『メトロジェノン』 TENA CODE009 「ミリオングレイ・ドッグ」 BY ガース『ガースのお部屋』

○ とあるマンション前
  歩道を走っている真坂。
  正面を見つめ、立ち止まる。
  マンションの階段に浅田恵美(34)と真坂茂(5)が座っている。
  俯き、呆然としている恵美。茂、玩具のロボットで遊んでいる。
  ゆっくりと二人の前に近づいて行く真坂 和久(28)。
  恵美、ハッと頭を上げる。
  真坂を見つめ、動揺している。
  茂、真坂に向かって走って行く。
  真坂の足元にしがみつく茂。
  恵美、その様子をまじまじと見つめている。
  真坂、茂を連れ、恵美の隣に座る。
  恵美、俯いたまま、
恵美「マンション建ってたなんて知らなかった…」
真坂「一年前に取り壊されたんだ。あの公園…」
恵美「茂が生まれてから、よく通ったわね…」
真坂「…」
恵美「他に思いつかなかったの…どこに連れてってあげればいいのかわからなかった…」
  茂、呆然と恵美を見つめている。
  真坂、おもむろに煙草に火をつけ、吸い始める。
真坂「飯食いに行くか?」
恵美「…」
  茂、恵美の右手を引っ張り、
茂「ハンバーグ食べる」
  恵美、困惑した表情。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室 
  入口の扉が開く。姿を現わす北 一真(29)。
  オペレートシステムの前に立っている椎名歩夢(54)。北に向かって歩き出す。
椎名「イ・ミンヨルが橋爪奈那子に手渡したDVDの解析が終わった。データの中身は、
 八丈島沖の王龍島にある新型核燃料研究施設の見取り図だった。JWAの衛星で
 島を調べてみた結果、放射能反応が感知された」
北「反応は、いつからですか?」
椎名「我々が知ったのは、三十分程前だ。実は、三時間前に王龍島にJWAの特別調査チームを
 派遣させたんだが、連絡が取れなくなっている」
  椎名、一枚のDVDディスクを北に手渡す。
椎名「これに研究所スタッフの情報が入っている。現地に向かう間に高速船の中で
 チェックしてくれ。真坂は?」
北「あいつ…ジェノンのメディカルサーチで病気が見つかったので、病院に行かせました」
椎名「病気?」
北「慢性肝炎らしいです」
椎名「…別のパートナーが必要だな」
  椎名、振り返り、オペレートシステムの座席でキーボードを打つ谷田星司(26)を見つめる。
  椎名の目線に気づく北。
北「時本の行方は?」
椎名「残念ながらまだ掴めていない」
  北、神妙な面持ちで谷田の前に近づいて行く。

○ レストラン
  テーブルに座る真坂。サイコロステーキを口に入れようとするが、躊躇う。
  真坂と対峙して座る恵美。呆然としたままである。
  恵美の隣でハンバーグをおいしそうに食べる茂。
  真坂、茂に視線を送る。茂、真坂と目を合わせると、食べるのを止め、恵美を見つめる。
  茂、自分のハンバーグをフォークで突き刺し、恵の前に差し出す。
茂「食べて」
  恵美、苦笑いを浮かべ、
恵美「ありがとう。後で注文するから食べなさい」
  茂、そのままハンバーグを口の中に入れる。
  真坂、親指を立て、茂に合図を送る。茂も親指を立て、またハンバーグを食べ始める。
  真坂の携帯が鳴る。
  真坂、ディプレイに映るナンバーを見つめ、慌てて、立ち上がり、テーブルから離れて行く。
  真坂の後ろ姿を神妙な面持ちで見つめる恵美。

○ 国道
  走行するBMW。
葉菜美の声「どこほっつき歩いてんの?」

○ BMW車内
  ハンドルを握っている三原 葉菜美(20)。
  コンソールの携帯入れに携帯を置き、集音マイクに向かって話している。
  スピーカーから真坂の声が聞こえる。
真坂の声「見つかった」
葉菜美「どこにいたの?」
真坂の声「公園」
葉菜美「茂君は?」
真坂の声「あいつと一緒だった」
  葉菜美、安堵の表情を浮かべる。

○ レストラン・入口前
  携帯を持ち、立っている真坂。
葉菜美の声「私今車なの。迎いに行くからどこかで食事しよう」
  真坂、思わず、ゲップする。
葉菜美の声「今の何?」
真坂「何でもない…茂が腹減ったって言うから、今飯を食わせてるところ」

○ BMW車内
真坂の声「30分ぐらいで戻るから、クルーザーで待っててくれ」
  神妙な面持ちの葉菜美。
  電話が切れる。
  複雑げに顔を歪める葉菜美。

○ 東京湾沖
  穏やかの海をスピードを上げて進んでいるJWAの特殊高速船。デッキにB―COAが止まっている。

○ JWA・特殊高速船・デッキ
  先端に立っている北。
  険しい表情で海を眺めている。
  北の後ろに止まっているB―COA。
  北の左腕についているレギオウォッチのアラームが鳴り響く。
  レギオウォッチに話し出す北。
北「なんだ」
ジェノンの声「椎名部長から連絡が入っています」
  北、B―COAの前に近寄り、運転席に乗り込む。

○ B―COA車内
  センタコンソールに設置されている4つのモニター。右上の画面に椎名の顔が映っている。
椎名の声「後どれくらいでつきそうだ」
北「十分ぐらいです」
椎名の声「さっきも言った通り、未だもって特殊選任チームと連絡がつかないとなると、研究所内は、
 放射能で汚染されている可能性が高い。かなり危険な作業になる」
北「わかっています」
椎名の声「谷田の様子は?」
北「いつも通りです。到着後、また連絡します」
椎名の声「慎重に頼む」
  モニター画面が消える。
  北、車から降りようとするが、ふと立ち止まる。
  モニターをまじまじと見つめる北。
  暫くして、モニターにメニュー画面を映し出し、『MIND CHANGE』のボタンを押す。
  モニターにポニーテールの女のCGイメージが映る。
ジェノン「呼び出してくれてありがとう。ずっと気になっていたの」
北「何を?」
ジェノン「任務の事よ」
北「大丈夫」
ジェノン「本来なら放射能調査のエキスパートの仕事のはずよ。どうしてあなたが行かなければならないの?」
北「そのエキスパートと連絡が取れなくなったんだ。それにこの一件には、TENAが絡んでる」
ジェノン「命を粗末にして欲しくないの」
  険しい表情を浮かべる北。
北「万が一の事があったら、俺もおまえみたいに記憶を抽出してもらって、B―COAの
メインコンピュータの一部にしてもらうか」
ジェノン「そんな冗談聞きたくない」
北「…本気だ」
ジェノン「…」
北「…そろそろ切る。じゃあな」
ジェノン「気をつけて…」
  北、軽く頷くと、モニターのタッチパネルのボタンを押す。
  モニターのメニュー画面。「NO ACTIVE」の文字が表示される。

