『メトロジェノン』 TENA CODE005 「ジェノン・チェイス」 BY ガース『ガースのお部屋』

○ レストラン
  窓側のテーブルに座る三原 葉菜美(20)。テーブルに肘をつき、
  退屈そうに外の景色を見つめている。
  ふと正面を向く葉菜美。対面の座席におかっぱ頭の小さな男の子が座っている。
葉菜美、呆然と男の子を見つめ、
葉菜美「ねぇ、僕?そこで何してんの?」
  はにかむ男の子。
男の子「メロンジュースちょうだい」
葉菜美「・・・どうしてお姉ちゃんのところに来たの?」
男の子「綺麗な人だから・・・」
  葉菜美、笑みを浮かべ、手元にある呼び出しボタンを押す。
  店員がテーブル前にやってくる。
葉菜美「ええと、メロンジュース一つ・・・」
  ハンディターミナルに入力する店員。
店員「はい」
男の子「チョコレートケーキ!」
  唖然とする葉菜美。
店員「はい」
葉菜美「(慌てて)あ、以上で・・・」
店員「わかりました」
  そそくさと立ち去って行く店員。
葉菜美「ねぇ、あんた名前は?」
男の子「真坂しげる・・・」

○ 国道を疾走するB―COA

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北(ほく) 一真(28)。
  通信用のアラームが鳴り、中央コンソールに設置されている4つのモニターの
  右上の画面に椎名歩夢(54)が映る。
椎名の声「どうだ?」
北「もうすぐ現場に到着します」
椎名の声「奴らが防衛庁の武器倉庫から長射程精密誘導弾を盗み出してから12時間経過した。
 もう打ち上げの準備を始めているかもな」
北「情報提供者は、やはり、ミサイル開発者の甲谷なんでしょうか?」
椎名の声「おそらく。甲谷は、TENAのメンバーに拉致されている可能性がある。
 真坂に連絡はついたのか?」
北「十分ほど前に電話して場所は教えたんですが・・・肝心な時にいつもこうなんですよ、あいつは・・・」

○ 繁華街
  スクランブル交差点を歩く人の群れ。
  交差点の前に止まる黄色いタクシー。
真坂の声「急な仕事が入ってな。悪いけど暫く面倒見てやってくれ」

○ タクシー車内
  後部席に座る真坂 和久(28)。
  携帯を耳にしている。携帯の受話口から葉菜美の声が聞こえる。
葉菜美の声「ふざけんな。何考えてんの?」
真坂「約束を守っただけだろ」

○ レストラン
  携帯に話し掛けている葉菜美。
  おいしそうにチョコレートケーキを頬張っている真坂茂(5)。口の周りに食べカスがこびりついている。
葉菜美「だからって、私に押し付ける事ないでしょ?初対面なのに」
真坂の声「かわいいだろ?名前は、しげるって言うんだ」
葉菜美「さっき本人から聞いたわよ。どう言うしつけしてんのよ」
真坂の声「綺麗なお姉さんを見たら誉めるようにっていつも言ってあるの・・・」
  葉菜美、照れ笑いし、
葉菜美「まぁ、それについては異論はないけどね・・・」

○ タクシー車内
真坂「子供は、正直だからな」
葉菜美の声「いいわ。じゃあ、あんたのクルーザーで待ってるから」
真坂「よろしく」
  携帯が切れる。
  真坂、溜息を吐き、
真坂「わかりやすくていいなぁ、あいつ・・・」
タクシードライバーの声「何か言いました?」
真坂「いや、別に・・・急いでください」

○ スクランブル交差点
  信号が変わり、走り出すタクシー。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクに座っている椎名。
  入口のドアが開き、ディジア(27)が入ってくる。
ディジア「北さん見つけたんですか?」
椎名「一時間前、防衛庁に男から連絡があった。羽田空港近くの食品倉庫にミサイルを積んだトラックが
 止まっているという情報を受けたんだ」
ディジア「次期防衛整備プログラムの技術研究は、見送られずに裏で計画が進んでいたんですね」
椎名「政府の内密事項だ。他国の影響を考えて公表は、差し控えた」
ディジア「篠美食品を調べたんですが、やはり、実在していませんでした」
椎名「だろうな」
ディジア「誘導弾でどこを狙うつもりなんでしょう・・・」
椎名「…」

○ 空港付近・倉庫街
  爆音を立てながら地上に降りている飛行機。
  倉庫が並ぶ通りを走っているB―COA。

○ B―COA車内
  フロントガラス越しに、突き当たりに建っている倉庫の入口が見えている。
  入口の前に青い4WDが止まっているのが見える。
北、4WDをまじまじと見つめ、
北「ジェノン、あの4WDのナンバーを記憶して、データベースと照合してくれ」
  中央コンソールの上に設置されている音声レベルゲージが光る。
ジェノン「了解しました」

○ とある倉庫
  4WDの隣に勢い良く立ち止まるB―COA。
  運転席のドアが開き、北が降りる。
  北、ホルダーからベレッタ92Fの銃を抜き、ゆっくりと入口のほうに向かって歩き出す。
  入口につけられている立て看板に『篠美食品工業株式会社』と書かれている。

○ 篠美食品・倉庫内
  積み上げられたダンボールの陰に身を隠す北。
  中央にある作業室のほうを覗き見る。
  横幅のある巨大な木箱の周りに立つ二人の男の後ろ姿が見える。
  その向こうには、コンテナつきのトラックが止まっている。
  箱の中を物色している二人。
  北、右側の長身、短髪の男・梅川陽一(46)が手に持っているものをまじまじと見つめる。
  梅川の手に設計図のようなものが見えている。
  左側の男を見つめる北。甲谷(こうたに)信彦(45)の姿を確認する。
  甲谷の横顔が見える。七三分けをした髪型、眼鏡をかけ温厚そうな顔つき。
  北、右腕につけているレギオウォッチに小さく喋りかける。
北「甲谷を見つけた。本部に連絡して、応援を回してくれ。それと、その4WDを動きを封じるんだ」
ジェノンの声「了解しました」

○ 同・前
  B―COAの左前輪付近のフレームに設置されている扉が開き、小さな砲台が現われる。
  砲台から小さな針が発射し、4WDの右前輪に突き刺さる。暫くして、
  針が爆発し、タイヤに穴が空き、みるみる萎んで行く。

