『メトロジェノン』 TENA CODE007 「アームド・キラー」 BY ガース『ガースのお部屋』

○ 倉庫地下・JWA本部・ガレージ
  円盤状の鉄板の上に止まっているB―COA。

○ B―COA車内
  運転席に座っている北(ほく) 一真(28)。
  モニターにポニーテールの女のCGが映る。
北「奈央美…だって…」
ジェノン「そうよ…」
  苦笑する北。
ジェノン「去年の誕生日にプレゼントしてくれたインコアナナス…総監も気に入って
 司令室で育ててると言ってた」
北「…なぜそんなこと知ってる?」
ジェノン「まだ信用できないかしら…でも無理ないわ。私は、もう人間じゃないのだから…」
  北、呆然とモニターを見つめ、
ジェノン「私の頭脳は、JWAの地下に保存されているの。今までの記憶を吸い出し、
 その一部がジェノンのAI技術に利用された」
  驚愕する北。
ジェノン「誰か来た。あなたとの会話の記録は、消しておくわ。もし、また私と話をしたければ、
 『MIND CHANGE』のメイン画面を出力して、次のコードナンバーを入力して」
  右下のモニター画面にナンバーが映し出される。 
  北、わけもわからず慌てて、ジャケットのポケットから手帳を出す。モニターを見ながら
  ペンでナンバーを書き込む。
  
○ 倉庫地下・JWA本部・ガレージ
  通路を駆けているディジア。B―COAの様子を見つめる。

○ B―COA車内
  運転席のドアの前に立つディジア。
ディジア「北さん!」
  サッと手帳をしまう北。
ディジア「ビーフカレーできたって。早く行きましょう」
北「…ああ」
  北、車から降り、ドアを閉める。
  そそくさと通路の方に向かって歩き出す北。その様子を見ながら少し困惑しているディジア。

○ JWA本部・総監室
  デスクにつく椎名歩夢(54)。受話器を握っている。
  受話器から荒崎伸也(45)の声が聞こえる。
荒崎「時本のことは、何かわかりましたか?」
椎名「まだ調査中だ」
荒崎「随分ルーズですね」
椎名「何をそんなに焦ってる?」
荒崎「別に焦っちゃあいません」
椎名「…奴の身柄は、こちらにある。心配する必要はない」
荒崎「そうですか。じゃあ…新しい情報です」
  険しい目つきになる椎名。

○ クルーザー内
  テーブルを囲む三原 葉菜美(20)、真坂茂(5)、浅田恵美(34)。そして、真坂 和久(28)。
  凍りついた空気。葉菜美と恵美を見つめ、溜息をつく真坂。茂、おいしそうに目玉焼きを頬張っている。
  恵美、呆然と俯いたままである。
真坂「(葉菜美を見つめ)ちょっと二人だけで喋りたいんだけど…」
  葉菜美、無言で立ち上がり、茂を連れ、外に出て行く。
真坂「ここには、来ない約束だろ?」
恵美「茂のこと心配になったから…」
真坂、呆気に取られている。
真坂「あいつまた電話したのか?」
恵美「…あなたが携帯の使い方を教えたからよ」
真坂「あいつが勝手に覚えたんだよ」
  真坂、溜息をつき、タバコを銜える。
恵美「まだ…あの仕事続けてるの?」
真坂「…今は、別の所で働いてる」
恵美「いくらそっちに親権があるからって、今の状態じゃあ茂がかわいそう」
真坂「今更母親気取りかよ」
恵美「生んだのは、私…」
真坂「あいつをほっといて三年も別の男と雲隠れしてたのはどこの…」
恵美「あの人とは、もう別れた」
  失笑する真坂。
恵美「やっぱり、あの子には、母親が必要よ」
真坂「…母親は、いる」
恵美「…葉菜美さんのこと言ってるの?」
真坂「明日朝早いんだ。晩にまた電話する…」
恵美「いい。私がかけるから」
  寡黙に立ち上がる恵美。
  ベッドの上に置いていた鞄を持ち、真坂の前を寂しげに通り過ぎて行く。
  煙草に火をつけ、複雑に表情を歪める真坂。

○ 倉庫地下・JWA本部・取調室
  椅子に座る時本浩一郎(52)。
  時本と対峙して座っているディジア。
ディジア、メガネをかけている。淡々と調書を書き込んでいる。
時本「こう言う場所は、苦手だ…」
ディジア「皆そうだと思います」
時本「テナ?って組織の存在は、知ってる。都庁にヘリでやってきて、歌舞伎町をめちゃくちゃに
 したテロリストの事だろ?」
ディジア「石倉は、なぜあなたを狙ったと思います?」
  失笑する時本。
時本「そんな事あいつに聞けばわかることじゃないか」
ディジア「石倉は、幹部の指示通りに動いただけです」
  時本、ディジアを睨む。
ディジア「大学時代の窃盗事件のことを調べさせてもらいました」
  険しい表情を浮かべる時本。
ディジア「都内の競馬場でスーツケースに入った現金を奪い取った事件の事です。覚えてますよね?」
  憤慨する時本。
時本「私は、命を狙われたんだぞ」
ディジア「あのスーツケースには、現金の他にもう一つ重要な物が入っていました」
時本「もう君達に守ってもらうつもりはない。帰らせてもらう」
  ディジア、ファイルから一枚の写真を取り出し、時本に見せる。
  時本、写真を見つめ、愕然とする。
  モノクロ写真。70年代風のパーマのかかった女性とおかっぱ頭の娘が映っている。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  監視モニターに取調室の様子が映っている。動揺する時本の顔のアップ。
  モニターを見つめている椎名。

○ 国道(深夜)
  二車線の道路。その右側を走行している黒いタクシー。その後ろでけたたましい
  爆音が鳴り響いている。
  タクシーの後ろにいた白いランボルギーニ・ディアブロが左側の車線に移り、
  タクシーと並んで走り始める。

○ タクシー・車内
  後部席に座る黒いスーツを着た白髪の男・真鍋啓一(56)。窓を覗き、困惑した顔で
  ランボルギーニを見つめる。
真鍋「やかましい車だ。さっさと追い抜け」
  アクセルを踏み込むドライバー。
  スピードメーターが60から90キロへ一気に上がる。
  
○ 国道
  スピードを上げるタクシー。しかし、ランボルギーニもタクシーの真横にピッタリとくっつき走行している。

○ タクシー車内
  真鍋、ランボルギーニの運転席を覗き、驚愕する。
  西洋の鎧とマスクつけた騎士がハンドルを握っているのが見える。
  騎士、真鍋のほうに顔を向け、仰天する。
  騎士、窓を開け、真鍋に357マグナムの銃口を向け、引き金を引く。
  けたたましい銃声が鳴り響く。
  弾丸は、タクシーの右側後部側のドア窓を貫き、男の左胸に当たる。
  ドライバー、バックミラーで真鍋を見つめ、驚愕する。その時、突然、ランボルギー二がタクシーの前に
  割り込んでくる。ドライバー、慌ててブレーキを踏み込み、ハンドルを左に回す。
  