○ JWA・特殊高速船・操縦室
  操縦席に座っている谷田。レバーを握っている。
  計器類を見回し、ディスプレイの映像を確認している。
  ガラス越しに小さな島が見えてくる。

○ 王龍島・海岸
  浅瀬に浮かんでいる高速船。

○ JWA・特殊高速船・デッキ
  白い防護服を身にまとった北と谷田がキャビンから出てくる。
  二人、B―COAに向かって歩いている。
谷田「誰とも連絡が取れないなんて…不気味ですね…」
北「緊張するか?」
谷田「してないと言ったら、嘘になりますけど…」
北「放射能の測定器は?」
谷田「B―COAにディジアが用意した測定器つきの新しいレギオウォッチが入っています。
 緊急用の信号発信器も装備されています」
  谷田、立ち止まり、防護服の腰についている収納ケースから黒くて丸い薬の入った瓶を取り出す。
谷田「北さん」
  立ち止まる北。振り向く。
  谷田、瓶を北に手渡す。
  瓶をまじまじと見つめる北。
北「なんだ、これ?」
谷田「ヨウ素材です。まだ飲んでないでしょ?二粒です。念のために…」
  北、瓶の蓋を空け、蓋に二粒の薬を出し、飲み込む。
北「よし、フロントゲートを開いて、B―COAを砂浜に出すぞ」
谷田「はい」

○ 高速船の前方のゲートが開く
  砂浜まで伸びる。
  その上を走り出すB―COA。
  砂浜に下り、そのまま、小高い丘に続く砂利の長い坂を走り始める。

○ B―COA車内
  運転席に座る北。助手席に座る谷田。
  北、コンソールのボタンを押し、モニターのメニュー画面のボタンを押している。
北「放射線量のチェックだ。ハイウェーブサーチを起動してくれ」
ジェノン「起動しました」
  左上に測定値の数字が表示される。どんどん数字が上がっている。
  モニターを見つめる谷田。
谷田「…一気に2シーベルトも…どんどん上がっていく」
北「B―COAは、どれぐらいの放射能まで耐えられるんだ?」
谷田「ディジアがボディに中性子線を防ぐ特殊なコーティングをしたと言ってましたけど…」

○ 新型核燃料研究所前
  銀色をしたドーム型の建物。
  入口の前にやってくるB―COA。
  急ブレーキをかけ、立ち止まる。

○ B―COA車内
  センターコンソールの左上のモニターに研究所内の断面図が映し出されている。
谷田「建物は、地上3階、地下2階。2階に実験室があります」
北「ジェノン、研究所の様子を調べてくれ」
ジェノン「了解しました」
  右上のモニターに研究所の建物が映し出される。赤いフィルターがかかり、サーチ画面になる。
ジェノン「ハイウェーブサーチ終了しました。2階フロアに生命反応を取得しました」
谷田「信じられない。こんな状況で生存者がいるなんて…」
  防護マスクを被る北。
北「行くぞ」
  慌てて防護マスクを被る谷田。

○ 都内・国道
  走行する黒いマジェスタ。

○ マジェスタ車内
  後部席の右側のシートに座る椎名。その隣に大谷博之(43)が座っている。
大谷「一体どこに連れて行くつもりだ?」
椎名「…」
  大谷、そわそわし、落ち着かない様子。
  大谷の右腕に手錠がはめられている。椎名の左腕とつながっている。
  声を荒げる大谷。
大谷「俺の質問に答えろ!」
椎名「会って貰いたい人物がいる」
大谷「誰だ?」
椎名「…荒崎だ」
大谷「…おい、俺を殺す気か?」
椎名「お前の身柄を引き渡せば、TENAの上層部に関する重要な情報を提供してくれると言っている」
  怯える大谷。
大谷「やめろ…あいつとだけは、もう関わりたくない」
椎名「心配するな。お前の命は、我々が守る」
大谷「どうやって?」
椎名「但し、条件がある。荒崎から奪ったDNAの在り処を教えろ」
大谷「あれは、あいつの作り話さ」
  唖然とする椎名。
椎名「どう言う事だ?」
大谷「癌治療のパターンファイルを完成させたと嘘の情報を流して、TENAを動かしているリーダー格を
 あぶり出して、取り引きを持ちかけようとしているんだ」
椎名「…じゃあ、荒崎もTENAの首謀者を知らないのか?」
  頷く大谷。

○ 高速下を走るアルト

○ アルト車内
  ハンドルを握る真坂。助手席に座る恵美。後部席に座る茂。ロボットで遊んでいる。
  恵美、茂のロボットを見つめ、
恵美「また新しいの…買ってあげたの?」
真坂「…う、うん、おもちゃ屋の前でダダこねるから」
茂「ダダなんかこねてないよ」
 バックミラーで茂を睨みつける真坂。
  苦笑いする真坂。
真坂「そうか?…駄々こねたのは、ミニカーの時だったっけ?」
茂「知ってるのに…お姉ちゃんに買ってもらったの……」
  唖然とする恵美。
恵美「そうなの?」
  顔を歪める真坂。
真坂「そう…」
恵美「あの子の事…好きなの?」
真坂「…ガールフレンド」
恵美「茂は?」
茂「好きだよ」
恵美「…」

○ アパート前
  立ち止まるアルト。
真坂の声「着いたぞ」

○ アルト車内
  恵美、俯き、塞ぎこんでいる。
  恵美の様子を窺う真坂。
真坂「どうした?」
  恵美の膝元に涙がポツポツと落ちている。
  ジーっと様子を見ている茂。
真坂「えっ?」

○ 新型核燃料研究所1F・通路
  防護服を身に着けた北と谷田が並んで歩いている。
  谷田、右手につけたレギオウォッチのディスプレイに映る放射能測定数値を見つめている。
  デジタルの数値がどんどん上がっている。
  谷田、顔を強張らせている。
  奥のほうにライトを照らす北。
  階段の前で立ち止まる北。北につられて立ち止まる谷田。
北「奥は、確か荷物用のエレベータだったよな」
谷田「あ、はい…」

○ 同・1F→2F階段
  階段を上り始める二人。
  足を止める北。谷田も立ち止まる。
谷田「どうしたんですか?」
  正面を見ている北。
  青いスーツを着た中年の男が踊り場の壁にもたれかかっている。
  急いで階段を上る二人。
  男の体を揺さぶる北。
北「おい」
  男、目を開け、力のない目で北を見つめる。
  北、男のスーツのポケットに手を突っ込み、手帳を取り出す。手帳を開く。
北「特殊選任チームの一人だ」
  小さく頷く男。
北「一体、何があった?」
男「犬が…」
谷田「犬?」
  男、静かに目を瞑り、絶命する。
  北、男を下ろし、立ち上がる。
北「行くぞ」
  北、階段を上り始める。谷田も後を追う。

