あれ以来、俺は、組織を離れ、足を洗ったんだ」
靖貴「あいつの事が心配なら、何でまた組織の仕事を受けたんです?」
仁蔵「それは、仕事が終わったら説明してやる」
  遠くから聞こえる男の声。
男の声「今説明してくださいよ」
  声のほうに振り向く仁蔵と靖貴。
  峻が二人の前に歩み寄ってくる。
  唖然とする二人。
靖貴「おまえ、なんでここに…」
峻「尾行経験少ないんですけど…やったら、結構うまくいっちゃって…」
  仁蔵、靖貴の頭をどつき、
仁蔵「おもいっきりつけられてるじゃねぇかよ、馬鹿」
峻「娘さん、倒れて病院に担ぎ込まれたんですよ」
仁蔵「なんだと?」
  立ち止まる峻。
峻「それに、彼女、命を狙われています」
仁蔵「誰にだ?」
峻「5年前にあなたが関わった事が理由で、彼女がそのターゲットにされているんです」
仁蔵「…」
峻「5年前の爆破計画…覚えてるでしょ?それを力づくで阻止しようとした娘さんは、あなたを助けるために、
 人を殺してしまった」
  仁蔵、悔しげに唇を噛み締める。
仁蔵「亜美留は、どこの病院にいるんだ?」
峻「隣の男に聞いてくださいよ」
  仁蔵、靖貴を睨みつけ、
仁蔵「おまえ、亜美留が入院した事知ってたのか?」
靖貴「後で言うつもりだったんですよ。メモリーの方が先かなと思って…」
  靖貴の頭をどつく仁蔵。
仁蔵「馬鹿野郎!」
峻「心配しなくても大丈夫。娘さんには、ちゃんと見張りをつけてあります」
靖貴「おまえ、一体何者なんだよ?」
峻「説明すると長くなるから、想像に任せる」
  突然、轟く小さな銃声。
  その場に前のめりに倒れる峻。
  峻の背中に撃たれた痕がある。
  唖然とする仁蔵と靖貴。
  二人の前に黒いスーツを着た男がやってくる。男は、霞。右手にサイレンサーつきの銃を持っている。
  呆然と立ち竦む二人…。二人の前に立ち止まる霞。サイレンサーを取り外し、銃をホルダーにしまう。
霞「さぁ、行こうか」
  仁蔵、緊張した面持ち。
仁蔵「娘が…」
霞「娘の事は、心配ない。おまえ達には、こちらの計画通りに動いてもらう」

○ 草丘救命救急センター・外観(夜)
  
○ 同・3F個室
  暗闇の部屋。ベッドで眠る亜美留。布団を頭まで被り、顔は、見えない。
  表で響く足音。どんどんこちらに迫ってくる。部屋のドアの前で鳴り止む。
  ゆっくりとドアが開き、何者かの黒い影が部屋の中に差し込む。
  女の細い足がじわじわとベッドに迫る…
  女、手を伸ばし、布団を捲り上げる。
  布団の中で寝ていたのは、私服姿のH。
  女を見つめるH。
H「こんなに早く来ると思ってなかった」
  起き上がるH。
  女、後退し、逃げようとする。H、すかさず右腕を前に突き出し、
  アームシェイドの発射口からロープを発射する。
  女の体に絡みつくロープ。きつく縛りつけている。
  H、部屋の灯りをつける。
  女の正体は、美智。ロープで腕と体を縛り付けられている。
美智「久我亜美留は、どこにいるの?」
H「もうここにはいない」
美智「じゃあ、ここの看護士達は、ぐるになって私を騙したのね」
H「私が頼んだの。あなたがまた絶対来ると思って」
美智「ひどい事するね」
H「殺し屋の真似事はもう終わりにしましょう」
美智「Hだって今まで何人も殺してきたじゃない」
H「…好きで殺したわけじゃない」
美智「目の前に親を殺した犯人がいるのに、見逃す事なんてできる?」
H「…」
美智「あの親子は、私の人生を狂わせた」
  美智の体が突然青白く発光する。ロープが解け、美智の足元にずり落ちる。
  唖然とするH。
H「美智…」
  美智、窓に向かって勢い良く駆け出す。
  窓を破り、表へ飛び出す美智。
  窓の前に立ち、外の様子を窺うH。
  見事に地上に着地する美智。
  その様子を見つめ、愕然としているH。
  美智、振り返り、Hを見つめる。
美智「ずっとHのパワーに憧れてた。もうHだけのものじゃないからね」
  不敵な笑みを浮かべながら走り去る美智。
  Hも窓から身を乗り出し、地上へ飛び降りる。
  鮮やかに着地し、美智の後を追い、走り出すH。