○ 同・中
  北、ゆっくりと作業場のほうに向かう。
  甲谷、人の気配に気づき、ゆっくりと後ろに振り向く。
  北が銃を向けている。
北「甲谷信彦だな」
  梅川も北に気づき、動きを止める。
  北、巨大な箱の中を覗き込み、
北「防衛庁の倉庫から盗んだ精密誘導弾か?」
梅川「喋るな、甲谷」
北「おまえは、黙ってろ」
  甲谷、重い口を開き、
甲谷「私は、奴らの言うままに動いただけだ・・・」
北「奴らって誰だ?」
甲谷「大石・・・」
  その直後、北の背後に男の人影が現われる。
  男、ハンマーで北の右肩を殴りつける。
  呻き声を上げ、前のめりに倒れる北。
  北が右手に握っている銃を奪い取る梅川。
  北の背後に立っている若い男・名倉光司(36)。
梅川「もう、サツが嗅ぎつけやがったか、クソ!」
  名倉、甲谷を見つめ、
名倉「おまえか?チクッたのは・・・」  
甲谷「違う、俺じゃない!」
梅川「あんたも困った人だね。あれだけ忠告しといたのに・・・」
甲谷「誤解するな、本当に俺じゃないんだ!」
名倉「どうやってそれを証明する?」
甲谷「信じてくれ、俺じゃない・・・」
梅川「証明できないのか・・・」
  梅川、銃口を甲谷に向ける。

○ 同・前
  入口から梅川が走り出てくる。
  梅川、4WDの運転席に乗り込み、エンジンをかけ、バックさせる。
  車の動きに異変を感じ、ブレーキを踏み込む梅川。
  車から降り、右前輪を見つめる。
  タイヤがパンクしているのに気づく梅川。
  梅川、そばに止まっているB―COAを見つめる。

○ B―COA車内
  運転席のドアを開ける梅川。
  シートに座る。
  すると、突然アラームが鳴り、赤い照明がテカテカと光り始める。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  オペレートマシーンの前に座るディジア。警告ランプが点滅しているのに気づき、モニターに映像を映す。
  モニターにB―COAの運転席の様子が映る。
  ディジア、キーボードを打ち、ヘッドマイクに向かって話す。
ディジア「JWAオペレーション3238、ディジア。スターク、応答して!」
  無音のまま、反応がない。
  ディジア、キーボードを打ち込む。

○ 同・総監オフィス
  デスクの座席に座っている椎名。デスクの上の電話が鳴る。受話器を取る。
椎名「はい」
ディジアの声「ディジアです。アクティブコード2546を実行中のスタークと連絡が取れなくなりました。
 B―COAに手配中の男が乗り込んでいます。緊急停止させましょうか?」
椎名「・・・待て。アシストシステムを停止させて、マニュアル操作を続けさせろ」
ディジアの声「わかりました」

○ B―COA車内
  コンソール中央に設置されているLEDが緑から黄色に変わる。
  スターターを回し、エンジンをかける梅川。
梅川「うほ、かかった、かかった」
  梅川、ハンドルを握り、車をバックさせる。

○ 篠美食品・倉庫前
  バックし、道路に出るB―COA。
  そのまま、前進し、勢い良く走り始める。
  反対側の道からタクシーがやってくる。
  停車するタクシー。後部席から真坂が降りてくる。
  真坂、無造作に置かれている4WDの前を通り、倉庫の中に入って行く。

○ 同・中
  コルト・パイソンの銃を構えながら作業場のほうに向かっている真坂。
  真坂、前方を見つめ、唖然とし、駆け足する。
  作業場に北とその隣に仰向けで倒れている甲谷の姿がある。
  甲谷、左胸を撃たれ、血が滲み出ている。北の手元に銃が落ちている。
  真坂、甲谷の手首を掴み、脈を調べる。その後、北を抱き起こす。
真坂「おい、しっかりしろ!」
  目を開ける北。
北「(苦痛の表情を浮かべ)奴らは・・・」
真坂「奴らって?」
  北、甲谷に気づき、
北「甲谷・・・」
  北、立ち上がり、甲谷の体を揺さぶる。
北「甲谷!」
真坂「もう死んでる・・・」
  険しい表情を浮かべる二人。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  部長デスクの前に立つ北と真坂。顔を俯け、険しい表情を浮かべている。
  デスクの座席に座っている椎名。厳しい表情で二人を見ている。
椎名「証人になりえた人物が殺され、B―COAも奪われてしまった・・・か」
北「申し訳ありません・・・」
真坂「・・・すいません」
椎名「ミサイルの事も気になるが、問題は、B―COAだ。向こうに我々の動きを察知される
 前に取り返さなければならん」
  
○ 同・OP司令室
  部長室から出てくる北と真坂。
  オペレートマシーンの前に座っているディジア。二人に気づき、歩み寄る。
ディジア「B―COAの事なら気にしないで。居場所は、わかっているから・・・」
  北、憤然とした様子でいきなり真坂の胸倉を掴み、そばの壁に押し付け、
北「(声を上げ)一体何やってたんだ、おまえ?」
真坂「女と会う約束をしてた。30分くらいなら時間がとれると思って・・・」
北「前みたいに探偵ごっこやってる時は、それでも良かったかもしれないが、ここは、JWAなんだぞ」
真坂「そんな事百も承知だよ」
北「そんなに女と会いたけりゃあ、コンビニでバイトでもしてろ」
真坂「どうして、俺が来るまで待てなかった?一人でカッコつけるから、こんな結果になったんじゃねぇのか!」
  北、真坂の胸倉を強く締める。
  ディジア、二人を引き離そうとし、
ディジア「二人とも辞めなさい。みっともない」
  真坂から手を離す北。
北「B―COAは、俺が探す。おまえは、一切関わるな」
真坂「またいつもの仕切り屋宣言かよ」
北「暫くその面見せるな」
  北、そそくさとその場を立ち去って行く。
  北の背中を睨みつけている真坂。
  真坂の様子を見つめ困惑するディジア。
  
○ とある地下駐車場
  中央にぽつんと止まっているB―COA。
  B―COAのボディを舐めまわすように見ている梅川。
  暫くして、入口からヘッドライトをつけた黒いトレーラーが走ってくる。
  B―COAの前に止まるトレーラー。
  トレーラーの運転席から名倉が降りてくる。
  梅川に近づく名倉。
名倉「本部に連絡がついた。一時間後に例の場所で合流します」
  名倉、B―COAを見つめ、
名倉「なんだ?その車・・・」
梅川「サツのだ。俺の車がパンクしてたから、パクってやった」
名倉「珍しい形してるな。新車か?」
梅川「中を見てみろよ」
  名倉、B―COAの車内を覗き込む。
名倉「重装備って感じだな。秘密兵器が積み込んでありそうだ」
梅川「マニュアルを探してみるか・・・」
  梅川、運転席に乗り込み、助手席の前のボードをこじ開けようとしている。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP指令室
  オペレートマシーンの座席に座るディジア。その隣に北が立っている。
ディジア「ジェノンのアシスト機能を停止させて、全てのシステムを使えない状態にしてあるの。
 だから、侵入者がシステムに触れても何もできないわ」
  モニターに車内の様子が映っているがノイズが入り、よく見えていない。
ディジア「現在の位置は、杉並の地下駐車場よ」
北「移動したら随時、連絡頼む」
ディジア「わかった」
  北、部屋を出て行く。
  真坂、自分のデスクに座り、腕を組みながら、険しい表情を浮かべている。
  ディジア、真坂の元に近寄り、
ディジア「機嫌直った?」
  拳でデスクを殴りつける真坂。立ち上がり、部屋を出て行く。
ディジア「どこ行くの?」
真坂「一服してくる」
  ディジア、心配げに真坂を見つめる。