○ 同・2階・通路
  床にうつ伏せで倒れ死んでいる青いスーツの男。男の前に座り込む谷田。
  スーツのポケットをまさぐり手帳を出す。
  手帳を出した時に、何かが音を鳴らして床に落ちる。
  谷田、床を見つめ、ある物を拾い上げている。
  谷田の背後に近づいてくる北。
北「向こうにも二人いた。研究員と選任チームの一人だ」
  谷田、北に拾ったものを見せつける。
  キーホルダーである。
北「どうした?」
谷田「お手製のやつですよ。前に僕の弟の子供がこれと似た物を持っていました」
  北、谷田の前の男の死体をまじまじと見つめ、
北「そいつのか?」
谷田「ええ…きっと娘さんが作ったんでしょうね…」
  北、通路の奥のほうを見つめると、突然走り出す。
  谷田、キーホルダーを防護服の腰についている収納ケースにしまい、北の後を追いかける。

○ 同・実験室前
  扉の前に立つ北と谷田。
  扉の横に設置されているカードロックキー装置に目をやる谷田。
谷田「カードがないと入れないみたいですね」
  北、腰の収納ケースからカードを取り出す。
  唖然とする谷田。
北「さっきの研究員から拝借した」
  北、カードを読み取り装置に入れ、スキャンする。

○ 同・中
  鈍い音を鳴らしながら扉がスライドして開く。
  北と谷田の姿が露になる。
  部屋に入る二人。前へ進む。
  辺りを見回している二人。
  壊れたガラスケースを見つめる谷田。
  ガラスケースのそばによる。

○ 浮遊する球体の映像
  緑色のフィルターがかかっている。
  部屋の片隅、少し高い場所から北と谷田の背中を映し出している。

○ 新型核燃料研究所・実験室
谷田「何が入ってたんでしょうね?」
  谷田のそばに立つ北。中を覗き込んでいる。
  ガラスに附着している血を見つめる北。
北「何かの生体実験をやっていたのかもしれない…」
  北、足元に落ちている紫色の粉のついたガラス片を見つめ、拾う。
北「谷田」
谷田「はい」
  北、谷田にガラス片を渡す。
北「これ、船に持って帰って調べろ」
  谷田、ガラス片をケースにしまう。
  二人の背後を何かが素早く横切って行く。
  北、サッと後ろを振り向く。
  辺りには何もいない。
谷田「どうかしたんですか?」
北「いや…」
  北、手前にあるデスクを見つめ、唖然とする。うさぎやマウスが入っている籠を見つける。
  籠の前に近づいて行く二人。
  籠の中で激しく動き回っているうさぎとマウス。
谷田「この放射能の中でこんなに元気に動き回って…どうなってるんだ一体…」
  フロアの右奥のデスクの上に置いてある実験用具が物凄い勢いで弾き飛ばされる。
  ハッとデスクのほうを見る二人。
北「何かいるぞ」
  息を飲む谷田。辺りを見回し、
谷田「あっ?」
北「どうした?」
  谷田、左のほうを指差す。
  北、谷田の指の方角を見つめる。
  壁隅に赤い目をした白いゴールデンリトリバーがいる。犬、息を弾ませながら、二人を見ている。
谷田「犬だ…」
  怪訝な表情で犬を見つめる北。
  犬、唸り声を上げ、吠えると二人に突進して行く。
  犬、谷田に飛び掛る。
  仰け反りながら倒れる谷田。
  北、谷田のそばに駆け寄る。
北「大丈夫か?」
  谷田を起き上がらせる谷田。
谷田「はい…」
  北、谷田の防護服を見つめる。
  左胸のほうに穴が空いている。
  驚愕する北。
北「早く船に戻れ、谷田」
谷田「えっ?」
北「防護服が破れてる…」
  谷田、防護服を見て、驚愕する。
谷田「は…はい」
  慌てて、立ち上がる谷田。
  入口の扉に向かって走って行く。
北「慌てるな!」
谷田「だって…あ…はい…」
  部屋を出て行く谷田。

○ 階段を急いで駆け下りている谷田。

○ 新型核燃料研究所前
  入口から飛び出してくる谷田。
  B―COAの運転席に乗り込む。

○ B―COA車内
  防護マスクを取る谷田。エンジンをかける。
ジェノン「どうかされましたか?」
  谷田、シフトレバーを入れ、車をバックさせる。
谷田「防護服に穴が空いたんだ。急いで船に戻らないと…」

○ バックターンするB―COA
  土煙を上げながら、海の方角に向かって走り出す。

○ 新型核燃料研究所・1F
  階段を下りる北。
  下のほうで微かな物音が聞こえる。
  右手に持つライトを下に照らす。

○ 同・地下1F
  暗がりの通路に立つ北。辺りをライトで照らす。
  奥の方で鳴る足音の方に向かって歩き出す。

○ 特殊高速船・デッキ
  B―COAが勢いよく乗り込んでくる。

○ 同・中・シャワー室
  裸になり、シャワーを浴びている谷田。
  必死の形相で両手を使って体を洗っている。

○ 同・検査室
  放射線測定装置の土台に立つ谷田。
  反射板が下から上へ移動し、谷田の体をサーチしている。
  モニターに映る谷田の体のイメージ。画面の右上に表示されている被爆量の数値が上がっている。

○ 港・倉庫街
  立ち止まるマジェスタ。
  車から降りる椎名。大谷、椎名に腕を引かれ、降りる。
  マジェスタの前方から突然、シルバーのBMWが姿を表す。
  マジェスタの前に突進して繰るBMW。急ブレーキをかけ、立ち止まる。
  運転席から降りてくる荒崎伸也(45)。
  荒崎、サングラスを外し、大谷を見つめ、ほくそ笑む。
荒崎「ハードなかくれんぼだったな、大谷…」
  身震いしている大谷。
  椎名の前で立ち止まる荒崎。
椎名「こいつをどうするつもりだ?」
荒崎「これまで散々協力してきたでしょ。何も言わず、引き渡してください」
  椎名に命乞いする大谷。
大谷「やめてくれ…殺される!」
  苦笑する荒崎。
荒崎「大人気ないぞ」
  大谷の左腕を掴む荒崎。
  険しい顔つきの椎名。
椎名「約束の情報は?」
荒崎「それは、今から大谷に聞き出すところです。わかったら、また連絡します」
  荒崎、椎名に頭を下げ、
荒崎「じゃあ…」
  大谷を連れ、その場を立ち去る荒崎。
  その様子を見守る椎名。
  大谷を助手席に乗せ、運転席に乗り込む荒崎。車をスピンさせ、走り去って行く。
  携帯を取り出し、耳にあてる椎名。
椎名「シルバーのBMWだ。見逃すな」
男の声「了解」
  椎名の後方の空から飛んでくる白いヘリ。
  羽音を唸らせ、椎名の頭上を勢い良く通り過ぎる