○ 脇道で客待ちするタクシーに衝突するタクシー
  客待ちのタクシーの車体に乗り上げ、横倒しになるタクシー。激しく路面を滑っている。

○ ビジネス街を疾走するB―COA(翌日・朝)
真坂の声「マービッチ?」

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。
北「TENAが開発した洗脳マシーンのことだ」
  助手席に座る真坂。
真坂「情報元は?」
北「総監から直接聞いた。おそらく提供者がいるんだろ」
真坂「TENAの内通者か?」
北「…」
真坂「俺達に隠し事でもしてるのか?」
  北、思いつめた表情で中央コンソールのモニターを見つめている。
  スピーカーから椎名の声が聞こえる。
椎名の声「何も隠しちゃあいない」
  左上のモニターに椎名の顔が映る。
真坂「(小さい声で)忘れてた。盗聴されてるんだこの車…」
椎名の声「本部を出る前に君達に話した事件について、言い忘れていた事がある。殺されたTRDIの
 開発官の眞鍋氏は、B―COAのシステム開発にも携わった人物だ」
北「防衛庁の技術本部ですか…」
椎名の声「白いランボルギーニに乗った奴は、マービッチで操られている可能性がある」
真坂「しかし、ホローポイント弾を使うなんて…洗脳されたからって銃の腕前までは、
 上がらないでしょう。プロの殺し屋か?」
椎名の声「重傷を負ったタクシードライバーの証言が今さっき取れた。ランボルギーニを運転していた
 ドライバーは、中世の鎧のようなものを着ていたそうだ」
真坂「趣味は、コスプレか…」

○ TRDI(防衛庁技術研究本部)・2F
  通路を歩く真坂と北。二人と共に技術開発官の田辺慶一(52)が歩いている。
田辺「昨日も通常通り、自分の研究室に閉じこもって、車両機器の研究を続けていました」
北「何か変わった様子は、なかったですか?外部から電話がかかってきたとか、誰かが
 眞鍋氏を訪ねに来たとか?」
田辺「いや、特にそう言った話は、聞いておりません」
  ある研究室のドアの前に立ち止まる三人。
  田辺、ドアのそばにある読み取り装置に 
  IDカードをスキャンさせる。
  ドアが開くと、中に入って行く三人。

○ 同・研究室
  田辺、棚の引き出しを開け、研究資料を確認している。
田辺「資料は、全て揃っています。持ち出した形跡は、見られません」
  真坂、デスクの周りをまじまじと見回している。
  北、仏頂面を浮かべている。

○ 国道
  並木通りを疾走するB―COA。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に座る真坂。
真坂「技術開発の資料が目的でないとすると、何のために眞鍋は、殺されたんだろうな?」
  呆然としている北。
  真坂、北を見つめ、
真坂「おい!」
北「…」
真坂「おいって!」
  北、我に返り、
北「なんだ?」
真坂「クールになり過ぎて頭が凍ったのかと思ったぜ」
  北、少し動揺した面持ちになる。
真坂「そうモノローグ調になるなって。俺でよければ相談に乗ってやるから」
北「おまえに相談する暇があるなら自分で解決する」
真坂「毎度の事ながら、ムカツクお言葉…」
  通信用のアラームが鳴り響く。
  スピーカーからディジアの声が流れてい来る。
ディジアの声「JA5601、ディジア。スターク応答してください」
北「スターク」
ディジアの声「今目黒区上空を飛行中なんだけど、例の白いランボルギーニらしき車を見つけたわ。
 北北東に向かって進行中よ」
真坂「上空って…おまえどこにいるんだ?」
北「JWAに入って二ヶ月にもなるのに、ディジアのことまだ何にもわかっていないんだな」
ディジアの声「今、偵察用ヘリの中にいるの」
真坂「偵察用ヘリ?」
北「ディジアは、ヘリの操縦もできるんだ」
  唖然としている真坂。
真坂「へぇー、そりゃびっくり」
ディジアの声「えっ、なんて言った?」
真坂「万能女は、怖いね」
ディジアの声「なんですって!」
真坂「聞こえてるじゃん!」

○ 目黒区
  二車線の道路。走行する一般車両をジグザグに次々と追い抜いている白いランボルギーニ。
  交差点を勢い良く横切る。その向こうの道からB―COAが走行してくる。
  B―COA、ドリフト気味に右に曲がり、ランボルギーニの後を追いかけ始める。

○ B―COA車内
  中央コンソールの右上のモニターに走行するランボルギーニの後ろ姿が映し出されている。
  左上の画面にスピード捕捉メーターが表示され、「120」のデジタル数字が映し出されている。 
真坂「昼間っから豪快に飛ばしやがって」
北「(左下の地図のイメージを見つめ)この先、1キロ先で渋滞だ」
真坂「ラッキー、追いつめたな」
  フロントガラス越しに見えるランボルギーニ。突然、急ブレーキをかけ、左の細い道に入り込む。
真坂「向こうもナビつきらしいな。裏道を走り始めやがった」
北「想定内だ」
  北、険しい表情でブレーキを踏み込む。

○ 住宅街
  車一台通れる幅の道を勢い良く通り抜けているランボルギーニ。交差点で右に曲がり込む。
  後を追っているB―COA。同じく、右に曲がる。
 
○ 高速沿いの道
  細い道を勢い良く飛び出し、三車線の道路の真中を走り出す白いランボルギーニ。
  暫くしてB―COAも姿を現わし、ランボルギーニの後を追っている。
  走行するランボルギーニの2つ手前の信号が赤に変わる。
  ランボルギーニ、左に進路を変え、コンビニの駐車場に入り込む。
  B―COAも負けじと、駐車場の中に入り込んで行く。

○ コンビニ・駐車場
  駐車車両の合間を走り抜け、ドリフトしながら勢い良く反対側の道に出て、
  また猛スピードで走り始めるランボルギーニ。
  B―COAもその後を追っている。

○ B―COA車内
  ランボルギーニを見ている真坂。
真坂「おもいっきり気づかれてる」
北「お遊びはここまで。通行人を巻き込む前に止めるぞ」
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスに透明のスクリーンが投影される。方眼軸が浮かび上がると、
  前方を走るランボルギーニを捕捉する十字の点滅が表示される。十字の点滅は、
  ランボルギーニの両後輪にロックされる。
  北、ハンドルに設置されている『COB』ボタンを押そうとするが、前方を見つめ、躊躇する。

○ 踏切
  警報灯が鳴り、遮断機が降り始めている。
  猛スピードで踏切を渡るランボルギーニ。向こう側の遮断竿をへし折り、そのまま走り去って行く。
  降りた遮断機の前で急ブレーキをかけ立ち止まっているB―COA。
  B―COAの前を電車が横切る。