○ B―COA車内
  モニターに映るメニュー画面を指でタッチする梅川。しかし、何の反応もない。
  車の前に立っている名倉。腕時計をまじまじと見つめている。
梅川「どこにも見当たらない」
名倉「坂上に調べてもらったらいいんですよ」
梅川「そうか・・・あいつ、エンジニアだからコンピュータに詳しいよな」
名倉「そろそろ行きますよ」
梅川「そう急かすなよ」
  エンジンをかける梅川。

○ とある地下駐車場 
  入口に向かって走り始めるトレーラー。その後ろをB―COAが追行する。

○ 墓地
  ある墓石の前に立ち、線香を立てている真坂。
  墓石に『里見家之墓』と書かれている。
  真坂、合掌し、目を瞑る。
  暫くして、目を開け、
真坂「・・・中途半端ですいません、所長」
  手を下ろし、溜息をつく真坂。
真坂「…仇討つとか偉そうな事考えてたわりになんか…自分に嫌気が差して来て…
 どうすりゃあいいですかね?…」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP指令室
  オペレートマシーンの前に座っているディジア。モニター画面に映る都内の地図を見つめる。
  B―COAの位置を示す白い点滅が動いている。
  ヘッドマイクに話し掛けるディジア。
ディジア「今、川崎市内に入った。国道を南下してる」

○ 国道
  グレイのカローラが走行している。

○ カローラ車内
  ハンドルを握る北。
  コンソールの中央に設置されているナビゲーションディスプレイを見つめながら
  ヘッドマイクに話し掛けている。
北「今、品川駅前を通過した」
ディジアの声「B―COAとの距離は、約5キロ程。もう少しで追いつくわ」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP指令室
  ディジアのそばに立つ椎名。ディジアの肩を叩く。
  ディジア、ヘッドマイクを外し、椎名のほうに顔を向ける。
椎名「真坂は?」
ディジア「まだ戻っていませんか?」
椎名「・・・困った奴だ」
ディジア「連絡してみます」
  ディジア、ヘッドマイクをつけ、キーボードでナンバーを打ち込む。

○ ヨットハーバー
  煙草を吸いながら歩いている真坂。右腕につけているレギオウォッチがぶるぶると震えている。
  立ち止まり、レギオウォッチを見つめる真坂。煙を吐くと、ボタンを押し、電源を切る。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP指令室
  ヘッドマイクに耳を傾けているディジア。
ディジア「駄目です。電源を切られました・・・」
  椎名、溜息を吐き、総監室の方へ戻り始める。
  ディジア、立ち上がり、椎名の後を追いかける。

○ 同・総監オフィス
  部屋に入ってくる椎名。すぐさま、ディジアも駆け込んでくる。
ディジア「もしかして、真坂君を・・・?」
  立ち止まり、ディジアと対峙する椎名。
椎名「・・・やむを得ん。やはり、私の見込み違いだった・・・」
ディジア「彼は、JWAに必要な人材です」
椎名「わかっている。だが、いつまでも彼の身勝手な行動につきあってはいられない」
ディジア「私、説得してきます。少し時間をください」
椎名「そんなことする必要はない」
ディジア「・・・」

○ クルーザー内
  入口から乗り込んでくる真坂。
  ベッドの上、超合金のロボットで遊んでいる茂。茂、真坂に気づき、
茂「パパ!」
  ベッドの上に座る真坂。茂が真坂の背中に乗っかって行く。
真坂「おまえさ、あのロボット、どうしたんだよ?」
茂「お姉ちゃんに買ってもらった」
真坂「で、お姉ちゃんは?」
  トイレの水の流れる音がする。
  トイレの扉が開き、外に出てくる葉菜美。
  顔色が悪い。
葉菜美「あんたさ、ちゃんと子供に遊ぶもの買ってあげてるの?」
真坂「この間、ミニカーセット買ってやったよ」
茂「あれさ、どっか行っちゃった・・・」
真坂「どっか行っただと?」
  真坂、茂の体を持ち上げ、ぶらぶら揺さぶっている。笑い転げている茂。
真坂「なんて物持ち悪いんだ、おまえは」
葉菜美「あんた、そっくり」
  真坂、動きを止め、葉菜美を見つめ、
真坂「どう言う意味?」
葉菜美「急な仕事は、もう終わったの?」
  真坂、茂を降ろし、冷蔵庫の前に行く。
真坂「ああ、片付いた」
葉菜美「またかなり濃いい調査なの?」
  真坂、ビール缶を取り、葉菜美に投げる。
  受け取る葉菜美。蓋を開け、勢い良く飲み始める真坂。また、ベッドに座る。
真坂「俺さ、探偵辞めたんだ」
葉菜美「辞めた?じゃ、何してんの?」
真坂「・・・職探し中だよ」
    
○ 横浜・倉庫街
  走行している黒いトレーラー。その後に続いてB―COAが走っている。
  ある倉庫の中に入って行くトレーラーとB―COA。

○ 3番倉庫内
  中央に立ち止まるトレーラー。その左隣に止まるB―COA。
  奥のプレハブから眼鏡をかけ、青いスーツを着た若い男・坂上弘之(25)が出てくる。
  車から降りている梅川と名倉。二人に歩み寄る坂上。
梅川「おまえに調べてもらいたいものがある」
  梅川、B―COAを指差す。B―COAを見つめる坂上。
坂上「なんですか?あの車・・・」
梅川「俺にもわかんねぇからおまえに頼んでんだよ」
坂上「・・・」

