『メトロジェノン』TENA CODE003「ユニティーパワー」 BY ガース『ガースのお部屋』

○ 銀行内
  入り口の前に黒の武装服とゴリラのマスクを被った男が立ち、警備員を投げ飛ばしている。
  女子行員の悲鳴が上がる。
  椅子に座る客達の前に立つ象のマスクをした男。男は、鼠色の武装服を身に付けている。
  そばにいた若い男の胸を突く。
  男、ふんわりと宙に浮き、そばの壁に投げ飛ばされる。
  同じく、黄色い武装服とライオンのマスクをした男が女子行員の前に行き、
ライオンのマスクの男「五千万円お願いします。一分以内で」
  女子行員、今にも泣き出しそうな顔で金庫に向かって走って行く。
  
○ 同・地下駐車場
  専用口の扉が開き、マスクをした三人組の男が勢い良く走り出てくる。
  ライオンとゴリラのマスクをした男は、それぞれ黒い大きなキャリアバックを両手に持っている。
  勢い良く雄叫びをあげるゴリラのマスクの男。
ゴリラのマスクの男「サイコー!」
象のマスクの男「楽勝だな。病み付きになりそうだぜ」
  駐車スペースに止めてあった白いステーションワゴンに乗り込む象とゴリラのマスクの男。
  そこへ二人の警官が銃を構え、車を取り囲む。
警官A「おい、止まれ!」
  車の助手席の前で立ち止まるライオンのマスクの男。警官達のほうに向かって静かに歩き始める。
  警官A、思わず発砲する。
  弾丸は、ライオンのマスクの男の左胸に当たるが火花を上げ、跳ね返している。
  呆然としている警官達。
  警官達、男に銃を撃ち捲っているが、次々と弾丸が跳ね返されている。
  やがて、弾切れ。警官達、呆然と突っ立ったまま、微動だにしない。
  ライオンのマスクの男、警官Aの銃を奪い取り、銃のバレルを折り曲げるとそのまま警官に銃を返す。
ライオンのマスクの男「気が済みましたか?」
  呆然と突っ立ったままの警官A。
  踵を返し、すかさず車に乗り込むライオンのマスクの男。
  ヘッドライトを光らせ、急発信するステーションワゴン。
  
○ 同・敷地内
  スロープを勢い良く駆け登ってくるステーションワゴン。
  一般道を走り出し、スピードを上げる。
  
○ レストラン内
  窓際のテーブルの座席に座る真坂 和久(28)。テーブルに右肘をつき、
  つまらなそうな表情を浮かべている。
  その対面に三原 葉菜美(20)が座っている。
  葉菜美、メロンジュースを啜りながら、ジッと真坂を見つめ、
葉菜美「何しょげてんの?嬉しくないの?」
  真坂、葉菜美を見つめ、
真坂「いや…嬉しいけど」
葉菜美「私さ、二十三までに結婚して子供を生むのが小さい頃からの夢だったのよね。
 ちょっと早かったけど、ついに叶ちゃったんだよ」
真坂「お前には、言ってなかったけど、俺さ…子供いるんだ」
  葉菜美、驚愕し、
葉菜美「はぁ?誰の子よ?」
真坂「前の奥さんとの子」
葉菜美「やだ…あんた、バツイチなの?」
  頷く真坂。
葉菜美「何で今まで黙ってたのよ?」
真坂「隠す気はなかったんだけどさ…」
  葉菜美、突然立ち上がり、その場から立ち去って行く。
  真坂、追いかけ、葉菜美の右の手首を掴む。
真坂「ちよっと、おい」
  葉菜美、真坂の頬に張り手を食らわし、
葉菜美「死ねよ、カス!」
  
○ 同・駐車場
  入り口のドアから葉菜美が出てくる。
  葉菜美、辺りを見回し、唖然とする。
  黒いBMWが猛スピードで駐車場を走り出て行く。
葉菜美「ドロボー、ふざけないでよ!」
  急いで駆け始める葉菜美。
  入り口のドアが開き、真坂が出てくる。真坂、頬を手で押さえている。
  駐車場の入口の歩道に立ち、走り去るBMWを見ている葉菜美。
葉菜美「もう!信じらんない!」
  真坂、葉菜美の隣に近づく。
真坂「どうした?」
  葉菜美、真坂を睨み付け、
葉菜美「占いじゃあ今日の運勢良かったはずなのに…あんたよ、あんたが疫病神!」
  葉菜美、そのまま真坂の前を離れ、歩道の前に行き、携帯をかける。
  ふと、駐車場を見つめる真坂。
  道の真中に乗り捨てられているステーションワゴン。
  
○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  監視モニターに病室内の様子が映っている。医師や看護婦達がベッドに眠る患者に掴みかかり、
  呻き声を上げながら、殴りつけている。
  モニターを見つめる北(ほく) 一真(28)とディジア。ディジア、モニターから目を背ける。
  二人の背後にあるソファに座っている椎名 歩夢(54)。腕かけに肘をつき、モニターを見ている。
  椎名、立ち上がり、
椎名「付近で同様の事件がこの一週間に立て続けに七件起きた…」
  北、ディジア、椎名を見つめる。
椎名「MMK―51は、人間を瞬時に凶暴化させる驚異的な細菌だ。感染後、
 1時間程度で安定期に入るが、数時間後、突然変異を始め、それを繰り返すごとに
 凶暴さが増して行く」
北「何者かが実験的に散蒔いてるって事ですか?」
  椎名、右手に持っているリモコンでモニターの映像を切り替える。
  モニターに病院内の玄関口に設置された監視カメラの映像が映る。
  モニターを見つめる北とディジア。
  モニターに野球帽を被った小柄の子供が両手をジャンパーのポケットに突っ込み、
  俯き加減で歩いているのが映っている。
椎名「病院内で暴行事件が起きる三時間前に玄関口の監視カメラが撮らえた映像だ。
 中央を歩く子供のジャンパーの右側のポケットから黄色い突起物が見えるはずだ」
  ディジア、映像をまじまじと見つめ、
ディジア「MMK―51の入った容器…二週間前、TENAの幹部・畑中博樹が
 入谷研究所から盗んだものですね」
椎名「その通り。すでに事件の起きた病院には、入谷研究所が開発した新型触媒の
 特殊フィルターマスクを配布してある。病原菌を抑える抗体血清もまもなく完成する予定だ。
 空中感染は、今のところ確認されていない」
北「どうして、研究所がそんな危険なものを作っていたんですか?」
椎名「微生物実験の最中に偶然できてしまったものだと研究所の所長は言ってる。
 研究所とTENAのつながりについては、現在別のチームが内定調査中だ」
北「しかし、なぜ、あんな子供がMMK―51を…」
椎名「それを調べるのが今回の君達の仕事だ。ところで、真坂は?」
ディジア「もうすぐ戻るはずなんですけど…(腕時計を見つめ)もう十分も過ぎてる…」
 北、映像をまじまじと見つめている。
椎名「何か気になる事でもあるのか?」
北「左側のポケットの膨らみが気になって」
椎名「(北を見つめ)真坂と感染ルートを当たれ」
北「そのことなんですけど…あいつとは、その…どうも相性が…」
  ディジア、そそくさとその場を立ち去って行く。
椎名「駄目なのか…」
北「オペレータの中から一人、推薦したい奴がいるんですが…」
    