○ 新型核燃料研究所・地下1F
  ライトを照らしながら歩いている北。  
  奥のほうで扉が閉まる音が響く。
  北、音のほうへ歩いて行く。

○ 同・制御室前
  看板を照らし、扉の前に立つ北。
  扉が少し開いているのに気づく。
  北、腰のホルダーから銃を抜く。
  右手に銃を構え、ゆっくり扉を開ける。

○ 同・中
  辺りにライトを照らす北。
  奥のほうにドラム缶がいくつも並んで置かれているのが見える。
  真中の方角に差し向けた時、パイプにもたれ座っている白衣を着た白髪、髭面の中年の男を捉える。
  男、右手にシッョトガンを握っている。
  男の顔をまじまじと見る北。
北「…石神博士?」
  男は、石神広重(45)。 
  石上、突然、奇声を上げ、北にショットガンの銃口を向け、撃つ。
  高鳴る銃声、咄嗟に弾を裂け、部屋を出る北。扉に大きな穴が空く。

○ 同・前
  壁に背をつけ、隠れている北。
  鳴り響く銃声。向こう側の壁にいくつもの穴が空いている。
北「(大声で)聞いてください。私は、JWAの北と言います。この研究所との音信が途絶えていたので、
 調査をしにやってきたんです…」
  銃声が止む。
  大きく息を吸い込み、扉の前に立つ北。
  弾丸で空いた穴から向こうを覗き見る。
  ライトを照らす北。誰もいない。
  北、銃を構えながら、中に入り込む。
  途端、北の足元で弾丸が弾く。北、慌てて、床に転がり、そばにあったテーブルに身を隠す。
  起き上がり、辺りを見回す北。
  正面に別の白衣を着た中年の男がマシンガンを構え立っている。
  マシンガンを発射する男。北、テーブルの下に首を引っ込める。咄嗟に立ち上がり、銃を撃ち放つ。
  弾丸は、男の体を擦り抜ける。
  唖然とする北。マシンガンを発射する男。
  北、またテーブルの下に身を隠す。
北「どうなってんだ…」

○ 特殊高速船・操縦室
  通信のアラームが鳴り響いている。
 
○ 同・検査室 
  ディスプレイの前に座っている谷田。
  ディスプレイに映る自分の体のイメージを見つめ、青ざめている。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  デスクに座る椎名。書類を書き込んでいる。
  デスクの電話が鳴り響く。受話器を上げる椎名。
椎名「はい」
オペレーターの女の声「総監の個人回線のほうから連絡が入っています」
椎名「つないでくれ」
  ビープ音が鳴り響き、暫くして、老人の男の声が聞こえる。
男の声「疲れた声しとるな。大丈夫か?」
  溜息をつき頭を抱える椎名。
椎名「こんな時に…」

○ とある山・茶畑
  山の斜面に青々と広がる。新芽が綺麗に生え揃っている。
  畑の真中に立つ老人。麦藁帽子を被っている。左手で葉を触りながら右手に携帯を持っている。
老人「たまには、うちに戻ってきて茶を窘め。生き返るぞ」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
男の声「今年の一番茶は、最高の出来だ。近いうちにそっちに送るから」
椎名「用がそれだけなら、また後にしてもらえますか?」

○ とある山・茶畑
  腰につけている万歩計を確認している老人。
老人「前に話しただろ?私も一度会ってみたい」
椎名の声「何の事です?」
老人「奈央美だよ」

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  溜息をつく椎名。
椎名「…構いませんが、前にも言いましたが、あまりお勧めは、できませんよ」
老人の声「心配するな。ショック死してもこの歳だ。後悔はせん…」
椎名「…やっぱり、よしましょう」
老人の声「B―COA開発の資金提供者をないがしろにする気か?私にも権限がある」
椎名「では、明日の夕方、こちらから迎いに行きます」

○ とある山・茶畑
老人「まっとる」
  携帯を切る老人。

○ 倉庫地下・JWA本部・総監室
  困惑した表情の椎名。受話器を置く。
  暫くして、電話が鳴る。受話器を上げる椎名。
椎名「私だ」
男の声「大谷がつけている発信器の反応が消えました。どうやら気づかれたようです」
  険しい表情を浮かべる椎名。
椎名「車は、確認できるか?」
男の声「はい…池袋駅前の立体駐車場で止まっています」
椎名「調べろ」

○ 同・OP室
  オペレーションシステムの操作盤の前に座っているディジア。ヘッドマイクをつけている。
  ディジア、キーボードを打ち、マイクに話し掛ける。
ディジア「ジェノン、聞こえる?」
  奥の花壇で花の手入れをしている椎名。
  ふと、ディジアのほうを見つめる。  

○ B―COA車内
ジェノン「ディジアの声をキャッチしました」
ディジアの声「状況を教えて」
ジェノン「今、高速船にいます」
ディジアの声「二人ともそこにいるの?」
ジェノン「いいえ。ゼフォークだけです」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
ディジア「何かあったの?」
ジェノンの声「防護服に穴が空いたそうです」
  愕然とするディジア。
ディジア「今どこにいるの?」
ジェノンの声「検査室です」
  
○ クルーザー内
  ベッドの上に座り、携帯を鳴らしている葉菜美。しかし、つながらない。
  電源を切る葉菜美。
  膨れっ面を浮かべている。
  入口の階段を下りてくる真坂。
真坂「おう!」
葉菜美「おう!じゃないわよ!何回も携帯鳴らしたのに、何で出なかったの?」
  真坂、サッと携帯を取り出し、
真坂「バッテリー切れた」
葉菜美「茂君は?」
真坂「…恵美に預けた」
葉菜美「…なんで?」
真坂「茂があいつと一緒にいたいって言ったから…」
  真坂、冷蔵庫を開け、コーラを取り出している。
葉菜美「親権は、あなたにあるんでしょ?第一あの人はもう、茂君と会っていけない人なんでしょ?
 裁判で決まったんじゃないの?」
  真坂、神妙な面持ち。
真坂「なんかさ、あいつがああなったの…俺にも責任があるような気がしてきてさ…」
葉菜美「何今更…」
  コーラを一気に飲み干す真坂。
真坂「仕方ないだろ?」
葉菜美「あの人と寄りを戻すの?」
真坂「…そんな事考えてねぇよ」
  葉菜美、何も言わず入口に向かって走り出す。
  真坂、慌てて、葉菜美を追いかける。