○ 山の麓・ガソリンスタンド跡地
  暗い空の下、コンクリートの上にうつ伏せで倒れている峻。
  暫くして、起き上がる。
  峻、背中を押さえ、苦痛の表情。
峻「いててて…なんだこの激痛は…」
  辺りを見回す峻。
  唖然とし、スッと立ち上がる。周囲を見回す。
峻「真っ暗…あれ?」

○ 湾岸・開発地区
  更地だらけの区画。道路を走るワゴン。
  脇道に立ち止まる。車の運転席から仁蔵、助手席から靖貴が降りる。
  海の向こうの陸地にそびえ立つ原子力発電所。ライトアップされ、オレンジの光に包まれている。
  発電所をまじまじと見ている二人。
  暫くして、青いスポーツカーがけたたましいエンジンを鳴り響かせながら二人の前に突進してくる。
  急ブレーキ。立ち止まるスポーツカー。
  ヘッドライトの光をもろに浴びている二人。靖貴、手で光を遮る。
  スポーカーの運転席から降りてくる男。短髪、肉付きの良い長身の男・巻波寛(36)。
  二人の前に立ちはだかる巻波。
巻波「どうもっす。お久しぶりっす」
仁蔵「そろそろやめてくれんかな。その喋り方」
巻波「あっ、申し訳ないっす。久我さんと会うと、昔の自分思い出しちゃってつい…」
仁蔵「準備は、どこまで進んでるんだ」
巻波「うちの若い奴5、6人連れて、現地に向かってます」
仁蔵「時間は?」
巻波「12時ジャスト」
  仁蔵、腕時計を確認する。
  時間は、『11:05』を表示している。
仁蔵「約一時間か…」
巻波「例の物、渡してもらいますか?」
  仁蔵、皮ジャンのポケットの中からメモリースティックを取り出す。
  巻波にメモリースティックを渡す。
  靖貴、突然、巻波に声を上げる。
靖貴「おい、そのメモリーには、何も入ってないぞ」
巻波「ぬ?」
  慌てる仁蔵。
仁蔵「靖貴、おまえ…」
  仁蔵の背後から男の声が聞こえる。
  ワゴンから降りてくる霞。サイレンサーつきの銃を巻波に向け、近づく。
霞「計画は、中止だ」
巻波「どちらさまっすか?」
霞「P―BLACK」
  靖貴、突然、スポーツカーのほうに向かって走り出す。
仁蔵「靖貴!」
  靖貴、スポーツカーの運転席に乗り込む。
  勢い良く走り出すスポーツカー。三人に向かって突進してくる。
  霞、銃を構え、引き金を引く。フロントガラスを突き破る銃弾。
  スポーツカー、ふらふらと蛇行し、更地の上に積み上げられた木材に乗り上げ、激しく横転する。
  その様子を見つめ、怒号を上げる巻波。
巻波「おい、それローンまだ終わってねぇんだぞ!」
  霞、銃を構えながら、巻波のそばに近づく。
霞「諦めろ。どうせ、二度と乗れん。両手を頭に」
  巻波、両手を後頭部に乗せる。
  巻波のボディチェックを始める霞。