○ 立体駐車場・2F
  スロープを駆け上がってくる黒いBMW。
  急停止し、バックで駐車スペースに入り込み、エンジンを止める。
  ドアが一斉に開き、Yシャツとグレイのズボンを履いた白髪の男、南輝之(59)、
  薄い白髪、焦げ茶色のベストとベージュのズボンを履いた男、影下晴伸(57)、
  スキンヘッドでサングラスをし、黄色いシャツにジーパンを履いた男、山之内和明(59)の
  三人の初老の男達が降りてくる。
  助手席と後部席から降りた男、右手に重たそうな買い物袋を持っている。
  三人、顔を合わし、頷くと、エレベータのほうに向かって歩き出す。
  
○ ショッピングモール内・公園
  滑り台に上り、遊んでいる南泰隆(10)。
  入り口前に南が立っている。
南「泰隆!」
  泰隆、南に気づき、入り口に向かって走って行く。
泰隆「遅かったね、じいちゃん」
南「道が混んでてな。腹減ったか?」
  モールに向かって歩き出す二人。
泰隆「さっきから腹がギュルギュル鳴ってるよ」
  南、泰隆の頭を撫で、
南「おいしいもん食いに行こう」
泰隆「焼肉食いたい!」
南「焼肉か?よし、腹がはちきれるくらい食わしてやるぞ」
泰隆「そんなに食いたくねぇよ」
  笑みを浮かべ、泰隆の頭を撫でる南。
  
○ 倉庫地下・JWA本部・通路
  OP司令室の前を歩く真坂。司令室の扉が開き、ディジアが出てくる。
  真坂、ディジアと目を合わし、手を振る。
真坂「よっ!」
ディジア「会議の時間までに戻るって言ってたのに、何してたの?」
真坂「友達の車が盗難にあって…自宅まで送り届けてたら、こんな時間に…」
  ディジア、ふくれっ面で踵を返し、真坂のそばを横切り、歩き出す。
真坂「仕事の説明は、北から聞くよ。あいつは?」
ディジア「もう捜査に出たわ」
真坂「一人で?」
ディジア「いいえ、オペレータの谷田君を連れて行った・・・あなたとは、相性が合わないって・・・」
  真坂、一瞬、表情を強ばらせるが、すぐに余裕の笑みを浮かべ、
真坂「お互い様。俺も正直、あいつとは、やりにくかったしな」
  ディジア、神妙な面持ち…。
  
○ ビジネス街
  国道を疾走するグリーンのスポーツカー・B―COA。
男の声「本当に良かったんですか?僕で…」  

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に長身の眼鏡をかけた男・谷田星司(26)が座っている。
北「前々から表に出たいって、総監に志願してただろ」
谷田「北さんとまた仕事ができるなんて、嬉しいです。現場は、始めてだから、緊張します」
北「お前にもう一人紹介する奴がいる。ジェノン、紹介してやれ」
  中央コンソールの上に設置されている音声レベルゲージが青く光る。
ジェノン「はじめまして。私は、この車の自己管理システムのメインプログラム、ジェノンです」
  谷田、驚愕し、
谷田「びびったぁ…うちの部署には、捜査用のスーパーマシーンがあるって前々から聞いてたけど、
 まさかこんな機能までついてるなんて…」
ジェノン「ドライバーのアシストと捜査活動を支援するため、この車に組み込まれました」
北「ジェノン、MMK―51の患者が隔離されている病院のリストアップを頼む」
ジェノン「しばらくお待ちください」
  センタコンソールに設置されている4つのモニターの右上の画面に病院のデータベースが出力される。
  谷田、モニターを見つめ、
谷田「凄いじゃないですか!ジェノンって、なんで女性の声なんですか?」
北「さぁな。どうして?」
谷田「いや、深い意味は、ないですけど、声を聞いてるとなんか懐かしい感じがするって言うか…」
  北、怪訝に谷田を一瞥し、
北「懐かしい?」
谷田「いえ、なんでもありません…」

○ 倉庫地下・JWA本部・資料室
  資料ファイルがぎっしり詰まった棚がいくつも並んでいる。
  中央のオペレーションテーブルに座り、ディスプレイと向き合うディジア。
  資料ファイルの内容をキーボードに打ち込んでいる。
  棚の間を潜り抜け、歩いている真坂。両手に山のように積み上げた資料ファイルを持ち、
  ディジアの元に向かっている。
  テーブルの空いているスペースにドサッとファイルを置く真坂。
  ディジア、ディスプレイの画面を見つめたまま、
ディジア「次は、N―4二段目のナンバー3041から49までのファイルをお願い。それと、
 (そばに積み重ねているファイルを指を差し)これ、打ち終わったから元の場所に戻して」
  真坂、くたびれた様子で溜め息を吐き、ディジアの横の椅子に座り込む。
真坂「一日中こんな仕事させる気か?」
ディジア「仕事を回して上げたんだから、文句は言わない」
真坂「…こんなことするためにJWAに入ったわけじゃないんだけど」
ディジア「失礼ね。TENAの犯罪資料をデータ化する重要な作業なのよ。B―COAの捜査データ検索も
 このデータベースがなかったら使い物にならないんだから」
真坂「わかってるけどさ。このまま雑用ばかりって事はないよな?」
  ディジア、膨れっ面をし、
ディジア「今、総監が総合本部と交渉中よ。捜査活動を続けたいなら、九州支部のほうにでも
 移動してもらったほうがいいかも」
真坂「場所なんてどこだっていい。TENAの親玉と直で張り合えるなら…」
  ディジア、キーボードを打つのを止め、
  真坂を見つめる。
ディジア「(失笑し)直って…」
真坂「あいつらは、俺が絶対潰すから。まぁ見てろ…」
  呆れた表情を浮かべるディジア。
  キーボードのそばに置かれている電話が鳴る。受話器を取るディジア。
ディジア「はい…わかりました」
  受話器を置くディジア。
ディジア「総監が呼んでるわ…」
真坂「ほら、来た…」
  真坂、スッと立ち上がる。

○ 森田病院・駐車場
  駐車スペースに止まるB―COA。
  
○ 同・隔離室
  ベッドで横になる若い医師。両手、両足を鎖で縛られ、激しく体を揺さぶっている。
  ベッドの前にやってくる北と谷田。
  若い医師、呆然と天井を見ている。
  谷田、顔を顰める。
北「エフェドリンの副作用の症状と似ているらしい。一暴れした後、全ての力が吸い取られて、
 生きた屍のようになる…」
  
○ 同・ナースステーション
  看護婦から事情を聞く北と谷田。
看護婦「院長が暴れ出す二時間ほど前に…あそこのエレベータの前に立っていました…」
谷田「監視カメラの映像を見せて貰えますか?」
  看護婦の後をついていく二人。モニターとビデオの前に立つ。
  看護婦、ビデオの再生ボタンを押す。
  モニターにエレベータ前の映像が映る。
  画面が巻き戻しされる。帽子を被った男の子がエレベータの前に立っているのが見える。
  画面が再生される。
  顔は、帽子のひさしに隠れて見えない。
  男の子、両手をジャンパーのポケットに突っ込み、辺りをちらちら見ている。
  北、画面をまじまじと見つめる。
  子供がジャンパーのポケットから、小さな白いカードのようなものを取り出すが、すぐにまたしまう。