○ B―COA車内
真坂「おいおい」
北「慌てるな。(ハンドルのマイクに向かって喋る)ディジア、ランボルギーニは、今どこにいる?」
  スピーカーからディジアの声が聞こえる。
ディジアの声「あなた達のいる所から北東800メートルにあるトンネルに侵入した。変ね…入ってから
 随分経つのに中々出てこないわ」

○ 踏切
  遮断機が上がる。勢い良く踏切を渡るB―COA。

○ トンネル内
  中に入ってくるB―COA。脇道に車を止める。

○ B―COA車内
真坂「クソ、どこに消えた?」
  北、悔しげに顔を歪ませる。
  真坂、北を見つめ、
真坂「俺が運転すれば良かった」
北「何だって?」
真坂「いや、何も…」
  北、怪訝に真坂を見つめる。

○ 倉庫地下・JWA本部・ガレージ
  立ち止まるB―COA。運転席に北が座っている。
北の声「聞こえるか、シェンズ」
  
○ B―COA車内
  モニターを見つめている北。
ジェノン「私を呼んでいるのですか?」
北「…気にするな。独り言だ」
  北、手帳を出しあるページを開く。メモに書いてあるコードを見つめる。 

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  鉢植えの赤と黄色の花をつけたインコアナナスの花に霧吹きで水をかけている椎名。
  入口のドアが開き、北が現われる。
  北、椎名を見つめ、歩み寄る。
北「すいません…」
椎名「狭い日本で暴走車を食い止めるのは、至難の業だ。記録したランボルギーニの映像の
 分析を進めてくれ」
北「はい…」
  北、ふとインコアナナスの花を見つめ、
北「あの…」
椎名「どうした?」
北「いや…」
  北、一礼すると、その場から立ち去って行く。
  椎名、怪訝に北の背中を見つめる。

○ 美津江田駐屯地・官舎裏
  足場の上に乗り、白いペンキを塗っている作業服の中年の男。
  足場の前に金属音が鳴り響く。やがて、それが鎧をつけた騎士の足音であることがわかる。
  足場の前に立ち止まる騎士。
  振り返り後ろを見つめる男。騎士に気づき、驚愕する。
  騎士、左手に持ったマグナム銃の撃鉄を下ろし、引き金を引く。
  高鳴る銃声。騎士の前に唸り声を上げた男が落ちてくる。
  騎士、銃のシリンダーを開け、足元に薬莢を落とす。踵を返し、ゆっくりとその場を立ち去る。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  監視シテスムの前に座る谷田星司(26)。その後ろに真坂と北が立っている。
  手前のモニターをまじまじと見ている二人。モニターにB―COAが記録したランボルギーニの
  映像が映っている。
真坂「そこでストップ」
  ジョグダイヤルから指を離す谷田。
  映像は、細い道路を勢い良く左折するランボルギーニの姿が映っている。
真坂「運転席の方をアップ」
  映像が運転席の方にズームする。窓奥にうっすらとマスクを被った騎士の姿が見える。
真坂「やっぱり、コスプレマニアか」
谷田「何か目的があって変装してるのかな…」
真坂「鎧になんか意味があるって言うのか?あんなもん、運転の邪魔になるだけなのに」
谷田「夜には、会いたくないですね」
真坂「なんで?」
谷田「だって、不気味じゃないですか」
真坂「昼でも不気味だろ」
  真坂、北の顔を見つめる。モニターを見つめるふりをして呆然としている北。
真坂「ナンバーの照合結果は?」
谷田「出ました。持ち主は、須賀邦夫。車のディーラーをしています」
真坂「家族は?」
谷田「奥さんと子供が一人いますが、母親は、五年前に亡くなっています…」
北「行こう」
  踵を返し、入口に向かって歩き出す北。その様子を怪訝に見つめながら、後を追う真坂。
  二人の後ろで椎名の声が聞こえる。
椎名の声「待て」
  立ち止まり、椎名を見つめる二人。
椎名「そっちは、真坂、おまえが当たれ。北、おまえは、美津江田駐屯地に向かってくれ。
 そこの技官が例の暗殺者に殺された」
  唖然とする二人。
北「…わかりました」
  真坂の前を横切り、駆け足で部屋を出て行く北。怪訝に北を見つめる真坂。
椎名「どうした?」
真坂「朝からボーっとしっ放しなんですよ。女でもできたんですかね…」
  真坂も立ち去って行く。
  憂いの表情を浮かべる椎名。

○ 美津江田駐屯地・正門
  門を潜るB―COA。

○ 同・官舎裏
  私服を身につけた調査員の女が足場の前に横たわる死体の前にしゃがみこんでいる。
  調査員の背後に近づく北。振り返る女。
  女は、ディジアである。唖然とする北。
北「ディジア…なんでここに?」
ディジア「ここでヘリの給油を受けていたの。事件の事を聞いて、あなたが来るまでの間、
 現場保存の担当を…」
  ディジア、右手の掌に乗せているに薬莢を北に見せる。北、薬莢を指で摘み、
北「ホローポイント…」
  頷くディジア。
ディジア「真鍋に使われたのと同じよ」

○ 高層マンション・603号室前
  ドアが開く。その隙間から顔を出すセミロングの少女・須賀有紀(16)。
  ドアの前に立っている真坂。真坂、手帳を有紀に見せつけ、
真坂「須賀邦夫さんについて聞きたい事があるんだけど…もしかして、娘さん?」
  頷く有紀。
真坂「お父さんは?」
  首を横に振る少女。
有紀「死にました…」
  唖然とする真坂。
真坂「いつ?」
有紀「三週間前…」
真坂「どうして?…」
有紀「胃癌です」

○ 同・居間
  机の上に置かれた位牌と遺骨の前に座り、合掌している真坂。目を開け、遺影をまじまじと見ている。
  真坂の背後にいる有紀。座布団の上に座っている。
  真坂、振り返り、有紀と顔を合わす。
真坂「お父さんが乗っていた車について聞きたい事があるんだけど」
  有紀、顔を上げ、
有紀「車?…」
真坂「白いランボルギーニ、覚えてる?」
有紀「…一度だけ、乗せてもらったことがあります」
真坂「あの車、今、誰が所有してるかわかる?」
  有紀、また俯き、
有紀「わかりません…そう言う話、あまり聞いたことがないし…」
真坂「実は、お父さんの車を犯罪に利用している奴がいるんだ。そいつを捕まえるために今、
 手がかりを探してるところでさ」
有紀「…」
真坂「…わからないか。どうもありがとう」
  真坂、立ち上がると、有紀の前を横切り、部屋を出て行く。

○ 同・玄関
  靴を履いている真坂。背後で有紀の声がする。
有紀の声「あの車…」
  振り返り、有紀を見つめる真坂。
有紀「彼氏が乗りたいって言うからあげちゃったんです…」
真坂「名前は?」