○ 横浜市内・国道
  走行しているカローラ。

○ カローラ車内
  スピーカーに話し掛けている北。
北「横浜市内に入った」
ディジアの声「動きが止まったわ。そこから南南東1.5キロ先に向かって」
北「OK」

○ 1番倉庫前
  ゆっくりと走行するカローラ。
  立ち止まり、車から降りる北。
  辺りを見回しながら、ゆっくりと歩き出す。
  レギオウォッチからディジアの声が聞こえる。
ディジアの声「そのまま西へ後300メートルぐらい」
  レギオウォッチに話し掛ける北。
北「その距離だと、3番倉庫の辺りだな」
ディジアの声「B―COAを見つけて乗り込んだら、すぐにアクセスコードを打って、アシスト機能を復帰させて」
北「わかってる」

○ 3番倉庫内
  B―COAの運転席に乗り込んでいる坂上。ハンドル周りのパネルやコンソールを見回している。
  モニターのメニュー画面のボタンを押す。
  『ASSIST OPERATION CODE』と言う文字が表示される。
  運転席のドアの前にやってくる梅川。
梅川「どうだ?」
坂上「何ができるのかは、まだわからないが、かなり高度なシステムが搭載されているのは、確かです」
梅川「そのシステムを使えるようにしろ」
坂上「アクセスコードを要求されてる。それを解除しない事には・・・」
  梅川の背後に近づいてくる名倉。
名倉「もういいでしょ。こんな車。どうでもいいじゃないですか」
  名倉と対峙する梅川。
梅川「サツの情報が引き出せるかもしれないんだぞ」
名倉「高度なシステムを積んでるんなら、俺達の動きが読まれてるかもしれませんよ。やばいっすよ・・・」
  梅川、失笑し、
梅川「神経質な奴だ。甲谷は、死んだ。もう誰も俺達を止める事は、できない」
坂上「高電圧をかけて、システムを麻痺させてみましょうか」
梅川「それで使えるようになるのか?」
坂上「試してみる価値は、あると思いますよ」
   ×  ×  ×
  裏口のドアが開き、北が静かに侵入する。北、目の前にある階段の陰に身を隠し、B―COAを見つめる。
  身を屈めながら、事務所の前の壁に向かって突き進む北。壁際にしゃがみこみ、入口付近へ進む。
  入口のドアを少し開き、事務所の中の様子を見つめる北。
  梅川と名倉が話をしている。
  北、屈んだ姿勢でそそくさとB―COAの元に駆け寄る。
  静かにドアを開け、中に乗り込む。

○ B―COA車内
  運転席に座る北。コンソールを操作し、左上のモニターにメニュー画面を呼び出す。
  タッチパネルを押し、コードナンバー『ST8453』を入力する。
  電子音が鳴り響き、モニターに『ASSIST OPERATION ACTIVE』の文字が表示される。
ジェノン「アシストシステムを実行します」
北「あのプレハブの中の二人を捕まえる」
ジェノン「了解しました」
  北の耳元で撃鉄の音が鳴り響く。
  北の首元に銃口を当てる男の手。
  後部席に坂上が座っている。
坂上「良かった。余計な手間が省けて」
北「・・・」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP指令室
  オペレートマシーンの前に座っているディジア。必死にヘッドマイクに話し掛けている。
  ディジアのそばに近寄る椎名。
椎名「どうした?」
  ディジア、ヘッドマイクを外し、
ディジア「スタークと連絡が取れません・・・」
  唖然とする椎名。
椎名「B―COAの位置は?」
ディジア「それが、発信も途絶えました。アシストシステムが立ち上がったところまでは、
 確認しているんですが・・・」
椎名「システムを停止させろ」

○ 3番倉庫内
  腹に蹴りを入れられる北。続けて背中に肘鉄を食らい、地面に突っ伏す。
  腹を押さえ、呻き声を上げる北。北の前に名倉が立っている。名倉、さらに北の脇腹を力強く蹴る。
  B―COAの前で様子を見ている梅川。
梅川「あいつの勘、すげぇなぁ。本当に俺達の動きが読まれてた・・・」
  B―COAの運転席に座る坂上。
  パネルを操作しているが反応しない。
  車から降りる坂上。
坂上「駄目だ、また使えなくなった」
梅川「試合終了だ!名倉」
  蹴るのを止める名倉。
  地面に突っ伏し、微動だにしない北。
  名倉、北の腕からレギオウォッチを外し、地面に投げつけ、踏み潰す。
  梅川の元に近づく名倉。
名倉「結構面倒な事になりましたよ。だから言ったでしょ。さっきの所であいつも殺しとけば良かったんですよ」
梅川「カッカすんな。物は、使いようだ」
  梅川、名倉のポケットから短銃を抜き取り、いきなり、北に目掛けて3発撃つ。
  北の周りに弾き飛ぶ弾丸。北、苦しげな表情で梅川を睨みつける。
梅川「車に乗れ!」
北「・・・嫌だね」
  名倉、梅川から銃を奪い取り、北に向ける。
梅川「撃つな!」
  撃つのをやめる名倉。梅川、北の手帳をまじまじと見つめ、
梅川「写真が載ってるだけで、名前も何も書いてねぇ…」
  北、血混じりの胆を吐く。
梅川「名倉、こいつを車に乗せろ」
  溜息を吐く名倉。
名倉「・・・わかりました」
  北に向かって歩き出す名倉。

○ クルーザー
  デッキの上に座る葉菜美。
  暫くして、中から真坂が出てくる。
  葉菜美の隣に座る真坂。
真坂「やっと、寝た・・・」
  葉菜美、失笑する。
真坂「何がおかしいんだよ?」
葉菜美「ちゃんと父親やってるからさ・・・」
真坂「それより、どうすんだ?」
葉菜美「どうするも何も、もう私の中にいるのよ。赤ちゃん・・・」
真坂「・・・」
葉菜美「なんで、探偵社辞めたのよ?里美さん良い人だったじゃん・・・」
真坂「・・・死んだんだ」
葉菜美「嘘?病気で?」
真坂「ああ・・・」
葉菜美「いつよ?」
真坂「何ヶ月も前の話だよ」
  真坂、ジャケットから煙草を出し、口に銜える。葉菜美、咄嗟に真坂の煙草を奪い取る。
葉菜美「(自分の顔を指差し)妊婦」
  真坂、むすっとした表情で頭を掻く。
葉菜美「それでか…」
真坂「何が?」
葉菜美「なんかさ、いつもと違って、気弱な感じがしたからさ…」
真坂「俺が?」
  頷く葉菜美。
葉菜美「いい人だったのに…かわいそう」
真坂「…やっぱり許せねぇよな」
葉菜美「何が許せないの?」
  海を見つめる真坂。
真坂「神様だよ…良い奴ばかりさっさと天国に連れて行きやがってさ…」
葉菜美「だね…」
真坂「海の上で二人っきりのウェディングなんてのは、どう?」
葉菜美「プラス二人でしょ」
真坂「そうだった…」
葉菜美「お金の事なら心配要らないわよ。生活費ぐらい出して上げても良い」
真坂「・・・」
葉菜美「あんな子がいるのにさ・・・かわいそうでしょ?」
真坂「・・・なんとかするさ」
  ジャケットのポケットの中に入れているレギオウォッチがぶるぶると震えているのに気づく真坂。
  真坂、立ち上がり、中に入ろうとする。
葉菜美「どこ行くの?」
真坂「しょんべん」