○ 同・ロビー
  北と谷田が歩いている。
谷田「奴らが病院ばかりを狙う理由って一体何なんでしょうね?」
北「…次行くぞ」
  北、足を早め玄関に向かって行く。
谷田「あっ、はい…」
  谷田、北の後を追う。
  
○ 国道を疾走するB―COA
  
○ B―COA車内
  電子アラームと共に左下のモニターに椎名の姿が映し出される。
椎名の声「頑張ってるか、谷田君」
  姿勢を整える谷田。
椎名の声「くれぐれも捜査の邪魔は、しないように」
谷田「はい…肝に銘じております」
椎名の声「君達が今向かっている江崎医療センターで隔離されていた看護婦が病院から抜け出した。
 細菌は、安定期に入っているがまた、いつ何時突然変異を起こすかわからない」
北「看護婦の写真と身体的特徴を教えてください」
椎名の声「データは、本部のサーバーにすでに記録済みだ。よろしく頼む」
  モニターから椎名が消える。
北「ジェノン、医療センター付近の地図を出してくれ」
  右上のモニターに地図のイメージが映し出される。モニターをまじまじと見つめる谷田。
ジェノンの声「JWA専用衛生の映像も出力しますか?」
北「頼む」
  ボタンを操作する谷田。
  左上のモニターに衛生の熱感知モード映像が映し出される。
  谷田、衛星映像を見つめる。
  人の熱反応が数多く見られる。
谷田「…ここは、商店街ですね…物凄いスピードで移動している奴がいます」
  北、モニターを見つめ、怪訝な表情を浮かべる。

○ 商店街
  白衣を着た女が雑踏の中を猛スピードで駆け抜けている。
  
○ 裏路地
  雑居ビルが並ぶ通りを走る白衣の女。
  あるビルの前で男の手に腕を掴まれ、引っ張り込まれる女。
  
○ ある雑居ビル・階段前
  眼鏡をかけた巨漢の男、畑中博樹(44)が女と対峙する。
畑中「病院から抜け出してきたのか?」
女「あなた、誰?…私のこと何か知ってるの?」
畑中「あんたが感染した細菌は、周りにいる人間を皆殺しにする作用がある。つまり、
 あんたは、無差別殺人犯になるってわけだ」
女「…そんなの嫌!」
  畑中、右手の掌に乗せたピンク色の錠剤を女に見せつけ、
畑中「これは、その細菌を殺す薬だ。欲しいか?」
  女、薬を奪い取ろうと右手を差し出す。
  畑中、薬を地面に落とし、踏み潰す。
畑中「来い」
  表で、銃のスライドを引く音がする。
  二人の前に両手で銃を構えた男が表れる。男は、真坂である。
  畑中、看護婦の首に右腕を回し、看護婦を盾にする。
畑中「しつこいぞ、この野郎」
真坂「おいおい、今度は、篭城事件でも起こすつもりか?やめとけって、後で辛い
 思いするのはおまえなんだぞ」
  真坂の後ろのほうで車のブレーキ音が鳴る。ふと、後ろを見る真坂。畑中、その隙に、
  真坂の顔にエルボーを食らわす。
  銃を落とす真坂。畑中、透かさず、真坂の銃を拾い、女を連れ、外に逃げ出す。
  
○ 同・ビル前
  立ち止まるB―COA。
  北と谷田が車から降りている。
  北、前方を見つめる。入口から出てきた畑中と女に気づき、唖然とする。
北「畑中…」
  北、咄嗟に銃を構える。
  谷田も銃を取り出すが、足下に落とし、慌てて拾い上げようとしている。
  畑中、女を盾にし、銃を北に向ける。
  ビルから、真坂が顔を手で押さえながら出てくる。真坂、北、互いに気づき、唖然とする。
  暫くして、女の様子が豹変、体を震わせ、獣のような呻き声を上げると、
  畑中の銃を持つ腕に噛みつく。
  畑中、思わず銃を手放し、女を引き離そうとするが、女、噛みついたまま、微動だにしない。
  真坂、咄嗟に走り、自分の銃を拾い上げると、畑中と女を引き離そうとするが、
  女に顔面を殴りつけられ、その場に倒れる。
  北と谷田も畑中達の前に行き、女を取り押さえようとするが、女は、二人を振り払い、
  畑中の首を両手で絞め始める。
  畑中の顔がみるみる紅潮し、やがて、息絶える。
  北、女の背中に銃を向け、撃つ。
  女、畑中と共にその場に倒れる。
  唖然とする谷田。起き上がる真坂。女を見つめ、驚愕し、
真坂「気でも狂ったのか?」
谷田「何も撃つことはないでしょう…」
北「馬鹿、今撃ったのは、睡眠弾だ」
  真坂、谷田、安堵の表情。
真坂「おまえもMMK―51に感染したかと思ったぜ」
  
○ 江崎医療センター・手術室前
  扉の上の「手術中」のランプが点灯している。
  通路に立つ真坂。右手にコーヒーの缶を持ち飲んでいる。
  暫くして、北が真坂の前にやってくる。
  北と対峙する真坂。
北「おまえ、あそこで何をしてた?」
真坂「俺は、総監に依頼されて動いてるだけだ。詳しくは、総監に直接聞けよ」
北「中畑は、入谷研究所からMMK―51を盗み出した男だ。こっちの事件にも関係してる」
真坂「MMK―51?何だそれ?」
北「人を瞬間的に凶暴化させる細菌だ」
真坂「へぇ。俺は、中畑と接触していた男をマークしてたんだ。そんなどえらい事件を
 起こしていた奴だったとはな…」
北「マークしてた男ってのは誰だ?」
  真坂、コーヒーを飲みながら、北のそばから離れて行く。
  北、険しい表情で真坂を睨み付ける。
  「手術中」のランプが消える。
  扉が開き、手術用のズボンとシャツを着た医師の男が出てくる。
  真坂、北を横切り、医師の前に駆けて行き、
真坂「中畑は?」
医師「残念ながら…第4頸椎が粉砕していた…」
  医師、そのまま二人の前を立ち去って行く。
  真坂、コーヒーを飲み干し、そのまま北を横切り立ち去って行く。
  真坂を追う北。
北「待てよ」
真坂「…」
北「中畑と会ってた相手のことを教えろ」
真坂「新しい相棒と一緒に別の手がかりを見つけりゃあいいだろ」
北「俺達の捜査に一切協力しないって事か」
真坂「それを望んだのは、おまえだろ」
  北、足を止める。
  真坂、足早に立ち去って行く。
  