○ 国道
  二車線の道路。
  暴走する大型バイク。
  けたたましいエンジンを轟かせながら、走行車両をジグザグに追い抜いている。
  交差点を擦り抜けるバイク。付近に止まっていた白バイがサイレンを鳴らしながら
  バイクを追いかけ始める。
  さらにスピードを上げ走り続けるバイク。白バイ、負けじとスピードを上げている。
  赤信号。バイク構わず交差点を突き進む。白バイも後を追っている。
  交差する道のほうからランボルギーニが現われ、ドリフト気味に右に曲がると、
  白バイを追いかけ始める。
  
○ ランボルギーニ車内
  フロントガラス越しに左車線を走行する白バイの後ろ姿が見える。
  タイヤを唸らせながら右車線に移るランボルギーニ。
  運転席のドアの窓が開く。
  窓の向こうに走行する白バイが見える。
  白バイの警官、こちらを向き、唖然とする。
  運転席に座る騎士。左手にライフルを構え、引き金を引く。
  弾丸は、白バイの警官の左胸に当たる。

○ 転倒する白バイ
  路面を激しく滑る白バイと警官。警官、激しく転がりながら、うつ伏せの状態で立ち止まり、
  息絶えている。

○ 国道・事故現場付近
  潰れて横倒しになった白バイ。道路脇に止まるパトカー。その前に止まっていた救急車が
  サイレンを鳴らし、走り去って行く。
  二人の警官が白バイの前に立っている。
  パトカーの後ろに止まるB―COA。運転席から北が降りてくる。警官と対峙する北。手帳を見せる。
北「運転してた警官は?」
警官A「今、救急車で運ばれましたが…即死です」
北「薬莢を見せてくれ」
  警官B、ハンカチに包んでいたものを北に見せる。
  ハンカチの上にホローポイント弾の薬莢がのっている。

○ 団地・1F・106号室
  ドアをノックする真坂。暫くの沈黙。
  応答がない。ドアノブを握り、回す真坂。ドアが開く。

○ 同・玄関
  ドアを全開する真坂。
真坂「こんちは〜」
  辺りを見回す真坂。怪訝な表情を浮かべる。
真坂「三上さん?」
  真坂、靴を脱ぎ、中に入り込んで行く。

○ 同・和室
  仏壇の前にうつ伏せで倒れる初老の女。真坂、女に気づき、そばに近寄る。女を抱き起こす真坂。
  気絶している女の体を揺さぶる。
真坂「どうした?しっかりして」
  うっすらと目を開ける女。真坂を見つめ、
  驚愕する。
真坂「落ち着いて、(手帳を女に見せる)一体何があった?」
女「克也…克也…」
  女、自力で起き上がり、
女「あの子…探してください」
真坂「克也君は、今、白いランボルギーニに乗っていますね」
女「…その事で揉めたんです。免許も持っていないのに、あんな大きな車を友達からもらってきて…
 今さっきもその事を言ったら、いきなり殴りつけられて…仏壇に頭をぶつけて…」
  真坂の携帯が鳴り始める。
  険しい表情で立ち上がり、女に背を向け、携帯に出る真坂。
真坂「はい」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  デスクに座る椎名。受話器を握っている。
椎名「データベースを照合したが須賀邦夫の名前では、リストは、見つからなかった。だが、
 TENAメンバーの写真を照合した結果、須賀と瓜二つの男のリストを見つけた。男の名前は、
 滝城春次。二年前、東川亨と言う男と光中央銀行を襲撃して、六千万円の現金を奪っている。
 東川もTENAの構成員として登録されている」

○ 団地・1F・106号室・和室
  携帯の受話口から椎名の声が聞こえる。
椎名の声「それと、都心付近で今度は、白バイが例の騎士に襲われた。ディジアのヘリが
 襲撃現場の付近を飛んでいるが、まだ見つからない。そっちの状況は?」
真坂「須賀からランボルギーニを譲り受けた三上克也と言う少年の自宅にいるんですが…
 三日前から行方不明になっています」  

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
椎名「君は、西慶刑務所に服役中の東川を当たれ」
  入口の扉が開き、谷田が入ってくる。
  椎名、谷田を見つめ、
椎名「では、頼むぞ」
  受話器を置く椎名。谷田が椎名のデスクに歩み寄る。
椎名「どうした?」
谷田「荒崎から連絡が入っています」
  険しい表情を浮かべる荒崎。
椎名「つないでくれ」
谷田「それと、防衛庁の稲津さんからも連絡が入っているんですが…」
椎名「そっちは後だ」
  谷田、軽く頭を下げると、踵を返し、立ち去る。
  受話器を上げ、内線のボタンを押す椎名。
椎名「私だ」
荒崎の声「マービッチについては、何かわかりましたか?」
椎名「調査中だ」
荒崎の声「時本から何も聞き出せなかったんですか…」
椎名「時本もマービッチの件に関与しているのか…?」
荒崎の声「…」
椎名「もう三人も死んだ。これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない。だから教えてくれ。
 ランボルギーニを運転する騎士は、少年なのか?」
荒崎の声「…ギブアップするんですか?」
椎名「荒崎!」
荒崎の声「…西平地区の工場跡地に行ってみてくださいよ。きっと何か掴めますよ」
椎名「よく言ってくれた…」
  回線が切れる。
  複雑そうな表情を浮かべる椎名。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。
北「西平地区の工場跡地ですか?…」
  センターコンソールの右上のモニターに椎名が映っている。
椎名の声「それ以外密告者は、何も答えなかった。罠の可能性もある」
北「とりあえず現場に行ってみます」
  頷く椎名。モニターが消える。 

○ 西平地区・工場跡地
  寂れた工場がひしめく通りを走行しているB―COA。
ジェノンの声「この辺りの工場の70%は、30年前以上に建てられたものばかりです。
 主に工業資材や航空部品を扱っています」
  
○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。フロントガラス越しに見える緑色の壁の工場を見つめる。
北「あの工場は?」
  中央コンソールの上に設置されている音声レベルゲージが青く光る。
ジェノン「リサイクル工場です。二年前に建てられたもので、この地域では、もっとも新しい工場です」
  ブレーキを踏み込む北。
  ジッと工場を見つめる。正面のシャッターが開き始めている。
  開いた出入り口から二人の中年の男が出てくる。
  奥の道から3台の黒い4WDが一列になりやってくる。
  二人の男が車を誘導している。工場の前で曲がり込み、出入り口から中へ入り込む4WD。
  北、ハンドルのボタンを押す。
  マルチモニターに工場のイメージが映る。中に六人の人間の熱反応がある。椅子に座っている
  人間にズームアップ。頭の熱反応は、見られるが、体の熱反応が見られない。
北「一人だけ熱反応が不十分な人間がいるな」
ジェノン「熱を通さない物質に覆われている可能性があります」
  北、左上のモニターに映るメニュー画面を漫然と見つめる。ジャケットのポケットから手帳を取り出し、
  あるページを開くと、ジッと見入っている。
  暫くして、手帳を閉じ、またポケットにしまう北。
北「…十分で戻ってくる」
ジェノン「了解しました」
  北、ドアを開け、車から降りる。