○ 『アベルパーク』504号室・リビング
  電灯が点いている。
  ソファでうとうとと眠っている亜美留。
  玄関のドアが開く音がする。
  部屋の中に入ってくる人影。ゆっくりと亜美留の背後に近づく。
  亜美留の首を両手で掴む女の手。
  亜美留、目を覚まし、呻き声を上げる。
  女は、美智。美智、亜美留の首を力強く締めている。
  突然、美智の右腕にワイヤーが絡みつく。
  ワイヤーに引っ張り上げられる道の右腕。
  部屋の入口に立つH。アームシェイドから伸びたワイヤーを巻き上げ、美智を亜美留から
  引き離そうとしている。
  美智の右腕が青白く発光する。切断されるワイヤー。
  唖然とするH。
美智「どうして私の邪魔をするの?」
H「あなたを殺人者にしたくない」
美智「そうやっていつもカッコつけて…」
  美智の体が青白く発光する。
  青と白のツートンで施されたスーツを身にまとう美智。
  右腕に青色のアームシェイドを装着している。
  驚愕するH。
美智「これでやっと互角になれた…」
H「G5にまだ、そんな力が残っていたなんて…」
美智「Hのお父様は、素敵よ。だってこんなものを簡単に作ってしまうんだから」
H「そんな力を持っても不幸になるだけよ」
美智「いいえ。この力があれば、なんだってできる」
  美智、アームシェイドの二連水平の銃口を、亜美留の頭に向ける。
美智「誰にも邪魔させない」
H「やめなさい、美智」
美智「Hが一番の理解者だと思ってたのに…」
  H、アームシェイドの発射口からワイヤーを発射する。
  美智、その場から姿を消す。
  ワイヤーを引き戻すH。
  瞬間的にHの背後に回り込む美智。
  美智、Hの首に腕を回し、アームシェイドの銃口をHの腹に当てる。
H「G5は、ずっとあなたを利用するわよ」
美智「それでもいい。あの人は、私を新しいステージへ導いてくれたんだから」
H「未来のないステージよ」
美智「そんな事まだわからない」
  Hの首を強く絞める美智。
  H、その場から姿を消し、瞬間移動して、美智のまん前に立つ。
  すかさずワイヤーを投げ飛ばす。美智のアームシェイドに絡みつくワイヤー。
  H、ボタンを操作し、ワイヤーに高圧電流を流す。
  美智のアームシェイドが火を噴く。
  思わず、悲鳴を上げる美智。
  美智、アームシェイドの銃口をHに向け、マシンガンを発射する。
  H、瞬間移動して、その場から姿を消す。
  美智の背後に回り込む。激しく拳を打ち合う二人。美智のハイキックを払い除け、足払いするH。
  前のめりに倒れる美智。
  美智、素早く立ち上がり、回し蹴り。
  H、美智の蹴りを受け、勢い良く吹き飛ばされる。タンスにぶつかり、その場に倒れ込む。
  美智、アームシェイドの銃口をHに向ける。しかし、エラー音が鳴り、弾が出ない。
  美智、焦った様子で、アームシェイドのボタンを操作している。
  H、床に寝そべったままアームシェイドの銃口を美智に向ける。
H「動かないで!」
  美智、動きを止め、不敵な笑みを浮かべる。
美智「Hに殺されるなら、本望よ」
  躊躇するH。
美智「さぁ…」
  その時、部屋の中に入ってくる峻。
峻「あれ…」
  峻のほうに顔を向ける美智。
  美智の姿を見つめ、唖然とする峻。
峻「どうしたの?…Hみたいな格好しちゃって…」
H「亜美留を連れて、早く逃げて!」
峻「えっ?」
美智「その子に手を出したら、あんたも殺す」
  状況が飲み込めない峻。
峻「何かの芝居の練習?これ…」
H「いいから早く!」
  峻、訳のわからないまま、亜美留を立ち上がらせる。
  美智、峻にアームシェイドを向ける。
  H、すかさず立ち上がり、背後から美智の体を押さえ込み、そのまま、ベランダになだれ込む。

○ 同・バルコニー
  ベランダの扉を破り、バルコニーから転落する二人。
  慌ててやってくる峻。下の様子を見つめる。
峻「H!」

○ 同・自転車置き場
  横一列に並べて置かれている自転車。その上の屋根に仰向けに倒れているH。
  H、暫くして、目を開け、起き上がる。
  辺りを見回す。美智の姿がない。
  急いで階段を駆け下りてくる峻。
  Hがいる場所に近づく。
峻「大丈夫か?」
H「美智は?」
峻「さぁ…」
H「早く亜美留のところに戻って」
  峻、踵を返し、また階段を駆け上る。
  憂いの表情を浮かべるH。