○ B―COA車内
  運転席に乗り込む北。苛立った様子で、突然両手でハンドルを叩きつける。
  スピーカーからジェノンの声が聞こえる。
ジェノンの声「ハンドルを乱暴に扱わないでください」
北「うるさい、黙ってろ」
ジェノンの声「物に八つ当たりするのは、よくありません。あなたの心は乱れています。
 落ち着いてください」
北「コンピュータが偉そうに…シェンズみたいな口をきくな…」
  北、唖然とし、不思議そうな表情を浮かべる。
ジェノンの声「シェンズ…JWAコードナンバー5401、諜報部所属、本名椎名奈央美24歳。
 2005年5月13日深夜、任務遂行中に背中にTENAの特殊弾を被弾。
 5月14日午後4時13分死亡…」
  北、呆然とし、
北「そんな情報、誰も聞いてないぞ」
ジェノンの声「私は、生きてる…」
  北、唖然とし、
北「…今何て言った?」
  助手席のドアが開き、谷田が乗り込んでくる。
谷田「逃走した看護婦、隔離施設に収監されました。例の副作用の症状が出ていて、
 まだ事情を聞ける状態じゃ…」
  谷田、呆然とする北の姿を見つめ、
谷田「どうかしましたか?」
北「いや…」
  電子アラームと共に左下のモニターに椎名の顔が映る。
北「ちょうど良かった。真坂が追ってる事件のことについて聞きたいことがあるんです」
椎名の声「その前に、港区の成在病院でまたMMK―51が散蒔かれた。すぐに現場に向かってくれ」
  北、エンジンをスタートさせる。
  
○ 江崎医療センター・駐車場
  勢い良く、市道を右折し、走り去って行くB―COA。
  
○ 住宅街
  あるアパートの前に立っている真坂。
  2階の部屋の様子を窺っている。
  階段を上り、2階の通路を歩いている少年。泰隆である。
  真坂、向かいの住宅の壁の隅に身を隠す。真中の部屋のドアが開き、中から南が出てくる。
  南、心配気な表情で泰隆の頭を撫で、
南「終わったか?」
  泰隆、頷き、
泰隆「うん」
 
○ 霊園
  南家の墓に線香を備える泰隆。
  南と泰隆、墓の前に立ち、手を合わせる。中央に建つモニュメントの前に立ち、
  二人の様子を窺っている真坂。
  車のエンジン音が鳴り響いてくる。
  真坂、振り返り、通りを見つめる。
  白いクレスタが真坂の前を横切って行く。
  車、立ち止まると、運転席からベージュのブラウスと赤いスカートを履いた女が降りてくる。
  南、女を見つめている。
南「泰隆…公園に行ってなさい」
  泰隆、女を見つめ、神妙な面持ちを浮かべながら、隣の公園に向かって走って行く。
  女、南の前に近づく。
女「泰隆君、今日も学校休んでるんですね」
南「暫く行きたくないらしくて…」
女「新しい仕事が入ったんです」
  女、右手に持っている封筒を南に手渡す。
女「資料に書いてある場所。時間は、今晩7時」
南「これで最後にしたい」
女「契約期間は、まだ十日ほどあります」
南「じゃあ、泰隆だけでも、外してやってくれないか」
女「それも無理です…」
南「…」
  女、南に頭を下げ、
女「すいません、私が泰隆くんを巻き込んでしまったばっかりに…」
南「…あんたの話に乗ったのは、俺達のほうじゃないか」
  女、顔を上げ、南を見つめる。
女「じゃあ、お願いします」
  女、一礼し、踵を返すとその場を立ち去って行く。
    ×  ×  ×
  車に乗り込む女。エンジンをスタートさせると勢い良くバックして行く。
  墓の影に隠れていた真坂が顔を出す。
  ジャケットのポケットから小型のディスプレイを取り出し、画面を見つめる。
  車に取り付けた発信器の位置を示すランプが発光している。
  
○ 成在病院・駐車場
  勢い良く敷地の中に入ってくるB―COA。駐車スペースに止まると、
  車の中から北と谷田が降りてくる。
  平屋の白い建物に向かって走り始める。
  
○ 同・待合フロア
  待合席のあちこちで患者が倒れている。受付のカウンターの前で、
  患者が看護士に襲われている。
  玄関から駆け込んでくる北と谷田。銃を構え、
北「おまえ、左側の奴行け!」
谷田「はい」
  谷田、看護士に襲われている老人の元へ駆け寄って行く。
  北、右奥の通路に向かって走り出す。
  
○ 同・外来診療室
  銃を構えながら、颯爽と駆け込んでくる北。女の悲鳴が聞こえている。
  診療ブースのカーテンを開ける。
  医師の男がベッドに横たわる治療中の患者の女の首を絞めている。
  医師の背中に銃を向け、撃つ北。
  医師、その場に崩れ落ちる。
  部屋の奥から、獣のような声を張り上げた看護婦が北に襲いかかってくる。
  北、看護婦に向け、銃を撃つ。
  前のめりに倒れ、気絶する看護婦。
 
○ 同・二階病棟
  銃を持ちながら通路を走る谷田。部屋を一つずつ覗き込み、中の様子を確認している。
  谷田、ある部屋の前を覗き込んだ瞬間、背後から何者かに両手で首を締め付けられる。
  長身の若い看護士がけたたましい声を上げながら、谷田の首を絞めている。
  谷田、看護士の横腹に銃口を押しつける。引き金を引こうとするが、看護士、右手で銃を振り落とす。
  看護士、首を絞めた状態で谷田の体を持ち上げる。
  苦悶する谷田。暫くして、銃声が鳴り響く。看護士と共にその場に崩れ落ちる谷田。
  階段の前で銃を構え立っている北。銃を下ろし、谷田の元に近づいて行く。
  谷田の体を起こし上げる北。
北「しっかりしろ!」
  谷田、空ろな目で意識もうろうとしている。
  
○ ゴルフ練習場・二階
  満遍なく客が打席に立ちボールを打っている。
  真中の席でクラブを握る影下。豪快にスイングする。空高く勢い良く飛んで行くボール。
  ボールは、250ヤードをゆうゆうと超え、フェンスの網を突き破る。
  ボールを見つめ、万遍の笑みを浮かべる影下。影下の背後に近づく男の影。
男の声「影下…」
  振り返り、男を見つめる影下。男は、南である。
影下「今の見たか?あんなに飛ばしたのは、十数年ぶりだぜ」
  南、手前の座席に腰を掛け、
南「あのスーツを着てるのか?」
  影下、ボールを打つ姿勢に入り、クラブを大きく振り上げる。
影下「当たり前だ。あれがなかったら、こんなに腕は、上がらんよ」
  パワフルにスイングする影下。
  ハイスピードで飛んで行くボール。
南「今晩また仕事だ。急な依頼が入った」
  影下、南の前に立ち、
影下「今朝やったばかりなのに、またか。まぁ、いい。スーツがあれば、百人力だからな」
南「今度襲うのは、銀行じゃない」
影下「どこを狙うんだ?」
南「TENAを裏切った不動産屋だ…」
  息を飲む影下。
  
○ 住宅街
  細い路地を走る白いクレスタ。
  小学校の門を潜り、敷地の中に入って行く。
    ×  ×  ×
  小学校の前に黄色いタクシーが止まる。
  後部席のドアが開き、中から真坂が降りてくる。
  真坂、建物を見つめ、唖然としている。
  