○ リサイクル工場前
  駆け足で建物に近づいてくる北。建物のそばに止まっている軽トラの前で屈み込む。
  そっと顔を出し、出入り口のほうを見つめる。

○ 同・シャッター前
  壁際に身を寄せ、そっと中を覗き込む北。
  目の前に3台の4WDが横一列に並んで止まっている。
  身を屈めながらそそくさと左側の4WDの後ろに足を進める北。左奥のほうからマシーンの
  機械音が響き、男の不気味な低い悲鳴が聞こえてくる。
  北、ジャケットのポケットから小型の発信器を取り出し、4WDのバンパー下にくっつける。
  そのまま車の間を通り、奥の機械室へ進む。
  山積みされた建材のそばに身を隠し、奥のほうを見つめる北。
  鉄骨で作られた巨大な円盤の土台の上に設置してある椅子に縛り付けられている中年の男がいる。
  男、頭には、いくつもの配線がつけられている。電気的なショックを与えられている。
  大きな唸り声を上げている男。
  円盤の周りに群がる7人の男達。
  その様子を険しい表情で見つめる北。
  北の背後で足音がする。
  北、それに気づき、ホルダーから静かに銃を抜くと、素早く後ろに振り返り拳銃を構える。
  北の銃口の先に立つ男の姿。男は、荒崎である。荒崎、不敵な笑みを浮かべ北を見ている。
北「荒崎…」
荒崎「俺を撃ったら、この先TENAに関する大きな手がかりを失う事になるぞ」
北「…うちに情報を流していたのは、おまえだったのか?」
  北に近づこうとする荒崎。北、引き金に指を当て直し、
北「動くな」
荒崎「銃声がしたら、仲間が一斉に集まってきて、おまえを蜂の巣にする」
北「何のためにこの場所を教えた?」
荒崎「協力したのに、その言い方は、ひどいな」
北「嘘つくな」
荒崎「じゃあ、あのマシーンは、なんだ?君らが探していたものじゃないのか?」
北「あれがマービッチか?」
荒崎「そうだ」
北「どうやったら止められる?」
荒崎「あの円盤の向こうに電源ユニットがあるが、おまえ一人で止めるのは、無理だ」
  険しい表情を浮かべ、溜息をつく北。
  荒崎、ズボンのポケットから小さなリモコンのような物を出し、北に見せつける。
荒崎「こっちのほうが手っ取り早い」
  荒崎、リモコンのあるボタンを押す。
  驚愕する北。
北「何をした?」
荒崎「二分後にわかる」
  荒崎、後ずさりすると、そのまま、踵を返し走り去る。
北「荒崎!」
  北、荒崎の背中に銃口を向け、引き金を引き続ける。
  荒崎、素早く、4WDの背後に回り込み、そのまま姿を消す。
  円盤の前にいた男達がマシンガンを構え、一斉に北のほうへ向かってくる。
  北、慌てて、建材の向こう側に走りながら、レギオウォッチに話し掛ける。

○ B―COA車内
  スピーカーから北の声が聞こえる。
北の声「男達に追われてる」
ジェノン「すぐにそちらに向かいます」
  電子音が鳴り、低いエンジン音が鳴り響く。

○ 走り出すB―COA
  右側のリアフェンダーの格納庫が開く。
  赤い筒型のミサイルが頭を出している。
  発射するミサイル。
  ミサイルは、工場のシャッターの出入り口を潜り抜ける。

○ リサイクル工場内
  ミサイルが4WDに当たり爆発すると白い煙が立ち込め、工場内に蔓延し始める。
  辺りに散らばっている男達の元に煙が押し寄せてくる。
  激しく咽ている男達。
  建材の裏に身を隠す北。男達の様子を見つめると、通路に出て、円盤の土台に近づいて行く。
北「(レギオウォッチに話し掛ける)裏側に回りこめ」
ジェノンの声「了解しました」
  円盤の土台の前にある壁を突き破り、勢い良く突進して来るB―COA。
  円盤に上がる北。椅子に縛られた中年の男の頭についている配線を外している。
北「ハイウェーブ感知装置で周囲を調べろ。早く!」

○ B―COA車内
  マルチモニターに工場内のイメージが映る。電源ユニット付近にズームアップ。
  ユニットの中に仕掛けられている小さな箱から微妙な熱源をキャッチする。
ジェノン「電源ユニット内部で特定の周波数反応を捉えました」
  男の肩を抱きながらB―COAの前にやってくる北。男を助手席に乗せ、すかさず運転席に乗り込む北。
北「爆弾か?」
ジェノン「C4型プラスチック爆弾のものとみられます」
北「エレクトロジャミングで制止できるか?」
ジェノン「爆弾は時限式です。後十秒で爆発します」
  北、シフトレバーを『R』に入れ、車を勢い良くバックさせる。

○ リサイクル工場・裏 
  壁に空いた穴を潜り、勢い良くバックしてくるB―COA。そのまま180度ターンし、勢い良く走り出す。
  暫くして、工場内からオレンジ色の巨大な炎が上がる。大きな爆発音と共に炎に包まれる工場。
  炎を背に走り去るB―COA。