○ 同・中・トイレ
  ジャケットのポケットからレギオウォッチを取り出し喋り出す真坂。
真坂「すまん・・・」
ディジアの声「・・・こんな大事な時に何してるの?」
真坂「俺・・・」
ディジアの声「スタークとまた連絡が取れなくなったの」
真坂「・・・」
ディジアの声「早く戻って」
  動揺する真坂。

○ 同・デッキ
  中から出てくる真坂。ジャケットを着ている。
真坂「茂、頼む」
葉菜美「ええ、どこ行くの?」
真坂「就職先が見つかった。面接に行ってくる」
葉菜美「今から?」
真坂「そう、早い方がいいだろ?」
  梯子を掴み、クルーザーから下りる真坂。
  葉菜美、下を覗き込み、
葉菜美「さっさと戻って来いよ」
  手を上げ、立ち去って行く真坂。
  葉菜美、少し不安げな表情を浮かべながら、真坂を見ている。

○ B―COA車内
  運転席に座る北。助手席に坂上が座っている。坂上、右手に拳銃を持ち、北の脇腹に向けている。
  エンジンをかける北。
  外からパトカーのサイレンが聞こえてくる。こちらに近づいてくる。
坂上「早く、アクセスコードを入力しろ」
  北、モニターのメニュー画面を出力し、ナンバーを打ち込む。
  電子音が鳴り響き、モニターに『ASSIST OPERATION ACTIVE』の文字が表示される。
ジェノン「アシストシステムを実行しました」
  坂上、ほくそ笑み、
坂上「へぇ、流行りのお喋りナビつきか」
北「これで、満足か?」
坂上「さっさと車を出せ」
  北、シフトレバーを入れ、アクセルを踏み込む。

○ 3番倉庫前
  入口から勢い良く走り出てくるB―COA。右に曲がり、倉庫沿いの通路をスピードを上げ、走行する。
  暫くして、トレーラーも現われ、B―COAの後を追って、走り出す。

○ B―COA車内
  フロントガラス越しにサイレンを唸らせたニ台のパトカーがこちらに迫ってくるのが見える。
坂上「どうするかわかってるよな?」
  北、悔しげに顔を歪ませ、ハンドルに設置されているボタンを押す。
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスに透明のスクリーンが投影される。方眼軸が浮かび上がり、
  300m前方から向かってくる二台のパトカーを捕捉する十字の点滅が表示される。
  北、ハンドルの『COB』ボタンを押す。

○ B―COAの前バンパー両側の窪みからオレンジ色のボールが2つ同時に発射される
  ボールは、枝分かれし、二台のパトカーのフロントガラスに同時に辺り、ガム状にへばり着く。
  暫くして、小さな爆発が起こる。白煙が上がり、二台のパトカーのフロントガラスが粉砕する。
  急ブレーキで立ち止まる二台のパトカー。
  その合間をB―COAが横切って行く。
  暫くして、黒いトレーラーがやってくる。
  トレーラー、二台のパトカーに体当たり。
  勢い良く弾き飛ばされる二台のパトカー。

○ B―COA車内
  後ろを振り返りパトカーの様子を見つめる坂上。
坂上「(北を見つめ)なんで、タイヤを狙わなかった?名倉さん達がぶつけなかったら、
 危うく追われるところだったぞ!」
北「ちょっと手元がくるったんだ・・・」
坂上「今度、そんな言い訳したら、わかってるな」
北「・・・」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP指令室
  入り口の扉が開き、真坂が現われる。部屋の中央に立っているディジア、真坂に駆け寄る。
ディジア「…良かった」
真坂「ディジア、俺・・・」
ディジア「何も言わないで。今は、北さんの救出を優先しないと・・・」
真坂「・・・じゃあ、さっさと行こうぜ」
ディジア「気変わりが早いわね」
  二人、一緒に歩き出し、通路に出て行く。
  その様子を見ている椎名。
  椎名、溜息をつき、総監オフィスのほうへ歩き去る。 

○ 岬
  坂道を駆け上っているB―COA。その後ろをトレーラーが走っている。

○ 白い別荘
  門を潜り、敷地に入って行くB―COA。
  トレーラーも門を潜る。

○ 同・駐車場
  立ち止まるB―COAとトレーラー。
  トレーラーの運転席から名倉、助手席から梅川が降りてくる。
  B―COAの助手席のドアの前にやってくる二人。助手席のドア窓が開き、坂上が顔を出す。
梅川「そいつからこの車のシステムの事を全部聞き出せ」
坂上「わかりました」
  梅川、別荘の入口に向かって歩き去って行く。
  坂上の前に立つ名倉。
名倉「終わったら、片付けろ」
  名倉、北を見つめ、ほくそ笑む。
  車内から名倉を睨みつける北。
  名倉、梅川の後を追う。

○ 国道
  薄汚れた白いアルトが突っ走っている。
ディジアの声「やっぱり、うちの車を借りてくるんだった・・・」

○ アルト車内
  ハンドルを握る真坂。助手席にディジアが座っている。
真坂「俺の自慢の車なんだぜ。なけなしの金で買ったんだ」
ディジア「何年乗ってるの?」
真坂「探偵始めた時からだから、今年で丸3年目」
ディジア「でも、中古なんでしょ?」
真坂「製造年月日は、平成元年」
ディジア「あ〜ん、聞くんじゃなかった・・・」
真坂「去年車検も通したし、見ろ、まだ余裕で100キロ出せてる」
ディジア「オーバーヒートさせないでよ」
真坂「車より、北の方を心配しろよ。信号は?」
  両手で持っている小型のディスプレイを見つめるディジア。
ディジア「駄目。反応ない・・・」
真坂「・・・」
  