○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  デスクの座席に座り、電話の受話器を握っている椎名。
椎名「小学校の教師?」
真坂の声「ええ」
椎名「名前は?」
真坂の声「江見村理香。臨時採用されて、半年前から4年2組の副担任をしているそうです」
椎名「彼女が南に渡した物が気になるな」
   ×  ×  ×
  小学校前。コンクリートの白い壁の前に立ち、携帯を耳にしている真坂。
真坂「南の自宅に踏み込みますか?」
椎名の声「…北と合流してくれ」
真坂「えっ?」
   ×  ×  ×
椎名「MMK―51の事件とのつながりが明確になってきたからな」
   ×  ×  ×
真坂「勘弁してくださいよ。もうあいつとは…」
   ×  ×  ×
椎名「これは、JWAの重要な任務だ。その事をくれぐれも忘れないように。よろしく頼む」
  受話器を置く椎名。
  入り口のドアが開き、ディジアが入ってくる。
ディジア「北さんに連絡しました」
椎名「ありがとう」
ディジア「仲直りしてくれるといいんですけど・・・」
椎名「彼らは、大人だ。つまらん心配はしないでいい」
  ディジア、憂いの表情…。

○ 小学校前
  白い壁の前で煙草を吸っている真坂。
  暫くして、クリーンなエンジン音が鳴り響き、B―COAが真坂の前にやってきて立ち止まる。
  運転席の窓が開く。窓枠に腕を乗せ、運転席を覗き込む真坂。
真坂「よりによって、またおまえの顔見るなんて・・・」
  運転席に座る北。正面を向いたまま、ムスッとした表情をしている。
北「さっさと乗れ」
  真坂、煙草の煙を吐き出す。
  北、顔を歪め、煙を払う。何も言わず、ボタンを押し、窓を閉める。
  真坂、窓枠から離れると、煙草を足で踏み消し、助手席側に回り込む。
  
○ B―COA車内
  助手席に乗り込んでくる真坂。
  ドアを閉める。
真坂「あれ、新しい相棒は?」
北「MMK―51の感染者に襲われて、今治療中だ」
真坂「デビューしたばかりなのに気の毒に・・・」
北「おまえに一つ言っとく」
真坂「またそれかよ」
北「二度と俺の前で煙草を吸うな」
真坂「おまえ友達少ないだろ?」
北「おまえもだろ」
真坂「…」
  寡黙になる真坂。
北「総監から南の事を聞いた。特殊ファイバースーツを使った強盗事件の事もな」
真坂「南は、十年前にも強盗事件を起こし、今年の三月に出所したばかりだ。息子が一人いたが、
 四年前に妻と一緒に事故死している」
北「今は、その息子夫婦が残した孫と二人暮しか…」
真坂「南の奴、今朝起こした強盗事件の逃走中に、レストランの駐車場で、俺の女の車を奪いやがったんだ。
 馬鹿な野郎だぜ。俺に見られなかったら逃げ切れたのにな」
北「乗り捨てられていた車の運転席から南の髪の毛を見つけたのは、おまえだったらしいな」
真坂「JWAでDNA鑑定して南の身元を割り出したんだ」
北「江見村理香について調べてみたが過去に犯罪歴はなかった。だが、一つ興味深いことがわかった」
真坂「何だ?」
北「彼女は、南の孫の担任だ」
真坂「なんだか、ややこしいことになってきたな…」
北「江見村理香は、俺が張る。おまえは、南を・・・」
  真坂、北の話に割り込み、
真坂「おいおい、手がかりを失ってこっちの捜査に割り込んどいて、勝手に仕切るなよ。女を張るのは、
 俺のほうがうまいんだから」
北「じゃあ、早く降りろ」
  真坂、北を睨み付けながら、ドアを開ける。車から降りると、叩き付けるようにドアを閉める。
  北、シフトレバー、バックに入れ、アクセルを踏み込む。
  
○ 曲り角まで勢い良くバックするB―COA
  バックし終わると、逆方向へ走り去って行く。
  離れていくB―COAをジッと見ている真坂。苛ついた表情で煙草を銜える。煙草の箱を右手で握り潰し、
真坂「買い溜めしとくか…」
  
○ 堤防沿い・住宅地
  一軒家がいくつも建ち並ぶ通り。更地の隣に一つだけポツッと建っているボロ家。
男の声「この家ともやっとおさらばできるな」  

○ ボロ家・居室
  畳じきの古びた部屋。木の机の上にエレキギターが置かれ、向かいにある戸棚には、
  車や飛行機の模型が飾られている。
  木椅子に腰掛けている影下。その前に南が立っている。台所から車椅子に
  乗った山之内が入ってくる。
  膝元に酒瓶を置いている。
山之内「手離すつもりはないよ」
  山之内の膝の酒瓶を取り上げる影下。戸棚の前に行き、コップを3つ取り出すと、
  酒を注ぎ始める。
影下「老後のために一軒家を建てるんじゃなかったのか?」
  影下、南と山之内にコップを手渡す。
山之内「気が変わった…」
  仏壇に立ててある写真を見つめる南。
南「奥さんと三十年も暮らしてきた家だぞ。そう簡単に手放せるわけねぇよな」
  山之内、苦笑いし、南に酒を注ぐ。
山之内「(影下に)おまえみたいにガキがいれば、こんなボロ家とっとと
 売っちまうんだが…今更もう…」
  影下、酒を一気に飲み干し、
影下「じゃあ、なんでまた強盗なんか引き受けた?」
  山之内、立ち上がり、車椅子から降りる。
  机の上のギターを肩にかけ、突然、弾き始める。指を鮮やかに動かし、速く弾いている。
山之内「(弾き終わり)自由を手に入れたからさ。もう動かないと思っていた
 脚も(軽やかにスキップしてみせる)この通り。このスーツのおかげで、二十年は、若返った」
  南、影下、おもむろに山之内を見つめ、
山之内「おまえ達は、どうなんだ?」
影下「俺は、老後の貯蓄のためだ…」
山之内「南、おまえは?」
  南、コップの酒を一口飲み、重い口を開く。
南「次の仕事は・・・殺しだ」
  険しい表情を浮かべる影下と山之内。
影下「不動産屋の金庫を狙うんじゃなかったのか?」
南「狙うのは、社長の大泉の命だ」
  影下、動揺し、
影下「今まで金は奪っても、人の命は奪わなかった。俺達の身代わりになった時みたいに
 また捕ったらどうする?」
南「契約を守らなければ、俺達は、殺される・・・」
  沈黙する二人。
山之内「南は、十年前の事件で俺の足がこうなった事に責任を感じてるんだ。そうだろ?」
南「…」
山之内「俺達には、スーツがある。捕まりはしない…」
影下「・・・」
山之内「やるしかないだろ?影下…」
  影下、しぶしぶ頷く。
  