○ 西慶刑務所・接見室
  ガラス一枚を隔てて対峙する真坂と東川亨(39)。
  東川、ムスッとした表情で俯いている。
東川「滝城?今更…何を?」
真坂「滝城とそっくりの顔をした男の車で、無差別殺人が起きてるんだ」
東川「へへ、そうか。まぁ、俺には、関係ないことだな…」
  憤然とした様子の真坂。
真坂「俺の仲間は、TENAの奴らに殺された。法律が許すなら、今すぐこの手でおまえの
 首をへし折るところだぜ」
東川「そりゃあ、気の毒にな。下手な真似して、ジェノサイドに目をつけられたんじゃねぇのか?」
  失笑する東川。
  真坂、ホルダーの銃を掴もうとするが、冷静になり、
真坂「滝城は、罰が当たったんだな。TENAのメンバーになって、寿命を縮めたんだ」
  神妙な面持ちになる東川。
東川「…滝城、死んだのか?」
真坂「いや、死んだのは、滝城に良く似た須賀って男だ」
東川「…死因は?」
真坂「胃癌だ」
東川「胃癌だって?…笑わせるな…あいつは、ジェノサイドに殺されたんだ…」
真坂「やっぱり、滝城と須賀は、同一人物か?」
  激しく動揺する東川。
東川「奴には、子供がいるから罪を被ってやったのに…」
真坂「へぇ。結構優しいところもあるんだな」
東川「クソッ、こうなったら何もかもぶちまけてやる」
真坂「おお、その調子だ。全てぶちまけろ」
東川「二年前、銀行を襲った時に盗んだ金をTENAの工場へ運んだ。その時俺達は、
 見たんだ…最高幹部の顔を…」
真坂「…」
東川「TENAには、暗黙のルールがある。最高幹部の顔を見たものは、ジェノサイドの標的にされる。
 でも、なんで今頃になって…」
真坂「その最高幹部の似顔絵を描けるか?」
東川「…取り引きしようぜ。絵はその後だ」
真坂「わかった。言ってみろ」
  その途端、突然ドアが開き、刑務官が物凄い勢いで床に弾き飛ばされる。
  慌てて立ち上がる真坂。
  入口から鎧をつけた騎士が現われる。
  騎士、静かにマグナム銃を構え、東川の頭に銃口を向ける。
  真坂、咄嗟にホルダーからガバメントを抜き、騎士に向かって連射する。しかし、弾は、
  鎧やマスクに跳ね返されている。
  騎士、引き金を引く。
  弾は、ガラスを突き破り、東川の額にめり込む。そのまま、後ろにまっ逆さまに倒れる東川。
  引き金を引き続ける真坂。弾切れになる。
  引き金の音だけが空しく響く。
  騎士、銃を降ろし、そのまま立ち去る。真坂、騎士の背中に飛びつき、両手を鷲掴みにする。
  騎士、真坂を軽く振り落とす。そばの壁に叩きつけられる真坂。そのまま、床に突っ伏し、気絶する。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  監視システムの前で対峙する椎名と北。
椎名「荒崎が?」
北「そうです。工場に爆弾を仕掛けたのも奴です」
  椎名、険しい表情を浮かべながら、ポットの前に行き、湯飲みにお茶を注ぎ始める。
  椎名の背後に近寄る北。
北「密告者は、荒崎でしょ?どうして隠していたんですか?」
椎名「隠すつもりはなかった。調査が全て終わった段階で君達にも報告するつもりだった」
北「奴は、TENAの活動を次々と妨害している。一体何が目的で俺達に近づいてきたんです?」
  椎名、湯飲みを持ち、お茶を飲み始める。
椎名「マービッチにかけられていた男は、どうなった?」
北「治療室に運びました」
椎名「まだ証言をとるのは、難しそうだな」
  二人の元に谷田が近づいてくる。
谷田「真坂さんから連絡がありました。例の騎士が西慶刑務所に現われたそうです」
  唖然とする二人。
椎名「なぜ奴があそこに?」
谷田「接見中の東川が騎士に撃たれて即死しました」
北「(椎名を見つめ)行きます」
  北、入口に向かって走り出す。

○ 西慶刑務所・正門
  構内から出てくるB―COA。そのまま手前の道を走り出す。
真坂の声「あのコスプレ野郎、ふざけやがって…」

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に座る真坂。右手で側頭部を押さえている。
北「頭を打ったのか?」
真坂「壁にぶつけられた時にちょっとな。くらくらする」
ジェノン「メディカルスキャンでチェックされる事をお勧めします」
真坂「何それ?」
北「おまえの体をスキャンして、異常がないかを調べる機能だ」
真坂「車のお医者さんか」
北「(ジェノンに)チェックしてやれ」
ジェノン「了解しました」
  センターコンソールの左端に設置されているランプから赤い光線が発射され、
  真坂の頭頂部を照射し始める。
ジェノン「暫くジッとしてください」
  光線は、頭から体へ少しずつ降りている。
真坂「こんなところで検査を受けるなんて思ってもみなかったぜ」
北「しかし、騎士は、東川があの刑務所にいることをどうやって知ったんだ?」
真坂「その答えを知ってるのは、須賀の娘だけだ」
  憂いの表情を浮かべる北。
ジェノン「スキャン終了しました。只今処理していますので暫くお待ちください」
真坂「なんか、病院の待合室にいる気分だ…」

○ 住宅街のほうに向かって疾走するB―COA

○ 高層マンション603号室前
  ドアの前に立つ北と真坂。真坂、ドアをノックする。
  反応はない。ドアノブを回すが鍵がかかっている。
真坂「どうする?」
北「どうするって?」
真坂「忍び込むか?」
北「探偵時代に養った技術か?」
  真坂、ズボンのポケットから特殊な針金を取り出し、ドアノブに針を差し込む。
  北、レギオウォッチに話し掛ける。
北「ジェノン、603号室の人体反応は?」
ジェノン「…ありません」
  動きを止め、呆気らかんとする真坂。
北「…だそうだ」
  北、通路を歩き出す。真坂、ムスッとした表情で
真坂「つまんねぇ」
  真坂、北の後を追う。

○ 同・エレベータ前
  エレベータの前に立つ二人。
  扉が開く。中に有紀がいる。
  唖然とする二人。
  有紀、二人の間を強引に潜り、階段の方に向かって走り始める。
  真坂、有紀を追って走り出す。

○ 同・階段
  物凄い勢いで階段を下りている有紀。
  真坂も後を追って階段を下りている。
  2Fの出入り口のドアを開け、通路を走り出す有紀。真坂もドアを開ける。

○ 同・2F通路
  ドアを開け、通路を走り出そうとする真坂。10m前方で北に行く手を阻まれている有紀の
  姿を見つめ、足を止める。
  有紀、そばの手すりを乗り越えようとするが、北、有紀の右腕を掴み制止させる。
  激しく抵抗する有紀。
  北、有紀の頬を左手で張る。
  顔を押さえる有紀。北、呆然と有紀を見ている。
   ×  ×  ×
  北の回想。
  繁華街。夜。きらびやかにネオンが光る。
  シェンズの頬を張り叩く北。
  シェンズ、頬を押さえ北を睨みつけている。
  雑踏の中で向かい合う二人。
   ×  ×  ×
  動きを止め、北を睨みつけている有紀。
  二人に近づく真坂。唖然とする。
真坂「そこまでやるか?」
  北、我に返り、
北「すまん…」
  有紀のそばで立ち止まる真坂。
真坂「どうして逃げるんだ?」
有紀「…」
真坂「何か隠してるな?」
有紀「…」
北「お父さんは、生きてるんだろ?」
有紀「…」
  北のレギオウォッチのアラームが鳴る。
  レギオウォッチに話し掛ける北。
北「なんだ?」
ジェノンの声「ディジアから連絡が入りました。杉並町付近で白いランボルギーニを発見したそうです」
真坂「あの付近は、君の彼氏が住む自宅の間近だな…」
  有紀、激しく動揺し、ズボンのポケットから携帯を取り出し、ある番号を呼び出している。
有紀「もしもし…カツ?家に戻っちゃ駄目!あいつそっちに向かってるの…」
  北、真坂、呆然と有紀を見つめる。