○ 同・デッキ
  階段を上ってくる葉菜美。
  すぐに真坂が追っかけてくる。
  葉菜美の手首を掴む真坂。
  葉菜美、真坂の手を振り払う。真坂の頬に平手打ちをする。
  真坂、平然とした面持ちで葉菜美を見ている。
  葉菜美、悔しげな表情を浮かべ、
葉菜美「海の上のウェディングなんて…つまんない事言って…」
真坂「…」
  真坂の携帯の着メロが鳴り響く。
葉菜美「…帰る」
  葉菜美、振り返り、梯子を下りて行く。
  真坂、止めようとするが言葉が出ない。
  下に下り、歩き出す葉菜美。
  歩き去って行く葉菜美の背中を見つめる真坂。
  携帯に出る。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP室
  操作盤の前に座っているディジア。
  ヘッドマイクで話している。
ディジア「ごめんなさい。実は、緊急の事案が起きたの…」
真坂の声「一応、病人なんだけど…」
ディジア「知ってる。診断の結果は、わかったの?」

○ クルーザー内
  デッキの上に横になっている真坂。
真坂「…実は、まだ病院に行ってない」
ディジアの声「えっ?」
真坂「体以外にも悪いところが見つかってさ…」
ディジアの声「任務遂行中のスタークとゼフォークと連絡が取れなくなったの…」
真坂「任務って何の?」
ディジアの声「放射能で汚染された島の調査よ…」
  真坂、サッと起き上がる。険しい表情を浮かべる。
真坂「危険手当は、出るんだろうな?」

○ 新型核燃料研究所・地下1F・通路
  暗闇の中。ライトを照らし歩いている北。
  突然、正面から石神が現われる。
  石神、マシンガンを構えている。
  撃ち放たれるマシンガン。
  北、慌てて、そばのドアを開け、中に転がり込む。

○ 同・空き室
  何も置かれていない部屋。
  北、銃を構え、そっと扉口から顔を出す。 
   しかし、通路には、誰もいない。
  北の後ろからうっすらとした人影が近づいてくる。
  北、それに気づかず、通路を見渡している。
  耳を澄ます北。
  後ろから聞こえる足音に気づき、透かさず振り返り、銃を撃つ。
  弾丸は、人影に当たるが火花を散らし跳ね返っている。
  北、慌てて、人影のほうにライトを照らす。
北「誰だ?」
  ライトは、ある男の顔を照らし出す。
  男は、眼鏡をかけた白髪の中年。
北「あなたは?」
男「私は、この研究所の管理者の立村だ」
  男は、立村秀彦(48)。
北「こんなところで、何をしてるんです?」
立村「システムの点検だよ」
北「点検って…ここは、放射能で汚染されてるんですよ…」
  北、立村の体を照らしている。
  立村、白衣をつけている。
  暫くして、天井のライトが光る。
  立村をまじまじと見つめる北。 
北「なぜ防護服をつけないんです?」
立村「必要ないからだよ」
北「…」
立村「君こそ私の研究所で何をしている?」
北「私は、JWAから派遣されたものです。一体ここで何が起こったんですか?」
立村「何も起こっちゃいない」
北「とにかく…私と一緒に来てください」
立村「それは、無理だ」
北「どうして?」
立村「私は、この研究所を離れるつもりはない」
  立村、右手にドライバーを握っている。
立村「邪魔すれば、君のその服に穴を開ける」
北「あなたは、被爆している。もう何時間も生きられないはずだ」
  失笑する立村。
立村「防護服なんて時代遅れなものは、私には、必要ないんだ」
北「じゃあ、どうやって…」
  立村、白衣を脱ぎ捨てる。
  シルバーのスーツに身を包んでいる立村。
  北、スーツを見つめ、驚愕する。
北「ファイバースーツ…」
立村「被爆したくなければ、さっさとここから立ち去れ」
北「それは、できません…」
  立村、ドライバーを北に振りかざす。北、透かさず、避ける。
  立村、何度もドライバーを北に刺し向ける。床に倒れこむ北。
  突っ伏した状態で両手で銃を構え、立村の腕を撃つ。
  しかし、弾丸が跳ね返る。
  驚愕する北。
  立村、高笑いし、
立村「超人は、被爆などしないのだよ…」
  北、慌てて、立ち上がり、部屋を出て行く。

○ 同・通路
  暗闇の中を走っている北。
  階段を上り始める。
  通路の奥から立村の声が聞こえる。
立村の声「気が変わった。私が生きている事を口外されては困るんでな。君には、
 ここで私の実験台になってもらう」

○ 同・階段
  踊り場を回り込み、また階段を上る北。

○ 同・1F
  階段の前のシャッターが素早く降り始めている。
  北、シャッターを潜ろうとするが、間に合わず。シャッターが完全に下りる。
立村の声「無駄な事はやめて、私のペットになりたまえ」
  立村の不気味な高笑いが鳴り響く。

○ 海上をスピードを上げ、航行する真坂のクルーザー
  荒波を突き進んでいる。
真坂の声「海上航行の許可は、取ってくれたんだろうな?」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  オペレートマシーンの前に座るディジア。
ディジア「ちょっと待って。島は、放射能で汚染されてるのよ」
真坂の声「だったら今すぐ防護服を持って来いよ」
  通信が切れる。
  溜息をつくディジア。

○ 新型核燃料研究所・地下1階→1階踊り場
  シャッターの前に立つ北。
  腰のケースから薄型のシートを取り出し、シャッターに貼り付ける。
  階段を下り、シャッターから離れる北。
  暫くして、シートが爆発し、小さな炎が上がる。
  白い煙に覆われる階段。
  手摺の壁に隠れている北、顔を出し、シャッターを覗き見る。
  シャッターは、シートをつけた部分が黒焦げになっているだけで微動だにしていない。
  北、溜息をつき、階段に座り込む。
  
○ 海上
  スピードを上げ、航行する真坂のクルーザー。

○ 東京湾上空を飛行するブルーのヘリ

○ ヘリ・コクピット
  操縦席に座り、レバーを握るディジア。黄色いサングラスをつけている。レバーを左に傾ける。

○ 左のほうへ勢い良く曲がるヘリ

○ ヘリ・コクピット
  海上を見つめているディジア。
  スピードを上げ進んでいるクルーザーを見つける。

○ クルーザー・操縦席
  レギオウォッチのアラームが鳴り響く。
  スピーカーからディジアの声がする。
ディジアの声「届けに来たわよ。スピード緩めて」
真坂「あいよ」
  エンジンを切る真坂。