○ B―COA車内
  坂上、北の顔に銃口を向ける。
坂上「コンソールの操作方法を教えろ」
北「それが人に物を教わる態度か?」
  坂上、北の左腿に銃口を当て、
坂上「死ぬ前に歩けなくしてやろうか?」
北「・・・どうせ死ぬなら、綺麗な体のままあの世に行きたい」
坂上「だったらずべこべ言うな」
北「何から教えればいい?」
坂上「アシストモードってのは何だ?」
北「ジェノン、教えてやれ」
  中央コンソールの上に設置されている音声レベルゲージが光る。
ジェノン「はじめまして。私は、この車の自己管理システムのメインプログラム、ジェノンです」
坂上「声に反応するのか?」
  頷く北。
  坂上、システムボードの『V』ボタンを見つめ、
坂上「この「V」ってボタンは、何だ?」
ジェノン「車体前後部に設置しているワイヤーフックから、最大10万ボルトの電流を流す事ができます」
北「試しにやってみるか?」
坂上「・・・おお」
北「ジェノン、AGタイプで頼む」
坂上「なんだ?そのAGタイプって?」
北「出力量レベルの事だ」
坂上「ほぉ・・・」
  坂上、『V』ボタンを押す。坂上の指先から電流が流れる。体を震わせ、感電している坂上。
北「それぐらいでいい」
  電流が止まる。坂上、シートに倒れ、意識を失う。
北「ターミナルシグナルをオンにしろ」
ジェノン「了解しました」

○ アルト車内
  ディジアが持っている小型ディスプレイに白い点滅が表示される。
ディジア「位置が出たわ。アシストシステムが復帰したみたい」
真坂「しぶとく生きてやがったか・・・あいつ・・・」
ディジア「横須賀の方角よ」
真坂「米軍基地でも狙うつもりか?」
  ディジア、冷たい目で真坂を見つめ、
ディジア「そんな間近の建物に誘導弾を使うメリットなんてないと思うけど…」
真坂「…冗談だよ。マジになるなよ」
  アクセルを踏み込む真坂。

○ B―COA車内
  運転席のドア窓から、別荘2Fのベランダを覗き見る北。ベランダに梅川と名倉、
  もう一人の男の姿が見える。
  北、梅川と目が合い、さっと、顔を逸らす。梅川、怪訝な表情をすると、室内に入り込む。
北「連絡してる暇は、なさそうだ・・・」
ジェノン「どうされますか?」
北「奴らを捕まえる」
ジェノン「危険です。私の中で待機してください」
北「もたもたしてると逃げられる」
  ドアを開けようとする北。しかし、ロックがかかり開かない。北、何度もノブを
  引き続ける。やがて、ドアが開く。
  北、怪訝な表情を浮かべ、
北「おまえのイタズラか?」
ジェノン「・・・」
  北、車から降り、その場から立ち去って行く。
  スピーカーからディジアの声が聞こえる。
ディジアの声「聞こえる?ジェノン」
ジェノン「ディジアの声をキャッチしました」

○ アルト車内
  携帯型の無線機を耳に当てているディジア。
ディジア「スタークは?」
ジェノンの声「外に出ました」
  不安げな表情を浮かべるディジアと真坂。
ディジア「どう言うこと?」
ジェノンの声「犯罪者を捕まえるそうです」
真坂「あの馬鹿!」
ディジア「無茶し過ぎよ・・・」
ジェノンの声「誰か近づいてきました。一端通信を切らせて頂きます」
  通信が切れる。
ディジア「ジェノン?・・・」

○ 白い別荘・駐車場
  階段を下り、B―COAの前にやってくる梅川。運転席のドア窓を覗き込む。
  助手席で気絶している坂上の姿が見える。
  梅川の後頭部に銃口が当たる。
  梅川の背後に立つ北。
北「友達を紹介してもらおうか。来い」
  北、梅川の左肩を掴み、一緒に歩き始める。階段を上る二人。

○ 同・二階リビングルーム
  入口から梅川が入ってくる。梅川の背後に隠れるように歩いている北。
  ベランダ際のソファに談笑しながら座っている名倉ともう一人の男。
  男の顔は、ベランダから差し込む光でよく見えない。手前にやってくる梅川を見つめる二人。
  名倉、険しい表情を浮かべる。
  北が二人の前に姿を見せる。
北「二人ともそこで大人しく座ってろ」
  北、男の顔を見つめ、驚愕する。
北「荒崎・・・」
  男は、荒崎伸也(45)。金髪のオールバック。精悍な面持ち。
名倉「性懲りもなくまた一人で・・・学習能力ないのか、おまえ・・・」
北「余計な口聞くな。あの誘導弾を何に使う気だ?」
梅川「それを言ったら、俺達を見逃してくれるのか?」
  北、引き金に指を当て、銃口を梅川の後頭部に強く押し付ける。
北「俺は、政府機関の人間だ。国に脅威を与える犯罪者には、抹殺権を行使してもいい事になってる…」
  険しい表情を浮かべる荒崎。
  名倉、大笑いしている。
名倉「抹殺権だと?面白いね。どんな風にするんだ?」
  北、梅川の左太腿を撃ち抜く。悲鳴を上げ、その場に屈み込む梅川。ズボンが血で赤く染まる。
  北を物凄い形相で睨みつける名倉。冷静に事態を見つめている荒崎。
名倉「てめぇ!」
北「さっさと俺の質問に答えろ」
梅川「第三国が二十四時間以内に日本に攻撃を仕掛けてくる。
 だから、その前に奴らのミサイル基地を破壊する・・・」
北「嘘をつくな」
梅川「嘘じゃねぇ。ロシアにいる仲間からの情報だ」
北「・・・第三国ってどこだ?」
  荒崎、右手をソファに起き、太腿の下に置いていたリモコンを掴む。 
名倉「俺達は、国民を守るために活動してるんだ。善良な一般市民を殺したら、
 後で後悔することになるぞ」
  失笑する北。
北「TENAが一般市民気取りかよ…本当なのか、荒崎!」
荒崎「・・・さぁ。私は、この計画に携わっていないんでな」
北「じゃあ、なぜここにいる?」
荒崎「答えなければ、俺もその抹殺権ってやつで殺されるのか?」
  北の後ろの壁隅の天井に設置されている監視カメラ。レンズが北の方向に向く。

○ 監視カメラの映像
   北の後ろ姿が映っている。画面がズームアップし、北の背中が画面に映る。

○ 別荘・二階リビングルーム
  監視カメラの下から細長いバレルが突き出ている。バレルから弾が発射する。
  弾は、北の左肩を撃ち抜く。悲鳴を上げ、前のめりに倒れる北。
  名倉、荒崎、同時に立ち上がる。荒崎、入口に向かって走り去る。
  名倉、ジャケットから銃を取り出し、北に向ける。
  北、うつ伏せの状態で名倉に銃口を向け、引き金を引く。名倉の腹に弾丸が当たる。
  名倉、ソファに座り込み、手で腹を押さえている。
  拳で北の顔を殴りつける梅川。梅川、北の拳銃を奪い取り、北の額に銃口を当て、
  引き金を引く。しかし、弾は、空である。
  北、不気味に笑みを浮かべ、
北「二人分だけにしといて正解だった・・・」
  梅川、銃を床に投げつけ、左足を引きずりながら、名倉の元へ歩いて行く。北、梅川の左の足首を掴む。
  床に転ぶ梅川。梅川、名倉の足元に落ちている拳銃に手を伸ばしている。