○ 住宅街
  疾走するB―COA。
  交差点を勢い良く左に曲がる。

○ B―COA車内
  ハンドルを握る北。助手席に真坂、後部席に有紀が座っている。
ジェノン「先程の診断結果が出ました…」
真坂「騎士に狙われてるなら、どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ?」
有紀「お父さんに口止めされてたの。だから…」
北「彼氏も知ってるのか?」
有紀「三週間前…お父さんは、マービッチで洗脳されかけてる人を助けようとして、
 リサイクル工場に行ったの。でも、2日経っても連絡がないから、克也と二人であの
 ランボルギーニに乗って一緒に工場に行った」
真坂「お父さんは、見つかったのか?」
  首を横に振る有紀。
有紀「工場でマービッチで洗脳されている人を見た。作業員に見つかって、必死になって二人で森の中に
 逃げたの…その時、誰かに顔を見られたかもしれない…」
北「もしかして、TENAの事も知ってるのか?」
  頷く有紀。
有紀「お父さんから聞いた。メンバーだって。その組織のおかげで飯が食えてるって…」
真坂「じゃあ、あの位牌と遺骨は誰のだ?」
有紀「お母さんの…」
  真坂、呆気に取られ、
真坂「よくやるよ…」
ジェノン「あの…先程の診断結果はどうされますか?」
真坂「今、それどころじゃねぇの。空気読めよ」
  北、ハンドルのボタンを押す。
  通信回線を呼び出している。
  ハンドルについているマイクに話す北。
北「JA5601、応答せよ」
  スピーカーからディジアの声が聞こえる。
ディジア「ディジア」
北「ランボルギーニの現在位置を教えてくれ」

○ 都内・上空
  飛行するJA5601ヘリ。
  杉並に佇む団地の手前を飛んでいる。

○ ヘリ・コクピット
  計器盤の中央に設置されているモニターを見つめるディジア。
  モニターに団地前の映像が映っている。画面の右からランボルギーニがフレーム・インし、
  階段の前に立ち止まる。
ディジア「三上克也の自宅の前に止まったわ…」

○ B―COA車内
  携帯を耳にする有紀。
有紀「…あっ、カツ、今どこにいるの?…えっ、お母さんと一緒?」
  真坂、有紀の前に右腕を差し出す。有紀、携帯を真坂に手渡す。携帯に出る真坂。
真坂「三上克也君か?正確な場所を教えてくれ」

○ 国道沿い・歩道
  携帯で話をしている三上克也(18)。茶髪、ピンクのTシャツを着ている。
  その背後で母親がこっちに向かってくるタクシーに手を振っている。
克也「杉並町一丁目のバス停の前。今からタクシーに乗り込みます」

○ B―COA車内
真坂「よし、じゃあ、そのまま近くの警察に行って保護してもらうんだ。わかったか?」
克也の声「わかった…」
真坂「それから、携帯は、切るな。その電波を辿って君のところに行くから」
  有紀、真坂から携帯を引っ手繰るようにして取り、
有紀「私もすぐ行くから…大丈夫、死なないってば…」

○ ランボルギーニ・運転席の主観
  猛スピードで走行している。
  フロントガラス越しにタクシーの後部席に乗り込む克也と母親の姿が見える。

○ 走り出すタクシー
  国道をゆっくりと進んでいる。
  その後ろの交差点から爆音を唸らせたランボルギーニがタイヤを滑らしながら勢い良く曲がり、
  タクシーの後を追い始める。

○ タクシー車内
  後部席に座る克也と母親。
  克也、後ろから聞こえる車のエンジン音に気づき、リアガラスを覗き込む。
  目を大きく見開き、驚愕する克也。慌てて前を向き、
克也「飛ばして!あいつがやってくる!」

○ 対向車線を走り出すランボルギーニ
  少しずつタクシーのそばに近づいてくる。

○ タクシー車内
  携帯で話している克也。
克也「奴に見つかった…どうしよう…」
真坂の声「落ち着け、こっちの指示に従うんだ。500m前方に細い路地がある。そこを走れ」
  右ドアのガラスを覗き込む克也。
  対向車線を走るランボルギーニ。開いた窓から運転席に座っている騎士の姿が見える。
克也「その道、曲がって!早く!」

○ 左に曲がるタクシー
  細い路地を、スピードを上げて走っている。
  ランボルギーニ。路地に入り、猛スピードでタクシーを追っている。
  路地の交差点を勢い良く通り過ぎるタクシー。直後、その横道からB―COAが現われ、道を塞ぐ。

○ B―COA車内
  助手席のドアの窓越しにランボルギーニが突進してくるのが見える。
  車を睨み付ける真坂。
真坂「かかってこいよ!」
  歯を食いしばる真坂。有紀、息を飲む。北、ランボルギーニを見つめ、
北「ボディの強度を最大にしてある。ぶつかったらオシャカになるのは、向こうだ」

○ B―COAに突進してくるランボルギーニ
  急ブレーキをかけ、タイヤを滑らせ、B―COAの車体の寸前で立ち止まる。

○ B―COA車内
  真坂、胸を押さえ、大きく息を吐く。
真坂「胸糞悪いぜ」
北「何だ?びびってたのか?」
真坂「こっちに座ってみろよ。車が頑丈だってわかっててもションベンちびりそうになるぜ」 
  助手席のドア窓の真ん前に止まっているランボルギーニ。猛スピードでバックし始める。
  窓を開ける真坂。
  両手で銃を構え、ランボルギーニのタイヤを狙って、引き金を引き続ける。
  
○ ランボルギーニの右前輪のそばで火花が散っている  
  そばにある駐車場の出入り口で切り返すと、そのまま逆方向へ走り出す。

○ B―COA車内
北「下手糞!」
真坂「手元がくるったんだよ。さっき頭打ったせいだ」
  北、車をバックさせる。

○ 横道から国道に入り込むランボルギーニ
  スピードを上げ、疾走している。
  暫くして、B―COAも現われ、ランボルギーニの後を追っている。

○ B―COA車内
  フロントガラス越しに走行するランボルギーニの後ろ姿が見える。デジタル表示の
  スピードメーターが「100」を上回る。
真坂「法定速度守れよ」
  北、ハンドルの左そばに設置されたシステムボードの『WIRE』ボタンを押す。

○ B―COA前バンパーのフレームが開く
  格納庫から尖ったフックのついた太いワイヤーが飛び出す。前を走るランボルギーニの
  テールランプの真中にフックが突き刺さる。
  
○ B―COA車内
  北、ブレーキを踏み込む。

○ 路面を滑りながら立ち止まるB―COA
  タイヤから白い煙を上がっている。
  ワイヤーがピンと張り、数十メートル先を走っていたランボルギーニの動きがワイヤーに
  引っ張られて立ち止まる。
  ランボルギーニの後輪のタイヤが勢い良く回り続け、白い煙を上げている。
  B―COAの前バンパー両側の窪みからオレンジ色のボールが2つ同時に発射される。
  ボールは、ランボルギーニの後輪両方にガム状にへばり着く。
  暫くして、小さな爆発が起こり、タイヤがパンクする。しかし、タイヤは、回り続けている。