○ 小学校前
  校門からランドセルを背負った子供がぞろぞろと出てくる。
  
○ 小学校・向かいのマンション
  二階と三階の踊り場に立つ真坂。校門の様子をまじまじと見ている。
  
○ 住宅街・南のアパート前(夕方)
  路上脇に止まるB―COA。

○ B―COA車内
  運転席に座る北。アパートの様子をジッと見つめている。
  南の部屋の扉が開き、泰隆が外に出てくる。
  北、泰隆をジッと見つめている。
北「ジェノン、あの子の顔をよく見たい」
ジェノンの声「了解しました」
   ×  ×  ×
  B―COA右後部にある丸いパネルが開き、格納庫から小型のレンズが表れる。
   ×  ×  ×
  センターコンソールの4つの画面の右上のモニターに泰隆の姿が映し出されている。
  泰隆の顔にズームアップしている。北、モニターをまじまじと見つめ、
北「MMK―51を散蒔いた少年の情報は入ってるか?」
ジェノン「写真の分析結果が出ています。身長134cm、体重30.3kgと推定されています…」
北「リモーションイメージスキャンを使ってあの少年の身長と体重を特定してくれ」
ジェノン「了解しました」
  電子音が鳴り始め、画面に映る泰隆の全身が青い発光と共にサーチされる。
  左下のモニターに泰隆の身体測定値が出力される。
  画面に「HEIGHT 134 WEIGHT 30.4」と表示される。
北「ほぼ一致したな。オートアドバンストシステムでどこまで移動できる?」
ジェノン「都内全域は、可能です」
北「じゃあ、真坂のところに行ってやってくれ。俺は、あの子を尾行する」
ジェノン「了解しました」
  北、車から降りる。
  
○ アパート
  階段を降りる泰隆。そのまま、路上を歩き始める。その数十メートル後を歩いている北。
  
○ B―COA車内
  システムボードの『AUTO ADVANCE』のボタンが青く発光する。
  「M」型のハンドルが袋状に縮み始める。パルス音が鳴る。エンジンが始動する。
  
○ B―COA、バックし始める
  勢い良く交差点までバックし、逆方向へ走り始める。

○ 煙草店
  自動販売機の前に立つ真坂。
  取り出し口から煙草を二箱を掴み、そのままジャケットのポケットにしまっている。
  ふと、右のほうに見える小学校を見つめる。
  クレスタが校門を走り出て行く。
  真坂、唖然とし、
真坂「やべぇ…」
  真坂、ジャケットのポケットからディスプレイを取り出す。
  発信器の位置を示す発光ランプは、止まったままになっている。
  真坂、焦った様子で学校に向かって走り始める。
  
○ 小学校・駐車場
  クレスタが止まっていたスペースに踏み潰された発信器の残骸が落ちている。
  真坂、しゃがみこみ、発信器の破片を拾い上げる。
真坂「(溜め息)派手に潰しやがってクソ!」
  真坂、立ち上がり、走り出す。
  
○ 住宅街
  路上を全力疾走する真坂。
  国道沿いまで猛ダッシュしている。
  
○ 国道沿い
  歩道で立ち止まり、車道を見回す真坂。
  手を上げ、タクシーを呼び止めようとする。その瞬間、真坂の前に緑色の車が立ち止まる。
  真坂、車を見つめ、唖然とする。
  車は、B―COAである。
  真坂、運転席を見つめる。誰も乗っていない。

○ B―COA車内
  ドアを開ける真坂。
  運転席に座り込む。
真坂「誰が運転してんだ?」
ジェノン「私です」
真坂「ナイスタイミング。ハンドルを出してくれ。自分で運転する」
  真坂の前でM型のハンドルが膨らみ、表れる。
  真坂、ハンドルを握り、アクセルを踏み込む。発進するB―COA。
真坂「北は?」
ジェノン「南輝之の孫の泰隆を尾行中です」
真坂「白のクレスタを追ってるんだ。何か調べる方法はないか?」
ジェノン「半径1キロ以内であれば、JWAの専用衛生を使用して、
 周囲を走る車を特定することができます」
真坂「マジで?早くやってくれよ」
  右上のモニターに現在位置から半径1キロ周囲の地図のイメージが表示される。
  地図上を走る白い車がサーチされる。さらに車種がサーチされ、あるビル街の
  前を走る白い車が浮かび上がる。
ジェノン「二台の車が見つかりました。一台目は、国道15号線を芝浦方面へ。
 もう一台は、日比谷通りを北上中です」
真坂「参ったな・・・一体どっちだ?」
  モニターに二台のクレスタの車両イメージが表示される。
ジェノン「一台目は、94年製、二台目は、2002年製です」
  真坂、画面を見つめ、思わず指を鳴らす。
真坂「あったま良いな、そっちだよ、二台目だ」
  真坂、アクセルを踏み込む。
  
○ 交差点を勢い良く左に曲がるB―COA

○ 公園前
  入口の隅に佇む北。
  ジャングルジムの上に上り、携帯型ゲーム機に夢中になっている泰隆。
  北、ゲーム機をまじまじと見つめ、ハッとする。
男の声「泰隆!」
  泰隆、声のしたほうに振り向く。
  南がジャングルジムのほうに近づいてくる。
  泰隆、ジャングルジムを降り、南の前に行く。
泰隆「またやるの?…」
  南、悲しげに泰隆の頭を撫で、
南「いや、おまえはもういい」
泰隆「…大丈夫か?じいちゃん」
  南、笑みを浮かべ、
南「心配するな」
  
○ コンビニ駐車場
  白いクレスタが一番奥の駐車スペースに前から入り込む。
  コンビニ前の通りの道を走行してくるB―COA。コンビニを通り過ぎ、道路脇に止まる。
  
○ B―COA車内
  右上のモニターをまじまじと見ている真坂。モニターに車から降りる理香の様子が映っている。
  クレスタの隣に止まる黒いワゴンの助手席のドアが開き、小柄の太った中年の男、
  新谷(しんたに)明男(44)が降りてくる。茶髪でサングラス、顎髯を生やしている。
  新谷と対峙し、話をしている理香。
真坂「クソ、会話が聞けたらなぁ…」
ジェノン「左側のパネルにある『SDM』ボタンを押してください。超小型指向性マイクを
 収納したカプセルが発射されます」
  フロントガラスにコンビニ前の映像が映り、ターゲット表示の「+」が浮かぶ。
真坂「(感激し)なんて優秀な奴だ…北とは、大違いだぜ」
  真坂、ボタンを押す。
  
○ B―COAの後部バンパーの丸いパネルが開き、直径7mの銀色のカプセルが発射される。
  二人が立つ前のコンビニの白い壁にカプセルが張り付く。
  
○ B―COA車内
  モニターを見つめる真坂。
  スピーカーから理香の声が聞こえてくる。
理香の声「車に発信器がつけられてた。警察が嗅ぎつけたかもしれない…」
新谷の声「(失笑し)サツにそんなマネができるはずがない。別の組織が動いてるんだ」
理香の声「それじゃあ、尚更まずいじゃない。もうこれだけやったら十分よ」
新谷の声「おまえは、満足したかも知れないが、こっちの用件はまだ終わってない。
 今晩の件が終わったら、ガキも始末しろ」
理香の声「そんなことできるわけないでしょ?あの子は、私の生徒なのよ」
新谷の声「俺達は、おまえに力を貸したし、報酬も手渡した。指示通りにできないのなら、
 実行部隊が動くまでだ」
  理香、激しく動揺し、
理香の声「わかったわ…」
  新谷、無気味に頷くと、車に乗り込む。
真坂「おい、あの黒いワゴンの動きを捕捉できるか?」
ジェノン「1km以内は、捕捉可能です」
真坂「じゃあ、頼む」
ジェノン「了解しました」
  真坂、急いで車から降りる。