○ 横須賀市内・国道
  勢い良く走行するアルト。

○ アルト・車内
  ハンドルを握る真坂。心配げな表情を浮かべているディジア。小型ディスプレイを見つめる。
ディジア「後3キロ程よ」
  真坂、さらにアクセルを踏み込む。
  しかし、みるみるエンジンパワーが落ちている。
ディジア「どうしたの?」
真坂「おまえの予感的中…オーバーヒートだ」
  ディジア、愕然と項垂れる。携帯型の無線機を耳に当て、
ディジア「ジェノン、聞こえる?」
ジェノンの声「ディジアの声をキャッチしました」
ディジア「スタークは?」
ジェノンの声「まだ戻ってきません」
ディジア「私達のところまで来て」
ジェノンの声「了解しました」

○ B―COA車内
  システムボードの『AUTO ADVANCE』のボタンが青く発光する。
  「M」型のハンドルが袋状に縮み始める。パルス音が鳴ると、エンジンが始動する。

○ 白い別荘・駐車場
  階段を下りている荒崎。ふと、立ち止まり、駐車場の方を見つめる。
  勢い良くバックするB―COAの姿が見える。
  まじまじと様子を見つめる荒崎。
  B―COA、切り返し、そのまま、門を潜り、市道に走り出て行く。
  荒崎、呆然としながら、走り出し、トレーラーの運転席に乗り込む。

○ 同・二階・リビングルーム
  床に落ちている銃に手を伸ばす梅川。梅川の足首を必死に押さえている北。
  北、ゆっくりと立ち上がり、梅川の足を引きずる。悲鳴を上げる梅川。

○ 市道
  脇道に止まるアルト。ボンネットを開ける真坂。白い煙がもくもくと上がる。
  真坂、煙を浴び、激しく咳き込んでいる。
  山の手の車道をそわそわしながら見ているディジア。暫くして道の向こうにB―COAの姿が見える。
  思わず、笑みを浮かべるディジア。
  スピードを上げ、接近してくるB―COA。ディジアの前で急ブレーキをかけ立ち止まる。
  運転席に乗り込むディジア。
ディジア「ジェノン、ハンドルを出して」
  袋状のものが膨らみ、「M」型のハンドルになる。  
ディジア「真坂君!早く!」
  真坂、慌てて、アルトのキーを抜き、助手席に乗り込む。
真坂「俺が運転する」
ディジア「私に任せて」
  勢い良く発進するB―COA。180度ターンし、山の手に向かって走行し始める。

○ 白い別荘・二階・リビングルーム
  うつ伏せで倒れている梅川を部屋の入口まで引き摺る北。梅川、苦痛で悲鳴を上げ、もんどり打っている。
北「ギャーギャーわめくな」
  ふと正面を向く北。
  ソファに座る名倉が右手に銃を構え、北に銃口を向けている。
  北、唖然とし、
北「おまえもしつこいな」
  名倉、青ざめた顔で力のない笑顔を作り、
名倉「三途の川でもう一回勝負しようぜ・・・」
  名倉が引き金を引きかけた瞬間、銃声が鳴る。名倉の右腕に弾が貫通し、血飛沫が上がる。
  銃を落とす名倉。そのまま、ソファの横に寝転び、意識を失う。
  振り返る北。
  真坂が銃を構え立っている。ディジアが北に駆け寄る。
ディジア「(北を抱き起こし)しっかりして」
  銃をホルダーにしまい、北の前に立つ真坂。
真坂「一人で何でもできると思うなよ」
  北、真坂を見つめ、失笑し、
北「おまえが言うな」
  笑みを浮かべる真坂。
北「荒崎は?」
ディジア「荒崎って・・・あの、荒崎?」
北「さっきまでここにいた・・・表に黒いトレーラーが止まってただろ?」
真坂「いいや。そんなもんは、なかった」
  北、苦痛の表情で立ち上がり、
北「奴らは、精密誘導弾をどこかの国に撃ち込むつもりだ」
ディジア「なんですって?」
真坂「じゃあ、トレーラーは、荒崎が?・・・」
北「急いでトレーラーを探し出さないと・・・」
  北、急に腹を押さえ、その場に屈み込む。
  ディジア、北に寄り沿い、
北「あのイケメンに何度も思い切り蹴られたから、どこかやられたかもしれん・・・」
ディジア「北さんは、ここでジッとしてて。ミサイルは、私達が追うわ」
  真坂、ディジア、入口に向かって走り去って行く。
  複雑な表情を浮かべる北。

○ 岬
  スピードを上げ疾走するB―COA。

○ B―COA車内
  ハンドルを握るディジア。助手席に座る真坂。
真坂「ディジアがこんなに運転がうまいとは知らなかった」
ディジア「こう見えても、昔は、F1レーサーになるのが夢だったの」
真坂「女なのに?」
ディジア「小学生の時の話よ」
真坂「俺は、戦闘機のパイロットだ」
ディジア「本当に?」
真坂「だけど親に連れられて東京タワーに上った時、自分が高所恐怖症なのに気づいて挫折した」
ディジア「へぇ…」
真坂「…何?その冷たい反応」
ディジア「えっ…ちょっと意外だったから」
  コンソールの左上のモニターに付近の地図が映っている。

○ 海岸
  砂浜の上に立ち止まる黒いトレーラー。
  フルウイングで開くコンテナ。中に積まれていたミサイル発射台が姿を現わす。
  コンテナの天井が取り払われ、無気味な音を立てて発射口が
  海岸の方に向かって動き始める。
  暫くして、猛スピードでB―COAが駆け込んでくる。砂煙を上げながら、
  トレーラーに接近するB―COA。

○ B―COA車内
  ブレーキを踏み込むディジア。
  トレーラーのコンテナの200m手前で立ち止まる。
  コンソールのボタンを押し、ハンドルのパネルのボタンを操作している。
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスに透明のスクリーンが投影される。
  方眼軸が浮かび上がり、照準を示す十字の点滅が表示される。
真坂「どうする?」
ディジア「粘性ミサイルでミサイルを発射できないようにする」
  モニターに映るメニュー画面の「BONDING POD」のボタンを押す。
  ハンドルから赤い光線が飛び出し、ディジアの左眼に当たる。
  ディジア、左眼でフロントガラスに映る照準を合わせている。
  不思議そうにディジアを見つめる真坂。
真坂「何やってんだ?」
ディジア「丁度良い機会だから実戦してみるわ」
  左眼でウィンクするディジア。