○ B―COA車内
  ランボルギーニの様子を見つめる北と真坂。
真坂「走る気満々だな」
北「早く捕まえに行けよ」
真坂「はいはい」
  ドアを開け、外に出る真坂。

○ 車から降りる真坂
  走りながら、ホルダーから銃を抜き、ランボルギーニに近づいて行く。
  ランボルギーニのガルウィングが不気味に開く。
  足を止め、銃を構える真坂。
  左足を地面に降ろし、ゆっくりと車から降りる騎士。真坂のほうを向き、マグナム銃を構え撃つ。
  透かさず、歩道のほうに飛び跳ね、地面に転がる真坂。そばの工事用のフェンスに身を隠す。
  真坂の顔元で立て続けに弾丸が跳ねている。

○ B―COA車内
  スピーカーから銃声と真坂の声が聞こえる。
真坂の声「俺一人狙い撃ちかよ。ボーっと見てないで援護しろ!」
  フロントガラスが紫色に変色し、ガラスに透明のスクリーンが投影される。方眼軸が浮かび上がると、
  騎士を捕捉する十字の点滅が表示される。
  北、ハンドルに設置されている『SHOCK』のボタンを押す。

○ B―COAのボンネット上の突起した部分にある噴出し口から高密度圧縮空気弾が発射される
  空中を伝わり、騎士の胸元に当たる。騎士、よろめき、そのまま仰け反るようにして倒れる。
  真坂、壁から飛び出し、騎士の前に近づいて行く。
  騎士、起き上がり、真坂に銃を向け、撃つ。真坂、慌てて、ランボルギーニの後ろに転がり込む。
  騎士、ランボルギーニのボディを掴み、立ち上がろうとしている。

○ B―COA車内
  騎士の様子を見つめる北。すかさず、システムボードの『V』ボタンを押す。

○ ワイヤーを伝って青白い電流が流れていく
  ランボルギーニの車体に電流が走り、騎士の体にも流れる。
  電気ショックを浴び、そのまま、後ろに倒れる騎士。後頭部を地面に撃ちつける。
  立ち上がり、騎士の前に現れる真坂。銃を構えながら、騎士に近づいている。
  
○ B―COA車内
  車から降りようとする北。その時、通信用のアラームが鳴り響く。
ジェノン「本部からです」
  スピーカーから谷田の声が聞こえる。
谷田の声「三上克也を保護しました」
  安堵の表情を浮かべる有紀。
北「こっちも騎士を捕まえた。今から連行する」
谷田の声「三上は、あるメモを持っていました。暗殺リストです。ランボルギーニの車の中で見つけたそうです」
北「暗殺リスト?」
谷田の声「騎士に殺された被害者の名前が全て記録されています」
北「…須賀の名前は?」
  息を飲む有紀。
谷田の声「滝城名義でも入っていません」
有紀「…じゃあ、お父さんは、生きてるの?」
  北、騎士を見つめ、息を呑む。

○ 騎士のマスクをはずす真坂
  騎士の顔が露になる。しかし、須賀ではなく、短髪、精悍な顔つきの若い男である。
  騎士を囲うようにして立っている真坂、北、有紀。
  有紀、落胆した面持ち。
有紀「違う…」
真坂「誰だ、こいつ?…」
  北、レギオウォッチに話し出す。
北「ジェノン、この男の画像を記録して、データベースと照合してくれ」
ジェノンの声「了解しました」
  
○ 倉庫地下・JWA本部・通路
  真坂と谷田が話しながら歩いている。
  真坂、右手に缶コーヒーを持っている。
真坂「オリンピック選手?」
谷田「柊洋二。6年前のオリンピックの射撃で銅メダルを獲得した男です」
真坂「腕前を見込まれて、拉致されマービッチにかけられちまったのか」
谷田「鎧の下に例のファイバースーツを着込んでいました」
真坂「どうりで。あの馬鹿力は、普通じゃないと思ってた。北が工場から救い出した男は、どうなった?」
谷田「残念ながら…大量の電気を浴びて脳が黒焦げになっていたみたいです。彼は、元自衛隊員です」
真坂「なぜ須賀が暗殺リストを持っていたのか…そう言えば、殺された真鍋は、TENAの一員だったのか?
 だとすると、B―COAの情報が敵に流れている可能性もあるって事か?」
谷田「真鍋さんは、TENAのメンバーでは、ありません」
真坂「どうしてそう言い切れる?」
谷田「稲津さんに調べてもらったんです」
真坂「稲津?」
谷田「防衛庁のシステム開発部門の責任者です。真鍋さんとは、親しい間柄だそうです。
 ただ、一つ気になる点が…」
真坂「何だ?」
谷田「真鍋さんの携帯がなくなってるんです。事件当日も持っていたみたいなんですが
 結局現場では、見つかりませんでした」
真坂「臭うな。何かが漂ってくる」
  缶コーヒーを握り潰す真坂。
  二人の正面からディジアが歩いてくる。
  立ち止まる三人。
ディジア「須賀有紀と三上克也をセーフティリストに登録したわ。いずれまたあなた達に
 ボディガードを頼むかもしれないわよ」
谷田「喜んで引き受けます」
真坂「前の怪我で外勤は、懲りたんじゃなかったっけ?」
谷田「あれぐらいでへこたれませんよ」
真坂「あの子の親父さん、生きてたらいいけど…」
ディジア「…ねぇ、北さんは?」
真坂「車の中だ。調べたい事があるってさ…」
  ディジア、怪訝な表情を浮かべる。

○ 同・ガレージ
  円盤状のスペースに止まっているB―COA。
ジェノンの声「あなたとこうしてまた話せるなんて夢みたい…」

○ B―COA車内
  運転席に座る北。
北「ああ…」
  モニターにポニーテールの女のCGが映る。
ジェノン「でも、もうあなたと一緒にダンスを踊れない」
北「…君は、望んでこのプログラムの一部になったのか?」
ジェノン「ええ。総監は、私の言葉に忠実に行動してくれたのよ」
北「…そうか」
ジェノン「新しい私を受け入れられないようね」
  北、複雑な表情を浮かべる。
北「…正直、なんて言ったらいいか」
ジェノン「戸惑うのは、無理ないわ。でも時期に慣れる」
北「…昔からいつも楽観的だったよな、君は」
ジェノン「それが私の長所」
  北、笑みを浮かべる。
ジェノン「今日もかなり走り回ったみたいね。私とジェノンの記憶システムは、連動しているから、
 今日一日の動きが全て読み取れるの」
  北、寡黙になる。
ジェノン「あなたのパートナーの真坂和久。ホテルで私を助けてくれた人ね」
北「覚えてるのか?」
ジェノン「つい、最近の事でしょ。メディカルチェックを受けたの?」
北「ああ、それが何か?」
ジェノン「少し芳しくない結果か出ているけど…本人は、知ってるの?」
  唖然とする北。

                                                      ―THE END―

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