○ コンビニ駐車場
  黒いワゴンが動き出し、路上を走り出して行く。B―COAの前を横切り走り去って行く。
  B―COAのボンネットの突起部から、5mmサイズの青いカプセルが発射される。
  カプセルは、走行する黒いワゴンのトランクのドアに張り付く。
  真坂、道路を渡り、コンビニの駐車場に向かって走って行く。車のシートに
  乗り込んだ理香の前に駆けつける。
真坂「待てよ」
  理香、真坂に気づく。真坂、JWAのシルバーの手帳を理香に見せ、
真坂「俺は、政府機関のものだ。今の男と君の会話を聞かせてもらった」
  理香、車のドアを閉めようとするが、真坂、咄嗟に右手でドアを押さえる。
真坂「今の男は、『TENA』のメンバーだろ?」
理香「…」
真坂「自分の教え子を見殺しにする気か?」
  理香、観念した様子で、俯く。

○ アパート前
  向かいの住宅の壁隅に立っている北。
  右腕につけているレギオウォッチのアラームが鳴り響く。
  北、ウォッチに向かって喋り始める。
北「スターク…」

○ B―COA車内
  ハンドルを握る真坂。
真坂「『TENA』のメンバーを見つけたぜ。今、ジェノンを使って調べた。新谷明男って男だ。
 一連の強盗事件とMMK―51を散蒔かせていた主犯核は、こいつだった。今晩、南達にまた
 何かをやらせた後、消す気でいたらしい。南の孫も一緒にな」
北の声「江見村理香は?」
真坂「今、本部に移送中だ。彼女、三年前に医者の手術ミスで妊娠した子供を流産したそうだ。
 その時の傷で子供が産めない体になってしまった」

○ アパート前
北「それで、病院ばかりを狙ってMMK―51を・・・」
真坂の声「新谷が彼女に復讐話をもちかけたんだ。その話をたまたま、
 通りがかった南の息子が聞いてしまったらしい」
北「特殊スーツの件は?」
   ×  ×  ×
真坂「彼女が南達を誘った。実験用のスーツのテストのため銀行を襲ってくれと言われたそうだ。
 南は、昔の仲間を集めてやった。盗んだ現金は、奴らの報酬だとさ」
北の声「おまえ、今どこにいるんだ?」
真坂「新谷の車を追跡中だ。彼女の話では、新谷は、MMK―51を空気感染できるように
 改良すると言っていたらしい」
   ×  ×  ×
北「…MMK―51を散蒔いたのは、南の息子だな」
真坂の声「証拠を見つけたのか?」
北「森田病院の監視カメラに映っていた少年が持っていた携帯用ゲーム機だ。
 南の息子も同じ物を持っていた」
真坂の声「新谷のアジトを見つけたら、すぐに駆けつけてやるから待ってろ」
  通信が切れる。
  北、ムスッとした表情をし、
北「何が『駆けつけてやる』だ…」
  北、アパートを見つめ、咄嗟に身を隠す。
  南の部屋の扉が開き、南が出てくる。
  階段を降りる南。路上を歩き出す。
  北、アパートに向かう。

○ 南の部屋
  扉を開ける北。
  部屋でテレビを見ている泰隆。北に気づき、立ち上がる。怪訝な表情で北を見ている。
  北、JWAのシルバーの手帳を泰隆に見せる。
北「怪しいものじゃない」
泰隆「警察の人?」
  北、静かに頷く。
泰隆「じいちゃん、また捕まるの?…」
北「知ってるのか?おじいちゃんの昔の事」
泰隆「幼稚園の時、お父さんに聞いた」
北「…悪いことしたら、罪を償わないとな」
泰隆「江見村先生を助けたかったんだ…」
  泰隆、北の前に両手を差し出し、
泰隆「僕を捕まえてよ」
  北、やりきれない表情を浮かべ、
北「おじいちゃんは、どこに行った?」
泰隆「知らない」
北「…」

○ 工業地帯
  工場が密集する通りを走る黒いワゴン。
  その数百メートル後をB―COAが走っている。
  
○ 廃工場
  鉄塔が連なる通りを走る黒いワゴン。
  古びた薄緑色のプラントの前で停車する。ワゴンから新谷を含めた三人の男が一斉に降りてくる。
  鉄塔の前に立ち止まるB―COA。
  運転席のドアが開き、真坂が降りている。プラントを見つめる真坂。
  プラントの向こうに立っている二本の煙突から白い煙が出ているのが見える。
  真坂、煙を見つめ、何かに気づく。

○ プラント内
  発電機の騒音が鳴り響く。
  タンクに溜まる水色の液体、いくつものマシーンが並べられ、デスクには、様々な試薬品類の
  入った瓶や実験用のマウスの入ったケースが置かれている。
  奥の棚にMMK―51の入った容器が並べられている。
  新谷達が中に入ってくる。
  マシーンのチェックを始める若い男達。
  マシーンの前にいる眼鏡をかけた若い男が試薬の入った試験管を持ち、歩いている。
  男の背後に何者かが忍び寄る。男の背中に銃口が突きつけられる。
  動きを止める男。男の背後にいるのは、真坂である。
真坂「ここは、MMK―51の生産工場か?」
男「…」
真坂「喋らないと、政府から与えられた権限で、おまえの背中にホールを作るぞ」
男「…」
真坂「新谷は、どこだ?」
  突然、二人の前に弾丸が飛び交い、白い煙を上げる。男、持っていた試験管を下に落とす。
  試験官が割れ、紫色の煙が上がる。男、右手で首元を押さえながらその場に崩れ、
  もがき苦しみ始める。
  真坂、咄嗟に男のそばから離れ、地面に突っ伏す。真坂、顔を上げ、辺りを見回す。
  二階に続く階段の中央にマシンガンを構えた新谷が立っている。
  新谷、真坂に向け、マシンガンをブッ放す。
  真坂、マシーンの後ろに素早く移動しながら、透かさず、新谷に銃を撃ち放つ。
  新谷、マシンガンを撃ちながら階段を降りている。
  真坂、マシーン裏から表に出ようとした時、突然、凶暴化した男が真坂に襲い掛かってくる。
  男に両手で首を絞められる真坂。真坂、男の両手を引き離そうとするが、
  力の凄まじさに抵抗できずにいる。
  マシンガンの発射音が鳴り響く。
  男の背中に次々と弾が当たる。仰け反るように倒れる男。真坂、また、マシーンの裏に身を隠す。
  辺りを見回す新谷。真坂の姿を見失い、右往左往している。
  新谷のそばにあるマシーンの下に隠れている真坂。新谷の背後に立ち、背中に銃を突きつける。
真坂「一応感謝してるよ。銃を捨てろ」
  新谷、観念し、銃を放り投げる。
真坂「MMK―51を改良して、煙突から煙と一緒にばらまく気か?」
新谷「誰だ?おまえ…」
真坂「ゴミ退治業者だよ…」
  突然、真坂の背後で銃声が鳴り響く。真坂、右腕を撃たれ、銃を落とす。咄嗟に地面を転がり、
  マシーンの下に潜り込む真坂。もう一人の若い男がマシンガンを構え、立っている。
  新谷、足下に落ちていたマシンガンを拾い上げる。
新谷「機械を傷つけるなよ。潰したら、命で弁償してもらうからな」
  若い男、動揺した面持ちで頷く。
  地面を駆ける足音がする。新谷、音のほうに向けてマシンガンを撃ち放つ、
  マシーンの狭間を潜り抜ける真坂。前のめりになり転がり込む。
  若い男が真坂の前に立ち、マシンガンを向ける。
  真坂、顔を上げ、静かに立ち上がると観念した様子で目を瞑る。
  その時、突然、入口の壁を突き破り、車が突っ込んでくる。車は、B―COAである。
  新谷、若い男、B―COAに向け、一斉にマシンガンを撃ち放つ。
  B―COAのボディに当たる弾丸が不思議な音を立て、跳ね返っている。
  B―COA、マシーンの前に立ち止まる。
  若い男のマシンガンの弾丸が切れる。真坂、透かさず、立ち上がると、
  男のマシンガンを奪い取り、それで男の腹を突き、頬を殴りつける。
  新谷、真坂にマシンガンを撃ち放つ。真坂、また、マシーンの下に潜り込む。
  