○ スピードを緩めるクルーザー
  やがて、海の上で立ち止まる。
  デッキの上に立つ真坂。
  上空を飛行するヘリを見上げる。
  ディジア、ドアを開け、防護服の入ったミサイル型のケースを海に落とす。
  勢い良く海に落ちるケース。
  真坂、巨大な網を持ち、ケースを救い上げる。
  デッキにケースを置くと、空を見つめ、手を振る真坂。
真坂「サンキュー!」

○ ヘリ・コクピット
  ガラス越しに真坂を見つめるディジア。
ディジア「島に着いたらまた連絡して」
真坂の声「おう」
  手を振るディジア。

○ クルーザーの上空から素早く離れて行くヘリ
  空の彼方に消えて行くヘリを険しい表情で見つめる真坂。

○ 新型核燃料研究所・地下1階→1階踊り場
  レギオウォッチのつまみをいじっている北。
  スピーカーから通信音を鳴らしているが電波の状態が悪い。
  溜息をつく北。
  上のほうから犬の吠える声が聞こえ始める。
  立ち上がり、階段を上り始める。シャッターの前に立つ。
  吠え続ける犬。
  北、怪訝な表情を浮かべる。
  犬の吠える声が止まる。
  暫くの沈黙。シャッターが開き始める。
  開いたシャッターの隙間から犬が入り込んでくる。
  犬、北に飛び掛かる。
  北、階段を転がり落ち、踊り場の壁に体を打ちつける。
  北の目前に立っている犬。唸り声を上げ、今にも噛み付きそうである。
  気絶し、静かに目を閉じる北。

○ クルーザー・操縦席
  レバーを握っている真坂。
  ガラス越しに島が見えてくる。
  
○ 王龍島・海岸
  特殊高速船のそばに止まる真坂のクルーザー。

○ JWA・特殊高速船・検査室
  扉が開く。
  白い防護服を着た真坂がゆっくりと入ってくる。
  床にうつ伏せで倒れている谷田を見つける真坂。
  真坂、谷田のそばに近づき、谷田を起き上がらせる。
真坂「おい、しっかりしろ!」
  目を覚ます谷田。
谷田「真坂さん…どうしてここに?」
真坂「何があったか説明しろ」
谷田「研究所の中を探索中に…犬に襲われて…被爆しました」
真坂「犬?」
谷田「でも、さっき検査をしたら、心配するほどではなかったんです。ホッとしたら、
 なんだか力が抜けちゃって…」
真坂「研究所に生存者はいたのか?」
  首を横に振る谷田。
谷田「僕が見た限りでは…でも、ジェノンのハイウェーブサーチでは、反応がありました」
真坂「応援を呼ぶから、もう暫くここでジッとしてろ」
谷田「すいません、これ、調べてもらえませんか?」
  谷田、ケースを真坂に手渡す。
真坂「なんだ?」
谷田「研究所で拾ったガラス片です。付着物を化学分析装置にかけてください…
 結果が出たらディジアに報告お願いします」
  真坂、まじまじとケースを見つめている。
  真坂、立ち上がり、白いマシーンの前に立つ。
  トレイの箱の中に黒いケースを入れる。
  マシーンが稼動を始める。
  ディスプレイに化学式が表示されていく。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
  卓上盤の前に座っているディジア。ヘッドマイクをつけている。
  物憂げな表情でモニターを見つめている。
  通信のアラームが鳴り響く。
  ハッとし、キーボードを叩くディジア。
  通信音声から真坂の声が聞こえる。
真坂「俺だ…」
  安堵の表情を浮かべるディジア。
ディジア「やっと到着したのね…」

○ JWA・特殊高速船・検査室
  通信機の前に立っている真坂。
  ヘッドマイクをして喋っている。
真坂「ゼフォークは、無事だ」
ディジアの声「研究所に生存者は?」
真坂「いるらしい」
ディジアの声「スタークは何してるの?」
真坂「まだ研究所の中だ…一人で調査を続けてる。あいつが拾ったガラス片の付着物についてのデータを
 送るから、そっちで調べて欲しい」

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
ディジア「いいわ。送信ボタンを押して」
  モニターを見つめるディジア。
  モニターに化学式が映し出されて行く。
  化学式を見つめ、驚愕するディジア。

○ 新型核燃料研究所・地下二階シェルター
  丸い円台の上で眠っている北。
  防護服は、脱がされ、ジーンズと白いシャツ姿になっている。
  静かに目を開ける北。
  辺りを見回し、ハッと起き上がる。
  自分の体を見回し、驚愕する北。恐怖におののき、体を震わせる。
  どこからともなく聞こえる立村の声。
立村の声「ここは、核シェルターだよ。安心したまえ」
  また、きょろきょろと辺りを見回す北。
北「なぜここに連れてきた?」
立村の声「君は、私のモルモットだから」
北「…島に放射能をばら撒いたのは、おまえか?」
立村の声「違う。しつこく私に詰め寄ってきたわけのわからん捜査員どものせいだ」
北「他の研究員や選任チームも実験台に使ったのか?」
立村の声「試したいことがたくさんあってね。三分の二ぐらいは、終了した。だが、まだ調べ足りない事がある。
 逃げ出したいなら、逃げ出せばいい。しかし、その部屋には、防護服はない。つまり
 その部屋から一歩でも出たら、君は、あの世行きだ」
北「あれだけの人を殺しといてまだ調べ足りない事ってのは、一体何なんだ?」
立村の声「余計な体力は、使わないほうがいい。長生きしたければな…」
  高笑いする立村の声が響く。
  悔しげに顔を歪める北。

○ JWA・特殊高速船・検査室
ディジアの声「この化学式、前に見た事ある…」
真坂「何のやつだ?」
ディジアの声「MMK―51よ」
  愕然とする真坂。

○ 倉庫地下・JWA本部・OP司令室
ディジア「誰かが研究所で撒いた…」
真坂の声「つまり研究員と選任チームのメンバーは、放射能で死んだんじゃなくて、MMK―51に感染して、
 殺し合いをしたって事か…」
ディジア「早くスタークのところに行ってあげて」

○ JWA・特殊高速船・デッキ
  B―COAの運転席のドアを開ける真坂。

○ B―COA車内
  運転席に乗り込む真坂。
  ボタンを押し、エンジンをスタートさせる。
真坂「研究所までの道は、わかってるよな」
ジェノン「はい。すでに記録済みです」
真坂「行こうか」
  ハンドルを握り締める真坂。