○ B―COAの右側のリアフェンダーの格納庫が開く
  青い筒型のミサイルが発射する。
  ミサイルは、砲台に向かって突進する。砲台に命中するミサイル。白い煙を上げる。
  砲台が粘液に包まれている。砲台の周りが瞬間で固まり、動きが止まっている。

○ B―COA車内
  真坂、ぽかんとした表情で砲台を見つめ、
真坂「…俺にもやらせてくれ」
ディジア「また今度ね。荒崎は?」
真坂「おっと、忘れてた」
  ドアを開け外に出る二人。

○ 砂浜
  砂浜を走り出すディジアと真坂。トレーラーの運転席に向かっている。
  真坂、銃を持ち、スライドを引く。トレーラーの後方を周り込み、運転席のドアの前に忍び寄る。
  ディジア、銃を持つと、助手席側のドアの前に近づいて行く。
  真坂、大きく深呼吸すると、勢い良く運転席のドアを開け、車内に銃を向ける。
  車内を見つめる真坂。中には、誰もいない。助手席のドアを開け、銃を向けるディジア。
  真坂と顔を合わす。
  真坂、首を横に振り、銃をしまうと運転席に乗り込む。
  助手席に置かれているノートパソコンのディスプレイを見つめる真坂。ディジアも覗き込む。
ディジア「ミサイルの誘導装置ね…GPS型だわ。標的は、北緯37度…」
  ディジア、キーボードのボタンを押す。
  その直後、電子音が鳴り響き、足元においてあるブラックボックスのカウンターが動き始める。
  真坂、カウンターを見つめ、驚愕し、
真坂「起爆装置だ!トラックから離れろ!」
  ディジア、B―COAの方に向かって走り出す。
  車内から飛び出す真坂。海に向かって走り出す。
  その直後、大きな爆発音と共にトラックの運転席から巨大な炎が上がる。
  炎は、発射台を包み込み、空高く舞い上がる。
  海に飛び込む真坂。
  B―COAの前の砂の上に突っ伏すディジア。
  猛烈な勢いで上空に舞い上がる炎。メラメラと不気味に音を立てている。
  起き上がり、トラックを見つめるディジア。
  海の中から顔を出す真坂。顔を拭い、トラックをまじまじと見つめている。
  
○ 海岸沿いの道
  脇道に止まるシルバーのBMW。
  運転席の窓を開け、砂浜の様子を見つめるブルーのサングラスをかけた男。
  荒崎である。荒崎、暫く様子を窺った後、窓を閉め、車を発進させる。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  デスクの電話の受話器を握る椎名。
椎名「梅川の情報の件だが、ロシア支部に問い合わせてみたところ、そんな情報は、確認できなかった」
ディジアの声「トレーラーを運転していたのは、荒崎です」
椎名「荒崎が?…捕まえたのか?」
ディジアの声「残念ながら…」
椎名「…」

○ 病院・個室(夜)
  ベッドで眠る北。そばにディジアが座っている。
北「すまん、ディジア。俺は、JWA組織そのものを潰しかねない大きなミスをしてしまった…」
ディジア「気にしないで。B―COAが盗まれたおかげでTENAの居所も掴めたし、ミサイルも破壊できた。
 ミサイルの標的地点は、某国のミサイル基地だったわ。日本を戦場にするのが狙いだったの」
北「…荒崎の指示か?」
ディジア「おそらく…」
北「…」
ディジア「…シェンズの事で力が入り過ぎてるんじゃない?あなたが命を失えば、悲しむわよ彼女」
北「…関係ない、そんなこと」
ディジア「そんなに責任感じるなら、今後一切、真坂君と喧嘩しないで」
  顔を背ける北。
北「…それも関係ない事だろ」
ディジア「そんなことない。彼がいなければ、あなた死んでたわよ」
北「地震の時、あいつを助けてやった。借りを返してもらっただけさ」
ディジア「そう言う問題じゃなくて…」
北「…あいつは?」
ディジア「帰ったわ」
北「…」
ディジア「俺の顔を見たら怪我の治りが悪くなるだろうって・・・」
北「その通りだな…」
  溜息をつくディジア。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監オフィス
  壁にかけてある黒いコートを取り、着ている椎名。
  入口に向かって歩き出す。

○ 同・ガレージ
  緑色の照明に照らされているB―℃OA。
  運転席のドアが開いている。
椎名の声「お疲れだったな。もう会えなくなるんじゃないかと、年甲斐もなくそわそわしてしまった」

○ B―COA・車内
  運転席に座る椎名。アルバムを捲っている。
  中央コンソールの右上のモニターの画面にポニーテールの女性のCGイメージが映っている。
ジェノン「私のメモリーデータは、本部にもバックアップが置かれているはずです」
椎名「そうだ。だが、今の君の記憶は、ここにしかない」
ジェノン「コピーをお取りください。そうすれば、ご心配をかけるようなことは、ありません」
椎名「おまえは、身体的な機能は、失ってしまったが、頭脳は、生き続けている。誰かが止めない限り、
 永遠に生き続けられるんだ」
ジェノン「シェンズについて、もっと詳しく教えてください」
  椎名、アルバムの写真を見つめ、複雑そうに顔を歪める。
  写真は、海水浴場の砂浜に座り、ビーチボールで遊ぶ赤い水着を着た3歳のシェンズが写っている。
椎名「過去を遡れば遡るほど、辛くなるだけだぞ」
ジェノン「では、何のためにシェンズの記憶データを封印してあるのです?」
椎名「・・・」
ジェノン「今の私に、あなたは、満足していないはずです」
  アルバムを閉じる椎名。険しい顔つき。
椎名「今のままでも十分満足しているよ」
  椎名、車から降りる。
  ドアを閉め、立ち去って行く椎名。

○ 倉庫・裏
  シャッターが開く。
  雨の中、ヘッドライトを光らせた黒のマジェスタが走り出し、外へ出て行く。
  倉庫街の狭間を走り抜けるマジェスタ。

○ マジェスタ車内
  ハンドルを握るドライバーの男。後部席の左側に座っている椎名。
  椎名、おもむろに窓外を見つめ、ハッと目を見開く。
椎名「止めてくれ」
  
○ 倉庫街
  脇道に止まるマジェスタ。
  後部席のドアが開き、椎名が降りる。
  椎名、後ろを見つめる。
  倉庫の庇の下に佇む一人の男が椎名の方を見つめている。荒崎である。
  椎名、荒崎と目を合わし、ゆっくりと近づいて行く。

                                                      ―THE END―

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