○ P―BLACK本部・地下G2Aオフィス
  黒い壁に覆われたシックな部屋。
  仕切りの磨りガラスの前に立つ霞。
  磨りガラス向こうに、黒い椅子に座る男の後ろ姿が見える。スキンヘッドの男、暗号名『G2A』。
G2A「コード8AX0は、どうなった?」
霞「無事に終了しました。久我並びに海堂グループの残党5名全員を拘束しています」
G2A「G5は、まだ見つからないのか?」
霞「情報収集を進めています。数日中に居場所を突き止めます」
G2A「手がかりは、あるわけだな?」
霞「コード8AX0にも奴が絡んでいました」
G2A「我々しか知り得ない情報を誰かから入手している…」
霞「内部にG5とつながっている人間がいます」
G2A「Hの可能性は?」
霞「それは、ありえません。すでに調査済みです」
G2A「G5の件からHを外せ」
霞「わかりました」
  少し動揺した面持ちの霞。

○ 『アベルパーク』504号室・リビング
  部屋の中央で対峙するHと峻。
峻「えー?マジで?」
H「美智は、G5の作ったスーツとアームシェイドを身につけて、私と同じ力を持った」
峻「彼女にそんな過去があったなんて…」
H「美智は、必ずまた、久我亜美留の命を狙ってくる…」
  峻、深いため息をつき、
峻「久我さんは、結局、どこが悪かったの?」
H「医者の話だと特に体の異常は、なかったらしい。想像妊娠じゃないかって」
峻「…水戸村は、なんで銀行強盗なんかしたんだろう」
H「水戸村は、久我の計画の事を知って、亜美留と駆け落ちしようとしたの」
峻「じゃあ、そのために銀行強盗を…」
H「そう言えば、水戸村を尾行した後、何してたの?」
峻「水戸村と久我さんの親父が合流した場所までは突き止めたんだけど…その後…」
  峻、背中に激痛が走り、苦痛の表情を浮かべる。
峻「いててて…」
H「どうかしたの?」
峻「そこで、誰かに後ろから撃たれたような…4時間ぐらいずっと気を失ってた…」
  怪訝な表情を浮かべるH。
峻「でさ、久我さんの親父、一体何の計画を進めていたんだ?」
H「原子力発電所の乗っ取り…でも、もう大丈夫。さっき連絡が入った。地下組織は、全員拘束された」
  愕然とする峻。
峻「…今朝見た夢、もしかして予知夢?」
H「夢?」
峻「あっ、別に…」

○ 立体駐車場2F(翌日・朝)
  横一列に並んで止まっている車。その中に白いクラウンが止まっている。

○ クラウン車内
  運転席に霞、助手席にHが座っている。
霞「そうだ。あいつを撃ったのは、この俺だ」
H「どうして?」
霞「コード8AX0のような重要な任務に、スパイの見習いを巻き込ませるわけにはいかなかった。
 だから麻酔弾で眠らせた」
H「偶然とは言え、私の管理が行き届かなかったのが原因です。作戦の邪魔をしてしまい
 申し訳ございません」
霞「久我は、我々に協力しただけだ。水戸村は、それを知らずに暴走した」
H「…USBメモリーには、何が?」
霞「発電所の設計図と5年前の爆破計画のプランファイルが一部残っていた」
H「…」
霞「G5の件だが、別の要員が担当する事になった」
  唖然とするH。
H「G2Aの命令ですか?」
  頷く霞。
霞「動いている事がばれたら、おまえは、処罰される。P―BLACKの活動ができなくなるぞ」
H「G2Aと直接交渉します。美智を止められるのは、私だけです…」
  
○ 繁華街
  激しく行き交う人々。
  歩道橋の雑踏の中を歩いている私服姿のの美智。
  悪魔に取り付かれたような眼つき。不気味な表情を浮かべている。

 
                                                   ―THE END―

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