○ 高速船のゲートの上を走り出すB―COA
  砂浜に降りると、スピードを上げ、坂道を登り始める。

○ 土煙を上げながら走るB―COA。
  スピードを砂利道を駆け上って行く。

○ 新型核燃料研究所前
  急ブレーキをかけ、勢いよく立ち止まるB―COA。

○ B―COA車内
真坂「ハイウェーブサーチ」
ジェノン「了解しました」
  センターコンソールの右上のモニターに研究所の建物が映し出される。
  画面に赤いフィルターがかかる。
ジェノン「ハイウェーブサーチ終了しました。生命反応は、確認できませんでした」
  唖然とする真坂。
真坂「嘘つけ。機械が故障したんじゃないか?」
ジェノン「システムに異常はありません」
真坂「北が死んだって言うのかよ!」
ジェノン「事実を正確に述べただけです」
  溜息をつく真坂。
真坂「悪いけど今のは信用しねぇぞ。自分の目で確かめるまではな」
  ハンドルのボタンを押す真坂。
真坂「聞こえるか?」
  スピーカーから谷田の声が聞こえる。
谷田の声「はい…」
真坂「気分は?」
谷田の声「さっきよりマシになりました」
真坂「今から研究所に入る」
谷田の声「ああ、グローブボックスに新しいレギオウォッチが入っています」
  防護マスクを被る真坂。

○ 新型核燃料研究所前
  車から降りる真坂。
  入口の扉に向かって駆け足で進んで行く。

○ 同・中・1F
  暗闇の通路を足音を鳴らして歩く真坂。
  右手にライトを持ち、正面に向けている。
  階段の前で立ち止まる真坂。
  ライトの光を階段のほうに向ける。
  1Fと2Fの間の踊り場に青いスーツを着た男が踊り場に横たわっているのが見える。
  ライトを下に向け、目前の壁を照らす真坂。
  壁が激しく割れ、足元に破片が落ちているのが見える。
  真坂、階段を下り始める。

○ 研究所・地下2Fシェルター
  円台の周りを歩いている北。
  苛立った様子で辺りを見回している。

○ 同・監視ルーム
  卓上操作盤の前に座る立村。
  横に並んで設置されているモニター。
  真中のモニターにシェルターの部屋の映像が映っている。
  北がカメラ目線でこっちを睨みつけている。
  映像を見つめ、ほくそ笑む立村。
  表情を一変させ、右端のモニターを睨みつける。
  地下一階通路の映像。
  ライトの光がカメラの映像に映りこんでいる。
  暗闇を歩く防護服に身を包んだ真坂の姿が暗視装置によって緑色に薄く映っているのが見える。
  立ち上がる立村。

○ 同・地下1F
  歩く真坂。
  奥のほうで機械音が鳴り響く。
  20m先でシャッターが勢い良く降り始めている。
  振り返り、ライトで後ろを照らす真坂。
  階段の前のシャッターが降りている。
  両方のシャッターが閉じる。
  シャッターの前に駆け寄って行く真坂。
  シャッターを両手で押し、強さを確かめる。
  奇妙な機械音が鳴り響く。
  振り返る真坂。
  浮遊する小さな球体。真坂の前に近づいてくる。
  球体を見つめ、唖然とする真坂。
  球体の表面についているいくつもの穴から、赤いレーザーが一斉に発射される。
  真坂、咄嗟に床に転がり、レーザーを避ける。
  真坂、すくっと立ち上がり、球体から逃げる。真坂の後を追って飛んで行く球体。
  またレーザー光線が発射される。
  走る真坂の足元に当たる光線が床で炎を上げている。
  真坂、収納ケースから銃を取り出し、球帯に銃口を向け、引き金を引く。
  弾は球体に当たるが火花を上げて跳ね返される。
  引き金を引き続ける真坂。しかし、弾は全て跳ね返されている。
  球体から立村の声が聞こえる。
立村の声「お仲間はすでに私のモルモットだ。君もそうなりたければ、彼がいる部屋に案内してやる」
真坂「誰だ?おまえ…」
立村の声「言うだけ無駄だ。さぁ、どうする?」
  呆然と立ちすくむ真坂。
真坂「案内しろ」
立村の声「では、身の周りのものを全て、足元に置いてもらおうか…」
  真坂、銃を足元に放り投げ、腰の収納ケースを取り外し床に置く。
  右手につけていたレギオウォッチを外すと同時に白いボタンを押す。
  レギオウォッチのディスプレイが緑色に光っている。
  真坂、そっとレギオウォッチを収納ケースの隣に置く。
立村の声「よし、この球体を追って、前に進め」
  奥のシャッターが勢い良く開き始める。
  浮遊している球体が開いたシャッターに向かって進み出す。
  真坂、球体の後を追って歩き始める。

○ B―COA車内
  通信のビープ音が鳴り響く。コンソールの左上のモニターに研究所内のイメージ図が
  映し出される。地下一階。通路に白い点が点滅し始める。

○ JWA・特殊高速船・操作室
  座席に座っている谷田。腕を組んで、目を瞑り、眠りかけている。
  操作盤に設置されている通信の赤いランプが光り、ビープ音が鳴る。目を覚まし、
  慌ててヘッドマイクをつける谷田。
  ヘッドマイクからジェノンの声が聞こえる。
ジェノンの声「緊急用の信号をキャッチしました」
谷田「場所は?」
ジェノンの声「地下一階の通路です」
谷田「真坂さんと連絡は取れそうか?」
ジェノンの声「さっきから呼び出しているのですが、残念ながら応答がありません」
  動揺する谷田。
  モニターに映る研究所の断面図のイメージを見つめ、閃く。
谷田「ジェノン、研究所の左側に荷物用のエレベータがある」

○ B―COA車内
谷田の声「それに乗って、地下に下りられるか?」
ジェノン「研究所のコンクリートの強度を計算しますので暫くお待ちください」

○ 新型核燃料研究所・地下2Fシェルター
  奥の壁に向かって立っている北。苛立った様子で辺りを見回している。
  入口のスライドドアが開く。
  振り返る北。
  扉の向こうに立っている真坂。
  真坂、Tシャツ、ジーンズ姿である。
  唖然とする北。
北「真坂…」
  ほくそ笑む真坂。部屋に入ってくる。
真坂「わざわざこんなところまで来て、魚の餌になるなんて思わなかったぜ」
北「何しに来た?」
真坂「おまえらを助けに来たに決まってんだろ」
北「助けに来ただって?(失笑する)そんな姿でよく言えたもんだ」
真坂「なれない防護服着て放射能浴びながら必死で探したんだぜ。「ありがとう」の一言も言えないのかよ」
北「そんな状況かよ」
真坂「状況もピーマンもねぇんだよ。なんでおまえの道連れで俺も死ななきゃならねぇんだよ。馬鹿馬鹿しい」
北「そんな事誰も頼んでない」
  スピーカーから立村の声が聞こえる。
立村の声「私のかわいいモルモット達よ。もう気が済んだか?」
  真坂、辺りを見回しながら、
真坂「さっさと実験台なり鮫の餌なり好きにしてくれよ。こいつといると気分悪い」
北「こいつといるくらいなら放射能の中にいるほうがまだマシだ」
真坂「じゃあ、今すぐ出て行けよ」
北「おまえが行け」
真坂「(失笑)口先だけかよ、カス」
  北、物凄い形相で真坂に掴みかかっていく。
  真坂、北の頬をおもいきり殴りつける。仰け反りながら勢い良く倒れる北。