○ B―COA車内
  スピードメーターの下にある「SHOCK」のランプが青く光る。
  
○ B―COAのボンネット上の突起部から高密度圧縮空気弾が発射される
  弾は、空中を伝わり、新谷の背中にヒットする。新谷、ショックで、その場に勢い良く
  前のめりに倒れる。
  立ち上がる真坂。痛みを堪え、右腕を押さえながら、B―COAの前に立つ。
真坂「イケてる車だ…」
  真坂の背後で、不気味に立ち上がる新谷。
  真坂、振り返り、新谷を見つめる。
  新谷、着ていたジャケットを脱ぎ捨てる。
  青色のファイバースーツを着込んでいる。
真坂「きたねぇな。自分だけそんなもん着やがって…」
新谷「後五秒で地獄行きだ。言いたいことがあるなら今のうちに言っとけ」
真坂「自分の事言ってるのか?」
  B―COAの前バンパーから勢い良くフックつきのワイヤーが飛び出す。
  新谷の体に巻きついたワイヤーに青白い電流がほとばしる。
  新谷、呻き声を上げ、その場に崩れる。
  唖然としている真坂。
真坂「弾は、通らないのに電気は、通るのか。改良しないと…」
  
○ 平賀不動産ビル・1Fロビー(夜)
  それぞれのファイバースーツを着た三人の男が並んで受付に入って来る。
  南がライオンのマスク、影下は、象のマスク、山之内がゴリラのマスクを被っている。
  二人の警備員が三人の前にやってくる。
  山之内、警備員の一人の首を右手で掴む。体を持ち上げ、そのまま、前方に投げ飛ばす。
  南、もう一人の警備員の胸倉を掴み、
南「社長は、どこだ?」
  
○ 同・6F社長室
  入口のドアが突然、粉砕する。通路に立っている三人の姿が露になる。
  中に入り、辺りを見回す三人。人影はない。
男の声「社長は、ここにはいないぞ」
  振り返り、入口のほうを見つめる三人。
  入口の前に真坂と北が立っている。
北「TENAの幹部は、確保した。おまえ達の仕事は、これで終了だ。マスクを取れ、南…」
  南、ライオンのマスクを外す。
南「泰隆は?」
  真坂達の前に表われる泰隆。
泰隆「一緒に罪を償おうよ、じいちゃん」
  南、悲愴な面持ちで泰隆を見つめている。
  影下もマスクを取る。観念した様子。
  山之内、突然、喚き声を上げ、真坂と北に突っ走って行く。
南「山之内!」
  二人、咄嗟に銃を構え、山之内に向けて、撃つ。だが、スーツが弾丸を跳ね返す。
  山之内、真坂を片手でネックハンギングし、そのまま、通路の壁に投げ飛ばす。
  壁に腰掛けるようにうずくまる真坂。
  北、山之内の背中に飛びかかり、体に張り付くが、物凄い勢いで振り落とされる。
山之内「また歩けなくなるなんて真っ平だ!」
  山之内、通路に向かって歩き出そうとするが、その前に南が立ち塞がる。
  南、スーツを脱ぎ始める。その様子をまじまじと見ている山之内。
南「そのスーツは、俺達みたいな人間を食い物にする連中が作ったんだぞ。
 そんなもん着てたら、心まで腐っちまうぞ」
山之内「もうとっくの昔に腐っちまった」
南「いや…そんなことはない」
  真坂、北、立ち上がり、山之内の背中に銃を向ける。
南「少しの間だけ、若い頃のような時間を楽しめた。それでいいじゃないか」
  山之内、俯き、その場に力なく座り込む。
  真坂、北、顔を合わせると、銃をしまい、山之内に近づいて行く。
  影下も渋々スーツを脱ぎ始める。
  
○ 倉庫地下・JWA本部・ガレージ
  大型エレベータの扉が開き、B―COAがヘッドライトを照らしながらゆっくりと走り出す。
  丸い土台の上に立ち止まるB―COA。
  運転席に真坂。助手席に北の姿が見える。
真坂の声「疲れたな」
北の声「それほどでも…」
  
○ B―COA車内
  北の腹がギュルギュルと鳴っている。北、何事もなかったかのようにツンとしている。
  真坂、ジャケットの右側のポケットをまさぐる。
  ポケットから食べ残しのパンを取り出し、北に差し出す。
  北、呆れた顔をして、
北「いらん」
真坂「そう言うなよ。中にイチゴが入ってる」
  北、ドアを開け、車から降りる。真坂も車から降り、北の後を追う。
真坂「強盗団以下の結束力だな、俺達」
北「何が言いたい?」
真坂「今日の捜査は、俺の勝ちだ」
北「くだらん。捜査に勝ち負けなんてあるか」
真坂「要するにおまえは、俺がいないとまともに捜査もできないベイビーってわけ」
  北、立ち止まり、振り返ると、憤然としながら、真坂を睨み付ける。
北「真坂…」
  ギクっとして立ち止まる真坂。
北「いつかお前を見殺しにしてやるからな」
  北、踵を返し、通路のほうに向かって静かに歩いて行く。
  真坂、ほくそ笑み、
真坂「なんだ。俺と組む気満々じゃねぇかよ…」
  
○ 同・監視室
  モニターにガレージの映像が映っている。
  画面からフレームアウトする二人の様子を見ているディジア。笑みを浮かべ、その場を後にする。
  誰もいなくなったガレージ。照明で美しく輝くB―COAが映っている。

                                                  ―THE END―   

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