○ 同・監視ルーム
  モニターに映るシェルター内の映像。北と真坂が取っ組み合い、激しい殴り合いをしている。
  映像を見つめ、失笑する立村。
立村「MMK―51を使わずとも、半狂乱に陥るとは…」

○ 同・地下2Fシェルター
  勢い良く床に倒れる真坂。
  真坂の上に乗っかりさらに顔を殴りつけている北。  
立村の声「もういい。私の実験台になる前に死体になられては困るんでな」
  殴るのを止める北。
立村の声「では、検体第1号。君からお願いしようか」
  北、自分を指差し、
北「俺の事か?」
立村の声「そうだ。今から迎いに行く。大人しくしてろ」
  床に寝転がっている真坂。パンツの中から小型の透明シート爆弾を取り出す。
  真坂を見つめる北。真坂、目で合図を送ると立ち上がる。頷く北。

○ B―COA車内
ジェノン「解析終了しました。強度レベルを+3アップします」
谷田の声「頼む。望みは、おまえだけだ」
  ハンドルが収縮する。

○ 発進するB―COA
  研究所の入口に向かって突進する。

○ 研究所・中・入口
  扉を破壊し、中に進入するB―COA。
  ヘッドライトを光らせ、そのまま、左に曲がり通路を駆け抜けて行く。

○ 同・監視ルーム
  右端のモニターがB―COAを捉える。
  モニターを見つめる立村。

○ 研究所・通路
  走行するB―COA。突き当たりの荷物用エレベータの前に止まる。
  エレベータが起動し始める。
  機械音が鳴り響く。
  暫くして扉が開く。エレベータの中から浮遊する球体が飛び出してくる。
  球体についている穴からレーザー光線が発射する。
  レーザー、B―COAのボディに当たる。
  激しく飛び散る火花。
  B―COA、構わずエレベータの中に入り込む。

○ 同・地下2Fシェルター
  入口の扉が開くと同時に犬が入ってくる。物凄い勢いで北に突進し、北の腕に噛み付く犬。
  声を張り上げる北。
北「真坂!」
  真坂、透明シート型の爆弾を犬の胴体に貼り付ける。そして、すぐさま、犬にタックルをする。
  入口の扉に弾き飛ばされる犬。 
  北、真坂、同時に床に突っ伏す。
  暫くして、犬が爆発する。
  部屋の中に白い煙が立ち込める。
  起き上がり、入り口のほうを覗き込む二人。
  辺りに機械のパーツが飛び散っている。
  ちぎれた機械仕掛けの犬の顔の前に立つ真坂。
真坂「どうりで放射能の中でも死なないわけだ」
北「実験室にいた動物も皆、ロボット技術を組み込まれて生きていたんだ」
真坂「…てことは、立村も…」
  入口の前に立っている立村。ファイバースーツを着た姿で立っている。
立村「近づく核の脅威から身を守るための技術だ。のろまな政府は、確実に自滅する。お前達もな」
真坂「本土に放射能をばら撒いて、お前達が政府の後釜に収まろうって腹か?」
立村「選ばれし人類の未来は、これで救われる」
北「それがTENAだって言うのか?」
立村「私に協力すれば、お前達も救ってやる」
真坂「ロボットになってまで生きたいとは、思わないね。モーター音がやかましそうだしな」
立村「残念だ。せっかくお友達になれると思っていたのに…」
  立村、右腕を二人の前に差し出す。
  右手の人差し指から、銃口が伸び出てくる。
  溜息をつく真坂。
真坂「やっぱり来るんじゃなかった…」
  ハッとする北。
  立村の後方にある荷物用エレベータの扉が開き始める。
  音に気づき、振り返る立村。
  姿を現すB―COA。
  立村、B―COAに人差し指を向け、銃を撃ち放つ。
  走り出すB―COA。弾丸を跳ね返し、立村に向かって突き進む。
北「(大声で)そいつは、ロボットだ!そのまま、突っ込め!」
  B―COA、立村を跳ね飛ばし、立ち止まる。
  立村、B―COAのボディの上を転がり、地面にうつ伏せに倒れる。立ち上がろうとする立村。
北「ジェノン!」
  B―COA、バックし、右後輪で立村の両足を踏みつける。身動きが取れず、もがいている立村。
真坂「ナイス!アタック」
  大きく息を吐く北。

○ 倉庫地下・JWA本部・CT検査室
  寝台に寝ている真坂。不安げな表情。
  寝台が動き始め、丸型のスキャナーの中に入り込んで行く。
  コンソールの前に座っている男。
  ディスプレイをまじまじと見つめている。
   ×  ×  ×
  ディスプレイに真坂の腹部の断面図が映し出されている。
  寝台で寝ている真坂。
真坂「どうなんですか、先生…」
  男、ディスプレイを深刻そうに見ている。
  真坂、男の様子を見つめ、動揺する。
真坂「ガーンって来るような事…言わないでくださいよ」
男「ジェノンの診断は、正しかった。慢性肝炎で間違いない。ほっとくと肝硬変から癌になる可能性もありますよ」
  ハッと起き上がる真坂。
真坂「どうすれば治るんですか?」
男「インターフェロン治療で暫く様子見ましょう。早く見つかって良かったですね。ジェノンに感謝しないと…」
  ジャケットを着ている真坂。

○ 同・総監室 
  デスクのシートに座る椎名。
  デスクの前に立ち、椎名と対峙する北。
北「大谷を引き渡したって…どう言うことですか?」
椎名「君が甲谷のミサイルの捜査で荒崎を見つけた日に、私も奴と会ったんだ」
北「…」
椎名「大谷を見つけ出す事を条件に、奴は、知りうるTENAの情報を私に流してきた」
北「それで大谷は?」
椎名「池袋の立体駐車場で荒崎の車を発見したが、二人とも消えていた」
北「何も聞き出さずに奴を荒崎に渡したんですか?」
椎名「荒崎から取り調べをするなと言われていたんだ。もう一度サーバーソサエティを洗い出すしかない…」
  悔しげな表情を見せる北。思い切って言葉を切り出す。
北「お言葉を返すようですが…ちょっと荒崎に振り回されすぎじゃないですか?」
椎名「…わかってる。だがあいつを引き止められるのは、私だけだ」
北「…」

○ 同・OP室 
  総監室の扉の前に立つディジア。
  神妙な面持ちで、その場を立ち去る。

                                                      ―THE END―

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